JP7169558B2 - 分離植物性蛋白の製造法 - Google Patents

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Description

本発明は、分離植物性蛋白の製造法に関する。
蛋白質は高分子であり、ゲル化性、増粘性、保水性(吸水性)を有する場合が多い。蛋白質を高濃度に含む分離大豆蛋白質(Soy Protein Isolate; SPI)等に代表される、粉末状植物性蛋白質製品は、水を含まないため液状の製品に比べて流通がしやすく、保管の管理もしやすい。また該製品は、加工食品に高濃度に配合できるため、様々な加工食品への物性改良材としても幅広く使用されている。
例えば、大豆蛋白質はアミノ酸組成のバランスが良く、また血清コレステロール低下作用に代表されるような生理機能を有している。そのため大豆蛋白質は、栄養面や生理機能面を期待した栄養・健康訴求食品で使用されている。
日本の内閣府発表の「平成23年版 高齢社会白書」によると、65歳以上の高齢者人口は、過去最高の2,958万人となること、5人に1人が高齢者となることが記載されており、超高齢社会(全人口中65歳以上の高齢者の占める割合が、21%を超えた社会)が目前に迫っている。このような中、日本の厚生労働省が推進する「健康日本21」において挙げられている目標が、健康寿命の延伸である。ここで言われる「健康寿命」とは、生涯の間で病気や障害がなく過ごすことができた期間を指し、健康寿命(平均自立期間)=平均寿命-非自立期間(健康を損ない自立して生活できない期間)で表される。
健康寿命を延伸させるためには、必要量の栄養成分の摂取が欠かせない。特に蛋白質は、生命の維持に不可欠な物質であり、組織を構築すると共に、様々な機能を果たしている。厚生労働省が示す「日本人の栄養摂取基準」(2010年版)によると、蛋白質の推奨摂取量は、70歳以上の高齢者においても一般成人と同じ1日当たり60gである。しかし、一般に高齢者は、日常の生活活動が不活発である。そのため、高齢者の食欲は低下し、該食事摂取量は少なくなる。したがって、高齢者の場合、少量の摂取量で効率良く蛋白質を摂取することが必要とされる。
このような状況下、食品メーカーは、植物性蛋白質の優れた栄養生理機能を活用し、植物性蛋白質の補給を目的とした加工食品の開発に注力している。該加工食品のジャンルの一つとして、蛋白質が強化されたパン類が開発されている。
ここで、分離大豆蛋白質のような分離植物性蛋白は、蛋白質含量が高いため、各種食品の高蛋白質化の目的に適している。また該素材は、形態が粉末状であるため、小麦粉と同様に扱うことができる点で利点を有する。また、該素材は、豆乳のような多量の水を含まないため、蛋白質の強化のために食品に添加する量が制限されにくい点でも利点を有する。
しかしながら、蛋白質の強化を目的として粉末状植物性蛋白を食品に多量に添加すると、植物性蛋白質が一般に有する吸水性によって食品中の自由水を奪い、また、食品中の各種原料の機能の発揮を阻害する場合がある。そのため、粉末状植物性蛋白質を多量に添加した食品は、望ましい形状や物性が損なわれたり、食べたときの食感が悪化したりする場合がある。
したがって、食品に比較的多くの粉末状植物性蛋白質を添加しても、食品の形状や物性が損なわれたり、食べたときの食感の悪化が生じない技術を提供することが求められている。
特開平11-243844号公報 国際公開WO2007/114129号 特開2009-142200号公報 特開2016-2059号公報 国際公開WO2016/147754号 米国特許第4054679号明細書
特許文献1には、パン生地中に、粉末状大豆蛋白とキシラナーゼを添加することを特徴とする、蛋白質が強化されたパン類の製造法が記載されている。この技術は、蛋白質が強化されたパン類の比容積の低下の防止に貢献することが記載されている。
特許文献2には、酸化マグネシウムなどのマグネシウム塩を含み、部分的にプロテアーゼで加水分解された粉末状大豆蛋白素材が記載されている。この粉末状大豆蛋白素材は、実施例ではNSIが32かつ0.22M TCA可溶率が11%のもの、NSIが17かつ該TCA可溶率が10%のもの、NSIが45かつ該TCA可溶率が10%のもの、あるいはNSIが30かつ該TCA可溶率が22%のもの記載されている。この技術は、蛋白質が強化されたクッキーのような焼成食品の製造に有効であることについて、記載されている。
特許文献3の実施例には、大豆パフ(蛋白質含量78重量%)と粉末状大豆蛋白素材を焼き菓子生地に配合することが記載されている。大豆パフはエクストルーダーによって組織化されたものであるが、本技術はこれを用いることが特徴である。
特許文献4には、粉末状大豆蛋白素材を10~50重量%含有するペーストにし、これを100~250℃の熱風で水分量15重量%以下まで乾燥させ、再度粉末化した、パン類の蛋白質強化用大豆蛋白質素材が記載されている。そして、該素材を用いてパン類を製造することは、蛋白質が強化されたパン類の比容積の低下の防止に貢献することが記載されている。
