まず、図1を参照して、本発明の実施形態の制御が適用されるベルト式無段変速機の例を説明する。以下の説明においては、ベルト式無段変速機の一例として、ベルト式無段変速機構に加え、トルクコンバータ、前後進切換機構、減速機構、終減速機構を一体にしたトランスアクスルを示す。本発明の要部は、ベルト式無段変速機構の制御又は構成にあり、他の部分については、以下で示す構成以外の構成により代替した、また一部または全てを省略した変速機についても、本発明に属する。また、ベルト式無段変速機構も、図1に例示したものに限られるものではないことに留意されたい。
図1は、変速機構としてベルト式無段変速機構を採用した横置き形式のトランスアクスル10の概略構成を示す骨格図である。横置き形式とは、車両の左右方向に、トランスアクスルの主な動力伝達軸を配置する形式をいい、多くの場合、出力軸が左右方向に配置されたエンジン等の原動機と組み合わせて用いられる。また、原動機およびトランスアクスルを車両前部に配置し、前輪を駆動する、いわゆるFF車に適用することができ、また車両後部に配置して後輪を駆動する車両にも適用できる。
トランスアクスル10は、ガソリンエンジン等の原動機12に結合されており、原動機と一体となって動力装置を構成している。トランスアクスル10は、原動機12の動力の伝達される順序に従って、トルクコンバータ14、前後進切換機構16、変速機構18、減速機構20、終減速機構22を含む。終減速機構22からは、左右の駆動輪24に向けて、それぞれドライブシャフト26が延び、これに結合されている。
トルクコンバータ14は、流体継手の一種であり、車両が停止しているときも、原動機12をアイドリング可能とすることを一つの目的として設けられている。トルクコンバータを採用する他の目的としてトルク増幅作用の利用がある。トルクコンバータのトルク増幅作用に、変速機構18によるトルク増幅作用が合成され、トランスアクスル全体としてより大きなトルク増幅比を得ることが可能となる。また、従来の多段自動変速機と同様の極低速時のクリープ現象を発生させることが可能となり、運転者による速度制御を容易にする。
前後進切換機構16は、車両の前進と後進を切り換える機構である。ガソリンエンジンのように原動機12自身が逆転できない場合、この機構により、以降の動力伝達軸の回転方向を逆転させ、車両の後進を可能としている。変速機構18は、入力軸の回転速度を変換して出力軸に伝える機構であり、連続的に変速比を変更できる無段変速機構である。具体的には、変速機構18は、二つのプーリ28,30に巻き渡されたベルト32を含み、それぞれのプーリにおけるベルト32の巻き掛かり半径を変更することにより変速作用を実現している。変速機構18のより詳細な構成及び作用については後述する。減速機構20は、変速機構により変速された回転速度を、更に減速する機構である。上記構成の無段変速機は、変速比を大きくとれないため、これのみでは原動機12の回転速度を車両の駆動に適した速度まで減速することができない。減速機構20は、原動機12の回転速度を後述の終減速機構と共に、十分な速度まで減速するための機構である。減速機構20は、例えば、はす歯歯車のギア対またはギア列で構成され、固定の減速比で、動力伝達を行う。また、減速機構は、チェーンとスプロケット等の巻き掛け式の動力伝達機構を採用することもできる。終減速機構22は、終減速ギア対34および差動機構36を含む。終減速ギア対34は減速機構20と同様に固定された減速比で動力伝達を行う。差動機構36は、左右の駆動輪24の回転速度差を吸収する機能を有する。
さらに、上記の各機構について詳細に説明する。原動機12の出力軸38(ガソリンエンジンにあってはクランクシャフト)の端には、ドライブプレート40が結合されている。トルクコンバータ14は、このドライブプレート40に結合される。トルクコンバータ14は、直結クラッチ付きの3要素1段2相形のトルクコンバータであり、その構造は当業者においてよく知られたものであるので、ここでの説明は省略する。トルクコンバータ14からの出力側(例えばポンプインペラ)は、前後進切換機構16から延びるインプットシャフト42に結合されている。
