JP6127598B2 - 膜電極接合体製造装置及び膜電極接合体製造方法 - Google Patents

膜電極接合体製造装置及び膜電極接合体製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、高分子形燃料電池の膜電極接合体を製造するための膜電極接合体製造装置及び膜電極接合体製造方法に関し、より詳細には、転写基材に触媒層を形成し、乾燥後に高分子電解質膜へ触媒層を転写する転写法を採用することにより、高分子電解質膜が溶剤によって膨潤することがなく、特に、寸法を厳密に管理する場合に有効な膜電極接合体製造装置及び膜電極接合体製造方法に関するものである。
近年、環境問題やエネルギー問題の有効な解決策として、燃料電池が注目されている。燃料電池とは、水素などの燃料を酸素などの酸化剤を用いて酸化し、これに伴う化学エネルギーを電気エネルギーに変換する。この燃料電池は、電解質の種類によって、アルカリ形、リン酸形、高分子形、溶融炭酸塩形、固体酸化物形などに分類される。そのなかでも、高分子形燃料電池(polymer electrolyte fuel cell:PEFC)は、低温作動、高出力密度であり、小型化・軽量化が可能であることから、携帯用電源、家庭用電源、車載用動力源としての応用が期待されている。
高分子形燃料電池(PEFC)は、電解質膜である高分子電解質膜を燃料極(アノード)と空気極(カソード)で挟んだ構造となっており、燃料極側に水素を含む燃料ガス、空気極側に酸素を含む酸化剤ガスを供給することで、下記の電気化学反応により発電する。
アノード:H → 2H + 2e ・・・(1)
カソード:1/2O + 2H + 2e → HO ・・・(2)
アノード及びカソードは、それぞれ触媒層とガス拡散層の積層構造からなる。アノード側触媒層に供給された燃料ガスは、電極触媒によりプロトンと電子となる(反応1)。プロトンは、アノード側触媒層内の高分子電解質、高分子電解質膜を通り、カソードに移動する。電子は、外部回路を通り、カソードに移動する。カソード側触媒層では、プロトンと電子と外部から供給された酸化剤ガスが反応して水を生成する(反応2)。このように、電子が外部回路を通ることにより発電する。
従来、膜電極接合体の製造方法としては、触媒を担持した炭素粒子、高分子電解質及び溶媒からなる触媒層用スラリーを製造して、触媒層用スラリーを高分子電解質膜に直接塗工して製造する方法や、転写基材またはガス拡散層に塗工して後、高分子電解質膜に熱圧着して製造する方法が知られている。
高分子電解質膜に触媒層を直接塗工形成する方法は、副資材低減や工程数削減の面で利点も多いが、高分子電解質膜は溶剤を吸収して膨潤するため、変形や寸法変動を起こしやすい。高分子電解質膜の種類によっては膨潤率の低いものもあるが、膜種が限られてしまうという難点がある。
転写法は、転写基材に触媒層を形成し、乾燥後に高分子電解質膜へ触媒層を転写する方法である(例えば特許文献1)。したがって、高分子電解質膜が溶剤によって膨潤することはない。寸法を厳密に管理する場合に有効な製造方法である。
特開2008−103251号公報
転写法の製造プロセスは以下に記述する通りである。まず転写基材に触媒層を形成する。塗工方法にはダイ塗工を用いる場合が多い。アノード電極、カソード電極の2種を形成する。塗工後は減圧乾燥や焼成によって触媒層中の溶剤を十分に除去する。
次に転写基材に形成した触媒層を高分子電解質膜に転写する。転写方法には熱ラミネート(laminate)法を採用する場合が多い。この際、アノード電極とカソード電極を位置合わせ(アライメント:alignment)し、ずれ無く貼り合せる。貼り合せた後は転写基材を剥離するため、転写基材は、触媒層との剥離性が良好な基材を選定する必要がある。
以上の製造プロセスにおいて、困難とされているのが貼り合せる貼合工程である。高分子電解質膜は熱の影響によっても変形する。したがって、常温でアライメントした後に熱ラミネートすると、変形によるシワの発生やカールが発生する。
