以下、本発明の実施の形態について図面を参照しつつ説明する。なお、各図面中、同様の構成要素には同一の符号を付して詳細な説明は適宜省略する。
図1および図2は、本発明の実施の形態にかかるトイレ用手すりが設置されたトイレ室を例示する平面模式図である。
なお、図1は、トイレ室を前方から眺めた平面模式図であり、図2は、トイレ室を右側方から眺めた平面模式図である。
図1および図2に表したトイレ室には、洋式腰掛便器(以下説明の便宜上、単に「便器」と称する)200が設置されている。便器200の上には、例えば使用者の「おしり」などを洗浄する衛生洗浄装置300が設けられている。衛生洗浄装置300は、ケーシング310と、便座320と、を有する。便座320は、ケーシング310に対して開閉自在に軸支されている。但し、本発明においては、衛生洗浄装置300は必ずしも設けられてなくてもよい。この場合、便座320は、例えば便器200に対して開閉自在に軸支される。
便器200の側方には、トイレ用手すり100が設けられている。図1および図2に表したトイレ用手すり100は、便器200の左側方の壁面810に取り付けられている。なお、トイレ用手すり100は、便器200の右側方の壁面(図示せず)に取り付けられていてもよい。また、トイレ用手すり100は、トイレ室の床面820に取り付けられ上方へ延在していてもよい。つまり、床面820に取り付けられたトイレ用手すりでも、本実施形態のトイレ用手すり100に包含される。
ここで、本願明細書においては、便器200の鉛直中心線200cに対して平行な方向であって、便座320に着座した使用者からみて上方を「上方」とし、便座320に着座した使用者からみて下方を「下方」とする。また、便器200の鉛直中心線200cに対して垂直な水平方向であって、便器200の前に立った使用者からみて右側を「右側方」とし、便器200の前に立った使用者からみて左側を「左側方」とする。さらに、便器200の鉛直中心線200cに対して垂直な水平方向であって、便座320に着座した使用者からみて前方を「前方」とし、便座320に着座した使用者からみて後方を「後方」とする。
トイレ用手すり100は、鉛直方向に延在した鉛直部110と、水平方向に延在した水平部130と、鉛直部110と水平部130とに接続され斜め方向に延在する傾斜部(把持部)120と、を有する。トイレ用手すり100がトイレ室に設置された状態では、傾斜部120は、図2に表したように、閉状態の便座320の前端部よりも前方であって、且つ閉状態の便座320よりも上方に配置されている。すなわち、傾斜部120は、便器200の前方かつ上方に配置されている。
図2に表したように、傾斜部120は、便器200を側方側からみたときに鉛直方向の上方から下方へ向かって便器200に接近するように側面視傾斜状に配置されている。言い換えれば、傾斜部120は、便器200を側方側からみたときに鉛直方向の上方から下方へ向かうにつれて後方へ向かうように傾斜状に配置されている。さらに、図1に表したように、傾斜部120は、便器200を前方側からみたときに鉛直方向の下方から上方へ向かって便器200の鉛直中心線200cに接近するように正面視傾斜状に配置されている。
使用者がトイレ用手すり100を使用して便座320から立ち上がる際には、使用者の動きは、トイレ用手すり100に身体を引き寄せる動きから押し上げる動きへ移行する。つまり、使用者がトイレ用手すり100を使用して便座320から立ち上がる動作では、トイレ用手すり100に身体を引き寄せる力と押し上げる力との両方が必要となる。
ここで、トイレ用手すり100が傾斜部120を有していない場合には、使用者は、身体を引き寄せる動きから押し上げる動きへの移行に際して、トイレ用手すり100の掴み位置を持ち替える必要がある。例えば、使用者が鉛直部110を掴んでトイレ用手すり100に身体を引き寄せ、掴み位置を水平部130に持ち替えて身体を押し上げるといった如くである。そのため、使用者が掴み位置を持ち替えるときに中腰の使用者を手すりでサポートできない瞬間が存在し、使用者が不安になったり転倒するおそれがある。
これに対して、トイレ用手すり100が傾斜部120を有する場合には、使用者は、トイレ用手すり100の掴み位置を持ち替えることなく身体を引き寄せる力と押し上げる力とをトイレ用手すり100に加えることができる。例えば、使用者が傾斜部120を掴み指を利用してトイレ用手すり100を引っ張ることでトイレ用手すり100に身体を引き寄せ、掴み位置を持ち替えることなく手の平を利用してトイレ用手すり100を下側へ押すことで身体を押し上げるといった如くである。
しかしながら、トイレ用手すり100が傾斜部120を有する場合であっても、傾斜部120が便器200を前方側からみたときに鉛直方向の下方から上方へ向かって便器200の鉛直中心線200cに接近するように正面視傾斜状に配置されていない場合、すなわち傾斜部120が壁面810に略沿うように配置されている場合、次のような新たな特有の課題が生ずる。使用者は、トイレ用手すり100に身体を引き寄せる際に使用者自身の胴体の方向に力を加えることが困難であり、比較的大きな力を加えなければ身体を引き寄せることができない。また、使用者が身体を押し上げる際に押し上げ方向に対して手首の関節の可動範囲が比較的狭く、押し上げ動作の途中で手の平がトイレ用手すり100から離れるおそれがある。そのため、使用者は比較的大きい力をトイレ用手すり100に加えることができない。