前後進切換機構16は、サンギア44とリングギア46の間に2段のピニオン48,50が配置されたダブルピニオン形式の遊星歯車機構である。サンギア44は、インプットシャフト42上に同軸配置され、これと一体となって回転する。リングギア46は、サンギア44の外側にインプットシャフト42と同軸に配置される。ピニオン48,50は、互いに噛み合い、また内側のピニオン48がサンギア44と、外側のピニオン50がリングギア46と噛み合っている。また、ピニオン48,50は、共に共通のキャリア52上に自転可能に支持されている。キャリア52は、インプットシャフト42の軸線回りに回転可能に支持されており、この回転によってピニオン48,50は公転運動を行う。また、インプットシャフト42上には、インプットシャフト42とキャリア52を接続・分離する前進クラッチ54が設けられ、リングギア46の周囲にはリングギア46の動きを止める、後進ブレーキ56が設けられている。キャリア52は、変速機構18のプライマリシャフト58に結合されている。
車両前進時には、前進クラッチ54を接続状態とし、後進ブレーキ56を解放する。前進クラッチ54の接続により、インプットシャフト42からの入力はキャリア52を介してプライマリシャフト58に伝達される。一方、後進時には前進クラッチ54を分離し、後進ブレーキ56によりリングギア46の回転を止める。この状態でサンギア44が回転すると、キャリア52はサンギア44と逆方向に回転する。よって、プライマリシャフト58は、インプットシャフト42と逆方向に回転し、車両を後進させることができる。
変速機構18は、平行に配置されたプライマリシャフト58およびセカンダリシャフト60と、これらのシャフト上にそれぞれ配置されたプライマリプーリ28およびセカンダリプーリ30と、さらにこれらのプーリに巻き渡されたベルト32を含む。プライマリプーリ28は、円錐面をそれぞれ有する二つのシーブ62,64を含み、これらのシーブは、円錐面を対向させるように、プライマリシャフト58と同軸に配置される。一方のシーブ62は、プライマリシャフト58に固定され、または一体に形成され、プライマリシャフトと共に回転する。このシーブ62を固定シーブ62と記す。もう一方のシーブ64は、プライマリシャフト58上を、このシャフトに沿って移動可能であり、かつ回転方向においてはシャフト58と共に回転する。このシーブ64を移動シーブ64と記す。二つのシーブ62,64の対向する円錐面によりV字形状の溝66が形成されている。移動シーブ64の背面には、この移動シーブの軸方向に駆動する油圧アクチュエータ68が設けられている。移動シーブ64の移動により、V字溝66の幅が拡縮する。セカンダリプーリ30は、プライマリプーリ28と同様、固定シーブ70と移動シーブ72を含み、二つのシーブの円錐面によりV字形状の溝74が形成されている。移動シーブ72を移動させるために、移動シーブ72の背面に油圧アクチュエータ76が配置されている。
ベルト32は、二つのプーリのそれぞれにおいてV字溝66,74に挟まれるように配置され、二つのプーリ28,30に巻き渡されている。ベルト32は、図2に示すように、周方向に配列されたエレメント78と、エレメント78を束ねる2本のリング80を含む。それぞれのリング80は、薄板のリング材を積層して構成されている。エレメント78の側面が各シーブ62,64,70,72の円錐面に接し、各プーリ28,30に挟持されている。移動シーブ64,72を移動させてV字溝66,74の幅を拡縮すると、これに応じてベルト32の巻き掛かり半径が変更される。巻き掛かり半径は、無段階に変更可能であり、これにより、連続的に変速比を変更可能な無段変速機構を得ることができる。
セカンダリシャフト60上には駆動側減速ギア82が設けられ、このギア82は中間シャフト84上の被駆動側減速ギア86に噛み合っている。これらのギア82,86により減速機構20が構成される。中間シャフト84上には、さらに終減速ピニオン88が設けられ、これは、デフケース90に結合される終減速リングギア92と噛み合っている。終減速ピニオン88と終減速リングギア92により、終減速ギア対34が構成される。差動機構の構成は、当業者には、よく知られた構成であるので、説明は省略する。
