しかしながら、上記特許文献1および2に記載されたろう材ペーストを用いセラミックス基板と金属基板を接合して回路基板を形成した場合には、金属ろう材粉末が溶融してなるろう材層とセラミックス基板の接合界面に炭素成分が残留し、セラミックス基板と金属基板との接合強度を十分に確保できず、加えて回路基板の熱伝導率が低くなるという問題があった。さらに、前記金属基板が、平面方向において形成された間隙を介し対向配置された2枚以上の金属板(回路板)である場合、ろう材ペーストの脱バインダー処理工程において有機バインダーが揮発する際に、当該間隙の中で露出したセラミックス基板の表面に良導体である炭素成分が付着するため、間隙を介し対向する金属板間の電気的絶縁性が低下し、当該金属板に接合される半導体チップに異常電流が流れる虞があった。
本発明は、かかる従来技術の問題点に鑑みてなされたものであり、ろう材層とセラミックス基板との接合界面に炭素成分が残留し難いセラミックス回路基板の製造方法およびろう材層とセラミックス基板との接合界面に存在する残留炭素成分が少なく、セラミックス基板と金属基板の接合強度および熱伝導率の高いセラミックス回路基板を提供することを、その第1の目的としている。さらに、本発明は、前記金属基板が、平面方向において形成された間隙を介し対向配置された2枚以上の金属板である場合に、当該間隙の中で露出したセラミックス基板の表面に炭素成分が付着し難い回路基板の製造方法および当該間隙において露出したセラミックス基板の表面に存在する炭素成分が少なく、金属板間の電気的な絶縁性の高いセラミックス回路基板を提供することを、その第2の目的としている。
本発明者らは、ろう材層とセラミックス基板との接合界面に残留する炭素成分および回路板の間隙において露出したセラミックス基板の表面に付着する炭素成分の発生原因を鋭意検討し、その由来が、本来、接合工程における加熱処理によりガス化され系外に除去されるべき、ろう材ペースト中に含まれる有機バインダーであることを特定した。
すなわち、接合工程における温度プロファイルは、通常、金属ろう材粉末が溶融する温度で一定時間保持する第2の温度保持域と、第2の温度保持域の前に配置された第1の温度保持域を有し、この第1温度保持域において、ろう材ペーストに含まれる有機バインダーは加熱分解され、ガス化され、ろう材ペーストから系外に除去される。
ここで、図3に、従来から使用されている有機バインダーであるアクリル系樹脂の一例であるポリメタクリル酸イソブチルの熱分解特性を示す。図3は、大気中において10℃/minの加熱速度で行った、熱重量分析(ThermoGravimetric Analysis:TGA)の結果を示した線図である。このアクリル系樹脂が熱分解し、重量が初期重量の10%となる点Bの温度(以下、点Bの温度を分解温度と言う場合がある。)は395℃程度であり、このアクリル系樹脂を有機バインダーとして用いた場合、その分解温度と金属ろう材粉末の融点(一般的に740〜780℃程度)との差は300〜400℃程度となる。さらに、このアクリル系樹脂が熱分解し、その重量が初期重量の90%となる点A(温度:240℃)から初期重量の10%となる点B(温度:395℃)までの重量減少率、すなわち分解速度は約0.5%/℃である。この傾向は、ポリメタクリル酸イソブチル以外の他のアクリル系樹脂でも同様である。なお、本発明における重量減少率は、以下の本発明の実施形態の項の説明も含め、図3において破線Sで示すように、有機バインダーを構成する樹脂を熱重量分析した場合に、その重量が初期重量の90%となる点Aの温度から初期重量の10%となる点Bの温度の差で、重量減少量80%を除した値とする。すなわち、破線Sの傾きを、有機バインダーの分解速度と定義する。
このように従来から使用されているアクリル系樹脂からなる有機バインダーをろう材ペーストに用いた場合、上記した第1の温度保持域において有機バインダーは充分に分解され除去されず、ろう材中に残存する。分解温度以上に加熱しても有機バインダーがろう材ペースト中に残存する理由は、ろう材層がセラミックス基板と金属基板とに挟まれた非開放系であるためと考えられる。そして、ろう材ペースト中に残存した有機バインダーは、第1の温度保持域よりも高温の第2の温度保持域まで加熱されると、当該高温領域では、もはや残存する有機バインダーは分解せず、炭化して炭素成分となる。その結果、ろう材層とセラミックス基板との接合界面に炭素成分が残留することとなる。さらに、前記したように揮発した有機バインダーの一部は、回路板に形成された間隙において露出したセラミックス基板の表面に炭素成分として付着する。
本願発明者らは、上記従来技術の接合工程における有機バインダーの挙動を鋭意検討した。その結果、金属基板とセラミックス基板との間の狭い空間の中に配置されたろう材ペーストに含まれる有機バインダーを円滑に除去し、ろう材層とセラミックス基板の接合界面に残留する炭素成分を低減するとともに、回路板の間隙の中で露出したセラミックス基板の表面への有機バインダーを由来とする炭素成分の付着を防止するためには、(1)有機バインダーの分解温度を低くすること、(2)加熱時における分解速度の速い有機バインダーを使用すること、が有効であることを知見し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明の一態様は、セラミックス基板の一面にろう材ペーストを塗布する塗布工程と、前記塗布工程で塗布されたろう材ペースト、当該ろう材ペーストに接触するように配置された金属基板およびセラミックス基板を加熱し、その後冷却し、形成されたろう材層を介してセラミックス基板に金属基板を接合する接合工程とを有し、前記ろう材ペーストは、金属ろう材粉末、有機バインダーおよび有機溶剤を含み、前記有機バインダーは、大気中で加熱速度を10℃/分とした熱重量分析を行った場合に、初期重量を100%としたとき重量が10%となる温度が前記金属ろう材粉末の融点に対し400〜500℃低く、90%から10%までの重量減少率が0.6〜4.5%/℃である、セラミックス回路基板の製造方法である。
