以下、本発明の電源制御装置を、路線バス(以下「バス」という)に搭載される運賃表示装置に適用した一実施形態を各図に基づいて説明する。まず、本実施形態の運賃表示装置10が搭載されるバス100について、図1および図2を参照して説明する。
図1に示すように、バス100は、乗客が車両後方の乗車口100aから乗車した後、車両前方の降車口100bから降車する際に運賃を支払う「後乗り前降り後払い」方式のワンマンバスである。バス100の車内前方には、運賃表示装置10が設けられている。この運賃表示装置10は、整理券番号とそれに対応する運賃とを2画面ディスプレィ26に表示して、乗客が降車時に支払う運賃の金額確認を可能にする。運賃表示装置10は、図2を参照して後述するように、MPU21やシステムメモリ22等を備えた情報処理機器である。本実施形態では、運賃表示装置10は情報処理機器であるとともに本発明の電源制御装置を具現化した一例でもある。即ち、本実施形態の運賃表示装置10は、瞬断による再起動を抑制され得る情報処理機器でありながら、運賃表示装置10自体がそれを実現する電源制御装置でもあることに注意されたい。
バス100には、運賃表示装置10や運行業務に付随する複数の車載機器(以下「車載機器群」という)70が設けられている。例えば、バス100の車外前方、後方および進行方向左側方には、行先表示器71が設けられ、またバス100の車外後方には乗降中表示器72が設けられている。行先表示器71は、当該バス100の行き先、経路や系統番号等を、LED表示装置により表示する。乗降中表示器72は、停車中に乗客が乗り降りする旨をLED表示装置により表示してバス100の後方車両に注意を促す。なお、バス100の車外後方上部には、バス100の後方近景を撮影可能なバックカメラ78が設けられている。
バス100の乗車口100a付近の車内には、整理券発行機73やICカードリーダ74が設けられている。整理券発行機73は乗車時に乗客に対して整理券を発行する装置であり、ICカードリーダ74は乗車時に乗客がかざすICカードを読み取る装置である。客席やその周囲には、乗客が降車の意思を運転手に伝える際に押す降車ボタン80が複数箇所に設けられている。また、車内前方の降車口100b付近の運転席近傍には、運賃箱90や音声案内装置76等が設けられている。図1には図示されていないが(図2参照)、その他、車内には、ICカード発行機75、無線LAN装置77、車内カメラ79等が設けられている。音声案内装置76は乗客に対して車内アナウンスを合成音声で放送する装置であり、また無線LAN装置77は、バス100の運行を管理する情報センターと無線通信を可能にする無線データ通信装置である。
このようにバス100には、運賃表示装置10や様々な車載機器が搭載されている。図2に示すように、運賃表示装置10やこれら車載機器群70は、通常、バス100に搭載されたバッテリBTから直接または間接的に駆動電力の供給を受ける。バッテリBTは、充放電可能な二次電池であり、典型的には鉛蓄電池が用いられ、ニッケル水素電池やリチウムイオン電池を用いる場合もある。なお、バッテリBTの充電は、エンジンの回転を利用してオルタネータ等の発電装置により行われる。
ところで、このバス100はアイドリングストップ機構ASを備えている。アイドリングストップ機構ASは、信号待ちや停留所で一定時間停車した場合にエンジンを自動停止させ、また発車時にはエンジンを自動的に再始動させる機能を有する。例えば、バス100がマニュアルトランスミッション車である場合、停車中(車速が0km/h)にシフトギアがニュートラルに設定され、かつブレーキがかけられている状態が、一定時間以上継続すると、自動的にエンジンを停止させる。そして、運転手がクラッチペダルCPを踏み込むことで自動的にエンジンを始動させる。
エンジンの始動について詳しく説明する。図2に示すように、クラッチペダルCPが踏み込まれると、その踏み込みを検出する図略のセンサからアイドリングストップ機構ASに検出信号が出力される。すると、アイドリングストップ機構ASは、イグニッションスイッチIGを電気的にオンさせてスタータモータSMを回す。これにより、スタータモータSMの回転がエンジンに初期回転を与えてエンジンを始動させる。運転手が手動でイグニッションスイッチIGをオンさせる場合も、同様に、スタータモータSMが回ってエンジンを始動させる。
このようにエンジンの始動時にはスタータモータSMの回転を必要とし、スタータモータSMはその駆動電力の供給をバス100に搭載されたバッテリBTから受ける。即ち、スタータモータ専用のバッテリをバス100が搭載している場合を除いて、スタータモータSMは、前述した運賃表示装置10や車載機器群70が駆動電力の供給を受ける同じバッテリBTからその駆動電力の供給を受ける。