プライマリシャフト58は、前後進切換機構16および変速機構20を収めるトランスアクスルハウジング94とトランスアクスルリアカバー96に設けられた軸受98,100により支持されている。また、セカンダリシャフト60も、同様に軸受102,104に支持されている。上述のような、V字溝の幅を拡縮してベルトの巻き掛かり半径を変更する変速機構においては、二つのプーリ同士の軸方向の位置関係が適切に維持されることが重要である。二つのプーリ位置が軸方向にずれると、ベルトが斜めに掛かるなどの問題が生じる。二つのプーリの位置関係を維持するため、二つの固定シーブ62,70が一体となっているプライマリシャフト58およびセカンダリシャフト60を軸方向に固定する構造が採用されている。具体的には、シャフトを支持する軸受の一つを、シャフトと、トランスアクスルハウジング94またはリアカバー96との双方に対し、軸方向に固定する構造としている。軸方向に固定する構造については、プライマリシャフト58、セカンダリシャフト60とも共通の構造を有する。以下においては、セカンダリシャフト60を代表として説明する。
図3は、セカンダリシャフト60およびこれを支持する構造を示す断面図である。セカンダリシャフト60は、固定シーブ70と一体に形成されており、移動シーブ72はセカンダリシャフト60上を軸方向に移動可能に配置されている。移動シーブ72の背面には油圧室106が形成されており、油圧室106への作動流体の供給および油圧室106からの作動流体の排出により、その移動が制御される。セカンダリシャフト60は、図中の右端を、トランスアクスルハウジング94に配置された軸受102により支持されている。軸受102は、内輪(インナレース)のない形式のローラ軸受であり、この軸受は、シャフトの軸方向の動きを許容している。セカンダリシャフト60の左端は、トランスアクスルリアカバー96上に配置された軸受104により支持されている。軸受104は、単列深溝玉軸受である。二つの軸受102,104は、それぞれトランスアクスルハウジング94、トランスアクスルリアカバー96等の、シャフト等の可動部材を収めるケースを構成する部材上に配置されているが、トランスアクスルの、シャフト等の可動部材の相対位置を規定するようにこれらを支持する、その他の構造部材上に配置されてよい。
軸受104は、その内輪(インナレース)108がセカンダリシャフト60に対し固定され、外輪(アウタレース)110がトランスアクスルリアカバー96に対し固定されている。内輪108は、その図中右の側面が、セカンダリシャフト60に形成された肩部112に接し、この肩部と、左側に位置する端ナット114とにより挟持され、シャフト60に対して固定されている。外輪110は、トランスアクスルリアカバー96に設けられた軸受収容部116に収容されている。軸受収容部116は、外輪110の外周に対向する円筒部分118と、外輪110の図中左側の側面に対向する底部分120を有する。外輪110の右側の側面に当接するようにベアリングリテーナ122が配置されている。ベアリングリテーナ122は、トランスアクスルリアカバー96に対し、ボルト等により固定され、ボルトの締結力により、軸受の外輪110は、軸受収容部の底部分120とベアリングリテーナ122により挟持され、軸方向に固定される。本実施形態においては、ベアリングリテーナ122を固定するリテーナ固定ボルト124は、トランスアクスルリアカバー96の外側(図中左側)から、このカバーに設けられた貫通孔を通してカバー内側まで延び、ここでリテーナ122とねじ結合する。軸受の外輪110はトランスアクスルリアカバー96に軸方向に固定され、内輪108はセカンダリシャフト60に軸方向に固定される。単列深溝玉軸受である軸受104は、内輪と外輪の軸方向の相対移動を転動体である玉が規制しており、これによりセカンダリシャフト60は、トランスアクスルリアカバー96に軸方向に固定される。