これに対して、本実施形態の傾斜部120は、便器200を前方側からみたときに鉛直方向の下方から上方へ向かって便器200の鉛直中心線200cに接近するように正面視傾斜状に配置されている。そのため、使用者が本実施形態の傾斜部120を掴んだとき、身体を引き寄せる方向に対する手首の関節の可動範囲はより広い。これにより、使用者は、トイレ用手すり100に身体を引き寄せる際に使用者自身の胴体の方向に力が加わるように傾斜部120を掴むことができる。そのため、使用者は身体を引き寄せる際に必要な力を効率的にトイレ用手すり100に加えることが可能となり、使用者への負担を低減することができる。
また、使用者は、押し上げ方向に対して手首の関節の可動範囲が比較的広い向きに傾斜部120を掴むことができる。そのため、押し上げ動作の途中で手の平がトイレ用手すり100から離れることを抑えることができる。そのため、使用者は、便座320から立ち上がる動作の最初から最後まで、より大きな力をトイレ用手すり100に加え続けることができる。言い換えれば、使用者は、便座320から立ち上がる動作において、トイレ用手すり100の掴み位置を持ち替えることなく、より大きな引き寄せ力と、より大きな押し上げ力と、を加えることができる。
便器200を前方側からみたときの鉛直方向に対する傾斜部120の角度θ1は、例えば約5〜45度程度である。角度θ1が5度よりも小さい場合には、便器200を前方側からみたときに傾斜部120が鉛直方向に近づく。そのため、使用者は、身体を押し上げる力をトイレ用手すり100に加えにくくなる。一方、角度θ1が45度よりも大きい場合には、使用者は、トイレ用手すり100に身体を引き寄せる際に使用者自身の胴体の方向に力を加えにくくなる。なお、角度θ1は、例えば約10〜20度程度であることがより好ましい。
便器200を側方側からみたときの水平方向に対する傾斜部120の角度θ2は、例えば約25〜75度程度である。角度θ2が25度よりも小さい場合には、便器200を側方側からみたときに傾斜部120が水平方向に近づく。そのため、使用者は、トイレ用手すり100に身体を引き寄せる力を加えにくくなる。一方、角度θ2が75度よりも大きい場合には、便器200を側方側からみたときに傾斜部120が鉛直方向に近づく。そのため、使用者は、身体を押し上げる力をトイレ用手すり100に加えにくくなる。
次に、本実施形態にかかるトイレ用手すり100の作用および効果について、図面を参照しつつさらに説明する。
図3は、使用者が便座から立ち上がる動作を説明するための平面模式図である。
また、図4は、使用者が便座から立ち上がる際の頭部および重心の移動軌跡を表すグラフ図である。
図3(a)に表したように、使用者は、トイレ用手すり100を使用して便座320から立ち上がる際には、まずトイレ用手すり100を掴む(第1のフェーズ)。このとき、身体を引き寄せる力F1と押し上げる力F2とは、身体を動かすほどの力としては発揮されていない。つまり、身体を引き寄せる力F1と押し上げる力F2とは、「無(ゼロ)」に近い状態である。
続いて、図3(b)に表したように、使用者は、トイレ用手すり100を使用者自身の側へ引っ張り、トイレ用手すり100に身体を引き寄せる動作を行う(第2のフェーズ)。このとき、使用者の臀部は、便座320と接触したままである。図3(b)および図4に表したように、使用者は、便座320側にある重心901を脚部上方へ移すことで立位姿勢への移行を始め、身体の重心901は、前方へ移動する。また、頭部903は、前方の斜め下方へ移動する。身体を引き寄せる力F1は、「中」程度である。また、身体を押し上げる力F2は、身体を引き寄せる力F1よりも小さい「小」程度である。
続いて、図3(c)に表したように、使用者は、トイレ用手すり100を下側へ押し、身体を押し上げる動作を行う(第3のフェーズ)。このとき、使用者の臀部は、便座320から離れる。図3(c)および図4に表したように、身体の重心901は、前方の斜め上方へ移動する。また、頭部903は、上方へ移動する。身体を引き寄せる力F1は、第2のフェーズにおいて身体を引き寄せる力F1と略同じ「中」程度である。また、身体を押し上げる力F2は、身体を引き寄せる力F1および第2のフェーズにおいて身体を押し上げる力F2よりも大きい「大」程度である。第3のフェーズは、使用者がトイレ用手すり100に加える力(合力F3)を最も必要とするフェーズである。
続いて、図3(d)に表したように、使用者は、トイレ用手すり100を下側へ押し、起立する動作を行う(第4フェーズ)。このとき、図3(d)および図4に表したように、身体の重心901および頭部903は、上方へ移動する。身体を引き寄せる力F1は、第2および第3のフェーズにおいて身体を引き寄せる力F1よりも小さい「小」程度である。また、身体を押し上げる力F2は、第3のフェーズにおいて身体を押し上げる力F2と略同じ「大」程度である。
このように、使用者は、トイレ用手すり100を使用して便座320から立ち上がる際には、トイレ用手すり100に身体を引き寄せる動作と、身体を押し上げる動作と、を行う必要がある。そのため、使用者がトイレ用手すり100を使用して便座320から立ち上がる動作では、トイレ用手すり100に身体を引き寄せる力F1と押し上げる力F2との両方が必要となる。なお、必要とする力の主成分は、使用者の体勢によって変化する。
図5は、比較例にかかるトイレ用手すりを例示する平面模式図である。
また、図6は、本比較例にかかるトイレ用手すりを使用して使用者が便座から立ち上がる動作を説明するための平面模式図である。
