以下では、下記に示す順序で説明を行う。
1.比較例
1−1.比較例に係るヒューズの構成
1−2.パルス寿命試験
1−3.ヒートサイクル試験
1−4.ヒューズ膜の剥離
1−5.内部端子の剥離
2.ヒューズの構成
3.ヒューズの製造方法
4.変形例
5.回路基板の構成
6.回路基板の製造方法
<1.比較例>
本発明に係るヒューズについて説明する前に、比較例に係るヒューズについて説明する。以下においては、比較例に係るヒューズの構成について説明した後に、比較例に係るヒューズにおいて発生する諸問題について説明する。
(1−1.比較例に係るヒューズの構成)
図1は、比較例1に係るヒューズ900の断面模式図である。図2は、ヒューズ900の平面模式図である。図1及び図2に示すように、比較例1に係るヒューズ900は、支持基板910と、ヒューズ膜920と、内部端子930と、オーバーコート940と、外部端子950とを有する。
ヒューズ900は、回路に直列に挿入されており、例えば回路に過電流が流入した場合にはヒューズ膜920が溶断することにより、回路を保護している。ヒューズ900の長手方向の長さL1は約1.6(mm)であり、幅方向の長さL2は約0.8(mm)であり、厚さL3は約0.7(mm)である。また、ヒューズ900の重量は約1.7(mg)である。
支持基板910は、ヒューズ膜920及び内部端子930を支持する。支持基板910は、有機化合物から成る基板であり、例えばガラス繊維を含むエポキシ基板である。
ヒューズ膜920は、支持基板910の主面912上に形成されている。ヒューズ膜920は導体であり、ここでは銀製である。ヒューズ膜920の長手方向両端は、それぞれ内部端子930に電気的に接続されている。
内部端子930は、導体であり、支持基板910の主面912においてヒューズ膜920の長手方向両端側にそれぞれ形成されている。
オーバーコート940は、ヒューズ膜920と内部端子930の一部とを覆う。オーバーコート940は、例えばエポキシ樹脂から成る。
外部端子950は、例えば銀製であり、内部端子930上に内部端子930と接続するように形成されている。
ところで、ヒューズ900においては、例えば回路への電源のオン・オフ時に、ラッシュ電流(突入電流とも呼ばれる)が発生することがある。ラッシュ電流は、例えば回路に挿入されているコンデンサの充放電に起因して発生する場合がある。ラッシュ電流は、一般的に、スパイク状の電流波形で、電流ピークが高く、通電時間が短い特徴を有する。そして、ラッシュ電流により、本来ならば溶断されない筈のヒューズ900が溶断してしまうことがある。
このため、ヒューズ900としては、異常な電流が流れた場合には溶断するが、ラッシュ電流には耐えて溶断しないことが求められる。ヒューズ900のラッシュ電流に対する耐久の試験方法として、ヒューズ900の所定のパルス波形を入力するパルス寿命試験が用いられている。パルス寿命試験によってヒューズ900のパルス寿命を求めることで、ラッシュ電流に対する耐久性を評価できる。
(1−2.パルス寿命試験)
ここで、図3を参照しながら、比較例1に係るヒューズ900のパルス寿命について説明する。
図3は、比較例1に係るヒューズ900のパルス寿命試験結果を示すグラフである。グラフの横軸は電流負荷率η(%)であり、縦軸はパルス寿命M(回)である。パルス寿命Mは、ヒューズ膜920が溶断するまでにヒューズ膜920に入力可能なパルス波形の入力回数である。
電流負荷率ηは、下記のように設定される。
図4は、比較例1に係るヒューズ900の溶断特性曲線を示すグラフである。グラフの横軸は通電時間Tであり、縦軸は通電電流Iである。図4を見ると分かるように、ヒューズ900の溶断特性は、通電時間Tが大きくなるにつれて、通電電流Iが小さくなる傾向を示す。
図5は、パルス寿命試験時に入力されるパルス波形を示す図である。パルス波形の通電時間をTpとして、パルス波形の通電電流をIpとする。そして、パルス波形の通電時間Tpを図4のグラフの横軸に設定した場合、ヒューズ900は、通電電流IがI1である点Pにおいて溶断する。
かかる場合に、ヒューズ900の電流負荷率ηは、Ip/I1となる。このため、電流負荷率ηは、パルス波形の通電電流Ipの大きさに比例する。
図3に示すグラフを見ると分かるように、比較例1に係るヒューズ900のパルス寿命は、電流負荷率ηが大きくなるにつれて低下する。例えば、電流負荷率ηが100(%)の場合にはパルス波形が1回入力されるとヒューズ膜920が溶断し、電流負荷率ηが90(%)の場合にはパルス波形が約20回入力されるとヒューズ膜920が溶断する。通常、ヒューズ900にはパルス波形が繰り返し入力されるため、ヒューズ900のパルス寿命の改善が要請されている。
(1−3.ヒートサイクル試験)
比較例1に係るヒューズ900は、周囲環境や使用条件に左右されるが、温度変化を長期間に亘って繰り返し受ける。このようなヒューズ900の信頼性試験として、公知のヒートサイクル試験が行われている。ヒートサイクル試験を行うことで、例えば、ヒューズ900の内部端子930や外部端子950の損傷や異常な抵抗変化の有無等を評価できる。
ここでは、ヒートサイクル試験として、ヒューズ900に対して−40℃〜125℃の温度変化を繰り返し20回行った。試験結果、ヒューズ900の外部端子950間の抵抗値が、試験前の抵抗値の約2倍以上に上昇した。このため、ヒューズ900の信頼性が不十分となっており、改善が要請されている。
(1−4.ヒューズ膜の剥離)
比較例1に係るヒューズ900は、電流の通電と通電停止とが繰り返されることで、ヒューズ膜920が支持基板910から剥離して溶断することがある。以下において、ヒューズ膜920が支持基板910から剥離するメカニズムについて説明する。
ヒューズ膜920は、通電により発熱する。また、ヒューズ膜920と接合している支持基板910は、発熱したヒューズ膜920から熱を受ける。これにより、支持基板910とヒューズ膜920の接合界面において、ヒューズ膜920及び支持基板910が、Δθだけ温度上昇して熱膨張する。
ここで、ヒューズ膜920の線膨張係数をα1とし、支持基板910の線膨張係数をα2とすれば、接合界面には下記の式(1)のズレ力Fが発生する。
なお、K1は、ヒューズ膜920及び支持基板910の形状・大きさから定まる定数であり、K2は、ヒューズ膜920及び支持基板910の材質・物性から決まる定数である。
通常、有機化合物から成る支持基板910の線膨張係数α2は、金属から成るヒューズ膜920の線膨張係数α1よりも大きい。このため、通電によりヒューズ膜920及び支持基板910が温度上昇した場合に、接合界面に発生するズレ力Fは、ヒューズ膜920には引っ張り力として作用し、支持基板910には圧縮力として作用する。
一方で、通電が断たれると、ヒューズ膜920及び支持基板910は、放熱によって元の温度に戻り、接合界面に発生したズレ力Fが消滅する。このため、通電と通電停止とが繰り返されると、接合界面におけるズレ力Fの発生と消滅が繰り返され、この結果、ヒューズ膜920が支持基板910から剥離することになる。
本発明者らは、ヒューズ膜920の剥離の現象を確認すべく、パルス寿命試験を行った。以下では、試験結果を説明すると共に、ヒューズ膜920の剥離現象の詳細について説明する。
図6は、パルス寿命試験を行った際の抵抗値の推移を示すグラフである。グラフの横軸はヒューズ900に入力したパルスの入力数Nを示し、縦軸はヒューズ900のコールド抵抗比Kを示す。また、横軸は、対数目盛りの軸である。コールド抵抗比Kは、下記の式(2)で示される。
ここで、R0は、N=0、すなわち初期のヒューズ900のコールド抵抗を示し、Rは、所定のパルスをヒューズ900にN回入力した際のコールド抵抗を示す。コールド抵抗とは、通電を停止した状態で常温にて測定したヒューズ900の抵抗値である。
図6を見ると分かるように、入力数NがN1からN2の区間においては、コールド抵抗比Kは減少し、入力数NがN2からN4の区間においては、コールド抵抗比Kは増加している。この際、N=N3(D点)でコールド抵抗比Kが1となり、N=N4(E点)でヒューズ膜920が溶断した。