また、例えばエンジン停止状態において、車両が牽引されたり、下り坂で動いてしまったりする場合などには、エンジンが停止しているため油圧室106に油圧が供給されない。このような場合などに、ベルト32がプーリ30に対して滑らないようにするなどの目的で、移動シーブ72を固定シーブ70側へと付勢するためのリターンスプリング130が設けられている。エンジン停止時でも、このリターンスプリング130の付勢力により移動シーブ72は固定シーブ70側へと押しつけられることになる。この押しつけ力により、ベルト32がプーリ30により挟持されることになり、両者が互いに滑らない程度の摩擦力が生じる。
なお、リターンスプリング130は、セカンダリプーリ30とプライマリプーリ28の両方に設けてもよいし、いずれか一方にだけ設けてもよい。いずれを採用するかは、車種ごとの設計による。
次に、図4を参照して、実施形態の変速制御系の構成例を説明する。図示のように、エンジン200の出力軸201はトルクコンバータ202に結合されている。トルクコンバータ202の出力は、無段変速機204の入力軸203に結合されている。
エンジン200には、スロットル開度を検出するスロットル開度センサ210が設けられている。エンジン200の出力軸201には、エンジン回転数を検出するエンジン回転数センサ212が設けられている。また、トルクコンバータ202の出力軸(この軸は、無段変速機204の入力軸203と同じか、或いは入力軸203に接続されている)には、トルクコンバータ202のタービンの回転数を検出するタービン回転数センサ214が設けられている。また、無段変速機204の出力軸205には、出力軸205の回転数を検出する出力回転数センサ216が設けられる。出力回転数センサ216が検出する出力回転数は、車両の速度(車速)に対応している。
変速制御部220は、無段変速機204の変速比を可変制御する制御装置である。変速制御部220は、スロットル開度センサ210、エンジン回転数センサ212、タービン回転数センサ214、出力回転数センサ216、プライマリプーリ回転数センサ、セカンダリプーリ回転数センサ(図示省略)などの各種センサからの信号に基づき変速比を決定し、その変速比を実現するよう無段変速機204を制御する。この制御は、変速制御部220にあらかじめ設定された変速線(変速マップとも呼ばれる)情報を参照して行われる。例えば、無段変速機204の出力軸回転数とスロットル開度との組合せから目標タービン回転数を求めるタイプの変速線情報を用いて変速比を制御する場合、変速制御部220は、出力回転数センサ216、スロットル開度センサ210、及びタービン回転数センサ214の検知信号を参照する。そして、無段変速機204の出力回転数(車速)、スロットル開度、タービン回転数がその変速線情報の関係を満たすように、無段変速機204の変速比を制御する。また車種によっては、タービン回転数の代わりにエンジン回転数を参照する変速線情報を用いる場合もある。いずれの場合も、その車両の変速制御部220が使用する変速線情報に応じて、センサ210,212,214及び216等のうちの必要なセンサの信号を用いて、変速比をどのように変えるのかを判断する。変速比の変更は、前述のように、プライマリプーリ28及びセカンダリプーリ30の移動シーブを付勢する油圧室に作動流体を供給したり、その油圧室から作動流体を排出したりすることで行うことができる。それらセンサの信号に基づき変速制御部220が行う変速制御自体は、従来と同様のものでよいので、これ以上の説明は省略する。
エコラン制御部230は、車両のエコラン制御を行うための装置である。エコラン制御とは、燃料消費や大気汚染の低減のために、車両が運転されている場合でも、エンジンを一時停止させる制御である。エコラン制御部230には、エコランに入るための条件、又はエコランを禁止するための条件、又はその両方が登録されている。エコラン制御部23は、エコランに入るための条件がすべて満たされ、かつ禁止するための条件が1つも成立しない場合に、エンジン200を停止させる。エコランに入るための条件としては、例えば車両の速度が極めて小さい(ある閾値以下)こと、アクセルの踏み込み量が0であること、ブレーキが踏まれていることなどが知られており、禁止するための条件としては例えばバッテリの充電量が閾値以下であることなどが知られている。もちろんこれらは一例に過ぎず、エコラン制御部230には例示したすべての条件が設定されている必要はないし、例示した条件以外の条件が設定されていてもよい。なお、これらの条件は、従来のエコラン(アイドルストップ)制御でよく知られているので、これ以上の説明は省略する。