かかるセラミックス回路基板の製造方法によれば、塗布工程において、セラミックス基板の一面にろう材ペーストが塗布され、接合工程において、塗布されたろう材ペースト、当該ろう材ペーストに接触するように配置された金属基板およびセラミックス基板は加熱され、その後冷却され、形成されたろう材層を介してセラミックス基板と金属基板とは接合される。
ここで、上記ろう材ペーストに含まれる有機バインダーは、その一例であるポリプロピレンカーボネートの熱重量分析の結果である図2に示すように、大気中で昇温速度を10℃/分とした熱重量分析(TGA)を行った場合に、初期重量を100%としたとき重量が10%となる点Bの温度が金属ろう材粉末の融点に対し400〜500℃低く、初期重量を100%としたとき重量が90%となる点Aから重量が10%となる点Bまでの重量減少率が0.6〜4.5%/℃となる樹脂を使用する。なお、重量減少率は、上記したように、熱重量分析をした場合に、有機バインダーの重量が初期重量の90%となる温度から初期重量の10%となる温度の差で、重量減少量80%を除した値である。
このように、金属ろう材粉末の融点を基準とした場合に、当該融点より分解温度が400〜500℃と低く、さらに重量減少率が0.6〜4.5%と高い樹脂を有機バインダーとして使用することにより、金属基板とセラミックス基板との間の狭い間隙の中に配置されたろう材ペースト中の有機バインダーを円滑に除去し、ろう材層とセラミックス基板の接合界面に残留する炭素成分を抑制するとともに、2枚の金属板の間隙の中で露出したセラミックス基板の表面への炭素成分の付着を抑制することができる。
なお、大気中で加熱速度を10℃/分とした熱重量分析を行った場合に、初期重量を100%としたとき重量が10%となる温度が前記金属ろう材粉末の融点との差が400℃未満の場合には、ろう材層とセラミックス基板との接合界面に残留する炭素成分および2枚の金属板の間隙において露出したセラミックス基板の表面に付着する炭素成分が増加する。一方で、その差が500℃を超える場合には、有機バインダーが低温で分解するため、例えば塗布工程と接合工程の間に配置される、セラミックス基板に塗布されたろう材ペースト中の有機溶剤を除去する乾燥工程などの加熱処理工程において、有機バインダーも分解され除去されてしまうため、その後のハンドリング時に金属ろう材粉末の脱落が生じやすくなる。さらに、初期重量を100%としたとき重量が90%から10%に至るまでの重量減少率が0.6%/℃未満の場合には、上記効果を奏することができず、ろう材層とセラミックス基板の接合界面に残留する炭素成分を抑制するとともに、金属板の間隙の中で露出したセラミックス基板の表面への炭素成分の付着を抑制することができない。一方で、4.5%/℃を超える場合には、加熱された有機バインダーが突沸して気泡が生じ、ろう材ペーストの一部が揮発し、所望の領域以外に金属ろう材粉末が付着するため、回路基板の電気的絶縁性を低下させる虞がある。
上記セラミックス回路基板の製造方法において、前記ろう材ペーストは、前記有機バインダーとして、2.7〜26.2重量部のポリプロピレンカーボネート、又は2.6〜26重量部のポリエチレンカーボネートを好適に含むことができる。
さらに、前記接合工程における温度プロファイルは、前記有機バインダーの熱分解温度で温度を一定期間保持する第1の温度保持域と、当該第1の温度保持域の後に前記金属ろう材粉末が溶融する温度で一定期間保持する第2の温度保持域を有する。そして、前記第1の温度保持域に至るまでの加熱速度を30℃/分以下とすることが好ましい。ろう材ペースト中に含まれる有機バインダーを除去する第1の温度保持域までの加熱速度を30℃/分以下として、ろう材ペースト、当該ろう材ペーストに接触するように配置された金属基板およびセラミックス基板からなる被接合体を充分に予熱し、第1の温度保持域に至る間に当該被接合体の温度を均一化することにより、より効果的にろう材ペースト中の有機バインダーを除去することができる。
さらに加えて、前記接合工程が真空雰囲気下で行われる場合、分解してガス化した有機バインダーを十分に系外へ除去せしめるためには、真空排気における真空ポンプの排気速度を、前記有機バインダー100g当たり9000リットル/分以上とすることが望ましい。
かかるセラミックス回路基板の製造方法によれば、金属基板とセラミックス基板との接合強度の低下を抑制してピール強度20kN/m以上を維持することができ、例えば半導体チップの動作範囲である低温側−55℃、高温側160℃の冷熱サイクルが負荷された場合でも、セラミックス基板から金属基板が剥離し難いセラミックス回路基板が構成される。
