JP6037943B2 - Cr2O3含有スラグの処理方法 - Google Patents
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Description
特許文献1は、六価クロムの溶出の抑制を目的としたスラグを開示している。
特許文献1に開示のスラグは、クロムを含有する鉄鋼精錬スラグであって、スラグ中の全クロムの80質量%以上がMgO・Cr2O3として存在し、2CaO・SiO2含有量がスラグ質量に対して3質量%未満であることを特徴とするものである。
特許文献2に開示の酸化スラグの再利用方法は、含クロム鋼を製造する際に発生した酸化スラグを再利用する方法において、溶解精錬後の組成が、質量%で、CaO:35〜55%、SiO2:5〜20%、Al2O3:0.5〜15%、MgO:3〜15%、MnO:2〜15%、CaF2:0.05〜0.5%、T.Fe:10〜30%、Cr2O3:0.2〜6.0%であり、且つ、残部が不可避不純物である酸化スラグに対し、当該酸化スラグ中の酸化鉄にマンガン元素が固溶してなる鉱物相の量が、12.5質量%以上となるように、溶解精錬後の前記酸化スラグを冷却することで再利用するリサイクルスラグを生成することを特徴とするものである。
特許文献1のスラグに関しては、スラグの冷却時における熱履歴が明らかにされておらず、高温で大気酸化した場合には、環告46号の基準を超えて六価クロムが溶出するおそれのあるスラグとなり得る。また、特許文献1では、MgO・Cr2O3由来のCrの割合が、スラグ中の全クロムに対して80質量%(以下、単に%で示す)未満のときには六価クロムが溶出するとされており、スラグの改質のために不足成分を補うなど、管理及び作業が非常に繁雑である。これに限らず、特許文献1に開示の技術では、スラグの改質を促進するために該スラグを昇温させる必要があるなど、エネルギーコストの増加も懸念される。
即ち、本発明における課題解決のための技術的手段は、Cr2O3を含むスラグにおいて、前記スラグに含まれる全Cr量に対するMgO・Cr2O3に含有されるCr量の割合を判断するCr量判断工程と、前記Cr量判断工程にて判断された全Cr量に対するMgO・Cr 2 O 3 に含有されるCr量の割合が50質量%未満であり且つ全Cr量がCr 2 O 3 の形で4.7質量%以下の場合には、前記スラグが溶融状態となった溶融スラグを冷却する過程で、800℃以下に冷却されるまで非酸化性雰囲気とする第1の冷却工程と、前記Cr量判断工程にて判断された全Cr量に対するMgO・Cr 2 O 3 に含有されるCr量の割合が50質量%以上80質量%未満であり且つ全Cr量がCr 2 O 3 の形で15.2質量%以下の場合には、前記溶融スラグを冷却する過程で、600℃以下に冷却されるまで非酸化性雰囲気とする第2の冷却工程と、を備えることを特徴とする。
まず、図1を参照し、Cr2O3含有スラグが発生する装置の一例として、クロム(Cr)を含む含クロム鋼(例えばステンレス鋼)を製造する電気炉1の構成を説明する。図1は、クロム(Cr)を含む含クロム鋼(例えばステンレス鋼)を製造する電気炉1の概略構成を示す図である。
容器本体3は、上方に向けた開口を有する碗型の部材であり、蓋体4は、容器本体3の開口を上方から覆って塞ぐ部材である。容器本体3と蓋体4は、互いに上下方向に分離可能である。この容器本体3と容器本体3を蓋する蓋体4とによって、容器本体3及び蓋体4の縁の所定の位置に排滓口5が形成され、同じく容器本体3及び蓋体4の縁において排滓ロ5の反対側には出鋼口6が形成されている。排滓口5には、容器本体3内の溶湯2に対して酸素を吹き込むためのランス7を装入することができる。なお、排滓口5や出鋼口6は、容器本体3及び蓋体4の縁でなくとも、容器本体3に形成されてもよい。
斯かる構成の電気炉1には、まず、容器本体3に冷鉄源(例えばクロムを含むスクラップ)などの主原料と合わせて副原料等も投入する。なお、副原料を投入するタイミングは、主原料と同時でも、主原料の後でも問題はない。これら原料を投入した後、電極8が発するアーク放電によって冷鉄源及び副原料を加熱溶解して溶融状態とし、その溶融状態にある溶湯2に対してランス7から酸素を吹き込むことにより溶湯2を精錬(脱炭処理)する。精錬された溶湯2を電気炉1の出鋼口6から出銑して冷却すれば、ステンレス鋼が生産される。
