JP6087454B2 - 研磨用ガラスレンズブランク、その製造方法および光学レンズの製造方法 - Google Patents

研磨用ガラスレンズブランク、その製造方法および光学レンズの製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、研磨用ガラスレンズブランク、その製造方法および光学レンズの製造方法に関する。
レンズの製造方法として、次のような方法が知られている。すなわち、熔融ガラスを型に流し込んで角状または板状のガラスブロックを作製し、次にこのガラスブロックを機械加工で切り出して細分化してカットピースをつくる。次いで、各カットピースの重量を均等化するとともに表面に離型剤を付着し易くするために粗研磨加工(バレル研磨)を行なう。その後、粗研磨加工したカットピースを再加熱して軟化させ、軟化したガラスをプレス成形してレンズ形状に近似した形状のレンズブランクを成形する。最後に、そのレンズブランクを研削・研磨してレンズを製造する方法である。
この方法によれば、複数のガラス種の板状ガラスブロックを製作し保管しておけば、必要に応じて板状ガラスブロックを所望の数量・体積に切り出して、そのカットピースをプレスできるので、多品種少量生産には適している。しかしながら、この方法では、カットピースをプレス加工した後のレンズブランクの表面には、欠陥含有層が60〜500μmの厚みで形成される。欠陥含有層は、粗研磨加工時に生じたクラックや加工液と接触したことによるガラス成分が変質した部分、あるいは軟化時からプレス成形時に発生する結晶化部分を含む。さらに、カットピースを軟化する際に、角部がガラス内部に折れ込む現象が生じ、その折れ込み量が300μm以上にも及び、これが欠陥含有層として深部にまで生じることがある。
このような欠陥含有層(折れ込み部を含む。)がガラスブランクの表面に形成されると、その後の工程において、欠陥含有層を除去するとともに凹凸のない平滑な面を有するレンズを製造しようとした場合に、500μm以上の研削および研磨を行なう必要があり、研削および研磨時間が長くなると共に、材料の無駄が生じている。
また、最近では、下記の特許文献1(特許第3806288号公報)に示すように、下記に示す工程で研磨用ガラスレンズブランクを製造する方法が提案されている。すなわち、この方法では、ノズルから供給される熔融ガラスを成形型で受けて成形してガラス塊を得る工程と、前記ガラス塊の表面を粗面研磨加工する工程と、前記ガラス塊の表面に粉末状の離型剤を形成する工程と、前記ガラス塊を再加熱してプレス成形する工程とを有する。
この方法では、ガラス塊の表面において、カットピースのような角張った部分の発生を抑えられるので、次工程の再加熱工程において折れ込み部を生じることなく成形を行なうことができる。しかしながら、この方法においても、上記の製法と同様に60〜150μm程度の欠陥含有層が形成される。なお、この方法は、多数のガラス塊を製造し、在庫として保管できることから、注文に応じて、同じ形状の複数のガラス塊から、異なった成形面を有する複数の成形型を用いてプレス成形することで、多品種生産が可能になる。
いずれの従来の方法でも、プレス成形後の研磨用ガラスレンズブランクを研削および研磨してレンズにする場合に、研削および研磨に要する加工時間が、光学レンズの全体工程の約半分程度を占めるため、加工時間の短縮が求められていた。なお、研磨用ガラスレンズブランクの表面に存在する欠陥含有層の厚みを小さくすれば、研削および研磨に要する加工時間を短縮することができることが予想されるが、従来の方法では、欠陥含有層の厚みが50μm以下に薄い研磨用ガラスレンズブランクは実現できていなかった。特に一眼レフなどに用いられる中大口径のレンズの基になる研磨用ガラスレンズブランクにおいて、従来の方法では、欠陥含有層の厚みが50μm以下に薄い研磨用ガラスレンズブランクを製造することは不可能と考えられていた。
特許第3806288号公報
本発明は、このような実状に鑑みてなされ、その目的は、欠陥含有層の厚みを最小限に抑えて、プレス成形後の研磨用ガラスレンズブランクの研削および研磨に要する加工時間を短縮することができる研磨用ガラスレンズブランク、その製造方法および光学レンズの製造方法を提供することである。
本発明者は、プレス成形後の研磨用ガラスレンズブランクの研削および研磨に要する加工時間を短縮することについて鋭意検討した結果、従来の常識に囚われない方法により得られる研磨用ガラスレンズブランクでは、表層の全面に形成される欠陥含有層の厚みが50μm以下となることを初めて見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明に係る研磨用ガラスレンズブランクは、少なくとも主表面がプレス成形面であって、主表面に形成される欠陥含有層の厚みが50μm以下であることを特徴とする。
本発明に係る研磨用ガラスレンズブランクでは、欠陥含有層の厚みが50μm以下であることから、この研磨用ガラスレンズブランクに対して、球面研削(創成研削)および研磨を行ない、光学レンズを得る際の研削および研磨に要する加工時間を、極端に短くすることができる。
たとえば従来のカットピース工法により得られる研磨用ガラスレンズブランクに比較して、本発明のレンズブランクでは、光学レンズを得る際の研削および研磨に要する加工時間を、略半分以下に短縮することができる。また、本発明の研磨用ガラスレンズブランクでは、特許文献1(特許第3806288号公報)に示す方法により得られるレンズブランクに比較して、光学レンズを得る際の研削および研磨に要する加工時間を、略半分以下に短縮することができる。
また、本発明の研磨用ガラスレンズブランクでは、欠陥含有層の厚みが50μm以下であることから、光学レンズを得る際の研削および研磨時における研削屑および研磨屑を必要最小限にすることが可能になり、材料の無駄もなくせる。加えて、加工量が少ないために、光学レンズの形状精度(肉厚精度を含む)も向上する。
本発明の研磨用ガラスレンズブランクの製造方法は、特に限定されないが、好ましくは、ノズルから供給される熔融ガラスをガラス塊成形用の成形型で受けて成形してガラス塊を得る工程と、ガラス塊を再加熱し、プレス成形用の成形型でプレス成形する工程とを有する。
好ましくは、ガラス塊を得てからプレス成形するまでの工程において、ガラス塊の表面を粗面化処理する工程(バレル研磨工程など)を有さない。
好ましくは、ガラス塊を得てからプレス成形するまでの工程において、ガラス塊を研削または研磨する工程を有さない。
好ましくは、重量が5グラム以上、さらに好ましくは10グラム以上である研磨用ガラスレンズブランクの場合に、本発明の作用効果が大きい。本発明の研磨用ガラスレンズブランクは、特に中口径および大口径のガラスレンズ(たとえば、レンズ直径が30mm以上)を成形するのに適している。
本発明に係る光学レンズの製造方法は、上記に記載の研磨用ガラスレンズブランクに対して、球面研削(創成研削)加工(以下、CG(Curve Generating)加工ともいう。)およびスムージング(Smoothing)加工を行ない、スムージング加工では、金属ボンドの砥石を用いることなく樹脂ボンドの砥石を用いる加工を行ない、光学レンズを得ることを特徴とする。
本発明の別の観点に係る研磨用ガラスレンズブランクの製造方法は、ノズルから供給される熔融ガラスをガラス塊成形用の成形型で受けて成形してガラス塊を得る工程と、ガラス塊の表面状態を維持しつつ、大気雰囲気下で10〜10dPa・sの粘度に再加熱する再加熱工程と、再加熱工程で再加熱したガラス塊をプレス成形用の成形型で大気雰囲気下においてプレス成形して、少なくとも主表面にプレス成形面を有するガラス成形品を得るプレス工程とを備え、プレス成形工程によって得られたガラス成形品の主表面に形成される欠陥含有層の厚みが50μm以下である。
好ましくは、離型剤付着工程において、ガラス塊を配置する保持用凹部に離型剤を付着させた後、保持用凹部にガラス塊を配置し、さらにガラス塊に離型剤を付着するように構成する。このように構成することで、ガラス塊を加熱炉で軟化させる際に、ガラス塊の粘度が低下してガラス塊の高さが低くなり直径が広がっていくが、ガラス塊上の離型剤がガラス塊と保持用凹部との間に回り込み、離型剤がガラス塊を包み込む。したがって、特許文献1(特許第3806288号公報)のようにガラス塊の表面を粗面化加工することなく十分な離型効果を奏することができるため、欠陥含有層の厚みを最小限に抑え、その後の研削および研磨に要する加工時間を短縮できる。
本発明によれば、光学レンズを得る際の研削および研磨に要する加工時間を、極端に短くすることができる研磨用ガラスレンズブランクを提供することができる。
図1Aは、本発明の一実施形態に係る研磨用ガラスレンズブランクの形状の一例を示す側面図である。 図1Bは、図1Aに示す研磨用ガラスレンズブランクの表面の一部断面で、研削工程および研磨工程により除去する部分を模式的に示した概略図である。 図2Aは、図1Aに示すブランクを製造する工程を示すフローチャート図である。 図2Bは、図1Aに示すブランクから光学レンズを製造する工程を示すフローチャート図である。 図3は、図2Aに示すガラス塊形成工程の一例を示す概略図である。 図4は、図2Aに示す離型剤塗布工程の一例を示す概略図である。 図5は、図2Aに示すプレス工程の一例を示す概略図である。 図6は、実施例および比較例に係る輝点観察の結果を示す図である。
