しかしながら、歯車の歯数を飛躍的に増加させる加工は困難であるとともに、ポンプ効率に直接関わる歯車の歯数を所定数よりも多く設定した場合にはポンプ効率の低下を招来するため、この点においても歯数を飛躍的に増加させることは現実的とはいえない。また、位相差ポンプを用いる態様であれば、ポンプ構造が複雑になり、コストの増加を招来するという問題がある。
また、アキュムレータやサイドブランチを適用することで圧力脈動の発生を防止する態様も考えられるが、アキュムレータであれば、配管に新たな装置を取り付ける必要があり、コストが嵩むことに加えて、高圧の気体を使用するため、外的な環境(温度上昇)の制約を受けるというデメリットや、アキュムレータへ作動油が流入することによる応答性低下というデメリットがある。また、サイドブランチを適用した場合、1本のサイドブランチで1周波数のみに対する効果となり、複数の周波数や変速運転に対応することが困難である。
本発明は、このような問題に着目してなされたものであって、主たる目的は、モータの制御によって油圧ポンプユニットの流量脈動(圧力脈動)を低減させることで油圧ポンプユニットから発生する騒音の低減化を実現可能な油圧ポンプシステムの制御部を提供することにある。
本発明者は、モータ駆動時に油圧ポンプユニットで生じる流量脈動が、油圧ポンプ自体の構造に起因して生じる点と、モータトルクリプルに伴うモータの回転速度変化に起因して生じる点に着目し、圧力脈動の次数(モータの回転周波数を基準として何倍かを示す値)を分析した結果、圧力脈動が顕著に現れる次数が、歯車の歯数の整数倍(ポンプとモータを直結している場合に圧力脈動が顕著に現れる次数は、歯車の歯数の整数倍の値であり、ポンプとモータとの間に変速ギアを介在させている場合に圧力脈動が顕著に現れる次数は、歯車の歯数と変速比の乗算値の整数倍)と、モータの極数に相数を乗じた値の整数倍であることを突き止めた。そして、このような解明結果に基づき、以下に述べる本発明を着想するに至った。
すなわち本発明は、ケーシング内において互いに噛合する一対の歯車の回転により作動流体を低圧側から高圧側へ移送する油圧ポンプをモータで駆動する油圧ポンプユニットの制御を行う制御部に関するものである。ここで、油圧ポンプユニットは油圧ポンプとモータで構成されるものであり、この油圧ポンプユニットと制御部で油圧ポンプシステムを構成している。
そして、本発明に係る油圧ポンプシステムの制御部は、基準電流指令値出力手段と、モータ回転信号受信手段と、トルク重畳指令値算出手段と、モータ駆動指令電流算出手段とを備え、モータ駆動指令電流算出手段で算出したモータ駆動指令電流に基づいてモータの駆動を制御することを特徴としている。
基準電流指令値出力手段は、モータを一定の基準回転周波数で駆動させる基準トルク指令に応じた基準電流指令値を出力するものであり、モータ回転信号受信手段は、モータの回転に関する信号であるモータ回転信号を受信するものである。モータ回転信号の一例としては、モータ軸の回転角を挙げることができる。
また、トルク重畳指令値算出手段は、モータ回転信号受信手段で受信したモータ回転信号に基づいて、歯車の歯数の整数倍の値である第1トルク重畳指令次数の回転周波数となるトルク重畳指令値及びモータの極数と相数の乗算値の整数倍の値である第2トルク重畳指令次数の回転周波数となるトルク重畳指令値を算出するものである。ここで、トルク重畳指令値算出手段としては、モータ回転信号に基づいて、歯車の歯数の整数倍の値である第1トルク重畳指令次数の回転周波数となるトルク重畳指令値のみを算出するもの、またはモータの極数と相数の乗算値の整数倍の値である第2トルク重畳指令次数の回転周波数となるトルク重畳指令値のみを算出するものが考えられるが、本発明におけるトルク重畳指令値算出手段は、第1トルク重畳指令次数の回転周波数となるトルク重畳指令値及び第2トルク重畳指令次数の回転周波数となるトルク重畳指令値の両方を算出するものである。
