JP6141263B2 - ポリ(アリールケトン)のフィルム及び膜、並びに溶液からそれをキャスティングする方法 - Google Patents

ポリ(アリールケトン)のフィルム及び膜、並びに溶液からそれをキャスティングする方法 Download PDF

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Description

本発明は、ポリ(エーテルケトンケトン)(PEKK)のようなポリ(アリールケトン)のフィルム及び膜、並びに溶媒キャストプロセスを使用してそのフィルム及び膜を作成する方法に関する。
熱可塑性ポリマー、例えばポリ(アリールケトン)は、多くのエンジニアリング用途において幅広い用途を有している。多くの熱可塑性ポリマーがエンジニアリングポリマーとして知られており、それらは各種の出発物質から作成することができる。しかしながら、ポリ(アリールケトン)は、例えばフィルム又は膜に成形するための作業性に難点があるという欠点を有していた。具体的には、多くのポリ(アリールケトン)は、殆どの溶媒に容易には溶解しない。従って、ポリマー溶液(即ちドープ)を形成させたり、意のままに使用したりすることができなかった。そのため、ポリ(アリールケトン)を含むフィルム及び膜を、溶液からキャストするのは容易ではなかった。
本発明は、ポリ(アリールケトン)、例えばポリ(エーテルケトンケトン)(PEKK)のフィルム、膜、及び繊維、並びにそれに付随して、溶媒キャストプロセスを使用することによるそれらを作成するための方法を提供する。具体的には、少なくとも1種のポリ(アリールケトン)を、特定の溶媒又は溶媒系の中で、他の任意の構成成分、例えば他のポリマー、カーボンナノチューブ、着色剤、染料、ポリマー添加剤、及び有機若しくは無機の充填剤と組み合わせて、例えば向上した機械的性質(剛性、耐久性、強度など)、難燃性、及び/又は電気的性質を有する、特化されたフィルム及び膜を製造する。それらの特化されたフィルム及び膜は、エンジニアリング用途、例えば宇宙空間、航空機、エレクトロニクス、ビルディング及び建造物、分離膜、光電池などにおいて、特に好適である。本発明の利点は、ポリ(アリールケトン)で必要とされる溶融加工条件(例えば温度)に耐えることができないような成分/添加剤を、溶媒の沸点より低いか、又は周囲条件で実施することが可能である、本発明の溶媒キャストプロセスの中に組み入れることが可能であるという点にある。
本発明の実施態様においては、フィルム又は膜を製造するための方法には、以下の工程が含まれる:(a)ポリ(アリールケトン)を含む少なくとも1種のポリマーを少なくとも1種の溶媒の中に溶解させて、ドープを形成させる工程;(b)基材の上にそのドープを付着させて、コーティングされた基材を形成させる工程;及び(c)そのコーティングされた基材を乾燥させて、フィルム又は膜を形成させる工程。
本発明のまた別な実施態様においては、フィルム、膜、又は繊維を形成させるために使用されるドープには、少なくとも1種の溶媒の中に、少なくとも部分的にか又は完全に溶解された、少なくとも1種のポリ(アリールケトン)ポリマーが含まれる。そのドープには更に、追加の成分例えば、ポリマー、添加剤(例えば、コア−シェル耐衝撃性改良剤)、充填剤(例えば、カーボンナノチューブ)、及びそれらの混合物が含まれていてもよい。
本発明のまた別な実施態様においては、フィルム又は膜を製造する方法には、以下の工程が含まれる:(a)好適な溶媒系、例えばジクロロ酢酸(DCAA)及び溶媒の全重量を基準にして0〜約70重量パーセントのジクロロメタン(DCM)を含む溶媒の中にポリエーテルケトンケトン(PEKK)を溶解させて、ドープを形成させる工程;(b)そのドープにカーボンナノチューブを添加する工程;(c)基材の上にそのドープを付着させて、コーティングされた基材を形成させる工程;及び(d)そのコーティングされた基材を乾燥させて、フィルム又は膜を形成させる工程。場合によっては、そうして得られたフィルム又は膜に適切な後処理を施して、例えば、結晶化度のような特定の性質を向上させてもよい。
本発明の溶媒系には更に、芳香族溶媒例えば、4−クロロ−2−メチルフェノール(4−Cl−o−クレゾール)、4−クロロ−3−メチルフェノール(4−Cl−m−クレゾール)、3−クロロフェノール、4−クロロ−フェノール、4−メチル−フェノール(p−クレゾール)を含んでいてもよく、更にこれらの溶媒の混合物もまた、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)のための溶媒として使用することができる。
更に、本発明の溶媒には、4−クロロ−フェノールと、溶媒の全重量を基準にして0〜約50重量パーセントの4−クロロ−3−メチルフェノール(4−Cl−m−クレゾール)との混合物を含んでいてもよい。これらの溶媒は、基材の上に満足のいくレベルで付着して、先に述べたようなフィルム及び膜を製造するのに使用することができる。
本発明の溶媒には更に、例えば4−クロロ−フェノール、4−クロロ−3−メチルフェノール(4−Cl−m−クレゾール)及び/又はオルトジクロロベンゼン(ODCB)の混合物を含む、芳香族溶媒からなっていてもよい。本発明の溶媒には、溶媒の全重量を基準にして約5重量パーセント〜約90重量パーセントの4−クロロ−フェノール、0.5〜約10重量パーセントの4−クロロ−3−メチルフェノール(4−Cl−m−クレゾール)、及び0〜約90重量パーセントのオルトジクロロベンゼン(ODCB)の混合物を含んでいてもよい。
本発明の態様には、溶媒キャストプロセスで形成されたポリ(アリールケトン)のフィルム、膜、及び繊維、それらを形成させるためのドープ、並びにそれらを作成するための方法が含まれる。
