JP6132451B1 - トマトの低段密植栽培方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】トマトの密植栽培において、品質の高いトマトを安定して栽培することができるトマトの低段密植栽培方法を提供する。【解決手段】長尺な栽培ベッドBを用いてトマトを密植して栽培する方法であって、各苗において、主茎に対して房Cが栽培ベッドBの長手方向に位置するように苗の主茎を配置し、房Cが栽培ベッドBの長手方向に位置している状態において、主茎を挟んで房Cと略反対側に位置する葉Lを除去する。栽培ベッドBの長手方向に沿って伸びる葉Lを除去することによって、果実に適切な量の光を照射させることができるので、光不足に起因する障害を防止することができる。しかも、隣接するトマトの株Tの葉同士が重なるのを防止することができるので、果実の品質を向上させることがき、かつ株Tの光合成を十分に行わせることができるから、品質の高い果実を安定して栽培することができるようになる。【選択図】図1

Description

本発明は、トマトの低段密植栽培方法に関する。
近年、トマトの需要が増加する中、栽培施設の進歩に伴い、太陽光を利用した栽培ハウス内で1年を通してトマトを栽培することができるようになってきている。栽培ハウス内での栽培方法としては、近年、収穫量の増加が期待されている低段密植栽培法が注目を集めている。この低段密植栽培法は、株を密集(例えば、株間が15cm程度)させ、かつ収穫段数を3〜5段程度にしてトマトを栽培する方法である。かかる栽培方法を採用することによって、栽培密度を増加させることができ、かつ年間の収穫回数を増加させることができるので、収穫量の向上が期待されている。
しかし、この低段密植栽培方法では、トマトの株を上記のごとく密植させて栽培するので、隣接する株の葉同士が重なった状態となり、光合成に必要な量の光が不足状態となる。しかも、一般的なトマトの葉の長さは約40cm〜60cmと葉が非常に大きくなるので、重なり合いも大きくなる。すると、葉に供給される光の量が不足し、十分な光合成が行われなくなるので、株が十分に生育しなくなる。株が生育不足になる、果実において、大きさや重量の低下などの様々な生育障害が発生して品質に影響を与えることになる。さらに、葉の密集により果実に照射される光の量も不足するので、色付き不良(着色不良)や、外観上確認しにくい空洞化現象などの生育障害も多発してしまい果実の品質により悪影響を与えることになる。また、空洞化現象が発生した場合には、果実の形状が不均一なものとなりやすい。そして、葉が密集した状態で互いに重なった状態となるので、株間の風通しが悪くなり、果実に様々な病気(スジクサレ病や、ハイイロカビなど)が発生してしまい、出荷できない果実が多発して収穫量が想定された量よりも減少するといった問題も発生している。
低段密植栽培をしても、隣接する株の葉同士が重なるのを防ぐことができれば、トマトの光合成を活発にさせることができるので、果実の品質を向上させて、かつ収穫量を安定させることが可能となる。そこで、果実に葉が被さらないように果房を栽培ベッドの長手方向に対して直行するように栽培する方法(特許文献1)や、重なり合う葉を栽培ベッドの長手方向に沿って水平方向に誘引して所定の箇所で固定する方法(特許文献2)などが提案されている。
特開2009−148250号公報 特開2009−77694号公報
しかるに、特許文献1の技術では、果実に光が照射されやすくはなってはいるものの、株の約6割分以上の葉が栽培ベッドの長手方向に沿って伸びるので、隣接する株の葉同士がより重なりやすくなる。また、特許文献2の技術では、重なり合う葉同士が接触しないようにすることはできるものの、上方に葉によって下方に位置する葉に照射される光が遮られてしまうので、葉が十分に光合成を行うことができない可能性がある。
以上のごとく、トマトを密植して栽培する環境において、果実の品質を維持しつつ、年間の収穫量を安定させることは困難な状況であり、高品質かつ安定した収穫量を維持できる栽培方法の開発が望まれている。
本発明は上記事情に鑑み、トマトの密植栽培において、品質の高いトマトを安定して栽培することができるトマトの低段密植栽培方法を提供することを目的とする。
第1発明のトマトの低段密植栽培方法は、長尺な栽培ベッドを用いてトマトを密植して栽培する方法であって、各苗において、主茎に対して房が前記栽培ベッドの長手方向に位置するように該苗の主茎を配置し、前記房が前記栽培ベッドの長手方向に位置している状態において、主茎を挟んで房と略反対側に位置する葉を除去することを特徴とする。
