以下、添付図面を参照して、物理量測定装置および物理量測定方法の実施の形態について説明する。
最初に、物理量測定装置1(以下、「測定装置1」ともいう)の構成について、図面を参照して説明する。
測定装置1は、図1に示すように、一例として、測定部2、操作部3、処理部4、記憶部5および出力部6を備え、測定対象としての試料11の物理量を測定可能に構成されている。
測定部2は、図1に示すように、一例として、信号生成部2a、電流検出部2b、電圧検出部2cおよび演算部2dを備え、試料11の物理量を測定する(実測する)。この場合、信号生成部2aは、処理部4から出力される制御データDc1に含まれている周波数データで示される周波数、およびレベルデータで示されるレベル(振幅)の交流信号(本例では正弦波信号)を生成する。また、信号生成部2aは、この生成した交流信号に、制御データDc1に含まれているバイアスデータで示されるDCバイアス(測定装置1内の基準電位(グランド電位)Gを基準とした直流電圧)を重畳させることにより、電圧信号である測定用信号Svを生成する。また、信号生成部2aは、生成した測定用信号Svを試料11の一方の端部に出力する。
電流検出部2bは、試料11の他方の端部と基準電位Gとの間に配設されて、測定用信号Svが試料11に出力されているときに試料11に流れる電流I1を検出する。この際に、電流検出部2bは、複数の測定レンジのうちの処理部4から出力される制御データDc2に含まれているレンジデータで示される測定レンジに切り替えて電流I1を検出する。また、電流検出部2bは、電流I1を検出したときには、この電流I1の波形を示す波形データDiを演算部2dに出力する。電圧検出部2cは、試料11に電流I1が流れることによって試料11の両端間に発生する両端間電圧V1を検出する。この際に、電圧検出部2cは、複数の測定レンジのうちの処理部4から出力される制御データDc3に含まれているレンジデータで示される測定レンジに切り替えて両端間電圧V1を検出する。また、電圧検出部2cは、両端間電圧V1を検出したときには、この両端間電圧V1の波形を示す波形データDvを演算部2dに出力する。
演算部2dは、電流検出部2bおよび電圧検出部2cでの各レンジデータ、両端間電圧V1の波形データDv、並びに電流I1の波形を示す波形データDiに基づいて、試料11の物理量を算出して、算出した物理量を示す物理量データDpを処理部4に出力する。
操作部3は、テンキーを含む複数種類の操作キーを備えて構成されて、これらの操作キーが操作者によって操作されることにより、試料11についての物理量の種類を特定するためのモードデータ、物理量の基準値(基準物理量)を示す基準値データ、および物理量を測定する際の予め規定された測定条件を構成する条件項目の設定値を示す設定値データを含む設定データDset(測定部2に対するデータ)を処理部4に出力する。本例では一例として、測定条件を構成する条件項目として、測定用信号Svの周波数、測定用信号Svのレベル、測定用信号SvのDCバイアス、および物理量の測定レンジが規定されている。このため、設定データDsetには、測定用信号Svの周波数を示す周波数データ、測定用信号Svのレベルを示すレベルデータ、測定用信号SvのDCバイアスを示すバイアスデータ、および物理量の測定レンジを示すレンジデータが含まれている。
処理部4は、CPUなどを備えて構成されて、操作部3から出力される設定データDset、および測定部2から出力される物理量データDpを記憶部5に記憶させる記憶処理を実行する。また、処理部4は、基準値記憶処理、実測値測定処理、補正値算出処理、近似式算出処理および物理量測定処理を実行する。また、処理部4は、測定部2に対する制御処理を実行して、測定用信号Svの周波数、測定用信号Svのレベル、測定用信号SvのDCバイアス、電流検出部2bでの測定レンジ、および電圧検出部2cでの測定レンジを測定部2に設定する。なお、操作部3から出力される設定データDsetに含まれる物理量の測定レンジは電流検出部2bおよび電圧検出部2cでの各測定レンジの組み合わせで規定される。このため、処理部4は、この物理量の測定レンジに基づいて、電流検出部2bおよび電圧検出部2cでの各測定レンジを特定して、特定した各測定レンジを測定部2に設定する。また、処理部4は、試料11の最終的な物理量を示す物理量データDp1を出力部6に出力する出力処理を実行する。
記憶部5は、一例として、RAMおよびROMなどの半導体メモリや、HDD(Hard Disk Drive )で構成されて、処理部4用の動作プログラムが予め記憶されている。また、記憶部5は、処理部4のワークメモリとしても機能する。