そこで考案されたのが、アライメントの段階で、転写基材と高分子電解質膜との双方を過熱する方法である。これら双方を熱ラミネート温度と同一温度に加熱し、アライメント実施の後に熱ラミネートすれば、変形することなく、アライメントされた状態で接合することができる。
しかし、問題となるのが加熱しながらアライメントする方法である。ホットプレート上にて人手による作業でアライメントすることはできるが、当然、アライメント精度が低く、作業効率も悪い。また、高分子電解質膜と転写基材との間にエアが混入してしまうという不具合も発生する。
上記アライメント作業を自動化することは難しい。転写基材と高分子電解質膜との双方を加熱しながらアライメントするプロセスは、事例が少ない。また、高分子電解質膜が薄膜であるため伸びやすく、テンションをかけられないという点も問題である。また、燃料電池のコア部材である膜電極接合体の製造方法の1つに、電解質膜へ触媒層を転写する方式がある。しかし、電解質膜は湿度や温度の影響を受けて変形するため、転写方式における基材のハンドリングが困難とされている。
本発明は、このような問題に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、下記1)〜4)に示す膜電極接合体製造装置及び膜電極接合体製造方法を提供することにある。1)基材の変形によるシワ、寸法変動、シートカールを生じない膜電極接合体を製造することができる。特に、貼り合せ時の温度の差を原因とする基材の変形やシワの発生、寸法の変動を回避することが容易である。2)応力調整の不備を原因とするエア噛み(air entrainment)や貼合不良を避けることができる。3)円柱状ステージに転写基材を積層させた場合、積層工程の次工程に移行する際に、膜電極接合体の温度を下げることなく金属プレートごと移行することができる。4)基材に剥離時の応力をかけることなく、円柱状または平面状ステージに転写基材を積層することができる。
このように、本発明は、高分子電解質膜と転写基材との双方を過熱しながらアライメントし、エアの混入無く両者を重ね合わせることを可能とする膜電極接合体製造装置及び膜電極接合体製造方法を提供するものである。
本発明は、このような目的を達成するためになされたもので、請求項1に記載の発明は、電解質膜(1)と電極とを有する膜電極接合体を製造するための膜電極接合体製造装置であって、前記電解質膜(1)を固定して加温可能な第一のステージ(7(6))と、前記電極を設けた転写基材(2),(4)を固定して加温可能な第二のステージ(6(7))と、前記第一のステージ(7(6))に固定された前記電解質膜(1)と前記第二のステージ(6(7))に固定された前記転写基材(2),(4)とを加温しながら接触させて貼り合せる貼合手段(10)とを備え、前記第一のステージ(7(6))及び前記第二のステージ(6(7))は多孔質材で構成されており、前記第一のステージ(7(6))及び前記第二のステージ(6(7))のうち、一方は円柱状ステージ(6)で構成され、他方は平面状ステージ(7)で構成され、前記円柱状ステージ(6)を前記平面状ステージ(7)の上で転がしながら貼り合せるように構成されていることを特徴とする。
求項に記載の発明は、請求項に記載の発明において、前記円柱状ステージ(6)に前記転写基材(2),(4)を積層させることを特徴とする。
請求項に記載の発明は、請求項に記載の発明において、前記平面状ステージ(7)に前記転写基材(2),(4)を積層させることを特徴とする。
請求項に記載の発明は、請求項2又は3に記載の発明において、前記貼合手段(10)は、前記円柱状ステージ(6)と前記平面状ステージ(7)とが最接近した箇所において、前記円柱状ステージ(6)と前記平面状ステージ(7)とのうち前記転写基材(2),(4)を積層させない方のステージに対してのみ吸着解除もしくはブローを施すことにより前記転写基材(2),(4)を剥離する機構を具備したことを特徴とする。
