JP6145707B2 - 非水電解質二次電池電極用バインダ樹脂、非水電解質二次電池電極用スラリー組成物、非水電解質二次電池用電極、非水電解質二次電池 - Google Patents
非水電解質二次電池電極用バインダ樹脂、非水電解質二次電池電極用スラリー組成物、非水電解質二次電池用電極、非水電解質二次電池 Download PDFInfo
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Description
一般に、非水二次電池の電極としては、金属箔等の集電体と、該集電体上に設けられた合剤層とを備えるものが用いられており、合剤層には活物質等がバインダ樹脂によって保持されている。かかる電極は、通常、以下のようにして製造される。すなわち、バインダ樹脂、活物質、液体媒体(溶媒)および必要に応じて導電助剤等を混練して、非水電解質二次電池電極用スラリー組成物(以下、単に「電極用スラリー組成物」ともいう。)を調製する。この電極用スラリー組成物を転写ロール等で集電体の片面又は両面に塗工し、液体媒体を乾燥除去して合剤層を形成し、その後、必要に応じてロールプレス機等で圧縮成形して電極を得る。液体媒体としては、活物質や導電助剤等を分散し、バインダ樹脂を溶解するものが用いられる。
しかし、電極を製造するに際しては、PVDF等のバインダ樹脂をN―メチル−2−ピロリドン(NMP)等の有機溶媒に溶解して用いるため、乾燥時の溶媒回収コスト、環境に対して負荷が高いなどの問題が顕在化している。
電子の移動の容易さに影響されるレート特性の向上には、例えば、導電助剤の増量が効果的であることが知られている。
また、これまで負極には活物質として黒鉛材料が用いられていたが、近年の非水二次電池の高容量化を背景に、シリコンやスズなどの酸化物や合金などの微粒子を黒鉛材料と混合して用いたり、前記微粒子を単独で使用したりする試みがなされている。ところが、これらの方法では電極内の導電パスが減少しやすかった。そこで、電極内での電子伝導性を確保するために、電極用スラリー組成物に導電助剤を添加することが必要となっている。
このような問題に対し、改質された導電助剤を使用する方法や、分散性を改良する添加剤や樹脂を使用する方法が提案されている。例えば、特許文献1には、水系電極ペースト中の導電助剤の分散性を改良するために、親水化された導電助剤を使用する方法が開示されている。特許文献2には、塩基性官能基を有する有機色素などの特定構造の誘導体と、塩基性官能基を有する樹脂とを併用する方法が開示されている。
そのため、安定品質で供給可能な非天然物で水溶性のバインダ樹脂が望まれる。
加えて、バインダ樹脂には、高い電池性能も併せ持つことも要求される。
例えば、特許文献3には、バインダ樹脂として、ポリN−ビニルアセトアミドと、エチレンオキサイド(EO)およびプロピレンオキサイド(PO)の共重合体とを含む樹脂成分が開示されている。このバインダ樹脂によれば、結着性、低温から室温環境下での電池性能、リチウムイオンの伝導性に優れるとしている。
特許文献2に記載の方法では、電極合剤の結着性や合剤層の集電体への密着性を保持するためには別途バインダ樹脂が必要であり、結果として電池の質量エネルギー密度が低下し、電池性能が低下する可能性があった。
特許文献3に記載の樹脂成分の場合、EO鎖あるいはPO鎖が電解液組成に類似した分子構造のため、EOおよびPOの共重合体が電解液へ溶出する場合があり、電池性能へ悪影響を及ぼすことが懸念される。
電極用スラリー組成物中のバインダ樹脂および導電助剤の濃度と同程度に調製した、バインダ樹脂、導電助剤および溶媒を混合した評価用スラリー組成物について、水素核のパルスNMRを測定すると、時間に対して磁化が減衰する緩和曲線(自由誘導減衰(FID)曲線)が得られる。このFID曲線から得られる緩和時間はスピン−スピン緩和時間(T2)である。FID曲線は、評価用スラリー組成物中の水素原子の運動性が比較的高い成分、運動性が比較的低い成分、運動性が中間の成分の3成分に由来する緩和曲線が重なったものであり、FID曲線を非線形最小二乗法で解析することで、上記3成分に由来する3つの緩和曲線に分離することができる。すなわち、FID曲線は3つの緩和曲線の和で近似することができる。この3つの緩和曲線からそれぞれ得られるT2のうち、2番目に速いT2(T2−mid)、およびT2−midである水素原子の割合(F−mid)が適正な範囲にあるとき、前記評価用スラリー組成物における導電助剤の分散性が良好となることを見出した。そこで、T2−midおよびF−midを規定することで、電極用スラリー組成物中の導電助剤の分散性が良好となり、その結果、導電助剤の偏在が少なく均一性に優れた合剤層を形成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
<1> バインダ樹脂、活物質、導電助剤および溶媒を含有する非水電解質二次電池電極用スラリー組成物に、前記バインダ樹脂として用いられる非水電解質二次電池電極用バインダ樹脂であって、下記条件(i)、(ii)を満たす、非水電解質二次電池電極用バインダ樹脂。
条件(i):当該非水電解質二次電池電極用バインダ樹脂を前記溶媒に溶解して、濃度を3質量%としたバインダ樹脂溶液10gと、前記導電助剤0.5gとを混合した評価用スラリー組成物が、下記式(a)、(b)を満足する。
50msec≦T2−mid≦250msec ・・・(a)
10%≦F−mid≦30% ・・・(b)
(式中、「T2−mid」は30℃におけるパルスNMR(25MHz)で、CPMG(Carr−Purcell Meiboom−Gill)法により得られる自由誘導減衰曲線を3つの緩和曲線の和で近似したときの緩和が2番目に速い緩和曲線由来のスピン−スピン緩和時間であり、「F−mid」は前記T2−midである水素原子の割合である。)
条件(ii):当該非水電解質二次電池電極用バインダ樹脂が、低分子化合物を原料として化学的に合成されたものである。
<3> <1>または<2>に記載の非水電解質二次電池電極用バインダ樹脂、活物質、導電助剤および溶媒を含有する、非水電解質二次電池電極用スラリー組成物。
<4> 集電体と、該集電体上に設けられた合剤層とを備え、前記合剤層が、<1>または<2>に記載の非水電解質二次電池電極用バインダ樹脂、活物質および導電助剤を含有する、非水電解質二次電池用電極。
<5> 集電体と、該集電体上に設けられた合剤層とを備え、前記合剤層が、<3>に記載の非水電解質二次電池電極用スラリー組成物を集電体に塗工し、乾燥させて得られるものである、非水電解質二次電池用電極。
<6> <4>または<5>に記載の非水電解質二次電池用電極を備える、非水電解質二次電池。