第2発明のトマトの低段密植栽培方法は、第1発明において、前記葉は、前記房に実った果実の肥大化が鈍化するまでに除去することを特徴とする。
第3発明のトマトの低段密植栽培方法は、第1発明または第2発明において、前記房が、花房であり、該花房が開花した段階で、前記葉を除去することを特徴とする。
第4発明のトマトの低段密植栽培方法は、第1発明、第2発明または第3発明において、前記苗を一条植えとなるように定植することを特徴とする。
第1発明によれば、栽培ベッドの長手方向に沿って伸びる葉を除去することによって、果実に対して適切な量の光を照射させることができるので、光不足に起因する障害を防止することができる。しかも、主茎に対して房が栽培ベッドの長手方向に位置するように苗の主茎を配置するので、苗が生育すれば、除去する以外の葉を栽培ベッドの長手方向に対して略直交するように展開させることができる。すると、隣接する株の葉同士が重なるのを防止することができるので、果実の品質を向上させることがき、かつ株の光合成を十分に行わせることができる。したがって、品質の高い果実を安定して栽培することができるようになる。
第2発明によれば、所定の葉を所定の段階までに除去することによって、果実に対して光を適切に照射させることができる。
第3発明によれば、所定の葉を花房の花が開花した段階で除去することによって、着果作業をスムースに行うことができるようになる。
第4発明によれば、一条植えにすることによって、栽培ベッドの長手方向に対して略直交するように展開した葉において、光合成を確実に行わせることができる。
本実施形態のトマトの低段密植栽培方法でトマトの株Tを栽培ハウスGH内で栽培している状況の概略説明図であり、白抜きで示した葉L1が、摘葉作業によって除去した葉L1を示した概略説明図であり、(A)は栽培ベッドBで栽培しているトマトの株Tの概略側面視であり、(B)は(A)のトマトの株Tを上方から下方に向かって見た際の概略説明図である。 本実施形態のトマトの低段密植栽培方法によって栽培されたトマトの株Tの概略説明図であり、白抜きで示した葉L1が、摘葉作業によって除去した葉L1である。 本実施形態のトマトの低段密植栽培方法によって収穫段数が3段のトマトの株Tを栽培する際の状況を説明した概略説明図である。 本実施例の実験結果を示した図である。 本実施例の実験結果を示した図である。
つぎに、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。
本発明のトマトの低段密植栽培方法は、栽培ハウス内でトマトを密植した環境で栽培する方法であって、高品質のトマトを安定して栽培できるようにしたことに特徴を有している。
なお、密植して栽培するとは、複数の株を栽培する状態において、隣接する株同士の間隔を狭くして栽培することをいう。例えば、隣接する株の葉同士が重なりあう程度に接近させて栽培する場合の他、株間40cm以下となるように栽培する場合を含む概念である。
本発明のトマトの低段密植栽培方法を説明する前に、まず、栽培ハウスや栽培ベッドおよび生育方法について簡単に説明する。
本発明のトマトの低段密植栽培方法に用いられる栽培ハウスとしては、年間を通してトマトの株を栽培できる施設であれば、とくに限定されない。例えば、一般的な栽培ハウスを挙げることができる。この栽培ハウスは、植物の栽培に使用される一般的な温室(図1の温室GH参照)であり、例えば、ガラスやビニールなどによって壁や屋根が形成された建物である。
図1に示すように、この温室GH内には、複数の栽培ベッドBが設けられている。この栽培ベッドBは、パイプPなどで形成されたフレームによって温室GHの床面Gから離れた状態で配置されており、この栽培ベッドBにトマトの株T(以下、単に株Tという)が栽培されている。
栽培ベッドBは、長尺な部材であり、株Tの根を内部に設けられた収容空間内に張らすことができるような構造を有するものであれば、とくに限定されない。具体的には、この栽培ベッドBは、内部の収容空間に株Tの根を張らすための土や養液を収容することができるように形成されている。例えば、栽培ベッドBとしては、略矩形状の長尺部材であり、長手方向に沿って、上方から下方に向かって凹むようにして形成された溝状の収容空間を有する構造のものを採用することができる。