請求項に記載の発明は、請求項1〜の何れか1項に記載の発明において、前記貼合手段(10)には、前記第一のステージ(7(6))と前記第二のステージ(6(7))との温度差を3℃以内に保持することが可能な温度管理手段を備えたことを特徴とする。
請求項に記載の発明は、電解質膜(1)と電極とを有する膜電極接合体を製造する膜電極接合体製造方法であって、多孔質材から構成されて加温可能な第一のステージ(7(6))に前記電解質膜(1)を固定する電解質膜固定工程(S10)と、多孔質材から構成されて加温可能な第二のステージ(6(7))に前記電極を設けた転写基材(2),(4)を固定する転写基材固定工程(S20)と、前記第一のステージ(7(6))に固定された前記電解質膜(1)と前記第二のステージ(6(7))に固定された前記転写基材(2),(4)とを加温しながら接触させて貼り合せる貼合工程(S30)とを有し、前記貼合工程(S30)では、前記第一のステージ(7(6))及び前記第二のステージ(6(7))のうち、一方には円柱状ステージ(6)を用い、他方には平面状ステージ(7)を用い、前記円柱状ステージ(6)を前記平面状ステージ(7)の上で転がしながら貼り合せることを特徴とする。
求項に記載の発明は、請求項に記載の発明において、前記円柱状ステージ(6)に前記転写基材(2),(4)を積層させることを特徴とする。
請求項に記載の発明は、請求項に記載の発明において、前記平面状ステージ(7)に前記転写基材(2),(4)を積層させることを特徴とする。
請求項に記載の発明は、請求項7又は8に記載の発明において、前記貼合工程(S30)は、前記円柱状ステージ(6)と前記平面状ステージ(7)とが最接近した箇所において、前記円柱状ステージ(6)と前記平面状ステージ(7)とのうち前記転写基材(2),(4)を積層させない方のステージに対してのみ吸着解除もしくはブローを施すことにより前記転写基材(2),(4)を剥離することを特徴とする。
請求項1に記載の発明は、請求項の何れか1項に記載の発明において、前記貼合工程(S30)において用いる前記第一のステージ(7(6))と前記第二のステージ(6(7))との温度差を3℃以内に保持することを特徴とする。
本発明によれば、下記1)〜4)に示す効果がある。すなわち、1)基材の変形によるシワ、寸法変動、シートカールを生じない膜電極接合体を製造することができる。特に、貼り合せ時の温度の差を原因とする基材の変形やシワの発生、寸法の変動を回避することが容易である。2)応力調整の不備を原因とするエア噛み(air entrainment)や貼合不良を避けることができる。3)円柱状ステージに転写基材を積層させた場合、積層工程の次工程に移行する際に、膜電極接合体の温度を下げることなく金属プレートごと移行することができる。4)基材に剥離時の応力をかけることなく、円柱状または平面状ステージに転写基材を積層することができる。
上記1)〜4)に示す効果が得られる理由は下記の通りである。
1)基材の変形によるシワ、寸法変動、シートカールを生じない膜電極接合体を製造することができる。その理由は、電解質膜と転写基材とを加温しながら接触させて貼り合せるからである。特に、貼り合せ時の温度の差を原因とする基材の変形やシワの発生、寸法の変動を回避できる理由は、貼合手段及び貼合工程において用いる第一のステージと第二のステージとの温度差を3℃以内に保持するように温度管理するからである。
2)エア噛みや貼合不良を避けて、膜電極接合体を製造することができる。その理由は、電解質膜と転写基材とを貼り合せる貼合工程において、円柱状ステージと平面状ステージとが接触する応力の調整が容易であるためである。したがって、その応力調整の不備を原因とする不具合を避けやすくなる。
