JP6041511B2 - Led素子用接着剤 - Google Patents

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Description

本発明はLED素子用接着剤に関し、特に有機無機ハイブリッド組成物よりなりLEDと基板との接着に使用可能なLED素子用接着剤に関する。
液晶テレビジョン、液晶ディスプレイ等の液晶を用いた表示装置にあっては、液晶部分を投光するためのバックライトが備えられる。これらの光源へのLEDの使用が増加している。また、リソグラフィー用途、紫外線硬化用途のUVランプ等の光源用途として、小型化や低コストの観点から紫外線領域LEDの代替利用が注目されている。LEDの消費電力は少なく、十分な輝度が確保できるからである。
加えて、LEDを車両用ヘッドライトとして採用するケースが増えつつある。ヘッドライト等の光源用途には大光量、高輝度のLEDが必要とされる。このため、LEDから発する熱も高温となる。また、車両を使用する地域によっては、極寒から極暑の環境下でヘッドライト等のON/OFF(点灯/消灯)時のヒートショックに対し十分な耐久性を備える必要がある。
このように急速にLEDの使用分野が拡大しつつある現状において、LED素子と基板とを接着する用途の場合、一般にダイボンド材と称される接着剤が用いられる。例えば、エポキシ系樹脂が提案されている(特許文献1等参照)。エポキシ系樹脂は有機高分子であることから、耐熱性が他の無機系材料よりも低い。また、紫外線の影響を受けて変質しやすい。近時、LEDの高輝度化が進み発熱量も増している。また、紫外線を発光するLEDも増えてきており、必ずしも対応できてはいない。
そこで、シリコーン系接着剤が提案されている(特許文献2等参照)。しかしながら、このシリコーン系接着剤でも、炭素同士(−C−C−)の結合を分子中に有することから、前記の有機高分子樹脂と同様に、耐熱性、紫外線耐性に乏しいと考えられる。また、樹脂生成の際に白金系の触媒を必要とする。このことから製造原価が増す。
このようなことから、有機無機ハイブリッドガラスが着目されている(特許文献3等参照)。しかし、特許文献3等に提案される有機無機ハイブリッドガラスは、フェニル基を有するシラン化合物を用いる。このため、紫外線により含有されるフェニル基が分解し、次第に有機無機ハイブリッドガラスは黄色に変色する。
上述のとおり、既存の材料はLED用の接着剤として必ずしも満足できる材料ではなかった。また、これらの問題点は、基板上に実装されたLED上に被さってLEDを封止する封止材料としての利用においても同様である。従って、熱や紫外線に耐性を備え経時劣化が少なく耐久性と経済性も併せ持つLED素子用の接着性組成物、特には接着剤、封止材料の開発が望まれていた。
特開2010−59283号公報 特開2009−256400号公報 特開2009−215345号公報
本発明は、前記の点に鑑みなされたものであり、有機無機ハイブリッドガラスにおいてLED素子自体から発する熱や紫外線に耐性を備え耐久性と経済性も併せ持つLED素子用接着剤を提供する。
すなわち、請求項1の発明は、ヒドロキシ末端を有するジメチルポリシロキサン(A)と、アルミニウムアルコキシド(B)と、ケイ素アルコキシド(C)とを含み脱水縮合反応により生じた有機無機ハイブリッド組成物(X)よりなり、前記ヒドロキシ末端を有するジメチルポリシロキサン(A)の重量平均分子量は500〜30000であり、前記有機無機ハイブリッド組成物における前記ヒドロキシ末端を有するジメチルポリシロキサンのヒドロキシ基(Af)の数と前記アルミニウムアルコキシドのアルコキシ基(Bf)の数の比率が、1:0.25ないし1:1.3の範囲を満たし、前記有機無機ハイブリッド組成物における前記ヒドロキシ末端を有するジメチルポリシロキサンのヒドロキシ基(Af)の数と前記ケイ素アルコキシドのアルコキシ基(Cf)の数の比率が、1:0ないし1:4の範囲を満たすことを特徴とするLED素子用接着剤に係る。
請求項2の発明は、前記ヒドロキシ末端を有するジメチルポリシロキサンが、重量平均分子量500〜1000のヒドロキシ末端を有するジメチルポリシロキサンを含む請求項1に記載のLED素子用接着剤に係る。
請求項の発明は、前記有機無機ハイブリッド組成物に無機物粒子が配合される請求項1または2に記載のLED素子用接着剤に係る。
請求項の発明は、前記有機無機ハイブリッド組成物に白色顔料が配合される請求項1ないし3のいずれか1項に記載のLED素子用接着剤に係る。
請求項1の発明に係るLED素子用接着剤によると、ヒドロキシ末端を有するジメチルポリシロキサン(A)と、アルミニウムアルコキシド(B)と、ケイ素アルコキシド(C)とを含み脱水縮合反応により生じた有機無機ハイブリッド組成物(X)よりなり、
前記ヒドロキシ末端を有するジメチルポリシロキサン(A)の重量平均分子量は500〜30000であり、前記有機無機ハイブリッド組成物における前記ヒドロキシ末端を有するジメチルポリシロキサンのヒドロキシ基(Af)の数と前記アルミニウムアルコキシドのアルコキシ基(Bf)の数の比率が、1:0.25ないし1:1.3の範囲を満たし、前記有機無機ハイブリッド組成物における前記ヒドロキシ末端を有するジメチルポリシロキサンのヒドロキシ基(Af)の数と前記ケイ素アルコキシドのアルコキシ基(Cf)の数の比率が、1:0ないし1:4の範囲を満たすため、有機無機ハイブリッドガラスにおいてLED素子自体から発する熱や紫外線に耐性を備え耐久性と経済性も併せ持ちLED素子と基板との良好な接着性能を発揮する接着剤として適するLED素子用接着剤を得ることができた。
また、前記の範囲値内の配合とすることにより、最終的に出来上がる有機無機ハイブリッド組成物のべたつき感を抑えるとともに、白濁や硬い皮膜の生成を防ぎ均一な仕上がりとなる。
請求項2の発明に係るLED素子用接着剤によると、請求項1の発明において、前記ヒドロキシ末端を有するジメチルポリシロキサンが、重量平均分子量500〜1000のヒドロキシ末端を有するジメチルポリシロキサンを含むため、より高い接着強度を得ることができる。
請求項の発明に係るLED素子用接着剤によると、請求項1または2の発明において、前記有機無機ハイブリッド組成物に無機物粒子が配合されるため、有機無機ハイブリッド組成物が硬化した後の硬度向上、熱伝導率調整、粘度調整に役立つ。
請求項の発明に係るLED素子用接着剤によると、請求項1ないし3のいずれかの発明において、前記有機無機ハイブリッド組成物に白色顔料が配合されるため、基板に実装されたLED素子当たりの光量を増加することができる。