パルス寿命試験により、下記の点を把握できた。すなわち、ヒューズ900のコールド抵抗が増加すると、ヒューズ膜920の発熱が増加する。そして、ヒューズ膜920の温度が上昇し、更にコールド抵抗が増加する。この一連のプロセスの進行が、パルスの入力数Nの増加に伴い促進される。
パルス寿命試験時においては、ヒューズ膜920を観察することで、下記の点を確認できた。すなわち、入力数NがN3からN4の区間において、ヒューズ膜920は、支持基板910との接合面から剥離し、剥離した部位において溶断することが判明した。
ヒューズ膜920の温度が上昇すると、前述した式(1)のΔθが増加するので、ズレ力Fが増大する。そして、ズレ力Fが、ヒューズ膜920と支持基板910の間の接合強度よりも大きくなることで、ヒューズ膜920がずれて支持基板910から剥離する。なお、ヒューズ膜920の支持基板910に対する接合強度は、通電と通電停止を繰り返すことで、通電を開始する前に比べて低下していることが判明した。このため、通電と通電停止を繰り返すことで、ズレ力Fの増大と接合強度の低下とが発生し、ヒューズ膜920が支持基板910から剥離しやすくなる。
支持基板910から剥離したヒューズ膜920の通電による温度上昇は、剥離前に比べて格段に大きくなっていることが判明した。なお、剥離後のヒューズ膜920の温度上昇が大きい理由は、ヒューズ膜920が支持基板910から剥離すると、ヒューズ膜920において通電により発生した熱が支持基板910へ伝達することが減少するからである。剥離したヒューズ膜920は、その後、発熱・抵抗も増加しやすいため、溶断しやすくなる。
(1−5.内部端子の剥離)
前述したように、ヒートサイクル試験を行うと、ヒューズ900の抵抗値が大幅に増加する。試験後のヒューズ900を調査したところ、抵抗値の増加の要因として、ヒートサイクル試験時の内部端子930が支持基板910から剥離することが解明された。
具体的には、ヒートサイクル試験時に、それぞれ線膨張係数が異なる支持基板910、ヒューズ膜920及び内部端子930が、互いの接合界面にてズレ力Fが発生し、ヒューズ膜920及び内部端子930が支持基板910から剥離する。そして、内部端子930が支持基板910から剥離すると、内部端子930と外部端子950の間の接合界面にもズレ力Fが発生するため、ずれた接合界面における電気抵抗が上昇し、この結果ヒューズ900の抵抗値も上昇する。
このため、ヒューズ900のヒートサイクル試験時の信頼性を高めるためには、内部端子930を支持基板910に強固に接合させることが望ましい。
<2.ヒューズの構成>
図7及び図8を参照しながら、本発明の一実施形態に係るヒューズ1の構成について説明する。
図7は、一実施形態に係るヒューズ1の断面模式図である。図8は、ヒューズ1の平面模式図である。
ヒューズ1は、電子機器の回路基板等に表面実装されており、回路に異常な電流が流れた際に溶断する。ヒューズ1は、図7及び図8に示すように、支持基板10と、ヒューズ膜20と、内部端子群31、32と、オーバーコート40と、外部端子51、52とを有する。ヒューズ1は、外部端子51、52を介して回路基板と電気的に接続され、回路基板から外部端子51、52を介してヒューズ膜20へ電流が供給される。
ヒューズ1の長手方向の長さL1は約1.6(mm)であり、幅方向の長さL2は約0.8(mm)であり、厚さL3は約0.4(mm)である。長さL1、L2は、図2に示す比較例1に係るヒューズ900と同じ大きさであるが、厚さL3は、ヒューズ900の厚さよりも小さい。そして、ヒューズ1の重量は約0.9(mg)であり、ヒューズ900の重量よりも小さい。このように、ヒューズ1は、薄型化及び軽量化したヒューズである。
支持基板10は、ヒューズ膜20や内部端子群31、32を支持する基板である。支持基板10は、例えば有機化合物から成る基板であり、ここでは非熱可塑性ポリイミド樹脂基板である。支持基板10の厚さは、約250(μm)である。
ヒューズ膜20は、支持基板10の主面12に接合されている。ヒューズ膜20は、詳細は後述するが、金属ナノ粒子を含有するインク膜にレーザ光が照射されることで、主面12上に形成されている。金属ナノ粒子としては、例えば銀ナノ粒子が用いられる。ヒューズ膜20の幅wは約10(μm)であり、ヒューズ膜20の厚さtは約0.25(μm)である。
ヒューズ膜20は、主面12との接合面から支持基板10の内部に入り込んでいる入込部22(図9)を有する。入込部22は、ヒューズ膜20を形成する際にレーザ光の照射を受けて溶融又は焼結した金属ナノ粒子が支持基板10の主面12と融合することで、形成される。
図9は、ヒューズ膜20と支持基板10の間の接合状態を示す撮影画像である。図9に示す撮像画像は、公知の走査電子顕微鏡法(SEM)により観察された画像である。本実施形態におけるSEM観察は、CarlZEISS社製のSEMであるULTRA55と、Thermo Fisher社製エネルギー分散型X線分光器であるNSS312E(EDX)とを使用して行われた。
図9において、白い部分がヒューズ膜20であり、白い部分の下側の黒い部分が支持基板10である。図9を見ると分かるように、ヒューズ膜20から支持基板10の内部に入り込んでいる入込部22が、複数分散していることが確認できる。複数の入込部22の形状や大きさは、それぞれ僅かながら異なる。
入込部22は、支持基板10の内部と係合している。例えば、入込部22は、フック形状を成しており、フック部分が支持基板10の内部と係合している。入込部22の形状は、フック形状に限定されず、例えば球状の形状であってもよい。また、入込部22の先端側の幅は、入込部22の根元側の幅よりも大きい。これにより、入込部22が支持基板10と係合した状態を維持しやすくなるので、ヒューズ膜20が支持基板10に強固に接合される。この結果、ヒューズ膜20が支持基板10の主面12からずれ難くなり、ヒューズ膜20が支持基板10の主面12から剥離し難くなる。
支持基板10も、主面12からヒューズ膜20の内部に入り込む入込部14(図10)を有する。入込部14は、分散して複数形成されており、ヒューズ膜20の内部と係合している。このように入込部22に加えて入込部14が形成されていることで、ヒューズ膜20と支持基板10の接合をより強固にすることが可能となる。
図10は、ヒューズ膜20と支持基板10の間の接合状態を示す撮像画像である。図10も、図9と同様にSEMにより観察された画像である。なお、図10に示す撮像画像は、ヒューズ膜920の長手方向中央側の接合状態を示す図9とは異なり、ヒューズ膜920の長手方向端部における接合状態を示している。図10を見るとわかるように、ヒューズ膜920の長手方向端部においては、入込部22に加えて、支持基板10からヒューズ膜20の内部に入り込んでいる入込部14を確認できる。
なお、前述した比較例1に係るヒューズ900においては、ヒューズ膜920及び支持基板910に入込部が形成されておらず、ヒューズ膜920の接合面及び支持基板910の主面が平滑である。このため、ヒューズ900においては、ヒューズ膜920が支持基板910から剥離しやすい。
本実施形態では、ヒューズ膜20の入込部22が第1入込部に該当し、支持基板10の入込部14が第2入込部に該当する。上記では、入込部22及び入込部14の両方が形成されていることとしたが、これに限定されない。入込部22及び入込部14の少なくともいずれか一方が形成されていればよい。かかる場合でも、ヒューズ膜20を支持基板10に強固に接合できる。
内部端子群31、32は、支持基板10の主面12に接合されている。図8に示すように、内部端子群31は、ヒューズ膜20の長手方向一端側と接続する接続端子であり、内部端子群32は、ヒューズ膜20の長手方向他端側と接続する接続端子である。内部端子群31は、長手方向において互いに離隔した3つの内部端子31a、31b、31cと、3つの内部端子31a、31b、31cを接続する内部端子31d、31eを含む。内部端子群32も、同様に複数の内部端子(内部端子32a、32b、32c、32d、32e)を含む。内部端子群31、32の構成は同様であるので、ここでは、内部端子群31を例に挙げて詳細構成を説明する。