以下、本発明を、図面に示す実施形態に基づき説明する。なお、図中同一または相当部分には同一の符号を付してその説明は繰り返さない。
<研磨用ガラスレンズブランク>
図1Aは、本発明の一実施形態に係る研磨用ガラスレンズブランクの形状の一例を示す側面図である。図1Bは、図1Aに示す研磨用ガラスレンズブランクの表面の一部断面で、研削工程および研磨工程により除去する部分を模式的に示した概略図である。
図1Aに示すように、本発明の一実施形態に係る研磨用ガラスレンズブランク2は、主表面となる略球面状のプレス成形面2A、2Bを有する。このプレス成形面2A、2Bは、上型74および下型72の成形面形状が転写された面である(図5参照)。両面(2A,2B)共に凸形状の曲面となっているが、本発明のレンズブランクの形状は特に限定されず、いずれか一方または双方が凹形状の曲面もしくは平面であっても良い。なお、研磨用ガラスレンズブランク2の側周面2Cは、胴型73の内周面で成形されるプレス成形面であっても良いし、胴型73に当接しない自由表面であっても良い(図5参照)。
この研磨用ガラスレンズブランク2は、後述する研削加工および研磨加工を施されて光学レンズになる。本実施形態のレンズブランク2の主表面(2A,2B)には、図1Bに示すように、欠陥含有層2aの厚みt0が50μm以下、好ましくは30μm以下、より好ましくは20μm以下、さらに好ましくは15μm以下である。本実施形態では、後述する製造方法によりガラスレンズブランク2が製造されることから、欠陥含有層2aは、少なくとも1μm以上の厚みを有することが予想されるが、従来の製造方法で得られたものに比較して、欠陥含有層2aの厚みt0が極端に薄い。
本実施形態において、欠陥含有層2aとは、ガラスレンズブランク2のバルク部分2b(光学レンズとなる部分)に比較して、反射光の輝点を形成する欠陥を有する層である。この欠陥含有層2aを除去することで、反射光の輝点を形成する欠陥がなくなる。反射光の輝点を形成する欠陥の具体例としては、たとえば後述するブランクの製造方法における再加熱工程およびプレス工程より生じる結晶化部分などが上げられる。ただし、本実施形態におけるガラスレンズブランク2には、カットピース由来の折れ込み部が存在していない。
ガラスレンズブランク2のサイズや重量について特に制限はないが、重量が5グラム以上、さらに好ましくは10グラム以上である研磨用ガラスレンズブランクの場合に、本発明の作用効果が大きい。本発明の研磨用ガラスレンズブランクは、特に中口径および大口径のガラスレンズを成形するのに適している。その理由としては、中口径および大口径のガラスレンズは、小径のガラスレンズに比べて研削および研磨に要する加工時間が長くなるところ、本発明によればこの加工時間を短縮でき、ひいては材料ロスを低減できるので、本発明による効果を一層発揮できるからである。
本実施形態のガラスレンズブランク2は、後述する製造方法により、たとえば一度に1000個以上に多数製造されるが、その重量ばらつきは、±1.0%以下、場合によっては±0.5%以下である。たとえば、後述するガラス塊形成工程において、ノズルから一定速度で流出する熔融ガラスの切断タイミングや粘度等を制御する成形装置の動作精度を向上させることで、重量ばらつきを少なくできる。
また、本実施形態に係る研磨用ガラスレンズブランク2は、その主表面(2A,2B)の表面粗さ(Rz)が、好ましくは8μm以上、より好ましく10μm以上であり、さらに好ましくは12μm以上、一層好ましくは20μm以上、より一層好ましくは22μm以上、さらに一層好ましくは25μm以上である。このような本実施形態に係るガラスレンズブランク2は、主表面(被加工面)に適度な凹凸を有することにより、CG加工等の研削加工に際し、比較的砥粒の粒径が小さい砥石を用いても良好な加工を行なうことができ、その後の加工工程(研削および研磨加工)における加工量および加工時間を、さらに低減できる。
通常、CG加工などの研削処理では、加工後のレンズブランクの表面に、新たに無数の微小クラックが生じる。このような微小クラックは、砥粒の粒径が大きい砥石ほど、ガラスの深部に及び易い傾向にあり、極端に深いクラックは後工程(SM加工や研磨加工)で除去するのが困難となる。これに対し、比較的砥粒の粒径が小さい砥石を用いる場合には、研削加工により発生する微小クラックが、極端に深くならず(たとえば、表面から15μm以下に留まり)、後工程で微小クラックを除去し易い。
そのため、加工量や加工時間を低減する観点からも、比較的砥粒の粒径が小さい砥石でCG加工を開始できることが望ましい。しかし、粒径が小さい砥石で加工する場合、被加工面が平滑であるほど、砥石が滑り易く良好な加工が行なえない傾向にある。したがって、平滑な成形面で作製されたレンズブランクの場合には、粒径が小さい砥石からCG加工を開始することは困難であり、一度粒径が大きい砥石で表面を加工した後、適度に凹凸が形成された加工面を、砥粒の粒径の小さい砥石によって加工するのが一般的である。
これに対し、本実施形態に係る研磨用ガラスレンズブランクが、被加工面に上述のような適度な凹凸を有している場合ため、比較的粒径が小さい砥石を用いることができる。すなわち、被加工面が適度な凹凸を有していることにより、比較的粒径が小さい砥石であっても砥石の滑りを防止し、CG加工を開始することができる。その結果、CG加工での微小クラックの影響を低減でき、その後の工程(研削および研磨加工)における加工量および加工時間を大幅に低減できる。
ただし、研磨用ガラスレンズブランクの表面粗さ(Rz)が大きすぎると、研削・研磨加工の加工量および加工時間が増す傾向にある。たとえば、表面粗さ(Rz)が50μm超のレンズブランクを加工する場合、最初の研削加工で比較的粒度の小さい砥石(たとえば#400〜#800)を用いると砥石の目詰まりが生じて加工が進まなくなるので、比較的粒度の大きい砥石(#400未満)で研削することになる。粒度の大きい砥石で研削加工を行なうと、後述する砥石の粒度と微小クラックの関係についての検証結果のとおり、研削加工に伴う微小クラックがレンズブランクの内部深くにまで生じてしまい、結果的に加工時間の短縮を阻害する。
したがって、本実施形態に係る研磨用ガラスレンズブランク2の主表面(2A,2B)の表面粗さ(Rz)は、好ましくは50μm以下、より好ましくは40μm以下、さらに好ましくは30μm以下である。
また、このような研磨用ガラスレンズブランク2の主表面(2A,2B)表面粗さ(Rz)の好ましい範囲としては、8μm〜50μmであり、より好ましくは10μm〜50μmであり、さらに好ましくは12μm〜40μmであり、一層好ましくは20μm〜40μmであり、より一層好ましくは20μm〜35μmである。
なお、本実施形態において、表面粗さ(Rz)とは、2001年JIS規格B0601に基づく、最大高さ(1982年JIS規格B0601に基づくRmaxと同義)である。このRzは、表面の凹凸の最も低い地点と最も高い地点との差である。表面粗さ(Rz)の測定は、JIS規格に基づく手法で、公知の測定装置により測定することができる。
また、本実施形態において、研磨用ガラスレンズブランク2の主表面(2A,2B)は適度な凹凸(たとえば、8μm〜50μm)を有し、かつ主表面から内部側に50μm以下の厚さの欠陥含有層が形成されている。欠陥含有層の厚みは、研磨用ガラスレンズブランク2の表面にある本来の欠陥含有層の厚みに表面粗さ(Rz)を足した値である。
本実施形態のガラスレンズブランク2の硝材としては、特に限定されないが、たとえば以下に示すガラスが用いられる。
本実施形態において好ましく用いられるガラスとしては、(1)ガラス成分として少なくともP、OおよびFを含むフツリン酸塩系ガラス、(2)ガラス成分中に、B、Laが比較的多く含まれているホウ酸ランタン系ガラス、(3)ガラス成分中に、SiO、TiOが、比較的多く含まれているSiO−TiO系ガラス、(4)Pを主成分としてNb、Ti、Bi、およびWからなる易還元成分を含有するリン酸ニオブ系光学ガラスなどを挙げることができる。
次に、図2A〜図5を用いて、図1Aに示す研磨用ガラスレンズブランク2の製造方法の具体例を説明する。
図2Aは、図1Aに示すブランクを製造する工程を示すフローチャート図である。図3は、図2Aに示すガラス塊形成工程の一例を示す概略図である。図2Aに示すように、ステップS1にて、ガラス塊を形成する。ガラス塊を形成するために、図3に示すように、ガラス塊受け皿30の上面に形成してある凹面上の受け部32に対して、熔解ガラスノズル40から熔融ガラスを滴下して受け部32の内部にガラス塊20を形成する。
受け皿30は、予め所定温度に加熱してある。受け皿30の温度としては、たとえば250〜500℃である。また、ノズル40は、所定温度に温度制御してある。ノズル40の温度としては、ガラスの材料にもよるが、たとえば700〜1200℃であり、ノズルから滴下されるガラスの粘性が、2〜30dPa・sの範囲にある。
ガラス塊20の形状の例としては、球状またはその近似形状、扁平な回転楕円形状、両凸曲面形状、片凸片凹曲面形状等が挙げられるが、特に限定されない。
