動植物の飼育施設は、さまざまな分野で用いられている。具体的に挙げると、動物の場合、動物園、昆虫館、植物園、養鶏場、養豚場、牛舎、搾乳場、牧場、水族館、ペットショップ、養殖場等の場所が挙げられる。これらの場所で使用される施設は、棒状、網目状、又は板状からなる金属製の構造体によって四方を囲むことにより形成され、その内部空間(飼育室)に動物を入れて飼育するものである。
植物の場合、農場、キノコ養殖場等の場所が挙げられ、これらの場所で使用される施設は、ビニールハウス等の樹脂を用いた温室が例示される。
これら各種の動植物の飼育施設において重要なのは、衛生面での管理である。その衛生面の管理は、大きく3つの観点より考慮する必要がある。それを以下に示す。
(1)第1の観点は、動植物自体に対しての影響を考慮する必要がある。衛生面の管理が不十分であれば、動植物が、飼育室内の空間に浮遊するウイルスやカビ菌や浮遊菌やアレルゲン成分に感染してしまうおそれがある。たとえば、養鶏場や養豚場の飼育施設を考えた場合、飼育室内の鶏や豚が一斉にウイルス等に感染して死亡すれば、コスト的な被害は莫大なものとなる。また、感染した動物は経済動物としての意義を失い、例えばその養鶏場や養豚場内の鶏や豚を全て焼却処分するといった処置を行なわなければならず、コスト的な損失が大きいものとなる。また、動物園や水族館や植物園等における鑑賞用の動植物の飼育施設においても、特殊な品種の希少動植物を飼育している場合は、空間に浮遊するウイルスやカビ菌や浮遊菌やアレルゲン成分により感染してしまった場合の対症療法がなく、適切な処置を行なう事ができないという場合がある。
(2)第2の観点は、動植物の飼育施設に関与する人間に対する影響を考える必要がある。施設内の動植物を飼育する業務に携わっている人間や、あるいは、鑑賞用の動植物の飼育施設内の動植物を見学している人間が、施設空間に浮遊するウイルスやカビ菌や浮遊菌やアレルゲン成分に感染するという可能性がある。また、動植物からの体臭や糞便などの臭気により、人間が極めて不快な思いにいたるという問題も有る。動植物が存在する内部空間の空気が外部空間に漏れ出し、それが臭気となって漂うことも考えられる。
(3)第3の観点は、その飼育施設の設置されている地域環境への影響を考慮する必要がある。動植物の飼育施設の内部空間の空気が外部空間に放出されると、地域の人間が不快と感じる臭気が放出されることがある。また、動植物に起因するウイルスやカビ菌や浮遊菌やアレルゲン成分が放出される可能性がある。施設周辺の無関係の環境に影響を与えるおそれがある。
以上、(1)〜(3)に記したように、動植物の飼育施設においては、衛生面での管理が極めて重要であることが分かる。もちろん、これらの動植物の飼育施設においては、従来より衛生面の対策は十分にとられているが、それでも完全とはいえず、動植物からの伝染に起因する病気に感染する事例が報告されている。
そこで上記(1)〜(3)の課題を解決するために、現在、動植物の飼育施設の衛生面において行われている対策としては、次のような手法が挙げられる。
(ア)飼育施設内の洗浄処理を行なう方法が挙げられる。施設の内部空間に存在する動植物の糞尿等の汚物の洗浄を頻繁に行なう。あるいは、施設内の備品を頻繁に洗浄するといった方法が挙げられる。
(イ)飼育施設内の備品について、頻繁な交換を行うという方法が挙げられる。たとえば、施設内の動植物に与える、飼料や飲料水を頻繁に交換するといった方法が挙げられる。
(ウ)飼育施設内の動植物自体の衛生状態の改善という手法が考えられる。たとえば、生産・飼育施設の内部空間に存在する動植物の体表面を洗う事により、動植物の皮膚や羽毛やウロコに付着した汚れを取り除くといった方法である。
(エ)飼育施設内の空気を清浄化するという方法が考えられる。たとえば、公知の空気清浄機に用いられているような活性炭等を用いたフィルターを用いて、施設内空気を循環させることにより、活性炭にウイルスやカビ菌や浮遊菌やアレルゲン成分や臭気成分を吸着して除去しようとするものである。
これらの各手法を用いて、飼育施設の衛生面の管理が行なわれている。しかし、これらの(ア)〜(エ)に記した衛生面の対策方法というものは、いずれも、時間とともに刻々と増加するウイルスやカビ菌や浮遊菌の増加を抑制するというよりは、むしろ、増加したウイルスやカビ菌や浮遊菌やアレルゲン成分を除去するといった意味合いが強いものであった。また、動物や植物により発生する臭気についても、生産・飼育空間に漂っているものを順に取り除いていくだけのものであり、いわば受動的な手法であるといえるものであった。したがって、これらの手法は、いったん実施処理したとしても、すぐにウイルスやカビ菌や浮遊菌やアレルゲン成分や臭気が増加するので、一定時間が経過すれば、同様の作業をルーチン的に繰り返さなければならなくなるといった問題があった。このようにルーチン的に繰り返す業務は多大の労力が必要であり、動物の飼育・生産に対するコストの増加につながるものである。
もちろん、コストの増加を抑制する方法として、上記(ア)〜(エ)の各種方法については、専用の設備や装置を用いた自動化による方法も考えられる。しかし、設備自体の信頼性や突然のアクシデント等を考慮すれば、機械による完全自動化は困難な場合があり、あわせて、定期的に人間による管理(メンテナンス)の必要がある。その際に、その業務を担当する人間が、ウイルスやカビ菌や浮遊菌やアレルゲン成分により感染するといった影響を受けてしまう可能性もある。
さらに、上述のような、受動的な衛生設備を有する従来方式の飼育施設においては、空気を清浄状態とするためにフィルターを用いる技術によって、クリーンな状態に保たれている。しかし、この方法は、フィルターの定期的な交換や清掃が必要である。
そこで、これらの課題を解決する方法として、従来のように受動的なフィルターや洗浄といった方法を用いるのではなく、何らかの有効な成分を含むガス(活性化ガス)を放出するという方法が用いられている。生産・飼育施設に有効成分を含むガスを放出することにより、効果を得るという方法である。ここで記す活性化ガスとは、ガスの含有成分として、オゾンか、もしくはイオン等を含むものを用いることを特徴とするものである。以下に従来例を記す。
(1)活性化ガスがオゾンを含有する場合(オゾンが最も作用を及ぼす場合)
例えば、特許文献1(特開平10−113097号公報)や特許文献2(特開平10−113096号公報)においては、昆虫飼育装置及び昆虫飼育方法として、昆虫飼育装置の吸気部、排気部、または装置内にオゾン発生装置や殺菌装置を設けるという方法が開示されている。この方法を用いることにより、飼育装置がウイルスで汚染されないことが特徴となっている。
オゾンは、古くから殺菌効果や脱臭効果を有する事が知られている。オゾンを発生させる方法としては、放電現象を用いる方法や、紫外線照射による方法等が知られている。実例を記すと、例えば、特許文献3(特開平9−243102号公報)においては、天井埋込型の空気調和機の発明が記されている。これによると室内空気中の臭気は、オゾンの強い酸化力により除去・分解されると記載されている。
しかし、活性化ガスとしてオゾンを含有するガスを用いる場合、オゾン自体の有害性を考慮しなければならない。すなわち、オゾンはごく微量であれば、ウイルスやカビ菌や浮遊菌やアレルゲン成分の殺菌・不活化や、臭気成分の脱臭に有効であるが、濃度が高くなると、人体に対する有害性の問題が大きくなる。オゾン濃度が高い場合は、呼吸器系統、眼、粘膜等への刺激が大きく、人体に悪い影響を及ぼすことがある。オゾン濃度の許容値は各国の法令などにより異なり、例えば、日本においては大気汚染に関する環境基準として、光化学ダイオキシン(オゾンその他の酸化性物質を主成分とする物質の総称)の値は1時間で0.06ppm以下と規定されている。オゾン濃度を適切に管理する事が要求される。あわせて、オゾンには特有の刺激臭があり、不快に感じるものである。
(2)活性化ガスがイオンを含有する場合(イオンが最も作用を及ぼす場合)
イオンを用いて、空間のウイルスやカビ菌や浮遊菌やアレルゲン成分を不活化したり、あるいは臭気成分を脱臭したりするという手法は、近年、大きな注目を集めている方法である。空気中のイオンを用いて、浄化する方法に関しても従来より、下記のような報告があった。以下は、空気中のイオンが動植物に与える影響に関して記す。
(ア)動物(哺乳類)への発育作用について