各種食品に添加する蛋白質含量を高めるための分離植物性蛋白の製法として、上記特許文献1~5などの方法が提供されている。
しかしながら、特許文献1の方法では大豆蛋白添加によるパン品質の低下を添加剤によって補っており、分離植物性蛋白の本質的な改変には至っていない。
特許文献2では、二価金属塩の添加と酵素分解によって該素材の吸水性を抑える方法であり、食品製造の作業性は向上するが、蛋白質の低分子化による単位重量あたりの分子数増大によって、グルテンネットワークの阻害がより強くなってしまうため、高比容積が求められるパン類等の食品には適さない。
特許文献3では、エクストルーダーにより粒状に加工処理をすることが特徴であり、小麦粉などと同様の粉末として利用できない。
特許文献4では、蛋白質を低分子化せずに、熱変性による吸水性の低下を行っているが、本発明はより一般的な設備と実用的な条件での処理を特徴としており、効率的な生産が可能である。
以上に鑑みて、本発明は、新たな分離植物性蛋白の製造法を提供することを課題とする。特に、各種食品の蛋白質の強化に適し、各種食品に比較的多量に添加しても、該食品の形状や物性、食感などへの影響を抑えるため、吸水性の低い分離植物性蛋白の製造法を提供する。
別の態様では、本発明は、分離植物性蛋白の製造工程において、蛋白質溶液を加熱処理装置において加熱処理する際に、該溶液が酸性のpH範囲にあっても加熱処理装置内で溶液が凝固しない加工処理方法を提供する。
さらに別の態様では、本発明は、嵩密度が高い分離植物性蛋白を提供する。
本発明者らは、上記の課題に対して鋭意研究を重ねた結果、新たなアプローチにより前記課題を解決しうることを見出し、本発明の技術思想を完成するに到った。
すなわち本発明は、以下の発明を包含するものである。
(1)下記工程を含むことを特徴とする、分離植物性蛋白の製造法、(a)植物性蛋白質原料を水抽出して得られる蛋白質抽出液から蛋白質を濃縮し、蛋白質濃縮物を得る工程、(b)該蛋白質濃縮物又はその加水物に、ペクチン性多糖類またはアルギン酸エステルを、蛋白質に対して0.05重量%以上添加し、混合液を得る工程、(c)該混合液をpH3.5~5.5の酸性下において80~170℃の加熱処理を行い、加熱処理液を得る工程、(d)該加熱処理液を粉末化し、分離植物性蛋白とする工程、
(2)該分離植物性蛋白のNSIが50以下かつ、蛋白質に対するカルシウム含量が0.6重量%以下、かつマグネシウム含量が0.3重量%以下であることを特徴とする、前記(1)記載の分離植物性蛋白の製造法、
(3)(a)植物性蛋白質原料を水抽出して得られる蛋白質抽出液から蛋白質を濃縮し、蛋白質濃縮物を得る工程、及び(b)該蛋白質濃縮物又はその加水物をpH3.5~5.5の酸性下において80~170℃の連続式加熱処理を行い、加熱処理液を得る工程を有する分離植物性蛋白の製造工程において、(b)工程を行う際に、該蛋白質濃縮物にペクチン性多糖類またはアルギン酸エステルを混合しておくことを特徴とする、酸性下での加熱処理における蛋白質の凝固防止方法、
(4)(a)植物性蛋白質原料を水抽出して得られる蛋白質抽出液から蛋白質を濃縮し、蛋白質濃縮物を得る工程、(b)該蛋白質濃縮物又はその加水物に80~170℃の加熱処理を行い、加熱処理液を得る工程、及び(c)該加熱処理液を粉末化する工程を有する分離植物性蛋白の製造工程において、(b)工程の加熱処理の際に、該蛋白質濃縮物又はその加水物のpHを3.5~5.5の酸性下にしておくこと、及び該蛋白質濃縮物又はその加水物にペクチン性多糖類またはアルギン酸エステルを混合しておくことを特徴とする、分離植物性蛋白分離植物性蛋白の嵩密度の増大方法、
(5)下記工程を含むことを特徴とする、分離植物性蛋白の製造法、(a)分離植物性蛋白を用意し、これに加水して蛋白質濃縮物を得る工程、(b)該蛋白質濃縮物に、ペクチン性多糖類またはアルギン酸エステルを、蛋白質に対して0.05重量%以上添加し、混合液を得る工程、(c)該混合液をpH3.5~5.5の酸性下において80~170℃の加熱処理を行い、加熱処理液を得る工程、(d)該加熱処理液を粉末化する工程。
さらに、本発明は、以下の態様も包含するものである。
(1)下記の全工程を含むことを特徴とする、NSIが50以下の分離植物性蛋白の製造法、(a)植物性蛋白質原料を水抽出して得られる蛋白質抽出液から蛋白質を濃縮し、蛋白質濃縮物を得る工程、(b)該蛋白質濃縮物又はその加水物に、ペクチン性多糖類またはアルギン酸エステルを、蛋白質に対して0.05重量%以上添加し、混合液を得る工程、(c)該混合液をpH4~5.5の酸性下において80~170℃の加熱処理を行い、加熱処理液を得る工程、(d)該加熱処理液を粉末化し、分離植物性蛋白とする工程、
(2)該分離植物性蛋白の蛋白質に対するカルシウム含量が0.60重量%以下、かつマグネシウム含量が0.3重量%以下であることを特徴とする、前記(1)記載の分離植物性蛋白の製造法、
