以下に本発明を実施形態に基づいて詳細に説明する。
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1に係る液体噴射ヘッドの一例であるインクジェット式記録ヘッドの分解斜視図であり、図2は、インクジェット式記録ヘッドの平面図であり、図3は、図2のA−A′線断面図及びその要部拡大断面図である。
図示するように、本実施形態の液体噴射ヘッドの一例であるインクジェット式記録ヘッドIを構成する流路形成基板10には、壁部11によって区画された複数の圧力発生室12が同じ色のインクを吐出する複数のノズル開口21が並設される方向に沿って並設されている。以降、この方向を圧力発生室12の並設方向、又は第1の方向Xと称する。また、流路形成基板10には、圧力発生室12が第1の方向Xに並設された列が複数列、本実施形態では、2列設けられている。この圧力発生室12が第1の方向Xに沿って形成された圧力発生室12の列が複数列設された列設方向を、以降、第2の方向Yと称する。
また、各列の圧力発生室12の第2の方向Yの外側の領域には連通部13が形成され、連通部13と各圧力発生室12とが、各圧力発生室12毎に設けられたインク供給路14及び連通路15を介して連通されている。連通部13は、後述する保護基板30のマニホールド部31と連通して圧力発生室12の列毎に共通のインク室となるマニホールド100の一部を構成する。インク供給路14は、圧力発生室12よりも狭い幅で形成されており、連通部13から圧力発生室12に流入するインクの流路抵抗を一定に保持している。なお、本実施形態では、流路の幅を片側から絞ることでインク供給路14を形成したが、流路の幅を両側から絞ることでインク供給路を形成してもよい。また、流路の幅を絞るのではなく、厚さ方向から絞ることでインク供給路を形成してもよい。さらに、各連通路15は、圧力発生室12の幅方向両側の壁部11を連通部13側に延設してインク供給路14と連通部13との間の空間を区画することで形成されている。すなわち、流路形成基板10には、圧力発生室12の第1の方向Xの断面積より小さい断面積を有するインク供給路14と、このインク供給路14に連通すると共にインク供給路14の第1の方向Xの断面積よりも大きい断面積を有する連通路15とが複数の壁部11により区画されて設けられている。なお、本実施形態では、流路形成基板10には、ノズル開口21に連通する流路として圧力発生室12、連通部13、インク供給路14及び連通路15が設けられており、本実施形態では、これら圧力発生室12、連通部13、インク供給路14、連通路15及び詳しくは後述するマニホールド100(マニホールド部31)を合わせて下流流路と称する。
また、流路形成基板10の開口面側には、第2の方向Yにおいて各圧力発生室12のインク供給路14とは反対側の端部近傍に連通するノズル開口21が穿設されたノズルプレート20が、接着剤や熱溶着フィルム等によって固着されている。本実施形態では、流路形成基板10に圧力発生室12が並設された列を2列設けたため、1つのインクジェット式記録ヘッドIには、ノズル開口21の並設されたノズル列が2列設けられている。
一方、このような流路形成基板10のノズルプレート20とは反対側には、弾性膜50が形成され、この弾性膜50上には、絶縁体膜55が形成されている。さらに、この絶縁体膜55上には、第1電極60と、電気機械変換作用を示す圧電材料である圧電体層70と、第2電極80とが順次積層形成されて、本実施形態の圧力発生素子である圧電アクチュエーター300を構成している。ここで、圧電アクチュエーター300は、第1電極60、圧電体層70及び第2電極80を含む部分をいう。一般的には、圧電アクチュエーター300の何れか一方の電極を共通電極とし、他方の電極及び圧電体層70を各圧力発生室12毎にパターニングして構成する。そして、ここではパターニングされた何れか一方の電極及び圧電体層70から構成され、両電極への電圧の印加により圧電歪みが生じる部分を圧電体能動部という。本実施形態では、流路形成基板10側の第1電極60を圧電アクチュエーター300の共通電極とし、第2電極80を圧電アクチュエーター300の個別電極としているが、駆動回路や配線の都合でこれを逆にしても支障はない。なお、上述した例では、弾性膜50、絶縁体膜55及び第1電極60が振動板として作用するが、勿論これに限定されるものではなく、例えば、弾性膜50及び絶縁体膜55を設けずに、第1電極60のみが振動板として作用するようにしてもよい。また、圧電アクチュエーター300自体が実質的に振動板を兼ねるようにしてもよい。
