以下、図面を参照して本発明の内燃機関の制御装置について詳細に説明する。なお、以下の説明では、同様な構成要素には同一の参照番号を付す。
<内燃機関全体の説明>
図1は、本発明に係る制御装置が用いられる内燃機関を概略的に示す図である。図1を参照すると1は機関本体、2はシリンダブロック、3はシリンダブロック2内で往復動するピストン、4はシリンダブロック2上に固定されたシリンダヘッド、5はピストン3とシリンダヘッド4との間に形成された燃焼室、6は吸気弁、7は吸気ポート、8は排気弁、9は排気ポートをそれぞれ示す。吸気弁6は吸気ポート7を開閉し、排気弁8は排気ポート9を開閉する。
図1に示したようにシリンダヘッド4の内壁面の中央部には点火プラグ10が配置され、シリンダヘッド4の内壁面周辺部には燃料噴射弁11が配置される。点火プラグ10は、点火信号に応じて火花を発生させるように構成される。また、燃料噴射弁11は、噴射信号に応じて、所定量の燃料を燃焼室5内に噴射する。なお、燃料噴射弁11は、吸気ポート7内に燃料を噴射するように配置されてもよい。また、本実施形態では、燃料として理論空燃比が14.6であるガソリンが用いられる。しかしながら、本発明の内燃機関は他の燃料を用いても良い。
各気筒の吸気ポート7はそれぞれ対応する吸気枝管13を介してサージタンク14に連結され、サージタンク14は吸気管15を介してエアクリーナ16に連結される。吸気ポート7、吸気枝管13、サージタンク14、吸気管15は吸気通路を形成する。また、吸気管15内にはスロットル弁駆動アクチュエータ17によって駆動されるスロットル弁18が配置される。スロットル弁18は、スロットル弁駆動アクチュエータ17によって回動せしめられることで、吸気通路の開口面積を変更することができる。
一方、各気筒の排気ポート9は排気マニホルド19に連結される。排気マニホルド19は、各排気ポート9に連結される複数の枝部とこれら枝部が集合した集合部とを有する。排気マニホルド19の集合部は上流側排気浄化触媒20を内蔵した上流側ケーシング21に連結される。上流側ケーシング21は、排気管22を介して下流側排気浄化触媒24を内蔵した下流側ケーシング23に連結される。排気ポート9、排気マニホルド19、上流側ケーシング21、排気管22及び下流側ケーシング23は、排気通路を形成する。
電子制御ユニット(ECU)31はデジタルコンピュータからなり、双方向性バス32を介して相互に接続されたRAM(ランダムアクセスメモリ)33、ROM(リードオンリメモリ)34、CPU(マイクロプロセッサ)35、入力ポート36および出力ポート37を具備する。吸気管15には、吸気管15内を流れる空気流量を検出するためのエアフロメータ39が配置され、このエアフロメータ39の出力は対応するAD変換器38を介して入力ポート36に入力される。また、排気マニホルド19の集合部には排気マニホルド19内を流れる排気ガス(すなわち、上流側排気浄化触媒20に流入する排気ガス)の空燃比を検出する上流側空燃比センサ(上流側空燃比検出装置)40が配置される。加えて、排気管22内には排気管22内を流れる排気ガス(すなわち、上流側排気浄化触媒20から流出して下流側排気浄化触媒24に流入する排気ガス)の空燃比を検出する下流側空燃比センサ(下流側空燃比検出装置)41が配置される。これら空燃比センサ40、41の出力も対応するAD変換器38を介して入力ポート36に入力される。
また、アクセルペダル42にはアクセルペダル42の踏込み量に比例した出力電圧を発生する負荷センサ43が接続され、負荷センサ43の出力電圧は対応するAD変換器38を介して入力ポート36に入力される。クランク角センサ44は例えばクランクシャフトが15度回転する毎に出力パルスを発生し、この出力パルスが入力ポート36に入力される。CPU35ではこのクランク角センサ44の出力パルスから機関回転数が計算される。一方、出力ポート37は対応する駆動回路45を介して点火プラグ10、燃料噴射弁11及びスロットル弁駆動アクチュエータ17に接続される。なお、ECU31は、内燃機関の制御を行う制御装置として機能する。
なお、本実施形態に係る内燃機関は、ガソリンを燃料とする無過給内燃機関であるが、本発明に係る内燃機関の構成は、上記構成に限定されるものではない。例えば、本発明に係る内燃機関は、気筒配列、燃料の噴射態様、吸排気系の構成、動弁機構の構成、過給器の有無、及び過給態様等が、上記内燃機関と異なるものであってもよい。
<排気浄化触媒の説明>
上流側排気浄化触媒20及び下流側排気浄化触媒24は、いずれも同様な構成を有する。排気浄化触媒20、24は、酸素吸蔵能力を有する三元触媒である。具体的には、排気浄化触媒20、24は、セラミックから成る基材に、触媒作用を有する貴金属(例えば、白金(Pt))及び酸素吸蔵能力を有する物質(例えば、セリア(CeO2))を担持させたものである。排気浄化触媒20、24は、所定の活性温度に達すると、未燃ガス(HCやCO等)と窒素酸化物(NOx)とを同時に浄化する触媒作用に加えて、酸素吸蔵能力を発揮する。
排気浄化触媒20、24の酸素吸蔵能力によれば、排気浄化触媒20、24は、排気浄化触媒20、24に流入する排気ガスの空燃比が理論空燃比よりもリーン(リーン空燃比)であるときには排気ガス中の酸素を吸蔵する。一方、排気浄化触媒20、24は、流入する排気ガスの空燃比が理論空燃比よりもリッチ(リッチ空燃比)であるときには、排気浄化触媒20、24に吸蔵されている酸素を放出する。
排気浄化触媒20、24は、触媒作用及び酸素吸蔵能力を有することにより、酸素吸蔵量に応じてNOx及び未燃ガスの浄化作用を有する。すなわち、排気浄化触媒20、24に流入する排気ガスの空燃比がリーン空燃比である場合、図2(A)に示したように、酸素吸蔵量が少ないときには排気浄化触媒20、24により排気ガス中の酸素が吸蔵される。また、これに伴って、排気ガス中のNOxが還元浄化される。また、酸素吸蔵量が多くなると、最大吸蔵可能酸素量Cmax近傍の或る吸蔵量(図中のCuplim)を境に排気浄化触媒20、24から流出する排気ガス中の酸素及びNOxの濃度が急激に上昇する。
一方、排気浄化触媒20、24に流入する排気ガスの空燃比がリッチ空燃比である場合、図2(B)に示したように、酸素吸蔵量が多いときには排気浄化触媒20、24に吸蔵されている酸素が放出され、排気ガス中の未燃ガスは酸化浄化される。また、酸素吸蔵量が少なくなると、ゼロ近傍の或る吸蔵量(図中のClowlim)を境に排気浄化触媒20、24から流出する排気ガス中の未燃ガスの濃度が急激に上昇する。
以上のように、本実施形態において用いられる排気浄化触媒20、24によれば、排気浄化触媒20、24に流入する排気ガスの空燃比及び酸素吸蔵量に応じて排気ガス中のNOx及び未燃ガスの浄化特性が変化する。なお、触媒作用及び酸素吸蔵能力を有していれば、排気浄化触媒20、24は三元触媒とは異なる触媒であってもよい。
<空燃比センサの出力特性>
次に、図3及び図4を参照して、本実施形態における空燃比センサ40、41の出力特性について説明する。図3は、本実施形態における空燃比センサ40、41の電圧−電流(V−I)特性を示す図であり、図4は、印加電圧を一定に維持したときの、空燃比センサ40、41周りを流通する排気ガスの空燃比(以下、「排気空燃比」という)と出力電流Iとの関係を示す図である。なお、本実施形態では、両空燃比センサ40、41として同一構成の空燃比センサが用いられる。
図3からわかるように、本実施形態の空燃比センサ40、41では、出力電流Iは、排気空燃比が高くなるほど(リーンになるほど)、大きくなる。また、各排気空燃比におけるV−I線には、V軸にほぼ平行な領域、すなわちセンサ印加電圧が変化しても出力電流がほとんど変化しない領域が存在する。この電圧領域は限界電流領域と称され、このときの電流は限界電流と称される。図3では、排気空燃比が18であるときの限界電流領域及び限界電流をそれぞれW18、I18で示している。したがって、空燃比センサ40、41は限界電流式の空燃比センサであるということができる。
図4は、印加電圧を0.45V程度で一定にしたときの、排気空燃比と出力電流Iとの関係を示す図である。図4からわかるように、空燃比センサ40、41では、排気空燃比が高くなるほど(すなわち、リーンになるほど)、空燃比センサ40、41からの出力電流Iが大きくなるように、排気空燃比に対して出力電流がリニアに(比例するように)変化する。加えて、空燃比センサ40、41は、排気空燃比が理論空燃比であるときに出力電流Iが零になるように構成される。また、排気空燃比が一定以上に大きくなったとき、或いは一定以下に小さくなったときには、排気空燃比の変化に対する出力電流の変化の割合が小さくなる。
なお、上記例では、空燃比センサ40、41として限界電流式の空燃比センサを用いている。しかしながら、排気空燃比に対して出力電流がリニアに変化するものであれば、空燃比センサ40、41として、限界電流式ではない空燃比センサ等、如何なる空燃比センサを用いてもよい。また、両空燃比センサ40、41は互いに異なる構造の空燃比センサであってもよい。
<基本的な空燃比制御>
次に、本発明の内燃機関の制御装置における基本的な空燃比制御の概要を説明する。本実施形態の空燃比制御では、上流側空燃比センサ40の出力空燃比に基づいて上流側空燃比センサ40の出力空燃比が目標空燃比となるように燃料噴射弁11からの燃料噴射量を制御するフィードバック制御が行われる。なお、「出力空燃比」は、空燃比センサの出力値に相当する空燃比を意味する。
一方、本実施形態の空燃比制御では、下流側空燃比センサ41の出力空燃比等に基づいて目標空燃比を設定する目標空燃比の設定制御が行われる。目標空燃比の設定制御では、下流側空燃比センサ41の出力空燃比がリッチ空燃比となったときに、目標空燃比はリーン設定空燃比とされ、その後、その空燃比に維持される。また、リーン設定空燃比は、理論空燃比(制御中心となる空燃比)よりも或る程度リーンである予め定められた空燃比であり、例えば、14.65〜20、好ましくは14.65〜18、より好ましくは14.65〜16程度とされる。また、リーン設定空燃比は、制御中心となる空燃比(本実施形態では、理論空燃比)にリーン補正量を加算した空燃比として表すこともできる。また、本実施形態では、下流側空燃比センサ41の出力空燃比が理論空燃比よりも僅かにリッチであるリッチ判定空燃比(例えば、14.55)以下になったときに、下流側空燃比センサ41の出力空燃比がリッチ空燃比になったと判断される。