また、図7は、本比較例にかかるトイレ用手すりを使用して使用者が立ち上がり動作を行った場合にトイレ用手すりにかかった荷重(合力)の一例を例示するグラフ図である。 なお、図5(a)は、本比較例にかかるトイレ用手すりを便器200の前方から眺めたときの平面模式図であり、図5(b)は、本比較例にかかるトイレ用手すりを便器200の側方から眺めたときの平面模式図である。また、図7は、トイレ用手すりに荷重センサを取り付けて荷重を測定した結果の一例である。これは、図10、図13、図15、および図16に関して後述するグラフ図についても同様である。
本比較例にかかるトイレ用手すり100aは、図5に表したように、鉛直方向に延在した鉛直部110を有する。一方で、本比較例にかかるトイレ用手すり100aは、傾斜部120および水平部130を有していない。本比較例では、図6(b)に表したように、使用者は、鉛直部110を使用して便座320から立ち上がる動作を行うことができる。
使用者は、鉛直部110を使用して便座320から立ち上がる際、トイレ用手すり100aに身体を引き寄せる動作を行う(第2のフェーズ)。このとき、使用者は、鉛直方向に延在した鉛直部110を掴むため、身体を引き寄せる方向に対して手首の関節の可動範囲が比較的広い向きに鉛直部110を掴むことができる。そのため、図6(a)および図6(b)に表したように、使用者は、身体を引き寄せる際に使用者自身の胴体の方向に比較的大きな力(引き寄せる力F1)をトイレ用手すり100aに加えることができる。
しかしながら、使用者が身体を押し上げる動作および起立する動作を行う際(第3および第4のフェーズ)、身体を押し上げる力F2は、主として使用者の手の平と鉛直部110との間の摩擦力に依存する。言い換えれば、身体を押し上げる力F2は、主として使用者の握力に依存する。そのため、使用者は、身体を押し上げる際に比較的大きな力(押し上げる力F2)をトイレ用手すり100aに加えることは困難である。
そのため、図7に表したように、トイレ用手すり100aにかかる荷重(身体を引き寄せる力F1と押し上げる力F2との合力)は、第4のフェーズにおいて比較的早く低下し、また比較的小さい(図16参照)。さらに、図16に関して後述するように、トイレ用手すり100aにかかる荷重は、第3のフェーズにおいても比較的小さい。これは、第3および第4のフェーズにおいて、使用者をサポートする力が不足していることを意味している。本比較例では、使用者は、便座320から立ち上がる動作の最初から最後まで、より大きな力をトイレ用手すり100aに加え続けることは困難である。
図8は、他の比較例にかかるトイレ用手すりを例示する平面模式図である。
また、図9は、本比較例にかかるトイレ用手すりを使用して使用者が便座から立ち上がる動作を説明するための平面模式図である。
また、図10は、本比較例にかかるトイレ用手すりを使用して使用者が立ち上がり動作を行った場合にトイレ用手すりにかかった荷重(合力)の一例を例示するグラフ図である。
なお、図8(a)は、本比較例にかかるトイレ用手すりを便器200の前方から眺めたときの平面模式図であり、図8(b)は、本比較例にかかるトイレ用手すりを便器200の側方から眺めたときの平面模式図である。
本比較例にかかるトイレ用手すり100bは、図8に表したように、鉛直方向に延在した鉛直部110と、水平方向に延在した水平部130と、鉛直部110と水平部130とに接続され斜め方向に延在する傾斜部120bと、を有する。図8(a)に表したように、本比較例の傾斜部120bは、便器200を前方側からみたときに鉛直方向の下方から上方へ向かって便器200の鉛直中心線200cに接近するように正面視傾斜状には配置されていない。すなわち、本比較例の傾斜部120bは、壁面810に略沿うように配置されている。本比較例では、図9(b)に表したように、使用者は、傾斜部120bを使用して便座320から立ち上がる動作を行うことができる。
使用者は、傾斜部120bを使用して便座320から立ち上がる際、トイレ用手すり100bに身体を引き寄せる動作を行う(第2のフェーズ)。さらに、使用者は、身体を押し上げる動作を行う(第3のフェーズ)。このとき、使用者は壁面810に略沿うように斜め方向に延在する傾斜部120bを掴むため、身体を引き寄せる方向に対する手首の関節の可動範囲は、図5〜図7に関して前述した比較例の鉛直部110を掴む場合よりも狭い。これは、主として人間の骨格や筋肉などの構造に依存する。
そのため、使用者は、壁面810に略沿うように斜め方向に延在する傾斜部120bを掴んだときには、壁面810に略沿う方向に力を加えやすい。これにより、図9(a)に表したように、使用者が傾斜部120bを掴んだときに最も力を加えやすい方向成分F4と、使用者の立ち上がり動作時に最も力を発揮しやすい方向成分(使用者自身の胴体に向かう方向成分)F5と、が異なる。そのため、使用者は、トイレ用手すり100bに身体を引き寄せる際に比較的大きな力(引き寄せる力F1)をトイレ用手すり100bに加えることは困難である。
そのため、図10に表したように、第2および第3のフェーズにおいてトイレ用手すり100bにかかる荷重は、図5〜図7に関して前述したトイレ用手すり100aの場合の第2および第3のフェーズにおける荷重よりも小さい(図16参照)。これは、第2および第3のフェーズにおいて、使用者をサポートする力が不足していることを意味している。つまり、本比較例では、トイレ用手すり100bが壁面810に略沿うように斜め方向に延在する傾斜部120bを有することで、使用者がトイレ用手すり100bに身体を引き寄せる際に比較的大きな力(引き寄せる力F1)をトイレ用手すり100bに加えることが困難であるという新たな特有の課題が生ずる。
