JP4008830B2 - レーダ信号処理装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、クラッタを適応的に抑圧するレーダ信号処理装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
レーダ信号処理装置においては、クラッタを抑圧する能力が重要な指標となる。この種の既存の装置においてはMTI(Moving Target Indicator)のみ、またはMTIと、FFT(Fast Fourier Transform)またはDFT(Discrete Fourier Transform)をカスケードに組み合わせ、帯域の固定された周波数フィルタを用いることによりクラッタを抑圧するようにしている。
【0003】
しかしながらこのような構成においては、ドプラ速度分散(すなわちドプラ周波数分散)が大きいクラッタに対しては、各フィルタのサイドローブに生じるクラッタを抑圧することが困難である。このためクラッタ成分が残留し、精密なレーダ信号処理を実施することが難しいという不具合がある。
【0004】
なお、この種の技術に関する情報を開示する文献に下記の特許文献1がある。この文献には、ディジタル信号に変換されたアンテナ素子信号の一部若しくは全部を抽出した抽出信号に関してその振幅値の規格化を行ない、各抽出信号に含まれる不要波成分を順次段階的に相関除去することにより、不要波除去にかかる処理時間を大幅に短縮できるようにしたアダプティブアンテナ装置が開示される。
【0005】
【特許文献1】
特開平2−39705号公報
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
以上のように既存のレーダ信号処理装置は、ドプラ周波数分散の大きいクラッタを抑圧することが困難であるという不具合を有する。
本発明は上記事情によりなされたもので、その目的は、ドプラ周波数分散の大きいクラッタを抑圧し得るレーダ信号処理装置を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために本発明は、複数のアンテナ素子により受信されたパルスエコー信号から主ビーム信号を形成する主ビーム形成手段と、この主ビーム形成手段により形成される前記主ビーム信号からそれぞれドプラ速度に対応する複数のフィルタバンクを形成するフィルタバンク形成手段と、前記主ビーム形成手段により形成される主ビーム信号を各タップごとにパルス繰返し周期ずつ遅延して複数の遅延信号を生成するタップ付き遅延手段と、このタップ付き遅延手段により生成される複数の遅延信号に基づいて前記複数のフィルタバンクのサイドローブによる不要波成分を各フィルタバンクごとにアダプティブに抑圧する不要波抑圧手段とを具備することを特徴とする。
【0008】
このような構成であるから、パルス繰返し周期ずつ遅延する複数の遅延信号がタップ付き遅延手段により生成され、これをアダプティブ処理に用いることができる。すなわち、各遅延信号を用いて例えばグラムシュミット方式などにより各フィルタバンクに含まれる不要波成分を生成することができ、これを各フィルタバンク信号からそれぞれ減算することで、各フィルタごとに不要波成分を除去することができるようになる。従ってドプラ周波数分散の大きいクラッタがレーダエコーに含まれている場合でも、これを効果的に抑圧することが可能になる。
【0009】
【発明の実施の形態】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を詳細に説明する。
(第1の実施形態)
図1は、本発明に係わるレーダ信号処理装置の第1の実施形態を示す機能ブロック図である。このレーダ信号処理装置は、レーダパルスのエコーをアクティブフェーズドアレイを用いて受信し、複数のフィルタバンクを形成して各フィルタバンクごとのクラッタ成分をアダプティブに抑圧する機能を備える。特に図1のレーダ信号処理装置は、アダプティブ処理としてグラムシュミット型を用いる。
【0010】
図1において、アンテナ素子11〜1nに到来するパルスエコーはそれぞれ送受信モジュール(TR)21〜2nで低雑音増幅され、第1周波数変換器31〜3n、第2周波数変換器41〜4nを介して中間周波数信号にまでダウンコンバートされる。その後各中間周波数信号は、アナログ/ディジタル(AD)変換器51〜5nによりそれぞれディジタル信号に変換され、次いでビーム形成回路60によりビーム合成される。
