JP6048255B2 - レーザ加工装置 - Google Patents

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Description

本技術は、レーザ加工装置に関し、特に、低コストの光学系によりビームスポットを走査しながらレーザ加工できるようにしたレーザ加工装置に関する。
モバイル機器などの小型化、高密度実装化に伴い内蔵する電子部品も微小化しているため、導電体(金属)上にある被膜樹脂(絶縁被膜)も細線化や薄厚化しており、局所的に高品質に除去する加工が従来工法では困難となっている。
従来の機械的な剥き取り工法では、導電体の傷つきや確実に被膜樹脂(絶縁被膜)のみを決められた位置で剥離することができないため、レーザ加工が有望とされている。
レーザ加工においては、加工対象物の表面(主に平面)上をレーザ光のビームスポットを走査することで、任意の位置の被膜樹脂を剥離することができる。このレーザ光のビームスポットを走査する方式としては、一般に、ガルバノスキャナを用いる方式が広く採用されている(特許文献1参照)。
このガルバノスキャナを用いる方式では、コンピュータと連動して、広範囲の面上に自由な走査を高速に精度よく行うことができる。このガルバノスキャナを用いる方式は、主にレーザマーカや、レーザパターニングなどに使用されている。
さらに、ガルバノスキャナを利用した、加工対象物のXY平面の一定範囲のエリアに決まった集光径のビームスポットを保ちながら走査する方式としては、使用するレンズにより大きく2方式がある。
1つはFθレンズを集光に使う方式であり、もう1つは通常の球面レンズを集光に用いて、別の球面レンズをZ軸制御に用いて、集光点の位置を補正する方式である。
特開2012−640号公報
しかしながら、一般的な工業用レーザであるNd:YAG(1μm帯)レーザや、CO2(1μm帯)レーザなどを使用すると、樹脂周辺部や金属表面への劣化を伴うことがある。
また、一般的な工業用レーザであるNd:YAG(1μm帯)レーザや、CO2(1μm帯)レーザは、樹脂材に対しては、非常に吸収率が高く、非熱加工により加工部周辺への影響が少ない紫外線レーザが加工品質としては最適ではあるが、加工部品の付加価値に対して、光源の初期コスト、ランニングコストが高価すぎるため、本目的の用途には適さない。
さらに、要求されるレーザ加工は、比較的精度が不要(加工エッジがシャープである必要がない熱加工)であるにも関わらず、例えば、数mm程度の小型部品の中で数点照射するような場合において、特許文献1で使用されるFθレンズやガルバノスキャナ等を用いた手法は、過剰な仕様であり、高コストな方式となる。
また、要求されるレーザ加工に適したレーザ波長が、例えば産業用途にて一般的な1.06μm付近(Nd:YAGレーザ等)やその高調波(2次、3次、4次)、10.6μm(CO2レーザ等)であれば、その波長で設計されたFθレンズを使用することができ、光学仕様のバリエーションも豊富にある。
しかしながら、一般的でない波長の場合は、新規にFθレンズの設計が必要であり高コストとなる。
さらに、通常の球面レンズを集光に用いて、別の球面レンズをZ軸制御に用いて、集光点の位置を補正する方式であれば、一般的な球面レンズを使用することはできるが3軸の制御が必要でありその分高コストとなる。
本発明はこのような状況に鑑みてなされたものであり、特に、低コストの光学系によりビーム走査によるレーザ加工を実現できるようにするものである。
本発明の一側面のレーザ加工装置は、レーザ光を発生するレーザ光源と、前記レーザ光源により発生されたレーザ光を加工対象物に対して集光させる集光レンズと、前記集光レンズを前記レーザ光の光軸に対して直交する面内であって、前記加工対象物から所定の距離の面内を、前記光軸から所定のシフト量までの範囲内で集光レンズをシフトさせるように駆動する集光レンズ駆動部とを備え、前記所定のシフト量は、前記光軸から前記所定のシフト量にだけシフトさせたときにおける前記加工対象物上のレーザ光の光学歪みが、前記集光レンズによる前記レーザ光の焦点位置より前記集光レンズに近い位置で、かつ、前記集光レンズの中心位置が前記レーザ光の中心であるときの前記レーザ光により前記加工対象物を加工可能な限界の距離におけるレーザ光の光学歪みと略同一となるように設定される。
これにより、レーザ光の集光精度(=照射強度)に対して要求される加工品質の許容範囲が比較的広い用途のレーザ加工であって、かつ、集光レンズの中心軸近傍の任意の数箇所の位置にレーザ照射を行う加工装置において、加工対象物に対するビームスポットの走査を低コストの光学系の構成により実現することが可能となる。
前記集光レンズ駆動部を制御する制御部をさらに含ませるようにすることができ、前記制御部には、前記集光レンズを用いた光学系の光学計算によるスポットダイアグラムを利用して、前記所定の距離、および前記所定のシフト量を設定させるようにすることができる。
これにより、集光レンズを、加工対象物から所定の距離であって、前記レーザ光の光軸に対して直交する面内において、前記光軸から前記所定のシフト量までの距離の範囲でシフトさせることで、加工位置となるレーザスポットを走査することが可能となり、加工対象物の位置を変えることなく、複数の加工位置で加工を施すことが可能となる。
前記レーザ光源には、波長が1.9μmより長く、3.0μmよりも短いレーザ光を発生させるようにすることができる。
前記レーザ光の波長は、第1の融点の第1の物質に対して吸収率が低く、前記第1の融点よりも低い第2の熱分解点の第2物質に対して吸収率が高い特性を有しており、この両物質に対する吸収率の特性が前記波長が1.9μmより長く、3.0μmよりも短い範囲以外の波長と比較して相対的に大きい波長として選択される。これにより、加工対象物を構成する第1物質を傷つけることなく、第1物質を被覆している第2物質を除去することが可能となる。
