JP5786398B2 - 表面改質されたR−Fe−B系焼結磁石およびその製造方法 - Google Patents
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Description
上記の通り、R−Fe−B系焼結磁石に対して耐食性を付与する方法としては、その表面に金属被膜や樹脂被膜などの耐食性被膜を形成する方法が代表的であるが、近年、酸化性雰囲気下での熱処理(酸化熱処理)を磁石に対して行うことによって磁石の表面を改質する方法が簡易耐食性向上技術として注目されている。例えば、特許文献1や特許文献2には、酸素を利用して酸化性雰囲気を形成して熱処理する方法が記載され、特許文献3〜特許文献6には、水蒸気を単独で利用して、或いは、水蒸気に酸素を組み合わせて酸化性雰囲気を形成して熱処理する方法が記載されている。しかしながら、これらの方法で磁石に対して表面改質を行っても、温度や湿度の管理がされていない輸送環境や保管環境などのような、温度や湿度が変動することで磁石の表面に微細な結露を繰り返し生じさせてしまう環境では必ずしも十分な耐食性が得られないこと、特許文献3〜特許文献6においては、水蒸気分圧は10hPa(1000Pa)以上が好適とされているが、このような水蒸気分圧が高い雰囲気下で熱処理を行うと、磁石の表面で起こる酸化反応によって水素が副産物として大量に生成し、磁石が生成した水素を吸蔵して脆化することで磁気特性が低下してしまうことが本発明者らの検討によって明らかになった。そこで本発明者らは、R−Fe−B系焼結磁石に対するより優れた表面改質方法として、酸素分圧と、特許文献3〜特許文献6において不適とされている10hPa未満の水蒸気分圧を適切に制御した酸化性雰囲気下での熱処理方法、具体的には、酸素分圧が1×102Pa〜1×105Paで水蒸気分圧が0.1Pa〜1000Pa(但し1000Paを除く)の雰囲気下、200℃〜600℃で熱処理を行う方法を特許文献7において提案した。
そこで本発明は、過酷条件下においても優れた耐食性を有するとともに、優れた磁気特性を有する表面改質されたR−Fe−B系焼結磁石およびその製造方法を提供することを目的とする。
また、本発明の表面改質されたR−Fe−B系焼結磁石の製造方法は、請求項2記載の通り、25質量%〜40質量%の希土類元素:R、0.6質量%〜1.6質量%のB(但しその一部はCによって置換されていてもよい)、0質量%〜1.0質量%のAl、Si、Ti、V、Cr、Mn、Ni、Cu、Zn、Ga,Zr、Nb、Mo、Ag、In、Sn、Hf、Ta、W、Pb、およびBiからなる群から選択される少なくとも1種の添加元素:M、残部は、磁石全体の0.01質量%〜2.5質量%がCoによって置換されたFe、および不可避不純物からなる組成を有するR−Fe−B系焼結磁石に対し、酸素分圧が1×103Pa〜1×105Paで水蒸気分圧が1000Pa未満であり、かつ、酸素分圧と水蒸気分圧の比率(酸素分圧/水蒸気分圧)が450〜20000の雰囲気下、200℃〜450℃で熱処理を行う工程を含み、かつ、熱処理を行った温度からの磁石の降温を、少なくとも100℃に至るまで650℃/時間以上の平均冷却速度で行うことを特徴とする。
また、請求項3記載の製造方法は、請求項2記載の製造方法において、平均冷却速度を2000℃/時間以下とすることを特徴とする。
25質量%〜40質量%の希土類元素Rと、0.6質量%〜1.6質量%のB(硼素)と、残部が磁石全体の0.01質量%〜2.5質量%がCoによって置換されたFeおよび不可避不純物とを包含する合金を用意する。ここで、Rは重希土類元素RHを含んでいてもよい。Bの一部はC(炭素)によって置換されていてもよい。また、この合金は、種々の目的により、Al、Si、Ti、V、Cr、Mn、Ni、Cu、Zn、Ga、Zr、Nb、Mo、Ag、In、Sn、Hf、Ta、W、Pb、およびBiからなる群から選択される少なくとも1種の添加元素Mを最大で1.0質量%含有していてもよい。
上記の合金は、原料合金の溶湯を例えばストリップキャスト法によって急冷して好適に作製され得る。以下、ストリップキャスト法による急冷凝固合金の作製を説明する。
