JP6037213B2 - 表面改質されたR−Fe−B系焼結磁石の製造方法 - Google Patents

表面改質されたR−Fe−B系焼結磁石の製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、優れた耐食性を有するとともに、優れた表面接着性を有する表面改質されたR−Fe−B系焼結磁石の製造方法に関する。
R−Fe−B系焼結磁石は、資源的に豊富で安価な材料が用いられ、かつ、高い磁気特性を有していることから今日様々な分野で使用されているが、反応性の高い希土類元素:Rを含むため、大気中で酸化腐食されやすいという特質を有する。従って、R−Fe−B系焼結磁石は、通常、その表面に金属被膜や樹脂被膜などの耐食性被膜を形成して実用に供される。
近年、R−Fe−B系焼結磁石に対して耐食性を付与する方法として、酸化性雰囲気下での熱処理(酸化熱処理)を磁石に対して行うことによって磁石の表面を改質する方法が注目されている。例えば、特許文献1や特許文献2には、酸素を利用して酸化性雰囲気を形成して熱処理する方法が記載され、特許文献3〜特許文献7には、水蒸気を単独で利用して、或いは、水蒸気に酸素を組み合わせて酸化性雰囲気を形成して熱処理する方法が記載されている。しかしながら、これらの方法で磁石に対して表面改質を行っても、温度や湿度の管理がされていない輸送環境や保管環境などのような、温度や湿度が変動することで磁石の表面に微細な結露を繰り返し生じさせてしまう環境では必ずしも十分な耐食性が得られないこと、特許文献3〜特許文献7においては、水蒸気分圧は10hPa(1000Pa)以上が好適とされているが、このような水蒸気分圧が高い雰囲気下で熱処理を行うと、磁石の表面で起こる酸化反応によって水素が副産物として大量に生成し、磁石が生成した水素を吸蔵して脆化することで磁気特性が低下してしまうことが本発明者らの検討によって明らかになった。そこで本発明者らは、R−Fe−B系焼結磁石に対するより優れた表面改質方法として、酸素分圧と、特許文献3〜特許文献7において不適とされている10hPa未満の水蒸気分圧を適切に制御した酸化性雰囲気下での熱処理方法、具体的には、酸素分圧が1×10Pa〜1×10Paで水蒸気分圧が0.1Pa〜1000Pa(但し1000Paを除く)の雰囲気下、200℃〜600℃で熱処理を行う方法を特許文献8において提案した。
特許第2844269号公報 特開2002−57052号公報 特開2006−156853号公報 特開2006−210864号公報 特開2007−103523号公報 特開2007−207936号公報 特開2008−244126号公報 国際公開第2009/041639号
ところで、R−Fe−B系焼結磁石がSPMモータなどのモータに使用される場合、R−Fe−B系焼結磁石はロータなどの部材に接着剤で接着される。特にSPMモータにおいては、磁石はロータの外周に接着され、樹脂埋めされることも少ないため、R−Fe−B系焼結磁石の表面には良好な接着性が求められる。しかしながら、本発明者らが特許文献8において提案したR−Fe−B系焼結磁石に対する表面改質方法によれば、期待通りの耐食性向上効果が得られる一方で、磁石表面の接着性が表面改質前に比べてわずかではあるが劣化することがわかった。そこで本発明は、優れた耐食性を有するとともに、優れた表面接着性を有する、表面改質されたR−Fe−B系焼結磁石の製造方法を提供することを目的とする。
発明者らが、特許文献8の表面改質方法によって表面改質された磁石に対する接着強度試験において、接着強度が低かった磁石の表面を調査したところ、多くが接着剤の凝集破壊であったが、一部磁石素材自体の破壊が観察された。このことから、接着性劣化の原因のひとつに、表面改質のための熱処理によって表面改質層が比較的脆くなっていることがあるのではないかと考え、この現象の解消を図るべくさらに検討を重ねた結果、陽圧環境下で熱処理を行い、さらにその後の磁石の降温を急速に行うことが、この現象の解消に有効であることを見出した。
上記の知見に基づいて完成された本発明の表面改質されたR−Fe−B系焼結磁石の製造方法は、請求項1記載の通り、酸素分圧が1×10Pa〜1×10Paで水蒸気分圧が1000Pa未満であり、かつ、酸素分圧と水蒸気分圧の比率(酸素分圧/水蒸気分圧)が1〜20000(但し1を除く)の雰囲気を、処理室内の容積1mあたりの雰囲気ガスの導入を酸素流量として0.028m/分以上、かつ、全体流量として3m/分以下の条件で行うことで処理室内が陽圧状態になるようにして形成し、R−Fe−B系焼結磁石に対し前記処理室内で260℃〜450℃で熱処理を行う工程を含み、熱処理を行った温度からの磁石の降温を、少なくとも100℃に至るまで650℃/時間以上の平均冷却速度で行うことを特徴とする。
また、請求項2記載の製造方法は、請求項1記載の製造方法において、平均冷却速度を2000℃/時間以下とすることを特徴とする。
また、本発明の表面改質されたR−Fe−B系焼結磁石は、請求項3記載の通り、請求項1または2記載の製造方法によって製造されてなる表面改質されたR−Fe−B系焼結磁石であって、表面改質された部分が、磁石の内側から順に、α‐Feおよび非晶質のR酸化物を構成成分として含む主層、少なくともR、Feおよび酸素を含む非晶質層、ヘマタイトを主体とする酸化鉄を構成成分として含む最表層の少なくとも3層を有する表面改質層からなることを特徴とする。
