以下、図面を参照して本発明の好ましい実施形態について説明する。本実施形態においては、本発明を、複数のマスト部材を入れ子式に組み合わせて構成された昇降マスト3により作業者搭乗用の作業台4を昇降させる、垂直昇降式の高所作業車1に適用した例について説明する。まず、図1〜図3を参照しながら、高所作業車1の概略構成について説明する。なお、以下においては説明の便宜のため、図1に付記する矢印方向を前後および上下と定義して説明を行なう。
図1に高所作業車1の側面を示しており、この図1に示すように、高所作業車1は、走行可能な走行台車2と、走行台車2から上方に突出する伸縮式昇降マスト(以下、「昇降マスト」と称する)3と、昇降マスト3の上部から後方に突出する作業者搭乗用の作業台4と、昇降マスト3を伸縮作動させる伸縮機構5(図2参照)と、高所作業車1の作動を制御する制御ユニット6(図3参照)とを有して構成される。走行台車2は、台車本体10と、台車本体10の前後左右に設けられた走行車輪11と、走行車輪11を駆動して台車本体10を走行させる電動式の走行モータ20(図3参照)とを有して構成される。なお、走行モータ20には、走行モータ20の出力軸の回転速度を検出する走行モータ回転検出器22が設けられている(図3参照)。
図2に昇降マスト3の内部構造を示しており、この図2に示すように、昇降マスト3は、走行台車2に立設された第1マスト部材23と、第1マスト部材23の外側に上下に移動可能に配置された第2マスト部材24と、第2マスト部材24の外側に上下に移動可能に配置された第3マスト部材25と、第3マスト部材25の外側に上下に移動可能に配置された第4マスト部材26とを有し、上下に伸縮可能に構成される。第1マスト部材23の上部には回転自在な上部スプロケット27が軸支されており、第2マスト部材24の下部に固着された無端状のチェーン28が、この上部スプロケット27と駆動軸17aに取り付けられた下部スプロケット17bとに掛け回されている。第2マスト部材24の上部には回転自在なシーブ29が軸支され、第1マスト部材23の上部に一端が固着されたワイヤ30がシーブ29に掛け回され、このワイヤ30の他端は第3マスト部材25の下部に固着されている。第3マスト部材25の上部には回転自在なシーブ31が軸支され、第2マスト部材24の上部に一端が固着されたワイヤ32がシーブ31に掛け回され、このワイヤ32の他端は第4マスト部材26の下部に固着されている。
図2には昇降マスト3を昇降させる伸縮機構5も示しており、この図2に示すように、伸縮機構5は、電動式の昇降モータ16と、昇降モータ16の出力軸の回転駆動を減速して駆動軸17aに出力する減速機17と、昇降モータ16に一体に取り付けられた第1保持ブレーキ18、第2保持ブレーキ19とから構成される。第1および第2保持ブレーキ18,19は、それぞれソレノイド(図示せず)を内蔵するいわゆる無励磁作動型の電磁ブレーキである。駆動電流が供給されずソレノイドが励磁されないときにはバネ力等によりブレーキが作動して制動力により昇降モータ16の出力軸の回転を防止する。一方、駆動電流の供給を受けてソレノイドが励磁されると、その励磁力により上記バネ等の力に抗してブレーキを解除して昇降モータ16の出力軸の回転を許容する。上述したように、駆動軸17aには、チェーン28と噛合する下部スプロケット17bが取り付けられている。また、昇降モータ16には、昇降モータ16の出力軸の回転速度を検出する昇降モータ回転検出器21が設けられている(図3参照)。
作業台4は、図1および図2に示すように、第4マスト部材26の後側壁部に後方に突出して設けられ、作業者が操作する操作装置35を備える。操作装置35は、図3に示すように、例えば前後に傾動操作可能に設けられて昇降マスト3を昇降させる操作を行う昇降操作レバー36と、例えば前後に傾動操作可能に設けられて走行台車2を走行させる操作を行う走行操作レバー37と、例えば左右に回動操作可能に設けられて走行車輪11を転舵させる操作を行う操舵ダイヤル38とを備えて構成される。