(ア−1)非特許文献1(Tchijevskyの「国民経済における空気イオン化」(1960))での報告によると、空気イオンにより、豚、ウサギ、マウス、ヒツジなどの身体的活動、生殖機能、食欲、体重を著しく増大させるとの見解を述べている。豚の場合では、マイナスイオン処理によって、疾患(気管支炎および妊娠中毒症)からの回復が顕著に促進されたと述べている。また、マイナスイオンで処理されたオスのヒツジから得られた羊毛は、マイナスイオン処理をされない場合に比べて、より長く、より強くより細いものであったと報告されている。また、メスの牛について47日間マイナスの空気イオンの中で飼育したところ、牛乳の生産量、牛乳中の蛋白質と脂肪含有量、及び体重に顕著な増大(平均体重は1頭当たり20kg増加した)しており、性的活動(生殖機能)および血中カタラーゼレベルもマイナスイオンにより有意に増大したと報告している。
(ア−2)豚に対する効果
Mozzherinおよびその研究者の報告によると(1974)、子豚に300,000〜400,000個/cm3の軽マイナスイオンを1ヶ月の間、毎日2回、1回当たり30分照射すると、豚の1日当たりの体重増加量が7〜19%増大したほか、酸素摂取量が4%、二酸化炭素呼出量が2%、肺換気量が16%、呼吸の深さが13%、蛋白質消化率が8.9%、脂肪消化率が8.4%、繊維素消化率が13%増加したと報告している。
(イ)小動物(昆虫類)への発育作用について
(イ−1)カイコに対する効果について
KruegerとKotakaの共同研究によると(1966)、空気中の電荷を帯びた極性のイオンにより、カイコの幼虫の成長率および体液中のカタラーゼ、ペルオキシダーゼ、チトクロームc酸化酵素の生合成を有意に増大させることを報告している。また、幼虫の成長を促進させる作用が有り、より早い出糸の開始をもたらすことで、絹糸層の発達が有意に増大したとも報告している。
(イ−2)蜂に対する効果について
Tchijevskyによると(1960)、空気イオンの養蜂業への応用に関して、適量のマイナスイオンにより蜂の死亡率が減少し、飛翔活動力が増大すると報告している。雄蜂の飛翔活動の上昇が1日のうちで自然イオン力が最大となる時間と合致している。雄蜂の飛翔活動は、太陽光線量と空気の乾燥度の増大、すなわち大気空気のイオン化を促進する基本気象要因の増大につれて増加すると報告している。
(ウ)植物への発育作用について
(ウ−1)農作物に対する効果について(日本の菅沼、中山の報告)
日本の菅沼、中山の報告によると(1982)、10〜20kV/mの電界に暴露したところ、サツマイモ、ハツカダイコンで収量の増加がみられたとある。
(ウ−2)Kruegerの報告(1959年及び1962年)
エンバクの種子を10,000個/cm3のイオンに暴露したところ、伸長が60%、生体重が25〜30%増加し、成分も、蛋白質、窒素分、糖分の増加がみられたと報告している。そのあと、大麦、レタス、エンドウなどでイオンの植物への効果を見る実験を行なっている。その結果かイオンの無い環境においては大麦の苗の生長は抑制されると報告している。
(ウ−3)YamaguchiとKruegerの報告(1983)
トマトの養液栽培において、6,000〜20,000個/cm3のマイナスイオンに暴露すると(苗の間は1日中、その後は昼間のみ)、播種から収穫までの期間が約2週間短縮され、1週当たりの収量が最初の3週間で50%、累積収量は6週目で27%ほど多いことなど、イオン暴露による好成績を得たと報告している。さらに、全体として、ミネラル分が多く、味がよいことが報告されており、実用化の可能性が十分あることを示唆していると報告している。
さらに、Kruegerの実験結果について、重光(1999)は次のようにまとめている。
オートムギに対して、発芽に対しては効果はないが、乾物重はイオン処理区で増加し、マイナスイオン処理区では生長が大きく、全体としてイオンの効果が見られたと報告している。また、大麦(幼根)をプラスイオン11,000個/cm3、マイナスイオン9,000個/cm3に15日間暴露し、真性褐斑傷害に対する抵抗性と草丈、生体重、乾物
重を調査すると、プラスイオンは発病を3日間遅延させ、マイナスイオンでは発症は認められず、草丈、乾物重がわずかに増加する傾向が観察されたと報告している。
以上のように、(1)及び(2)に記したように、空気中のイオンを用いた方法により、動物(哺乳類)や、昆虫や、植物の飼育・生産・管理に効果的な作用を及ぼすことが報告されている。
特開平10−113096号公報(段落0006〜段落0008参照)
特開平10−113097号公報(段落0006〜段落0009参照)
特開平9−243102号公報(段落0006参照)
「国民経済における空気イオン化」Tchijevsky著(1960))
しかしながら、上記(1)及び(2)においては、動植物に対する、空気中イオンの効果については記されているものの、具体的なイオン種等については明記されていない。また、これらの効果が現れる理由や原因究明に関しても不十分であり、データの信憑性も低い可能性を否定できない。
たとえば、上記(ア−1)の非特許文献1記載の報告においては、空気イオンについての定義自体があいまいであり、精密な測定がなされていない。さらに、空気イオン濃度が不明であり、イオンの測定方法や移動度の定義についても充分に明記されていない等、検証するには不十分と考えられる。
また、上記(ア−2)のMozzherinらの報告においても、なぜこのような効果が得られるかについての原理や理由については明記されておらず、実際にイオンが顕著な作用を及ぼしているかを判断するためには無理があると考えるのが妥当である。
したがって、以上のことより、空気イオンの動植物に対する効果を明確にした手法はこれまで確立されておらず、従来の動植物の飼育施設においては、衛生面の管理に改善の余地を残している。
本発明は、上記課題に鑑み、より衛生面の管理を向上させることのできる動植物の飼育施設及びそれを用いて飼育された動植物、並びに、動植物の生産方法及びその方法により飼育された動植物の提供を目的としている。
上記目的を達成するために、本発明は、従来のような受動的な手法ではなく、刻々と増加するウイルス、カビ菌、浮遊菌、アレルゲン成分、臭気成分を増殖前に積極的に除去・不活化できることを発見するに至ったものである。積極的に増殖を抑制することが出来れば、飼育飼料の交換や、飼育施設の洗浄の度合いを下げる事ができ、コストの低下や飼育効率の向上や、人間や動植物の安全性の向上につながるというものである。
すなわち、本願発明は、空気中の浮遊菌を除菌する活性化ガスを飼育室内に放出する活性化ガス発生装置が設けられたことを特徴とする動植物の飼育施設である。飼育施設とは、動物、植物等の生物を飼育、生産、育成する施設のことである。飼育施設を構成する素材としては、特に限定されるものではなく、例えば金属材、木材、プラスチックなどの樹脂材、ガラス、セラミック、紙材、石材、セメント材又は炭素繊維材等を好適に用いることができる。そして、飼育する動植物が魚類や両生類や爬虫類のように水空間を必要とする場合は、飼育室内の水が外部に漏れ出すことがないように、密閉性のある構造とすることが好ましい。また、飼育する動植物が鳥類や昆虫類等のように空を飛べる場合は、側方を囲むだけではなく、屋根等を設けて上面を遮るようにするのが好ましい。
活性化ガス発生装置は、活性化ガスを飼育室内に放出することができれば、飼育室の内外のいずれの位置に設けてもよいし、飼育室と離れた位置に設けてもよい。また、活性化ガスが、飼育室内部空間に充分に行き渡るようにさせるために送風手段を設けて、活性化ガス成分を含有する空気を空間内中に拡散させるようにするのが望ましい。送風手段の形態は特に規定されるものではないが、例えば、扇風機に用いられているような羽根を用いて、空間に拡散させるといった方法や、空間内部を減圧にして、活性化ガス成分を含有するガスを新たに、空間内部に導入するといった方法を挙げることができる。活性化ガス発生装置は、限定されるものではないが、放電方式又は光照射方式により活性化ガスを発生させる。
具体的には、活性化ガス発生装置は、送風経路及び送風手段からなる送風部を複数有し、一部の送風部の送風方向と、その他の送風部の送風方向とが、互いに逆方向になるように設定し、一部の送風部のうちの少なくとも1つの送風部に活性化ガス発生手段を設ける態様とすることができる。
送風経路としては、空気を誘導するダクト等の管が例示され、一端を活性化ガスが放出される空間側、他端をそれ以外の空間側に配置すればよい。送風手段としては、ファンが例示され、送風経路内に設ければよい。このような送風経路及び送風手段からなる送風部により、ダクトの一端側の空間と他端側の空間との間で空気を交換することができる。
また、送風部は複数設けられ、そのうちの一部の送風部の送風方向と、他の送風部の送風方向とが互いに逆方向になるように設定される。なお、逆方向とは、活性化ガスが放出される空間への方向と、それ以外の空間側への方向との関係における意味である。