(3)前記工程(c)のpHが4.3~4.9である、前記(1)又は(2)記載の分離植物性蛋白の製造法、
(4)前記工程(c)において、前記工程(d)の前に、さらに該加熱処理液を中和する工程を含む、前記(1)~(3)の何れか1項記載の分離植物性蛋白の製造法、
(5)下記の全工程を含むことを特徴とする、NSIが50以下の分離植物性蛋白の製造法、(a)分離植物性蛋白を用意し、これに加水して蛋白質濃縮物を得る工程、(b)該蛋白質濃縮物に、ペクチン性多糖類またはアルギン酸エステルを、蛋白質に対して0.05重量%以上添加し、混合液を得る工程、(c)該混合液をpH3.5~5.5の酸性下において80~170℃の加熱処理を行い、加熱処理液を得る工程、(d)該加熱処理液を粉末化する工程、
(6)該分離植物性蛋白の蛋白質に対するカルシウム含量が0.60重量%以下、かつマグネシウム含量が0.3重量%以下であることを特徴とする、前記(5)記載の分離植物性蛋白の製造法、
(7)前記工程(c)のpHが4.3~4.9である、前記(5)又は(6)記載の分離植物性蛋白の製造法、
(8)前記工程(c)において、前記工程(d)の前に、さらに該加熱処理液を中和する工程を含む、前記(5)~(7)の何れか1項記載の分離植物性蛋白の製造法。
なお、本発明の目的とは異なるが、特許文献5では、大豆蛋白質の等電点よりも酸性側の可溶化領域であるpH2~4、好ましくはpH3.5以下で加熱処理することを特徴としている。この点、本発明では大豆蛋白質が不溶化するpH領域で加熱処理することが好ましい。
また特許文献6も、大豆蛋白質の等電点で加熱処理する発明が開示されているが、その目的は大豆蛋白質素材の風味の改良であり、本発明の目的とは異なる。
第一に、本発明により、新たな分離植物性蛋白の製造法を提供することができる。
副次的には、本発明の製造法によれば、特に、各種食品の蛋白質の強化に適し、低い吸水性を有する分離植物性蛋白を提供できる。これにより、本発明のある態様によれば、各種食品に比較的多量に添加しても、該食品の形状や物性、食感などへの影響を抑えることが分離植物性蛋白できる。
また、本発明の製造法によれば、嵩密度が高い分離植物性蛋白を提供できる。これらの物性により、水やドウ生地などへの分散性も高まり、各種食品の製造時における作業性の向上が図られる。また、嵩密度が高いことにより、包装をコンパクトにすることができ、保管時の省スペース化にも寄与できる。
以下、本発明について具体的に説明する。
(分離植物性蛋白)
本発明において「分離植物性蛋白」(Plant Protein Isolate)という用語は、原料である植物性蛋白質原料から蛋白質以外の成分、すなわち脂質、可溶性糖質、澱粉、不溶性繊維(オカラ)などをできるだけ除去し、蛋白質が濃縮された植物性蛋白素材を意味する。その蛋白質含量は、一般には固形分中70重量%以上、好ましくは80重量%以上、より好ましくは85重量%以上、最も好ましくは90重量%以上である。なお、本明細書においては、本発明より提供される分離植物性蛋白を、特に「本分離植物性蛋白」と称することがある。
(植物性蛋白質原料)
本分離植物性蛋白の原料となる植物性蛋白質原料としては、蛋白質を含む植物性原料が挙げられ、例えば大豆、エンドウ、緑豆、ヒヨコ豆、落花生、ルピナス、キマメ、ナタ豆、ツル豆、インゲン豆、小豆、ササゲ、レンズ豆、ソラ豆、イナゴ豆などの豆類や、ナタネ種子(特にキャノーラ品種)、ヒマワリ種子、綿実種子等の種子類や、小麦、大麦、ライ麦、米、トウモロコシ等の穀類などの全粒物やその粉砕物が挙げられ、これらから油脂や澱粉を工業的に抽出した粕を用いることもできる。これらに含まれる主要な蛋白質は等電点が約pH3~5、最も典型的には約pH4.4~4.6に存在する。特に分離蛋白として商業的に生産されている大豆、エンドウ、緑豆、ナタネ種子(キャノーラ種子)やこれらの油脂もしくは澱粉の抽出粕を用いることが好ましい。例えば大豆の場合は、全脂大豆や部分脱脂大豆を用いることもできるし、脱脂大豆を用いることもできる。
ここで、最も典型的な分離植物性蛋白の製造法を例示する。
まず、植物性蛋白質原料を適量の水で分散させて水抽出を行い、繊維質を主体とする不溶性画分を除去し、蛋白質抽出液を得る。該蛋白質抽出液を塩酸等の酸によりpH3~5、好ましくはpH4~5、より好ましくはpH4.2~4.8、さらに好ましくはpH4.4~4.6、さらに好ましくはpH4.45~4.55に調整し、蛋白質を等電点沈殿させて酸可溶性画分(ホエー)を除去する。回収した酸不溶性画分(カード)を再度適量の水に分散させてカードスラリーを得る。該カードスラリーを水酸化ナトリウム等のアルカリ剤で中和し、分離植物性蛋白を得る。
分離植物性蛋白は、溶液の状態において高温加熱処理装置によって加熱殺菌され、一般にはスプレードライヤー等により噴霧乾燥され、最終的に製品化される。