なお、ガラス塊形成工程の成形型としての受け部32の表面粗さは、たとえば、Rmaxが10〜50μmとすることができるが、特に限定されない。ここで、Rmaxとは、1982年JIS規格B0601に基づく最大高さであり、上述のRzとRmaxは同義である。
ガラス塊形成工程の熔融ガラスを、前述した所定の粘性にすることにより、重量ばらつきの小さい、多数のガラス塊を高い生産性で、製造することができる。熔融ガラスの粘度を前述した範囲にすることにより、降下切断が容易に行なうことができる。降下切断法は、ガラス塊受け皿30を上昇させノズル40に接近させた状態で、ノズル40より流出した熔融ガラスの先端部を受け、次いで、所定のタイミングで受け皿30を、熔融ガラスの流下速度よりも速い速度で急速に降下させて所定重量の熔融ガラスをノズル40から分離して受け皿30で受け取るものである。このような切断方法によれば、切断刃を用いなくても所定重量の熔融ガラスを受け皿30に受けることが容易にできる。なお、熔融ガラスを受け皿30で受けた後、そのまま冷却しても良いし、熔融ガラスを浮上または略浮上させた状態で冷却しても良い。
冷却されたガラス塊20は、ガラス転移点温度Tgより下の温度になり、取り出位置まで移動したら、受け皿30から取り出される。このようにして、たとえば5gのガラス塊20を1分間に15個以上の生産性でガラス塊を製作することができる。
ガラス塊形成工程においては、熔融ガラスがその粘性と切断条件とによって重量管理がされていることが好ましい。熔融ガラスの粘性を制御することにより、熔融ガラスの流出速度を決定し、熔融ガラスの切断条件(切断速度、切断のタイミング(間隔)、切断の方法(自然滴下、強制切断(降下切断等)、降下切断の降下速度))の決定によって切断量を決定することができる。このため、受け皿30に供給する熔融ガラスの重量ばらつきを抑制することができる。本実施形態では、重量ばらつきは、±1%以内、好ましくは±0.5%以内とすることができる。
また、ガラス塊形成工程では、連続して供給される熔融ガラスを、順次、所定温度に加熱され且つ連続して供給されるガラス塊成形用の受け皿30で受け取り、成形してガラス塊を形成するようにすることによって、ガラス塊20を高い生産性で製造することができる。特に、複数のガラス塊成形用の受け皿30を連続してノズルの下方に供給して、ガラス塊20を製造するようにすれば、その効果が顕著になる。
さらに本実施形態では、熔融ガラスを降下切断できるように、ノズル40に対して接近、離間するようにガラス塊成形用の受け皿30を駆動制御するようにしても良い。そのように制御することにより、切断量を容易に制御することができる。さらに、熔融ガラスの粘性管理で、熔融ガラスの流出速度を決定することができ、また、降下切断の条件を制御することによって、切断量を決定することができるので、ガラス塊の重量ばらつきを抑制できる。また本実施形態では、切断刃を用いないでガラス塊20を形成するので、ガラス塊の表面に切断時の痕跡(シアマーク)が残ることがない。
また、熔融ガラスの粘性と受け皿30の送り速度などの制御によって、ガラス塊の重量ばらつきを抑制できる。つまり、熔融ガラスの粘性を制御することにより、ノズルから流出する熔融ガラスの流出速度を決定することができ、受け皿30の送り速度を制御することにより、熔融ガラスの切断量を決定することができる。
なお、熔融ガラスの切断方法としては、上記のような降下切断法に限定されず、自然滴下法や切断刃を用いた切断方法を採用することもできる。
本実施形態では、次工程に最終レンズ製品の研磨工程を配していることを考慮して、ガラス塊形成工程で得られたガラス塊には、研磨工程で除去可能なシワ、脈理等の欠陥を表面に有していても良い。
図2Aに示すように、ガラス塊を形成するステップS1の後に、ステップS2では、離型剤塗布(付着)工程が行なわれる。この、離型剤塗布(付着)工程では、後述する再加熱工程においてガラス塊を軟化させるために用いる軟化用皿とガラスとの融着を防止するために、両者の間に離型剤を介在させる。図4は、図2Aに示す離型剤塗布(付着)工程の一例を示す概略図である。離型剤塗布(付着)工程では、図4に示すように、複数の保持用凹部52が形成してある軟化用皿50の搬送方向Xに沿って搬送され、搬送方向Xに沿って第1の位置で、第1の離型剤ノズル54aから空の保持用凹部52に向けて離型剤を噴霧して保持用凹部52の凹面全体を離型剤60aで敷き詰める。なお、軟化用皿50は、耐熱性を有するセラミック、金属、レンガ等から構成することがでる。また、離型剤60a、60bは軟化用皿50とガラスとの融着を防止する。
離型剤60aは、保持用凹部52の凹面からはみ出すように塗布されることが好ましい。離型剤60aの塗布量(塗布密度)は、特に限定されない。
離型剤60aとしては、窒化ホウ素、アルミナ、酸化ケイ素、酸化マグネシウムなどの粉末状離型剤が用いられ、離型剤の平均粒径は、特に限定されないが、好ましくは1〜20μmである。離型剤60aが敷き詰められた保持用凹部52は、搬送方向Xに搬送され、第1の離型剤ノズル54aと第2の離型剤ノズル54bとの間で、塗布された離型剤60aの上に、ガラス塊20が供給される。
その後に、第2の離型剤ノズル54bが存在する第2の位置で、ノズル54bから離型剤60bがガラス塊20の上面全体に向けて噴霧して塗布(付着)される。離型剤60bは、前述した離型剤60bと同じであることが好ましいが、異なる種類の離型剤であっても、異なる平均粒径の離型剤であっても良い。このノズル54bからの離型剤の塗布量は、ノズル54aからの離型剤の塗布量と同じであることが好ましいが、異なっていても良い。なお、軟化用皿50の保持用凹部52に離型剤60aを塗布(付着)した場合、保持用凹部52に供給されたガラス塊20へ離型剤60bを塗布(付着)させることを省略しても良い。
図2Aに示すように、ステップS2の次には、ステップS3にて、再加熱工程が行なわれる。再加熱工程では、図4に示す離型剤60a,60bが塗布されたガラス塊20を載せた軟化用皿50が、搬送方向Xに沿って、図示省略してある加熱炉内に送り込まれる。加熱炉の内部では、ガラス塊20が再加熱される。
加熱炉では、離型剤が塗布されたガラス塊20は、ガラス塊20を構成するガラス材の軟化点以上の温度に加熱される。たとえば500〜1000℃の温度に設定された加熱炉で加熱される。この再加熱により、ガラス塊20は軟化して、その粘度は、好ましくは10〜10dPa・sとなる。なお、再加熱工程は、大気雰囲気下で行なうことができる。
本実施形態では、ガラス塊20を加熱炉で軟化させる際に、ガラス塊20の粘度が低下してガラス塊20の高さが低くなり直径が広がっていくが、ガラス塊20上の離型剤60bがガラス塊20と保持用凹部52との間に回り込み、従来と比較して少ない離型剤60a,60bでガラス塊20を包み込むため、ガラス塊の表面を粗面化加工することなく十分な離型効果を奏することができる。
すなわち、本実施形態では、好ましくは、ガラス塊を得てからプレス成形するまでの工程において、ガラス塊の表面を粗面化処理する工程(バレル研磨工程など)を有さない。さらに、本実施形態では、好ましくは、ガラス塊20を得てからプレス成形するまでの工程において、ガラス塊を研削または研磨する工程を有さない。
図2Aに示すように、ステップS3の次には、ステップS4にて、プレス工程が行なわれる。図5は、図2Aに示すプレス工程の一例を示す概略図である。プレス工程では、図5に示す金型装置70によりガラス塊20がプレス成形される。ガラス塊20は、再加熱工程で所定の粘度(10〜10dPa・s)に軟化した状態で、図5に示すプレス装置70の胴型73の内部で下型72の上に移される。上型74および下型72には予め離型剤が塗布されている。
また、上型74および下型72は、400〜800℃に予め加熱されている。下型72にガラス塊20が供給されたのち、下型72に対して、上型74が相対接近して、ガラス塊20を上型74と下型73との間に挟み込みプレス加工する。なお、プレス成形は、大気雰囲気下で行なうことができる。
プレス成形は、上述した再加熱により設定された粘性にガラス塊20を再加熱(軟化)して実行するので、金型の形状に基づいて最終ガラス製品に近い形状で製造することができる。このプレス工程により、図1Aに示す研磨用ガラスレンズブランク2が得られる。
なお、プレス工程における単位面積当たりのプレス荷重(以下、単に「プレス荷重」という)は、ガラス塊の組成や外径、あるいは目的とするガラスレンズブランク2の形状等により異なるが、5〜17MPa(51〜173kgf/cm)であることが望ましい。プレス荷重が上記範囲に入らないと、成形後のガラスレンズブランク2の形状精度が劣化することがある。本実施形態において、ガラスレンズブランク2の形状精度とは、曲率半径や中心肉厚の精度を意味する。
なお、図5では単一の金型装置70を図示してあるが、実際には、金型装置70は複数あり、また成形面の形状は、図示する例に限定されず、両凸レンズ、両凹面レンズ、平凸レンズ、平凹レンズ、凸メニスカスレンズ、凹メニスカスレンズの各形状などに対応したものが用いられる。
また、プレス成形は比較的に高温で行なわれるため、ガラス塊20と型72,74との融着を防止するために下型72および/または上型74の成形面には前述した離型剤を塗布(付着)することが望ましい。