前記レーザ光源により発生される前記レーザ光には、Er:YAGレーザ光、Cr,Tm,Ho:YAGレーザ光、およびTmファイバレーザ光を含ませるようにすることができる。
これにより、レーザ光の波長が1.9μmより長く、3.0μmよりも短いレーザ光を発生することが可能となり、結果として、加工対象物を構成する第1物質を傷つけることなく、第1物質を被覆している第2物質を除去することが可能となる。
前記加工対象物は、第1の融点の第1物質の上に、前記第1の融点よりも低い熱分解点の第2物質が付加されたものとすることができる。
前記加工対象物は、導電体である金属を含む第1物質が、樹脂からなる第2物質により被覆された電線とすることができる。
これにより、加工対象物である電線の導電体である第1物質を傷つけることなく、導電体を被覆している樹脂性の第2物質を除去することが可能となる。
前記導電体である金属を含む第1物質は、アルミニウム、スズメッキ、およびニッケルメッキを含む導電体とすることができ、前記樹脂からなる第2物質は、ポリアミド、ポリウレタン、ポリエステル、およびフェノール樹脂を含むようにすることができる。
これにより、加工対象物を、導電体である第1物質と、その第1の物質を被覆している被覆樹脂である第2物質とからなる電線とすることができ、電線の使用にあたって、導電体である第1物質から、第1物質を被覆樹脂である第2物質を除去して使用することが可能となる。
前記集光レンズ駆動部には、前記レーザ光の光軸に対して直交する面内で、前記集光レンズを第1の方向にシフトさせる第1ステージと、前記第1の方向と平行ではない第2の方向にシフトさせる第2ステージとを含ませるようにすることができる。
これにより、レーザ光の集光精度(=照射強度)に対して要求される加工品質の許容範囲が広い用途のレーザ加工であって、かつ、集光レンズの中心軸近傍の任意の数箇所の位置にレーザ照射を行う加工において、加工対象物に対して任意の位置にビームスポットを走査させて加工することが可能となる。
前記集光レンズ駆動部には、前記レーザ光の光軸に対して直交する面内で、前記集光レンズを、前記集光レンズの中心と異なる位置を中心として回転させる回転ステージを含ませるようにすることができる。
これにより、レーザ光の集光精度(=照射強度)に対して要求される加工品質の許容範囲が広い用途のレーザ加工であって、かつ、集光レンズの中心軸近傍の任意の数箇所の位置にレーザ照射を行う加工において、加工対象物に対して所定の位置を中心とした円周上の位置にビームスポットを走査させて加工することが可能となる。
前記集光レンズ駆動部には、前記レーザ光の光軸に対して直交する面内で、前記集光レンズを載せて回転する回転ステージと、前記回転ステージに当接して回転するカムと、前記回転ステージを前記カムに当接するように押圧する押圧部とを含ませるようにすることができる。
これにより、レーザ光の集光精度(=照射強度)に対して要求される加工品質の許容幅が広い用途のレーザ加工であって、かつ、集光レンズの中心軸近傍の任意の数箇所の位置にレーザ照射を行う加工において、加工対象物に対して、予めカムの形状により設定される位置にビームスポットを走査させて加工することが可能となる。
本発明の一側面においては、レーザ光源によりレーザ光が発生され、集光レンズにより前記レーザ光源により発生されたレーザ光が加工対象物に対して集光され、レンズ駆動部により前記集光レンズが前記レーザ光の軸に対して直交する面内を、前記軸から所定の距離の範囲で駆動され、前記加工対象物は、第1の融点の第1物質の上に、前記第1の融点よりも低い第2の融点の第2物質が付加されたものとされ、前記所定の距離、および前記所定のシフト量は、前記集光レンズを前記加工対象物から前記所定の距離であって、かつ、前記光軸から前記所定のシフト量にだけシフトさせたときにおける前記加工対象物上のレーザ光の光学歪みが、前記集光レンズによる前記レーザ光の焦点位置よりレーザ光源に近い位置で、かつ、前記集光レンズの中心位置が前記レーザ光の中心であるときの前記レーザ光により前記加工対象物より前記第2物質を除去可能な限界距離におけるレーザ光の光学歪みと略同一となるように設定される。
本発明の一側面によれば、レーザビームの集光精度(=照射強度)に対して要求される加工品質の許容幅が広い用途のレーザ加工であって、かつ、集光レンズの中心軸近傍の任意の数箇所の位置にレーザ照射を行う加工において、加工対象物に対する加工位置に設定されるビームスポットの走査機構を低コストに実現することが可能となる。
本発明を適用したレーザ加工装置の一実施の形態の構成例を示す図である。 図1の集光レンズ駆動部の動作を説明する図である。 コマ収差および像面湾曲を説明する図である。 従来のビームスポットを走査させるための構成を説明する図である。 ビームスポットを走査させるためのインフォーカス面とシフト量を設定する処理を説明する図である。 ビームスポットの断面形状がビームスポットの走査により変化することを説明する図である。 ビームスポットの断面形状がビームスポットの走査により変化することを説明する図である。 ビームスポットを走査させるためのインフォーカス面とシフト量を設定する処理を説明するフローチャートである。 集光レンズ駆動部の第1の実施の形態の構成例を説明する図である。 集光レンズ駆動部の第2の実施の形態の構成例を説明する図である。 集光レンズ駆動部の第3の実施の形態の構成例を説明する図である。 ワイヤの芯線の材質となる金属の種別毎のレーザ光の周波数毎の吸収率を説明する図である。 ワイヤの被覆樹脂の材質となる樹脂の種別毎の赤外光の吸収帯を説明する図である。 Nd:YAGレーザ光とEr:YAGレーザ光とのそれぞれをワイヤに照射したときの樹脂温度上昇および金属温度上昇を説明する図である。 本発明を適用したレーザ加工装置の変形例を示す図である。
[レーザ加工装置の構成例]