一方、使用者は壁面810に略沿うように斜め方向に延在する傾斜部120bを掴むため、身体を引き寄せる動作から押し上げる動作へ移行するときに傾斜部120bの掴み位置を持ち替えることなく手の平を利用して身体を押し上げることができる。そのため、図10に表したように、第4のフェーズにおいてトイレ用手すり100bにかかる荷重は、図5〜図7に関して前述したトイレ用手すり100aの場合の第4のフェーズにおける荷重よりも大きい(図16参照)。これは、第4のフェーズにおいて、使用者をサポートする力が向上したことを意味している。
本比較例では、使用者は、傾斜部120bの掴み位置を持ち替えることなく身体を引き寄せる力F1と押し上げる力F2とをトイレ用手すり100bに加えることができる一方で、便座320から立ち上がる動作の最初から最後まで、より大きな力をトイレ用手すり100bに加え続けることは困難である。
図11は、さらに他の比較例にかかるトイレ用手すりを例示する平面模式図である。
また、図12は、本比較例にかかるトイレ用手すりを使用して使用者が便座から立ち上がる動作を説明するための平面模式図である。
また、図13は、本比較例にかかるトイレ用手すりを使用して使用者が立ち上がり動作を行った場合にトイレ用手すりにかかった荷重(合力)の一例を例示するグラフ図である。
なお、図11(a)は、本比較例にかかるトイレ用手すりを便器200の前方から眺めたときの平面模式図であり、図11(b)は、本比較例にかかるトイレ用手すりを便器200の側方から眺めたときの平面模式図である。
本比較例にかかるトイレ用手すり100cは、図11に表したように、壁面810に対して略垂直方向に延在する水平部131c、133cと、水平部131cと水平部133cとに接続され斜め方向に延在する傾斜部120cと、を有する。図11に表したように、本比較例の傾斜部120cは、壁面810に略沿うように配置されている。なお、傾斜部120cは、鉛直部110であってもよい。すなわち、水平部131c、133cは、鉛直方向の上方と下方とにそれぞれ設けられていてもよい。本比較例では、図12(b)に表したように、使用者は、水平部131cを使用して便座320から立ち上がる動作を行うことができる。
使用者は、水平部131cを使用して便座320から立ち上がる際、トイレ用手すり100cに身体を引き寄せる動作を行う(第2のフェーズ)。さらに、使用者は、身体を押し上げる動作を行う(第3のフェーズ)。このとき、使用者は壁面810に対して略垂直方向に延在する水平部131cを掴むため、身体を引き寄せる方向に対する手首の関節の可動範囲は、図5〜図7に関して前述した比較例の鉛直部110を掴む場合よりも狭い。これは、主として人間の骨格や筋肉などの構造に依存する。
そのため、使用者は、壁面810に対して略垂直方向に延在する水平部131cを掴んだときには、壁面810に略沿う方向に力を加えやすい。これにより、図12(a)に表したように、使用者が水平部131cを掴んだときに最も力を加えやすい方向成分F4と、使用者の立ち上がり動作時に最も力を発揮しやすい方向成分(使用者自身の胴体に向かう方向成分)F5と、が異なる。そのため、使用者は、トイレ用手すり100cに身体を引き寄せる際に比較的大きな力(引き寄せる力F1)をトイレ用手すり100cに加えることは困難である。
そのため、図13に表したように、第2および第3のフェーズにおいてトイレ用手すり100cにかかる荷重は、図5〜図7に関して前述したトイレ用手すり100aの場合の第2および第3のフェーズにおける荷重よりも小さい(図16参照)。これは、第2および第3のフェーズにおいて、使用者をサポートする力が不足していることを意味している。つまり、本比較例では、トイレ用手すり100cが壁面810に対して略垂直方向に延在する水平部131cを有することで、使用者がトイレ用手すり100cに身体を引き寄せる際に比較的大きな力(引き寄せる力F1)をトイレ用手すり100cに加えることが困難であるという新たな特有の課題が生ずる。
一方、使用者は壁面810に対して略垂直方向に延在する水平部131cを掴むため、身体を引き寄せる動作から押し上げる動作へ移行するときに水平部131cの掴み位置を持ち替えることなく手の平を利用して身体を押し上げることができる。そのため、図13に表したように、第4のフェーズにおいてトイレ用手すり100cにかかる荷重は、図8〜図10に関して前述したトイレ用手すり100bの場合の第4のフェーズにおける荷重よりも大きい(図16参照)。これは、第4のフェーズにおいて、使用者をサポートする力がさらに向上したことを意味している。
本比較例では、使用者は、水平部131cの掴み位置を持ち替えることなく身体を引き寄せる力F1と押し上げる力F2とをトイレ用手すり100cに加えることができる一方で、便座320から立ち上がる動作の最初から最後まで、より大きな力をトイレ用手すり100cに加え続けることは困難である。
図14は、本実施形態にかかるトイレ用手すりを使用して使用者が便座から立ち上がる動作を説明するための平面模式図である。
また、図15は、本実施形態にかかるトイレ用手すりを使用して使用者が立ち上がり動作を行った場合にトイレ用手すりにかかった荷重(合力)の一例を例示するグラフ図である。