出力部6は、一例として、液晶ディスプレイなどの表示装置で構成されて、処理部4から入力した物理量データDp1で示される試料11の最終的な物理量を画面上に表示する。なお、表示装置に代えて、外部装置とデータ通信を行うインターフェース装置で構成して、この外部装置に物理量データDp1を出力する構成を採用することもできる。
次いで、測定装置1による試料11の物理量の測定動作と共に試料11の物理量測定方法について説明する。なお、一例として、測定装置1が試料11としての抵抗体についての物理量としての抵抗値Rを測定する例を挙げて説明する。
測定装置1では、処理部4が、まず、基準値記憶処理を実行する。この基準値記憶処理では、処理部4は、操作者が操作部3を操作して入力した設定データDsetを複数個(本例では一例として3つ)入力して記憶部5に記憶させる。この場合、各設定データDsetに含まれている測定用信号Svの周波数データ、測定用信号Svのレベルデータ、測定用信号Svのバイアスデータ、および物理量の測定レンジ(つまり、電流検出部2bでのレンジデータおよび電圧検出部2cでのレンジデータ)は、例えば、基準になる他の測定装置において、物理量が既知(この例では既知の抵抗値R)の基準測定対象(基準試料)を測定したときの測定条件を構成する各条件項目(上記の測定用信号Svの周波数、レベルおよびDCバイアス、並びに測定レンジ)の設定値(基準設定値)を示しており、また設定データDsetに含まれている基準値データで示される基準値は、この測定条件の下で実際に測定された基準測定対象(基準試料)の物理量(基準値としての抵抗値R)を示している。
この基準値記憶処理の実行により、処理部4は、図2に示す3つの測定条件a1,a2,a3を記憶部5に記憶する。具体的には、1つ目の測定条件a1として、測定用信号Svの周波数f1[kHz]、測定用信号SvのレベルLV1、測定用信号SvのDCバイアス(OFF。つまり、0[V])、測定レンジRG1、およびモード(抵抗値R)が記憶され、さらに、このときの基準の試料11の基準物理量としての抵抗値R1[Ω]が記憶される。また、2つ目の測定条件a2として、測定用信号Svの周波数f2(>f1)[kHz]、測定用信号SvのレベルLV1、測定用信号SvのDCバイアス(OFF。つまり、0[V])、測定レンジRG1、およびモード(抵抗値R)が記憶され、さらに、このときの基準の試料11の基準物理量としての抵抗値R2[Ω]が記憶される。また、3つ目の測定条件a3として、測定用信号Svの周波数f3(>f2)[kHz]、測定用信号SvのレベルLV1、測定用信号SvのDCバイアス(OFF。つまり、0[V])、測定レンジRG1、およびモード(抵抗値R)が記憶され、さらに、このときの基準の試料11の基準物理量としての抵抗値R3[Ω]が記憶される。この場合、基準になる他の測定装置において、測定用信号Svの周波数のみを上記のようにf1,f2,f3というように変更して測定される同一の基準の試料11についての各測定条件a1,a2,a3での基準物理量としての抵抗値Rは、大きくは相違しないが、測定用信号Svの周波数が相違することに起因して、上記のように若干異なる抵抗値R1,R2,R3として測定される。また、各抵抗値R1,R2,R3は、上記の同じ測定レンジRG1で測定可能な抵抗値Rである。
次いで、処理部4は、実測値測定処理を実行する。なお、処理部4によるこの実測値測定処理の実行に先立ち、測定装置1の測定部2に試料11として上記の基準試料が接続されているものとする。この実測値測定処理では、処理部4は、物理量が既知の基準物理量である基準試料について、測定条件の条件項目の1つである測定用信号Svの周波数における複数の設定値(上記の測定条件a1,a2,a3として記憶されている各基準設定値のうちの1つとしての周波数f1,f2,f3)での物理量(抵抗値R)を測定部2に対して測定させると共に、測定された抵抗値(実測値)を抵抗値Rpr1,Rpr2,Rpr3として記憶部5に記憶させる。
続いて、処理部4は、補正値算出処理を実行する。この補正値算出処理では、処理部4は、上記の各基準設定値(周波数f1,f2,f3)での実測値である抵抗値Rpr1,Rpr2,Rpr3と、基準物理量である抵抗値R1,R2,R3とに基づいて、各抵抗値Rpr1,Rpr2,Rpr3を、対応する抵抗値R1,R2,R3に補正するための各抵抗値Rpr1,Rpr2,Rpr3についての補正値Rc1,Rc2,Rc3を算出して記憶部5に記憶させる。この場合の補正値Rc1は、抵抗値R1を抵抗値Rpr1で除算して、つまり抵抗値R1/抵抗値Rpr1の式から算出される。他の補正値Rc2,Rc3についても同様にして、抵抗値R2/抵抗値Rpr2、抵抗値R3/抵抗値Rpr3の各式からそれぞれ算出される。