本発明の別の態様は、好ましくは上記セラミックス回路基板の製造方法で形成されたセラミックス回路基板であり、セラミックス基板の一面にろう材層を介して金属基板が接合されたセラミックス回路基板であって、前記金属基板は、平面方向において形成された間隙を介し対向配置された2枚以上の金属板であり、前記間隙において露出した前記セラミックス基板の表面に存在する炭素(C)を主体とした炭素偏析部を有し、前記炭素偏析部と面積が等価な円の直径の平均値(以下、円相当径ということがある)は1.0mm以下であり、前記炭素偏析部の個数は、1cm2当たり2個以下であり、前記炭素偏析部の個々の重心間の距離の変動係数(標準偏差/平均値)が0.6以上であるセラミックス回路基板である。ここで、実体顕微鏡2〜5倍で認識できる島状黒色部を炭素偏析部と定義する。
さらに加えて、2枚の金属基板間の間隙において露出したセラミックス基板の表面における大きさ、相互間距離および密度が限定された炭素偏析部を有するセラミックス回路基板の前記金属板間の絶縁耐圧は、周波数50Hzおよび60HzいずれにおいてもAC5kV/mm以上となる。
上記説明したように、本発明は、その課題を解決することができる。
以下、本発明について、その具体的な実施形態に基づき説明する。ただし、本発明は、下記の実施形態に限定されるものではない。
本実施形態に係る回路基板の正断面図を図4(d)に示す。回路基板1は、セラミックス基板11と、セラミックス基板11の上面(一面)に形成された二のろう材層15・15と、平面方向において二のろう材層15・15の間に介在するよう形成された間隙Dと、間隙Dを挟むようにセラミックス基板11の一面側に二のろう材層15・15を介し各々接合された2枚の金属板13・13とを有している。この平面方向において対向配置された2枚の金属板13・13は、一組として、半導体チップ等が搭載される一組の回路板13として機能する。そして、セラミックス基板11の下面(他面)には、不図示の放熱フィン等に接合され、半導体チップ等で生じる熱を当該放熱フィンに伝導する放熱板14が、ろう材層15を介し接合されている。なお、回路板13および放熱板14の表面には、例えばNi、Au等のメッキ層が必要に応じ形成される。
上記回路基板1を構成するセラミックス基板11の材質は特に限定されず、酸化アルミニウム質焼結体、ムライト質焼結体、炭化珪素質焼結体、窒化アルミニウム質焼結体等、基本的に電気的絶縁性を有する焼結体で構成すればよい。しかしながら、回路基板1に実装される半導体素子は、近年、発熱量が増大しかつその動作速度も高速化している。このため、高い熱伝導率を有する窒化物セラミックス、具体的には窒化アルミニウムを主体とした粒子からなる主相と前記粒子の間に存在する焼結助剤を主体とした粒界相とを含む窒化アルミニウム焼結体、窒化珪素を主体とした粒子からなる主相と前記粒子の間に存在する焼結助剤を主体とした粒界相とを含む窒化珪素質焼結体でセラミックス基板11を構成することが望ましい。更に、強度および破壊靭性など機械的強度の面で優れた窒化珪素質焼結体でセラミックス基板11を構成することがより望ましい。
窒化珪素質焼結体でセラミックス基板11を構成する場合には、例えば窒化珪素90〜97質量%、MgまたはYその他希土類元素を含む焼結助剤3〜10質量%を含む原料粉末を用いることができる。これに、適量の有機バインダー、可塑剤、分散剤および有機溶剤を添加し、ボールミル等で混合し、スラリーを形成し、当該スラリーをドクターブレード法やカレンダーロール法で成形し、薄板状の成形体であるセラミックスグリーンシートをすることができる。しかる後に、セラミックスグリーンシートを所望の形状となるよう打ち抜きまたは裁断をし、このシートをBN粉末を介して1700〜1900℃の温度で焼成後、分離することにより、セラミックス基板11を得ることができる。なお、以下の実施例では、セラミックス基板11として、Si3N4を95質量%、Mgを酸化物換算で3質量%、Yを酸化物換算で2質量%含む、図4に示す紙面において縦横の大きさが其々30mmおよび40mm、厚みが0.32mmの窒化珪素基板を使用した場合を例として説明する。
また、上記回路基板1を構成する金属基板である回路板13および放熱板14についても、その材質は特に限定されず、金属ろう材粉末で接合でき且つ融点が金属ろう材粉末よりも高ければ特に制約はない。例えば銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金、銀、銀合金、ニッケル、ニッケル合金、ニッケルメッキを施したモリブデン、ニッケルメッキを施したタングステン、ニッケルメッキを施した鉄合金等を用いることが可能である。この中でも銅または銅を含む合金を金属基板として用いることが、電気的抵抗及び延伸性、高熱伝導性(低熱抵抗性)、マイグレーションが少ない等の点から最も好ましい。また、アルミニウムまたはアルミニウムを含む合金を金属基板として用いる場合、電気的抵抗、高熱伝導性(低熱抵抗性)は、銅に劣るものの、その塑性変形性のために、冷熱サイクルに対する高い信頼性が得られる。以下の実施例では、金属基板である回路板13および放熱板14として、いずれも厚みが0.5mmである無酸素銅基板C1020H材(JIS規格 H3100)を使用した。