一部の送風部の送風方向は、活性化ガスが放出される空間に向って流れる方向とされ、その一部の送風部のうちの少なくとも一つの送風部には、活性化ガス発生手段が設けられており、送風手段により活性化ガスを空間中に拡散させることができる。なお、活性化ガス発生手段が設けられた送風部は、一端が活性化ガス放出空間側に連通していれば、他端は他の空間に連通させずに封鎖する形態としても構わない。また、送風部の数は2以上であればその数は特に限定されるものではない。
これらの送風方向が逆方向に設定された複数の送風部と、活性化ガス発生手段とは、ユニット化して構成するのが好ましい。本活性化ガス発生装置を設けるだけで、活性化ガスの発生、活性化ガスの送風(拡散)及び空気の交換の機能を実現することができる。したがって、別途送風部等を設ける必要が無いので、施工が容易となる。
さらに、一部の送風部と、それと送風方向を逆にする他の送風部との各送風手段の送風量を、センサ又は指示に基づいて増減させる制御部を設けるのが好ましい。複数の送風部を一体化して設けている場合、単一の制御部を各送風部の送風手段と連携させることができる。送風量の増減の変化に応じて、除菌性能を変化させつつ、飼育室内の空気を漏れさせない構成とすることが容易に実現できる。
例えば、下記のような構成とすることにより、低コストで効果的な除菌が可能となる。その構成とは、ウイルス、カビ菌、浮遊菌、アレルゲン成分等の発生状態、又は動物の状態を直接的又は間接的に検出するセンサを設け、そのセンサからの信号により、制御部で各送風部の送風手段の送風量を増減させるというものである。
ウイルス、カビ菌、浮遊菌、アレルゲン成分等菌の発生状態、又は動物の状態を検出するセンサとしては、これらの状態を直接的又は間接的に検出できるものであれば限定されるものではないが、間接的に検出できるものとして温度センサ、湿度センサ、物体センサ、直接的に検出できるものとして生物センサが例示でき、単独又は組み合わせて設けることができる。これらのセンサは、それぞれの対象物を検出可能な位置に配されていればよく、活性化ガス発生装置と離れた場所に設けてもよい。ウイルス、カビ菌、浮遊菌、アレルゲン成分等の発生状態とは、ウイルス、カビ菌、浮遊菌、アレルゲン成分等の活性化の程度又は、ウイルス、カビ菌、浮遊菌、アレルゲン成分等の量のことである。
これらのセンサにより、ウイルス等が活性化した状態であることや、ウイルス等の濃度が高いこと、活性化ガス放出空間内の動物の抵抗力が低下していること等の、活性化ガス放出空間内に存在する動物に対するウイルス等の影響が高い状態であることが検出された場合に、制御部は、活性化ガスが放出される空間へ送風する送風部の送風手段の送風量を上げ、反対に、動物に対するウイルス等の影響が低い状態であることが検出された場合には、その送風量を下げるように制御する。
具体的に、温度センサを用いた場合の例を説明する。本活性化ガス発生装置に気温を検出する温度センサを設け、温度センサからの信号により、気温の変動にあわせて、制御部で、活性化ガスが放出される空間へ送風する送風部の送風手段の送風量を増減させる。
この設定条件として、ウイルス、カビ菌、浮遊菌、アレルゲン成分等の増殖が活発になる温度、すなわち至適温度を基準にする態様がある。温度センサにより検出された温度が至適温度の範囲である場合は、活性化ガスが放出される空間へ送風する送風部の送風手段の送風量を上げ、活性化ガスが反応し消滅する前に対象空間に大量に送る構成とする。気温が至適温度の範囲外である場合には、その送風量を下げるように設定する。なお、至適温度は、微生物の種類によって異なるので、除去の対象とするものによって変更可能とする。
ここで、一般的な至適温度を例示する。微生物をその生育に最適な温度により分類すると、低温菌、中温菌及び高温菌に大別され、それぞれの至適温度は、低温菌で20度以下、中温菌で25〜40度、高温菌で45度以上である。なお、自然界では中温菌が多いので、その至適温度(25〜40度)を用いるのが好ましい。また、住宅や建築物に発生するカビ菌のほとんどの至適温度は一般的には5〜35度である。
また、至適温度を基準にする態様とは異なる別の設定条件として、動物の体力低下を引き起こす温度を基準にする態様がある。人間の場合、快適に過ごせる至適温度は18〜26度と言われており、一般的には30度以上又は10度以下となると体力の低下を引き起こすと考えられる。体力が低下すると、インフルエンザなどの疾病にかかりやすくなるので、気温が一定温度以下(人間の場合、例えば10度以下)又は一定温度以上(人間の場合、例えば30度以上)の範囲内にある場合は、除菌性能を上げるため、活性化ガスが放出される空間へ送風する送風部の送風手段の送風量を上げ、対象の飼育空間において活性化ガスを含む活性した空気を多く送風する態様としてもよい。気温が上記範囲外の場合は、その送風量を低下させる。なお、動物の体力低下を引き起こす温度は、動物の種類や、その動物の健康状態によって異なるので、適宜変更可能とする。
なお、上記の「送風手段の送風量を上げる」という場合の送風量は、活性化ガスが反応し消滅する前に活性化ガス放出空間に大量に送ることができ、活性化ガス放出空間内のウイルス等が空間内に存在する動物等に影響を与えない程度に除菌することができる送風量である。また、上記の「送風手段の送風量を下げる」という場合の送風量は、「送風手段の送風量を上げる」場合に比べて量を少なくするという意味であり、この場合も同様に、活性化ガス放出空間内のウイルス等が空間内に存在する動物等に影響を与えない程度に除菌することができる送風量である。
また、温度センサのほかに、湿度センサや物体センサも間接的に菌の発生状態を検出するセンサと考えられる。湿度センサを用いた場合は、ウイルス、カビ菌、浮遊菌、アレルゲン成分等の増殖が活発になる湿度、すなわち至適湿度を基準にする態様がある。湿度センサにより検出された湿度が至適湿度の範囲内である場合は、活性化ガスが放出される空間へ送風する送風部の送風手段の送風量を上げ、活性化ガスが反応し消滅する前に対象空間に大量に送る構成とする。また、湿度が至適湿度の範囲外である場合には、その送風量を下げるように設定する。なお、至適湿度は、微生物の種類によって異なるので、除去の対象とするものによって変更可能とする。
ここで、一般的な至適湿度を例示する。ウイルスの場合、一般的には50%以下、カビ菌の場合、一般的には50%以上、細菌の場合、一般的には50%以上である。
また、物体センサは、物体の方位、個数、大きさ、表面形状などを判別できるものである。活性化ガス放出空間に生物が存在する場合には、ウイルス等が発生しやすいので、活性化ガスが放出される空間へ送風する送風部の送風手段の送風量を増加させ、生物が存在しない場合にはその送風量を低下させればよい。
また、直接的に菌の発生状態を検出するセンサとしては、生物センサが例示される。生物センサの種類としては、酵素センサ、微生物センサが例示される。生物センサは、微生物等を用いて、特定の物質の有無やその濃度を検出するセンサである。ウイルス等の濃度が、活性化ガス放出空間内の動物に大きな影響を与える値以上である場合に、活性化ガスが放出される空間へ送風する送風部の送風手段の送風量を増加させ、ウイルス等の濃度がそれよりも低い場合に、その送風量を低下させればよい。
以上のような構成により、浮遊するウイルス等が活性化する環境、ウイルス等の濃度が高くなる環境や、動物の抵抗力が下がる環境において、送風量を上げて、上記活性化ガスを高濃度で対象空間に充満させることにより、除菌性能を上げ、菌の増殖による動植物の発育への悪影響を低減することが可能となる。また、上記のような環境以外の場合、すなわち、においては、その送風量を下げることにより、省エネルギー化を実現することができる。
なお、活性化ガスが放出される空間へ送風する送風部の送風手段と、それと逆方向にそれ以外の空間側へ送風する送風部の送風手段との送風量を同時に増加(又は低下)させれば、活性化ガスが放出される空間へ送風される送風量と、それ以外の空間へ排出される送風量とがほぼ同じになるので、効率的に活性化ガスが放出される空間内の空気を入れ替えることができるので好ましい。
なお、上記構成では、センサの信号により、各送風部の送風量を増減しているが、制御部にタイマー、各送風部の送風量の強弱、そのON/OFF等を入力可能なスイッチ等の入力手段を連動させてもよい。タイマーの例としては、使用者の所望の時間を入力すれば、その時間の間は動植物の存在する活性化ガス放出対象空間の排気を行う送風手段のみが差動し、その時間経過後に、排気を行う送風手段と、対象空間に空気を送る送風手段との両方を作動させるというものがある。この構成によれば、飼育室の掃除をする場合に、使用者が例えば30分と入力した場合、使用者が飼育室の掃除を行う間は活性化ガス放出対象空間の排気を行う送風手段のみが差動して、掃除により発生する悪臭や薬品臭などを外部に放出することができる。そして、その後、排気する送風ファンと、対象空間に空気を送る送風ファンの両方を作動して、活性化ガスを対象空間に導入し、かつ排気を行う構成とすることが可能である。
