JP5566261B2 - レーダ装置 - Google Patents

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Description

この発明は、クラッタ抑圧を行うレーダ装置に関するものである。
従来から、レーダ装置において、航空機などの目標を探知する際には、複数のパルスから構成される受信信号に対して、離散フーリエ変換などによりパルス間コヒーレント積分処理を施した後、目標検出を行う場合がある。
このとき、目標信号とともに、陸地や樹木からの不要反射信号であるグランドクラッタ、または海面からの不要反射信号であるシークラッタを受信する場合には、これらを除去してから目標検出を行う必要がある。
なお、上記クラッタは、いずれもドップラスペクトルの中心周波数が一般に0Hzとされることから、以下の説明では、まとめて「固定クラッタ」と称するものとする。
また、従来から、固定クラッタ環境下で、パルス間コヒーレント積分処理を行う場合、固定クラッタを除去するために、固定クラッタが存在するゼロドップラビンの出力を無視し、残りのドップラビンの出力に存在する受信信号を用いて目標検出を行う技術が提案されている(たとえば、非特許文献1参照)。
非特許文献1による目標検出技術は、極めて簡単で、単にゼロドップラビンの出力を無視しているのみなので、残りのドップラビンの出力には、固定クラッタのドップラサイドローブ電力が含まれたままである。
上記従来技術によれば、固定クラッタのドップラサイドローブ電力が雑音電力に比べて十分に小さい場合には、ドップラサイドローブ電力の影響を無視することができるので、目標信号を含むドップラビンにおいて、十分なSIR(Signal to Interference Ratio:信号/干渉比)が得られる。ここで、干渉(Interference)は、クラッタ電力および雑音電力の和である。
よって、ドップラサイドローブ電力が十分に小さい場合は、後段の目標検出により所望の探知性能が得られることが期待できる。
ところが、ゼロドップラビンに含まれる固定クラッタの電力が極めて大きい場合には、ゼロドップラビンの出力を無視しても、残りのドップラビンに含まれるドップラサイドローブ電力の影響が無視できない場合がある。この場合、目標信号を含むドップラビンにおいて十分なSIRが得られず、探知性能が劣化してしまう問題がある。
そこで、上記非特許文献1の問題に対処するために、パルス間コヒーレント積分手段の前段にて、MTI(Moving Target Indicator:移動目標指示装置)フィルタを介して固定クラッタを抑圧してから、パルス間コヒーレント積分処理を行う技術も提案されている(たとえば、非特許文献2参照)。
非特許文献2による目標検出技術は、MTIフィルタが事前に設計可能であって多くのレーダ装置に実装されていることから、比較的容易に適用可能と言える。
ところが、この場合、固定クラッタの抑圧は可能であるものの、MTIフィルタの過渡応答により、パルス間コヒーレント積分手段に入力されるヒット数が減少するので、ヒット数減少によりパルス間コヒーレント積分効果が劣化して十分なSIRが得られない場合には、所望の探知性能を達成できないという問題がある。
また、固定クラッタの電力が極めて大きい場合や、ドップラ帯域幅が広い場合には、MTIフィルタを用いても、固定クラッタを十分に抑圧することができず、残留クラッタ電力によってSIRがさらに劣化する場合があり、結局、所望の探知性能を達成できないという問題がある。
そこで、上記非特許文献2の問題に対処するために、MTIフィルタを用いずに、アダプティブフィルタを用いることにより、クラッタのドップラスペクトル特性に合わせた抑圧を行いながら、SIRを最大化する技術が提案されている(たとえば、非特許文献3参照)。
非特許文献3による目標検出技術においては、クラッタ相関行列の逆行列を用いて、クラッタのドップラスペクトル特性に合わせた抑圧が行われる。
ところが、クラッタのドップラスペクトル特性は、一般に、クラッタとレーダとの位置関係や観測時間などによって異なるので、クラッタ相関行列も同様に異なる。
したがって、非特許文献3の技術を実現するためには、クラッタを含む受信信号を観測することにより、クラッタ相関行列を逐次リアルタイムに推定しながら、アダプティブフィルタのウェイトを求める必要がある。
すなわち、レンジビンごとに、クラッタ相関行列およびその逆行列を求め、さらに、想定される目標ドップラ周波数に対応した複数のアダプティブフィルタからなるフィルタバンクを構成する処理をリアルタイムに行う必要があり、この結果、実装が複雑になり、また演算処理負荷も高くなる問題がある。
さらに、クラッタ相関行列を高精度に推定するためには、同じドップラスペクトル特性を有するクラッタを、十分な回数にわたり観測することが必要となる。
ところが、レーダ装置の運用上の制約から、数回程度の観測しかできない場合が多く、高精度なクラッタ相関行列の推定が困難になるという問題がある。
そこで、上記非特許文献3の問題に対処するために、事前にクラッタのドップラスペクトル特性(クラッタ電力、クラッタ中心周波数、ドップラ帯域幅)を既知値とすることにより、クラッタ相関行列およびその逆行列を求め、さらに想定する複数の目標ドップラ周波数に対応した複数のアダプティブフィルタからなるフィルタバンクを事前に構成する技術が提案されている(たとえば、特許文献1参照)。
ここで、既知値となる固定クラッタのドップラスペクトル特性を考えると、クラッタ中心周波数は、0Hzでよい。また、ドップラ帯域幅は、レーダ設計で広く用いられている実測に基づく典型的な値が既知である(たとえば、非特許文献4参照)。
ところが、クラッタ電力は、クラッタとレーダとの位置関係や、観測時間などによって異なるので、これらに合致した正確なクラッタ電力を事前に予測することは、一般的には困難と考えられる。
また、仮に予測できた場合でも、クラッタとレーダとの位置関係や観測時間に対応した膨大な数のフィルタバンクを事前に構成する必要があり、結局、特許文献1の技術をレーダ装置に実装することは実質的に困難と考えられる。
以下、上記非特許文献1〜3および上記特許文献1に記載の従来技術(固定クラッタ環境下でパルス間コヒーレント積分処理を行う場合に適用される)の各問題点について、まとめて説明する。
非特許文献1の技術は、フィルタによりクラッタを抑圧する能力がないことから、十分なSIRを得ることができない。
非特許文献2の技術は、MTIフィルタによりクラッタ抑圧が行われているが、MTIフィルタの過渡応答や抑圧能力不足に起因して、十分なSIRが得られない。
非特許文献3の技術は、アダプティブフィルタによりSIRを最大化しているが、アダプティブフィルタの構成をリアルタイムに行う必要があるので、実装が複雑になるうえ、演算処理負荷が高くなる。さらに、レーダの運用上の制約から、高精度なクラッタ相関行列の推定が困難になる。
特許文献1の技術は、クラッタ電力などが既知であるという前提のもとで、非特許文献3の問題を解決しているが、クラッタ電力は、クラッタとレーダとの位置関係や観測時間によって異なるので、これらに合致した正確なクラッタ電力を、既知値とするという前提が成立することは、一般的に困難である。
特許第3188638号公報
Mark A.Richards,James A.Scheer,William A.Holm,Principles of Modern Radar:Basic Principles,Raleigh,NC,SciTech Publishing,2010. M.A.Richards,Fundamental of Radar Signal Processing,New York,NY,McGraw−Hill,2005. D.C.Schleher,MTI and Pulse Doppler Radar,Norwood,MA,Artech House,1991. M.Skolnik ed.,Radar Handbook Third Edition,New York,McGraw Hill,2008.