3)積層工程の次工程に移行する時にも膜電極接合体の温度を下がり難くすることができる。その理由は、円柱状ステージに転写基材を積層させるからである。例えば、熱ラミネート等の次の工程で、加温された平面状ステージに金属性プレートを載せておき、その金属性プレートへ、転写基材を円柱状ステージに積層させた状態の膜電極接合体を移載すれば、膜電極接合体の温度は下がり難い。
4)平面状ステージに転写基材を積層させた場合、膜電極接合体のシートカールが発生しにくい。その理由は、円柱状ステージの外周面に積層させた場合に発生する曲面吸着による応力歪みも、平面状ステージに転写基材を積層させることによって、応力歪みの発生を回避できるからである。
5)基材に剥離時の応力をかけることなく、円柱状または平面状ステージに転写基材を積層することができる。その理由は、円柱状ステージと平面状ステージとのうち転写基材を積層させない方のステージに対してのみ吸着解除もしくはブローを施すことにより転写基材を剥離するからである。
このように、本発明は、高分子電解質膜と転写基材との双方を過熱しながらアライメントし、エアの混入無く両者を重ね合わせることを可能とする膜電極接合体製造装置及び膜電極接合体製造方法を提供することができる。
本発明の実施形態に係る膜電極接合体製造装置及び膜電極接合体製造方法において、転写基材を剥離する前の膜電極接合体の断面図である。 本発明の実施形態に係る膜電極接合体製造装置及び膜電極接合体製造方法において、製造された膜電極接合体の断面図である。 本発明の実施形態に係る膜電極接合体製造装置の要部概略図である。 本発明の実施形態に係る膜電極接合体製造方法における全体工程のフロー図である。 本発明の実施形態に係る膜電極接合体製造装置及び膜電極接合体製造方法における貼合工程のフロー図である。
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る膜電極接合体製造装置及び膜電極接合体製造方法において、転写基材を剥離する前の膜電極接合体の断面図である。図1に示すように、分子電解質膜1の一方の面に、アノード電極触媒層(以下、単に触媒層ともいう)3を介在して、アノード側(以下、転写基材、又は単に基材ともいう)2が積層されている。また、高分子電解質膜(以下、単に電解質膜ともいう)1の他方の面に、カソード電極触媒層(以下、単に触媒層ともいう)5を介在して、カソード側転写基材(以下、転写基材、又は単に基材ともいう)4が積層されている。
図2は、本発明の実施形態に係る膜電極接合体製造装置及び膜電極接合体製造方法によって製造された膜電極接合体の断面図である。図1において分子電解質膜1の両面に積層されていたアノード側転写基材2及びカソード側転写基材4が、図2では剥離されて膜電極接合体を形成している。
このように、転写法によって膜電極接合体を製造した際の、転写基材2,4を剥離する前の状態を、図1に示している。この状態から転写基材2,4を剥離することによって、図2に示すような膜電極接合体を得ることができる。
図3は、本発明の実施形態に係る膜電極接合体製造装置の要部概略図である。つまり、本実施形態の要部である貼り合せ装置(貼合手段)10の概略であり、円柱状ステージ(以下、円柱状ステージ又は単にステージともいう)6と平面状ステージ(以下、平面状ステージ又は単にステージともいう)7からなる簡易な構造である。これら、円柱状又平面状ステージ6,7は、多孔質材からなるものである。その多孔質材の孔径は、直径50μm以下であることが望ましい。
上述したように、本実施形態に係る膜電極接合体製造装置は、電解質膜1と電極とを有する膜電極接合体を製造するための膜電極接合体製造装置であって、電解質膜1を固定して加温可能な第一のステージ7(6)と、電極を設けた転写基材2,4を固定して加温可能な第二のステージ6(7)と、第一のステージ7(6)に固定された電解質膜1と第二のステージ6(7)に固定された転写基材2,4とを加温しながら接触させて貼り合せる貼合手段10とを備え、第一のステージ7(6)及び第二のステージ6(7)は多孔質材で構成されている。