本明細書で使用するとき、「フィルム(film)」又は「膜(membrane)」という用語は、薄層、スキン、皮膜(covering)、又はコーティングであるが、それらは当業者には周知のものである。フィルム又は膜は、基材に付着していてもよいし、或いは、基材から完全に独立していてもよい。それらのフィルム又は膜は、用途及び使用に合わせて、非多孔質、多孔質、微孔質などであってよい。それらのフィルム及び膜の厚みには制限はなく、各種適切な厚みであればよい。例えば、フィルムが、厚み約1nm(0.001μm)〜1500μmの範囲、例えば、厚み約0.25μm〜約250μmの範囲、より好ましくは、いくつかの用途では、約60μm未満の厚みであってもよい。
本明細書で使用するとき、「ドープ」とは、少なくとも1種の溶媒と、溶解されているポリマー(及びその他の任意の構成成分)を含む溶液である。「ドープ」という用語は、本明細書においては、「溶液」と言い換え可能に使用されていてよい。ドープは、繊維化学においてはよく認識されていて、繊維を製造するための紡糸プロセスにおいて使用されている。従って、本明細書において記載されているドープは、フィルム、膜、又は繊維を形成させるのに使用することができる。溶解されているポリマーは、完全に溶解されていても、或いは部分的に溶解されていてもよい。一つの実施態様においては、そのポリマーが完全に溶解されて、少なくとも1種の溶媒の中に溶解されたポリマー(例えば、溶質)の均質な混合物が形成されている。他の任意の構成成分もまた、完全に溶解されていてもよいし、或いはそうではなくて、部分的に溶解されてドープの中に懸濁されていてもよい。例えば、他の任意の構成成分が、ドープの中の懸濁液を形成していてもよいが、その場合固体の粒子例えばカーボンナノチューブが、懸濁しているか、又はそうでなければ、沈降分離していてもよいし、或いは、ドープの中で濃度が変化していてもよい。
本明細書で使用するとき、それぞれの化合物は、その化学式、化学名、略称などに関して、言い換え可能に論じられていることがある。例えば、PEKKは、ポリ(エーテルケトンケトン)と、言い換え可能に使用することができる。更に、本明細書に記載されているそれぞれの化合物は、特に断らない限り、ホモポリマー及びコポリマーを含んでいる。「コポリマー」という用語は、2種以上の異なったモノマーを含むポリマーを含むことを意味しており、例えば、2種、3種、又は4種の異なった繰り返しモノマー単位を含むポリマーを含むことができる。
特に断らない限り、組成物の構成成分又は成分の値は、その組成物中のそれぞれの成分の重量パーセント又は重量%で表されている。本明細書において提示されるすべての数値は、その数値までが含まれ、与えられた終点も含まれる。
本明細書及び特許請求項で使用するとき、「comprising」及び「including」という用語は、包括的(inclusive)又は開放的(open−ended)であって、引用されていない追加の要素、組成成分、又は方法工程を排除するものではない。従って、「comprising」及び「including」という用語には、より限定的な用語の「consisting essentially of」及び「consisting of」も包含される。
本発明の態様においては、フィルム又は膜を製造するための方法には、以下の工程が含まれる:(a)ポリ(アリールケトン)を含む少なくとも1種のポリマーを少なくとも1種の溶媒の中に溶解させて、ドープを形成させる工程;(b)基材の上にそのドープを付着させて、コーティングされた基材を形成させる工程;及び(c)そのコーティングされた基材を乾燥させて、フィルム又は膜を形成させる工程。
少なくとも1種のポリマーを、少なくとも1種の溶媒の中に溶解させて、ドープを形成させる。ポリマーには、ポリ(アリールケトン)例えば、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)などを含めた熱可塑性ポリマーを含むことができ、それらは、各種の適切な形態であってよい。例えば、そのポリマーが、固体の形態例えば、ペレット、フレーク、粉末、顆粒、チップなどであってもよい。ポリマーの形態には制限はない。異なったポリマーを異なった形態で添加してもよいが、それは当業者なら決めることができるであろう。一つの実施態様においては、そのポリ(アリールケトン)ポリマーを固体の形態で添加する。
そのポリマーは、少なくとも1種のポリ(アリールケトン)を含むか、又はそれからなっている。ポリ(アリールケトン)には、すべてのホモポリマー及びコポリマー(例えばターポリマーも含む)などが包含されているものとする。一つの実施態様においては、そのポリ(アリールケトン)が、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルケトンエーテルケトンケトン(PEKEKK)、及びそれらの混合物からなる群より選択される。
一つの実施態様においては、そのポリ(アリールケトン)に、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)が含まれる。本発明において使用するのに好適なポリエーテルケトンケトンには、次の式I及びIIによって表される繰り返し単位を含んでいるか、又は、それらから実質的になっていてよい:
−A−C(=O)−B−C(=O)− I
−A−C(=O)−D−C(=O)− II