近年では、車両が完全に停止しておらず、例えば時速10km程度の比較的低速な速度で走っている状態であっても、エコランに入る条件が満たされる(かつ禁止条件が満たされない)場合にはエンジンを停止させる、いわゆる減速時エコラン制御が行われている。エンジンを停止すると、油圧室への作動流体の供給停止により、各プーリ28及び30のベルトトルク容量が小さくなるため、ベルト32がプーリ28及び30に対して滑りやすくなる。特に、減速時エコランに入りエンジンを停止した時点では、無段変速機204の変速比は一般に最大変速比γmax(すなわち最ロー)となっている場合が多く、この場合、プライマリプーリに対するベルトの巻き掛かり半径が小さく、プライマリプーリが高速で回転するため、プライマリプーリに対してベルトが滑りやすくなる。このときのプライマリプーリ28側のベルトトルク容量は、減速時の車両の惰性走行によるベルトのスリップを防止するのに足りなくなる場合がある。このようなメカニズムによるベルトの滑りを防止又は低減するために、この実施形態の変速制御部220及びエコラン制御部230は、図5に例示するような制御を実行する。図5の制御処理は、例えばあらかじめ定められた時間間隔(例えば数ミリ秒から数百ミリ秒)ごとに実行される。
この処理では、まずエコラン制御部230が、各センサ210〜216の検知信号などを調べ、減速時エコランの実施条件が満足されるか否かを判断する(S10)。ここで、減速時エコランの実施条件が満足されるのは、減速時エコランに入るための積極的条件がすべて満たされ、かつ減速時エコランを禁止する条件が1つも成立しない場合である。もちろん、それら条件をどのような形で記述するかは設計者によるものであるが、いずれの場合も、ステップS10では、各種センサから判断される車両の状態から、減速時エコランに入るかどうかが判定されるわけである。
ステップS10で、エコラン制御部230が減速時エコランを実施すると判定した場合、変速制御部220は、その判定結果を受けて、エンジンを停止する前に、無段変速機204の変速比を、あらかじめ定められた滑り抑制変速比γecoまで変速させる(S12)。ここで、滑り抑制変速比γecoは、エンジンの停止によりプライマリプーリ28及びセカンダリプーリ30の各油圧室への油圧(作動流体)の供給が停止された状態でも、それらプーリに対するベルト32の滑りを抑制できるようにあらかじめ定められた変速比である。滑り抑制変速比γecoは、減速時エコランに入るときの車速(言い換えれば、減速時エコランに入るための上限の車速)、タイヤ径、最終減速比等に応じて決まってくる。具体的には、例えば、実車実験やコンピュータシミュレーションなどで、制御目標のγecoを様々に変えながら、減速時エコラン制御を行ってエンジンを停止させたときにその変速比γecoの設定でベルトがプーリに対して滑るかどうか(或いは滑りの程度が許容範囲以下かどうか)を調べ、その実験やシミュレーションの結果に基づき、適切な滑り抑制変速比γecoを決定すればよい。例えば、実験やシミュレーションにおいて調べた変速比のうち、滑りが許容範囲以下に収まる最大の変速比を、滑り抑制変速比γecoとして採用すればよい。求められる滑り抑制変速比γecoは、無段変速機204が達成できる最大変速比γMAXよりも小さい(すなわち高速段側)の値である。あくまで一例であるが、滑り抑制変速比γecoは例えば1近傍の値であり、このような値であれば、プライマリプーリ28もセカンダリプーリ30もベルト32の巻き掛かりの径が小さすぎることがなく、ベルトトルク容量が得やすいので、それら両方のプーリについてのベルト滑りが少ない。
一般に、減速時エコラン制御が開始される時点では、車両が停止間近なので、無段変速機204の変速比は変速線情報に設定された最大変速比γMAXとなっている場合が多い。このため、ステップS12のγecoへの変速は、高速段側への変速となることが一般的である。
以上のようにして、ステップS12で無段変速機204が滑り抑制変速比γecoまで変速されると、その旨がエコラン制御部230に通知され、通知を受けたエコラン制御部230がエンジンを停止させる(S14)。
