以下では、本実施形態の信号処理装置について図1〜図30に基づいて説明する。
信号処理装置2は、電波センサ1から出力されるセンサ信号を信号処理するものである。電波センサ1は、検出エリア内に電波を送信し、検出エリア内の物体で反射された電波を受信して、この物体の動きに応じたセンサ信号を出力する。なお、図1は、電波センサ1と信号処理装置2とを備えたセンサ装置Seのブロック図である。
電波センサ1としては、所定周波数の電波を検出エリアに向けて送信して、検出エリア内で動いている物体で反射された電波を受信し、送信した電波と受信した電波との周波数の差分に相当するドップラ周波数のセンサ信号を出力するドップラセンサを用いている。したがって、電波センサ1から出力されるセンサ信号は、物体の動きに対応するアナログの時間軸信号である。
電波センサ1は、電波を検出エリアに向けて送信する送信機と、検出エリア内の物体で反射された電波を受信する受信機と、送信した電波と受信した電波との周波数の差分に相当する周波数のセンサ信号を出力するミキサとを備えている。送信機は、送信用のアンテナを備えている。また、受信機は、受信用のアンテナを備えている。なお、送信機から送波する電波は、例えば、所定周波数が24.15GHzのミリ波とすることができる。送信機から送波する電波は、ミリ波に限らず、マイクロ波でもよい。また、送波する電波の所定周波数の値は、特に限定するものではない。電波を反射した物体が検出エリア内を移動している場合には、ドップラ効果によって反射波の周波数がシフトする。
信号処理装置2は、センサ信号を増幅する増幅部3と、増幅部3によって増幅されたセンサ信号をディジタルのセンサ信号に変換して出力するA/D変換部4とを備えている。増幅部3は、例えば、オペアンプを用いた増幅器により構成することができる。
また、信号処理装置2は、A/D変換部4から出力されるセンサ信号を周波数領域の信号(周波数軸信号)に変換し周波数帯域の異なるフィルタバンク5a(図2(a)参照)の群におけるフィルタバンク5a毎の信号として抽出する周波数分析手段5を備えている。
周波数分析手段5は、フィルタバンク5aの群として、規定数(例えば、16個)のフィルタバンク5aを設定してあるが、フィルタバンク5aの個数は特に限定するものではない。
また、信号処理装置2は、周波数分析手段5により抽出された信号の総和もしくは所定の複数(例えば、低周波側の4個)のフィルタバンク5aを通過した信号の強度の総和で、各フィルタバンク5aそれぞれを通過した信号の強度を規格化し規格化強度として出力する規格化手段6を備えている。
また、信号処理装置2は、規格化手段6から出力されるフィルタバンク5a毎の規格化強度から決まる周波数分布により物体を識別する認識処理を行う認識手段7を備えている。
上述の周波数分析手段5は、A/D変換部4から出力されるセンサ信号を離散コサイン変換(Discrete Cosine Transform:DCT)することで周波数領域の信号に変換する機能を有している。また、図2(a)に示すように、各フィルタバンク5aの各々は、複数(図示例では、5個)の周波数ビン(frequency bin)5bを有している。DCTを利用したフィルタバンク5aの周波数ビン5bは、DCTビンとも呼ばれる。各フィルタバンク5aは、周波数ビン5bの幅(図2(a)中のΔf)により分解能が決まる。各フィルタバンク5aの各々における周波数ビン5bの数は、特に限定するものではなく、5個以外の複数でもよいし、1個でもよい。A/D変換部4から出力されるセンサ信号を周波数領域の信号に変換する直交変換は、DCTに限らず、例えば、高速フーリエ変換(Fast Fourier Transformation:FFT)でもよい。FFTを利用したフィルタバンク5aの周波数ビン5bは、FFTビンとも呼ばれる。また、A/D変換部4から出力されるセンサ信号を周波数領域の信号に変換する直交変換は、ウェーブレット変換(Wavelet Transform:WT)でもよい。
各フィルタバンク5aの各々が複数の周波数ビン5bを有している場合、信号処理装置2は、周波数分析手段5と規格化手段6との間に、平滑化処理手段8を備えていることが好ましい。この平滑化処理手段8は、各フィルタバンク5a毎に周波数ビン5b毎の信号の強度を周波数領域(周波数軸方向)において平滑化処理する機能と、各フィルタバンク5a毎に周波数ビン5b毎の信号の強度を時間軸方向において平滑化処理する機能との少なくとも一方を有することが好ましい。これにより、信号処理装置2は、雑音の影響を低減することが可能となり、両方とも有していれば、雑音の影響をより低減することが可能となる。
各フィルタバンク5a毎に周波数ビン5b毎の信号の強度を周波数領域において平滑化処理する機能(以下、第1の平滑化処理機能とも称する)は、例えば、平均値フィルタ、荷重平均フィルタ、メジアンフィルタ、荷重メジアンフィルタなどにより実現することができる。第1の平滑化処理機能を平均値フィルタにより実現した場合、時刻t1において、図2(a),図3(a)に示すように、周波数の低い方から順に数えて1番目のフィルタバンク5aの5個の周波数ビン5bそれぞれにおける信号の強度がそれぞれ、s1、s2、s3、s4及びs5であるとする。ここで、1番目のフィルタバンク5aについてみれば、第1の平滑化処理機能により平滑化処理された信号の強度をm11(図2(b),図3(b)参照)とすると、
m11=(s1+s2+s3+s4+s5)/5
となる。