なお、本明細書において「水溶性」とは、バインダ樹脂が水に溶解することを意味し、具体的には25℃の水100gに対する溶解度(すなわち、25℃において水100gに対して溶解する限度)が0.1g以上のことをいう。
また、本明細書において「(メタ)アクリル」とは、アクリルとメタクリルの総称であり、「(メタ)アクリレート」とは、アクリレートとメタクリレートの総称であり、「(メタ)アリル」は、アリルとメタリルの総称である。
本発明の非水電解質二次電池電極用バインダ樹脂(以下、単に「バインダ樹脂」ともいう。)は、バインダ樹脂、活物質、導電助剤および溶媒を含有する非水電解質二次電池電極用スラリー組成物(以下、単に「電極用スラリー組成物」ともいう。)に、前記バインダ樹脂として用いられるものである。
本発明のバインダ樹脂は、下記条件(i)、(ii)を満たすものである。以下、順に説明する。
当該非水電解質二次電池電極用バインダ樹脂を前記溶媒(すなわち、電極用スラリー組成物に用いる溶媒)に溶解して、濃度を3質量%としたバインダ樹脂溶液10gと、前記導電助剤(すなわち、電極用スラリー組成物に用いる導電助剤)0.5gとを混合した評価用スラリー組成物が、下記式(a)、(b)を満足する。
50msec≦T2−mid≦250msec ・・・(a)
10%≦F−mid≦30% ・・・(b)
(式中、「T2−mid」は30℃におけるパルスNMR(25MHz)で、CPMG(Carr−Purcell Meiboom−Gill)法により得られる自由誘導減衰曲線を3つの緩和曲線の和で近似したときの緩和が2番目に速い緩和曲線由来のスピン−スピン緩和時間であり、「F−mid」は前記T2−midである水素原子の割合である。)
30℃でのゼロずり粘度は10000mPa・sec以下であることが好ましい。30℃でのゼロずり粘度が10000mPa・secを上回る場合は、電極用スラリー組成物の流動性が低下するため、集電体への塗工性が劣ったり、得られた合剤層にかすれが生じたりするなどの問題が懸念される。
例えば、ある重合体(A−α)を用いた場合に、30℃でのゼロずり粘度が100mPa・secを下回ったときは、以下の方法(1)〜(4)の少なくとも1つを採用すれば30℃でのゼロずり粘度が高くなる傾向にあるが、これらの方法に限定されない。
方法(1):その重合体(A−α)よりも前記溶媒に対する溶解度が高い重合体をバインダ樹脂溶液に配合する。
方法(2):その重合体(A−α)を、該重合体(A−α)よりも前記溶媒に対する溶解度が高い重合体に置き換える。
方法(3):その重合体(A−α)よりも平均分子量が高い重合体をバインダ樹脂溶液に配合する。
方法(4):その重合体(A−α)を、該重合体(A−α)よりも平均分子量が高い重合体に置き換える。
方法(5):その重合体(A−α)よりも前記溶媒に対する溶解度が低い重合体をバインダ樹脂溶液に配合する。
方法(6):その重合体(A−α)を、該重合体(A−α)よりも前記溶媒に対する溶解度が低い重合体に置き換える。
方法(7):その重合体(A−α)よりも平均分子量が低い重合体をバインダ樹脂溶液に配合する。
方法(8):その重合体(A−α)を、該重合体(A−α)よりも平均分子量が低い重合体に置き換える。
ゼロずり粘度の測定は、直径60mm、コーン角2°のスチール製コーンプレートを装備したレオメーターを用いて行う。測定条件は、温度30℃、ずり速度を0.03sec−1から1000sec−1へ変化させて、ずり速度の対数として等間隔に45点以上の粘度を測定する。
ゼロずり粘度は、種々のずり速度において測定された粘度を、下記式(c)で表されるCrossの式により最小二乗法でのカーブフィッティング解析を行うことで求められる。
η=η∞+(η0−η∞)/(1+k×Dn) ・・・(c)
(式中、「D」はずり速度(単位:sec−1)であり、「η0」はゼロずり粘度(単位:Pa・sec)であり、「η」はずり速度Dにおける粘度(単位:Pa・sec)であり、「η∞」はずり速度が無限大のときの粘度であり、kとnは定数を表す。)
まず、所定の大きさの容器に導電助剤を0.5g加えた後、バインダ樹脂溶液10gを加える。そして、前記容器に所定の大きさの撹拌子を入れ、室温(25℃)にて撹拌し、評価用スラリー組成物を得る。
図1に示すように、評価用スラリー組成物をパルスNMRで測定すると、時間に対して磁化が減衰する緩和曲線(FID曲線)が得られる。このFID曲線から得られる緩和時間はスピン−スピン緩和時間(T2)である。FID曲線は、評価用スラリー中の水素原子の運動性が比較的高い成分、運動性が比較的低い成分、運動性が中間の成分に由来する緩和曲線が重なったものである。FID曲線を非線形最小二乗法で解析することで、具体的には下記式(d)で表される多成分カーブフィッティングにより解析することで、上記3成分に由来する3つの緩和曲線に分離することができる。すなわち、FID曲線は3つの緩和曲線の和で近似することができる。
M(t)=F−long×exp(−1/2×(t/T2−long)2)+F−mid×exp(−1/2×(t/T2−mid)2)+F−short×exp(−1/2×(t/T2−short)2) ・・・(d)
「T2−mid」は前記緩和が2番目に速い緩和曲線由来のスピン−スピン緩和時間である。すなわち、「T2−mid」は3つの緩和曲線からそれぞれ得られるT2のうち、2番目に速いT2のことである。
「T2−short」は前記緩和が3番目に速い(1番遅い)緩和曲線由来のスピン−スピン緩和時間である。すなわち、「T2−short」は3つの緩和曲線からそれぞれ得られるT2のうち、1番遅いT2のことである。
「F−long」はT2−longである水素原子の割合(T2−long存在比)を表す。
「F−mid」はT2−midである水素原子の割合(T2−midの存在比)を表す。
「F−short」はT2−shortである水素原子の割合(T2−shortの存在比)を表す。
「M」は信号(磁化)である。
「t」は測定時間である。
まず、待ち時間500msec〜1000msecの間を選択し、非線形最小二乗法によりカーブフィッティングを行う。
次に、待ち時間100msec〜500msecの間を選択し、非線形最小二乗法によりカーブフィッティングを行う。
最後に、待ち時間0msec〜100msecの間を選択し、非線形最小二乗法によりカーブフィッティングを行う。
上記条件で、3つの緩和曲線を求める。
しかし、前記溶媒は前記バインダ樹脂を溶解しているため、前記溶媒の運動性は、相互作用した前記バインダ樹脂の運動性の影響を含んでいると考えられる。
T2−longは、導電助剤Dに吸着しておらず(相互作用しておらず)、導電助剤Dの影響を大きく受けていないバインダ樹脂溶液Lの溶媒の運動性を表している。
T2−midは、導電助剤Dの表面に吸着したバインダ樹脂溶液Mの溶媒の運動性を表している。
