JP6095355B2 - セルロースナノファイバー分散液の製造方法 - Google Patents

セルロースナノファイバー分散液の製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、セルロースナノファイバー分散液の製造方法に関する。
従来、有限な資源である石油由来の高分子材料が多用されていたが、近年、環境に対する負荷の少ない技術が脚光を浴びるようになり、斯かる技術背景の下、天然に多量に存在するバイオマスであるセルロース繊維を使った材料が注目され、例えば、セルロース繊維を使った材料として、ナノサイズの繊維径をもったセルロース繊維(セルロースナノファイバー)に関する技術が注目されている。
掛かるセルロースナノファイバーの製造方法として、天然セルロース繊維を酸化してカルボキシ基含有セルロース繊維を得る酸化反応工程、及び該カルボキシ基含有セルロース繊維を微細化処理する微細化工程を含む製造方法が知られており、例えば、特許文献1には、セルロースナノファイバーが媒体中に分散した分散液の製造方法として、天然セルロース繊維を原料とし、N−オキシル化合物を酸化触媒とし、共酸化剤を作用させることにより、酸化された反応物繊維を得る酸化反応工程、不純物を除去して水を含浸させた反応物繊維を得る精製工程、及び水を含浸させた反応物繊維を、高圧ホモジナイザー等の分散機を用いて分散媒に分散させる分散工程を有する製造方法が記載されている。また、特許文献1には、セルロースナノファイバーの分散液の分散媒を乾燥しても良いことが記載されている。
しかし、一度乾燥させたセルロースナノファイバーは、分散媒に対する分散性が低下しており、種々の目的から再び液体に分散させる際には、強力な機械エネルギーを与える必要があった。一方、乾燥処理を施さなかった場合、セルロースナノファイバーは多くの分散媒を含んだ形態で流通するため、輸送費や保管費などが大きくなってしまうことが懸念される。
特許文献2には、セルロース水懸濁液に第3成分を添加後乾燥した後、その乾燥物を再び水に分散して元の状態に復元することが記載されている。そして、第3成分の一例として、グリセリン等が記載されている。しかし、特許文献2のセルロース水懸濁液のセルロース繊維は、バクテリアセルロースであり、本発明のセルロースナノファイバーとは異なる。また、水に再分散させることのみ記載されている。
特開2008−1728号公報 特開平9−165402号公報
従って、本発明の課題は、上述した従来技術が有する解決課題を解決し得るセルロースナノファイバー分散液の製造方法を提供することにある。
本発明は、(1)酸化剤及びN−オキシル化合物を用いて天然セルロース繊維を酸化して得られるカルボキシ基含有セルロース繊維からセルロースナノファイバーを製造するセルロースナノファイバーの製造工程、(2)前記セルロースナノファイバーと再分散促進剤を混合しゲル状体を得る工程、及び(3B)前記ゲル状体と水を混合して前記セルロースナノファイバーを再分散させる工程を含む、セルロースナノファイバー分散液の製造方法を提供するものである(以下、第1発明というときはこの発明をいう)。
また、本発明は、(1)酸化剤及びN−オキシル化合物を用いて天然セルロース繊維を酸化して得られるカルボキシ基含有セルロース繊維からセルロースナノファイバーを製造するセルロースナノファイバーの製造工程、
(2)前記セルロースナノファイバーと再分散促進剤を混合しゲル状体を得る工程、及び
(3A)前記ゲル状体と有機性の液体化合物と分散剤とを混合して前記セルロースナノファイバーを再分散させる工程を含む、セルロースナノファイバー分散液の製造方法を提供するものである(以下、第2発明というときはこの発明をいう)。
本発明(第1,第2発明)によれば、セルロースナノファイバーの分散媒に対する分散性を向上させることができ、セルロースナノファイバーを分散媒に再分散させる際に要するエネルギーの削減が可能である。
以下、本発明の好ましい実施態様に基づき本発明を説明する。
本発明(第1,第2発明)は、(1)酸化剤及びN−オキシル化合物を用いて天然セルロース繊維を酸化して得られるカルボキシ基含有セルロース繊維からセルロースナノファイバーを製造するセルロースナノファイバーの製造工程、及び(2)前記セルロースナノファイバーと再分散促進剤を混合しゲル状体を得る工程を含む、セルロースナノファイバー分散液の製造方法であり、第1発明は、更に(3B)前記ゲル状体と水を混合して前記セルロースナノファイバーを再分散させる工程、第2発明は、更に(3A)前記ゲル状体と有機性の液体化合物と分散剤とを混合して前記セルロースナノファイバーを再分散させる工程を含む。
第1発明は、セルロースナノファイバーを水に再分散させるセルロースナノファイバー分散液の製造方法であり、第2発明は、セルロースナノファイバーを有機性の液体化合物に再分散させるセルロースナノファイバー分散液の製造方法である。
第1発明及び第2発明に共通する前記(1)の工程について説明する。
前記(1)の工程で製造するセルロースナノファイバーは、平均繊維径が好ましくは200nm以下のものである。セルロースナノファイバーの平均繊維径は、好ましくは1nm以上、そして、好ましくは200nm以下、更に好ましくは100nm以下、特に好ましくは50nm以下、より具体的には、好ましくは1〜200nm、更に好ましくは1〜100nm、特に好ましくは1〜50nmである。平均繊維径は下記測定方法により測定される。
<平均繊維径の測定方法>