[式中、Aはp,p’−Ph−O−Ph−基であり、Phはフェニレン基であり、Bはp−フェニレンであり、そして、Dはm−フェニレンである]。ポリエーテルケトンケトンの中の式I:式II(T:I)の異性体比は、(100:0)から(0:100)までの範囲とすることができる。所望に応じて、例えばポリエーテルケトンケトンを調製するのに使用する異なったポリマーの相対的な量を変化させることによって、その異性体比を変化させて、ある種の性質の組合せを得ることも容易に可能である。一般的に、式I:式IIの比率が相対的に高いポリエーテルケトンケトンは、式I:式IIの比率が低いポリエーテルケトンケトンよりも、結晶性が高くなるであろう。従って、T:Iの比率を調節して、非晶質(非結晶質)のポリエーテルケトンケトンや、より結晶質の高いポリエーテルケトンケトンを意のままに得ることもできる。一つの実施態様においては、約(50:50)から約(90:10)までのT:I異性体比を有するポリエーテルケトンケトンを採用してもよい。
例えば、すべてパラ−フェニレン結合を有するポリエーテルケトンケトン[PEKK(T)]の化学構造は、式IIIで表すことができる:
主鎖中に一つのメタ−フェニレン結合を有するポリエーテルケトンケトン[PEKK(I)]の化学構造は、式IVで表すことができる:
T異性体とI異性体を交互に有するポリエーテルケトンケトン、例えばT及びIを50%の化学組成で有するホモポリマー[PEKK(T/I)]の化学構造は、式Vで表すことができる:
また別な実施態様においては、そのポリ(アリールケトン)が、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)を含む。本発明において使用するのに好適なポリエーテルエーテルケトンは、式VIで表される繰り返し単位(n≧1)を含むか、又は実質的にそれらからなっているのがよい:
また別な実施態様においては、そのポリ(アリールケトン)が、ポリエーテルケトン(PEK)を含む。本発明において使用するのに好適なポリエーテルケトンは、式VIIで表される繰り返し単位(n≧1)を含むか、又は実質的にそれらからなっているのがよい:
ポリ(アリールケトン)は、当業界では周知の各種適切な方法で調製すればよい。例えば、ポリ(アリールケトン)は、少なくとも1種のビスフェノールと、少なくとも1種のジハロベンゼン系化合物又は少なくとも1種のハロフェノール化合物との実質的に等モルの混合物を加熱することによって形成させることができる。そのポリマーは、非晶質であっても、結晶化していてもよいが、それは、ポリマーの合成で調節することができる。従って、そのポリマー及びそれらから得られるフィルム及び膜は、そのフィルム又は膜の目的とする使用及び工業的用途に応じて、非結晶質から高度に結晶質なものまで広いスペクトルを有していてよい。更に、そのポリマーは、各種適切な分子量であってよく、そして所望によっては、官能化又はスルホン化されていてもよい。一つの実施態様においては、そのポリマーをスルホン化、又は当業者には公知の各種の表面変性例を実施する。
そのドープには、ポリ(アリールケトン)に加えて、他のポリマーが含まれていてもよい。一つの実施態様においては、その他のポリマーが、類似の溶融温度、溶融安定性などを有していて、完全、又は部分的な混和性を示して相互に相溶性がある。具体的には、ポリ(アリールケトン)と機械的な相溶性を示す他のポリマーをその組成物に添加してもよい。しかしながら、そのポリマーが、ポリ(アリールケトン)との相溶性がある必要はなく、ドープの中に容易には溶解しなくてもよい(例えば、その他のポリマーが懸濁液中の充填剤であってもよい)ということも考えられる。その他のポリマーとしては、例えば、以下のものが挙げられる:ポリアミド(例えば、ポリ(ヘキサメチレンアジパミド)又はポリ(ε−カプロアミド));ポリイミド(例えば、ポリエーテルイミド(PEI)、熱可塑性ポリイミド(TPI)、及びポリベンズイミダゾール(PBI));ポリスルホン/スルフィド(例えば、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリフェニレンスルホン(PPSO2)、ポリエーテルスルホン(PES)、及びポリフェニルスルホン(PPSU));ポリ(アリールエーテル);及びポリアクリロニトリル(PAN)。一つの実施態様においては、その他のポリマーには、ポリアミドのポリマー及びコポリマー、ポリイミドのポリマー及びコポリマーなどが含まれる。高温での用途では、ポリアミドポリマーが特に好適となりうる。それら追加のポリマーは、慣用される方法で、ポリ(アリールケトン)とブレンドすればよい。
ポリマーは、少なくとも1種の溶媒の中に溶解させる。通常は、多くの、又は殆どのポリ(アリールケトン)は殆どの溶媒には溶解せず、以前から、ポリ(アリールケトン)を溶液又はドープにするのは極めて困難であった。本発明においては、ある種の溶媒又は溶媒系が、ポリ(アリールケトン)ポリマーを溶解させてドープを形成させるには特に有効で、好適であるということが発見されたが、より詳しくは、ある種の用途のための改良された性質を有する、特化されたフィルム、膜、及び繊維を形成させるのに特に有用であることが見出された。
その溶媒は、ポリマー(例えば、ポリ(アリールケトン))を効果的に溶解させる、各種適切な溶媒又は溶媒系から選択すればよい。一つの実施態様においては、その溶媒及びポリマーを、それらの間での反応がまったく無いか、又は最小限になるように選択する。例えば、有用な溶媒としては、一つ又は複数の極性官能基例えば、ケトン、スルホン、ヒドロキシル、エステル、ハロ又はアミノ基を含む有機化合物が挙げられるが、それには、約175℃〜約380℃の沸点を有する溶媒(例えば、芳香族又は多核芳香族成分を有する有機化合物)が含まれる。好適な溶媒としては、以下のものが挙げられる(これらに限定される訳ではない):ベンゾフェノン、α−クロロナフタレン、ジフェニルスルホン、2−フェニルフェノール、p−メトキシフェノール、2−メトキシナフタレン、エチル−4−ヒドロキシ安息香酸エステル、N−シクロヘキシル−2−ピロリドン、ペンタフルオロフェノール、フタル酸ジメチル、若しくは安息香酸フェニル、又はそれらの混合物。