従来のレーダ装置は、固定クラッタ環境下でパルス間コヒーレント積分処理を行うために、MTIフィルタのように事前に設計可能で比較的実装の容易な処理により、ヒット数を減少させることなくクラッタ抑圧を行い、全ヒット数を用いたパルス間コヒーレント積分処理を行う技術が要求されているにもかかわらず、これを実現することができないという課題があった。
また、移動クラッタをも含めたクラッタ環境下で、パルス間コヒーレント積分処理を行うために、上記技術の拡張が要求されているにもかかわらず、これを実現することができないという課題があった。
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、クラッタ環境下でパルス間コヒーレント積分処理を行うために、MTIフィルタのように、事前に設計可能で比較的実装の容易な処理により、ヒット数を減少させることなくクラッタ抑圧を行い、全ヒット数を用いたパルス間コヒーレント積分処理を行うことのできるレーダ装置を得ることを目的とする。
この発明に係るレーダ装置は、
所定の送信周波数信号を生成し、前記送信周波数信号を用いて所定の変調方式に基づく送信信号を生成する送信機と、
前記送信信号を所定のビーム指向方向に向けて空中に送信するとともに、目標およびクラッタからの反射波を受信するアンテナと、
前記アンテナで受信した反射波信号をベースバンド帯に周波数変換してアナログ受信信号を生成する受信機と、
前記送信機からの送信信号を前記アンテナに入力するとともに、前記アンテナからの反射波信号を前記受信機に入力するデュプレクサと、
前記受信機からのアナログ受信信号をディジタル化した受信信号に変換するAD変換器と、
所定のヒット数Hおよび所定のドップラ帯域幅B を入力し、前記AD変換器からの第hヒットの受信信号x (n)から構成される下式(101)で表される第nスナップショットの受信信号ベクトルx(n)とパルス間コヒーレント積分値y(n)との関係を下式(102)のように規定する射影行列P null を、前記ヒット数Hおよび前記ドップラ帯域幅B を用いて予め計算しておくクラッタ抑圧行列計算手段と、
x(n)=[x (n) x (n) ・・・ x (n)] ・・・(101)
y(n)=A null x(n) ・・・(102)
ただし、ここで、ドップラ解析行列Aは後述の式(39)で表され、式(39)のドップラ解析ベクトルa (h) は後述の式(40)で表され、式(40)のドップラ解析周波数f (h) は後述の式(41)で表され、1≦h≦Hであり、PRIは前記受信信号x (n)のパルス繰返し周期であり、
前記受信信号x (n)と前記射影行列P null とを入力し、前記受信信号x (n)から受信信号ベクトルx(n)を上式(101)式に従って生成するとともに、前記射影行列P null を用いて、前記受信信号ベクトルx(n)から前記パルス間コヒーレント積分値y(n)を上式(102)に従って計算するクラッタ抑圧手段と、
前記クラッタ抑圧手段からの前記パルス間コヒーレント積分値を入力情報として、所定の目標検出処理を行う目標検出手段と、
を備え、
前記クラッタ抑圧行列計算手段は、
前記ヒット数Hおよび前記ドップラ帯域幅B を入力し、クラッタ中心周波数f =0の場合のCMT行列C を後述の式(25)および後述の式(20)に従って計算するCMT行列計算手段と、
ただし、ここで、PRIは、前記受信信号x (n)のパルス繰返し周期であり、
前記CMT行列C を入力し、前記CMT行列C に対して固有値・固有ベクトル分解処理を行い、降順に並べた固有値ξ と、前記固有値ξ のそれぞれに対応する固有ベクトルe ch とを計算する固有値・固有ベクトル分解手段と、
前記固有値ξ を入力し、前記固有値ξ からクラッタランクDを設定するクラッタランク設定手段と、
前記固有値ξ と前記固有ベクトルe ch と前記クラッタランクDとを入力し、前記クラッタランクD個の前記固有値ξ (d=1、2、・・・、D)に対応する前記固有ベクトルe cd を列ベクトルとするクラッタ固有ベクトル行列E を計算するクラッタ固有ベクトル行列計算手段と、
前記クラッタ固有ベクトル行列E を入力し、前記クラッタ固有ベクトル行列E から、前記射影行列P null を下式(103)に従って計算する射影行列計算手段と、
null =I−E ・・・(103)
を備え、
前記クラッタランク設定手段は、
前記固有値ξ を入力し、前記固有値ξ の累積寄与率CP(h)を後述の式(29)に従って求める累積寄与率計算手段と、
前記累積寄与率CP(h)を入力し、所定のクラッタ減衰量CA (req) を満たすために必要な最小クラッタランクDを、下式(104)のように、前記クラッタランクDとして求める最適クラッタランク推定手段とを備え、
D=argminCA(h)
subject to
CA(h)≧CA (req) ・・・(104)
ただし、ここで、前記累積寄与率CP(h)に対応するクラッタ減衰量CA(h)は、後述の式(48)で表されるものである。
この発明によれば、ヒット数分の受信信号を非クラッタ部分空間に射影することにより、クラッタ抑圧を実現することができるので、クラッタ抑圧後でもヒット数が減少することのないレーダ装置を実現することができる。
また、非クラッタ部分空間への射影行列は事前に計算可能であり、リアルタイムに推定する必要がないので、射影行列の事前設計と、パルス間コヒーレント積分手段の前段への射影処理手段の追加とにより、容易に実現可能であり、比較的容易にレーダ装置に実装することができる。
この発明の実施の形態1に係るレーダ装置を示すブロック構成図である。 この発明の実施の形態1によるクラッタ抑圧行列計算手段の機能構成を示すブロック図である。 図1内のクラッタ抑圧手段の機能構成を示すブロック図である。 この発明の実施の形態2によるクラッタ抑圧行列計算手段の機能構成を示すブロック図である。 この発明の実施の形態3によるクラッタ抑圧行列計算手段の機能構成を示すブロック図である。 この発明の実施の形態4によるクラッタ抑圧行列計算手段の機能構成を示すブロック図である。 この発明の実施の形態4によるクラッタ抑圧手段の機能構成を示すブロック図である。 この発明の実施の形態5によるクラッタランク設定手段の機能構成を示すブロック図である。
実施の形態1.
以下、図1〜図3を参照しながら、この発明の実施の形態1について説明する。
図1はこの発明の実施の形態1に係るレーダ装置を示すブロック構成図である。また、図2は図1内のクラッタ抑圧行列計算手段の機能構成を示すブロック図であり、図3は図1内のクラッタ抑圧手段の機能構成を示すブロック図である。
図1において、レーダ装置は、送信機1と、送受信を切替えるデュプレクサ2と、アンテナ3と、受信機4と、AD変換器5と、クラッタ抑圧行列計算手段6と、クラッタ抑圧手段7と、目標検出手段8とを備えている。
送信機1は、所定の送信周波数信号を生成し、送信周波数信号を用いて所定の変調方式に基づく送信信号を生成する。
デュプレクサ2は、送信機1からの送信信号をアンテナ3に入力するとともに、アンテナ3で受信された反射波信号を受信機4に入力する。
アンテナ3は、送信機1からデュプレクサ2を経由して入力される送信信号を、所定のビーム指向方向に向けて空中に送信するとともに、目標およびクラッタからの反射波を受信する。
受信機4は、アンテナ3からデュプレクサ2を経由して入力される反射波信号を、ベースバンド帯に周波数変換してアナログ受信信号を生成する。
AD変換器5は、受信機4からのアナログ受信信号を、ディジタル化した受信信号x(n)に変換する。
クラッタ抑圧行列計算手段6は、所定のヒット数H(以下、単に「ヒット数H」という)と、所定のドップラ帯域幅B(ドップラスペクトル幅:以下、単に「ドップラ帯域幅B」という)とに基づいて、非クラッタ部分空間への射影行列Pnullを求める。
なお、ヒット数Hおよびドップラ帯域幅Bは、ユーザ入力であり、ユーザ要求に応じて設定される。
クラッタ抑圧手段7は、AD変換器5から入力される受信信号x(n)と、クラッタ抑圧行列計算手段6から入力される射影行列Pnullとを用いて、受信信号x(n)に含まれるクラッタを抑圧しつつ、受信信号x(n)に含まれる目標信号に対して、ヒット方向に積分するヌル拘束付きパルス間コヒーレント積分処理(以下、単に「パルス間コヒーレント積分処理」という)を行い、ヌル拘束付きパルス間コヒーレント積分値y(n)(以下、単に「パルス間コヒーレント積分値y(n)」という)を算出する。
目標検出手段8は、クラッタ抑圧手段7で算出されたパルス間コヒーレント積分値y(n)を入力情報として、所定の目標検出処理を行う。
図2において、クラッタ抑圧行列計算手段6は、CMT行列計算手段61と、固有値・固有ベクトル分解手段62と、クラッタランク設定手段と、クラッタ固有ベクトル行列計算手段64と、射影行列計算手段65とを備えている。
CMT行列計算手段61は、ヒット数Hおよびドップラ帯域幅Bに基づき、CMT(Covariance Matrix Taper:共分散行列テーパ)行列Cを計算する。
固有値・固有ベクトル分解手段62は、CMT行列Cを入力情報として、CMT行列Cに対して固有値・固有ベクトル分解処理を行い、降順に並べたクラッタ相関行列の固有値ξと、固有値ξのそれぞれに対応する固有ベクトルechとを計算する。
クラッタランク設定手段63は、固有値ξを入力情報として、クラッタランクDを設定する。
クラッタ固有ベクトル行列計算手段64は、固有値ξと固有ベクトルechとクラッタランクDとを入力情報として、固有値ξおよび固有ベクトルechから、クラッタランクD以下に対応するクラッタ固有値およびクラッタ固有ベクトルを選択し、選択したクラッタ固有ベクトルを列ベクトルとして並べたクラッタ固有ベクトル行列Eを求める。
なお、この発明の実施の形態1においては、固定クラッタを想定しているので、クラッタ固有ベクトル行列Eは、固定クラッタ固有ベクトル行列となる。