図3に高所作業車1の制御系統に関するブロック図を示しており、この図3に示すように、制御ユニット6は、制御ユニット6の中枢としてのコントローラ12と、直流電力を交流電力に変換可能な昇降インバータ13a,走行インバータ13bと、複数の電源バッテリが直列に接続された直流電源であるバッテリ14とから構成される。
コントローラ12には、昇降操作レバー36、走行操作レバー37および操舵ダイヤル38から出力された操作信号が入力されるとともに、昇降モータ回転検出器21で検出された検出信号が昇降インバータ13aを介して入力される。また、コントローラ12には、バッテリ14からの第1および第2保持ブレーキ18,19を励磁するための駆動電流が昇降インバータ13aまたは走行インバータ13bを介して入力されるとともに、昇降モータ回転検出器21からの検出信号が昇降インバータ13aを介して入力される。コントローラ12は、入力された上記操作信号および検出信号に基づいて、バッテリ14からの駆動電流を第1および第2保持ブレーキ18,19に供給する制御や、第1および第2保持ブレーキ18,19が所定の制動能力を有しているか否かの判断等を行う(詳しくは後述)。なお、コントローラ12は、図3に示すように、判断順序決定部12aおよびメモリ12bとを備える(これらの作動は後述)。
昇降インバータ13aには、昇降操作レバー36の操作に対応した操作信号(目標とする昇降モータ回転速度)がコントローラ12を介して入力されるとともに、昇降モータ回転検出器21からの検出信号(実際の昇降モータ回転速度)が入力される。また、昇降インバータ13aには、バッテリ14からの直流電力が入力される。昇降インバータ13aは、実際の昇降モータ回転速度が目標とする昇降モータ回転速度となるように、バッテリ14からの直流電力を交流電力に変換して昇降モータ16に供給する制御を行う。
走行インバータ13bには、走行操作レバー37の操作に対応した操作信号(目標とする走行モータ回転速度)がコントローラ12を介して入力されるとともに、走行モータ回転検出器22からの検出信号(実際の走行モータ回転速度)が入力される。また、走行インバータ13bには、バッテリ14からの直流電力が入力される。走行インバータ13bは、実際の走行モータ回転速度が目標とする走行モータ回転速度となるように、バッテリ14からの直流電力を交流電力に変換して走行モータ20に供給する制御を行う。
このように構成される高所作業車1においては、作業者が作業台4に搭乗して、昇降操作レバー36および走行操作レバー37を前後に傾動操作したり、操舵ダイヤル38を左右に回動操作することにより、走行台車2により高所作業車1を前後に走行させたり、昇降マスト3を昇降作動させて、作業者が搭乗する作業台4を所望の高所に移動させることができる。例えば、走行操作レバー37を中立位置から前後に傾動操作することにより、走行モータ20を正逆回転させて走行台車2を前進走行および後進走行させることができる。また、操舵ダイヤル38を中立位置から左右に回動操作することにより、走行車輪11を左旋回側および右旋回側に転舵させることができる。このため、走行操作レバー37の傾動操作および操舵ダイヤル38の回動操作を組み合わせて行い、高所作業車1を所望の場所に移動させることができる。
また、例えば昇降操作レバー36が中立位置から前方に傾動操作されると、正回転する昇降モータ16によりチェーン28が回転駆動され、第1マスト部材23に対して第2マスト部材24が引き上げられる。第2マスト部材24が引き上げられて、第2マスト部材24に軸支されたシーブ29が上昇すると、シーブ29に掛け回されたワイヤ30によって第3マスト部材25が引き上げられる。第3マスト部材25が引き上げられて、第3マスト部材25に軸支されたシーブ31が上昇すると、シーブ31に掛け回されたワイヤ32によって第4マスト部材26が引き上げられる。このようにして昇降マスト3全体を伸長させることができ、作業者は、作業台4とともに所望の高所に移動することができる。