本発明の一つの実施態様においては、その少なくとも1種の溶媒が、ハロゲン化有機化合物(HOC)例えば、塩素、臭素、ヨウ素、又はフッ素を含む有機酸を含む。より好ましくは、その少なくとも1種の溶媒が、塩素、臭素、ヨウ素、及び/又はフッ素を含むハロゲン化有機酸(例えば、カルボン酸(例えば、酢酸)及び有機スルホン酸)を含む。一つの実施態様においては、その溶媒が、ハロゲン化有機酸例えば、モノクロロ酢酸、ジクロロ酢酸、トリクロロ酢酸、テトラクロロフタル酸、トリフルオロ酢酸、又はそれらの混合物を含む。そのハロゲン化有機酸は、場合によっては、他の有機溶媒例えば、ジクロロメタン、トルエン、ジクロロエタン、若しくは酢酸エチル、又はそれらの混合物と組み合わせてもよい。他の実施態様においては、そのハロゲン化有機酸が、塩素化有機酸であって、例えば場合によっては、その他の有機溶媒例えば、ジクロロメタン、トルエン、ジクロロエタン、トリフルオロ酢酸若しくは酢酸エチル、又はそれらの混合物と組み合わせてもよい。具体的には、ある種の有効な溶媒は250℃以下の大気圧における沸点を有しているということが見出された。
一つの実施態様においては、その少なくとも1種の溶媒が、ハロゲン化有機酸を含む。より好ましくは、その溶媒が、約1〜約3のpKaを有するハロゲン化有機酸を含んでいるのがよい。更に、ポリマーを効果的に溶解させるのに有用な酸は、標準的な有機酸よりも低いpKa、及び/又は高い誘電率を示すことが見出されたが、このことは、選択されたポリマーを溶解させるときの、溶媒の有効性に帰することができる。
一つの実施態様においては、その溶媒が、ジクロロ酢酸(DCAA)及びジクロロメタン(DCM)の少なくとも一方を含む。従って、その溶媒には、溶媒の混合物、例えばジクロロ酢酸(DCAA)とジクロロメタン(DCM)との混合物が含まれていてよい。一つの実施態様においては、その溶媒が、溶媒の全重量を基準にして、約30重量パーセント〜約100重量パーセントのジクロロ酢酸(DCAA)と、0〜約70重量パーセントのジクロロメタン(DCM)とを含む。
一つの実施態様においては、その溶媒が、少なくとも1種の芳香族溶媒例えば、4−クロロ−2−メチルフェノール(4−Cl−o−クレゾール)、4−クロロ−3−メチルフェノール(4−Cl−m−クレゾール)、3−クロロフェノール、4−クロロ−フェノール、4−メチル−フェノール(p−クレゾール)を含む。従って、その溶媒には、それらの溶媒の混合物、例えば、4−クロロ−フェノールと4−クロロ−3−メチルフェノール(4−Cl−m−クレゾール)との混合物が含まれていてもよい。一つの実施態様においては、その溶媒が、溶媒の全重量を基準にして、約50重量パーセント〜約100重量パーセントの4−クロロ−フェノールと、0〜約50重量パーセントの4−クロロ−3−メチルフェノール(4−Cl−m−クレゾール)を含んでいる。
一つの実施態様においては、その溶媒が、芳香族溶媒例えば、4−クロロ−2−メチルフェノール(4−Cl−o−クレゾール)、4−クロロ−3−メチルフェノール(4−Cl−m−クレゾール)、3−クロロフェノール、4−クロロ−フェノール、4−メチル−フェノール(p−クレゾール)、及びオルトジクロロベンゼン(ODCB)の混合物を含む。従って、その溶媒には、それらの溶媒の混合物、例えば、4−クロロ−フェノール、4−クロロ−3−メチルフェノール(4−Cl−m−クレゾール)、及びオルトジクロロベンゼン(ODCB)の混合物が含まれていてもよい。一つの実施態様においては、その溶媒が、溶媒の全重量を基準にして、約5重量パーセント〜約90重量パーセントの4−クロロ−フェノール、0.5〜約10重量パーセントの4−クロロ−3−メチルフェノール(4−Cl−m−クレゾール)、及び0〜約90重量パーセントのオルトジクロロベンゼン(ODCB)を含む。
ドープには更に、例えば以下のような追加の成分が含まれていてもよい:追加のポリマー;添加剤例えば、コア−シェル耐衝撃性改良剤;充填剤若しくは補強剤例えば、ガラス繊維;炭素繊維;可塑剤;顔料若しくは染料;熱安定剤;紫外光安定剤若しくは吸収剤;抗酸化剤;加工助剤若しくは潤滑剤;難燃化相乗剤例えば、Sb23、ホウ酸亜鉛など;又はそれらの混合物。これらの成分は、場合によっては、ドープ組成物の全重量を基準にして、例えば約0.1重量パーセント〜約70重量パーセントの量で存在させるのがよい。先に説明したように、ドープには追加のポリマーが含まれていてもよい。その追加のポリマーは、ドープの中に溶解されていてもよいし、或いは、ドープの中には溶解しない固体粒子であるように選択してもよい。
そのドープには更に、例えばコア−シェル耐衝撃性改良剤のような添加剤を含んでいてもよい。それらの添加剤は、場合によっては、ドープ組成物の全重量を基準にして約2重量パーセント〜約40重量パーセントの量で存在させてもよい。コア−シェル耐衝撃性改良剤には、多層ポリマー及び少なくとも1種の硬質のブロックと少なくとも1種の軟質のブロックを有するブロックコポリマー(例えば、軟質のゴム即ちエラストマー性のコアと硬質のシェル、又は軟質のエラストマー層で被覆された硬質のコアと硬質のシェル)が含まれていてよい。例えば、その軟質のブロック又はゴム層は、低ガラス転移(Tg)のポリマー、例えば以下のようなものからなっていてよい:アクリル酸ブチル(BA)、アクリル酸エチルヘキシル(EHA)、ブタジエン(BD)、BD/スチレン、アクリル酸ブチル/スチレンなど、又はそれらの組合せのポリマー。硬質のブロック又は層は、各種適切なポリマー、例えば以下のようなものからなっていてよい:メタクリル酸メチル(MMA)、アクリル酸エチル(EA)、メタクリル酸アリル、スチレン、又はそれらの組合せのポリマー。コア−シェル耐衝撃性改良剤は、各種適切なサイズと形状であってよい。例えば、その粒子が、約2nm〜約700nmの範囲の粒径を有していてよい。