T2−shortは、導電助剤Dの凝集体の隙間に入り込んだバインダ樹脂溶液Sの溶媒の運動性を表している。
50msec≦T2−mid≦250msec ・・・(a)
10%≦F−mid≦30% ・・・(b)
例えば、ある重合体(A−β1)を用いた場合に、T2−midが50msecを下回ったときは、導電助剤と、導電助剤に吸着しているバインダ樹脂溶液との相互作用を弱めれば、T2−midを大きくすることができる。具体的には、以下の方法(9)〜(15)の少なくとも1つを採用すればT2−midが大きくなる傾向にあるが、これらの方法に限定されない。
方法(9):その重合体(A−β1)に含まれる各構成単位が持つ双極子モーメントの方向よりも、重合体の主鎖に垂直で、かつ重合体の主鎖へ向かう方向の双極子モーメントを持つ構成単位(以下、構成単位(X)という。)からなる重合体をバインダ樹脂溶液に配合するか、重合体(A−β1)を該重合体に置き換える。
方法(10):その重合体(A−β1)に含まれる各構成単位の由来となる単量体と、構成単位(X)の由来となる単量体とを共重合した重合体をバインダ樹脂溶液に配合するか、重合体(A−β1)を該重合体に置き換える。
方法(11):その重合体(A−β1)に含まれる各構成単位が持つ双極子モーメントよりも、小さな双極子モーメントを持つ構成単位からなる重合体をバインダ樹脂溶液に配合するか、重合体(A−β1)を該重合体に置き換える。
方法(12):その重合体(A−β1)に含まれる各構成単位の由来となる単量体と、それらの構成単位が持つ双極子モーメントより小さな双極子モーメントを持つ構成単位の由来となる単量体とを共重合した重合体をバインダ樹脂溶液に配合するか、重合体(A−β1)を該重合体に置き換える。
方法(13):その重合体(A−β1)よりも平均分子量が低い重合体をバインダ樹脂溶液に配合するか、重合体(A−β1)を該重合体に置き換える。
方法(14):その重合体(A−β1)にイオン性を有する構成単位が含まれている場合、その構成単位よりもイオン性%の値が小さい構成単位からなる重合体をバインダ樹脂溶液に配合するか、重合体(A−β1)を該重合体に置き換える。
方法(15):その重合体(A−β1)にイオン性を有する構成単位が含まれている場合、その重合体(A−β1)に含まれる各構成単位の由来となる単量体と、その構成単位よりもイオン性%の値が小さい構成単位の由来となる単量体とを共重合した重合体をバインダ樹脂溶液に配合するか、重合体(A−β1)を該重合体に置き換える。
イオン性%=(μ×3.34×10−30/r×10−10)×100/1.6×10−19 ・・・(e)
例えば、アクリル酸リチウム、アクリル酸ナトリウム、アクリル酸カリウムを単量体とする構成単位のイオン性%は、それぞれ86%、47%、63%である。
次に、構成単位の最安定構造(グローバルミニマム構造)を決定する。構成単位の分子構造に存在する単結合やイオン結合からなる二面体角を、「二面体角探索ラベルの自動作成」機能を用いて、−120°〜120°の範囲で、ステップ数2に設定し、MM2法でのCONFLEXにより立体配座を変化させて、最安定構造に近い立体配座を持つ分子構造を計算する。そして、この立体配座を基にして、semiempirical PM3法により立体配座の最適化を行い、構成単位のグローバルミニマム構造を決定する。
最後に、最安定構造の双極子モーメントμを表示させ、双極子モーメントμの大きさと方向を求める。
方法(16):その重合体(A−β2)に含まれる各構成単位が持つ双極子モーメントの方向よりも、重合体の主鎖に垂直で、かつ重合体の主鎖とは反対へ向かう方向の双極子モーメントを持つ構成単位(以下、構成単位(Y)という。)からなる重合体をバインダ樹脂溶液に配合するか、重合体(A−β2)を該重合体に置き換える。
方法(17):その重合体(A−β2)に含まれる各構成単位の由来となる単量体と、構成単位(Y)の由来となる単量体とを共重合した重合体をバインダ樹脂溶液に配合するか、重合体(A−β2)を該重合体に置き換える。
方法(18):その重合体(A−β2)に含まれる各構成単位が持つ双極子モーメントよりも、大きな双極子モーメントを持つ構成単位からなる重合体をバインダ樹脂溶液に配合するか、重合体(A−β2)を該重合体に置き換える。
方法(19):その重合体(A−β2)に含まれる各構成単位の由来となる単量体と、それらの構成単位が持つ双極子モーメントより大きな双極子モーメントを持つ構成単位の由来となる単量体とを共重合した重合体をバインダ樹脂溶液に配合するか、重合体(A−β2)を該重合体に置き換える。
方法(20):その重合体(A−β2)よりも平均分子量が高い重合体をバインダ樹脂溶液に配合するか、重合体(A−β2)を該重合体に置き換える。
方法(21):その重合体(A−β2)にイオン性を有する構成単位が含まれている場合、その構成単位よりもイオン性%の値が大きい構成単位からなる重合体をバインダ樹脂溶液に配合するか、重合体(A−β2)を該重合体に置き換える。
方法(22):その重合体(A−β2)にイオン性を有する構成単位が含まれている場合、その重合体(A−β2)に含まれる各構成単位の由来となる単量体と、その構成単位よりもイオン性%の値が大きい構成単位の由来となる単量体とを共重合した重合体をバインダ樹脂溶液に配合するか、重合体(A−β2)を該重合体に置き換える。
一方、ある重合体(A−γ2)を用いた場合に、F−midが30%を上回ったときは、導電助剤に吸着しているバインダ樹脂溶液の量を減らせば、F−midを小さくすることができる。具体的には、その重合体(A−γ2)よりも平均分子量が高い重合体をバインダ樹脂溶液に配合するか、重合体(A−γ2)を該重合体に置き換える、などの方法を採用すればよいが、この方法に限定されない。
当該非水電解質二次電池電極用バインダ樹脂が、低分子化合物を原料として化学的に合成されたものである。
本発明のバインダ樹脂が条件(ii)を満たせば、安定品質で供給可能となる。
ここで、本発明における「低分子化合物」とは、化学的な合成反応によって樹脂の構成単位となる化合物のことである。例えば、化学的な合成反応が重合反応の場合、「低分子化合物」とは、単量体のことである。このような「低分子化合物」の分子量は、通常、1000以下である。
以下、本発明のバインダ樹脂を構成する重合体の一例について、具体的に説明する。
重合体(A)は、本発明のバインダ樹脂に含まれる重合体であり、電解用スラリー組成物に適度な粘度を付与し、電解用スラリー組成物の安定性や電池性能を付与する。
