JP6114563B2 - 無段変速機の制御装置 - Google Patents

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Description

本発明は、ドライブプーリとドリブンプーリとの間に金属チェーン又はベルトなどの動力伝達部材を巻き掛けて構成される無段変速機の制御装置に関し、より詳細には、動力伝達部材のドライブプーリへの噛み込みなどに伴う振動・騒音を抑制することができる無段変速機の制御装置に関する。
車両などに搭載される無段変速機は、溝幅の変更可能な略V字状の断面形状を有する受溝をそれぞれ備えた2つのプーリ(ドライブプーリ及びドリブンプーリ)の間に無端状の金属チェーンやベルトなどの動力伝達部材を巻き掛けた構成である。そして、両プーリの溝幅(プーリ幅)を変化させることにより変速比を無段階に変化させるようになっている。
上記のような無段変速機に用いられる動力伝達部材として、スチール等の金属材料で構成したいわゆるチェーンタイプの動力伝達部材がある。このチェーンタイプの動力伝達部材は、一対のピン孔を有するリンクプレートと、ピン孔に挿入されるロッカーピンとを備え、ピン孔を介してリンクプレートを交互に組み合わせ、ピン孔にロッカーピンを挿入することで、リンクプレートがロッカーピンにより互いに屈曲自在に連結されるように構成される。
このような動力伝達部材が回転してプーリに噛み込んでいくときには噛込音(衝突音)が発生するが、当該噛込音の周波数(噛込周波数)が他の騒音あるいは振動発生源の振動の周波数と一致すると、そのエネルギが増幅されて共振又は共振に近い状態となることで、騒音及び振動レベルが悪化するという問題がある。
上記のような無段変速機の騒音及び振動の問題の解決に関連する従来技術として、特許文献1乃至3に記載の技術が知られている。特許文献1に記載の無段変速機は、プーリシャフトを支持するベアリングのアウターとケースとの間に剛性を有したスペーサを設置することにより、必要剛性を確保しながらベルトとプーリの接触により発生する振動を遮断するものである。
また、特許文献2に記載の無段変速機は、プーリディスクを異なる材質の金属などを積層した構造とすることにより、金属ベルト等のプーリへの巻き込み時に発生する衝撃音を層間の摩擦発熱により低減するものである。
また、特許文献3には、無段変速機の騒音及び振動の改善手段として、噛込周波数とプーリの固有共振周波数とがほぼ一致する運転領域を最短時間で横切るように変速特性を設定する方法が記載されている。
特許第4806827号公報 実公昭63−44600号公報 特許3154760号公報
しかしながら、特許文献1の無段変速機においては、ベアリングのアウター及びケースの剛性については考察されているが、ベアリングのアウターとケースと間のフレッティングに対する耐性が明らかでない。そのため、この部分への潤滑量が適正でない状態では、フレッティングが発生することでシャフトが適正な位置からずれてしまう。これにより、アライメントずれによるベルト寿命の低下や動力伝達効率の低下、ひいては騒音の増大などが発生する可能性がある。
また、特許文献2の無段変速機においては、ベルトを挟みつける反力として、プーリフランジに生じる繰り返し応力に対して十分な耐久性を有した構成を実用的な重量や容積で実現できないおそれがある。
また、特許文献3の従来技術においては、動力伝達部材における弦部の振動レベルの大小は、弦部の長さ、弦部にかかる張力等によって定まる弦部の共振周波数の値に大きく左右される。また、この弦部の長さ、弦部にかかる張力は、変速比あるいはドライブプーリの入力トルク等の運転状態を決定するパラメータの影響を受けて変化するため、弦部の共振周波数は運転状態の変化に応じて変化する。その一方で、上記の噛込周波数はドライブプーリの回転数に依存して変化しており、この噛込周波数が上記の弦部共振周波数と一致したときには、そのエネルギが増幅され(共振に近い状態となり)、騒音及び振動レベルが悪化してしまうという問題がある。
本発明は上述の点に鑑みてなされたものであり、その目的は、部品点数を少なく抑えた簡単な構成及び簡易な制御で、動力伝達部材のドライブプーリへの噛み込みなどにより生じる騒音・振動をより確実に低減できる無段変速機の制御装置を提供することを目的とする。
上記課題を解決するための本発明は、駆動源(E)からの駆動力が伝達されて回転するドライブプーリ(11)と、回転に伴う駆動力を出力側に伝達するドリブンプーリ(16)と、前記ドライブプーリ(11)と前記ドリブンプーリ(16)との間に巻き掛けられた動力伝達部材(15)と、前記ドライブプーリ(11)と同軸上に配置されて前記駆動源(E)から前記ドライブプーリ(11)への動力伝達率を変化させることが可能な第1動力伝達部(20)と、前記ドリブンプーリ(16)と同軸上に配置されて該ドリブンプーリ(16)から出力軸への動力伝達率を変化させることが可能な第2動力伝達部(40)との少なくともいずれかを含む動力伝達機構と、を備え、前記ドライブプーリ(11)と前記ドリブンプーリ(16)のプーリ幅を変更することで、前記ドライブプーリ(11)の回転数を無段階に変速して前記ドリブンプーリ(16)に伝達する無段変速機(1)において、前記ドライブプーリ(11)の回転数に基づいて前記動力伝達部材(15)の前記ドライブプーリ(11)及び前記ドリブンプーリへの噛込周波数を算出する噛込周波数算出手段(100)と、予め算出した前記ドライブプーリ(11)の共振周波数と前記ドリブンプーリ(16)の共振周波数とが記憶された記憶手段(106)と、前記噛込周波数算出手段(100)で算出した前記噛込周波数と前記記憶手段(106)に記憶された前記ドライブプーリ(11)の共振周波数又は前記ドリブンプーリ(16)の共振周波数とが互いに一致したとみなせる範囲内となったとき、前記動力伝達機構の動力伝達に滑りを生じさせる動力伝達スリップ制御を行う制御手段(100)と、を備えることを特徴とする。