また、図3に示す貼合手段10に具備された第一のステージ7(6)及び第二のステージ6(7)のうち、一方は円柱状ステージ6で構成され、他方は平面状ステージ7で構成されている。そして、円柱状ステージ6を平面状ステージ7の上で、回転方向転8で示すように転がしながら貼り合せるように構成されている。
なお、本発明でいう第一のステージ7(6)は、本実施形態における平面状ステージ7(又は円柱状ステージ6)を意味する。その場合、本発明でいう第二のステージ6(7)は、本実施形態における円柱状ステージ6(又は平面状ステージ7)を意味する。つまり、第一のステージと第二のステージとは、相互に読み替えても構わない。また、円柱状ステージ6では、その外周面に基材2,4を吸着させる。
図3には記載していないが、これら多孔質のステージ6,7は、それぞれに真空吸引機構が接続されている。この真空吸引機構を接続することにより、設置したフィルム状の基材2,4をステージ6,7の上に吸着させることができる。
吸着ステージに多孔質材を採用する理由は、基材2,4の全面を強固にステージ6,7へ吸着させるためである。これに対して、規則的に吸着孔が開口された、通常のステージ6,7では、基材2,4の全面を吸着することが難しく、特に高分子電解質膜1は吸着のムラにより変形、寸法変動を生じやすい。
多孔質ステージの材質は特に限定するものではないが、樹脂製、またはセラミックス製のものを採用する場合が一般的である。樹脂製のものは変形が可能なため、本実施形態における円柱状ステージ6への適用が容易となる。セラミックス製のものは平坦度が良好であるという特徴があり、円柱状ステージ6への加工も可能であるが、高価であるという難点がある。また、セラミックスは剛性が高く、貼り合せの際にクッション性が求められるような場合には向かない。
また、図3には記載していないが、多孔質のステージ10は加温可能な機構を具備している。加熱の方法は限定するものではないが、多孔質材に熱源を搭載することは困難であるため、熱源の上に多孔質材を載せる方法が一般的である。円柱状ステージ6の場合は、円柱状の熱源の外側を多孔質材で覆う構成であるため、多孔質材を加温することができる。
このような本実施形態に係る膜電極接合体製造装置あるいは膜電極接合体製造方法によれば、基材の変形によるシワ、寸法変動、シートカールを生じない膜電極接合体を製造することができる。その理由は、電解質膜1と転写基材2,4とを加温しながら接触させて貼り合せるからである。特に、貼り合せ時の温度の差を原因とする基材2,4の変形やシワの発生、寸法の変動を回避できる理由は、貼合手段及び貼合工程において用いる第一のステージと第二のステージとの温度差を3℃以内に保持するように温度管理するからである。
上述したように、ステージ6とステージ7との温度差は、3℃以下とする必要がある。これは特に高分子電解質膜1の変形を回避するためである。3℃以上の温度差がある場合、電解質膜1と転写基材2,4とを貼り合せた後に変形を生じることを確認している。このため、貼合手段10には、第一のステージ7(6)と第二のステージ6(7)との温度差を3℃以内に保持することが可能な温度管理手段(不図示)を備えている。
また、図3には記載していないが、円柱状ステージ6、もしくは平面状ステージ7のどちらかは、X、Y,θ方向に対し稼動可能であることが望ましい。ここでX,Y,θ方向とは、平面状ステージ7の面内方向を意味する。これは転写基材2,4と高分子電解質膜1とを貼り合せる際に、貼り合せ位置を合わせるためである。
また、図4を用いて、膜電極接合体製造方法の全体工程を説明する。
図4は、本発明の実施形態に係る膜電極接合体製造方法における全体工程のフロー図である。本実施形態においては、電解質膜固定工程(S10)と、転写基材固定工程(S20)と、貼合工程(S30)とを有する工程を実行することにより、膜電極接合体を製造する。先ず、電解質膜固定工程(S10)により、多孔質材から構成されて加温可能な第一のステージ7(6)に電解質膜1を固定する。次に、転写基材固定工程(S20)により、多孔質材から構成されて加温可能な第二のステージ6(7)に電極を設けた転写基材2,4を固定する。そして、貼合工程(S30)により、第一のステージ7(6)に固定された電解質膜1と第二のステージ6(7)に固定された転写基材2,4とを加温しながら接触させて貼り合せる。