有機無機ハイブリッド組成物の基板上への塗工時の概要図(参考例)である。 LED素子を実装した基板の概略断面図である。
LED素子用接着剤(LED素子用接着性組成物とは、有機無機ハイブリッド組成物(X)よりなり、事後的に熱硬化する硬化性材料である。例えば、LED素子と基板とを接着するための材料であり、ダイボンド材等とも称される接着剤である。あるいは、基板に実装したLED素子を上方から被覆して基板上のLED素子を損傷から保護する封止材料である。
LED素子用接着性組成物のもととなる有機無機ハイブリッド組成物(X)を構成する分子には、シリコーン、高反応金属アルコキシド、及び金属アルコキシドが含まれる。より詳しくは、有機無機ハイブリッド組成物(X)として、ヒドロキシ末端を有するジメチルポリシロキサン(A)と、アルミニウムアルコキシド(B)と、ケイ素アルコキシド(C)が含まれ、これらが脱水縮合反応に伴い架橋して生じた反応生成物である。
有機無機ハイブリッド組成物(X)は、シロキサン結合を備えたポリシロキサンが3次元的に複雑に架橋した構造となる。そのため、いわゆる無機ガラスに近似した構造であり、耐熱性、耐紫外線性等の好適な性質を得ることができる。特に、使用時間の長時間化や輝度の向上からLEDであっても発熱量が多くなっており、LED素子用接着性組成物の耐熱性への要望は高い。
有機無機ハイブリッド組成物(X)において、ポリシロキサン等の架橋度を高くし過ぎると当該組成物自体の弾力性が失われてしまう。LED素子用接着剤を想定した場合、接着対象のLED素子や基板との熱膨張率と乖離が大きくなることにより有機無機ハイブリッド組成物自体に亀裂が生じることや、接着対象との剥離により固定性が悪化する。また、LED素子の位置ずれを招き基板上の配線に損傷を与え断線の原因にもなる。LED素子用封止材料を想定した場合も、同様の要因から亀裂発生や断線の原因となり、透過光量の低下を引き起こす。逆にポリシロキサン等の架橋度を低くし過ぎた場合、永続的な形状保持性に欠く。そのため、接着後や封止後の安定性が悪化しやすい。
そこで、LED素子と基板との接着や封止に用いる際に考慮すべき耐熱性、耐紫外線性等に加え、加工時の作業性の確保を勘案して、有機無機ハイブリッド組成物(X)に用いる材料を検討した。以下、順に組成材料を述べる。
ヒドロキシ末端を有するジメチルポリシロキサン(A)は、有機無機ハイブリッド組成物(X)の骨格構造を形成する物質であり、分子中にフェニル基(芳香環)を有さず、低分子のメチル基のみの修飾を伴うケイ素化合物である。背景技術にて述べたとおり、紫外線の吸収に伴いフェニル基部分が分解し、変色することがあるためである。さらに、ジメチルポリシロキサン(A)同士、あるいはアルコキシド分子(B)または(C)との架橋反応性を高めるため、ジメチルポリシロキサンの末端部位はヒドロキシ基(水酸基)に置換される。ヒドロキシ末端を有するジメチルポリシロキサン(A)は有機無機ハイブリッド組成物(X)の構造骨格となる分子であり、重合度に応じて概ね分子量(以下、重量平均分子量を意味する。)500ないし30000の範囲から選択される。
ヒドロキシ末端を有するジメチルポリシロキサン(A)は、後記実施例に開示の分子量分布の重合体である。これらのうち、分子量3500付近(分子量2000ないし5000)をA1、分子量20000以上をA2、分子量700付近をA3、分子量550付近をA4として説明する(後記実施例も同様である)。なお、この分子量とは、重量平均分子量を意味する。
接着剤用途の場合、ヒドロキシ末端を有するジメチルポリシロキサン(A)について、その重量平均分子量を1000以下、さらには重量平均分子量を500ないし1000とする低分子量側の種類が好ましく用いられる。後記実施例より、低分子量側のヒドロキシ末端を有するジメチルポリシロキサンを使用した場合、接着強度の向上が認められる。従って、用途、目的、条件等に応じてヒドロキシ末端を有するジメチルポリシロキサン(A)の種類を使い分けることができる。
アルミニウムアルコキシド(B)はヒドロキシ末端を有するジメチルポリシロキサン(A)の末端部分であるヒドロキシ基(シラノール基)と縮合反応し、分子同士による網目構造を形成する役割を持つ。当該アルミニウムアルコキシド(B)として、アルミニウムsec−ブトキシド、アルミニウムtert−ブトキシド、モノsec−ブトキシアルミニウムジイソプロピレート(別名、アルミニウム(2−ブタノラート)ジ(2−プロパノラート))等をはじめとする各種のアルミニウムアルコキシドが挙げられる。後記する実施例からも明らかであるように、アルミニウムsec−ブトキシドが好例である。
アルミニウムアルコキシド(B)は、ケイ素アルコキシド(C)と比較して加水分解や縮合等の反応性に富む。その結果、アルミニウムアルコキシド(B)は、酸、塩基等の触媒を用いることなく加水分解が生じる。そして、ジブチル錫ジアセテート、ジブチル錫ジラウレート、ジオクチル錫ジラウレート、ビス(アセトキシジブチル錫)オキサイド、ビス(ラウロキシジブチル錫)オキサイド等のスズ系の反応促進剤を用いることなくヒドロキシ末端を有するジメチルポリシロキサン(A)(A1,A2,A3,A4)のヒドロキシ基(シラノール基)と縮合反応し、架橋形成が可能である。
一般に、高反応性金属アルコキシドとして、列記のアルミニウムアルコキシド以外にもジルコニウムアルコキシド、チタンアルコキシド、錫アルコキシド、亜鉛アルコキシド等の各金属アルコキシドの使用が可能である。ここで、短波長紫外線領域の光線透過性を勘案した場合、有機無機ハイブリッド組成物(X)に含まれる高反応性金属アルコキシドの反応生成物に由来する金属酸化物には、ある程度のバンドギャップの大きさが必要である。バンドギャップよりも高いエネルギーの光は吸収される。そのため、バンドギャップに相当する波長は吸収端の波長となる。これに対し、バンドギャップよりも低いエネルギーの光は吸収されずに透過する。
E=hνであることから、E=(h・c)/λとすることができ、まとめると、E(eV)=1240(eV・nm)/λ(nm)となる。各金属酸化物のバンドギャップについて、Al23が6.9eV、ZrO2が5.0eV、TiO2が3.2eV、SnO2が3.37eV、ZnO2が3.37eVである。なお、TiO2は3.2eVのバンドギャップ構造が紫外線を吸収するため除外される。