一方、昇降操作レバー36が中立位置から後方に傾動操作されると、逆回転する昇降モータ16によりチェーン28が回転駆動され、第1マスト部材23に対して第2マスト部材24が引き下げられる。第2マスト部材24が引き下げられて、第2マスト部材24に軸支されたシーブ29が降下すると、シーブ29に掛け回されたワイヤ30によって第3マスト部材25が引き下げられる。第3マスト部材25が引き下げられて、第3マスト部材25に軸支されたシーブ31が降下すると、シーブ31に掛け回されたワイヤ32によって第4マスト部材26が引き下げられる。このようにして昇降マスト3を縮小させることができ、作業者は、作業台4とともに高所から下方に移動することができる。
図2から分かるように、作業台4を停止保持するためには、第2マスト部材24、第3マスト部材25および第4マスト部材26自体の重量や、作業台4の重量(搭乗する作業者の体重を含む)により、駆動軸17aおよび減速機17を介して、昇降モータ16が自由回転するのを防止する必要がある。そこで、第1および第2保持ブレーキ18,19として、このような昇降モータ16の自由回転を防止可能な無励磁作動型のブレーキを用いている。なお、以下においては、第1および第2保持ブレーキ18,19が、昇降モータ16の自由回転を防止して昇降マスト3の昇降を防止して、作業台4を停止保持できる状態であることを、「第1保持ブレーキ18(第2保持ブレーキ19)は、所定の制動能力を有している」と表現し、このことは特許請求の範囲においても同様である。
以上ここまでは、高所作業車1の概略構成について説明した。次に、高所作業車1の作動について説明する。
高所作業車1は、走行台車2上の格納位置に作業台4が格納された状態でメイン電源(図示せず)がオフ操作されて、高所作業を終了するように構成されている。このため、以下においては、高所作業車1による高所作業を開始するために格納位置に格納された作業台4に作業者が搭乗し、昇降マスト3を昇降させて作業台4を所望高所に停止保持させる場合の作動について、図4および図5を参照しながら説明する。図4には、格納位置に格納された作業台4を上昇させるときの作動(以下、「始動時の作動」と称する)に関するフローチャート40を示す。図5には、昇降マスト3の昇降を停止させて、作業台4を停止保持するときの作動(以下、「停止保持時の作動」と称する)に関するフローチャート60を示す。
まず、図4を参照しながら、始動時の作動について説明する。この図4では、作業台4が格納位置に格納された状態でメイン電源がオフ操作された場合を例示している。このため、高所作業開始前には作業台4が格納位置に位置するとともに、第1および第2保持ブレーキ18,19に駆動電流が供給されず、両保持ブレーキ18,19は作動している(ステップS41)。このように作業台4が格納位置に格納された状態で、メイン電源がオン操作されて昇降操作レバー36が中立位置から前方に傾動操作されると、昇降操作レバー36からコントローラ12にこの操作に対応した上昇操作信号が入力され、コントローラ12において上昇操作信号が検出される(ステップS42)。
上昇操作信号が検出されるとステップS43に進み、コントローラ12は、昇降モータ16に正回転(昇降マスト31を上昇)させる交流電力を供給して昇降モータ16を励磁する。ここで、昇降モータ16に供給される交流電力は、昇降マスト3の自重、作業台4の自重および作業台4の最大積載荷重により昇降モータ16の出力軸に作用する回転駆動力、もしくはそれを上回る回転駆動力を発生可能な交流電力である。
昇降モータ16を励磁するとステップS44に進み、コントローラ12は、第1保持ブレーキ18が所定の制動能力を有しているか否かを判断するために、ここでの判断対象ではない第2保持ブレーキ19に駆動電流を供給して第2保持ブレーキ19を解放する。すなわち、ここでの判断対象である第1保持ブレーキ18のみを作動させる。これにより、第1保持ブレーキ18が所定の制動能力を有していれば、昇降モータ16に交流電力を供給しても第1保持ブレーキ18により昇降モータ16の回転が防止されるので、昇降マスト3は上昇することなく停止保持される。一方、第1保持ブレーキ18が故障したり制動能力が低下したりして、所定の制動能力を有していないと、第1保持ブレーキ18により昇降モータ16の回転を防止できないため、昇降モータ16が回転し昇降マスト3は上昇する。