なお、この活性化ガス発生装置は、動植物の飼育施設に用いることで、効果を得ることが可能であるが、本装置の効用はこれに限るものではなく、その他の応用にも利用できるものである。例えば、家庭やビル、病院等の各種居住空間や、クリーンルームや工場等の製造空間に用いることが可能である。
このように、活性化ガス発生装置を設けて、活性化ガスを飼育室内に放出させれば、飼育室の室内空間の浮遊菌や浮遊細菌を除菌(菌の殺菌及び低活性化を含む概念である、以下同じ)することができ、菌の増殖を防ぐことができる。したがって、飼育室内の衛生状態を良好に保つことができ、動植物の菌及び細菌への感染を防止することができる。また、飼育施設の飼育業務に関わる人間や動植物を鑑賞する人への感染や、飼育施設周辺の環境への影響を防止することができる。また、臭気成分に関しても積極的に分解処理を行なっていくことができる。
活性化ガスとは、正イオン及び/若しくは負イオン、プラズマ又はラジカルなどの反応性のある粒子を含む気体のことを言い、空気中で微生物や塵などと反応し、時間経過とともに量が減少していく特徴を有するものであればよい。これらの活性化ガスを用いれば、積極的に、ウイルス、カビ菌、浮遊菌、アレルゲン成分、臭気成分を除去・不活化する事が出来る。そして、その中でも、特に、活性化ガスとして、正イオン及び/または負イオンを用いる場合が、人体にとってより安全であり、最も好ましい。飼育室内における活性化ガスの濃度は、少なくとも150個/cm3とするのが好ましい。
ここで、活性化ガス中に含有されるイオンについて考えてみる。イオンは大きく分類すると、プラスに帯電した正イオンと、マイナスに帯電した負イオンの2種類存在する。活性化ガスがイオンを含有する場合、含有成分としては正イオンだけを含有する場合と、負イオンだけを含有する場合と、正イオンと負イオンの両方を含有する場合、の3条件に分類することができる。いずれの条件を採用してもよいが、これら3条件の中で、空間のウイルスやカビ菌や浮遊菌やアレルゲン成分を不活化したり、あるいは臭気成分を脱臭したりするという効果が最も大きいのは、正イオンと負イオンの両方を含有する場合であるので、正イオンと負イオンの両方を含有させるのが好ましく、さらには、飼育室内におけるそれぞれのイオン濃度を少なくとも150個/cm3とするのが好ましい。150個/cm3以上にそれぞれのイオン濃度を設定すれば、十分に飼育室中のウイルス等を不活化することができるが、150個/cm3よりもイオン濃度が低ければ、十分に飼育室中のウイルス等を不活化することができない。なお、本装置により、飼育室全体のイオン濃度が上記条件を満たすことが望ましいが、飼育室の一部が上記条件を満たしていない場合でも一定の効果を得ることは可能である。例えば、動植物の周辺において上記イオン濃度条件を満たしている場合において、一定の効果が期待できる。また望ましくは、動物の場合においては、呼吸を行う口や鼻の近辺が上記イオン条件を満たしていることが望ましい。
正イオンとしては、H+(H2O)m(mは任意の自然数)からなるイオン、負イオンとしては、O2 −(H2O)n(nは任意の自然数)からなるイオンが好ましい。これらの正イオンと負イオンが空気中に同時に生成すると化学反応をし、活性種である過酸化水素H2O2又はヒドロキシラジカル・OHを生成する。これらの酸化水素H2O2又はヒドロキシラジカル・OHが極めて強力な活性を示し、これにより空気中の浮遊菌やウイルスやアレルゲン成分を効果的に除去・不活化することが出来る。
飼育室内に一定方向の空気の流れを形成するための送風手段を設けるのが好ましい。飼育室内に一定方向の空気の流れを形成すれば、飼育室内の空気が飼育室外へ流れ出すのを防ぐことができる。なお、その空気流の方向は特に限定されるものではないが、柵などの飼育室外へ通風できる面ではなく、地面や壁面などの飼育室外と通気が不可能な面に向う流れとするのが好ましい。
飼育室内の空気が外へ流れ出すのを防ぐために、飼育室内の空気を吸込む吸引手段を設けるのが好ましい。飼育室内に放出された活性化ガスが飼育室外の空間に流れ出すのを防ぐことができ、飼育室周辺環境に室内の浮遊菌等が流れ出すのを防止できるとともに、効果的に飼育室内の除菌をすることができる。
なお、上記の送風手段と吸引手段の両方を設ける態様とするのがさらに好ましい。送風手段と吸引手段とを対向する位置に設ければ、飼育室内に送風手段から吸引手段に向う空気流を形成できるとともに、その空気を吸引手段により外部へ排出することができる。
上記のような活性化ガスが放出される環境の施設で飼育された動植物は、ウイルスやカビ菌や浮遊菌やアレルゲン成分や悪臭成分の影響をほとんど受けることなく理想的な環境で成長している。したがって、動物園や水族館等で鑑賞用として用いられる動物の場合は、寿命が長くなるといったメリットも併せて得ることができる。また、養鶏場や養豚場や牧場などで食料や鶏卵や牛乳採取用の経済動物の場合は、それらの製品としての安全性の向上といったメリットも併せて得ることができる。
また、本発明は、大型の飼育施設に限定されるものではなく、動物運搬用の小型の飼育施設にも適用可能である。その場合、活性化ガス発生装置、送風手段及び吸引手段の動力源として、電池あるいは太陽電池、燃料電池などの可搬性のある電源を用いることができる。
また、本発明の動植物の飼育方法は、動植物の飼育室内に、空気中の浮遊菌を除菌する活性化ガスを放出して、飼育室内で動植物を飼育することを特徴とするものである。なお、飼育方法とは、動物、植物等の生物を飼育、生産、育成する方法である。このように、動植物の飼育室内に活性化ガスを放出して、その飼育室内で動植物を飼育すれば、飼育室内空間の浮遊菌や浮遊細菌を除菌することができ、菌の増殖を防ぐことができる。したがって、飼育室内の衛生状態を良好に保つことができ、動植物の菌及び細菌への感染を防止することができる。また、飼育施設の飼育業務に関わる人間や動植物を鑑賞する人への感染や、飼育施設周辺の環境への影響を防止することができる。また、臭気成分に関しても積極的に分解処理を行なっていくことができる。
上記方法において、活性化ガスとして、正イオン及び/若しくは負イオン、又は、プラズマを使用するのが好ましい。これらの活性化ガスを用いれば、積極的に、ウイルス、カビ菌、浮遊菌、アレルゲン成分、臭気成分を除去する事が出来る。そして、その中でも、特に、活性化ガスとして、正イオン及び/または負イオンを用いる場合が、人体にとってより安全で、最も好ましい方法として取り上げる事ができる。
また、上記方法において、正イオンとしては、H+(H2O)m(mは任意の自然数)からなるイオン、負イオンとしては、O2 −(H2O)n(nは任意の自然数)からなるイオンが好ましい。
上記方法において、活性化ガスは、これに限定されるものではないが、放電方式又は光照射方式の活性化ガス発生装置を用いて発生させることができる。
上記方法において、送風手段を設けて、飼育室内に一定方向の空気の流れを形成するのが好ましい。飼育室内に一定方向の空気の流れを形成すれば、飼育室内の空気が飼育室外へ流れ出すのを防ぐことができる。
上記方法において、飼育室内の空気を吸込む吸引手段を設ければ、飼育室内の空気が外へ流れ出すのを防ぐことができる。飼育室内に放出された活性化ガスが飼育室外の空間に流れ出すのを防ぐことができ、飼育室周辺環境に室内の浮遊菌等が流れ出すのを防止できるとともに、効果的に飼育室内の除菌をすることができる。
上記飼育方法により飼育された動植物は、ウイルスやカビ菌や浮遊菌やアレルゲン成分や悪臭成分の影響をほとんど受けることなく成長している。したがって、動物園や水族館等で鑑賞用として用いられる動物の場合は、寿命が長くなるといったメリットも併せて得ることができる。また、養鶏場や養豚場や牧場などで食料や鶏卵や牛乳採取用の経済動物の場合は、それらの製品としての安全性の向上といったメリットも併せて得ることができる。
本発明によると、動植物の飼育施設において、飼育室内に活性化ガスを放出することにより、空間のウイルスやカビ菌や浮遊菌やアレルゲン成分を積極的に除去・不活化して、効果的な動植物の飼育・生産を実現することができる。その活性化ガスの中でも、H+(H2O)m(mは任意の自然数)からなる正イオン及び/若しくはO2 −(H2O)n(nは任意の自然数)からなる負イオンを用いれば、より効果的に飼育室内の除菌をすることができる。
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、本発明は以下に示す実施形態により制限を受けるものではない。
<第1の実施形態>