目標空燃比がリーン設定空燃比に変更されると、上流側排気浄化触媒20に流入する排気ガスの酸素過不足量が積算される。酸素過不足量は、上流側排気浄化触媒20に流入する排気ガスの空燃比を理論空燃比にしようとしたときに過剰となる酸素の量又は不足する酸素の量(過剰な未燃ガス等の量)を意味する。特に、目標空燃比がリーン設定空燃比となっているときには上流側排気浄化触媒20に流入する排気ガス中の酸素は過剰となり、この過剰な酸素は上流側排気浄化触媒20に吸蔵される。したがって、酸素過不足量の積算値(以下、「積算酸素過不足量」という)は、上流側排気浄化触媒20の酸素吸蔵量OSAを表しているといえる。
なお、酸素過不足量の算出は、上流側空燃比センサ40の出力空燃比、及びエアフロメータ39の出力等に基づいて算出される燃焼室5内への吸入空気量の推定値又は燃料噴射弁11からの燃料供給量等に基づいて行われる。具体的には、酸素過不足量OEDは、例えば、下記式(1)により算出される。
ODE=0.23・Qi/(AFup−AFR) …(1)
ここで、0.23は空気中の酸素濃度、Qiは燃料噴射量、AFupは上流側空燃比センサ40の出力空燃比、AFRは制御中心となる空燃比(本実施形態では、理論空燃比)をそれぞれ表している。
このようにして算出された酸素過不足量を積算した積算酸素過不足量が、予め定められた切替基準値(予め定められた切替基準吸蔵量Crefに相当)以上になると、それまでリーン設定空燃比だった目標空燃比が、リッチ設定空燃比とされ、その後、その空燃比に維持される。リッチ設定空燃比は、理論空燃比(制御中心となる空燃比)よりも或る程度リッチである予め定められた空燃比であり、例えば、12〜14.58、好ましくは13〜14.57、より好ましくは14〜14.55程度とされる。また、リッチ設定空燃比は、制御中心となる空燃比(本実施形態では、理論空燃比)からリッチ補正量を減算した空燃比として表すこともできる。なお、本実施形態では、リッチ設定空燃比の理論空燃比からの差(リッチ度合い)は、リーン設定空燃比の理論空燃比からの差(リーン度合い)以下とされる。
その後、下流側空燃比センサ41の出力空燃比が再びリッチ判定空燃比以下となったときに、目標空燃比が再びリーン設定空燃比とされ、その後、同様な操作が繰り返される。このように本実施形態では、上流側排気浄化触媒20に流入する排気ガスの目標空燃比がリーン設定空燃比とリッチ設定空燃比とに交互に設定される。
ただし、上述したような制御を行った場合であっても、積算酸素過不足量が切替基準値に到達する前に上流側排気浄化触媒20の実際の酸素吸蔵量が最大吸蔵可能酸素量に到達する場合がある。その原因としては、例えば、上流側排気浄化触媒20の最大吸蔵可能酸素量が低下したり、一時的に上流側排気浄化触媒20に流入する排気ガスの空燃比が急激に変化したりすることが挙げられる。このように酸素吸蔵量が最大吸蔵可能酸素量に到達すると、上流側排気浄化触媒20からはリーン空燃比の排気ガスが流出することになる。そこで、本実施形態では、下流側空燃比センサ41の出力空燃比がリーン空燃比となったときには、目標空燃比はリッチ設定空燃比に切り替えられる。特に、本実施形態では、下流側空燃比センサ41の出力空燃比が理論空燃比よりも僅かにリーンであるリーン判定空燃比(例えば、14.65)以上になったときに、下流側空燃比センサ41の出力空燃比がリーン空燃比になったと判断される。
<タイムチャートを用いた空燃比制御の説明>
図5を参照して、上述したような操作について具体的に説明する。図5は、本実施形態の空燃比制御を行った場合における、空燃比補正量AFC、上流側空燃比センサ40の出力空燃比AFup、上流側排気浄化触媒20の酸素吸蔵量OSA、積算酸素過不足量ΣOED、下流側空燃比センサ41の出力空燃比AFdwn及び上流側排気浄化触媒20から流出する排気ガス中のNOx濃度のタイムチャートである。
なお、空燃比補正量AFCは、上流側排気浄化触媒20に流入する排気ガスの目標空燃比に関する補正量である。空燃比補正量AFCが0のときには目標空燃比は制御中心となる空燃比(以下、「制御中心空燃比」という)に等しい空燃比(本実施形態では、理論空燃比)とされ、空燃比補正量AFCが正の値であるときには目標空燃比は制御中心空燃比よりもリーンな空燃比(本実施形態では、リーン空燃比)となり、空燃比補正量AFCが負の値であるときには目標空燃比は制御中心空燃比よりもリッチな空燃比(本実施形態では、リッチ空燃比)となる。また、「制御中心空燃比」は、機関運転状態に応じて空燃比補正量AFCを加算する対象となる空燃比、すなわち空燃比補正量AFCに応じて目標空燃比を変動させる際に基準となる空燃比を意味する。
図示した例では、時刻t1以前の状態では、空燃比補正量AFCがリッチ設定補正量AFCrich(リッチ設定空燃比に相当)とされている。すなわち、目標空燃比はリッチ空燃比とされており、これに伴って上流側空燃比センサ40の出力空燃比がリッチ空燃比となる。上流側排気浄化触媒20に流入する排気ガス中に含まれている未燃ガスは、上流側排気浄化触媒20で浄化され、これに伴って、上流側排気浄化触媒20の酸素吸蔵量OSAは徐々に減少していく。したがって、積算酸素過不足量ΣOEDも徐々に減少していく。上流側排気浄化触媒20における浄化により上流側排気浄化触媒20から流出する排気ガス中には未燃ガスは含まれていないため、下流側空燃比センサ41の出力空燃比AFdwnはほぼ0理論空燃比となる。上流側排気浄化触媒20に流入する排気ガスの空燃比はリッチ空燃比となっているため、上流側排気浄化触媒20からのNOx排出量はほぼゼロとなる。
上流側排気浄化触媒20の酸素吸蔵量OSAが徐々に減少すると、酸素吸蔵量OSAは時刻t1においてゼロに近づき、これに伴って、上流側排気浄化触媒20に流入した未燃ガスの一部は上流側排気浄化触媒20で浄化されずに流出し始める。これにより、時刻t1以降、下流側空燃比センサ41の出力空燃比AFdwnが徐々に低下する。その結果、時刻t2において、下流側空燃比センサ41の出力空燃比AFdwnがリッチ判定空燃比AFrichに到達する。
本実施形態では、下流側空燃比センサ41の出力空燃比AFdwnがリッチ判定空燃比AFrich以下になると、酸素吸蔵量OSAを増大させるべく、空燃比補正量AFCがリーン設定補正量AFClean(リーン設定空燃比に相当)に切り替えられる。したがって、目標空燃比はリッチ空燃比からリーン空燃比へと切り替えられる。また、このとき、積算酸素過不足量ΣOEDは0にリセットされる。
なお、本実施形態では、下流側空燃比センサ41の出力空燃比AFdwnがリッチ判定空燃比AFrichに到達してから、空燃比補正量AFCの切替を行っている。これは、上流側排気浄化触媒20の酸素吸蔵量が十分であっても、上流側排気浄化触媒20から流出する排気ガスの空燃比が理論空燃比から極わずかにずれてしまう場合があるためである。逆に言うと、リッチ判定空燃比は、上流側排気浄化触媒20の酸素吸蔵量が十分であるときには上流側排気浄化触媒20から流出する排気ガスの空燃比が到達することのないような空燃比とされる。
時刻t2において、目標空燃比をリーン空燃比に切り替えると、上流側排気浄化触媒20に流入する排気ガスの空燃比はリッチ空燃比からリーン空燃比に変化する。また、これに伴って、上流側空燃比センサ40の出力空燃比AFupがリーン空燃比となる(実際には、目標空燃比を切り替えてから上流側排気浄化触媒20に流入する排気ガスの空燃比が変化するまでには遅れが生じるが、図示した例では便宜上同時に変化するものとしている)。時刻t2において上流側排気浄化触媒20に流入する排気ガスの空燃比がリーン空燃比に変化すると、上流側排気浄化触媒20の酸素吸蔵量OSAは増大する。また、これに伴って、積算酸素過不足量ΣOEDも徐々に増大していく。
これにより、上流側排気浄化触媒20から流出する排気ガスの空燃比が理論空燃比へと変化し、下流側空燃比センサ41の出力空燃比AFdwnも理論空燃比に収束する。このとき、上流側排気浄化触媒20に流入する排気ガスの空燃比はリーン空燃比となっているが、上流側排気浄化触媒20の酸素吸蔵能力には十分な余裕があるため、流入する排気ガス中の酸素は上流側排気浄化触媒20に吸蔵され、NOxは還元浄化される。このため、上流側排気浄化触媒20からのNOxの排出はほぼゼロとなる。
その後、上流側排気浄化触媒20の酸素吸蔵量OSAが増大すると、時刻t3において、上流側排気浄化触媒20の酸素吸蔵量OSAが切替基準吸蔵量Crefに到達する。このため、積算酸素過不足量ΣOEDが、切替基準吸蔵量Crefに相当する切替基準値OEDrefに到達する。本実施形態では、積算酸素過不足量ΣOEDが切替基準値OEDref以上になると、上流側排気浄化触媒20への酸素の吸蔵を中止すべく、空燃比補正量AFCがリッチ設定補正量AFCrichに切り替えられる。したがって、目標空燃比はリッチ空燃比とされる。また、このとき、積算酸素過不足量ΣOEDが0にリセットされる。
ここで、図5に示した例では、時刻t3において目標空燃比を切り替えると同時に酸素吸蔵量OSAが低下しているが、実際には目標空燃比を切り替えてから酸素吸蔵量OSAが低下するまでには遅れが発生する。また、内燃機関を搭載した車両の加速により機関負荷が高くなって吸入空気量が瞬間的に大きくずれた場合等、上流側排気浄化触媒20に流入する排気ガスの空燃比が意図せずに瞬間的に目標空燃比から大きくずれる場合がある。
これに対して、切替基準吸蔵量Crefは上流側排気浄化触媒20が新触であるときの最大吸蔵可能酸素量Cmaxよりも十分に低く設定される。このため、上述したような遅れが生じたり、実際の排気ガスの空燃比が意図せずに目標空燃比から瞬間的に大きくずれたりしたときであっても、酸素吸蔵量OSAは最大吸蔵可能酸素量Cmaxには到達しない。逆に言うと、切替基準吸蔵量Crefは、上述したような遅れや意図しない空燃比のずれが生じても、酸素吸蔵量OSAが最大吸蔵可能酸素量Cmaxには到達しないように十分少ない量とされる。例えば、切替基準吸蔵量Crefは、上流側排気浄化触媒20が新触であるときの最大吸蔵可能酸素量Cmaxの3/4以下、好ましくは1/2以下、より好ましくは1/5以下とされる。
時刻t3において目標空燃比をリッチ空燃比に切り替えると、上流側排気浄化触媒20に流入する排気ガスの空燃比はリーン空燃比からリッチ空燃比に変化する。これに伴って、上流側空燃比センサ40の出力空燃比AFupがリッチ空燃比となる(実際には、目標空燃比を切り替えてから上流側排気浄化触媒20に流入する排気ガスの空燃比が変化するまでには遅れが生じるが、図示した例では便宜上同時に変化するものとしている)。上流側排気浄化触媒20に流入する排気ガス中には未燃ガスが含まれることになるため、上流側排気浄化触媒20の酸素吸蔵量OSAは徐々に減少していき、時刻t4において、時刻t1と同様に、下流側空燃比センサ41の出力空燃比AFdwnが低下し始める。このときも、上流側排気浄化触媒20に流入する排気ガスの空燃比はリッチ空燃比となっているため、上流側排気浄化触媒20からのNOxの排出はほぼゼロされる。