また、圧電アクチュエーター300の個別電極である各第2電極80には、絶縁体膜55上まで延設された例えば、金(Au)等からなるリード電極90(接続端子)が接続されている。リード電極90は、一端部が第2電極80に接続されていると共に、他端部側が、圧電アクチュエーター300が並設された列と列との間に延設されている。すなわち、リード電極90の他端部側は、第2の方向Yで互いに隣り合う圧電アクチュエーター300の間に延設されている。そして、このリード電極90の延設された他端部は、詳しくは後述する駆動配線200と接続されている。
このような圧電アクチュエーター300が形成された流路形成基板10上、すなわち、第1電極60、絶縁体膜55及びリード電極90上には、マニホールド100の少なくとも一部を構成するマニホールド部31を有する保護基板30が接着剤35を介して接合されている。このマニホールド部31は、本実施形態では、保護基板30を厚さ方向に貫通して圧力発生室12の幅方向に亘って形成されており、上述のように流路形成基板10の連通部13と連通されて各圧力発生室12の共通のインク室となるマニホールド100を構成している。なお、本実施形態では、流路形成基板10にマニホールド100となる連通部13を設けるようにしたが、特にこれに限定されず、例えば、流路形成基板10の連通部13を圧力発生室12毎に複数に分割して、マニホールド部31のみをマニホールドとしてもよい。また、例えば、流路形成基板10に圧力発生室12のみを設け、流路形成基板10と保護基板30との間に介在する部材(例えば、弾性膜50、絶縁体膜55等)にマニホールドと各圧力発生室12とを連通するインク供給路14を設けるようにしてもよい。
また、保護基板30の圧電アクチュエーター300に対向する領域には、圧電アクチュエーター300の運動を阻害しない程度の空間を有する保持部である圧電アクチュエーター保持部32が設けられている。圧電アクチュエーター保持部32は、圧電アクチュエーター300の運動を阻害しない程度の空間を有していればよく、当該空間は密封されていても、密封されていなくてもよい。なお、本実施形態では、圧電アクチュエーター300が並設された列が2列設けられているため、圧電アクチュエーター保持部32を圧電アクチュエーター300の並設された各列に対応してそれぞれ設けるようにした。すなわち、保護基板30には、圧電アクチュエーター保持部32が第2の方向Yに2つ並設されている。
また、保護基板30には、保護基板30を厚さ方向に貫通する貫通孔33が設けられている。貫通孔33は、本実施形態では、2つの圧電アクチュエーター保持部32の間に設けられている。そして、各圧電アクチュエーター300から引き出されたリード電極90の端部近傍は、貫通孔33内に露出するように設けられている。
圧電アクチュエーター300を駆動するための駆動IC等の駆動回路210は、可撓性を有する駆動配線200に実装してある。ここで、駆動配線200は、フィルム状の絶縁体で形成された絶縁層201と、銅等の導電体で形成された導電層と、を具備し、導電層をパターニングすることで配線202が形成されている。
配線202は、絶縁層201の表面に連続的に設けられており、配線202に駆動回路210が実装されている。また、配線202は、駆動配線200(絶縁層201)の下端部において貫通孔33内でリード電極90に電気的に接続されており、図示しない上端部側は、外部の制御回路等に接続される。
このような配線202上には、リード電極90や制御回路との接続領域や駆動回路210との接続領域以外の領域が絶縁性のソルダーレジスト等の被覆部203によって覆われている。すなわち、配線202の被覆部203に覆われていない領域では、配線202が露出されて駆動回路210やリード電極90等が接続される。ちなみに、駆動回路210は、当該駆動回路210が接続された配線202の端子と共にモールド材等で覆うようにしてもよい。
なお、本実施形態に係るインクジェット式記録ヘッドIでは、流路形成基板10に圧力発生室12が第1の方向Xに並設された列を第2の方向Yに2列設けたため、圧電アクチュエーター300が第1の方向Xに並設された列が第2の方向Yに2列設けられている。そして、本実施形態では、圧電アクチュエーター300の列毎に駆動配線200が設けられている。