以下、図5の貼合工程(S30)フローを使って、具体的な貼り合せ方法について説明する。ここでは、円柱状ステージ6に基材2,4を積層させる方法について述べる。
なお、上記方法とは逆に、平面状ステージ7に基材2,4を積層させる装置及び方法もある。ただし、どちらの方法であっても、円柱状ステージ6と平面状ステージ7との何れか一方に転写基材2,4を積層させる。
特に、平面状ステージ7に転写基材2,4を積層させた場合は、膜電極接合体のシートカールが発生し難い。その理由は、円柱状ステージ6の外周面に積層させた場合に発生する曲面吸着による応力歪みも、平面状ステージ7に転写基材2,4を積層させることによって、応力歪みの発生を回避できるからである。
図5は、本発明の実施形態に係る膜電極接合体製造装置及び膜電極接合体製造方法における貼合工程のフロー図である。
図5(a)は転写基材設置工程である。設置するのはアノード電極、カソード電極どちらでも構わない。貼り合せる際の温度に加温した多孔質の平面状ステージ7に、アノード電極触媒層3又はカソード電極触媒層5を形成したアノード側転写基材2又はカソード側転写基材4を設置する。設置の際は、十分に基材が加温された後に真空吸着する。
図5(b)は貼合開始段階である。円柱状ステージ6を転がすことによって、平面状ステージ7に設置した基材を円柱状ステージ6に移すことを目的とする。貼り合せる際は、円柱状ステージ6と平面状ステージ7とが接触した箇所から順に、平面状ステージ7の吸着を解除もしくはエアブローする。これによって、基材2,4に応力をかけることなく、円柱状ステージ6に移すことができる。このように、転写基材2,4に剥離時の応力をかけることなく、円柱状または平面状のステージ6,7に転写基材2,4を積層することができる理由は、円柱状ステージ6と平面状ステージ7とのうち、転写基材2,4を積層させない方のステージに対してのみ吸着解除もしくはブローを施すことにより転写基材2,4を剥離するからである。
(b)の貼合開始段階においては、最初から基材2,4を円柱状ステージ6に設置する方法を採用しても構わない。しかし、曲面状の外周面に基材2,4を設置することは容易でない。特に、ライン化を想定する際、ロボットによる作業で曲面上にフィルム状の基材2,4を巻き付けることは困難であると想定される。
また、本実施形態に係る膜電極接合体製造装置及び膜電極接合体製造方法によれば、積層工程の次工程に移行する時にも膜電極接合体の温度を下がり難くすることができる。その理由は、円柱状ステージ7に転写基材2,4を積層させるからである。例えば、熱ラミネート等の次の工程で、加温された平面状ステージ7に金属性プレートを載せておき、その金属性プレートへ、転写基材2,4を円柱状ステージ6に積層させた状態の膜電極接合体1を移載すれば、膜電極接合体の温度は下がり難い。
図5(b)の貼合開始段階においては、円柱状ステージ6と平面状ステージ6とが接触する際に、応力を調整できる機構(不図示)が必要である。特に、後述する積層貼合の際には応力調整が必須となる。応力が強すぎると基材が変形し、弱すぎるとエア噛みや貼合不良が起こる。本実施形態に係る膜電極接合体製造装置及び膜電極接合体製造方法によれば、エア噛み(air entrainment)や貼合不良を避けて、膜電極接合体を製造することができる。その理由は、電解質膜1と転写基材2,4とを貼り合せる貼合工程(S30)において、円柱状ステージ6と平面状ステージ7とが接触する応力の調整が容易であるためである。したがって、その応力調整の不備を原因とする不具合を避けやすくなる。