一般に、スタータモータSMは、小型でありながら大きなトルクを得る必要から大電流が流れる。そのため、エンジンの始動時にスタータモータSMに大電流が流れると、バッテリBTの出力電圧が急激に低下(瞬時低下)する瞬断が起こり得る。このような瞬断は、バッテリBTの電源容量が十分でない場合に起こり得るが、経年変化等によりバッテリBTの電源容量が減少した場合にも発生する。定格電圧24Vのバッテリの場合、瞬断時の最低電圧が10V前後まで低下する例もある。
出力電圧の瞬断が起き得るバッテリBTに運賃表示装置10や車載機器群70が接続されている場合、[発明が解決しようとする課題]の欄で述べた問題が起こり得る。即ち、車載機器群70の各車載機器に比べ起動時間が長い運賃表示装置10においては、瞬断によってシステムダウンすると、バッテリBTの出力電圧が回復しても再起動に時間がかかる。再起動の期間中(数10秒〜数分)は、運賃表示がされず、この間、乗客は降車時に支払う運賃の金額を確認することができない。このため、本実施形態では、運賃表示装置10が、バッテリBTから、直接、駆動電力の供給を受け、車載機器群70は運賃表示装置10を介して間接的にバッテリBTから駆動電力の供給を受ける構成にした。
即ち、本実施形態では、ワイヤハーネスWHを介して電気的に直接、運賃表示装置10にバッテリBTを接続する一方で、行先表示器71等の車載機器群70には、バッテリBTを直接接続することなく、電気的にも運賃表示装置10を介在させてバッテリBTを接続する。これにより、車載機器群70に対する駆動電力の供給および遮断を、運賃表示装置10により制御することで、後述するように、瞬断時の最低電圧を高めて当該運賃表示装置10のシステムダウンと再起動を抑制することを可能にしている。なお、スタータモータSMは、ワイヤハーネスWHとイグニッションスイッチIGを介してバッテリBTに接続されており、電気的には運賃表示装置10と並列関係にある。
ここで、運賃表示装置10の構成を図2を参照して説明する。運賃表示装置10は、制御ユニット20、電源ユニット30、車載機器用電源ユニット40等から構成されている。既に説明したように、運賃表示装置10は、整理券番号とそれに対応する2画面ディスプレィ26に表示する機能を有する。しかし、本実施形態では、運賃表示装置10を電源制御装置として機能させる。そのため、ここでは、本来的に備える運賃表示機能よりも、車載機器用電源ユニット40を制御する電源制御機能について詳述する。
制御ユニット20は、MPU21、システムメモリ22、データメモリ23、GPU25、2画面ディスプレィ26、入出力インタフェース27、通信インタフェース28等により構成されている。MPU21は、運賃表示装置10を制御する演算処理装置であり、システムバスやデータバス等を介して、システムメモリ22、データメモリ23、入出力インタフェース27等に接続されている。
システムメモリ22は、MPU21が使用する主記憶空間を構成する。本実施形態では、プログラム領域を担うROMと、ワーク領域やデータ領域に割り当てられるRAMとにより構成される。ROMには、システムプログラム(いわゆるOS)、運賃表示プログラム、電源制御プログラム等が格納されている。運賃表示プログラムは、運賃表示装置10の運賃表示機能を実現する。電源制御プログラムは、後述するように、車載機器用電源ユニット40による駆動電力の供給等を制御する。
データメモリ23は、例えば不揮発性メモリ(EEPROM、フラッシュメモリ等)であり、MPU21がアクセス可能な補助記憶空間を構成する。本実施形態では、例えば、運賃表示プログラムが使用する路線データや停留所データを格納している。
GPU(Graphics Processing Unit)25は、画像データの処理を専門に行う画像処理装置である。本実施形態では、2画面ディスプレィ26の画面制御等を行う。2画面ディスプレィ26は、例えば、液晶表示装置で同サイズの液晶パネル2枚で構成されている。
入出力インタフェース27や通信インタフェース28は、制御ユニット20の外部に接続されるユニットや装置等に対して、シリアルやパラレル通信によりデータのやり取りを可能にするものである。本実施形態では、入出力インタフェース27は、電源ユニット30や車載機器用電源ユニット40等、運賃表示装置10内に収容されるものを対象にする。また、通信インタフェース28は、運賃表示装置10の外部に存在する車載機器群70等を情報通信の対象にしており、これらとデータ通信バスCBを介して接続されている。