次いで、時刻t5において、時刻t2と同様に、下流側空燃比センサ41の出力空燃比AFdwnがリッチ判定空燃比AFrichに到達する。これにより、空燃比補正量AFCがリーン設定空燃比に相当する値AFCleanに切り替えられる。その後、上述した時刻t1〜t5のサイクルが繰り返される。
以上の説明から分かるように本実施形態によれば、上流側排気浄化触媒20からのNOx排出量を常に抑制することができる。すなわち、上述した制御を行っている限り、基本的には上流側排気浄化触媒20からのNOx排出量をほぼゼロとすることができる。また、積算酸素過不足量ΣOEDを算出する際の積算期間が短いため、長期間に亘って積算する場合に比べて算出誤差が生じにくい。このため、積算酸素過不足量ΣOEDの算出誤差によりNOxが排出されてしまうことが抑制される。
また、一般に、排気浄化触媒の酸素吸蔵量が一定に維持されると、その排気浄化触媒の酸素吸蔵能力が低下する。すなわち、排気浄化触媒の酸素吸蔵能力を高く維持するためには、排気浄化触媒の酸素吸蔵量が変動することが必要になる。これに対して、本実施形態によれば、図5に示したように、上流側排気浄化触媒20の酸素吸蔵量OSAは常に上下に変動しているため、酸素吸蔵能力が低下することが抑制される。
なお、上記実施形態では、時刻t2〜t3において、空燃比補正量AFCはリーン設定補正量AFCleanに維持される。しかしながら、斯かる期間において、空燃比補正量AFCは必ずしも一定に維持されている必要はなく、徐々に減少させる等、変動するように設定されてもよい。或いは、時刻t2〜t3の期間中において、一時的に空燃比補正量AFCを0よりも小さな値(例えば、リッチ設定補正量等)としてもよい。すなわち、時刻t2〜t3の期間中において、一時的に目標空燃比をリッチ空燃比としてもよい。
同様に、上記実施形態では、時刻t3〜t5において、空燃比補正量AFCはリッチ設定補正量AFCrichに維持される。しかしながら、斯かる期間において、空燃比補正量AFCは必ずしも一定に維持されている必要はなく、徐々に増大させる等、変動するように設定されてもよい。或いは、図6に示したように、時刻t3〜t5の期間中において、一時的に空燃比補正量AFCを0よりも大きな値(例えば、リーン設定補正量等)としてもよい(図6の時刻t6、t7等)。すなわち、時刻t3〜t5の期間中において、一時的に目標空燃比をリーン空燃比としてもよい。
ただし、この場合であっても、時刻t2〜t3における空燃比補正量AFCは、当該期間における目標空燃比の平均値と理論空燃比との差が、時刻t3〜t5における目標空燃比の平均値と理論空燃比との差よりも大きくなるように設定される。
なお、このような本実施形態における空燃比補正量AFCの設定、すなわち目標空燃比の設定は、ECU31によって行われる。したがって、ECU31は、下流側空燃比センサ41によって検出された排気ガスの空燃比がリッチ判定空燃比以下となったときに、上流側排気浄化触媒20の酸素吸蔵量OSAが切替基準吸蔵量Crefとなるまで、上流側排気浄化触媒20に流入する排気ガスの目標空燃比を継続的又は断続的にリーン空燃比にすると共に、上流側排気浄化触媒20の酸素吸蔵量OSAが切替基準吸蔵量Cref以上となったときに、酸素吸蔵量OSAが最大吸蔵可能酸素量Cmaxに達することなく下流側空燃比センサ41によって検出された排気ガスの空燃比がリッチ判定空燃比以下となるまで、目標空燃比を継続的又は断続的にリッチ空燃比にしているといえる。
より簡単に言えば、本実施形態では、ECU31は、下流側空燃比センサ41によって検出された空燃比がリッチ判定空燃比以下になったときに目標空燃比をリーン空燃比に切り替えると共に、上流側排気浄化触媒20の酸素吸蔵量OSAが切替基準吸蔵量Cref以上になったときに目標空燃比をリッチ空燃比に切り替えているといえる。
また、上記実施形態では、積算酸素過不足量ΣOEDは、上流側空燃比センサ40の出力空燃比AFup及び燃焼室5内への吸入空気量の推定値等に基づいて算出されている。しかしながら、酸素吸蔵量OSAはこれらパラメータに加えて他のパラメータに基づいて算出されてもよいし、これらパラメータとは異なるパラメータに基づいて推定されてもよい。また、上記実施形態では、積算酸素過不足量ΣOEDが切替基準値OEDref以上になると、目標空燃比がリーン設定空燃比からリッチ設定空燃比へと切り替えられる。しかしながら、目標空燃比をリーン設定空燃比からリッチ設定空燃比へと切り替えるタイミングは、例えば目標空燃比をリッチ設定空燃比からリーン設定空燃比へ切り替えてからの機関運転時間や積算吸入空気量等、他のパラメータを基準としてもよい。ただし、この場合であっても、上流側排気浄化触媒20の酸素吸蔵量OSAが最大吸蔵可能酸素量よりも少ないと推定される間に、目標空燃比をリーン設定空燃比からリッチ設定空燃比へと切り替えることが必要となる。
<上流側空燃比センサにおけるずれ>
ところで、機関本体1が複数の気筒を有する場合、各気筒から排出される排気ガスの空燃比には気筒間でずれが生じる場合がある。一方、上流側空燃比センサ40は排気マニホルド19の集合部に配置されるが、その配置位置に応じて各気筒から排出された排気ガスが上流側空燃比センサ40に曝される程度が気筒間で異なる。この結果、上流側空燃比センサ40の出力空燃比は、或る特定の気筒から排出された排気ガスの空燃比の影響を強く受けることになる。このため、この或る特定の気筒から排出された排気ガスの空燃比が全気筒から排出される排気ガスの平均空燃比とは異なる空燃比となっている場合、平均空燃比と上流側空燃比センサ40の出力空燃比との間にはずれが生じる。すなわち、上流側空燃比センサ40の出力空燃比は実際の排気ガスの平均空燃比よりもリッチ側又はリーン側にずれることになる。
また、未燃ガスのうち水素は空燃比センサの拡散律速層の通過速度が速い。このため、排気ガス中の水素濃度が高いと、上流側空燃比センサ40の出力空燃比が排気ガスの実際の空燃比よりも低い側(すなわち、リッチ側)にずれてしまう。
このように上流側空燃比センサ40の出力空燃比にずれが生じていると、上述したような制御を行っていても、上流側排気浄化触媒20からNOx及び酸素が流出したり、未燃ガスの流出頻度が高くなったりしてしまう場合がある。以下では、図7及び図8を参照して斯かる現象について説明する。
図7は、図5と同様な、上流側排気浄化触媒20の酸素吸蔵量OSA等のタイムチャートである。図7は、上流側空燃比センサ40の出力空燃比がリッチ側にずれている場合を示している。図中、上流側空燃比センサ40の出力空燃比AFupにおける実線は実際の出力空燃比を示している。一方、破線は、上流側空燃比センサ40周りを流通する排気ガスの実際の空燃比を示している。
図7に示した例においても、時刻t1以前の状態では、空燃比補正量AFCがリッチ設定補正量AFCrichとされており、よって目標空燃比がリッチ設定空燃比とされている。これに伴い、上流側空燃比センサ40の出力空燃比AFupはリッチ設定空燃比と等しい空燃比となる。しかしながら、上述したように、上流側空燃比センサ40の出力空燃比はリッチ側にずれているため、排気ガスの実際の空燃比はリッチ設定空燃比よりもリーン側の空燃比となっている。すなわち、上流側空燃比センサ40の出力空燃比AFupは、実際の空燃比(図中の破線)よりも低い(リッチ側)ものとなっている。このため、上流側排気浄化触媒20の酸素吸蔵量OSAの減少速度は遅いものとなる。
また、図7に示した例では、時刻t2において、下流側空燃比センサ41の出力空燃比AFdwnがリッチ判定空燃比AFrichに到達する。このため、上述したように、時刻t2において、空燃比補正量AFCがリーン設定補正量AFCleanに切り替えられる。すなわち、目標空燃比がリーン設定空燃比に切り替えられる。
これに伴って、上流側空燃比センサ40の出力空燃比AFupはリーン設定空燃比に等しい空燃比となる。しかしながら、上述したように、上流側空燃比センサ40の出力空燃比はリッチ側にずれているため、排気ガスの実際の空燃比はリーン設定空燃比よりもリーンの空燃比となっている。すなわち、上流側空燃比センサ40の出力空燃比AFupは、実際の空燃比(図中の破線)よりも低い(リッチ側)ものとなっている。このため、上流側排気浄化触媒20の酸素吸蔵量OSAの増加速度は速いものとなる。
加えて、上流側空燃比センサ40の出力空燃比のずれが大きいと、上流側排気浄化触媒20の酸素吸蔵量OSAの増加速度は極端に速くなる。したがって、この場合、図8に示したように、上流側空燃比センサ40の出力空燃比AFupに基づいて算出された積算酸素過不足量ΣOEDが切替基準値OEDrefに到達する前に、実際の酸素吸蔵量OSAが最大吸蔵可能酸素量Cmaxに到達することになる。この結果、上流側排気浄化触媒20からNOx及び酸素が流出することになる。
一方、上述した例とは逆に、上流側空燃比センサ40の出力空燃比がリーン側にずれていると、酸素吸蔵量OSAの増加速度が遅くなると共に減少速度が速くなる。この場合、時刻t2から時刻t5までのサイクルが速くなり、上流側排気浄化触媒20からの未燃ガスの流出頻度が高くなる。
以上より、上流側空燃比センサ40の出力空燃比におけるずれを検出することが必要になると共に、検出されたずれに基づいて出力空燃比等の補正を行うことが必要である。
<通常学習制御>
そこで、本発明の実施形態では、上流側空燃比センサ40の出力空燃比におけるずれを補償すべく、通常運転中(すなわち、上述したような目標空燃比に基づいてフィードバック制御を行っているとき)に学習制御が行われる。このうち、まず、通常学習制御について説明する。
ここで、目標空燃比をリーン空燃比に切り替えてから積算酸素過不足量ΣOEDが切替基準値OEDref以上になるまでの期間を酸素増大期間(第1期間)とする。同様に、目標空燃比をリッチ空燃比に切り替えてから下流側空燃比センサ41の出力空燃比がリッチ判定空燃比以下になるまでの期間を酸素減少期間(第2期間)とする。本実施形態の通常学習制御では、酸素増大期間における積算酸素過不足量ΣODEの絶対値としてリーン酸素量積算値(第1酸素量積算値)を算出する。加えて、酸素減少期間における積算酸素過不足量の絶対値としてリッチ酸素量積算値(第2酸素量積算値)を算出する。そして、これらリーン酸素量積算値とリッチ酸素量積算値との差が小さくなるように制御中心空燃比AFRが補正される。図9にこの様子を示す。