固形分濃度0.0001質量%のセルロースナノファイバー水分散液を調製し、該分散液を、マイカ(雲母)上に滴下して乾燥したものを観察試料として、原子間力顕微鏡(AFM、Nanoscope III Tapping mode AFM、Digital instrument社製、プローブはナノセンサーズ社製Point Probe (NCH)を使用)を用いて、該観察試料中のセルロースナノファイバーの繊維高さを測定する。そして、セルロースナノファイバーが確認できる顕微鏡画像において、セルロースナノファイバーを5本以上抽出し、それらの繊維高さから平均繊維径を算出する。一般に高等植物から調製されるセルロースナノファイバーの最小単位は6本×6本の分子鎖がほぼ正方形の形でパッキングされていることから、AFMによる画像で分析できる高さを繊維の幅と見なすことができる。
本発明で製造するセルロースナノファイバーは、微細であること(平均繊維径が好ましくは200nm以下であること)に加え、セルロースのカルボキシ基含有量の所定の範囲にあることが好ましい。具体的には、本発明で用いるセルロースナノファイバーを構成するセルロースのカルボキシ基含有量は、好ましくは0.1mmol/g以上、更に好ましくは0.4mmol/g以上、特に好ましくは0.6mmol/g以上、そして、好ましくは3mmol/g以下、更に好ましくは2mmol/g以下、特に好ましくは1.8mmol/g以下、より具体的には、好ましくは0.1〜3mmol/g、更に好ましくは0.4〜2mmol/g、特に好ましくは0.6〜1.8mmol/gである。
セルロースナノファイバーを構成するセルロースのカルボキシ基含有量が0.1〜3mmol/gであることは、好ましくは平均繊維径200nm以下の微小な平均繊維径をもつセルロースナノファイバーを安定的に得る上で重要な要素である。即ち、天然セルロースの生合成の過程においては、通常、ミクロフィブリルと呼ばれるセルロースナノファイバーがまず形成され、これらが多束化して高次な固体構造を構築しているところ、本発明で製造するセルロースナノファイバーは、後述するように、これを原理的に利用して得られるものであり、天然由来のセルロース固体原料においてミクロフィブリル間の強い凝集力の原動となっている表面間の水素結合を弱めるために、その一部を酸化し、カルボキシ基に変換することによって得られる。従って、セルロースに存在するカルボキシ基の量の総和(カルボキシ基含有量)が多いほうが、より微小な繊維径として安定に存在することができ、また水中においては、電気的な反発力が生じることにより、ミクロフィブリルが凝集を維持せずにばらばらになろうとする傾向が高まり、セルロースナノファイバーの分散安定性がより増大する。セルロースナノファイバーのカルボキシ基含有量は下記測定方法により測定される。下記測定方法における「セルロース繊維」は「セルロースナノファイバー」に読み替えることができる。
<カルボキシ基含有量の測定方法>
乾燥質量0.5gのセルロース繊維を100mlビーカーにとり、イオン交換水を加えて全体で55mlとし、そこに0.01M塩化ナトリウム水溶液5mlを加えて分散液を調製し、セルロース繊維が十分に分散するまで該分散液を攪拌する。この分散液に0.1M塩酸を加えてpHを2.5〜3に調整し、自動滴定装置(AUT−50、東亜ディーケーケー(株)製)を用い、0.05M水酸化ナトリウム水溶液を待ち時間60秒の条件で該分散液に滴下し、1分ごとの電導度及びpHの値を測定し、pH11程度になるまで測定を続け、電導度曲線を得る。この電導度曲線から、水酸化ナトリウム滴定量を求め、次式により、セルロース繊維のカルボキシ基含有量を算出する。
カルボキシ基含有量(mmol/g)=水酸化ナトリウム滴定量×水酸化ナトリウム水溶液濃度(0.05M)/セルロース繊維の質量(0.5g)
前記(1)の工程においては、例えば、次の方法によりセルロースナノファイバーを製造する。
即ち、天然セルロース繊維を酸化して反応物繊維を得る酸化反応工程、及び該反応物繊維を微細化処理する微細化工程を含む製造方法により得ることができる。以下に各工程について詳細に説明する。
前記酸化反応工程では、先ず、水中に天然セルロース繊維を分散させたスラリーを調製する。スラリーは、原料となる天然セルロース繊維(絶対乾燥基準)に対して約10〜1000倍量(質量基準)の水を加え、ミキサー等で処理することにより得られる。天然セルロース繊維としては、例えば、針葉樹系パルプ、広葉樹系パルプ等の木材パルプ;コットンリンター、コットンリントのような綿系パルプ;麦わらパルプ、バガスパルプ等の非木材系パルプ;バクテリアセルロース等が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。天然セルロース繊維は、叩解等の表面積を高める処理が施されていても良い。
次に、水中においてN−オキシル化合物を酸化触媒として天然セルロース繊維を酸化処理して反応物繊維を得る。セルロースの酸化触媒として使用可能なN−オキシル化合物としては、例えば、2,2,6,6−テトラメチル−1−ピペリジン−N−オキシル(以下、TEMPOとも表記する)、4−アセトアミド−TEMPO、4−カルボキシ−TEMPO、4−フォスフォノオキシ−TEMPO等を用いることができる。これらN−オキシル化合物の添加は触媒量で十分であり、通常、原料として用いた天然セルロース繊維(絶対乾燥基準)に対して0.1〜10質量%となる範囲である。
前記天然セルロース繊維の酸化処理においては、酸化剤(例えば、次亜ハロゲン酸又はその塩、亜ハロゲン酸又はその塩、過ハロゲン酸又はその塩、過酸化水素、過有機酸等)と、共酸化剤(例えば、臭化ナトリウム等の臭化アルカリ金属)とを併用する。酸化剤としては、特に、次亜塩素酸ナトリウムや次亜臭素酸ナトリウム等のアルカリ金属次亜ハロゲン酸塩が好ましい。酸化剤の使用量は、通常、原料として用いた天然セルロース繊維(絶対乾燥基準)に対して約1〜100質量%となる範囲である。また、共酸化剤の使用量は、通常、原料として用いた天然セルロース繊維(絶対乾燥基準)に対して約1〜30質量%となる範囲である。