このように、本実施形態では、減速時エコラン制御によりエンジン200を停止する前に、無段変速機204の変速比を、減速中の車両の惰性走行の際にベルト32の滑りが許容範囲内に収まるように定められた(すなわち実験等で求められた)滑り抑制変速比γecoまで変速させる。このような制御を行うことで、その後エンジン200を停止させて各プーリ28及び30に油圧が供給されなくなっても、ベルト32のそれらプーリに対する滑りが許容範囲内に抑制される。
以上説明した実施形態は、減速時エコラン制御にてエンジンが停止する際に、油圧制御により無段変速機204の変速比を滑り抑制変速比γecoに変速させた。しかし、これは一例に過ぎない。この代わりに、リターンスプリング130のばね荷重を適切に設定することで、そのような積極的な制御をすることなく、自然に無段変速機204の変速比が滑り抑制変速比γecoになるようにすることもできる。
すなわち、減速時エコラン制御にてエンジンが停止したまさにその時点では、車両が減速時エコランにはいるかどうかの閾値速度(例えば時速10km)で走行しており、この走行に対応してプライマリプーリ28もセカンダリプーリ30も回転している。このため、各プーリ28の移動シーブを付勢する油圧室内に残存した作動流体が回転することにより遠心油圧が生じる。そのエンジン停止の時点では、無段変速機204の変速比は一般的に最大変速比γMAXであり、プライマリプーリ28の方がセカンダリプーリ30よりも高速で回転するため、プライマリプーリ28の方がセカンダリプーリ30よりも遠心油圧が高くなる。エンジン停止により油圧室への作動流体の供給がなくなっても、この遠心油圧の差により、無段変速機204は高速段側(変速比が小さくなる方向)へと自動的に変速していく。ここで、セカンダリプーリ30のリターンスプリング130として適切な挙動を示すものを採用することで、その自動的な高速段側への変速が、滑り抑制変速比γeco近傍に達したときに止まるようにすることができる。
すなわち、エンジン停止後、無段変速機204の変速比が滑り抑制変速比γeco近傍に達した時点では、遠心油圧によるプライマリプーリ28の移動プーリに対する押しつけ力(プライマリプーリにリターンスプリングが設けられている場合はそのスプリングのばね荷重を加えた力)は、遠心油圧によるセカンダリプーリ30の移動プーリに対する押しつけ力とリターンスプリング130のばね荷重との和と釣り合い、それ以上高速段側には変速しなくなる。このようなセカンダリプーリ30のリターンスプリング130のばね荷重(或いはばね定数)は、車両牽引時のセカンダリプーリ30のベルト挟圧力不足を補う等の目的のための従来のリターンスプリング130のばね荷重(又はばね定数)よりも大きいものとなる。
このように、エンジン停止時の遠心油圧による高速段側への変速を滑り抑制変速比γeco近傍で止めるための、セカンダリプーリ30のリターンスプリング130の設定(例えば、ばねの縮みに対するばね荷重の変化のパターン)、言い換えれば特定の車種に対してどのような設定のリターンスプリング130を採用すればよいかは、実験やコンピュータシミュレーションで求めればよい。例えば、セカンダリプーリ30のリターンスプリング130を様々に取り替えながら、実際に減速時エコラン制御を行い、ベルトがプーリに対して滑るかどうか(或いは滑りの程度が許容範囲以下かどうか)を調べればよい。その実験又はシミュレーションで、減速エコラン制御にてエンジンを停止させた時から、車両が停止するまでに生じるベルトの滑りが許容範囲以内であれば、そのとき用いていたリターンスプリング130はその車種に対して適切なリターンスプリング130と判断することができる。
このように、積極的な制御を行なわずに、リターンスプリング130の設定(車種に対する適切なリターンスプリングの選択)により、減速時エコラン制御中にベルトがプーリに対して滑ることを防止或いは許容範囲内に低減することができる。なお、以上では、セカンダリプーリ30のリターンスプリングの設定を従来とは変えたが、プライマリプーリ28とセカンダリプーリ30の両方にリターンスプリングが設けられる場合、それら両方のスプリングの設定を適切な値に設定するようにしてももちろんよい。