次いで、処理部4は、近似式算出処理を実行する。この近似式算出処理では、処理部4は、算出した各補正値Rc1,Rc2,Rc3に基づいて、各基準設定値(周波数f1,f2,f3)を含む設定値範囲(図3中の符号Wで表される範囲)内での任意の設定値(この例では周波数f)に対する補正値Rcを特定する近似式を算出して記憶部5に記憶させる。この場合、周波数f1での補正値Rc1と、周波数f2での補正値Rc2と、周波数f3での補正値Rc3とは、図3に示すように、横軸を周波数fとし、縦軸を補正値Rcとしたときに、同図中の3点で表される。処理部4は、この近似式算出処理では、例えば最小二乗法に基づいて、この3点の関係を示す近似式(例えば、各3点を通る曲線を示す式(周波数fを変数として補正値を特定する式))を算出する。これにより、処理部4は、この近似式を使用することにより、設定値範囲W内の任意の周波数fでの補正値Rcを特定することが可能になる。なお、設定値範囲が各基準設定値(周波数f1,f2)を含む範囲であるときには、この範囲内での任意の設定値(周波数f)に対する補正値Rcを特定する近似式を算出し、設定値範囲が各基準設定値(周波数f2,f3)を含む範囲であるときには、この範囲内での任意の設定値(周波数f)に対する補正値Rcを特定する近似式を算出する。なお、上記の例では、近似式として、上記の各3点を通る曲線を示す1つの式を算出しているが、3点のうちの最も低い周波数f1よりも周波数の低い範囲においては、周波数f1の点と、この点の次に周波数の低い点(周波数f2の点)の2点の関係を示す近似式を使用してもよく、同様にして、3点のうちの最も高い周波数f3よりも周波数の高い範囲においては、周波数f3の点と、この点の次に周波数の高い点(周波数f2の点)の2点の関係を示す近似式を使用してもよい。
続いて、処理部4は、物理量測定処理を実行する。この物理量測定処理では、処理部4は、測定装置1の測定部2に接続された試料11(上記の基準試料と同じ仕様、つまり、物理量としての抵抗値Rが、仕様上、基準試料の抵抗値Rと同じ試料)についての物理量(抵抗値R)を、操作部3から出力された設定データDsetで規定される測定条件(設定データDsetに含まれる各条件項目の設定値で規定される測定条件)で測定する。
具体的には、処理部4は、この設定データDsetに含まれる条件項目のうちの測定用信号Svの周波数を示す周波数データ、測定用信号Svのレベルを示すレベルデータ、および測定用信号SvのDCバイアスを示すバイアスデータを制御データDc1として測定部2の信号生成部2aに出力して、この周波数データで示される周波数(後述する周波数fxであるとする)で、かつこのレベルデータで示されるレベル(振幅)で、かつこのバイアスデータで示されるDCバイアスが重畳された交流信号(本例では正弦波信号)を生成させる。また、処理部4は、この設定データDsetに含まれる条件項目のうちの測定レンジを示すレンジデータに基づいて、電流検出部2bでの測定レンジおよび電圧検出部2cでの測定レンジを特定して、特定した電流検出部2bでの測定レンジを示すレンジデータを制御データDc2として測定部2の電流検出部2bに出力して、このレンジデータで示される測定レンジで試料11に流れる電流I1を検出させると共に、特定した電圧検出部2cでの測定レンジを示すレンジデータを制御データDc3として測定部2の電圧検出部2cに出力して、このレンジデータで示される測定レンジで試料11の両端間電圧V1を検出させる。これにより、測定部2の演算部2dは、電流検出部2bおよび電圧検出部2cでの各レンジデータと、電圧検出部2cから出力される両端間電圧V1の波形データDvと、電流検出部2bから出力される電流I1の波形を示す波形データDiとに基づいて、試料11の物理量(この例では抵抗値R)を算出して、算出した物理量を示す物理量データDpを処理部4に出力する。
本例では、処理部4は、上記の近似式を使用することにより、設定値範囲W内の任意の周波数fでの補正値Rcを算出することが可能である。このため、操作者は、上記した各測定条件a1〜a3のすべての条件項目(測定用信号Svの周波数、測定用信号Svのレベル、測定用信号SvのDCバイアス、測定レンジ)のうちの測定用信号Svの周波数を除く他の条件項目における設定値については、変更できないものの、測定用信号Svの周波数については、図3に示す設定値範囲W内での任意の設定値(周波数fx)を選択することが可能である。