図1は、本発明を適用したレーザ加工装置の構成例を示す図である。図1のレーザ加工装置11は、レーザ光を加工対象物であるワイヤ(導電体に樹脂製の被覆が施された電線)12の所定の位置に照射することにより、所定の位置の被覆樹脂を剥離する加工を施すものである。ワイヤ12は、例えば、アルミニウム、銅、鉄、スズメッキ、およびニッケルメッキを含む導電体を芯線として、その周りを、例えば、ポリアミド、ポリウレタン、ポリエステル、およびフェノール樹脂などからなる樹脂により被覆された、いわゆる電線または信号線などである。また、レーザ加工装置11は、例えば、狭い範囲に複数のワイヤが設けられているような場合、集光レンズの中心位置を光軸に対してシフトさせることにより駆動可能に構成されており、集光レンズがシフトすることにより、レーザ光のレーザスポットを走査させることで、加工対象物を移動させることなく、複数のワイヤに対して、任意の必要箇所において被覆樹脂を剥離する加工を施す。加工対象物であるワイヤは、上述したように複数であってもよいし、当然のことながら1本であってもよい。
レーザ加工装置11は、ガイド用可視レーザ光源21、レーザ光源22、ビームエキスパンダ23、ミラー24、集光レンズ駆動部25、集光レンズ26、および制御部27を備えている。
ガイド用可視レーザ光源21は、レーザ光源22により発生されるレーザ光のガイド用の可視光からなるレーザ光を発生し、レーザ光源22により発生されるレーザ光と同様にビームエキスパンダ23、ミラー24、および集光レンズ26に向けて照射される。そして、ガイド用可視レーザ光源21により発生されたガイド用レーザ光が集光レンズ26により集光されて、加工対象物であるワイヤ12上に照射されることにより、照射位置が確認される。
レーザ光源22は、加工に必要とされるレーザ光を発生し、ビームエキスパンダ23に向けて出射する。ここで発生されるレーザ光は、例えば、固体レーザであるEr:YAGレーザ光(波長:2.94μm)、若しくはCr,Tm,Ho:YAGレーザ光(波長:2.08μm)、またはファイバレーザであるTmファイバレーザ光(波長:1.95μm)などである。尚、レーザ光源22により発生されるレーザ光は、ワイヤ12の導電体の被覆樹脂のみを除去し、導電体にダメージを与えないレーザ光であることが望ましく、例えば、波長として1.9μm乃至3.0μmの範囲のレーザ光が望ましく、これを満たす限りレーザ光は、上述したレーザ光に限るものではない。また、レーザ光源22より発生されるレーザ光として、どのようなものが適切であるのかについて、図12乃至図14を参照して、後述するものとする。
ビームエキスパンダ23は、レーザ光源22により発生されたレーザ光を所定の倍率の平行光束に拡張してミラー24を介して集光レンズ26に照射する。尚、ビームエキスパンダ23は、レーザ光源22により発生されるレーザ光の光束径に応じて倍率が設定されるものであるが、レーザ光源22より発生される光束径によっては不要となることがある。
集光レンズ26は、ミラー24を介してビームエキスパンダ23より入射される平行光束を、加工対象物であるワイヤ12上において加工可能なビームスポットとするように集光する。尚、集光レンズ26については、図1においては、1枚のレンズにより構成される場合について示されているが、ミラー24を介してビームエキスパンダ23より入射される平行光束を、加工対象物であるワイヤ12上において加工可能なビームスポットとするように集光できる光学系が構成される限り、これ以外の光学系であってもよく、例えば、複数枚数のレンズにより、光学系全体として集光レンズ26と同等の機能が実現できればよい。
また、集光レンズ26は、集光レンズ駆動部25により、レーザ光の光軸に対して直交する面内において、光軸から所定のシフト量の範囲で駆動可能な構成とされており、この駆動により、ビームスポットの位置を変化させることで、加工位置を走査することが可能である。制御部27は、集光レンズ駆動部25の動作を制御し、集光レンズ26のレーザ光の光軸の方向であるZ軸方向の移動量、および光軸方向に対して直交する平面上の座標位置を示すX軸方向、およびY軸方向の移動量を制御する。また、制御部27は、集光レンズ26の光学データに基づいて、Z軸方向の移動量、並びに、X軸方向およびY軸方向の移動量の制限値を設定する設定処理を実行し、設定した制限値の情報に基づいて、集光レンズ駆動部25を制御し、集光レンズ26を駆動させる。尚、集光レンズ26のZ軸方向の移動については、設定時において駆動されるのみであり、加工処理時にレーザスポットを走査させる際には、光軸に対して直交する面内のX軸方向およびY軸方向にシフトするのみである。また、集光レンズ26のZ軸方向の移動機構は、図5において後述するZ軸方向の位置調整をする目的としてワイヤ12に相当する移動機構があれば無くても構わない。
すなわち、図2で示されるように、集光レンズ駆動部25は、例えば、入射されるレーザ光の光軸Lと、集光レンズ26の中心とが同軸であるような場合、加工対象物であるワイヤ12上におけるビームスポット中心位置が位置C1であるものとする。ここで、集光レンズ駆動部25により集光レンズ26(実線)が集光レンズ26’(点線)に移動されると、ビームスポット中心を構成するレーザ光の軌道が変化し、ビームスポット中心が位置C1から位置C2に変化する。このような変化により加工位置が変化するため、加工対象物であるワイヤ12を移動させることなく、複数の位置を加工することが可能となる。
尚、図2においては、光軸Lに対して直交する面であって、加工対象物であるワイヤ12が存在する位置の面が、XY平面として表現されており、レーザ光の光軸Lに平行な方向(図中上方)がZ軸であるものとして表現されている。ここで、図中右下部のバツ印は、紙面に対して奥側がY軸方向であることを示しており、X軸が図中右方向であることを示している。