上述したように、本発明では、バインダ樹脂を溶媒に溶解させて、濃度が3質量%となるバインダ樹脂溶液とし、導電助剤と混合した評価用スラリー組成物のT2緩和測定を行う。よって、バインダ樹脂には、電極用スラリー組成物の調製に用いられる溶媒に溶解したときに、少なくとも濃度が3質量%となる溶解性を有する必要がある。従って、バインダ樹脂を構成する重合体(A)自体も、電極用スラリー組成物の調製に用いられる溶媒に溶解したときに、少なくとも濃度が3質量%の溶液となる溶解性を有するものである。
アルカリ金属としては、例えばリチウム、ナトリウム、カリウムなどが挙げられる。
アルカリ土類金属としては、例えばマグネシウム、カルシウムなどが挙げられる。
置換アンモニウムとしては、例えば脂式アンモニウム類、環式飽和アンモニウム類、環式不飽和アンモニウム類などが挙げられる。
単量体(a2)としては、例えば、(メタ)アクリル酸−2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸−3−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸−2−ヒドロキシ−n−プロピル、(メタ)アクリル酸−4−ヒドロキシ−n−ブチル等のヒドロキシ基含有モノビニル単量体;(メタ)アクリル酸−2−エトキシエチル、(メタ)アクリル酸−1−エトキシエチル、(メタ)アクリル酸ブトキシエチレングリコール、(メタ)アクリル酸メトキシポリエチレングリコール、(メタ)アクリル酸テトラヒドロフルフリル等のエーテル結合含有モノビニル単量体;(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリル酸2−ジメチルアミノエチル、N−ビニルホルムアミド、N−ビニルアセトアミド、N−ビニルピロリドン、N−ビニル−ε−カプロラクタム、N−ビニルカルバゾール等のアミノ基含有モノビニル単量体などが挙げられる。
これら単量体(a1)、単量体(a2)は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
単量体(a1)単位と単量体(a2)単位の合計含有率の上限は特に限定されず、100モル%であってもよい。
単量体(a1)単位と単量体(a2)単位のそれぞれの含有率は特に限定されず、0〜100モル%の範囲で適宜設定できる。また、単量体(a1)単位および単量体(a2)単位以外の単位(任意単位)を重合体(A)に含有させる場合は、任意単位とのバランスを考慮して適宜設定できる。
これら単量体(a3)は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
重合体(A)中の単量体(a3)単位の含有率は、重合体(A)を構成する全ての構成単位の合計(100モル%)中、0〜10モル%が好ましく、0.01〜5モル%がより好ましい。
これら単量体(a4)は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
重合体(A)中の単量体(a4)単位の含有率は、重合体(A)を構成する全ての構成単位の合計(100モル%)中、0〜10モル%が好ましく、0.01〜5モル%がより好ましい。
例えば、各単量体が水に可溶であり、かつ生成する重合体の水への親和性が高い場合には、水溶液重合を選択できる。水溶液重合は、単量体及び水溶性重合開始剤を水に溶解し、外部からの加熱や重合熱により重合体を得るものである。
また、各単量体の水への溶解度が小さい場合は、懸濁重合、乳化重合等を選択できる。乳化重合は、水中に単量体、乳化剤、水溶性の重合開始剤等を加え、撹拌下で加熱して重合体を得るものである。
また、重合系内には連鎖移動剤が存在していてもよい。
重合温度および時間は特に限定されないが、重合反応の進行、化合物の安定性、操作性の観点から、0〜200℃、0.1〜100時間が好ましい。
さらに、ろ過、遠心分離、加熱乾燥、減圧乾燥、凍結乾燥及びこれらを組み合わせて水を除去することで、粉末状の重合体(A)が得られる。
粘度平均分子量(Mv)は、重合体(A)の水溶液の粘度から、ポリN−ビニルホルムアミド(以下、PNVFという。)を標準物質とした粘度換算分子量として算出される。粘度平均分子量の算出方法の例を以下に示す。
重合体(A)の水溶液の還元粘度(ηsp/C)と、Hugginsの式(ηsp/C=[η]+K’[η]2C)とから、固有粘度[η]を算出する。なお、上記式中の「C」は、重合体(A)の水溶液における重合体(A)の濃度(g/dL)である。重合体(A)の水溶液の還元粘度の測定方法は、後述のものである。
得られた固有粘度[η]、およびMark−Houwinkの式([η]=KMa)から、粘度平均分子量(式中の「M」)を算出する。
なお、1N食塩水において、PNVFのパラメータは、K=8.31×10−5、a=0.76、K’=0.31である。
まず、重合体(A)の濃度が0.1質量%となるように、1N食塩水に重合体(A)を溶解して、重合体(A)の水溶液を得る。得られた重合体(A)の水溶液について、オスワルド粘度計を用いて、25℃での流下時間(t1)を測定する。
別途、ブランクとして、1N食塩水について、オスワルド粘度計を用いて、25℃での流下時間(t0)を測定する。
得られた流下時間から、下記式(f)により還元粘度を算出する。
ηsp/C={(t1/t0)−1}/C ・・・(f)
(式中、Cは、重合体(A)の水溶液における重合体(A)の濃度(g/dL)である。)
また、本発明のバインダ樹脂は、ハロゲン元素を含まないことが好ましい。
ここで、「ハロゲン元素を含まない」とは、ハロゲン元素を含む重合体(例えば、PVDF、ポリテトラフルオロエチレン、ポリペンタフルオロプロピレン等の含フッ素重合体など)が、バインダ樹脂100質量%中、50質量ppm未満であることを意味する。
バインダ樹脂がハロゲン元素を含まなければ、充放電時のハロゲン化水素の発生を抑制されるので、活物質の腐食がしにくい。
バインダ樹脂組成物の形態としては、粉末状、水等の溶媒に溶解または分散したドープ状などが挙げられる。保管や流通時の安定性、経済性、取り扱い性の容易さの観点から、保管や流通時は粉末状が好ましい。
また、他のバインダ樹脂は、ハロゲン元素を含まないことが好ましい。
バインダ樹脂組成物が粘度調整剤等の添加剤を含有する場合、その含有量は、バインダ樹脂組成物を100質量%としたときに、50質量%以下が好ましい。ただし、電池性能をより高める観点から、添加剤の含有量は少ないほど好ましい。
特に、バインダ樹脂がハロゲン原子を含まなければ、充放電時のハロゲン化水素の発生を抑制されるので、活物質の腐食がしにくい。
本発明の非水電解質二次電池電極用スラリー組成物(以下、単に「電極用スラリー組成物」ともいう。)は、上述した本発明のバインダ樹脂または本発明のバインダ樹脂を含有するバインダ樹脂組成物と、活物質と、導電助剤と、溶媒とを含有するものである。