これにより、この物理量測定処理において、処理部4は、上記の近似式を使用して周波数fxでの補正値Rcxを算出する。続いて、処理部4は、測定部2から取得した物理量データDpで示される実測値(抵抗値R)に対して、この算出した補正値Rcxを適用して、具体的には、実測値(抵抗値R)に補正値Rcxを乗算して、試料11についての最終的な抵抗値Rを算出する。最後に、処理部4は、算出した抵抗値Rを示す物理量データDp1を記憶部5に記憶させると共に、出力処理を実行して出力部6に出力する。出力部6は、物理量データDp1で示される最終的な抵抗値Rを画面に表示させる。
また、測定用信号Svの周波数を設定値範囲W内で変更して、試料11の抵抗値Rを再測定する場合には、操作者は、操作部3に対する操作を実行して、操作部3から処理部4に対して、変更後の周波数を示す設定値の周波数データを含む設定データDsetを出力させる。これにより、処理部4が上記の物理量測定処理を再度実行することにより、この変更後の周波数についての測定条件が記憶部5に個別に記憶されていない構成であっても、処理部4が変更後の周波数の設定値での補正値を近似式から算出することができるため、試料11の抵抗値Rを再測定することが可能になっている。
このように、この測定装置1およびこの物理量測定方法では、測定条件を構成する複数の条件項目の1つである周波数についての各基準設定値(f1,f2,f3)での実測値を基準物理量に補正するための各基準設定値での補正値Rc1,Rc2,Rc3を算出する補正値算出処理と、算出した各補正値に基づいて、周波数についての上記の各基準設定値を含む設定値範囲W内での任意の設定値(周波数f)に対する補正値Rcを特定する近似式を算出する近似式算出処理とを実行し、条件項目の1つである測定用信号Svの周波数の設定値を任意の設定値(周波数f)に設定して試料11の物理量(抵抗値R)を測定する際に、測定部2で測定された実測値(抵抗値R)に対して、近似式に基づいて特定したこの任意の設定値(周波数fx)での補正値Rcxを適用して試料11の最終的な物理量(抵抗値R)を算出する物理量測定処理を実行する。
したがって、この測定装置1およびこの物理量測定方法によれば、測定条件を構成する複数の条件項目の1つである周波数についての各基準設定値(f1,f2,f3)での基準物理量(抵抗値R)を記憶部5に記憶しておくだけで、測定用信号Svの周波数を設定値範囲W内で任意に変更したとしても、この新たな測定条件での試料11の物理量(抵抗値R)を正確に測定することができる。すなわち、この測定装置1およびこの物理量測定方法によれば、測定用信号Svの周波数を細かく分割して、周波数毎の測定条件を個別に規定して記憶部に記憶する構成とは異なり、記憶部5に記憶させる測定条件の数を必要最小限(本例では3つ)に抑制でき、これに伴い測定条件の各条件項目の設定値を入力する手間も大幅に省くことができるため、測定条件の設定に要する時間の増大と、測定条件のための記憶容量(記憶部5の容量)の増加とを回避することができる。
なお、上記の測定装置1では、測定条件を規定する条件項目のうちの測定用信号Svの周波数fについての複数の基準設定値を記憶部5に記憶して、各基準設定値(各周波数f1,f2,f3)での補正値Rc1、Rc2,Rc3を算出し、さらに各周波数f1,f2,f3と各補正値Rc1、Rc2,Rc3とから周波数fと補正値Rcとの関係を示す近似式を算出することで、記憶部5に記憶させる測定条件の数の増加を回避しつつ、測定用信号Svの周波数fを設定値範囲W内で任意に変更して試料11の物理量(抵抗値R)を測定可能としているが、周波数以外の他の条件項目(測定用信号Svのレベルや、測定用信号SvのDCバイアス)についても、周波数と同様にして補正値を算出する近似式を算出して、任意の設定値における試料11の物理量(抵抗値R)を測定可能とする構成を採用することもできる。
また、測定条件を構成する複数の条件項目のうちの1つの条件項目についての3つの基準設定値に基づいて物理量に対する補正値についての近似式を算出する構成を採用しているが、より簡易に2つの基準設定値に基づいて補正値についての近似式を算出する構成を採用することもできるし、4つ以上の基準設定値に基づいて補正値についてのより正確な近似式を算出する構成を採用することもできる。