また、モータ駆動指令電流算出手段は、基準電流指令値に基づく基準電流信号と、トルク重畳指令値算出手段で算出したトルク重畳指令値に基づく重畳電流信号を加算してモータ駆動指令電流を生成するものである。
そして、本発明者は、このような本発明に係る油圧ポンプシステムの制御部が、回転信号に基づいて算出した第1トルク重畳指令次数の回転周波数となるトルク重畳指令値又は第2トルク重畳指令次数の回転周波数となるトルク重畳指令値の少なくとも何れか一方のトルク重畳指令値に基づく重畳電流信号を、基準電流信号に加算(重畳)して生成したモータ駆動指令電流に基づいてモータの駆動を制御することによって、このような制御仕様を採用していない態様と比較して、油圧ポンプユニットの流量脈動を効果的に低減させることができ、騒音レベルの低減化も実現できることを試験結果として得た。
このように、モータの駆動を、基準電流信号に、油圧ポンプの構造に起因する脈動を低減させる第1トルク重畳指令値及びモータトルクリプルに起因する脈動を低減させる第2トルク重畳指令値の両方のトルク重畳指令値に基づく電流信号を重畳させて制御するという技術的思想を採用することにより、上述した作用効果に加えて、油圧ポンプの吐出圧力を検出する油圧センサの信号を受信して、その受信した値と目標値との偏差に応じて指令電流の大きさを計算して重畳電流の指令値とするフィードバック制御によって圧力脈動の低減化を試みる態様であれば生じ得る不具合、つまり、圧力脈動の変動周波数が大きくフィードバック制御が極めて困難であり、圧力脈動を効果的に低減させることが困難であるか、不可能である、という不具合を回避することができる。
さらに、本発明に係る油圧ポンプシステムの制御部であれば、油圧ポンプの構造に起因する流量脈動とモータのトルクリプルに起因する流量脈動の次数が異なる場合であっても、トルク重畳指令値算出手段において、第1トルク重畳指令次数の回転周波数となるトルク重畳指令値と、第2トルク重畳指令次数の回転周波数となるトルク重畳指令値の両方を算出し、それらのトルク重畳指令値を基準電流指令値に重畳してモータ駆動電流指令に反映させることによって、油圧ポンプの構造に起因する流量脈動とモータのトルクリプルに起因する流量脈動を打ち消すトルク重畳制御を同時に行うことが可能であり、流量脈動に起因する騒音を低減できる。このような制御仕様であれば、サイドブランチと比較して、複数の次数の圧力脈動を効果的に低減可能な点で有利である。
また、本発明の油圧ポンプシステムの制御部であれば、油圧ポンプの構造に起因する流量脈動を低減させるために例えば歯車の歯数を増加させたり、位相差ポンプやアキュムレータのような専用の部材を新たに増加させる必要がなく、安価な汎用油圧ポンプを用いたシステムにも好適に適用できる。加えて、本発明の油圧ポンプシステムの制御部であれば、アキュムレータを使用した場合であれば生じ得る応答性の低下という問題や、高圧の気体を使用するに伴い外的な環境(温度上昇)の制限を受けるという問題を回避することができる。
また、本発明の油圧ポンプユニットの制御プログラムは、ケーシング内において互いに噛合する一対の歯車の回転により作動流体を低圧側から高圧側へ移送する油圧ポンプをモータで駆動する制御プログラムであって、モータを基準となる一定の回転周波数で駆動させる基準トルク指令に応じた基準電流指令値を出力する基準電流指令値出力処理と、モータの回転に関する信号であるモータ回転信号を受信するモータ回転信号受信処理と、モータ回転信号受信処理で受信したモータ回転信号に基づいて、歯車の歯数の整数倍の値である第1トルク重畳指令次数の回転周波数となるトルク重畳指令値及びモータの極数と相数の乗算値の整数倍の値である第2トルク重畳指令次数の回転周波数となるトルク重畳指令値を算出するトルク重畳指令値算出処理と、基準電流指令値に基づく基準電流信号と、トルク重畳指令値算出処理で算出したトルク重畳指令値に基づく重畳電流信号を加算してモータ駆動指令電流を生成するモータ駆動指令電流算出処理とを連続して実行させ、モータ駆動指令電流に基づいてモータを駆動させることを特徴としている。