また、本実施形態では、駆動配線200の配線202とリード電極90とは、異方性導電材220(例えば、異方性導電膜(ACF)や異方性導電ペースト(ACP)などの異方性導電材に含有される導電性粒子)で電気的に接続されている。もちろん、駆動配線の配線とリード電極90との接続は、導電性粒子に限定されず、例えば、半田等の金属材料を溶融させて両者を接続するようにしてもよい。
さらに、図3に示すように、保護基板30上には、封止膜41及び固定板42とからなるコンプライアンス基板40が接合されている。ここで、封止膜41は、剛性が低く可撓性を有する材料(例えば、ポリフェニレンサルファイド(PPS)フィルム)からなり、この封止膜41によってマニホールド部31の一方面が封止されている。また、固定板42は、金属等の硬質の材料(例えば、ステンレス鋼(SUS)等)で形成される。この固定板42のマニホールド100に対向する領域は、厚さ方向に完全に除去された開口部43となっているため、マニホールド100の一方面は可撓性を有する封止膜41のみで封止されている。また、コンプライアンス基板40には、マニホールド100にインクを供給するインク導入口44が設けられている。
本実施形態では、圧電アクチュエーター300が設けられた流路形成基板10、ノズルプレート20、保護基板30及びコンプライアンス基板40が積層されたものを液体吐出部としている。そして、この液体吐出部に設けられた下流流路が、マニホールド100、連通路、インク供給路、圧力発生室12及びノズル開口21となる。
このような液体吐出部のコンプライアンス基板40上には、本実施形態の流路部材であるヘッドケース110が接着剤120を介して接着されている。
ヘッドケース110には、インク導入口44に連通してカートリッジ等の貯留手段からのインクをマニホールド100に供給するインク導入路111が設けられている。すなわち、本実施形態の流路部材であるヘッドケース110には、液体吐出部の下流流路であるマニホールド100にインクを供給する上流流路としてインク導入路111が設けられている。
また、ヘッドケース110には、開口部43に対向する領域に凹形状の逃がし部112(図3参照)が形成され、開口部43のたわみ変形が適宜行われるようになっている。さらに、ヘッドケース110には、保護基板30に設けられた貫通孔33と連通する挿通孔113が設けられており、駆動配線200は、挿通孔113及び貫通孔33内に挿通された状態で、配線基板410の下端部がリード電極90と接続されている。すなわち、本実施形態では、液体であるインクから接着剤120によって隔たれた空間が、挿通孔113及び貫通孔33であり、このインクから接着剤120によって隔たれた空間である挿通孔113及び貫通孔33内に駆動配線200が配置されていることになる。
また、ヘッドケース110をコンプライアンス基板40に接着する接着剤120は、例えば、エポキシ系接着剤、シリコーン系接着剤等を用いることができる。なお、シリコーン系接着剤は、比較的粘度が低く、コンプライアンス基板40やヘッドケース110の接着面の平面度が低くても隙間をなくして、両者の密着度を向上することができるとともに強固に接着することができる。これに対して、エポキシ系接着剤は、比較的粘度が高く、コンプライアンス基板40やヘッドケース110の接着面に平面度が必要となる。コンプライアンス基板40やヘッドケース110の平面度が低いと、接着剤120と接着面との間に隙間が生じ、インクが外部に漏出する虞があると共に接合強度が低下してしまう虞がある。このため、エポキシ系接着剤を用いる場合には、コンプライアンス基板40及びヘッドケース110の接着面の平面度を高くする加工が必要となって高コストになってしまう。したがって、コンプライアンス基板40とヘッドケース110とはシリコーン系接着剤を用いるのが好ましい。
このような接着剤120は、インク導入口44と、インク導入路111との接続部分の周囲に亘って形成されている。また、接着剤120は、貫通孔33及び挿通孔113内で駆動配線200と相対向して配置されている。
そして、接着剤120の駆動配線200に相対向する表面と被覆部203の少なくとも接着剤120側の表面との少なくとも一方には、インクに含まれる成分が接着剤120及び被覆部203より透過し難い材料で形成された保護膜230が設けられている。