内部端子群31の内部端子31a〜31cは、それぞれヒューズ膜20の長手方向と交差する交差方向(具体的には、図8に示すように長手方向であるX方向と直交するY方向)に沿って設けられている。内部端子31a〜31cは、それぞれ同じ幅wを有し、ヒューズ膜20の幅wと同じ大きさである。また、内部端子31a〜31cの厚さは、それぞれヒューズ膜20の厚さtと同じ大きさである。
内部端子31d、31eは、ヒューズ膜20の長手方向に沿ってヒューズ膜20の両側に設けられている。内部端子31d、31eの幅及び厚さは、内部端子31a〜31cの幅及び厚さと同じ大きさである。
本実施形態では、内部端子群31、32は、それぞれ、主面12との接合面から支持基板10の内部に入り込んでいる入込部(第3入込部に該当)を有する。第3入込部は、ヒューズ膜20の入込部22と同様な形状を有する。このため、内部端子群31、32も、支持基板10に強固に接合されている。
支持基板10は、主面12から内部端子群31、32の内部に入り込む入込部(第4入込部に該当)を有する。第4入込部は、入込部14と同様な形状を有する。第3入込部に加えて第4入込部が形成されていることで、内部端子群31、32と支持基板10の接合をより強固にすることが可能となる。
なお、上記では、第3入込部及び第4入込部の両方が形成されていることとしたが、これに限定されない。第3入込部及び第4入込部の少なくともいずれか一方が形成されていてもよい。
オーバーコート40は、ヒューズ膜20の長手方向の中央側を覆う被覆部である。また、オーバーコート40は、内部端子群31のうちの最も長手方向中央側に位置する内部端子31a、及び内部端子群32のうちの最も長手方向中央側に位置する内部端子32aも覆う。オーバーコート40は、例えばエポキシ樹脂を含む有機化合物から成る。
外部端子51は、ヒューズ膜20の長手方向一端側にて、内部端子群31の一又は複数の内部端子(図8では、内部端子31b及び内部端子31c)と電気的に接続している。外部端子52は、長手方向他端側にて、内部端子群32の一又は複数の内部端子(図8では、内部端子32b及び内部端子32c)と接続している。外部端子51、52は、例えば銀製である。
なお、上記では、支持基板10が有機化合物から成る基板であることとしたが、これに限定されない。例えば、支持基板10は、有機化合物と無機化合物を組み合わせた基板であってもよい。かかる場合には、有機化合物の割合が、無機化合物の割合よりも大きいことが望ましい。
(パルス寿命試験)
上述した本実施形態のヒューズ1のパルス寿命について、比較例2、3に係るヒューズと対比しながら説明する。ここでは、本実施形態に係るヒューズ1と比較例2、3に係るヒューズについて、同一条件でパルス寿命試験を行った。
比較例2に係るヒューズは、ポリイミド製の支持基板の主面に、真空蒸着法により銀製のヒューズ膜を形成したものである。比較例3に係るヒューズは、ポリイミド製の支持基板の主面に約15(nm)銀ナノ粒子を分散した分散液を印刷した後に、送風炉にて乾燥・焼成することで、ヒューズ膜を形成したものである。比較例2、3の支持基板の厚さ及びヒューズ膜の厚さは、それぞれ本実施形態の支持基板10の厚さ(約250(μm))及びヒューズ膜20の厚さ(約0.25(μm))と同じ大きさである。
図11は、本実施形態に係るヒューズ1と、比較例2、3に係るヒューズのパルス寿命試験結果を示すグラフである。図11中の曲線C1は、本実施形態に係るヒューズ1のパルス寿命を示し、曲線C2は、ヒューズ膜が真空蒸着法により形成された比較例2に係るヒューズのパルス寿命を示し、曲線C3は、ヒューズ膜が送付炉による焼成で形成された比較例3に係るヒューズのパルス寿命を示す。グラフを見ると分かるように、例えば電流負荷率が90%の場合の比較例2のヒューズのパルス寿命が約100回であり、比較例3のヒューズのパルス寿命が約120回である。これに対して、本実施形態のヒューズ1のパルス寿命は、約4500回であり、比較例2、3に比べて大幅にパルス寿命が改善されている。
次に、本実施形態に係るヒューズ1のパルス寿命と、図3で説明した比較例1に係るヒューズ900のパルス寿命とについて、図12を参照して説明する。
図12は、本実施形態に係るヒューズ1と比較例1に係るヒューズ900のパルス寿命試験結果を示すグラフである。図12中の曲線C1は、本実施形態に係るヒューズ1のパルス寿命を示し、曲線C4は、比較例1に係るヒューズ900のパルス寿命を示す。グラフを見ると分かるように、本実施形態に係るヒューズ1のパルス寿命は、比較例1に係るヒューズ900のパルス寿命に比べて大幅に改善されている。
(剥離試験)
次に、本実施形態のヒューズ1のヒューズ膜20と支持基板10の接合強度について、前述した比較例2、3に係るヒューズと対比しながら説明する。ここでは、接合強度を把握するために、本実施形態に係るヒューズ1と比較例2、3に係るヒューズについて同一条件でテープ剥離試験を行った。
テープ剥離試験は、JIS Z0237に規定された「粘着テープ・粘着シート試験方法」の180度引きはがし試験方法に準拠して行われた。すなわち、まず、ヒューズの一部をカットした試験片をガラス基板上に接着固定し、試験片のヒューズ膜の表面にテープを貼り付ける。そして、ガラス基板を固定用治具に固定し、ロードセルを使用しながらテープの一端を180度引きはがす試験を行った。なお、接合力が強い試験片については、ヒューズ膜とテープを予め接着剤で接着した上で剥離試験を行った。
下記の表1は、テープ剥離試験の試験結果を示す。
なお、初期剥離強度とは、ヒューズに通電したりヒューズを折り曲げたりする前の初期の状態における剥離強さを意味する。
表1を見ると分かるように、比較例2、3に係るヒューズの剥離強度は、それぞれ0.37(KN/m)、1.12(KN/m)である。これに対して、本実施形態に係るヒューズ1の剥離強度は、3.1(KN/m)であり、比較例2、3に比べて大幅に剥離強度が大きい。この結果、本実施形態のヒューズ1の接合強度が、比較例2、3に係るヒューズの接合強度に比べて大きいことが確認された。
なお、上述したパルス寿命試験と剥離試験の結果から、図11に示すパルス寿命と剥離強度に相関関係があることも確認された。
<3.ヒューズの製造方法>
図13を参照しながら、ヒューズ1の製造方法の一例について説明する。
図13は、ヒューズ1の製造工程を示すフローチャートである。ヒューズ1の製造工程は、図13に示すように、液膜形成工程、乾燥工程、ヒューズ膜・内部端子形成工程、洗浄工程、焼成工程、後工程、検査工程を含む。以下では、工程毎に説明する。
(液膜形成工程:S102)
液膜形成工程S102では、集合基板100の主面である表面102(図14参照)上に、金属ナノ粒子が溶媒中に分散された分散液の液膜であるインク膜110を形成する。具体的には、不図示のスピンコータを使用して、金属ナノ粒子を含むインクを集合基板100の表面102全体に所定の厚さだけ形成する。
金属ナノ粒子としては、例えば銀ナノ粒子が用いられる。銀ナノ粒子の平均粒子径は、
5〜30(nm)であり、ここでは約15(nm)である。また、インク(銀ナノインク)の銀ナノ粒子の含有量は、例えば約50(wt%)である。なお、銀ナノ粒子の含有量は、上記に限定されず、例えば20〜60(wt%)であってもよい。
分散液中の溶媒は、例えば炭化水素の一種であるテトラデカンである。テトラデカンは低沸点の溶媒であるが、分散液は、高沸点の他の溶媒を含みうる。また、分散液は、金属ナノ粒子を溶媒に分散させるための分散剤を含んでおり、分散剤は、例えば脂肪族アミンなどの有機物質からなる。
図14は、集合基板100上に形成されたインク膜110を示す模式図である。本実施形態では、ヒューズ1を大量に生産できるように、複数のヒューズ1の支持基板10に相当する集合基板100上に、インク膜110が複数形成されている。ここで、集合基板100は、有機化合物(具体的には、非熱可塑性ポリイミド)から成る。集合基板100の厚さは約250(μm)であり、表面粗さRaは約0.05(μm)である。
(乾燥工程:S104)