このような制御プログラムでモータの駆動を制御することによって、上述した効果と同様の作用効果を得ることができ、油圧ポンプユニットで生じる流量脈動の低減化、ひいては騒音の低減化を実現することが可能である。
また、本発明の油圧ポンプシステムは、ケーシング内において互いに噛合する一対の歯車の回転により作動流体を低圧側から高圧側へ移送する油圧ポンプをモータで駆動する油圧ポンプユニットと、油圧ポンプユニットの制御を行う上述の制御部とを備えていることを特徴としている。
このような油圧ポンプシステムであれば、上述した効果と同様の作用効果を得ることができ、流量脈動及び騒音の低減化を実現できる。
モータの回転信号を基にして算出した任意の次数のトルク重畳指令値を、基準電流信号に足し合わせた電流信号によってモータの駆動を制御するという技術的思想を発明の根幹とする本発明によれば、変動周波数が大きい任意の次数の圧力脈動を好適に低減させることができ、油圧ポンプユニットから発生する騒音の低減化を実現可能な油圧ポンプシステムの制御部、油圧ポンプシステムの制御プログラム、及び油圧ポンプシステムを提供することができる。
以下、本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。
本実施形態に係る油圧ポンプユニットUの制御部Cは、例えば図1に示すように、油圧ポンプユニットUを構成する油圧ポンプP及びモータS(図示例ではサーボモータS)とともに油圧ポンプシステムXを構成するものである。
油圧ポンプPは、図2に示すように、共通のケーシングP1内に、回転する一対の歯車P2を噛合可能に配置したものであり、歯車ポンプとも称される。そして、これら一対の歯車P2同士の回転に伴って歯溝に捉えた作動流体(作動油)を低圧側である吸込口P3側から高圧側である吐出口P4側へと移送するポンプ作用を営むものである。なお、本実施形態の油圧ポンプPは、各歯車P2の外縁部がケーシングP1の内周壁に接する外接ギアポンプである。また、油圧ポンプPの吸込口P3及び吐出口P4にはそれぞれ作動油の流路となる配管H1,H2を接続し、吐出口側の配管H2の下流端に設けた負荷装置Lと、吸込口側配管H1の上流端に配置した作動油タンクTとの間には戻り用配管H3を配置している(図1参照)。
油圧ポンプPの駆動源であるモータSは、モータ軸S1を油圧ポンプPのうち一方の歯車P2(駆動歯車)に連結したものであり、駆動歯車P2の回転に伴って他方の歯車P2(従動歯車)も回転する。
このような油圧ポンプユニットUは、モータSの回転、つまりモータ軸S1の回転数に応じて両歯車P2が同期逆回転駆動し、吸込口P3と吐出口P4との間で高低圧差が生じ、ケーシングP1の内部空間のうち、歯同士が漸次噛合する側の内部空間、つまり吐出口P4側が、吸込口P3側の内部空間よりも高圧領域になる。そして、油圧ポンプユニットUは、吸込口P3よりケーシングP1内に導入した作動油を、各歯車P2の歯先とケーシングP1の内周壁との間に閉成される容積空間に閉じ込めて吐出口P4にまで導いて吐出するポンプ機能を発揮するように構成されている。
また、本実施形態の油圧ポンプシステムXでは、モータSの駆動を制御部Cによって制御している。そして、本実施形態の油圧ポンプシステムXは、以下に述べる各手段を有する制御部CによってモータSの駆動を制御するその制御仕様に特徴を有するものである。
この制御部Cは、内部メモリ又は外部記憶装置(油圧ポンプシステムXに有線または無線で接続した記憶装置)に記憶されたプログラム(本発明の「油圧ポンプシステムの制御プログラム」に相当)に従い、適宜箇所に設けたマイクロプロセッサのCPU等の各構成部品や各要素を作動させることによって、図3に示すように、モータ回転信号受信手段1と、基準電流指令値出力手段2と、トルク重畳指令値算出手段3と、モータ駆動指令電流算出手段4としての機能を少なくとも発揮するものである。