電源ユニット30および車載機器用電源ユニット40は、ワイヤハーネスWHを介してバッテリBTから直接供給される直流電圧を所定の電圧に変換する電圧コンバータである。これらは、例えば、スイッチング方式の電圧レギュレータ(スイッチングレギュレータ)により構成されている。電源ユニット30は、専ら制御ユニット20に駆動電力を供給するのに対し、車載機器用電源ユニット40は、行先表示器71や乗降中表示器72等の車載機器群70に駆動電力を供給する。
本実施形態では、バッテリBTの公称電圧は、例えば24Vであり、制御ユニット20の動作可能電圧は、例えば5V(±0.5V)に設定されている。このため、電源ユニット30は、入力電圧が7V以上の場合に4.5V〜5.5Vを制御ユニット20に出力し得るように構成されている。
一方、車載機器群70は、行先表示器71や整理券発行機73等、種々な車載機器の集まりでそれぞれの機器により動作可能電圧が異なる。そのため、出力可能電圧の幅が広く、例えば12V〜24Vの間で任意に設定される。このような理由から、車載機器用電源ユニット40は、昇圧、降圧のいずれも可能な昇降圧タイプの電圧コンバータで構成されている。本実施形態では、12V系と24V系の2系統にそれぞれ対応して、2つの車載機器用電源ユニット40が設けられている。以下、無線LAN装置77やバックカメラ78等の12V系の車載機器に駆動電力を供給する車載機器用電源ユニット40を代表して説明するが、24V系や他の電圧系の車載機器に駆動電力を供給する車載機器用電源ユニット40についても同様に説明できる。
また、この車載機器用電源ユニット40は、入出力インタフェース27を介してMPU21にも接続されており、制御ユニット20から、駆動電力の供給や中止を制御可能に構成されている。例えば、制御ユニット20から供給中止信号を受けると車載機器用電源ユニット40は駆動電力の供給を中止、つまり駆動電力を遮断する。また、制御ユニット20から供給開始信号または供給再開信号を受けると車載機器用電源ユニット40は駆動電力の供給を始め、駆動電力を供給する。
バッテリBTの出力電圧は、電源ユニット30および車載機器用電源ユニット40のそれぞれの内部に設けられる電圧センサや、運賃表示装置10内に設けられる電圧センサ50により検出されている。電圧センサ50によるバッテリBTの電圧情報は、制御ユニット20に入力されているため、MPU21は入出力インタフェース27を介して電圧センサ50の電圧情報を取得することができる。
なお、図2において、ワイヤハーネスWHを含めてバッテリBTから直接または間接的に駆動電力が供給される電源供給ラインは、太線で表されており、白抜きの矢印で供給先を指し示している。また図2において、通信インタフェース28に接続されるデータ通信バスCBは、破線で表されており、データの流れる方向を矢印が指し示している。このデータ通信バスCBには、バス100が装備する車速センサ61やGPSセンサ63、さらには降車ボタン80やアイドリングストップ機構ASが接続されている。車速センサ61からはバス100の走行速度である車速情報、GPSセンサ63からはバス100の緯度・経度による位置情報、降車ボタン80からは次の停留所で乗客が降車する旨の降車情報、アイドリングストップ機構ASからはアイドリングストップによるエンジンの停止と始動を伝えるAS情報、がそれぞれデータ通信バスCBを経由して制御ユニット20に送られてくる。
このように運賃表示装置10を構成することによって、次に図3〜図6を参照して説明する電源制御処理の実行が可能になる。なお、この電源制御処理は、制御ユニット20のMPU21がシステムメモリ22に格納された電源制御プログラムを実行することにより実現される。この実行は、例えば、車載機器用電源ユニット40に対する供給中止信号が出力されるまで10ミリ秒ごとに繰り返される。本電源制御処理が繰り返し実行される時間間隔のことを、本実施形態では「実行サイクル」という。
なお、図4および図5は、瞬断の発生前後におけるバッテリBTおよび車載機器用電源ユニット40の出力電圧の変化例を示すグラフである。これらの図において、VbatはバッテリBTの出力電圧、Vregは車載機器用電源ユニット40の出力電圧、Vcnt(min)は制御ユニット20の動作可能最小電圧、Vper(min)は無線LAN装置77およびバックカメラ78等の動作可能最小電圧、Tcは実行サイクル、Twは瞬断の発生期間(以下「瞬断期間」という)、をそれぞれ示す。また、実行タイミングは、二段矢印で図示しており、説明上、供給中止信号の出力後、実行されないものは白抜きの二段矢印で表記している。
図3に示すように、本電源制御処理では、まずステップS101により所定の初期化処理が行われる。この処理は、例えば、システムメモリ22のワーク領域やデータ領域をクリアする。次のステップS103では、瞬断情報取得処理が行われる。この処理は、図4に示すようなバッテリBTの出力電圧Vbatの瞬断に関する情報(以下「瞬断情報」という)を取得するもので、この瞬断情報には様々なものがある。なお、この瞬断情報は、瞬断発生前のものであることを前提としている。
