JP6136472B2 - タンパク質素材およびその製造法 - Google Patents
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Description
例えば大豆タンパク質はアミノ酸組成のバランスが良く、またコレステロール低下作用に代表されるような生理機能を有しており、栄養面や生理機能面を期待した栄養・健康訴求食品で使用されている。
したがって、未だ少量で効率良くこのようなタンパク質を補給できるよう食品を自由に設計することは困難な状況である。
そこで本発明の目的は、高タンパク質濃度であっても低粘度で加熱によるゲル化や凝固といったタンパク質特有の物性変化が生じにくく、かつ、タンパク質の酵素分解物由来の苦味やエグ味等の不快味の少ない特長の風味を有し、さらには、タンパク質の等電点付近のpHにおいても不溶化による沈殿、分離が生じにくく、実用的に使えるレベルの安定性を有しており、それゆえ様々な飲食品に対して高濃度でも使用することのできる汎用性の高いタンパク質素材を提供することにある。
そしてさらに、本発明はこのタンパク質素材を用いて、ペクチンを使用した酸性ゲル状食品のタンパク質をペクチンのゲル化に影響を及ぼすことなく安定に強化する手段の提供を目的とする。
(1)下記1〜4の要件を満たすタンパク質素材。
1.乾物あたりのタンパク質含量が50重量%以上、
2.0.22M TCA可溶率が30〜70%、
3.pH3.5、pH4.5及びpH5.5における水溶解率がいずれも30〜70%、
4.タンパク質素材の水分散液のゼータ電位がpH2〜3においていずれも−10〜20mVとなるように水溶性多糖類を含有する。
(2)さらにpH7における水溶解率が30〜70%である、前記(1)記載のタンパク質素材。
(3)タンパク質換算で19重量%水分散液のpH7における粘度が20℃において1000mPa・s以下である、前記(1)記載のタンパク質素材。
(4)タンパク質換算で19重量%水分散液の、pH7で95℃で10分間加熱した後における粘度が、20℃において1000mPa・s以下である、前記(3)記載のタンパク質素材。
(5)タンパク質換算で1重量%水分散液の、pH4、pH5及びpH5.5における保存沈降率がいずれも5%以下である、前記(1)記載のタンパク質素材。
(6)0.22M TCA可溶率が30〜70%のタンパク質加水分解物及び水溶性大豆多糖類を含有し、該タンパク質加水分解物と水溶性大豆多糖類は複合化されており、乾物あたりのタンパク質含量が50重量%以上であることを特徴とするタンパク質素材。
(7)タンパク質加水分解物が大豆由来である、前記(6)記載のタンパク質素材。
(8)下記工程を有することを特徴とするタンパク質素材の製造法。
1.タンパク質を含む水分散液に対して、0.22M TCA可溶率が30〜70%となるようにタンパク質分解酵素で加水分解処理を行い、該分解処理によって生ずる不溶性タンパク質を含むタンパク質加水分解物を得る工程、
2.タンパク質もしくはタンパク質加水分解物、並びに、1種以上の水溶性多糖類を水系下に混合する工程であって、該水溶性多糖類は、該タンパク質素材の水分散液のゼータ電位がpH2〜3においていずれも−10〜20mVとなるような水溶性多糖類であること、
3.タンパク質加水分解物と該水溶性多糖類とを複合化する工程。
(9)ペクチンによりゲル化され、かつタンパク質が強化された酸性ゲル状食品であって、該タンパク質として前記(1)〜(7)の何れか1項に記載のタンパク質素材が使用されることを特徴とする、酸性ゲル状食品、
(10)酸性ゲル状食品が、LMペクチンと二価金属イオンとの反応によってゲル化させたものである、前記(9)記載の酸性ゲル状食品、
(11)LMペクチンと該タンパク質素材とを含有する溶液、及び、二価金属イオンを混合し、ゲル化させることを特徴とする、前記(10)記載の酸性ゲル状食品の製造法、
(12)二価金属イオンと混合してゲル化させて酸性ゲル状食品を調製するための、LMペクチンとタンパク質素材とを含有する酸性ゲル状食品用液体ベースであって、タンパク質素材として前記(1)〜(7)の何れか1項に記載のタンパク質素材が使用されていることを特徴とする酸性ゲル状食品用液体ベース、