または、駆動源(E)からの駆動力が伝達されて回転するドライブプーリ(11)と、回転に伴う駆動力を出力側に伝達するドリブンプーリ(16)と、前記ドライブプーリ(11)と前記ドリブンプーリ(16)との間に巻き掛けられた動力伝達部材(15)と、前記ドライブプーリ(11)と同軸上に配置されて前記駆動源(E)から前記ドライブプーリ(11)への動力伝達率を変化させることが可能な第1動力伝達部(20)と、前記ドリブンプーリ(16)と同軸上に配置されて該ドリブンプーリ(16)から出力軸への動力伝達率を変化させることが可能な第2動力伝達部(40)との少なくともいずれかを含む動力伝達機構と、を備え、前記ドライブプーリ(11)と前記ドリブンプーリ(16)のプーリ幅を変更することで、前記ドライブプーリ(11)の回転数を無段階に変速して前記ドリブンプーリ(16)に伝達する無段変速機(1)において、前記無段変速機(1)の運転状態に基づいて前記動力伝達部材(15)の張り側又は緩み側の弦部(15a)の共振周波数を算出する弦部共振周波数算出手段(100)と、予め算出した前記ドライブプーリ(11)の共振周波数と前記ドリブンプーリ(16)の共振周波数とが記憶された記憶手段(106)と、前記弦部共振周波数算出手段(100)で算出した前記弦部(15a)の共振周波数と前記記憶手段(106)に記憶された前記ドライブプーリ(11)の共振周波数又は前記ドリブンプーリ(16)の共振周波数とが互いに一致したとみなせる範囲内となったとき、前記動力伝達機構の動力伝達に滑りを生じさせる動力伝達スリップ制御を行う制御手段(100)と、を備えることを特徴とする。
本発明にかかる無段変速機の制御装置によれば、動力伝達部材のプーリへの噛込周波数又は動力伝達部材の弦部の共振周波数とドライブプーリ又はドリブンプーリの共振周波数が互いに一致したとみなせる範囲内となったとき、ドライブプーリと同軸上の第1動力伝達部又はドリブンプーリと同軸上の第2動力伝達部の少なくともいずれかの動力伝達に滑りを生じさせる制御を行うようにした。これにより、動力伝達部材のプーリへの噛み込みによりプーリ及び該プーリを設けた軸上に振動が発生した際に、同軸上の動力断接機構の動力伝達を意図的に滑らせることにより、その振動を熱に変換して減衰させることができる。また、動力伝達部材とプーリとの共振自体を回避することもできるので、振動・騒音の発生を効果的に抑制することができる。したがって、動力伝達部材のドライブプーリへの噛み込みなどにより生じる騒音・振動をより確実に低減できる。

また、動力伝達部材とプーリとの間にスティックスリップなどに伴う振動が発生する場合においても、プーリと同軸上の動力伝達部による動力伝達に意図的な滑りを生じさせることで、その振動を熱に変換して効果的に減衰させることができる。
さらに、本発明によれば、動力伝達部材のドライブプーリへの噛み込みなどにより生じる騒音・振動を低減するための制御として、本来的に動力伝達率を変化させることが可能な動力伝達機構を用いて、その動力伝達に僅かな滑りを生じさせて動力伝達率を変化させる制御を行うのみであるため、無段変速機の回転軸を支持するベアリングやプーリなど各部の耐久性低下などの問題が生じずに済む。
また、本発明によれば、動力伝達部材の噛込周波数と動力伝達部材の弦部の共振周波数とプーリの共振周波数のうちいずれか2つが一致した運転状態で動力伝達機構による動力伝達の僅かなスリップ状態を発生させるので、共振又は共振に近い状態での比較的に大きな振幅の振動を効果的に吸収(減衰)することができ、振動の吸収効率が良い。また、本発明にかかる無段変速機を搭載した車両においては、実際の車両の運転中に上記の動力伝達部による動力伝達に僅かな滑りを生じさせる制御が行われるのは、限られた極く短時間のみである。そのため、車両の燃費(燃料消費率)や走行状態にほとんど影響を与えずに済む。また、動力伝達機構による動力伝達に僅かな滑りを生じさせる状態を長時間継続すると動力伝達機構の磨耗など劣化が進行するおそれがあるところ、そのような劣化の進行も効果的に回避できる。
また、上記無段変速機の制御装置では、動力伝達機構は、摩擦により係合することで動力を伝達する摩擦係合要素(25,30,41)を含み、動力伝達スリップ制御手段(100)による制御は、摩擦係合要素(25,30,41)の係合量を変化させることで該摩擦係合要素(25,30,41)による動力伝達に僅かな滑りを生じさせる制御であってよい。この場合の動力伝達機構の具体例としては、摩擦伝達要素である前進クラッチ及び後進ブレーキを含む前後進切換機構や、摩擦伝達要素である発進クラッチを含む発進クラッチ機構や、摩擦伝達要素であるロックアップクラッチを含むトルクコンバータなどがある。
この構成によれば、従来からドリブンプーリまたはドライブプーリと同軸上に設置されている摩擦係合要素を含む動力伝達機構を用いた制御を行うことで無段変速機の騒音・振動を抑制することができる。したがって、無段変速機又はその周辺の装置の点数や構造の複雑化を招くことなく、かつ制御の煩雑化を招くことなく無段変速機の騒音・振動を効果的に抑制することが可能となる。
また、上記無段変速機の制御装置では、動力伝達部材の噛込周波数と弦部共振周波数とが互いに一致したとみなせる範囲内となったとき、又は噛込周波数とドライブプーリの共振周波数又はドリブンプーリの共振周波数とが一致したとみなせる範囲内となったときに、制御手段による上記の動力伝達スリップ制御を行うとよい。
この構成によれば、動力伝達部材の噛込周波数と弦部の共振周波数とが一致した運転状態、又は動力伝達部材の噛込周波数とドライブプーリ又はドリブンプーリの共振周波数とが一致した運転状態となったときに動力伝達スリップ制御を行うので、共振又は共振に近い状態での比較的に大きな振幅の振動を効果的に吸収できる。したがって、動力伝達部材のドライブプーリへの噛み込みなどにより生じる騒音・振動をより確実に低減できる。
また、上記無段変速機の制御装置では、動力伝達機構は、第1動力伝達部(20)と第2動力伝達部(40)との両方を含むようにしてよい。さらにその場合、制御手段(100)は、動力伝達部材(15)の張り側又は緩み側の弦部共振周波数とドライブプーリ(11)の共振周波数とが一致したとみなせる範囲内となったときに、第1動力伝達部(20)の動力伝達に僅かな滑りを生じさせる制御を行い、動力伝達部材(15)の張り側又は緩み側の弦部共振周波数とドリブンプーリ(16)の共振周波数とが一致したとみなせる範囲内となったときに、第2動力伝達部(40)の動力伝達に僅かな滑りを生じさせる制御を行うとよい。