さらに、回路基板1においてセラミックス基板11と金属基板13・14とを接合するろう材層15についても、その材質は特段限定されないが、例えばCuを主成分とする金属基板をセラミックス基板に接合する場合には、代表的には、共晶組成であるAgとCuを主体としTi・Zr・Hf等の活性金属を添加したAg−Cu系活性金属ろう材粉末用いてろう材層15を形成することができる。さらにセラミックス基板11と金属基板13・14の接合強度の観点から好ましくはこれにInが添加された三元系のAg−Cu−In系活性金属ろう材粉末で形成されたろう材層15用いてろう材層15を形成することができる。以下の実施例では、Ag:70.6質量%、In:2.9質量%、Ti:1.9質量%、残部Cuおよび不純物の構成となるよう調整された融点が760℃の金属ろう材粉末に、下記で詳細に説明する有機バインダーおよび有機溶媒を混合して形成したろう材ペーストにより、ろう材層15を形成した場合を例として説明する。
以下、図4(d)に示す回路基板1の製造方法について、図4(a)〜(c)を参照しつつ説明する。なお、以下述べる回路基板の製造工程において、回路板13と放熱板14に係る各工程の内容は基本的に同一であるので、回路板13についてのみ詳述し、放熱板14に係る作業内容の説明は省略する。
[塗布工程]
図4(a)に示すように、平面方向において間隙dを介し離隔する二のパターンを有するように、セラミックス基板11の上面にろう材ペースト12を塗布する。ろう材ペーストの塗布方法は特に限定されないが、工業生産上、回路基板を効率的に製造するためにはスクリーン印刷法で塗布することが望ましい。なお、以下の実施例では、紙面左側に形成したパターンの大きさは紙面に平行な横方向が11.6mm、紙面に垂直な縦方向が27.6mm、右側に形成したパターンの大きさは横および縦方向が各々23.6mmおよび27.6mmとし、塗布されたろう材ペーストの厚みは40μmとした。さらに、二のパターン間の間隙dの大きさは2.4mmとし、縦方向において一定の幅とした。
ここで、塗布工程でセラミックス基板11に塗布されるろう材ペーストに含まれる金属ろう材粉末は、上記組成の金属ろう材粉末を使用した。また、ろう材ペーストに含まれる有機バインダーとしては、ポリプロピレンカーボネートおよびポリエチレンカーボネートを使用し、下記の実施例の項で説明するように上記金属ろう材粉末に対し適宜な質量比で有機溶媒とともに攪拌し、混合してろう材ペーストを作成した。ここで、ポリプロピレンカーボネートの熱分解特性の一例として、その熱重量分析結果を図2に示す。大気中で加熱速度を10℃/分とした熱重量分析を行った場合に、初期重量を100%としたとき重量が10%となる温度が260℃であり、上記金属ろう材粉末の融点に対し500℃低く、熱分解温度と金属ろう材粉末の融点との温度差が従来の有機バインダーを用いた場合(図3)より大きい。さらに90%から10%までの重量減少率は4.0%/℃で従来の有機バインダーを用いた場合より大きい。また、ポリエチレンカーボネートの熱分解特性の一例においては、同条件で熱重量分析を行った場合に、初期重量を100%としたとき重量が10%となる温度が280℃であり、上記金属ろう材粉末の融点に対し480℃低く、熱分解温度と金属ろう材粉末の融点との温度差が従来の有機バインダーを用いた場合より大きい。さらに90%から10%までの重量減少率は2.6%/℃で従来の有機バインダーを用いた場合より大きい。なお、上記熱重量分析はセイコー電子工業社製の示差熱熱重量同時測定装置であるTG/DTA320型を用い、当該装置の炉内への大気の供給量は200ml/分とした。
ろう材ペーストに含まれる有機バインダーの組成は、金属ろう材粉末100質量部に対して、3.2〜25.7質量部の範囲で調整することが望ましい。有機バインダーの組成が3.2質量部未満の場合には、ろう材ペーストの粘度が200Pa・sを超えるためスクリーン印刷時の印刷性が低下し、印刷されたろう材ペーストのパターンにかすれ等の印刷不良が生じやすくなる。そのため、形成されたろう材層にボイドが発生しやすくなり、その結果、得られる回路基板の熱伝導率が低下するとともに金属基板とセラミックス基板との接合強度が低下する。一方で、25.7質量部を超える場合には、有機バインダーがろう材ペーストから完全に除去され難くなり、残留する炭素成分の影響のため回路基板の熱伝導率が低下するとともに金属基板とセラミックス基板との接合強度が低下する。
上記有機バインダーを溶解するため、ろう材ペーストに含まれる有機溶剤としては、ターピネオールの一種であるα−テルピネオールを用いることも可能であるが、以下の溶剤を用いると、本実施形態に係る有機バインダーの溶解性の点から有効である。