また、前記天然セルロース繊維の酸化処理においては、酸化反応を効率良く進行させる観点から、反応液(前記スラリー)のpHは9〜12の範囲で維持されることが望ましい。また、酸化処理の温度(前記スラリーの温度)は、1〜50℃において任意であるが、室温で反応可能であり、特に温度制御は必要としない。また、反応時間は1〜240分間が望ましい。
前記酸化反応工程後、前記微細化工程前に精製工程を実施し、未反応の酸化剤や各種副生成物等の、前記スラリー中に含まれる反応物繊維及び水以外の不純物を除去する。反応物繊維は通常、この段階ではセルロースナノファイバー単位までばらばらに分散していないため、精製工程では、例えば水洗とろ過を繰り返す精製法を行うことができ、その際に用いる精製装置は特に制限されない。こうして得られる精製処理された酸化セルロース繊維(もしくはカルボキシル基含有セルロース繊維と呼ぶ)は、通常、適量の水を含浸させた状態で次工程(微細化工程)に送られるが、必要に応じ、乾燥処理した繊維状や粉末状としても良い。
前記微細化工程では、前記精製工程を経た反応物繊維を水等の溶媒中に分散させ微細化処理を施す。この微細化工程を経ることにより、平均繊維径及び平均アスペクト比がそれぞれ前記範囲にあるセルロースナノファイバーが得られる。
前記微細化処理において、分散媒としての溶媒は通常は水が好ましいが、水以外にも目的に応じて水に可溶な有機溶媒(アルコール類、エーテル類、ケトン類等)を使用しても良く、これらの混合物も好適に使用できる。また、微細化処理で使用する分散機としては、例えば、離解機、叩解機、低圧ホモジナイザー、高圧ホモジナイザー、グラインダー、カッターミル、ボールミル、ジェットミル、短軸押出機、2軸押出機、超音波攪拌機、家庭用ジューサーミキサー等を用いることができる。また、微細化処理における酸化セルロース繊維の固形分濃度は50質量%以下が好ましい。該固形分濃度が50質量%を超えると、分散に極めて高いエネルギーを必要とするため好ましくない。
前記微細化工程後に得られるセルロースナノファイバーの形態は、セルロースナノファイバーが分散液中に分散した状態である。必要に応じ、固形分濃度を調整した懸濁液状(目視的に無色透明又は不透明な液)、あるいは乾燥処理した粉末状(但し、セルロースナノファイバーが凝集した粉末状であり、セルロース粒子を意味するものではない)とすることもできる。尚、懸濁液状にする場合、分散媒として水のみを使用しても良く、水と他の有機溶媒(例えば、エタノール等のアルコール類)や界面活性剤、酸、塩基等との混合溶媒を使用しても良い。
このような天然セルロース繊維の酸化処理及び微細化処理により、セルロース構成単位のC6位の水酸基がアルデヒド基を経由してカルボキシル基へと選択的に酸化され、好ましくは平均繊維径が200nm以下にまで微細化された、高結晶性セルロース繊維を得ることができる。この高結晶性セルロース繊維は、セルロースI型結晶構造を有している。これは、本発明で用いるセルロースナノファイバーが、I型結晶構造を有する天然由来のセルロース固体原料が表面酸化され微細化された繊維であることを意味する。即ち、天然セルロース繊維は、その生合成の過程において生産されるミクロフィブリルと呼ばれる微細な繊維が多束化して高次な固体構造を構築しており、そのミクロフィブリル間の強い凝集力(表面間の水素結合)を、前記酸化処理によるアルデヒド基あるいはカルボキシル基の導入によって弱め、更に前記微細化処理を経ることで、セルロースナノファイバーが得られる。そして、前記酸化処理の条件を調整することにより、前記カルボキシル基含有量を所定範囲内にて増減させ、極性を変化させたり、該カルボキシル基の静電反発や前記微細化処理により、セルロース繊維の平均繊維径、平均繊維長、平均アスペクト比等を制御することができる。
本発明(第1,第2発明)の前記(2)の工程は、好ましくは、(i)前記(1)の工程で得られたセルロースナノファイバーと再分散促進剤とを分散媒中で混合してゲル前駆体を得る工程、及び(ii)前記ゲル前駆体から前記分散媒を除去してゲル状体を得る工程を有する。
前記(i)の工程においては、前記(1)の工程で得られたセルロースナノファイバー、再分散促進剤及び分散媒の3成分を混合すれば良く、具体的な混合方法としては、例えば、セルロースナノファイバーが分散媒に分散したセルロースナノファイバー分散液に、再分散促進剤を添加する方法等が挙げられる。セルロースナノファイバーは、前記(1)の工程における微細化処理として生じたセルロースナノファイバー分散液を、乾燥工程を経ることなく、その分散液のまま用いることが好ましい。
分散媒は、セルロースナノファイバー及び再分散促進剤を実質的に分散又は溶解し得るものであれば良く、水もそれに含まれる。
分散媒としては、通常、水が好ましく用いられるが、水以外の分散媒、例えば、非水溶性有機溶媒、水溶性有機溶媒、あるいはこれらと水との混合媒体等を用いることができる。具体的にどのような分散媒を用いるかは、セルロースナノファイバー及び再分散促進剤の溶解性や分散性に応じて適宜決定すれば良い。
また、前記(ii)の工程においては、好ましくは分散媒を揮発させることによってゲル状体が得られるため、分散媒としては、併用される再分散促進剤よりも、20℃における蒸気圧が大きいものが好ましい。
本発明で用いる水以外の分散媒としては、例えば、トルエン、クロロホルム、酢酸エチル、ヘキサン、ベンゼン、塩化メチレン、ジエチルエーテル、キシレン、フェノール、ピリジン等の非水溶性有機溶媒;エタノール、メタノール、イソプロパノール、t−ブチルアルコール、アセトン、N−メチル−2−ピロリドン、テトラヒドロフラン、アセトニトリル等の水溶性有機溶媒が挙げられ、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