好適な充填剤としては、繊維、粉体、フレークなどが挙げられる。例えば、充填剤としては、カーボンナノチューブ、炭素繊維、ガラス繊維、ポリアミド繊維、ヒドロキシアパタイト、酸化アルミニウム、酸化チタン、窒化アルミニウム、シリカ、アルミナ、硫酸バリウムなどの内の少なくとも一つが挙げられる。それら充填剤のサイズと形状についても、特別な制限はない。そのような充填剤は、場合によっては、約10重量パーセント〜約70重量パーセントの量で存在させてもよい。
一つの実施態様においては、そのドープにカーボンナノチューブ(CNT)が含まれる。カーボンナノチューブは、円筒状のナノ構造を有する炭素の同素体である。ナノチューブは、シングルウォール若しくはマルチウォールであっても、官能化されていても、コーティングされていても、或いは各種適切な方法で変性されていてもよい。更に、そのナノチューブは、得られるフィルム及び膜で望まれている性質のために必要な、各種適切な長さ対直径の比率を有していてよい。ドープ組成物には、その用途において好適な、各種適切な量のカーボンナノチューブを含んでいてよい。例えば、そのドープに、トレース量から最高で約45重量パーセントまでのカーボンナノチューブ、例えば約0.5重量パーセント〜約20重量パーセントのカーボンナノチューブが含まれていてよい。例えばドープのマスターバッチに、約20重量パーセント〜約30重量パーセントのカーボンナノチューブが含まれていてよい。カーボンナノチューブのような充填剤を含ませることによって、所望の末端用途に合わせて、得られるフィルム又は膜の導電性を調節したり選択したりすることができる。従って、本明細書に記載されたドープから、向上した機械的性質に加えて、例えばエレクトロニクス又は光電池用途のためのある種の電気的性質を有するフィルム又は膜を形成させることが可能である。
また別な実施態様においては、フィルム又は膜を形成させるために使用するドープに、溶媒(例えばハロゲン化有機酸)の中に少なくとも部分的にか又は完全に溶解された、ポリ(アリールケトン)ポリマー、例えばPEKKが含まれる。一つの実施態様においては、そのドープには更に、カーボンナノチューブが含まれる。
そのドープは、追加の成分を存在させるか否かに関わらず、各種の慣用される混合方法又は撹拌方法によって調製することができる。例えば、好適な方法には、固体のポリ(アリールケトン)ポリマーを溶媒と室温又はそれ以上で混合し、ポリマーを溶解させて、ドープを形成させ、そして場合によっては、そのドープに充填剤例えばカーボンナノチューブを添加、混合することが含まれる。各種適切な時点で、ドープに追加の成分を添加してもよい。例えばポリマーを溶媒に添加するときに、追加の成分を添加してもよい。別な方法として、ドープが形成される前、又は後にそれら追加の成分を添加してもよい。
一つの実施態様においては、ポリマーを、周囲温度/室温又はそれより高い温度(例えば、約20℃〜約27℃、又は標準条件の約25℃)で溶解させる。そのポリマー/溶媒混合物を加熱して、その溶媒を蒸発させる必要はない。ポリマー及びその他の追加の成分の濃度は、ドープを形成させるための溶液に適切な粘度を与えるように選択するべきである。例えば、ポリマーを、ドープ組成物の中に、約0.1重量パーセント〜約50重量パーセントの範囲の量で存在させてもよい。当業者であれば、その溶液を加工するための適切粘度を選択したり、維持したりすることは可能である。
また別な実施態様においては、その溶媒が、少なくとも1種の芳香族溶媒例えば、4−クロロ−2−メチルフェノール(4−Cl−o−クレゾール)、4−クロロ−3−メチルフェノール(4−Cl−m−クレゾール)、3−クロロフェノール、4−クロロ−フェノール、4−メチル−フェノール(p−クレゾール)を含んでいる場合には、そのポリマーを、周囲温度/室温(例えば、約20℃〜約27℃又は標準条件の約25℃)及び高温(例えば、約75℃〜約85℃、又はより高い温度の約145℃〜約155℃)で溶解させる。ポリマー及びその他の追加の成分の濃度は、ドープを形成させるための溶液に適切な粘度を与えるように選択するべきである。例えば、ポリマーを、ドープ組成物の中に、約0.1重量パーセント〜約50重量パーセントの範囲の量で存在させてもよい。
また別な実施態様においては、その溶媒が、芳香族溶媒例えば、4−クロロ−2−メチルフェノール(4−Cl−o−クレゾール)、4−クロロ−3−メチルフェノール(4−Cl−m−クレゾール)、3−クロロフェノール、4−クロロ−フェノール、4−メチル−フェノール(p−クレゾール)の混合物を含んでいる場合には、そのポリマーを、周囲温度/室温(例えば、約20℃〜約27℃又は標準条件の約25℃)及び高温(例えば、約75℃〜約85℃、又はより高い温度の約145℃〜約155℃)で溶解させる。この実施態様においては、その溶媒が、4−クロロ−フェノールと4−クロロ−3−メチルフェノール(4−Cl−m−クレゾール)との混合物、例えば、溶媒の全重量を基準にして約50重量パーセント〜約100重量パーセントの4−クロロ−フェノールと、0〜約50重量パーセントの4−クロロ−3−メチルフェノール(4−Cl−m−クレゾール)とを含んでいてもよい。ポリマー及びその他の追加の成分の濃度は、ドープを形成させるための溶液に適切な粘度を与えるように選択するべきである。例えば、ポリマーを、ドープ組成物の中に、約0.1重量パーセント〜約50重量パーセントの範囲の量で存在させてもよい。