第2保持ブレーキ19を解放した後ステップS45において、コントローラ12は、昇降モータ回転検出器21から入力される検出信号のうち上記ステップS44が実行された後の検出信号に基づいて、昇降マスト3の上昇の有無を判断する。上述したように、第1保持ブレーキ18が所定の制動能力を有していれば昇降モータ16の回転が防止されるので、昇降モータ回転検出器21から「出力軸の回転なし」に対応した検出信号が入力される。コントローラ12は、この検出信号を検出すると「昇降マスト3の上昇なし」と判断し、ステップS46に進む。一方、第1保持ブレーキ18が所定の制動能力を有していないと昇降モータ16の回転が許容されるので、昇降モータ回転検出器21から「出力軸の回転あり」に対応した検出信号が入力される。コントローラ12は、この検出信号を検出すると「昇降マスト3の上昇あり」と判断し、ステップS49に進む。
ステップS45からステップS46に進む場合、すなわち、第1保持ブレーキ18が所定の制動能力を有していると判断した場合、ステップS46において、残りの第2保持ブレーキ19が所定の制動能力を有しているか否かの判断を行うための準備を行う。具体的には、ここでの判断対象である第2保持ブレーキ19への駆動電流の供給を停止して第2保持ブレーキ19を作動させるとともに、第1保持ブレーキ18に駆動電流を供給して第1保持ブレーキ18のブレーキを解放する。ここで、第2保持ブレーキ19が所定の制動能力を有していれば、昇降モータ16に交流電力を供給しても第2保持ブレーキ19により昇降モータ16の回転が防止されるので、作業台4は上昇することなく停止保持される。一方、第2保持ブレーキ19が所定の制動能力を有していないと、第2保持ブレーキ19により昇降モータ16の回転を防止できないため、昇降モータ16が回転し昇降マスト3は上昇する。
ステップS46で判定準備を行った後ステップS47に進み、コントローラ12は、昇降モータ回転検出器21から入力される検出信号のうち、上記ステップS46が実行された後の検出信号に基づいて、昇降マスト3の上昇の有無を判断する。上述したように、第2保持ブレーキ19が所定の制動能力を有していれば、昇降モータ回転検出器21から「出力軸の回転なし」の検出信号が入力される。コントローラ12は、この検出信号を検出すると「昇降マスト3の上昇なし」と判断し、ステップS48に進む。一方、第2保持ブレーキ19が所定の制動能力を有していないと、昇降モータ回転検出器21から「出力軸の回転あり」の検出信号が入力される。コントローラ12は、この検出信号を検出すると「昇降マスト3の上昇あり」と判断し、ステップS50に進む。
ステップS47からステップS48に進む場合、すなわち、第1および第2保持ブレーキ18,19が共に所定の制動能力を有していると判断した場合には、第2保持ブレーキ19に駆動電流を供給する制御を行って第2保持ブレーキ19を解放し、昇降操作レバー36の操作に応じた上昇作動を許容して、このフローを終了する。
ところで、ステップS45からステップS49に進む場合、すなわち、第1保持ブレーキ18が所定の制動能力を有していないと判断した場合には、第1保持ブレーキ18が所定の制動能力を有していないことを報知して、ステップS51に進む。ここでの報知は、例えば操作装置35に設けられた警告ランプ(図示せず)を点灯させたり、スピーカー(図示せず)から警告音を発することにより行われ、作業者に第1保持ブレーキ18の点検や修理を促すものである。また、ステップS47からステップS50に進む場合、すなわち、第2保持ブレーキ19が所定の制動能力を有していないと判断した場合には、第2保持ブレーキ19が所定の制動能力を有していないことを報知し、作業者に第2保持ブレーキ19の点検や修理を促してステップS51に進む。なお、このステップS50での報知は、ステップS49と同様にして行われる。