図1は第1の実施形態の飼育施設1の概要を示す図、図2はイオン発生素子7の斜視図、図3はイオン発生装置4のイオン発生素子7に印加する電圧の波形図である。本実施形態においては、動物園の飼育施設1で用いた場合について記す。また、活性化ガスの含有成分として、H+(H2O)m(mは任意の自然数)からなる正イオン及びO2 −(H2O)n(nは任意の自然数)からなる負イオンを含む場合について説明するが、これに限定されるものではなく、プラズマを用いてもよい。動植物としては、ここではライオン等の動物2を飼育している場合を示しているが、これに限定されるものではない。
飼育施設1は、動植物が収容される空間を形成する飼育室3と、飼育室3内に活性化ガスを放出するイオン発生装置4とから成る。飼育室3は、鉄製又は木製の柵5で囲まれ、上方に安全や風雨の防御目的で屋根6が設置されて形成される。この飼育室3内でライオン2は生活する。なお、飼育室3の構造は、上記形態に限定されるものではなく、屋根6を形成しないなど、動植物の種類、特性等に応じて変更できる。
イオン発生装置4は、イオンを発生させるイオン発生素子7と、プロペラを備える送風手段8とから構成され、飼育室3の屋根6上に設置される。屋根6には開口(図示せず)が形成され、開口と対向してイオン発生装置4が設けられ、開口より飼育室3内へイオンが流入される。また、イオン発生素子7が送風手段8よりも飼育室3側に配され、送風手段8はイオン発生装置4を介して飼育室3側へ送風を送るように設定されている。したがって、イオン発生装置4を作動させた際には、送風手段8の強制的な送風により、飼育室3内の空間にイオンを拡散することができる。また、イオン発生装置4は、飼育室3の屋根6の中央付近に設けられる。したがって、イオン発生装置4から発生するイオンを飼育室の全域にわたって放出することができる。
図2は、イオン発生素子7についての概略図(一例)を示している。イオン発生素子7の表面には、誘電体9があり、この誘電体9の裏側には誘電電極10があり、この誘電電極10と対抗するように誘電体9表面にはイオン発生電極11が取付けられている。図1や図2においては、イオン発生電極11の形状は網状となっているが、特に限定されるものではなく公知の針型等を用いてもよい。さらに、イオンをより効果的に発生させるために、電極パタン形状やエッジ形状や材料等を適宜定めることができる。
イオン発生電極11と誘電電極10は、リード線12を通じて高圧パルス駆動回路13に接続されている。高圧パルス駆動回路13はイオン発生素子7の内部に形成されている。このような構成であるイオン発生装置4において、イオン発生装置4を駆動し(つまり、イオン発生電極11と誘電電極10間に正負電圧からなるピーク値が例えば、2.7kVであるパルス電圧を印加)することにより、イオンを充分に含んだ空気となって、空間に放出されることになる。イオンを充分に含んだ空気は、正イオン及び負イオンを両方含んでおり、空気中に放出されると、空気中に存在する浮遊菌を除菌したり、あるいは臭気成分を脱臭するといった効果的な影響を与えることができる。
正イオン及び負イオンの発生点から10cm離れた位置のそれぞれのイオン濃度は、10,000個/cm3以上にすることにより、高い除菌効果を得ることができる。また、イオン濃度を300,000個/cm3以上にすると、イオンの送出後1時間で浮遊細菌の残存率を10%以下にすることができ、より急速且つ効率良く除菌を行うことができる。なお、イオン濃度の測定装置には、(株)ダン科学製空気イオンカウンタ(型番83−1001B)を用い、移動度1cm2/V sec以上の小イオンについて、イオン発生装置4のイオン発生点からの距離の関係で検出している。この実例については、特開2002−95731号公報に詳細に記されている。
図3には、図2で示したイオン発生素子7を駆動するために用いられる、電圧の波形図である。放電ガスのうち、カビやウイルスやアレルゲンや浮遊菌を除去・不活化するために、正負イオンの濃度を高めた放電ガスを空間に放出する場合、図3に示すような高周波の交流パルス電圧が好適に用いられている。徐々に減衰する正弦波上のパルス電圧をT1秒間印加し、その後T2秒間の休止時間を設定している。このサイクルを繰り返している。イオン発生装置4の通常の通常モードにおけるパルス電圧の条件は、正弦波の周波数が20kHz、パルスの繰り返し周期は60Hzとなっている。また、T1は1ミリ秒、T2は約15.7ミリ秒(1000/60−1)、印加するピーク電圧は、正電圧が+2.7kV、負電圧が−2.7kVとなっている。このような波形を用いることにより、オゾンの発生は抑制しつつ、正負イオンだけを効果的に発生させることができる。
この放電によりイオン発生電極11から正イオンと負イオンを発生する。発生する正イオンとしてはH+(H2O)n(nは任意の自然数)、負イオンとしてはO2 −(H2O)n(nは任意の自然数)が最も安定に生成していることが、質量分析法による精密測定で確認されている。これらの正イオンと負イオンが空気中に同時に生成すると化学反応をし、活性種である過酸化水素H2O2又はヒドロキシラジカル・OHを生成する。これらの酸化水素H2O2又はヒドロキシラジカル・OHが極めて強力な活性を示し、これにより空気中の浮遊菌やウイルスやアレルゲン成分を除去・不活化することが出来るというものである。
放出されたイオンを含む活性化ガスは、飼育施設1内部の空間内に存在するウイルスやカビ菌や浮遊菌やアレルゲン成分や悪臭成分を除去・不活化し、ライオン2に対する悪影響を防ぐ事ができるものである。悪影響とは、ウイルスやカビ菌やアレルゲン成分や浮遊菌により感染したり、あるいは、ライオン2が不快と感じる悪臭成分のことである。
なお、図1は、柵5の周囲に、ライオン2を見学に来ている(もしくはライオン2を飼育している)人間14が存在している状態を示す。この例では、柵5を通して、飼育室3内と、見学に来ている(飼育している)人間14が存在している外部の空間の間では、空気は自由に通り抜けることになる。したがって、飼育室3が屋外に設置されているような環境であって、風の強い場合には、ライオン2の存在する内部空間に放出された活性化ガス(イオン発生装置4を用いる場合には、イオン)が、見学に来ている(飼育している)人間14がいる領域にも拡散される。そのため、活性化ガスの成分が見学に来ている(飼育している)人間14にも到達するが、イオンを含む活性化ガスは、人体に対して全く影響を与えることがない。イオンが安全であることは、試験機関により確認されている。
また、本実施の形態は、大型の飼育施設に限られるものではなく、動物運搬用の小型の飼育施設にも適用可能であり、その場合は、イオン発生装置及び送風手段の動力源として、電池あるいは太陽電池、燃料電池などの可搬性のある電源を用いることが適当である。
<第2の実施形態>
図4は第2の実施形態の飼育施設1の概要を示す図である。図4に示すように、本実施形態においては、飼育室3内へ放出される活性化ガスが、飼育施設1周辺の人間14の存在する環境には行き渡らないようにするというものである。すなわち、活性化ガス成分が飼育室3外へ散乱しないように、飼育施設1の飼育室3の空気に流れを作り、一定の方向に放出されるようにするというものである。その効果を達成するために、複数の送風手段15を設け、空気の流れを一定方向となるようにした。また、さらにその効果を高めるために、送風手段15と対向する面には吸引手段16を設置している。動植物としては、ここでは例としてウサギ等の動物2を飼育している場合を示している。その他の基本的な構成は上記第1の実施形態と同様である。
すなわち、イオン発生装置4の送風手段8とは別に、屋根6上に複数個のプロペラを備える送風手段15が設けられている。屋根6には開口(図示せず)が形成され、その開口と対向して送風手段15が設けられる。送風手段15は、屋根の四隅に設けられており、飼育室3内のほぼ全域にわたって、屋根側から地面側に向う空気流を形成することができる。なお、送風手段15は、上記の設置位置、設置数量に限定されるものではない。
また、地上側には、送風手段15と対向する位置に、複数個のプロペラを有する吸引手段16が設けられている。吸引手段16の設置位置は、送風手段15と正対する位置としたほうが、送風手段15からの送風が吸引手段16に直線的に流れこむので、飼育室3内の空気流の乱れが生じにくくなり好ましいが、これに限定されるものではない。また、吸引手段16はダクトと接続され、そのダクトの他端は飼育施設1と離れた空間又は空気清浄装置等に連通する。