また、このような構成において、集光レンズ26は、ワイヤ12の加工範囲に対して曲率半径が比較的大きなレンズを使用することが望ましい。これは、曲率半径が小さすぎると、例えば、図3の左部で示されるように、集光レンズ26の焦点距離上の光軸に対して垂直な面となる焦点面FPにおいて、集光レンズ26の中心軸に対して所定の角度を成す方向から入射される光により、コマ収差が生じるためである。すなわち、図3の光線L1乃至L5のうち、一点鎖線で示される集光レンズ26の中心位置から遠い位置で入射する光線L5については、焦点面FPにおいて、集光レンズ26の中心位置で入射している光線L3よりも中心位置から距離Kだけ離れた位置に投影される。コマ収差は、曲率半径の大きなレンズでは生じ難いので、集光レンズ26については、曲率半径が比較的大きなものが望ましい。
また、図3の右部における点線で示されるような、様々な方向から入射される光束が集光される位置により構成される像面湾曲より、焦点面FPより集光レンズ26からの距離が近い、インフォーカス面IFP上の、加工対象物であるワイヤ12上に加工を施すことが可能なレーザスポットを構成するように設定する。このようにすることで、像面湾曲により生じる焦点の拡がり(ボケ)の影響と、上述したコマ収差の影響が相殺され、ワイヤ12上におけるビームスポットの位置が変化してもレーザ光の強度を変化しないようにすることが可能となる。
尚、図3の右部においては、集光レンズ26に対して光線L11乃至L16が入射されており、実線で示される相互に平行である光線L11,L12からの角度における焦点位置が焦点位置F1であり、点線で示される相互に平行である光線L13,L14からの角度における焦点位置が焦点位置F2であり、一点鎖線で示される相互に平行である光線L15,L16からの角度における焦点位置が焦点位置F3であることが示されている。また、それぞれ異なる方向からの光線における焦点位置F1乃至F3が、いずれも点線で示される曲線状となることから像面湾曲が生じることが示されている。さらに、焦点面FPに対して、最も焦点位置として近い焦点位置F3に対応する位置であって、焦点面FPと平行な面がインフォーカス面IFPとして示されている。また、焦点面FPとインフォーカス面IFPとの距離と同一であって、焦点面FPを挟んだ反対側の、焦点面FPよりも集光レンズ26より奥側の面が、アウトフォーカス面OFPとして示されている。
集光レンズ26は、結果として、比較的安価な曲率半径の大きな球面レンズにより構成することが可能となり、加工位置のレーザスポットを走査可能なレーザ加工装置の、レーザスポットの走査に必要とされる光学系の構成にかかるコストを低減することが可能となる。
すなわち、これまで加工位置のレーザスポットを走査するには、図4の左部で示されるように、ビームエキスパンダ31で所定の光径に拡張されたレーザ光を、図示せぬコンピュータにより制御されるガルバノスキャナ32で方向を変えながらFθレンズ33を用いて集光することでレーザスポット位置を変化させていた。
または、図4の右部で示されるように、Fθレンズ33に代えて、球面レンズ34,35を集光レンズとして用いることにより、球面レンズ35を図中の矢印方向に移動させることで、レーザ光のZ軸方向の距離を制御して、レーザスポット位置を変化させていた。
いずれの構成においても、高精度に制御することが可能であるが、ワイヤ12における被覆樹脂を除去するといった比較的精度の要求レベルが低いレーザ加工装置には、過剰な高コストな構成となる。
さらに、Fθレンズ33については、レーザ加工に適したレーザ光の波長が、例えば産業用途にて一般的な1.06μm付近(Nd:YAG等)やその高調波(2次、3次、4次)、10.6μm(CO2)であれば、その波長で設計されたFθレンズを使用することができ、光学仕様のバリエーションも豊富にあるので、比較的低コストなものを選択することが可能である。
しかしながら、図1のレーザ光源22で発生されるレーザ光の波長については、これらの一般的なレーザ光とは異なる波長であることから、新規にFθレンズの設計が必要であり非常に高額となる。
また、Fθレンズ33に代えて、球面レンズ34,35を集光レンズとして用いる方式であれば一般的な球面レンズを使用することはできるが3軸の制御が必要でありその分高コストとなる。
これに対して、図1のレーザ加工装置11における集光レンズ26については、上述したように比較的安価に作製可能な、曲率半径の比較的大きなレンズを採用することが可能である。また、集光レンズ26を駆動する方式については、レーザ光の光軸に対して直交するインフォーカス面内をシフトさせるように駆動させるのみでよいため、比較的安価な駆動方式で集光レンズ駆動部25を構成することが可能となる。
[集光レンズと加工対象物との距離、および集光レンズのシフト量の設定]
次に、集光レンズ26と加工対象物であるワイヤ12までの距離、および集光レンズ26の中心を基準とする、光軸に直行するインフォーカス面におけるシフト量の設定方法について説明する。
ここで、図5の上段で示されるように、レーザ光Lの光軸LXと同一の位置に中心が設定された集光レンズ26を透過したレーザ光Lが合焦するZ軸上の位置を焦点面Z=0とする。また、レーザ光Lによりワイヤ12の金属製の被覆樹脂を除去するのに必要な加工品質が実現され得る限界位置となる、Z軸方向に集光レンズ26から最も近い、光軸LXに直交する面を、インフォーカス面Z=−Z1とする。また、焦点面Z=0からのZ軸上の距離が同一で、かつ、インフォーカス面とはZ軸上で逆方向となる、光軸LXに直交する面をアウトフォーカス面Z=Z1であるものとする。尚、以降において、加工品質が許容範囲内の限界となるインフォーカス面Z=−Z1については、特に、焦点深度とも称するものとする。