本実施形態では、保護膜230は、駆動配線200の被覆部203の接着剤120側の表面に、接着剤120に相対向する領域を含み、当該接着剤120に相対向する領域の周囲に連続して設けられている。
このような保護膜230は、インクに含まれる成分を接着剤120及び被覆部203よりも透過し難い材料で形成されている。このような保護膜230としては、例えば、ポリイミドなどの樹脂材料や、金属材料等を用いることができる。また、保護膜230は、シート状のものを貼付する方法や、メッキ等により成膜する方法などその形成方法は特に限定されない。本実施形態では、ポリイミドシートを被覆部203に貼付することにより保護膜230を形成した。
なお、保護膜230が、インクに含まれる成分を接着剤120及び被覆部203よりも透過し難い材料とは、インクに含まれる成分、例えば、水系インクの場合には水分、溶剤系インクの場合には溶剤などが、接着剤120や被覆部203よりも透過し難い材料のことである。
ちなみに、保護膜230が、インクに含まれる成分を透過し難い材料とは、全く透過しないものも、またインクに含まれる成分を透過するが、接着剤120及び被覆部203よりも透過する量が少ないものを言う。
このように被覆部203の接着剤120に相対向する領域に、インクに含まれる成分を接着剤120及び被覆部203よりも透過し難い材料の保護膜230を設けることで、インクに含まれる成分が接着剤120を介して貫通孔33内に侵入しても、被覆部203がインクに含まれる成分に触れる量を低減することができる。そして、被覆部203がインクに含まれる成分に触れる量を低減することで、被覆部203がインクに含まれる成分と反応、吸収及び透過するのを抑制することができる。ちなみに、被覆部203がインクに含まれる成分と反応すると、被覆部203が破壊されてしまう虞がある。また、被覆部203がインクに含まれる成分を吸収すると被覆部203が膨張して、被覆部203が破壊されてしまう虞がある。そして被覆部203が破壊されてしまうと、被覆部203の機能を保つことができず、配線202が露出されるなどして、配線202の断線や隣り合う配線202同士の短絡(ショート)などが生じる虞がある。本実施形態では、保護膜230を設けることで、被覆部203がインクに含まれる成分に触れるのを抑制することができるため、被覆部203がインクに含まれる成分と反応及び吸収するのを抑制することができ、被覆部203の破壊を抑制することができ、配線202の断線や短絡を抑制することができる。
また、インクに含まれる成分が被覆部203を透過してしまうと、インクに含まれる成分が配線202まで達して、配線202に酸化物や硫化物等の腐食生成物が生成される。例えば、駆動配線200の配線202として銅(Cu)を用いた場合、銅が大気中の水分やソルダーレジスト(被覆部203)に含まれる硫黄等と反応して、酸化物(亜酸化銅)や硫化物(硫化銅)等の腐食生成物を生成する。特にインクとして溶剤が含まれる溶剤系インクを用いると、硫化物からなる腐食生成物が生成され易い。そして、このように生成された腐食生成物が成長することで互いに隣接する配線202同士を短絡(ショート)してしまう虞がある。
本実施形態では、接着剤120や被覆部203よりもインクに含まれる成分が透過し難い材料からなる保護膜230を設けることで、インクに含まれる溶剤や水分等の成分が接着剤120及び被覆部203を介して配線202まで到達する量を低減することができる。したがって、配線202にインクの成分が到達することによる腐食生成物の生成を抑制して、互いに隣り合う配線202同士の短絡を抑制することができる。
このような構成のインクジェット式記録ヘッドIでは、インクカートリッジ等の貯留手段からのインクをインク導入路111及びインク導入口44を介してマニホールド100内に取り込み、マニホールド100からノズル開口21に至るまでの流路内をインクで満たした後、外部から駆動配線200を介して供給された記録信号に従って、各圧力発生室12に対応する各圧電アクチュエーター300に電圧を印加して圧電アクチュエーター300と共に振動板をたわみ変形させることにより、各圧力発生室12内の圧力が高まり各ノズル開口21からインク滴が吐出される。