本発明によれば、優れた耐食性を有するとともに、優れた表面接着性を有する表面改質されたR−Fe−B系焼結磁石の製造方法を提供することができる。
本発明の表面改質されたR−Fe−B系焼結磁石の製造方法に好適に採用することができる連続処理炉の一例の概略図(側面図)である。 本発明の実施例における表面改質されたR−Fe−B系焼結磁石の表面改質層のX線光電子分析結果を示すチャートである。 本発明の実施例における表面改質されたR−Fe−B系焼結磁石の表面改質層の透過型電子顕微鏡による低倍明視野像の写真である。 本発明の実施例における表面改質されたR−Fe−B系焼結磁石の表面改質層の透過型電子顕微鏡による高分解能格子像の写真である。 本発明の実施例における表面改質されたR−Fe−B系焼結磁石の表面改質層の透過型電子顕微鏡による電子線回折パターンの写真である。 本発明の実施例において接着強度を測定する方法を説明する図である。
本発明の表面改質されたR−Fe−B系焼結磁石の製造方法は、酸素分圧が1×10Pa〜1×10Paで水蒸気分圧が1000Pa未満であり、かつ、酸素分圧と水蒸気分圧の比率(酸素分圧/水蒸気分圧)が1〜20000(但し1を除く)の雰囲気を、処理室内の容積1mあたりの雰囲気ガスの導入を酸素流量として0.028m/分以上、かつ、全体流量として3m/分以下の条件で行うことで処理室内が陽圧状態になるようにして形成し、R−Fe−B系焼結磁石に対し前記処理室内で260℃〜450℃で熱処理を行う工程を含み、熱処理を行った温度からの磁石の降温を、少なくとも100℃に至るまで650℃/時間以上の平均冷却速度で行うことを特徴とするものである。所定の酸化性雰囲気を処理室内が陽圧状態となるように所定の条件で雰囲気ガスを導入することで形成し、かつ、熱処理後の冷却速度を適正に制御することで、磁石表面の接着性の劣化を引き起こすことなく、R−Fe−B系焼結磁石に対して所望する表面改質を行うことができる。
上記のようにして表面改質を行ったR−Fe−B系焼結磁石の表面改質層は、磁石の内側から順に、α‐Feおよび非晶質のR酸化物を構成成分として含む主層、少なくともR、Fe、および酸素を含む非晶質層、ヘマタイト(α−Fe)を主体とする酸化鉄を構成成分として含む最表層の少なくとも3層を有している。表面改質層のうち、主層の厚みは例えば0.4μm〜9.9μmであり、非晶質層の厚みは例えば100nm以下であり、最表層の厚みは例えば10nm〜300nmであって(表面改質層全体の厚みは例えば0.5μm〜10μm)、主層の厚みが表面改質層全体のおよそ80%〜99%であることから、このα‐Feおよび非晶質のR酸化物を構成成分として含む主層の構造が、本発明のR−Fe−B系焼結磁石の優れた接着性に寄与していると考えられる。なお、特許文献7や特許文献8にも表面改質層の具体的な構造が記載されている。特許文献7の表面改質層は、少なくともR、Fe及び酸素を含む第1の層と、少なくともRおよび酸素を含む非晶質の第2の層と、少なくともFe及び酸素を含む第3の層を有しており、より具体的には、第1の層はRの酸化物及びFeの酸化物を含み、その実施例で第1の層は全体が結晶質であることが確認されており、第1の層、すなわち、主層の構造が本発明の表面改質層と異なる。また、特許文献8の表面改質層は、R、Fe、Bおよび酸素を含む主層、少なくともR、Fe、および酸素を含む非晶質層、ヘマタイト(α−Fe)を主体とする酸化鉄を構成成分として含む最表層の少なくとも3層を有していると記載されているが、主層の具体的な構造は記載されていない。
熱処理を行う工程における酸素分圧を1×10Pa〜1×10Paと規定するのは、酸素分圧が1×10Paよりも小さいと、雰囲気中の酸素量が少なすぎることで、磁石の表面改質に時間がかかりすぎたり、磁石を保持部材上に配置して熱処理を行う場合、磁石のその保持部材と接する部分の表面改質が十分に行われないことにより、当該部分に十分な耐食性や安定性が付与されなかったり、当該部分に保持部材との接点跡が残ってしまったりする恐れがあるからである。一方、酸素分圧を1×10Paより大きくしても、酸素分圧を大きくすることによる磁石の表面改質効果の向上はさほど認められず、コストアップを招来するだけになってしまう恐れがある。磁石の表面に対して所望する改質をより効果的かつ低コストに行うためには、酸素分圧は1×10Pa〜5×10Paが望ましく、1×10Pa〜3×10Paがより望ましい。
水蒸気分圧を1000Pa未満と規定するのは、水蒸気分圧が1000Pa以上であると、雰囲気中の水蒸気量が多すぎることで、磁石の表面を優れた耐食性を発揮する安定なものに改質することができなかったり、磁石の表面で起こる酸化反応によって水素が副産物として大量に生成し、磁石が生成した水素を吸蔵して磁石の表面部分が脆化し、接着性が悪化する恐れがあるからである。磁石の表面に対して所望する改質をより効果的かつ低コストに行うためには、水蒸気分圧は700Pa以下が望ましく、45Pa以下がより望ましい。なお、水蒸気分圧の下限は特段制限されるものではないが、通常、1Paが望ましい。
