<第1実施形態>
図1に示す溶液製膜設備10は、ドープ11からフィルム12を製造するためのものであり、ドープ供給装置13と、フィルム製造装置14とを備える。ドープ11は、ポリマーが溶媒に溶けているポリマー溶液である。本実施形態では、ポリマーとしてTAC(セルローストリアセテート)、溶媒としてジクロロメタンとメタノールとブタノールとの混合物を用いているが、ポリマー及び溶媒はこれらに限定されない。本発明で用いることができるポリマー及び溶媒の詳細については後述する。ドープ11には、可塑剤や紫外線吸収剤(以下、UV吸収剤と称する)、レタデーション制御剤等の各種添加剤が含まれていてもよい。
ドープ供給装置13は、ドープ11をフィルム製造装置14へ連続的に供給するためのものである。ドープ供給装置13は、タンク17と、送出ポンプ18と、供給ポンプ21と、圧力計22と、調整バルブ23と、コントローラ24とを備える。ドープ供給装置13は、本実施形態のようにさらにフィルタ25を備えることが好ましく、本実施形態ではフィルタ25とフィルム製造装置14の流延ダイ28とを接続させている。なお、フィルタ25は、圧力計22よりも上流に配してもよい。
上流側から順に配されたタンク17と送出ポンプ18と圧力計22と供給ポンプ21とフィルタ25と、流延ダイ28とは、第1配管L1により接続されている。第1配管L1は送出ポンプ18と圧力計22との間で分岐しており、第1配管L1から分岐した第2配管L2はタンク17に接続する。調整バルブ23はこの第2配管L2に設けられている。なお、以降の説明においては、第1配管L1から第2配管L2が分岐する位置を分岐位置と称し、符号PBを付す。
タンク17は、ドープ11を貯留する貯留部である。このタンク17は、タンク17から送り出されるドープ11の流量(以下、送出流量と称する)と、第2配管L2におけるドープ11の流量(以下、戻し流量と称する)とを独立させる独立部としても機能する。
送出ポンプ18は、タンク17からドープ11を送り出すためのものである。送出ポンプ18はドープ11に圧力をかけて送る(圧送する)。本実施形態では、送出ポンプ18としてギアポンプを用いている。しかし、送出ポンプ18はこれに限定されず、例えば、ダイアフラムポンプ、キャンドポンプ等でもよい。送出ポンプ18によりタンク17から送り出されたドープ11の流路は、供給ポンプ21及びフィルム製造装置14へ延びる第1配管L1と、第1配管L1から分岐した第2配管L2とに、分岐位置PBで分かれる。
供給ポンプ21は、ドープ11を流延ダイ28へ一定の流量で供給するためのものである。供給ポンプ21としては、ギアポンプを用いている。これにより送出ポンプ18により第1配管L1を案内されるドープ11を、供給ポンプ21は一定の流量で送り流延ダイ28へ供給する。供給ポンプ21により流延ダイ28へ供給するドープ11の流量(以下、供給流量と称する)は、流延ダイ28から吐出させるドープ11の単位時間における量に基づき決定する。以下、流延ダイから吐出するドープの単位時間当たりの量を、吐出流量と称する。
フィルタ25は、供給ポンプ21により送られるドープ11をろ過して、ドープ11から異物を除去するためのものである。フィルタ25として本実施形態では金属フィルタを用いている。しかし、フィルタ25は、これに限られず、例えば、ろ紙、リーフフィルタ等を用いてもよい。フィルタ25を通過したドープ11は、フィルム製造装置14の流延ダイ28へ供給される。
送出ポンプ18の下流で第1配管L1から分岐した第2配管L2は、送出ポンプ18からのドープ11の一部をタンク17へ戻すためのものである。調整バルブ23は、戻し流量、つまりタンク17へ戻すドープ11の流量を調整するためのものである。調整バルブ23は開度の調節が可能であり、開とすることで、第1配管L1のドープ11の一部がタンク17へ戻され、開度の調節により戻し流量を調整する。また、調整バルブ23は、開度をコントローラ24に出力する。
圧力計22は、供給ポンプ21の一次側の圧力PA、すなわち供給ポンプ21へ入るドープ11の圧力を検出するためのものである。供給ポンプ21の一次側の圧力を、以下、一次側圧力と称する。圧力計22は、分岐位置PBと供給ポンプ21との間に設けてある。このように、本実施形態では、圧力計22を供給ポンプ21より上流の第1配管L1に設けているが、この態様に限定されない。例えば、圧力計22は供給ポンプ21の内部に設けてもよい。
コントローラ24は、一次側圧力PAを、予め設定した一定の範囲(以下、設定範囲と称する)PS内に制御するためのものである。コントローラ24は、記憶部(図示無し)と、算出部(図示無し)とを有する。記憶部は、調整バルブ23の開度と、入力された上記設定範囲PSとを記憶する。算出部は、記憶部に記憶された設定範囲PSと圧力計22での検出結果とに基づき、一次側圧力PAが設定範囲PS内になる調整バルブ23の開度を算出して、調整バルブ23を調節する。具体的には、記憶部に記憶された設定範囲PSと圧力計22での検出結果との差分を求めて、その差分から、一次側圧力PAが設定範囲PS内になる調整バルブ23の開度を算出して、調整バルブ23を調節する。このように、コントローラ24は、圧力計22での検出結果に基づいて、記憶部と算出部とにより、一次側圧力PAが設定範囲PS内になるように、調整バルブ23の開度を調節する。
フィルム製造装置14は、流延ユニット31と、テンタ32と、ローラ乾燥機33と、巻取機34とを、上流側から順に備える。流延ユニット31は、環状に形成された流延支持体としてのバンド40と、バンド40を支持して長手方向へ走行させる1対のローラ41と、流延ダイ28と、剥取ローラ42とを備える。1対のローラ41の少なくとも一方は周方向に回転し、この回転により、1対のローラ41に巻き掛けられたバンド40は長手方向へ循環走行する。流延ダイ28は、この例では1対のローラ41の一方の上方に配しているが、1対のローラ41の一方と他方との間のバンド40の上方に配してもよい。
流延ダイ28は、供給されてきたドープ11を、バンド40に対向する吐出口28aから連続的に吐出する吐出部である。走行中のバンド40にドープ11を連続的に吐出することにより、ドープ11はバンド40上で流延され、バンド40上に流延膜43が形成される。図1においては、ドープ11がドラム41に接触して流延膜43が形成され始める位置(以下、流延位置と称する)に、符号PCを付す。
1対のローラ41は、周面温度を調節する温度コントローラ(図示せず)を備える。周面温度を調節したローラ41により、バンド40を介して流延膜43は温度を調整される。流延膜43を加熱して乾燥を促進することにより固める(ゲル化する)いわゆる乾燥ゲル化方式の場合には、ローラ41の周面温度は、例えば10℃以上40℃以下の範囲内にする。また、流延膜43を冷却することにより固めるいわゆる冷却ゲル化方式の場合には、ローラ41の周面温度を−10℃以上5℃以下の範囲内にする。こうしたゲル化により流延膜43は搬送可能な程度に固まる。
なお、流延支持体として、バンド40に代えて、ドラム(図示せず)を用いてもよい。この場合には、ドラムに駆動機構を設けて周方向に回転させることにより、周面上に流延膜43を形成する。ドラムを流延支持体として用いる場合には、ドラムは、周面温度を調節する温度コントローラ(図示せず)を備えるものとし、ドラムの周面温度を調節することにより、流延膜43の温度を調整するとよい。