また、上記の測定装置1では、基準試料と同じ仕様(仕様上の物理量が同じ)の試料11の物理量について、測定条件を構成する複数の条件項目のうちの1つの条件項目の設定値と物理量との関係を示す近似式を用いて、この1つの条件項目の設定値を任意に変えて測定し得る構成を採用しているが、同種(基本的な構造は同じ)ではあるが、例えば寸法の違いなどによって仕様上の物理量が異なる複数の基準試料についての基準物理量を1つの測定条件の下で測定すると共に、この基準試料と同種の試料についての物理量と補正値との関係を示す近似式を算出し、基準試料と同種ではあるものの仕様上の物理量が異なる試料の物理量を測定するときには、この仕様上の物理量に対応する補正値をこの近似式を用いて算出し、算出した補正値で測定した物理量(実測値)を補正して、最終的な物理量を測定する構成を採用することもできる。以下、この構成を採用した物理量測定装置1A(以下、「測定装置1A」ともいう)について説明する。
まず、この測定装置1Aの構成について図1を参照して説明する。なお、基本的な構成は測定装置1と同一であり、処理部4での処理の内容のみが相違するため、処理部4Aを除く他の同一の構成については同一の符号を付して重複する説明を省略する。
測定装置1Aは、図1に示すように、一例として、測定部2、操作部3、処理部4A、記憶部5および出力部6を備え、測定対象としての試料11の物理量を測定可能に構成されている。
操作部3は、操作キーが操作者によって操作されることにより、試料11についての物理量の種類を特定するためのモードデータ、物理量の基準値(基準物理量)を示す基準値データ、および物理量を測定する際の予め規定された測定条件を構成する条件項目の設定値を示す設定値データを含む設定データDsetを処理部4Aに出力する。本例では一例として、測定条件を構成する条件項目として、図4に示すように、測定用信号Svの周波数、測定用信号Svのレベル、測定用信号SvのDCバイアス、および物理量の測定レンジが規定されている。
処理部4Aは、処理部4と同様にして、上記の記憶処理、基準値記憶処理、実測値測定処理、補正値算出処理、近似式算出処理および物理量測定処理を実行する。また、処理部4Aは、処理部4と同様にして、測定部2に対する制御処理と、出力処理とを実行する。
次いで、測定装置1Aによる試料11の物理量の測定動作について説明する。なお、一例として、測定装置1Aが試料11としての抵抗体についての物理量としての抵抗値Rを測定する例を挙げて説明する。
測定装置1Aでは、処理部4Aが、まず、処理部4と同様にして、基準値記憶処理を実行する。この基準値記憶処理では、処理部4Aは、操作者が操作部3を操作して入力した設定データDsetを複数個(本例では一例として3つ)入力して記憶部5に記憶させる。
この基準値記憶処理の実行により、処理部4Aは、図4に示す3つの測定条件b1,b2,b3を記憶部5に記憶する。具体的には、1つ目の測定条件b1として、測定用信号Svの周波数f1[kHz]、測定用信号SvのレベルLV1、測定用信号SvのDCバイアス(OFF。つまり、0[V])、測定レンジRG1、およびモード(抵抗値R)が記憶され、さらに、このときの基準の試料11の基準物理量としての抵抗値R1A[Ω]が記憶される。また、2つ目の測定条件b2として、測定用信号Svの周波数f1[kHz]、測定用信号SvのレベルLV1、測定用信号SvのDCバイアス(OFF。つまり、0[V])、測定レンジRG1、およびモード(抵抗値R)が記憶され、さらに、このときの他の基準の試料11の基準物理量としての抵抗値R2A[Ω]が記憶される。また、3つ目の測定条件b3として、測定用信号Svの周波数f1[kHz]、測定用信号SvのレベルLV1、測定用信号SvのDCバイアス(OFF。つまり、0[V])、測定レンジRG1、およびモード(抵抗値R)が記憶され、さらに、このときの他の基準の試料11の基準物理量としての抵抗値R3A[Ω]が記憶される。この場合、基準になる他の測定装置において、同種ではあるものの仕様上の物理量(抵抗値R)が異なる3つの基準の試料11についての同じ測定条件の下での基準物理量としての抵抗値Rは、それぞれの仕様に応じて、上記のように異なる抵抗値R1A,R2A,R3Aとして測定される。