また別な実施態様においては、その溶媒が、芳香族溶媒例えば、4−クロロ−2−メチルフェノール(4−Cl−o−クレゾール)、4−クロロ−3−メチルフェノール(4−Cl−m−クレゾール)、3−クロロフェノール、4−クロロ−フェノール、4−メチル−フェノール(p−クレゾール)及びオルトジクロロベンゼン(ODCB)の混合物を含んでいる場合には、そのポリマーを、周囲温度/室温(例えば、約20℃〜約27℃又は標準条件の約25℃)及び高温(例えば、約75℃〜約85℃、又はより高い温度の約145℃〜約155℃)で溶解させる。この実施態様においては、その溶媒が、4−クロロ−フェノール、4−クロロ−3−メチルフェノール(4−Cl−m−クレゾール)及びオルトジクロロベンゼン(ODCB)の混合物、例えば、溶媒の全重量を基準にして、約5重量パーセント〜約90重量パーセントの4−クロロ−フェノール、0.5〜約10重量パーセントの4−クロロ−3−メチルフェノール(4−Cl−m−クレゾール)、及び0〜約90重量パーセントのオルトジクロロベンゼン(ODCB)の混合物からなっていてよい。ポリマー及びその他の追加の成分の濃度は、ドープを形成させるための溶液に適切な粘度を与えるように選択するべきである。例えば、ポリマーを、ドープ組成物の中に、約0.1重量パーセント〜約50重量パーセントの範囲の量で存在させてもよい。
当業者であれば、その溶液を加工するための適切粘度を選択したり、維持したりすることは可能である。
ドープは、基材の上に付着させるか、又は基材に適用して、コーティングされた基材を形成させる。そのコーティングは、基材全体の上か、又は基材の一部に実質的に均質に適用するのがよい。そのコーティングは、当業界では公知の各種適切な装置及び技術を使用して適用することができる。例えば、溶媒キャストプロセスを採用してもよいが、その場合、ドープを基材の上に、以下のような方法を用いてキャストする:コーティングローラー法、スプレーノズル法、フローコーティング法、浸漬法、静電塗装法、機械的塗装法など。
本明細書で使用するとき、「基材」とは、本発明のドープを適用する、各種の表面を指している。所望の用途、例えばフィルム、フォイルなどに応じて、各種適切な基材を選択すればよい。好適な基材としては、例えば以下のものが挙げられるが、これらに限定される訳ではない:ガラス、ポリマーフィルム、金属のシート(例えば、アルミニウム、チタン、及びステンレス鋼)、シリコンウェーハ、紙、プラスチック、木材、石材など。プラスチック基材としては、例えば以下のものが挙げられる:ポリアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン、ポリアクリロニトリル−スチレン−アクリル、ポリカーボネート/ポリアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン、耐衝撃性ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、熱可塑性オレフィン、ポリオレフィン、ポリスチレン、ポリスチレン−アクリロニトリル、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、及びグリコール化ポリエステル。その基材は、単層であってもよいし、或いは、それ自体に複数の層(例えば、多層又は積層)を有していてもよい。その基材の表面は、平滑面であっても、粗面であってよい。
ドープは、基材の上に保護フィルム又はバリヤを形成するのがよいが、そこで、フィルムと基材(例えば、ガラス、シリコンウェーハなど)との間になにがしかの接着性が存在しているのが望ましい。ドープを基材に接着させるための、好適な接着剤又はカップリング剤を使用してもよい。別な方法として、次いで、基材からコーティングを剥離させてもよい。その場合においては、基材(例えば、KEVLAR(商標)、TEFLON(登録商標)、アルミニウム、コーティング紙など)からそのフィルム又は膜をある程度剥離できる(又は最小限の接着性である)のが望ましいであろう。一つの実施態様においては、そのフィルム/膜が形成されるか及び/又は硬化されるまでは、そのフィルム又は膜が基材から剥離又は除去されない。
そのコーティングされた基材を乾燥させて、フィルム又は膜を形成させる。そのコーティングされた基材は、当業界では公知の各種適切な装置又は方法、例えば単一段及び多段の乾燥プロセスを使用して乾燥させればよい。例えば、コーティングされた基材を、室温(例えば、約20℃〜約27℃又は標準条件の約25℃)又はそれ以上の温度で乾燥させる。一つの実施態様においては、コーティングされた基材を、ドープの中の最も高い沸点を有する溶媒の沸点よりは低い温度で乾燥させる。乾燥条件によって、非多孔質、多孔質、微孔質などのフィルム又は膜を得ることができる。一つの実施態様においては、そのフィルム又は膜が非多孔質である。更に、加工条件及び用途によっては、より高い沸点の溶媒を、より低い沸点の溶媒で洗い出して、より容易な乾燥/加工条件を得るのが望ましいこともあり得る。
フィルム又は膜は、所望する用途に合わせて、各種適切な厚みに形成してもよい。より厚いフィルム又は膜が必要ならば、ポリマーの濃度を上げればよい。更に、基材の上に、ドープの少なくとも1回の追加のコーティングを適用して、所望の厚みを達成してもよい(即ち、そのフィルム又は膜が、単一層からなるか、又は多層(例えば、多層又は積層)からなるようにしてもよい)。その追加のコーティングは、同一のドープ組成物であっても、或いは異なったドープ組成物(例えば、別のポリマー及び/又は溶媒系を含む)であってもよい。追加の(1回又は複数回の)コーティングは、各種適切なタイミングで、例えば、最初のコーティングが少なくとも部分的又は全面的に乾燥してから、適用すればよい。例えば、フィルム又は膜の合計した厚みは、約1nm〜約1500μmの範囲であればよい。