また、栽培ベッドBは、上記のごとき機能を有するものであれば、その大きさは、とくに限定されない。例えば、栽培ベッドBの収容空間が、深さが25mm〜75mm、収容空間の横幅が200mm〜300mm、収容空間の長さが100cm〜150cmとなるように形成された栽培ベッドBを採用することができる。なお、栽培ベッドBは、複数のベッドを長手方向に連結できるように形成されているのが好ましい。この場合、設置場所に応じて栽培ベッドBの長さを調整することができる。
また、上述したように栽培ベッドBの収容空間内には土や養液を収容して、かかる土などに株Tの根を張らせながら生育する。例えば、栽培ベッドBの収容空間内に土を収容した状態で一般的な圃場と同様の条件下で株Tを生育してもよいし、養液を供給する養液栽培によって株Tを生育してもよい。
なお、年間を通して複数回の栽培サイクルを行う栽培ハウス内でトマトを栽培する場合、植え替えの作業性の観点から土を用いた栽培よりも養液栽培のほうが適している。この養液栽培としては、例えば、水耕栽培や、噴霧耕栽培、固形培地耕栽培などを挙げることができる。以下では、栽培ベッドBを用いて養液栽培でトマトを栽培する場合を代表として説明する、また、この養液栽培として、薄膜水耕栽培(いわゆるNFT)を利用した場合を代表として説明する。
(本実施形態のトマトの低段密植栽培方法)
つぎに、上述した栽培ベッドBを用いて本実施形態のトマトの低段密植栽培方法によってトマトの株T(以下、単に株Tという)を栽培する場合について説明する。
まず、栽培ベッドBの収容空間内に養液を供給した状態の栽培ベッドBにトマトの苗を定植する。用いられる栽培ベッドBは、株の植え方(例えば、1条植えや2条植え)に応じて適宜調整することができる。例えば、一条植えで株Tを栽培する場合には、深さが50mm、横幅が215mm、長さが100cmとなるように形成された収容空間を有する栽培ベッドBを複数連結したものを採用することができる。
(定植方法について)
定植するトマトの苗は、定植に適した大きさに育苗されたものである。具体的には、未成熟でなく、節間が徒長した状態にない苗であり、定植して栽培すれば、健康な株となる大きさに育苗された苗であれば、本実施形態の育苗用の苗として使用することができる。このような苗としては、例えば、本葉が3枚〜5枚程度となるように育苗した苗を採用することができる。
ついで、上記のごときトマトの苗を栽培ベッドBに定植する。このとき、主茎に対して房C(以下、房Cの軸枝に複数の花や蕾などがついた状態の房Cを単に花房Chといい、房Cの軸枝に複数の果実がついた状態の房Cを単に果房Ckという)が栽培ベッドBの長手方向(図1では左右方向)に位置するように主茎を配置して苗を定植する。
なお、苗を定植する際、房Cが確認できる状態であれば、房Cが栽培ベッドBの長手方向に位置するように主茎を配置して定植すればよい。一方、苗を定植する際、房Cが確認できない状態であれば、本葉や子葉の状態、本葉の枚数から、主茎における房Cがつく箇所を判断することができるので、かかる判断に基づき房Cが栽培ベッドBの長手方向に位置するように主茎を配置して定植すればよい。
また、定植後の苗において、生長した株Tの房C(花房Chや果房Ck)が栽培ベッドBの長手方向(図1では左右方向)に位置するようなっていない場合には、房C(花房Chや果房Ck)が栽培ベッドBの長手方向(図1では左右方向)に位置するよう仕立てれば、生長した段階で株Tの房C(花房Chや果房Ck)を栽培ベッドBの長手方向に位置させることができる。
以下では、苗を定植する際、房Cが主茎についていない状態の場合を代表として説明する。
例えば、主茎に房Cがついておらず、本葉が3枚程度に育苗した苗を定植する場合を説明する。この場合、苗の子葉に最も近い位置に生えている本葉の葉軸が栽培ベッドBの長手方向に対して略直行(つまり栽培ベッドBの幅方向、図1(B)では上下方向)するように定植する。そして、苗が生長すれば、主茎に花房Chが形成される。つまり、第一段目の花房Chが主茎につくのである。すると、この花房Chは、軸枝が栽培ベッドBの長手方向に位置する状態となる。つまり、上記のごとく苗を定植すれば、定植時に房Cが確認できない状態でも、確実に房Cが栽培ベッドBの長手方向に位置するように苗を定植することができるのである。
そして、株Tの花房Chの花が開花したのち、着果処理をすることによって着果させることができる。かかる状態の房Cが果房Ckである。そして、この果房Ckについた果実を肥大化させれば、房Cの軸枝に複数の果実を実らすことができる(図1参照)。かかる状態において、果房Chは、図1に示すように、栽培ベッドBの長手方向に位置するようになる。