なお、送風手段15や吸引手段16の数については、飼育施設1の内部空間において、一定の方向に空気の流れを生じさせることができれば、複数個としなくてもよい。たとえば、屋根6の面積と同等の大きさの送風手段15や吸引手段16を一つ設置するという方法も可能である。また、本実施形態においては、空気の流れの方向を屋根6側から地上側としたが、空気の流れる方向に関しては特に限定されるものではなく、地面側に送風手段15を設け、屋根6側に吸引手段16を設けて、地面側から屋根6側に空気の流れを形成する方式を採用しても構わない。
図4は、柵5の周囲に、ウサギ2を見学に来ている(もしくは飼育している)人間14が存在している状態を示す。以上の構成において、送風手段15及び吸引手段16を作動させると、送風手段15により屋根6側から地面側へ一定方向の空気流が形成される。したがって、飼育室3内の空気は柵5を通して飼育室3外に漏れ出しにくくなる。また、送風手段15により送風される空気は、吸引手段16により吸い込まれ、吸引手段16と接続されたダクトを通って外部へ排出される。したがって、完全に飼育室3内の空気が飼育室3周辺に漏れ出しにくくなるので、飼育室3内の活性化ガスや浮遊菌等が飼育室3周辺に漏れ出さないですむ。このように、浮遊菌等による人間14への害を防止できるだけでなく、活性化ガスは、人間14の存在する環境には到達することなく、ウサギ2が存在する空間にだけ放出されるので、より効果的に使用することができる。この点が上記の第1の実施形態との大きく違う点である。
なお、本実施形態においては、複数の送風手段15及び吸引手段16を設けて、飼育室3内に一定の空気の流れを形成することにより、飼育室3内の空気が室外へ放出するのを防いだが、飼育室3の側面上部の全周にわたって、上方から下方に送風する送風手段を設けることにより、飼育室3の側面に空気の流れを用いたエアカーテンを形成してもよい。エアカーテンにより、室内と室外とが遮断され、室内の空気が外部に漏れ出すのを防止できる。
また、本実施例において、上記送風手段15及び上記吸引手段16の送風量を制御する制御部(図示せず)を設けることができる。この制御部は、別のスイッチによる指示や、センサからの信号等に連動して、上記送風手段15と、上記吸引手段16の送風量を同時又は個別に増減する設定とすることができる。このような構成の飼育設備とすることにより、上記送風手段15と、上記吸引手段16の送風量を同時又は個別に増減することが可能になり、除菌性能を所望のレベルに調整することが可能となり、さらに空気が飼育室から飼育室外周辺に漏れにくくなるという効果を得ることができる。
例えば、上記の構成に加えて、送風手段15及び吸引手段18に接続された制御部と、制御部に接続された温度センサ(図示せず)及びスイッチ(図示せず)を飼育室3内に設ける。制御部は、CPU、ROM及びRAM等から構成される。
このような構成において、温度センサが温度を検出すると、その検出信号が制御部に入力される。制御部は、検出された温度が、予め設定しておいたウイルス、カビ菌、浮遊菌、アレルゲン成分等の至適温度の範囲内にあると判断した場合には、送風手段15及び吸引手段16の送風量を同時に増加させ、至適温度の範囲外にあると判断した場合には、送風手段15及び吸引手段16の送風量を同時に低下させる。なお、動物の免疫力が低下する温度の範囲内にある場合には送風量を低下させ、その範囲外である場合には送風量を増加させる形態をとってもよい。
また、上記実施例においては、温度センサを例示したが、その他、湿度センサ、物体センサ又は生物センサなどの菌の発生状態を検出できるセンサを単独又は併用して用いてもよい。
また、スイッチは、送風手段15及び吸引手段18のON/OFF、そのタイマー機能、送風量の強弱などを入力可能である。例えば、タイマー機能としては、使用者が所望の時間を入力設定すれば(例えば30分)、制御部は、吸引手段18のみを30分間、動作させ、30分経過後に、吸引手段18と送風手段15とを動作させるようにすることができる。このような構成とした場合、飼育室内を掃除する間は活性化ガスの放出は必要ないので、一定時間(30分)の間、送風手段15を止めて、活性化ガスの送風を止めることができる。この際、吸引手段18は作動しているので、室内の空気を室外へ放出することができる。そして、作業が終わった後に、送風手段15及び吸引手段18の両方を作動させて、活性化ガスの放出と、室内空気の排気とを行うことができる。このように、効果的に除菌及び空気の交換を行うことができる。
また本実施の形態は、大型の飼育施設に限られるものではなく、動物運搬用の小型の飼育施設にも適用可能であり、その場合は、イオン発生装置、送風手段及び吸引手段の動力源として、電池あるいは太陽電池、燃料電池などの可搬性のある電源を用いることが適当である。
<第3の実施形態>
図5は第3の実施形態の飼育施設1の概要を示す図である。図5に示すように、本実施形態においては、鶏2を飼育する養鶏場の例を示している。なお、本図においては、飼育全体を描画せずに、鶏2が飼料を食べる領域のみ描画している。本実施形態における飼育施設1の飼育室3は、鶏2が1羽ごとに入るように柵5で区切られており、それぞれの鶏2が各々に与えられた飼料を食べることができるように前方に餌入れが設けられ、また、鶏2が産んだ卵を収容する卵入れ18が設けられる。その他の基本的な構成は上記第1の実施形態と同様である。
本実施形態の養鶏場においても、イオン発生装置4が飼育室3の屋根6に設置されている。イオン発生装置4を作動させると(すなわち、イオン発生素子7と送風手段8を作動させる)、飼育室3内空間のウイルスやカビ菌や浮遊菌やアレルゲン成分を除去・不活化できると同時に、飼育室3内の鶏2に放出されるので、飼育室3内の鶏2が細菌やウイルスやアレルゲン成分等により感染するリスクを避けることができることになり、非常に効果的である。
また、本活性化ガスとしてのイオンは、鶏2だけではなく、鶏2が産んだ卵にも放出されている。したがって、鶏卵表面にカビ等が付着しなくなり、細菌やウイルスやアレルゲン成分による被害も防ぐ事ができる。したがって、その鶏卵を食料とする場合に、その鶏卵を食べる人間14が影響を受けるリスクが大幅に低減する。
<第4の実施形態>
図6は第4の実施形態の飼育施設の概要を示す図である。図6に示すように、本実施形態においては、鑑賞用の鳥を飼育する飼育施設の例を示している。第1の実施形態との大きな違いは、鑑賞用の鳥等の動物2の飼育室3だけではなく、その鳥2を見学している(もしくは飼育している)人間14が存在する空間にも活性化ガスを放出する点である。その他の基本的な構成は上記第1の実施形態と同様である。
詳しくは、本実施形態における飼育施設1は、鑑賞用の鳥等の動物2が逃げ出さないように収容する飼育室3と、飼育室3の周囲を囲む構造体19と、構造体19の屋根6に設けられたイオン発生装置4とから成る。イオン発生装置4は、構造体19の屋根6に形成された開口(図示せず)と対向して設けられ、その開口から構造体19内にイオンを流入させる。また、イオン発生装置4は、構造体19の屋根6の中央付近に設けられる。したがって、イオン発生装置4から発生するイオンを構造体19内の全域にわたって放出することができる。
構造体19は、材料や形態については特に限定されるものではなく、例えば、金属製、木製、鉄筋コンクリート製、樹脂製又はガラス製が例示される。飼育室3が構造体19の内部にあるので、本実施形態の飼育施設1は、雨や気温等の気象変化に敏感な動植物を飼育する場合に好適である。
図6は、構造体19内の飼育室3の周囲に、鳥2を見学に来ている(飼育している)人間14が存在している状態を示す。イオン発生装置4よりイオンが放出されると、飼育室3内を含む構造体19内の空間のウイルスやカビ菌やアレルゲン成分や浮遊菌が除去・不活化されるので、鑑賞用の鳥等の動物2や、それを見学に来ている(飼育している)人間14が感染することを防ぐことができる。
なお、本実施形態においては、第1の実施形態と異なり、はじめから、意図的にイオン発生装置4で発生したイオンを、鑑賞用の鳥等の動物2と、それを見学に来ている(飼育している)人間14の両方に対して照射しようとしている。
<第5の実施形態>
図7は第5の実施形態の飼育施設1の概要を示す図である。図7に示すように、本実施形態においては、鑑賞用の鳥を飼育する飼育施設1の例を示している。動植物としては、ここでは例として魚類や両生類等の水生動物2を飼育している場合を示している。魚類や両生類等の水生動物2は、水槽(飼育室3)の中に存在している。水生動物を飼育するために、水槽(飼育室3)は、内部の水が零れないように、壁面は柵ではなく板材5で構成され、密閉される。また、水生動物で空中を飛行することが無ければ、飼育室3の屋根6の設置の有無はどちらでも構わない。その他の基本的な構成は上記第1の実施形態と同様である。