次いで、処理部4Aは、実測値測定処理を実行する。なお、処理部4Aによるこの実測値測定処理では、測定装置1Aの測定部2に試料11として上記の各基準試料(仕様上の抵抗値がR1A,R2A,R3Aの各基準試料)が順次接続されるものとする。この実測値測定処理では、処理部4Aは、上記の同じ測定条件の下で、各基準試料についての物理量(抵抗値R)を測定部2に対して測定させると共に、測定された抵抗値(実測値)を抵抗値Rpr1A,Rpr2A,Rpr3Aとして記憶部5に記憶させる。
続いて、処理部4Aは、補正値算出処理を実行する。この補正値算出処理では、処理部4Aは、各基準試料の基準物理量(仕様上の抵抗値R1A,R2A,R3A)と、実測値である抵抗値Rpr1A,Rpr2A,Rpr3Aとに基づいて、各抵抗値Rpr1A,Rpr2A,Rpr3Aを、対応する抵抗値R1A,R2A,R3Aに補正するための各抵抗値Rpr1A,Rpr2A,Rpr3Aについての補正値Rc1A,Rc2A,Rc3Aを算出して記憶部5に記憶させる。この場合の補正値Rc1Aは、抵抗値R1Aを抵抗値Rpr1Aで除算して、つまり抵抗値R1A/抵抗値Rpr1Aの式から算出される。他の補正値Rc2A,Rc3Aについても同様にして、抵抗値R2A/抵抗値Rpr2A、抵抗値R3A/抵抗値Rpr3Aの各式からそれぞれ算出される。
次いで、処理部4Aは、近似式算出処理を実行する。この近似式算出処理では、処理部4Aは、算出した各補正値Rc1A,Rc2A,Rc3Aに基づいて、各基準物理量(抵抗値R1A,R2A,R3A)を含む物理量範囲(図5中の符号WAで表される範囲)内での任意の設定値に対する補正値RcAを特定する近似式を算出して記憶部5に記憶させる。この場合、抵抗値R1Aでの補正値Rc1Aと、抵抗値R2Aでの補正値Rc2Aと、抵抗値R3Aでの補正値Rc3Aとは、図5に示すように、横軸を抵抗値Rとし、縦軸を補正値RcAとしたときに、同図中の3点で表される。処理部4Aは、この近似式算出処理では、例えば最小二乗法に基づいて、この3点の関係を示す近似式(例えば、各3点を通る曲線を示す式(抵抗値Rを変数として補正値RcAを特定する式))を算出する。これにより、処理部4Aは、この近似式を使用することにより、物理量範囲WA内の任意の抵抗値Rでの補正値RcAを特定することが可能になる。
続いて、処理部4Aは、物理量測定処理を実行する。この物理量測定処理では、処理部4Aは、測定装置1の測定部2に接続された試料11(上記の基準試料と同種であるものの、仕様上の物理量としての抵抗値Rが相違する試料)についての物理量(抵抗値R:後述する抵抗値Rxであるとする)を、操作部3から出力された設定データDsetで規定される測定条件(設定データDsetに含まれる各条件項目の設定値で規定される測定条件)で測定する。
具体的には、処理部4Aは、この設定データDsetに含まれる条件項目のうちの測定用信号Svの周波数を示す周波数データ、測定用信号Svのレベルを示すレベルデータ、および測定用信号SvのDCバイアスを示すバイアスデータを制御データDc1として測定部2の信号生成部2aに出力して、この周波数データで示される周波数で、かつこのレベルデータで示されるレベル(振幅)で、かつこのバイアスデータで示されるDCバイアスが重畳された交流信号(本例では正弦波信号)を生成させる。また、処理部4Aは、この設定データDsetに含まれる条件項目のうちの測定レンジを示すレンジデータに基づいて、電流検出部2bでの測定レンジおよび電圧検出部2cでの測定レンジを特定して、特定した電流検出部2bでの測定レンジを示すレンジデータを制御データDc2として測定部2の電流検出部2bに出力して、このレンジデータで示される測定レンジで試料11に流れる電流I1を検出させると共に、特定した電圧検出部2cでの測定レンジを示すレンジデータを制御データDc3として測定部2の電圧検出部2cに出力して、このレンジデータで示される測定レンジで試料11の両端間電圧V1を検出させる。これにより、測定部2の演算部2dは、電流検出部2bおよび電圧検出部2cでの各レンジデータと、電圧検出部2cから出力される両端間電圧V1の波形データDvと、電流検出部2bから出力される電流I1の波形を示す波形データDiとに基づいて、試料11の物理量(この例では抵抗値R)を算出して、算出した物理量を示す物理量データDpを処理部4Aに出力する。
本例では、処理部4Aは、上記の近似式を使用することにより、物理量範囲WA内の試料11についての仕様上の抵抗値Rxでの補正値RcxAを算出することが可能である。このため、操作者は、この物理量範囲WA内の任意の抵抗値Rの試料11を測定対象とすることが可能である。