射影行列計算手段65は、クラッタ固有ベクトル行列Eから、非クラッタ部分空間への射影行列Pnullを求める。
図3において、クラッタ抑圧手段7は、射影処理手段71と、パルス間コヒーレント積分手段72とを備えている。
射影処理手段71は、受信信号ベクトル形成手段(後述する)を含み、AD変換器5からの受信信号x(n)と、クラッタ抑圧行列計算手段6からの射影行列Pnullとを入力情報として、受信信号x(n)に含まれるクラッタを抑圧したクラッタ抑圧後受信信号ベクトルxnull(n)を生成する。
パルス間コヒーレント積分手段72は、クラッタ抑圧後受信信号ベクトルxnull(n)のパルス間コヒーレント積分処理を行い、パルス間コヒーレント積分値y(n)を算出して目標検出手段8に入力する。
次に、図1〜図3に示したこの発明の実施の形態1による処理で想定される受信信号モデルおよびその性質について説明する。
なお、受信信号x(n)に含まれる目標信号は、ヒット数Hのドップラ周波数fの複素正弦波で表わされるものとする。また、目標信号は、N回(Nは「スナップショット数」)観測されるものとする。
このとき、第nスナップショットでの第hヒット目の目標信号s(n)は、以下の式(1)で表される。
(n)=s(n)exp{j・2πf(h−1)PRI} ・・・(1)
ただし、式(1)において、h=1、2、・・・、Hであり、n=1、2、・・・、Nである。
また、s(n)は目標信号の複素振幅、PRIは、目標信号を含む受信信号x(n)のパルス繰返し周期である。
ここで、クラッタc(n)、受信機雑音n(n)について検討すると、クラッタc(n)は、ヒット方向にて、後述する式(17)のような自己相関特性を有し、一方、受信機雑音n(n)は、無相関である。
以上のことから、受信信号x(n)は、式(1)を用いて、以下の式(2)で表される。
(n)=s(n)+c(n)+n(n)
=s(n)exp{j・2πf(h−1)PRI}+c(n)+n(n) ・・・(2)
式(2)から、第nスナップショットにてサンプルしたH個の受信信号x(n)は、以下の式(3)のように、受信信号ベクトルx(n)で表される。
Figure 0005566261
式(3)において、aは目標信号のヒットごとの位相に基づくベクトルであり、目標のドップラ周波数fに対応したベクトル(目標ステアリングベクトル)として、以下の式(4)で表される。
Figure 0005566261
また、式(3)において、c(n)はクラッタベクトル、n(n)は雑音ベクトルであり、それぞれ、以下の式(5)、式(6)で表される。
c(n)=[c(n) c(n) ・・・ c(n)] ・・・(5)
n(n)=[n(n) n(n) ・・・ n(n)] ・・・(6)
式(3)から、受信信号ベクトルx(n)の相関行列Rxxは、以下の式(7)で表される。
Figure 0005566261
ただし、式(7)において、σは受信機4の雑音電力である。また、目標信号の複素振幅s(n)、クラッタベクトルc(n)、雑音ベクトルn(n)は、互いに無相関とする。
また、pは目標電力、Rssは(目標)信号相関行列、Rccはクラッタ相関行列であり、それぞれ、以下の式(8)〜式(10)で表される。
=E[s(n)s(n)] ・・・(8)
ss=p ・・・(9)
cc=E[c(n)c(n)] ・・・(10)
ただし、式(9)、式(10)内の目標ベクトルa およびクラッタベクトルcに付された「H」は、エルミート(Hermitian)処理を示している。
次に、クラッタ相関行列Rccについて検討する。
ここでは、クラッタとして、広くレーダ設計に用いられている「Gaussianスペクトルモデル」によるクラッタを用いる。
Gaussianスペクトルモデルは、ガウス関数で表わされるクラッタのパワースペクトル密度関数であり、以下の式(11)で表される。
Figure 0005566261
式(11)において、fはドップラ周波数、fはGaussianスペクトルの中心周波数、σは標準偏差、Bはドップラ帯域幅(3dB幅)、pはクラッタ電力である。なお、この発明の実施の形態1においては、固定クラッタを想定しているので、クラッタ中心周波数f=0である。
ドップラ帯域幅Bは、PSD(f)の半値幅(3dB幅)であり、標準偏差σとの間で、以下の式(12)で表される関係にある。
Figure 0005566261
また、クラッタ電力pは、以下の式(13)で表される。
Figure 0005566261
クラッタ相関行列Rccは、クラッタのヒット方向の自己相関関数R(h−1)を要素とする行列であり、以下の式(14)で表される。
Figure 0005566261
ここで、式(14)内の自己相関関数R(h−1)とクラッタc(n)との間の関係は、以下の式(15)で表される。
Figure 0005566261
ただし、式(15)において、τはタイムラグである。
そこで、GaussianスペクトルモデルPSD(f)から、ヒット方向の自己相関関数R(h−1)を具体的に求める。
まず、Gaussianスペクトルモデルの自己相関関数R(τ)(パワースペクトル密度関数)は、WienerKhinchinの定理を用いれば、以下の式(16)で表される。
Figure 0005566261
よって、ヒット方向の自己相関関数R(h−1)は、以下の式(17)で表される。
Figure 0005566261
式(17)から明らかなように、ヒット方向の自己相関関数R(h−1)は、クラッタ電力pと、クラッタ中心周波数fに依存する因子exp{j・2πf(h−1)PRI}と、ドップラ帯域幅Bに依存する因子exp[−π {(h−1)PRI}/4ln2]との積で表わされることが分かる。
以下、上記3つの因子のうち、クラッタ電力p以外の2つの因子について考える。
まず、クラッタ中心周波数fに依存する因子exp{j・2πf(h−1)PRI}は、クラッタのドップラ帯域幅がB=0の場合の自己相関関数R (B=0)(h−1)を用いて表すことができる。
すなわち、式(17)にB=0を代入すれば、R (B=0)(h−1)は、因子exp{j・2πf(h−1)PRI}とクラッタ電力pとの積となり、以下の式(18)で表される。
(B=0)(h−1)=P・exp{j・2πf(h−1)PRI}・・・(18)
次に、ドップラ帯域幅Bに依存する因子exp[−π {(h−1)PRI}/4ln2]について考える。
まず、自己相関係数C(h−1)は、式(17)の自己相関関数R(h−1)から、以下の式(19)のように求められる。
Figure 0005566261
このとき、クラッタ中心周波数f=0のときの自己相関係数C(h−1)(fc=0)(h−1)は、式(19)にf=0を代入することにより、以下の式(20)のように求められる。
Figure 0005566261
式(20)から明らかなように、自己相関係数C(h−1)(fc=0)(h−1)は、因子exp[−π {(h−1)PRI}/4ln2]そのものになる。
よって、式(18)および式(20)から、式(17)の自己相関関数R(h−1)は、以下の式(21)のように表される。
(h−1)=R (Bc=0)(h−1)C (fc=0)(h−1) ・・・(21)
さらに、式(21)を式(14)に代入すると、クラッタ相関行列Rccは、以下の式(22)のように求められる。
cc=C○Rcc (Bc=0)=p○(a ) ・・・(22)
式(22)において、○はアダマール積(行列の要素同士の積を表す)の記号である。
また、Rcc (Bc=0)は、クラッタのドップラ帯域幅がB=0の場合のクラッタ相関行列であり、以下の式(23)で表される。
Figure 0005566261
また、式(22)、式(23)において、aはクラッタ中心周波数fに関するクラッタステアリングベクトルであり、以下の式(24)で表される。
Figure 0005566261
さらに、式(22)内のCMT行列Cは、以下の式(25)で表される。
Figure 0005566261
したがって、Gaussianスペクトルモデルによるクラッタ相関行列Rccは、ドップラ帯域幅Bを考慮しない場合のクラッタ相関行列Rcc (Bc=0)と、Gaussianスペクトルの自己相関から構成されるCMT行列Cと、の要素間の積として与えられる。
続いて、クラッタ相関行列Rccは、以下の式(26)のように、固有値・固有ベクトル分解処理が施される。
cc=E ・・・(26)
ただし、式(26)において、Eは、クラッタ固有ベクトルを列ベクトルとする行列であり、Gはクラッタ固有ベクトルに対応するクラッタ固有値を対角項に降順にならべた対角行列である。行列E(列ベクトル)および対角行列Gは、それぞれ、以下の式(27)、式(28)で表される。
Figure 0005566261
また、固有値ξに関して、累積寄与率CP(h)は、以下の式(29)で表される。
Figure 0005566261
ここで、相関行列のトレースと、その固有値に関する定理とから、以下の式(30)、式(31)が成り立つ。
Figure 0005566261
また、以下の式(32)が成り立つことは明らかである。
Figure 0005566261
すなわち、固有値ξに基づく総和
Figure 0005566261
は、クラッタ電力pに等しい。
また、固有値ξに基づく部分和
Figure 0005566261
が、クラッタ電力pの一部であることも明らかである。
したがって、累積寄与率CP(h)は、h個の固有値ξに基づく部分和に相当するクラッタ電力
Figure 0005566261
が、クラッタ電力pに占める割合を表していることになる。
また、残りの固有値による部分和
Figure 0005566261
も、クラッタ電力の一部であることは明らかである。
いま、h個の固有値ξに対応する固有ベクトルが張る「h次元クラッタ部分空間」を考えると、この部分空間には、クラッタ電力pに対して、累積寄与率CP(h)に相当するクラッタ電力