乾燥工程S104では、集合基板100上のインク膜110を乾燥させる。具体的には、送風加熱炉を使用して、インク膜110を例えば約70℃の温度で約1時間以下の乾燥を行う。これにより、インク膜110中の低沸点の溶媒(例えば、テトラデカンの一部)が蒸発して、集合基板100上に厚さが一様な乾燥したインク膜110(具体的には、ナノ銀インク膜)が形成される。この結果、集合基板100の表面102は、乾燥したインク膜110によって覆われ、大気からは遮断される。
(ヒューズ膜・内部端子形成工程:S106)
ヒューズ膜・内部端子形成工程においては、集合基板100上のインク膜110にレーザ照射装置によってレーザ光をインク膜110に照射することで、ヒューズ膜及び内部端子を形成する。以下では、ヒューズ膜・内部端子形成工程を説明する前に、レーザ照射装置の構成について説明する。
(レーザ照射装置200の構成)
図15は、レーザ照射装置200の構成の一例を示す模式図である。レーザ照射装置200は、制御部210と、レーザ出力部220と、光学部230と、可動テーブル240と、テーブル駆動装置245と、検出部250とを有する。
制御部210は、レーザ照射装置200の動作全体を制御する。例えば、制御部210は、ヒューズ膜及び内部端子の形状及び位置に関するCAD情報をパーソナルコンピュータから受け取ると、可動テーブル240の移動とレーザ光の照射とを制御して、集合基板100上のインク膜に相対的な走査速度でレーザ光を照射する。また、制御部210は、レーザ光の走査速度や照射強度を調整する。
レーザ出力部220は、電源222と、レーザ発振器224とを含む。レーザ発振器224は、電源222からの出力に応じて、レーザ光を連続発振する。ここで、レーザ光のスポット径φ(L)は、例えば10(μm)である。また、レーザ光は、例えば波長が1064(nm)で平均照射強度が3.0×104〜5.0×105(W/cm2)のNd−YAGレーザ光である。
光学部230は、ミラー232と、光学フィルター234と、レンズ236と、を含む。
ミラー232は、レーザ光の照射方向を調整する。光学フィルター234は、レーザ光の光量を減衰させる機能を有する。光学フィルター234は、例えばND(Neutral Density)フィルターである。レンズ236は、光学フィルター234で減衰されたレーザ光を集光する。
上記の光学フィルター234を用いることで、レーザ光の照射条件(例えば、照射強度)の選択範囲が広がる。例えば、平均照射強度を3.0×104〜5.0×105(W/cm2)に制御する場合において、電源222の出力を所定の値以下とするとレーザ光の発振が不安定となる場合があり、インク膜の焼成に支障をきたす。かかる問題に対して、レーザ光の光量の減衰が有効であるため、光学フィルター234を用いている。また、光学フィルター234は、着脱自在に装着されている。これにより、特性が異なる光学フィルターの中から適切な光学フィルター234を選択して装着できる。
可動テーブル240は、X−Y方向に移動可能である。可動テーブル240は、基板吸着部を有し、集合基板100を吸着保持する。
テーブル駆動装置245は、可動テーブル240をX方向及びY方向にそれぞれ独立に移動させる。
検出部250は、例えばCCDカメラであり、集合基板100の位置や集合基板100上のレーザ光の照射状態を検出する。
以上、レーザ照射装置200の構成を説明した。次に、レーザ照射装置200を用いたヒューズ膜・内部端子形成工程S106の詳細について、図16及び図17を参照しながら説明する。
図16は、ヒューズ膜・内部端子形成工程の詳細を示すフローチャートである。図17は、ヒューズ膜・内部端子形成後の集合基板100を示す図である。なお、図17には、ヒューズ膜・内部端子形成後の一つのヒューズに対応するヒューズ膜及び内部端子を含むサブ組立体118が、模式的に示されている。
ヒューズ膜形成工程において、まず、表面102にインク膜110が形成された集合基板100を、可動テーブル240に吸着固定する(ステップS132)。
次に、集合基板100上のインク膜110の隅にレーザ光を照射して、図17に示すようなアライメントマーク115a、115b、115cを形成する(ステップS134)。形成されたアライメントマーク115a〜115cの形状は、例えば略十字状である。ここで、アライメントマーク115a〜115cとは、複数のヒューズ膜及び内部端子を集合基板100に形成する形成位置を調整するための位置調整マークである。
次に、検出部250により3つのアライメントマーク115a〜115cを読み取り、読み取ったアライメントマークの位置を基準として集合基板100のX方向とY方向を決め、同時に原点も決定する(ステップS136)。ここでは、アライメントマーク115aを原点とする。
(インク膜110の加熱工程:S138)
次に、乾燥したインク膜110の表面にレーザ光を照射して、インク膜110を加熱する(ステップS138)。この際、レーザ光を照射する部分は、アライメントマーク115aの位置(原点)に基づいて特定される。すなわち、制御部210は、ヒューズ膜及び内部端子の形状と、アライメントマーク115aの位置を基準としたヒューズ膜及び内部端子の位置とに関するCAD情報をパーソナルコンピュータから受け取って、可動テーブル240の移動及びレーザ光の照射の制御を行う。例えば、制御部210は、約3〜90(mm/sec)の走査速度で、インク膜110の表面に対してほぼ垂直にレーザ光を照射させる。
本実施形態では、インク膜110中の高沸点の溶媒及び分散剤を気化させるように、インク膜110を加熱する。
具体的には、レーザ光が照射されるインク膜110は、主に沸点の高い溶媒と分散剤と銀ナノ粒子とで構成されている。ここで、銀ナノ粒子は、平均粒子径が約15(nm)であり、波長が1064(nm)のレーザ光を吸収する吸収特性を有するため、レーザ光を吸光(プラズモン吸光)して発熱する。これにより、銀ナノ粒子が、温度上昇して例えば500℃に達すると、高沸点の溶媒及び分散剤(一部)が気化する。例えば、溶媒及び分散剤は、蒸発又はガス化(酸化)する。そして、分散剤が気化することで、分散剤と銀ナノ粒子の間の結合も解放される。
分散剤との結合が解放された銀ナノ粒子は、むきだしの状態となり、銀ナノ粒子の表面の活性が高まる。そして、銀ナノ粒子が溶融するとともに、一部の銀ナノ粒子同士が焼結して銀粒子となる。溶融した銀ナノ粒子又は焼結した銀粒子は、接触している非熱可塑性ポリイミド基板である集合基板100の表面102に熱を伝達させて表面102を加熱させる。表面102は、ここでは約500℃近い温度まで加熱される。また、表面102は、表面102上に位置する銀ナノ粒子(又は銀粒子)と分散剤によって実質的に大気から遮断されている。
加熱された表面102は、集合基板100のガラス転位温度(約420℃)を超え(具体的には、600℃よりも小さい温度で)、実質的に大気から遮断された状態で、軟化又は溶融する。
ここで、表面102を実質的に大気から遮断する理由は、表面102が大気に触れていると表面102の炭化が進行しやすい等の好ましくない現象の発生を防止するためである。
また、加熱された表面102の温度は、ガラス転位温度(約420℃)よりも大きくて600℃以下に管理することが望ましい。表面102の温度が、500℃を大幅に超える温度(例えば600℃〜700℃)になると、表面102の炭化が進行してしまうため、表面102を十分に軟化又は溶融できない。同様に、表面102の温度がガラス転位温度に達しない場合にも、表面102を十分に軟化又は溶融できない。
本実施形態では、レーザ光をインク膜110に対して1度だけ照射して、インク膜110を加熱する。このため、レーザ光の照射強度は大きい方が望ましいが、照射強度が過度に大きい場合には、表面102上のインク膜110にレーザ光を照射した際にインク膜110が吹き飛んでしまい(所謂アブレーション)、表面102が大気に晒されて炭化する恐れがある。
一方で、レーザ光の照射強度を低く設定して複数回照射した場合には、下記のような不具合が生じる。