モータ回転信号受信手段1は、モータSの回転に関する信号であるモータ回転信号を受信するものである。具体的に、このモータ回転信号受信手段1は、モータ軸S1の回転数及び回転角に関する信号であるモータ回転信号を受信するものである。
基準電流指令値出力手段2は、基準となる一定の運転回転数(回転周波数)でモータSを駆動させる基準トルク指令に応じた基準電流指令値を出力するものである。具体的に、この基準電流指令値出力手段2は、モータ回転信号受信手段1で受信したモータ軸S1の回転信号のうちモータ軸S1の回転数信号をフィードバックして決定した基準電流指令値を出力するものであり、周知の速度制御部に準じるものである。
トルク重畳指令値算出手段3は、モータ回転信号受信手段1で受信したモータ回転信号に基づいて、油圧ポンプユニットUの流量脈動を低減させる任意の次数の回転周波数となるトルク重畳指令値を算出するものである。トルク重畳指令値算出手段3で算出したトルク重畳指令値は、流量脈動を打ち消すようにモータSの回転周波数を変動させるトルク指令値であって且つモータ駆動指令電流算出手段4において基準電流指令値に重畳するトルク指令値である。
本実施形態では、トルク重畳指令値算出手段3を、油圧ポンプP自体の構造に起因する流量脈動を打ち消すべく、モータ回転信号を基にして歯車P2の歯数Nの整数倍の値であるN次数(本発明の「第1トルク重畳指令次数」に相当)の回転周波数となるトルク重畳指令値を算出する第1トルク重畳指令値算出手段31と、モータSの特性に起因する流量脈動を打ち消すべく、モータ回転信号を基にしてモータSの極数と相数の乗算値Mの整数倍の値であるM次数(本発明の「第2トルク重畳指令次数」に相当)の回転周波数となるトルク重畳指令値を算出する第2トルク重畳指令値算出手段32とによって構成している。
ここで、本実施形態における「次数」とは、モータS(モータ軸S1)の回転周波数を基準として何倍かを示す数値(正の整数倍)である。したがって、例えばN次の圧力脈動の場合、モータ軸S1が1回転する間に圧力脈動はN周期の脈動として現れる。
そして、本発明者が従来の制御下で油圧ポンプユニットUを駆動させた際に生じる圧力脈動(圧力脈動は流量脈動に同期する)の次数を分析して得られた結果、つまり、油圧ポンプユニットUから生じる圧力脈動(流量脈動)が、歯車P2の歯数をNとした場合にN次とその高次(2N次、3N次、4N次…)で顕著になる点、及びモータSの極数と相数の乗算値をMとした場合にM次とその高次(2M次、3M次、4M次…)で顕著になる点、以上の結果に着目し、本実施形態では、モータ軸S1の基準回転信号を基にして、これらの次数(N次、M次)の回転周波数となるトルク指令値を、基準のトルク指令値に重畳するトルク重畳指令値(第1トルク重畳指令値、第2トルク重畳指令値)として算出するように構成している。
第1トルク重畳指令値算出手段31は、歯車P2の歯数Nの整数倍の値であるN次数の回転周波数となるトルク重畳指令値(第1トルク重畳指令値)を、モータ回転信号に基づいて算出するものである。具体的に、この第1トルク重畳指令値算出手段31は、モータ回転信号受信手段1で受信したモータ回転信号を、歯車P2の歯数Nの整数倍の値であるN次数の回転信号に補正する次数変換部311と、N次数の回転信号に所定の位相補正値を加算して位相を補正する位相補正部312と、位相補正したN次数の回転信号を基にして正弦波を生成する正弦波生成部323と、正弦波生成部323で生成した正弦波に対して所定の振幅ゲインを乗算して振幅を補正する振幅補正部314とを有する。
ここで、位相補正部312においてN次数の回転信号に加算する「所定の位相補正値」及び、振幅補正部314において正弦波に乗算する「所定の振幅ゲイン」は予め行う試験によって特定可能なものである。
具体的には、まず適当な電流振幅でN次のトルク重畳制御を行いながら位相を調整して圧力脈動が最も小さくなる位相を特定する。この特定した位相が「所定の位相補正値」である。最適位相を特定した後に、重畳電流の位相をその最適位相に固定して振幅を変化させた場合の圧力脈動と騒音レベルを計測すると、一定の重畳電流振幅において圧力脈動及び騒音レベルが最小になる。この振幅が最適振幅であり、振幅補正部314において正弦波に乗算する「所定の振幅ゲイン」となる。