この構成によれば、ドリブンプーリとドライブプーリのうち共振又は共振に近い状態が生じているプーリと同軸上の動力伝達部を用いて動力伝達スリップ制御を行うことで、共振又は共振に近い状態が生じているプーリの振動をより直接的かつ確実に吸収して減衰させることができる。したがって、動力伝達部材のドライブプーリへの噛み込みなどにより生じる騒音・振動をより確実に低減できる。
また、上記無段変速機の制御装置では、制御手段(100)は、動力伝達部材の噛込周波数と弦部の共振周波数とドライブプーリ(11)又はドリブンプーリ(16)の共振周波数との3つが一致したとみなせる範囲内となったときには、それらのうち2つが一致したとみなせる範囲内となったときと比較して、動力伝達機構の動力伝達に生じさせる滑りの割合を増加させるとよい。
この構成によれば、共振又は共振に近い状態でのより大きな振幅の振動が生じた場合に当該振動を効果的に吸収できる。したがって、動力伝達部材のドライブプーリへの噛み込みなどにより生じる騒音・振動を更に効果的に低減できる。
なお、上記の括弧内の符号は、後述する実施形態における構成要素の符号を本発明の一例として示したものである。
本発明にかかる無段変速機の制御装置によれば、部品点数を少なく抑えた簡単な構成及び簡易な制御で、動力伝達部材のドライブプーリへの噛み込みなどにより生じる騒音・振動をより確実に低減できる。
本発明の第1実施形態にかかる制御装置を備えるベルト式の無段変速機を示すスケルトン図である。 無段変速機の変速機構部を模式的に示す図である。 無段変速機の構成を模式的に示す図である。 本実施形態の無段変速機による制御(第1の制御)を示すフローチャートである。 本実施形態の無段変速機による他の制御(第2の制御)を示すフローチャートである。 本実施形態の無段変速機による他の制御(第3の制御)を示すフローチャートである。 本実施形態の無段変速機による他の制御(第4の制御)を示すフローチャート(その1)である。 本実施形態の無段変速機による他の制御(第4の制御)を示すフローチャート(その2)である。 本発明の第2実施形態にかかる無段変速機の構成を模式的に示す図である。 本発明の第3実施形態にかかる無段変速機の構成を模式的に示す図である。
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。
〔第1実施形態〕
図1は、本発明の第1実施形態にかかる制御装置を備えるベルト式の無段変速機1を示すスケルトン図である。また、図2は、無段変速機1が備える変速機構部10の模式図である。図1に示す無段変速機1は、エンジンEの出力軸Esとカップリング機構CPを介して繋がる変速機入力軸(以下、「入力軸」と記す。)2と、これに平行に配設された変速機カウンタ軸(以下、「カウンタ軸」と記す。)3と、これら両軸2、3の間に配設された変速機構部10と、入力軸2の上に配設された前後進切換機構20と、カウンタ軸3上に配設された発進クラッチ機構40と、出力伝達ギヤ列6a、6b、7a、7bおよびディファレンシャル機構8とを備える。
変速機構部10は、入力軸2上に配設されたドライブプーリ11と、カウンタ軸3上に配設されたドリブンプーリ16と、両プーリ11、16間に巻き掛けられた動力伝達部材である金属チェーン(以下、単に「チェーン」と記す。)15とから構成される。ドライブプーリ11は、入力軸2上に回転自在に配設された固定プーリ半体12と、この固定プーリ半体12に対して軸方向に移動可能で一体回転する可動プーリ半体13とからなり、ドライブプーリシリンダ室14に供給される油圧力により可動プーリ半体13を軸方向に移動させる制御がなされる。一方、ドリブンプーリ16は、カウンタ軸3に固定された固定プーリ半体17と、固定プーリ半体17に対して軸方向に移動可能で一体回転する可動プーリ半体18とからなり、ドリブンプーリシリンダ室19に供給される油圧力により可動プーリ半体18を軸方向に移動させる制御がなされる。
このため、上記両シリンダ室14、19への供給油圧を適宜制御することにより、可動プーリ半体13、18に作用する軸方向の移動力を制御し、両プーリ11、16のプーリ幅を変化させることができる。これにより、両プーリ11、16に対するチェーン15の巻掛半径を変化させて変速比を無段階に変化させる制御を行うことができる。
前後進切換機構20は、入力軸2に繋がるサンギヤ21と、サンギヤ21と噛合する複数のピニオンギヤ22aを回転自在に保持するとともにサンギヤ21と同軸上を回転自在なキャリア22と、ピニオンギヤ22aと噛合するとともにサンギヤ21と同軸上を回転自在なリングギヤ23とを有したシングルピニオンタイプの遊星歯車機構からなり、キャリア22を固定保持可能な後進ブレーキ25と、サンギヤ21とリングギヤ23とを係脱自在に繋げる前進クラッチ30とを備える。
このように構成された前後進切換機構20において、後進ブレーキ25が解放された状態で前進クラッチ30を係合させると、サンギヤ21とリングギヤ23とが結合されて一体回転する状態となり、サンギヤ21、キャリア22およびリングギヤ23の全てが入力軸2と一体回転して、ドライブプーリ11が入力軸2と同方向(前進方向)に回転駆動される状態となる。一方、前進クラッチ30を解放させて後進ブレーキ25を係合させると、キャリア22が固定保持され、リングギヤ23はサンギヤ21と逆の方向に回転され、ドライブプーリ11が入力軸2とは逆方向(後進方向)に回転駆動される状態となる。
なお、前進クラッチ30は油圧作動式の湿式多板クラッチから構成された摩擦係合要素であり、油圧力を受けて係脱制御がなされる。同様に、後進ブレーキ25は油圧作動式の湿式多板ブレーキから構成された摩擦係合要素であり、油圧力を受けて係脱制御がなされる。
以上のようにして、入力軸2の回転が前後進切換機構20により切り換えられてドライブプーリ11が前進方向もしくは後進方向に回転駆動されると、この回転が変速機構部10により無段階に変速されてカウンタ軸3に伝達される。カウンタ軸3には発進クラッチ機構40が配設されており、この発進クラッチ機構40により出力伝達ギヤ6aへの駆動力伝達制御が行われる。なお、発進クラッチ40は摩擦係合要素である油圧作動式の湿式多板クラッチ(発進クラッチ)41を備えて構成され、油圧力を受けて係合制御がなされる。
このように発進クラッチ機構40により制御されて出力伝達ギヤ6aに伝達された回転駆動力は、出力伝達ギヤ6aを有する出力伝達ギヤ列6a、6b、7a、7bおよびディファレンシャル機構8を介して左右の車輪W,Wに伝達される。また、発進クラッチ40が解放されると、動力伝達ができない中立状態となる。