再分散促進剤は、本工程(2)で製造したゲル状体を、前記(3A)又は(3B)の工程において、分散媒に再分散させる際に、その分散性を向上させるものである。
再分散促進剤は、分散媒に分子レベルで溶解するものが好ましい。
本発明の第1発明においては、前記(2)の工程で得られたゲル状体中のセルロースナノファイバーを再分散させる対象が水であるため、再分散促進剤としては、水溶性の有機液体であることが好ましい。
水溶性の有機液体を用いると、後述する方法でゲル状体を製造する際に、セルロースナノファイバーと再分散促進剤がそれぞれ均一に混合された構造となり、再分散性に優れたゲル状体が得られる。
水溶性の有機液体としては、グリセリン、グリセリン誘導体、ジメチルスルホキシド(DMSO)、エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール(PEG)、ジメチルホルムアミド、等が挙げられる。これらの中でも、グリセリン又はPEGを用いることが、再分散性の点から一層好ましい。
上記の再分散促進剤は、1種を単独で又は2種以上を併用することができる。
本発明の第2発明においては、前記(2)の工程で得られたゲル状体中のセルロースナノファイバーを再分散させる対象が有機性の液体化合物であるため、再分散促進剤として、グリセリン、グリセリン誘導体、ジメチルスルホキシド(DMSO)、エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール(PEG)、ジメチルホルムアミド等の有機性の液体化合物に溶解しやすいものが挙げられ、それらの中でも、DMSOを用いることが、再分散性の点から一層好ましい。
上記の再分散促進剤は、1種を単独で又は2種以上を併用することができる。
また、再分散促進剤は、分散媒の20℃における蒸気圧よりも低いことが好ましい。また、20℃における蒸気圧(mmHg、20℃)をP1、分散媒の20℃における蒸気圧(mmHg、20℃)をP2とした場合、P1/P2は、好ましくは0.001以上であり、好ましくは0.9以下、より好ましくは0.5以下であり、具体的には、好ましくは0.001〜0.9、更に好ましくは0.001〜0.5である。
前記(ii)の工程では、前記(i)の工程で得られたゲル前駆体から分散媒を除去して該ゲル前駆体をゲル化し、ゲル状体を得る。分散媒の除去方法は特に制限されないが、主にゲル前駆体の乾燥(分散媒の揮発)によって行う。ゲル前駆体の乾燥は、ゲル前駆体を室温下で放置するだけの自然乾燥でも良く、あるいは加熱乾燥、真空乾燥、凍結乾燥、噴霧乾燥等の公知の乾燥方法でも良い。噴霧乾燥は、ゲル前駆体をノズルから噴出させて微細な液滴となし、次いで対流空気中で該液滴を加熱乾燥することによりなされる。特に、自然乾燥や加熱乾燥を用いる場合には、ゲル前駆体をキャスト(流延)する等して膜状あるいはシート状に成形してからその成形体を乾燥させることが、乾燥効率の点から好ましい。
ゲル前駆体から分散媒を除去することにより、その除去方法の種類を問わず、水や有機性の液体化合物に対する高い再分散性を示すゲル状体が得られる。その理由は、本発明におけるゲル状体はセルロースナノファイバーの間隙に再分散促進剤が均一かつ十分に満たされた構造を形成し、セルロースナノファイバー同士の水素結合による固着が抑制されたためと考えられる。
前記(ii)の工程で得られるゲル状体中におけるセルロースナノファイバーの濃度は、好ましくは1質量%以上、より好ましくは10質量%以上であり、また、好ましくは99質量%以下、より好ましくは80質量%以下、更に好ましくは50質量%以下であり、また、好ましくは1〜99質量%、より好ましくは1〜80質量%であり、更により好ましくは10〜50質量%である。
なお、ゲル状体は、セルロースナノファイバー、再分散促進剤以外に、更に必要に応じて、セルロースナノファイバー以外の各種ポリマー、架橋剤や粘土鉱物、着色剤、帯電防止剤、香料成分、電解質、生理活性成分、無機粉体等の各種機能剤を含んでいても良い。
また、前記(ii)の工程で得られるゲル状体中、セルロースナノファイバーと前記再分散促進剤との含有比(前者/後者)は、再分散性の向上の観点から、好ましくは1/99以上、より好ましくは10/90以上、また、好ましくは99/1以下、より好ましくは80/20以下であり、また、好ましくは1/99〜99/1、より好ましくは10/90〜80/20である。本発明の第2発明においては、更に好ましくは10/90〜50/50である。
前記(ii)の工程で得るゲル状体の形態は特に制限されず、例えば、立体状、膜状やシート状、あるいは粉末状や粒状等とすることができる。ゲル状体の形態は、前述した製造方法において、ゲル前駆体からの分散媒の除去方法を適宜選択することによって調整することができ、例えば、ゲル前駆体をキャスト(流延)して乾燥させることで膜状やシート状のゲル状体を得ることができ、また、噴霧乾燥を用いることで粉末状や粒状のゲル状体を得ることができる。また、ゲル前駆体を任意の形状の型に流し込んで乾燥することで、立体形状のゲル状体を製造することもできる。
本発明の(第1,第2発明)の前記(3A)又は(3B)の工程は、前記(2)の工程で得られたゲル状体中のセルロースナノファイバーを分散媒に再分散させる。セルロースナノファイバーを分散させるには、ゲル状体を分散媒に混合させて、攪拌すれば良い。この攪拌に用いる攪拌機としては、離解機、叩解機、低圧ホモジナイザー、高圧ホモジナイザー、グラインダー、カッターミル、ボールミル、ジェットミル、短軸押出機、2軸押出機、超音波攪拌機、家庭用ジューサーミキサー等が挙げられる。またマグネチックスターラーやプロペラミキサー、薬匙や振とう等による手動の攪拌など軽微な機械力でも十分に再分散することが可能である。