場合によっては、そのようにして得られたフィルム又は膜を更に、当業者には公知の適切な後処理にかけてもよい。例えば、加熱、延伸、又は溶媒抽出のような後処理を使用して、そのフィルム、膜、又は繊維に特定な性質、例えばポリマーのモルホロジー又は結晶化度を向上させてもよい。
基材が必要とされないような用途では、コーティング(1種又は複数)が完全に、又は少なくとも部分的に乾燥してから、そのフィルム又は膜からその基材を除去してもよい。その基材又はフィルム若しくは膜は、当業界では公知の各種適切な装置及び方法を使用して、全面的又は部分的に除去すればよい。例えば、基材を加熱して、フィルムを除去してもよいし、或いは基材から機械的にフィルム又は膜を分離させてもよい。それらに加えるか、又はそれらに代えて、基材を当業者には公知の適切な液体の中に浸漬させて、フィルム又は膜を除去させてもよい。
フィルム又は膜を生成させている途中、又は生成させた後に、スクリム又は補強構造を適用して、更なる強度、剛性などを付与するということもまた考えられる。例えば、ドープの二つの層の間にスクリム要素を挟み込むか、又はスクリムの周囲及び内部にドープが流れ込むようにして、強化されたフィルム又は膜を形成させてもよい。好適なスクリム要素又は網状要素は当業界では周知であり、アクリル系若しくはポリプロピレンのようなプラスチック、又はガラス布若しくはポリエステル布のような不織布を挙げることができる。
一つの実施態様においては、フィルム又は膜を製造するための方法には、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)を、ジクロロ酢酸(DCAA)及び溶媒の全重量を基準にして0〜約70重量パーセントのジクロロメタン(DCM)を含む溶媒の中に溶解させたドープを形成させる工程;そのドープにカーボンナノチューブを添加する工程;基材の上にそのドープを付着させて、コーティングされた基材を形成させる工程;及びそのコーティングされた基材を乾燥させて、フィルム又は膜を形成させる工程、が含まれる。
本明細書に記載された、特化されたフィルム及び膜は、各種適切な目的に使用することができる。例えば、可能性のある用途としては、以下のものが挙げられるが、これらに限定される訳ではない:宇宙空間、航空機、エレクトロニクス、ビルディング及び建造物、分離膜、光電池など。フィルム又は膜の具体的な使用には、特に制限はない。
本明細書に記載された特化されたフィルム及び膜は、改良された性質を与えることが見出された。具体的には、それらのフィルム及び膜は、靱性、剛性、耐久性、及び強度など、良好な機械的性質を有している。それらのフィルム及び膜は更に、良好な難燃性(例えば、UL格付けで定義される)も示す。更に、それらのフィルム及び膜は、所望により、所定の電気的性質(例えば導電性)が得られるように形成させることもできる。
本明細書に記載されたドープを使用して、繊維を形成させることもできる。例えば紡糸プロセスのような、当業者には公知の各種適切な技術又は方法を使用して、繊維を製造することができる。例えば、紡糸口金を通過させてドープを凝固浴の中に押し込む、ラム押出しプロセスを使用して、繊維を押出加工してもよい。静電紡糸法を採用してもよい。
本発明のある種の実施態様について、本明細書において示し、記載してきたが、そのような実施態様は、本発明の精神から外れることなく、単に例示として提供されたものであるということは理解されるであろう。従って、添付の特許請求項では、そのような変動のすべてを本発明の精神と範囲の内に包含することが意図されている。当業者ならば、多くの変法、変更、及び置換えが心に浮かぶであろう。
実施例1:DCM/DCAA溶媒混合物からのPEKKフィルム
500mgのポリエーテルケトンケトン(PEKK SP)フレークをフラスコに入れた。5mLのジクロロメタン(DCM)及び2mLのジクロロ酢酸(DCAA)を添加して、30/70の容量%(v/v%)のDCAA/DCM溶液を得た。DCMの密度が1.32g/mL、DCAAの密度が1.563g/mLであることを考え合わせると、その系の固形分濃度は約5%であった。周囲条件でPEKKのフレークが完全に溶解するのが観察され、PEKKポリマーの溶解は即座であった。次いで、そうして得られた溶液をガラススライドの上に注ぎ、室温で一夜乾燥させた。このプロセスで、PEKKフィルムが得られた。穏やかに加熱(50℃)することによる、更なる乾燥を採用して、残存溶媒(DCAA)の除去を容易とすることもできる。
実施例2:DCM/DCAA溶媒混合物からのPEKK/MWCNT複合材料フィルム
500mgのポリエーテルケトンケトン(PEKK SP)フレークをフラスコに入れた。4.5mLのジクロロメタン(DCM)及び2mLのジクロロ酢酸(DCAA)と共に、0.5mLのMWCNT水溶液を添加した。実施例1と同様に、周囲条件でPEKKのフレークが完全に溶解するのが観察され、PEKKポリマーの溶解は即座であった。次いで、そうして得られた溶液をガラススライドの上に注ぎ、室温で一夜乾燥させた。穏やかな加熱(50℃)を採用して残存溶媒(DCAA)を蒸発させ、得られたPEKKフィルムを回収した。
実施例3:4−クロロ−フェノール/4−クロロ−3−メチルフェノール(4−Cl−m−クレゾール)混合物からのPEKKフィルム