以下、両シリンダ室14,19への給排油圧を制御する変速制御バルブ70および、変速制御バルブ70の作動制御を行う制御ユニット100について説明する。変速制御バルブ70は、ドライブプーリシリンダ室14およびドリブンプーリシリンダ室19に供給する油圧を制御する2個のソレノイドバルブ(図示せず)を有して構成され、これらソレノイドバルブが制御ユニット100から供給される変速制御信号により作動されて変速制御が行われる。この結果、変速制御信号に基づいて両シリンダ室14,19内の油圧が設定され、両プーリ11,16に作用する軸方向推力が設定される。
この変速制御のため、制御ユニット100には、エンジン回転数センサ101により検出されるエンジン回転信号Ne、ドライブプーリ回転数センサ102により検出されるドライブプーリ回転信号NDR、ドリブンプーリ回転数センサ103により検出されるドリブンプーリ回転信号NDN、シフト位置センサ104により検出されるシフト位置信号SP、スロットル開度センサ105により検出されるエンジンスロットル開度信号THなど、運転状態を検出する各種のセンサが出力する検出信号が入力されている。また、制御手段100には、予めメモリ(記憶手段)106に格納されたドライブプーリ11及びドリブンプーリ16の共振周波数(固有振動数)などのデータが入力されるようになっている。また、シフト位置が走行レンジにあって発進クラッチ40が滑動した状態(インギヤ状態のアイドリング時)においては、発進するに最適であるとともに、騒音及び振動が抑えられるように予め設定される基準変速比となるように両シリンダ室14,19に対する給排油圧が設定され、制御ユニット100から変速制御バルブ70のソレノイドに通電制御がなされている。
本発明にかかる制御装置では、このような変速制御を行う制御ユニット100を利用して無段変速機1の変速機構部10の動作に伴う騒音及び振動レベルの悪化を回避するための制御を行う。変速機構部10の動作に伴う騒音及び振動は、ドライブプーリ11又はドリブンプーリ16の回転によりチェーン15がドライブプーリ11又はドリブンプーリ16に噛み込んでいくときに発生する噛込音(衝突音)の周波数である噛込周波数と、両プーリ11,16間に巻き掛けられるチェーン15の張り側及び緩み側の弦部15a(図3参照)の共振周波数である弦部共振周波数と、ドライブプーリ11又はドリブンプーリ16の共振周波数とが一致してそのエネルギが増幅される(共振に近い状態)ことにより悪化する。
すなわち、チェーン15とプーリとの接触音が必ずしも騒音になるわけではなく、チェーン15の噛込周波数がプーリ11,16の共振周波数と一致した場合又は一致したとみなせる範囲内となった場合(以下、単に「一致した場合」と記す。)に問題となる騒音・振動が発生する。また、チェーン15の噛込周波数が所定の運転状態におけるチェーン15の張力・チェーン15の剛性質量・弦部15aの長さにより決まる弦部15aの共振周波数と一致した場合にも、同様に問題となる騒音・振動が発生する可能性がある。
ここで、チェーン15の張り側又は緩み側の弦部15aの共振周波数ω(Hz)は、弦部15aの張力T(N)、弦部15aの単位長さあたりの質量ρ(Kg/m)、弦部15aの長さL(m)を用いて、下記の(式1)で表される。
ω=(π/L)√(T/ρ) (1次振動の場合) ・・・ (式1)
したがって、チェーン15の仕様が同一でその質量ρが一定である場合でも、無段変速機1の運転条件(レシオ・伝達トルク・入力回転数・推力安全率、遠心張力)が変化すると、それらに応じて弦部15aの張力は変化する。また、レシオの変化はチェーン15の弦部15aの長さ変化を伴うため、当該レシオの変化によってチェーン15の共振周波数ωが変化することになる。
図3は、本実施形態の無段変速機1の構成を模式的に示す図である。同図に示すように、本実施形態の無段変速機1では、エンジンEとドライブプーリ11との間の回転軸である入力軸2上、すなわちドライブプーリ11と同軸上には、前進クラッチ30及び後進ブレーキ25(摩擦係合要素)を含む前後進切換機構(第1動力伝達部)20が設置されている。また、ドリブンプーリ16と車輪Wとの間の回転軸であるカウンタ軸3上、すなわちドリブンプーリ16と同軸上には、発進クラッチ(摩擦係合要素)41を含む発進クラッチ機構(第2動力伝達部)40が設置されている。前後進切換機構20は、摩擦係合要素である前進クラッチ30及び後進ブレーキ25の締結量の制御によってその動力伝達に滑りを生じさせることができる。また、発進クラッチ機構40は、摩擦係合要素である発進クラッチ41の締結量の制御によってその動力伝達に滑りを生じさせることができる。そして、車両の通常運転状態では、前後進切換機構20と発進クラッチ機構40は、いずれもその動力伝達に滑りのない状態で締結されている。
そして、本実施形態の無段変速機1では、上記の制御ユニット100は、ドライブプーリ11の回転数に基づいてチェーン15の噛込周波数を算出する。また、無段変速機1の運転状態に基づいてチェーン15の張り側及び緩み側の弦部15aの共振周波数を算出する。また、記憶手段であるメモリ106には、予め算出したドライブプーリ11の共振周波数(固有振動数)とドリブンプーリ16の共振周波数(固有振動数)とが記憶されている。
そして、制御ユニット100は、上記チェーン15の噛込周波数と弦部15aの共振周波数とドライブプーリ11又はドリブンプーリ16の共振周波数とのうち、いずれか2つ又は3つが互いに一致したときに、前後進切換機構20と発進クラッチ機構40の少なくともいずれかの動力伝達に僅かな滑りを生じさせる制御(動力伝達スリップ制御)を行う。以下、当該制御の内容について詳細に説明する。