また、図16は、図7、図10、図13に表した荷重(合力)と、図15に表した荷重(合力)と、の一例を重ね合わせたグラフ図である。
本実施形態にかかるトイレ用手すり100の構造は、図1および図2に関して前述した如くである。図1および図2に関して前述したように、本実施形態では、使用者は、傾斜部120を使用して便座320から立ち上がる動作を行うことができる。
使用者は、傾斜部120を使用して便座320から立ち上がる際、トイレ用手すり100に身体を引き寄せる動作を行う(第2のフェーズ)。さらに、使用者は、身体を押し上げる動作を行う(第3のフェーズ)。このとき、使用者は、便器200を前方側からみたときに鉛直方向の下方から上方へ向かって便器200の鉛直中心線200cに接近するように正面視傾斜状に配置された傾斜部120を掴むため、身体を引き寄せる方向に対する手首の関節の可動範囲は、図8〜図13に関して前述した比較例の傾斜部120bおよび水平部131cを掴む場合よりも広い。これは、主として人間の骨格や筋肉などの構造に依存する。
そのため、使用者は、本実施形態の傾斜部120を掴んだときには、使用者自身の胴体の方向に力を加えやすい。これにより、図14(a)に表したように、使用者が傾斜部120を掴んだときに最も力を加えやすい方向成分F4と、使用者の立ち上がり動作時に最も力を発揮しやすい方向成分(使用者自身の胴体に向かう方向成分)F5と、が一致する。そのため、使用者は、トイレ用手すり100に身体を引き寄せる際により大きな力(引き寄せる力F1)をトイレ用手すり100に加えることができる。
そのため、図15および図16に表したように、第2および第3のフェーズにおいてトイレ用手すり100にかかる荷重は、図5〜図13に関して前述したトイレ用手すり100a、100b、100cの場合の第2および第3のフェーズにおける荷重よりも大きい。これは、第2および第3のフェーズにおいて、使用者をサポートする力が向上したことを意味している。
続いて、使用者は、身体を押し上げる動作を行った後(第3のフェーズ)、起立する動作を行う(第4フェーズ)。このとき、使用者は、便器200を側方側からみたときに鉛直方向の上方から下方へ向かって便器200に接近するように側面視傾斜状に配置された傾斜部120を掴むため、身体を引き寄せる動作から押し上げる動作へ移行するとき及び移行した後に傾斜部120の掴み位置を持ち替えることなく手の平を利用して身体を押し上げることができる。そのため、使用者は、身体を押し上げる際により大きな力(押し上げる力F2)をトイレ用手すり100に加えることができる。
そのため、図15および図16に表したように、第4のフェーズにおいてトイレ用手すり100にかかる荷重は、図5〜図10に関して前述したトイレ用手すり100a、100bの場合の第4のフェーズにおける荷重よりも大きい。そして、第4のフェーズにおいてトイレ用手すり100にかかる荷重は、使用者が便座320から立ち上がる動作の最後まで比較的大きな力として維持される。
本実施形態によれば、使用者は、傾斜部120の掴み位置を持ち替えることなく、より大きな引き寄せ力F1と、より大きな押し上げ力F2と、をトイレ用手すり100に加えることができ、便座320から立ち上がる動作の最初から最後まで、より大きな力をトイレ用手すり100に加え続けることができる。これにより、図8〜図13に関して前述した比較例において新たに生ずる特有の課題を解決することができる。また、使用者が便座320から立ち上がる動作の最初から最後までしっかりサポートすることができる。これにより、使用者が立上がる際にサポートする力のより少ない比較例のトイレ用手すりに比べて、無駄な力み、頭部・体幹部を振子のように反動をつけて立上がる動作を抑制することが可能となる。これにより、トイレへの立座り時に発生する血圧変動を小さく抑える効果があり、トイレ空間での立ちくらみ等の転倒防止に効果を発揮することが予想される。
次に、本発明の他の実施形態について図面を参照しつつ説明する。
図17は、本発明の他の実施形態にかかるトイレ用手すりを表す斜視模式図である。
また、図18は、本実施形態にかかるトイレ用手すりが設置されたトイレ室を例示する平面模式図である。
なお、図18は、トイレ室を右側方から眺めた平面模式図である。
図17および図18に表したように、本実施形態にかかるトイレ用手すり100dは、鉛直方向に延在した鉛直部110と、水平方向に延在した水平部130と、鉛直部110と水平部130とに接続された湾曲部(把持部)140と、を有する。湾曲部140は、便器200を側方側からみたときに上方側に突出した湾曲形状を有する。本実施形態にかかるトイレ用手すり100dは、図1および図2に関して前述したトイレ用手すり100の傾斜部120が湾曲部140に置換された構造を有する。
但し、これだけに限定されず、本実施形態にかかるトイレ用手すり100dは、傾斜部120と、湾曲部140と、の両方を有していてもよい。この場合には、例えば、傾斜部120と、湾曲部140と、は、互いに接続された状態で設けられる。
図18に表したように、湾曲部140は、便器200を側方側からみたときに鉛直方向の上方から下方へ向かって便器200に接近するように側面視傾斜状に配置されている。さらに、図17に表したように、湾曲部140は、便器200を前方側からみたときに鉛直方向の下方から上方へ向かって便器200の鉛直中心線200cに接近するように正面視傾斜状に配置されている(図1参照)。