このような最適位相及び最適振幅は、油圧ポンプシステムごとに異なるため、各システム単位でその都度調整が必要である。
第2トルク重畳指令値算出手段32は、モータSの極数と相数の乗算値Mの整数倍の値であるM次数の回転周波数となるトルク重畳指令値(第2トルク重畳指令値)を、モータ回転信号に基づいて算出するものである。具体的に、この第2トルク重畳指令値算出手段32は、モータ回転信号受信手段1で受信したモータ回転信号を、モータSの極数と相数の乗算値Mの整数倍の値であるM次数の回転信号に補正する次数変換部321と、M次数の回転信号に所定の位相補正値を加算して位相を補正する位相補正部322と、位相補正したM次数の回転信号を基にして正弦波を生成する正弦波生成部323と、正弦波生成部323で生成した正弦波に対して所定の振幅ゲインを乗算して振幅を補正する振幅補正部324とを有する。
ここで、位相補正部322においてM次数の回転信号に加算する「所定の位相補正値」及び、振幅補正部324において正弦波に乗算する「所定の振幅ゲイン」は、前述したように予め行う試験により特定可能なものであり、第1トルク重畳指令値算出手段31の位相補正部312で用いる「所定の位相補正値」や振幅補正部314で用いる「所定の振幅ゲイン」とは通常異なる値である。
モータ駆動指令電流算出手段4は、基準電流指令値出力手段2から出力された基準電流指令値に基づく基準電流信号と、トルク重畳指令値算出手段3(第1トルク重畳指令値算出手段31、第2トルク重畳指令値算出手段32)で算出したトルク重畳指令値(第1トルク重畳指令値、第2トルク重畳指令値)に基づく重畳電流信号とを加算してモータ駆動指令電流を生成するものである。
次に、本実施形態に係る油圧ポンプシステムXの制御部Cによる制御手順を図4及び図5を参照して説明する。
油圧ポンプPにモータSを連結している油圧ポンプユニットUにおいて、モータSを一定回転数で駆動すると、歯車P2の歯数やモータSの特性によって、一定の油圧が維持されている訳ではなく、モータが回転する間でも圧力脈動が発生している。そこで、本実施形態の油圧ポンプシステムXの制御部Cは、まず、モータSの回転信号(本実施形態では、モータ軸S1の回転数及び回転角に関する信号)をモータ回転信号受信手段1で受信する(モータ回転信号受信処理)。そして、制御部Cは、モータ回転信号受信手段1で受信したモータ回転信号のうちモータ軸S1の回転数に関する信号(回転数信号)を基準電流指令値出力手段2でフィードバックして、目標値との偏差に応じて決定した基準トルク指令に応じた基準電流指令値を出力する(基準電流指令値出力処理)。その結果、モータ軸S1を目標値に一致する回転数で回転させることができる。
また、制御部Cは、モータ回転信号受信手段1で受信したモータ回転信号のうちモータ軸S1の回転角信号を基にして、所定の次数(N次、M次)の回転周波数となるトルク重畳指令値(第1トルク重畳指令値、第2トルク重畳指令値)をトルク重畳指令値算出手段3(第1トルク重畳指令値算出手段31、第2トルク重畳指令値算出手段32)によって算出する。
本実施形態では、トルク重畳指令値算出手段3(第1トルク重畳指令値算出手段31、第2トルク重畳指令値算出手段32)でトルク重畳指令値(第1トルク重畳指令値、第2トルク重畳指令値)を算出するに際して、モータ回転信号受信手段1で受信したモータ回転信号のうちモータ軸S1の回転角に関する信号(回転角信号、具体的にはモータSのエンコーダ信号)を用いている。より具体的には、モータ回転信号受信手段1を構成する磁極カウンタ11で受信したモータSから出力されるA相パルスまたはB相パルスの少なくとも何れか一方のエンコーダ信号にリセットパルスを印加して(乗じて)モータ機械角信号に変換する(図5参照)。さらに、本実施形態では、変換したモータ機械角信号をノコギリ波生成部5により正規化して所定次数(例えば2次)のノコギリ波を生成し、そのノコギリ波を用いて第1トルク重畳指令値算出手段31の次数変換部311で歯車P2の歯数Nの整数倍の値であるN次数の回転信号に変換する(次数変換処理)。本実施形態では、図5に示すように、モータ回転周波数の2次の周波数である機械角正規化信号をN/2逓倍することで、N次の回転信号に変換している。