図9は、制御中心空燃比AFR、空燃比補正量AFC、上流側空燃比センサ40の出力空燃比AFup、上流側排気浄化触媒20の酸素吸蔵量OSA、積算酸素過不足量ΣOED、下流側空燃比センサ41の出力空燃比AFdwn及び学習値sfbgのタイムチャートである。図9は、図7と同様に、上流側空燃比センサ40の出力空燃比AFupが低い側(リッチ側)にずれている場合を示している。なお、学習値sfbgは、上流側空燃比センサ40の出力空燃比(出力電流)のずれに応じて変化する値であり、本実施形態では制御中心空燃比AFRを補正するのに用いられる。また、図中、上流側空燃比センサ40の出力空燃比AFupにおける実線は、上流側空燃比センサ40によって検出された出力に相当する空燃比を、破線は、上流側空燃比センサ40周りを流通する排気ガスの実際の空燃比をそれぞれ示している。加えて、一点鎖線は、目標空燃比、すなわち空燃比補正量AFCに相当する空燃比を示している。
図示した例では、図5及び図7と同様に、時刻t1以前の状態では、制御中心空燃比が理論空燃比とされ、空燃比補正量AFCがリッチ設定補正量AFCrichとされている。このとき、上流側空燃比センサ40の出力空燃比AFupは実線で示したように、リッチ設定空燃比に相当する空燃比となる。しかしながら、上流側空燃比センサ40の出力空燃比にはずれが生じているため、排気ガスの実際の空燃比はリッチ設定空燃比よりもリーンの空燃比となっている(図9の破線)。ただし、図9に示した例では、図9の破線から分かるように、時刻t1以前の実際の排気ガスの空燃比はリッチ設定空燃比よりもリーンながらも、リッチ空燃比となっている。したがって、上流側排気浄化触媒20の酸素吸蔵量は徐々に減少していく。
時刻t1において、下流側空燃比センサ41の出力空燃比AFdwnがリッチ判定空燃比AFrichに到達する。これにより、上述したように、空燃比補正量AFCがリーン設定補正量AFCleanに切り替えられる。時刻t1以降は、上流側空燃比センサ40の出力空燃比はリーン設定空燃比に相当する空燃比となる。しかしながら、上流側空燃比センサ40の出力空燃比のずれにより、排気ガスの実際の空燃比は、リーン設定空燃比よりもリーンな空燃比、すなわちリーン度合いの大きい空燃比となる(図9の破線を参照)。このため、上流側排気浄化触媒20の酸素吸蔵量OSAは急速に増大する。
一方、酸素過不足量は、上流側空燃比センサ40の出力空燃比AFup(より正確には、出力空燃比AFupと制御中心空燃比AFRとの差)に基づいて算出される。しかしながら、上述したように、上流側空燃比センサ40の出力空燃比AFupにはずれが生じている。したがって、算出された酸素過不足量は、実際の酸素過不足量よりも少ない(すなわち、酸素量が少ない)値となる。その結果、算出された積算酸素過不足量ΣOEDは、実際の値よりも少なくなる。
時刻t2では、積算酸素過不足量ΣOEDが切替基準値OEDrefに到達する。このため、空燃比補正量AFCがリッチ設定補正量AFCrichに切り替えられる。したがって、目標空燃比はリッチ空燃比とされる。このとき、実際の酸素吸蔵量OSAは図9に示したように切替基準吸蔵量Crefよりも多くなっている。
時刻t2以降は、時刻t1以前の状態と同様に、空燃比補正量AFCがリッチ設定補正量AFCrichとされ、よって目標空燃比はリッチ空燃比とされる。このときも、排気ガスの実際の空燃比はリッチ設定空燃比よりもリーンの空燃比となっている。この結果、上流側排気浄化触媒20の酸素吸蔵量OSAの減少速度は遅くなる。加えて、上述したように、時刻t2において、上流側排気浄化触媒20の実際の酸素吸蔵量は切替基準吸蔵量Crefよりも多くなっている。このため、上流側排気浄化触媒20の実際の酸素吸蔵量がゼロに到達するまでには時間がかかる。
時刻t3では、下流側空燃比センサ41の出力空燃比AFdwnがリッチ判定空燃比AFrichに到達する。これにより、上述したように、空燃比補正量AFCがリーン設定補正量AFCleanに切り替えられる。したがって、目標空燃比がリッチ設定空燃比からリーン設定空燃比へと切り替えられる。
ところで、本実施形態では、上述したように、時刻t1から時刻t2までにおいて、積算酸素過不足量ΣOEDが算出される。ここで、目標空燃比をリーン空燃比に切り替えた時(時刻t1)から上流側排気浄化触媒20の酸素吸蔵量OSAの推定値が切替基準吸蔵量Cref以上になった時(時刻t2)までの期間を酸素増大期間Tincと称すると、本実施形態では酸素増大期間Tincに積算酸素過不足量ΣOEDが算出される。図9では、時刻t1〜時刻t2の酸素増大期間Tincにおける積算酸素過不足量ΣOEDの絶対値をR1で示している。
この酸素増大期間Tincの積算酸素過不足量ΣOED(R1)は、時刻t2における酸素吸蔵量OSAに相当する。しかしながら、上述したように、酸素過不足量の推定には上流側空燃比センサ40の出力空燃比AFupが用いられ、この出力空燃比AFupにはずれが生じている。このため、図9に示した例では、時刻t1〜時刻t2の酸素増大期間Tincにおける積算酸素過不足量ΣOEDは、時刻t2における実際の酸素吸蔵量OSAに相当する値よりも少ないものとなっている。
また、本実施形態では、時刻t2から時刻t3までにおいても、積算酸素過不足量ΣOEDが算出される。ここで、目標空燃比をリッチ空燃比に切り替えた時(時刻t2)から下流側空燃比センサ41の出力空燃比AFdwnがリッチ判定空燃比AFrichに到達する時(時刻t3)までの期間を酸素減少期間Tdecと称すると、本実施形態では酸素減少期間Tdecに積算酸素過不足量ΣOEDが算出される。図9では、時刻t2〜時刻t3の酸素減少期間Tdecにおける積算酸素過不足量ΣOEDの絶対値をF1で示している。
この酸素減少期間Tdecの積算酸素過不足量ΣOED(F1)は、時刻t2から時刻t3までに上流側排気浄化触媒20から放出された総酸素量に相当する。しかしながら、上述したように、上流側空燃比センサ40の出力空燃比AFupにはずれが生じている。このため、図9に示した例では、時刻t2〜時刻t3の酸素減少期間Tdecにおける積算酸素過不足量ΣOEDは、時刻t2から時刻t3までに上流側排気浄化触媒20から実際に放出された総酸素量に相当する値よりも少ないものとなっている。
ここで、酸素増大期間Tincでは上流側排気浄化触媒20に酸素が吸蔵されると共に、酸素減少期間Tdecでは吸蔵されていた酸素が全て放出される。したがって、酸素増大期間Tincにおける積算酸素過不足量の絶対値R1と、酸素減少期間Tdecにおける積算酸素過不足量の絶対値F1とは基本的に同一の値になるのが理想的である。ところが、上述したように、上流側空燃比センサ40の出力空燃比AFupにずれが生じている場合、このずれに応じてこれら積算値の値も変化する。上述したように、上流側空燃比センサ40の出力空燃比が低い側(リッチ側)にずれている場合、絶対値R1に対して絶対値F1の方が多くなる。逆に、上流側空燃比センサ40の出力空燃比が高い側(リーン側)にずれている場合、絶対値R1に対して絶対値F1の方が少なくなる。加えて、酸素増大期間Tincにおける積算酸素過不足量の絶対値R1と酸素減少期間Tdecにおける積算酸素過不足量の絶対値F1の差ΔΣOED(=R1−F1。以下、「過不足量誤差」という)は上流側空燃比センサ40の出力空燃比におけるずれの程度を表している。これら絶対値R1、F1の差が大きくなるほど、上流側空燃比センサ40の出力空燃比におけるずれが大きいといえる。
そこで、本実施形態では、過不足量誤差ΔΣOEDに基づいて、制御中心空燃比AFRを補正するようにしている。特に、本実施形態では、酸素増大期間Tincにおける積算酸素過不足量の絶対値R1と酸素減少期間Tdecにおける積算酸素過不足量の絶対値F1の差ΔΣOEDが小さくなるように制御中心空燃比AFRを補正するようにしている。
具体的には、本実施形態では、下記式(2)により学習値sfbgを算出すると共に、下記式(3)により制御中心空燃比AFRが補正される。
sfbg(n)=sfbg(n−1)+k1・ΔΣOED …(2)
AFR=AFRbase+sfbg(n) …(3)
なお、上記式(2)において、nは計算回数又は時間を表している。したがって、sfbg(n)は今回の計算又は現在の学習値である。加えて、上記式(2)におけるk1は、過不足量誤差ΔΣOEDを制御中心空燃比AFRに反映させる程度を表すゲインである。ゲインk1の値が大きいほど制御中心空燃比AFRの補正量が大きくなる。さらに、上記式(3)において、基本制御中心空燃比AFRbaseは、基本となる制御中心空燃比であり、本実施形態では理論空燃比である。
図9の時刻t3においては、上述したように、絶対値R1、F1に基づいて学習値sfbgが算出される。特に、図9に示した例では、酸素増大期間Tincにおける積算酸素過不足量の絶対値R1よりも酸素減少期間Tdecにおける積算酸素過不足量の絶対値F1の方が大きいことから、時刻t3において学習値sfbgは減少せしめられる。
ここで、制御中心空燃比AFRは、上記式(3)を用いて学習値sfbgに基づいて補正される。図9に示した例では、学習値sfbgは負の値となっているため、制御中心空燃比AFRは、基本制御中心空燃比AFRbaseよりも小さな値、すなわちリッチ側の値となっている。これにより、上流側排気浄化触媒20に流入する排気ガスの空燃比がリッチ側に補正されることになる。
この結果、時刻t3以降、上流側排気浄化触媒20に流入する排気ガスの実際の空燃比の目標空燃比に対するずれは時刻t3以前と比べて小さなものとなる。したがって、時刻t3以降、実際の空燃比を表す破線と目標空燃比を表す一点鎖線との間の差は、時刻t3以前における差よりも小さくなっている。
また、時刻t3以降も、時刻t1〜時刻t2における操作と同様な操作が行われる。したがって、時刻t4において積算酸素過不足量ΣOEDが切替基準値OEDrefに到達すると、目標空燃比がリーン設定空燃比からリッチ設定空燃比へと切り替えられる。その後、時刻t5において、下流側空燃比センサ41の出力空燃比AFdwnがリッチ判定空燃比AFrichに到達すると、再度、目標空燃比がリーン設定空燃比に切り替えられる。
時刻t3〜時刻t4は、上述したように酸素増大期間Tincに該当し、よってこの間の積算酸素過不足量ΣOEDの絶対値は図9のR2で表せる。また、時刻t4〜時刻t5は、上述したように酸素減少期間Tdecに該当し、よってこの間の積算酸素過不足量ΣOEDの絶対値は図9のF2で表せる。そして、これら絶対値R2、F2の差ΔΣOED(=R2−F2)に基づいて、上記式(2)を用いて学習値sfbgが更新される。本実施形態では、時刻t5以降も同様な制御が繰り返され、これにより学習値sfbgの更新が繰り返される。
通常学習制御によりこのように学習値sfbgの更新を行うことにより、上流側空燃比センサ40の出力空燃比AFupは徐々に目標空燃比から離れていくが、上流側排気浄化触媒20に流入する排気ガスの実際の空燃比は徐々に目標空燃比に近づいていく。これにより、上流側空燃比センサ40の出力空燃比におけるずれを補償することができる。