(13)二価金属イオンと混合してゲル化させて酸性ゲル状食品を調製するための、LMペクチン及び前記(1)〜(7)の何れか1項に記載のタンパク質素材を含有する密封容器詰め酸性ゲル状食品用液体ベースと、密封容器詰めの二価金属イオンもしくはその含有物とが組み合わされたことを特徴とする、酸性ゲル状食品調製用セット、
(14) 二価金属イオンと混合してゲル化させて酸性ゲル状食品を調製するための、冷水可溶性LMペクチン,前記(1)〜(7)の何れか1項に記載のタンパク質素材及び二価金属イオンを含有することを特徴とする酸性ゲル状食品用粉末ベース、
(15)前記(9)に記載の酸性ゲル状食品であって、ペクチンがHMペクチンであり、タンパク質が10〜40重量%、および、糖質が30〜80重量%であり、pHが3〜4であることを特徴とする、酸性ゲル状食品。
しかも、嗜好上好ましくない酵素分解物由来の苦味はもとよりエグ味や酸味などの不快味が少ないタンパク質素材を提供することができる。そのため、最終製品に様々なフレーバリングを行うことが可能となり、自然な風味付けを行うことができる。
また本発明によれば、酸性から中性までのどのようなpHの飲食品においても、タンパク質を容易に水に分散させることが可能であり、かつ、ざらつきが少なく分散安定性にも優れた汎用性の高いタンパク質素材を提供することができる。
したがって、本発明のタンパク質素材によれば、飲食品の各種pHや濃度に合わせてそれぞれに適した他のタンパク質を逐次検討することを要さず、幅広く使用することができる。
そして、本発明のタンパク質素材を用いれば、ペクチンを利用した酸性ゲル状食品に添加しても、酸性pH下でペクチンとタンパク質が電気的に反応して凝集を生ずることがなく、安定にタンパク質が強化された酸性ゲル状食品を製造することができる。
本発明において、タンパク質素材はタンパク質を主成分とし、各種飲食品その他の加工製品の製造において使用される原料素材である。このタンパク質素材は、タンパク質を含む原料(タンパク質原料)からさらに加工して調製される。
また大豆タンパク質抽出液や分離大豆タンパクとしては、タンパク質成分の分画操作や特定のタンパク質成分に富んだ種の大豆を用いること等により得られる、β−コングリシニンまたはグリシニンを多く含むタイプのものも使用できる。
本発明のタンパク質素材は、特定の分解度の範囲までタンパク質が分解されていることが重要である。加水分解処理はタンパク質を含む水分散液に対して行うことができる。タンパク質の特定の加水分解は、本発明のタンパク質素材の酸性pHにおける水溶解率の安定化と共に、水分散液の低粘度化、水分散液の加熱による粘度上昇の抑制や保存沈降率の低減(耐熱性の向上)等に寄与し、風味においても酸性の水分散液で特に感ずる好ましくない渋味の低減に寄与する。
反応の際のタンパク素材の溶液pHは、使用する酵素の種類や至適pHにもよるが、概ねpH2〜12、好ましくは3〜11の間で適宜選択することができる。
本発明のタンパク質素材は、pH3.5、pH4.5及びpH5.5のいずれのpHにおいても水溶解率が30%以上であってかつ70%以下であることが特徴である。この3点のpHにおける水溶解率がいずれもかかる範囲にあることは、実質的にpH3.5〜5.5という多くのタンパク質の等電点を含む広範囲の酸性pH領域にて水溶解率がかかる範囲に維持されていることを意味する。高配合時の粘度の理由からさらに水溶解率は上記pH範囲において40%以上が好ましく、また風味の理由から、さらに60%未満であるのが好ましい。
すなわち、幅広いpH域においてタンパク質の等電点による水溶解率の変動に留意することなく、一定の範囲の水溶解率を維持しており、この性質は広いpH範囲において実用的に使用するために重要である。
本発明のタンパク質素材の製造においては、タンパク質又はタンパク質加水分解物を、特定の水溶性多糖類と水系下に混合する。そして最終的にタンパク質加水分解物と作用させ、これらを複合化する工程を経ることが重要である。これにより本発明のタンパク質素材は特定の水溶性多糖類と複合化されていることにより、好ましくない不快味が抑制されると共に、また幅広いpHにおける水分散液の保存安定性が高められ、高濃度の水分散液の加熱前後の粘度上昇が抑制され、低濃度の水分散液では加熱によるタンパク質の凝集が抑制される効果が付与される。