図4は、本実施形態の無段変速機1による制御(第1の制御)を示すフローチャートである。このフローチャートに示す制御では、まず、ドライブプーリ11の回転に伴うチェーン15の噛込周波数(チェーン15とプーリ11,16との接触周波数)を計算(算出)する(ステップST1−1)。チェーン15の噛込周波数は、無段変速機1のレシオと入力回転数(入力軸2への入力回転数、以下同じ。)とに基づいて算出する。また、チェーン15の弦部15aにおける張り側の共振周波数を計算する(ステップST1−2)。また、チェーン15の弦部15aにおける緩み側の共振周波数を計算(算出)する(ステップST1−3)。チェーン15の弦部15aにおける張り側又は緩み側の共振周波数は、既述のように、チェーン15の伝達トルクと推力安全率と無段変速機1のレシオと入力回転数とに基づいて算出する。次に、チェーン15の噛込周波数が弦部15aの張り側又は緩み側の共振周波数と一致するか否かを判断する(ステップST1−4)。なお、ここでいうチェーン15の噛込周波数が弦部15aの共振周波数と一致する場合とは、完全に一致する場合だけでなく、所定の範囲内で概略一致する場合も含めるようにしてよい。この点は、以下の他の制御でも同様である。その結果、チェーン15の噛込周波数が弦部15aの共振周波数と一致する場合(YES)には、前後進切換機構20又は発進クラッチ機構40に対する制御として、前進クラッチ30・後進ブレーキ25又は発進クラッチ41のクラッチ圧(ブレーキ圧)のダンピング用制御を行う(ステップST1−5)。ここでいうクラッチ圧のダンピング用制御とは、クラッチ圧を通常制御(クラッチに滑りを生じさせない状態で係合させる制御)と比較して僅かな量(一例として1〜2%程度)だけ低下させる制御である。これにより、前進クラッチ30・後進ブレーキ25又は発進クラッチ41の係合を所定量滑らせる(スリップさせる)制御を行うことができる。一方、チェーン15の噛込周波数が弦部15aの共振周波数と一致しない場合(NO)には、前後進切換機構20又は発進クラッチ機構40に対する制御として、前進クラッチ30・後進ブレーキ25又は発進クラッチ41のクラッチ圧(ブレーキ圧)の通常制御を行う(ステップST1−6)。
すなわち、図4に示す制御では、チェーン15の噛込周波数(接触周波数)と弦部15aの張り側又は緩み側の共振周波数とを比較し、両者が一致する状態では、前後進切換機構20の前進クラッチ30・後進ブレーキ25を所定量滑らせる制御と、発進クラッチ機構40の発進クラッチ41を所定量滑らせる制御との少なくともいずれかを行う。これにより、チェーン15の噛み込みと弦部15aの共振による振動を熱に変換して騒音・振動を低減することができる。また、チェーン15とプーリ11,16の共振自体を回避することもできるので、振動・騒音の発生を効果的に抑制することができる。
図5は、本実施形態の無段変速機1による他の制御(第2の制御)を示すフローチャートである。このフローチャートに示す制御では、まず、チェーン15の噛込周波数を計算する(ステップST2−1)。また、ドライブプーリ11の共振周波数のデータをメモリ106から引き出す(ステップST2−2)。また、ドリブンプーリ16の共振周波数のデータをメモリ106から引き出す(ステップST2−3)。次に、チェーン15の噛込周波数とドライブプーリ11とドリブンプーリ16の少なくともいずれかの共振周波数とが一致するか否かを判断する(ステップST2−4)。その結果、チェーン15の噛込周波数がドライブプーリ11及びドリブンプーリ16の共振周波数と一致しない場合(NO)には、前後進切換機構20又は発進クラッチ機構40に対する制御として、クラッチ圧の通常制御を行う(ステップST2−5)。一方、チェーン15の噛込周波数がドライブプーリ11とドリブンプーリ16の少なくともいずれかの共振周波数と一致する場合(YES)には、続けて、チェーン15の噛込周波数がドライブプーリ11の共振周波数と一致するか否かを判断する(ステップST2−6)。その結果、チェーン15の噛込周波数がドライブプーリ11の共振周波数と一致しない場合(NO)、すなわちチェーン15の噛込周波数がドリブンプーリ16の共振周波数と一致する場合には、ドリブンプーリ16と同軸上に設けた発進クラッチ機構40に含まれる発進クラッチ41(ドリブン側クラッチ)のクラッチ圧のダンピング用制御を行う(ステップST2−7)。これにより、発進クラッチ41を所定量滑らせてカウンタ軸3の回転数を意図的に変化させる制御を行う。その一方で、チェーン15の噛込周波数がドライブプーリ11の共振周波数と一致する場合(YES)には、ドライブプーリ11と同軸上に設けた前後進切換機構20に含まれる前進クラッチ30又は後進ブレーキ25(ドライブ側クラッチ)のクラッチ圧(ブレーキ圧)のダンピング用制御を行う(ステップST2−8)。これにより、前後進切換機構20の前進クラッチ30又は後進ブレーキ25を所定量滑らせて入力軸2の回転数を意図的に変化させる制御を行う。
図5に示す制御では、チェーン15の噛込周波数をドライブプーリ11の共振周波数と比較し、それらが一致する状態では、前後進切換機構20の動力伝達を所定量滑らせる制御を行うことで、チェーン15とドライブプーリ11の共振に伴う振動を熱に変換したり、共振を回避したりできるので、騒音・振動を低減することができる。また、チェーン15の噛込周波数をドリブンプーリ16の共振周波数と比較し、それらが一致する状態では、発進クラッチ機構40の動力伝達を所定量滑らせる制御を行うことで、チェーン15とドライブプーリ11の共振に伴う振動を熱に変換したり共振を回避したりできるので、騒音・振動を低減することができる。
図6は、本実施形態の無段変速機1による他の制御(第3の制御)を示すフローチャートである。このフローチャートに示す制御では、まず、チェーン15の弦部15aにおける張り側の共振周波数を計算する(ステップST3−1)。また、チェーン15の弦部15aにおける緩み側の共振周波数を計算する(ステップST3−2)。さらに、ドライブプーリ11の共振周波数のデータをメモリ106から引き出す(ステップST3−3)。また、ドリブンプーリ16の共振周波数のデータをメモリ106から引き出す(ステップST3−4)。次に、チェーン15の弦部15aにおける張り側又は緩み側の共振周波数とドライブプーリ11又はドリブンプーリ16の共振周波数とが一致するか否かを判断する(ステップST3−5)。その結果、チェーン15の弦部15aにおける張り側又は緩み側の共振周波数とドライブプーリ11又はドリブンプーリ16の共振周波数とが一致しない場合(NO)には、前後進切換機構20又は発進クラッチ機構40に対する制御として、前進クラッチ30と後進ブレーキ25のいずれか又は発進クラッチ41のクラッチ圧(ブレーキ圧)の通常制御を行う(ステップST3−6)。