Figure 0005566261
を有するクラッタ成分が存在している。
したがって、h次元クラッタ部分空間に直交する部分空間への射影行列Pnullを求めれば、クラッタ電力pの累積寄与率CP(h)に相当するクラッタ電力を抑圧することが可能である。
そこで、クラッタ部分空間の次元数Dが与えられたとすると、D次元クラッタ部分空間に直交する部分空間への射影行列Pnullは、以下の式(33)のように求められる。
null=I−E ・・・(33)
ただし、式(33)において、クラッタ固有ベクトル行列Eは、D個の固有値ξ(d=1、2、・・・、D)に対応する固有ベクトルecdを列ベクトルとしている。
なお、D次元クラッタ部分空間は、クラッタ相関行列RccのD個の固有ベクトルが張る空間なので、クラッタランクDと称される。
ここで、固有ベクトルecdについて述べる。
前述の式(22)、式(26)から、以下の式(34)が成り立つ。
○(a )=E ・・・(34)
ここで、式(34)の左辺に任意のスカラ値βを乗算すれば、以下の式(35)のように、右辺の対角行列Gにもスカラ値βが乗算される。
βp○(a )=E(βG)E ・・・(35)
ただし、式(35)において、行列Eの列ベクトルのノルムは一定とする。
クラッタ電力pにスカラ値βを乗算する操作は、クラッタ電力pを相対電力値にスケーリングする操作であるが、このとき、対角行列Gはスケーリングされる(すなわち、固有値がスケーリングされる)が、行列E(列ベクトル)は変化しない。
したがって、クラッタ固有ベクトルを並べた行列Eを求めるためには、クラッタ電力p(式(34)の左辺)が未知のままでよく、相対電力値βpを適当に与えればよい(たとえば、βp=1)。
以上において、クラッタのドップラ帯域幅Bを考慮した場合の受信信号モデルおよびその性質について説明したが、この受信信号モデルが、この発明の実施の形態1で想定する受信信号モデルである。
次に、上記式(1)〜(35)とともに説明した受信信号モデルに関連させながら、図1〜図3に示したこの発明の実施の形態1に係るレーダ装置の処理について説明する。
最初に、レーダ装置の運用に先立つ設計時などにおいて、事前に行うことが可能な処理について説明する。
まず、クラッタ抑圧行列計算手段6において、CMT行列計算手段61は、ヒット数Hの設定値と、固定クラッタのドップラ帯域幅Bの設定値とを入力情報として、前述の式(19)(ただし、「f=0」とする。)および式(25)に基づき、CMT行列Cを計算する。
ドップラ帯域幅Bを考慮したクラッタ相関行列Rcc (BW)は、式(22)に基づくが、固定クラッタの場合には、式(22)にて、Rcc=1H×Hが成立することに注意する。
また、クラッタ電力pは、未知のままでよいので、式(22)で、p=1とすれば十分であることに注意する。
これらの点に注意すれば、計算したCMT行列Cを、そのままクラッタ相関行列Rcc (BW)として扱ってよい。
続いて、固有値・固有ベクトル分解手段62は、CMT行列計算手段61から入力されるCMT行列Cについて、それぞれH個の降順に並べた固有値ξと、これに対応する固有ベクトルechとを求める。
クラッタランク設定手段63は、固有値ξを用いてクラッタランクDを設定する。
クラッタ固有ベクトル行列計算手段64は、クラッタランクDに基づき、固有値ξおよび固有ベクトルechから、D個のクラッタ固有値およびクラッタ固有ベクトルを選択し、選択したクラッタ固有ベクトルを列ベクトルとして有するクラッタ固有ベクトル行列Eを求める。
射影行列計算手段65は、クラッタ固有ベクトル行列Eを用いて、式(33)のように、非クラッタ部分空間への射影行列Pnullを計算する。
クラッタ抑圧行列計算手段6内のCMT行列計算手段61〜射影行列計算手段65による上記処理は、レーダ装置の運用に先立つ設計時などにおいて、事前に実行しておくことが可能である。
次に、レーダ装置の運用中において、送信機1、デュプレクサ2、アンテナ3、受信機4およびAD変換器5を用いて、目標信号およびクラッタを含む受信信号x(n)を観測した場合の処理について説明する。
まず、クラッタ抑圧手段7において、射影処理手段71内の受信信号ベクトル形成手段は、ヒット数H分の受信信号x(n)を入力情報として、以下の式(36)のように、受信信号ベクトルx(n)を構成する。
x(n)=[x(n) x(n) ・・・ x(n)] ・・・(36)
また、射影処理手段71は、受信信号ベクトルx(n)に対して、事前に求めた射影行列Pnullを乗算し、以下の式(37)により、クラッタ抑圧後受信信号ベクトルxnull(n)を計算する。
null(n)=Pnullx(n) ・・・(37)
続いて、パルス間コヒーレント積分手段72は、離散フーリエ変換などによるパルス間コヒーレント積分処理を行い、以下の式(38)により、パルス間コヒーレント積分値y(n)を算出する。
y(n)=Anull(n) ・・・(38)
ただし、式(38)内のドップラ解析行列Aは、以下の式(39)で表され、また、式(39)内のドップラ解析ベクトルa (h)は、以下の式(40)で表され、さらに、式(40)内のドップラ解析周波数f (h)は、以下の式(41)で表される。
Figure 0005566261
以下、パルス間コヒーレント積分値y(n)は、目標検出手段8などによる後段処理に供される。
なお、以上の説明では、クラッタのスペクトルモデルとしてGaussianモデルを用いたが、他のモデルが適用可能なことは言うまでもなく、他のモデルを用いる場合には、単にCMT行列Cを適宜変更すれば済むのみであり、この発明の実施の形態1はそのまま成立する。
以上のように、この発明の実施の形態1(図1〜図3)に係るレーダ装置は、所定の送信周波数信号を生成し、送信周波数信号を用いて所定の変調方式に基づく送信信号を生成する送信機1と、送信信号を所定のビーム指向方向に向けて空中に送信するとともに、目標およびクラッタからの反射波を受信するアンテナ3と、アンテナ3で受信した反射波信号をベースバンド帯に周波数変換してアナログ受信信号を生成する受信機4と、送信機1からの送信信号をアンテナ3に入力するとともに、アンテナ3からの反射波信号を受信機4に入力するデュプレクサ2と、受信機4からのアナログ受信信号をディジタル化した受信信号x(n)に変換するAD変換器5と、を備えている。
また、ヒット数Hおよびドップラ帯域幅Bに基づき、非クラッタ部分空間への射影行列Pnullを求めるクラッタ抑圧行列計算手段6と、AD変換器5からの受信信号x(n)と、クラッタ抑圧行列計算手段6からの射影行列Pnullとを用いて、受信信号x(n)に含まれるクラッタを抑圧しつつ、受信信号x(n)に含まれる目標信号をヒット方向に積分するパルス間コヒーレント積分処理を行うクラッタ抑圧手段7と、クラッタ抑圧手段7からのパルス間コヒーレント積分値y(n)を入力情報として、所定の目標検出処理を行う目標検出手段8と、を備えている。
クラッタ抑圧行列計算手段6は、ヒット数Hおよびドップラ帯域幅Bに基づきCMT行列Cを計算するCMT行列計算手段61と、CMT行列Cに対して固有値・固有ベクトル分解処理を行い、降順に並べた固有値ξと固有値ξのそれぞれに対応する固有ベクトルechとを計算する固有値・固有ベクトル分解手段62と、固有値ξを入力情報として、クラッタランクDを設定するクラッタランク設定手段63と、固有値ξと固有ベクトルechとクラッタランクDとを入力情報として、固有値ξおよび固有ベクトルechから、クラッタランクD以下に対応するクラッタ固有値およびクラッタ固有ベクトルを選択し、選択したクラッタ固有ベクトルを列ベクトルとして並べたクラッタ固有ベクトル行列Eを求めるクラッタ固有ベクトル行列計算手段64と、クラッタ固有ベクトル行列Eから、非クラッタ部分空間への射影行列Pnullを求める射影行列計算手段65と、を備えている。
クラッタ抑圧手段7は、AD変換器5からの受信信号x(n)と、クラッタ抑圧行列計算手段6からの射影行列Pnullとを入力情報として、受信信号x(n)に含まれるクラッタを抑圧したクラッタ抑圧後受信信号ベクトルxnull(n)を生成する射影処理手段71と、クラッタ抑圧後受信信号ベクトルxnull(n)のパルス間コヒーレント積分処理を行い、パルス間コヒーレント積分値y(n)を生成するパルス間コヒーレント積分手段72と、を備えている。
これにより、事前にクラッタ部分空間を求めておき、クラッタ抑圧行列計算手段6において、ヒット方向にて計測されたヒット数H分の受信信号ベクトルx(n)を非クラッタ部分空間に射影してから、クラッタ抑圧手段7において、パルス間コヒーレント積分処理を行う。また、射影した受信信号のパルス間コヒーレント積分を、離散フーリエ変換などにより行う。
この結果、固定クラッタ環境下でパルス間コヒーレント積分処理を行うために、射影行列Pnullを用いてヒット数Hを減少させることなく固定クラッタ抑圧を行い、全ヒット数Hを用いたパルス間コヒーレント積分処理を行うことができる。
また、クラッタ抑圧行列計算手段6における非クラッタ部分空間への射影行列Pnullは事前に設計可能であり、リアルタイムに推定する必要がないので、クラッタ抑圧手段7内のパルス間コヒーレント積分手段72の前段に、実装が比較的容易と考えられる射影処理手段71を追加するのみで実現することができる。
したがって、この発明の実施の形態1によれば、受信信号x(n)を非クラッタ部分空間に射影することにより、クラッタ抑圧を実現することができるので、クラッタ抑圧後でもヒット数Hが減少することのないレーダ装置を実現することができる。
また、射影行列Pnullの事前設計用のクラッタ抑圧行列計算手段6と、クラッタ抑圧後受信信号ベクトルxnull(n)を生成する射影処理手段71と、を追加することのみで比較的容易に実現することができる。
実施の形態2.