なお、本発明においてゼータ電位は市販のゼータ電位測定装置である「ゼータサイザー(Zetasizer(R))」(Malvern Instruments社製)を使用し、指定された方法により測定することができる。具体的な測定方法は後述する。
タンパク質加水分解物と水溶性多糖類とを作用させ、複合化するための手段としては、ホモゲナイザー等による高圧による均質化方法や、ジェットクッカーやVTIS等の高温高圧下で蒸気を水分散液に直接注入することによって行われる蒸気吹込式等の直接蒸気加熱処理装置を行う方法などが適用できる。
高圧の均質化方法による場合、その圧力は例えば10〜100MPaとすることができる。直接蒸気加熱処理装置による場合は130〜160℃で1〜60秒間処理することが好ましい。均質化の圧力が低すぎたり、加熱処理の温度が低すぎると複合化が不十分となり、本発明のタンパク質素材を得られない。例えば、一般の飲料の製造で使用されるプレート殺菌等の殺菌目的の加熱処理のみでは複合化が不十分である。
本発明のタンパク質素材が大豆等の植物由来である場合、製品の求められる品質やコストに応じてフィチン酸含量を調整してもよいし、調整しなくともよい。酸性可溶大豆タンパクのようにフィチン酸含量を低減する場合は、フィターゼ等の酵素で処理すると良い。
本発明のタンパク質素材は、必要により製造工程中にpH2〜10に適宜調整を行い、所望のpHの製品にすることができる。得られたタンパク質素材は、液状のままでもよいが、噴霧乾燥等により粉末状の形態として最終製品化することができる。
得られるタンパク質素材は、NSI(窒素溶解度指数)が30〜70であるのが好ましい。
本発明で提供されるタンパク質素材は、高濃度で配合した時に加熱前後で低粘度であることが特長である。これを数値化するにあたりタンパク質換算で19重量%水分散液のpH7における加熱前後の粘度(20℃)を低粘度性の指標として設定した。
これによると本発明のタンパク質素材は、加熱前の粘度がpH7において20℃において1000mPa・s以下、より好ましくは700mPa・s以下、さらに好ましくは500mPa・s以下、さらに好ましくは200mPa・s以下、最も好ましくは100mPa・s以下という低粘度であるのが特徴でありうる。
すなわち、市販のタンパク質素材の場合、水分散液の濃度が19重量%もあるとその粘度が加熱前後において急激に上昇し、あるいはゲル化してしまう。一方、本発明のタンパク質素材の水分散液はpH7において加熱前後における粘度上昇がなく、もしくは緩慢であり、低粘度で流動性を維持することができる。
本発明のタンパク質素材は、さらにpH7以外のpH範囲においても加熱前後における粘度が上記範囲内であることが望ましい。
本発明で提供されるタンパク質素材は、タンパク質換算で1重量%水分散液の、pH4、pH5及びpH5.5における保存沈降率がいずれも5%以下であることも特長でありうる。かかる特性は主に前記の水溶性多糖類の添加によりもたらされる。
なお、本発明において水分散液の保存沈降率は以下の通り測定するものとする。
タンパク質換算で1重量%水分散液を調製し、これらを試験管に注入し、室温(20℃)にて30分間静置後、全体の液の高さに対する上澄みの高さの割合(%)として算出した。
本発明で提供されるタンパク質素材は、例えば5重量%以下のような希薄分散液の場合に、加熱によるタンパク質の凝集や沈降の少ないものであることも特長でありうる。この特長を有することは、飲料(特に酸性)の製造時に必須である加熱殺菌工程に対して耐熱性を発揮する利点につながる。
本発明で提供されるタンパク質素材が持ちうる主要な特長を列挙すると以下の通りである。
(1)高濃度に配合しても低粘度であり、加熱により熱凝固やゲル化が生じにくく、耐熱性を保持しうる。
(2)タンパク質の酵素分解物由来の苦味やエグ味等の不快味が少ない、良好な風味を有する。
(3)飲食品のpHが酸性であるか、中性であるかを問わず、容易に水に分散させることが可能である。飲食品へ使用する際に、タンパク質原料中に含まれるタンパク質の等電点による凝集および沈降に留意することを必要としない。
(4)液体での分散安定性に優れ、ざらつきも少ない。