流延ダイ28からバンド40に至るドープ11、いわゆるビードに関して、バンド40の走行方向における上流には、減圧チャンバ(図示無し)が設けられる。この減圧チャンバは、吐出したドープ11の上流側エリアの雰囲気を吸引してこのエリアを減圧する。また、バンド40に対向して、流延膜43の乾燥を促進するための送風機(図示無し)を設けてもよい。
流延膜43を、テンタ32への搬送が可能な程度にまでバンド40上で固くしてから、溶媒を含む状態でバンド40から剥がす。剥取ローラ42は、流延膜43をバンド40から連続的に剥ぎ取るためのものである。剥取ローラ42は、バンド40から剥ぎ取ることで形成されたフィルム12を例えば下方から支持し、流延膜43がバンド40から剥がれる剥取位置PPを一定に保持する。剥ぎ取る手法は、フィルム12を下流側へ引っ張る手法や、剥取ローラ42を周方向に回転させる手法等のいずれでもよい。
バンド40からの剥ぎ取りは、乾燥ゲル化方式の場合には、例えば、流延膜43の溶媒含有率が20質量%以上50質量%以下の範囲にある間に行われる。なお、本明細書においては、溶媒含有率(単位;%)は乾量基準の値であり、具体的には、溶媒の質量をx、フィルム12の質量をyとするときに、{x/(y−x)}×100で求める百分率である。
以上のように流延ユニット31は、ドープ11からフィルム12を形成する。バンド40は流延位置PCと剥取位置PPとを循環して走行することで、ドープ11の流延と流延膜43の剥ぎ取りとが繰り返し行われる。
流延ユニット31とテンタ32との間の搬送路には、フィルム12の乾燥をすすめるための送風機(図示無し)を配してもよい。剥ぎ取られて形成されたフィルム12は、テンタ32に案内される。テンタ32は、長尺のフィルム12の側部を把持するクリップ46と、1対のレール(図示無し)及びチェーン(図示無し)とを備える。クリップ46に代えて、複数のピン(図示無し)が台の上面に起立した姿勢で配され、フィルム12の側部に個々のピンを突き刺してフィルム12を保持するピンプレート(図示無し)を用いてもよい。
レールはフィルム12の搬送路の側部に設置され、1対のレールは離間して配される。チェーンは、原動スプロケット及び従動スプロケット(図示無し)に掛け渡され、レールに沿って移動自在に取り付けられている。クリップ46は、チェーンに所定の間隔で取り付けられており、原動スプロケットの回転により、クリップ46はレールに沿って循環移動する。クリップ46は、テンタ32の入口近傍で、案内されてきたフィルム12の保持を開始し、出口に向かって移動して、出口近傍で保持を解除する。保持を解除したクリップ46は再び入口近傍に移動して、新たに案内されてきたフィルム12を保持する。このように、クリップ46は、フィルム12の各側部を把持して長手方向に搬送する。
テンタ32には、フィルム12の搬送路の上方に送風機47が設けられている。送風機47の下面には、乾燥気体を流出する流出口(図示無し)が形成されており、通過するフィルム12に向けて乾燥気体を吹き出す。なお、同様の構造を有する送風機を、フィルム12の搬送路の下方に設けてもよい。
ローラ乾燥機33は、複数のローラ48と空調機(図示無し)とを備える。複数のローラ48はフィルム12を周面で支持する。フィルム12はローラ48に巻き掛けられて搬送される。空調機は、ローラ乾燥機33の内部の温度や湿度などを調節する。巻取機34は、フィルム12をロール状に巻き取るためのものである。
一次側圧力PAについての前述の設定範囲PSは、本実施形態では、フィルム12の製造を開始する前に求めており、その求め方の一例は以下である。なお、設定範囲PSの下限値をP1、上限値をP2とおく。すなわち、設定範囲PSはP1以上P2以下の範囲である。
供給ポンプ21とフィルタ25との間の第1配管L1を分岐させ、その分岐配管(図示無し)をタンク17に接続する。この分岐配管には、内部の流路を流れるドープ11に気泡が有るか無いかを観察するためののぞき窓を設けている。この分岐配管が設けられた第1配管L1の分岐位置とフィルタ25との間にはバルブ(図示無し)を設け、このバルブと調整バルブ23とを閉とする。送出ポンプ18及び供給ポンプ21を駆動し、供給ポンプ21によるドープ11の流量を一定にした状態で、送出流量を変化させて、送出流量毎に一次側圧力PAを検出する。検出中に流したドープ11は、上記の分岐配管によりタンク17へ戻す。この検出における供給ポンプ21によるドープ11の流量は一定であればよく、例えば前述の供給流量で一定にしてもよいし、前述の供給流量とは異なる流量で一定にしてもよい。
一次側圧力PAが低くなりすぎて上記の分岐配管内を流れるドープ11に気泡が認められた場合の一次側圧力PAをPALとおくときに、PAL×1.1を下限値P1として設定する。一次側圧力PAが高くなりすぎて供給ポンプ21の例えばギア部分でドープ11が漏れる一次側圧力PAをPAHとおくときに、PAH×0.9を上限値P2として設定する。このように、送出流量を小さくしていきドープ11に気泡が確認され始める一次側圧力PAであるPALに1.1を乗じたものをP1、送出流量を大きくしていき供給ポンプ21でドープ11が漏れ始める一次側圧力PAであるPAHに0.9を乗じたものをP2として設定する。以上のようにして設定範囲PSを求める。なお、P1,P2は、使用するドープ11によって異なるので、使用するドープ11について設定する。したがって、互いに異なる複数のドープ11を切り替えてフィルム製造装置14に供することを予定している場合には、用いるドープ11の各々について、P1とP2とを設定する。また、P1,P2は、使用する供給ポンプによって異なるので、用いる供給ポンプ21の各々について設定する。
PSにおける下限値P1はPAL×1.15とすることがより好ましい。上限値P2はPAH×0.85とすることがより好ましい。
上記構成の作用を説明する。予め調製されてタンク17に貯留されているドープ11は、送出ポンプ18によりタンク17から一定の送出流量で送り出され(送出工程)、第1配管L1を流れる。送り出されたドープ11は、分岐位置PBで、フィルム製造装置14に向けて第1配管L1中を案内されるものと、タンク17に向けて第2配管L2中を案内されるものとに分かれる。流延ダイ28へ向けて第1配管L1中を案内されるドープ11は、供給ポンプ21により、フィルタ25を介してフィルム製造装置14の流延ダイ28へ一定の流量で供給される(供給工程)。供給ポンプ21を用いることにより、送出ポンプ18のみによる送液と比べて、第1配管L1における圧力損失が抑制されるのでドープ11はより高精度な一定の流量で流延ダイ28へ供給される。フィルタ25は、流延ダイ28へ向かうドープ11をろ過することにより、ドープ11から異物を除去する。
圧力計22は、図2に示すように、一次側圧力PAを検出し(圧力検出工程)、この検出結果をコントローラ24の算出部へ出力する。コントローラ24の算出部は、入力された検出結果と、記憶部に記憶されている前述の設定範囲PSとを対比し、検出結果の一次側圧力PAが設定範囲PS内、すなわちP1以上P2以下の範囲内であるかを調べる。一次側圧力PAが設定範囲PS内である場合には、送出ポンプ18及び供給ポンプ21との回転数と調整バルブ23の開度とを変化させず、維持する。