なお、上記実施の形態1(図1〜図3)では、固定クラッタを対象として、クラッタ抑圧行列計算手段6(図2)に、固定クラッタのドップラ帯域幅Bを設定値として与えたが、図4のように、クラッタ抑圧行列計算手段6Aに、クラッタ中心周波数推定値f’およびドップラ帯域幅推定値B’を与えてもよい。
図4はこの発明の実施の形態2によるクラッタ抑圧行列計算手段6Aの機能構成を示すブロック図であり、前述(図2参照)と同様のものについては、前述と同一符号を付して、または符号の後に「A」を付して詳述を省略する。
また、この発明の実施の形態2に係るレーダ装置の全体構成およびクラッタ抑圧手段7の機能構成については、それぞれ、図1および図3に示した通りである。ただし、クラッタ抑圧行列計算手段6Aへの入力情報のみが図1とは異なる。
以下、図1、図3および図4を参照しながら、この発明の実施の形態2について説明する。
この発明の実施の形態2においては、固定クラッタのみならず、ウェザークラッタ(Weather−Clutter)などに代表される移動クラッタを含むクラッタ(クラッタ中心周波数fが0Hzでない)を対象としており、ユーザ入力としてクラッタ中心周波数推定値f’およびドップラ帯域幅推定値B’が与えられた場合を示している。
図4において、クラッタ抑圧行列計算手段6Aは、CMT行列計算手段61Aと、固有値・固有ベクトル分解手段62Aと、クラッタランク設定手段63と、クラッタ固有ベクトル行列計算手段64と、射影行列計算手段65と、第1のクラッタ相関行列計算手段60aと、第2のクラッタ相関行列計算手段60bと、を備えている。
この場合、CMT行列計算手段61Aは、ヒット数Hとドップラ帯域幅推定値B’とに基づき、CMT行列Cを計算する。
第1のクラッタ相関行列計算手段60aは、ヒット数Hとクラッタ中心周波数推定値f’とを入力情報として、ドップラ帯域幅Bを考慮しない場合のクラッタ相関行列Rcc (Bc=0)を求める。
第2のクラッタ相関行列計算手段60bは、第1のクラッタ相関行列計算手段60aで算出されたクラッタ相関行列Rcc (Bc=0)(ドップラ帯域幅Bを考慮しない)と、CMT行列計算手段61Aで算出されたCMT行列Cとから、ドップラ帯域幅Bを考慮した場合のクラッタ相関行列Rcc (BW)を求める。
固有値・固有ベクトル分解手段62Aは、第2のクラッタ相関行列計算手段60bで算出されたクラッタ相関行列Rcc (BW)(ドップラ帯域幅Bを考慮した)を入力情報として、クラッタ相関行列Rcc (BW)に対して固有値・固有ベクトル分解処理を行い、降順に並べた固有値ξと、固有値ξのそれぞれに対応する固有ベクトルechとを計算する。
次に、図1および図3とともに、図4を参照しながら、この発明の実施の形態2による処理について、前述の実施の形態1と異なる部分に注目して説明する。
最初に、この発明の実施の形態2で想定する受信信号モデルについて説明する。
前述の実施の形態1の受信信号モデルでは、クラッタ中心周波数f=0としたが、この発明の実施の形態2の受信信号モデルでは、クラッタ中心周波数fは任意とする。
まず、クラッタ抑圧行列計算手段6A内の第1のクラッタ相関行列計算手段60aは、ヒット数Hおよびクラッタ中心周波数推定値f’を入力情報として、前述の式(23)を用いて、ドップラ帯域幅Bを考慮しない場合のクラッタ相関行列Rcc (Bc=0)を計算する。このとき、クラッタ電力は未知のままでよいので、式(23)において、p=1とすれば十分であることに注意する。
続いて、第2のクラッタ相関行列計算手段60bは、ドップラ帯域幅Bを考慮しない場合のクラッタ相関行列Rcc (Bc=0)と、CMT行列Cとから、前述の式(22)を用いて、ドップラ帯域幅Bを考慮したクラッタ相関行列Rcc (BW)を求める。
以降の処理は、実施の形態1と同様である。
以上のように、この発明の実施の形態2(図1、図3、図4)に係るレーダ装置において、クラッタ抑圧行列計算手段6Aに入力されるドップラ帯域幅は、クラッタのドップラ帯域幅推定値B’からなる。
クラッタ抑圧行列計算手段6Aは、ヒット数Hおよびドップラ帯域幅推定値B’に基づきCMT行列Cを計算するCMT行列計算手段61Aと、CMT行列Cおよびクラッタ中心周波数推定値f’を入力情報として、ドップラ帯域幅Bを考慮しない場合のクラッタ相関行列Rcc (Bc=0)(第1のクラッタ相関行列)を求める第1のクラッタ相関行列計算手段60aと、第1のクラッタ相関行列Rcc (Bc=0)およびCMT行列Cから、ドップラ帯域幅Bを考慮した場合のクラッタ相関行列Rcc (BW)(第2のクラッタ相関行列)を求める第2のクラッタ相関行列計算手段60bと、を備えている。
また、クラッタ抑圧行列計算手段6Aは、前述(図2)とほぼ共通する機能構成として、第2のクラッタ相関行列Rcc (BW)に対して固有値・固有ベクトル分解処理を行い、降順に並べた固有値ξと固有値のそれぞれに対応する固有ベクトルechとを計算する固有値・固有ベクトル分解手段と、固有値ξを入力情報として、クラッタランクDを設定するクラッタランク設定手段63と、固有値ξと固有ベクトルechとクラッタランクDとを入力情報として、固有値ξおよび固有ベクトルechから、クラッタランクD以下に対応するクラッタ固有値およびクラッタ固有ベクトルを選択し、選択したクラッタ固有ベクトルを列ベクトルとして並べたクラッタ固有ベクトル行列Eを求めるクラッタ固有ベクトル行列計算手段64と、クラッタ固有ベクトル行列Eから、非クラッタ部分空間への射影行列Pnullを求める射影行列計算手段65と、を備えている。
これにより、クラッタ環境下でパルス間コヒーレント積分処理を行うために、射影行列Pnullを用いて、ヒット数Hを減少させることなくクラッタ抑圧を行い、全ヒット数Hを用いたパルス間コヒーレント積分処理を行うことが可能となる。
また、クラッタ中心周波数推定値f’およびドップラ帯域幅推定値B’に基づく非クラッタ部分空間への射影行列Pnullを求めることができ、前述と同様に、クラッタ抑圧手段7(図3)において、パルス間コヒーレント積分手段72の前段に、実装が比較的容易と考えられる射影処理手段71を追加するのみで実現することができる。
実施の形態3.