(5)低濃度(5%以下)の液ではpH5以下の酸性下で加熱した後でも凝集および沈降を生じにくい。
本発明のタンパク質素材の副次的な1つの特徴は、飲食品の安定剤やゲル化剤として多用されるLMペクチンやHMペクチンとの反応性が低いことである。
通常、大豆タンパク質や乳ホエータンパク質は等電点以下の酸性域でペクチンとの反応性が高く、凝集が生ずることが問題となる。
具体的に説明すると、一般的な加工食品に添加されるタンパク質素材としては各種動植物性由来のタンパク質素材が存在するが、一般にカゼインや大豆タンパク質などは固有の等電点が存在し、その等電点付近(pH4.5付近)のpHでは溶解性が低下し、それら自身が凝集してしまう。また酸性pH下で可溶である乳ホエータンパク質でさえ、酸性溶液中ではペクチンとの共存下で電気的に反応して凝集してしまう。そのため、ペクチンが添加された酸性ゲル状食品に使用できるタンパク質としては、アミノ酸スコアが0で栄養価の低いコラーゲンペプチドなどに限定されてしまう。
これに対して本発明のタンパク質素材は、ペクチンとの共存下で加熱しても凝集することがないのが特徴であり、ペクチンとの相互作用に留意しなくとも、各種飲食品にペクチンと併用して配合することができる。
本発明のタンパク質素材を使用すれば、ペクチンがゲル化剤や安定剤などとして使用されている、高タンパク質の酸性ゲル状食品を得ることができる。
ペクチンはDE(エステル化度:メチルエステル化されたガラクツロン酸の割合)が50%以上であるHMペクチン(高メトキシルペクチン)と、DEが50%未満のLMペクチン(低メトキシルペクチン)とに分類される。本発明のタンパク質素材は、これらいずれのペクチンを使用した酸性ゲル状食品にも使用することができる。
HMペクチンを利用したゲルは、一般にHMペクチンを含む溶液の糖度(Brix)を水分を蒸発させることにより高め、それを酸性pHに調整することによって調製することができる。
また、LMペクチンを利用したゲルは、LMペクチンを含む溶液中でカルシウムイオンなどの二価金属イオンとLMペクチンを反応させ、ゲル化させることにより調製することができる。この性質を利用してLMペクチンの溶液と牛乳のようなカルシウム高含有の食品を混合することによってもゲルを調製することができる。
本発明における酸性ゲル状食品の一態様としては、LMペクチンと二価金属イオンを混合し、これらの反応によりゲル化させて調製したものが挙げられる。該酸性ゲル状食品中に本発明のタンパク質素材を添加することにより、製造中の液体中でLMペクチンとタンパク質とが反応し、凝集することなくLMペクチンを使用した高タンパク質の酸性ゲル状食品を製造することができる。
この際、該溶液の調製はLMペクチンを溶解させるために80℃以上に加熱しつつ行うのが一般的である。
ただし冷水可溶性LMペクチン(例えば、「UTFC LM QS 400C」(ユニテックフーズ(株)製など)の場合は30℃以下の水温でも調製することができ、この場合は二価金属イオンも含めた全原料を粉末で予め混合しておき、これを水に溶解すると共にゲル化させて酸性ゲル状食品を得ることもできる。
得られる酸性ゲル状食品のpHはpH3以上7未満、好ましくは3.5〜6.5、より好ましくは3.5以上6未満であるのが適当である。
この酸性ゲル状食品を構成部分として、さらに別の液体、ゼリー、ホイップクリーム、フルーツ、ナタデココなどと種々組合せた酸性ゲル状食品の応用製品を製造することも可能である。
本発明のタンパク質素材を使用することにより、予めLMペクチン,該タンパク質素材,酸味料や果汁等の酸性化剤,及びその他必要により糖類や香料等の他原料を含有する酸性ゲル状食品用液体ベースを製造し、密封容器に無菌状態で充填してこれを提供することによって、消費者が家庭において該液体ベースと二価金属イオンを含む牛乳などと混合し、LMペクチンを使用した高タンパク質の酸性ゲル状食品を簡便に調製できるようにすることも可能である。さらに、本発明の酸性ゲル状食品用液体ベースは、タンパク質が含まれることにより油脂を配合し安定な乳化系とすることもできる。したがって、中鎖脂肪酸や高度不飽和脂肪酸などの機能性油脂なども加えることができ、栄養バランスに優れた酸性ゲル状食品を調製することができる。