例えば、(1)バッテリBTの出力電圧情報、(2)アイドリングストップ機構ASによるAS情報、(3)バス100の車速情報、(4)バス100の現在位置情報、(5)降車ボタン80による降車情報、(6)停留所の待合客数情報、等である。これらのうち、バッテリBTの瞬断に最も密接に関連しているものは、(1)のバッテリBTの出力電圧情報であり、瞬断の発生有無を高い精度で捉えることができる。瞬断は、バッテリBTの出力電圧Vbatに生じる現象だからである。そのため、ここでは(1)について説明し、他の(2)〜(6)については後で述べる。
バッテリBTの出力電圧情報は、運賃表示装置10内に設けられる電圧センサ50から得られる。そのため、図4に示すように、(1a)この電圧情報に基づいて、瞬断発生時の電圧低下により到達する所定の低下閾値電圧Vth1と比較することにより瞬断情報が得られる。バッテリBTの出力電圧Vbatがこの低下閾値電圧Vth1以下である場合、数ミリ秒〜数10ミリ秒の間に瞬断が生じる可能性がある。
(1b)また、専らバッテリBTの出力電圧情報を取得する別タスクを本電源制御処理よりも短い繰り返し間隔で実行させ、複数の出力電圧情報をサンプリングする。そして、これにより得た出力電圧情報から、単位時間当たりの電圧減少率(−ΔV/ΔT)を算出することによって瞬断情報が得られる。この電圧減少率(−ΔV/ΔT)が瞬断発生時の電圧減少率(−ΔVa/ΔT)以上である場合、数ミリ秒〜数10ミリ秒の間に瞬断が生じる可能性がある。
なお、(1a)の低下閾値電圧Vth1および(1b)の瞬断発生時の電圧減少率(−ΔVa/ΔT)は、バッテリBTやスタータモータSMの具体的な特性で定まり、測定や実験あるいは計算機シミュレーション等により得られて予め設定される。また、次のステップS105による判断の精度を高めるため、上記の(1a)および(1b)を併用してもよい。
続くステップS105では、瞬断が生じるか否かを判断する処理が行われる。即ち、ステップS103により取得した瞬断情報に基づいて近い将来にバッテリBTの出力電圧Vbatに瞬断が生じるか否かを判断する。「近い将来」とは、ステップS103により取得する瞬断情報の種類によって異なる。
上記(1)のようにバッテリBTの出力電圧情報を瞬断情報として取得する場合には、数ミリ秒〜数10ミリ秒先の時点が「近い将来」になり、数ミリ秒〜数10ミリ秒先にバッテリBTの出力電圧Vbatに瞬断が生じるか否かを判断する。上記(1)の場合、瞬断情報は、バッテリBTの出力電圧Vbatであり、瞬断に密接に関連して瞬断そのものを捉えることができる情報である。そのため、時々刻々と変わる電圧変化の速度はミリ秒オーダであるため、本電源制御処理の実行サイクルTcと同じ桁数で、少なくとも数サイクル先に瞬断が発生するか否かを判断することが可能である。なお、他の(2)〜(6)に関する「近い将来」については後述する。
ステップS105により瞬断が生じ得ると判断されない場合には(S105;No)、バッテリBTの出力電圧Vbatに瞬断が起こり得る蓋然性が低い。そのため、本電源制御処理を終えて次回の処理の開始に備える。これに対し、ステップS105により瞬断が生じ得ると判断された場合には(S105;Yes)、続くステップS107により中止予告情報出力処理を行う。
ステップS107による中止予告情報出力処理は、車載機器群70に対して所定時間後に、車載機器用電源ユニット40による駆動電力の供給が中止される旨(中止予告情報)を伝えるものである。この処理は、供給中止信号出力処理(S109)の前段階で行われるため、次のステップS109による供給中止信号が出力されるのに先立って、中止予告情報を車載機器群70に出力する。中止予告情報は、通信インタフェース28を介してデータ通信バスCBに出力される。例えば、図4に示す時点αaにおいてこの処理が行われて中止予告情報が出力される。
車載機器用電源ユニット40により駆動電力の供給を受ける、無線LAN装置77やバックカメラ78等は、データ通信バスCBからこの中止予告情報を受信すると、駆動電力の供給が中止されるまでの「所定時間」の間に、駆動電力の供給の中止、つまり電源断に備えた処理を行う。例えば、現在の情報処理の作業状態等を保持するために必要な情報、無線LAN装置77であれば情報センターとの無線通信に必要なアドレス情報やセッション情報等、バックカメラ78であれば現在の撮影方向、角度、ズーム等の撮像に関するパラメータ情報等を、無線LAN装置77やバックカメラ78等がEEPROMやフラッシュメモリ等の不揮発性メモリに退避させる処理を行う。これにより、瞬断発生後、バッテリBTの出力電圧Vbatが正常状態に回復し車載機器用電源ユニット40による駆動電力の供給が再開された場合、無線LAN装置77やバックカメラ78等が電源断の直前に行っていたそれぞれの情報処理等に短時間に復帰することが可能になる。