このような溶剤としては、例えば塩化メチレン、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2―ジクロロエタン、トリクロロエチレン、メチルアセテート(酢酸メチル)、ビニルアセテート(酢酸ビニル)、エチルアセテート(酢酸エチル)、酢酸n−プロピル、プロピレンカーボネート(炭酸プロピレン)、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、ブチロラクトン(γ−ブチロラクトン:GBL)、カプロラクトン、プロピレンオキシド(酸化プロピレン)、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、セロソルブアセテート(酢酸セロソルブ)、PMアセテート、DEアセテート、モノグライム、ジグリム(ジグライム)、トリグライム、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、プロピオニトリル、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、1−ニトロプロパン、2−ニトロプロパン、ベンゼン、スチレン、ジメチルスルホキシド、トルエン、m−キシレン(メタキシレン)、メチルアミルケトン、メチルイソブチルケトン、ブチルアセテート(酢酸ブチル)、メタノール、エタノール、プロピレングリコール、1-フェノキシ-2-プロパノール(ドワノールPPH)、ジエチレングリコールフェニルエーテル(ドワノールEPH)、ジエチレングリコールモノメチルエーテル(ドワノールDM)、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル(ドワノール62B)、DBE−4 dibasic ester(DBE4)、ジメチルカーボネート(炭酸ジメチル)から選ばれる一種以上の溶剤を用いることができる。
ここで、スクリーン印刷を用いてろう材ペーストをパターン形成する場合には、スクリーン版上のペースト粘度が極力変化しないように、沸点が高く、蒸気圧が低い有機溶剤を選択することが望ましい。以下の実施例では、このポリプロピレンカーボネートを主成分とした有機バインダーの場合には、グリコールエーテル系のドワノールPPHを使用し、ポリエチレンカーボネートを主成分とする有機バインダーの場合には、γ−ブチロラクトンをそれぞれ有機溶剤として使用した。なお、有機溶剤の組成は、金属ろう材粉末100質量部に対して、2.1〜34.3質量部の範囲で調整することが望ましい。有機溶剤が2.1質量部未満の場合には、ろう材ペーストの粘度が200Pa・sを超えるためスクリーン印刷時の印刷性が低下し、印刷されたろう材ペーストのパターンにかすれ等の印刷不良が生じやすくなる。そのため、形成されたろう材層にボイドが発生しやすくなり、その結果、得られる回路基板の熱伝導率が低下するとともに金属基板とセラミックス基板との接合強度が低下する。一方で、34.3質量部を超える場合には、有機物である有機溶媒に由来する炭素成分が残留しやすくなり、残留する炭素成分の影響のため回路基板の熱伝導率が低下するとともに金属基板とセラミックス基板との接合強度が低下する。
[接合工程]
図4(b)に示すように、上記塗布工程で塗布されたろう材ペースト12の二のパターンに接触するよう回路板13となる2枚の金属板13をセラミックス基板11の上面に配置する。そして、図4(c)に示すように、塗布されたろう材ペースト12、当該ろう材ペースト12に接触するように配置された金属板13およびセラミックス基板11を一組とした被接合体1aを加熱炉に挿入し、好ましくは非酸化雰囲気である真空雰囲気下または窒素雰囲気下で加熱し、形成されたろう材15層を介しセラミックス基板11と金属板13とを接合して接合体1bを形成する。なお、下記の実施例では、図4(b)に示す金属板13の縦×横×厚さは、紙面において左側に配置された金属板13で28mm×12mm×0.5mm、右側に配置された金属板13で28mm×24mm×0.5mmとし、両者の間に形成される間隙Dの大きさは、2枚の金属板13の間隙Dが2mmとなるように調整した。放熱板14の縦×横×厚さは、28mm×38mm×0.5mmとした。
ここで、本実施形態の回路基板の製造方法では、図4(b)に示すように、予め形状および寸法が調整された2枚の金属板13を間隙Dが形成されるようにセラミックス基板11に配置して回路基板を形成しているが、二のろう材ペーストのパターンに跨るように一枚の金属板をセラミックス基板11に配置し、両者を接合した後に、この金属板の表面に所望のパターンでレジスト膜を形成し、金属板をエッチングすることにより間隙Dを形成し、回路板13となる2枚の金属板13を形成してもよい。
図1は、上記接合工程における温度プロファイルを示す線図である。本実施形態に係る温度プロファイルPは、ろう材ペーストに含まれる金属ろう材粉末が溶融する温度T2で一定時間保持する第2の温度保持域P2と、第2の温度保持域P2の前に配置された第1の温度保持域P1を有する。そして、ろう材ペーストに含まれる有機バインダーは、第1の温度保持域P1において温度T1で一定時間加熱分解され、ガス化され、ろう材ペーストから除去される。なおT1の温度域の幅は200℃程度である。ここで、金属ろう材粉末を溶融させる第2の温度保持域P2の温度T2は、ろう材ペーストに含まれる金属ろう材粉末の融点により異なるが、T2の温度域は、ろう材の融点よりも50〜150℃高めに設定される。例えばCuを主成分とする金属基板をセラミックス基板に接合する場合に多用されるAg−Cu系金属ろう材粉末の融点は、融点は概ね700〜760℃程度であり、T2は720〜870℃である。また、Alを主成分とする金属基板を接合する場合に多用されるAl−Si系金属ろう材粉末の融点は、概ね550〜615℃程度である。第2の温度保持域の温度T2は、通常、金属ろう材粉末の融点より10〜100℃程度高めに設定することができる。なお、第2の温度保持域P2の保持時間t2は、金属ろう材粉末の材質、組成および量により適宜設定されるが、概ね1〜3時間の範囲から選択するとよい。また、第2の温度保持域P2の後には、図示するように室温まで冷却する冷却域を設けてもよく、別の温度パターンを設けてもよい。