このように、本実施形態のインクジェット式記録ヘッドIでは、駆動配線200の被覆部203の接着剤120に相対向する領域を含み、当該接着剤120に相対向する領域の周囲に連続して保護膜230を設けることで、上流流路であるインク導入路111から下流流路であるマニホールド100に供給するインクに含まれる成分が接着剤120を介して駆動配線200側に侵入したとしても、保護膜230がインクの成分が被覆部203側に侵入するのを抑制して、被覆部203の破損による配線202の断線や短絡、インクの成分が被覆部203を通過して配線202に到達することによる配線202の短絡等の不具合を抑制することができる。
なお、コンプライアンス基板40とヘッドケース110との接合面の接着剤120が貫通孔33内にはみ出すと、接着剤120と駆動配線200との間隔が短くなったり、接着剤120が駆動配線200に接触してしまう。このように接着剤120と駆動配線200との間隔が短くなったり、接着剤120が駆動配線200に接触すると、インクに含まれる成分が駆動配線200側に移動し易い。したがって、コンプライアンス基板40とヘッドケース110とを接着する接着剤120は駆動配線200側に流れ出し難くする構造とするのが好ましい。ここで、このような例を図4に示す。なお、図4は、本発明の実施形態1に係るインクジェット式記録ヘッドの変形例を示す要部拡大断面図である。
図4に示すように、ヘッドケース110のコンプライアンス基板40との接合面の貫通孔33側には、溝部114が設けられている。この溝部114は、コンプライアンス基板40との接合面と挿通孔113との面とに開口しており、コンプライアンス基板40とヘッドケース110とを接着した接着剤120がはみ出して、この溝部114内に充填されるようになっている。
ヘッドケース110にこのような溝部114を設けることで、接着剤120がコンプライアンス基板40とヘッドケース110との間からはみ出し難くなり、接着剤120と駆動配線200との間隔が短くなってしまうことや、接着剤120が駆動配線200に接触してしまうのを抑制して、インクに含まれる成分が駆動配線200側に移動し難くすることができる。
(実施形態2)
図5は、本発明の実施形態2に係る液体噴射ヘッドの一例であるインクジェット式記録ヘッドの要部拡大断面図である。なお、上述した実施形態と同様の部材には同一の符号を付して重複する説明は省略する。
図5に示すように、本実施形態のインクジェット式記録ヘッドIは、圧電アクチュエーター300等が形成された流路形成基板10、ノズルプレート20、保護基板30及びコンプライアンス基板40を具備する液体吐出部と、流路部材であるヘッドケース110と、を具備する。
ヘッドケース110のコンプライアンス基板40との接合面の挿通孔113側には、溝部114が設けられている。そして、ヘッドケース110とコンプライアンス基板40とは接着剤120を介して接着されており、接着剤120はヘッドケース110の溝部114内に充填されている。
また、圧電アクチュエーター300には、リード電極90等を介して駆動配線200が接続されている。駆動配線200は、絶縁層201と、配線202と、被覆部203とを具備し、配線202に駆動回路210が実装されている。
また、接着剤120の駆動配線200に相対向する面には、保護膜230Aが形成されている。保護膜230Aは、インクに含まれる成分が接着剤120及び被覆部203よりも透過し難い樹脂材料や金属材料等で形成されている。また、保護膜の形成方法は特に限定されず、シート状の保護膜を貼付してもよく、メッキ法やその他の方法によって成膜するようにしてもよい。
ちなみに、保護膜230Aとして、コンプライアンス基板40とヘッドケース110とを接着する接着剤120よりも透過し難い接着剤を用いるようにしてもよい。すなわち、コンプライアンス基板40とヘッドケース110との接着面のインク導入路111側をシリコーン系接着剤からなる接着剤120で接着すると共に、駆動配線200側、すなわち、挿通孔113側をエポキシ系接着剤で接着して、このエポキシ系接着剤を保護膜230Aとしてもよい。
このように、接着剤120側に保護膜230Aを設けることで、インク導入路111及びインク導入口44を通過するインクに含まれる成分が接着剤120を介して貫通孔33及び挿通孔113内に侵入しようとするのを抑制することができる。このため、インクに含まれる成分が被覆部203に到達して、被覆部203を破損することによる配線202の断線や短絡を抑制することができる。また、インクに含まれる成分が被覆部203を透過して配線202に到達して、酸化物(亜酸化銅)や硫化物(硫化銅)等の腐食生成物を生成し、腐食生成物が成長することで配線202同士の短絡を抑制することができる。