【0011】
ビーム信号は2分岐され、一方はFFT処理部70に入力され他方はタップドディレイライン80に入力される。FFT処理部70はビーム合成された信号に対して高速フーリエ変換処理を施し、それぞれ異なるドプラ速度に対応する複数のフィルタバンクを形成する。各フィルタバンクから出力されるフィルタバンク信号Yin1〜YinBは、キャンセレーション回路300に入力される。
【0012】
タップドディレイライン80に入力されるビーム合成信号は、K−1段の各タップ81〜8K−1においてそれぞれ遅延量τ1、τ2、…τK−1だけ遅延される。各遅延量τ1、τ2、…τK−1は、いずれもレーダパルスのパルス繰返し周期(PRI)に合わせて設定される。各タップ81〜8K−1から取り出される遅延信号Xin1〜XinKは、いずれもプリプロセッサ回路200に入力される。
【0013】
プリプロセッサ回路200は、シストリックアレイ状に接続される演算セルAと演算セルBとを備え、各フィルタバンクにおけるクラッタ成分に相当する演算出力Xout1とXout2とを生成してこれをキャンセレーション回路300に入力する。キャンセレーション回路300はアレイ状に接続される演算セルBを備え、プリプロセッサ回路200から与えられる信号Xout1、Xout2をそれぞれ順次フィルタバンク信号Yin1〜YinBから減算する。これにより、クラッタ成分の抑圧されたフィルタバンク信号Yout1〜YoutBがキャンセレーション回路300から出力される。
【0014】
図2は、図1の演算セルA及び演算セルBの構成を示す回路ブロック図である。図2(a)に示されるように演算セルAは、規格化部A1と複素共役化部(*)A2とを備え、遅延信号Xinをそのまま出力Yout1とすると共に、遅延信号Xinを規格化部A1及び複素共役化部A2を直列に介して出力Yout2とする。演算セルAにより実施される計算処理を次式(1)に示す。
【数1】
【0015】
図2(b)に示されるように演算セルBは、乗算器B3、加算器B4、サンプル遅延器B5、係数器(a)B6、係数器(g)B7を用いて現サンプルYout、Xout2(=X2)から複素ウェイトW(n)を生成すると共に、乗算器B2で1サンプル前の遅延信号Xout1(n−1)と1サンプル前の複素ウェイトW(n−1)とを乗じ、これを減算器B1で1サンプル前の遅延信号Yin(n−1)から減じて出力Yout(n−1)とする。演算セルBにより実施される計算処理を次式(2)に示す。
【数2】
【0016】
つまり、演算セルAは入力電力の規格化を行い、演算セルBは入力Ymの成分のうちYinと相関をもつ信号成分を取り除くものである。これらの演算セルA、Bを図1のプリプロセッサ回路200に示すようにシストリックアレイ状に接続すると、各段にグラムシュミットの直交化を用いて入力信号を分解した場合と同様の出力が得られる。これらの分解された信号は、図1に示すキャンセレーション回路300に入力される。
【0017】
プリプロセッサ回路200の出力は、キャンセレーション回路300においてシストリックアレイ状に接続された演算セルBに入力される。キャンセレーション回路300は、各フィルタバンク信号に含まれる不要波成分をプリプロセッサ回路200の出力信号を用いて抑圧する。つまり、各フィルタバンク信号Yin1〜YinBがそれぞれ各列に入力され、これらの信号のうち大電力を有する成分が順次除去され、最終段の演算セルBにはアダプテーションが行われたフィルタバンク信号Yout1からYoutBが得られる。
【0018】
図3は、本実施形態により得られる効果を従来と比較して示す図である。図3(a)は、従来のレーダ信号処理装置における出力の周波数分布を示す。このように従来においてはサイドローブ領域にクラッタ成分が残留するため、精密なレーダ信号処理を実施することが難しい。
【0019】
これに対し本実施形態によれば、図3(b)に示すようにフィルタバンクごとにサイドローブヌルが形成され、これによりクラッタ成分を各フィルタバンクごとに個別に抑圧できる。従って残留クラッタ成分を効果的に抑圧することが可能となる。
【0020】