上方側に突出した湾曲形状の半径Rは、例えば約100〜400mm(ミリメートル)程度である。半径Rが100mmよりも小さい場合あるいは400mmよりも大きい場合には、身体を引き寄せる動作から押し上げる動作へ移行するときに、使用者は、トイレ用手すり100dに加える力の向きを円滑に移行させにくい。なお、半径Rは、例えば約200〜300mm程度であることがより好ましい。
次に、身体を引き寄せる動作から押し上げる動作へ移行するときに湾曲部140にかかる荷重方向の移行について、図面を参照しつつ説明する。
図19は、本実施形態の湾曲部にかかる荷重を表す平面模式図である。
図3および図4に関して前述したように、使用者のサポートを必要とする力の主成分(トイレ用手すりに加える力の方向)は、使用者の体勢によって徐々に変化する。
図19(a)に表したように、使用者は、トイレ用手すり100に身体を引き寄せる動作を行う際には、湾曲部140の内周側の部分140aに指を引っ掛けトイレ用手すり100dを使用者自身の側へ引っ張る。このとき一時点にて観測すると、両力成分の合力、使用者のサポートを必要とする力の主成分は、図19(a)に表した矢印A1のように略水平方向である。
続いて、図19(b)に表したように、使用者は、身体を押し上げる動作を行う際には、湾曲部140の内周側の部分140b、140cに指を引っ掛けトイレ用手すり100dを使用者自身の側へ引っ張りつつ、湾曲部の外周側の部分140dに手の平を押し付けトイレ用手すり100dを下側へ押す。湾曲部140の内周側の部分140b、140cと湾曲部140の外周側の部分140dとを使用者が握ることで摩擦力を生み出し、身体を押上げる動作に必要な鉛直方向下側への力をロスなくトイレ用手すり100dへ伝えている。一方、湾曲部140の内周側の部分140b、140cは、使用者自身の側へ引っ張る力をロスなくトイレ用手すり100dへ伝えることも貢献している。両者の力は、使用者の姿勢によって時々刻々と少しずつ支持点を移行することとなる。このとき一時点にて観測すると、両力成分の合力、使用者のサポートを必要とする力の主成分は、図19(b)に表した矢印A2のように斜め下方である。
続いて、図19(c)に表したように、使用者は、起立する動作を行う際には、湾曲部140の内周側の部分140b、140cに指を引っ掛けつつ、主として湾曲部の外周側の部分140dに手の平を押し付けトイレ用手すり100dを下側へ押す。湾曲部140の内周側の部分140b、140cと湾曲部140の外周側の部分140dとを使用者が握ることで摩擦力を生み出し、身体を押上げる動作に必要な鉛直方向下側への力をロスなくトイレ用手すり100dへ伝えている。このとき一時点にて観測すると、両力成分の合力、使用者のサポートを必要とする力の主成分は、図19(c)に表した矢印A3のように略鉛直方向である。
このように、使用者がトイレ用手すり100dを使用して便座320から立ち上がる動作では、使用者のサポートを必要とする力の主成分は、略水平方向から斜め下方へ移行し、さらに略鉛直方向へ移行する。本実施形態にかかるトイレ用手すり100dは、便器200を側方側からみたときに上方側に突出した湾曲形状を含む湾曲部140を有するため、手首の関節の角度に応じて最も力を発揮しやすい方向がより円滑に変化する。そのため、使用者のサポートを必要とする力の主成分は、より円滑に移行することができる。これにより、使用者は、トイレ用手すり100dの掴み位置を持ち替えることなく、より大きな引き寄せ力F1と、より大きな押し上げ力F2と、をトイレ用手すり100dに連続的に加えることができる。
図20は、本発明のさらに他の実施形態にかかるトイレ用手すりが設置されたトイレ室を例示する斜視模式図である。
また、図21は、本発明のさらに他の実施形態にかかるトイレ用手すりが設置されたトイレ室を例示する平面模式図である。
また、図22は、本発明のさらに他の実施形態にかかるトイレ用手すりが設置されたトイレ室を例示する平面模式図である。
図20に表したトイレ用手すり100eは、鉛直部110と、湾曲部140と、湾曲部140に接続され壁面810に取り付けられた棚板150と、を有する。湾曲部140は、便器200を側方側からみたときに上方側に突出した湾曲形状を有する。使用者は、便座320に着座しているときに棚板150の上面に肘を置くことができる。また、使用者は、鉛直部110を掴んだ状態で身体の向きを変える(身体の方向を反転させる)ことができる。
また、図21に表したトイレ用手すり100fは、図18および図20に関して前述したトイレ用手すり100d、100eの湾曲部140よりも上方まで延在した湾曲部140f(把持部)を有する。本実施形態の湾曲部140fは、便器200を側方側からみたときに上方側に突出した湾曲形状を有する。また、湾曲部140fと離間した位置の壁面810には、棚板410が取り付けられている。使用者は、便座320に着座しているときに棚板410の上面に肘を置くことができる。また、使用者は、湾曲部140の上部を掴んだ状態で身体の向きを変える(身体の方向を反転させる)ことができる。
また、図22に表したトイレ用手すり100gは、鉛直部110と、湾曲部140と、を有する。湾曲部140は、便器200を側方側からみたときに上方側に突出した湾曲形状を有する。トイレ用手すり100gと離間した位置の壁面810には、棚板410が取り付けられている。使用者は、便座320に着座しているときに棚板410の上面に肘を置くことができる。また、使用者は、鉛直部110を掴んだ状態で身体の向きを変える(身体の方向を反転させる)ことができる。