酸素分圧と水蒸気分圧の比率を1〜20000(但し1を除く)と規定するのは、当該比率が1以下であると、雰囲気中の酸素量に対する水蒸気量が多すぎることで、磁石の表面を優れた耐食性を発揮する安定なものに改質することができない恐れがあるからである。一方、当該比率が20000よりも大きい雰囲気は特殊環境といえ、実用的でないからである。磁石の表面に対して所望する改質をより効果的かつ低コストに行うためには、当該比率は10〜10000が望ましく、300〜5000がより望ましく、450〜4000がさらに望ましい。
処理室内の雰囲気は、雰囲気ガスとして、酸素や水蒸気を所定の分圧となるように個別に導入することによって形成してもよいし、これらが所定の分圧で含まれる露点を有する大気を導入することによって形成してもよいが、いずれの場合であっても、本発明においては、処理室内の雰囲気は、処理室内の容積1mあたりの雰囲気ガスの導入を酸素流量として0.028m/分以上、かつ、全体流量として3m/分以下の条件で行うことで処理室内が陽圧状態になるようにして形成する(雰囲気ガスとして酸素や水蒸気が所定の分圧で含まれる露点を有する大気を用いる場合には大気流量を全体流量として制御すれば酸素流量は自ずと制御される)。処理室内が陽圧であることは、別途処理室内に前記全体同じ流量の不活性ガスを導入して酸素濃度がゼロまたは測定下限値以下である、すなわち、外気が処理室内に侵入していないことによって確認できる。このようにして処理室内の雰囲気形成を行うことで、磁石の表面に接着性に優れた表面改質層を形成することができる。処理室内に導入する酸素流量が少なすぎると所望の接着性向上効果が得られない。磁石の表面改質に時間がかかりすぎてα‐Feおよび非晶質のR酸化物を構成成分として含む主層の構造を得ることができず、主層全体が比較的脆い酸化物となってしまうことや、結果的に取り込まれる酸素の割合が多くなることで、内部応力が高まって脆くなってしまうことが原因であると考えられる。一方、全体流量が多すぎると処理室内の温度分布にばらつきが生じてしまうことで処理室内の全ての磁石に均一な表面改質を行うことができない恐れがある。なお、処理室内には、窒素ガスやアルゴンガスなどの不活性ガスを共存させてもよい。
熱処理の温度を260℃〜450℃と規定するのは、260℃よりも低いと、磁石の表面に対して所望する改質を行い難くなる恐れがある一方、熱処理温度が450℃よりも高いと、磁石の磁気特性に悪影響を及ぼす恐れがあるからである。熱処理の温度は280℃〜430℃が望ましく、300℃〜420℃がより望ましい。熱処理の時間は1分間〜3時間が望ましく、15分間〜2.5時間がより望ましい。時間が短すぎると、磁石の表面に対して所望する改質を行い難くなる恐れがある一方、時間が長すぎると、磁石の磁気特性に悪影響を及ぼす恐れがある。
なお、磁石を常温から熱処理を行う温度まで昇温する工程は、酸素分圧が1×10Pa〜1×10Paで水蒸気分圧が1Pa〜100Paの雰囲気下で行うことが望ましい。このような雰囲気下で昇温することにより、磁石の表面に少なからず自然吸着している水分を早期に脱離させることで、磁石の表面に存在する水分が昇温の際に磁石に対して悪影響を与えることを極力回避することができる。平均昇温速度は、例えば100℃/時間〜2000℃/時間とすればよい。なお、本発明において「常温」とは、表面改質が行われるR−Fe−B系焼結磁石が昇温を開始する時点で置かれている環境の温度(例えば室温)を指し、例示的には、日本工業規格のJIS Z 8703において5℃〜35℃と規定されている温度を意味する。
熱処理を行った後の磁石を降温する工程(以下、降温工程)は、熱処理温度から少なくとも100℃に至るまで650℃/時間以上の平均冷却速度で行う。本発明者らの検討によれば、上述した条件での熱処理を行うことで表面改質されたR−Fe−B系焼結磁石の接着性向上効果は、熱処理後の降温工程における冷却速度にも依存するようであり、冷却速度が遅いと所望の接着性向上効果が得られない。これは、冷却に時間がかかることにより、上述した条件での熱処理で形成されたα‐Feおよび非晶質のR酸化物を構成成分として含む主層の構造が維持できず、表面改質に時間がかかりすぎた場合と同様、全体が比較的脆い酸化物となってしまうためではないかと推定している。平均冷却速度の上限は特段制限されるものではないが、簡易な方法で低コストに降温を行うためには、2000℃/時間とすることが望ましい。磁石の温度が100℃に達した後のさらなる降温の際は、上記の平均冷却速度を維持してもよいし、維持しなくてもよい。なお、降温工程は、昇温工程において採用する雰囲気と同じ雰囲気を採用して行うことが、工程中に磁石の表面が結露することで磁石が腐食して磁気特性が低下するといった現象を防ぐことができる点において望ましい。
熱処理を行った後の磁石を上記の平均冷却速度で降温するための具体的手段は特段限定されるものではない。例えば、昇温工程、熱処理工程、降温工程を、内部に雰囲気ガスを流通させることでその雰囲気の制御が可能なSUS,Ti,Mo,Nbなどの材質からなる耐熱性容器に磁石を収容し、磁石を収容した耐熱性容器をバッチ式の熱処理炉の処理室に収容して耐熱性容器の内部の雰囲気を制御しながら行う場合、磁石の降温工程で用いる雰囲気ガスの流量を増加したり温度を下げたりすることにより、所望する平均冷却速度で磁石を降温することができる。所望する平均冷却速度での磁石の降温は、磁石を収容した耐熱性容器を収容した処理室内を大気開放する方法、耐熱性容器に収容する磁石の個数を減らす方法、磁石を収容した耐熱性容器を熱処理炉から取り出して別途に冷却する方法などによっても行うことができる。