各金属酸化物のバンドギャップを代入すると、その吸収端の波長が求まる。順に、Al23は179.7nm、ZrO2は248nm、SnO2は342.5nm、ZnO2は367.9nmである。このように、Al23は180nm以上の波長の透過が可能である。しかし、Al23以外は、いずれも240nm以下の短波長紫外線領域の透過を得ることはできない。このため、アルミニウムアルコキシド(B)の使用が最も適している。特に、接着や封止の対象をLEDとしていることから光線透過性が極めて重要である。それゆえ、アルミニウムアルコキシド(B)の優位性は高い。
ケイ素アルコキシド(C)もヒドロキシ末端を有するジメチルポリシロキサン(A)(A1,A2,A3,A4)の末端部分であるヒドロキシ基(シラノール基)と縮合反応し、分子同士による網目構造を形成する役割を持つ。ケイ素アルコキシド(C)として、テトラエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン等をはじめとする各種のケイ素アルコキシドが挙げられる。後記する実施例からも明らかであるように、テトラエトキシシランが好例である。
従来、ポリオルガノシロキサン類と、ケイ素アルコキシド等の金属アルコキシドとの反応に際しては、前出のスズ系の反応促進剤を必要としていた。しかし、アルミニウムアルコキシド(B)のように、より反応性の高いアルコキシドを配合することにより、反応促進剤の添加を省略することができる。このため、後記の実施例にあるように、低分子量のヒドロキシ末端を有するジメチルポリシロキサンに限った例では、使用するアルコキシドの全てをアルミニウムアルコキシド(B)とすることは可能であり、ケイ素アルコキシド(C)を実質的に必要としない。
しかし、ヒドロキシ末端を有するジメチルポリシロキサン(A)の末端部分であるヒドロキシ基(シラノール基)と温和にかつ未反応を少なくして縮合反応をするためには、むしろケイ素アルコキシド(C)のように、反応性を抑えた化学種も必要となる。アルミニウムアルコキシド(B)のみでは、高反応性ゆえに未反応部分が生じるおそれがあると考えられる。つまり、アルミニウムアルコキシド(B)はそれ自体による架橋剤としての作用と、ジメチルポリシロキサン(A)とケイ素アルコキシド(C)との縮合反応を促進する反応促進剤としての双方の役割を有する。このため、両アルコキシドの性質の相違に鑑みアルミニウムアルコキシド(B)と、好ましくはケイ素アルコキシド(C)の2種類の金属アルコキシドが使用される。
LED素子用接着剤のもととなる有機無機ハイブリッド組成物(X)の形成と配合量は、おおよそ次のとおり規定される。有機無機ハイブリッド組成物(X)の形成に際し、ヒドロキシ末端を有するジメチルポリシロキサン(A)とアルミニウムアルコキシド(B)との混合により、アルミニウムアルコキシド(B)とジメチルポリシロキサン(A)の末端ヒドロキシ基との脱水縮合により架橋した前駆体が生成される。重量換算を採用する場合では、使用する分子種により重量が大きく変動してしまい反応の把握に不向きである。そこで、ジメチルポリシロキサン(A)とアルミニウムアルコキシド(B)に含まれ、反応の中心となる官能基の数量比に着目して混合量を規定することとした。
具体的には、ヒドロキシ末端を有するジメチルポリシロキサン(A)のヒドロキシ基(Af)の数とアルミニウムアルコキシド(B)のアルコキシ基(Bf)との数の比率は、1:0.005ないし1:1.3(Af/Bfは、1/0.005ないし1/1.3である。)の範囲である。後記実施例に開示のとおり、ヒドロキシ末端を有するジメチルポリシロキサンを中分子量(A1)と高分子量(A2)の異なる2種類の分子量の配合と、低分子量(A3)もしくは(A4)の単独配合がある。上記のAf:Bfの範囲は、各分子量のジメチルポリシロキサン(A)(A1,A2,A3,A4)を包含し、かつ、LED素子用の封止材料としても接着剤としても使用可能な最大範囲である。
中分子量及び高分子量の2種類の分子量(A1)及び(A2)の配合とした場合、ヒドロキシ末端を有するジメチルポリシロキサン(A)のヒドロキシ基(Af)の数とアルミニウムアルコキシド(B)のアルコキシ基(Bf)との数の比率は、好ましくは1:0.025ないし1:1.3(1/0.025ないし1/1.3)、より好ましくは1:1ないし1:1.3(1/1ないし1/1.3)となる。
中分子量及び高分子量側のジメチルポリシロキサン(A)(A1,A2)に関し、用途毎に範囲を示すことができる。LED素子の封止材料用途の場合、ヒドロキシ末端を有するジメチルポリシロキサン(A)のヒドロキシ基(Af)の数とアルミニウムアルコキシド(B)のアルコキシ基(Bf)との数の比率は、1:0.025ないし1:1.3となる。これに対し、LED素子の接着剤用途の場合、Af:Bfの比率は、1:0.25ないし1:1.3となる。
低分子量側のジメチルポリシロキサン(A)(A3,A4)の配合とした場合、ヒドロキシ末端を有するジメチルポリシロキサン(A)のヒドロキシ基(Af)の数とアルミニウムアルコキシド(B)のアルコキシ基(Bf)との数の比率は、好ましくは1:0.005ないし1:1.3(1/0.005ないし1/1.3)、より好ましくは1:1ないし1:1.3(1/1ないし1/1.3)となる。
さらに、低分子量側のジメチルポリシロキサン(A)(A3,A4)について、LED素子の封止材料用途の場合、ヒドロキシ末端を有するジメチルポリシロキサン(A)のヒドロキシ基(Af)の数とアルミニウムアルコキシド(B)のアルコキシ基(Bf)との数の比率は、1:0.005ないし1:1.3となる。これに対し、LED素子の接着剤用途の場合、Af:Bfの比率は、1:0.005ないし1:1.3となる。
ヒドロキシ末端を有するジメチルポリシロキサン(A)のヒドロキシ基(Af)の数に対するアルミニウムアルコキシド(B)のアルコキシ基(Bf)との数の比率が前記の比率より少ない場合、アルミニウムアルコキシド(B)のアルコキシ基が少なく、ジメチルポリシロキサン(A)の未反応の残存量が多くなり、最終的に出来上がる組成物(X)の粘性、べたつき感(タック性/tackiness)が増してしまう。
逆に、ヒドロキシ基(Af)の数に対するアルコキシ基(Bf)の数の比率が前記の比率より多い場合、アルミニウムアルコキシド(B)が過剰であり、アルミニウムアルコキシド(B)自体が反応して結合する。そのため、出来上がる組成物(X)に部分的に硬い皮膜が生じたりして均一な仕上がりを得ることができなくなる。このことから、前記の配合割合の範囲値として規定した。