さらに、図5の下段で示されるように、レーザ光Lの光軸LXから、集光レンズ26の中心位置をX方向にシフト量X1、または−X1だけシフトさせたとき、レーザ光Lが集光されることにより生成されたビームスポットにより許容範囲が限界となるZ軸方向の位置をインフォーカス面Z=−Z2に設定する。すなわち、図5の上段において実線で示される集光レンズ26が、光軸LXに対して、例えば、図5の下段で示されるように、実線で示される集光レンズ26’のように、その中心位置がX軸方向にシフト量X=X1だけシフトすると、光軸LXで入射したレーザ光Lは、図中の実線で示されるように集光されて、点線で示されるように、集光レンズ26’を透過したのち光軸LX1となり、レーザスポット位置がインフォーカス面Z=−Z2に変化する。尚、図5の下段で示されるように、集光レンズ26の光軸LXに対する対称性から、シフト量X=−X1だけ集光レンズ26がシフトし、集光レンズ26”となった場合、光軸LXは、光軸LX2へと変化する。
すなわち、球面レンズとして構成されるものと想定した場合、レンズの曲率半径に対応して像面湾曲により、シフト量X1の大きさに応じたレーザスポットの形状に光学歪みが生じる。ここで、光学歪みとは、集光レンズ26の収差により生じる歪みである。例えば、図6の左部で示されるように、集光レンズ26の中心位置が光軸LXと同一の位置である場合には、図6の中央部で示されるように、加工対象物であるワイヤ12が存在することが仮定されるインフォーカス面Zにおいて、真円に近い形状のレーザスポットSP1が構成される。一方、集光レンズ26の中心位置が、光軸LXから所定のシフト量だけシフトすると、図5の下部で示されるように、光軸が光軸LX1へと変化することにより、図6の右部で示されるようにレーザスポットSP2が構成される。このように略真円のレーザスポットSP1は、光学歪みが生じることにより、レーザスポットSP2のような形状に変化している。
レーザ光Lによりワイヤ12の金属製の被覆樹脂を除去するのに必要な加工品質は、このレーザスポットの光学歪みと、その大きさに応じて低下する。従って、このレーザスポットに基づいた加工品質が維持可能な焦点深度と、シフト量とに基づいて、集光レンズ26と加工対象物であるワイヤ12との距離を設定することができる。
このようなレーザスポットの大きさおよび形状の歪みを評価するものとして、スポットダイアグラムが使用される。スポットダイアグラムとは、点光源より集光レンズに多数の光線追跡を行い、評価面における通過光線の座標分布を示したものである。すなわち、集光レンズ26のスポットダイアグラムの場合、光学的に集光されるレーザ光の光学歪み収差を示す分布であり、例えば、図7で示されるようなものである。
図7の上段の3個のスポットダイアグラムは、いずれもシフト量X=0であって、それぞれ左から、Z軸方向にインフォーカス面Z=−Z1を評価面としたときのもの、Z軸方向に焦点面Z=0を評価面としたときのもの、Z軸方向にアウトフォーカス面Z=Z1を評価面としたときのものである。図7の下段の3個のスポットダイアグラムは、それぞれ左から、X軸方向にシフト量X=−X1ときのインフォーカス面Z=Z2を評価面としたもの、X軸方向にシフト量X=0を評価面としたときのインフォーカス面Z=Z2を評価面としたもの、X軸方向にシフト量X=X1としたときのインフォーカス面Z=Z2を評価面としたものである。各スポットダイアグラムにおける、円周上の8点、および中心の1点で示されるスポット径が、スポットダイアグラムにより表現されるレーザスポットである。このレーザスポットの形状の面積が大きいほど、また形状の歪みが大きいほど、加工品質が低下することを示している。
ここで、図7のスポットダイアグラムは、レーザ光が、波長2.94μm、直径2mm、焦点距離(集光レンズ26から焦点面Z=0までの距離)が50mmの単レンズにより集光した例であり、Z1=0.2mm,Z2=0.1mm,X1=1mmである場合の例を示している。
すなわち、例えば、図7の左上で示されるインフォーカス面Z=−Z1におけるレーザスポット径が、加工品質の最低限を満たしている場合、図7の下段で示される3個のスポットダイアグラムから、いずれにおいてもレーザスポットが、左上におけるインフォーカス面Z=−Z1における場合よりも小さいので、加工品質が満たされるものと見なすことができる。
従って、スポットダイアグラムを用いて、焦点面Z=0から、加工品質が最低限保証されるインフォーカス面Z=−Z1を求め、さらに、このときのレーザスポットに相当するレベルにまでレーザスポットが歪むシフト量X=X1の範囲、およびこのときのインフォーカス面Z=−Z2を設定することで、加工範囲を設定することができる。すなわち、インフォーカス面Z=−Z2上で、かつ、光軸を中心としてシフト量X=X1までの加工範囲内であれば、異なる加工位置が設定されるような場合であっても、加工対象物であるワイヤ12を移動させることなく、集光レンズ26を移動させることで、加工位置を変化させて、複数の加工位置を加工することが可能となる。
[設定処理]
そこで、上述したインフォーカス面Z=−Z2、およびシフト量X=X1の設定処理について説明する。尚、ここで、制御部27は、集光レンズ26のレンズデータに基づいてスポットダイアグラムを計算し、計算結果に基づいて設定処理を実行するものとするが、光学的な測定結果に基づいてスポットダイアグラムを生成して、設定処理を実行するようにしてもよい。
ステップS1において、制御部27は、レンズデータに基づいてスポットダイアグラムを算出し、算出結果に基づいて、シフト量X=0におけるインフォーカス面Z=−Z1を算出する。すなわち、制御部27は、Z軸方向に値を変化させながら、スポットダイアグラムを算出し、焦点面Z=0から最も遠い、集光レンズ26よりの加工品質が最低限保証されるインフォーカス面Z=−Z1のスポットダイアグラムを記憶する。
ステップS2において、制御部27は、レンズデータに基づいて、シフト量X、およびインフォーカス面Zを変化させながらスポットダイアグラムを算出し、算出結果に基づいて、インフォーカス面Z=−Z1のスポットダイアグラムに基づいたビームスポットが、同一となるシフト量X=X1を求めると共に、このときのインフォーカス面Z=Z2を求める。