ここで、第1トルク重畳指令値算出手段31における信号波形の遷移を図6に示す。同図では、モータ軸S1の360度回転で信号が1となる回転信号(回転角信号;モータ機械角信号)を実線で示し、回転角信号を例えば2倍にしてリミットを1に設定した2倍周波数のノコギリ波信号(回転角信号を基にした2次のノコギリ波;モータ機械角信号2次)を1点鎖線で示し、さらに、2倍周波数のノコギリ波信号をN/2倍した回転信号を2点鎖線で示している。そして、モータ機械角信号2次にN/2倍した回転信号は、N次の基準信号であり、次数変換部311で次数を変換した信号がこのN次の回転信号である。
続いて、本実施形態に係る制御部Cは、N次の回転信号に対して位相補正部312により所定の位相補正値(オフセット量)を加算して位相を補正し(位相補正処理)、この位相補正した信号に対してリミットを1にすることによって、上述した2倍周波数のノコギリ波信号に対して、N/2倍の周波数であって且つ角度基準点に対して所定の位相分だけずれたノコギリ波を生成する。図6には、位相補正処理直後の信号(N次の位相補正信号)を破線で示し、N次の位相補正信号に対してリミットを1にしたノコギリ波の信号(次数変換・位相補正ノコギリ波)を相対的に太い実線で示している。
なお、本実施形態では、先ずモータ回転信号受信手段1で受信したモータ機械角信号に対して例えば2次(回転周波数の2倍の周波数)のノコギリ波を生成しているが、この処理を省略して、重畳する次数のノコギリ波をエンコーダ信号から直接生成することも可能である。具体的には、モータ機械角信号をN倍にした信号に所定の位相補正値(オフセット量)を加算し、その信号に対してリミットを1にすることによって、上述の次数変換・位相補正ノコギリ波の信号を生成することができる。
次いで、本実施形態の制御部Cは、次数変換・位相補正ノコギリ波を基にして、正弦波生成部323によりN次の正弦波を生成し(正弦波生成処理)、引き続いて、振幅補正部314によりN次の正弦波に対して所定の振幅ゲインを乗算して振幅を補正する(振幅補正処理)。その結果、N次の回転周波数となるN次重畳波を生成(算出)することができ、このN次重畳波は、N次の回転周波数となるN次トルク重畳指令値(第1トルク重畳指令値)として第1トルク重畳指令値算出手段31(具体的には振幅補正部314)から出力される。
ここで、図7には、N次の位相補正信号に対してリミットを1にしたノコギリ波の信号(次数変換・位相補正ノコギリ波)を相対的に太い実線で示し、次数変換・位相補正ノコギリ波に基づいて生成した振幅の値が1であるN次の正弦波(N次正弦波)を相対的に細い実線で示し、N次正弦波に対してゲイン調整したN次重畳波(N次重畳指令電流)を1点鎖線で示している。
第2トルク重畳指令値算出手段32による処理は、第1トルク重畳指令値算出手段31による処理に準じたものであり、モータ回転信号を基にして最終的にM次の回転周波数となるM次重畳電流指令値(第2重畳電流指令値)を算出して、出力する。