一次側圧力PAが設定範囲PS外である場合において、コントローラ24は、一次側圧力PAが上限値P2よりも高いか、下限値P1より低いかのいずれであるかを調べる。一次側圧力PAが上限値P2よりも高い(PA>P2)場合において、調整バルブ23の開度が全開でない場合には、コントローラ24は調整バルブ23の開度を現在よりも大きくする。調整バルブ23の開度がより大きくなることで戻し流量が大きくなり、これにより供給ポンプ21へ流れるドープ11の流量がより小さくなるので一次側圧力PAが低下する。低くなった一次側圧力PAは、圧力計22により新たに検出され、この新たな検出結果が設定範囲PS内である場合には、送出ポンプ18及び供給ポンプ21との回転数と調整バルブ23の開度とを変化させず、維持する。一方、新たな検出結果が上限値P2よりも高く(PA>P2)、調整バルブ23の開度が全開でない場合には、コントローラ24は調整バルブ23の開度をさらに大きくすることにより、供給ポンプ21の一次側圧力PAをさらに低下させる。このように、一次側圧力PAが上限値P2よりも高く、調整バルブ23の開度が全開でない場合には、調整バルブ23の開度をより大きくなるように調節し、このような圧力計22による検出とコントローラ24による調節とを繰り返すことにより、一次側圧力PAを上限値P2以下にする。
一次側圧力PAが上限値P2よりも高い場合において、調整バルブ23の開度が全開である場合には、調整バルブ23の開度をより大きくすることはできないので、コントローラ24は送出ポンプ18の回転数を変えることにより送出流量を現在よりも小さくする。送出流量が小さくなることにより、戻し流量と供給ポンプ21へ流れるドープ11の流量とはより小さくなる。供給ポンプ21へ流れるドープ11の流量が小さくなるので、一次側圧力PAは低下する。圧力計22が新たな一次側圧力PAを検出し、この新たな検出結果が設定範囲PS内である場合には、送出ポンプ18及び供給ポンプ21との回転数と調整バルブ23の開度とを変化させず、維持する。一方、新たな検出結果が依然として上限値P2よりも高い場合には、コントローラ24は上記と同じく、調整バルブ23の開度が全開であるか否かに応じて、調整バルブ23の開度をより大きくするまたは送出流量をより小さくする。このように、圧力計22の検出とコントローラ24による調節とを繰り返すことにより、一次側圧力PAを上限値P2以下にする。
一次側圧力PAが下限値P1よりも低い場合において、調整バルブ23の開度が閉でない場合、すなわち開である場合には、コントローラ24は、調整バルブ23の開度を現在よりも小さくする。調整バルブ23の開度がより小さくなることで戻し流量が小さくなり、これにより供給ポンプ21へ流れるドープ11の流量がより大きくなるので一次側圧力PAが高くなる。高くなった一次側圧力PAは、圧力計22により新たに検出され、この新たな検出結果が設定範囲PS内である場合には、送出ポンプ18及び供給ポンプ21との回転数と調整バルブ23の開度とを変化させず、維持する。一方、新たな検出結果が下限値P1よりも低く、調整バルブ23の開度が閉でない場合には、コントローラ24は調整バルブ23の開度をさらに小さくすることにより、一次側圧力PAを高くする。このように、一次側圧力PAが下限値P1よりも低く、調整バルブ23の開度が閉でない場合には、調整バルブ23の開度をより小さくなるように調節し、このような圧力計22による検出とコントローラ24による調節とを繰り返すことにより、一次側圧力PAを下限値P1以上にする。
一次側圧力PAが下限値P1よりも低い場合において、調整バルブ23の開度が閉である場合には、調整バルブ23の開度をより小さくすることはできないので、コントローラ24は送出ポンプ18の回転数を変えることにより送出流量を現在よりも大きくする。送出流量が大きくなることにより、戻し流量と供給ポンプ21へ流れるドープ11の流量とは大きくなる。供給ポンプ21へ流れるドープ11の流量がより大きくなることで、一次側圧力PAはより高くなる。圧力計22が新たな一次側圧力PAを検出し、この新たな検出結果が設定範囲PS内である場合には、送出ポンプ18及び供給ポンプ21との回転数と調整バルブ23の開度とを変化させず、維持する。一方、新たな検出結果が依然として下限値P1よりも低い場合には、コントローラ24は上記と同じく、調整バルブ23の開度が閉であるか否かに応じて、調整バルブ23の開度をより小さくするまたは送出流量をより大きくする。このように、圧力計22の検出とコントローラ24による調節とを繰り返すことにより、一次側圧力PAを下限値P1以上にする。
以上のように調整バルブ23の開度が全開でない場合と閉でない場合とにおいては、調整バルブ23の開度の調節により戻し流量を調整し、これにより一次側圧力PAを前述の設定範囲PS内に制御する。また、調整バルブ23の開度が全開である場合と閉である場合とにおいては、送出流量の調節により一次側圧力PAを前述の設定範囲PS内に制御する。このように、一次側圧力PAは制御されるから、供給ポンプ21においてはギア等でドープ11の漏れが発生せず、また、キャビテーションも発生しない。
なお、調整バルブ23の開度が全開であるために送出流量の調節をする場合には、一次側圧力PAの以降の制御が調整バルブ23の開度の調節によってすることができる調整バルブ23の調節可能範囲になるまで、送出流量をより小さく調節してもよい。また、調整バルブ23の開度が閉であるために送出流量の調節をする場合においても、同様に、上記の調整バルブ23の調節可能範囲になるまで、送出流量をより大きく調節してもよい。
供給ポンプ21により一定の流量で供給されてくるドープ11は、走行するバンド40に向けて、流延ダイ28から連続的に吐出される。これにより、バンド40上に流延膜43が連続的に形成される(流延工程)。流延膜43は、バンド40上での温度調整等により固まり、溶媒を含んだ状態で、剥取位置PPでバンド40から剥ぎ取られる(剥取工程)。
バンド40から流延膜43を剥ぎ取ることにより形成されたフィルム12は、テンタ32に案内され、クリップ46により側部を把持された状態で搬送される。搬送中のフィルム12は、送風機47から吹き出される乾燥気体により、乾燥を進められる。フィルム12は、テンタ32の下流端でクリップ46による把持を解除されて、ローラ乾燥機33へ案内される。ローラ乾燥機33の各ローラ48に支持されて搬送される間に、フィルム12はさらに乾燥をすすめられる。このように、フィルム12を乾燥する乾燥工程は、テンタ32とローラ乾燥機33との両方で行われる。乾燥したフィルム12は巻取機34でロール状に巻き取られる。以上のようにして、溶液製膜設備10では、ドープ11からフィルム12が製造される。なお、テンタ32よりも下流にスリッタ(図示無し)を配し、クリップ46によるフィルム12の把持跡を切除してもよい。なお、本実施形態においてフィルム12中にマット剤を含有させる場合には、供給ポンプ21とフィルタ25との間の第1配管L1に、マット剤を分散媒に分散した分散液を供給することにより、ドープ11中にマット剤を添加することが好ましい。
<第2実施形態>
フィルム12中に含ませる添加剤を第1配管L1中のドープに加えて、フィルム製造装置14へ供給してもよい。図3に示すドープ供給装置51は、ポリマーが溶媒に溶けているポリマー溶液としての基準ドープ52に添加剤液53を加えることにより流延用のドープ(以下、流延ドープと称する)56をつくり、この流延ドープ56を、ドープ供給装置13と同様にフィルム製造装置14へ供給するためのものである。図3においては、図1の溶液製膜設備10におけるものと同じ装置及び部材については図1と同じ符号を付し、説明を略す。
基準ドープ52は、複数の種類のフィルムを製造する場合に、共通して利用されるものである。本実施形態では、基準ドープ52のポリマーとしてTAC、溶媒としてジクロロメタンとメタノールとブタノールとの混合物を用いているが、ポリマー及び溶媒はこれに限定されない。添加剤液53は、添加剤が溶媒に溶けている溶液である。本実施形態における添加剤は可塑剤であるが、これに代えて、または加えて、UV吸収剤、レタデーション制御剤等であってもよい。