なお、ここでいう「所定時間」は、このステップS107から次のステップS109に処理を移行するまでの時間(図4に示すTa(=βa−αa))であり、例えば、別タスクによるタイマ処理等により待ち時間を生成して処理の移行を待つ。
図4に示すように、この所定時間Taは、瞬断期間Twの長さと本電源制御処理の実行サイクルTcとによって決定される。瞬断期間Twは、様々で、バッテリBTの電源容量とスタータモータSMにより流れる最大電流とによって変動する。路線バスの場合、瞬断期間は、数10ミリ秒から数100ミリ秒の範囲が多いことが測定や実験あるいは計算機シミュレーション等により確認されている。本実施形態では、実行サイクルTcは10ミリ秒であることから、所定時間Taを、例えば5ミリ秒に設定する。
ステップS109では供給中止信号出力処理が行われる。この処理は、車載機器群70に対する駆動電力の供給を中止する制御信号(供給中止信号)を車載機器用電源ユニット40に出力するもので、ステップS107による所定時間を経過した後に行われる(図4に示す時点βa)。この信号を受けた車載機器用電源ユニット40は、無線LAN装置77やバックカメラ78等に対してそれまで行っていた出力電圧Vregの出力、つまり駆動電力の供給を中止する。これにより、無線LAN装置77やバックカメラ78等は電源が断たれるため(Vreg=0V)、無線LAN装置77であればセンターとの無線通信が途絶え、また無線LAN装置77であればバス100の後方撮影が中断する。
車載機器用電源ユニット40よる駆動電力の供給が中止されたことにより、それまで無線LAN装置77やバックカメラ78等により消費されていた駆動電力相当分、バッテリBTの負荷が軽くなる。このため、それ以降(図4に示す時点βa以降)はバッテリBTの出力電圧Vbatの電圧減少率(−ΔV/ΔT)が小さくなり傾きが緩やかになる。
なお、図4において太い破線で表されているV字状のカーブは、ステップS109による供給中止信号の出力が行われることなく、車載機器用電源ユニット40よる駆動電力の供給が継続された場合におけるバッテリBTの出力電圧Vbatの例である。この場合、時点βaから暫くしてから最低電圧Vda(=5V)に到達した後、この変曲点からバッテリBTの出力電圧Vbatは上昇する。しかし、最低電圧Vdaに到達する前に、前述した運賃表示装置10の制御ユニット20が動作するために必要な電圧(動作可能最小電圧Vcnt(min)≧7V)を下回るため、その時点で運賃表示装置10はシステムダウンする。
即ち、図4に示すバッテリBTの出力電圧Vbatの例では、ステップS109により車載機器用電源ユニット40による駆動電力の中止(駆動電力の遮断)に伴ってバッテリBTの負荷が軽減されることから、瞬断によりバッテリBTの出力電圧Vbatの急激な低下が発生しても、瞬断時の最低電圧をVdaからVda’に高められる。これにより、制御ユニット20の動作可能最小電圧Vcnt(min)≧7Vを瞬断時の最低電圧Vda’が上回ることから、運賃表示装置10は瞬断による電源断を免れことができる。なお、無線LAN装置77やバックカメラ78等の動作可能最小電圧Vper(min)≧10Vに対しては、瞬断時の最低電圧Vda’がそれを下回る。
続くステップS111では電圧情報取得処理が行われる。バッテリBTの出力電圧Vbatは瞬断時の最低電圧Vda,Vda’に達した後、上昇するため、この処理では、バッテリBTの出力電圧情報を取得して次のステップS113により出力電圧Vbatの回復を判断する。バッテリBTの出力電圧情報は、前述したように、電圧センサ50から得られる。
ステップS113による出力電圧Vbatの回復判断は、ステップS111により取得した出力電圧情報に基づいて所定の回復閾値電圧Vth2と比較する。この回復閾値電圧Vth2も、前述した低下閾値電圧Vth1や瞬断発生時の電圧減少率(−ΔVa/ΔT)と同様に、バッテリBTやスタータモータSMの具体的な特性で定まり、測定や実験あるいは計算機シミュレーション等により得られて予め設定される。