なお、上記実施の形態2(図4)では、クラッタ抑圧行列計算手段6Aにおいて、第1および第2のクラッタ相関行列計算手段60a、60b、CMT行列計算手段61A、固有値・固有ベクトル分解手段62A、クラッタランク設定手段63を用いたが、図5のように、固定クラッタ固有ベクトル行列データベース66および固定クラッタ固有ベクトル行列選択手段67を用いてもよい。
図5はこの発明の実施の形態3によるクラッタ抑圧行列計算手段6Bの機能構成を示すブロック図であり、前述(図4参照)と同様のものについては、前述と同一符号を付して、または符号の後に「B」を付して詳述を省略する。
また、この発明の実施の形態3に係るレーダ装置の全体構成およびクラッタ抑圧手段7の機能構成については、それぞれ、図1および図3に示した通りである。ただし、クラッタ抑圧行列計算手段6Bへの入力情報のみが図1とは異なる。
以下、図1、図3および図5を参照しながら、この発明の実施の形態3について説明する。
この発明の実施の形態3においては、前述(図4)と同様に、固定クラッタと、クラッタ中心周波数fが0Hzでない移動クラッタ(ウェザークラッタなど)とを含むクラッタを対象とし、クラッタ中心周波数推定値f’およびドップラ帯域幅推定値B’が与えられた場合を示している。
図5において、クラッタ抑圧行列計算手段6Bは、固定クラッタ固有ベクトル行列データベース66と、固定クラッタ固有ベクトル行列選択手段67と、クラッタ固有ベクトル行列計算手段64Bと、射影行列計算手段65と、を備えている。
固定クラッタ固有ベクトル行列データベース66は、想定されるヒット数H’とドップラ帯域幅Bとの組合せに応じた固定クラッタの固定クラッタ固有ベクトル行列EDSを事前に計算し、算出された固定クラッタ固有ベクトル行列EDSのすべてを保持している。
固定クラッタ固有ベクトル行列選択手段67は、ヒット数Hと、クラッタのドップラ帯域幅推定値B’と、固定クラッタ固有ベクトル行列EDSとを入力情報として、ヒット数Hおよびドップラ帯域幅推定値B’に最も合致するクラッタ固有ベクトル行列EDS’を、固定クラッタ固有ベクトル行列データベース66から選択する。
クラッタ固有ベクトル行列計算手段64Bは、クラッタ中心周波数推定値f’と、選択されたクラッタ固有ベクトル行列EDS’とを入力情報として、クラッタ固有ベクトル行列EDS’の列ベクトルを構成するD個のクラッタ固有ベクトルに対し、クラッタ中心周波数推定値f’に基づく位相回転を与えることにより、ドップラ補正後クラッタ固有ベクトル行列E’を生成する。
射影行列計算手段65は、ドップラ補正後クラッタ固有ベクトル行列E’から射影行列Pnullを計算する。
次に、図1、図3および図5を参照しながら、この発明の実施の形態3による処理について、前述と異なる部分に注目して説明する。
最初に、この発明の実施の形態3で想定する受信信号モデルについて説明する。
前述の実施の形態1の受信信号モデルでは、クラッタ中心周波数f=0としたが、この発明の実施の形態3の受信信号モデルでは、クラッタ中心周波数fは任意とする。
まず、クラッタ抑圧行列計算手段6B内の固定クラッタ固有ベクトル行列選択手段67は、ヒット数Hおよびドップラ帯域幅推定値B’に最も合致するクラッタ固有ベクトル行列EDS’を、固定クラッタ固有ベクトル行列データベース66内の固定クラッタ固有ベクトル行列EDSから選択する。
続いて、クラッタ固有ベクトル行列計算手段64Bは、選択されたクラッタ固有ベクトル行列EDS’およびクラッタ中心周波数推定値f’を入力情報として、クラッタ固有ベクトル行列EDS’の列ベクトルを構成するD個のクラッタ固有ベクトルecdに対し、クラッタ中心周波数推定値f’に基づく位相回転を与えて、以下の式(42)のように、ドップラ補正後クラッタ固有ベクトルecd’を求める。
Figure 0005566261
また、クラッタ固有ベクトル行列計算手段64Bは、式(42)で求めたドップラ補正後クラッタ固有ベクトルecd’を列ベクトルとして並べることにより、ドップラ補正後クラッタ固有ベクトル行列E’を算出し、射影行列計算手段65に入力する。
以降の処理は、前述と同様である。
以上のように、この発明の実施の形態3(図1、図3、図5)に係るレーダ装置において、クラッタ抑圧行列計算手段6Bに入力されるドップラ帯域幅は、クラッタのドップラ帯域幅推定値B’からなる。
クラッタ抑圧行列計算手段6Bは、想定されるヒット数H’とドップラ帯域幅Bとの組合せに応じた固定クラッタの固定クラッタ固有ベクトル行列EDSを事前に計算して、計算された固定クラッタ固有ベクトル行列EDSをすべて保持した固定クラッタ固有ベクトル行列データベース66と、ヒット数Hとドップラ帯域幅推定値B’と固定クラッタ固有ベクトル行列EDSとを入力情報として、ヒット数Hおよびドップラ帯域幅推定値B’に最も合致するクラッタ固有ベクトル行列EDS’を、固定クラッタ固有ベクトル行列データベース66から選択する固定クラッタ固有ベクトル行列選択手段67と、を備えている。
また、クラッタ抑圧行列計算手段6Bは、前述(図2、図4)とほぼ共通する機能構成として、固定クラッタ固有ベクトル行列選択手段67により選択されたクラッタ固有ベクトル行列EDS’と、クラッタ中心周波数推定値f’とを入力情報として、クラッタ固有ベクトル行列EDS’の列ベクトルを構成するD個のクラッタ固有ベクトルecdに対し、クラッタ中心周波数推定値f’に基づく位相回転を与えたドップラ補正後クラッタ固有ベクトル行列E’を生成するクラッタ固有ベクトル行列計算手段64Bと、ドップラ補正後クラッタ固有ベクトル行列E’から、非クラッタ部分空間への射影行列を求める射影行列計算手段と、を備えている。
これにより、前述と同様に、クラッタ環境下でパルス間コヒーレント積分処理を行うために、射影行列Pnullを用いて、ヒット数Hを減少させることなくクラッタ抑圧を行い、全ヒット数Hを用いたパルス間コヒーレント積分処理を行うことが可能となる。
また、クラッタ中心周波数推定値f’およびドップラ帯域幅推定値B’に基づく非クラッタ部分空間への射影行列Pnullを求めることができ、前述と同様に、クラッタ抑圧手段7(図3)において、パルス間コヒーレント積分手段72の前段に、実装が比較的容易と考えられる射影処理手段71を追加するのみで実現することができる。
さらに、クラッタ抑圧行列計算手段6Bでの射影行列Pnullの計算において、事前に計算可能なクラッタ固有ベクトル行列EDS’を、固定クラッタ固有ベクトル行列データベース66を介してそのまま用いているので、前述の実施の形態2と比べて、演算処理負荷を軽減することができる。
実施の形態4.
なお、上記実施の形態3(図5)では、クラッタ抑圧行列計算手段6Bにおいて、クラッタ固有ベクトル行列計算手段64Bおよび射影行列計算手段65に加えて、固定クラッタ固有ベクトル行列データベース66および固定クラッタ固有ベクトル行列選択手段67を用いたが、図6のように、クラッタ抑圧行列計算手段6Cにおいて、固定クラッタ射影行列データベース68および射影行列選択手段69のみを用いてもよい。
図6はこの発明の実施の形態4によるクラッタ抑圧行列計算手段6Cの機能構成を示すブロック図であり、前述(図4、図5参照)と同様のものについては、前述と同一符号を付して、または符号の後に「C」を付して詳述を省略する。
また、図7はこの発明の実施の形態4によるクラッタ抑圧手段7Cの機能構成を示すブロック図であり、前述(図3参照)と同様のものについては、前述と同一符号を付して、または符号の後に「C」を付して詳述を省略する。
また、この発明の実施の形態4に係るレーダ装置の全体構成については、図1に示した通りである。ただし、クラッタ抑圧行列計算手段6Cおよびクラッタ抑圧手段7Cへの入力情報のみが図1とは異なる。
以下、図1、図6および図7を参照しながら、この発明の実施の形態4について説明する。
この発明の実施の形態4(図6、図7)においては、前述(図4、図5)と同様に、固定クラッタと、クラッタ中心周波数fが0Hzでない移動クラッタ(ウェザークラッタなど)とを含むクラッタを対象とし、クラッタ中心周波数推定値f’およびドップラ帯域幅推定値B’が与えられた場合を示している。
図6において、クラッタ抑圧行列計算手段6Cは、固定クラッタ射影行列データベース68と、射影行列選択手段69と、を備えている。
固定クラッタ射影行列データベース68は、想定されるヒット数H’とドップラ帯域幅Bとの組合せに応じた固定クラッタを抑圧するための射影行列Pnullsを事前に計算し、算出されたすべての射影行列Pnullsを保持している。
射影行列選択手段69は、ヒット数Hとクラッタのドップラ帯域幅推定値B’と射影行列Pnullsとを入力情報として、ヒット数Hおよびクラッタのドップラ帯域幅推定値B’に最も合致する射影行列Pnullを、固定クラッタ射影行列データベース68から選択してクラッタ抑圧手段7Cに入力する。
図7において、クラッタ抑圧手段7Cは、受信信号x(n)およびクラッタ中心周波数推定値f’に基づきパルス間コヒーレント積分値y(n)を生成する。
クラッタ抑圧手段7Cは、前述(図3)と同様の射影処理手段71Cおよびパルス間コヒーレント積分手段72Cに加えて、第1のドップラシフト処理手段73と、第2のドップラシフト処理手段74とを備えている。
第1のドップラシフト処理手段73は、クラッタ中心周波数推定値f’とAD変換器5からの受信信号x(n)とを入力情報として、受信信号ベクトルx(n)に対して、クラッタ中心周波数fが0Hzになるような位相回転を与えたドップラシフト後受信信号ベクトルxrot(n)を求める。