ろう材ペーストに含まれる有機バインダーを分解して除去する第1の温度保持域P1の温度T1は、使用する有機バインダーの分解温度、すなわち当該有機バインダーを大気中で10℃/分の加熱速度で熱重量分析をした場合に、その重量が初期重量の10%となる温度を基準として決定することができる。ろう材ペーストに残存する有機バインダーを充分に除去する一方で、高温の加熱による有機バインダーの炭化を防止するためには、第1の温度域P1の温度T1は、熱重量分析において有機バインダーが初期重量の10%となる温度よりも10〜100℃高い範囲に設定することが望ましい。さらに、第1の温度保持域P1の保持時間t1は、特に有機バインダーの量や熱分解特性を考慮し設定されるが、概ね1〜10時間の範囲から選択するとよい。
ここで、本実施形態の接合工程における温度プロファイルPは、図1に示すように、上記第1の温度保持域P1に至る昇温域P0が設けられており、その加熱速度は30℃/分以下に設定されている。このように第1の温度保持域P1に至るまでの加熱速度を30℃/分以下に設定することにより、ろう材ペースト、当該ろう材ペーストに接触するように配置された金属基板およびセラミックス基板からなる被接合体1a(図4(c)参照)を充分に予熱し、第1の温度保持域P1に至る間に被接合体1aの温度を均一化することができる。これにより、より効果的にろう材ペースト中の有機バインダーを除去することができる。なお、接合工程を真空雰囲気下で行う場合には、被接合体の加熱は専ら加熱炉からの輻射熱で行われ、雰囲気に存在する気体の対流による被接合体1aの温度の均一化の効果が期待できないため、予熱効果を得るためには加熱温度を10℃/分以下と抑制することが好ましい。また、予熱の効果を発揮するためには、昇温域P0は、少なくとも有機バインダーが分解を開始する温度、すなわち熱重量分析において有機バインダーの重量が減少を開始する温度以上において設定されていることが好ましい。
なお、上記の第1の温度保持域、第2の温度保持域においては、厳密に温度(T1、T2)が一定である必要はない。同様の効果を奏する限りにおいて、これらの温度が変動していてもよい。例えば、これらの温度がある設定温度±20℃程度の範囲であっても充分に効果を奏するように、この設定温度を定めることができる。
上記したように接合工程では、金属ろう材粉末の酸化を防止して接合性を確保するため非酸化雰囲気、特に窒素雰囲気または真空雰囲気(減圧雰囲気)下でセラミックス基板と金属板との接合が行われるが、特に真空雰囲気下で接合を行う場合には、有機バインダー100g当たり排気速度を9000リットル/分以上とし、分解されガス化された有機バインダーを系外へ除去することが残留する炭素成分を抑制する点から望ましい。
上記のように塗布工程および接合工程を経て形成された図4(c)に示す接合体1bは、金属板13・13の外縁からはみ出した不要なろう材層15・15を、過酸化水素および酸性フッ化アンモニウム等を含むろう材除去液で除去するろう材除去工程、金属板13・13の表面を化学研磨する化学研磨工程、金属板13・13の各々の表面にNi等のメッキ層を形成するメッキ工程その他必要な工程を経ることにより、図4(d)に示す回路基板1が形成される。
以上においては、縦横の大きさがそれぞれ30mm、40mm、厚みが0.32mmの窒化珪素基板11に、大きさが28mm×12mm、28mm×24mmの金属板13、及び大きさ28mm×38mmの放熱板14を接合し、図4(d)に示すセラミックス回路基板を製造する製造方法の一例を示した。縦横の大きさが例えば200mm×200mmの大型の窒化珪素基板を用いて複数の金属板13、及び放熱板14を接合して複数の回路パターンを形成し、その後に分割して複数のセラミックス回路基板を得る方法が通常用いられる。
セラミックス基板11と金属板13との接合強度を確認するため、ピール強度試験を行った。ピール強度試験片は、回路基板製作時に大型の窒化珪素基板の外周に位置する余肉部を用いて、回路基板1と同時に作製した。ピール強度試験片は、図6に示すように、上記回路基板1を構成する窒化珪素基板11と同一組成の窒化珪素基板M1の側面に対し一端部が5mm突出するよう、回路基板1を構成する金属板13と同一組成の金属板WAをM1の片面に配し、そして回路基板1を構成する放熱金属板14と同一組成の金属板WBをM1のもう一方の面に配置した試験片Tで構成される。この試験方法においては、WAの突出した部分を90度上方に引っ張り上げながら、WAとM1を強制的に剥離させて、剥離に要する単位長さ(剥離方向の対して直角方向の試験片の幅)当りの力を評価し、ピール強度である単位長さ当りの力が、セラミックス基板と金属板との接合強度を示す。そして、上記試験片Tについて、ピール強度試験を実施したところ、本実施形態に係る回路基板1と同一構成の試験片Tのピール強度は、いずれも20kN/m以上であった。