ただし、上記の等電点沈澱を用いる製造法は、典型的な例示であって限定されるものではなく、膜ろ過による蛋白質の濃縮法など、蛋白質の純度が高められる方法が適宜適用される。
(水溶性多糖類)
本分離植物性蛋白の製造法は、特定の水溶性多糖類が特定の工程において添加され、得られる本分離植物性蛋白は該水溶性多糖類を含有することが、一つの特徴である。ここで、「水溶性多糖類を含有する」の意味は、本分離植物性蛋白において、蛋白質などの他の成分と一体となっており、物理的に分離できない状態で含有することを指す。具体的には、この状態は例えば水系下において蛋白質と該水溶性多糖類の共存下、加熱処理などで均質化されることにより実現することができる。一方、分離植物性蛋白と水溶性多糖類とが単に粉同士で混合されただけのものは、本粉末状分離蛋白に該当しない。なお、本明細書においては、本分離植物性蛋白に含まれる特定の水溶性多糖類を、「本水溶性多糖類」と称することがある。
■ペクチン性多糖類
本水溶性多糖類は、ペクチン性多糖類又はアルギン酸エステルである。このうちペクチン性多糖類は、ガラクツロン酸を主鎖に含む酸性多糖類をいう。例えば、水溶性大豆多糖類、水溶性エンドウ多糖類、ペクチン等が挙げられる。
水溶性大豆多糖類や水溶性エンドウ多糖類は、ラムノース、フコース、アラビノース、キシロース、ガラクトース、グルコース及びガラクツロン酸等の糖類から構成される水溶性多糖類であって、一般には以下の条件で分析されるゲルろ過HPLC法で平均分子量が100万以下のものである。これらは大豆やエンドウの不溶性食物繊維(オカラ)を含む原料から公知の方法により水で抽出し、必要により精製して調製されたものを用いることができる。水溶性大豆多糖類は、市販品を使用することができ、例えば「ソヤファイブ(R)」シリーズ(不二製油(株)製)や「SM」シリーズ(三栄源エフ・エフ・アイ(株)製)などを用いることができる。また水溶性エンドウ多糖類も、市販品を使用することができ、また例えば国際公開WO2012/176852号や国際公開WO2014/103833号に記載の方法で得られるものを用いることができる。
ゲルろ過HPLCは、標準プルラン(昭和電工(株))を標準物質として、分析カラム「TSKgel G5000PWXL」(東ソー(株)製、カラムサイズ:7.8mmI.D.×30cm、充填剤基材:メタクリレートポリマー、充填剤粒子径:10μm、排除限界分子量:250万)を用いる。平均絶対分子量(MM)は、カラム通液後にトルエンでキャリブレーションしたマルチアングルレーザーライトスキャッタリング(MALLS)により求める。溶離液は例えば50mM酢酸ナトリウム水溶液(pH5.0)を用い、カラムの流速は1.0mL/分とし、検出器はRI検出器及びMALLS検出器を用いる。ただし、分析値に大きな誤差が生じない範囲で各分析条件を適宜変更してもよい。
■アルギン酸エステル
アルギン酸は、海藻由来の水溶性多糖類であり、マンヌロン酸とグルクロン酸を主鎖に含む酸性多糖類である。そして、アルギン酸エステルはアルギン酸の構成糖であるウロン酸のカルボキシル基にプロピレングリコールがエステル結合された誘導体である。
本分離植物性蛋白の固形分中における、本水溶性多糖類の含量は、0.5重量%以上が好ましい。さらに好ましい態様では、該含量は、0.5重量%以上、又は1重量%以上であり得る。ある態様では、該含量の上限は、5重量%以下、4重量%以下、又は3重量%以下であり得る。
(製造例)
本分離植物性蛋白の製造例を示す。ここでは植物性蛋白質原料として脱脂大豆を例として製造例を示すが、当業者はこれを参照することにより、他の植物性蛋白質原料も下記の製造態様に準じて、過度の試行錯誤を必要とせずに分離植物性蛋白を製造することができる。
■製造態様1
植物性蛋白質原料から本発明の分離大豆蛋白を製造する態様を示す。
I)抽出工程
脱脂大豆に加水し、攪拌等して懸濁液(スラリー)とし、蛋白質を水で抽出する。水は中性~アルカリ性のpH、例えばpH6.5~9、好ましくはpH7~9、より好ましくはpH7~8とすることができる。抽出後、該スラリーを遠心分離等の固液分離手段で不溶性食物繊維を主体とする不溶性画分(オカラ)を分離し、蛋白質抽出液(いわゆる豆乳)を得る。
II)蛋白質濃縮工程
次に、該蛋白質抽出液から蛋白質を濃縮し、蛋白質濃縮物を得る。典型的には、該蛋白質抽出液に塩酸やクエン酸等の酸を添加し、該抽出液のpHを大豆蛋白質の等電点であるpH4~5に調整し、蛋白質を不溶化させて酸沈殿させる。次に遠心分離等の固液分離手段により酸可溶性成分である糖質や灰分を含む上清(いわゆるホエー)を除去して、酸不溶性成分を含む「酸沈殿カード」を回収する。
該酸沈殿カードをそのまま蛋白質濃縮物として次の工程に供することができる。また、該酸沈殿カードを必要により加水し、アルカリ剤で中和したものを蛋白質濃縮物として次の工程に供することもできる。
ある態様では、上記の酸沈殿法の代わりに、該蛋白質抽出液から限外ろ過膜等による膜濃縮を行うことにより、蛋白質濃縮物を得ることもできる。