さらに同様の目的で、上記の密封容器に無菌状態で充填した、密封容器詰め酸性ゲル状食品用ベースと、別の密封容器に充填した密封容器詰め二価金属イオン又はその含有物とを組み合わせて、酸性ゲル状食品調製用セットとして提供することも可能である。
本発明のタンパク質素材を使用することにより、予め冷水可溶性LMペクチン、該タンパク質素材、二価金属イオン、酸味料や果汁粉末などの酸性化剤、及びその他必要により糖類や香料、上述した油脂等の他原料を粉体混合して酸性ゲル状食品用粉末ベースを製造し、これを提供することによって、消費者が家庭において該粉末ベースを水や牛乳などに溶かし、LMペクチンを使用した高タンパク質の酸性ゲル状食品を調製できるようにすることも可能である。これによって、消費者はLMペクチンを予め熱水で溶解させる必要がなく、簡便に水を入れて撹拌するだけで該ゲル状食品を調製し、食することができる。
この際、冷水可溶性LMペクチンが先に溶解してから二価金属イオンがLMペクチンと反応させるように、二価金属イオンは遅溶性(ゆっくりと酸性で溶解する性質)であることが好ましく、例えば硫酸カルシウム,リン酸三カルシウムや炭酸カルシウムなどが好ましい。
本発明における酸性ゲル状食品の別の態様としては、HMペクチンを使用したいわゆる「ペクチンゼリー」が挙げられる。ペクチンゼリーはHMペクチンと糖類を含む原料を水に溶解し、100℃以上に加熱して水分を30重量%以下に蒸発させ、これに酸味料や果汁などの酸を添加してpHを3〜4の酸性にすることによって製造することができる。該ペクチンゼリー中に本発明のタンパク質素材を添加することにより、製造中の液体中でHMペクチンとタンパク質とが反応して凝集することもなく、高タンパク質のペクチンゼリーを製造することができる。
該酸性ゲル状食品は、タンパク質が10〜40重量%が好ましく、糖質は30〜80重量%が好ましく、pHは3〜4であることが好ましい。HMペクチンの含有量は1〜10重量%が好ましい。本発明のタンパク質素材は糖質と代替して配合することが可能であるため、より低糖で高タンパク質の栄養バランスに優れたペクチンゼリーを提供することが可能である。
本発明のタンパク質素材の副次的なさらに1つの特徴は、低加水量(例えば1〜1.5倍量)で水和し、容易にペースト化することができることである。これは小麦粉などと同等の水和性であることを意味する。そのため水和した生地の経時的な硬さ等の物性変化が少なく、しかもざらつきの少ない食品生地を提供できる。
従来の分離大豆タンパク等のタンパク質素材は、保水性が非常に高いため、焼き菓子等の生地に多量に添加すると加水量を過剰に増やす必要があり、そのため焼成時間を長くしなければならず、焼き菓子表面のみが焦げて内部は焼成不十分となるなどの問題があった。
また、従来のタンパク質素材は吸水性が高いため、水あめやチョコレート等に粉末状態で練りこんだり、焼き菓子に配合すると、喫食時に口腔内で唾液が奪われ、口腔内の潤滑性が著しく低下し、オカラを食したときのような不快感を強く感じやすい。これに対して、本発明のタンパク質素材は、吸水性が低い性質を有し、口腔内で唾液を奪いすぎることがなく、口腔内の潤滑性の低下が少なく、上記のような不快感が改善されている。
本発明のタンパク質素材の副次的なさらに1つの特長は、粉体の吸油性が高いことである。例えば、粉体1重量部に対し、油脂(融点に関わらず混合時は液体にする)を少なくとも0.5重量部吸油させることができ、1重量部以下、好ましくは0.8重量部以下を吸油させることができる。ここでいう吸油とは粉体が油脂を保持し、粉体が連続相になっている状態をさす。したがって、油脂が粉体から染み出し油脂が連続相になっている状態ではない。吸油性が高いとは、粉体が吸油できる油脂の重量が大きいことをいう。
モジナイザー等の乳化機を用いることなく、高濃度のO/W乳化物を容易に調製できる。例えば、粉体:油脂:水=1:1:1のような高タンパク質、高油分のO/W乳化物の調製が可能である。