インク膜110中の銀ナノ粒子の吸光反応は、インク膜110の表層で生じる。このため、1回目のレーザ光の照射により、インク膜110の表層において吸光発熱反応が生じて、表層の分散剤の炭化や硬化、及び銀ナノ粒子の焼結が生じる。その後、2回目の照射を行った場合に、炭化又は硬化した分散剤等が障害となって表層の下部に存在する未焼結の銀ナノ粒子へレーザ光が十分に届かないため、集合基板100の表面102を十分に加熱できない。また、表層の下部において生じたガス等が表層に阻まれて十分に大気中へ排出できないため、インク膜110の抵抗率等の物性値を管理することが困難となる。
上述したレーザ光の照射強度に関する検討結果から、前述したように、レーザ光を、波長が1064(nm)で平均照射強度が3.0×104〜5.0×105(W/cm2)のNd−YAGレーザ光としている。ただし、これに限定されず、レーザ光を、波長が532(nm)で平均照射強度が2.0×103〜7.0×104(W/cm2)のNd−YAGレーザ光としてもよい。波長が532(nm)の高調波であるレーザ光は、波長が1064(nm)のレーザ光よりも銀ナノインクの吸収率が高いので、波長が532(nm)のレーザ光の平均照射強度の大きさを低くしている。
インク膜110にレーザ光を照射して表面102を適切に軟化又は溶融させるためには、レーザ光の照射強度に加えて、レーザ光の走査速度を制御する必要がある。例えば、レーザ光の走査速度が90(mm/s)を超えると、表面102を十分に軟化又は溶融させることができなかった。このため、本実施形態では、レーザ光の走査速度を3〜90(mm/s)としている。
なお、レーザ光の照射強度及び走査速度の設定については、特にインク膜110の厚さやレーザ光のスポット径も考慮することが望ましい。
ここで、熱力学の知見を本実施形態に適用して説明する。
インク膜110の表面にレーザ光を照射して表面を加熱する系において、インク膜110の厚さ方向の平均的な熱の及び距離L(L)は、下記の式(3)となる。
なお、κiはインク膜110の厚さ方向の平均的な熱拡散率、τは代表的なレーザ光の照射時間、α、βはα>0、β>0なる所定数、K1は比例定数である。
また、照射するレーザ光のスポット径をφ(L)とし、レーザ光の相対的な走査速度をV(L)とすれば、レーザ光を連続発振モードでインク膜110を照射する本実施形態に係る代表的なレーザ光の照射時間τは、下記の式(4)となる。
なお、K2はレーザ光の形状等に関する補正係数である。
式(4)を式(3)に代入すると、下記の式(5)となる。
式(5)によれば、熱の及ぶ距離L(L)は、κi、φ(L)、V(L)の各因子によって決まり、各因子の値には組み合わせが存在することを意味する。すなわち、熱拡散率κi及びスポット径φ(L)を固定値にした場合、距離L(L)は走査速度V(L)によって決まると考えられる。本実施形態においては、距離L(L)がインク膜110の表面から集合基板100の表面102までの距離(インク膜110を加熱する厚さ)を代表するものと考えると、インク膜110の厚さと平均的な熱拡散率κiとを固定値にした場合には、走査速度V(L)は、スポット径φ(L)に応じて選定する必要があると考えられる。
また、スポット径φ(L)と走査速度V(L)とを変化させて、インク膜110の厚さt(L)によって集合基板100の表面102が軟化又は溶融する状態の変化を観察した結果、距離L(L)は厚さt(L)と強い相関があることが判明した。すなわち、インク膜110の厚さ方向の平均的な熱の及ぶ距離L(L)は、厚さt(L)を代表しているものと考えられる。
なお、インク膜110の厚さが約3.0(μm)より大きいと、レーザ光の走査速度を極めて低くして加熱する必要が生じるので、本実施形態においては実用的でないと判断した。一方、厚さが約0.1(μm)より小さいと、レーザ光の走査速度を大きくしても、集合基板100の表面102を安定して軟化又は溶融させることができなかった。
本実施形態では、集合基板100の表面102を所定の温度範囲で加熱し、表面102の炭化や過度の変形を防止しつつ表面102を安定して軟化又は溶融させるために、インク膜110の加熱条件や、金属ナノ粒子、溶媒、分散剤及び集合基板の物性、形状、大きさ等を工夫している。
(金属ナノ粒子と表面102との融合工程:S140)
ステップS138の表面102上のインク膜110へのレーザ光の照射後に、例えば所定時間放置することで、インク膜110中の溶融又は焼結した金属ナノ粒子と、軟化又は溶融した表面102とを相互に融合させる(ステップS140)。これにより、表面102上に、図18に示すようにヒューズ膜120及び内部端子群130が形成される。すなわち、インク膜110のうちレーザ光が照射されて加熱された部分が、ヒューズ膜120及び内部端子群130となる。
ここで、金属ナノ粒子と表面102との融合態様について説明する。
インク膜110中の溶融又は焼結した金属ナノ粒子は、軟化又は溶融した表面102と接触して、相互に融合した接合界面が形成される。すなわち、金属ナノ粒子及び表面102の表面張力が相互作用して、金属ナノ粒子と表面102とが互いに濡れ合う接合界面を自由に形成する。接合界面が形成されることで、表面102上にヒューズ膜120及び内部端子群130が形成される。
具体的には、金属ナノ粒子は、表面張力により例えば球状の表面形状に変形し、金属ナノ粒子よりも表面張力が大きな表面102は、表面張力によって、球状に変形した金属ナノ粒子を包み込むように変形して、接合界面を形成する。
そして、ヒューズ膜120や内部端子群130を構成する金属ナノ粒子は、接合界面において集合基板100の内部に延出し、集合基板100の内部に入り込む入込部(具体的には、図9に示す入込部22)を形成する。入込部は、例えばフック形状となっており、集合基板100の内部と係合している。フック形状の入込部の先端側の幅は、入込部の根元側の幅よりも大きい。このような入込部が形成されることで、ヒューズ膜120を集合基板100に強固に接合させることが可能となる。
図18は、ヒューズ膜120及び内部端子群130の形成状態を示す図である。一つのサブ組立体118を構成するヒューズ膜120及び内部端子群130が直線状に伸びて、他のサブ組立体118のヒューズ膜120及び内部端子群130と繋がっている。ヒューズ膜120及び内部端子群130のサブ組立体118の領域からはみ出ている部分は、サブ組立体118が集合基板100から切り出される際に切除される。なお、ヒューズ膜120及び内部端子群130は、図18とは異なり、サブ組立体118からはみ出ないように形成されてもよい。
図18を見ると分かるように、ヒューズ膜120は、X方向へ伸びる直線状の形状となっている。ヒューズ膜120の幅wは、例えば10(μm)であり、レーザ光のスポット径φ(L)とほぼ同じ大きさである。ヒューズ膜120の厚さは、例えば0.25(μm)である。
内部端子群130は、ヒューズ膜120のサブ組立体118の長手方向の両端側にて、それぞれヒューズ膜120と接続している。2つの内部端子群130は、それぞれ同一形状の3つの内部端子131a〜131c及び内部端子132a〜132cを含む。また、内部端子群130は、それぞれ離隔した内部端子131a〜131cを接続する内部端子131d、131eと、内部端子132a〜132cを接続する内部端子132d、132eとを含む。
内部端子群130の複数の内部端子131a〜131e、132a〜132eの各々は、ヒューズ膜120形成時と同じレーザ光の照射条件で、形成されている。このため、内部端子群130の各内部端子(内部端子131aを例に挙げて説明する)の幅wは、ヒューズ膜120の幅wと同じ大きさである。また、内部端子131aの厚さも、ヒューズ膜120の厚さと同じ大きさである。
そして、内部端子群130は、ヒューズ膜120と同様に、入込部(具体的には、前述した第3入込部や第4入込部)によって集合基板100に対して強固に接合される。なお、内部端子群130の各内部端子の幅及び厚さは、ヒューズ膜120の幅及び厚さと異なってもよい。また、内部端子群130の形成時のレーザ光の照射条件は、ヒューズ膜120の形成時の照射条件と異なってもよい。