すなわち、本発明の電極用スラリー組成物は、バインダ樹脂、活物質、導電助剤および溶媒を含有する非水電解質二次電池電極用スラリー組成物であって、下記条件(iii)、(iv)を満たす、非水電解質二次電池電極用スラリー組成物である。
50msec≦T2−mid≦250msec ・・・(a)
10%≦F−mid≦30% ・・・(b)
(式中、「T2−mid」は30℃におけるパルスNMR(25MHz)で、CPMG(Carr−Purcell Meiboom−Gill)法により得られる自由誘導減衰曲線を3つの緩和曲線の和で近似したときの緩和が2番目に速い緩和曲線由来のスピン−スピン緩和時間であり、「F−mid」は前記T2−midである水素原子の割合である。)
条件(iv):前記バインダ樹脂が、低分子化合物を原料として化学的に合成されたものである。
本発明の電極用スラリー組成物中のバインダ樹脂の含有量は、特に限定されないが、電極用スラリー組成物の総固形分(溶媒を除く全成分)中、0.01〜10質量%が好ましく、0.1〜7質量%がより好ましい。0.01質量%以上であれば、当該電極用スラリー組成物を用いて形成される合剤層と集電体との密着性(結着性)がより高まる。10質量%以下であれば、活物質や導電助剤等を充分に含有できるため、電池性能が向上する。
例えばリチウムイオン二次電池の場合、正極の活物質(正極活物質)としては、負極の活物質(負極活物質)より高電位(金属リチウムに対し)であり、充放電時にリチウムイオンを吸脱できる物質が用いられる。
正極活物質の具体例としては、例えば、鉄、コバルト、ニッケル、マンガン及びバナジウムから選ばれる少なくとも1種類以上の金属と、リチウムとを含有するリチウム含有金属複合酸化物、ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリアセチレン及びその誘導体、ポリパラフェニレン及びその誘導体、ポリピロール及びその誘導体、ポリチエニレン及びその誘導体、ポリピリジンジイル及びその誘導体、ポリイソチアナフテニレン及びその誘導体等のポリアリーレンビニレン及びそれらの誘導体等の導電性高分子が挙げられる。導電性高分子としては、有機溶媒に可溶なアニリン誘導体の重合体が好ましい。これら正極活物質は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
負極活物質としては、例えば、黒鉛、非晶質炭素、炭素繊維、コークス、活性炭等の炭素材料;前記炭素材料とシリコン、錫、銀等の金属又はこれらの酸化物との複合物等が挙げられる。これら負極活物質は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
リチウムイオン二次電池においては、正極活物質としてリチウム含有金属複合酸化物を用い、負極活物質として黒鉛を用いることが好ましい。このような組み合わせとすることで、リチウムイオン二次電池の電圧を例えば4V以上に高められる。
導電助剤としては、アセチレンブラック、カーボンブラック、黒鉛、チャンネルブラック、フラーレン、カーボンナノチューブ、グラフェン等が挙げられる。特にアセチレンブラックが好ましい。これらの導電助剤は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
有機溶媒としては、バインダ樹脂を均一に溶解又は分散しやすいものが選択され、例えば、NMP、エステル系溶媒(酢酸エチル、酢酸n−ブチル、ブチルセロソルブアセテート、ブチルカルビトールアセテート等)、グライム系溶媒(ジグライム、トリグライム、テトラグライム等)、アルコール系溶媒(メタノール、エタノール、イソプロパノール等)、ケトン系溶媒(アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等)等が挙げられる。これらの有機溶媒は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
ただし、有機溶媒は環境への負荷が高いことから、溶媒としては水を単独で用いることが好ましい。
任意成分としては、例えば酸化防止剤、増粘剤等が挙げられる。
スラリー調製時、本発明のバインダ樹脂は、粉末状のものをそのまま使用してもよく、活物質や導電助剤等と混合する前に予め、溶媒に溶解して樹脂溶液として用いてもよいであってもよい。
特に、バインダ樹脂がハロゲン原子を含まなければ、充放電時のハロゲン化水素の発生を抑制されるので、活物質の腐食がしにくい。
本発明の非水電解質二次電池用電極(以下、単に「電極」ともいう。)は、集電体と、該集電体上に設けられた合剤層とを備え、前記合剤層が、上述した本発明のバインダ樹脂または本発明のバインダ樹脂組成物と、活物質と、導電助剤とを含有するものである。
集電体の形状は、目的とする電池の形態に応じて決定でき、例えば、薄膜状、網状、繊維状が挙げられ、中でも、薄膜状が好ましい。
集電体の厚みは、特に限定されないが、5〜30μmが好ましく、8〜25μmがより好ましい。
合剤層中のバインダ樹脂の含有量は、特に限定されないが、0.01〜10質量%が好ましく、0.1〜7質量%がより好ましい。0.01質量%以上であれば、上述した本発明の電極用スラリー組成物を用いて形成される合剤層と集電体との密着性(結着性)がより高まる。10質量%以下であれば、活物質や導電助剤等を充分に含有できるため、電池性能が向上する。
合剤層中の活物質の含有量は、特に限定されないが、80〜99.9質量%が好ましく、85〜99質量%がより好ましい。80質量%以上であれば、合剤層としての機能が充分に発揮される。99.9質量%以下であれば、合剤層と集電体との密着性(結着性)が良好である。
合剤層中の導電助剤の含有量は、特に限定されないが、0.01〜10質量%が好ましく、0.1〜7質量%がより好ましい。0.01質量%以上であれば、電池性能がより高められる。10質量%以下であれば、合剤層と集電体との密着性(結着性)が良好である。
集電体が薄膜状または網状である場合、合剤層は、集電体の片面に設けられても両面に設けられてもよい。
電極用スラリー組成物の塗工方法は、集電体に電極用スラリー組成物を任意の厚みで塗布できるものであればよく、特に限定されないが、例えば、ドクターブレード法、ディップ法、リバースロール法、ダイレクトロール法、グラビア法、エクストルージョン法、刷毛塗り法等の方法が挙げられる。
塗工量は、形成しようとする合剤層の厚みに応じて適宜設定できる。
乾燥方法は、溶媒を除去できればよく、特に制限されない。例えば、電極用スラリー組成物が溶媒として水を含む場合は水の沸点以上に加熱する方法;電極用スラリー組成物が溶媒として水と有機溶媒の混合溶媒を含む場合は水および有機溶媒の沸点以上に加熱する方法;温風、熱風、または低湿風を吹き付ける方法;減圧条件下で溶媒を蒸発させる方法;(遠)赤外線や電子線等を照射する方法などが挙げられる。