なお、苗を定植する株間の間隔は、一般的な密植栽培で用いられる間隔であれば、とくに限定されない。
例えば、図1に示すように、主茎間の距離Wが10cm〜15cmとなるように定植することができる。一般的なトマト栽培で採用されている間隔が約40cmであるので、主茎間の距離Wを15cm以下とすれば、一般的な栽培方法に比べて約3倍の密度で株Tを栽培することができるようになる。つまり、1条植えで栽培する場合、栽培ベッドB1mあたり約7本の株Tを栽培することができるようになるので、一般的なトマトの栽培方法(例えば、栽培ベッド1mあたり約2.5本)に比べて高密度な状態となるように定植することができる。
以上のごとくトマトの苗を栽培ベッドBに定植すれば、房C(花房Ch、果房Ck)が栽培ベッドBの長手方向に位置するように生育させることができる。
一方、株Tの生長に伴い、株Tの主茎には、この房C(花房Ch、果房Ck)と全く逆方向に向かって伸びる(展開する)葉Lが存在する。つまり、この葉Lは、房C(花房Ch、果房Ck)とは逆方向に展開し、かつ栽培ベッドBの長手方向に沿って展開する葉である。
例えば、葉Lは、隣接する房C間において、両者間に展開する3枚の葉のうち、最下方に位置する葉である。つまり、かかる葉は、下方に位置する房Cに最も近接する位置に展開する葉である。以下、かかる葉を、単に、房間第一葉Lという。
例えば、この房間第一葉Lは、図2に示す株Tで説明すると、一段目の果房Ckと2段目の果房Ckとの間に生えた3枚の葉のうち一番下側に位置する葉に相当する。そして、図2(B)に示すように、この房間第一葉Lは、主茎を挟んで果房Ckから略180°反対側に位置する箇所に展開している。
ここで、上述したように、トマトの葉は、生長すると基端から先端までの長さが約50cm以上にもなる。一方、本実施形態のトマトの低段密植栽培方法では、株Tの主茎間の距離が例えば10cm〜15cmと非常に近接した状態で株Tを栽培する。このため、この房間第一葉Lをそのまま生長させれば、隣接する他の株の房C(花房Ch、果房Ck)に覆い被さる葉となる。
しかし、本実施形態のトマトの低段密植栽培方法では、後述するように、房間第一葉Lを所定のタイミングで除去することによって、房間第一葉Lによって隣接する他の株の房C(花房Ch、果房Ck)が覆われるのを防止することができる。
このため、図1(B)に示すように、房C(花房Ch、果房Ck)の上方には、房C(花房Ch、果房Ck)を覆う房間第一葉Lが存在しない状態で株Tを栽培することができる。すると、果実に対して光を適切に供給させることができ、しかも、着果率を向上させることができるなどの利点が得られるが、詳細は後述する。
以下では、房間第一葉Lを除去した際の効果を詳細に説明する前に、まず、房間第一葉Lの除去方法を図に基づいて説明する。なお、この房間第一葉Lの除去する作業を、以下、摘葉作業という。
なお、本明細書における「房C」が、特許請求の範囲の房に相当する。また、本明細書における「葉L」が、特許請求の範囲の栽培ベッドの長手方向に沿って伸びた葉に相当する。
(房間第一葉Lの摘葉作業)
房間第一葉Lの摘葉作業は、果実に影響が発生する前までに房間第一葉Lを除去することができればよく、そのタイミングはとくに限定されないが、詳細は後述する。
以下では、図2および図3に示すように、果房Ckが三段となるように株Tを栽培する場合において、花房Chの花が開花する段階で摘葉作業を行う場合を代表として説明する。
図2および図3に示すように、まず、第一段目の花房Chの花が開花した段階で、かかる花房Chの上方に位置に生えている第一葉Lを除去する(図3では(A)から(B)の状態であり、図3(B)の白抜きで示した葉が除去した房間第一葉Lを示している)。
ついで、第二段目の花房Chも第一段目の花房Chの場合と同様に第二段目の花房Chの花が開花した段階において、第二段目の花房Chの上方に位置する房間第一葉Lを除去する(図3では(C)から(D)の状態であり、図3(D)の白抜きで示した葉が除去した房間第一葉Lを示している)。
そして、最後に、第三段目の花房cも第一段目の花房Chの場合と同様に第三段目の花房Chの花が開花した段階において、第三段目の花房Chの上方に位置する房間第一葉Lを除去する(図3では(E)から(F)の状態であり、図3(F)の白抜きで示した葉が除去した房間第一葉Lを示している)。