これにより、この物理量測定処理において、処理部4Aは、上記の近似式を使用して、測定対象として測定部2に接続されている試料11の仕様上の物理量(抵抗値Rx)での補正値RcxAを算出する。続いて、処理部4Aは、測定部2から取得した物理量データDpで示される実測値(抵抗値R)に対して、この算出した補正値RcxAを適用して、具体的には、実測値(抵抗値R)に補正値RcxAを乗算して、試料11についての最終的な抵抗値Rを算出する。最後に、処理部4Aは、算出した抵抗値Rを示す物理量データDp1を記憶部5に記憶させると共に、出力処理を実行して出力部6に出力する。出力部6は、物理量データDp1で示される最終的な抵抗値Rを画面に表示させる。
また、基準試料と同種であるものの、仕様上の物理量としての抵抗値Rが相違する他の試料11の抵抗値Rを測定する場合には、操作者は、操作部3に対する操作を実行して、操作部3から処理部4Aに対して、変更後の試料11についての仕様上の抵抗値Rを示す物理量データを含む設定データDsetを出力させる。これにより、処理部4Aが上記の物理量測定処理を再度実行することにより、この変更後の抵抗値Rについての測定条件が記憶部5に個別に記憶されていない構成であっても、処理部4Aが変更後の抵抗値Rでの補正値を近似式から算出することができるため、試料11の抵抗値Rを精度良く測定することができる。
このように、この測定装置1Aおよびこの物理量測定方法では、抵抗値R(基準物理量)がR1A,R2A,R3Aである各基準測定対象について測定された各実測値Rpr1A,Rpr2A,Rpr3Aと各基準物理量(各基準測定対象の仕様上の抵抗値R1A,R2A,R3A)とに基づいて、各実測値Rpr1A,Rpr2A,Rpr3Aを対応する基準物理量R1A,R2A,R3Aに補正するための各基準物理量R1A,R2A,R3Aでの補正値Rc1A,Rc2A,Rc3Aを算出する補正値算出処理と、算出した各補正値Rc1A,Rc2A,Rc3Aに基づいて、各基準物理量(抵抗値R1A,R2A,R3A)を含む物理量範囲WA内での任意の物理量(抵抗値R)に対する補正値RcAを特定する近似式を算出する近似式算出処理とを実行し、条件項目の設定値を各実測値Rpr1A,Rpr2A,Rpr3Aを測定したときの設定値と同一にして(測定したときの設定値に揃えて)、仕様上の抵抗値Rが物理量範囲WA内の任意の物理量(抵抗値R)である試料11の抵抗値Rを測定する際に、測定部2で測定された実測値(抵抗値R)に対して、近似式に基づいて特定したこの実測値(抵抗値R)での補正値Rcを適用して試料11の最終的な物理量(抵抗値R)を算出する物理量測定処理を実行する。
したがって、この測定装置1Aおよびこの物理量測定方法によれば、各基準物理量R1A,R2A,R3Aでの補正値Rc1A,Rc2A,Rc3Aを記憶部5に記憶しておくだけで、試料11の物理量(抵抗値R)を物理量範囲WA内で任意に変更したとしても、この新たな測定条件での試料11の物理量(抵抗値R)を正確に測定することができる。すなわち、この測定装置1Aおよびこの物理量測定方法によれば、試料11の物理量を細かく分割して、物理量毎の測定条件を個別に規定して記憶部に記憶する構成とは異なり、記憶部5に記憶させる測定条件の数を必要最小限(本例では3つ)に抑制でき、これに伴い測定条件の各条件項目の設定値を入力する手間も大幅に省くことができるため、測定条件の設定に要する時間の増大と、測定条件のための記憶容量(記憶部5の容量)の増加とを回避することができる。
また、上記の測定装置1,1Aでは、試料11の物理量の一例として抵抗値Rを測定する構成を採用しているが、試料11が抵抗体のときには、インピーダンスZや位相θを物理量として測定する構成を採用することもできるし、試料11がキャパシタのときには、キャパシタンスを物理量として測定する構成を採用することもできる。また、試料11がインダクタのときには、インダクタンスを物理量として測定する構成を採用することもできる。また、上記の測定装置1,1Aでは、近似式の算出に際して、最小二乗法を採用しているが、各基準設定値に対応する物理量を直線で結んで得られる式を近似式とする構成や、y=ax2+bx+cなどの多項式近似を使用して近似式を算出する構成を採用することもできる。また、各測定条件a1〜a3,b1〜b3を構成する条件項目の一例として、図2,4に示すように、信号生成部2aにおける測定用信号Svの周波数、レベルおよびDCバイアスと、電流検出部2bにおける測定レンジとを規定しているが、これに限定されるものではなく、この条件項目の数および種類は任意に規定することができる。