以上の処理により、制御部27は、集光レンズ駆動部25を制御して、集光レンズ26を求めたインフォーカス面Z=−Z2上を、光軸LXから集光レンズ26の中心位置までのシフト量がX=X1までの範囲で駆動させる。結果として、集光レンズ駆動部25により集光レンズ26が駆動可能な範囲内において、レーザ光を照射することが可能な範囲内に、加工対象物であるワイヤ12を配置することで、加工対象物であるワイヤ12を移動させることなく、複数の加工箇所を所定の加工品質で加工することが可能となる。このとき、加工対象物であるワイヤ12は、複数であってもよく、それぞれ同一の加工位置であってもよいし、それぞれが異なる加工位置であってもよい。
[集光レンズ駆動部の第1の実施の形態の構成例]
次に、図9のブロック図を参照して、集光レンズ駆動部25の第1の実施の形態の構成例について説明する。
図9の集光レンズ駆動部25は、集光レンズ26を支持し、レーザ光Lに対して直交する面内において、図中の左右方向に伸縮するステージ41、およびステージ41を支持し、図中の上下方向に伸縮するステージ42を備えている。ステージ41,42は、それぞれがレーザ光Lに対して直交する面内において、直交する方向に伸縮することにより集光レンズ26を駆動させる。
ステージ41,42は、図示せぬステッピングモータ、サーボモータ、またはボイスコイルモータなどにより駆動し、制御部27がモータコントローラとして機能し、位置が制御される。
このような構成によりインフォーカス面Z=−Z2内の任意の位置に集光レンズ26をシフトさせることが可能となり、結果として、インフォーカス面Z=−Z2、およびシフト量X=X1でシフト可能な範囲内において、任意の加工位置で加工処理を施すことが可能となる。尚、ステージ41,42の駆動方向は、インフォーカス面Z=−Z2内の任意の位置に移動可能であって、かつ、同一方向でない限り、必ずしも直交していなくてもよい。
[集光レンズ駆動部の第2の実施の形態の構成例]
次に、図10のブロック図を参照して、集光レンズ駆動部25の第2の実施の形態の構成例について説明する。
図9の集光レンズ駆動部25については、レーザ光の光軸に対して直交する2次元平面内の任意の位置に設定可能な構成例について説明してきたが、例えば、加工位置が特定の円周上に限られているような場合、集光レンズ26を集光レンズ26の中心とは異なる位置を中心として回転させるように駆動しても良い。
すなわち、図10の集光レンズ駆動部25は、図示せぬモータにより回転し、レーザ光を透過させる円板状の回転ステージ51上に、回転ステージ51の中心に、集光レンズ26の所定の位置を固定し、図中の矢印で示されるように、回転させることで、集光レンズ26,26’,26”で示されるような順序で移動させることにより駆動させる。このとき、回転ステージ51の中心位置に固定される、集光レンズ26の位置は、加工位置、および上述した設定処理により求められたシフト量X=X1に応じて設定される。また、回転ステージ51を回転させるモータは、ステッピングモータ、サーボモータ、またはボイスコイルモータなどからなり、制御部27がモータコントローラとして機能し、位置が制御される。
このような構成によりインフォーカス面Z=−Z2内の所定の円周上の位置に集光レンズ26をシフトさせることが可能となり、結果として、インフォーカス面Z=−Z2、およびシフト量X=X1でシフト可能な範囲内において、所定の円周上の任意の加工位置で加工処理を施すことが可能となる
[集光レンズ駆動部の第3の実施の形態の構成例]
次に、図11のブロック図を参照して、集光レンズ駆動部25の第3の実施の形態の構成例について説明する。
図10の集光レンズ駆動部25については、回転ステージ51により回転されるとき構成される円周上の任意の位置に集光レンズ26を駆動させることが可能な構成例について説明してきたが、例えば、加工位置が特定の円周上ではない場合、集光レンズ26を乗せた回転ステージに対して所定の方向からテンションを掛けて、カムに当接させ、このカムを回転させることで集光レンズ26を駆動させるようにしてもよい。
すなわち、図11の集光レンズ駆動部25は、図示せぬモータにより回転するカム61の側面に、集光レンズ26を同軸上に載せた、透明な回転ステージ64の側面部が当接するようにバネ62−1,62−2,63が、図中の右方向にテンションを掛けることにより、カム61が図示せぬモータの回転に伴って、回転ステージ64の側面部と当接する位置が変化することで、カム61の断面形状に応じて、集光レンズ26を駆動させるものである。尚、このカム61の断面形状は、当接することにより駆動される回転ステージ64上の集光レンズ26が集光したレーザスポットが加工位置を通るように設定される。また、カム61を回転させるモータは、ステッピングモータ、サーボモータ、またはボイスコイルモータなどからなり、制御部27がモータコントローラとして機能し、位置が制御される。
このような構成によりインフォーカス面Z=−Z2内のカム61の形状により特定される軌道上の所定の位置に集光レンズ26をシフトさせることが可能となり、結果として、インフォーカス面Z=−Z2、およびシフト量X=X1でシフト可能な範囲内において、カム61の形状により特定される軌道上の任意の加工位置で加工処理を施すことが可能となる
[レーザ光源により発生されるレーザ光について]
次に、レーザ光源22により発生されるレーザ光について説明する。
図1のレーザ加工装置11は、加工対象物であるワイヤ12に対して、構成する導電体からなる芯線を傷付けることなく、被覆樹脂を除去する加工処理を施すものである。従って、レーザ光に求められる条件は、被覆樹脂を確実に除去できるものであり、かつ、芯線に傷をつけないものであることが必須となる。