圧延方法としては、例えば金型プレスやロールプレス等の方法が挙げられる。
なお、得られた電極を任意の寸法に切断してもよい。
特に、バインダ樹脂がハロゲン原子を含まなければ、充放電時のハロゲン化水素の発生を抑制されるので、活物質の腐食がしにくい。
本発明の非水電解質二次電池(以下、「非水二次電池」ともいう。)は、上述した本発明の電極を備えるものである。
「非水二次電池」は、電解質として水を含まない非水電解質を用いたものであり、例えばリチウムイオン二次電池等が挙げられる。非水二次電池は、通常、電極(正極および負極)と、非水電解質と、セパレータとを備える。例えば、正極と負極とを透過性のセパレータ(例えば、ポリエチレンあるいはポリプロピレン製の多孔性フィルム)を間に介して配置し、これに非水電解質を含浸させた非水二次電池;集電体の両面に合剤層が形成された負極/セパレータ/集電体の両面に合剤層が形成された正極/セパレータからなる積層体をロール状(渦巻状)に捲回した捲回体が、非水電解質と共に電池缶(有底の金属ケーシング)に収容された筒状の非水二次電池などが挙げられる。
電解液の有機溶媒としては、例えば、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート等のカーボネート類;γ−ブチロラクトン等のラクトン類;トリメトキシメタン、1,2−ジメトキシエタン、ジエチルエーテル、2−エトキシエタン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン等のエーテル類;ジメチルスルホキシド等のスルホキシド類;1,3−ジオキソラン、4−メチル−1,3−ジオキソラン等のオキソラン類;アセトニトリル、ニトロメタン、NMP等の含窒素類;ギ酸メチル、酢酸メチル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、リン酸トリエステル等のエステル類;ジグライム、トリグライム、テトラグライム等のグライム類;アセトン、ジエチルケトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類;スルホラン等のスルホン類;3−メチル−2−オキサゾリジノン等のオキサゾリジノン類;1,3−プロパンスルトン、4−ブタンスルトン、ナフタスルトン等のスルトン類等が挙げられる。これらの有機溶媒は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
リチウムイオン二次電池の電解液としては、カーボネート類にLiPF6を溶解したものが好ましい。
正極および負極のいずれか一方が本発明の非水二次電極である場合、他方の電極としては、公知のものが利用できる。
まず、正極と負極とをセパレータを介して対向させ、電池形状に応じて、渦巻き状に捲回する、または折るなどして電池容器に挿入し、予め負極の集電体に溶接しておいたタブ端子を電池容器の底部に溶接する。
次いで、電池容器に非水電解質を注入し、さらに予め正極の集電体に溶接しておいたタブ端子を電池の蓋に溶接し、蓋を絶縁性のガスケットを介して電池容器の上部に配置し、蓋と電池缶とが接した部分をかしめて密閉して、リチウムイオン二次電池とする。
電池の形状は、コイン型、円筒型、角形、扁平型など何れであってもよい。
<製造例1:重合体(A−1)の製造>
脱イオン水70質量部に対し、N−ビニルホルムアミド(NVF)22.5質量部、pH=9となるまで水酸化ナトリウム水溶液を加えたアクリル酸(アクリル酸ナトリウム(AANa))7.5質量部、酢酸ナトリウム0.8質量部を混合した単量体水溶液を、リン酸によりpH=6.3となるよう調節し、単量体調節液を得た。
この単量体調節液を5℃まで冷却した後、温度計を取り付けた断熱反応容器に入れ、15分間窒素曝気を行った。その後、2,2’−アゾビス[N−(2−カルボキシエチル)−2−メチルプロピオンアミジン](和光純薬工業株式会社製、「VA−057」)1500ppm(対単量体)を10質量%水溶液として添加し、さらに、分子量調整剤として、次亜リン酸ナトリウム200ppm(対単量体)を10質量%水溶液として添加した。次いで、t−ブチルハイドロパーオキサイド200ppm(対単量体)を10質量%水溶液として添加し、更に、亜硫酸水素ナトリウム200ppm(対単量体)を10質量%水溶液として添加することにより重合を行った。
内温がピークを超えた後さらに1時間熟成し、ゲルを取り出しミートチョッパーで粉砕した後、60℃で10時間乾燥し、得られた固体を粉砕して、粉末状の重合体を得た。これを重合体(A−1)とする。
得られた重合体(A−1)は、NVF単位75質量%と、AANa単位25質量%とからなる共重合体である。
なお、以下の方法により算出した重合体(A−1)の粘度平均分子量(Mv)は、PNVF換算で175万であった。
重合体(A−1)の水溶液の還元粘度(ηsp/C)と、Hugginsの式(ηsp/C=[η]+K’[η]2C)とから、固有粘度[η]を算出した。なお、上記式中の「C」は、重合体(A−1)の水溶液における重合体の濃度(g/dL)である。重合体(A−1)の水溶液の還元粘度の測定方法は、後述のものである。
得られた固有粘度[η]、およびMark−Houwinkの式([η]=KMa)から、粘度平均分子量(式中の「M」)を算出した。
なお、1N食塩水において、PNVFのパラメータは、K=8.31×10−5、a=0.76、K’=0.31である。
まず、重合体(A−1)の濃度が0.1質量%となるように、1N食塩水に重合体を溶解して、重合体(A−1)の水溶液を得た。得られた重合体(A−1)の水溶液について、オスワルド粘度計を用いて、25℃での流下時間(t1)を測定した。
別途、ブランクとして、1N食塩水について、オスワルド粘度計を用いて、25℃での流下時間(t0)を測定した。
得られた流下時間から、下記式(f)により還元粘度を算出した。
ηsp/C={(t1/t0)−1}/C ・・・(f)
(式中、Cは、重合体(A−1)の水溶液における重合体(A−1)の濃度(g/dL)である。)
脱イオン水70質量部に対し、NVFを21質量部、N−ビニルピロリドン(NVP)9質量部、酢酸ナトリウム0.8質量部を混合した単量体水溶液を、リン酸によりpH=6.3となるよう調節し、単量体調節液を得た。
以降は、分子量調整剤である次亜リン酸ナトリウムを無添加とした以外は、製造例1と同様の操作を行い、粉末状の重合体を得た。これを重合体(A−2)とする。
得られた重合体(A−2)は、NVF単位70質量%と、NVP単位30質量%とからなる共重合体である。
なお、重合体(A−1)と同様の方法により算出した、重合体(A−2)の粘度平均分子量(Mv)は、PNVF換算で150万であった。