また、図示はしないが、例えば、各周波数f1,f2,f3を含む設定値範囲W内の任意の周波数(一の設定値)fxの測定用信号Svを使用して、仕様上の物理量(抵抗値R)が各抵抗値R1A,R2A,R3Aを含む物理量範囲WA内の任意の物理量(抵抗値Rx:一の物理量)である試料11についての物理量(抵抗値R)を測定する構成においても、補正値に対する近似式を使用する構成を採用することもできる。
この構成を採用する測定装置および測定方法についてその概要を説明する。この構成では、まず、記憶処理を実行して、基準の測定装置で測定された仕様上の物理量(抵抗値R1A)の試料11(基準測定対象)についての各周波数f1,f2,f3における物理量の測定値(基準物理量)と、基準の測定装置で測定された仕様上の物理量(抵抗値R2A)の試料11(基準測定対象)についての各周波数f1,f2,f3における物理量の測定値(基準物理量)と、基準の測定装置で測定された仕様上の物理量(抵抗値R3A)の試料11(基準測定対象)についての各周波数f1,f2,f3における物理量の測定値(基準物理量)とを記憶する。
次いで、実測値測定処理を実行して、仕様上の物理量(抵抗値R1A)の試料11についての各周波数f1,f2,f3における物理量の実測値を測定し、かつ仕様上の物理量(抵抗値R2A)の試料11についての各周波数f1,f2,f3における物理量の実測値を測定し、かつ仕様上の物理量(抵抗値R3A)の試料11についての各周波数f1,f2,f3における物理量の実測値を測定する。
続いて、補正値算出処理(第1補正値算出処理)を実行して、仕様上の物理量(抵抗値R1A)の試料11についての各周波数f1,f2,f3における物理量の実測値に対する補正値(第1補正値)を上記の基準物理量と上記の実測値に基づいて算出し、かつ仕様上の物理量(抵抗値R2A)の試料11についての各周波数f1,f2,f3における物理量の実測値に対する補正値(第1補正値)を上記の基準物理量と上記の実測値に基づいて算出し、かつ仕様上の物理量(抵抗値R3A)の試料11についての各周波数f1,f2,f3における物理量の実測値に対する補正値(第1補正値)を上記の基準物理量と上記の実測値に基づいて算出する。
次いで、近似式算出処理(第1近似式算出処理)において、仕様上の物理量(抵抗値R1A)の試料11での各周波数f1,f2,f3における補正値(第1補正値)に基づいて、仕様上の物理量(抵抗値R1A)での設定値範囲W内の任意の周波数fと補正値(第1補正値)との関係を示す近似式(第1近似式)を算出し、かつ仕様上の物理量(抵抗値R2A)の試料11での各周波数f1,f2,f3における補正値(第1補正値)に基づいて、仕様上の物理量(抵抗値R2A)での設定値範囲W内の任意の周波数fと補正値(第1補正値)との関係を示す近似式(第1近似式)を算出し、かつ仕様上の物理量(抵抗値R3A)の試料11での各周波数f1,f2,f3における補正値(第1補正値)に基づいて、仕様上の物理量(抵抗値R3A)での設定値範囲W内の任意の周波数fと補正値(第1補正値)との関係を示す近似式(第1近似式)を算出する。続いて、これらの近似式から、仕様上の物理量(抵抗値R1A)での周波数fxにおける補正値(第1補正値)と、仕様上の物理量(抵抗値R2A)での周波数fxにおける補正値(第1補正値)と、仕様上の物理量(抵抗値R3A)での周波数fxにおける補正値(第1補正値)とをそれぞれ第2補正値として算出する(第2補正値算出処理)。次いで、このようにして算出した各仕様上の物理量(抵抗値R1A,R2A,R3A)での周波数fxにおける補正値(第2補正値)に基づいて、周波数fxでの物理量範囲WA内の任意の物理量(抵抗値R)と補正値(第2補正値)との関係を示す近似式(第2近似式)を算出し(第2近似式算出処理)、この算出した近似式(第2近似式)から、物理量(抵抗値Rx)での補正値(第2補正値)を算出する。このようにして最終的に算出された補正値(第2補正値)は、測定用信号Svの周波数fを周波数fxとして、仕様上の物理量(抵抗値R)が抵抗値Rxである試料11に対する補正値になる。
続いて、物理量測定処理を実行して、周波数fxの測定用信号Svを使用して、仕様上の物理量(抵抗値R)が抵抗値Rxである試料11についての物理量(抵抗値R)を測定し、測定された測定値(実測値)に対して、上記の近似式算出処理(第2近似式算出処理)において最終的に算出した補正値(第2補正値)を適用する。具体的には、実測値(抵抗値R)に補正値(第2補正値)を乗算する。これにより、試料11の最終的な物理量(抵抗値R)を算出することができる。