また、上記実施形態では、上流側排気浄化触媒20の酸素吸蔵量OSAが最大吸蔵可能酸素量Cmaxに到達する前に、目標空燃比の切替を行っている。このため、酸素吸蔵量OSAが最大吸蔵可能酸素量に到達してから、すなわち、下流側空燃比センサ41の出力空燃比AFdwnがリーン判定空燃比AFlean以上になってから目標空燃比を切り替える場合に比べて、学習値の更新頻度を増大させることができる。また、積算酸素過不足量ΣOEDは、その算出期間が長くなるほど誤差が生じやすい。本実施形態によれば、酸素吸蔵量OSAが最大吸蔵可能酸素量に到達する前に目標空燃比の切替が行われることから、その算出期間を短くすることができる。このため、積算酸素過不足量ΣOEDの算出における誤差を小さくすることができる。
なお、上述したように、学習値sfbgの更新は、酸素増大期間Tincにおける積算酸素過不足量ΣOEDと、この酸素増大期間Tincの直後に続く酸素減少期間Tdecにおける積算酸素過不足量ΣOEDとに基づいて行われるのが好ましい。これは、上述したように、酸素増大期間Tincに上流側排気浄化触媒20に吸蔵される総酸素量とこの直後に続く酸素減少期間Tdecに上流側排気浄化触媒20から放出される総酸素量が等しくなるためである。
加えて、上記実施形態では、1回の酸素増大期間Tincにおける積算酸素過不足量ΣOEDと、1回の酸素減少期間Tdecにおける積算酸素過不足量ΣOEDとに基づいて学習値sfbgの更新が行われている。しかしながら、複数回の酸素増大期間Tincにおける積算酸素過不足量ΣOEDの合計値又は平均値と、複数回の酸素減少期間Tdecにおける積算酸素過不足量ΣOEDの合計値又は平均値とに基づいて学習値sfbgの更新を行ってもよい。
また、上記実施形態では、学習値sfbgに基づいて、空燃比補正量AFC(すなわち、目標空燃比)を補正することとしている。しかしながら、学習値sfbgに基づいて補正するのは、空燃比に関する他のパラメータであってもよい。他のパラメータとしては、例えば、燃焼室5内への燃料供給量や、上流側空燃比センサ40の出力空燃比、空燃比補正量等が挙げられる。
なお、上記実施形態では、基本的な空燃比制御において、下流側空燃比センサ41よって検出された空燃比がリッチ判定空燃比以下になったときに目標空燃比がリーン空燃比に切り替えられる。また、積算酸素過不足量ΣOEDが所定の切替基準値OEDref以上になったときに目標空燃比がリッチ空燃比に切り替えられる。しかしながら、基本的な空燃比制御として、別の制御を用いてもよい。斯かる別の制御としては、例えば、下流側空燃比センサ41の出力空燃比がリーン判定空燃比以上になったときに目標空燃比をリッチ空燃比に切り替え、下流側空燃比センサ41の出力空燃比がリッチ判定空燃比以下になったときに目標空燃比をリーン空燃比に切り替える制御が考えられる。
この場合、目標空燃比をリッチ空燃比に切り替えてから下流側空燃比センサ41の出力空燃比がリッチ判定空燃比以下になるまでの酸素減少期間における積算酸素過不足量の絶対値としてリッチ酸素量積算値が算出される。加えて、目標空燃比をリーン空燃比に切り替えてから下流側空燃比センサ41の出力空燃比がリーン判定空燃比以上になるまでの酸素増大期間における積算酸素過不足量の絶対値としてリーン酸素量積算値が算出される。そして、これらリッチ酸素量積算値とリーン酸素量積算値との差が小さくなるように制御中心空燃比等が補正されることになる。
したがって、以上をまとめると、本実施形態では、目標空燃比は、下流側空燃比センサ41の出力空燃比がリッチ判定空燃比に達したときにリーン空燃比に切り替えられる。加えて、目標空燃比は、上流側排気浄化触媒20の酸素吸蔵量が所定の切替基準量以上になったとき、或いは下流側空燃比センサ41の出力空燃比がリーン判定空燃比に達したときに、リッチ空燃比に切り替えられる。換言すると、本実施形態では、目標空燃比は、理論空燃比よりもリッチ側及びリーン側の異なる複数の空燃比間で切り替えられる。そして、学習手段は、目標空燃比をリーン空燃比に切り替えてから酸素吸蔵量の変化量が切替基準量以上になるまで又は下流側空燃比センサ41の出力空燃比がリーン判定空燃比に達するまでの第1期間における積算酸素過不足量の絶対値である第1酸素量積算値と、目標空燃比をリッチ空燃比に切り替えてから下流側空燃比センサ41の出力空燃比がリッチ判定空燃比以下になるまでの第2期間における積算酸素過不足量の絶対値である第2酸素量積算値とに基づいて、これら第1酸素量積算値と第2酸素量積算値との差が小さくなるように空燃比に関するパラメータが補正される通常学習制御を行うといえる。
<上流側空燃比センサにおける大きなずれ>
ところで、図7及び図8に示した例では、上流側排気浄化触媒20の出力空燃比にずれが生じているが、その程度はそれほど大きくない場合を示している。したがって、図7及び図8の破線からもわかるように、目標空燃比がリッチ設定空燃比に設定されている場合において、実際の排気ガスの空燃比は、リッチ設定空燃比よりもリーンながらも、リッチ空燃比となっている。
これに対して、上流側排気浄化触媒20に生じているずれが大きくなると、目標空燃比がリッチ設定空燃比に設定されていても、実際の排気ガスの空燃比が理論空燃比になってしまう場合がある。この様子を、図10に示す。
図10では、時刻t1以前において、空燃比補正量AFCがリーン設定補正量AFCleanとされている。これに伴い、上流側空燃比センサ40の出力空燃比AFupはリーン設定空燃比となる。ただし、上流側空燃比センサ40の出力空燃比は大きくリッチ側にずれているため、排気ガスの実際の空燃比はリーン設定空燃比よりもリーンな空燃比となっている(図中の破線)。
その後、時刻t1において上流側空燃比センサ40の出力空燃比AFupに基づいて算出された積算酸素過不足量ΣOEDが切替基準値OEDrefに到達すると、空燃比補正量AFCがリッチ設定補正量AFCrichに切り替えられる。これに伴い、上流側空燃比センサ40の出力空燃比AFupはリッチ設定空燃比に相当する空燃比となる。しかしながら、上流側空燃比センサ40の出力空燃比は大きくリッチ側にずれているため、排気ガスの実際の空燃比は理論空燃比となっている(図中の破線)。
この結果、上流側排気浄化触媒20の酸素吸蔵量OSAは変化せずに一定の値に維持される。このため、空燃比補正量AFCをリッチ設定補正量AFCrichに切り替えてから長時間が経過しても、上流側排気浄化触媒20から未燃ガスが排出されることはなく、したがって、下流側空燃比センサ41の出力空燃比AFdwnはほぼ理論空燃比のまま維持される。上述したように、空燃比補正量AFCのリッチ設定補正量AFCrichからリーン設定補正量AFCleanへの切替は、下流側空燃比センサ41の出力空燃比AFdwnがリッチ判定空燃比AFrichに到達した時に行われる。しかしながら、図10に示した例では、下流側空燃比センサ41の出力空燃比AFdwnが理論空燃比のまま維持されることから、空燃比補正量AFCは長時間に亘ってリッチ設定補正量AFCrichに維持されることになる。ここで、上述した通常学習制御は、空燃比補正量AFCがリッチ設定補正量AFCrichとリーン設定補正量AFCleanとの間で交互に切り替えられることを前提としている。したがって、上流側空燃比センサ40の出力空燃比が大きくずれている場合には、空燃比補正量AFCの切替が行われず、よって上述した通常学習制御を行うことはできない。
図11は、上流側空燃比センサ40の出力空燃比が極めて大きくリッチ側にずれている場合を示す図10と同様な図である。図11に示した例では、図10に示した例と同様に、時刻t1において、空燃比補正量AFCがリッチ設定補正量AFCrichに切り替えられる。すなわち、時刻t1において目標空燃比がリッチ設定空燃比に設定される。しかしながら、上流側空燃比センサ40の出力空燃比のずれにより、実際の排気ガスの空燃比がリーン空燃比になっている(図中の破線)。
この結果、空燃比補正量AFCがリッチ設定補正量AFCrichに設定されているにもかかわらず、上流側排気浄化触媒20にはリーン空燃比の排気ガスが流入する。このため、上流側排気浄化触媒20の酸素吸蔵量OSAは徐々に増大していき、ついには時刻t2において最大吸蔵可能酸素量Cmaxに到達する。このように、酸素吸蔵量OSAが最大吸蔵可能酸素量Cmaxに到達すると、上流側排気浄化触媒20はもはやこれ以上排気ガス中の酸素を吸蔵することができない。このため、上流側排気浄化触媒20からは流入する排気ガス中に含まれていた酸素及びNOxがそのまま流出し、結果的に、下流側空燃比センサ41の出力空燃比AFdwnが上昇する。しかしながら、空燃比補正量AFCのリッチ設定補正量AFCrichからリーン設定補正量AFCleanへの切替は、下流側空燃比センサ41の出力空燃比AFdwnがリッチ判定空燃比AFrichに到達した時に行われる。このため、上流側空燃比センサ40の出力空燃比が極めて大きくずれている場合にも、空燃比補正量AFCの切替が行われず、よって上述した通常学習制御を行うことはできない。
<張付き学習制御>
そこで、本実施形態では、上流側空燃比センサ40の出力空燃比におけるずれが大きな場合であってもそのずれを補償すべく、上述した通常学習制御に加えて、理論空燃比張付き学習制御、リーン張付き学習制御及びリッチ張付き学習制御が行われる。
<理論空燃比張付き学習>
まず、理論空燃比張付き学習制御について説明する。理論空燃比張付き学習制御は、図10に示した例のように、下流側空燃比センサ41によって検出される空燃比が理論空燃比に張り付いてしまっている場合に行われる学習制御である。
ここで、リッチ判定空燃比AFrichとリーン判定空燃比AFleanとの間の領域を中間領域Mと称する。この中間領域Mは、リッチ判定空燃比とリーン判定空燃比との間の空燃比領域を理論空燃比近傍領域に相当する。理論空燃比張付き学習制御では、空燃比補正量AFCをリッチ設定補正量AFCrichに切り替えてから、すなわち目標空燃比をリッチ設定空燃比に切り替えてから、下流側空燃比センサ41の出力空燃比AFdwnが予め定められた理論空燃比維持判定時間以上に亘って中間領域M内に維持されているか否かを判断する。そして、理論空燃比維持判定時間以上に亘って中間領域M内に維持されている場合には、上流側排気浄化触媒20に流入する排気ガスの空燃比がリッチ側に変化するように学習値sfbgが減少せしめられる。図12にこの様子を示す。
図12は、空燃比補正量AFC等のタイムチャートを示す図9と同様な図である。図12は、図10と同様に、上流側空燃比センサ40の出力空燃比AFupが低い側(リッチ側)に大きくずれている場合を示している。