保持ブレーキの異常を報知した後ステップS51に進み、第1保持ブレーキ18または第2保持ブレーキ19が所定の制動能力を有していないと、以降の昇降マスト3の停止保持作動に影響を及ぼす可能性があるので、昇降操作レバー36の操作に拘らず昇降マスト3の上昇作動を規制し、このフローを終了する。なお、ステップS49およびステップS50において事前に報知が行われるので、作業者は、第1保持ブレーキ18または第2保持ブレーキ19が所定の制動能力を有していないために上昇作動が規制されていると分かる。
以上のように、作業台4を高所に移動させる前に、第1および第2保持ブレーキ18,19が所定の制動能力を有しているか否かを自動で判断し、両保持ブレーキ18,19が所定の制動能力を有している場合に、昇降操作レバー36の操作に応じて昇降マスト3の上昇が許容される。このため、高所作業車1においては、常に第1および第2保持ブレーキ18,19が所定の制動能力を有している状態で高所作業を開始させることができる。
以上、始動時の作動について説明した。上述のフローチャート40が実行されて、第1および第2保持ブレーキ18,19が共に所定の制動能力を有していると判断した場合に、昇降操作レバー36の操作に応じた昇降マスト3の昇降作動が許容される。ここで、昇降マスト3の昇降作動は、昇降モータ16へ交流電力の供給を行い、この状態で第1および第2保持ブレーキ18,19によるブレーキを解除して行われる。また、高所作業車1のような垂直昇降式の作業車は、作業者が搭乗する作業台4を所望高所に移動させ、その位置に停止保持させて作業が行われることが多い。ここで、作業台4の停止保持は、原則として昇降モータ16への交流電力の供給を停止した上で、第1および第2保持ブレーキ18,19を作動させて、昇降マスト3を停止保持(昇降モータ16の回転を防止)することにより行われる。
このため、高所作業車1を用いて高所作業を行い、昇降マスト3の昇降および停止保持を繰り返して行うと、第1および第2保持ブレーキ18,19の制動能力が低下して、所定の制動能力を下回る場合がある。このように所定の制動能力を下回る保持ブレーキを使用すると、昇降マスト3を確実に停止保持させることが困難になり、昇降マスト3が自重により降下する事態が発生し得る。そこで、このような事態の発生を事前に防止するために高所作業車1では、昇降操作レバー36が前後に傾動操作された状態から中立位置に操作される毎に、図5に示すフローチャート60が実行される。
図5を参照しながら、停止保持時の作動について説明する。昇降操作レバー36が前後に傾動操作された状態から中立位置に操作されると、コントローラ12には、その中立位置に対応した操作信号が入力される。コントローラ12はその操作信号を検出すると、昇降モータ16に、昇降マスト3の自重降下を防止して停止保持可能な回転駆動力を発生させる交流電力を供給する(ステップS61)。これにより、昇降マスト3は、昇降モータ16の回転駆動力によって停止保持される。なお、このステップS61では、引き続き第1および第2保持ブレーキ18,19に駆動電流を供給し、両保持ブレーキは共に解除されている。上記ステップS61が実行されて昇降マスト3が停止保持されるとステップS62に進み、ここでの判断対象である第1保持ブレーキ18への駆動電流の供給を停止して、第1保持ブレーキ18を作動させる。
続くステップS63においては、第1保持ブレーキ18を作動させた状態で昇降モータ16への交流電流の供給を停止し、昇降モータ16を自由回転可能な状態にする。ここで、第1保持ブレーキ18が所定の制動能力を有していれば、昇降マスト3の自重、作業台4の自重および作業台4の積載荷重(以下、「昇降マスト3等の荷重」と称する)により昇降モータ16の出力軸の作用する回転駆動力に抗して、昇降モータ16の回転は停止されたままで昇降マスト3は降下せず停止保持される。一方、第1保持ブレーキ18が所定の制動能力を有していないと、昇降マスト3等の荷重によって昇降モータ16の出力軸の作用する回転駆動力に抗することができず、この回転駆動力により昇降モータ16が回転駆動されて昇降マスト3が降下する。