同様に、2番目のフィルタバンク5a、3番目のフィルタバンク5a、4番目のフィルタバンク5a及び5番目のフィルタバンク5aの信号は、図2(b),図3(b)に示すように、それぞれ、m21、m31、m41及びm51となる。要するに、本実施形態では、説明の便宜上、時間軸上の時刻ti(iは自然数)におけるj(jは自然数)番目のフィルタバンク5aの信号に対して第1の平滑化処理機能により平滑化処理された信号の強度を、mjiと表している。
規格化手段6では、認識手段7において認識処理に利用する複数の所定のフィルタバンク5aを通過した信号の強度の総和で、各フィルタバンク5aそれぞれを通過した信号の強度値を規格化する。ここでは、例えば、周波数分析手段5におけるフィルタバンク5aの総数が16個であり、認識処理に利用する所定の複数のフィルタバンク5aが、周波数の低い方から順に数えて1〜5番目の5個のみであるとして説明する。時刻t1において1番目のフィルタバンク5aを通過した信号の強度m11の規格化強度をn11(図2(c)参照)とすると、規格化強度n11は、規格化手段6において、
n11=m11/(m11+m21+m31+m41+m51)
の演算により求められる。
また、各フィルタバンク5aの各々が1つの周波数ビン5bからなる場合、規格化手段6は、各フィルタバンク5aそれぞれを通過した信号の強度を抽出し、これらの強度の総和で、各フィルタバンク5aそれぞれを通過した信号の強度を規格化する。
また、平滑化処理手段8が、各フィルタバンク5a毎に周波数ビン5b毎の信号の強度を時間軸方向において平滑化処理する機能(以下、第2の平滑化処理機能とも称する)は、例えば、平均値フィルタ、荷重平均フィルタ、メジアンフィルタ、荷重メジアンフィルタなどにより実現することができる。第2の平滑化処理機能を時間軸方向の複数点(例えば、3点)での平均値を求める平均値フィルタにより実現した場合には、図3(c)に示すように、1番目のフィルタバンク5aについてみれば、第2の平滑化処理機能により平滑化処理された信号の強度をm1とすると、
m1=(m10+m11+m12)/3
となる。
同様に、2番目のフィルタバンク5a、3番目のフィルタバンク5a、4番目のフィルタバンク5a及び5番目のフィルタバンク5aの信号は、それぞれ、m2、m3、m4及びm5とすれば、
m2=(m20+m21+m22)/3
m3=(m30+m31+m32)/3
m4=(m40+m41+m42)/3
m5=(m50+m51+m52)/3
となる。
要するに、本実施形態では、説明の便宜上、n(nは自然数)番目のフィルタバンク5aの信号に対して第1の平滑化処理機能により平滑化処理され、更に第2の平滑化処理機能により平滑化処理された信号の強度を、mnと表している。
また、信号処理装置2は、各フィルタバンク5aそれぞれから出力される信号に含まれている背景信号(つまり、雑音)を推定する背景信号推定手段9と、各フィルタバンク5aを通過した信号から背景信号を除去する背景信号除去手段10とを備えていることが好ましい。
信号処理装置2は、例えば、動作モードとして、背景信号を推定する第1モードと、認識処理を行う第2モードとがあり、タイマ(図示せず)により計時される所定時間(例えば、30秒)ごとに第1モードと第2モードとが切り替わるようにすることが好ましい。ここにおいて、信号処理装置2は、第1モードの期間に背景信号推定手段9を動作させ、第2モードの期間に、背景信号除去手段10で背景信号を除去してから、認識手段7で認識処理を行うことが好ましい。第1モードの時間と第2モードの時間とは、同じ時間(例えば、30秒)に限らず、互いに異なる時間でもよい。
背景信号除去手段10は、例えば、フィルタバンク5aから出力される信号から背景信号を減算することで背景信号を除去するようにしてもよい。この場合、背景信号除去手段10は、例えば、各フィルタバンク5aそれぞれを通過した信号m1、m2、・・・(図4(b)参照)の強度から、背景信号推定手段9で推定された背景信号の強度b1、b2、・・(図4(a)参照)を減算する減算器により構成することができる。図4(c)は、同一のフィルタバンク5a同士で信号から背景信号を減算することで得られた信号の強度を示している。ここで、左から1番目のフィルタバンク5aの信号の強度をL1とすれば、
L1=m1−b1
となる。
同様に、2番目のフィルタバンク5a、3番目のフィルタバンク5a、4番目のフィルタバンク5a及び5番目のフィルタバンク5aについて背景信号を減算した後の信号の強度は、それぞれ、L2、L3、L4及びL5とすれば、
L2=m2−b2
L3=m3−b3
L4=m4−b4
L5=m5−b5となる。
背景信号推定手段9は、第1モードの期間において、各フィルタバンク5aそれぞれについて得られた信号の強度を、各フィルタバンク5a毎の背景信号の強度と推定し随時更新するようにしてもよい。また、背景信号推定手段9は、第1モードにおいて、各フィルタバンク5aそれぞれについて得られた複数の信号の強度の平均値を、各フィルタバンク5a毎の背景信号の強度と推定するようにしてもよい。すなわち、背景信号推定手段9は、事前に得た各フィルタバンク5a毎の複数点の信号の時間軸上での平均値を背景信号とするようにしてもよい。これにより、背景信号推定手段9は、背景信号の推定精度を向上させることが可能となる。