ドープ供給装置51は、ドープ供給装置13に第3配管L3を備える構成としており、さらに、本実施形態のように静止型混合器57と添加用バルブ58とを備えることがより好ましい。第3配管L3は、添加剤液53を案内するためのものである。第3配管L3は、送出ポンプ18と供給ポンプ21との間の第1配管L1に接続させる。本実施形態のように圧力計22を送出ポンプ18の上流の第1配管L1に設けている場合には、送出ポンプ18と圧力計22との間の第1配管L1に、第3配管L3を接続させる。図3においては、第1配管L1と第3配管L3との接続位置に符号PJを付す。
添加用バルブ58は、添加剤液53の流量を調節するためのものである。添加用バルブ58は第3配管L3に設けられ、開度の調節により、第1配管L1中を流れる基準ドープ52に対して加える添加剤液53の流量(以下、添加流量と称する)を調節する。
基準ドープ52と添加剤液53との固形分の濃度(以下、固形分濃度と称する)は、互いに異なっていてもよいが、互いに等しくすることが好ましく、本実施形態でもそうしている。固形分は、フィルム12を構成するもの、すなわちフィルム12の成分である。本実施形態における基準ドープ52の固形分はポリマーであり、添加剤液53の固形分は可塑剤である。なお、「等しい」とは、厳密に同じであることに限定されるものでなく、0.1%以内であればよく、0.05%以内であればさらに好ましい。フィルム12を製造する場合には、基準ドープ52における固形分濃度は15%以上25%以下の範囲内であるのに対し、従来は、添加剤液における固形分濃度は40%以上50%以下の範囲内であり、基準ドープ52の固形分濃度に比べて非常に高くしていた。これに対し、本実施形態において添加剤液53の固形分濃度は、基準ドープ52の固形分濃度と等しくしており、従来の添加剤液におけるよりも非常に低くしている。これにより、例えば後述のように添加剤液53の流量を変えても、流延ドープ56における固形分濃度が変化しないので、安定して流延を継続することができる。なお、上記の固形分濃度(単位;質量%)は、固形分の質量をM1(単位;g)、溶媒の質量をM2(単位;g)とするときに、M1/(M1+M2)×100で求める値である。
静止型混合器57は、基準ドープ52と添加剤液53とを均一な状態に混合するためのものである。静止型混合器57は、接続位置PJと供給ポンプ21との間の第1配管L1に設ける。本実施形態のように圧力計22を送出ポンプ18の上流の第1配管L1に設けている場合には、静止型混合器57を、接続位置PJと圧力計22との間の第1配管L1に設けるとよい。静止型混合器57としては、スタティックミキサやスルーザミキサ等が挙げられる。なお、本実施形態においては静止型混合器57を1台としているが、基準ドープ52と添加剤液53との混合状態が不十分である場合には、静止型混合器57の台数をふやしてもよい。
本実施形態における一次側圧力の設定範囲PSは、流延ドープ56を用いて設定されるものである。設定範囲PSの下限値P1及び上限値P2は流延ドープ56によって異なるので、使用する流延ドープ56について求める。したがって、互いに異なる複数の流延ドープ56を切り替えてフィルム製造装置14に供することを予定している場合には、用いる流延ドープ56の各々について、P1とP2とは設定される。なお、製造が開始されて調整バルブ23と添加用バルブ58との少なくともいずれか一方の開度が調節されることにより、流延ドープ56の組成が変化することがある。しかし、このような場合には、製造の開始前に設定した設定範囲PSを製造中には変えなくてよい。
上記構成の作用を説明する。予め調製されてタンク17に貯留されている基準ドープ52は、送出ポンプ18によりタンク17から一定の送出流量で送り出される(送出工程)。送り出された基準ドープ52は、分岐位置PBで、流延ダイ28に向けて第1配管L1中を案内されるものと、第2配管L2中を案内されるものとに分かれる。
分岐位置PBから第1配管L1中を案内される基準ドープ52には、第3配管L3を案内されてきた添加剤液53が加えられ(添加工程)、静止型混合器57により混合されて、ポリマーと添加剤とが均一な状態に混合された流延ドープ56が得られる。このように添加剤液53は、第1配管L1中の基準ドープ52に加えられる。そのため、フィルム12の種類を切り替える場合には、添加剤液53を他の種類に切り替え、添加剤液53の流量を添加用バルブ58で調整するとよい。この手法によると、製造するフィルム12の種類別にドープを調製して貯留するという必要がない。また、製造するフィルム12の種類を切り替える際に、ドープ供給装置の配管全体を新たなドープに置き換える必要がなく、第3配管L3中と接続位置PJより下流の第1配管L1中の置き換えで足りる。流延ドープ56は、供給ポンプ21により、フィルタ25を介して流延ダイ28に供給される。一方、第2配管L2を案内される基準ドープ52はタンク17へ戻される。
圧力計22により検出された一次側圧力PAが設定範囲PS内である場合には、送出ポンプ18及び供給ポンプ21との回転数と調整バルブ23の開度とを変化させず、維持する。一次側圧力PAが設定範囲PS内でない場合には、第1実施形態と同様に、コントローラ24により一次側圧力PAを設定範囲PS内に制御する。すなわち、調整バルブ23の開度が全開でない場合と閉でない場合とにおいては、調整バルブ23の開度の調節により基準ドープ52の戻し流量を調整し、これにより一次側の圧力PAを前述の設定範囲PS内に制御する。また、調整バルブ23の開度が全開である場合と閉である場合とにおいては、基準ドープ52の送出流量の調節により一次側の圧力PAを前述の設定範囲PS内に制御する。このように、供給ポンプ21の一次側圧力PAは制御されるから、供給ポンプ21においてはギア等で流延ドープ56の漏れが発生せず、また、キャビテーションも発生しない。
ところで、添加剤とポリマーとの質量比は、製造するフィルム12毎に、予め範囲として設定されている。戻し流量の調整または送出流量の調節により、添加剤液53中の添加剤の質量に対する基準ドープ52中のポリマーの質量が、所期の範囲未満になる場合には、添加用バルブ58の開度を現在よりも小さくする。例えば、添加用バルブ58の開度を小さくすることにより、添加流量を現在の0.01倍以上1.0倍未満の範囲内に下げる。これにより添加剤液53と基準ドープ52との流量比率が調節されて、添加剤の質量に対するポリマーの質量が所期の範囲内になる。このように添加剤液53の流量を変化させた場合にも、流延ドープ56の流量が変化する。しかし、この場合においても同様に一次側圧力PAが検出されて設定範囲PS内に制御されるから、供給ポンプ21においてはギア等で流延ドープ56の漏れが発生せず、また、キャビテーションも発生しない。
また、製造するフィルム12毎に、添加剤とポリマーとの質量比とは予め設定されているので、本実施形態のように、基準ドープ52と等しい固形分濃度の添加剤液53を用いる場合には、基準ドープ52よりも高い固形分濃度の添加剤液を用いる従来の場合と比べて、基準ドープ52に対する添加剤液53の添加流量を大きくする。例えば固形分濃度が50%の添加剤液を用いる場合に比べて、添加剤液53の固形分濃度が24%である場合には、基準ドープ52に添加する添加剤液53の添加流量を2倍以上にする。このように添加流量が大きい場合であっても、一次側圧力PAは設定範囲PSを超えて大きくならないよう制御されるから、供給ポンプ21のギア等で流延ドープ56の漏れが発生しない。