また、昇温工程、熱処理工程、降温工程を、磁石が収容された処理室内の環境を順次それぞれの工程を行うための環境に変化させることができるバッチ式の熱処理炉を用いて行う場合、磁石の降温工程に用いる雰囲気ガスの流量を増加したりその温度を下げたりすることにより、所望する平均冷却速度で磁石を降温することができる。
また、昇温工程、熱処理工程、降温工程を、内部がそれぞれの工程を行うための環境に制御された領域に分割され、各領域に磁石を順次移動させることができる連続処理炉(例えば図1に示すようなもの)を用いて行う場合、所望する平均冷却速度での磁石の降温は、降温領域における磁石の降温環境を適切に制御することによって行うことができる。例えば図1に示す連続処理炉においては、ベルトコンベアなどの移動手段によって磁石を図の左から右に移動させながら各処理を施す。矢印は図略の給気手段と排気手段によって形成される各領域における雰囲気ガスの流れである。昇温領域の入口および降温領域の出口は、例えばエアカーテンで区画され、昇温領域と熱処理領域の境界および熱処理領域と降温領域の境界は、例えば矢印の雰囲気ガスの流れにより区画される(これらの区画は機械的にシャッターで行われてもよい)。このような連続処理炉を用いれば、大量の磁石に対して安定した品質の表面改質を連続的に行うことができ、所望する平均冷却速度での磁石の降温は、降温領域において用いる雰囲気ガスの流量を増加して温度を下げたりする方法や、移動手段の移動速度を調整する方法によって行うことができる。
上記の工程によってR−Fe−B系焼結磁石の表面に形成される改質層は、厚みが1μm以下(ナノメートルオーダー)の非常に薄いものであっても十分な耐食性を発揮する。
本発明が適用されるR−Fe−B系焼結磁石としては、例えば、下記の製造方法によって製造されたものが挙げられる。
25質量%〜40質量%の希土類元素Rと、0.6質量%〜1.6質量%のB(硼素)と、残部Feおよび不可避不純物とを包含する合金を用意する。ここで、Rは重希土類元素RHを含んでいてもよい。また、Bの一部はC(炭素)によって置換されていてもよいし、Feの一部(50質量%以下)は、他の遷移金属元素(例えば、CoまたはNi)によって置換されていてもよい。この合金は、種々の目的により、Al、Si、Ti、V、Cr、Mn、Ni、Cu、Zn、Ga、Zr、Nb、Mo、Ag、In、Sn、Hf、Ta、W、Pb、およびBiからなる群から選択された少なくとも1種の添加元素Mを0.01質量%〜1.0質量%程度含有していてもよい。
上記の合金は、原料合金の溶湯を例えばストリップキャスト法によって急冷して好適に作製され得る。以下、ストリップキャスト法による急冷凝固合金鋳片の作製を説明する。
まず、上記組成を有する原料合金をアルゴン雰囲気中において高周波溶解によって溶解し、原料合金の溶湯を形成する。次に、この溶湯を1350℃程度に保持した後、単ロール法によって急冷し、例えば厚さ約0.3mmのフレーク状合金鋳片を得る。こうして作製した合金鋳片を、次の水素粉砕処理前に例えば1mm〜10mmのフレーク状に粉砕する。なお、ストリップキャスト法による合金鋳片の製造方法は、例えば、米国特許第5、383、978号明細書に開示されている。
[粗粉砕工程]
上記のフレーク状に粗く粉砕された合金鋳片を水素炉の内部へ収容する。次に、水素炉の内部で水素脆化処理(以下、「水素粉砕処理」や単に「水素処理」と称する場合がある)工程を行う。水素粉砕処理後の粗粉砕粉を水素炉から取り出す際、粗粉砕粉が大気と接触しないように、不活性雰囲気下で取り出し動作を実行することが好ましい。そうすれば、粗粉砕粉が酸化・発熱することが防止され、磁石の磁気特性の低下が抑制できるからである。
水素粉砕処理によって、希土類合金は0.1mm〜数mm程度の大きさに粉砕され、その平均粒径は500μm以下となる。水素粉砕処理後、脆化した原料合金をより細かく解砕することが好ましい。
[微粉砕工程]
次に、粗粉砕粉に対してジェットミル粉砕装置を用いて不活性ガス雰囲気下で微粉砕を実行する。本実施形態で使用するジェットミル粉砕装置にはサイクロン分級機が接続されている。ジェットミル粉砕装置は、粗粉砕工程で粗く粉砕された希土類合金(粗粉砕粉)の供給を受け、粉砕機内で粉砕する。粉砕機内で粉砕された粉末はサイクロン分級機を経て回収タンクに集められる。こうして、0.1μm〜20μm程度の微粉末を得ることができる。このような微粉砕に用いる粉砕装置は、ジェットミルに限定されず、アトライタやボールミルであってもよい。粉砕に際して、ステアリン酸亜鉛などの潤滑剤を粉砕助剤として用いてもよい。
[プレス成形]