ヒドロキシ末端を有するジメチルポリシロキサン(A)とアルミニウムアルコキシド(B)との反応に際し、アルミニウムアルコキシド(B)自体の反応性は高く、前述のとおり、アルミニウムアルコキシド(B)同士で結合することがある。そこで、アルミニウムアルコキシド(B)の反応促進剤としての効果を最大限生かしつつ、必要により添加されるケイ素アルコキシド(C)の縮合反応を促進する必要がある。
この場合、アルミニウムアルコキシド(B)の作用を勘案して、ケイ素アルコキシド(C)の配合量が規定される。前記同様、官能基同士による規定が簡便であるため、有機無機ハイブリッド組成物におけるヒドロキシ末端を有するジメチルポリシロキサン(A)のヒドロキシ基(Af)の数とケイ素アルコキシド(C)のアルコキシ基(Cf)の数の比率は、1:0ないし1:70(言い換えると、Af/Cfは、1/0(Cf無し)ないし1/70である。)の範囲を満たす範囲に規定される。
後記実施例に開示のとおり、ヒドロキシ末端を有するジメチルポリシロキサンを中分子量(A1)と高分子量(A2)の異なる2種類の分子量の配合と、低分子量(A3)もしくは(A4)の単独配合がある。上記のAf:Cfの範囲は、各分子量のジメチルポリシロキサン(A)(A1,A2,A3,A4)を包含し、かつ、LED素子用の封止材料としても接着剤としても使用可能な最大範囲である。
中分子量及び高分子量の2種類の分子量(A1)及び(A2)の配合とした場合、ヒドロキシ末端を有するジメチルポリシロキサン(A)のヒドロキシ基(Af)の数とケイ素アルコキシド(C)のアルコキシ基(Cf)との数の比率は、好ましくは1:0.53ないし1:70、より好ましくは1:0.53ないし1:15.9、さらに好ましくは1:1ないし1:4となる。
中分子量及び高分子量側のジメチルポリシロキサン(A)(A1,A2)に関し、同様に用途毎に範囲を示すことができる。LED素子の封止材料用途の場合、ヒドロキシ末端を有するジメチルポリシロキサン(A)のヒドロキシ基(Af)の数とケイ素アルコキシド(C)のアルコキシ基(Cf)との数の比率は、1:1ないし1:70となる。これに対し、LED素子の接着剤用途の場合、Af:Cfの比率は、1:0ないし1:15.9、好ましくは1:0ないし1:4となる。
低分子量側のジメチルポリシロキサン(A)(A3,A4)の配合とした場合、ヒドロキシ末端を有するジメチルポリシロキサン(A)のヒドロキシ基(Af)の数とアルミニウムアルコキシド(C)のアルコキシ基(Bf)との数の比率は、好ましくは1:0ないし1:21、より好ましくは1:0.27ないし1:5.24、さらにより好ましくは1:0.54ないし1:2.42となる。
さらに、低分子量側のジメチルポリシロキサン(A)(A3,A4)について、LED素子の封止材料用途の場合、ヒドロキシ末端を有するジメチルポリシロキサン(A)のヒドロキシ基(Af)の数とケイ素アルコキシド(C)のアルコキシ基(Cf)との数の比率は、1:0ないし1:5.24となる。これに対し、LED素子の接着剤用途の場合、Af:Cfの比率は、1:0ないし1:21となる。
ヒドロキシ末端を有するジメチルポリシロキサン(A)のヒドロキシ基(Af)の数に対するケイ素アルコキシド(C)のアルコキシ基(Cf)の数の比率が前出の値より少ない場合、相対的にケイ素アルコキシド(C)の割合が少ない。そのため、アルミニウムアルコキシドの架橋の影響から出来上がる有機無機ハイブリッド組成物(X)は、粘性、べたつき感(タック性)の増した仕上がりとなり好ましくない。ただし、ケイ素アルコキシド(C)を使用せずとも良好な接着性能等を発揮する例がある。
ヒドロキシ基(Af)の数に対するアルコキシ基(Cf)の数の比率が前出の値より多い場合、相対的にケイ素アルコキシド(C)の割合が多い。この場合、未反応のケイ素アルコキシド(C)が多過ぎて未反応で残存するため添加の意味を成さない。また、ケイ素アルコキシドの割合が増すことにより硬化時の収縮率も変動するため好ましくない。このことから、前記の配合割合の範囲値を規定した。
ヒドロキシ末端を有するジメチルポリシロキサン(A)、アルミニウムアルコキシド(B)、及びケイ素アルコキシド(C)を前述の配合割合において調製する場合、アルコールが溶媒として用いられる。アルミニウムアルコキシドはアルコールに溶解され、その上でジメチルポリシロキサン(A)に混合される。成分同士の混合を容易とし、さらに、使用前の流動性を維持するためである。各材料の混合後、使用したアルコール溶媒は必要に応じて除去される。
特に、アルミニウムアルコキシド(B)は、前述のとおり反応性に富むため、単純にジメチルポリシロキサン(A)に添加するとアルミニウムアルコキシド(B)同士により脱水縮合して酸化アルミニウムを析出する。あるいは、添加したアルミニウムアルコキシド(B)の周りのジメチルポリシロキサン(A)のみと反応して不均一な生成物が生じる。そのため、特にアルミニウムアルコキシド(B)は、アルコール溶媒中に分散された上でヒドロキシ末端を有するジメチルポリシロキサン(A)と混合される。
一般にアルコールは水素結合により水分子と親和性が高い。溶媒に用いるアルコールに求められる主な性質は、水分の吸収が少ないこと、かつ沸点が100℃以下であることである。そこで、2−プロパノール(イソプロピルアルコール)、1−ブタノール(sec−ブチルアルコール)等の2級アルコール、2−メチル−2−プロパノール(tert−ブチルアルコール)等の3級のアルコールが例示される。さらに、紫外線領域での吸収がないことを考慮すると2−メチル−2−プロパノールが好ましい。後述の実施例にあるとおり、アルミニウムアルコキシド(B)は、2−メチル−2−プロパノールに溶解され、ジメチルポリシロキサン(A)と混合される。
接着剤単独もしくは接着剤と封止材料の両方の用途を想定する際には、当該混合物中より大半のアルコール溶媒は真空乾燥等により除去される。アルコール溶媒を極力除去することにより、有機無機ハイブリッド組成物(X)の硬化中に発生する揮発成分や気泡が抑えられる。結果、架橋後の組成物の体積収縮を少なくして良好な接着性能を得ることができる。これに対し、主に封止材料用途の場合、アルコール溶媒の除去は必須ではなく、組成に応じて乾燥等が行われる。