図20〜図22に表したトイレ用手すり100e、100f、100gの湾曲部140、140fは、便器200を側方側からみたときに鉛直方向の上方から下方へ向かって便器200に接近するように側面視傾斜状に配置され、便器200を前方側からみたときに鉛直方向の下方から上方へ向かって便器200の鉛直中心線200cに接近するように正面視傾斜状に配置されている。そのため、図20〜図22に表したトイレ用手すり100e、100f、100gにおいても、使用者は、トイレ用手すり100e、100f、100gの掴み位置を持ち替えることなく、より大きな引き寄せ力F1と、より大きな押し上げ力F2と、をトイレ用手すり100e、100f、100gに連続的に加えることができる。
図23は、本実施形態のさらに他のトイレ用手すりを例示する平面模式図である。
また、図24は、本実施形態にかかるトイレ用手すりが設置されたトイレ室を例示する平面模式図である。
なお、図23(a)は、本実施形態にかかるトイレ用手すりを便器200の前方から眺めたときの平面模式図であり、図23(b)は、本実施形態にかかるトイレ用手すりを便器200の側方から眺めたときの平面模式図である。また、図24は、トイレ室を右側方から眺めた平面模式図である。
図23および図24に表したように、本実施形態にかかるトイレ用手すり100hは、鉛直方向に延在した鉛直部110と、便器200を側方側からみたときに上方側に突出した湾曲形状を有する湾曲部(把持部)140と、湾曲部140の下部141に接続され直線状に形成された直線部(把持部)160と、を有する。図24に表したように、水平方向に対する直線部160の角度θ3は、湾曲部140をその下部141から下方へ仮想的に延伸させた仮想湾曲部145のいずれの接線146の水平方向に対する角度θ4よりも小さい。すなわち、直線部160の延在方向は、湾曲部140をその下部141から下方へ仮想的に延伸させた仮想湾曲部145の延在方向よりも水平方向に近づく。
なお、直線部160は、直線状に形成されていることに限定されず、湾曲部140の曲率半径よりも大きい曲率半径を有し湾曲部140の下部141に接続された延伸部であってもよい。すなわち、本願明細書において、「直線部」という範囲には、湾曲部140の曲率半径よりも大きい曲率半径を有する湾曲状の延伸部が含まれるものとする。
具体的には、直線部160は、湾曲部140の下部141における接線方向に延在し配置されている。図23(b)に表したように、直線部160の長さL1は、湾曲部140の長さよりも短い。直線部160の長さL1は、例えば約20ミリメートル以上60ミリメートル以下である。
ここで、把持部の鉛直方向の長さについて、図面を参照しつつ説明する。
図25は、トイレ用手すりの形状に対するサポート力の検討結果の一例を例示する比較表である。
また、図26は、本実施形態にかかるトイレ用手すりを掴んだときの反力を説明するための平面模式図である。
なお、図25に表した比較表の中の「サポート力のグラフ」において、「引く」は、身体を引き寄せる力を表す。また、「押す」は、身体を押し上げる力を表す。また、「引+押」は、身体を引き寄せつつ押し上げるときの力を表す。図25に表した比較表の中の「正面視」においては、トイレ用手すりを壁面810に支持する支柱を適宜省略している。また、図26(a)は、使用者が把持部の下側部(直線部)を掴んだときの反力を説明するための平面模式図である。図26(b)は、使用者が把持部の上側部(湾曲部)を掴んだときの反力を説明するための平面模式図である。
図25に表した比較表の中の比較例(1)のトイレ用手すりは、鉛直方向に延在した鉛直部と、水平方向に延在した水平部と、を有する。また、比較例(1)のトイレ用手すりは、壁面810(図1あるいは図23参照)に略沿うように配置されている。この場合には、使用者は、身体を引き寄せる動きから押し上げる動きへの移行に際して、トイレ用手すりの掴み位置を持ち替える必要がある。そのため、比較例(1)の「サポート力のグラフ」に表したように、使用者が掴み位置を持ち替えるときに使用者を手すりでサポートできない時間が存在する。
図25に表した比較表の中の比較例(2)のトイレ用手すりは、鉛直方向に延在した鉛直部と、水平方向に延在した水平部と、便器200を側方側からみたときに上方側に突出した湾曲形状を有する湾曲部と、を有する。また、比較例(2)のトイレ用手すりは、壁面810に略沿うように配置されている。この場合には、使用者は、湾曲部の掴み位置を持ち替えることなく身体を引き寄せる力の向きと押し上げる力の向きとを円滑に変化させることができる。しかしながら、トイレ用手すりが壁面810に略沿うように配置されているため、身体を押し上げる方向に対する手首の関節の可動範囲が比較的狭い。そのため、比較例(2)の「サポート力のグラフ」に表したように、身体を押し上げる力が時間の経過とともに漸減する。
図25に表した比較表の中の本実施形態(1)のトイレ用手すりは、例えば図17に関して前述したトイレ用手すり100dと同様に、鉛直部と、便器200を側方側からみたときに上方側に突出した湾曲形状を有する湾曲部と、を有する。また、本実施形態(1)のトイレ用手すりの湾曲部は、便器200を前方側からみたときに鉛直方向の下方から上方へ向かって便器200の鉛直中心線200c(図1参照)に接近するように正面視傾斜状に配置されている。そのため、使用者は、本実施形態(1)の「側面視」に表した位置P1を掴んだ場合には、トイレ用手すりに加える押し上げ力を円滑に変化させることができる。つまり、使用者は、サポートを必要とする力の主成分をより円滑に移行することができる。また、身体を押し上げる方向に対する手首の関節の可動範囲が比較的広い。そのため、本実施形態(1)の「サポート力のグラフ」に表したように、使用者は、より大きな押し上げ力をトイレ用手すりに連続的に加えることができる。