すると、図2および図3(F)に示すように、本実施形態のトマトの低段密植栽培では、各株Tにおいて、房C(花房Ch、果房Ck)間に存在する房間第一葉Lが全て除去された状態となるようにして株Tを栽培することができる(図2では、除去した房間第一葉Lを白抜きで示している)。
(摘芯操作)
なお、図2および図3(F)に示すように、第三段目の花房Chの上方に位置する房間第一葉Lを除去した後、第三段目の花房Chの上方に位置する他の2枚の葉(以下、第二葉、第三葉という)を残して摘芯を行う。かかる摘芯処理によって、株の収穫段数(つまり収穫する果房Ckの段数)を調整することができる。
(房間第一葉Lの摘葉作業の効果)
以上のように、花房Chの花が開花する段階で房間第一葉Lの摘葉作業を行えば、房間第一葉Lが大きく成長する前に除去することができる。このため、房間第一葉Lによって房C(花房Ch、果房Ck)に照射される光が遮られるのを防止することができるので、隣接する株の房C(花房Ch、果房Ck)に太陽光などの光を適切に照射させることができる。
つまり、本実施形態のトマトの低段密植栽培方法を用いれば、果実に対して適切な量の光を照射させることができるので、果実において、光不足に起因する生育障害(例えば、空洞化現象や、果実の形状異常、色付き不良(着色不良)など)の発生を防止することができる。
また、房C(花房Ch、果房Ck)を栽培ベッドの長手方向に沿って生育させることができるので、除去する以外の第二葉、第三葉を栽培ベッドBの長手方向に対して略直交するよう伸ばすことができる(図1(B)参照)。
つまり、房C(花房Ch、果房Ck)間において、主茎を軸とした場合に房C(花房Ch、果房Ck)と略90°の位置に存在する2枚の葉(以下、単に第二葉および第三葉という)を栽培ベッドBの長手方向に対して略直交するように生長するように栽培することができる。これらの葉(第二葉、第三葉)は、株Tに展開する葉全体の7割弱(具体的には、全体の2/3の葉)を占める葉である。
そして、本実施形態のトマトの低段密植栽培方法によって、これらの葉(第二葉、第三葉)を全て通路側(つまり栽培ベッドBの長手方向に対して略直交する方向)に向かって生長させることができる(図1(B)参照)。
このため、図1(B)に示すように、本実施形態のトマトの低段密植栽培によりトマトを栽培すれば、トマトの株Tの葉(第二葉および第三葉)は、隣接する株Tの株の葉(第二葉および第三葉)と全く重ならないように栽培することができる。すると、これらの葉(第二葉および第三葉)に対して光合成に必要な光を十分に照射させることができるので、株Tの株が生長に必要とする光合成を十分に行わせることができる。
つまり、不十分な光合成に起因して、株Tの株に発生する生育不良や、株Tの株の生育不良に基づいて果実に発生する生育障害(例えば、不均一な肥大化や、重量、大きさのバラツキ、密度低下、形状不良など)を防止することができる。
したがって、本実施形態のトマトの低段密植栽培方法を用いてトマトの株Tを栽培すれば、品質の高い果実を安定して栽培することができるようになる。
とくに、上述したように、房間第一葉Lの摘葉作業を花房Chの花が開花する段階で行えば、隣接する株T同士において、一の株Tの花房Ch上方に他の株の房間第一葉Lが存在しない状態にできる。つまり、図1(B)に示すように、株の花房Ch全体を見えやすい状態にできる。
このため、花を着果させるための着果作業において、花房Ch上方に位置する葉をかきわけるようにして花房Chを露出させるという作業をしなくても、かかる花房Chに対してホルモン剤などの着果剤を用いたホルモン処理などを適切に行うことができるようになる。つまり、従来のように着果作業の際に葉をかきわけなくてもよくなるので、着果作業の作業性を向上させることができる。
しかも、従来、着果作業の際に片方の手で葉をかきわけた状態で他方の手で着果作業を行うので着果不良が生じていたが、かかる作業を両方の手で行うことができるようになるので、着果不良の発生を防止することができるようになる。つまり、着果率を向上させることができるのである。さらに、着果率を向上させることができるので、従来の着果方法と比べて、着果剤の使用量を少なくできるから経済的となる。
なお、上記例では、房間第一葉Lの摘葉作業のタイミングは、花房Chの花が開花する段階で摘葉作業を行う場合について説明したが、かかるタイミングに限定されない。