本実施形態では、一つの工程の中でヒューズ膜120及び内部端子群130を形成しているので、ヒューズ膜120と内部端子群130とを別工程で形成する場合に比べて、ヒューズ膜120に対する内部端子群130の位置精度を高めることができる。また、製造時の工程が簡素化され、低コストを実現しやすくなる。
また、本実施形態では、レーザ光をインク膜110に対して一回走査させることで、レーザ光のスポット径に対応する幅の直線状のヒューズ膜120及び内部端子群130が形成される。また、レーザ光の走査幅に対応する長さのヒューズ膜120及び内部端子群130が形成される。これにより、ヒューズ膜120及び内部端子群130を短時間で大量に形成することが可能となる。
レーザ光の照射後のインク膜110の厚さ(第2厚さ)は、レーザ光の照射前のインク膜110の厚さ(第1厚さ)よりも小さくなる。第1厚さと第2厚さの対応関係については、予め実験等で解析されているため、前述したステップS102のインク膜110の形成工程において、第1厚さと第2厚さの対応関係に基づいて、第1厚さを調整してインク膜110が形成される。これにより、ヒューズ膜120及び内部端子群130を所望の厚さに適切に管理できる。
図19は、レーザ光の照射前のインク膜110の厚さt(i)と、照射後のヒューズ膜120の厚さtとの関係を示すグラフである。インク膜110は、ここでは、銀ナノ粒子を含有するインク膜であり、ポリイミド基板上に形成されているものとする。グラフを見ると分かるように、インク膜110の厚さt(i)とヒューズ膜120の厚さtとには比例関係があり、照射前の厚さt(i)を管理することで照射後の厚さtを管理することができる。
なお、スピンコータの代わりにインクジェットを用いた実験においても、同様な結果が得られた。また、フレキソ印刷やグラビア印刷などの他の印刷方法においても、インク膜110の厚さt(i)を管理することにより照射後のヒューズ膜120の厚さtを管理できることが確認できた。
図20は、レーザ光のスポット径φ(L)と、ヒューズ膜120の幅wとの関係を示すグラフである。グラフに示すように、照射後のヒューズ膜120の幅wは、スポット径φ(L)と比例関係を有する。なお、スポット径φ(L)は、ビームプロファイラーにより測定し、またはレーザ光を実際に基板に照射して加工された痕跡形状を測定するなどして求めた。
また、本実施形態では、制御部210は、インク膜110の厚さに応じて、レーザ光の照射速度及び照射強度の少なくとも一方を調整して、インク膜110のレーザ光を照射してもよい。これにより、インク膜110の厚さの設定値が変わった場合においても、所望の厚さのヒューズ膜120及び内部端子群130を形成できる。また、ヒューズ膜120及び内部端子群130を集合基板100に強固に接合できる。
また、本実施形態では、前述したようにレーザ発振器224から発振されたレーザ光を減衰用の光学フィルター234で減衰し、減衰されたレーザ光をインク膜110に照射する。レーザ光の発振は、電源222の出力を所定値よりも小さくすると、不安定になりやすい。そこで、電源222の出力を必要以上に小さくする代わりに、光学フィルター234によって光量を減衰させることで、所望の照射強度を確保することが可能となる。これにより、レーザ光の発振が不安定になることを抑制できるので、照射後のインク膜110(ヒューズ膜120及び内部端子群130)を集合基板100に適切に接合させることができる。
なお、上記では、直線状のヒューズ膜120を形成することとしたが、これに限定されず、例えば曲線状のヒューズ膜を形成してもよい。曲線状のヒューズ膜は、光学部230にガルバノミラーを設けてレーザ光を走査することで、形成可能である。また、直線と曲線を組み合わせたヒューズ膜を形成してもよい。これにより、多様な形状のヒューズ膜120を有するヒューズを製造できる。
(洗浄工程S108)
図13に戻り、洗浄工程においては、インク膜110のレーザ光を照射していないインクを洗い流し、乾燥させる。なお、洗浄方法としては、例えばイソプロピルアルコール溶液による超音波洗浄が用いられる。
洗浄後に、隣接する内部端子(例えば、内部端子131aと内部端子132a)の間の電気抵抗Rを測定してもよい。測定した電気抵抗Rを用いて、下記の式(6)から抵抗率ρを求めることができる。なお、電気抵抗Rの測定は、公知の四端子法を用いた。
(焼成工程S110)
焼成工程においては、例えば送付炉を使用して、ヒューズ膜120及び内部端子群130が形成された集合基板100を約250℃で1時間焼成する。焼成後に、隣接する内部端子間の電気抵抗Rを測定して、抵抗率ρを求めてもよい。測定結果から、焼成工程後の抵抗率のバラツキは、洗浄工程後の抵抗率のバラツキよりも改善されている。
特に、レーザ光のスポット形状が円形である場合には、レーザ光の走査領域のうちの両端部において金属ナノ粒子の焼結が不十分となり、当該両端部の抵抗率が高くなりやすい。これに対して、焼成を行うことで、抵抗率のバラツキが低減し、前記両端部において金属ナノ粒子の焼結が十分に行われることが判明した。本実施形態では、焼成後の抵抗率ρは、4.5(μΩcm)であった。
(後工程S112)
後工程においては、主にオーバーコート及び外部端子の形成を行う。以下では、図21を参照しながら、後工程の詳細について説明する。
図21は、後工程の詳細を示すフローチャートである。
まず、図22に示すように、サブ組立体118上にオーバーコート140を形成する(ステップS152)。オーバーコート140は、前述した原点(アライメントマーク115aの位置)を基準に集合基板100上の各サブ組立体118の位置を割り出して、形成される。
図22は、サブ組立体118上のオーバーコート140の形成状態を示す図である。オーバーコート140は、ヒューズ膜120の長手方向の中央側を覆うように形成されている。オーバーコート140は、主にシリコーン樹脂からなる。オーバーコート140は、例えばスクリーン印刷を用いて形成される。具体的には、印刷後に樹脂を所定温度で加熱硬化することで、オーバーコート140が形成される。
図21に戻り、オーバーコート140が形成されたサブ組立体118を、集合基板100から切り出す(ステップS154)。
次に、サブ組立体118の長手方向両端部に、図23に示すように、内部端子と接続する外部端子151、152を形成する(ステップS156)。
図23は、外部端子151、152の形成状態を示す図である。外部端子151、152は、内部端子群130のオーバーコート140で覆われていない部分と接続するように形成されている。外部端子151、152は、主に銀で構成されている。外部端子151、152は、銀粒子を有機溶媒に分散させた銀ペーストをスクリーン印刷技術やディッピング技術を用いて印刷形成した後、所定の加熱条件で焼成することで、形成される。
本実施形態では、内部端子群130と外部端子151、152との接合強度は高い。これは、内部端子群130を構成する銀ナノ粒子と外部端子151、152を構成する銀粒子との間での電気的・機械的接合と、銀ナノ粒子が分散された有機溶媒と銀粒子が分散された有機溶媒との間の機械的接合が確保されているためである。
外部端子151、152を形成することで、製品形態のヒューズ1となる。
図21に戻り、オーバーコート140の表面に、図24に示すように捺印を行う(ステップS158)。
図24は、オーバーコート140への捺印を説明するための図である。オーバーコート140の表面に、例えば文字が捺印される。なお、オーバーコート140へ捺印したあと、外部端子151、152にNiメッキ又はSnメッキを施してもよい。
(検査工程S114)
図13に戻り、検査工程においては、ヒューズ1の抵抗等を検査する。検査後に、ヒューズ1は、梱包し出荷される。これにより、本実施形態に係るヒューズ1の一連の製造工程が完了する。
上述したヒューズ1の製造方法においては、金属ナノ粒子を含有するインク膜110を基板上に形成した後、インク膜110にレーザ光を照射してヒューズ膜120を形成している。かかる場合には、ヒューズ膜のパターン化下地処理やパターン化マスク等を使用することなく、微細なヒューズ膜を有するヒューズ1を安価かつ大量に製造することが可能となる。