III)本水溶性多糖類の添加工程
次に、該蛋白質濃縮物に必要により加水し、必要により該カードを水で洗浄後、液状のスラリーを得る。そして該スラリーに上記した本水溶性多糖類を添加し、蛋白質-多糖類混合液を得る。
本水溶性多糖類の添加量は、該蛋白質濃縮物の蛋白質あたり少なくとも0.05重量%以上とし、さらに0.1重量%以上、0.3重量%、0.5重量%以上又は0.7重量%以上とすることができる。該添加量の上限は特に限定されないが、該蛋白質濃縮物の蛋白質あたり5重量%以下が適当であり、さらに4重量%以下、3重量%以下、2重量%以下、1.5重量%以下又は1.2重量%以下とすることができる。
本水溶性多糖類を上記の適当な量とすることで、所望の分離植物性蛋白を製造することができる。
該蛋白質-多糖類混合液は、最終的にpH3.5~5.5の酸性pH域にある状態で、次の加熱処理工程に供されることが本発明において重要である。該pH範囲は3.8以上、4以上、4超、4.05以上、4.1以上、4.2以上、4.3以上又は4.4以上とすることができる。また、5.3以下、5以下、4.9以下、4.8以下、4.7以下又は4.6以下等とすることができる。該酸性pH域への調整は、塩酸やクエン酸等の酸により、該蛋白質濃縮物の調整後、次の工程の加熱処理前であればいずれの段階においても可能である。例えば、該蛋白質濃縮物を得た後や、該水溶性多糖類の添加後にpH調整することができる。また、該蛋白質濃縮物のpHがすでにpH3.5~5.5の範囲内であれば、pH調整不要な場合もある。
pHを上記の適当な値とすることで、所望の分離植物性蛋白を製造することができる。
IV)加熱処理工程
次に、pH3.5~5.5の該混合液を80~170℃、1~120秒間加熱処理を行う。等電点付近のpH域にある蛋白質溶液を加熱処理を行うと、加熱処理装置内で粗大な凝集を引き起こし、最悪の場合加熱処理装置の配管が閉塞してしまう場合がある。本発明では上記III)の工程を経ることにより、蛋白質の凝集の発生を抑制することができ、安定して連続的に加熱処理液を得ることができる。加熱処理の工程は、間接加熱方式や直接加熱方式の何れの方法も利用でき、UHT殺菌が好ましい。例えばジェットクッカー装置やVTIS装置(アルファラバル社製)などのスチームインジェクション方式の連続式直接加熱殺菌装置を用いることができる。
該加熱温度は90℃以上、100℃以上、110℃以上、120℃以上、130℃以上又は140℃以上であることができる。また、160℃以下、155℃以下又は150℃以下であることができる。該加熱時間は、2秒以上、3秒以上又は4秒以上であることができ、また100秒以下、80秒以下、60秒以下、40秒以下、30秒以下、20秒以下又は10秒以下であることができる。
加熱温度を上記の適当な温度とすることで、所望の分離植物性蛋白を製造することができる。
V)中和工程
該加熱処理液に必要によりアルカリを添加し中和し、中和液を得る。この際に用いるアルカリは水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウムなど食品製造上用いることができるアルカリであれば種類に制限はない。必ずしも粉末化工程前に中和工程を必要としないが、製造工程中で添加する酸の中和による除去を目的とする場合、pH6~8、pH6.5~7.5、又はpH6.7~7.3の範囲で調整することができる。このときのpHが分離植物性蛋白のpHにほぼ相当するものとなる。
VI)粉末化工程
該中和液を乾燥粉末化し、目的の分離植物性蛋白を得る。乾燥機としては、例えば噴霧乾燥機、ドラム乾燥機、真空乾燥機、凍結乾燥機などを用いることができるが、噴霧乾燥機が好ましく用いられる。噴霧乾燥機の乾燥条件としては、例えば、送風温度約100~200℃、排風温度約60~100℃で行うことができる。また、必要により流動層造粒機により顆粒状に造粒加工することもできる。
■製造態様2
別の態様として、市販されている分離植物性蛋白を用意し、出発原料に用いることができる。この場合は、該分離植物性蛋白に加水し、これを製造態様1における「蛋白質濃縮物」として用い、III)の工程に供して以降の工程は同様にして、本分離植物性蛋白を得ることができる。
(本分離植物性蛋白の特徴)
以上により得られる本分離植物性蛋白の特徴を示す。
■水への溶解性(NSI)
本分離植物性蛋白は、水への溶解性が低いものである。その指標として、NSI(Nitrogen Solubility Index:窒素溶解指数)は50以下であり、45以下、40以下、37以下、35以下、30以下、25以下、22以下又は20以下であり得る。ちなみに、典型的な分離大豆蛋白である「フジプロF」(不二製油(株)製)の場合、NSIは99.5である。
(NSI)
なお、本発明において、NSIは所定の方法に基づき、全窒素量に占める水溶性窒素(粗蛋白)の比率(重量%)で表すことができ、本発明においては以下の方法に準じて測定された値とする。