そこで、本実施形態では、Cr2O3含有スラグの処理方法として、Cr2O3を含むスラグにおいて、当該スラグに含まれる全Cr量に対するMgO・Cr2O3に含有されるCr量の割合を判断し(Cr量判断工程)、Cr量判断工程にて判断されたCr量の割合が50質量%(以下、単に50%と示す)未満である場合には、スラグが溶融状態となった溶融スラグを冷却する過程で、800℃以下に冷却されるまで非酸化性雰囲気とする(第1の冷却工程)。また、Cr量判断工程にて判断されたCr量の割合が50質量%以上80質量%未満(以下、単に50%以上80%未満と示す)である場合には、溶融スラグを冷却する過程で、600℃以下に冷却されるまで非酸化性雰囲気とする(第2の冷却工程)。
本実施形態によるCr2O3含有スラグの処理方法は、スラグに含まれる全Cr量に対するMgO・Cr2O3に含有されるCr量の割合に着目して、スラグの冷却過程における雰囲気を制御する。このCr2O3含有スラグの処理方法によって、環境庁告示第46号(以下、環告46号という)の基準を満たすようにスラグを処理し、六価クロムの溶出量を0.05mg/L以下にすることができる。
物相(例:CaO・Cr2O3など)がMgO・Cr2O3よりも多く生成することで、スラグが大気酸化するときの温度が高温となるに伴って、該スラグからの六価クロムの溶出量が増加する傾向にある。
第2の冷却工程において、MgO・Cr2O3に含まれるCr量の割合が50%以上80%未満である場合には、溶融スラグを冷却する過程で600℃以下に冷却されるまで非酸化性雰囲気とする。このように、Cr量の割合が50%以上80%未満の場合では、MgO・Cr2O3が残りのCrを含有する鉱物相(例:CaO・Cr2O3など)よりも多く生成し支配的であり、この場合においては、スラグが大気酸化するときの温度がある閾値を超えると、該スラグからの六価クロムの溶出量が増加する傾向にある。
第1の冷却工程と第2の冷却工程は共に、スラグが大気酸化するときの温度が高温となると、該スラグからの六価クロムの溶出量が増加する傾向にあるが、非酸化性雰囲気を保つ上限の温度(閾値温度)がそれぞれ異なる。その理由は、Cr2O3を含有する鉱物相の酸化挙動が異なることが原因であると考えられる。つまり、MgO・Cr2O3は高温だけでなく低温でも酸化し易いと推定されるので、MgO・Cr2O3が支配的である50%以上80%未満の場合における閾値温度(600℃)は、50%未満の場合における閾値温度(800℃)よりも低くなると考えられる。
1つめの方法として、溶融スラグ上に酸化防止剤を散布する。ここで酸化防止剤は、コスト面などからCr2O3を含まないスラグの粉末などが望ましく、かつ散布された粉末のスラグが高い気密性を発揮し溶融スラグを大気から隔離するためには粒径の細かい(<2mmなど)粉末であることが好ましい。
3つめの方法として、溶融スラグの冷却期間において、該溶融スラグを取り巻く雰囲気をN2,Arなどの非酸化性雰囲気に制御(つまり、環境制御)することも有効である。
上述の知見及び推定は発明者が行った実験及び研究に基づいているので、その実験及び研究結果について、図2を参照しながら説明する。
きは全ての結果が土壌環境基準を下回る値を示している。これに対して、○印(50%以上80%未満)は、大気酸化開始温度が800℃以上のときは、土壌環境基準を超える値を示している。しかし、大気酸化開始温度が600℃以下のときは全ての結果が土壌環境基準を下回る値を示している。
まず、下の表1に記号A〜Jとして示すように、組成の異なる10種類のスラグを用意した。記号A〜記号Gのスラグでは、全Cr中の50%以上がMgO・Cr2O3として存在し、記号H〜記号Jのスラグでは、全Cr中の50%未満がMgO・Cr2O3として存在する。
まず、スラグの断面を、EPMA(Electron Probe MicroAnalyzer)を用いて200μm×240μm(500倍)の視野で観察した。次に、EPMAで100×100点のマッピング分析を行い、Cr濃度(at.%)分布を評価した。このマッピング分析で、Cr濃度が3%以上であった部分をCr含有鉱物相と判断した。マッピング分析においては、スラグに含まれる一般元素であるO,Mg.Al,Mn,Fe,Si,Ca,Crで規格化した。