また、背景信号除去手段10は、フィルタバンク5a毎の直前の信号を背景信号とするようにしてもよい。ここで、信号処理装置2は、各信号を規格化手段6で規格化処理する前に、時間軸上の直前の信号を減算することで背景信号を除去する機能を有するようにしてもよい。要するに、背景信号除去手段10は、各フィルタバンク5aそれぞれを通過した信号に関し、規格化処理の対象となる信号から時間軸上における1サンプル前の信号を減算することで背景信号を除去する機能を有するようにしてもよい。この場合、例えば、図5に示すように、規格化処理の対象となる時刻t1での各フィルタバンク5aそれぞれの信号をm1(t1)、m2(t1)、m3(t1)、m4(t1)及びm5(t1)とし、その直前の時刻t0での信号をm1(t0)、m2(t0)、m3(t0)、m4(t0)及びm5(t0)とし、減算後の信号の強度をL1、L2、L3、L4及びL5とすれば、
L1=m1(t1)−m1(t0)
L2=m2(t1)−m2(t0)
L1=m3(t1)−m3(t0)
L1=m4(t1)−m4(t0)
L1=m5(t1)−m5(t0)
となる。
ところで、信号処理装置2の使用形態に基づく周囲環境によっては、あらかじめ比較的大きな背景信号(雑音)が含まれる周波数ビン5bが既知である場合がある。例えば、電波センサ1と信号処理装置2とを備えたセンサ装置Seの周辺に、商用電源から電源供給される機器が存在している場合には、商用電源周波数(例えば、60Hz)の低倍の周波数(例えば、60Hz、120Hz等)のような特定周波数を含む周波数ビン5bの信号には比較的大きな背景信号が含まれる可能性が高い。一方、検出対象の物体が検出エリア内を移動しているときに電波センサ1から出力されるセンサ信号は、当該センサ信号の周波数(ドップラ周波数)が、電波センサ1と物体の間の距離と、物体の移動速度とに応じて随時変化するので、特定周波数で定常的に発生することはない。
そこで、信号処理装置2は、各フィルタバンク5aそれぞれが複数の周波数ビン5bを有している場合に、背景信号が定常的に含まれる周波数ビン5bを特定周波数ビン5biとし、背景信号除去手段10が、特定周波数ビン5biの信号を無効とし、当該特定周波数ビン5biに近接する2個の周波数ビン5bの信号の強度から推定した信号の強度で補完することによって背景信号を除去するようにしてもよい。図6の例では、同図(a)における左から3番目の周波数ビン5bが特定周波数ビン5biであるとし、当該特定周波数ビン5biの信号(信号の強度b3)を無効とし、同図(b)に示すように、当該特定周波数ビン5biに近接する2個の周波数ビン5bの信号成分の強度b2,b4から推定した信号成分の強度b3で補完している。この推定にあたっては、特定周波数ビン5biに近接する2個の周波数ビン5bの信号の強度b2,b4の平均値、つまり、(b2+b4)/2を、推定した信号の強度b3としている。要するに、フィルタバンク5a内において低周波数側からi番目の周波数ビン5bが特定周波数ビン5biであり、当該特定周波数ビン5biの信号の強度をbiとすれば、biは、
bi=(bi−1+bi+1)/2
からなる推定式により求めた値としている。
これにより、信号処理装置2は、定常的に発生する特定周波数の背景信号(雑音)の影響を短時間で低減することが可能となる。よって、信号処理装置2は、検出対象の物体の検出精度の向上を図ることが可能となる。
背景信号除去手段10は、周波数領域(周波数軸上)において背景信号を濾波することで背景信号を除去する適応フィルタ(Adaptive filter)を用いることもできる。
適応フィルタは、適応アルゴリズム(最適化アルゴリズム)に従って伝達関数(フィルタ係数)を自己適応させるフィルタであり、ディジタルフィルタにより実現することができる。この種の適応フィルタとしては、DCTを用いた適応フィルタ(Adaptive filter using DiscreteCosine Transform)が好ましい。この場合、適応フィルタの適応アルゴ
リズムとしては、DCTのLMS(Least Mean Square)アルゴリズムを用いればよい。
また、適応フィルタは、FFTを用いた適応フィルタでもよい。この場合、適応フィルタの適応アルゴリズムとしては、FFTのLMSアルゴリズムを用いればよい。LMSアルゴリズムは、射影(Projection)アルゴリズムやRLS(Recursive Least Square)アルゴリズムに比べて演算量を低減できるという利点があり、DCTのLMSアルゴリズムは、実数の演算のみでよく、複素数の演算を必要とするFFTのLMSアルゴリズムに比べて演算量を低減できるという利点がある。
適応フィルタは、例えば、図7に示す構成を有している。この適応フィルタは、フィルタ係数を可変なフィルタ57aと、フィルタ57aの出力信号と参照信号との誤差信号を出力する減算器57bと、適応アルゴリズムに従って入力信号と誤差信号とからフィルタ係数の補正係数を生成しフィルタ係数を更新させる適応処理部57cとを有している。適応フィルタは、フィルタ57aの入力信号を熱雑音からなる背景信号とし、参照信号を所望の白色雑音の値とすれば、不要な背景信号を濾波することで背景信号を除去することが可能となる。
また、背景信号除去手段10は、適応フィルタの忘却係数(forgettingfactor)を適宜設定しておくことによって、長時間の平均的な背景信号を周波数軸上で濾波した信号の周波数分布を抽出するようにしてもよい。忘却係数は、フィルタ係数を更新する演算の際に過去のデータ(フィルタ係数)の影響を現在のデータ(フィルタ係数)から過去にさかのぼるほど指数関数的に軽くし、現在のデータに近づくほど重くするためのものである。忘却係数は、1未満の正の値であり、例えば、0.95〜0.99程度の範囲で適宜設定すればよい。