組成物表面から吸収された水分により、アルミニウムアルコキシド(B)及びケイ素アルコキシド(C)の加水分解は進行する。そして、さらにヒドロキシ末端を有するジメチルポリシロキサン(A)との脱水縮合が促進する。縮合により生成した水に起因して、さらにアルミニウムアルコキシド(B)及びケイ素アルコキシド(C)の加水分解が誘発される。このように、アルコキシドの加水分解とポリシロキサンの脱水縮合は連鎖的に生じ、有機無機ハイブリッド組成物(X)の表面から次第に内部全体の架橋、硬化の反応が進行する。最終的に、流動物であった有機無機ハイブリッド組成物(X)が架橋、硬化する。こうして、本発明の目的とするLED素子用接着性組成物が生成する。
有機無機ハイブリッド組成物(X)について、これを組成するヒドロキシ末端を有するジメチルポリシロキサン(A)、アルミニウムアルコキシド(B)、及びケイ素アルコキシド(C)に加え、当該組成物の目的、作用に反しない限りにおいて必要に応じて任意の成分を添加することができる。例えば、反射材、蛍光体、老化防止剤、ラジカル抑制剤、接着改良剤、難燃剤、界面活性剤、光安定剤、帯電防止剤、水分ゲッター剤、またはフィラー等である。
さらに、有機無機ハイブリッド組成物(X)について、LED素子用接着剤等に使用する場合、接着剤の性質を向上、機能付加を目的として以下に挙げる無機物粒子や白色顔料が添加される。
有機無機ハイブリッド組成物に配合される無機物粒子は、当該有機無機ハイブリッド組成物(X)が硬化した後の硬度向上、熱伝導率調整、粘度調整等の目的で添加される。具体的には、結晶性シリカ、溶融シリカ、ヒュームドシリカ、アルミナ、窒化ホウ素等のセラミック系粉末である。良好な接着性や放熱性を勘案すると、アルミナ粉末が望ましく用いられる。無機物粒子はいずれの形状も使用可能である。この場合、充填性や粘度等を勘案して扁平形状の粒子が好ましい。
LED素子用接着剤として塗工する場合、接着剤は約30μm以下の厚さに調整される。そのため、無機物粒子は20μm以下の粒径種から選択される。有機無機ハイブリッド組成物(X)を1重量部とした際の無機物粒子の妥当な配合割合は、0.1ないし2.8重量部である。少ない配合量の場合、硬度、熱伝導率が低下する。また、配合を多くし過ぎると混合物自体の粘度が高くなりすぎて作業性が悪化する。
無機物粒子とともにあるいはこれに代えて白色顔料も配合される。LED素子から基板側に拡散する光は、接着剤中に含まれる白色顔料により反射される。このことから白色顔料は反射剤の一種となり、基板に実装されたLED素子当たりの光量を増加することができる。例えば、酸化チタン、酸化亜鉛、鉛白、硫化亜鉛、炭化カルシウム、カオリン、窒化ホウ素等が挙げられる。酸化チタンと酸化亜鉛の粉末は、有機無機ハイブリッド組成物(X)中に容易に均一に分散されやすい。従って、もともと透明の有機無機ハイブリッド組成物(X)は良好に白色を呈する。また、酸化チタンや酸化亜鉛は光反射のバランスも良い。従って、好適な光反射を得ることができる。
有機無機ハイブリッド組成物(X)の塗工等を勘案し、配合する白色顔料は平均粒径1μm以下の微粉末である。有機無機ハイブリッド組成物(X)を1重量部とした際の白色顔料の妥当な配合割合は、0.1ないし1.8重量部である。少ない配合量の場合、光反射効果を得ることができない。また、配合を多くし過ぎると有機無機ハイブリッド組成物自体の粘度が高くなりすぎて作業性が悪化する。
有機無機ハイブリッド組成物(X)は、硬化前の状態であれば流動性を利用できる。このことから基板上のLED実装予定位置への塗工、あるいはLED全体を上方からの被覆等は極めて容易である。例えば、図1の概要図(参考例)としての例示するように、有機無機ハイブリッド組成物をLED素子の封止材料5として用いる場合、有機無機ハイブリッド組成物は、LED素子2を実装した基板1上に塗工装置6から吐出、滴下される。そして、当該基板1にてLED素子2の全体を被覆して同基板に被着する。なお、図示の基板1では、プリント配線、その他の部品についての図示を省略している。
図2はLED素子を実装した基板の概略断面図である。この図示の例示では、接着剤4となる有機無機ハイブリッド組成物が、前出の塗工装置6により、基板1に形成された穴部3内に滴下される。LED素子2が同接着剤の上に載置、固定され、LED素子の配線8は穴部3の底面部分の所定位置に接続される。続いて、LED素子の封止材料5となる有機無機ハイブリッド組成物が、塗工装置6から吐出、滴下される。LED素子2とともに穴部3内が封止材料5で満たされることによって、穴部3のLED素子2は有機無機ハイブリッド組成物Xにより完全に被覆、保護される。
その後、基板1は室温下にて静置され、さらに70℃ないし200℃で加熱されることにより、組成物内の分子の架橋反応が進み、有機無機ハイブリッド組成物は熱硬化する。接着剤4は基板とLED素子を強力に接着し、封止材料5はLED素子2を保護する。そして、必要により、レンズ7が装着される。
図示以外の基板やLED素子の形態、塗工手法によっても有機無機ハイブリッド組成物を接着剤や封止材料として利用することができる。こうして、LED素子の好適な接着や被覆、保護が可能である。また、最終的に出来上がるLED素子用接着性組成物の形状も図示の例に限られない。
〔使用原料〕
(ヒドロキシ末端を有するジメチルポリシロキサン(A))
ヒドロキシ末端を有するジメチルポリシロキサン(A)として、分子量(平均重合度)の異なる4種類を用意した。はじめに、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン合同会社製の商品名:YF3800(重量平均分子量3500:以下[A1]と称する。)、同社製の商品名:XF3905(重量平均分子量20000〜23000:以下[A2]と称する。)、及び同社製の商品名:XC96−723(重量平均分子量700:以下[A3]と称する。)を使用した。さらに、Sigma−Aldrich Corporation製のヒドロキシ末端を有するジメチルポリシロキサン(製品番号:481939)(重量平均分子量550:以下[A4]と称する。)を使用した。
(アルミニウムアルコキシド(B))
アルミニウムアルコキシド(B)として、アルミニウムsec−ブトキシド(アルミニウムsec−ブチレート)(川研ファインケミカル株式会社製,商品名:ASBD)を使用した(以下、[ASBD]と称する。)。また、モノsec−ブトキシアルミニウムジイソプロピレート(川研ファインケミカル株式会社製,商品名:AMD)を使用した(以下、[AMD]と称する。)。
(ケイ素アルコキシド(C))