セルロースナノファイバーを再分散させる分散媒は、ゲル状体を製造する際の分散媒と同じでも異なっても良い。
本発明の第1発明においては、前記(2)の工程で得たゲル状体を分散媒としての水と混ぜることによって、ゲル状体中のセルロースナノファイバーを水中に再分散させる。
本発明の第2発明においては、前記(2)の工程で得たゲル状体を分散媒としての有機性の液体化合物及び分散剤と混ぜることによって、ゲル状体中のセルロースナノファイバーを有機性の液体化合物中に再分散させる。有機性の液体化合物としては、水と混ざらない非極性化合物を用いることもできる。非極性化合物としては、パラフィン、高級脂肪酸、高級アルコール、脂肪酸エステル、エポキシ樹脂、トルエン、クロロホルム、テトラヒドロフラン、アクリルモノマー、キシレン、ヘキサン等が挙げられる。
本発明の第2発明において用いられる分散剤は、分散媒によって好適なものが選択されるが、特に分散媒が流動パラフィン、高級アルコール、高級脂肪酸、脂肪酸エステルの時は、非イオン性界面活性剤を用いるのが好ましいが、なかでもアルキルイミダゾリン系化合物が好ましく用いられる。
分散剤の添加量は、セルロースナノファイバーの固形分に対して、好ましくは10質量%以上、より好ましくは50質量%以上、更に好ましくは100質量%以上であり、好ましくは400質量%以下、より好ましくは300質量%以下、更に好ましくは200質量%以下であり、具体的には、好ましくは10質量%以上400質量%以下、より好ましくは50質量%以上300質量%以下、更に好ましくは100質量%以上200質量%以下である。10質量%以上とすることにより、有機性の液体中での分散を確実に十分とすることができ、また、400質量%未満とすることで、過剰な分散剤に由来するセルロースナノファイバーの着色や凝集の発生を防止することができる。
本発明の(第1,第2発明)の前記(3A)又は(3B)の工程は、前記(2)の工程で得たゲル状体を、ゲル状体のまま保管したり、搬送したりした後に行っても良い。
セルロースナノファイバーの再分散により得られるセルロースナノファイバーの再分散液は、高い透明性を有し、セルロースナノファイバーが十分に分散したものである。例えば、固形分濃度が0.2質量%となるように水に再分散させた分散液の透過率は、好ましくは50%以上、より好ましくは80%以上である。透過率は紫外可視分光硬度計(例えば、紫外可視分光硬度計U−3310、島津製作所(株)製)を用いて、波長660nm、光路長1cmでの透過率を測定することで評価できる。
また、本発明でえられたセルロースナノファイバーの分散液は、従来のセルロースナノファイバーの分散液と同様の各種の用途に特に制限なく用いられる。
上述した実施形態に関し、本発明はさらに以下のセルロースナノファイバー分散液の製造方法を開示する。
<1>
(1)酸化剤及びN−オキシル化合物を用いて天然セルロース繊維を酸化して得られるカルボキシ基含有セルロース繊維からセルロースナノファイバーを製造するセルロースナノファイバーの製造工程、
(2)前記セルロースナノファイバーと再分散促進剤を混合しゲル状体を得る工程、及び
(3A)前記ゲル状体と有機性の液体化合物と分散剤とを混合して前記セルロースナノファイバーを再分散させる工程を含む、セルロースナノファイバー分散液の製造方法。
<2>
前記有機性の液体化合物が、非極性化合物である、<1>に記載のセルロースナノファイバー分散液の製造方法。
<3>
前記分散剤が、非イオン性界面活性剤である、<1>又は<2>に記載のセルロースナノファイバー分散液の製造方法。
<4>
前記分散剤が、アルキルイミダゾリン系化合物である、<1>〜<3>の何れか1に記載のセルロースナノファイバー分散液の製造方法。
<5>
前記分散剤の添加量が、前記セルロースナノファイバーの固形分に対して10〜400質量%である、<1>〜<4>の何れか1に記載のセルロースナノファイバー分散液の製造方法。
<6>
(1)酸化剤及びN−オキシル化合物を用いて天然セルロース繊維を酸化して得られるカルボキシ基含有セルロース繊維からセルロースナノファイバーを製造するセルロースナノファイバーの製造工程、
(2)前記セルロースナノファイバーと再分散促進剤を混合しゲル状体を得る工程、及び
(3B)前記ゲル状体と水を混合して前記セルロースナノファイバーを再分散させる工程を含む、セルロースナノファイバー分散液の製造方法。
<7>
前記(2)の工程で製造するゲル状体における前記セルロースナノファイバーと前記再分散促進剤との含有比が、1/99〜90/10である、<1>〜<6>の何れか1に記載のセルロースナノファイバー分散液の製造方法。
<8>
前記再分散促進剤が水溶性の有機液体である、<1>〜<7>の何れか1に記載のセルロースナノファイバー分散液の製造方法。
<9>
前記再分散促進剤がグリセリン又はグリセリン誘導体である、<1>〜<8>の何れか1に記載のセルロースナノファイバー分散液の製造方法。
<10>
前記(2)の工程は、前記セルロースナノファイバーと前記再分散促進剤とを分散媒中で混合する工程及び前記分散媒を噴霧乾燥により除去する工程を含む、<1>〜<9>の何れか1に記載のセルロースナノファイバー分散液の製造方法。
<11>
前記(1)の工程で製造するセルロースナノファイバーの平均繊維径は、好ましくは1nm以上、そして、好ましくは200nm以下、更に好ましくは100nm以下、特に好ましくは50nm以下である、<1>〜<10>の何れか1に記載のセルロースナノファイバー分散液の製造方法。