さらに、複数種類のフィルム12を切り替えて製造する場合においては、添加剤液53の種類を変えたり、基準ドープ52に対する添加流量を変えたりするなど、互いに異なる複数種類の流延ドープ56が切り替えられて供給ポンプ21によってフィルム製造装置14へ供される。しかし、上記の構成によると、使用に供される複数の流延ドープ56のそれぞれについて設定範囲PSが求められており、その設定範囲PS内に一次側圧力PAが制御されるから、供給ポンプ21においてはギア等で流延ドープ56の漏れが発生せず、また、キャビテーションも発生しない。
供給ポンプ21により、流延ドープ56は、フィルタ25を介してフィルム製造装置14の流延ダイ28へ一定の流量で供給される(供給工程)。供給されてくる流延ドープ11は、走行するバンド40に向けて、流延ダイ28から連続的に吐出され、第1実施形態と同様に、フィルム12が製造される。なお、本実施形態においてフィルム12中にマット剤を含有させる場合には、前述のように、供給ポンプ21とフィルタ25との間の第1配管L1に、マット剤を分散媒に分散した分散液を供給することにより、流延ドープ56中にマット剤を添加することが好ましい。
<第3実施形態>
上記の実施形態は、単層構造のフィルム12を製造するためのいわゆる単層流延の例であるが、複層構造のフィルムを製造するために複数種類のドープを共流延する場合や、単層流延と共流延とを切り替える場合にも本発明は有効である。単層流延と共流延とを切り替える場合には、供給するドープの種類も切り替わる。図4に示すドープ供給装置71は、単層流延による単層構造のフィルム12と共流延による複層構造のフィルムとを切り替えて製造するためにドープを切り替えて供給するためのものである。この例では、共流延は3層構造のフィルムを製造するものとしているが、製造するフィルムの層数は3に限定されず、例えば、2あるいは4以上であってもよい。図4においては、図1,図3に示す装置及び部材と同じものについては図1,図3と同じ符号を付し、説明を略す。
ドープ供給装置71は、単層構造のフィルム12を製造する場合には流延ダイ28へ、3層構造のフィルム(図示無し)を製造する場合には流延ダイ72へ、ドープを供給する。流延ダイ72は、独立して供給される3つのドープを内部で合流させ、合流した状態でひとつの吐出口72aから連続的に吐出する。流延ダイ28に接続する第1配管L1から分岐した第1分岐配管LB1は、流延ダイ72へ接続しており、第1分岐配管LB1が分岐する分岐位置には切り替え用のバルブ73が備えられている。流延ダイ72を備えるフィルム製造設備(図示無し)は、流延ダイ72以外の構成がフィルム製造装置14と同じである。
この例のドープ供給装置71は、フィルム製造装置14と流延ダイ72を備えるフィルム製造装置とにドープを切り替えて供給するものであるが、これに限定されない。例えば、フィルム製造装置14において流延ダイ28と流延ダイ72とを置き換えて単層流延と複層流延とを切り替える場合にもドープ供給装置71は用いることができる。なお、流延ダイ72に代えて、独立して供給される3つのドープを内部で合流させるフィードブロックと、フィードブロックから積層状態で案内されるドープをひとつの吐出口から連続的に吐出する流延ダイとを用いてもよい。
本実施形態においては、第1配管L1から第2配管L2が分岐する位置を第1分岐位置と称して符号PB1を付し、第1配管L1に設けた供給ポンプを第1供給ポンプと称して符号21aを付す。この第1供給ポンプ21aは第1及び第2実施形態の供給ポンプ21と同じ構成とされている。第1配管L1の第1供給ポンプ21aの下流のフィルタは、第1及び第2実施形態のフィルタ25と同じ構成とされており、図4においては符号25aを付す。
ドープ供給装置71は、基準ドープ52から第1流延ドープ75と第2流延ドープ76とをつくり、流延ダイ28と流延ダイ72とに供給するためのものである。第1流延ドープ75としては、基準ドープ52に第1添加剤液77を加えたものと、基準ドープ52に第1添加剤液77と第2添加剤液78とを加えたものとがある。基準ドープ52に第1添加剤液77を加えて得られる第1流延ドープ75は、単層構造のフィルム12を製造するための単層流延に用いられ、流延ダイ28に供給される。基準ドープ52に第1添加剤液77と第2添加剤液78とを加えて得られる第1流延ドープ75は、3層構造のフィルム(図示無し)を製造するための共流延に用いられ、流延ダイ72に供給される。基準ドープ52に第1添加剤液77と第2添加剤液78とを加えて得られる第1流延ドープ75は、具体的には、フィルムを成す3層のうち厚み方向中央の内層を形成する。
第2流延ドープ76は、基準ドープ52と第1添加剤液77と第2添加剤液78との混合物であり、具体的には、基準ドープ52に第1添加剤液77と第2添加剤液78とを加えた第1流延ドープ75に、基準ドープ52に第1添加剤液77を加えた液を加えたものである。第2流延ドープ76は、共流延に使用され、フィルムを成す3層のうち、内層の各面に配されて外部へ露出する層(以下、外層と称する)を形成する。
本実施形態においては、第1添加剤液77は可塑剤が溶媒に溶けている溶液であり、第2添加剤液78は可塑剤とUV吸収剤とが溶媒に溶けている溶液である。この第2添加剤液78は、例えば、可塑剤を含む可塑剤液と、UV吸収剤を含むUV吸収剤液とを混合して得られる。ただし、第1添加剤液77、第2添加剤液78は、これらに限定されず、例えば、可塑剤、UV吸収剤に代えて、または加えて、レタデーション制御剤であってもよい。また、第1添加剤液77と第2添加剤液78との可塑剤は本実施形態では同じものとしてあるが、互いに異なるものであってもよい。
第1添加剤液77と第2添加剤液78とは、基準ドープ52と異なる固形分濃度であってもよいが、等しい固形分濃度であることが好ましく、本実施形態でもそうしている。本実施形態における基準ドープ52の固形分はポリマーであり、第1添加剤液77の固形分は可塑剤であり、第2添加剤液78の固形分は可塑剤とUV吸収剤とである。なお、「等しい」の意味は前述のとおりである。3層構造のフィルムを製造する場合には、基準ドープ52における固形分濃度は15%以上25%以下の範囲内であるのに対し、従来は、第1添加剤液と第2添加剤液とにおける固形分濃度は45%以上50%以下の範囲内であり、基準ドープ52の固形分濃度に比べて非常に高くしていた。これに対し、本実施形態において第1添加剤液77と第2添加剤液78との固形分濃度は、基準ドープ52の固形分濃度と等しくしており、従来の第1添加剤液と第2添加剤液とにおけるよりも非常に低い。これにより、第2実施形態と同様に、第1添加剤液77の流量や第2添加剤液78の流量を変えても、第1流延ドープ75,第2流延ドープ76における固形分濃度が変化しないので、安定して流延を継続することができる。
ドープ供給装置71は、ドープ供給装置51(図3参照)に、静止型混合器を1台、供給ポンプを2台、フィルタを2つ、第4配管L4、第1分岐配管LB1〜第4分岐配管LB4を加えた構成としている。2台の静止型混合器は第1配管L1に直列に備えられ、上流側の一方を第1静止型混合器83、下流側の他方を第2静止型混合器84とする。
第1配管L1には、第3配管L3と第4配管L4とがそれぞれ接続している。第3配管L3は第1添加剤液77を第1配管L1に案内するためのものである。第3配管L3が第1配管L1に接続する位置を第1接続位置PJ1とする。
第4配管L4は、第2添加剤液78を第1配管L1に案内するためのものである。第4配管L4が第1配管L1に接続する位置を第2接続位置PJ2とする。