ケイ素アルコキシド(C)として、テトラエトキシシラン(多摩化学工業株式会社製)を使用した(以下、[TEOS]と称する。)。これに加えて、テトラメトキシシラン(以下、[TMOS]と称する。)、テトラプロポキシシラン(以下、[TPOS]と称する。)を使用した。[TMOS]及び[TPOS]は、いずれも東京化成工業株式会社製である。
(その他の原料)
また、溶解用に2−メチル−2−プロパノール(tert−ブチルアルコール)(関東化学株式会社製)を使用した。
白色顔料として、酸化チタン粒子(テイカ株式会社製,商品名:JR−600A,平均粒子径0.25μm)を使用した。
無機物粒子として、アルミナ粒子(電気化学工業株式会社製,商品名:ASFP−20,平均粒子径0.30μm)
〔LED素子用接着組成物の試作〕
発明者らは、前記の使用原料を用い次の手順に従い試作例1ないし67の有機無機ハイブリッド組成物を調製した。なお、使用原料、中間生成物等の配合の詳細は、試作例毎の表中に記載の量(重量比、重量)とした。
アルミニウムアルコキシド(B)(前出の[ASBD]または[AMD])と脱水した2−メチル−2−プロパノールを密閉容器に入れて混合してアルミニウムアルコキシド溶液[Bs]を得た。ヒドロキシ末端を有するジメチルポリシロキサン(A)[A1],[A2],[A3],または[A4]について表中の種類を選択して脱水処理の後、別の容器に定量して投入し、密閉状態で前記のジメチルポリシロキサン(A)とアルミニウムアルコキシド(B)の両成分を十分に混合して混合ポリシロキサン[Am]とした。
密封状態を維持して混合ポリシロキサン[Am]を70℃に加熱しながらさらに1時間混合攪拌し続け、均質で透明な混合液状物[Ms]を得た。混合液状物[Ms]を真空吸引して、これに含有された2−メチル−2−プロパノール重量の約90%を除去した。真空吸引後の混合液状物[Ms]にケイ素アルコキシド(C)(前出の[TEOS],[TMOS],または[TPOS])を添加し、密封容器内で1時間ないし3時間ほど混合攪拌した。こうして試作例毎に有機無機ハイブリッド組成物を得た。なお、ケイ素アルコキシド(C)を配合しない試作例では、ケイ素アルコキシド(C)の配合に関する処理を省略した。
試作例毎に調製した有機無機ハイブリッド組成物をフッ素樹脂(テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)製のシャーレに流し込み、3gを分取した。同シャーレを電気炉に入れ、150℃で4時間加熱した。例えば、試作例1の場合、前記の加熱条件において厚さ約1mmの熱硬化物、すなわちLED素子用接着性組成物に仕上がった。
また、白色顔料、無機物粒子も含有する有機無機ハイブリッド組成物も調製した(試作例66,67)。この場合、予め前述の作成方法に従い有機無機ハイブリッド組成物を調製しておき、この中に、後出の表に記載の量の白色顔料、無機物粒子を添加して均一になるまで混練した。
各試作例の有機無機ハイブリッド組成物並びに硬化物に関し、硬化状態、液粘度、接着強度について、以下のとおり評価し、測定した。併せて、各試作例の有機無機ハイブリッド組成物が接着剤用途、封止材料用途、その両方の用途に適するのかについても適性を評価した。
〔硬化状態の評価〕
各試作例の有機無機ハイブリッド組成物について、150℃で4時間の加熱した際に完全に流動性が喪失し硬化した組成物を「良」とした。150℃で4時間の加熱した際に硬化したもののべたつき感が残った組成物を「可」とした。150℃で4時間の加熱した際に硬化しなかった組成物を「不可」とした。
〔液粘度の評価〕
各試作例の有機無機ハイブリッド組成物について、熱硬化前の段階で塗工作業を想定した良好な流動性を具備している組成物を「良」とした。逆に流動性のない組成物を「不可」とした。
当該液粘度の良否評価とともに、一部試作例の有機無機ハイブリッド組成物について、参考として流動性も計測した。具体的には、試作例の有機無機ハイブリッド組成物0.3gをアルミニウム板に滴下し、直ぐにこの板を45°傾けた。このとき、組成物の滴下位置から、組成物の先端が1cm移動するまでに要した秒数によって液粘度の流動性を評価した。測定に供した試作例は、6,8,28,30,46,及び51である。それぞれの秒数は、3,2,2,2,17,44秒であった。
〔接着強度の測定1(引張りせん断接着強さ)〕
厚さ0.5mmのアルミニウム製の板材を100mm×25mmの長方形状に裁断し、アルミニウム試験片を得た。1枚の試験片の長手方向の端から10mmまでの部分のみに各試作例の有機無機ハイブリッド組成物を一定量ずつ塗布した(塗布試験片)。塗布試験片の組成物塗布部分に、組成物を塗布していない別の試験片を重ねるとともに、両試験片とも末端から90mmの重ね合わせのない部分を形成した。そして、両試験片を2個の事務用クリップで組成物塗布部分の試験片を押圧固定し、150℃で4時間加熱し、当該組成物を熱硬化した。つまり、2枚の試験片は互いに10mmの接着部位でのみ接着した状態となる。
接着強度の評価として、引張りせん断接着強さの試験を採用した(JIS K 6850(1999),ASTM D1002,ISO 4587:2003参照)。有機無機ハイブリッド組成物を熱硬化した後の2枚重ねの試験片において、その両端となる単層部分を万能材料試験機(シンコー工業株式会社製,TCM5000)の治具により挟み、下向きに荷重を加えた。引張り時、試験機のクロスヘッドの移動速度は50mm/minとした。そして、2枚重ねの試験片が剥離した時点の荷重値を当該有機無機ハイブリッド組成物における引張りせん断接着強さとした。
〔耐熱性評価〕
上記のアルミニウム試験片同士を有機無機ハイブリッド組成物により接着して熱硬化した後、さらに、熱による接着性能の変化も評価した。具体的には、接着済みのアルミニウム試験片を200℃の状態で10日間維持した。加熱を終えた後、室温まで冷却して前述の引張りせん断接着強さの試験を実施し、有機無機ハイブリッド組成物毎の加熱後の引張りせん断接着強さを測定した。
〔接着強度の測定2(圧縮せん断接着強さ)〕
厚さ1.0mm、75mm×25mmのガラス片を用意した。1枚のガラス試験片の長手方向の端から30mmまでの部分のみに各試作例の有機無機ハイブリッド組成物を一定量ずつ塗布した(塗布試験片)。塗布試験片の組成物塗布部分に、組成物を塗布していない別のガラス試験片を重ねるとともに、両ガラス試験片とも末端から45mmの重ね合わせのない部分を形成した。そして、両ガラス試験片を2個の事務用クリップで組成物塗布部分のガラス試験片を押圧固定し、150℃で4時間加熱し、当該組成物を熱硬化した。つまり、2枚のガラス試験片は互いに30mmの接着部位でのみ接着した状態となる。