また、上述したヒューズ1の製造方法によれば、インク膜110をレーザ光で加熱してポリイミド製の集合基板100上に形成されたヒューズ膜120及び内部端子群130は、それぞれ入込部が形成されることで、集合基板100の表面に確実に接合される。そして、接合界面での接合強度が、ヒートサイクル試験等でヒューズ1の温度変化が生じた際に集合基板100(製造後の支持基板)、ヒューズ膜120及び内部端子群130の線膨張係数の差に起因して発生する接合界面におけるズレ力Fよりも大きいため、接合界面での剥離を防止できる。この結果、ヒューズ1のパルス寿命やヒートサイクル信頼性を改善することが可能となる。
なお、上述したヒューズ1の製造方法においては、ステップS102が液膜形成ステップに該当し、ステップS138が加熱ステップに該当し、ステップS140がヒューズ膜形成ステップに該当する。
<4.変形例>
上記では、スピンコータを使用して、金属ナノ粒子を含有するインク膜110を集合基板100の表面102全体に形成することとしたが、これに限定されない。例えば、インクジェットプリンタを使用して、表面102上のヒューズ膜120を形成する部分にインク膜を形成してもよい。
また、上記では、金属ナノ粒子が銀ナノ粒子であることとしたが、これに限定されない。例えば、金属ナノ粒子は、銅ナノ粒子、金ナノ粒子、ニッケルナノ粒子など他の金属ナノ粒子であってもよい。
また、上記では、金属ナノ粒子の平均粒子径が約15(nm)であることとしたが、これに限定されない。例えば、金属ナノ粒子の平均粒子径は、例えば3(nm)又は50(nm)であってもよい。
また、上記では、支持基板10が非熱可塑性ポリイミド基板であることとしたが、これに限定されない。例えば、支持基板10は、熱可塑性ポリイミド基板、熱硬化性ポリイミド基板、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン)製基板、又は他の有機材料から成る基板のいずれかであってもよい。
また、上記では、内部端子群31、32が、それぞれ内部端子31a〜31c、32a〜32cを接続する内部端子31d、31e、32d、32eを含むこととしたが、これに限定されず、内部端子群31、32は、それぞれ31d、31e、32d、32eを含まないこととしてもよい。
また、上記では、外部端子51、52が、それぞれ内部端子群31、32の内部端子と接触して電気的に接続されていることとしたが、これに限定されない。例えば、外部端子51、52は、外部端子51、52と内部端子群31、32の間に設けた平板状の中間端子を介して内部端子と電気的に接続されていてもよい。
また、上記では、レーザ光を、波長が1064(nm)で平均照射強度が3.0×104〜5.0×105(W/cm2)のNd−YAGレーザ光、又は波長が532(nm)で平均照射強度が2.0×103〜7.0×104(W/cm2)のNd−YAGレーザ光としたが、これに限定されない。例えば、レーザ光は、金属ナノ粒子がプラズモン吸収帯域を有する波長が800(nm)のチタンサファイアレーザ光であってもよい。また、レーザ光の平均照射強度の大きさは、レーザ光の波長に応じて調整してもよい。
また、上記では、レーザ光は連続発振モードで照射されることとしたが、これに限定されず、例えばレーザ光はパルス発振モードで照射されてもよい。また、上記では、レーザ光の走査速度が3〜90(mm/S)あることとしたが、これに限定されない。
また、上記では、レーザ光のスポット形状を円形としたが、これに限定されない。例えば、レーザ光のスポット形状は、楕円形状、正方形、長方形のいずれかであってもよい。スポット形状が正方形又は長方形である場合には、レーザ光の照射幅のほぼ全域を焼結できる。
また、上記では、スポット形状が円形であるレーザ光の直径が10(μm)であることとしたが、これに限定されない。レーザ光の直径を、レーザ光の波長や照射強度に応じて調整してもよい。
また、上記では、直線状のヒューズ膜20が一つ形成されていることとしたが、これに限定されない。例えば、曲線状のヒューズ膜20を形成してもよく、ヒューズ膜20を複数形成してもよい。
また、上記では、ヒューズ膜20及び内部端子群31、32の内部端子の厚さを0.1(μm)〜3.0(μm)としたが、これに限定されない。
また、上記では、インク膜110にレーザ光を照射してインク膜を加熱することとしたが、これに限定されない。例えば、公知のマイクロ波加熱や誘導加熱によってインク膜110を加熱してもよい。ただし、インク膜110を短時間に集中加熱して集合基板100(支持基板)の変形を防止するためには、レーザ光を照射する方式が有効である。
<5.回路基板の構成>
図25及び図26を参照しながら、本発明の一実施形態に係る回路基板500の構成について説明する。
本実施形態の回路基板500は、可動式の機器(例えば開閉可能な折り畳み式の携帯端末)に組み込まれる可撓性を有するフレキシブル回路基板である。回路基板500は、例えば携帯端末のヒンジ部の内部に設けられており、携帯端末の開閉に連動して屈曲する。また、回路基板500は、ユーザに装着される軽量化・小型化されたウェアラブル端末に設けられてもよい。
ところで、上述した可動式の機器に組み込まれた回路基板が繰り返して屈曲すると、以下のような問題が発生する。すなわち、回路基板が繰り返して屈曲すると、回路基板の基板に接合された回路部(回路パターン)に亀裂が発生して分断してしまい、回路部の抵抗値が増加してしまう。また、回路基板が繰り返して屈曲すると、回路部が基板から剥離してしまい、回路基板が破損する恐れがある。
これに対して、本実施形態に係る回路基板500は、繰り返し屈曲しても、上述した問題の発生を抑制できる構成となっている。
図25は、一実施形態に係る回路基板500の断面模式図である。図26は、回路基板500の平面模式図である。図25及び図26に示すように、回路基板500は、基板510と、回路部520と、端子530と、被覆部540とを有する。
基板510は、回路部520や端子530を支持する。基板510は、例えば柔軟性に優れた有機化合物から成る。ここでは、基板510は非熱可塑性ポリイミド樹脂基板である。基板510の厚さは、約250(μm)である。
回路部520は、導電体から成る回路パターンであり、基板510の主面512に接合されている。回路部520は、前述したヒューズ1のヒューズ膜20と同様に、金属ナノ粒子を含有するインク膜にレーザ光が照射されることで、主面512上に形成されている。金属ナノ粒子としては、例えば銀ナノ粒子が用いられる。回路部520の厚さは約0.25(μm)であり、回路部520の長さは約10(mm)である。
回路部520は、主面512との接合面から基板510の内部に入り込んでいる回路側入込部を有する。回路側入込部は、回路部520を形成する際にレーザ光の照射を受けて溶融又は焼結した金属ナノ粒子が基板510の主面512と融合することで、分散して複数形成されている。回路側入込部は、基板510の内部と係合している。回路側入込部の形状は、前述したヒューズ膜20の入込部22の形状と同様であるので、詳細な説明は省略する。回路側入込部が形成されていることで、回路部520が基板510に強固に接合され、回路部520が基板510の主面512から剥離し難くなる。また、回路部520が基板510に強固に接合されることで、回路部520に亀裂が発生し難くなるため、回路部520の抵抗値の増加を抑制できる。
ここで、回路部が基板から剥離するメカニズムについて、比較例4に係る回路基板を例に挙げて説明する。比較例4に係る回路基板の回路部は、回路部に相当するインク膜にレーザ光を照射せずに、インク膜を送付炉で焼成することで形成されている。このため、比較例4の回路部には、本実施形態の回路部520とは異なり、回路側入込部が形成されていない。