図5(c)は、貼合終了段階である。基材2,4が円柱状ステージ6に巻き付いている状態が確認できる。ここで円柱状ステージ6は、基材2,4を吸着している状態である。
図5(d)は高分子電解質膜設置工程である。電解質膜1は温度により変形しやすいため、設置の際は、十分に基材2,4を加温した後に真空吸着する。
図5(e)は積層貼合開始の工程である。既に転写基材が設置されている円柱状ステージ6を転がすことによって、平面状ステージ7に設置されている高分子電解質膜1を転写基材2,4の上に積層させる。貼り合せの際は、円柱状ステージ6と平面状ステージ7の接触した箇所から順に、平面状ステージ7の吸着を解除もしくはエアブローする。これによって、高分子電解質膜1に応力をかけることなく、円柱状ステージ6に移すことができる。
つまり、貼合手段10は、円柱状ステージ6と平面状ステージ7とが最接近した箇所において、円柱状ステージ6と平面状ステージ7との何れか転写基材2,4を積層させないステージに対してのみ吸着解除もしくはブローを施すことにより転写基材2,4を剥離する機構(不図示)を具備している。
また、貼合工程(S30)では、円柱状ステージ6と平面状ステージ7とが最接近した箇所において、円柱状ステージ6と平面状ステージ7とのうち、転写基材2,4を積層させない方のステージに対してのみ、吸着解除もしくはブローを施すことにより転写基材2,4を剥離する。
図5(e)に示す積層貼合開始段階から始まる積層貼合工程(S30)において、高分子電解質膜1を転写基材2,4上に積層する際、基材2,4同士のタックにより積層させることも可能だが、基材2,4のタックが弱い場合には剥離してしまう可能性もある。したがって、高分子電解質膜1を転写基材2,4よりも大きいサイズにすることによって、円柱状ステージ6に吸着させる等の工夫が必要となる。
図5(f)は積層貼合終了段階である。円柱状ステージ6の上に転写基材2,4と高分子電解質膜1が積層貼合された状態が示されている。
以下、実施例に沿った膜電極接合体製造装置及び膜電極接合体製造方法について説明する。本実施例に示す内容は、基本的に図5に示した工程フローに沿って行った実験結果に基づくものである。
転写基材2,4には、厚さ100μmのテフロン(登録商標)フィルムを採用した。これを100mmに断裁し、触媒層3,5の塗工を実施した。また、電解質膜1には市販の厚さ50μmのものを使用し、同じく100mmに断裁した。
50mmの触媒層3,5を形成するため、転写基材2,4にはマスキングテープによって50mmの開口を設けた後に塗工を実施した。塗工方法は簡易のバーコート方式により行い、乾燥後にマスキングテープを剥離した。
貼合装置10は図3に示すものとほぼ同等の試験的な装置を使用した。円柱状ステージ6は、ステンレス製の円柱状ヒーターにポリプロピレン樹脂からなる多孔質材を巻きつけることによって構成した。この多孔質材として、孔径が直径20μmの多孔質樹脂を採用した。
平面状ステージ7には、アルミナを材質とした多孔質プレートを採用した。孔径は、ポリプロピレン樹脂と同じ直径20μmである。これをホットプレート上に設置することによって加温型の平面状ステージ7を構成した。
円柱状ステージ6、及び平面状ステージ7の温度は100℃とし、貼り合せの動作は手動にて円柱状ステージ6を転がすのみとした。したがって、貼り合せの動作において付与される圧力は、円柱状ステージ6の重さによって約5Kgに規定される。
貼り合せの際の吸着解除に関しては、貼り合せの開始前に、平面状ステージ7の吸着を全面開放する方法を採用した。なお、吸着を全面開放する方法に代えて順次解除の制御による方法を採用しても構わない。
以上説明したように、本実施例に係る膜電極接合体製造装置及び膜電極接合体製造方法において、図4及び図5に示した通りの工程フローにより、高分子電解質膜1と転写基材2,4との貼り合せを実施した。その結果、基材の変形やエア噛み、シワ発生の無い膜電極接合体を製造することができた。以上の結果より、本発明に係る膜電極接合体製造装置及び膜電極接合体製造方法が実用できると結論づけた。