本発明のタンパク質素材の副次的なさらに1つの特長は、水分散液の耐塩性が向上していることである。通常、酸性域でホエータンパク質や酸性可溶大豆タンパクの水溶液に水溶性となるアルカリ金属塩(例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩等)を添加すると、特に加熱処理より凝集・凝固が生じやすい。このため、酸性の濃厚流動食(液状・半固形)、高栄養ゼリーにおいてタンパク質を高配合して製造しようとすると、製造工程や品質上で種々の制約を受ける。
本発明における分析値は以下の測定方法に従うものとする。
○平均分子量
50mMリン酸緩衝液(1%(重量/体積)SDS、1.2%(重量/体積)NaCl、pH7.0)を用いて希釈調整したタンパク質分解物溶液を、10分間超音波処理を行った後、0.2μmフィルターを用いて濾過する。得られた濾液を0.4ml/minの流速、室温20℃で、「TSK gel(R) G3000SWXLカラム」を「TSK gel(R) G2000SWXLカラム」(何れも東ソー(株)製、カラムサイズ:内径7.8mm×長さ30cm)と直列につないで連続で通し、上記リン酸緩衝液を用いてタンパク質分解物を溶出する。タンパク質分解物の検出はUV検出器を用い、220nmの吸光度を測定して行う。これにより、各画分に分離精製されたタンパク分解物の重量平均分子量を、GPCソフトウェア(東ソー(株)製)を使用して得られたチャートから算出する。
335,000(Thyrogloblin、和光純薬工業(株)製)
150,000(γ-globlin、和光純薬工業(株)製)
67,000(Albumin(BSA)、SIGMA社製)
43,000(Peroxidase、和光純薬工業(株)製)
18,000(Myoglobin、SIGMA社製)
12,384(Cytochrome-C、SIGMA社製)
5,734(Insulin、SIGMA社製)
307(Glutathione、和光純薬工業(株)製)
137(p-アミノ安息香酸、和光純薬工業(株)製)
タンパク質素材の0.1重量%水溶液を試料として用い、測定装置としては「Zetasizer(R) Nano ZS」(Malvern Instruments社製)を用い、付属の自動滴定装置「MPT-2」にてpH2〜7の範囲を0.5刻みで連続測定する。pH調整は0.25M水酸化ナトリウムと0.25M 塩酸を用いて行う。データ処理は付属のソフトウェアを用いてゼータ電位曲線を求める。
未分解品である分離大豆タンパク「フジプロ(R)F」(不二製油(株)製、タンパク質含量:乾物あたり90.8%)を10%に溶解(pH7.1)し、40℃に加温した状態で市販品のプロテアーゼの添加量と反応時間を種々変更して加水分解し、反応後、pH7に調整して加熱殺菌し、噴霧乾燥を行い、7種類のタンパク質加水分解物(a〜f)を得た。得られた加水分解物の分解度(0.22M TCA可溶率)は、それぞれa:20%、b:25%、c:30%、d:45%、e:55%、f:75%であった。また、これらの加水分解物の窒素溶解指数(NSI)はそれぞれ91、90、72、50、59、78であった。
各分解度のタンパク質加水分解物a〜fをタンパク質濃度19%とした溶液を調製し、沸騰水中で10分間加熱処理前後での20℃の粘度をB型粘度計にて測定した。表1に結果を示す。
各分解度のタンパク質加水分解物a〜fをタンパク質濃度として5%配合した簡易粉末飲料(グラニュー糖7%、pH5.0)を調製し、10人のパネラーに依頼し、苦味とエグ味を総じて不快味の評価を行った。不快味の評価基準は1(全く不快味なし)、2(僅かに不快味がある)、3(不快味がある)、4(不快味が強い)、5(不快味が非常に強い)の5段階とし、各パネラーが与えた評価の平均値を算出した。表2に結果を示す。
したがって、上記の結果から、55%以上の分解度のタンパク質加水分解物は、高タンパク質濃度において良好な加工適性を示すものの、分解度が増すほど酵素分解物由来の苦味が強くなり、利用しにくい傾向にあった。
大豆タンパク質加水分解物についてタンパク質濃度1%溶液を調製し、希薄な水酸化ナトリウムまたは塩酸にpH4〜6.5まで0.5刻みでpHを調整し、各pHにおける室温20℃で30分間静置後の溶液の状態を観察した。
大豆タンパク質素材としては、市販品A(0.22MTCA率25%)、市販品B(同35%)、市販品C(同50%)、市販品D(酸性可溶大豆タンパク、同15%)を使用した。これらは何れも酵素分解時に生ずるHMFを含むものである。