まず、上述のMgO・Cr2O3の判別と同様に、スラグの断面を、EPMAを用いて200μm×240μm(500倍)の視野で観察した。次に、EPMAで100×100点のマッピング分析を行い、Ca,Al,Fe,Cr濃度(at.%)分布を評価した。このマッピング分析で、Cr濃度が1%以上であり、Ca/(Al+Fe+Cr)の値が0.3〜1.7の範囲である鉱物相を、MgO・Cr2O3が、Ca-Al-Fe-O系に固溶して又はCaO・Cr2O3(MgO・Cr2O3以外)として存在している鉱物相とした。マッピング分析においては、スラグに含まれる一般元素であるO,Mg,Al,Mn,Fe,Si,Ca,Crで規格化した。また、固溶しているCr2O3はCr濃度が低いため、1%以上の部分をCr2O3が固溶した鉱物相として判別した。
加えて、Cr2O3がCaO・Cr2O3のような状態で存在するとしても、Al2O3,Fe2O3と置換したCaO・(Cr,Al,Fe)2O3として存在する可能性が考えられ、この場合、Ca/(Al+Fe+Cr)の値は0.5に近い値となる。
上記MgO・Cr2O3の判別で求めたCr濃度分布から、EPMAによる観察視野の平均Cr濃度(XCr,ave)を求め、式(1)に示すように分析点数(N=10000点)を乗じることで、観察視野内の全Cr量(Xtotal,Cr)を算出した。
Xtotal,Cr=N×XCr,ave (1)
スラグ中の全Cr量を算出した後、スラグ中の全Cr量に対する、MgO・Cr2O3の割合(Y)を算出した。
XCr,MgO・Cr2O3=Σ(XCr,i) (2)
ただし、XCr,iは、MgO・Cr2O3の判別でMgO・Cr2O3相と判断した各点でのCr濃度である。
Y=100×XCr,MgO・Cr2O3/Xtotal,Cr (3)
以上のような手順でMgO・Cr2O3の割合(Y)を求めた、表1に示す記号A〜Jのスラグに対して、六価クロムの溶出量を測定する実験を行った。600℃、800℃及び1000℃の3つの大気酸化開始温度で実験を行い、600℃での結果を表2として、800℃での結果を表3として、1000℃での結果を表4として以下にまとめた。
まず、スラグを、Ar-5%H2雰囲気で1000℃×2時間加熱した。この加熱によって、六価クロムの溶出の無いスラグに改質された。
改質されたスラグを、Ar雰囲気(非酸化性雰囲気)で1600℃×20分間保持し、完全に溶融した。これによって、スラグが溶融された状態を再現した。
非酸化性雰囲気から酸化性雰囲気であるAir雰囲気に切り換えた後、Air雰囲気のまま常温までスラグを冷却し採取した。採取したスラグに対して、溶出試験(環告第46号に準拠)を行い、六価クロム溶出量を評価した。
以上の手順によって、大気酸化開始温度を600℃,800℃又は1000℃として溶融スラグを冷却したときの、記号A〜Jの六価クロム溶出量を、表2〜表4に示す。
次の表3は、大気酸化開始温度を800℃として溶融スラグを冷却したときの六価クロム溶出量を示している。
なお、今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。特に、今回開示された実施形態において、明示的に開示されていない事項、例えば、運転条件や操業条件、各種パラメータ、構成物の寸法、重量、体積などは、当業者が通常実施する範囲を逸脱するものではなく、通常の当業者であれば、容易に想定することが可能な値を採用している。
2 溶湯
3 容器本体
4 蓋体
5 排滓口
6 出鋼口
7 ランス
8 電極
Claims (1)
- Cr2O3を含むスラグにおいて、前記スラグに含まれる全Cr量に対するMgO・Cr2O3に含有されるCr量の割合を判断するCr量判断工程と、
前記Cr量判断工程にて判断された全Cr量に対するMgO・Cr 2 O 3 に含有されるCr量の割合が50質量%未満であり且つ全Cr量がCr 2 O 3 の形で4.7質量%以下の場合には、前記スラグが溶融状態となった溶融スラグを冷却する過程で、800℃以下に冷却されるまで非酸化性雰囲気とする第1の冷却工程と、
前記Cr量判断工程にて判断された全Cr量に対するMgO・Cr 2 O 3 に含有されるCr量の割合が50質量%以上80質量%未満であり且つ全Cr量がCr 2 O 3 の形で15.2質量%以下の場合には、前記溶融スラグを冷却する過程で、600℃以下に冷却されるまで非酸化性雰囲気とする第2の冷却工程と、を備えることを特徴とするCr2O3含有スラグの処理方法。
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