認識手段7は、各フィルタバンク5aを通過し規格化手段6により規格化された各規格化強度の周波数領域での分布に基づいて物体を識別する認識処理を行う。ここにおいて、識別は、分類、認識を含む概念である。
認識手段7は、例えば、主成分分析(principal componentanalysis)によるパターン認識処理を行うことによって物体を識別するようにすることができる。この認識手段7は、主成分分析を用いた認識アルゴリズムに従って動作する。このような認識手段7を採用するには、あらかじめ、電波センサ1の検出エリアに検出対象の物体を含まない場合の学習サンプルデータ、検出対象の物体の異なった動きそれぞれに対応した学習サンプルデータを取得し、これら複数の学習データに対して主成分分析を施すことで得られたデータをデータベース11に記憶させておく。ここにおいて、データベース11に記憶させておくデータは、パターン認識に利用するデータであり、物体の動きと射影ベクトル及び判別境界値(閾値)とを対応付けたカテゴリデータである。
ここでは、説明の便宜上、電波センサ1の検出エリアに検出対象の物体を含まない場合の学習サンプルデータに対応する規格化強度の周波数領域での分布が図8(a)、検出対象の物体を含む場合の学習サンプルデータに対応する規格化強度の周波数領域での分布が図8(b)であるとする。そして、図8(a)では、各フィルタバンク5aそれぞれを通過した信号の規格化強度が、低周波側から順に、m10、m20、m30、m40及びm50とする。図8(b)では、各フィルタバンク5aそれぞれを通過した信号の規格化強度が、低周波側から順に、m11、m21、m31、m41及びm51とする。そして、図8(a),(b)のいずれにおいても、低周波側の3つのフィルタバンク5aそれぞれを通過した信号の規格化強度の総和を変量m1とし、高周波側の2つのフィルタバンク5aそれぞれを通過した信号の規格化強度の総和を変量m2とする。要するに、図8(a)では、
m1=m10+m20+m30
m2=m40+m50
となる。また、図8(b)では、
m1=m11+m21+m31
m2=m41+m51
となる。
図8(c)は、2つの変量m1,m2を互いに直交する座標軸とした場合の2次元散布図と射影軸及び識別境界とをイメージ的に説明するために2次元で図示したものである。図8(c)では、破線で囲んだ領域内の各散布点(図8(c)中の“+”)の座標位置をμ0(m2,m1)、実線で囲んだ領域内の各散布点の座標位置をμ1(m2,m1)としている。主成分分析では、あらかじめ、電波センサ1の検出エリアに検出対象の物体を含まない場合の学習サンプルデータに対応するデータのグループGr0と、電波センサ1の検出エリアに検出対象の物体を含む場合の学習サンプルデータに対応するデータのグループGr1とを決める。そして、主成分分析では、図8(c)において破線、実線で囲んだそれぞれの領域内の各散布点を射影軸上に射影したデータの分布(破線、実線で模式的に示してある)の平均値の間隔が最大となり、且つ、分散(variance)が最大となる条件で射影軸を決める。これにより、主成分分析では、学習サンプルごとに射影ベクトルを求めることができる。
ところで、信号処理装置2は、認識手段7による認識結果を出力する出力部12を備えており、認識手段7により検出対象の物体が認識された場合には物体が検出されたことを示す出力信号(“1”)を出力部12から出力させ、検出対象の物体が認識されない場合には物体を非検出であることを示す出力信号(“0”)を出力部12から出力させる。
信号処理装置2は、図1において、増幅部3、A/D変換部4、出力部12及びデータベース11以外の部分が、マイクロコンピュータで適宜のプログラムを実行することにより実現される。
ここで、電波センサ1から出力されるセンサ信号の一例と出力部12から出力される出力信号との関係について、図9〜図12を参照しながら説明する。
図9は、電波センサ1と信号処理装置2とを備えたセンサ装置Seの使用状況を説明するものであり、検出対象の物体Obが人であり、屋外の検出エリア内に検出対象以外の物体である木Trが存在していることを示している。図10は、この使用状況下において、木Trの枝及び葉が揺れている状態で、物体Obが木Trの前を1m/sの移動速度で6.7mだけ移動したときに電波センサ1から出力されるセンサ信号の一例を示している。なお、電波センサ1と木Trとの距離は約10m、電波センサ1と物体Obとの距離は約8mである。図11は、規格化強度の周波数領域での分布及び時間軸領域での分布を示した図である。図12は、出力部12の出力信号であり、検出対象以外の物体の動きに起因した誤検出を低減できることが確認された。
ところで、規格化強度の周波数領域での分布でみれば、検出エリア内の物体が木の場合には、枝や葉が揺れることがあっても移動することはないので、物体が検出エリア内を歩行する人の場合と比較すると、より低周波領域から信号成分がある周波数分布を持つ。これに対して、物体が検出エリア内を歩行する人の場合には、その歩行速度に応じた周波数付近に中心周波数がある山型の周波数分布を持ち、周波数分布には明らかな違いが見られる。
検出エリア内に存在する検出対象以外の物体は、主に、移動体でない可動物である。電波センサ1の検出エリアが屋外に設定される場合、検出エリア内に存在する検出対象以外の物体は、木Trに限らず、例えば、風によって揺れる電線等が挙げられる。