<12>
前記(1)の工程で製造するセルロースナノファイバーを構成するセルロースのカルボキシ基含有量は、好ましくは0.1mmol/g以上、更に好ましくは0.4mmol/g以上、特に好ましくは0.6mmol/g以上、そして、好ましくは3mmol/g以下、更に好ましくは2mmol/g以下、特に好ましくは1.8mmol/g以下である、<1>〜<11>の何れか1に記載のセルロースナノファイバー分散液の製造方法。
<13>
前記(1)の工程は、前記カルボキシ基含有セルロース繊維を溶媒中に分散させて微細化する微細化工程を含む、<1>〜<12>の何れか1に記載のセルロースナノファイバー分散液の製造方法。
<14>
前記微細化工程で用いる前記溶媒は水である、<13>に記載のセルロースナノファイバー分散液の製造方法。
<15>
前記微細化工程で用いた前記溶媒を、分散媒として、前記(2)の工程を行う<13>又は<14>に記載のセルロースナノファイバー分散液の製造方法。
<16>
前記再分散促進剤が、水溶性の有機液体としては、グリセリン、グリセリン誘導体、ジメチルスルホキシド(DMSO)、エチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール(PEG)、ジメチルホルムアミドの少なくともいずれか一つである、<1>〜<15>の何れか1に記載のセルロースナノファイバー分散液の製造方法。
<17>
前記再分散促進剤は、分散媒の20℃における蒸気圧よりも低い<1>〜<16>の何れか1に記載のセルロースナノファイバー分散液の製造方法。
<18>
前記再分散促進剤の20℃における蒸気圧(mmHg、20℃)をP1、分散媒の20℃における蒸気圧(mmHg、20℃)をP2とした場合、P1/P2は、好ましくは0.001以上であり、好ましくは0.9以下、より好ましくは0.5以下である、<1>〜<17>の何れか1に記載のセルロースナノファイバー分散液の製造方法。
<19>
前記(2)の工程は、(i)前記(1)の工程で得られたセルロースナノファイバーと再分散促進剤とを分散媒中で混合してゲル前駆体を得る工程、及び(ii)前記ゲル前駆体から前記分散媒を除去してゲル状体を得る工程を有する、<1>〜<18>の何れか1に記載のセルロースナノファイバー分散液の製造方法。
<20>
前記(ii)の工程で得られるゲル状体中におけるセルロースナノファイバーの濃度は、好ましくは1質量%以上、より好ましくは10質量%以上であり、また、好ましくは99質量%以下、より好ましくは80質量%以下、更に好ましくは50質量%以下である、<19>に記載のセルロースナノファイバー分散液の製造方法。
<21>
前記(ii)の工程で得られるゲル状体中、セルロースナノファイバーと前記再分散促進剤との含有比(前者/後者)は、好ましくは1/99以上、より好ましくは10/90以上、また、好ましくは99/1以下、より好ましくは80/20以下更に好ましくは50/50以下である、<19>又は<20>に記載のセルロースナノファイバー分散液の製造方法。
<22>
前記有機性の液体化合物が、極性化合物であり、該非極性化合物は、パラフィン、高級脂肪酸、高級アルコール、脂肪酸エステル、エポキシ樹脂、トルエン、クロロホルム、テトラヒドロフラン、アクリルモノマー、キシレン、ヘキサンのいずれかである、<1>〜<21>の何れか1に記載のセルロースナノファイバー分散液の製造方法。
<23>
前記分散剤の添加量は、セルロースナノファイバーの固形分に対して、好ましくは10質量%以上、より好ましくは50質量%以上、更に好ましくは100質量%以上であり、好ましくは400質量%以下、より好ましくは300質量%以下、更に好ましくは200質量%以下である、<1>〜<22>の何れか1に記載のセルロースナノファイバー分散液の製造方法。
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明は斯かる実施例に限定されるものではない。以下、特に断らない限り、「%」は「質量%」を意味する。
〔実施例1〕
〔酸化セルロース繊維の製造〕
原料となる天然セルロース繊維として針葉樹晒しクラフトパルプ(フレッチャー チャレンジ カナダ製、CSF650ml)を用い、酸化触媒としてTEMPO(ALDRICH製、Free radical、98%製)を用い、酸化剤として次亜塩素酸ナトリウム(和光純薬工業(株)、Cl:5%製)を用い、共酸化剤として臭化ナトリウム(和光純薬工業(株)製)を用いた。天然セルロース繊維100gにイオン交換水9900gを加えて十分に攪拌してスラリーを得、該スラリーに、TEMPOを対パルプ1.25質量%、臭化ナトリウムを対パルプ12.5質量%、次亜塩素酸ナトリウムを対パルプ28.4質量%、それぞれこの順で添加し、更にpHスタッドを用い、0.5Mの水酸化ナトリウムの滴下にてスラリーのpHを10.5に保持し、温度20℃で天然セルロース繊維の酸化処理を行った。120分間の酸化時間で水酸化ナトリウムの滴下を停止し、酸化処理後の天然セルロース繊維をイオン交換水にて十分に洗浄し、脱水処理を行った。こうして、カルボキシル基含有量1.2mmol/gの酸化セルロース繊維を得た。
〔セルロースナノファイバーの製造〕
前記〔酸化セルロース繊維の製造〕で得られた酸化セルロース繊維10g(固形分換算)とイオン交換水990gとを、ミキサー(大阪ケミケル(株)製、Vita-mix-Blender ABSOLUTE)にて120分間攪拌した(即ち微細化処理時間120分間)。こうして、平均繊維径4nm、カルボキシル基含有量1.2mmol/gのセルロースナノファイバー分散液(固形分濃度1質量%)を得た。