その一方で、チェーン15の弦部15aにおける張り側又は緩み側の共振周波数とドライブプーリ11又はドリブンプーリ16の共振周波数とが一致する場合(YES)には、続けて、チェーン15の弦部15aにおける張り側又は緩み側の共振周波数がドライブプーリ11の共振周波数と一致するか否かを判断する(ステップST3−7)。その結果、チェーン15の弦部15aにおける張り側又は緩み側の共振周波数がドライブプーリ11の共振周波数と一致しない場合(NO)には、ドリブンプーリ16と同軸上に設けた発進クラッチ機構40の発進クラッチ41(ドリブン側クラッチ)のみのダンピング用制御を行う(ステップST3−8)。これにより、発進クラッチ41を所定量滑らせる制御を行う。一方、チェーン15の弦部15aにおける張り側又は緩み側の共振周波数がドライブプーリ11の共振周波数と一致する場合(YES)には、ドライブプーリ11と同軸上に設けた前後進切換機構20の前進クラッチ30又は後進ブレーキ25(ドライブ側クラッチ)のみのダンピング用制御を行う(ステップST3−9)。これにより、前後進切換機構20の前進クラッチ30又は後進ブレーキ25を所定量滑らせる制御を行う。
図6に示す制御では、チェーン15の弦部15a(張り側又は緩み側)の共振周波数とドライブプーリ11の共振周波数とを比較して、それらが一致する状態では、前後進切換機構20の動力伝達を所定量滑らせる制御を行うことで、振動を熱に変換したり共振を回避したりすることで、騒音を低減する。また、チェーン15の弦部15aの共振周波数をドリブンプーリ16の共振周波数と比較して、それらが一致する状態では、発進クラッチ機構40の動力伝達を所定量滑らせる制御を行うことで振動を熱に変換したり共振を回避したりすることで、騒音を低減する。
図7(a)及び図7(b)は、本実施形態の無段変速機1による他の制御(第4の制御)を示すフローチャートである。このフローチャートに示す制御では、まず、図7(a)に示すように、チェーン15の弦部15aにおける張り側の共振周波数(ステップST4−1)と緩み側の共振周波数(ステップST4−2)をそれぞれ計算する。さらに、ドライブプーリ11の共振周波数のデータ(ステップST4−3)とドリブンプーリ16の共振周波数のデータ(ステップST4−4)をメモリ106から引き出す。また、チェーン15の噛込周波数を計算する(ステップST4−5)。
そして、弦部15a(張り側又は緩み側)の共振周波数とドライブプーリ11又はドリブンプーリ16の共振周波数とチェーン15の噛込周波数の3つすべてが一致するか否かを判断する(ステップST4−6)。その結果、それら3つすべてが一致する場合(YES)には、続けて、弦部15aの共振周波数とチェーン15の噛込周波数がドライブプーリ11の共振周波数と一致するか否かを判断する(ステップST4−7)。その結果、弦部15a(張り側又は緩み側)の共振周波数とチェーン15の噛込周波数がドライブプーリ11の共振周波数と一致しない場合(NO)、すなわちドリブンプーリ16の共振周波数と一致する場合には、ドリブンプーリ16と同軸上に設けた発進クラッチ機構40の発進クラッチ41(ドリブン側クラッチ)のダンピング用制御を上記第1の制御又は第2の制御の場合と比較して、より強く行う(ステップST4−8)。すなわち、発進クラッチ41を滑らせる程度をより多くする(一例として3〜5%)。これにより、発進クラッチ機構40の動力伝達をより多い割合で滑らせる制御を行うことができる。一方、弦部15aの共振周波数とチェーン15の噛込周波数がドライブプーリ11の共振周波数と一致する場合(YES)には、ドライブプーリ11と同軸上に設けた前後進切換機構20の前進クラッチ30又は後進ブレーキ25のダンピング用制御をより強く行う(ステップST4−9)。すなわち、前進クラッチ30又は後進ブレーキ25を滑らせる程度をより多くする(一例として3〜5%)。これにより、前後進切換機構20の動力伝達をより多い割合で滑らせる制御を行うことができる。
一方、先のステップST4−6で弦部15aの共振周波数とドライブプーリ11又はドリブンプーリ16の共振周波数とチェーン15の噛込周波数の3つすべてが一致しない場合(NO)には、図7(b)のフローチャートに示すように、チェーン15の噛込周波数と弦部15aの張り側又は緩み側の共振周波数とが一致するか否かを判断する(ステップST4−10)。その結果、チェーン15の噛込周波数と弦部15aの共振周波数とが一致する場合(YES)には、前後進切換機構20又は発進クラッチ機構40に対する制御として、クラッチ圧又はブレーキ圧のダンピング用制御を行う(ステップST4−11)。これにより、前後進切換機構20の動力伝達を所定量滑らせる制御を行うことができる。
一方、チェーン15の噛込周波数が弦部15aの共振周波数と一致しない場合(NO)には、続けて、チェーン15の噛込周波数がドライブプーリ11とドリブンプーリ16の少なくともいずれかの共振周波数と一致するか否かを判断する(ステップST4−12)。その結果、チェーン15の噛込周波数がドライブプーリ11及びドリブンプーリ16の共振周波数と一致しない場合(NO)には、前後進切換機構20又は発進クラッチ機構40に対する制御として、クラッチ圧又はブレーキ圧の通常制御を行う(ステップST4−13)。一方、チェーン15の噛込周波数がドライブプーリ11とドリブンプーリ16の少なくともいずれかの共振周波数と一致する場合(YES)には、続けて、チェーン15の噛込周波数がドライブプーリ11の共振周波数と一致するか否かを判断する(ステップST4−14)。その結果、チェーン15の噛込周波数がドライブプーリ11の共振周波数と一致しない場合(NO)、すなわちドリブンプーリ16の共振周波数と一致する場合には、ドリブンプーリ16と同軸上に設けた発進クラッチ機構40の発進クラッチ41のみのダンピング用制御を行う(ステップST4−15)。これにより、発進クラッチ機構40の動力伝達を所定量滑らせる制御を行うことができる。一方、チェーン15の噛込周波数がドライブプーリ11の共振周波数と一致する場合(YES)には、ドライブプーリ11と同軸上に設けた前後進切換機構20の前進クラッチ30又は後進ブレーキ25のみのダンピング用制御を行う(ステップST4−16)。これにより、前後進切換機構20の動力伝達を所定量滑らせる制御を行うことができる。