レーザ光における被覆樹脂の除去加工のメカニズムは、次のようなものである。すなわち、所定の周波数のレーザ光が照射されることにより、被覆樹脂が有機化合物の分子結合の振動と共鳴して、エネルギ吸収が生じ、これに伴った温度上昇が発生する。やがてこの熱により融点、および沸点に達すると、被覆樹脂は、瞬間的に気化、または昇華して分解することになるため、結果として除去されることになる。この被覆樹脂が瞬間的に気化、または昇華して分解する温度は、一般に熱分解点と呼ばれ、アブレーションとも呼ばれる。
ここで、吸湿性の高い被覆樹脂では、含有する水分の蒸発、体積膨張によって、樹脂構造自体を蒸散させるのに役立つ効果も生まれるため、より除去が容易となる。また、絶縁被膜である被覆樹脂を完全に除去して導電体の表面を露出させるためには、一定量以上の照射エネルギが必要であるが、導電体である金属の加工閾値以上、すなわち、金属の融点を超える温度上昇を発生させると、導電体表面の劣化が生じる。
そこで、芯線である導電体を劣化させることなく、被覆樹脂を確実に除去できるレーザ光は、導電体である金属の加工閾値を超えない照射エネルギで、被覆樹脂を除去可能なレーザ光である必要がある。
ワイヤ12の芯線を構成する導電体は、一般に、銅、アルミ、鉄、スズメッキ、およびニッケルなどである。そこで、これらの加工閾値を超えないレーザ光として、これらの芯線を構成する導電体に吸収され難い波長のレーザ光を選択する必要がある。
図12は、ワイヤ12の芯線を構成する主な導電体であるアルミ、銅、鉄、ニッケル、およびスズの非酸化面におけるレーザ光の吸収率を、約1μm,約1.6μm,約2.4μm,約3乃至5μm,約8乃至14μmのそれぞれについてまとめたものである。
これらのことから、芯線を構成する主な導電体を構成する金属は、レーザ光が長波長であるほど吸収率が減少(反射率が上昇)することが明らかである。特に、これらの代表的な金属においては、波長が約1μmのレーザ光における吸収率は、波長が約3.0μmのレーザ光における吸収率と比較すると、1/2.5乃至1/1.5となることが明らかである。
一方、図13は、ワイヤ12の被覆樹脂を構成する主な成分であるポリアミド、ポリウレタン、ポリエステル、およびその他フェノール樹脂に含まれるアミド基、アミノ基、および水酸基に対する赤外線吸収スペクトルの吸収位置と強度をまとめたものである。
尚、吸収位置は、波長に対応するものであり、例えば、3550cm-1は、波長が2.81μmであることに対応し、3400cm-1は、波長が2.94μmであることに対応し、3030cm-1は、波長が3.30μmであることに対応する。また、強度におけるvは、variableを示し、sはstrongを示し、mはmediumを示している。
すなわち、これらのことからワイヤ12の被覆樹脂は、およそ2.8μm乃至3.0μmの波長のレーザ光により吸収され易いことが分かる。
これらのことから、ワイヤ12の加工用のレーザ光としては、樹脂の吸収率が相対的に低く、導電体の吸収率が高い、波長が1.0μm付近よりも短波長となる帯域が不適であり、樹脂への吸収率が相対的に高く、導電体の吸収率が低い2.8μmに近い範囲から3.0μm程度の波長のものが適正であるものと考えられる。また、樹脂材料の分子結合の伸縮振動による光吸収は1.7μm付近以上にも存在をしており、1.0μm付近よりも短波長のレーザ光と比較して、被覆樹脂と導電体の吸収率の違いを利用した加工特性の効果が得られる場合もある。
そこで、図1のレーザ光源22については、1.9μm乃至3.0μm程度の波長のレーザ光を発生する構成としている。このため、レーザ光源22は、例えば、Er:YAGレーザ光(波長:2.94μm)、Cr,Tm,Ho:YAGレーザ光(波長:2.08μmまたは2.01μmなど)、およびTmファイバレーザ光(波長:1.95μm)などを採用することができる。
また、レーザ光源22においては、余分な熱影響による加工品質の劣化を抑制するため、パルス発振レーザ光を発生する構成としている。
このようなレーザ光源22により発生されるレーザ光は、加工に必要なエネルギ自体が低く、被覆樹脂層での吸収が強いため導電体に到達する残留光が少ない。このため、例えば、Nd:YAGレーザ(波長:1.064μm)などの短波長のレーザ光と比較すると金属への吸収率が低いという理由から、導電体表面の劣化を生じ難くすることが可能となる。
図14は、レーザ光源22として、Nd:YAGレーザ(波長:1.064μm)と、Er:YAGレーザ光(波長:2.94μm)とを採用して、ワイヤ12の芯線が銅であり、被覆樹脂が厚さ0.1mmのポリイミドであり、これをビームスポット径0.3mmで、かつ、パルス幅100μmのレーザ光を1パルスした場合の照射パルスエネルギと樹脂温度上昇、および金属温度上昇の関係を計算により求められた結果として示している。ここで、図14の左部が、Nd:YAGレーザ(波長:1.064μm)の関係を示しており、図14の右部が、Er:YAGレーザ光(波長:2.94μm)の関係を示したものである。また、実線がポリイミドの表面温度を、点線がポリイミドの底面温度を、一点鎖線が銅の表面温度を、太線が銅の融点温度をそれぞれ示している。
尚、ポリイミドは約500℃にて熱分解が始まり、約800℃以上で炭化、昇華し、レーザによる除去が行われる。Nd:YAGレーザ(波長:1.064μm)の場合、約100mJを閾値として加工が開始される。このとき銅表面は融点1350℃に達していないが、完全に樹脂を除去するには更に十分なエネルギの投入が必要であるにもかかわらず、銅の加工開始エネルギに達してしまう。
また、この計算では完全な均一強度分布のレーザを仮定しているが、実際のレーザ光は強度分布を有しており数倍の強度差を有しているため、銅表面を劣化させずに樹脂のみを完全に除去することは困難である。
一方、Er:YAGレーザ光(波長:2.94μm)の場合は、樹脂の吸収率が低いため、より低いエネルギで除去加工されるが、残留光により銅が融点に達するまで十分な余裕があり、銅の劣化なしに樹脂のみの完全除去が可能である。