本実施形態では、上記方法で作製された微粉末に対し、例えばロッキングミキサー内で潤滑剤を例えば0.3質量%添加・混合し、潤滑剤で微粉砕粉末粒子の表面を被覆する。次に、上述の方法で作製した微粉砕粉末を公知のプレス装置を用いて配向磁界中で成形する。印加する磁界の強度は、例えば1.0T〜1.7Tである。また、成形圧力は、成形体のグリーン密度が例えば4g/cm〜4.5g/cm程度になるように設定される。
[焼結工程]
上記の粉末成形体に対して、例えば、1000℃〜1200℃の範囲内の温度で10分間〜240分間行う。650℃〜1000℃の範囲内の温度で10分間〜240分間保持する工程と、その後、上記の保持温度よりも高い温度(例えば、1000℃〜1200℃)で焼結を更に進める工程とを順次行ってもよい。焼結時、特に温度が650℃〜1000℃の範囲内にあるとき、粒界相中のRリッチ相が融け始め、液相が形成される。その後、焼結が進行し、焼結体が形成される。焼結工程の後、時効処理(400℃〜700℃)や寸法調整のための研削を行ってもよい。
本発明の製造方法によって製造される表面改質されたR−Fe−B系焼結磁石は、優れた耐食性が酸化熱処理によって付与されているとともに、優れた表面接着性を有しているので、例えば、自動車用EPSモータなどのSPMモータとして使用されたり、ハイブリッド自動車や電気自動車の駆動モータとして使用されたり、空調機のコンプレッサーなどに組み込まれたりするIPMモータでの使用に適したものである。なお、本発明の製造方法によって製造される表面改質されたR−Fe−B系焼結磁石を用いてSPMモータを製造する場合、ロータ外周に磁石を接着剤で張り付け工程を経て行えばよい。もちろん、接着後に金属ワイヤー等を巻きつけることで補強してもよい。IPMモータを製造する場合、ロータの内部に磁石を埋め込む工程を経て行えばよい。
以下、本発明を実施例によってさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定して解釈されるものではない。
(磁石体試験片1の製造)
Nd:19.0、Pr:5.5、Dy:8.2、B:0.97、Co:0.9、Cu:0.1、Al:0.2、Ga:0.09、残部:Fe(単位はmass%)の組成を有する厚さ0.2mm〜0.3mmの合金鋳片をストリップキャスト法により作製した。
次に、この合金鋳片を容器に充填し、水素処理装置内に収容した。そして、水素処理装置内を圧力500kPaの水素ガスで満たすことにより、室温で合金鋳片に水素吸蔵させた後、放出させた。このような水素処理を行うことにより、合金鋳片を脆化し、大きさ約0.15mm〜0.2mmの粗粉砕粉末を作製した。
上記の水素処理により作製した粗粉砕粉末に対し粉砕助剤として0.04mass%のステアリン酸亜鉛を添加し混合した後、ジェットミル装置による粉砕工程を行うことにより、粉末粒径が約3μmの微粉末を作製した。
こうして作製した微粉末をプレス装置により成形し、粉末成形体を作製した。具体的には、印加磁界中で粉末粒子を磁界配向した状態で圧縮し、プレス成形を行った。その後、成形体をプレス装置から抜き出し、真空炉により1050℃で4時間の焼結工程を行い、焼結体ブロックを得た。
得られた焼結体ブロックを真空中にて490℃で2.5時間の時効処理を行った後、その表面に対し研削加工を行って寸法調整し、厚さ4mm×縦15mm×横18mmの焼結磁石(以下「磁石体試験片1」と称する)を得た。
(磁石体試験片2の製造)
Nd:16.2、Pr:4.5、Dy:9.1、B:0.93、Co:2.0、Cu:0.1、Al:0.15、Ga:0.07、残部:Fe(単位は質量%)の組成を有する厚さ0.2mm〜0.3mmの合金鋳片をストリップキャスト法により作製し、磁石体試験片1の製造と同様にして焼結体ブロックを得た。得られた焼結体ブロックから磁石体試験片1の製造と同様にして厚さ4mm×縦15mm×横18mmのR−Fe−B系焼結磁石(以下「磁石体試験片2」と称する)を得た。
(実施例1)
磁石体試験片1を超音波水洗した後、図1に示した構成を有する連続処理炉を用いて表面改質を行った。なお、焼結磁石の温度の測定は、熱電対を装着した温度測定用磁石の温度をモニタリングすることにより行った。
(1)昇温工程
常温(25℃。以下同じ)から熱処理を行う温度(400℃)までの昇温を、露点−40℃の大気(酸素分圧20000Pa,水蒸気分圧19Pa,酸素分圧/水蒸気分圧=1052)の雰囲気下、500℃/時間の平均昇温速度で行った。
(2)熱処理工程
露点0℃の大気(酸素分圧20000Pa,水蒸気分圧600Pa,酸素分圧/水蒸気分圧=33.3)の雰囲気下、400℃で20分間行った。熱処理領域(本発明における処理室に相当:容積0.64m)内の雰囲気形成は、0.120m/分の流量で露点0℃の大気を熱処理領域内に導入することで熱処理領域内が陽圧状態になるようにして行った(容積1mあたりの酸素流量は0.037m/分で全体流量は0.188m/分。酸素流量は全体流量である大気流量の1/5として換算。大気流量は面積式流量計で制御。熱処理は雰囲気ガス導入開始から30分以上経過後開始。以下同じ)。陽圧状態の確認は、別途熱処理領域内に上記全体流量と同じ流量の不活性ガスを導入し、導入開始から30分後、酸素濃度が測定下限値以下であることを確認することによって、それぞれ処理室内が陽圧であることを確認した。
(3)降温工程