第2トルク重畳指令値算出手段32による処理を詳述すると、変換したモータ機械角信号をノコギリ波生成部5により正規化して所定次数(例えば2次)のノコギリ波を、第2トルク重畳指令値算出手段32の次数変換部321でモータSの極数と相数の乗算値Mの整数倍の値であるM次数の回転信号に補正し(次数変換処理)、M次の回転信号に対して位相補正部322により所定の位相補正値(オフセット量)を加算して位相を補正し(位相補正処理)、この位相補正した信号に対してリミットを1にすることによって、上述した2倍周波数のノコギリ波信号に対して、M/2倍の周波数であって且つ角度基準点に対して所定の位相分だけずれたノコギリ波を生成する。なお、上述したように、本実施形態では、先ずモータ回転信号受信手段1で受信したモータ機械角信号に対して2次(回転周波数の2倍の周波数)のノコギリ波を生成しているが、この処理を省略して、重畳する次数のノコギリ波をエンコーダ信号から直接生成することも可能である。具体的には、モータ機械角信号をM倍にした信号に所定の位相補正値(オフセット量)を加算し、その信号に対してリミットを1にすることによって、上述の次数変換・位相補正ノコギリ波の信号を生成することができる。
次いで、次数変換・位相補正ノコギリ波を基にして、第2トルク重畳指令値算出手段32の正弦波生成部323によりM次の正弦波を生成し(正弦波生成処理)、引き続いて、振幅補正部324によりM次の正弦波に対して所定の振幅ゲインを乗算して振幅を補正する(振幅補正処理)。その結果、M次の回転周波数となるM次重畳波を生成(算出)することができ、このM次重畳波は、M次の回転周波数となるM次重畳電流指令値(第2トルク重畳指令値)として第2トルク重畳指令値算出手段32(具体的には振幅補正部324)から出力される。
そして、本実施形態に係る制御部Cは、第1トルク重畳指令値算出手段31で算出して出力したN次重畳電流指令値(第1トルク重畳指令値)に基づくN次重畳電流信号と、第2トルク重畳指令値算出手段32で算出して出力したM次重畳電流指令値(第2重トルク畳指令値)に基づくM次重畳電流信号と、基準電流指令値出力手段2から出力した基準電流指令値に基づく基準電流信号とを、モータ駆動指令電流算出手段4によって加算してモータ駆動指令電流を算出し(モータ駆動指令電流算出処理)、このモータ駆動指令電流に基づいてモータSの駆動制御を行う。
ここで、図7には、基準電流信号(油圧ポンプ定常回転数指令電流)を2点鎖線で示し、基準電流信号(油圧ポンプ定常回転数指令電流)にN次重畳指令電流を加算したモータ駆動指令電流を破線で示している。
本実施形態では、モータ駆動指令電流算出手段4から出力したモータ駆動指令電流と、モータ回転信号受信手段1で受信したモータ機械角信号に対する2次(回転周波数の2倍の周波数)のノコギリ波を電圧変換部で変換した値を電流制御ブロックにて適宜の演算処理により算出した指令電流に基づいてモータSの駆動制御を行うように構成している。本実施形態の制御部Cは、このようなモータSの駆動制御を連続的に行う。
そして、上述した処理を経て算出したモータ駆動指令電流によってモータSを駆動させて油圧ポンプPによるポンプ作用を実行した場合、図8に示すように、上述の制御仕様を採用せずにモータSを駆動させて油圧ポンプPによるポンプ作用を実行した場合と比較して、モータSの回転周波数がN次の圧力脈動及びM次の圧力脈動を低減させることができる。なお、図8では、N次重畳電流指令値(第1トルク重畳指令値)に基づくN次重畳電流信号と、M次重畳電流指令値(第2重トルク畳指令値)に基づくM次重畳電流信号と、基準電流指令値に基づく基準電流信号とを加算したモータ駆動指令電流に基づくモータSの駆動制御を「N次とM次重ね合わせ」と記載し、従来の制御下で油圧ユニットUを作動させた際のN次の圧力脈動及びM次の圧力脈動をゼロとした場合に、本実施形態に係る制御部Cによる制御下で油圧ユニットUを作動させた際のN次の圧力脈動及びM次の圧力脈動の変化を数値化(単位はdB)して示すものである。また、同図では参照例として、N次重畳電流指令値(第1トルク重畳指令値)に基づくN次重畳電流信号と、基準電流指令値に基づく基準電流信号とを加算したモータ駆動指令電流に基づくモータSの駆動制御を「N次」と記載し、M次重畳電流指令値(第2重トルク畳指令値)に基づくM次重畳電流信号と、基準電流指令値に基づく基準電流信号とを加算したモータ駆動指令電流に基づくモータSの駆動制御を「M次」と記載している。