分散安定性の評価は、30分静置後の溶液の状態を観察し、上澄みのない状態で安定性がある状態(○)、やや上澄みがある状態(△)、完全に上澄みがあり、不溶物が形成されている状態(×)を評価した。結果を表3に示す。
したがって、高タンパク質濃度でも加熱前後において低粘度で加工適性が高く、分解物由来の苦味が少なく、かつ大豆タンパク質の等電点付近(4.5〜5.5)でも実用的に分散安定な状態を示すような大豆タンパク質加水分解物を、本実験では得ることができなかった。
比較例1で得られた大豆タンパク質加水分解物d(タンパク質含量:乾物あたり90.8%、分解度45%、HMF非分離タイプ、重量平均分子量約20,000)10部と、水溶性多糖類として、水溶性大豆多糖類「ソヤファイブ(R)S」(不二製油(株)製、以下「SSPS」と称する。)1部を80℃の温水89部に十分分散させた。この分散液を直接蒸気吹込式の加熱装置(アルファバル社製)を用いて加熱処理(140℃,10秒間)を行い、噴霧乾燥し、本発明のタンパク質素材を得た。得られたタンパク質素材のpH3.5、pH4.5、pH5.5及びpH7における水溶解率を測定したところ、それぞれ49%、48%、50%、50%であり、何れも30〜70%の中間的でフラットな水溶解率であった。
一方、比較例1の大豆タンパク質加水分解物dの前記pHにおけるゼータ電位は、それぞれ25mV、16mV、−29mVであり、pH2〜3においてはいずれも15mVを超える絶対値の高い正電位であった。そして、pH6においては−20mVを大きく下回り、比較的絶対値の高い負電位であった。すなわち、実施例1で得られたタンパク質素材については、pHの変化が水溶解率やゼータ電位に及ぼす影響が比較的緩やかであることがわかった。
下記表6の配合にてLMペクチンを配合した酸性ゲル状食品用液体ベースを調製した。果汁入り液体ソースを80℃で湯煎しプロペラ撹拌を行いながら、実施例1で得られたタンパク質素材、グラニュー糖、LMペクチンを添加し溶解した。80℃にて10分間撹拌を続け、香料を添加し、ソース部を調製した。この溶液のpHは3.5であった。その後溶液を容器に充填して密封し、80℃で5分間殺菌し、酸性ゲル状食品用液体ベースを得た。この液体ベースは、タンパク質が約6%含まれるにもかかわらず、LMペクチンとタンパク質との凝集が生ずることがなく、安定な品質を保持していた。
表6の配合において、実施例1のタンパク質素材の代わりに、分離大豆タンパク質「フジプロ(R)F」(不二製油(株)製)及び分離乳ホエータンパク質「PROVON(R) 190」(Glanbia Nutritionals社製)を使用し、実施例2と同様にしてそれぞれ酸性ゲル状食品用液体ベースを調製しようと試みた。
ところが、分離大豆タンパク質を使用したものは、分離大豆タンパク質が酸性溶液中で溶解しにくいため、加熱以前に凝集が生じてしまい、均一な酸性ゲル状食品用液体ベースを得ることができなかった。
また、乳ホエータンパク質は調合時には問題なく溶解したが、加熱後に凝集が生じ、これも均一な酸性ゲル状食品液体ベースが得られなかった。
分離大豆タンパク質は等電点がpH4.5付近にあり、酸性下では溶解性が低く、乳ホエータンパク質は酸性下で溶解するものの、加熱によりLMペクチンと反応してしまったことが原因と考えられる。
実施例1のタンパク質素材5g、桃とグレープフルーツの果汁粉末ミックス3.5g、冷水可溶性LMペクチン「UTFC LM QS 400C」(ユニテックフーズ(株)製)2.6g、砂糖5g、リン酸三カルシウム0.32gを粉体混合し、LMペクチンを配合した酸性ゲル状食品用粉末ベースを調製した。
該粉末ベースを100gの水に撹拌しながら溶解させ(pH4.7)、5分間放置すると、ゲル化してタンパク質含量が約4%の高タンパク質の酸性ゲル状食品(ムース)を得ることができた。
下記表7の配合にてHMペクチンを配合した高糖度の酸性ゲル状食品を調製した。
加熱釜に水と少量の消泡剤を予め入れ、次に原料A群を粉体混合して投入し、撹拌しながら昇温した。80〜90℃でHMペクチンが溶解したことを確認し、続いて原料B群を粉体混合して投入した。さらに原料C群を投入し、100℃以上で十分に水分を蒸発させた。Brix計で糖度が80%を超えると原料D群を添加してpHを3.5とし、加熱を止め型に流し込み、冷却し、型抜きして高タンパク質のペクチンゼリーを得ることができた。