また、本実施形態に係る研磨用ガラスレンズブランク2をプレス成形する際に用いる成形型において、下型72および上型74の少なくともいずれか一方の成形面は、好ましくは表面粗さ(Rz)が10μm超であり、より好ましく12μm以上、さらに好ましくは20μm以上である。また、さらに好ましくは、下型72および上型74の両方の成形面が、10μm超の表面粗さ(Rz)を有していることが望ましい。
このような成形型(成形面に適度な凹凸を有する成形型)により軟化したガラス塊20をプレス成形することで、プレス成形後の研磨用ガラスレンズブランク2の表面にも成形面の表面粗さに近似した表面粗さが転写される。すなわち、上記のような成形型によれば、主表面に適度な凹凸(好ましくは8μm以上の表面粗さ(Rz))を有する研磨用ガラスレンズブランクを得ることができる。
なお、このような本実施形態において、これらの成形面の表面粗さ(Rz)の上限は、特に限定されるものではないが、好ましくは50μm以下、より好ましくは40μm以下、さらに好ましくは35μm以下、一層好ましくは30μm以下である。さらに、成形面の表面粗さ(Rz)の好ましい範囲は、10μm超〜50μmであり、より好ましくは12μm〜40μmであり、さらに好ましくは20μm〜40μmであり、一層好ましくは20μm〜35μmである。
また、このような成形面に適度な凹凸を有する成形型は、種々の方法により準備することができる。たとえば、少なくとも上型および下型を有する成形型において、成形面に対応する上型および/または下型の基材表面をブラスト加工や逆エッチング加工、切削工具を用いた機械加工等により粗面化する方法や、基材表面上に被膜を形成し、被膜表面が適度な凹凸を有するように加工する方法などが挙げられる。
また、成形型の基材表面に被膜を形成する場合には、被膜を構成する材料に応じて、塗布法や、蒸着法、めっき法等を適宜選択でき、これらの方法により所定の膜厚および表面粗さを有する被膜を形成できる。また、被膜の表面は、予め適度な凹凸となるように成膜しても良いし、一旦平滑な表面となるよう成膜し、その後ブラスト加工や逆エッチング加工等により、適度な凹凸を有する成形面に加工しても良い。
さらに、このような被膜としては、たとえば、酸化物セラミックを主成分とする膜(酸化物セラミック膜)が好ましい。酸化物セラミックとしては、酸化物セラミックとしては、たとえば、シリカ、アルミナ、ジルコニア、チタニア、マグネシア、およびカルシアからなる群から選択される少なくとも1種が挙げられる。中でも耐久性の観点でシリカが好ましい。なお、酸化物セラミックは、1種類のみで用いても良いし、2種類以上組み合わせて用いても良い。
<光学レンズ>
本実施形態に係る光学レンズ(以下、単に「レンズ」ということがある。)は、本実施形態によって得られた研磨用ガラスレンズブランク(以下、単に「レンズブランク」ということがある。)を、研削および研磨することにより形成される。
以下、図1Bおよび図2Bを参照して、図1Aに示すレンズブランク2の研削および研磨工程について説明するが、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施できる。
図2Bに示すステップS10では、まず、カーブジェネレータ(Curve Generator)を用いて、図1Aに示すレンズブランク2の主表面の球面研削工程(CG加工)が行なわれる。なお、CG加工領域10の厚みは、特に限定されないが、好ましくは50〜200μmである。CG加工に要する加工時間は、特に限定されないが、40〜90秒程度である。
CG加工では、図1Bに示すように、レンズブランク2の主面の表面における欠陥含有層2aを含むCG加工領域10(CG加工代)が研削される。CG加工は、たとえば、ダイヤモンド粒子からなる砥粒の粒径が20〜60μm(粒度表示で#800〜#400)の砥粒部を有する砥石を用いて、研削液を供給しながら研削する。
このようなCG加工により、レンズブランク2の主表面は所定の曲率を有する球面に近い形状に成形される。
また、このようなCG加工では、レンズブランクの主表面に形成された表面欠陥の除去も行なう。通常、レンズブランクの主表面に形成された表面欠陥が深部にまで及んでいる(すなわち、主表面における欠陥含有層が厚い)場合には、研削・研磨後のレンズに、表面欠陥を残さないように、CG加工の段階で主表面を比較的多量に削り取る必要がある。
本実施形態に係るレンズブランク2では、主表面2Aに形成される欠陥含有層2aの厚みが50μm以下と少ない(主表面2Bにおいて同じ)ため、CG加工の段階で、主表面を多量に削る(すなわち、欠陥含有層の大半を取り除く)必要がない。すなわち、CG加工の加工量を大幅に低減しても(ひいては、CG加工を除いても)、その後の研削・研磨の工程を通して、主表面に形成された表面欠陥を十分に除去できる。
このような本実施形態に係るレンズブランク2では、CG加工用砥石として、比較的粒度の細かい砥石を用いることができる。通常、粒度の細かい砥石では、一度に多量な加工は困難であるため、目的とする加工量が多い場合には処理できない。しかし、本実施形態に係るレンズブランク2は、CG加工で目的とする加工量を低減できるため、比較的粒度の細かい砥石であってもCG加工を完了できる。
また、本実施形態に係るレンズブランク2では、比較的粒度の細かい砥石でCG加工を行なうことができるので、CG加工により生じる微小クラックがガラスの深部にまで及ぶのを防止できる。
比較的粒度の細かい砥石を用いる場合には、一度に加工できる量は少ないが、加工により生じる微小クラックも極端に深くならず(たとえば、表面から15μm以下に留まり)、後工程で十分に微小クラックを除去できる。
次に、図2Bに示すように、ステップS11では、精研削工程によるスムージング加工(SM加工)が行なわれる。SM加工は、一段回の加工でも良いが、多段回の加工でも良い。図1Bに示す例では、SM加工を、条件を変えて二回行っている。すなわち、第1回目のSM加工では、図1Bに示す第1のSM加工領域11a(SM加工代)が加工により除去され、第2回目のSM加工では、第2のSM加工領域11bが加工により除去される。
また、本実施形態では、これらのSM加工においては、好ましくは金属ボンドの砥石を用いることなく樹脂ボンド砥石のみを用いる加工を行なう。これにより、本実施形態では、SM加工時にレンズブランクの表面に生じる微小クラックの深さを、極めて浅く抑える
ことができる。
通常、CG加工と同様に、SM加工でも、砥石のベース部や砥粒部と、レンズブランクとが接触することにより、加工したレンズブランクの表面に、新たに無数の微小クラックが発生する。特に、金属ボンド砥石を用いる場合には、SM加工の際に、砥石の金属ベース部がレンズブランクと接触することにより、レンズブランクの表面に数十ミクロン(たとえば、30〜40μm)の微小クラックが発生する。
これに対し、樹脂ボンド砥石を用いる場合には、金属ボンド砥石に比べて、砥石のベース部分とレンズブランクとの接触による衝撃が、格段に低減されるため、SM加工の際に生じる微小クラックの深さを、数ミクロン以下(たとえば、5μm以下)に留めることができる。
このように金属ボンド砥石を用いることなく、樹脂ボンド砥石のみを用いる本実施形態では、SM加工により生じる微小クラックの深さを大幅に低減できる。このような樹脂ボンド砥石としては、ダイヤモンド粒子からなる砥粒の粒径が8〜20μm(粒度表示で#2500〜#1200)の砥石を用いることが好ましい。また、本実施形態では、第2のSM加工で用いる砥石の粗さは、第1のSM加工で用いる砥石の粗さに比較して細かい。
さらに、本実施形態では、第2のSM加工の際に、比較的細かい粒度の樹脂ボンド砥石を用いるため、粒度の大きな砥石を用いる場合に比べて、発生する微小クラックの深さをさらに低減できる。このような本実施形態によれば、後工程(研磨加工)の加工量を10μm以下とすることができる。
CG加工を経たレンズブランクに対して行なわれるSM加工に要する加工時間は、特に限定されないが、トータルで30〜120秒程度である。SM加工領域11a,11bの厚み(SM加工量)は、特に限定されないが、トータルで、好ましくは10〜50μmであり、本実施形態では、第1のSM加工領域11aの厚みの方が、第2のSM加工領域11bの厚みよりも長いが、同じでも短くても良い。
なお、SM加工を行なう際には、一段回あたりの加工量を30μm以下とすることが好ましい。このように一段回あたりのSM加工量を抑えることで、SM加工のみならず研磨加工時間を短縮することができる。加えて、加工後のレンズの形状精度を良好にすることができる。本実施形態において、光学レンズの形状精度とは、曲率半径や中心肉厚の精度を意味する。
次に、図2Bに示すように、ステップS12では、研磨加工が行なわれる。研磨工程では、5μm以下の粒径の研磨砥粒を含む研磨液で表面を研磨して、図1Bに示す研磨領域12(研磨代)を研磨する。研磨領域12の厚みは、好ましくは3〜10μmであり、加工時間は2〜10分程度である。この研磨工程により、光学レンズ本体2bの光学レンズ面2c(主表面)が形成される。