分子量調整剤である次亜リン酸ナトリウムを無添加に変更した以外は、製造例1と同様の操作を行い、粉末状の重合体を得た。これを重合体(A−3)とする。
得られた重合体(A−3)は、NVF単位75質量%と、AANa単位25質量%とからなる共重合体である。
なお、重合体(A−1)と同様の方法により算出した、重合体(A−3)の粘度平均分子量(Mv)は、PNVF換算で311万であった。
脱イオン水70質量部に対し、NVFを30質量部混合した単量体水溶液を、リン酸によりpH=6.3となるよう調節し、単量体調節液を得た。
この単量体調節液を5℃まで冷却した後、温度計を取り付けた断熱反応容器に入れ、15分間窒素曝気を行った。その後、2,2’−アゾビス[N−(2−カルボキシエチル)−2−メチルプロピオンアミジン](和光純薬工業株式会社製、「VA−057」)10質量%水溶液を0.4質量部添加し、次いで、t−ブチルハイドロパーオキサイド10質量%水溶液および亜硫酸水素ナトリウム10質量%水溶液をそれぞれ0.1質量部添加して重合を行った。
内温がピークを超えた後さらに1時間熟成し、ゲルを取り出しミートチョッパーで粉砕した後、60℃で10時間乾燥し、得られた固体を粉砕して、粉末状のN−ビニルホルムアミド重合体を得た。これを重合体(A−4)とする。
得られた重合体(A−4)は、NVF単位100質量%からなる単独重合体である。
なお、重合体(A−1)と同様の方法により算出した、重合体(A−4)の粘度平均分子量(Mv)は、PNVF換算で263万であった。
製造例1〜4で得た重合体(A−1)〜(A−4)を、それぞれバインダ樹脂として用いた。表1に、各例のバインダ樹脂100質量%中の、重合体の含有量(質量%)を示す。
各バインダ樹脂のT2−midおよびF−midと、導電助剤の分散性を下記の手順で測定した。これらの結果を表1に示す。
また、各バインダ樹脂を用いて負極用スラリー組成物を調製し、該負極用スラリー組成物を用いて製造した電極(負極)、および該電極(負極)を用いて製造した非水二次電池の各種特性を下記の手順で評価した。これらの結果を表1に示す。
各例のバインダ樹脂と溶媒である蒸留水とをガラス瓶に入れ、撹拌子で24時間撹拌して、濃度が3質量%となるバインダ樹脂溶液を調製した。
また、このバインダ樹脂溶液のゼロずり粘度は、以下の測定装置を用い、以下の測定条件で測定した。
測定装置として、直径60mm、コーン角2°のスチール製コーンプレートを装備したレオメーター(TA Instruments社製、「AR550型レオメーター」)を用いた。
測定条件として、温度30℃、ずり速度を0.03sec−1から1000sec−1へ変化させて、ずり速度の対数として等間隔に46点の粘度を測定した。
種々のずり速度において測定した粘度を、下記式(c)で表されるCrossの式により最小二乗法でのカーブフィッティング解析を行い、ゼロずり粘度を求めた。
η=η∞+(η0−η∞)/(1+k×Dn) ・・・(c)
(式中、「D」はずり速度(単位:sec−1)であり、「η0」はゼロずり粘度(単位:Pa・sec)であり、「η」はずり速度Dにおける粘度(単位:Pa・sec)であり、「η∞」はずり速度が無限大のときの粘度であり、kとnは定数を表す。)
直径50mm、高さ28mmの軟膏容器(馬野化学容器株式会社製、「UG軟膏壷No3−54」)に、導電助剤であるアセチレンブラック(電気化学工業株式会社製、「デンカブラック」)0.5gを計量した後、(1)で調製したバインダ樹脂溶液10gを加え、さらにポリプロピレンで被覆された直径4cmの撹拌子を入れた。この混合物を、室温(25℃)にて、撹拌子の回転数100rpmで15分間撹拌して、評価用スラリー組成物を調製した。
測定条件:CPMG(Carr−Purcell Meiboom−Gill)法にて、温度を30℃、積算回数を64回、サンプリング点数を1000点、パルス幅を2.5μsec、パルス間隔を2.0msec、パルス繰り返し時間10secで測定して自由誘導減衰(FID)曲線を得た。このFID曲線をベースライン補正した後、ワイブル関数を1として、非線形最小二乗法により3成分の緩和曲線に分解し、スピン−スピン緩和時間(T2)を求めた。そのうち2番目に速い緩和曲線に由来するT2−midと、このT2−midを持つ水素原子の割合であるF−midを求めた。
導電助剤であるアセチレンブラック(電気化学工業株式会社製、「デンカブラック」)0.5gに、(1)で調製したバインダ樹脂溶液を5g加え、自公転式攪拌機(Thinky製、「泡とり練太郎」)を用い、自転1000rpm、公転2000rpmの条件にて3分間混練した。このスラリー組成物に、さらに前記バインダ樹脂溶液を5g加え、自公転式攪拌機を用いて前記同様の条件で1分間混練して、分散性評価用のスラリー組成物を得た。
得られた分散性評価用のスラリー組成物を、銅箔(19cm×25cm、厚み20μm)上にドクターブレードを用いて塗工し、室温(25℃)にて1時間乾燥した。さらに真空乾燥機にて0.6kPa、60℃で12時間減圧乾燥し、膜厚が80μmの合剤層が集電体(銅箔)上に形成された分散性評価用の電極を得た。
得られた分散性評価用の電極の表面を目視にて確認し、以下の評価基準にて導電助剤の分散性を評価した。
◎:分散性評価用の電極の表面上に凝集物が全く認められない。
○:分散性評価用の電極の表面上に凝集物が1〜3個認められる。
△:分散性評価用の電極の表面上に凝集物が4〜6個認められる。
×:分散性評価用の電極の表面上に凝集物が7個以上認められる。
「◎」または「○」であることは、スラリー組成物中の導電助剤の分散性が良好であることを示す。
導電助剤であるアセチレンブラック(電気化学工業株式会社製、「デンカブラック」)0.2gに、(1)で調製したバインダ樹脂溶液を2g加え、自公転式攪拌機(Thinky製、「泡とり練太郎」)を用い、自転1000rpm、公転2000rpmの条件にて3分間混練した。このスラリー組成物に、天然黒鉛系負極活物質(三菱化学株式会社製、「MPGC16」)10gと、(1)で調製したバインダ樹脂溶液2gとを加え、自公転式攪拌機を用いて前記同様の条件で3分間混練した。
次に、このスラリー組成物に、(1)で調製したバインダ樹脂溶液をさらに2.67g加え、自公転式攪拌機を用いて前記同様の条件で30秒間混練した。さらに、溶媒である蒸留水の添加と自公転式攪拌機による30秒間の混練(条件は、前記同様)を繰り返し、塗工可能な粘度に調整し、負極用スラリー組成物を得た。
(4)で調製した負極用スラリー組成物を、銅箔(19cm×25cm、厚み20μm)上にドクターブレードを用いて塗工し、室温(25℃)にて1時間乾燥した。さらに真空乾燥機にて0.6kPa、60℃で12時間減圧乾燥し、膜厚が50μmの合剤層が集電体(銅箔)上に形成された電極(負極)を得た。さらにニップロールプレス(線圧:約150kgF/cm)にて100℃でプレスすることにより、電極密度が1.5g/cm3の電極(負極)を得た。