第3配管L3には添加用バルブ88,第4配管L4には添加用バルブ87が設けられている。第1添加剤液77が基準ドープ52に加えられる場合には、第1添加剤液77は第1配管L1の第1接続位置PJ1で基準ドープ52に合流する。また、第2添加剤液78が基準ドープ52に加えられる場合には、第2添加剤液78は第1配管L1の第2接続位置PJ2で基準ドープ52に合流する。第1静止型混合器83は、第1接続位置PJ1と第2接続位置PJ2との間、第2静止型混合器84は第2接続位置PJ2と圧力計22との間に配され、合流した基準ドープ52と、第1添加剤液77,第2添加剤液78とを均一な状態になるように混合して第1流延ドープ75とする。
第2分岐配管LB2及び第3分岐配管LB3は、第1流延ドープ75を案内して第2流延ドープ76をつくり、この第2流延ドープ76を流延ダイ72へ案内するためのものである。第2分岐配管LB2及び第3分岐配管LB3は、圧力計22の下流の第1配管L1から分岐したものであり、流延ダイ72に接続する。第2分岐配管LB2にはバルブ91と第2供給ポンプ21bとフィルタ25bとが備えられる。第3分岐配管LB3も第2分岐配管LB2と同様に構成されており、バルブ92と第3供給ポンプ21cとフィルタ25cとが備えられている。バルブ91,92は、単層構造のフィルム12を製造する場合には閉にされ、3層構造のフィルムを製造する場合には開にされる。
第2供給ポンプ21b,第3供給ポンプ21cは、第2流延ドープ76を流延ダイ72に、フィルタ25b,25cを介して一定の流量でそれぞれ供給するためのものである。第2供給ポンプ21b,第3供給ポンプ21cは、第1供給ポンプ21aとそれぞれ同様の構成とされており、すなわち第1,第2実施形態における供給ポンプ21と同様の構成である。
第4分岐配管LB4は、第1接続位置PJ1で第1添加剤液77が加えられた基準ドープ52を、第2分岐配管LB2と第3分岐配管LB3とに案内するためのものである。第4分岐配管LB4は、第1静止型混合器83と第2接続位置PJ2との間の第1配管L1から分岐している。第1配管L1から第4分岐配管LB4が分岐する分岐位置を第2分岐位置PB2と称する。この第4分岐配管LB4にはバルブ93が設けられ、第4分岐配管LB4はこのバルブ93の下流で2つに分岐する。分岐した一方は第2分岐配管LB2のバルブ91と第2供給ポンプ21bとの間に接続し、分岐した他方は第3分岐配管LB3のバルブ92と第3供給ポンプ21cとの間に接続する。
本実施形態においては、圧力計22は、第1供給ポンプ〜第3供給ポンプ21a〜21cのすべてにおける一次側圧力PAを検出するためのものである。なお、第2分岐配管LB2と第3分岐配管LB3とには、第2供給ポンプ21bと第3供給ポンプ21cとの各一次側の圧力を検出するための圧力計(図示無し)を、さらに設けてもよい。この場合には、圧力計は、第2分岐配管LB2の第4分岐配管LB4が接続する接続位置と第2供給ポンプ21bとの間と、第3分岐配管LB3の第4分岐配管LB4が接続する接続位置と第3供給ポンプ21cとの間とに、それぞれ設けるとよい。これらの圧力計を圧力計22に加え、これら3つの検出結果に基づきコントローラ24で調整バルブ23の開度を調節することにより、より確実に第1供給ポンプ21a〜第3供給ポンプ21cにおいてはギア等で第1流延ドープ75及び第2流延ドープ76の漏れが発生せず、また、キャビテーションも発生しない。
本実施形態における第1供給ポンプ21a〜第3供給ポンプ21cの一次側圧力の設定範囲PSは、第1流延ドープ75と第2流延ドープ76とを用いて設定されるものである。なお、製造が開始されて調整バルブ23と添加用バルブ87,88との少なくともいずれかひとつの開度が調節されることにより、第1流延ドープ75,第2流延ドープ76の組成が変化することがある。しかし、このような場合には、製造の開始前に設定した設定範囲PSを製造中には変えなくてよい。
上記構成の作用を説明する。予め調製されてタンク17に貯留されている基準ドープ52は、送出ポンプ18によりタンク17から一定の送出流量で送り出される(送出工程)。送り出された基準ドープ52は、第1分岐位置PB1で、流延ダイ28または流延ダイ72に向けて第1配管L1中を案内されるものと、第2配管L2中を案内されるものとに分かれる。
単層構造のフィルム12を製造する場合には、添加用バルブ88を開とし、第1添加剤液77を用いる。また、単層構造のフィルム12を製造する場合には、添加用バルブ87は閉とされる。また、バルブ73の第1配管L1における弁は開、第1分岐配管LB1側の弁は閉とされ、バルブ91〜バルブ93は閉とされる。添加用バルブ87,88を上記の開閉状態とすることにより、第1配管L1に第1添加剤液77は案内されるが、第2添加剤液78は案内されない。第1分岐位置PB1から第1配管L1中を案内される基準ドープ52には、第3配管L3を案内されてきた第1添加剤液77が加えられる(添加工程)。
第1接続位置PJ1で合流した基準ドープ52と第1添加剤液77とは、第1静止型混合器83と第2静止型混合器84とにより混合されて、ポリマーと可塑剤とが均一な状態に混合された第1流延ドープ75が得られる。第1流延ドープ75は、第1供給ポンプ21aにより、フィルタ25aを介して流延ダイ28に供給される。一方、第2配管L2を案内される基準ドープ52はタンク17へ戻される。
第1供給ポンプ21aの一次側圧力PAを圧力計22により検出し、この一次側圧力PAが設定範囲PS内である場合には、送出ポンプ18及び第1供給ポンプ21aの回転数と調整バルブ23の開度とを変化させず、維持する。第1供給ポンプ21aの一次側圧力PAが設定範囲PS内でない場合には、第1実施形態及び第2実施形態と同様に、コントローラ24により第1供給ポンプ21aの一次側圧力PAを設定範囲PS内に制御する。すなわち、調整バルブ23の開度が全開ではない開状態の場合においては、調整バルブ23の開度の調節により基準ドープ52の戻し流量を調整し、これにより第1供給ポンプ21aの一次側の圧力PAを前述の設定範囲PS内に制御する。また、調整バルブ23の開度が全開である場合と閉である場合とにおいては、基準ドープ52の送出流量の調節により第1供給ポンプ21aの一次側の圧力PAを前述の設定範囲PS内に制御する。このように、第1供給ポンプ21aの一次側圧力PAは制御されるから、第1供給ポンプ21aにおいてはギア等で流延ドープ56の漏れが発生せず、また、キャビテーションも発生しない。
単層構造のフィルム12を製造する場合には、第1供給ポンプ21aにより、第1流延ドープ75は、フィルタ25aを介して流延ダイ28へ一定の流量で供給される(供給工程)。供給されてくる第1流延ドープ75は、走行するバンド40に向けて、流延ダイ28から連続的に吐出され、第1実施形態及び第2実施形態と同様に、フィルム12が製造される。
複層構造のフィルムを製造する場合には、添加用バルブ87,88を開とし、第1添加剤液77と第2添加剤液78とを用いる。また、バルブ73の第1配管L1の上流側の弁と第1分岐配管LB1側の弁とは開、第1配管L1の下流側の弁は閉とされ、バルブ91〜バルブ93は開とされる。
添加用バルブ87,88を上記の開閉状態とすることにより、第1配管L1に第1添加剤液77と第2添加剤液78とがそれぞれ案内される。第1分岐位置PB1から第1配管L1中を案内される基準ドープ52には、まず、第3配管L3を案内されてきた第1添加剤液77が加えられる(第1添加工程)。第1接続位置PJ1で合流した基準ドープ52と第1添加剤液77とは、第1静止型混合器83により混合される。この混合液は、第2分岐位置PB2で、第1配管L1中を案内されるものと、第4分岐配管LB4中を案内されるものとに分岐する。