1…高分子電解質膜
2…アノード側転写基材
3…アノード電極触媒層
4…カソード側転写基材
5…カソード電極触媒層
6…円柱状ステージ(第二のステージ、又は第一のステージ)
7…平面状ステージ(第一のステージ、又は第二のステージ)
8…円柱状ステージの回転方向
10…貼合装置(貼合手段)
(a)…転写基材設置工程
(b)…貼合開始段階
(c)…貼合終了段階
(d)…高分子電解質膜設置工程
(e)…積層貼合開始段階
(f)…積層貼合終了段階

Claims (10)

  1. 電解質膜と電極とを有する膜電極接合体を製造するための膜電極接合体製造装置であって、
    前記電解質膜を固定して加温可能な第一のステージと、
    前記電極を設けた転写基材を固定して加温可能な第二のステージと、
    前記第一のステージに固定された前記電解質膜と前記第二のステージに固定された前記転写基材とを加温しながら接触させて貼り合せる貼合手段とを備え、
    前記第一のステージ及び前記第二のステージは多孔質材で構成されており、
    前記第一のステージ及び前記第二のステージのうち、一方は円柱状ステージで構成され、他方は平面状ステージで構成され、前記円柱状ステージを前記平面状ステージの上で転がしながら貼り合せるように構成されていることを特徴とする膜電極接合体製造装置。
  2. 前記円柱状ステージに前記転写基材を積層させることを特徴とする請求項に記載の膜電極接合体製造装置。
  3. 前記平面状ステージに前記転写基材を積層させることを特徴とする請求項に記載の膜電極接合体製造装置。
  4. 前記貼合手段は、前記円柱状ステージと前記平面状ステージとが最接近した箇所において、前記円柱状ステージと前記平面状ステージとのうち前記転写基材を積層させない方のステージに対してのみ吸着解除もしくはブローを施すことにより前記転写基材を剥離する機構を具備したことを特徴とする請求項2又は3に記載の膜電極接合体製造装置。
  5. 前記貼合手段には、前記第一のステージと前記第二のステージとの温度差を3℃以内に保持することが可能な温度管理手段を備えたことを特徴とする請求項1〜の何れか1項に記載の膜電極接合体製造装置。
  6. 電解質膜と電極とを有する膜電極接合体を製造する膜電極接合体製造方法であって、
    多孔質材から構成されて加温可能な第一のステージに前記電解質膜を固定する電解質膜固定工程と、
    多孔質材から構成されて加温可能な第二のステージに前記電極を設けた転写基材を固定する転写基材固定工程と、
    前記第一のステージに固定された前記電解質膜と前記第二のステージに固定された前記転写基材とを加温しながら接触させて貼り合せる貼合工程とを有し、
    前記貼合工程では、前記第一のステージ及び前記第二のステージのうち、一方には円柱状ステージを用い、他方には平面状ステージを用い、前記円柱状ステージを前記平面状ステージの上で転がしながら貼り合せることを特徴とする膜電極接合体製造方法。
  7. 前記円柱状ステージに前記転写基材を積層させることを特徴とする請求項に記載の膜電極接合体製造方法。
  8. 前記平面状ステージに前記転写基材を積層させることを特徴とする請求項に記載の膜電極接合体製造方法。
  9. 前記貼合工程は、前記円柱状ステージと前記平面状ステージとが最接近した箇所において、前記円柱状ステージと前記平面状ステージとのうち前記転写基材を積層させない方のステージに対してのみ吸着解除もしくはブローを施すことにより前記転写基材を剥離することを特徴とする請求項又はに記載の膜電極接合体製造方法。
  10. 前記貼合工程において用いる前記第一のステージと前記第二のステージとの温度差を3℃以内に保持することを特徴とする請求項の何れか1項に記載の膜電極接合体製造方法。
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