断面試料作成装置(日本電子株式会社製、「SM−09010」)を用いて、前記(5)で製造した電極(負極)の垂直断面を切り出した後、その断面を、走査型電子顕微鏡(株式会社日立ハイテクノロジーズ製、「SU1510」)を用いて、合剤層の表面と、銅箔および合剤層の密着界面とが同時に観察できるような部分を、1000倍の視野で3箇所観察した。得られた画像のうち、合剤層表面から合剤層中央部へ向かって10μm×幅50μmの画像における導電助剤(アセチレンブラック)部分が占める面積の割合(SU)と、銅箔および合剤層の密着界面から合剤層中央部へ向かって10μm×幅50μmの画像における、導電助剤(アセチレンブラック)部分が占める面積の割合(SB)とを、画像解析ソフト(Media Cybernetics社製、「Image−Pro PLUS ver4.5.0」)により求め、以下のように評価した。
○:(SU/SB)−1の絶対値が0.2以下である。
×:(SU/SB)−1の絶対値が0.2より大きい。
「○」であることは、合剤層全体に均質に導電助剤が存在していることになり、塗料特性が良好であることを示す。
市販の金属リチウム電極(正極)と、(5)で製造した電極(負極)とを、セパレータ(商品名:セルガード♯2400)を介して対向させた。非水電解質として、エチレンカーボネート/ジエチルカーボネート=1/2(体積比)の混合物を溶媒とした1Mの六フッ化リン酸リチウム溶液を用いて、2016型コイン電池を製造した。
(7)で製造した2016型コイン電池の製造直後に、60℃で充放電レートを0.5Cとし、定電流法(電流密度:0.6mA/g−活物質)で3.0Vに充電したときの電池容量を測定し、その測定値を初期電池容量とした。
重合体(A−1)または重合体(A−2)をバインダ樹脂とした場合(実施例1、2)と、重合体(A−1)と重合体(A−4)との混合物をバインダ樹脂とした場合(実施例3)は、T2−midの値が50〜250msecの範囲内であり、かつ、F−midの値が10〜30%の範囲内であり、導電助剤の分散性が良好であった。導電助剤の分散性が良好であるほど、電極用スラリー組成物の導電パスが発達し、電池性能が向上する。また、各実施例で得られた電極(負極)の合剤層の均一性も良好であり、該電極(負極)を用いた非水二次電池の初期電池容量も良好であった。
図3、4において、符号11は炭素原子であり、符号12は酸素原子であり、符号13は窒素原子であり、符号14はナトリウム原子であり、符号15は水素原子である。また、矢印Xは双極子モーメントの方向を示し、一点鎖線Yは重合体の主鎖を示す。
比較例2においてバインダ樹脂として用いた重合体(A−4)の構成単位であるNVF単位の分子模型を図5に示す。
図5において、符号11は炭素原子であり、符号12は酸素原子であり、符号13は窒素原子であり、符号15は水素原子である。また、矢印Xは双極子モーメントの方向を示し、一点鎖線Yは重合体の主鎖を示す。
比較例3においてバインダ樹脂として用いた重合体(A−1)と重合体(A−3)の混合物のうち、重合体(A−3)は、実施例1においてバインダ樹脂として用いた重合体(A−1)と同じ共重合組成である。重合体(A−3)の分子量は重合体(A−1)よりも大きいため、重合体(A−1)を併用しない場合(例えば比較例1)は、導電助剤と相互作用の強い重合体(A−3)が選択的に導電助剤と吸着し、T2−midおよびF−midの値が小さくなったと考えられる。しかし、比較例3のように重合体(A−1)を併用すると、分子量の小さい重合体(A−1)の存在により、導電助剤と吸着している重合体(A−3)の運動性が相乗的に高まったため、結果として、T2−midの値が大きくなったと考えられる。
本発明の非水電解質二次電池電極用スラリー組成物は、本発明の非水電解質二次電池電極用バインダ樹脂を用いて得られるものであり、良好な導電助剤の分散性を有する。そのため本発明の非水電解質二次電池電極用スラリー組成物は導電パスが発達している。また本発明の非水電解質二次電池電極用スラリー組成物を用いることで、集電体上に、均一性等が良好な合剤層が形成された非水電解質二次電池用電極が得られる。
本発明の非水電解質二次電池用電極は、合剤層の均一性等が良好である。そのため該電極を備えた非水電解質二次電池によれば、良好な電池性能が得られる。
12 酸素原子
13 窒素原子
14 ナトリウム原子
15 水素原子
X 双極子モーメントの方向
Y 重合体の主鎖
Claims (6)
- バインダ樹脂、活物質、導電助剤および溶媒を含有する非水電解質二次電池電極用スラリー組成物に、前記バインダ樹脂として用いられる非水電解質二次電池電極用バインダ樹脂であって、
下記条件(i)、(ii)を満たす、非水電解質二次電池電極用バインダ樹脂。
条件(i):当該非水電解質二次電池電極用バインダ樹脂を前記溶媒に溶解して、濃度を3質量%としたバインダ樹脂溶液10gと、前記導電助剤0.5gとを混合した評価用スラリー組成物が、下記式(a)、(b)を満足する。
50msec≦T2−mid≦250msec ・・・(a)
10%≦F−mid≦30% ・・・(b)
(式中、「T2−mid」は30℃におけるパルスNMR(25MHz)で、CPMG(Carr−Purcell Meiboom−Gill)法により得られる自由誘導減衰曲線を3つの緩和曲線の和で近似したときの緩和が2番目に速い緩和曲線由来のスピン−スピン緩和時間であり、「F−mid」は前記T2−midである水素原子の割合である。)
条件(ii):当該非水電解質二次電池電極用バインダ樹脂が、低分子化合物を原料として化学的に合成されたものである。 - ハロゲン元素を含まない、請求項1に記載の非水電解質二次電池電極用バインダ樹脂。
- 請求項1または2に記載の非水電解質二次電池電極用バインダ樹脂、活物質、導電助剤および溶媒を含有する、非水電解質二次電池電極用スラリー組成物。
- 集電体と、該集電体上に設けられた合剤層とを備え、
前記合剤層が、請求項1または2に記載の非水電解質二次電池電極用バインダ樹脂、活物質および導電助剤を含有する、非水電解質二次電池用電極。 - 集電体と、該集電体上に設けられた合剤層とを備え、
前記合剤層が、請求項3に記載の非水電解質二次電池電極用スラリー組成物を集電体に塗工し、乾燥させて得られるものである、非水電解質二次電池用電極。 - 請求項4または5に記載の非水電解質二次電池用電極を備える、非水電解質二次電池。
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