このように本実施形態では、複数のアンテナ素子11〜1nにより受信されるパルスエコー信号からビーム形成回路60によりビーム合成信号を形成し、このビーム合成信号をFFT処理部70とタップドディレイライン80とに分岐入力する。FFT処理部70により複数のフィルタバンク信号Yin1〜YinBを生成し、これをキャンセレーション回路300に入力する。タップドディレイライン80においては、各タップごとにビーム合成信号を遅延量τ1、τ2、…τK−1ずつ遅延した遅延信号を生成し、これをプリプロセッサ回路200に入力する。そして、プリプロセッサ回路200においてフィルタバンク信号Yin1〜YinBの不要波成分を生成して、キャンセレーション回路300により各フィルタバンク信号Yin1〜YinBから不要波成分を減算することにより、サイドローブによる不要波成分を各フィルタバンクごとにアダプティブに抑圧するようにしている。
【0021】
すなわち本実施形態によれば、タップドディレイライン80によりビーム合成信号をPRI単位で遅延させた信号を生成できる。そして、これを用いてアダプティブ処理を実施し、遅延された各タップの信号を用いてFFT処理部70におけるフーリエ変換処理の係数をアダプティブに変化させることができる。いわば各フィルタバンクごとに周波数フィルタを形成することができ、これにより各フィルタバンクごとに個別に不要波成分を除去することが可能となる。従って、ドプラ周波数分散の大きいクラッタであっても、これを効果的に抑圧することが可能となる。
【0022】
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態を説明する。図4は、本発明に係わるレーダ信号処理装置の第2の実施形態を示す機能ブロック図である。なお図4において図1と共通する部分には同一の符号を付して示し、ここでは異なる部分についてのみ説明する。
【0023】
図4においては、タップドディレイライン80の各タップの信号を、それぞれMSN(Maximum Signal Noise ratio)演算処理部91〜9Bに入力し、MSN方式により各フィルタバンクのクラッタ成分を抑圧するようにしている。各MSN演算処理部91〜9Bによりフィルタバンクごとの係数を算出し、これを減算器101〜10Bにより各フィルタバンク出力Yin1〜YinBから減算することで、クラッタ成分の抑圧されたフィルタバンク出力Yout1〜YoutBが得られる。
【0024】
図5は、図4のMSN演算処理部91〜9Bの構成を示す回路ブロック図である。MSN演算処理部91〜9Bは、それぞれタップ遅延信号が入力されるKの演算セルBを備える。各演算セルBには、減算器101〜10Bの出力Youtおよびタップ遅延信号Xin1〜XinKがそれぞれ与えられ、タップ遅延信号Xin1〜XinKからYoutと相関を持つ信号成分が除去される。その結果は加算器C1により合計され、X′outとして減算器101〜10Bに与えられる。MSN演算処理部91〜9Bにより実施される計算処理を次式(3)に示す。
【数3】
【0025】
すなわちMSN演算処理部91〜9Bにおいては、1サンプル前の遅延信号Xink(n−1)と1サンプル前の複素ウェイトWk(n−1)とを乗じ、これを1サンプル前の遅延信号Xink(n−1)から減じて出力Xoutk(n−1)とする。なお添字kは各演算セルBを示すインデックスである。
【0026】
このように本実施形態では、タップドディレイライン80の各タップの信号を用いてMSN方式により各フィルタバンクのクラッタ成分をアダプティブに抑圧するようにしている。このようにしても上記第1の実施の形態と同様の効果を得ることができる。
【0027】
(第3の実施形態)
次に、本発明の第3の実施形態を説明する。図6は、本発明に係わるレーダ信号処理装置の第3の実施形態を示す機能ブロック図である。なお図6において図1と共通する部分には同一の符号を付して示し、ここでは異なる部分についてのみ説明する。
【0028】
図6においては、タップドディレイライン80の各タップの信号を、それぞれウェイト乗算部121〜12kと直接演算部110とに入力し、直接演算方式によりウェイト乗算部121〜12kのウェイトを算出することにより各フィルタバンクのクラッタ成分を抑圧するようにしている。直接演算部110で各フィルタバンクごとに算出されたウェイトをウェイト乗算部121〜12kにおいて各タップ信号と乗算し、それを合計した係数を減算器101〜10Bにより各フィルタバンク出力Yin1〜YinBから減算することで、クラッタ成分の抑圧されたフィルタバンク出力Yout1〜YoutBが得られる。直接演算部110における演算式を次式(4)に示す。式(4)において最適ウェイトをはWoptで示される。
【0029】