昇温工程において採用した雰囲気と同じ雰囲気下、400℃から100℃までの降温を690℃/時間の平均冷却速度で行った。なお、平均冷却速度の調整は、降温に用いる雰囲気ガスの流量を調整することにより行った。
以上の方法で焼結磁石の表面に形成された改質層の厚みは1.5μmであった。なお、改質層の厚みは、表面改質された焼結磁石を樹脂埋め研磨後、イオンビーム断面加工装置(SM09010:日本電子社製)を用いて試料作製し、電界放出型走査電子顕微鏡(S−4300:日立ハイテクノロジー社製)を用いて断面観察を行うことによって測定した
(以下同じ)。
以上の方法で表面改質された焼結磁石について、その表面付近の断面観察を透過型電子顕微鏡(TEM:HF2100:日立ハイテクノロジー社製)エネルギー分散型X線分析装置(EDX:NORAN社製)および走査型電子顕微鏡(FE−SEM:S−4300:日立ハイテクノロジー社製)を用いて行った結果、磁石表面から順に、厚みが約1.4μmの主層、厚みが約50nmのRとFeと酸素を含む非晶質層(Fe−R酸化物および/またはFe酸化物とR酸化物を含む非晶質層)、厚みが約150nmの実質的にRを含まないFe酸化物層の3層構造を有することがわかった。また、磁石表面付近をX線光電子分析装置(ESCA‐850M:SHIMADZU社製)を用いて分析した結果を図2に示す。主層中のFeは金属状態であり、Rは酸化物であることがわかった。
主層の断面観察を透過型電子顕微鏡(JEM−3010:日本電子社製)を用いて行った結果を図3〜5に示す。図3は表面改質層全体の低倍明視野像、図4は図3における主層の矢印先端付近の高分解能格子像、また、図5は図3における主層の矢印先端付近φ100nm領域から得た電子線回折パターンである。図3の低倍明視野像から縞状に見えるNdFe14B型結晶相の上層に柱状の主層が生成していることがわかる。なお、図3の低倍明視野像では厚みが約50nmのRとFeと酸素を含む非晶質層は薄すぎて判別できない。また、中央部の白い部分は試料作成時にできた孔である。図3の主層における、矢印先端付近の高分解能観察結果が図4である。母材マトリックスの格子内に2〜5nm程度の非晶質相が分散していることがわかる(格子が崩れていることから非晶質であると判断でき、例えば図4の○囲み部分が非晶質相である)。また、図5の電子線回折パターンは母材マトリックスから得られており、回折パターンがα―Feに帰属出来る事から、母材マトリックスはα―Feである事が分かる。母材マトリックスの格子内に微細分散している非晶質相は微小な為、回折パターンのスポットとしては非常にわかりにくいが、X線光電子分析、及びエネルギー分散型X線分析結果を合わせて判断すると、前記非晶質相はR酸化物であると考えられる。すなわち、主層はα‐Feおよび非晶質のR酸化物を構成成分として含み、具体的には、α‐Fe内に非晶質のR酸化物が分散して存在している構造を有していることがわかった。
また、最表層付近をX線回折分析装置(RINT2400:Rigaku社製)を用いて調べた結果、厚みが約150nmの実質的にRを含まないFe酸化物層はヘマタイト(α−Fe)を主体とする層であることがわかった。
(実施例2)
熱処理工程を露点−40℃の大気(酸素分圧20000Pa,水蒸気分圧19Pa,酸素分圧/水蒸気分圧=1052)の雰囲気下で行ったこと以外は実施例1と同じ方法で焼結磁石の表面改質を行った。(陽圧状態の確認についても実施例1と同じ。)その結果、焼結磁石の表面に形成された改質層の厚みは1.3μmであった。
(実施例3)
処理室内の容積が0.0034mのバッチ式の熱処理炉を用い、処理室内の雰囲気形成を0.0041m/分の流量で露点0℃の大気を処理室内に導入することで、処理室内が陽圧状態になるようにして行ったことと(容積1mあたりの酸素流量は0.238m/分で全体流量は1.209m/分。)、熱処理を雰囲気ガス導入開始から5分以上経過後開始したことと、100℃までの降温を平均冷却速度700℃/時間で行ったこと以外は実施例1と同じ方法で焼結磁石の表面改質を行った。陽圧状態の確認は、別途熱処理領域内に上記全体流量と同じ流量の不活性ガスを導入し、導入開始から5分後、酸素濃度が測定下限値以下であることを確認することによって、処理室内が陽圧であることを確認した。その結果、焼結磁石の表面に形成された改質層の厚みは1.4μmであった。
(実施例4)
処理室内の雰囲気形成を露点−40℃の大気を処理室内に導入することで行ったこと以外は実施例3と同じ方法で焼結磁石の表面改質を行った。(陽圧状態の確認についても実施例3と同じ。)その結果、焼結磁石の表面に形成された改質層の厚みは1.4μmであった。
(実施例5)
処理室内の雰囲気形成を0.0030m/分の流量で露点−40℃の大気を処理室内に導入することで行ったこと以外は(容積1mあたりの酸素流量は0.176m/分で全体流量は0.894m/分。)実施例3と同じ方法で焼結磁石の表面改質を行った。(陽圧状態の確認についても実施例3と同じ。)その結果、焼結磁石の表面に形成された改質層の厚みは1.3μmであった。
(実施例6)
処理室内の雰囲気形成を0.0101m/分の流量で露点−40℃の大気を処理室内に導入することで行ったこと以外は(容積1mあたりの酸素流量は0.588m/分で全体流量は2.988m/分。)実施例3と同じ方法で焼結磁石の表面改質を行った。(陽圧状態の確認についても実施例3と同じ。)その結果、焼結磁石の表面に形成された改質層の厚みは1.5μmであった。