図示した例では、図10と同様に、時刻t1以前において、空燃比補正量AFCがリーン設定補正量AFCleanとされている。その後、時刻t1において、積算酸素過不足量ΣOEDが切替基準値OEDrefに到達し、空燃比補正量AFCがリッチ設定補正量AFCrichに切り替えられる。しかしながら、上流側空燃比センサ40の出力空燃比は大きくリッチ側にずれているため、図10に示した例と同様に、排気ガスの実際の空燃比はほぼ理論空燃比となっている。このため、時刻t1以降、上流側排気浄化触媒20の酸素吸蔵量OSAは一定の値に維持される。この結果、下流側空燃比センサ41の出力空燃比AFdwnは長期間に亘って理論空燃比近傍に維持され、よって中間領域M内に維持される。
そこで、本実施形態では、空燃比補正量AFCをリッチ設定補正量AFCrichに切り替えてから予め定められた理論空燃比維持判定時間Tsto以上に亘って下流側空燃比センサ41の出力空燃比AFdwnが中間領域M内に維持されている場合には、制御中心空燃比AFRを補正するようにしている。特に、本実施形態では、上流側排気浄化触媒20に流入する排気ガスの空燃比がリッチ側に変化するように学習値sfbgが更新される。
具体的には、本実施形態では、下記式(4)により学習値sfbgを算出すると共に、上記式(3)により制御中心空燃比AFRが補正される。
sfbg(n)=sfbg(n−1)+k2・AFCrich …(4)
なお、上記式(3)において、k2は、制御中心空燃比AFRを補正する程度を表すゲインである(0<k2≦1)。ゲインk2の値が大きいほど、制御中心空燃比AFRの補正量が大きくなる。
ここで、上述したように、空燃比補正量AFCの切替後に長期間に亘って下流側空燃比センサ41の出力空燃比AFdwnが中間領域M内に維持されている場合には、排気ガスの実際の空燃比はほぼ理論空燃比近傍の値となっている。このため、上流側空燃比センサ40におけるずれは、制御中心空燃比(理論空燃比)と目標空燃比(この場合は、リッチ設定空燃比)との差と同程度になっている。本実施形態では、上記式(4)に示したように制御中心空燃比と目標空燃比との差に相当する空燃比補正量AFCに基づいて学習値sfbgを更新しており、これにより、より適切に上流側空燃比センサ40の出力空燃比におけるずれを補償することができる。
図12に示した例では、時刻t1から理論空燃比維持判定時間Tstoが経過した時刻t2まで、空燃比補正量AFCはリッチ設定補正量AFCrichとされる。このため、式(4)を用いると、時刻t2において学習値sfbgは減少せしめられる。この結果、上流側排気浄化触媒20に流入する排気ガスの実際の空燃比はリッチ側に変化することになる。これにより、時刻t2以降、上流側排気浄化触媒20に流入する排気ガスの実際の空燃比の目標空燃比に対するずれは時刻t2以前と比べて小さなものとなる。したがって、時刻t2以降、実際の空燃比を表す破線と目標空燃比を表す一点鎖線との間の差は、時刻t2以前における差よりも小さくなっている。
図12に示した例では、ゲインk2を比較的小さい値にした例を示している。このため、時刻t2において学習値sfbgの更新が行われてもなお、上流側排気浄化触媒20に流入する排気ガスの実際の空燃比の目標空燃比に対するずれが残っている。このため、排気ガスの実際の空燃比は、リッチ設定空燃比よりもリーンな空燃比、すなわちリッチ度合いの小さい空燃比となる(図12の破線参照)。このため、上流側排気浄化触媒20の酸素吸蔵量OSAの減少速度は遅い。
この結果、時刻t2から理論空燃比維持判定時間Tstoが経過した時刻t3まで、下流側空燃比センサ41の出力空燃比AFdwnが理論空燃比近傍に維持され、よって中間領域M内に維持される。このため、図12に示した例では、時刻t3においても、式(4)を用いて、学習値sfbgの更新が行われる。
図12に示した例では、その後、時刻t4において、下流側空燃比センサ41の出力空燃比AFdwnがリッチ判定空燃比AFrich以下となる。このように、出力空燃比AFdwnがリッチ判定空燃比AFrich以下になった後には、上述したように空燃比補正量AFCがリーン設定補正量AFCleanとリッチ設定補正量AFCrichとに交互に設定される。これに伴って、上述した通常学習制御が行われるようになる。
理論空燃比張付き学習制御によりこのように学習値sfbgの更新を行うことにより、上流側空燃比センサ40の出力空燃比AFupのずれが大きい場合であっても、学習値の更新を行うことができる。これにより、上流側空燃比センサ40の出力空燃比におけるずれを補償することができる。
なお、上記実施形態では、理論空燃比維持判定時間Tstoは予め定められた時間とされている。この場合、理論空燃比維持判定時間は、目標空燃比をリッチ空燃比に切り替えてからの積算酸素過不足量ΣOEDの絶対値が新品時の上流側排気浄化触媒20の最大吸蔵可能酸素量に到達するまでに通常かかる時間以上とされる。具体的には、その2倍〜4倍程度の時間とするのが好ましい。
或いは、理論空燃比維持判定時間Tstoは、目標空燃比をリッチ空燃比に切り替えてからの積算酸素過不足量ΣOED等、他のパラメータに応じて変化させてもよい。具体的には、例えば、積算酸素過不足量ΣOEDが多くなるほど、理論空燃比維持判定時間Tstoが短くされる。これにより、目標空燃比をリッチ空燃比に切り替えてからの積算酸素過不足量ΣOEDが所定の量(例えば、図12のOEDsw)になったときに上述したような学習値sfbgの更新を行うようにすることもできる。また、この場合、積算酸素過不足量ΣOEDにおける上記所定の量を新品時の上流側排気浄化触媒20の最大吸蔵可能酸素量以上とすることが必要である。具体的には、最大吸蔵可能酸素量の2倍〜4倍程度の量とするのが好ましい。
なお、理論空燃比張付き学習制御に関しても、上述した通常学習制御の場合と同様に、基本的な空燃比制御として、上述した別の制御を用いた場合にも適用することができる。この場合、理論空燃比張付き学習制御では、目標空燃比をリーン空燃比に切り替えてから、下流側空燃比センサ41によって検出された空燃比が理論空燃比維持判定時間Tsto以上に亘って理論空燃比近傍空燃比領域内に維持されている場合には、そのときの目標空燃比に応じて上流側排気浄化触媒20に流入する排気ガスの空燃比がリッチ側又はリーン側に変化するように学習値sfbgが増大又は減少せしめられることになる。
したがって、これらをまとめて表現すると、本実施形態では、学習手段は、目標空燃比を理論空燃比よりも一方側(図9に示した例におけるリッチ側に相当)にずれた空燃比に切り替えてから、下流側空燃比センサ41によって検出された空燃比が理論空燃比維持判定時間Tsto以上に亘って理論空燃比近傍空燃比領域内に維持されている場合には、フィードバック制御において上流側排気浄化触媒20に流入する排気ガスの空燃比が前記一方側に変化するように空燃比に関するパラメータを補正する理論空燃比張付き学習を行うといえる。
<リッチ・リーン張付き学習>
次に、リーン張付き学習制御について説明する。リーン張付き学習制御は、図11に示した例のように、目標空燃比をリッチ空燃比にしているにもかかわらず、下流側空燃比センサ41によって検出される空燃比がリーン空燃比に張り付いてしまっている場合に行われる学習制御である。リーン張付き学習制御では、空燃比補正量AFCをリッチ設定補正量AFCrichに切り替えてから、すなわち目標空燃比をリッチ設定空燃比に切り替えてから、下流側空燃比センサ41の出力空燃比AFdwnが予め定められたリーン空燃比維持判定時間以上に亘ってリーン空燃比に維持されているかを判断する。そして、リーン空燃比維持判定時間以上に亘ってリーン空燃比に維持されている場合には、上流側排気浄化触媒20に流入する排気ガスの空燃比がリッチ側に変化するように学習値sfbgが減少せしめられる。図13にこの様子を示す。
図13は、空燃比補正量AFC等のタイムチャートを示す図9と同様な図である。図13は、図11と同様に、上流側空燃比センサ40の出力空燃比AFupが低い側(リッチ側)に極めて大きくずれている場合を示している。
図示した例では、時刻t0において、空燃比補正量AFCがリーン設定補正量AFCleanからリッチ設定補正量AFCrichに切り替えられる。しかしながら、上流側空燃比センサ40の出力空燃比は極めて大きくリッチ側にずれているため、図11に示した例と同様に、排気ガスの実際の空燃比はリーン空燃比となっている。このため、時刻t0以降、下流側空燃比センサ41の出力空燃比AFdwnはリーン空燃比に維持される。
そこで、本実施形態では、空燃比補正量AFCがリッチ設定補正量AFCrichに設定されてから、予め定められたリーン空燃比維持判定時間Tlean以上に亘って下流側空燃比センサ41の出力空燃比AFdwnがリーン空燃比に維持されている場合には、空燃比補正量AFCを補正するようにしている。特に、本実施形態では、上流側排気浄化触媒20に流入する排気ガスの空燃比がリッチ側に変化するように学習値sfbgが補正される。
具体的には、本実施形態では、下記式(5)により学習値sfbgを算出すると共に、上記式(3)により学習値sfbgに基づいて制御中心空燃比AFRが補正される。
sfbg(n)=sfbg(n−1)+k3・(AFCrich−(AFdwn−14.6)) …(5)
なお、上記式(5)において、k3は、制御中心空燃比AFRを補正する程度を表すゲインである(0<k3≦1)。ゲインK3の値が大きいほど、制御中心空燃比AFRの補正量が大きくなる。
ここで、図13に示した例では、空燃比補正量AFCがリッチ設定補正量AFCrichに設定されているときに、下流側空燃比センサ41の出力空燃比AFdwnがリーン空燃比に維持されている。この場合、上流側空燃比センサ40におけるずれは、目標空燃比と下流側空燃比センサ41の出力空燃比との差に相当する。これを分解すると、上流側空燃比センサ40におけるずれは、目標空燃比と理論空燃比との差(リッチ設定補正量AFCrichに相当)と、理論空燃比と下流側空燃比センサ41の出力空燃比との差とを加算した量と同程度となっているといえる。そこで、本実施形態では、上記式(5)に示したように、リッチ設定補正量AFCrichに下流側空燃比センサ41の出力空燃比と理論空燃比との差を加算した値に基づいて学習値sfbgを更新している。特に、上述した理論空燃比張付き学習では、リッチ設定補正量AFCrich相当分だけ学習値を補正しているのに対して、リーン張付き学習ではこれに加えて下流側空燃比センサ41の出力空燃比AFdwn相当分だけ学習値を補正している。また、ゲインk3はゲインk3と同程度とされる。このため、リーン張付き学習における補正量は、理論空燃比張付き学習における補正量よりも大きい。