【数4】
【0030】
このように本実施形態では、タップドディレイライン80の各タップの信号を用いて、直接演算方式により最適ウェイトをアダプティブに算出するようにしている。これにより本実施形態においても上記第1、第2の実施形態と同様の効果を得られる。これに加え、主要な演算処理を直接演算部によりソフトウェア的に実施するようにしているので、回路規模を縮小することが可能となる。
【0031】
なお、本発明は上記実施の形態に限定されるものではない。例えば図1,4,6において第1周波数変換器および第2周波数変換器を用いて2段階に分けて周波数変換を行うようにしているが、これに代えて単段の周波数変換器により各素子信号をダウンコンバートするようにしても良い。また、フィルタバンクを形成するための処理はFFTに限らず、DFTでも良い。このほか、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変形実施を行うことができる。
【0032】
【発明の効果】
以上詳しく述べたように本発明によれば、ドプラ周波数分散の大きいクラッタを抑圧し得るレーダ信号処理装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明に係わるレーダ信号処理装置の第1の実施形態を示す機能ブロック図。
【図2】 図1の演算セルA及び演算セルBの構成を示す回路ブロック図。
【図3】 本発明の実施の形態により得られる効果を従来と比較して示す図。
【図4】 本発明に係わるレーダ信号処理装置の第2の実施形態を示す機能ブロック図。
【図5】 図4のMSN演算処理部91〜9Bの構成を示す回路ブロック図。
【図6】 本発明に係わるレーダ信号処理装置の第3の実施形態を示す機能ブロック図。
【符号の説明】
A,B…演算セル、A1…規格化部、A2…複素共役部、B1…減算器、B2…乗算器、B3…乗算器、B4…加算器、B5…サンプル遅延器、B6…係数器、B7…係数器、C1…加算器、Wk…複素ウェイト、11〜1n…アンテナ素子、21〜2n…送受信モジュール、31〜3n…周波数変換器、41〜4n…周波数変換器、51〜5n…ディジタル変換器、60…ビーム形成回路、70…FFT処理部、80…タップドディレイライン、81〜8K…タップ、91…MSN演算処理部、101〜10B…減算器、110…直接演算部、121〜12k…ウェイト乗算部、200…プリプロセッサ回路、300…キャンセレーション回路
Claims (6)
- 複数のアンテナ素子により受信されるパルスエコー信号から主ビーム信号を形成する主ビーム形成手段と、
前記主ビーム信号を分岐する分岐部と、
分岐された一方の主ビーム信号にフーリエ変換処理を施してそれぞれドプラ速度に対応する複数のフィルタバンクを形成するフィルタバンク形成手段と、
分岐された他方の主ビーム信号を入力される不要波抑圧手段とを具備し、
この不要波抑圧手段は、
前記分岐された他方の主ビーム信号を各タップごとにパルス繰返し周期ずつ遅延して複数の遅延信号を生成するタップ付き遅延手段と、
前記複数の遅延信号に含まれる不要波成分から各フィルタバンクごとの不要波成分をアダプティブに生成する不要波成分生成手段と、
各フィルタバンクのフィルタバンク信号から前記不要波成分をそれぞれ減算する減算手段とを備えることを特徴とするレーダ信号処理装置。 - 前記不要波成分生成手段は、前記不要波成分からグラムシュミット方式のもとで各フィルタバンクごとの不要波成分を生成することを特徴とする請求項1に記載のレーダ信号処理装置。
- 前記不要波成分生成手段は、前記不要波成分からフィードバックループ方式のもとで各フィルタバンクごとの不要波成分を生成することを特徴とする請求項1に記載のレーダ信号処理装置。
- 前記不要波成分生成手段は、前記不要波成分から直接解方式のもとで各フィルタバンクごとの不要波成分を生成することを特徴とする請求項1に記載のレーダ信号処理装置。
- 前記フィルタバンク形成手段は、前記一方の主ビーム信号に対して高速フーリエ変換処理を施して前記複数のフィルタバンクを形成することを特徴とする請求項1に記載のレーダ信号処理装置。
- 前記フィルタバンク形成手段は、前記一方の主ビーム信号に対して離散的フーリエ変換処理を施して前記複数のフィルタバンクを形成することを特徴とする請求項1に記載のレーダ信号処理装置。
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