例えば、房間第一葉Lの摘葉作業は、果実の肥大化が鈍化するまでに行うのが好ましく、より好ましくは房間第一葉Lの葉が展開した段階で行うのがより好ましく、さらに好ましくは、上述したように花房Chの花が開花する段階で行う。果実の肥大化の鈍化つまり果実が所定の大きさに生長した段階後に摘葉作業を行えば、果実に対して光を十分に照射させることができなくなり、光不足に起因する障害(例えば、空洞化現象や、形状不良など)が発生しやすくなる。したがって、房間第一葉Lの摘葉作業は、上記のごとき段階で行うのが好ましく、着果作業の作業性の上では、花房Chの花が開花した段階で房間第一葉Lの摘葉作業を行うのが好ましい。
なお、果実の肥大化が鈍化する状態とは、果実が想定される大きさに近づいた状態をいう。例えば、果実が想定される大きさの約3〜5割り程度に大きくなった状態をいう。
また、本実施形態のトマトの低段密植栽培方法を用いてトマトの株Tを栽培すれば、上述したように摘葉作業によって、隣接する株Tの株同士の間に葉が存在しない状態にできるので、以下のような効果も得られる。
株T間において、隣接する株Tの株T同士の間に葉が存在しなくなるので、栽培ベッドBの幅方向(図1(B)では上下方向)に向かって風を供給させやすくなる。このため、株T間に空気だまりなどの空気の滞留領域をなくすことができるので、葉や果実に対して常に新鮮な空気を供給させることができる。すると、ハイイロカビに起因する病気(灰色かび病)など低段密植栽培を行う際に多発する病気を抑制することができるので、品質の高い果実をより安定して栽培することが可能となる。
また、房間第一葉Lの摘葉作業によって、房間第一葉Lで消費される予定のカルシウム等の養分を果実に移行させることができる。このため、通常のトマト栽培で発生するカルシウム欠乏に起因するシリグサレ病(尻腐れ病)の発生を抑制することができる。
つまり、本実施形態のトマトの低段密植栽培方法を用いて株Tを栽培すれば、通常の低段密植栽培でトマトを栽培する場合に多発する灰色かび病などの病気や、尻腐れ病などを抑制することができる。
さらに、隣接する株Tの葉同士が重ならないようにトマトを栽培することができるので、隣接する株Tの葉が重ならないように手当をしながらの誘引作業を行わなくてもよくなるので、栽培時における誘引作業を行いやすくできる。
また、本実施形態のトマトの低段密植栽培の収穫段数を3段とする場合、密植密度が栽培ベッドB1mあたり約7〜10本となるように株Tを栽培することができる。そして、かかる収穫段数であれば、1年間に約3〜5回の収穫を行うことができる。
なお、上記例では、定植時に苗の向きを調整するように定植する場合について説明したが、上述したように定植後に、所定のタイミングで房Cが栽培ベッドBの長手方向に位置するように仕立ててもよい。この場合、定植時に苗の向きを考慮しなくてよいので、定植作業を機械的に行うことが可能であり、定植の作業性を向上させることができるので、大規模に株Tを栽培する場合に適している。例えば、定植後、第一段目の花房Chが確認された段階で、かかる花房Chが栽培ベッドBの長手方向に位置するように主茎を仕立てれば、それよりも上方に位置する葉や房Cを所定の方向に位置させることができるので、定植時に苗の茎を調整しなくてもよくなる。
また、房C(花房Ch、果房Ck)の向きは、栽培ベッドBの長手方向に沿うように栽培するのであれば、とくに限定されない。しかし、同一の栽培ベッドBで栽培する全ての株Tの房C(花房Ch、果房Ck)が同じ方向に向くように調整されているのが好ましい(図1参照)。
この場合、房C(花房Ch、果房Ck)が同じ方向に向いているので、房C(花房Ch、果房Ck)の向きが左右に入り乱れている場合に比べて、房間第一葉Lを除去する摘葉作業や果実の収穫作業を効率化よく行うことができるし、房間第一葉Lの摘葉残しなどのミスを防止することができる。
なお、上記例では、収穫段数を3段で栽培する場合の摘心処理のタイミングについて説明したが、収穫段数を2段で栽培する場合には、第二段目の花房Chの上方に位置する房間第一葉Lを、収穫段数を4段で栽培する場合には、第四段目の花房Chの上方に位置する房間第一葉Lを除去した後、上述した場合と同様に摘心処理を行えば、所定の収穫段数となるように栽培することができる。