ここで、あらゆる身長の使用者が好みの高さの位置で把持部(湾曲部)を掴むことができるように、把持部の鉛直方向の長さL2をより長く確保することが好ましい。このとき、湾曲部140の曲率半径を大きくすることで把持部の鉛直方向の長さL2をより長くすると、把持部の形状が直線に近づく。すると、使用者は、立ち上がり動作において掴み位置を持ち替えることなく把持部に加える押し上げ力の向きを円滑に変化させることができなくなる。
一方で、湾曲部140の曲率半径を小さく保持しつつ把持部の鉛直方向の長さL2をより長くすると、湾曲部の下側部の延在方向が鉛直方向に近づく。すると、使用者が本実施形態(1)の「側面視」に表した位置P2を掴んだ場合には、手首の関節の可動範囲の比較的狭い方向が鉛直方向(把持部の延在方向)と略平行となる。つまり、身体を押し上げる方向に対する手首の関節の可動範囲が比較的狭い。そのため、立ち上がり動作の途中で手首の関節の可動範囲が限界を超え、使用者が立ち上がり動作の最後まで把持部をしっかりと握り続けることができないことがある。すると、本実施形態(1)の「サポート力のグラフ」に表したように、サポート力が立ち上がり動作の途中で漸減することがある。
これに対して、図25に表した比較表の中の本実施形態(2)のトイレ用手すりは、例えば図23および図24に関して前述したトイレ用手すり100hと同様に、鉛直部と、便器200を側方側からみたときに上方側に突出した湾曲形状を有する湾曲部(把持部)と、湾曲部140の下部に接続され直線状に形成された直線部(把持部)と、を有する。水平方向に対する直線部の角度は、湾曲部をその下部から下方へ仮想的に延伸させた仮想湾曲部のいずれの接線の水平方向に対する角度よりも小さい(図24参照)。すなわち、直線部の延在方向は、湾曲部をその下部から下方へ仮想的に延伸させた仮想湾曲部の延在方向よりも水平方向に近づく。
これによれば、使用者は、本実施形態(2)の「側面視」に表した位置P2を掴んだ場合でも、手首の関節の可動範囲の比較的広い方向が鉛直方向(把持部の延在方向)と略平行となるように把持部を掴むことができる。言い換えれば、使用者は、本実施形態(1)の「側面視」に表した位置P2を掴んだ場合と比較すると、手の甲をより上方へ向けた状態で本実施形態(2)の「側面視」に表した位置P2を掴むことができる。そのため、立ち上がり動作の途中で手首の関節の可動範囲が限界を超えることを抑えることができる。これにより、本実施形態(2)の「サポート力のグラフ」に表したように、使用者は、立ち上がり動作の最後まで把持部をしっかりと握り続けたまま立ち上がり動作を行うことができる。また、図26(a)に表したように、トイレ用手すりに加える押し上げ力あるいはトイレ用手すりから使用者が受ける反力を円滑に変化させることができる。
また、あらゆる身長の使用者に対応させるために把持部の鉛直方向の長さL2をより長く確保した場合でも、湾曲部140の曲率半径を小さく保持することができる。そのため、使用者は、本実施形態(2)の「側面視」に表した位置P1を掴んだ場合には、本実施形態(2)の「サポート力のグラフ」に表したように、立ち上がり動作の最後まで把持部をしっかりと握り続けたまま立ち上がり動作を行うことができる。また、図26(b)に表したように、トイレ用手すりに加える押し上げ力あるいはトイレ用手すりから使用者が受ける反力を円滑に変化させることができる。
また、本発明者の検討の結果、ヒトの手の平の幅は、一般的に約60〜80ミリメートル程度である。そのため、図23に関して前述したように、直線部160の長さL1が例えば約20ミリメートル以上60ミリメートル以下である場合には、使用者は、把持部の下側部を掴むと、直線部160と湾曲部140とを跨って掴むことになる。そのため、使用者が把持部の下側部を掴むと、手の平の少なくとも一部は、直線部160と湾曲部140とにかかる。これにより、使用者は、立ち上がり動作の途中で手首の関節の可動範囲が限界を超えることを防止しつつ、把持部に加える引き寄せ力の向きと押し上げ力の向きとを円滑に変化させることができる。
また、図23に関して前述したように、直線部160が湾曲部140の下部141における接線方向に延在し配置された場合には、使用者は、把持部の下側部において直線部160と湾曲部140との両方をしっかりと掴むことができる。そのため、使用者は、立ち上がり動作の途中で手首の関節の可動範囲が限界を超えることを防止しつつ、把持部に加える引き寄せ力の向きと押し上げ力の向きとを円滑に変化させることができる。
以上、本発明の実施の形態について説明した。しかし、本発明はこれらの記述に限定されるものではない。前述の実施の形態に関して、当業者が適宜設計変更を加えたものも、本発明の特徴を備えている限り、本発明の範囲に包含される。例えば、トイレ用手すり100などが備える各要素の形状、寸法、材質、配置などや傾斜部120および湾曲部140の設置形態などは、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。
また、前述した各実施の形態が備える各要素は、技術的に可能な限りにおいて組み合わせることができ、これらを組み合わせたものも本発明の特徴を含む限り本発明の範囲に包含される。