図13に示した例では、式(5)を用いると、時刻t1において、学習値sfbgは減少せしめられる。この結果、上流側排気浄化触媒20に流入する排気ガスの実際の空燃比はリッチ側に変化することになる。これにより、時刻t1以降、上流側排気浄化触媒20に流入する排気ガスの実際の空燃比の目標空燃比に対するずれは時刻t1以前と比べて小さなものとなる。したがって、時刻t1以降、実際の空燃比を表す破線と目標空燃比を表す一点鎖線との間の差は、時刻t1以前における差よりも小さくなっている。
図13では、ゲインk3を比較的小さい値にした例を示している。このため、時刻t1において学習値sfbgの更新が行われてもなお、上流側空燃比センサ40の出力空燃比におけるずれが残っている。特に、図示した例では、時刻t1以降も、排気ガスの実際の空燃比はリーン空燃比のままとなっている。この結果、時刻t1からリーン空燃比維持判定時間Tleanに亘って下流側空燃比センサの出力空燃比AFdwnがリーン空燃比に維持される。このため、図示した例では、時刻t2においても、リーン張付き学習により、上記式(5)を用いて学習値sfbgの補正が行われる。
時刻t2において学習値sfbgの補正が行われると、上流側排気浄化触媒20に流入する排気ガスの実際の空燃比の目標空燃比に対するずれが小さくなる。これにより、図示した例では、時刻t2以降には、排気ガスの実際の空燃比は理論空燃比よりも僅かにリッチとなり、これに伴って下流側空燃比センサ41の出力空燃比AFdwnはリーン空燃比からほぼ理論空燃比に変化する。特に、図13に示した例では、時刻t2から時刻t3まで理論空燃比維持判定時間Tstoに亘って下流側空燃比センサ41の出力空燃比AFdwnがほぼ理論空燃比、すなわち中間領域M内に維持される。このため、時刻t3において、理論空燃比張付き学習により、上記式(4)を用いて学習値sfbgの補正が行われる。
リーン張付き学習制御によってこのように学習値sfbgの更新を行うことにより、上流側空燃比センサ40の出力空燃比AFupのずれが極めて大きい場合であっても、学習値の更新を行うことができる。これにより、上流側空燃比センサ40の出力空燃比におけるずれを小さくすることができる。
なお、上記実施形態では、リーン空燃比維持判定時間Tleanは予め定められた時間とされている。この場合、リーン空燃比維持判定時間Tleanは、目標空燃比をリッチ空燃比に切り替えてからそれに応じて下流側空燃比センサ41の出力空燃比が変化するまでに通常かかる下流側空燃比センサの応答遅れ時間以上とされる。具体的には、その2倍〜4倍程度の時間とするのが好ましい。また、リーン空燃比維持判定時間Tleanは、目標空燃比をリッチ空燃比に切り替えてからの積算酸素過不足量ΣOEDの絶対値が新触時の上流側排気浄化触媒20の最大吸蔵可能酸素量に到達するまでに通常かかる時間よりも短い。したがって、リーン空燃比維持判定時間Tleanは、上述した理論空燃比維持判定時間Tstoよりも短いものとされる。
或いは、リーン空燃比維持判定時間Tleanは、目標空燃比をリッチ空燃比に切り替えてから積算された排気ガス流量等、他のパラメータに応じて変化させてもよい。具体的には、例えば、積算排気ガス流量ΣGeが多くなるほど、リーン空燃比維持判定時間Tleanが短くされる。これにより、目標空燃比をリッチ空燃比に切り替えてからの積算排気ガス流量が所定の量(例えば、図13のΣGesw)になったときに、上述したような学習値sfbgの更新を行うようにすることもできる。また、この場合、所定の量は、目標空燃比を切り替えてからそれに応じて下流側空燃比センサ41の出力空燃比が変化するまでに必要な排気ガスの総流量以上とすることが必要である。具体的には、斯かる総流量の2倍〜4倍程度の量とすることが好ましい。
次に、リッチ張付き学習制御について説明する。リッチ張付き学習制御は、リーン張付き学習制御と同様な制御であり、目標空燃比をリーン空燃比にしているにもかかわらず、下流側空燃比センサ41によって検出される空燃比がリッチ空燃比に張り付いてしまっている場合に行われる学習制御である。リッチ張付き学習制御では、空燃比補正量AFCをリーン設定補正量AFCleanに切り替えてから、すなわち目標空燃比をリーン設定空燃比に切り替えてから、下流側空燃比センサ41の出力空燃比AFdwnが予め定められたリッチ空燃比維持判定時間(リーン空燃比維持判定時間と同様)以上に亘ってリッチ空燃比に維持されているかを判断する。そして、リッチ空燃比維持判定時間以上に亘ってリッチ空燃比に維持されている場合には、上流側排気浄化触媒20に流入する排気ガスの空燃比がリーン側に変化するように学習値sfbgが増大せしめられる。すなわち、リッチ張付き学習制御では、上述したリーン張付き学習制御とはリッチ及びリーンが逆にした制御が行われる。
<具体的な制御の説明>
次に、図14〜図17を参照して、上記実施形態における制御装置について具体的に説明する。本実施形態における制御装置は、機能ブロック図である図14に示したように、A1〜A11の各機能ブロックを含んで構成されている。以下、図14を参照しながら各機能ブロックについて説明する。これら各機能ブロックA1〜A11における操作は、基本的にECU31において実行される。
<燃料噴射量の算出>
まず、燃料噴射量の算出について説明する。燃料噴射量の算出に当たっては、筒内吸入空気量算出手段A1、基本燃料噴射量算出手段A2、及び燃料噴射量算出手段A3が用いられる。
筒内吸入空気量算出手段A1は、吸入空気流量Gaと、機関回転数NEと、ECU31のROM34に記憶されたマップ又は計算式とに基づいて、各気筒への吸入空気量Mcを算出する。吸入空気流量Gaはエアフロメータ39によって計測され、機関回転数NEはクランク角センサ44の出力に基づいて算出される。
基本燃料噴射量算出手段A2は、筒内吸入空気量算出手段A1によって算出された筒内吸入空気量Mcを、目標空燃比AFTで除算することにより、基本燃料噴射量Qbaseを算出する(Qbase=Mc/AFT)。目標空燃比AFTは、後述する目標空燃比設定手段A8によって算出される。
燃料噴射量算出手段A3は、基本燃料噴射量算出手段A2によって算出された基本燃料噴射量Qbaseに、後述するF/B補正量DQiを加えることで燃料噴射量Qiを算出する(Qi=Qbase+DQi)。このようにして算出された燃料噴射量Qiの燃料が燃料噴射弁11から噴射されるように、燃料噴射弁11に対して噴射指示が行われる。
<目標空燃比の算出>
次に、目標空燃比の算出について説明する。目標空燃比の算出に当たっては、酸素過不足量算出手段A4、空燃比補正量算出手段A5、学習値算出手段A6、制御中心空燃比算出手段A7、目標空燃比設定手段A8が用いられる。
酸素過不足量算出手段A4は、燃料噴射量算出手段A3によって算出された燃料噴射量Qi及び上流側空燃比センサ40の出力空燃比AFupに基づいて積算酸素過不足量ΣOEDを算出する。酸素過不足量算出手段A4は、例えば、上流側空燃比センサ40の出力空燃比と制御中心空燃比との差分に燃料噴射量Qiを乗算すると共に、求めた値を積算することによって積算酸素過不足量ΣOEDを算出する。
空燃比補正量算出手段A5では、酸素過不足量算出手段A4によって算出された積算酸素過不足量ΣOEDと、下流側空燃比センサ41の出力空燃比AFdwnとに基づいて、目標空燃比の空燃比補正量AFCが算出される。具体的には、図15に示したフローチャートに基づいて空燃比補正量AFCが算出される。
学習値算出手段A6では、下流側空燃比センサ41の出力空燃比AFdwn、酸素過不足量算出手段A4によって算出された積算酸素過不足量ΣOED等に基づいて学習値sfbgが算出される。具体的には、図16に示した通常学習制御のフローチャート及び図17に示した張付き学習制御のフローチャートに基づいて学習値sfbgが算出される。このようにして算出された学習値sfbgは、ECU31のRAM33のうち、内燃機関を搭載した車両のイグニッションキーがオフにされても消去されない記憶媒体に保存される。
制御中心空燃比算出手段A7では、基本制御中心空燃比AFRbase(例えば、理論空燃比)と、学習値算出手段A6によって算出された学習値sfbgとに基づいて制御中心空燃比AFRが算出される。具体的には、上述した式(3)に示したように、基本制御中心空燃比AFRbaseに学習値sfbgを加算することによって制御中心空燃比AFRが算出される。
目標空燃比設定手段A8は、制御中心空燃比算出手段A7によって算出された制御中心空燃比AFRに、空燃比補正量算出手段A5で算出された空燃比補正量AFCを加算することで、目標空燃比AFTを算出する。このようにして算出された目標空燃比AFTは、基本燃料噴射量算出手段A2及び後述する空燃比偏差算出手段A9に入力される。
<F/B補正量の算出>
次に、上流側空燃比センサ40の出力空燃比AFupに基づいたF/B補正量の算出について説明する。F/B補正量の算出に当たっては、空燃比偏差算出手段A9、F/B補正量算出手段A10が用いられる。
空燃比偏差算出手段A9は、上流側空燃比センサ40の出力空燃比AFupから目標空燃比設定手段A8によって算出された目標空燃比AFTを減算することによって空燃比偏差DAFを算出する(DAF=AFup−AFT)。この空燃比偏差DAFは、目標空燃比AFTに対する燃料供給量の過不足を表す値である。
F/B補正量算出手段A10は、空燃比偏差算出手段A9によって算出された空燃比偏差DAFを、比例・積分・微分処理(PID処理)することで、下記式(6)に基づいて燃料供給量の過不足を補償するためのF/B補正量DFiを算出する。このようにして算出されたF/B補正量DFiは、燃料噴射量算出手段A3に入力される。
DFi=Kp・DAF+Ki・SDAF+Kd・DDAF …(6)
なお、上記式(6)において、Kpは予め設定された比例ゲイン(比例定数)、Kiは予め設定された積分ゲイン(積分定数)、Kdは予め設定された微分ゲイン(微分定数)である。また、DDAFは、空燃比偏差DAFの時間微分値であり、今回更新された空燃比偏差DAFと前回更新されていた空燃比偏差DAFとの偏差を更新間隔に対応する時間で除算することで算出される。また、SDAFは、空燃比偏差DAFの時間積分値であり、この時間積分値DDAFは前回更新された時間積分値DDAFに今回更新された空燃比偏差DAFを加算することで算出される(SDAF=DDAF+DAF)。
<空燃比補正量算出制御のフローチャート>
図15は、空燃比補正量AFCの算出制御の制御ルーチンを示すフローチャートである。図示した制御ルーチンは一定時間間隔の割り込みによって行われる。