最後に、図2Bに示すステップS13にて芯取り工程が行なわれるが、場合によっては芯取り工程は省略することもできる。芯取り工程では、たとえば光学レンズ本体2bを一対のレンズホルダで挟持して芯出しを行ない、その中心線周りにレンズ本体2bを回転させながら、レンズ本体2bの側周面をダイヤモンド砥石等で真円に研削する加工である。
ここまで、図2Bに示す研削および研磨工程を例に説明してきたが、本実施形態に係るレンズブランク2を用いた光学レンズの製造工程は、このような工程に限定されるものではなく、種々の工程で行なうことができる。
たとえば、本実施形態に係るレンズブランク2では、図2Bに示すステップS10のCG加工を行なわないことも可能である。すなわち、図2Bに示すステップS11のSM加工から、レンズブランク2の加工を開始することもできる。
上述のように、本実施形態に係るレンズブランク2は、主表面2Aに形成される欠陥含有層2aの厚みが50μm以下と少なく(主表面2Bにおいて同じ)、研削・研磨加工により除去すべき主表面の厚みが、そもそも少ない。このような本実施形態に係るレンズブランク2では、欠陥含有層を除去するために多量の加工を行なう必要がなく、SM加工以降の加工処理のみで、十分に表面欠陥層を除去できる。
なお、この場合には、SM加工の際に金属ボンド砥石を用いても良い。なお、金属ボンド砥石を用いた場合には、上述のような微小クラックが深くなる問題があるが、樹脂ボンド砥石に比べて加工量を多く設定できる点で有効である。
このようにして両凸レンズ、両凹レンズ、平凸レンズ、平凹レンズ、凸メニスカスレンズ、凹メニスカスレンズなどの種々の光学レンズを得ることができる。なお、図2Bに示す工程は、図2Aに示す工程とは、別の場所で行なわれても良い。
本実施形態に係る製造方法により得られるレンズブランク2は、欠陥含有層2aの厚みが50μm以下である。そのため、このレンズブランク2に対して、光学レンズを得る際の研削および研磨に要する加工時間を、極端に短くすることができる。
そのため、たとえば従来のカットピース工法により得られるレンズブランクに比較して、本実施形態のレンズブランク2では、光学レンズを得る際の研削および研磨に要する加工時間を、略半分以下に短縮することができる。また、本実施形態の研磨用ガラスレンズブランク2では、特許文献1(特許第3806288号公報)に示す方法により得られるレンズブランクに比較して、光学レンズを得る際の研削および研磨に要する加工時間を、略半分以下に短縮することができる。
また、本実施形態のレンズブランク2では、欠陥含有層2aの厚みが50μm以下であることから、光学レンズを得る際の研削加工および研磨加工時における研削屑および研磨屑を必要最小限にすることが可能になり、材料の無駄もなくせる。加えて、加工量が少ないために、光学レンズの形状精度も向上する。
また、得られたレンズの光学機能面には使用目的に応じて、反射防止膜、全反射膜などをコーティングしても良い。
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内で種々に改変することができる。
たとえば、上記本実施形態では、本発明に係る研磨用ガラスレンズブランクにより光学レンズを作製する際、CG加工後のSM加工において、好ましくは金属ボンド砥石を用いない態様を例示したが、CG加工後のSM加工において金属ボンド砥石を用いることを妨げるものではない。すなわち、本実施形態に係る研磨用ガラスレンズブランクは、従来から行なわれている光学レンズの種々の製造工程および条件にも、好適に用いることができる。
以下、本発明を、さらに詳細な実施例に基づき説明するが、本発明は、これら実施例に限定されない。
(実施例1)
所定の組成となるように原材料を調合、熔解し、得られたフツリン酸塩系の熔融ガラスを、白金合金製の流出パイプより一定スピードで連続的に流下して、流下したガラスをガラス塊成形用の成形型を用いて次々と受けて、ガラス塊を連続的に成形した。ガラスの温度がガラス転移温度以下に下がった時点でガラス塊を成形型から取り出し、ガラス塊を作製した。
次に、再加熱工程で用いる再加熱用装置の軟化用受け皿50に離型剤を塗布した。
その後、得られたガラス塊(直径約25mm、厚さ約5mm、重さ約15g)を、バレル研磨等の予備工程を施すことなく(すなわち、ガラス塊の表面状態を維持しつつ)、離型剤(窒化ホウ素)が塗布された受け皿50上に供給した。受け皿50上に供給されたガラス塊を、受け皿50とともに500〜750℃に設定された加熱炉に投入し、大気雰囲気下で再加熱した。再加熱されたガラス素材は約10dPa・sの粘度に軟化した。
次いで、再加熱により軟化したガラス塊をプレス成形用の成形型で大気雰囲気下においてプレス成形して、両面凸形状のレンズブランクA(直径40mm、厚さ3mm、重さ15g)を100個作製した。
なお、成形型の成形面には予め離型剤を塗布しておき、500℃の温度に加熱した成形型を用いて、8〜8.5MPa(81〜87kgf/cm)のプレス荷重でプレス成形した。
また、成形型としては、成形面にコーティング剤(シリカを主成分とする酸化物セラミック)を成膜したものを用いた。このときの、成形型の成形面の表面粗さ(Rz)は、13〜20μmであり、これにより得られたレンズブランクAの表面粗さ(Rz)は、12〜30μmであった。なお、成形面の表面粗さ(Rz)は、繰り返しプレス工程を行なったことに伴って、成形面の表面の凹凸が徐々に摩耗したことによりばらつきを生じている。
ここで、各表面粗さ(Rz)の測定は、ミツトヨ社製フォームトレーサーCS3000を使用し、JIS規格B0601に基づいて行なった。また、各表面粗さは、所定数量(100個)のレンズブランクを作製していく中で生じる、ばらつきを含む数値範囲である。
(比較例1)
比較例1では、実施例1と同様の方法にて成形されたガラス塊(直径約25mm、厚さ約6mm、重さ約18g)にバレル研磨を施して、ガラス塊の表面を荒らして離型剤を塗布し易くするとともに目的とするレンズブランクの重量に等しくなるよう重量調整を行なった。なお、この工程中、アニール処理が十分施されたガラスは破損することはなかった。また、このような予備工程(バレル研磨)を経たガラス塊の表面は粗ずり面であった。
ここで、バレル研磨は、研磨容器の中に、ガラス塊とともに粒子状の研磨剤とコンパウンドと水を入れて、研磨容器を回転・上下運動させることにより研磨を行なう方法であり、周知のバレル研磨法により行なわれた。
次いで、バレル研磨が施されたガラス塊の表面に、粉末状の離型剤(窒化ホウ素)を塗して、軟化用受け皿50上に配置し、加熱炉で再加熱した。この再加熱工程以降は、実施例1と同様の方法により、レンズブランクBを100個作製した。
比較例1では、実施例1と同様の方法にて熔解された熔融ガラスを白金合金製の流出パイプから一方の側面が開口した鋳型に連続的に供給し、冷却して一定の幅および厚みを有する板状ガラスを成形した。この成形の過程で板状ガラスは、熔融ガラスの転移温度(Tg)もしくはTgよりやや高温のアニール炉内を通してアニール処理された。
次に、アニール処理されたガラス板を一定のサイズ(15mm×15mm×15mm、重さ23g)に切断してカットピースと呼ばれるガラス片を100個得た。さらに、カットピースにバレル研磨を施してエッジを丸めるとともに、目的とするレンズブランクの重量に等しくなるよう重量調整を行なった。この工程中、アニール処理が十分施されたガラスは破損することはなかった。なお、バレル研磨の条件は、上述のガラス塊に対するバレル研磨と同じである。
このような予備工程(バレル研磨)を経たカットピースの表面は粗ずり面であった。次いで、このカットピースの表面に粉末状の離型剤(窒化ホウ素)を塗して、軟化用受け皿50上に配置し、加熱炉で再加熱した。この再加熱工程以降は、実施例1と同様の方法により、レンズブランクCを100個作製した。
次に、得られたレンズブランクA〜Cについて以下の評価を行なった。
(評価1;欠陥含有層の存在領域の確認)
以下の方法により、レンズブランクA〜Cの主表面における欠陥含有層の存在を確認した。
まず、得られたレンズブランクA〜Cをそれぞれ25個ずつ準備し、各レンズブランクの主表面から深さ50μm、80μmおよび100μmまで、レンズブランクの表面を研磨した。
評価1で行った研磨は、レンズブランクの主表面における欠陥含有層の厚みを確認するための研磨である。したがって、最終レンズ形状を無視して、レンズブランクの表面を研磨加工のみで段階的に研磨している。なお、後述する評価2における研削・研磨は、光学レンズの形状を作り出す研削・研磨であり、本評価における研磨処理とは異なる。
レンズブランクの主表面から所定の深さまで研磨加工した、表面加工済みレンズブランク(各25点)に対し、アルゴンランプを照射し、輝点観察を行なった。結果を図6に示す。
図6は、実施例に係る輝点観察の結果を示す図である。通常、欠陥含有層の厚みは、レンズブランク毎に多少のばらつきがある。そのため、複数のレンズブランクについて、主表面から同じ深さまで研磨加工すると、欠陥含有層の厚みが比較的厚いレンズブランクにおいては欠陥含有層が十分に除去しきれず、研磨後のレンズに欠陥含有層が残る場合がある。このような加工後のレンズに残存する欠陥含有層は、光を散乱させるため、輝点の原因となる。したがって、加工後のレンズにおいて輝点が観察されないものを良品とし、レンズブランクの良品率を算出した。本実施例においては、良品率100%を良好とした。結果を表1に示す。