ここで、電波センサ1から出力されるセンサ信号の他例と出力部12から出力される出力信号との関係について、図13〜図16を参照しながら説明する。
図13は、電波センサ1と信号処理装置2とを備えたセンサ装置Seの使用状況を説明するものであり、検出対象の物体Obが人であり、屋外の検出エリア内に雨が降っていることを示している。図14は、この使用状況下において、物体Obが1m/sの移動速度で6.7mだけ移動したときに電波センサ1から出力されるセンサ信号の一例を示している。図15は、背景信号除去手段10による背景信号の除去を行わなかった場合の出力部12の出力信号である。図16は、背景信号除去手段10による背景信号の除去を行った場合の規格化強度の周波数領域での分布及び時間軸領域での分布を示した図である。図17は、背景信号除去手段10による背景信号の除去を行った場合の出力部12の出力信号であり、図15に比べて、検出対象以外の物体(ここでは、雨粒)の動きに起因した誤検出を低減できることが確認された。
また、電波センサ1の検出エリアが屋内に設定される場合、検出エリア内に存在する検出対象以外の物体は、例えば、扇風機等のように可動体(扇風機の場合は羽根)を備えた機器等が挙げられる。
信号処理装置2は、上述の閾値を外部からの設定により可変とすることが好ましい。これにより、信号処理装置2は、使用用途に応じて要求される失報率、誤報率を調整することが可能となる。例えば、検出対象の物体が人であり、出力部12からの出力信号に基づいて照明負荷のオンオフを制御するような使用用途では、電波センサ1の検出エリア内に人が入ってきたにもかかわらず失報するぐらいなら多少の誤報を容認される場合がある。
以上説明した本実施形態の信号処理装置2は、上述のように、増幅部3と、A/D変換部4と、周波数分析手段5と、規格化手段6と、認識手段7とを備えている。ここにおいて、周波数分析手段5は、A/D変換部4から出力されるセンサ信号を周波数領域の信号に変換し周波数帯域の異なるフィルタバンク5aの群におけるフィルタバンク5a毎の信号として抽出する。また、規格化手段6は、周波数分析手段5により抽出された信号の総和もしくは所定の複数のフィルタバンク5aを通過した信号の強度の総和で、各フィルタバンク5aそれぞれを通過した信号の強度を規格化し規格化強度として出力する。また、認識手段7は、規格化手段6から出力されるフィルタバンク5a毎の規格化強度から決まる周波数分布により物体を識別する認識処理を行う。
しかして、本実施形態の信号処理装置は、検出対象以外の物体の動きに起因した誤検出を低減することが可能となる。要するに、本実施形態の信号処理装置2では、所定の複数のフィルタバンク5aを通過した信号を規格化した規格化強度から決まる周波数分布が統計的に異なる物体を分離して識別することができるため、誤検出を低減することが可能となる。
また、FFTを利用したフィルタバンク5aでは、FFT処理の前にセンサ信号に対して所定の窓関数(window function)を掛け合わせる処理を実施し、所望の周波数帯域(通過帯域)外のサイドローブ(side-lobe)を抑圧する必要が生じる場合がある。窓関数としては、例えば、矩形窓(rectangularwindow)、ガウス窓(Gauss window)、ハン窓(hannwindow)、ハミング窓(hamming window)などを使うことができる。これに対して、DCTを利用したフィルタバンク5aでは、窓関数をなくすことができたり、窓関数を簡素なディジタルフィルタで実現することが可能である。
また、DCTを利用したフィルタバンク5aは、FFTを利用したフィルタバンク5aと比較すると、FFTが複素演算の処理方式である(強度及び位相を演算する)のに対し、DCTが実数演算の処理方式であるため、演算規模を低減することが可能となる。また、DCTでは、周波数の分解能に関しては、DCTとFFTとを同じ処理点数で比較すると、DCTの方がFFTの2分の1になるため、データベース11等のハードウエアリソース(hardware resource)等を小型化することが可能となる。信号処理装置2では、例えば、A/D変換部4の1秒間当たりのサンプリング数を128とした場合(サンプリング周波数を1kHzとした場合)、FFTビン5bの幅が8Hzであるのに対して、DCTビン5bの幅を4Hzとすることができる。なお、これらの数値は、一例であり、特に限定するものではない。
また、信号処理装置2は、認識手段7において検出対象の物体が時間軸上で継続して識別された場合、そのときに規格化手段6から出力されていた規格化強度をオフセットの背景信号として除去することにより、認識精度を向上させることが可能となる。
認識手段7は、主成分分析によるパターン認識処理によって物体を識別するものに限らず、例えば、KL変換によるパターン認識処理により物体を識別するようにしてもよい。信号処理装置2は、認識手段7において主成分分析によるパターン認識処理もしくはKL変換によるパターン認識処理を行うようにすることによって、認識手段7での計算量の低減及びデータベース11の容量の低減を図ることが可能となる。
認識手段7は、規格化手段6から出力されるフィルタバンク5a毎の規格化強度の成分比により物体を識別する認識処理を行うようにしてもよい。
このような認識手段7は、例えば、重回帰分析による認識処理を行うことによって物体を識別するようにすればよい。この場合、認識手段7は、重回帰分析を用いた認識アルゴリズムに従って動作する。