バッテリBTの出力電圧Vbatがこの回復閾値電圧Vth2以上である場合には(S113;Yes)、バッテリBTの出力電圧Vbatは正常時の定格電圧24V以上に回復することが見込まれる。そのため、次のステップS115に処理を移行して供給再開信号を車載機器用電源ユニット40に出力する。これに対して、バッテリBTの出力電圧Vbatが回復閾値電圧Vth2以上でない場合(回復閾値電圧Vth2未満である場合)には(S113;No)、バッテリBTの出力電圧Vbatは、まだ瞬断時の最低電圧Vda’の前後であると推定されるため、ステップS111に戻って再度、電圧情報取得処理を行う。
ステップS115では供給再開信号出力処理が行われる。この処理は、車載機器群70に対する駆動電力の供給を再開する制御信号(供給再開信号)を車載機器用電源ユニット40に出力する(図4に示す時点γa)。この信号を受けた車載機器用電源ユニット40は、無線LAN装置77やバックカメラ78等に対して出力電圧Vregの出力を再開する。すると、無線LAN装置77やバックカメラ78等は電源が投入されるため(Vreg=12V)、情報処理の再開とともに不揮発性メモリに退避させていた情報処理の作業状態等を保持するために必要な情報をメモリから読み出す。例えば、無線LAN装置77であれば、情報センターとの無線通信に必要なアドレス情報やセッション情報等、バックカメラ78であれば現在の撮影方向、角度、ズーム等の撮像に関するパラメータ情報等を、EEPROMやフラッシュメモリ等の不揮発性メモリからロードする。これにより、無線LAN装置77やバックカメラ78等の車載機器が電源断の直前に行っていた情報処理等に復帰することができ、また短時間に復帰することが可能になる。
このステップS115による供給再開信号出力処理が完了すると、一連の本電源制御処理が終了する。ところで、図5に示すように、瞬断期間Twの長さが同じであっても、単位時間当たりの電圧減少率が大きい場合(図5に示す−ΔVb/ΔT)には、瞬断時の最低電圧Vdbがさらに低下する。このため、前述した電源制御処理によっても運賃表示装置10のシステムダウンは避けられないことがある。
即ち、図5に示すように、時点βbにおいて、前述のステップS109による供給中止信号出力処理により車載機器群70に対する駆動電力の供給を中止しても、それだけではバッテリBTの負荷が十分に軽減されない場合がある。このような場合には、瞬断時の最低電圧をVdbからVdb’に高めても、瞬断時の最低電圧Vdb’が運賃表示装置10の制御ユニット20が動作可能最小電圧Vcnt(min)≧7Vを下回り得る。そのため、バッテリBTの出力電圧Vbatが動作可能最小電圧Vcnt(min)よりも低下した時点γbで運賃表示装置10がシステムダウンする。
なお、運賃表示装置10がシステムダウンに至る場合であっても、瞬断時の最低電圧がVdbからVdb’に高められるため、バッテリBTの出力電圧Vbatが時点γbに到達する時間が延びる。これにより、期間Tdだけ運賃表示装置10のシステムダウンを先送りすることができることから、運賃表示装置10は、自己のシステムダウンに備えて、現在の情報処理の作業状態等を保持するために必要な情報を不揮発性メモリ等に退避させる処理を、この延長時間内に行うことが可能になる。したがって、バッテリBTの出力電圧Vbatが正常状態に回復した場合、運賃表示装置10は、システムダウンの直前に行っていた情報処理等に復帰することができるため、再起動の時間を短縮することが可能になる。
このようなシステムダウンに至る場合を想定した電源制御処理の改変例を図6に基づいて説明する。なお、図6に示す電源制御処理において、前述した電源制御処理(図3)と実質的に同一の処理ステップについては、同一符号を付して説明を一部省略する。
図6に示すように、本電源制御処理では、ステップS105とステップS107の間にステップS201を設けてシステムダウンに至るか否かを判断する。この判断には、前述した(1b)による単位時間当たりの電圧減少率(−ΔV/ΔT)を用いる。即ち、単位時間当たりの電圧減少率(−ΔV/ΔT)を算出し、この電圧減少率を、システムダウン時の電圧減少率(−ΔVb/ΔT)と比較する。そして、単位時間当たりの電圧減少率(−ΔV/ΔT)がシステムダウン時の電圧減少率(−ΔVb/ΔT)以上である場合には、数ミリ秒〜数10ミリ秒の間にシステムダウンが生じ得ると判断する。
ステップS201によりシステムダウンに至る(システムダウンが生じ得る)と判断した場合には(S201;Yes)、ステップS203によりシステムダウン予告情報出力処理を行う(図6では「SD予告情報出力処理」)。一方、このような判断をしない場合には(S201;No)、システムダウンに至る蓋然性が低いため、前述と同様に、ステップS107以降の各処理を行う。