以上のようにして、減速時エコラン中の無段変速機204の変速比が滑り抑制変速比γecoへと変更された場合、運転者がアクセルを踏んで加速をしようとすると、変速比が最大変速比(最ロー)ではないので、運転者が予想している加速度(駆動力)が得られない。この場合、運転者の違和感を招く場合がある。そこで、以下の変形例の制御では、そのような違和感を、スロットル開度を調整することで解消或いは緩和する。このような制御の手順の例を、図6に示す。以下では、便宜上、エコラン制御部230が図6の制御を行うとして説明するが、実際にはエコラン制御部230に限らず、車両に搭載されたどの制御ユニットがその制御を行ってもよい。
図6の制御は、アクセルが踏まれた時(例えばセンサにより取得されているアクセル踏み込み量があらかじめ定められた閾値以上となった時)に実行される。この場合、エコラン制御部230は、まずエコラン制御(すなわちエンジン停止)を実施しているかどうかを判定する(S20)。エコラン制御を実施していない場合は、この制御は終了する。
エコラン制御を実施中の場合、エコラン制御部230は、無段変速機204の現在の変速比が、最大変速比γMAXであるかどうかを判定する(S22)。減速時エコランを実施した場合でも、急ブレーキなどの場合には、最大変速比γMAXから滑り抑制変速比γecoへと変速される前に、車両が停止してしまう場合がある。このような場合には、現在の変速比が最大変速比γMAXのままであることもある。このように現在の変速比が最大変速比γMAXである場合は、アクセルの踏み込み量に対応したスロットル開度にすれば運転者の意図通りの加速が得られるので、図6の制御は終了する。
なお、エコラン制御を行っている場合、無段変速機204の現在の変速比がセンサから得られない場合がある。例えば、変速比をプライマリプーリ28の回転数とセカンダリプーリ30の回転数とから求めている場合、車両が完全に停止している間は、現在の変速比は求められない。そのような場合を想定するならば、車両停止の直前の無段変速機204の変速比をエコラン制御部230等に記憶しておき、ステップS22ではその記憶した車両停止直前の変速比が最大変速比かどうかを判定すればよい。上述した実施形態の変速比制御が想定通りに行われていれば、車両停止直前の変速比は滑り抑制変速比γecoとなっているはずである。また、何らかの理由で変速比が滑り抑制変速比γecoまで変更される前に車両が停止すると、その停止時点の変速比(最大変速比γMAXと滑り抑制変速比γecoとの間の値)が、停止直前の変速比として記憶されることとなる。
なお、減速時エコラン制御にてエンジンを停止した後、車両が完全に停止する前にアクセルが踏まれた場合も、図6の手順をそのまま適用すればよく、この場合ステップS22では無段変速機204の現在の変速比を得ることができるので、それを最大変速比γMAXと比較すればよい。
ステップS22で、車両の現在の変速比(或いは現在車両が停止中の場合はその停止直前の変速比。以下、現在の変速比と総称)が最大変速比でない(すなわちそれより小さい)場合は、エコラン制御部230は、その現在の変速比に応じたスロットル開度補正値を算出する(S24)。すなわち、現在の変速比が最大変速比から小さくなっているほど(すなわち差が大きいほど)、アクセル踏み込み量に対する加速(駆動力)は小さくなるので、スロットル開度をその分だけ大きくするのである。すなわち、現在の変速比と最大変速比との差が大きいほど、スロットル開度補正値は大きくなる。例えば、現在の変速比と最大変速比との差ごとに、その差に対する適切なスロットル開度補正値を実験などにより求めておき、その対応関係の情報をエコラン制御部230に登録しておけばよい。エコラン制御部230は、その対応情報を参照することで、現在の変速比に対応する適切なスロットル開度補正値を求める。
そして、エコラン制御部230は、求めた補正値を、通常のアクセル踏み込み量とスロットル開度の対応関係から求められるスロットル開度に例えば加算することで、スロットル開度を補正する(S26)。この補正後のスロットル開度となるようにスロットルが開かれることで、運転者の意図に近い加速度(駆動力)が得られることとなる。