[レーザ加工装置の変形例]
以上においては、ワイヤ12に対して一方向からレーザ光を照射する構成例について説明してきたが、例えば、図15で示されるように、ワイヤ12に対して対向する2方向からレーザ光を照射するような構成とするようにしてもよい。
尚、図15のレーザ加工装置11においては、図1のレーザ加工装置11と同一の機能を備えた構成については、同一の名称、および同一の符号(「−」が付加された符号は複数に存在するが同一の機能を備えた構成であることを示す符号である)を付しており、その説明は省略するものとする。図15のレーザ加工装置11において、図1のレーザ加工装置11と異なるのは、レーザ光を分光するためのハーフミラー111が設けられた点のみであり、その他の構成については同様であるので、その説明は省略する。
以上のような構成により、図1のレーザ加工装置によれば、金属の導電体上にある被覆樹脂(絶縁被膜)の除去加工において、導電体の表面の劣化を抑えて、被覆樹脂(絶縁被膜)の完全な除去を実現することが可能となる。
また、加工に必要な照射エネルギを低く抑えられるため、レーザ光源の出力を低減し、小型化、低コスト化、および低消費電力化を実現することが可能となる。
さらに、複合した材料の選択的な加工のために必要となる、高精度なエネルギのコントロールや、照射強度の分布を均一にするための高価な光学系(例えば、ホモジナイザ、光ファイバ等)を必須構成としないため、低コストを実現することが可能となる。
また、導電体の表面の変色、焦げなどの劣化がないため、被覆樹脂除去後の他の導電体との接合(例えば、半田付け、またはレーザ溶接等)を行った場合に、接合面の強度不良、電気的接触不良を低減させることが可能となる。
さらに、以上においては、加工対象物がワイヤ12である例について説明してきたが、上述した導電体に、上述したような被覆樹脂が被覆された構成であれば、ワイヤ12以外のものを加工対象物とするようにしてもよい。
尚、上述のフローチャートで説明した各ステップは、1つの装置で実行する他、複数の装置で分担して実行することができる。
また、1つのステップに複数の処理が含まれる場合には、その1つのステップに含まれる複数の処理は、1つの装置で実行する他、複数の装置で分担して実行することができる。
11 レーザ加工装置, 12 ワイヤ, 21 ガイド用可視光レーザ光源, 22 レーザ光源, 23 ビームエキスパンダ, 24,24−1乃至24−3 ミラー, 25,25−1,25−2 集光レンズ駆動部, 26,26−1,26−2 集光レンズ, 27 制御部, 41,42 ステージ, 51 回転ステージ, 61 カム, 111 ハーフミラー

Claims (10)

  1. レーザ光を発生するレーザ光源と、
    前記レーザ光源により発生されたレーザ光を加工対象物に対して集光させる集光レンズと、
    前記集光レンズを前記レーザ光の光軸に対して直交する面内であって、前記加工対象物から所定の距離の面内を、前記光軸から所定のシフト量までの範囲内で集光レンズをシフトさせるように駆動する集光レンズ駆動部とを備え、
    前記所定のシフト量は、前記光軸から前記所定のシフト量にだけシフトさせたときにおける前記加工対象物上のレーザ光の光学歪みが、前記集光レンズによる前記レーザ光の焦点位置より前記集光レンズに近い位置で、かつ、前記集光レンズの中心位置が前記レーザ光の中心であるときの前記レーザ光により前記加工対象物を加工可能な限界の距離におけるレーザ光の光学歪みと略同一となるように設定される
    レーザ加工装置。
  2. 前記集光レンズ駆動部を制御する制御部をさらに含み、
    前記制御部は、前記集光レンズを用いた光学系の光学計算によるスポットダイアグラムを利用して、前記所定の距離、および前記所定のシフト量を設定する
    請求項1に記載のレーザ加工装置。
  3. 前記レーザ光源は、波長が1.9μmより長く、3.0μmよりも短いレーザ光を発生する
    請求項1に記載のレーザ加工装置。
  4. 前記レーザ光源により発生される前記レーザ光は、Er:YAGレーザ光、Cr,Tm,Ho:YAGレーザ光、およびTmファイバレーザ光を含む
    請求項3に記載のレーザ加工装置。
  5. 前記加工対象物は、第1の融点の第1物質の上に、前記第1の融点よりも低い熱分解点の第2物質が付加されたものである
    請求項1に記載のレーザ加工装置。
  6. 前記加工対象物は、導電体である金属を含む第1物質が、樹脂からなる第2物質により被覆された電線である
    請求項5に記載のレーザ加工装置。
  7. 前記導電体である金属を含む第1物質は、アルミニウム、スズメッキ、およびニッケルメッキを含む導電体であり、
    前記樹脂からなる第2物質は、ポリアミド、ポリウレタン、ポリエステル、およびフェノール樹脂を含む
    請求項6に記載のレーザ加工装置。
  8. 前記集光レンズ駆動部は、
    前記レーザ光の光軸に対して直交する面内で、前記集光レンズを第1の方向にシフトさせる第1ステージと、
    前記第1の方向と平行ではない第2の方向にシフトさせる第2ステージとを含む
    請求項1に記載のレーザ加工装置。
  9. 前記集光レンズ駆動部は、
    前記レーザ光の光軸に対して直交する面内で、前記集光レンズを、前記集光レンズの中心と異なる位置を中心として回転させる回転ステージを含む
    請求項1に記載のレーザ加工装置。
  10. 前記集光レンズ駆動部は、
    前記レーザ光の光軸に対して直交する面内で、前記集光レンズを載せて回転する回転ステージと、
    前記回転ステージに当接して回転するカムと、
    前記回転ステージを前記カムに当接するように押圧する押圧部とを含む
    請求項1に記載のレーザ加工装置。
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