なお、本実施形態では、ヘッドケース110に接着剤120の逃し溝である溝部114が形成されたものを例示したが、特にこれに限定されず、本実施形態の保護膜230Aは、例えば、上述した実施形態1の図3に示すようにヘッドケース110に溝部114が設けられていない構成のインクジェット式記録ヘッドIに適用しても同様の効果を奏することができる。もちろん、ヘッドケース110に溝部114を設けることで接着剤120が駆動配線200に近く又は接触するのを抑制することができるため、被覆部203の保護及び配線202の保護をさらに確実に行うことができる。
(実施形態3)
図6は、本発明の実施形態3に係る液体噴射ヘッドの一例であるインクジェット式記録ヘッドの要部拡大断面図である。なお、上述した実施形態と同様の部材には同一の符号を付して重複する説明は省略する。
図6に示すように、本実施形態のインクジェット式記録ヘッドIは、圧電アクチュエーター300が形成された流路形成基板10、ノズルプレート20、保護基板30及びコンプライアンス基板40を具備する液体吐出部と、流路部材であるヘッドケース110とを具備する。
また、本実施形態では、駆動配線200の被覆部203上には、保護膜230が形成されている。駆動配線200及び保護膜230については、実施形態1と同様の部材であるため重複する説明は省略する。
また、貫通孔33内には、吸湿する材料からなる吸湿剤(乾燥剤)からなる除湿剤240が設けられている。除湿剤240としては、水分を吸収(吸着)することができる材料であれば、特に限定されず、例えば、石灰、シリカゲル、塩化カルシウム、五酸化二リン、酸化アルミニウム、モレキュラーシーブ、アロフェン、ゼオライト、クレイ等が挙げられる。
このような構成では、駆動配線200が配置された貫通孔33及び挿通孔113内が除湿剤240によって除湿されるため、例えば、インクに含まれる成分である水分が、接着剤120を介して貫通孔33及び挿通孔113内に侵入したとしても除湿剤240によって吸湿されるため、被覆部203が水分によって破壊されることや、水分が被覆部203を透過して配線202に到達する量を低減することができる。また、インクに含まれる成分である溶剤が、接着剤120を介して貫通孔33及び挿通孔113内に侵入したとしても、除湿剤240が水分を吸湿しているため、溶剤が水分と反応することで生成される腐食生成物が生成され難い。つまり、酸化物や硫化物は、水分と反応して生成されるため、この水分を低減することで、酸化物や硫化物の生成を抑制することができる。
なお、本実施形態では、貫通孔33及び挿通孔113で形成された駆動配線200を保持した空間が、周囲(ノズルプレート20の吐出面の面方向)で外部に開口していない。したがって、除湿剤240を配置する領域は、接着剤120と駆動配線200との間の空間だけに限定されず、例えば、2つの駆動配線200の間等、貫通孔33及び挿通孔113内の何れの場所に配置されていてもよい。ただし、除湿剤240は、接着剤120と駆動配線200との相対向する領域にできるだけ近い位置に配置するのが好ましい。
なお、本実施形態では、上述した実施形態1の図4に示すインクジェット式記録ヘッドIに除湿剤240を設けた構成としたが、特にこれに限定されず、例えば、上述した実施形態1の図3に示すヘッドケース110に溝部114が無い構成であっても除湿剤240を設けることで同様の効果を奏することができる。また、実施形態2に示す保護膜230Aを設けた構成にも本実施形態の除湿剤240を設けることでも同様の効果を奏することができる。
(他の実施形態)
以上、本発明の一実施形態を説明したが、本発明の基本的構成は上述したものに限定されるものではない。例えば、上述した実施形態1及び3では、駆動配線200側に保護膜230を設け、上述した実施形態2では接着剤120側に保護膜230Aを設けるようにしたが、これらを組み合わせるようにしてもよい。すなわち、保護膜230、230Aの両方を同じインクジェット式記録ヘッドIに設けるようにしてもよい。このように2つの保護膜230、230Aを設けることで、インクに含まれる成分が駆動配線200側にさらに行き難くなり、さらに被覆部203がインクの成分によって破壊されて配線202が断線及び短絡するのを抑制することができるとともに、インクの成分が被覆部203を通過して配線202まで到達し難く、配線202に腐食生成物が生成され難く、短絡の発生を抑制することができる。