加えて、接着強度の評価に際し圧縮せん断接着強さの試験を採用した(JIS K 6852(1994)参照)。有機無機ハイブリッド組成物を熱硬化した後の2枚重ねのガラス試験片の両端となる単層部分を万能材料試験機(シンコー工業株式会社製,TCM5000)のロードセル上に縦方向に保持した。そして、上方向から荷重を加えた。圧縮時、試験機のクロスヘッドの移動速度は50mm/minとした。2枚重ねのガラス試験片が剥離した時点の荷重値を当該有機無機ハイブリッド組成物における圧縮せん断接着強さとした。
〔紫外線耐性評価〕
上記のガラス試験片同士を有機無機ハイブリッド組成物により接着して熱硬化した後、さらに、紫外線曝露による接着性能の変化も評価した。具体的には、接着済みのガラス試験片に対し、高圧UVランプ点灯装置(ウシオ電機株式会社製,UM−453B−A)を用いて10日間照射し続けた。照射光のスペクトルに含まれる主な波長と強度は次のとおりである。波長254nm,強度125W/m2、波長365nm,強度80W/m2であった。10日間の紫外線曝露を終えた後、前述の圧縮せん断接着強さの試験を実施し、有機無機ハイブリッド組成物毎の紫外線照射後の圧縮せん断接着強さを測定した。
〔評価・判断〕
試作例毎に、使用原料(A)、(B)、(C)とその配合割合(重量(g)表記)、アルミニウムアルコキシド溶液[Bs]の濃度(重量比)、ヒドロキシ基(Af)とアルコキシ基(Bf)との官能基数比(換算値)、ヒドロキシ基(Af)とアルコキシ基(Cf)との官能基数比(換算値)を示した。これらとともに、硬化状態(目視)、液粘度(目視)、アルミニウム片接着強度試験と耐熱性評価(引張りせん断接着強さ,単位:mN/mm2)、ガラス片接着強度試験と紫外線耐性評価(圧縮せん断接着強さ,単位:mN/mm2)、接着剤適性、封止材料適性、及び総合適性も付した。結果は、表1ないし12である。表11ないし12では減らした測定項目がある。また、数値傾向から妥当性を見いだせない項目については測定を省略した。
接着剤としての適性評価では、上述のアルミニウム片接着強度試験において200mN/mm2以上、ガラス片接着強度試験において150mN/mm2以上の両方を満たす試作例を「優」とし、いずれか一方のみを満たす試作例を「良」とした。いずれも満たさない、もしくは前述の硬化状態または液粘度が「不可」である試作例を「不可」とした。
封止材料としての適性評価では、前述の硬化状態及び液粘度の双方が「良」である試作例を「優」とした。優よりは一部劣る指標が存在するものの使用上の問題のない試作例を「良」とした。これらから外れ使用に適さない試作例を「不可」とした。
総合適性評価は、接着剤または封止材料のいずれか、接着剤及び封止材料の両用、いずれにも不適当として判断した。接着剤または封止材料の「単独用途」は、いずれか一方に優、良の評価のある試作例とした。「両用」は、双方の用途とも優、良の評価のある試作例とした。両方不可は、いずれの用途も適さない試作例である。加えて、前述の硬化状況、液粘度、作業性、製品としての完成度等を加味して総合的に判断した。
Figure 0006041511
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〔結果の詳細、考察〕
前掲の表において、試作例9,23,24,25,31,32,36,37,38,47,56は、接着剤または封止材料のいずれの用途にも不向き、もしくは硬化が不完全の例である。はじめに全試作例における全体的な傾向から、ヒドロキシ末端を有するジメチルポリシロキサン(A)のヒドロキシ基(Af)の数とアルミニウムアルコキシド(B)のアルコキシ基(Bf)との官能基数の比率(Af/Bf)、並びにヒドロキシ末端を有するジメチルポリシロキサン(A)のヒドロキシ基(Af)の数とケイ素アルコキシド(C)のアルコキシ基(Cf)との官能基数の比率(Af/Cf)を検討する。
〈全体的な官能基数の比率(Af/Bf)〉
全体傾向から把握される官能基数の比率(Af/Bf)は、1/0.005ないし1/1.3となる。下限値側は試作例39の評価に由来する。なお、この量以下は配合が極端に少なく、アルミニウムアルコキシドの機能を発揮できないことから、当該量を下限とした。上限値側は試作例30、46の評価に由来する。例えば、試作例31、47のように1/1.3を超過した場合、性質の悪化が顕著である。
〈[A1],[A2]の場合の官能基数の比率(Af/Bf)〉
中分子量及び高分子量のヒドロキシ末端を有するジメチルポリシロキサン[A1],[A2]を使用した場合、官能基数の比率(Af/Bf)は、1/0.025ないし1/1.3、より好ましくは1/1ないし1/1.3となる。下限値側は試作例1に由来し、さらには試作例29に由来する。上限値側は試作例8、30と、試作例9、31との評価の差に起因する。
〈用途別の官能基数の比率(Af/Bf)〉
[A1],[A2]を選択したときについて、封止材料または接着剤のいずれかもしくは両方に好適な有機無機ハイブリッド組成物の官能基数の比率(Af/Bf)を求めることができる。総合適性評価で封止材料もしくは両用を抽出すると、1/0.025ないし1/1.3となる。下限値側は試作例1、上限値側は試作例8、30を根拠とする。同様に、総合適性評価で接着剤もしくは両用を抽出すると、1/0.25ないし1/1.3となる。下限値側は試作例4、上限値側は試作例8、30を根拠とする。
〈[A3],[A4]の場合の官能基数の比率(Af/Bf)〉
低分子量のヒドロキシ末端を有するジメチルポリシロキサン[A3],[A4]を使用した場合、官能基数の比率(Af/Bf)は、1/0.005ないし1/1.3、より好ましくは1/1ないし1/1.3となる。下限値側は試作例39に由来し、さらには試作例42、44、59に由来する。上限値側は試作例46と試作例47との評価の差に起因する。
〈用途別の官能基数の比率(Af/Bf)〉
[A3],[A4]を選択したときについて、封止材料または接着剤のいずれかもしくは両方に好適な有機無機ハイブリッド組成物の官能基数の比率(Af/Bf)を求めることができる。総合適性評価で封止材料もしくは両用を抽出すると、1/0.005ないし1/1.3となる。下限値側は試作例39、上限値側は試作例46を根拠とする。次に、総合適性評価で接着剤もしくは両用を抽出すると、1/0.005ないし1/1.3となる。下限値側は試作例39、上限値側は試作例46を根拠とする。
〈全体的な官能基数の比率(Af/Cf)〉