ステップS203によるシステムダウン予告情報出力処理では、車載機器群70に対して、所定時間後に、運賃表示装置10がシステムダウンする旨(システムダウン予告情報)を伝える。本実施形態では、運賃表示装置10がシステムダウンする前に、所定時間を経過した後、ステップS109に処理を移行して供給中止信号を車載機器用電源ユニット40に出力する。ここでいう「所定時間」は、このステップS203から次のステップS109に処理を移行するまでの時間(図5に示すTb(=βb−αb))であり、例えば、別タスクによるタイマ処理等により待ち時間を生成して処理の移行を待つ。なお、この所定時間Tbも、前述した所定時間Taと同様に、瞬断期間Twの長さと本電源制御処理の実行サイクルTcとによって決定される。
これにより、この予告を受信した無線LAN装置77やバックカメラ78等は、運賃表示装置10がシステムダウンするまでの所定時間Tbの間に、上位システムである運賃表示装置10の機能停止に備えた処理を行う。例えば、通常、運賃表示装置10に保持を委ねるデータを、運賃表示装置10に代わって無線LAN装置77やバックカメラ78等がEEPROMやフラッシュメモリ等の不揮発性メモリに退避させる処理を行う。これにより、瞬断発生後、バッテリBTの出力電圧が正常状態に回復した場合、運賃表示装置10のシステムの再開を待つことなく、無線LAN装置77やバックカメラ78等は、必要なデータを短時間に集めたり取得したりすることが可能になる。
なお、ステップS203の処理を終えた後、ステップS107に処理を移行して中止予告情報を無線LAN装置77やバックカメラ78等の車載機器に出力してもよい。これにより、この中止予告情報出力処理によって、システムダウン予告情報に加えて中止予告情報も車載機器群70に出力されるため、システムダウン予告情報を受信しない車載機器等にも運賃表示装置10のシステムダウンに伴う中止予告情報を伝えることが可能になる。
ここで、上掲した(1)〜(6)の瞬断情報のうち、(2)〜(6)について述べる。(2)のアイドリングストップ機構ASによるAS情報は、アイドリングストップによるエンジンの停止と始動を伝える情報である。このため、運賃表示装置10は、アイドリングストップ機構ASからエンジンの始動情報を受信した場合には、数10ミリ秒〜数秒の間にスタータモータSMが回転し始める可能性があり、それに伴う瞬断が生じる可能性が非常に高い。このため、ステップS105の「近い将来」は数10ミリ秒〜数秒であり、このエンジンの始動情報を受信した場合には、瞬断が生じ得ると判断する(S105;Yes)。なお、AS情報として、エンジンの停止情報を受信した場合には、数秒〜数10秒の間にスタータモータSMが回転し始める可能性がある。そのため、エンジンの停止情報は、時間的に余裕のある瞬断情報として、瞬断に備えるための情報処理を行ううえで有効な情報である。
(3)のバス100の車速情報は、車速センサ61から送られてくるバス100の走行速度の情報である。このため、運賃表示装置10は、車速が0km/h、つまりバス100が停車している場合には、それが継続する時間を計測することによってアイドリングストップ機構ASがエンジンを停止させるか否かを判断することができる。アイドリングストップ機構ASは、前述したように、一定時間の停車を検出してエンジンを停止させるためである。これにより、この一定時間の経過後の、数秒〜数10秒の間にスタータモータSMが回転し始める可能性があり、それに伴う瞬断が生じる可能性が非常に高い。このため、車速が0km/hになってから一定時間を経過した後、数秒〜数10秒の間に瞬断が生じ得ると判断する(S105;Yes)。この場合の「近い将来」は、一定時間と「数秒〜数10秒」の和である。
(4)のバス100の現在位置情報は、GPSセンサ63から送られてくるバス100の緯度・経度の情報である。このため、路線内の停留所や信号交差点等のバス100が停車する可能性のある位置情報(緯度・経度)と比較し、これらに接近している場合には、これらとの離隔距離およびその時の車速とから停車するまでの時間を算出することで、その時間の経過後にバス100が停車する可能性がある。車速は、車速センサ61の車速情報から得る。これにより、バス100が停車する可能性のある時間が得られるため、上記の(3)やこの後に説明する(5)と組み合わせが可能な予備的な瞬断情報が得られる。この場合の「近い将来」は、停車するまでの時間と(3)の一定時間と「数秒〜数10秒」の和である。
(5)の降車ボタン80による降車情報は、次の停留所で乗客が降車する旨の情報である。このため、運賃表示装置10は、降車ボタン80等から降車情報を受信した場合には、バス100が次の停留所に停車する可能性が極めて高い。この降車情報は、上記(3)のバス100の車速情報や上記(4)のバス100の現在位置情報と組み合わせることによって、精度の高い瞬断情報になり得る。この場合の「近い将来」は、降車ボタン80が押されてから停車するまでの時間と(3)の一定時間と「数秒〜数10秒」の和である。