射影処理手段71Cは、ドップラシフト後受信信号ベクトルxrot(n)および射影行列Pnullを入力情報として、受信信号x(n)に含まれるクラッタを抑圧したクラッタ抑圧後受信信号ベクトルxnull(n)を生成する。
第2のドップラシフト処理手段74は、クラッタ中心周波数推定値f’とクラッタ抑圧後受信信号ベクトルxnull(n)とを入力情報として、第1のドップラシフト処理手段73とは逆の位相回転を与える逆ドップラシフト後受信信号ベクトルxderot(n)を求める。
パルス間コヒーレント積分手段72Cは、逆ドップラシフト後受信信号ベクトルxderot(n)のパルス間コヒーレント積分処理を行い、パルス間コヒーレント積分値y(n)を生成する。
次に、図1、図6および図7を参照しながら、この発明の実施の形態4による処理について、前述と異なる部分に注目して説明する。
最初に、この発明の実施の形態4で想定する受信信号モデルについて説明する。
前述の実施の形態1の受信信号モデルでは、クラッタ中心周波数f=0としたが、この発明の実施の形態4の受信信号モデルでは、クラッタ中心周波数fは任意とする。
まず、クラッタ抑圧行列計算手段6C(図6)において、射影行列選択手段69は、ヒット数Hとクラッタのドップラ帯域幅推定値B’に最も合致する射影行列Pnullを、固定クラッタ射影行列データベース68から選択する。
続いて、クラッタ抑圧手段7C(図7)において、第1のドップラシフト処理手段73は、クラッタ中心周波数推定値f’とAD変換器5からの受信信号x(n)とを入力情報として、クラッタ中心周波数fが0Hzになるような位相回転を与えるドップラシフト後受信信号ベクトルxrot(n)を、以下の式(43)のように求める。
rot(n)=a○x(n) ・・・(43)
射影処理手段71Cは、ドップラシフト後受信信号ベクトルxrot(n)に対し、射影行列選択手段69から入力される射影行列Pnull(n)を乗算して、クラッタ抑圧後受信信号ベクトルxnull(n)を、以下の式(44)のように計算する。
null(n)=Pnullrot(n) ・・・(44)
続いて、第2のドップラシフト処理手段74は、クラッタ中心周波数推定値f’とクラッタ抑圧後受信信号ベクトルxnull(n)とを入力情報として、第1のドップラシフト処理手段73とは逆の位相回転を与える逆ドップラシフト後受信信号ベクトルxderot(n)を、以下の式(45)のように求める。
derot(n)=a ○xnull(n) ・・・(45)
さらに、パルス間コヒーレント積分手段72Cは、逆ドップラシフト後受信信号ベクトルxderot(n)に対して、離散フーリエ変換などによるパルス間コヒーレント積分処理を行い、以下の式(46)のように、パルス間コヒーレント積分値y(n)を算出する。
y(n)=Aderot(n) ・・・(46)
以上のように、この発明の実施の形態4(図1、図6、図7)に係るレーダ装置において、クラッタ抑圧行列計算手段6C(図6)に入力されるドップラ帯域幅は、クラッタのドップラ帯域幅推定値B’からなり、クラッタ抑圧行列計算手段6Cは、想定されるヒット数H’とドップラ帯域幅Bとの組合せに応じた固定クラッタを抑圧するための固定クラッタ射影行列を事前に計算して、計算された固定クラッタ射影行列をすべて保持した固定クラッタ射影行列データベース68と、所定のヒット数Hとドップラ帯域幅推定値B’と固定クラッタ射影行列とを入力情報として、所定のヒット数Hおよびドップラ帯域幅推定値B’に最も合致する射影行列Pnullを、固定クラッタ射影行列データベース68から選択する射影行列選択手段69と、を備えている。
また、クラッタ抑圧手段7C(図7)は、クラッタ中心周波数推定値f’とAD変換器5からの受信信号x(n)とを入力情報として、受信信号ベクトルx(n)に対して、クラッタ中心周波数が0Hzになるような位相回転を与えたドップラシフト後受信信号ベクトルxrot(n)を求める第1のドップラシフト処理手段73と、ドップラシフト後受信信号ベクトルxrot(n)および射影行列Pnullを入力情報として、受信信号x(n)に含まれるクラッタを抑圧したクラッタ抑圧後受信信号ベクトルxnull(n)を生成する射影処理手段71Cと、クラッタ抑圧後受信信号ベクトルxnull(n)とクラッタ中心周波数推定値f’とを入力情報として、第1のドップラシフト処理手段とは逆の位相回転を与える逆ドップラシフト後受信信号ベクトルxderot(n)を求める第2のドップラシフト処理手段74と、逆ドップラシフト後受信信号ベクトルxderot(n)に対してパルス間コヒーレント積分処理を行い、パルス間コヒーレント積分値y(n)を生成するパルス間コヒーレント積分手段72Cとを備えている。
これにより、前述と同様に、クラッタ環境下でパルス間コヒーレント積分処理を行うために、射影行列Pnullを用いて、ヒット数Hを減少させることなくクラッタ抑圧を行い、全ヒット数Hを用いたパルス間コヒーレント積分処理を行うことが可能となる。
また、クラッタ中心周波数推定値f’およびドップラ帯域幅推定値B’に基づく非クラッタ部分空間への射影行列Pnullを求めることができ、前述と同様に、クラッタ抑圧手段7Cにおいて、パルス間コヒーレント積分手段72Cの前段に、実装が比較的容易と考えられる射影処理手段71Cを追加するのみで実現することができる。
さらに、受信信号ベクトルx(n)に位相回転を与えることにより、事前に計算可能な固定クラッタの射影行列Pnullを、固定クラッタ射影行列データベース68を介して、そのまま用いているので、前述の実施の形態3と比べて、演算処理負荷を軽減することができる。
実施の形態5.
なお、上記実施の形態1、2(図2、図4)では、クラッタランク設定手段63の具体的な処理機能について言及しなかったが、クラッタランク設定手段63の処理機能を図8のように構成してもよい。
図8はこの発明の実施の形態5によるクラッタランク設定手段63の機能構成を示すブロック図であり、前述(図2)と同様のものについては、前述と同一符号を付して詳述を省略する。
また、この発明の実施の形態5に係るレーダ装置の全体構成は、図1に示した通りである。
ここでは、所望のクラッタ減衰量CA(req)(ユーザ入力)に基づくクラッタランク設定処理について説明する。
図8において、クラッタランク設定手段63は、累積寄与率計算手段91と、最適クラッタランク推定手段92とを備えている。
累積寄与率計算手段91は、固有値・固有ベクトル分解手段62で求めたクラッタ相関行列の固有値ξを入力情報として、固有値ξの累積寄与率CP(h)を求める。
最適クラッタランク推定手段92は、累積寄与率CP(h)およびクラッタ減衰量CA(req)を入力情報として、クラッタ減衰量CA(req)を満たすために必要な最小クラッタランクを最適クラッタランク推定値として計算し、最適クラッタランク推定値をクラッタランクDとしてクラッタ固有ベクトル行列計算手段64に入力する。
次に、図8に示したこの発明の実施の形態5によるクラッタランク設定手段63の具体的処理について説明する。
まず、累積寄与率計算手段91は、固有値・固有ベクトル分解手段62で求めたクラッタ相関行列Rcc (BW)の固有値ξを入力情報として、前述の式(29)を用いて、固有値ξの累積寄与率CP(h)を求める。
続いて、最適クラッタランク推定手段92は、累積寄与率CP(h)およびクラッタ減衰量CA(req)から、クラッタ減衰量CA(req)を満たすために必要な最小クラッタランクを、以下の式(47)のように、クラッタランクD(最適クラッタランク推定値)として求める。
D=argminCA(h)
subject to
CA(h)≧CA(req) ・・・(47)
ただし、式(47)において、累積寄与率CP(h)に対応するクラッタ減衰量CA(h)は、以下の式(48)のように表される。
Figure 0005566261
以上のように、この発明の実施の形態5(図8)に係るレーダ装置のクラッタランク設定手段63は、固有値・固有ベクトル分解手段62で求めたクラッタ相関行列Rcc (BW)の固有値ξを入力情報として、固有値ξの累積寄与率CP(h)を求める累積寄与率計算手段91と、累積寄与率CP(h)およびクラッタ減衰量CA(req)を入力情報として、クラッタ減衰量CA(req)を満たすために必要な最小クラッタランクをクラッタランクDとして算出する最適クラッタランク推定手段92と、を備えている。
これにより、クラッタ相関行列Rcc (BW)から所望のクラッタ減衰量CA(req)を満たすための最適な(必要最小限の)クラッタランクDを求めることができ、所望のクラッタ減衰量CA(req)を満足しながら、ヒット数Hを減少させることなくクラッタ抑圧を行い、全ヒット数Hを用いたパルス間コヒーレント積分処理を行うことができる。