全体傾向から把握される官能基数の比率(Af/Cf)は、1/0ないし1/70となる。下限値側はケイ素アルコキシド無配合の試作例10、48においても良好な評価を得たことに起因する。上限値側は試作例33、55を根拠とした。
〈[A1],[A2]の場合の官能基数の比率(Af/Cf)〉
中分子量及び高分子量のヒドロキシ末端を有するジメチルポリシロキサン[A1],[A2]を使用した場合、官能基数の比率(Af/Cf)は、1/0.53ないし1/15.9、より好ましくは1/1ないし1/4となる。下限値側は試作例11に由来し、さらには試作例12に由来する。上限値側は試作例26、28、29、30を根拠とした。なお、上限値側として試作例30と33を比較した場合、指標の好転が見られないことから前掲の試作例の値として規定した。
〈[A3],[A4]の場合の官能基数の比率(Af/Cf)〉
低分子量のヒドロキシ末端を有するジメチルポリシロキサン[A3],[A4]を使用した場合、官能基数の比率(Af/Cf)は、1/0ないし1/21、好ましくは1/0.27ないし1/5.24、より好ましくは1/0.54ないし1/2.42となる。下限値側は試作例48に由来し、さらには試作例40、41、42、そして試作例43、44、45、46に由来する。上限値側は最大値として試作例55に由来し、より狭めた試作例52、さらには試作例51に由来する。上限値縮小の理由はケイ素アルコキシドの使用量抑制のためである。
〈用途別の官能基数の比率(Af/Cf)〉
[A3],[A4]を選択したときについて、封止材料または接着剤のいずれかもしくは両方に好適な有機無機ハイブリッド組成物の官能基数の比率(Af/Cf)を求めることができる。総合適性評価で封止材料もしくは両用を抽出すると、1/0ないし1/5.24となる。下限値側は試作例48、上限値側は試作例52を根拠とする。次に、総合適性評価で接着剤もしくは両用を抽出すると、1/0ないし1/21となる。下限値側は試作例48、上限値側は試作例55を根拠とする。
[A3],[A4]では全体的に封止材料と接着剤の両方に好例であり、LED素子用接着性組成物として汎用性の高い材料であることが判明した。ただし、試作例53ないし55が接着剤の用途に限定される理由として、ケイ素アルコキシド量の増加に起因した黄変が顕著になるためである。
使用するヒドロキシ末端を有するジメチルポリシロキサン(A)の分子量の高低により、同等の数値評価を発揮したとしても配合するアルミニウムアルコキシド(B)やケイ素アルコキシド(C)の使用量に差が生じる。この原因として次のとおり考えることができる。本発明の有機無機ハイブリッド組成物を形成する反応系において、各原料分子はランダムな挙動である。反応に寄与する官能基同士の衝突、その後の縮合反応は確率論に依存する。この点を考慮すると、ジメチルポリシロキサンにランダムな衝突が生じた際に他のアルコキシドは低分子量側のジメチルポリシロキサンの末端のヒドロキシ基と比較的高頻度で衝突することが考えられる。この逆に、高分子量側のジメチルポリシロキサンの場合、長鎖長のため、他のアルコキシドが末端のヒドロキシ基と接触する頻度は低下しがちとなる。このようなことから、特に低分子量側のジメチルポリシロキサンほど、他原料の使用量を少なくする傾向が推察される。
〈使用原料の拡張性〉
試作例60ないし63に開示のケイ素アルコキシド(C)の種類拡張、試作例64、65のアルミニウムアルコキシド(B)の種類拡張の結果である。これらから理解されるように、前掲の官能基数の比率(Af/Bf,Af/Cf)を満たす範囲内の配合量とすることによって、種類に関わらず良好な評価を得た。さらに、ジメチルポリシロキサンを「[A1],[A2]」と「[A3]」の異なる分子量グループとして試作した場合の大きな性能の相違も生じることなく、封止材料と接着剤のいずれの用途にも問題なく使用可能であった。従って、アルミニウムアルコキシド、ケイ素アルコキシドの使用可能種類は幅を持つことも明らかにした。このことから、原料の特性、用途に応じた使い分けも可能といえる。
試作例66、67は白色顔料や無機物粒子を添加した接着剤用途のLED素子用接着性組成物である。主剤の組成物として、ジメチルポリシロキサン「[A1],[A2]」の例から試作例4を選択し、ジメチルポリシロキサン「[A3]」の例から試作例51を用いた。接着力評価の結果から、他の無機成分を混合した場合であっても実用上良好な接着力確保を確認した。従って、白色顔料や無機物粒子の特性を活かした接着剤用途のLED素子用接着性組成物の性能付与が可能となる。
本発明のLED素子用接着剤は、ヒドロキシ末端を有するジメチルポリシロキサンの選択、並びにこれに添加するアルコキシド類の選択と好適な調製により、短波長紫外線領域を発光するLED素子の接着対応可能である。そのため、従前のLED用の組成物と代替する製品として期待できる。
1 基板
2 LED素子
3 穴部
4 接着剤
5 封止材料
6 塗工装置
7 レンズ
8 配線
X 有機無機ハイブリッド組成物

Claims (4)

  1. ヒドロキシ末端を有するジメチルポリシロキサン(A)と、アルミニウムアルコキシド(B)と、ケイ素アルコキシド(C)とを含み脱水縮合反応により生じた有機無機ハイブリッド組成物(X)よりなり、
    前記ヒドロキシ末端を有するジメチルポリシロキサン(A)の重量平均分子量は500〜30000であり、
    前記有機無機ハイブリッド組成物における前記ヒドロキシ末端を有するジメチルポリシロキサンのヒドロキシ基(Af)の数と前記アルミニウムアルコキシドのアルコキシ基(Bf)の数の比率が、1:0.25ないし1:1.3の範囲を満たし、
    前記有機無機ハイブリッド組成物における前記ヒドロキシ末端を有するジメチルポリシロキサンのヒドロキシ基(Af)の数と前記ケイ素アルコキシドのアルコキシ基(Cf)の数の比率が、1:0ないし1:4の範囲を満たす
    ことを特徴とするLED素子用接着剤
  2. 前記ヒドロキシ末端を有するジメチルポリシロキサンが、重量平均分子量500〜1000のヒドロキシ末端を有するジメチルポリシロキサンを含む請求項1に記載のLED素子用接着剤
  3. 前記有機無機ハイブリッド組成物に無機物粒子が配合される請求項1または2に記載のLED素子用接着剤
  4. 前記有機無機ハイブリッド組成物に白色顔料が配合される請求項1ないし3のいずれか1項に記載のLED素子用接着剤
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