なお、上記例では、一の栽培ベッドBで栽培する株Tの列を一列(つまり一条植え)で栽培する場合について説明したが、一の栽培ベッドBに栽培する株Tの列は、一列に限定されず、隣接する列の株Tの葉同士が重ならければ、複数の列(例えば、二条植え)となるように栽培してもよい。言い換えれば、栽培ベッドBの幅が、株Tの葉の長さの約2倍程度よりも短い場合には、株Tを1条植えで栽培するのが望ましく、その逆に株Tの葉の長さの約2倍程度よりも長い場合には、株Tを2条植え以上で栽培することが可能となる。かかる状態で栽培することによって、品質の高い果実をより安定して栽培することができるようになる。
例えば、栽培ベッドBの幅が約40cm以上となるように形成すれば、株Tを2条植えとなるように栽培しても両者(一の列と他の列)の株T同士の葉が重なるのを防止することができるので、上述した場合と同様の効果を奏するように株Tを栽培することが可能となる。一方、栽培ベッドBの幅が40cm程度以下の場合には、一条植えで栽培するのが好ましい。かかる大きさの栽培ベッドBを用いて2条植えで株Tを栽培すれば、通路側と反対側に向かって伸びる葉が、隣接する他の列の株Tの葉(通路側と反対側に向かって伸びる葉)と重なってしまう。つまり、それぞれの内方に位置する葉同士が異なる列の葉と重なってしまい光合成に必要な光を十分に供給することができなくなってしまう。このため、上記程度の大きさの栽培ベッドBを用いる場合には、上述したように1条植えとなるように栽培するのが好ましい。
なお、摘葉作業により房間第一葉Lを除去することによって、果実に光を照射させることができるので、以下のような効果も得られる。
通常の株Tの着果作業には、ミツバチやマルハナバチなどのハチを利用して行われている。しかし、近年、ハチの大量死などによって着果作業に使用することができるハチの入手が困難となっている。そこで、人為的なホルモン処理をすることによって、受粉(つまり着果)を行う方法が広まっている。このホルモン処理方法は、確実に着果させることができるという利点が得られる一方、果実に照射される光が不足すると果実の内部に空洞が生じやすいという欠点がある。
しかし、上述したように、摘葉作業により房間第一葉Lを除去することによって、着果した後、果房Ckに対して光を適切に照射させることができるので、ホルモン処理に起因する果実の空洞化現象を抑制することができる。
本発明のトマトの低段密植栽培方法の有効性を確認するために、トマトを密植して栽培した際の果実に与える影響を確認した。
実験では、ビニールによって壁や屋根が覆われた栽培ハウスの温室内でNFTを利用してトマトを栽培した。
使用した栽培ベッドは、長尺板状の部材であり、上方から下方に向かって凹んだ溝状の収容空間を有するものを設置状況に応じて複数連結したものを使用した。例えば、栽培ベッドを軸方向に5個連結して全長が約5mとなるように作製したものを使用した。
なお、栽培ベッドの収容空間は、深さが50mm、横幅が215mm、栽培ベッドの軸方向の長さが100cmであった。また、栽培ベッドの素材は、発泡スチロール製であった。
実験に使用したトマト:トマト(品種;麗容、サカタ社製)の種子を播種した後、所定の大きさとなるまで閉鎖型の植物工場内で育苗したものを使用した。
定植時のトマトの苗の大きさは、本葉が3.5枚であった。そして、かかる大きさに育苗したトマトの苗を栽培ベッドに主茎間が約14cm(1mあたり約7本)となるように1条植えで定植した。
定植する際、子葉の上方に位置し、主茎を中心軸とし場合に子葉と略90°の位置関係にある2枚の葉のうち一の葉が通路側(つまり栽培ベッドの長手方向に対して略直交するように)に位置するように苗の主茎を配置して定植した。このとき、株が生長した際、果房の向きを揃えるために、上記2枚の葉の上方に位置する本葉のうち大きい方の本葉が同じ方向に向くように全ての苗を定植した。
なお、着果作業は、ホルモン剤(トマトトーン、石原バイオサイエンス社製)を使用したホルモン処理により行った。
着果作業は、花房の花が2〜3花、開花したごとに処理を行った。また、この着果作業は、花房の上方に位置しかつ主茎を挟んで花房と反対側に展開する葉(以下、単に房間第一葉という)を除去した状態で行った。
定植後、38日後に第一段目の花房の花が開花し始めた。4日後に、この花房の花が2〜3花、開花したので主茎を挟んで第一花房と180°反対側に位置する房間第一葉を除去した。そして、房間第一葉を除去した後、第1回目の着果作業を行った。この着果作業は、花房の他の花が2〜3花、開花するごとに行った。
定植後、49日後に第二段目の花房の花が開花し始めた。この4日後に、この花房の花が2〜3花、開花したので房間第一葉を除去した。そして、第一段目の花房と同様に着果作業を行った。