このような認識手段7を採用する場合には、あらかじめ、電波センサ1の検出エリア内での検出対象の物体の異なった動きそれぞれに対応した学習データを取得し、これら複数の学習データに対して重回帰分析を施すことで得られたデータをデータベース11に記憶させておく。重回帰分析によれば、図18に示すように、信号成分s1と信号成分s2と信号成分s3とが合成された合成波形Gsは、信号成分s1,s2,s3の種別、信号成分の数、各信号成分s1,s2,s3それぞれの強度が未知であっても、合成波形から各信号成分s1,s2,s3に分離推定することが可能である。図18中の〔S〕は、信号成分s1、s2、s3を行列要素とする行列を示し、〔S〕−1は〔S〕の逆行列を意味し、Iは規格化強度の成分比(係数)を意味している。ここにおいて、データベース11に記憶させておくデータは、認識処理に利用するデータであり、物体の動きと信号成分s1,s2,s3とを対応付けたデータである。
図19(a)は、横軸が時間、縦軸が規格化強度であり、屋外の検出エリア内において揺れている電線の下を検出対象の物体である人が2m/sの移動速度で10mだけ移動したときに、規格化手段6から出力された規格化強度の時間軸上でのデータ(上述の合成波形Gsに対応する)をA1として示している。また、図19(a)には、重回帰分析によりデータA1から分離された信号成分A2,A3も示してある。ここにおいて、信号成分A2は、人の移動に起因した信号成分であり、信号成分A3は、電線の揺れに起因した信号成分である。図19(b)は、認識手段7において、A2>A3のときに検出対象の物体が存在すると識別して出力部12の出力信号を“1”、それ以外のときに検出対象の物体が存在しないと識別して出力部12の出力信号を“0”とした場合の出力部12の出力信号である。図19(b)から、検出対象以外の物体(ここでは、電線)の動きに起因した誤検出を低減できることが確認された。
信号処理装置2は、上述の判定条件(A2>A3)を外部からの設定により可変とすることが好ましい。例えば、判定条件をA2>α×A3とし、係数αを外部からの設定により可変とすることが好ましい。これにより、信号処理装置2は、使用用途に応じて要求される失報率、誤報率を調整することが可能となる。
なお、認識手段7では、上述の周波数分布の特徴及び規格化強度の成分比に基づいて検出対象の物体を識別するようにしてもよい。
認識手段7は、時間軸上での奇数回の認識処理の結果に基づく多数決判定により物体を識別するようにしてもよい。例えば、図20において一点鎖線で囲んだ領域の3回の認識処理の結果の多数決判定によれば、出力部12の出力信号は“1”となる。
これにより、信号処理装置2は、認識手段7での識別精度を向上させることが可能となる。
また、信号処理装置2は、規格化手段6による規格化前の複数の所定のフィルタバンク5aの信号成分の強度の総和もしくは重み付け総和が所定値以上である場合のみ、認識手段7による認識処理を行うかもしくは認識手段7による認識結果を有効とするようにしてもよい。図21は、規格化手段6による規格化前の各フィルタバンク5aそれぞれの信号の強度が低周波側から順に、m1、m2、m3、m4及びm5とした場合の例であり、図21(a)は強度の総和(m1+m2+m3+m4+m5)が所定値(Eth)以上の場合を示し、図21(b)は強度の総和(m1+m2+m3+m4+m5)が所定値(Eth)未満の場合を示している。
これにより、信号処理装置2は、誤検出を低減することが可能となる。
認識手段7は、認識処理としてニューラルネットワークによる認識処理を行って物体を識別する機能を有するものでもよい。これにより、信号処理装置2は、認識手段7による識別精度を向上させることが可能となる。
ニューラルネットワークとしては、例えば、教師なしの競合学習型ニューラルネットワークを用いることができる。ニューラルネットワークとしては、教師有りのバックプロパゲーション型のものを用いることが可能であるが、競合学習型ニューラルネットワークの方がバックプロパゲーション型のニューラルネットワークよりも構成が簡単であり、カテゴリ毎の学習データを用いて学習させるだけでよく、一旦学習した後も追加学習によって学習を強化させることが可能である。
学習データとしては、あらかじめ、電波センサ1の検出エリア内での検出対象の物体の異なった動きそれぞれに対応して取得した規格化手段6の出力を用いる。
ニューラルネットワークは、例えば、図22に示すように、入力層71と出力層72との2層からなり、出力層72の各ニューロンN2が入力層71のすべてのニューロンN1とそれぞれ結合された構成を有している。ニューラルネットワークは、マイクロコンピュータで適宜のアプリケーションプログラムを実行することにより実現する場合を想定しているが、専用のニューロコンピュータを用いることも可能である。
ニューラルネットワークの動作には、学習モードと検出モードとがあり、学習モードにおいて適宜の学習データを用いて学習した後に、検出モードにおいて、認識処理を行う。
入力層71のニューロンN1と出力層72のニューロンN2との結合度(重み係数)は可変であり、学習モードにおいて、学習データをニューラルネットワークに入力することによりニューラルネットワークを学習させ、入力層71の各ニューロンN1と出力層72の各ニューロンN2との重み係数を決める。言い換えると、出力層72の各ニューロンN2には、入力層71の各ニューロンN1との間の重み係数を要素とする重みベクトルが対応付けられる。したがって、重みベクトルは入力層71のニューロンN1と同数の要素を持ち、入力層71に入力される特徴量のパラメータの個数と重みベクトルの要素の個数とは一致する。