(実施例7)
処理室内の雰囲気形成を露点−40℃の大気を処理室内に導入することで行ったことと、熱処理工程を340℃で60分間行ったこと以外は実施例3と同じ方法で焼結磁石の表面改質を行った。(陽圧状態の確認についても実施例3と同じ。)その結果、焼結磁石の表面に形成された改質層の厚みは1.1μmであった。
(実施例8)
処理室内の雰囲気形成を露点−40℃の大気を処理室内に導入することで行ったことと、熱処理工程を300℃で120分間行ったこと以外は実施例3と同じ方法で焼結磁石の表面改質を行った。(陽圧状態の確認についても実施例3と同じ。)その結果、焼結磁石の表面に形成された改質層の厚みは1.2μmであった。
(実施例9)
磁石体試験片2を用いたこと、処理室内の雰囲気形成を露点−40℃の大気を処理室内に導入することで行ったこと、熱処理工程を420℃で20分間行ったこと、100℃までの降温を平均冷却速度900℃/時間で行ったこと以外は実施例3と同じ方法で焼結磁石の表面改質を行った。(陽圧状態の確認についても実施例3と同じ。)その結果、焼結磁石の表面に形成された改質層の厚みは1.6μmであった。
(実施例10)
磁石体試験片2を用いたこと、処理室内の雰囲気形成を露点−40℃の大気を処理室内に導入することで行ったこと、熱処理工程を420℃で20分間行ったこと、100℃までの降温を平均冷却速度650℃/時間で行ったこと以外は実施例3と同じ方法で焼結磁石の表面改質を行った。(陽圧状態の確認についても実施例3と同じ。)その結果、焼結磁石の表面に形成された改質層の厚みは1.8μmであった。
(実施例11)
処理室内の雰囲気形成を露点−40℃の大気を処理室内に導入することで行ったことと、100℃までの降温を平均冷却速度1800℃/時間で行ったこと以外は実施例3と同じ方法で焼結磁石の表面改質を行った。(陽圧状態の確認についても実施例3と同じ。)その結果、焼結磁石の表面に形成された改質層の厚みは1.3μmであった。
(比較例1)
処理室内の雰囲気形成を0.0004m/分の流量で露点0℃の大気を処理室内に導入することで行ったこと以外は(容積1mあたりの酸素流量は0.022m/分で全体流量は0.112m/分。)実施例3と同じ方法で焼結磁石の表面改質を行った。その結果、焼結磁石の表面に形成された改質層の厚みは1.1μmであった。なお陽圧状態の確認は、別途熱処理領域内に上記全体流量と同じ流量の不活性ガスを導入し、酸素濃度を確認したが、不活性ガス導入後5分以上経過しても酸素濃度は測定下限値に達せず、処理室内は陽圧でないことが確認された。
(比較例2)
処理室内の雰囲気形成を露点−40℃の大気を処理室内に導入することで行ったこと以外は比較例1と同じ方法で焼結磁石の表面改質を行った。(陽圧状態の確認についても比較例1と同じ。)その結果、焼結磁石の表面に形成された改質層の厚みは1.2μmであった。
(比較例3)
処理室内の雰囲気形成を0.0151m/分の流量で露点−40℃の大気を処理室内に導入することで行ったこと以外は(容積1mあたりの酸素流量は0.882m/分で全体流量は4.482m/分。)比較例1と同じ方法で焼結磁石の表面改質を行った。陽圧状態の確認は、別途熱処理領域内に上記全体流量と同じ流量の不活性ガスを導入し、導入開始から5分後、酸素濃度が測定下限値以下であることを確認することによって、処理室内が陽圧であることを確認した。その結果、焼結磁石の表面に形成された改質層の厚みは1.5μmであった。
(比較例4)
磁石体試験片2を用いたこと、処理室内の雰囲気形成を露点−40℃の大気を処理室内に導入することで行ったこと、熱処理工程を420℃で20分間行ったこと、100℃までの降温を平均冷却速度420℃/時間で行ったこと以外は実施例1と同じ方法で焼結磁石の表面改質を行った。(陽圧状態の確認についても実施例1と同じ。)その結果、焼結磁石の表面に形成された改質層の厚みは1.6μmであった。
(比較例5)
100℃までの降温を平均冷却速度530℃/時間で行ったこと以外は比較例4と同じ方法で焼結磁石の表面改質を行った。(陽圧状態の確認についても比較例4と同じ。)その結果、焼結磁石の表面に形成された改質層の厚みは1.6μmであった。
(比較例6)
処理室内の雰囲気形成を露点15℃の大気(酸素分圧20000Pa,水蒸気分圧1711Pa,酸素分圧/水蒸気分圧=11.7)を処理室内に導入することで行ったこと、100℃までの降温を平均冷却速度700℃/時間で行ったこと以外は実施例1と同じ方法で焼結磁石の表面改質を行った。(陽圧状態の確認についても実施例1と同じ。)その結果、焼結磁石の表面に形成された改質層の厚みは1.7μmであった。
(参考例)
磁石体試験片1を洗浄後、表面改質を行わず磁石体試験片とした。
(耐食性評価)
実施例1〜11、比較例1〜6それぞれにおいて表面改質を行った焼結磁石、および参考例の焼結磁石に対し、温度:60℃×相対湿度:90%の高温高湿条件下での耐食性試験を24時間行い、試験後の表面発錆の有無を外観観察により調べた。試験に供した各20個の磁石のうち表面発錆が認められた磁石の個数を表1に示す。