Figure 0006087454
表1に示されるように、本発明に係るレンズブランクAは、表面加工量がレンズブランクの主表面から深さ50μmで、既に、良品率100%となった。そのため、レンズブランクの主表面から深さ80μmおよび100μmの表面加工量での研磨は行なわなかった。
表1および図6(a)に示されるように、本発明に係るレンズブランクAでは、表面加工量50μmの研磨により、既に、良品率100%であり、輝点が観察された試料はなかった。すなわち、本発明に係るレンズブランクAは、レンズブランクの主表面から少なくとも深さ50μm研磨することで、その表面から欠陥含有層をすべて取り除くことができる。
このような結果から、レンズブランクAは、レンズブランク毎のばらつきを含めてもなお、レンズブランクの主表面に形成される欠陥含有層の厚みは、50μm以下であることが確認された。
一方、図6(b)に示されるように、本発明の比較例に相当するレンズブランクBでは、表面加工量50μmの研磨では、良品率0%で、すべての試料で輝点が円内の領域に集中して観察された。すなわち、レンズブランクBは、レンズブランクの主表面から深さ50μm程度の研磨では、その表面から欠陥含有層をすべて取り除くことができない。
このような結果から、レンズブランクBは、レンズブランク毎のばらつきを含めてもなお、レンズブランクの主表面に形成される欠陥含有層の厚みは、少なくとも50μmを超えることが確認された。
なお、レンズブランクBについては、その主表面から深さ80μm、さらには100μmと研磨すると、良品率が向上することが確認された。
また、本発明の比較例に相当するレンズブランクCについても、レンズブランクBと同様の傾向が確認された。
(評価2;取り代量の確認)
レンズブランクA〜Cについて、以下の方法により、取り代量の確認を行なった。
まず、得られたレンズブランクA〜Cをそれぞれ20個ずつ準備し、各レンズブランクの中心部における取り代量を50μm、80μm、100μm、150μm、200μm、300μmおよび500μmとして研削・研磨した。
また、本評価における取り代量とは、レンズブランクから光学レンズを作製する際に、研削・研磨の全工程において損失するレンズブランク表面の削り代量を意味する。なお、取り代量の観測点は、レンズブランク(研磨後の光学レンズ)の中心部とした。
また、評価2で行なう研削・研磨は、光学レンズの形状を作り出す研削・研磨であるため、レンズブランクの表面形状に追従するように研磨を行なう評価1とは、条件が異なる。
レンズブランクを所定の取り代量となるように加工して得た光学レンズ(各20個)に対し、アルゴンランプを照射し、輝点観察を行なった。欠陥含有層が残存している箇所は、光が散乱し、輝点となる。このような輝点は、光学レンズとしては不良となるため、輝点がないものを良品とし、良品率を算出した。本実施例においては、良品率100%を良好とした。結果を表2に示す。
Figure 0006087454
上記評価1で確認されているように、本発明に係るレンズブランクAは、主表面に形成される欠陥含有層の厚みが50μm以下と非常に薄い。そのため、このようなレンズブランクAを用いて光学レンズを作製すれば、レンズ形状を形成しつつ、欠陥含有層を取り除くために設定される取り代量を大幅に低減させることができる。
表2に示されるように、本発明に係るレンズブランクAを用いて光学レンズを作製した場合には、レンズブランクの中心部における取り代量を150μmに設定した場合であっても、レンズ全面において欠陥含有層を十分に取り除くことができ、良品率が100%となることが確認された。
一方、本発明の比較例に相当するレンズブランクBおよびレンズブランクCは、主表面に形成される欠陥含有層の厚みが50μmを超える(評価1参照)。そのため、このようなレンズブランクBおよびCを用いて光学レンズを作製した場合には、欠陥含有層を完全に取り除くために、取り代量を大きく設定する必要がある。
すなわち、表2に示されるように、本発明の比較例に相当するレンズブランクBおよびレンズブランクCを用いて光学レンズを作製した場合に、レンズブランク毎のばらつきを踏まえた上で、レンズ全面の欠陥含有層を完全に取り除くため、取り代量を500μm以上に設定する必要があることが確認された。
なお、本発明に係るレンズブランクAは、取り代量50μmの場合、良品率が50%である。これは、レンズブランクAを取り代量50μmで加工しても50%の試料で、未だ欠陥含有層を除去しきれていないことを意味している。しかし、このことをもって、欠陥含有層の厚みが50μmを超えているとの評価ができるものではなく、評価1との間での矛盾もない。
すなわち、評価1における加工量と、評価2における取り代量とでは、評価している範囲が異なる。すなわち、評価1における加工量は、レンズブランクの主表面における欠陥含有層の厚みそのものを評価しているのに対し、評価2では、光学レンズを作製する際の取り代の量を評価している。
したがって、評価2の取り代量では、単にレンズブランクの主表面に形成される欠陥含有層の厚さによってのみ決まるのではなく、レンズブランク表面のうねり等の他の要因の影響も考慮する必要があるのである。
(評価3;研削・研磨の条件の確認)
レンズブランクA〜Cについて、光学レンズを作製するまでのレンズブランクの研削・研磨の条件の確認を行なった。具体的には、光学レンズを作製するまでの研削・研磨として、CG加工(球面研削)、SM加工(スムージング加工。なお、必要に応じて複数段回)およびPO加工(研磨加工)を行なう際の各工程の最適な加工条件を確認した。結果を表3に示す。
Figure 0006087454
各工程で用いた工具、各工程の加工量および加工時間は、表3のとおりである。
本発明に係るレンズブランクAは、主表面に形成される欠陥含有層の厚みが50μm以下と薄いため、これを用いて光学レンズを作製する場合には、欠陥含有層を除去するのに必要な取り代量を大幅に低減させることができる(評価2参照)。
そのため、レンズブランクAを用いる場合には、レンズブランクの研削量を低減できるため、比較的目の細かい#600(平均粒度が約30μm)の砥石でCG加工を行なっても、研削時間の著しい延長を招くことがない。また、このように目の細かな砥石を用いて研削を行なうことにより、研削に伴いレンズ表面に生じる微小クラックの深さ方向への進行(研削による加工ダメージ層の広がり)を効果的に防止でき、CG加工後のレンズ表面を比較的良好に維持することができる。
その結果、本発明に係るレンズブランクAを用いる場合には、CG加工後のレンズ表面にある研削による加工ダメージ層が少ないため、続いて行なうSM加工で、#2500の樹脂製研磨具(レジンボンド砥石。たとえば、アルファーダイヤモンド工業株式会社製)を用いても、十分に研削による加工ダメージ層を除去することができる。その結果、さらなるSM加工を行なうことなく、最終工程である研磨加工(PO加工)に移行することができる。さらに、目の細かい#2500(平均粒度が約8μm)のレジンボンド砥石を用いているため、SM加工後の表面状態が良好に保たれており、PO加工の加工時間を大幅に低減することが可能となる。
一方、本発明の比較例に係るレンズブランクBおよびCは、主表面に形成される欠陥含有層の厚みが50μmを超えて厚く、これらを用いて光学レンズを作製する場合には、欠陥含有層を完全に除去し、良品率を高めるために必要な取り代量を大きく設定する必要がある(評価2参照)。
そのため、取り代量を多く設定する必要があるレンズブランクBおよびCでは、研削時間の著しい延長を招くとともに、目詰まりにより研削ができなくなるため、目の細かい#600の砥石でCG加工を行なうことは困難である。そのため、加工時間あたりの研削量を増やすためにも、#230(平均粒度が約70μm)のような目の粗い砥石から、CG加工を開始する必要がある。しかし、目の粗い砥石を用いるため、研削に伴いレンズ表面に生じる微小クラックの深さ方向への進行が免れず、研削による欠陥層が大きくなる傾向にある。
このような研削による加工ダメージ層を、その後の工程で除去していくためには、続くSM加工においても、研削量を増やす必要があり、複数回のSM加工が必要になる。さらに、加工時間の著しい延長を招くことから、レンズブランクAで用いたような目の細かいレジンボンド砥石(#2500)によるSM加工からの開始することも困難である。
そのため、SM加工でも、急激に粒度の細かい砥石の使用はできず、本発明に係るレンズブランクAを用いた場合に比べて、SM加工後のレンズ表面の状態は劣る。そのため、最終工程である研磨加工においても、本発明に係るレンズブランクAを用いた場合よりも加工量および加工時間を長く設定する必要がある。
以上説明したように、本発明に係るレンズブランクAと、本発明の比較例に相当するレンズブランクBおよびCとでは、レンズの形成工程において、好適な工具、加工量および加工時間に違いが生じることが確認された。特に表3に示されるように、本発明に係るレンズブランクAを用いる場合には、研削・研磨の全工程を通して、加工量および加工時間が、レンズブランクBおよびCを用いた場合に比べて、大幅に低減されることが確認された。
(総合評価)