一方、検出モードでは、カテゴリを判定すべき規格化手段6からの出力された検出用データをニューラルネットワークの入力層71に与えると、出力層72のニューロンN2のうち、重みベクトルと検出用データとの距離が最小であるニューロンN2が発火する。学習モードにおいて出力層72のニューロンN2にカテゴリが対応付けられていれば、発火したニューロンN2の位置のカテゴリによって検出用データのカテゴリを知ることができる。本実施形態のニューラルネットワークでは、物体の「検出」以外はすべて「非検出」と判定するようにカテゴリを設定する。
上述のように、信号処理装置2は、周波数領域でセンサ信号の信号処理を実行する。具体的に、認識手段7は、周波数領域の信号の分布特徴と、各フィルタバンク5aを通過した信号の規格化強度の成分比との少なくとも一方に基づいて、検出対象となる物体を識別する認識処理を行う。周波数領域におけるセンサ信号の信号処理は、例えば、主成分分析、KL変換、重回帰分析、ニューラルネットワーク等による認識処理が用いられる。
以下、このような認識処理を行う信号処理装置2において、検出対象以外の物体の動きに起因して、周波数領域の信号に急峻な時間的変動が発生した場合であっても、検出対象以外を検出対象の物体として誤検出することを抑制する構成について説明する。ここで、検出対象以外の物体の動きとは、例えば、木の枝や葉の揺れる動き、電線の揺れる動き等が挙げられる。
まず、認識手段7が、規格化手段6から出力されるフィルタバンク5a毎の規格化強度の成分比により物体を識別する認識処理を行うとする。図23は、横軸が時間、縦軸が規格化強度であり、規格化手段6から出力された規格化強度の時間軸上でのデータ(図19(a)のデータA1に対応する)から、重回帰分析により分離した信号成分A2,A3を示す。そして、認識手段7は、1乃至複数の所定のフィルタバンク5aにおいて、人の移動に起因した信号成分A2が、検出対象以外の物体の動きに起因した信号成分A3より大きい場合に、検出対象の物体が存在すると識別する。以降、人の移動に起因した信号成分A2を検出物体信号成分A2、検出対象以外の物体の動きに起因した信号成分A3を外乱信号成分A3と称す。
しかしながら、検出物体信号成分A2は、検出対象以外の物体の動きに起因して、急峻な時間的変動が発生する可能性がある。そして、検出物体信号成分A2に急峻な時間的変動が存在する場合、平均化処理をしたとしても、認識手段7が検出対象以外を検出対象の物体として誤検出する可能性がある。
そこで、認識手段7は、信号成分抽出手段13と、外乱判断手段14とを備える(図1参照)。信号成分抽出手段13は、規格化手段6から出力されるフィルタバンク5a毎の規格化強度の信号から、検出物体信号成分A2を抽出する。外乱判断手段14は、1乃至複数の所定のフィルタバンク5aにおいて、抽出された検出物体信号成分A2の単位時間当たりの変動の大きさが所定値(Eth11)(第1の所定値)以上である場合、認識手段7による認識処理を禁止する、もしくは認識手段7による認識処理の結果を無効とする。
具体的に、信号成分抽出手段13は、重回帰分析を用いて、フィルタバンク5a毎に、規格化手段6から出力された規格化強度の時間軸上でのデータから、検出物体信号成分A2を抽出する。そして、信号成分抽出手段13は、検出物体信号成分A2のデータ(図23参照)を外乱判断手段14へ出力する。
外乱判断手段14は、検出物体信号成分A2の時間軸領域における分布から、検出物体信号成分A2を微分演算し、検出物体信号成分A2の時間微分強度(=dA2/dt)を所定の時間間隔で算出する。そして、外乱判断手段14は、1乃至複数の所定のフィルタバンク5aにおいて、検出物体信号成分A2の時間微分強度が、所定値(Eth11)以上である場合、認識手段7による認識処理を禁止する、もしくは認識手段7による認識処理の結果を無効とする。
このとき、信号成分抽出手段13および外乱判断手段14を用いた認識処理の可否判断の対象となる所定のフィルタバンク5aは、検出対象となる物体に応じて、1つ以上のフィルタバンク5aが適宜設定される。そして、対象となる所定のフィルタバンク5の全てにおいて、検出物体信号成分A2の単位時間当たりの変動の大きさが所定値(Eth11)以上である場合に、認識処理の禁止、または認識処理の結果が無効となる。
図24は、図23に示す検出物体信号成分A2に対して、信号成分抽出手段13および外乱判断手段14を用いた認識処理の可否判断を行わなかった場合に出力部12から出力される出力信号である。図25は、図23に示す検出物体信号成分A2に対して、信号成分抽出手段13および外乱判断手段14を用いた認識処理の可否判断を行った場合に出力部12から出力される出力信号である。図23に示す検出物体信号成分A2は、検出対象以外の物体の動きに起因する急峻な時間的変動が発生しており、信号成分抽出手段13および外乱判断手段14を用いた認識処理の可否判断を行うことによって、検出対象以外を検出対象として誤検出することを抑制できることが確認された。
したがって、信号処理装置2は、検出対象以外の物体の動きに起因する検出物体信号成分A2の急峻な時間的変動の有無に関わらず、周波数領域の信号分析によって検出対象の物体を精度よく検出できる。また、検出物体信号成分A2の時間微分強度を所定値(Eth11)と比較する処理に要する時間は比較的短時間であり、さらに本構成を備える信号処理装置2は、簡便、小型な構造で実現することができる。