図15に示したように、まず、ステップS11において空燃比補正量AFCの算出条件が成立しているか否かが判定される。空燃比補正量AFCの算出条件が成立している場合とは、フィードバック制御が行われる通常制御中であること、例えば燃料カット制御中等ではないこと等が挙げられる。ステップS11において目標空燃比の算出条件が成立していると判定された場合には、ステップS12へと進む。ステップS12では、上流側空燃比センサ40の出力空燃比AFup及び燃料噴射量Qiに基づいて積算酸素過不足量ΣOEDが算出される。
次いでステップS13において、リーン設定フラグFrが0に設定されているか否かが判定される。リーン設定フラグFrは、空燃比補正量AFCがリーン設定補正量AFCleanに設定されると1とされ、それ以外の場合には0とされる。ステップS13においてリーン設定フラグFrが0に設定されている場合には、ステップS14へと進む。ステップS14では、下流側空燃比センサ41の出力空燃比AFdwnがリッチ判定空燃比AFrich以下であるか否かが判定される。下流側空燃比センサ41の出力空燃比AFdwnがリッチ判定空燃比AFrichよりも大きいと判定された場合には制御ルーチンが終了せしめられる。
一方、上流側排気浄化触媒20の酸素吸蔵量OSAが減少して、上流側排気浄化触媒20から流出する排気ガスの空燃比が低下すると、ステップS14にて下流側空燃比センサ41の出力空燃比AFdwnがリッチ判定空燃比AFrich以下であると判定される。この場合には、ステップS15へと進み、空燃比補正量AFCがリーン設定補正量AFCleanとされる。次いで、ステップS16では、リーン設定フラグFrが1に設定され、制御ルーチンが終了せしめられる。
次の制御ルーチンにおいては、ステップS13において、リーン設定フラグFrが0に設定されていないと判定されて、ステップS17へと進む。ステップS17では、ステップS12で算出された積算酸素過不足量ΣOEDが判定基準値OEDrefよりも少ないか否かが判定される。積算酸素過不足量ΣOEDが判定基準値OEDrefよりも少ないと判定された場合にはステップS18へと進み、空燃比補正量AFCが引き続きリーン設定補正量AFCleanとされる。一方、上流側排気浄化触媒20の酸素吸蔵量が増大すると、やがてステップS17において積算酸素過不足量ΣOEDが判定基準値OEDref以上であると判定され、ステップS19へと進む。ステップS19では、空燃比補正量AFCがリッチ設定補正量AFCrichとされ、次いで、ステップS20では、リーン設定フラグFrが0にリセットされ、制御ルーチンが終了せしめられる。
<通常学習制御のフローチャート>
図16は、通常学習制御の制御ルーチンを示すフローチャートである。図示した制御ルーチンは一定時間間隔の割り込みによって行われる。
図16に示したように、まず、ステップS21において、学習値sfbgの更新条件が成立しているか否かが判定される。更新条件が成立している場合とは、例えば、通常制御中であること等が挙げられる。ステップS21において、学習値sfbgの更新条件が成立していると判定された場合には、ステップS22へと進む。ステップS22では、リーンフラグFlが0に設定されているか否かが判定される。ステップS22において、リーンフラグFlが0に設定されていると判定された場合には、ステップS23へと進む。
ステップS23では、空燃比補正量AFCが0よりも大きいか否か、すなわち目標空燃比がリーン空燃比であるか否かが判定される。ステップS23において、空燃比補正量AFCが0よりも大きいと判定された場合には、ステップS24へと進む。ステップS24では、積算酸素過不足量ΣOEDに現在の酸素過不足量OEDが加算される。
その後、目標空燃比がリッチ空燃比へと切り替えられると、次の制御ルーチンではステップS23において空燃比補正量AFCが0以下であると判定され、ステップS25へと進む。ステップS25では、リーンフラグFlが1にセットされ、次いで、ステップS26ではRnが現在の積算酸素過不足量ΣOEDの絶対値とされる。次いで、ステップS27では、積算酸素過不足量ΣOEDが0にリセットされ、制御ルーチンが終了せしめられる。
一方、リーンフラグFlが1にセットされると、次の制御ルーチンでは、ステップS22からステップS28へと進む。ステップS28では、空燃比補正量AFCが0よりも小さいか否か、すなわち目標空燃比がリッチ空燃比であるか否かが判定される。ステップS28において、空燃比補正量AFCが0よりも小さいと判定された場合にはステップS29へと進む。ステップS29では、積算酸素過不足量ΣOEDに現在の酸素過不足量OEDが加算される。
その後、目標空燃比がリーン空燃比へと切り替えられると、次の制御ルーチンではステップS28において空燃比補正量AFCが0以上であると判定され、ステップS30へと進む。ステップS30では、リーンフラグFlが0にセットされ、次いで、ステップS31では、Fnが現在の積算酸素過不足量ΣOEDの絶対値とされる。次いで、ステップS32では、積算酸素過不足量ΣOEDが0にリセットされる。次いで、ステップS33では、ステップS26で算出されたRnとステップS31で算出されたFnに基づいて学習値sfbgが更新され、制御ルーチンが終了せしめられる。
<張付き学習制御のフローチャート>
図17は、張付き学習制御(理論空燃比張付き制御、リッチ張付き制御及びリーン張付き制御)の制御ルーチンを示すフローチャートである。図示した制御ルーチンは一定時間間隔の割り込みによって行われる。
図17に示したように、まず、ステップS41において、リーンフラグFlが0に設定されているか否かが判定される。ステップS41において、リーンフラグFlが0に設定されていると判定された場合には、ステップS42へと進む。ステップS42では、空燃比補正量AFCが0よりも大きいか否か、すなわち目標空燃比がリーン空燃比であるか否かが判定される。ステップS42において、空燃比補正量AFCが0以下であると判定された場合には、ステップS43へと進む。
ステップS43では、下流側空燃比センサ41の出力空燃比AFdwnがリーン判定空燃比AFleanよりも大きいか否かが判定され、ステップS44では、出力空燃比AFdwnがリッチ判定空燃比AFrichとリーン判定空燃比AFleanとの間の値であるか否かが判定される。ステップS43、S44において、出力空燃比AFdwnがリッチ判定空燃比AFrichよりも小さいと判定された場合、すなわち出力空燃比がリッチ空燃比であると判定された場合には制御ルーチンが終了せしめられる。一方、ステップS43、S44において、出力空燃比AFdwnがリーン判定空燃比AFleanよりも大きいと判定された場合、すなわち出力空燃比がリーン空燃比であると判定された場合には、ステップS45へと進む。
ステップS45では、積算排気ガス流量ΣGeに現在の排気ガス流量Geを加算したものが新たな積算排気ガス流量ΣGeとされる。なお、排気ガス流量Geは、例えば、エアフロメータ39の出力等に基づいて算出される。次いで、ステップS46では、ステップS45で算出された積算排気ガス流量ΣGeが予め定められた所定量ΣGesw以上であるか否かが判定される。ステップS46において、ΣGeがΣGeswよりも小さいと判定された場合には制御ルーチンが終了せしめられる。一方、積算排気ガス流量ΣGeが増大して、ステップS46において、ΣGeがΣGesw以上であると判定された場合には、ステップS47へと進む。ステップS47では、上述した式(5)を用いて学習値sfbgの補正が行われる。
一方、ステップS43、S44において、出力空燃比AFdwnがリッチ判定空燃比AFrichとリーン判定空燃比AFleanとの間の値であると判定された場合には、ステップS48へと進む。ステップS48では、積算酸素過不足量ΣOEDに現在の酸素過不足量OEDを加算したものが新たな積算酸素過不足量ΣOEDとされる。次いで、ステップS49では、ステップS48で算出された積算酸素過不足量ΣOEDが予め定められた所定量OEDsw以上であるか否かが判定される。ステップS49において、ΣOEDがOEDswよりも小さいと判定された場合には制御ルーチンが終了せしめられる。一方、積算酸素過不足量ΣOEDが増大して、ステップS49において、ΣOEDがOEDsw以上であると判定された場合には、ステップS50へと進む。ステップS50では、上述した式(4)を用いて学習値sfbgの補正が行われる。
その後、目標空燃比が切り替えられて、ステップS42において、空燃比補正量AFCが0よりも大きいと判定された場合には、ステップS51へと進む。ステップS51では、積算排気ガス流量ΣGe及び積算酸素過不足量ΣOEDが0にリセットされる。次いで、ステップS52では、リーンフラグFlが1にセットされる。
リーンフラグFlが1にセットされると、次の制御ルーチンでは、ステップS41からステップS53へと進む。ステップS53では、空燃比補正量AFCが0よりも小さいか否か、すなわち目標空燃比がリッチ空燃比であるか否かが判定される。ステップS53において、空燃比補正量AFCが0以上であると判定された場合には、ステップS54へと進む。
ステップS54では、下流側空燃比センサ41の出力空燃比AFdwnがリッチ判定空燃比AFrichよりも小さいか否かが判定される。ステップS54において、出力空燃比AFdwnがリッチ判定空燃比AFrich以上であると判定された場合、すなわち出力空燃比がリーン空燃比であると判定された場合には制御ルーチンが終了せしめられる。一方、ステップS54において、出力空燃比AFdwnがリッチ判定空燃比AFrichよりも小さいと判定された場合、すなわち出力空燃比がリッチ空燃比であると判定された場合には、ステップS55へと進む。
ステップS55では、積算排気ガス流量ΣGeに現在の排気ガス流量Geを加算したものが新たな積算排気ガス流量ΣGeとされる。次いで、ステップS56では、ステップS55で算出された積算排気ガス流量ΣGeが予め定められた所定量ΣGesw以上であるか否かが判定される。ステップS56において、ΣGeがΣGeswよりも小さいと判定された場合には制御ルーチンが終了せしめられる。一方、積算排気ガス流量ΣGeが増大して、ステップS56において、ΣGeがΣGesw以上であると判定された場合には、ステップS57へと進む。ステップS57では、上述した式(5)を用いて学習値sfbgの補正が行われる。
その後、目標空燃比が切り替えられて、ステップS53において、空燃比補正量AFCが0よりも小さいと判定された場合には、ステップS58へと進む。ステップS58では、積算排気ガス流量ΣGe及び積算酸素過不足量ΣOEDが0にリセットされる。次いで、ステップS59では、リーンフラグFlが0にセットされ、制御ルーチンが終了せしめられる。