(6)の停留所の待合客数情報は、バス100の運行を管理する情報センターから無線通信を介して無線LAN装置77から得られる情報で、次に停車を予定する停留所にバス100を待つ待合客の人数情報である。運賃表示装置10は、無線LAN装置77から送られてくる停留所の待合客数情報により、次の停留所に待合客が存在すると判断した場合には、次の停留所にバス100が停車する可能性が極めて高い。この停留所の待合客数情報も、上記(3)のバス100の車速情報や上記(4)のバス100の現在位置情報と組み合わせることによって、精度の高い瞬断情報になり得る。この場合の「近い将来」は、無線LAN装置77から待合客数情報が送られてきてから停車するまでの時間と(3)の一定時間と「数秒〜数10秒」の和である。
なお、運賃表示装置10の制御ユニット20は、上述したように、電圧センサ50等によりバッテリBTの瞬断の発生を検出することが可能である。そのため、例えば、瞬断の発生日時や回数をデータメモリ23に記憶可能なプログラムをシステムメモリ22に備えることによって、バッテリBTの経年変化等により劣化状況を把握可能な情報を得ることができる。また、この情報に基づいて、所定の期間(例えば、1時間や運行の開始から終了までの時間)におけるバッテリBTの瞬断回数が予め設定された所定回数を超えた場合には、バッテリBTを交換する旨等を運賃表示装置10の2画面ディスプレィ26や乗務員専用の表示装置等に出力するように構成する。これにより、経年変化等により劣化したバッテリBTの交換を乗務員等に促すことができ、バッテリBTの電源容量の減少に起因した瞬断の発生を抑制することが可能になる。
以上説明したように本実施形態に係る運賃表示装置10によると、バッテリBTの出力電圧Vbatの瞬断に関する情報に基づいて近い将来にバッテリBTの出力電圧Vbatに瞬断が生じ得ると制御ユニット20により判断した場合(S105;Yes)、駆動電力の供給を中止する供給中止信号を瞬断発生前に車載機器用電源ユニット40に出力する(S109)。これにより、車載機器用電源ユニット40は、瞬断発生前に車載機器群70に対する駆動電力の供給を中止するため、車載機器群70により消費されていた駆動電力相当分、バッテリBTの負荷が軽くなる。したがって、バッテリBTの瞬断時の最低電圧を高められるため、瞬断による運賃表示装置10のシステムダウンや再起動を抑制することが可能になる。
また、運賃表示装置10がシステムダウンに至っても、瞬断時の最低電圧を高められることから、システムダウンするまでの時間が延長される。そのため、運賃表示装置10は、自己のシステムダウンに備えて、この延長時間内に、現在の情報処理の作業状態等を保持するために必要な情報を不揮発性メモリに退避させることができる。これにより、瞬断発生後、バッテリBTの出力電圧Vbatが正常状態に回復した場合、運賃表示装置10は、システムダウンの直前に行っていた情報処理等に復帰することができるため、再起動の時間を短縮することが可能になる。
なお、上述した運賃表示装置10では、図3および図6において、ステップS109による供給中止信号出力処理を実行した後、ステップS111等の後続する各処理を実行するように処理の流れを構成したが、車載機器用電源ユニット40が瞬断後に自動的に正常動作に復帰し得るように構成されている場合には、ステップS109で電源制御処理を終了するように処理の流れを変更しても良い。これにより、上述した電源制御処理が簡素化できるため、システムメモリ22に格納するプログラム容量が減り、またMPU21による処理速度が速くなる。
また、上述した運賃表示装置10では、図6において、ステップS203によるシステムダウン予告情報出力処理を実行した後、ステップS109等の後続する各処理を実行するように処理の流れを構成したが、ステップS203で電源制御処理を終了するように処理の流れを変更しても良い。これにより、電源制御処理の終了時期が早まるため、運賃表示装置10は、自己のシステムダウンに備えて必要な情報等を不揮発性メモリに退避させる時間を、より多く確保することができる。さらに、図6において、ステップS105とステップS201の順番を入れ替えてもよい。これにより、緊急度の高いシステムダウンの判断処理が、瞬断の判断処理よりも処理順で優先されるため、システムダウンに至る場合のその後の処理の実行時期を早めることができる。
以上、説明した実施形態およびそれに付随した改変例等では、本発明の電源制御装置を運賃表示装置10に適用した場合を例示したが、本発明の電源制御装置を、運賃箱その他の情報処理装置に適用した場合であっても、上述と同様の作用および効果を得られる。