本実施形態においては、図7に示すように、イオン発生装置4は、水槽(飼育室3)の上面の一部を覆うように設けられた板状の固定治具20に設置されている。なお、イオンを水槽(飼育室3)内の全域に拡散させるために、イオン発生装置4は、水槽(飼育室3)上面において、中央付近に設けるのが好ましい。イオン発生装置4を作動させた際には、活性化ガスとしてのイオンは、水槽(飼育室3)のうち、水を含まない領域Aに放出される。水を含む領域Bには、イオンは浸透しない。イオンはあくまでも、大気中の領域に行き渡ることになる。
イオン発生装置4が作動すれば、活性化ガスとしてのイオンが、水槽(飼育室3)のうち、水上領域Aに放出され、ウイルスやカビ菌や浮遊菌やアレルゲン成分や悪臭成分が除去・不活化され、水上領域は清浄される。
魚類や両生類等の水生動物といっても、水中領域Bに完全に存在するわけではなく、呼吸や餌を食べる目的で、水上領域Aに顔を出すことがある。したがってこのような状況を考慮すれば、イオン発生装置4を用いて、水上領域Aに活性化ガスとしてのイオンを放出することにより、魚類や両生類等の水生動物に関しても効果的な作用を及ぼすことができる。
<第6の実施形態>
図8は第6の実施形態の概要を示す図である。本実施形態は、ウイルスを不活化させることのできる活性化ガスの濃度について実験したものである。なお、第1の実施形態と同様に、イオン濃度は、イオン発生点から10cm離れた位置での濃度であり、その測定装置として、(株)ダン科学製空気イオンカウンタ(型番83−1001B)を用いた。
図8に示すように、本実験は、飼育室3に相当する空間の一例として1m3の密閉された箱を用い、この飼育室3内に、イオン発生素子7とプロペラからなる送風手段8とを備えるイオン発生装置4を設け、イオン発生素子7から放出される正イオン及び負イオンを飼育室3内に拡散させる。この飼育室3内に、噴霧器20でウイルスを噴霧して飼育室3内に拡散させ、一定時間ごとに飼育室3内の空間中のウイルスを採取器21で採取して、ウイルスの不活化の効果を確認したものである。なお、イオン発生装置4は、第1の実施例と同じように、放電電極に正および負の電圧を印加することにより、H+(H2O)m(mは任意の自然数)からなる正イオン及びO2 −(H2O)n(nは任意の自然数)からなる負イオンを放出するように設計されている。
噴霧器20は、ネココロナウイルス(FIPV:79-1146株)を液化したものを飼育室3内に噴霧する。コロナウイルスは家畜に感染することが知られている病原ウイルスであり、呼吸器疾患や、肝炎、腸炎を引き起こすとされている。また、人間に対しても、上気道炎を引き起こすとされている。
採取器21で採取したウイルス液について、細胞培養(ネコ腎細胞:fcwf4 p86株)により、TCID50(培養細胞の50%を感染させるウイルス量)を求める試験を行い、採取したウイルスの感染力を調べた。ウイルスの感染力が低いほど、ウイルスは不活化されたことになる。
本実施形態では、イオンを発生させた場合(飼育室内部のイオン濃度は正負イオンそれぞれ約150個/cm3、および同7,000個/cm3の2条件)と、比較例としてイオンを発生させない場合(飼育室内部のイオン濃度は正負イオンそれぞれ約50個/cm3)と、の合計3条件で試験を行い、飼育室3内空間におけるイオンの作用時間による、ウイルスのTCID50に与える影響を調べた。空間の正負イオン濃度は、イオン発生装置4の電源を間欠駆動することにより調節する。
この実験結果は以下の通りである。図9に、空間平均イオン濃度が正負イオンそれぞれ150個/cm3におけるTCID50の時間依存性を示す。
これによると、イオン処理時間が40〜50分の10分間に採取したウイルス液の感染力が、イオン発生装置4を動作させない場合と比較して98.8%低下していることがわかる。このイオン濃度であれば十分にウイルスを不活性化させることができることがわかった。なお、図中の「イオン無し」とはイオン発生装置4を動作させない場合のことであり、「イオン有り」とはイオン発生装置4を動作させた場合のことである。
図10に、正負イオンそれぞれの空間平均イオン濃度が7,000個/cm3における、TCID50の時間依存性を示す。
これによると、イオン処理時間が30〜40分の10分間に採取したウイルス液の感染力が、イオン発生装置4を動作させない場合と比較して99.7%低下していることがわかる。この濃度であれば十分にウイルスを不活性化させることができることが分かった。
以上から、正負イオンそれぞれの空気平均イオン濃度が少なくとも150個/cm3存在する必要がある。それよりも少なければ十分にウイルスを不活性化させることができない。
以上のように、イオン発生装置4によりそれぞれ少なくとも150個/cm3以上の正及び負イオンを放出することにより、空間に浮遊するウイルスの感染力を大きく低下させることが可能になる。なお、本実施形態では、ウイルス噴霧器20及びウイルス採取器21という専用の装置を使用しているが、飼育室3内にウイルス感染した動物とウイルス感染していない動物を同時に飼育した場合、ウイルス感染動物からウイルス非感染動物へのウイルスの放出によるウイルス感染の確率を下げるという効果を発揮できる。その場合、少なくとも正イオンおよび負イオンの濃度としては、150個/cm3に設定することにより、内部における病気感染の抑制効果を発揮できる。
以上の病気感染を抑制する効果を期待できるイオンの濃度の設定条件については、動植物の飼育環境の一部の場所において実現されていれば、一定の効果を得ることが可能であるが、望ましくは動植物の配置される場所において前記イオン濃度が実現されていることが望ましい。またさらには、飼育される動物の呼吸器すなわち口あるいは鼻の位置において前記イオン濃度の条件が満たされることにより、病気感染が効果的に抑制されることが期待できる。
なお本実施例では浮遊させたネココロナウイルスを用いた例を示したが、本発明の効果は、インフルエンザウイルスにおいても効果が確認できており、ネココロナウイルスに限定されるものではなく、その他未知のウイルス等の病原性物質あるいは菌に対して同様の効果が発揮することができる。
<第7の実施形態>
図11は第7の実施形態の飼育施設の概要を示す図である。本実施形態では、動植物としてラット2(雌雄各10匹)を飼育施設に入れて飼育し、活性化ガスのラット発育への有効性を検証したものである。なお、本飼育施設1は、実際に動植物の飼育用として用いることができるのはもちろんである。特に、ラットやマウスなどの実験動物等のウイルス感染を完全に排除すべき動物の飼育施設に適している。
飼育施設1は、動植物が収容される箱状の飼育室3と、飼育室3に形成された開口に接続する空気導入ダクト22及び空気排気ダクト23と、飼育室3内を分画して1又は複数の個体ごとに収容するための飼育かご24と、空気導入ダクト22からの送風を飼育かご24内の動植物に集めるためのかさ状の風洞25と、該風洞25の先端に設けられたイオン発生素子7とから構成される。
飼育室3は、ウイルス等の感染を完全にシャットアウトするために、ガラス板などの密閉可能な構造であるのが好ましい。飼育かご24は、特に限定されるものではないが、網状の金属材などで構成される。
飼育室3の側面には、開閉自在な開閉窓26が形成され、飼育員がラットに給餌や給水などの世話を行うことが可能となっている。なお、開閉窓26は、飼育室3の内部と外部の空気の流通を遮断する機能を有することが最も望ましいが、休餌などの便宜を図るため、格子、あるいは網などの、一部空気の拡散が可能な部分を設けてもよい。その場合でも、後述するように、空気導入ダクト22から空気排気ダクト23への強制的な空気の流れが形成されているので、開閉窓26を通しての飼育室3の内外を空気が通過するのを抑制でき、ウイルス等の感染を低下させることが可能である。
空気導入ダクト22及び空気排気ダクト23の飼育室3に接続された側と反対側の先端の設置場所は、それぞれ、飼育室3外からの空気を導入すること、及び飼育室3外へ空気を排気することができれば、特に限定されるものではないが、飼育室3内の動植物2へのウイルスなどの感染を防ぐために、ウイルス除去可能な空気清浄機に連通されるのが好ましい。なお、空気導入ダクト22と空気排気ダクト23とには、空気導入ダクト22側から空気排気ダクト23側へ流れる気流形成のため、どちらかに送風手段を設けることが必要であり、望ましくは両方に設けることが望ましい。
上記構成によると、飼育室3外の空気が送風手段により空気導入ダクト22から吸気され、その空気が風洞25を通って、イオン発生素子7で発生されたイオンと共に飼育かご24内に送風され、最終的に空気排気ダクト23を通って飼育室3外へ排出される。
このように、飼育室3の内部の気流は、強制的に空気導入ダクト22から空気排気ダクト23へ空気が流れるように給排気設備が備えられていることから、開閉窓26を通しての飼育室3の内部と外部の空気の入れ替わりが少なくなり、ラット2と人間の間にウイルス等が相互に不活化されずに到達することを抑制できるので、結果として人間とラット間の相互の病気感染の可能性を下げることが可能になる。