すなわち、試料3gに60mlの水を加え、37℃で1時間プロペラ攪拌した後、1400×gにて10分間遠心分離し、上澄み液(I)を採取する。次に、残った沈殿に再度水100mlを加え、再度37℃で1時間プロペラ撹拌した後、遠心分離し、上澄み液(II)を採取する。(I)液および(II)液を合わせ、その混合液に水を加えて250mlとする。これを濾紙(NO.5)にて濾過した後、濾液中の窒素含量をケルダール法にて測定する。同時に試料中の窒素量をケルダール法にて測定し、濾液として回収された窒素量(水溶性窒素)の試料中の全窒素量に対する割合を重量%として表したものをNSIとする。
■二価金属塩の含量
一方、カルシウムやマグネシウム等の二価金属塩の添加などの加工処理によって、NSIを低下させた分離植物性蛋白も存在し、例えばNSIが20以上50未満のものも存在する。しかし、本発明の製造法では、2価金属塩の添加を行うことなく、NSIの低い分離植物性蛋白を製造することができる。すなわち、本分離植物性蛋白は、蛋白質に対するカルシウム含量が0.6重量%以下、かつマグネシウム含量が0.3重量%以下であることができる。該カルシウム含量は、さらに0.55重量%以下、0.5重量%以下、0.4重量%以下、0.3重量%以下又は0.2重量%以下であることができる。該マグネシウム含量はさらに0.2重量%以下、0.15重量%以下又は0.1重量%以下であることができる。さらには本分離植物性蛋白は、製造中にカルシウム塩又は/及びマグネシウム塩が添加されていないものであり得る。なお、カルシウム及びマグネシウムの含量は、公定された原子吸光法で測定される。
■分解度(0.22M トリクロロ酢酸可溶率)
本分離植物性蛋白は、プロテアーゼによる酵素分解がされていないことも特徴である。該酵素分解がされていないことの指標として、0.22M トリクロロ酢酸可溶率(以下、「TCA可溶率」と称する)を用いることができる。該数値は、分離植物性蛋白を蛋白質含量として1.0重量%となるように水に分散させ十分撹拌した分散液について、全蛋白質に対する0.22M トリクロロ酢酸に溶解する蛋白質の割合を、ケルダール法により測定したものである。蛋白質の加水分解が進行するにつれて、TCA可溶率の値は上昇する。
本植物性蛋白質素材は、このTCA可溶率が10%未満であることを特徴とする。ある実施態様では、TCA可溶率は上限が7%以下、6%以下又は5%以下であり得る。酵素分解された分離植物性蛋白は、しばしば各種食品の形状や物性にマイナスに影響する要因になる場合がある。そのような場合に本分離植物性蛋白は有用である。
■吸水性
本分離植物性蛋白は、典型的な分離植物性蛋白よりも吸水性が低いことも特徴である。吸水性のレベルは、吸水率を直接測定することが困難であるため、下記の「吸水性の評価方法」を用いて評価するものとする。
「吸水性の評価方法」
分離植物性蛋白50部、水100部及び大豆油50部の配合で、ホモジナイザー((株)日本精機製作所製、型番:ED-7)を用いて12000rpmで2分間撹拌し、エマルジョン生地を得る。
エマルジョン生地を作製できた場合には、該生地を容器径φ=5.5cm、容器高さh=1.5cmの容器に気泡が入らないように充填する。そして、テクスチャーアナライザー((株)島津製作所製、型番:EZ Test EZ-SX)を用いてプランジャー径φ=18mm、測定速度5mm/秒の条件にてエマルジョン生地の硬さ(gf)を測定する。
吸水性が高いほどエマルジョン生地の硬さは高い数値を示し、吸水性が高すぎる場合はエマルジョン生地を作製できなくなる。したがって、エマルジョン生地の作製の可否および該生地の硬さ(gf)の数値の大小によって吸水性のレベルを評価する。
本分離植物性蛋白の吸水性のレベルは、上記の測定方法にて、エマルジョン生地を作製できるレベルであり、好ましくは該生地の硬さが1300gf以下であり、より好ましくは1000gf以下であり得る。ちなみに、典型的な分離大豆蛋白である「フジプロF」(不二製油(株)製)などの場合、吸水性が高すぎて、該エマルジョン生地を作製できない。
■嵩密度
本分離植物性蛋白は、嵩密度が高いことも特徴である。
本分離植物性蛋白の嵩密度は、0.5g/cm以上であり、0.55g/cm以上、0.6g/cm以上又は0.65g/cm以上であり得る。ちなみに、典型的な分離大豆蛋白である「フジプロF」(不二製油(株)製)の場合、嵩密度は約0.45g/cmである。
なお、嵩密度は、「POWDER TESTER model PT-X」(ホソカワミクロン社製)を用いて、タッピング回数は180回に設定して測定する。
(分離植物性蛋白の用途)
以上のように、本分離植物性蛋白は、吸水性が低く、かつ嵩密度が高いため、いわば「細かい砂」のような性状をしている。そのため、これを各種食品に添加しても、その形状や物性、食感などに影響を与えにくい特徴を有し、蛋白質の増量材のように用い、食品の蛋白質を強化することができる。