〔ゲル状体の製造〕
上記の製造方法で得られた1質量%セルロースナノファイバー分散液70gに対して、グリセリン(和光純薬工業(株)製)0.3gを再分散促進剤として添加し、60分間マグネチックスターラーで攪拌して、ゲル前駆体を調製した。このゲル前駆体を噴霧乾燥しゲル状体とした。噴霧乾燥は、噴霧乾燥機(スプレードライヤ ADL311S−A、ヤマト科学(株)製)を用いた。噴霧乾燥の条件は、ノズル径1.6mm、インレット温度130℃、アウトレット温度約62℃、噴霧圧0.15MPaとした。
〔セルロースナノファイバー分散液の製造〕
上記の製造方法で得られたゲル状体のセルロースナノファイバー含有量は70%であった。前記ゲル状体0.14gを水50gに添加し、マグネチックスターラーで60分間、1000rpmで攪拌した。このようにして得られたセルロースナノファイバー分散液を実施例1とした。なおそれぞれの添加量から算出される分散液のセルロースナノファイバー濃度は0.2質量%であった。
〔実施例2〜4〕
ゲル状体を製造する際の1質量%セルロースナノファイバー分散液と再分散促進剤の使用量、又は再分散促進剤の種類及び使用量を表1に示すように変更した。さらに、セルロースナノファイバー分散液を製造する際のゲル状体および水の使用量を表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様にしてセルロースナノファイバー分散液を得た。
〔実施例5〕
再分散促進剤としてジメチルホルムアミド(DMSO、和光純薬工業製)を用いた以外は実施例1と同様にしてゲル前駆体を得た。このゲル前駆体をポリスチレン製シャーレ(φ80mm)に30g注ぎ、室温環境下で1週間保持することで、該ゲル前駆体中のイオン交換水を揮発させて乾燥処理を行い、ゲル状体とした。このゲル状体を用いて、実施例1と同様にしてセルロースナノファイバー分散液を得た。
〔比較例1〕
実施例1で使用した1質量%セルロースナノファイバー分散液を再分散促進剤用いることなく、実施例1と同様に噴霧乾燥を行い、セルロースナノファイバーの粉体を得た。この粉体0.1gを実施例1と同様に水50gに添加、攪拌してセルロースナノファイバー分散液を得た。
〔実施例6〕
実施例1と同様にしてセルロースナノファイバー分散液(固形分濃度1質量%)を得た。前記セルロースナノファイバー分散液100gに対して、再分散促進剤としてグリセリン(和光純薬工業(株)製)9gを添加し、60分間マグネチックスターラーで攪拌して、ゲル前駆体を調製した。このゲル前駆体をポリスチレン製シャーレ(φ80mm)に30g注ぎ、室温環境下で1週間保持することで、該ゲル前駆体中のイオン交換水を揮発させて乾燥処理を行い、ゲル状体とした。このゲル状体のセルロースナノファイバー含有量は10%であった。前記ゲル状体1gを、有機性の液体化合物として流動パラフィン(密度(20℃) 0.825〜0.850g/l、和光純薬工業(株)製)24gに添加し、さらに分散剤としてアルキルイミダゾリン系分散剤(ホモゲノールL−95、花王(株)製)を0.2g(対セルロースナノファイバー固形分200%に相当)添加し、マグネチックスターラーで60分間、1000rpmで攪拌した。このようにして得られたセルロースナノファイバー分散液を実施例6とした。なおぞれぞれの添加量から算出される分散液のセルロースナノファイバー濃度は0.4質量%であった。
〔実施例7−10〕
ゲル状体を製造する際の1質量%セルロースナノファイバーと再分散促進剤の使用量、又は再分散促進剤の種類及び使用量を表2に示すように変更した。さらにセルロースナノファイバー分散液を製造する際のゲル状体の使用量、ゲル状体を再分散させる有機性の液体化合物の種類と使用量、及び分散剤の使用量を表2に示すように変更した以外は、実施例6と同様にして、セルロースナノファイバー分散液を得た。
〔比較例2〕
ゲル状体を製造する際の1質量%セルロースナノファイバーを再分散促進剤用いることなく、実施例6と同様に乾燥処理を行い、セルロースナノファイバーの乾燥体を得た。この乾燥体0.1gを実施例1と同様に有機性の液体化合物として流動パラフィン25gに添加し、さらに分散剤としてアルキルイミダゾリン系分散剤0.2g添加、攪拌してセルロースナノファイバー分散液を得た。
〔比較例3〕
実施例6において、ゲル状体を有機性の液体化合物に再分散させる際に分散剤を添加しなかった以外は、実施例6と同様にして、セルロースナノファイバー分散液を得た。
〔比較例4〕
実施例8において、ゲル状体を有機性の液体化合物に再分散させる際に分散剤を添加しなかった以外は、実施例8と同様にして、セルロースナノファイバー分散液を得た。
〔評価〕
実施例及び比較例のサンプル(セルロースナノファイバー分散液)について、前記方法により各条件において透過率及び粘度を、表1又は2に示した。
Figure 0006095355
Figure 0006095355
<透過率の測定方法>
得られたそれぞれのセルロースナノファイバー分散液について、紫外可視分光硬度計(紫外可視分光硬度計U−3310、島津製作所(株)製)を用いて、波長660nm、光路長1cmでの透過率をし、表1,2に記載した。
<粘度の測定方法>
得られたそれぞれの分散液について、レオメーター(Thermo HAAKE社製 RheoStress6000、直径35mmのコーンプレート使用)を用い、温度23℃、ずり速度0.01S-1から1000S-1までにおける定常粘度を測定した。ずり速度100S-1における定常粘度を表1、2に記載した。
透過率、粘度の測定はマグネチックスターラーで60分攪拌後、10分間静置したあと測定を行った。静置後にセルロースナノファイバーが沈降したものに関しては、その上澄み液の部分を測定に供した。