また、外乱判断手段14は、検出物体信号成分A2の時間微分強度が、所定値(Eth11)以上になってから所定時間が経過するまで、認識手段7による認識処理を禁止する、もしくは認識手段7による認識処理の結果を無効としてもよい。例えば、図26に示すように、検出物体信号成分A2が時刻taで急峻に変動し、この時刻taで検出物体信号成分A2の時間微分強度が所定値(Eth11)以上になったとする。この場合、時刻ta以降において平坦な波形(時間微分強度が所定値(Eth11)未満)になったとしても、時刻ta以降の所定時間Taに亘って、認識手段7による認識処理を禁止する、もしくは認識手段7による認識処理の結果を無効とする。したがって、検出対象以外の物体の動きに起因する検出物体信号成分A2の急峻な時間的変動による誤検出を、より確実に低減させることができる。
また、外乱判断手段14は、検出物体信号成分A2の時間微分強度が所定値(Eth12)以下である場合、認識手段7による認識処理を禁止する、もしくは認識手段7による認識処理の結果を無効としてもよい。ここで用いる所定値(Eth12)は、所定値(Eth11)より小さい値であり、変動が小さい略一定の信号強度となる検出物体信号成分A2による誤検出を抑制するためのものである。
さらに、外乱判断手段14は、検出物体信号成分A2の時間微分強度が所定値(Eth12)以下になってから所定時間が経過するまで、認識手段7による認識処理を禁止する、もしくは認識手段7による認識処理の結果を無効としてもよい。この場合、変動が小さい略一定の信号強度となる検出物体信号成分A2による誤検出を、より確実に抑制することができる。
次に、認識処理の可否判断を行う別の形態について説明する。
まず、信号処理装置2は、図27に示す外乱判断手段15を備える。外乱判断手段15は、1乃至複数の所定のフィルタバンク5aを通過した信号(規格化前の信号)の強度の単位時間当たりの変動の大きさが所定値(Eth21)以上である場合、認識手段7による認識処理を禁止する、もしくは認識手段7による認識処理の結果を無効とする。このとき、外乱判断手段15を用いた認識処理の可否判断の対象となるフィルタバンク5aは、検出対象となる物体に応じて、適宜設定される。
具体的に外乱判断手段15は、1乃至複数の所定のフィルタバンク5aを通過した各信号強度の時間軸領域における分布から、フィルタバンク5aそれぞれの信号強度を微分演算し、各信号強度の時間微分強度(信号強度をyとした場合、dy/dt)を所定の時間間隔で算出する。そして、外乱判断手段14は、予め決められた1乃至複数の所定のフィルタバンク5aの信号強度の時間微分強度が、所定値(Eth21)以上である場合、認識手段7による認識処理を禁止する、もしくは認識手段7による認識処理の結果を無効とする。
このとき、外乱判断手段15を用いた認識処理の可否判断の対象となる所定のフィルタバンク5aは、検出対象となる物体に応じて、1つ以上のフィルタバンク5aが適宜設定される。そして、対象となる所定のフィルタバンク5の全てにおいて、信号強度の単位時間当たりの変動の大きさが所定値(Eth21)以上である場合に、認識処理の禁止、または認識処理の結果が無効となる。
図28は、所定のフィルタバンク5aの信号強度の波形の一例を示す。図29は、図28に示す信号強度の波形に対して、外乱判断手段15を用いた認識処理の可否判断を行わなかった場合に出力部12から出力される出力信号である。図30は、図28に示す信号強度の波形に対して、外乱判断手段15を用いた認識処理の可否判断を行った場合に出力部12から出力される出力信号である。そして、図28に示す信号強度の波形は、検出対象以外の物体の動きに起因する急峻な時間的変動が発生しており、外乱判断手段15を用いた認識処理の可否判断を行うことにより、検出対象以外を検出対象の物体として誤検出することを抑制できることが確認された。
したがって、信号処理装置2は、検出対象以外の物体の動きに起因する信号強度の急峻な時間的変動の有無に関わらず、周波数領域の信号分析によって検出対象の物体を精度よく検出できる。また、フィルタバンク5aそれぞれの信号強度を所定値(Eth21)と比較する処理に要する時間は比較的短時間であり、さらに本構成を備える信号処理装置2は、簡便、小型な構造で実現することができる。
また、外乱判断手段15は、フィルタバンク5aの信号強度が、所定値(Eth21)以上になってから所定時間が経過するまで、認識手段7による認識処理を禁止する、もしくは認識手段7による認識処理の結果を無効としてもよい。この場合、検出対象以外の物体の動きに起因する信号強度の急峻な時間的変動による誤検出を、より確実に低減させることができる。
また、外乱判断手段15は、信号強度の時間微分強度が所定値(Eth22)以下である場合、認識手段7による認識処理を禁止する、もしくは認識手段7による認識処理の結果を無効としてもよい。ここで用いる所定値(Eth22)は、所定値(Eth21)より小さい値であり、変動が小さい略一定の信号強度による誤検出も抑制することができる。
さらに、外乱判断手段15は、信号強度の時間微分強度が所定値(Eth22)以下になってから所定時間が経過するまで、認識手段7による認識処理を禁止する、もしくは認識手段7による認識処理の結果を無効としてもよい。この場合、変動が小さい略一定の信号強度となる検出物体信号成分A2による誤検出を、より確実に抑制することができる。
なお、本実施形態では電波センサ1を用いているが、物体で反射した電波、音波等の無線信号を受信するセンサであれば、センサの種類は限定されない。