表7の配合において、製造例1のタンパク質素材の代わりに、分離大豆タンパク質「フジプロ(R)F」(不二製油(株)製)及び分離乳ホエータンパク質「PROVON(R) 190」(Glanbia Nutritionals社製)を使用し、実施例4と同様にしてそれぞれペクチンゼリーを調製しようとした。
しかしながら、比較例2と同様の現象により、これらの配合ではペクチンゼリーを調製することができなかった。
Claims (14)
- 下記1〜4の要件を満たす、大豆由来のタンパク質素材。
1.乾物あたりのタンパク質含量が50重量%以上、
2.0.22M TCA可溶率が30〜70%の範囲にタンパク質が加水分解されていること、
3.pH3.5、pH4.5及びpH5.5における水溶解率がいずれも30〜70%、
4.水溶性大豆多糖類が該タンパク質加水分解物と複合化されている。 - さらにpH7における水溶解率が30〜70%である、請求項1記載のタンパク質素材。
- タンパク質換算で19重量%水分散液のpH7における粘度が、20℃において1000mPa・s以下である、請求項1記載のタンパク質素材。
- タンパク質換算で19重量%水分散液の、pH7で95℃で10分間加熱した後における粘度が、20℃において1000mPa・s以下である、請求項3記載のタンパク質素材。
- タンパク質換算で1重量%水分散液の、pH4、pH5及びpH5.5における保存沈降率がいずれも5%以下である、請求項1記載のタンパク質素材。
- 0.22M TCA可溶率が30〜70%の大豆由来のタンパク質加水分解物及び水溶性大豆多糖類を含有し、該タンパク質加水分解物と水溶性大豆多糖類は複合化されており、乾物あたりのタンパク質含量が50重量%以上であることを特徴とするタンパク質素材。
- 下記工程を有することを特徴とするタンパク質素材の製造法。
1.大豆由来のタンパク質を含む水分散液に対して、0.22M TCA可溶率が30〜70%となるようにタンパク質分解酵素で加水分解処理を行い、該分解処理によって生ずる不溶性タンパク質を含むタンパク質加水分解物を得る工程、
2.タンパク質もしくはタンパク質加水分解物、並びに、水溶性大豆多糖類を水系下に混合する工程、
3.該タンパク質加水分解物と該水溶性大豆多糖類とを複合化する工程 - ペクチンによりゲル化され、かつタンパク質が強化された酸性ゲル状食品であって、該タンパク質として請求項1〜6の何れか記載のタンパク質素材が使用されることを特徴とする、酸性ゲル状食品。
- 酸性ゲル状食品が、低メトキシルペクチンと二価金属イオンとの反応によってゲル化させたものである、請求項8記載の酸性ゲル状食品。
- 低メトキシルと該タンパク質素材とを含有する溶液、及び、二価金属イオンを混合し、ゲル化させることを特徴とする、請求項9記載の酸性ゲル状食品の製造法。
- 二価金属イオンと混合してゲル化させて酸性ゲル状食品を調製するための、低メトキシルペクチンとタンパク質素材とを含有する酸性ゲル状食品用液体ベースであって、タンパク質素材として請求項1〜6の何れか記載のタンパク質素材が使用されていることを特徴とする酸性ゲル状食品用液体ベース。
- 二価金属イオンと混合してゲル化させて酸性ゲル状食品を調製するための、低メトキシルペクチン及び請求項1〜6の何れか記載のタンパク質素材を含有する密封容器詰め酸性ゲル状食品用液体ベースと、密封容器詰めの二価金属イオンもしくはその含有物とが組み合わされたことを特徴とする、酸性ゲル状食品調製用セット。
- 二価金属イオンと混合してゲル化させて酸性ゲル状食品を調製するための、冷水可溶性低メトキシルペクチン,請求項1〜6の何れか記載のタンパク質素材及び二価金属イオンを含有することを特徴とする酸性ゲル状食品用粉末ベース。
- 請求項8に記載の酸性ゲル状食品であって、ペクチンが高メトキシルペクチンであり、タンパク質が10〜40重量%、および、糖質が30〜80重量%であり、pHが3〜4であることを特徴とする、酸性ゲル状食品。
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