以上説明したように、本発明に係るレンズブランクAは、主表面に形成される欠陥含有層の厚みが50μm以下である。このようなレンズブランクAを用いて光学ガラスを作製する場合には、取り代量を大幅に低減した場合であっても、高い良品率を達成することが可能となる。さらに、取り代量を大幅に低減することができるため、CG加工にて比較的目の細かい砥石(#600)を用いることができる。その結果、続くSM加工は、目の細かいレジンボンド砥石(#2500)で十分な加工を行なうことができ、最終工程の加工量および加工時間を低減することもできる。特に、本発明に係るレンズブランクAを用いた場合には、研削・研磨の全工程を通して、加工量および加工時間を大幅に低減することができることから、生産コストを向上することができる。
(実施例2)
実施例2は、レンズ用ガラス材料として、フツリン酸塩系ガラスに換えてホウ酸ランタン系ガラスを用いたこと以外は、実施例1と同様の方法でレンズブランクDを準備した。なお、ホウ酸ランタン系ガラスは、フツリン酸系ガラスに比べて、ガラス質として硬い材料である。
(比較例3)
比較例3は、レンズ用ガラス材料として、フツリン酸塩系ガラスに換えてホウ酸ランタン系ガラスを用いたこと以外は、比較例1と同様の方法でレンズブランクEを準備した。なお、ホウ酸ランタン系ガラスは、フツリン酸系ガラスに比べて、ガラス質として硬い材料である。
(比較例4)
比較例4は、レンズ用ガラス材料として、フツリン酸塩系ガラスに換えてホウ酸ランタン系ガラスを用いたこと以外は、比較例2と同様の方法でレンズブランクFを準備した。なお、ホウ酸ランタン系ガラスは、フツリン酸系ガラスに比べて、ガラス質として硬い材料である。
得られたレンズブランクD〜Fについて、実施例1と同様に評価1〜3を行なった。特に、評価2(取り代量の確認)の結果を表4に示す。なお各評価は20個のレンズブランクを用いて、良品率を求めた。
Figure 0006087454
レンズブランクD〜Fについて評価1〜3を行なった結果、ガラス組成(ひいては、ガラスの硬さ等の性質)の違いによらず、同様の結果となることが確認された。
すなわち、本発明に係るレンズブランクDは、主表面に形成される欠陥含有層の厚みが50μm以下であり、このようなレンズブランクDを用いて光学ガラスを作製する場合には、取り代量を大幅に低減した場合であっても、高い良品率を達成することが可能となる。
さらに、取り代量を大幅に低減することができるため、CG加工にて比較的目の細かい砥石(たとえば、#400〜#800)を用いることができる。その結果、続くSM加工は、目の細かいレジンボンド砥石(たとえば、#1500〜#2500)で十分な加工を行なうことができ、最終工程の加工量および加工時間を低減することもできる。特に、本発明に係るレンズブランクDを用いた場合には、研削・研磨の全工程を通して、加工量および加工時間を大幅に低減することができることから、生産コストを向上することができる。
(実施例3〜5)
実施例3〜5では、レンズブランクを構成する硝材と、光学レンズを作製するまでのレンズブランクの研削・研磨の条件を、表5に示すように変更した以外は、実施例1と同様の方法にてそれぞれのレンズブランクを作製し、評価3(研削・研磨の条件の確認)を行なった。
なお、実施例3で用いた成形型の成形面の表面粗さ(Rz)は、20〜30μmであり、得られたレンズブランクの表面粗さ(Rz)は、17〜38μmであった。また、実施例4および5で用いた成形型の成形面の表面粗さ(Rz)は、それぞれ15〜25μmであり、得られたレンズブランクの表面粗さ(Rz)は、それぞれ11〜30μmであった。表面粗さ(Rz)の測定は上記と同様の方法により行なった。
また、実施例3のレンズブランクを作製する際のプレス工程におけるプレス荷重は、8.5〜9MPa(87〜92kgf/cm)であり、実施例4および5におけるプレス荷重は、15〜16MPa(152〜163kgf/cm)であった。
Figure 0006087454
本発明に係るレンズブランクによれば、硝材によらず、また、光学レンズを作製するまでのレンズブランクの研削の条件をさまざまに変更(たとえば、SM加工の段回数を変更)しても、先に記載した比較例1および2に比べて、全体の加工量および加工時間を大幅に低減できることが確認された。特に、いずれもPO加工での加工量を大幅に削減できることが確認された。
(実施例6および7)
実施例6および7は、レンズブランクを構成する硝材と、光学レンズを作製するまでのレンズブランクの研削・研磨の条件を、表6に示すように変更した以外は、実施例1と同様の方法にてそれぞれのレンズブランクを作製し、評価3(研削・研磨の条件の確認)を行なった。具体的には、実施例6および7では、CG加工を行なうことなく、スムージング加工と研磨加工を行なって光学レンズを作製した。結果を表6に示す。
なお、実施例6で用いた成形型の成形面の表面粗さ(Rz)は、12〜25μmであり、得られたレンズブランクの表面粗さ(Rz)は、8〜27μmであった。また、実施例7で用いた成形型の成形面の表面粗さ(Rz)は、15〜25μmであり、得られたレンズブランクの表面粗さ(Rz)は、13〜25μmであった。表面粗さ(Rz)の測定は上記と同様の方法により行なった。
また実施例6のレンズブランクを作製する際のプレス工程におけるプレス荷重は、8〜8.5MPa(81〜87kgf/cm)であり、実施例7におけるプレス荷重は、14〜15MPa(142〜153kgf/cm)であった。
Figure 0006087454
実施例6および7において、CG加工を省略し、SM1加工でメタルボンド砥石(#800)を用い、その後のSM2加工およびSM3加工ではレジンボンド砥石(#1500、#2500)を用いて加工した。
本発明に係るレンズブランクによれば、主表面(特に中央部)の欠陥含有層の厚みが薄く、すなわち50μm以下であるため、CG加工を省略しても、SM加工以降の処理だけで、表面欠陥を十分に除去することができる。そのため、表6に示すように、本発明に係るレンズブランクによれば、比較例1および2に比べて、全体の加工量および加工時間を大幅に低減できることが確認された。
(砥石の粒度と微小クラックの関係について)
一般的に、加工時間を短縮するために、CG加工やSM加工で使用する砥石の粒度を粗くして加工効率を高めることがある。しかしながら、粒度が粗い砥石を用いると、加工によって発生する微小クラックが大きくなる傾向にある。そこで、CG加工用の砥石と、研削によってレンズ表面に発生する微小クラックとの関係を、ガラス組成ごとに検証した。
具体的には、ガラス組成の異なるレンズブランクAおよびDについて、メタルボンド砥石のダイヤモンド粒度を表7のように変化させてCG加工を行ない、それぞれの砥石で研削した加工面について、直接研磨を行ない、表面欠陥がなくなるまでの研磨量(μm)を確認した。結果を表7に示す。
Figure 0006087454
表7に示されるように、CG加工用の砥石のダイヤモンド粒度を微小化することで加工ダメージ層(表面欠陥)が大幅に縮小することが確認された。また、CG加工用の砥石のダイヤモンド粒度が大きいほど、加工ダメージ層がレンズ表面から深いところまで及ぶことが確認された。
なお、CG加工によって発生した加工ダメージ層は、その後のSM加工で除去する必要がある。SM1加工で、#1200のメタルボンド砥石を用いると、70μm単位で研削できる。SM2加工として、#1500のレジンボンド砥石を用いると、10μm単位で研削できる。したがって、たとえば、レンズブランクAについて、#230の砥石を用いてCG加工した場合、加工ダメージ層を除去するために必要となる研削量は90μmである。この場合、その後の工程として、#1200のメタルボンド砥石でSM1加工を1単位行った後、#1500のレジンボンド砥石でSM2加工を2単位行なうことで、#230の砥石を用いてCG加工を行なった際の加工ダメージ層を取り除くことができる。
次に、SM加工用の砥石と、研削によってレンズ表面に発生する微小クラックとの関係を、ガラス組成ごとに検証した。具体的には、ガラス組成の異なるレンズブランクAおよびDについて、レジンボンド砥石の表面粗さを表8のように変化させてSM加工を行ない、それぞれの砥石で研削した加工面について、直接研磨を行ない、表面欠陥がなくなるまでの研磨量(μm)を確認した。結果を表8に示す。
Figure 0006087454
表8に示されるように、レジンボンド砥石による加工ダメージ層の形成量は、該砥石の表面粗さに比例するが、ガラス組成の違いによる大きな差はなかった。そのため、前工程(CG加工等)の加工ダメージ層が厚くなければ、組成によらず、レジンボンド砥石による表面粗さに由来する加工ダメージ層のみ、研磨工程(PO工程)で除去すれば足り程度であることが確認された。
(実施例8〜10)
実施例8〜10は、レンズブランクを構成する硝材と、光学レンズを作製するまでのレンズブランクの研削・研磨の条件を、表9に示すように変更した以外は、実施例1と同様の方法にてそれぞれのレンズブランクを作製し、評価3(研削・研磨の条件の確認)を行なった。