例えば、本発明の分離植物性蛋白をパン類等に添加することにより、生地の伸展性などの作業性や焼成後の膨らみ、食感などの品質を維持しつつ、蛋白質を強化することができる。同様に、パン以外にもクッキー、ビスケット、パウンドケーキ等のベーカリー類、中華麺、うどん、そば、パスタ等の麺類、チョコレート、スナック、シリアル、和菓子等の菓子類、マーガリン、バター、ファットスプレッド等の加工油脂類、豆腐、油揚げ、がんも等の大豆加工品、粉末飲料、液体飲料、スープ等の飲料類等の各種食品の蛋白質の強化に利用することができる。
以下、実施例により本発明の実施態様をより具体的に説明する。なお、実施例中の「%」と「部」は特記しない限り「重量%」と「重量部」を示す。
(実施例1)
植物性蛋白質原料である脱脂大豆10部と、水100部とを混合し分散させ、ホモミキサーで攪拌しながら50℃で30分間蛋白質をpH7で抽出した後、遠心分離機を用いて不溶性食物繊維を主体とする不溶性画分(オカラ)を除去し、蛋白質抽出液を得た。
次に、該抽出液に対して、pH4.5になるまで撹拌しつつ塩酸を添加し、遠心分離機により上清を除去し、酸沈殿カードを回収した。
この酸沈殿カード(固形分4部)を水40部に分散してスラリー状の蛋白質濃縮物を得た。該蛋白質濃縮物のpHは4.5であった。
該蛋白質濃縮物に対し、水溶性大豆多糖類「ソヤファイブ-S-DA100」(不二製油(株)製)を蛋白質に対して1%添加し、そのまま蛋白質-多糖類混合液(pH4.5)を得た。
次に、該混合液に対して、スチームインジェクション方式の直接加熱処理装置にて140℃で10秒間の加熱処理を行った。
得られた加熱処理液に、水酸化ナトリウムを加えてpH7に調整して中和し、該中和液をスプレードライヤーを用いて噴霧乾燥し、分離大豆蛋白を得た。
(比較例1) 加熱処理時のpHの変更(pH7)
実施例1の蛋白質濃縮物(pH4.5)に水溶性大豆多糖類を添加した後、水酸化ナトリウムでpH7に調整する以外は、実施例1と同様にして分離大豆蛋白を得た。
(比較例2) 加熱処理時のpHの変更(pH2)
実施例1の蛋白質濃縮物(pH4.5)に水溶性大豆多糖類を添加した後、塩酸でpH2に調整する以外は、実施例1と同様にして分離大豆蛋白を得た。
(比較例3) 水溶性大豆多糖類の無添加
実施例1の蛋白質濃縮物(pH4.5)に水溶性大豆多糖類を添加することなく、そのまま次の加熱処理に供したところ、加熱処理装置の配管の中に蛋白質濃縮物の凝集が張り付いて閉塞し、連続的な通液ができなくなったため、運転を中止した。そのため、分離大豆蛋白を製造することはできなかった。
(実施例2) 加熱処理時のpHの変更(pH4)
実施例1の蛋白質濃縮物(pH4.5)に水溶性大豆多糖類を添加した後、塩酸でpH4に調整する以外は、実施例1と同様にして分離大豆蛋白を得た。
(実施例3) 加熱処理時のpHの変更(pH5)
実施例1の蛋白質濃縮物(pH4.5)に水溶性大豆多糖類を添加した後、塩酸水酸化ナトリウムでpH5に調整する以外は、実施例1と同様にして分離大豆蛋白を得た。
(実施例4) 水溶性大豆多糖類の添加量の変更(0.1%)
実施例1の蛋白質濃縮物(pH4.5)の蛋白質に対して水溶性大豆多糖類を0.1%添加する以外は、実施例1と同様にして分離大豆蛋白を得た。
(比較例4) 水溶性大豆多糖類の添加量の変更(0.01%)
実施例1の蛋白質濃縮物(pH4.5)の蛋白質に対して水溶性大豆多糖類を0.01%添加する以外は、実施例1と同様にして分離大豆蛋白を得た。
(実施例5) 水溶性大豆多糖類の添加量の変更(3%)
実施例1の蛋白質濃縮物(pH4.5)の蛋白質に対して水溶性大豆多糖類を3%添加する以外は、実施例1と同様にして分離大豆蛋白を得た。
上記の実施例1~5および比較例1~3の製造条件を表1にまとめ、各例で得られた分離大豆蛋白の各種成分分析値及び物性の測定値を記した。なお、蛋白質の含量は固形分中の含量を、カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)、水溶性大豆多糖類の添加率は蛋白質あたりの添加率を示す。
(表1)
Figure 0007169558000001
(考察)
比較例3の結果の通り、水溶性大豆多糖類を添加せずにスラリー状の蛋白質濃縮物をpH3.5~5.5の酸性pH領域で100℃以上の加熱処理をする場合、加熱処理装置の配管内に粗大な凝集物が目詰まりして、連続的な加熱処理ができなくなることが示された。
一方で、水溶性大豆多糖類を蛋白質濃縮物の固形分に対して1.0%添加している実施例1では、酸性pH領域での100℃以上の加熱処理をしても、驚くべきことに問題なく連続処理ができ、分離大豆蛋白を製造できた。
比較例1、比較例2では、加熱処理時の蛋白質濃縮物のpHが大豆蛋白質の等電点であるpH4.5から離れた領域(pH2、pH7)であったためか、得られた分離大豆蛋白のNSIは70%以上となり高い溶解性を示すものとなった。