(接着強度評価)
接着剤に電気化学工業社製ハードロックG55(アクリル系)を用い,実施例1〜11、比較例1〜6のそれぞれにおいて表面改質を行った焼結磁石、および参考例の焼結磁石を図6に示すように鉄治具に接着したのち、2mm/minの速度で打ち抜く方法により接着強度を調べた。接着厚みは約20μmであり、接着面積は約2cmである。接着強度を表1に示す。
(まとめ)
耐食性評価結果から明らかなように、焼結磁石の表面改質によって付与された耐食性は、実施例1〜11、比較例1、2、4、5、参考例の間で差異はなく、いずれにおいても優れたものであったが、比較例3、6はこれらに比べて耐食性に劣るものであった。比較例3は雰囲気ガスの導入流量が多すぎたために、処理室内に温度および雰囲気のばらつきが生じ、表面改質にばらつきが生じたことによるものと考えられ、比較例6は水蒸気分圧が高い雰囲気で熱処理を行ったことによるものと考えられる。また、接着強度評価結果から明らかなように、実施例1〜11は表面改質を行っていない参考例と同等の接着強度を有しているが、比較例1、2、4〜6は接着強度が低下していた。接着強度試験後の接着面を観察したところ、実施例、参考例ではほぼ全体が接着剤の凝集破壊であったのに対し、比較例では一部磁石表面の素材破壊が見られ、実施例、参考例の磁石表面に対して比較例の磁石表面は脆くなっていることがわかった。実施例の接着強度試験結果が参考例のものと差がなかったのに対して、比較例の接着強度試験結果が劣っていた原因は、以下のような理由により、表面改質層(特に主層)の構造が実施例と比較例とで異なるためと考えられる。すなわち、実施例1〜11の磁石は酸素流量が多い陽圧環境で熱処理を行っており、表面改質層の主層は、実施例1で説明した通り、α‐Fe内に非晶質のR酸化物が分散した構造を有している。このような表面改質層が形成されるしくみの詳細は不明であるが、本発明における表面改質反応は、酸素の磁石内部への拡散に伴う酸化反応であり、酸素によってR−Fe−B焼結磁石の主相は分解されて不均化する。この時、酸化性が高い陽圧環境で熱処理を行うことにより、酸素の磁石内部への拡散速度が速まり、比較的反応性が高いRが優先的に酸化されることで、主相のFe原子は酸化されにくくα―Feへと変化する。酸化されたRはα―Fe内に取り残されたまま分散し、酸化による不均化反応が磁石内部に進行する。表面では酸化が促進され、α―Feが酸化するため、最表面にα‐Fe(ヘマタイト)を主体とする酸化鉄層が析出する。この時、α―Fe内に存在したR酸化物はこれ以上酸化しないのでヘマタイトを主体とする酸化鉄層(最表層)下に濃縮され、磁石表面から順に、ヘマタイトを主体とする酸化鉄層、RとFeと酸素を含む非晶質層が形成されるものと推測される。また、冷却速度が早いことでその状態を保ったまま常温に達する。一方、比較例1、2のように酸素流量が少なく陽圧でない雰囲気下で熱処理を行った場合、酸素の内部への拡散速度が遅くなってα‐Feの酸化も進み、主層にはR酸化物とともにα−Feより脆いFe酸化物も生成すると考えられ、主層全体が実施例の表面改質層より脆くなる。さらにこの場合、主層には多くの酸素が取り込まれることになり、内部応力が高まることによっても脆化すると考えられる。降温工程における冷却速度が遅い比較例4、5では、形成された主層の構造が降温工程で維持できず、Feの酸化が進んでしまったために主層が脆くなったものと考えられる。水蒸気分圧が1000Paを超える比較例6では、水蒸気による酸化に伴って発生した水素を磁石が吸蔵することにより、磁石表面が脆くなったものと考えられる。これらの理由により、比較例の磁石は、接着強度評価試験において磁石表面の素材破壊が起こり、接着強度が低下したものと考えられる。
本発明の製造方法によって製造される表面改質されたR−Fe−B系焼結磁石は、優れた耐食性が酸化熱処理によって付与されているとともに、優れた表面接着性を有しているので、例えば、自動車用EPSモータなどのSPMモータとして使用されたり、ハイブリッド自動車や電気自動車の駆動モータとして使用されたり、空調機のコンプレッサーなどに組み込まれたりするIPMモータでの使用に適したものである点において産業上の利用可能性を有する。

Claims (2)

  1. 表面改質されたR−Fe−B系焼結磁石の製造方法であって、酸素分圧が1×10Pa〜1×10Paで水蒸気分圧が1000Pa未満であり、かつ、酸素分圧と水蒸気分圧の比率(酸素分圧/水蒸気分圧)が1〜20000(但し1を除く)の雰囲気を、処理室内の容積1mあたりの雰囲気ガスの導入を酸素流量として0.028m/分以上、かつ、全体流量として3m/分以下の条件で行うことで処理室内が陽圧状態になるようにして形成し、R−Fe−B系焼結磁石に対し前記処理室内で260℃〜450℃で熱処理を行う工程を含み、熱処理を行った温度からの磁石の降温を、少なくとも100℃に至るまで650℃/時間以上の平均冷却速度で行うことを特徴とする製造方法。
  2. 請求項1記載の製造方法において、平均冷却速度を2000℃/時間以下とすることを特徴とする製造方法

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