なお、実施例8で用いた成形型の成形面の表面粗さ(Rz)は、17〜27μmであり、得られたレンズブランクの表面粗さ(Rz)は、20〜40μmであった。実施例9および10で用いた成形型の成形面の表面粗さ(Rz)は、16〜28μmであり、得られたレンズブランクの表面粗さ(Rz)は、14〜37μmであった。表面粗さ(Rz)の測定は上記と同様の方法により行なった。
また、実施例8のレンズブランクを作製する際のプレス工程におけるプレス荷重は、9.5〜10MPa(96〜102kgf/cm)であり、実施例9および10におけるプレス荷重は、13〜14.5MPa(132〜148kgf/cm)であった。
Figure 0006087454
実施例8〜10において、粒度表示が#400〜#800の砥石を用いてCG加工を行なった場合でも、本発明に係るレンズブランクを用いることで、研削・研磨の全工程を通して、加工量および加工時間を大幅に低減することができた。
実施例8において、SM加工の一段回あたりの加工量を30μm以下とした。実施例8では、SM加工(SM1)の初期の段階で、加工後のレンズブランクの曲率が所定値から外れる傾向にあったため、レジンボンド砥石(#1500)の形状修正を1回行った。それ以降のSM加工ではレンズブランクの曲率が安定したため砥石の修正は不要であった。また、SM加工により形状精度が安定したレンズブランクが得られたため、その後のPO加工では研磨皿の修正は不要であった。
実施例8において、CG加工、SM加工、PO加工全体の加工量は、最大でも250μmであり、表3に記載した比較例1および2に比べて加工量が大幅に低減できた。さらに、CG加工、SM加工、PO加工全体の加工時間は、砥石の修正に要する時間も含めていずれも最大でも600秒であり、表3に記載した比較例1および2に比べて短時間で光学レンズを加工することができた。なお、比較例1および2では、それぞれ100個の光学レンズを加工する際、光学レンズの形状精度を所望の範囲にするために、SM加工1,2において共に5回以上のレジンボンド砥石の形状修正を行ない、さらにPO加工においてそれぞれ5回以上の研磨皿の修正を行なった。
さらに、実施例9および10においても、SM加工(SM1)で用いたレジンボンド砥石の形状修正を1回行ったものの、レジンボンド砥石や研磨皿の修正は不要であった。そして、比較例1および2に比べて合計加工量(最大でも190μm)が少なく、短時間(最大でも680秒)で光学レンズを加工することができた。
実施例8〜10の結果から判るように、本発明に係るレンズブランクを用いることで、1段回あたりのSM加工の加工量を所定量以下に抑えられ、SM加工における砥石への負荷が軽減され、砥石自身の形状の変化が抑止されることが確認された。したがって、数百回以上連続で加工しても、砥石の修正を必要最小限に抑えることができ、全体の加工時間を効果的に短縮することができる。加えて、光学レンズの形状精度を高めることもできる。また、実施例1〜5においても同様に、SM加工の加工量を30μm以下であり、SM加工における砥石の修正の回数が最小限で済み、全体の加工時間を大幅に短縮することができることを確認した。
最後に、本実施形態を図等を用いて総括する。
本実施形態である研磨用ガラスレンズブランク2は、図1Aおよび図1Bに示すように、少なくとも主表面がプレス成形面であって、主表面に形成される欠陥含有層2aの厚みが50μm以下である。
好ましくは、本実施形態である研磨用ガラスレンズブランク2は、上記主表面(2A、2B)の表面粗さ(Rz)が、8μm以上である。
好ましくは、本実施形態である研磨用ガラスレンズブランク2は、図3および図5に示すように、ノズル40から供給される熔融ガラス20をガラス塊成形用の成形型30で受けて成形してガラス塊を得る工程と、ガラス塊20を再加熱し、レンズブランク成形用の成形型70で大気雰囲気下においてプレス成形する工程とを有する方法により得られる。
さらに、好ましくは、本実施形態である研磨用ガラスレンズブランク2は、図2Aに示すように、ガラス塊を得てからプレス成形するまでの工程(S1〜S4)において、ガラス塊の表面を粗面化処理する工程を有さない。
また、好ましくは、本実施形態である研磨用ガラスレンズブランク2は、図2Aに示すように、ガラス塊を得てからプレス成形するまでの工程(S1〜S4)において、ガラス塊を研削または研磨する工程を有さない。
本発明の別の観点に係る研磨用ガラスレンズブランク2の製造方法は、図2A,図3、図4、図5に示すように、ノズル40から供給される熔融ガラスをガラス塊成形用の成形型30で受けて成形してガラス塊を得る工程(S1)と、ガラス塊20の表面状態を維持しつつ、ガラス塊20に離型剤を塗布する離型剤塗布工程(S2)と、離型剤塗布工程(S2)で離型剤が塗布されたガラス塊(20)を、大気雰囲気下で10〜10dPa・sの粘度に再加熱する再加熱工程(S3)と、再加熱工程(S3)で再加熱したガラス塊20をプレス成形用の成形型(70)で大気雰囲気下においてプレス成形して、少なくとも主表面にプレス成形面を有するガラス成形品(2)を得るプレス工程(S4)とを備え、プレス成形工程(S4)によって得られたガラス成形品2の主表面に形成される欠陥含有層2aの厚みが50μm以下である。
好ましくは、再加熱工程前のガラス塊の表面、および再加熱工程の際にガラス塊を配置する保持用凹部の少なくともいずれか一方に、離型剤を付着させる離型剤付着工程をさらに有する。
好ましくは、図4に示すように、離型剤付着工程(S2)において、ガラス塊20を配置する保持用凹部52に離型剤を付着させた後、保持用凹部52にガラス塊20を配置し、さらにガラス塊20に離型剤を付着させる。
好ましくは、研磨用ガラスレンズブランク2の製造方法のプレス工程のプレス荷重は5〜17MPaである。
また、本発明の別の観点では、研磨用ガラスレンズブランク2から光学レンズを製造する方法は、球面研削加工(CG加工)、スムージング加工(SM加工)および研磨加工(PO加工)を行ない、スムージング加工では、金属ボンドの砥石を用いることなく樹脂ボンド砥石(レジンボンド砥石)を用いる加工を行なう。
好ましくは、球面研削工程は、粒度表示で#400〜#800の研削工具を用いて行なわれ、研削量が200μm以下である。
さらに好ましくは、球面研削加工(S10)を経た研磨用ガラスレンズブランクに対して、スムージング加工(S11)は1段回または複数段回行なわれ、各段回のスムージング加工(S11)の加工量は30μm以下である。
また、本発明の別の観点では、研磨用ガラスレンズブランク2から光学レンズを製造する方法は、球面研削加工(S10)を行なうことなく、スムージング加工(S11)および研磨加工(S12)を行ない、スムージング加工(S11)では、金属ボンドの砥石および樹脂ボンドの砥石を用いる。
さらに、別の観点で光学素子の製造方法は、好ましくは、研磨用ガラスレンズブランクを研削する工程と、研削工程を経た研磨用ガラスレンズブランクを研磨する工程とを含む光学レンズの製造方法であって、研削工程は、研磨用ガラスレンズブランクを球面加工する球面研削工程と、球面研削工程を経た研磨用ガラスレンズブランクに対して、1段回または複数回のスムージング加工を行なう工程を含み、レンズ球面研削工程は、粒度表示で#400〜#800の研削工具を用いて行なわれ、研削量が200μm以下であり、スムージング加工は、1段回あたりの加工量が30μm以下である。
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
2… 研磨用ガラスレンズブランク
2a… 欠陥含有層
2b… レンズ本体(バルク部分)
2c… 光学レンズ面
2A… 主表面(プレス成形面)
2B… 主表面(プレス成形面)
2C… 側周面
10… 研削(CG加工)領域
11a,11b… 研削(SM加工)領域
12… 研磨領域
20… ガラス塊
30… ガラス塊受け皿
32… 受け部
40… 熔解ガラスノズル
50… 軟化用皿
52… 保持用凹部
54a,54b… 離型剤ノズル
60a,60b… 離型剤
70… 金型装置
72… 下型
73… 胴型
74… 上型
X… 搬送方向

Claims (3)

  1. 研磨用ガラスレンズブランクを研削する研削工程と、
    前記研削工程を経た前記研磨用ガラスブランクの主表面を研磨する研磨工程と、を含む光学レンズの製造方法であって、
    前記研削工程は、前記研磨用ガラスレンズブランクを球面加工する球面研削工程と、
    前記球面研削工程を経た研磨用ガラスレンズブランクに対して、1段回または複数段回のスムージング加工を含み、
    前記球面研削工程は、粒度表示で♯400〜♯800の研削工具を用いて行われ、研削量が200μm以下であり、前記スムージング加工は、1段回あたりの加工量が30μm以下であり、
    前記研磨用ガラスレンズブランクは、少なくとも主表面がプレス面であって、前記主表面に形成されている欠陥含有層の厚みが50μm以下である、光学レンズの製造方法。
  2. 前記研磨用ガラスレンズブランクの前記主表面の表面粗さ(Rz)が12μm以上である、請求項1に記載の光学レンズの製造方法。
  3. 前記スムージング加工は、金属ボンドを用いることなく、樹脂ボンドのみを用いることにより行う、請求項1または2に記載の光学レンズの製造方法。
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