図7(a)及び図7(b)に示す制御では、チェーン15の噛込周波数と弦の共振周波数とドリブンプーリ16の共振周波数とを比較して、それらのうちのいずれか2つが一致する状態では、前後方向切替機構又は発進クラッチ機構40を所定量滑らせて振動を熱に変換したり共振を回避したりすることで、騒音を低減する。また、チェーン15の噛込周波数と弦の共振周波数とドリブンプーリ16の共振周波数との3つが一致する状態では、前後進切換機構20又は発進クラッチ機構40を比較的多い所定量滑らせ、振動を熱に変換したり共振を回避したりすることで、騒音を低減する。
なお、図7(b)に示すステップST4−10,ST4−11の各ステップによる制御は、図4に示す第2の制御と同じ内容の制御である。また、図7(b)に示すステップST4−12〜ST4−16までの各ステップによる制御は、図5に示す第3の制御と同じ内容の制御である。したがって、図7(b)に示す制御は、図4に示す第2の制御と図5に示す第3の制御を組み合わせた制御である。
以上説明したように、本実施形態の無段変速機1の制御によれば、チェーン15の噛込周波数と弦部15a(張り側又は緩み側)の共振周波数とドライブプーリ11又はドリブンプーリ16の共振周波数とのいずれか2つ又は3つが互いに一致したとみなせる範囲内となったとき、ドライブプーリ11と同軸上の前後進切換機構20又はドリブンプーリ16と同軸上の発進クラッチ機構40の少なくともいずれかの動力伝達に僅かな滑りを生じさせる制御を行うようにした。これにより、チェーン15のドライブプーリ11への噛み込みなどによりドライブプーリ11及び該ドライブプーリ11を設けた入力軸2上に振動が発生した際に、同軸上の動力伝達機構である前後進切換機構20又は発進クラッチ機構40を意図的に僅かに滑らせることにより、その振動を熱に変換して効果的に減衰させたり共振自体を回避したりすることができる。したがって、チェーン15のドライブプーリ11への噛み込みなどにより生じる騒音・振動をより確実に低減できる。
また、チェーン15とドライブプーリ11またはドリブンプーリ16との間にスティックスリップなどに伴う振動が発生する場合においても、ドライブプーリ11またはドリブンンプーリ16と同軸上の動力伝達部である前後進切換機構20又は発進クラッチ機構40による動力伝達に意図的な滑りを生じさせることで、その振動を熱に変換して効果的に減衰させたり共振自体を回避したりすることができる。
さらに、本発明によれば、チェーン15のドライブプーリ11への噛み込みなどにより生じる騒音・振動を低減するための制御として、本来的に滑りを生じさせて動力伝達率を変化させることが可能な前後進切換機構20又は発進クラッチ機構40を用いて、その動力伝達に僅かな滑りを生じさせる制御を行うのみである。そのため、無段変速機1の入力軸2やカウンタ軸3などの回転軸を支持するベアリングやプーリの耐久性低下などの問題が生じずに済む。
〔第2実施形態〕
次に、本発明の第2実施形態について説明する。なお、第2実施形態の説明及び対応する図面においては、第1実施形態と同一又は相当する構成部分には同一の符号を付し、以下ではその部分の詳細な説明は省略する。また、以下で説明する事項以外の事項については、第1実施形態と同じである。この点は、他の実施形態においても同様である。
図8は、本発明の第2実施形態にかかる無段変速機1−2の概略構成を示す模式図である。第2実施形態の無段変速機1−2は、第1実施形態の無段変速機1と比較して、ドリブンプーリ16と同軸上に設置していた発進クラッチ機構(第2動力伝達部)40を省略して、ドライブプーリ11と同軸上の前後進切換機構(第1動力伝達部)20のみを備えるものである。また、ドライブプーリ11と同軸上には、ロックアップクラッチ(摩擦係合要素)51付きのトルクコンバータ(第1動力伝達部)50が設置されている。
チェーン15の噛込周波数と弦部15a(張り側又は緩み側)の共振周波数とドライブプーリ11又はドリブンプーリ16の共振周波数との少なくともいずれか2つが一致した場合に発生する騒音・振動を低減するためには、動力伝達に滑りを生じさせることで制振作用を有する動力伝達機構(摩擦係合要素にスリップを発生できる機構)をドライブプーリ11の同軸上とドリブンプーリ16の同軸上とのどちらか一方に設けていればよい。したがって、本実施形態の無段変速機1−2のように、ドライブプーリ11と同軸上に設置した動力伝達機構としての前後進切換機構20とロックアップクラッチ51付きトルクコンバータ50のみを備える構成であってよい。
本実施形態の無段変速機1−2の場合は、ドライブプーリ11と同軸上に設置した前後進切換機構20とロックアップクラッチ51付きトルクコンバータ50のいずれかで変速機構部10の動作に伴う騒音を低減する制御を行うことができるので、図4のフローチャートに示す第1の制御と同じ制御を行うことができる。また、図5〜図7のフローチャートに示す第2乃至第4の制御と同じ制御を行う場合には、ドリブンプーリ16と同軸上に設置した動力伝達部である発進クラッチ40のダンピング用制御を行うステップ(ステップST2−7,ST3−8,ST4−21)は省略し、他のステップのみで制御を行うようにすればよい。
〔第3実施形態〕
次に、本発明の第3実施形態について説明する。図9は、本発明の第3実施形態にかかる無段変速機1−3の概略構成を示す図である。本実施形態の無段変速機1−3は、第1実施形態の無段変速機1と比較して、ドライブプーリ11と同軸上に設置していた動力伝達機構である前後進切換機構(第1動力伝達部)20を省略して、ドリブンプーリ16と同軸上の動力伝達機構である発進クラッチ機構(第2動力伝達部)40のみを備えるものである。なお、符号60は、エンジンEとドライブプーリ16との間の入力軸2上に設置したダンパーである。
本実施形態の無段変速機1−3の場合は、ドリブンプーリ16と同軸上に設置した発進クラッチ機構40のみで変速機構部10の動作に伴う騒音を低減するための制御を行うことができるので、図4のフローチャートに示す第1の制御と同じ制御を行うことができる。また、図5〜図7のフローチャートに示す第2乃至第4の制御と同じ制御を行う場合には、ドライブプーリ11と同軸上に設置した動力伝達部である前後進切換機構20のダンピング用制御を行うステップ(ステップST2−8,ST3−9,ST4−22)は省略し、他のステップのみで制御を行うようにすればよい。