第1配管L1中を案内される上記混合物には、第4配管L4を案内されてきた第2添加剤液78が加えられる(第2添加工程)。第2接続位置PJ2で合流した上記混合液と第2添加剤液78とは、第2静止型混合器84により混合されて、ポリマーと可塑剤とUV吸収剤とが均一な状態に混合された第1流延ドープ75が得られる。第1流延ドープ75は、第1配管L1,第2分岐配管LB2,第3分岐配管LB3に案内される。第2分岐配管LB2と第3分岐配管LB3とを流れる各第1流延ドープ75には、第4分岐配管LB4中を案内されてきた上記混合液がそれぞれ加えられ、均一に混合された第2流延ドープ76が得られる。第1配管L1を流れる第1流延ドープ75と、第2分岐配管LB2,第3分岐配管LB3とをそれぞれ流れる第2流延ドープ76とは、第1供給ポンプ21a〜第3供給ポンプ21cにより、フィルタ25a〜25cを介して流延ダイ72に供給される。一方、第2配管L2を案内される基準ドープ52はタンク17へ戻される。
以上のように、単層構造のフィルム12を製造する場合と複層構造のフィルムを製造する場合とで、添加用バルブ87,添加用バルブ88,バルブ73,バルブ91〜バルブ93は、開閉が切り替えられる。これにより、用いる添加剤液の種類と送液ラインとが切り替わって、製造するフィルムの種類が切り替わる。
この手法によると、製造するフィルムの種類別にドープを調製して貯留するという必要がない。また、製造するフィルムの種類を切り替える際に、ドープ供給装置の配管全体を新たなドープに置き換える必要がなく、第3配管L3の一部と第1接続位置PJ1より下流の第1配管L1中の置き換えで済む。
圧力計22により検出された第1供給ポンプ21a〜第3供給ポンプ21cの一次側圧力PAが設定範囲PS内である場合には、送出ポンプ18及び第1供給ポンプ21a〜第3供給ポンプ21cの回転数と調整バルブ23の開度とを変化させず、維持する。第1供給ポンプ21a〜第3供給ポンプ21cの一次側圧力PAが設定範囲PS内でない場合には、第1実施形態及び第2実施形態と同様に、コントローラ24により第1供給ポンプ21a〜第3供給ポンプ21cの一次側圧力PAを設定範囲PS内に制御する。すなわち、調整バルブ23の開度が全開ではない開状態である場合においては、調整バルブ23の開度の調節により基準ドープ52の戻し流量を調整し、これにより第1供給ポンプ21a〜第3供給ポンプ21cの一次側の圧力PAを前述の設定範囲PS内に制御する。また、調整バルブ23の開度が全開である場合と閉である場合とにおいては、基準ドープ52の送出流量の調節により第1供給ポンプ21a〜第3供給ポンプ21cの一次側の圧力PAを前述の設定範囲PS内に制御する。このように、第1供給ポンプ21a〜第3供給ポンプ21cの一次側圧力PAは制御されるから、第1供給ポンプ21a〜第3供給ポンプ21cにおいてはギア等で第1流延ドープ75,第2流延ドープ76の漏れが発生せず、また、キャビテーションも発生しない。
例えば、供給ポンプ21としてギアポンプ((株)島津製作所製)を用い、下記の処方の基準ドープ52、第2添加剤液78を用いて3層構造のフィルムを製造する場合について詳細に説明する。PAL×1.1をP1、PAH×0.9をP2とすることで、本実施形態での設定範囲PAは、0.1MPa以上0.5MPa以下の範囲と設定されている。なお、基準ドープ52の流量に対して、第2添加剤液78の第2接続位置PJ2における添加流量は10%としている。キャビテーションの発生は、第1配管L1のフィルタ25aの下流と、第2分岐配管LB2のフィルタ25bの下流と、第3分岐配管LB3のフィルタ25cの下流とにそれぞれのぞき窓を設け、これらののぞき窓から目視で観察することにより第1流延ドープ75,第2流延ドープ76中の気泡の有無を確認することで評価している。また、ギア部分での第1流延ドープ75,第2流延ドープ76の漏れも、目視で観察することにより確認している。
基準ドープ52は以下の処方である。溶媒は3つの成分からなる混合物であり、第1成分はジクロロメタン、第2成分はメタノール、第3成分はブタノールである。
TAC 100質量部
(アセチル基置換度は2.86、前に行われたフィルム製造の工程からの回収チップを50質量部含む)
ジクロロメタン 275質量部
メタノール 50質量部
ブタノール 10質量部
第1添加剤液77は、以下の処方である。
可塑剤 23質量部
ジクロロメタン 63質量部
メタノール 12質量部
ブタノール 2質量部
第2添加剤液78は、以下の処方である。
可塑剤 22.7質量部
UV吸収剤 0.3質量部
ジクロロメタン 63質量部
メタノール 12質量部
ブタノール 2質量部
上記の可塑剤は、エタンジオールとアジピン酸との縮合物(数平均分子量1000、水酸基価112mgKOH/g)であり、この縮合物におけるエタンジオール/アジピン酸のモル比は1/1である。上記のUV吸収剤はBASFジャパン(株)製Tinuvin928である。
第1供給ポンプ21a〜第3供給ポンプ21cの一次側圧力PAをコントローラ24により制御して、(PAL×1.1)以上(PAH×0.9)以下になっている場合には、第1供給ポンプ21a〜第3供給ポンプ21cにおいてはギア等で流延ドープ56の漏れが発生せず、また、キャビテーションも発生しない。これに対し、コントローラ24による制御を行わず、第1供給ポンプ21a〜第3供給ポンプ21cの一次側圧力PAが(PAL×1.1)未満の場合には、第1供給ポンプ21a〜第3供給ポンプ21cでキャビテーションが発生する。また、コントローラ24による制御を行わず、第1供給ポンプ21a〜第3供給ポンプ21cの一次側圧力PAが(PAH×0.9)より大きい場合には、第1供給ポンプ21a〜第3供給ポンプ21cのギア部分で第1流延ドープ75,第2流延ドープ76が漏れる。
第2実施形態の場合と同様に、戻し流量の調整または送出流量の調節により、第1添加剤または第2添加剤の質量に対するポリマーの質量が、所期の範囲未満になる場合には、添加用バルブ87,88の開度を現在よりも小さくする。例えば、本実施形態においては、添加用バルブ87,88の開度を小さくするにより、第1添加剤液77、第2添加剤液78の各添加流量を現在の0.05倍以上1.0未満の範囲内に下げる。これにより第1添加剤液77と基準ドープ52との流量比率、第2添加剤液78と、基準ドープ52と第1添加剤液78との混合液との流量比率が調節されて、可塑剤,UV吸収剤の質量に対するポリマーの質量が所期の範囲内になる。このように第1添加剤液77,第2添加剤液78の流量を変化させた場合にも、第1流延ドープ75の流量が変化する。しかし、この例でも、第1実施形態及び第2実施形態と同様に、第1供給ポンプ21a〜第3供給ポンプ21cの一次側圧力PAが検出されて設定範囲PS内に制御されるから、第1供給ポンプ21a〜第3供給ポンプ21cにおいてはギア等で第1流延ドープ75,第2流延ドープ76の漏れが発生せず、また、キャビテーションも発生しない。
また、前述のように、製造するフィルム毎に、可塑剤やUV吸収剤等の添加剤とポリマーとの質量比とは予め設定されている。本実施形態では、基準ドープ52と等しい固形分濃度の第1添加剤液77,第2添加剤液78を用いているから、基準ドープ52よりも高い固形分濃度の添加剤液を用いる従来の場合と比べて、基準ドープ52に対する第1添加剤液77,第2添加剤液78の添加流量を大きくする。このように添加流量が大きい場合であっても、第1供給ポンプ21a〜第3供給ポンプ21cの一次側圧力PAは設定範囲PSを超えて大きくならないよう制御されるので、第1供給ポンプ21a〜第3供給ポンプ21cのギア等で第1流延ドープ75,第2流延ドープ76の漏れが発生しない。