90重量パーセントの4−クロロ−フェノール及び10重量パーセントの4−クロロ−3−メチルフェノール(4−Cl−m−クレゾール)を含む溶媒混合物の30〜40gを、徐々に加熱して130℃とした。この溶液に、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)フレーク(Arkemaから入手、ロットP1011004)を、所定の温度で飽和が観察されるまで、徐々に添加した。予想したとおりに、より高い温度では、溶解させることが可能なPEKKの合計量が多くなった。約125℃で得られた飽和溶液には、約11.2重量パーセントのPEKKが含まれていた。そうして得られた溶液を徐々に冷却してから、50〜60℃の範囲の温度のところで、ガラス基材の上に注いだ。次いでそのガラス基材を、エタノール/水(50/50)浴の溶液の中に入れ、PEKKフィルムが容易に剥離されるようにした。ガラス基材から剥離してから、そうして得られたフィルムを次いで、フレッシュなエタノール/水(50/50)の溶液の中で洗浄し、周囲条件で放置乾燥させる。そうして得られたフィルムは、50〜100ミクロンの範囲の厚みを有していて、白色を呈した。
実施例4:芳香族溶媒中におけるPEKKの溶解性の実験
PEKKのフィルム及び膜を調製するための、市販されている芳香族溶媒の使用の可能性を理解する目的で、各種の溶媒中におけるPEKKの溶解性を測定した。すべての場合において、その手順には、100mLのエルレンマイヤーフラスコに、所望の溶媒20gを加えることが含まれていた。次いでそのフラスコを徐々に加熱して所定の温度(70℃又は150℃)とし、この系に30%のポリエーテルケトンケトン(PEKK CE、Arkema製、ロット:P1101003)の溶液を徐々に添加して、所定の温度における飽和溶液が得られるようにした。試験をしたそれぞれの芳香族溶媒の溶解度(重量パーセント)を、室温におけるその溶液の性質と共に、以下の表に示す。
実施例5:芳香族溶媒混合物中におけるPEKKの溶解性の実験
実施例4と同様にして、PEKKのフィルム及び膜を調製するための、市販されている芳香族溶媒の混合物の使用の可能性を理解する目的で、各種の溶媒混合物中におけるPEKKの溶解性を測定した。実施例4の場合のように、その手順には、100mLのエルレンマイヤーフラスコに、所望の溶媒20gを加えることが含まれていた。次いでそのフラスコを徐々に加熱して所定の温度(80℃又は150℃)とし、この系に30%のポリエーテルケトンケトン(PEKK CE、Arkema製、ロット:AOR1889.511)の溶液を徐々に添加して、所定の温度における飽和溶液が得られるようにした。試験をしたそれぞれの芳香族溶媒混合物の溶解度(重量パーセント)を、室温におけるその溶液の性質と共に、以下の表に示す。

Claims (13)

  1. 溶媒キャストプロセスを使用してフィルム又は膜を製造する方法であって、次の工程:
    ポリ(アリールケトン)を含む少なくとも1種のポリマーを溶媒に溶解させて、ドープを形成させ、ここで、前記ポリ(アリールケトン)がポリエーテルケトンケトン(PEKK)であり、前記溶媒は、互いに異なる2つの溶媒(A)及び(B)の混合物であり、それぞれ大気圧で250℃以下の沸点を有し、ここで前記(A)は1〜3のpKaを有するハロゲン化有機酸よりなる群から選択され、かつ、前記(B)はジクロロメタン(DCM)、トルエン、ジクロロエタン、酢酸エチル及びそれらの混合物よりなる群から選択され、或いは前記(A)は塩素化有機酸であり、かつ、前記(B)はジクロロメタン(DCM)、トルエン、ジクロロエタン、酢酸エチル、トリフルオロ酢酸及びそれらの混合物よりなる群から選択され
    基材の上に前記ドープを付着させて、コーティングされた基材を形成させ;及び
    前記コーティングされた基材を乾燥させて、前記フィルム又は膜を形成させること、
    を含む、前記方法。
  2. 前記少なくとも1種の溶媒(A)が1〜3のpKaを有するハロゲン化有機酸であり、かつ、モノクロロ酢酸、ジクロロ酢酸、トリクロロ酢酸、テトラクロロフタル酸、若しくはトリフルオロ酢酸及びそれらの混合物の少なくとも一つから選択される、請求項1に記載のフィルム又は膜を製造する方法。
  3. 前記少なくとも1種の溶媒(A)が塩素化有機酸である、請求項1に記載のフィルム又は膜を製造する方法。
  4. 前記少なくとも1種の溶媒(A)がジクロロ酢酸(DCAA)であり、前記少なくとも1種の溶媒(B)がジクロロメタン(DCM)である、請求項1に記載のフィルム又は膜を製造する方法。
  5. 前記少なくとも1種の溶媒(B)がジクロロメタン(DCM)を含む、請求項1に記載のフィルム又は膜を製造する方法。
  6. 前記溶媒が、ジクロロ酢酸(DCAA)とジクロロメタン(DCM)との混合物を含む、請求項1に記載のフィルム又は膜を製造する方法。
  7. 前記ドープが、追加のポリマー、添加剤、充填剤、及びそれらの混合物からなる群より選択される追加の成分を含む、請求項1に記載のフィルム又は膜を製造する方法。
  8. 前記ドープがカーボンナノチューブを含む、請求項1に記載のフィルム又は膜を製造する方法。
  9. 前記ドープが、最高で45重量%までのカーボンナノチューブを含む、請求項に記載のフィルム又は膜を製造する方法。
  10. 前記少なくとも1種のポリマーがPEKKを含み、そして前記ドープがカーボンナノチューブを含む、請求項1に記載のフィルム又は膜を製造する方法。
  11. 前記基材が、ガラス、ポリマーフィルム、金属シート、及びシリコンウェーハからなる群より選択される、請求項1に記載のフィルム又は膜を製造する方法。
  12. 前記少なくとも1種のポリマーを室温以上の温度で溶解させ、そして前記コーティングされた基材を室温以上の温度で乾燥させる、請求項に記載のフィルム又は膜を製造する方法。
  13. 前記コーティングされた基材を、前記ドープの中の最も高い沸点を有する溶媒の沸点よりは低い温度で乾燥させる、請求項に記載のフィルム又は膜を製造する方法。
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