比較例4に係る回路基板は、当該回動基板が組み込まれた機器の回動に応じて屈曲する。そして、回路基板が繰り返し屈曲すると、回路部と基板の接合界面には接合界面に沿う方向にズレ力が繰り返し発生するため、当該ズレ力に起因して回路部が基板の主面からずれてしまい、回路部が基板の主面から剥離してしまう。なお、ズレ力は、接合界面において、接合した二つの部材のうちの曲率半径が大きい部材には圧縮力として、曲率半径が小さい部材には引っ張り力として、それぞれ作用する。すなわち、基板の曲率半径が回路部の曲率半径よりも大きくなる屈曲形態においては、回路部の接合面に引っ張り力が作用し、基板の主面に圧縮力が作用する。
これに対して、本実施形態では回路部520に回路側入込部が形成されていることで、上述したズレ力よりも大きい接合力によって回路部520が基板510に接合される。このため、回路基板500が繰り返し屈曲しても、回路部520が基板510からずれ難くなるため、回路部520が基板510から剥離することを有効に防止できる。
基板510も、主面512から回路部520の内部に入り込む基板側入込部を有する。基板側入込部は、分散して複数形成されており、回路部520の内部と係合している。このように回路側入込部に加えて基板側入込部が形成されていることで、回路部520と基板510の接合をより強固にすることが可能となる。
端子530は、回路部520の長手方向の両端側にそれぞれ形成され、基板510の主面512と接合している。端子530は、回路部520の長手方向の両端部と接続している。端子530は、ここでは回路部520と同様に銀製である。端子530は、回路部520と同様にインク膜にレーザ光を照射して形成してもよいし、スクリーン印刷等で形成してもよい。端子530がインク膜にレーザ光を照射して形成された場合には、回路部520と同様に入込部が形成されるので、端子530が基板510に強固に接合されることになる。
被覆部540は、回路部520及び端子530を被覆する。被覆部540は、例えばガスバリア性が高いラミネートフィルムである。
本実施形態に係る回路基板500では、上述したように、回路側入込部及び基板側入込部が形成されていることで、回路部520が基板510に強固に接合されている。これにより、回路基板500が繰り返し屈曲しても、回路部520の抵抗値の増加を抑制できると共に、回路部520が基板510から剥離しにくくなる。
ここで、本実施形態に係る回路基板500の所定回数(ここでは、3000回)繰り返し屈曲する屈曲試験前の抵抗値及び剥離強度と、屈曲試験後の抵抗値及び剥離強度との関係について、比較例4、5に係る回路基板と対比しながら説明する。比較例4に係る回路基板は、ポリイミド製の基板の主面に、真空蒸着法により銀製の回路部を形成したものである。比較例5に係るヒューズは、ポリイミド製の基板の主面に約15(nm)銀ナノ粒子を分散した分散液を印刷した後に、送風炉にて乾燥・焼成することで、回路部を形成したものである。
下記の表2は、屈曲試験前及び屈曲試験後の回路基板の抵抗値を示す。
表2を見ると分かるように、比較例4、5に係る回路基板の屈曲試験後の抵抗値は、屈曲試験前の抵抗値に比べて大幅に増加している。これに対して、本実施形態に係る回路基板500の屈曲試験後の抵抗値は、屈曲試験前の抵抗値から僅かに増加しているに過ぎず、ほとんど抵抗が増加していない。
下記の表3は、屈曲試験前及び屈曲試験後の回路部の剥離強度を示す。
表3を見ると分かるように、比較例4、5に係る回路基板の屈曲試験後の回路部の剥離強度は、屈曲試験前の剥離強度に対して減少している。これに対して、本実施形態に係る回路基板500の屈曲試験後の回路部520の剥離強度は、屈曲試験前の剥離強度と同じ大きさである。これにより、本実施形態に係る回路部520は、基板510から剥離しない事が確認された。
なお、回路基板の屈曲試験は、JIS P8115に規定された「折曲げ強さの試験方法」に準拠して行われた。試験時の条件として、回路基板が屈曲する屈曲半径を6(mm)として、屈曲角度を90(度)とし、屈曲速度を120(往復/分)とし、引っ張り加重を1(N)とした。また、屈曲試験に使用した回路基板500及び比較例4、5の回路基板の長手方向の長さは、それぞれ約20(mm)である。なお、屈曲試験に使用した回路基板500の幅(図25のY方向)は、300(μm)であるのに対して、比較例4、5の回路基板の幅は、それぞれ10(mm)である。
本実施形態では、回路部520の回路側入込部が第1入込部に該当し、基板510の基板側入込部が第2入込部に該当する。上記では、回路側入込部及び基板側入込部の両方が形成されていることとしたが、これに限定されない。回路側入込部及び基板側入込部の少なくともいずれか一方が形成されていればよい。かかる場合でも、回路部520を基板510に強固に接合できる。
上記では、基板510が有機化合物から成る基板であることとしたが、これに限定されない。例えば、基板510は、有機化合物と無機化合物を組み合わせた基板であってもよい。かかる場合には、有機化合物の割合が、無機化合物の割合よりも大きいことが望ましい。
<6.回路基板の製造方法>
図27を参照しながら、回路基板500の製造方法の一例について説明する。
図27は、回路基板500の製造工程を示すフローチャートである。なお、図13に示すヒューズ1の製造工程と同じ工程については、同様な処理が行われるので、ここでは簡単に説明する。
液膜形成工程S202では、ポリイミド製の基板510の主面512上に、金属ナノ粒子(銀ナノ粒子)が溶媒中に分散された分散液の液膜であるインク膜を形成する。インク膜の形成後に、インク膜を乾燥させてもよい。
次に、回路部・端子形成工程S204では、インク膜にレーザ光を照射して、回路部520を形成する。この際、インク膜の表面にレーザ光を照射して、インク膜を構成する溶媒を気化させるようにインク膜を加熱する。これにより、インク膜中の銀ナノ粒子が溶融するとともに、一部の銀ナノ粒子同士が焼結して銀粒子となる。また、銀ナノ粒子から基板510の主面512に熱が伝達されて、主面512が加熱される。これにより、主面512は、実質的に大気から遮断された状態で、軟化又は溶融する。
レーザ光の照射後に、溶融又は焼結した金属ナノ粒子と、軟化又は溶融した主面512とが、相互に融合する。すなわち、溶融又は焼結した金属ナノ粒子は、軟化又は溶融した主面512と接触して、前述した回路側入込部及び基板側入込部を含む接合界面が形成される。
また、回路部・端子形成工程S204では、回路部520と接続する端子530を形成する。端子530は、回路部520と同様にインク膜にレーザ光を照射して形成してもよいし、レーザ光を照射せずにスクリーン印刷で形成してもよい。
次に、洗浄工程S206では、インク膜のレーザ光を照射していないインクを洗い流し、乾燥させる。焼成工程S208では、回路部520及び端子530が形成された基板510を、例えば送付炉を用いて焼成する。被覆部形成工程S210では、回路部520及び端子530を覆うように被覆部540を形成する。これにより、製品形状の回路基板500が形成される。
次に、検査工程S212では、回路基板500を検査する。検査後に、回路基板500は、梱包し出荷される。これにより、本実施形態に係る回路基板500の一連の製造工程が完了する。
上述した回路基板500の製造方法においては、インク膜を回路基板500上に形成した後、インク膜にレーザ光を照射して回路部520を形成している。かかる場合には、回路部のパターン化下地処理やパターン化マスク等を使用することなく、回路基板500を安価かつ大量に製造することが可能となる。
また、上述した回路基板500の製造方法によれば、インク膜をレーザ光で加熱してポリイミド製の基板510上に形成された回路部520は、基板510の表面に確実に接合される。これにより、回路基板500が繰り返し屈曲しても回路部520が基板510から剥離しにくくなり、パルス寿命の低下も抑制できる。
なお、本実施形態の回路基板500についても、ヒューズ1について説明した変形例を適用可能である。
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更又は改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。そのような変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。