1 送信機、2 デュプレクサ、3 アンテナ、4 受信機、5 AD変換器、6、6A、6B、6C クラッタ相関行列計算手段、7、7C クラッタ抑圧手段、8 目標検出手段、60a 第1のクラッタ相関行列計算手段、60b 第2のクラッタ相関行列計算手段、61、61A CMT行列計算手段、62、62A 固有値・固有ベクトル分解手段、63 クラッタランク設定手段、64、64B クラッタ固有ベクトル行列計算手段、65 射影行列計算手段、66 固定クラッタ固有ベクトル行列データベース、67 固定クラッタ固有ベクトル行列選択手段、68 固定クラッタ射影行列データベース、69 射影行列選択手段、71、71C 射影処理手段、72、72C パルス間コヒーレント積分手段、73 第1のドップラシフト処理手段、74 第2のドップラシフト処理手段、91 累積寄与率計算手段、92 最適クラッタランク推定手段、B ドップラ帯域幅、B’ ドップラ帯域幅推定値、CA(req) クラッタ減衰量、CP(h) 累積寄与率、D クラッタランク、ech 固有ベクトル クラッタ中心周波数、f’ クラッタ中心周波数推定値、H ヒット数、Pnull 射影行列、Rcc クラッタ相関行列、x(n) 受信信号ベクトル、x(n) 受信信号、y(n) パルス間コヒーレント積分値、ξ 固有値。

Claims (4)

  1. 所定の送信周波数信号を生成し、前記送信周波数信号を用いて所定の変調方式に基づく送信信号を生成する送信機と、
    前記送信信号を所定のビーム指向方向に向けて空中に送信するとともに、目標およびクラッタからの反射波を受信するアンテナと、
    前記アンテナで受信した反射波信号をベースバンド帯に周波数変換してアナログ受信信号を生成する受信機と、
    前記送信機からの送信信号を前記アンテナに入力するとともに、前記アンテナからの反射波信号を前記受信機に入力するデュプレクサと、
    前記受信機からのアナログ受信信号をディジタル化した受信信号に変換するAD変換器と、
    所定のヒット数Hおよび所定のドップラ帯域幅Bを入力し、前記AD変換器からの第hヒットの受信信号x(n)から構成される下式(1)で表される第nスナップショットの受信信号ベクトルx(n)とパルス間コヒーレント積分値y(n)との関係を下式(2)のように規定する射影行列Pnullを、前記ヒット数Hおよび前記ドップラ帯域幅Bを用いて予め計算しておくクラッタ抑圧行列計算手段と、
    x(n)=[x(n) x(n) ・・・ x(n)] ・・・(1)
    y(n)=Anullx(n) ・・・(2)
    ただし、ここで、ドップラ解析行列Aは下式(3)で表され、下式(3)のドップラ解析ベクトルa (h)は下式(4)で表され、下式(4)のドップラ解析周波数f (h)は下式(5)で表され、1≦h≦Hであり、PRIは前記受信信号x(n)のパルス繰返し周期であり、
    Figure 0005566261
    前記受信信号x(n)と前記射影行列Pnullとを入力し、前記受信信号x(n)から受信信号ベクトルx(n)を上式(1)に従って生成するとともに、前記射影行列Pnullを用いて、前記受信信号ベクトルx(n)から前記パルス間コヒーレント積分値y(n)を上式(2)に従って計算するクラッタ抑圧手段と、
    前記クラッタ抑圧手段からの前記パルス間コヒーレント積分値を入力情報として、所定の目標検出処理を行う目標検出手段と、
    を備え、
    前記クラッタ抑圧行列計算手段は、
    前記ヒット数Hおよび前記ドップラ帯域幅Bを入力し、クラッタ中心周波数f=0の場合のCMT行列Cを下式(6)および下式(7)に従って計算するCMT行列計算手段と、
    Figure 0005566261
    ただし、ここで、PRIは、前記受信信号x(n)のパルス繰返し周期であり、
    前記CMT行列Cを入力し、前記CMT行列Cに対して固有値・固有ベクトル分解処理を行い、降順に並べた固有値ξと、前記固有値ξのそれぞれに対応する固有ベクトルechとを計算する固有値・固有ベクトル分解手段と、
    前記固有値ξを入力し、前記固有値ξからクラッタランクDを設定するクラッタランク設定手段と、
    前記固有値ξと前記固有ベクトルechと前記クラッタランクDとを入力し、前記クラッタランクD個の前記固有値ξ(d=1、2、・・・、D)に対応する前記固有ベクトルecdを列ベクトルとするクラッタ固有ベクトル行列Eを計算するクラッタ固有ベクトル行列計算手段と、
    前記クラッタ固有ベクトル行列Eを入力し、前記クラッタ固有ベクトル行列Eから、前記射影行列Pnullを下式(8)に従って計算する射影行列計算手段と、
    null=I−E ・・・(8)
    を備え、
    前記クラッタランク設定手段は、
    前記固有値ξを入力し、前記固有値ξの累積寄与率CP(h)を下式(9)に従って求める累積寄与率計算手段と、
    Figure 0005566261
    前記累積寄与率CP(h)を入力し、所定のクラッタ減衰量CA(req)を満たすために必要な最小クラッタランクDを、下式(10)のように、前記クラッタランクDとして求める最適クラッタランク推定手段と、
    D=argminCA(h)
    subject to
    CA(h)≧CA(req) ・・・(10)
    を備え、
    ただし、ここで、前記累積寄与率CP(h)に対応するクラッタ減衰量CA(h)は、下式(11)で表され
    Figure 0005566261
    たことを特徴とするレーダ装置。
  2. 前記クラッタ抑圧手段は、
    前記受信信号x(n)と前記射影行列Pnullとを入力し、前記受信信号x(n)から前記受信信号ベクトルx(n)を上式(1)に従って生成するとともに、前記射影行列Pnullを用いて、前記受信信号ベクトルx(n)からクラッタ抑圧後受信信号ベクトルxnull(n)を下式(12)に従って計算する射影処理手段と、
    null(n)=Pnullx(n) ・・・(12)
    前記クラッタ抑圧後受信信号ベクトルxnull(n)を入力し、前記パルス間コヒーレント積分値y(n)を下式(13)に従って計算するパルス間コヒーレント積分手段と、
    y(n)=Anull(n) ・・・(13)
    を備え、
    ただし、ここで、ドップラ解析行列Aは上式(3)で表され、上式(3)のドップラ解析ベクトルa (h)は上式(4)で表され、上式(4)のドップラ解析周波数f (h)は上式(5)で表され、PRIは前記受信信号x(n)のパルス繰返し周期である
    ことを特徴とする請求項1に記載のレーダ装置。
  3. 前記クラッタ抑圧行列計算手段は、所定のドップラ帯域幅推定値B’を前記ドップラ帯域幅Bとして入力するとともに、所定のクラッタ中心周波数推定値f’を更に入力し、
    前記ヒット数Hを入力するともに、前記クラッタ中心周波数推定値f’を前記クラッタ中心周波数fとして入力し、ドップラ帯域幅B=0の場合のクラッタ相関行列Rcc (Bc=0)を下式(14)に従って計算する第1のクラッタ相関行列計算手段と、
    Figure 0005566261
    ただし、ここで、p=1であり、aは前記クラッタ中心周波数fに関するクラッタステアリングベクトルであり、下式(15)で表され、PRIは、前記受信信号x(n)のパルス繰返し周期であり、
    Figure 0005566261
    前記CMT行列Cと、前記ドップラ帯域幅B=0の場合のクラッタ相関行列Rcc (Bc=0)とを入力し、前記ドップラ帯域幅B=0の場合のクラッタ相関行列Rcc (Bc=0)から、クラッタ相関行列Rccを下式(16)に従って計算する第2のクラッタ相関行列計算手段とを更に有し、
    cc=C○Rcc (Bc=0)=p○(a ) ・・・(16)
    ただし、ここで、○はアダマール積を表し、
    前記固有値・固有ベクトル分解手段は、前記クラッタ相関行列Rccを前記CMT行列Cとして入力し、前記CMT行列Cに対して固有値・固有ベクトル分解処理を行い、降順に並べた固有値ξと、前記固有値ξのそれぞれに対応する固有ベクトルechとを計算する
    ことを特徴とする請求項1に記載のレーダ装置。
  4. 前記クラッタ抑圧手段は、
    所定のクラッタ中心周波数推定値f’を更に入力し、
    前記受信信号x(n)と前記クラッタ中心周波数推定値f’とを入力し、前記受信信号x(n)から前記受信信号ベクトルx(n)を上式(1)に従って生成するとともに、前記受信信号ベクトルx(n)に対して、クラッタ中心周波数が0Hzになるような位相回転を与えたドップラシフト後受信信号ベクトルxrot(n)を求める第1のドップラシフト処理手段と、
    前記クラッタ抑圧後受信信号ベクトルxnull(n)と前記クラッタ中心周波数推定値f’を入力し、前記クラッタ抑圧後受信信号ベクトルxnull(n)に対して、前記第1のドップラシフト処理手段とは逆の位相回転を与えて逆ドップラシフト後受信信号ベクトルxderot(n)を求める第2のドップラシフト処理手段と、
    を更に備え、
    前記射影処理手段は、前記第1のドップラシフト処理手段が求めた前記ドップラシフト後受信信号ベクトルxrot(n)を前記受信信号ベクトルx(n)として入力し、下式(19)に従って計算した前記クラッタ抑圧後受信信号ベクトルxnull(n)を前記第2のドップラシフト処理手段に出力し、
    null(n)=Pnullx(n) ・・・(19)
    前記パルス間コヒーレント積分手段は、前記第2のドップラシフト処理手段が求めた前記逆ドップラシフト後受信信号ベクトルxderot(n)を前記クラッタ抑圧後受信信号ベクトルxnull(n)として入力する
    ことを特徴とする請求項1に記載のレーダ装置。
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