さらに、単層構造のフィルム12と複層構造のフィルムとを切り替えて製造するにあたり、第2添加剤液78の使用が切り替えられ、また、第1添加剤液77と第2添加剤液78の基準ドープ52に対する添加流量は、互いに異なる場合が多い。このため、製造するフィルムの切り替えによって、第1供給ポンプ21aへの第1流延ドープ75の流量と、第2供給ポンプ21b,第3供給ポンプ21cへの第2流延ドープ76の流量とがそれぞれ変化する。しかし、上記の構成によれば、第1流延ドープ75,第2流延ドープ76のそれぞれについて設定範囲PSが求められており、その設定範囲PS内に第1供給ポンプ21a〜第3供給ポンプ21cの一次側圧力PAが制御されるから、第1供給ポンプ21a〜第3供給ポンプ21cにおいてはギア等で第1流延ドープ75,第2流延ドープ76の漏れが発生せず、また、キャビテーションも発生しない。
複層構造のフィルムを製造する場合には、第1流延ドープ75は第1供給ポンプ21aによりフィルタ25aを介して、第2流延ドープ76は第2供給ポンプ21b,第3供給ポンプ21cによりフィルタ25b,25cを介して流延ダイ72へ、それぞれ一定の流量で供給される(供給工程)。供給されてくる第1流延ドープ75と第2流延ドープ76とは、走行するバンド40に向けて、流延ダイ72から連続的に吐出される。これにより、第1流延ドープ75から形成された内層が第2流延ドープ76から形成された外層に挟まれた3層構想のフィルムが製造される。
本実施形態において、単層構造のフィルム12中にマット剤を含有させる場合には、第1供給ポンプ21aとフィルタ25aとの間の第1配管L1に、マット剤を分散媒に分散した分散液を供給することにより、第1流延ドープ75中にマット剤を添加することが好ましい。また、複層構造のフィルム中にマット剤を含有させる場合には、第2供給ポンプ21bとフィルタ25bとの間の第2分岐配管LB2と、第3供給ポンプ21cとフィルタ25cとの間の第3分岐配管LB3との少なくともいずれか一方に、マット剤を分散媒に分散した分散液をそれぞれ供給することにより、第2流延ドープ76中にマット剤を添加することが好ましい。
第1〜第3実施形態で得られる単層構造のフィルム12と第3実施形態で得られる3層構造のフィルムは、ポリマーとして透明なものを用いた場合には、光学フィルムとして利用することができる。光学フィルムとしては、例えば偏光板の保護フィルムや、位相差フィルムが挙げられる。
ポリマーとして透明なものの例としては、セルロースアシレートや環状ポリオレフィン等があり、これらは上記各実施形態で用いることができる。セルロースアシレートについて、詳細を以下に説明する。
<セルロースアシレート>
セルロースアシレートは、セルロースの水酸基をカルボン酸でエステル化している割合、つまりアシル基の置換度(以下、アシル基置換度と称する)が下記式(1)〜(3)の全ての条件を満足するものが特に好ましい。なお、(1)〜(3)において、A及びBはともにアシル基置換度であり、Aにおけるアシル基はアセチル基であり、Bにおけるアシル基は炭素原子数が3〜22のものである。
2.4≦A+B≦3.0・・・(1)
0≦A≦3.0・・・(2)
0≦B≦2.9・・・(3)
セルロースを構成し、β−1,4結合しているグルコース単位は、2位、3位及び6位に遊離の水酸基を有している。セルロースアシレートは、このようなセルロースの水酸基の一部または全部がエステル化されて、水酸基の水素が炭素数2以上のアシル基に置換されたポリマーである。なお、グルコース単位中のひとつの水酸基のエステル化が100%されていると置換度は1であるので、セルロースアシレートの場合には、2位、3位及び6位の水酸基がそれぞれ100%エステル化されていると置換度は3となる。
ここで、グルコース単位で2位のアシル基置換度をDS2、3位のアシル基置換度をDS3、6位のアシル基置換度をDS6として「DS2+DS3+DS6」で求められる全アシル基置換度は2.00〜3.00であることが好ましく、2.22〜2.90であることがより好ましく、2.40〜2.88であることがさらに好ましい。さらに、「DS6/(DS2+DS3+DS6)」は0.32以上であることが好ましく、0.322以上であることがより好ましく、0.324〜0.340であることがさらに好ましい。
アシル基は1種類だけでもよいし、2種類以上であってもよい。アシル基が2種類以上であるときには、そのひとつがアセチル基であることが好ましい。2位、3位、及び6位の水酸基の水素のアセチル基による置換度の総和をDSAとし、2位、3位、及び6位におけるアセチル基以外のアシル基による置換度の総和をDSBとするとき、「DSA+DSB」の値は、2.2〜2.86であることが好ましく、2.40〜2.80であることが特に好ましい。DSBは1.50以上であることが好ましく、1.7以上であることが特に好ましい。そして、DSBは、その28%以上が6位水酸基の置換であることが好ましいが、より好ましくは30%以上、さらに好ましくは31%以上、特に好ましくは32%以上が6位水酸基の置換であることが好ましい。また、セルロースアシレートの6位の「DSA+DSB」の値が0.75以上であることが好ましく、0.80以上であることがより好ましく、0.85以上であることが特に好ましい。以上のようなセルロースアシレートを用いることにより、溶液製膜に用いられるポリマー溶液をつくるために好ましい溶解性が得られる。
炭素数が2以上であるアシル基としては、脂肪族基でもアリール基でもよく、特に限定されない。例えばセルロースのアルキルカルボニルエステル、アルケニルカルボニルエステルあるいは芳香族カルボニルエステル、芳香族アルキルカルボニルエステルなどがあり、これらは、それぞれさらに置換された基を有していてもよい。プロピオニル基、ブタノイル基、ペンタノイル基、ヘキサノイル基、オクタノイル基、デカノイル基、ドデカノイル基、トリデカノイル基、テトラデカノイル基、ヘキサデカノイル基、オクタデカノイル基、iso−ブタノイル基、t−ブタノイル基、シクロヘキサンカルボニル基、オレオイル基、ベンゾイル基、ナフチルカルボニル基、シンナモイル基などを挙げることが出来る。これらの中でも、プロピオニル基、ブタノイル基、ドデカノイル基、オクタデカノイル基、t−ブタノイル基、オレオイル基、ベンゾイル基、ナフチルカルボニル基、シンナモイル基などがより好ましく、プロピオニル基、ブタノイル基が特に好ましい。
ポリマーとしてセルロースアシレートを用いる場合には、ドープ11,流延ドープ56,第1流延ドープ75,第2流延ドープ76の各溶媒としては、セルロースアシレートフィルムを溶液製膜で製造する場合のドープの溶媒として公知のものを用いることができる。例えば、ジクロロメタン、各種アルコール、各種ケトン等である。これらから選ばれる複数を混合した混合物を溶媒として用いてもよい。混合物を溶媒として用いる場合には、セルロースアシレートの良溶媒に貧溶媒を加えた混合物としてもよい。ポリマーとしてセルロースアシレートを用いる場合の添加剤液53,第1添加剤液77,第2添加剤液78の各溶媒は、セルロースアシレートの溶媒と共通の成分をもつことが好ましい。
上記の各実施形態は、吐出部として流延ダイを用いた例であるが、吐出部はこれに限定されない。