以上本発明の実施形態を説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲、及び明細書と図面に記載された技術的思想の範囲内において種々の変形が可能である。例えば、上記実施形態では、動力伝達部材がドライブプーリ11とドリブンプーリ16との間に架け渡した金属チェーンである場合を示したが、本発明にかかる動力伝達部材は、金属チェーンに限らずベルトなど他の部材であってもよい。
1 無段変速機
2 変速機入力軸(入力軸)
3 変速機カウンタ軸(カウンタ軸)
8 ディファレンシャル機構
10 変速機構部
11 ドライブプーリ
14 ドライブプーリシリンダ室
15 金属チェーン(チェーン:動力伝達部材)
15a 弦部
16 ドリブンプーリ
19 ドリブンプーリシリンダ室
20 前後進切換機構(第1動力伝達部)
25 後進ブレーキ(摩擦係合要素)
30 前進クラッチ(摩擦係合要素)
40 発進クラッチ機構(第2動力伝達部)
41 発進クラッチ(摩擦係合要素)
50 トルクコンバータ(第1動力伝達部)
51 ロックアップクラッチ(摩擦係合要素)
70 変速制御バルブ
100 制御ユニット
106 メモリ(記憶手段)
E エンジン(駆動源)

Claims (7)

  1. 駆動源からの駆動力が伝達されて回転するドライブプーリと、
    回転に伴う駆動力を出力側に伝達するドリブンプーリと、
    前記ドライブプーリと前記ドリブンプーリとの間に巻き掛けられた動力伝達部材と、
    前記ドライブプーリと同軸上に配置されて前記駆動源から前記ドライブプーリへの動力伝達率を変化させることが可能な第1動力伝達部と、前記ドリブンプーリと同軸上に配置されて該ドリブンプーリから出力軸への動力伝達率を変化させることが可能な第2動力伝達部との少なくともいずれかを含む動力伝達機構と、を備え、
    前記ドライブプーリと前記ドリブンプーリのプーリ幅を変更することで、前記ドライブプーリの回転数を無段階に変速して前記ドリブンプーリに伝達する無段変速機において、
    前記ドライブプーリの回転数に基づいて前記動力伝達部材の前記ドライブプーリ及び前記ドリブンプーリへの噛込周波数を算出する噛込周波数算出手段と
    め算出した前記ドライブプーリの共振周波数と前記ドリブンプーリの共振周波数とが記憶された記憶手段と、
    前記噛込周波数算出手段で算出した前記噛込周波数と前記記憶手段に記憶された前記ドライブプーリの共振周波数又は前記ドリブンプーリの共振周波数とが互いに一致したとみなせる範囲内となったとき、前記動力伝達機構の動力伝達に滑りを生じさせる動力伝達スリップ制御を行う制御手段と、を備える
    ことを特徴とする無段変速機の制御装置。
  2. 駆動源からの駆動力が伝達されて回転するドライブプーリと、
    回転に伴う駆動力を出力側に伝達するドリブンプーリと、
    前記ドライブプーリと前記ドリブンプーリとの間に巻き掛けられた動力伝達部材と、
    前記ドライブプーリと同軸上に配置されて前記駆動源から前記ドライブプーリへの動力伝達率を変化させることが可能な第1動力伝達部と、前記ドリブンプーリと同軸上に配置されて該ドリブンプーリから出力軸への動力伝達率を変化させることが可能な第2動力伝達部との少なくともいずれかを含む動力伝達機構と、を備え、
    前記ドライブプーリと前記ドリブンプーリのプーリ幅を変更することで、前記ドライブプーリの回転数を無段階に変速して前記ドリブンプーリに伝達する無段変速機において
    記無段変速機の運転状態に基づいて前記動力伝達部材の張り側又は緩み側の弦部の共振周波数を算出する弦部共振周波数算出手段と、
    予め算出した前記ドライブプーリの共振周波数と前記ドリブンプーリの共振周波数とが記憶された記憶手段と、
    記弦部共振周波数算出手段で算出した前記弦部の共振周波数と前記記憶手段に記憶された前記ドライブプーリの共振周波数又は前記ドリブンプーリの共振周波数とが互いに一致したとみなせる範囲内となったとき、前記動力伝達機構の動力伝達に滑りを生じさせる動力伝達スリップ制御を行う制御手段と、を備える
    ことを特徴とする無段変速機の制御装置。
  3. 前記動力伝達機構は、摩擦により係合することで動力を伝達する摩擦係合要素を含み、
    前記制御手段による制御は、前記摩擦係合要素の係合量を変化させることで該摩擦係合要素による動力伝達に滑りを生じさせる制御である
    ことを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の無段変速機の制御装置。
  4. 前記ドライブプーリの回転数に基づいて前記動力伝達部材の前記ドライブプーリ及び前記ドリブンプーリへの噛込周波数を算出する噛込周波数算出手段と、前記無段変速機の運転状態に基づいて前記動力伝達部材の張り側又は緩み側の弦部の共振周波数を算出する弦部共振周波数算出手段と、の両方を備え、
    前記制御手段は、前記噛込周波数と前記弦部の共振周波数とが互いに一致したとみなせる範囲内となったときに前記動力伝達スリップ制御を行う
    ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の無段変速機の制御装置。
  5. 前記動力伝達機構は、前記第1動力伝達部と前記第2動力伝達部との両方を含む
    ことを特徴とする請求項に記載の無段変速機の制御装置。
  6. 前記制御手段は、前記動力伝達部材の張り側又は緩み側の弦部共振周波数と前記ドライブプーリの共振周波数とが一致したとみなせる範囲内となったときに、前記第1動力伝達部の動力伝達に滑りを生じさせる制御を行い、
    前記動力伝達部材の張り側又は緩み側の弦部共振周波数と前記ドリブンプーリの共振周波数とが一致したとみなせる範囲内となったときに、前記第2動力伝達部の動力伝達に滑りを生じさせる制御を行う
    ことを特徴とする請求項5に記載の無段変速機の制御装置。
  7. 前記制御手段は、前記噛込周波数と前記弦部の共振周波数と前記ドライブプーリ又は前記ドリブンプーリの共振周波数との3つが一致したとみなせる範囲内となったときには、それらのうち2つが一致したとみなせる範囲内となったときと比較して、前記動力伝達機構の動力伝達に生じさせる滑りの割合を増加させる
    ことを特徴とする請求項乃至6のいずれか1項に記載の無段変速機の制御装置。
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