上記構成の飼育施設を用いて、以下の実験を行った。本実験では、飼育室3に毎時15回の換気に相当する清浄空気が空気導入ダクト22から送風され、空気排気ダクト23から排出される。イオン発生素子7からは正負イオンを含む空気が供給され、ラット2の生活領域に供給され、ラット2から放出されるウイルス等の濃度の低減を実現している。この効果により、ラット2の一部が特定の病気になり、周囲に病原ウイルスを放出する場合などに、健康なラット2の新たな罹患を抑制し、ラット2全体の健康的な生活と、長寿命化を実現することが期待できる。
本実施例では、第1の実施形態で示したものと同等のイオン発生素子7を用いて、イオンを放出し、飼育かご24内の正および負のイオン濃度を、20,000個/cm3又は3,000個/cm3としたもの、イオン放出なし(正および負のイオン濃度は約50個/cm3)の3条件で、それぞれ完全に分離した条件で飼育を行った。なお、イオン発生以外の条件は、送風も含めて同じとしている。また、飼育室3内部のオゾン濃度は、いずれも0.01ppm以下であることを確認した。
本実施例では、健康なラット2(生後8週)を用いて、上記3条件におけるラット2の発育状態を調べた。各条件のおける雌雄それぞれの平均体重変化をグラフ化したものを、オスの場合を図12に、メスの場合を図13に示す。
これによると、雌雄それぞれの体重変化は、前記のイオン3条件による有意な差はみられなかった。また、一般状態の観察(眼の状態、尿の状態、摂餌量)でもいずれの例でも雌雄全例に異常は認められず、結果としてラットの良好な飼育条件を保つことが確認できた。
したがって、飼育したラット2が健康であったため、イオンの有無により健康を左右するような変化は全く見られておらず、本条件におけるイオンの安全な使用が可能であることが確認された。また、本イオン発生装置4の駆動により、ラット2の一部や世話をする人間が空気感染性の病気になった場合などに、ラット2周囲の空気に含まれる病原性ウイルス等を不活化することが可能になり、ラット2あるいは人間の病気感染を抑制および良好な健康状態の保持が可能となる効果が期待できる。
<第8の実施形態>
図14は第8の実施の形態におけるイオン発生装置4を示す。本イオン発生装置4は、本発明の飼育施設に適用可能なイオン発生装置4である。本イオン発生装置4は、送風経路及び送風手段からなる送風部とイオン発生手段とがユニット化されており、飼育室3の壁面に設けられた開口に取り付けることにより、イオン発生手段でイオンを放出し、送風部でイオンを室内に送風すると同時に、飼育室内空気を飼育室3外へ排気を行うことができる機能を一つの装置で実現することができる。このため、施工が容易となり、低コスト化を実現することができる。
詳しくは、図14に示すように、送風経路である2つのダクト27、28が平板状の取付板29に貫通して設けられる。そして、取付板29の一面が飼育室3内側、他面が飼育室3外側となるように、取付板29を飼育室3の壁面の開口を塞ぐようにしてねじ等で固定して設けられる。これにより、両ダクト27、28の一端が飼育室3内側に位置し、他端が飼育室3外側に位置するように配置され、両ダクトは飼育室内外を連通する状態となる。また、両ダクト27、28内には、それぞれ送風手段としてのファン30、31が設けられ、それぞれの送風方向が互いに逆方向となるように設定される。すなわち、一方のダクトは、飼育室外の空気を飼育室内に送風する吸気ダクト27となり、他方のダクトは、飼育室内の空気を飼育室外へ排気する排気ダクト28となる。
さらに吸気ダクト27には、ファン30よりも飼育室内側にイオン発生手段であるイオン発生素子7が設けられ、飼育室3外から導入した空気と共に、飼育室3内へイオンが送風される。
また、取り付板29には、ファン30およびファン31に接続して、これらの動作を制御する制御部32が設けられ、ファン30およびファン31の送風量が連動して動作する機能を有している。制御部32は、CPU、ROM及びRAM等から構成される。また、制御部32は、スイッチ33及び温度センサ34が接続され、その信号によりファン30及びファン31の送風量を同時又は個別に増減する機能を有する。温度センサは、飼育室3内に設けられ、飼育室内の気温を検出する。なお、温度センサは取り付け板の飼育室内側の面に取り付けてもよい。
このような構成において、温度センサ33が温度を検出すると、その検出信号が制御部32に入力される。制御部32は、検出された温度が、予め設定しておいたウイルス、カビ菌、浮遊菌、アレルゲン成分等の至適温度の範囲内にあると判断した場合には、送風手段15及び吸引手段16の送風量を増加させ、至適温度の範囲外であると判断した場合には、送風手段15及び吸引手段16の送風量を低下させる。なお、動物の免疫力が低下する温度の範囲内にある場合には送風量を低下させ、その範囲外である場合には送風量を増加させる形態をとってもよい。
なお、上記実施例においては、温度センサを例示したが、その他、湿度センサ、物体センサ又は生物センサなどの菌の発生状態を検出できるセンサを単独又は併用して用いてもよい。
また、スイッチ34は、ファン30及びファン31のON/OFF、そのタイマー機能、送風量の強弱などを入力可能である。例えば、タイマー機能としては、使用者が所望の時間を入力設定すれば(例えば30分)、制御部32は、排気ダクト28側のファン31のみを30分間、動作させ、30分経過後に、ファン31と吸気ダクト27側のファン30とを動作させるようにすることができる。このような構成とすれば、飼育室などの室内を掃除する間は活性化ガスの放出は必要ないので、一定時間(30分)の間、吸気ダクト27側のファン30を止めて、活性化ガスの送風を止めることができる。この際、排気ダクト28側のファン31は作動しているので、室内の空気を室外へ放出することができる。そして、作業が終わった後に、両方のファン30、31を作動させて、活性化ガスの放出と、室内空気の排気とを行うことができる。このように、効果的に除菌及び空気の交換を行うことができる。
このような構成とすることにより、スイッチ34やセンサ33と連動して、活性化した空気の放出量を変動させ、高速かつ大量に活性化ガスを対象空間に放出し、かつ対象空間から漏れ出る空気の量を極力抑制することが可能となるので、飼育などに適した最適な除菌を行うことができる。
なお、吸気ダクト27及び排気ダクト28の数はそれぞれ一つである必要はなく、それぞれ複数個設けてもよい。また、吸気ダクト27及び排気ダクト28のそれぞれの総送風量は、ほぼ同等であることが望ましいが、例えば吸気量と排気量との比率が1:2若しくは2:1の比率以内に収まる場合であれば、ウイルス不活性化などの効果を十分に得ることができる。また、図14では、吸気ダクト27及び排気ダクト28のダクト及びファンは、類似の形状となっているが、必要に応じて異なる形状としてもよい。
さらに、吸気ダクト27又は排気ダクト28は、図14中ではその長さが短い態様となっているが、適宜の場所まで延長させる態様としてもよい。また、吸気ダクト27又は排気ダクト28にフィルターを設けたり、空気清浄機に接続してもよい。粉塵や病原菌等の移動および拡散を防ぐことができるので、より安全な本装置の運転を可能とすることができる。さらにまた、熱交換器を一体的に設けて、温度あるいは湿度制御機能を有し、室内環境を安定化させる構造としてもよい。さらに、吸気ダクト27および排気ダクト28は完全に別の系統である必要はなく、室内の温度等の確保や、活性化ガスの濃度確保のため、吸気ダクト27と排気ダクト28を一部結合した構造としてもよい。
なお、上記実施形態においては、イオン発生装置4を飼育室3の壁面に設けたが、第4の実施形態のように、飼育室3の周囲を取り囲む構造体19内に活性化ガスを放出する場合には構造体19の壁面に本イオン発生装置4を設けるなど、適宜対応可能である。
また、本実施例で示したイオン発生装置4は、動植物の飼育施設に用いることで、効果を得ることが可能であるが、本装置の効用はこれに限るものではなく、その他の応用にも利用できるものであり、イオン発生装置4自体に発明の価値を有するものである。例えば、家庭やビル、病院等の各種居住空間や、クリーンルームや工場等の製造空間に用いることが可能である。このような施設の壁面開口に、本イオン発生装置4を取り付ければ、活性化ガス発生手段で活性化ガスを発生させて、送風手段で施設空間内に活性化ガスを拡散できる。そして、排気手段により施設空間内の空気を排気することができる。このような空間に使用した場合、対象空間から、別の空間への病原菌やウイルス等、さらには各種汚染物質の拡散を抑制することが低コストで実現可能になる。