また、上述した実施形態1及び3では、保護膜230は、駆動配線200の被覆部203の接着剤120側の表面に、接着剤120に相対向する領域を含み、当該接着剤120に相対向する領域の周囲に連続して設けるようにしたが、特にこれに限定されず、被覆部203の表面の全てに設けるようにしてもよい。また、保護膜230を駆動回路210上に連続して設けるようにしてもよい。
さらに、上述した各実施形態では、流路形成基板10に圧力発生室12が並設された列を2列設けたものであるが、この場合の列数には特別な制限はない。一列であっても、3列以上であっても構わない。複数列の場合には少なくとも2列一組を相対向させて設ければよい。
さらに、上述した各実施形態では、圧力発生室12に圧力変化を生じさせる圧力発生素子として、薄膜型の圧電アクチュエーター300を用いて説明したが、特にこれに限定されず、例えば、グリーンシートを貼付する等の方法により形成される厚膜型の圧電アクチュエーターや、圧電材料と電極形成材料とを交互に積層させて軸方向に伸縮させる縦振動型の圧電アクチュエーターなどを使用することができる。また、圧力発生素子として、圧力発生室内に発熱素子を配置して、発熱素子の発熱で発生するバブルによってノズル開口から液滴を吐出するものや、振動板と電極との間に静電気を発生させて、静電気力によって振動板を変形させてノズル開口から液滴を吐出させるいわゆる静電式アクチュエーターなどを使用することができる。
ここで、このようなインクジェット式記録ヘッドIが搭載されるインクジェット式記録装置について説明する。なお、図7は、インクジェット式記録装置を示す概略斜視図である。
図7に示すように、ヘッドユニット1は、インクジェット式記録ヘッドIを具備する(図示なし)。また、ヘッドユニット1は、インク(液体)の貯留手段であるインクカートリッジ2が着脱可能に設けられている。このようなヘッドユニット1は、キャリッジ3に搭載されている。このヘッドユニット1を搭載したキャリッジ3は、装置本体4に取り付けられたキャリッジ軸5に軸方向移動自在に設けられている。
そして、駆動モーター6の駆動力が図示しない複数の歯車およびタイミングベルト7を介してキャリッジ3に伝達されることで、記録ヘッドIを搭載したキャリッジ3はキャリッジ軸5に沿って移動される。一方、装置本体4にはキャリッジ軸5に沿ってプラテン8が設けられており、図示しない給紙ローラーなどにより給紙された紙等の記録媒体である記録シートSがプラテン8に巻き掛けられて搬送されるようになっている。
なお、上述した例では、インクジェット式記録装置IIは、インクジェット式記録ヘッドI(ヘッドユニット1)がキャリッジ3に搭載されて主走査方向に移動するものを例示したが、特にこれに限定されず、例えば、インクジェット式記録ヘッドIが固定されて、紙等の記録シートSを副走査方向に移動させるだけで印刷を行う、所謂ライン式記録装置にも本発明を適用することができる。
また、上述した例では、インクジェット式記録装置IIは、貯留手段であるインクカートリッジ2がキャリッジ3に搭載された構成であるが、特にこれに限定されず、例えば、インクタンク等の貯留手段が装置本体4に固定されて、貯留手段とインクジェット式記録ヘッドIとがチューブ等の供給管を介して接続されていてもよい。また、貯留手段は、装置本体4に固定されるものに限定されず、例えば、インクジェット式記録装置に貯留手段を設けずに、インクジェット式記録装置IIとは別に貯留手段を設け、インクジェット式記録装置IIと貯留手段とをチューブ等の供給管を介して接続するようにしてもよい。
さらに、本発明は、広く液体噴射ヘッド全般を対象としたものであり、例えば、プリンター等の画像記録装置に用いられる各種のインクジェット式記録ヘッド等の記録ヘッド、液晶ディスプレイ等のカラーフィルターの製造に用いられる色材噴射ヘッド、有機ELディスプレイ、FED(電界放出ディスプレイ)等の電極形成に用いられる電極材料噴射ヘッド、バイオchip製造に用いられる生体有機物噴射ヘッド等にも適用することができる。