図4(d)に示す回路基板1の間隙Dに露出するセラミックス基板11の表面における炭素偏析部の発生状態は、次のようにして確認した。すなわち、図7に示す間隙Dに存在するセラミックス基板11の露出した表面を光学顕微鏡で撮像し、その黒色部の画像を2値化処理して炭素偏析部Kの像を分離した。2値化処理の閾値の設定は、モード法を用い、各回路基板の画像で求めた明暗の濃度分布の平均値をさらに平均した値を閾値とした。以下に閾値の求め方の詳細を図8(a)〜(c)を使って説明する。回路基板の間隙Dに存在する炭素偏析部Kの光学顕微鏡画像から炭素偏析部Kをその周囲とともに切り出す(図8(a))。その画像をモノクロ像とするために縦軸を度数、横軸を白と黒の範囲を256階調に分けた濃度とする濃度分布像(図8(b))を求める。濃度分布像から度数が最大値となる濃度を濃度分布の平均濃度とする。更に最大度数の1/2に相当する濃度の値をこの回路基板の閾値とする。そして、上記のようにして得られた2値化後の炭素偏析部Kの画像に基づき、下記の炭素偏析部Kの円相当径、面密度および相互間距離の変動係数を求めた。なお、図7に示す黒色部が炭素偏析部であることは、当該黒色部を、上記と同一条件のエネルギー分散形X線分光測定することにより確認した。
なお、上記回路基板1における間隙D(セラミックス基板の表面)に存在する黒色部が炭素偏析部であることは、以下のようにして確認した。黒色部が存在するセラミックス基板表面を、加速電圧200kVで透過電子顕微鏡(TEM)観察または電界放射型透過電子顕微鏡(FE−TEM)観察した。前記観察箇所内で元素分析したい箇所を、TEM装置に付随するエネルギー分散型X線分光(EDS)を用いてスポット径(ビーム径)1nmで、光学顕微鏡観察時に黒色部として観察される炭素偏析部の発生状態を確認した。TEM観察試料の作製に際しては、まず炭素偏析部を含む試料を数ミリ角に切断加工したのち、試料表面への導電性付与を目的に、極力ダメージを与えない軽元素であるカーボン(炭素)を使用し、試料表面に20〜50nmの厚さでカーボン蒸着層を形成させた。その後試料を収束イオンビーム装置(通称FIB装置という)内のホルダーに固定した。そしてビーム照射域を制御し、試料作製するためのメッシュには銅製メッシュを用いた。次に観察したい領域を照射損傷から守るための試料表面保護を目的とする第二、第三のカーボンデポジット膜をFIB装置内で徐々に製膜速度を上げながら最大膜厚1μmまで形成した。これらカーボンデポジット膜はチャージアップ防止の効果も兼ねている。そして収束Ga+ イオンビームを最大40kVで走査させ、スパッタリング効果によって試料を極薄に削り、観察したい個所をピンポイントで残すようにイオンビームを走査することにより、局部的に厚さ 10nm 前後の観察可能な試料を得た。最後にGaイオンによる照射損傷領域をできるだけ試料に残さないために、弱ビーム照射によって仕上げ研磨を行い、TEM観察試料を作製した。観察の結果、分析対象となる炭素偏析部の炭素と、上記TEM観察試料作製時のカーボン膜の炭素とは結晶構造が異なるため、明確に分離できることがわかっている。またEDS分析結果では、上記Gaイオン、銅メッシュの影響も含まれるため、Ga、Cu元素は評価では除外した。
分析結果の一例を図5及び表1に示す。ここで、表1では、示された各元素の組成(wt%)が示されており、表1における1〜4に対応する測定箇所(第1〜4の分析点)が図5中に示されている。図5の第1および第2の分析点が示す層はTEM試料作製時に形成したカーボン膜であり、第3の分析点が示す厚さ約10nmの層が黒色部に相当する。また第4の分析点は窒化珪素基板を構成する窒化珪素粒子に相当する。表1の結果によれば、黒色部の炭素濃度は55.59wt%であり、炭素偏析部であることが確認された。
上記した確認の結果、本実施形態における回路基板1の間隙Dに露出するセラミックス基板11の表面に付着した炭素偏析部の形状は不定形であるが、これと面積が等しい円形とした場合における円の直径(円相当径)は1.0mm以下であり、前記炭素偏析部の個数は、1cm2当たり2個以下であった。
さらに、上記画像に基づいて炭素偏析部の相互間距離の変動係数を確認したところ、好ましくは0.6以上であった。
上記回路基板について、図4(d)に示すように、2枚の金属板13と13の各々に設けた接点EよびF間に交流で最大10KVまで徐々に電圧を上昇させながら印圧し、絶縁耐圧を求めた。ここで、絶縁耐圧は、2枚の金属板13・13間で絶縁破壊したときの電圧を、間隙Dの幅で除した値とした。そして、本実施形態における回路基板の絶縁耐圧は、いずれもAC5kV/mm以上の高い値を示した。
(実施例)
実際に、上記の製造方法を用いて、上記した窒化珪素を含むセラミックス基板と無酸素銅板を接合した回路基板(実施例)を製造し、比較例と共に、その特性を調べた。ここで、特性としては、上記したように炭素偏析部における炭素濃度をEDS測定によって確認した。また、ろう材層とセラミックス基板との接合界面における炭素偏析部の大きさの指標として円相当径、その面密度および炭素偏析部の相互間距離の変動係数を確認した。
また、図4(d)に示すように、回路基板の上面に形成された、幅が2mmの間隙Dを介し電気的に分離された回路板13の間の絶縁特性についても、上記したように確認した。さらに、上記間隙に露出したセラミックス基板の表面に付着した炭素偏析部についても、上記と同様に、その面密度、円相当径、相互間距離の変動係数を確認した。