一方で、加熱処理時の蛋白質濃縮物のpHを3.5~5.5の範囲に調整した実施例1~3で得られた分離大豆蛋白のNSIはいずれも30以下であり、低い溶解性を示した。
(実験例1) 水溶性多糖類の種類の検討
蛋白質濃縮物に添加する水溶性多糖類を水溶性エンドウ多糖類、アルギン酸エステル、アルギン酸ナトリウム、グァーガム、タマリンドガム、キサンタンガム、キトサン、アラビアガムなどに置換する以外は、実施例1と同様にして分離大豆蛋白の製造を試みた。
その結果、水溶性エンドウ多糖類とアルギン酸エステルについては、実施例1と同等の分離大豆蛋白を製造できた。しかし、他の水溶性多糖類では加熱処理装置の配管が閉塞し、連続的な通液ができなくなったため、運転を中止した。そのため、分離大豆蛋白を製造できなかった。
(実施例6)
市販の分離大豆蛋白「フジプロF」(不二製油(株)製、固形分中の蛋白質含量91.0%)を12部準備した。これを水88部に加え、これを蛋白質濃縮物(固形分88%)とした。該蛋白質濃縮物のpHは6.95であった。
該蛋白質濃縮物に対し、水溶性大豆多糖類「ソヤファイブ-S-DA100」(不二製油(株)製)を蛋白質に対して1%添加した後、塩酸を用いてpH4.5に調整し、蛋白質-多糖類混合液を得た。以降の工程は実施例1と同様にして、加工後の分離大豆蛋白を得た。
得られた分離大豆蛋白は、実施例1と同様の物性を有していた。
(実施例7)
植物性蛋白質原料を脱脂大豆からエンドウ粕に変更する以外は、実施例1と同様にして分離エンドウ蛋白を製造した。得られた分離エンドウ蛋白は実施例1の分離大豆蛋白と同様の物性を有していた。このことから、他の植物性蛋白質原料を用いても、実施例1と同じ製造工程を適用すれば、同様の効果を奏することが予測できた。
(参考例)他製品の成分・物性比較
実施例1で得られた分離大豆蛋白と、市販の各種分離大豆蛋白のサンプルA~E(いずれも不二製油(株)製)との成分や物性を比較した。なお、蛋白質の含量は固形分中の含量を示し、カルシウム(Ca),マグネシウム(Mg)の含量は蛋白質に対する含量を示す。
(表2)
Figure 0007169558000002
表2の通り、実施例1の本分離植物性蛋白は、吸水性については測定可能なレベルにまで低下できていた。
吸水性については、サンプルB、Cのようにミネラルの添加によって蛋白質を不溶化させたり、またはサンプルB~Eのように蛋白質の分解度を高めることで、低くすることができている。ただし、サンプルAとの比較で把握できるように、本分離植物性蛋白では、ミネラルの添加や蛋白質の分解をしていないにもかかわらず、吸水性が測定可能な領域まで低くなっていることが、非常に特徴的である。
また驚くべきことに、実施例1の本分離植物性蛋白は、嵩密度が最も高くなっていた。

Claims (8)

  1. 下記の全工程を含むことを特徴とする、NSIが50以下の分離植物性蛋白の製造法。
    (a)植物性蛋白質原料を水抽出して得られる蛋白質抽出液から蛋白質を濃縮し、蛋白質濃縮物を得る工程、
    (b)該蛋白質濃縮物又はその加水物に、ペクチン性多糖類またはアルギン酸エステルを、蛋白質に対して0.05重量%以上添加し、混合液を得る工程、
    (c)該混合液をpH4~5.5の酸性下において80~170℃の加熱処理を行い、加熱処理液を得る工程、
    (d)該加熱処理液を粉末化し、分離植物性蛋白とする工程。
  2. 該分離植物性蛋白の蛋白質に対するカルシウム含量が0.60重量%以下、かつマグネシウム含量が0.3重量%以下であることを特徴とする、請求項1記載の分離植物性蛋白の製造法。
  3. 前記工程(c)のpHが4.3~4.9である、請求項1又は2記載の分離植物性蛋白の製造法。
  4. 前記工程(c)において、前記工程(d)の前に、さらに該加熱処理液を中和する工程を含む、請求項1~3の何れか1項記載の分離植物性蛋白の製造法。
  5. 下記の全工程を含むことを特徴とする、NSIが50以下の分離植物性蛋白の製造法。
    (a)分離植物性蛋白を用意し、これに加水して蛋白質濃縮物を得る工程、
    (b)該蛋白質濃縮物に、ペクチン性多糖類またはアルギン酸エステルを、蛋白質に対して0.05重量%以上添加し、混合液を得る工程、
    (c)該混合液をpH~5.5の酸性下において80~170℃の加熱処理を行い、加熱処理液を得る工程、
    (d)該加熱処理液を粉末化する工程。
  6. 該分離植物性蛋白の蛋白質に対するカルシウム含量が0.60重量%以下、かつマグネシウム含量が0.3重量%以下であることを特徴とする、請求項5記載の分離植物性蛋白の製造法。
  7. 前記工程(c)のpHが4.3~4.9である、請求項5又は6記載の分離植物性蛋白の製造法。
  8. 前記工程(c)において、前記工程(d)の前に、さらに該加熱処理液を中和する工程を含む、請求項5~7の何れか1項記載の分離植物性蛋白の製造法。
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