続くステップS64においては、コントローラ12は、昇降モータ回転検出器21から入力される検出信号のうち、上記ステップS63が実行された後の検出信号に基づいて、昇降マスト3の降下の有無を判断する。上述したように、第1保持ブレーキ18が所定の制動能力を有していれば、昇降モータ回転検出器21から「出力軸の回転なし」に対応した検出信号が入力される。コントローラ12は、この検出信号を検出して「昇降マスト3の降下なし」と判断し、ステップS65に進む。一方、第1保持ブレーキ18が所定の制動能力を有していないと、昇降モータ回転検出器21から「出力軸の回転あり」に対応した検出信号が入力される。コントローラ12は、この検出信号を検出して「昇降マスト3の降下あり」と判断し、ステップS66に進む。
なお、ステップS64における昇降マスト3の降下判断は、短い判断サイクルで繰り返して行うので、「出力軸の回転あり」に対応した検出信号を検出すると、即座に後述するステップS66およびステップS67が実行される。このため、第1保持ブレーキ18が所定の制動能力を有していない場合であっても、高所作業に影響を及ぼす程昇降マスト3が降下することはない。
ステップS64からステップS65に進むと、第2保持ブレーキ19への駆動電流の供給を停止して、第1保持ブレーキ18に加えて第2保持ブレーキ19も作動させることにより昇降マスト3を停止保持させて、このフローを終了する。このとき、第2保持ブレーキ19については、所定の制動能力を有しているか否かの判断を行っていないが、仮に第2保持ブレーキ19が所定の制動能力を有していないとしても第1保持ブレーキ18が所定の制動能力を有しているため、昇降マスト3を確実に停止保持できる。また、このように第2保持ブレーキ19への駆動電流の供給を停止すると、その分だけ電力消費を抑えることができる。
ステップS64からステップS66に進む場合、すなわち、第1保持ブレーキ18が所定の制動能力を有していない場合には、上述のステップS49およびステップS50と同様の方法により、第1保持ブレーキ18が所定の制動能力を有していないことを報知し、ステップS67に進む。ステップS67においては、残りの第2保持ブレーキ19が所定の制動能力を有しているか否かの判断を行うために、上述のステップS61と同様に、昇降モータ16に交流電力を供給して昇降マスト3を停止保持させる。続いてステップS68に進み、判断対象である第2保持ブレーキ19への駆動電流の供給を停止して第2保持ブレーキ19を作動させ、ステップS69に進む。
続くステップS69においては、昇降モータ16への交流電流の供給を停止し、昇降モータ16を自由回転可能な状態にする。ここで、上述したように第1保持ブレーキ18は所定の制動能力を有していないが、第2保持ブレーキ19が所定の制動能力を有していれば、昇降マスト3等の荷重により昇降モータ16の出力軸の作用する回転駆動力に抗して、昇降モータ16の回転は停止されたままで昇降マスト3は降下せず停止保持される。一方、第2保持ブレーキ19が所定の制動能力を有していないと、昇降マスト3等の荷重により昇降モータ16の出力軸の作用する回転駆動力に抗することができず、この回転駆動力により昇降モータ16が回転駆動されて昇降マスト3が降下する。
ステップS70に進むと、コントローラ12は、昇降モータ回転検出器21から入力される検出信号のうち、上記ステップS69が実行された後の検出信号に基づいて、昇降マスト3の降下の有無を判断する。上述したように、第2保持ブレーキ19が所定の制動能力を有していれば、昇降モータ回転検出器21から「出力軸の回転なし」に対応した検出信号が入力される。コントローラ12は、この検出信号を検出して「昇降マスト3の降下なし」と判断し、第2保持ブレーキ19により昇降マスト3を停止保持させて、このフローを終了する。一方、第2保持ブレーキ19が所定の制動能力を有していないと、昇降モータ回転検出器21から「出力軸の回転あり」に対応した検出信号が入力される。コントローラ12は、この検出信号を検出して「昇降マスト3の降下あり」と判断し、ステップS71に進む。