このように、本実施形態の油圧ポンプシステムXの制御部Cは、歯車P2の歯数Nの整数倍であるN次のトルク重畳指令信号及びモータSの極数と相数の乗算値Mの整数倍であるM次のトルク重畳指令信号を、基準電流信号に重畳加算した電流でモータSの駆動を連続的に制御することによって、油圧ポンプPの構造に起因する圧力脈動及びモータSの特性に起因する圧力脈動を効果的に低減させることができ、例えば歯車P2の歯数を増加させる加工や位相差ポンプやアキュムレータなどの専用部材を要することなく、安価な汎用の油圧ポンプPにも適用することが可能であり、コスト面及び応答性の点でも優れている。
また、本実施形態に係る油圧ポンプシステムXの制御部Cでは、モータSの回転状態を計測し、モータSの状態を予測してモータSに対する制御指令を与えるフィードフォワード制御を採用している。したがって、例えば油圧ポンプPの吐出圧力を検出する油圧センサの信号を受信して、その受信した値と目標値との偏差に応じて指令電流の大きさを計算して重畳電流の指令値とするフィードバック制御によって圧力脈動の低減化を試みる態様であれば生じ得る不具合、つまり、圧力脈動の変動周波数が大きくフィードバック制御が極めて困難であり、圧力脈動を効果的に低減させることが困難であったり、不可能であるという不具合を回避することができる。
特に、本実施形態に係る油圧ポンプシステムXの制御部Cによれば、複数次数のトルク重畳指令値(上述した実施形態におけるN次重畳電流指令値、M次重畳電流指令値)を同時に算出して、それらトルク重畳指令値を基準電流指令に加算した制御信号でモータSを駆動させているため、ある1つの特定次数の圧力脈動のみを低減可能な態様と比較して、モータS駆動中に生じ得る複数次数の圧力脈動を低減させることができる。
なお、本発明は上述した実施形態に限定されるものではない。例えば、圧力脈動(流量脈動)は負荷の大きさや、油圧ポンプの回転数(ポンプ回転数)によって変化するため、油圧ポンプの平均負荷と回転数(モータの電流若しくは配管圧力と、モータ回転数)を検出して最適な振幅でトルク重畳制御を行うように設定してもよい。この場合、位相はそれぞれの最適値に固定することができる。
また、圧力脈動(流量脈動)の高調波が騒音のピーク周波数と一致する場合、油圧ポンプを構成する歯車の歯数やモータのトルクリプルの高次(上述の実施形態で用いた記載を準用すれば、2N次、3N次、4N次…、2M次、3M次、4M次…)のトルク重畳制御を行えば、目標の周波数の騒音を低減させることができる。
また、トルク重畳指令値算出手段(トルク重畳指令値算出処理)が、モータ回転信号に基づいて、歯車の歯数の整数倍の値である第1トルク重畳指令次数の回転周波数となるトルク重畳指令値を算出するものであってもよいし、モータの極数と相数の乗算値の整数倍の値である第2トルク重畳指令次数の回転周波数となるトルク重畳指令値を算出するものであってもよい。この場合、単一周波数のトルク重畳指令値を基準電流指令値に加算したモータ駆動指令電流でモータの駆動を制御することによって特に問題とする周波数の脈動を狙って低減させることができる(図8参照)。
さらにまた、上述の実施形態では、モータとポンプを直接連結した態様(直結)を例示したが、モータポンプの間に変速ギアを介在させた油圧ポンプシステムであっても、上述の実施形態に準じた制御部による制御により、圧力脈動を防止することが期待できる。この場合、トルク重畳指令値算出手段(トルク重畳指令値算出処理)が、モータ回転信号受信手段で受信したモータ回転信号に基づいて第1トルク重畳指令次数の回転周波数となるトルク重畳指令値を少なくとも算出するものである場合、第1トルク重畳指令次数は、歯車の歯数と変速比の乗算値の整数倍の値になる。これは、モータポンプの間に変速ギアを介在させた油圧ポンプシステムにおいて圧力脈動が顕著に現れる次数が、歯車の歯数と変速比の乗算値の整数倍(モータから見た場合)の値であるという解明結果に基づくものである。
その他、各部の具体的構成についても上記実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。