得られたそれぞれの分散液の透過率を比較して、透過率が高いほどセルロースナノファイバーの分散が促進している、すなわち、分散性が向上していることを意味する。同様に、それぞれの分散液の粘度を比較して、粘度が高いほど、分散性が向上していることを意味する。分散性が向上することによって、分散に要する時間の短縮等が実現できるので、再分散させる際に要するエネルギーの削減が可能となる。
表1から明らかなように、再分散促進剤を用いて製造したゲル状体を水に再分散させた実施例1〜5は、再分散促進剤を用いずに製造したゲル状体を水に再分散させた比較例1に対して、透過率及び粘度の値が何れも高くなっている。比較例1は水に対する再分散性に乏しいことから、十分にナノ化できないために、透過率及び粘度が低かった。一方、実施例1〜5は水に再分散し、ナノ化が進行したために透過率及び粘度が高くなった。またゲル状体の製造に原料として用いたセルロースナノファイバーの0.2質量%水分散液における透過率と粘度はそれぞれ98%、3.9mPa・sであったが、特に実施例3において元の(再分散前の)セルロースナノファイバー分散液に最も近い値を示した。実施例3はゲル状体におけるセルロースナノファイバー含有量が小さく、再分散促進剤の含有量が大きいことから(セルロースナノファイバーと再分散促進剤との含有比:20/80)、セルロースナノファイバー同士の水素結合形成が抑制され、高い再分散性を示したと考えられる。以上のことから、再分散促進剤を用いてゲル状体を製造する本発明の方法によれば、水に対する分散性を向上させることができ、セルロースナノファイバーを水に再分散させる際に要するエネルギーの削減が可能であることが判る。
実施例6、7、9、10は再分散促進剤を用いて製造したゲル状体を有機性の液体化合物である流動パラフィンに、分散剤を用いて再分散させたセルロースナノファイバー分散液である。一方、比較例2は実施例6に対して再分散促進剤を用いずに製造、比較例3は分散剤を用いずに製造したものであり、いずれもマグネチックスターラーで60分攪拌後、10分静置したあとセルロースナノファイバーが沈降した。いずれも有機性の液体化合物として流動パラフィンを用いた実施例6、7、9、10と比較例2、3を比較して、実施例6、7、9、10は比較例2、3に比べて粘度の値が高くなっていることから、セルロースナノファイバーの再分散が進行していることが分かる。比較例2、3の透過率が高い値(流動パラフィンと同等)を示したのは、セルロースナノファイバーの再分散が進行せずに沈降したためであり、比較例2、3の分散液は容器の底に沈殿物が存在しており、再分散が促進されていない状態であった。また有機性の液体化合物としてヘキサンを用いた実施例8と比較例4とを比較して、分散剤を使用して製造した実施例8は、分散剤を用いずに製造した比較例4(セルロースナノファイバーは沈降した)に比べて高い粘度を示したことから、セルロースナノファイバーの再分散性が向上したことが分かる。以上のことから、再分散促進剤を用いてゲル状体を製造及び分散剤を添加する本発明の方法によれば、有機性の液体化合物に対する分散性を向上させることができ、セルロースナノファイバーを有機性の液体化合物に再分散させる際に要するエネルギーの削減が可能であることが判る。

Claims (9)

  1. (1)酸化剤及びN−オキシル化合物を用いて天然セルロース繊維を酸化して得られるカルボキシ基含有セルロース繊維からセルロースナノファイバーを製造するセルロースナノファイバーの製造工程、
    (2)前記セルロースナノファイバーと再分散促進剤を混合しゲル状体を得る工程、及び
    (3A)前記ゲル状体と有機性の液体化合物と分散剤とを混合して前記セルロースナノファイバーを再分散させる工程を含む、セルロースナノファイバー分散液の製造方法。
  2. 前記有機性の液体化合物が、非極性化合物である、請求項1記載のセルロースナノファイバー分散液の製造方法。
  3. 前記分散剤が、アルキルイミダゾリン系化合物である、請求項1又は2記載のセルロースナノファイバー分散液の製造方法。
  4. 前記分散剤の添加量が、前記セルロースナノファイバーの固形分に対して10〜400質量%である、請求項1〜3の何れか1項記載のセルロースナノファイバー分散液の製造方法。
  5. (1)酸化剤及びN−オキシル化合物を用いて天然セルロース繊維を酸化して得られるカルボキシ基含有セルロース繊維からセルロースナノファイバーを製造するセルロースナノファイバーの製造工程、
    (2)前記セルロースナノファイバーと再分散促進剤を混合しゲル状体を得る工程、及び
    (3B)前記ゲル状体と水を混合して前記セルロースナノファイバーを再分散させる工程を含む、セルロースナノファイバー分散液の製造方法。
  6. 前記(2)の工程で製造するゲル状体における前記セルロースナノファイバーと前記再分散促進剤との含有比が、1/99〜90/10である、請求項1〜5の何れか1項記載のセルロースナノファイバー分散液の製造方法。
  7. 前記再分散促進剤が水溶性の有機液体である、請求項1〜6の何れか1項記載のセルロースナノファイバー分散液の製造方法。
  8. 前記再分散促進剤がグリセリン又はグリセリン誘導体である、請求項1〜7の何れか1項記載のセルロースナノファイバー分散液の製造方法。
  9. 前記(2)の工程は、前記セルロースナノファイバーと前記再分散促進剤とを分散媒中で混合する工程及び前記分散媒を噴霧乾燥により除去する工程を含む、請求項1〜8の何れか1項記載のセルロースナノファイバー分散液の製造方法。
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