ステップS70からステップS71に進む場合、すなわち、第2保持ブレーキ19が所定の制動能力を有していないと判断した場合には、上述のステップS49およびステップS50と同様の方法により、第2保持ブレーキ19が所定の制動能力を有していないことを報知し、ステップS72に進む。ステップS71からステップS72に進む場合、すなわち、第1および第2保持ブレーキ18,19の両方が所定の制動能力を有していない場合には、上述のステップS61と同様に、昇降モータ16に交流電力を供給して昇降マスト3を停止保持させて、このフローを終了する。なお、このステップS72において行われる昇降マスト3の停止保持は、第1および第2保持ブレーキ18,19のどちらを用いても昇降マスト3を停止保持することが困難なために行われる一時的なものである。
以上説明したように高所作業車1は、昇降マスト3が昇降されて停止保持される毎に、第1および第2保持ブレーキ18,19が所定の制動能力を有しているか否かの判断を行い、第1および第2保持ブレーキ18,19が所定の制動能力を有していない場合にはその旨の報知を行って修理等を促しつつ、他の手段により確実に停止保持させる構成になっている。このため、高所作業車1においては、作業台4(昇降マスト3)の自重降下を事前に予防することができる。
上述の実施形態では、フローチャート40に示す「始動時の作動」制御において、まず第1保持ブレーキ18について判断を行った後に、第2保持ブレーキ19について判断を行う例について説明したが、本発明はこの例に限定されるものではない。例えば、作業台4を格納位置に格納した状態で昇降マスト3を上昇させる操作が行われる毎に、第1保持ブレーキ18と第2保持ブレーキ19との判断順序を入れ替えるようにしても良い。また、コントローラ12のメモリ12bに所定格納回数を予め設定しておき、コントローラ12の判断順序決定部12aでカウントされる作業台4の累積格納回数が上記の所定格納回数に達する毎に、第1保持ブレーキ18と第2保持ブレーキ19との判断順序を入れ替えるようにしても良い。
上述のフローチャート40のステップ43において、昇降モータ16に供給する交流電力を制御して昇降モータ16の出力軸に作用する回転駆動力を制御すれば、第1および第2保持ブレーキ18,19が有する制動能力(制動能力の低下の程度)を測定することが可能になる。
上述の実施形態では、フローチャート60に示す「停止保持時の作動」制御において、まず第1保持ブレーキ18について判断を行った後、次に第2保持ブレーキ19について判断を行う例について説明したが、例えば昇降マスト3が停止保持される毎に、第1保持ブレーキ18と第2保持ブレーキ19との判断順序を入れ替えるようにしても良い。また、コントローラ12のメモリ12bに所定停止回数を予め設定しておき、コントローラ12の判断順序決定部12aでカウントされる作業台4の累積停止回数が上記の所定停止回数に達する毎に、第1保持ブレーキ18と第2保持ブレーキ19との判断順序を入れ替えるようにしても良い。
上述の実施形態では、フローチャート60のステップS72において、第1および第2保持ブレーキ18,19の両方が所定の制動能力を有していない場合に、昇降モータ16に交流電力を供給して昇降マスト3を停止保持させる制御を例示して説明したが、この制御以外にも以下のような制御が可能である。すなわち、ステップS72において、昇降モータ16に交流電力を供給する制御を行って、昇降マスト3の安全性を確保できる緩やかな降下速度で昇降マスト3を降下させることも可能である。このように、昇降マスト3を停止保持させるレバー操作に拘らず昇降マスト3を降下させる場合、ステップS66およびステップS71において事前にブレーキの異常を報知しておくことにより、使い勝手の良い高所作業車1を構成できる。なお、通常であれば、作業台4の下方に作業台4を移動させるためのスペースが確保されているので、昇降マスト3を停止保持させるレバー操作に拘らず昇降マスト3を降下させても支障はない。