また、セラミックス回路基板の熱伝導率、セラミックス基板と金属基板との接合強度であるピール強度、ろう材層に形成されたボイド面積率についても確認した。なお、回路板13の全面積に占めるボイドの面積占有率を表すボイド面積率については、各実施例および比較例で得られたセラミックス回路基板を溶媒中に浸漬し、超音波で測定する超音波探傷装置である日立建機製Mi−scopeで確認した。セラミックス回路基板の熱伝導率は、金属基板を含むようにセラミッククス回路基板を5mm角に加工し、カーボンスプレーで表裏面を黒化処理後、JISR1611に準拠したレーザーフラッシュ法により求めた。
実施例1〜9においては、有機バインダーとして、分解温度が金属ろう材粉末の融点に対し500℃低く、重量減少率が4%/℃のポリプロピレンカーボネートを使用し、その組成比を2.7〜26.2重量部の範囲で変えている。なお、有機溶剤の組成比は3重量部とした。接合工程における第1の温度保持域の温度T1は200℃とし、加熱速度は5℃/minとした。また、接合の雰囲気は真空とし、その排気速度は9100L/minとした。また、P1域の保持時間t1は5時間、P2域の保持時間t2は1時間で、特に記載の無い場合は以下の実施例においても同一条件とした。そしてP2域終了後は加熱ヒーターOFFによる自然冷却とした。
実施例10〜17においては、有機バインダーの組成比を3.8重量部とし、有機溶剤の組成を1.9〜35.8重量部の範囲で変えている。接合工程に関する条件は実施例1〜9と同様(ただし実施例10でのみ加熱速度が6℃/min)とし、有機バインダーの組成比を3.8重量部とした。また、実施例18〜22においては、有機バインダーの組成比、有機溶剤の組成比を表1に示すように、共に変えており、接合工程に関する条件は実施例1〜9と同様である。
実施例23〜33においては、有機バインダーの組成比と接合工程における第1の温度保持域の温度を共に変えており、それ以外のパラメータは実施例1〜9と同様とした。実施例34〜42においては、有機バインダーの組成比と接合工程における加熱域の加熱速度を共に変えており、それ以外のパラメータは実施例1〜9と同様とした。
実施例43〜56においても、実施例34〜42と同様に有機バインダーの組成比と接合工程における加熱域の加熱速度を共に変えているが、ここでは、接合を真空雰囲気中ではなく、窒素雰囲気中とした。ただし、実施例43〜56に関しては、窒素雰囲気における脱バインダー処理におけるバインダーの分解除去性を考慮してt1を10時間、t2を1時間とした。
実施例57〜63においても有機バインダーの組成比を変えたが、接合は真空雰囲気で行い、その排気速度を変えている。
実施例64〜71においては、有機バインダーとして、分解温度が金属ろう材粉末の融点に対し460℃低く、重量減少率が3%/℃のポリエチレンカーボネートを用い、その組成比を2.6〜26重量部の範囲で変えている。これに応じて接合工程における第1の温度保持域の温度を230℃と高くしたが、これ以外の条件は実施例1〜9と同様である。
比較例においては、有機バインダーとして、分解温度が金属ろう材粉末の融点に対し370℃低く、重量減少率が0.5%/℃のポリメタクリル酸イソブチルを使用した。このため、接合工程における第1の温度保持域の温度は400℃と高い値が必要となった。比較例1〜3においては、有機バインダーの組成比が3〜27重量部の範囲で変えられている。
実施例1〜71における上記の製造条件に関するパラメータを表2〜4に示す。また、比較例1〜3における上記の製造条件に関するパラメータを表5に示す。表2〜4に対応した実施例において得られた回路基板の特性(回路板間の炭素偏析部の特性)を表6〜8に示す。比較例において得られた同様の特性を表9に示す。
以上の結果より、ろう材における有機バインダーとして、大気中で加熱速度を10℃/分とした熱重量分析を行った場合に、初期重量を100%としたとき重量が10%となる温度が前記金属ろう材粉末の融点に対し400〜500℃低く、90%から10%までの重量減少率が0.6〜4.5%/℃である有機バインダーの一例である、ポリプロピレンカーボネートを用いた実施例1〜63、およびポリエチレンカーボネートを用いた実施例64〜71において、高い絶縁耐圧(5kV/mm以上)、高いピール強度(20kN/m以上)が得られた。これは、実施例43〜56の結果とその他の実施例より、接合を真空雰囲気で行った場合、窒素雰囲気で行った場合のどちらにおいても同様である。なお、上記のように熱重量分析で定められる特性を有する他の有機バインダー材料を用いた場合でも、上記実施例と同様の結果が得られることは明らかである。
これに対して、従来から用いられており、TGA測定の結果が上記の範囲外となるポリメタクリル酸イソブチルを有機バインダーとして用いた比較例においては、ピール強度がいずれも20kN/m以上を下回り、絶縁耐圧も低かった。
また、実施例、比較例のいずれにおいても、分離した2枚の金属板間のセラミックス基板上において炭素偏析部が確認された。しかしながら、表6〜8の結果より、実施例においては確認された炭素偏析部の円相当径は1mm以下であり、かつその存在密度は1個/cm2を下回っていたのに対し、比較例ではこれを上回っていた。また、炭素偏析部の重心間距離の変動係数についても、実施例が比較例を上回っていた。これは、上記の絶縁耐圧の結果に対応すると考えられる。
以上の結果より、実施例においては、上記特性の有機バインダーを用いることにより、接合工程後に存在する炭素偏析部を、接合強度や絶縁耐圧に与える悪影響が小さくなるような状態とすることができることが確認された。