定植後、58日後に第三花房の花が開花し始めた。この5日後に、この花房の花が2〜3花、開花したので房間第一葉を除去した。そして、第一段目の花房と同様に着果作業を行った。
本実験では、収穫段数を3段としたので、第三段目の花房の上方に位置する房間第一葉を除去した段階で第三段目の花房の上方に位置する第二葉および第三葉の2枚の葉を残して、摘芯処理を行った。
そして、定植後、106日後に、果実の着色が収穫に適した色となったので、着色した果実から収穫を開始した。全ての果実を収穫し終わったのは、定植から153日後であった。なお、収穫に適した果実の着色は、目視で確認した。
なお、房間第一葉が、特許請求の範囲にいう苗の主茎を挟んで房と略反対側に位置する
葉に相当する。
(比較株)
一方、第一葉の摘葉作業を行わず、それ以外の栽培条件は上記実験と同様の条件下で栽培した低段密植栽培の株を、比較株とした。
果実の評価は、外観的評価および内部的評価により行った。
外観的評価は、色付き(着色)状態を観察し評価した。
内部的評価は、果実を切断した状態における、内部状態を観察し評価した。
(結果)
図4は、果実の色付き(着色)状態および形状を示したものである。
本実験の果実は、図4(A)に示すように、果実全体に均一にかつバランスよく着色することが確認できた。しかも、図4(A)に示すように、果実の形状もはりがあり、均一のとれた形状となることが確認できた。
一方、図4(B)は、比較株の果実を示したものである。図4(B)に示すように、比較株の果実は、実験株に比べて着色が不十分であることが確認できた。つまり、図4(B)では、果実の先端部分が赤身がかっていたものの、図4(B)の矢印で示した周方向部分がほぼ緑色であり、果実全体として実験株に比べてほぼ緑色の状態であった。しかも、図4(B)に示すように、比較株は、円周方向の表面形状が凸凹しており、全体的な形状も不均一であった。
図5は、果実の切断面を示した説明図である。
本実験の果実は、図5(A)に示すように、肉厚で中実な状態となることが確認できた。
一方、図5(B)は、比較株の果実を示したものである。図5(B)に示すように、比較株の果実には、果皮とゼリー部の間(図5(B)の矢印部分)に複数の空洞が確認された。また、本実験の果実と比べて、肉薄であることが確認できた。
また、本実験の株当たりの果実数は、平均17.2個/株であった。
一方、比較株の果実数は、平均15.6個/株であった。
以上の結果から、本発明のトマトの低段密植栽培方法を用いれば、従来と同様の方法でトマトを密植して栽培した場合と比べて、外観的評価および内部的評価において、同等またはそれ以上の品質の高い果実を栽培することができることが確認できた。
また、房間第一葉を除去した場合であっても、果実の品質に全く影響を与えないことが確認できた。
しかも、株当たりの果実平均数が、比較株と比べて有意となっていることから、房間第一葉を除去するタイミングを花房の花が開花した段階で行うことによって、着果作業を適切かつ簡便に行うことができ、しかも着果率を向上させることができることが確認できた。
したがって、本発明のトマトの低段密植栽培方法を用いれば、高い品質の果実を安定して供給することができ、しかも栽培作業性を向上させることができることが確認できた。
本発明のトマトの低段密植栽培方法は、栽培ハウス内でトマトを密植して栽培する方法として適している。
B 栽培ベッド
C 房
Ch 花房
Ck 果房
L 栽培ベッドの長手方向に沿って伸びた葉
GH 栽培ハウス
T トマトの株

Claims (4)

  1. 長尺な栽培ベッドを用いてトマトを密植して栽培する方法であって、
    各苗において、主茎に対して房が前記栽培ベッドの長手方向に位置するように該苗の主茎を配置し、
    前記房が前記栽培ベッドの長手方向に位置している状態において、主茎を挟んで房と略反対側に位置する葉を除去する
    ことを特徴とするトマトの低段密植栽培方法。
  2. 前記葉は、
    前記房の果実の肥大化が鈍化するまでに除去する
    ことを特徴とする請求項1記載のトマトの低段密植栽培方法。
  3. 前記房が、花房であり、
    該花房が開花した段階で、前記葉を除去する
    ことを特徴とする請求項1または2記載のトマトの低段密植栽培方法。
  4. 前記苗を一条植えとなるように定植する
    ことを特徴とする請求項1、2または3記載のトマトの低段密植栽培方法。
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