上述の実施形態で説明した図5に示すフローチャート60に代えて、図6に示すフローチャート80を実行して、第1および第2保持ブレーキ18,19が所定の制動能力を有するか否かを判断するようにしても良い。フローチャート80においては、フローチャート60と同一内容のステップには同一番号を付している。以下においては、フローチャート80について、フローチャート60とは異なるステップを中心に説明する。
フローチャート80においては、フローチャート60と同様に、ステップS64において昇降マスト3の降下があると判断すると、ステップS66進んで第1保持ブレーキ18が所定の制動能力を有していないことの報知を行う。このステップS66が実行された後にステップS81に進み、第2保持ブレーキ19への駆動電流の供給を停止して、第2保持ブレーキ19を作動させる。すなわち、このステップS81においては、昇降モータ16への交流電力の供給を停止したままで、第2保持ブレーキ19を作動させる。このフローチャート80によれば、フローチャート60のステップS67およびステップS69を省略して、制御内容をシンプルにすることができる。
上述の実施形態においては、垂直昇降式の昇降マスト3を備えた高所作業車1に本発明を適用した例について説明したが、例えば電動モータにより駆動される垂直昇降式のシザースリンク機構を備えた高所作業車や、ベースレールが左右に一定間隔をおいて配設されたラダー機構を備えた高所作業車にも、本発明を適用することができる。また、電動シリンダにより昇降マスト、シザースリンク機構またはラダー機構を駆動させる構成の高所作業車にも、本発明を適用できる。
上述の実施形態では、昇降モータ回転検出器21により昇降モータ16の出力軸の回転を検出して、昇降マスト3の昇降を判断する構成を例示して説明したが、昇降モータ回転検出器21に代えて、例えば減速機17の回転を検出する検出器を用いても良い。
上述の実施形態において説明したように複数(2つ)の保持ブレーキを用いることにより、例えば1つの保持ブレーキを用いる場合と比較して、それぞれ容量が小さくコンパクトな保持ブレーキを用いて伸縮機構5を構成できるので、伸縮機構5の小型化が図れる。
上述の実施形態においては、2つの保持ブレーキ(第1および第2保持ブレーキ18,19)を用いた構成例について説明したが、本発明はこの構成例に限定して適用されるものではなく、例えば3つ以上の保持ブレーキを用いた構成にも適用できる。
上述の実施形態では、フローチャート40に示す「始動時の作動」制御において、第1および第2保持ブレーキ18,19の両方について所定の制動能力の有無を検査する構成例について説明したが、本発明はこの構成例に限定されるものではない。例えば、第1保持ブレーキ18を主に作動させるメインブレーキとするとともに、第2保持ブレーキ19を第1保持ブレーキ18が故障した場合に作動させるサブブレーキとし、始動時の作動制御において、第1保持ブレーキ18(メインブレーキ)を点検して所定の制動能力の有すると判断した場合には、第2保持ブレーキ19(サブブレーキ)の点検を省略する構成にしても良い。
上述の実施形態においては、作業台4が格納位置に格納された状態から上昇させるときに、始動時の作動(第1および第2保持ブレーキ18,19が所定の制動能力を有しているか否かの判断)を行う構成例について説明したが、本発明はこの構成例に限定されない。例えば、格納位置以外の昇降位置に作業台4が位置したときに、始動時の作動を行うように構成しても良い。
上述の実施形態においては、第3マスト部材25および第4マスト部材26の昇降を、シーブ29,31に掛け回されたワイヤ30,32により行う構成を例示して説明したが、本発明はこの構成に限定して適用されるものではない。例えばシーブに代えてスプロケットを設け、このスプロケットにチェーンを掛け回して構成された昇降マストにも、本発明を適用することができる。