まず、上記組成を有する原料合金をアルゴン雰囲気中において高周波溶解によって溶解し、原料合金の溶湯を形成する。次に、この溶湯を1350℃程度に保持した後、単ロール法によって急冷し、例えば厚さ約0.3mmのフレーク状合金鋳塊を得る。こうして作製した合金鋳片を、次の水素粉砕処理前に例えば1〜10mmのフレーク状に粉砕する。なお、ストリップキャスト法による原料合金の製造方法は、例えば、米国特許第5、383、978号明細書に開示されている。
[粗粉砕工程]
上記のフレーク状に粗く粉砕された合金鋳片を水素炉の内部へ収容する。次に、水素炉の内部で水素脆化処理(以下、「水素粉砕処理」や単に「水素処理」と称する場合がある)工程を行う。水素粉砕処理後の粗粉砕粉を水素炉から取り出す際、粗粉砕粉が大気と接触しないように、不活性雰囲気下で取り出し動作を実行することが好ましい。そうすれば、粗粉砕粉が酸化・発熱することが防止され、磁石の磁気特性の低下が抑制できるからである。
水素粉砕処理によって、希土類合金は0.1mm〜数mm程度の大きさに粉砕され、その平均粒径は500μm以下となる。水素粉砕処理後、脆化した原料合金をより細かく解砕するとともに冷却することが好ましい。比較的高い温度状態のまま原料を取り出す場合は、冷却処理の時間を相対的に長くすればよい。
[微粉砕工程]
次に、粗粉砕粉に対してジェットミル粉砕装置を用いて微粉砕を実行する。本実施形態で使用するジェットミル粉砕装置にはサイクロン分級機が接続されている。ジェットミル粉砕装置は、粗粉砕工程で粗く粉砕された希土類合金(粗粉砕粉)の供給を受け、粉砕機内で粉砕する。粉砕機内で粉砕された粉末はサイクロン分級機を経て回収タンクに集められる。こうして、0.1〜20μm程度の微粉末を得ることができる。このような微粉砕に用いる粉砕装置は、ジェットミルに限定されず、アトライタやボールミルであってもよい。粉砕に際して、ステアリン酸亜鉛などの潤滑剤を粉砕助剤として用いてもよい。
[プレス成形]
本実施形態では、上記方法で作製された微粉砕粉末に対し、例えばロッキングミキサー内で潤滑剤を例えば0.3質量%添加・混合し、潤滑剤で微粉砕粉末粒子の表面を被覆する。次に、上述の方法で作製した微粉砕粉末を公知のプレス装置を用いて配向磁界中で成形する。印加する磁界の強度は、例えば1.0〜1.7テスラ(T)である。また、成形圧力は、成形体のグリーン密度が例えば4〜4.5g/cm3程度になるように設定される。
[焼結工程]
上記の粉末成形体に対して、例えば、1000〜1200℃の範囲内の温度で10〜240分間行う。650〜1000℃の範囲内の温度で10〜240分間保持する工程と、その後、上記の保持温度よりも高い温度(例えば、1000〜1200℃)で焼結を更に進める工程とを順次行ってもよい。焼結時、特に液相が生成されるとき(温度が650〜1000℃の範囲内にあるとき)、粒界相中のRリッチ相が融け始め、液相が形成される。その後、焼結が進行し、焼結磁石体が形成される。焼結工程の後、時効処理(400℃〜700℃)や寸法調整のための研削を行ってもよい。
Nd:16.2、Pr:4.5、Dy:9.1、B:0.93、Co:2.0、Cu:0.1、Al:0.15、Ga:0.07、残部:Fe(単位は質量%)の組成を有する厚さ0.2mm〜0.3mmの合金薄片をストリップキャスト法により作製した。
次に、この合金薄片を容器に充填し、水素処理装置内に収容した。そして、水素処理装置内を圧力500kPaの水素ガスで満たすことにより、室温で合金薄片に水素吸蔵させた後、放出させた。このような水素処理を行うことにより、合金薄片を脆化し、大きさ約0.15mm〜0.2mmの粗粉砕粉末を作製した。
上記の水素処理により作製した粗粉砕粉末に対し粉砕助剤として0.04質量%のステアリン酸亜鉛を添加し混合した後、ジェットミル装置による粉砕工程を行うことにより、粉末粒径が約3μmの微粉末を作製した。
こうして作製した微粉末をプレス装置により成形し、粉末成形体を作製した。具体的には、印加磁界中で粉末粒子を磁界配向した状態で圧縮し、プレス成形を行った。その後、成形体をプレス装置から抜き出し、真空炉により1050℃で4時間の焼結工程を行い、焼結体ブロックを得た。
得られた焼結体ブロックを真空中にて490℃で2.5時間の時効処理を行った後、その表面に対し研削加工を行って寸法調整し、厚さ6mm×縦7mm×横7mmのR−Fe−B系焼結磁石を得た。
(1)昇温工程
常温(本実施例においては25℃を意味する。以下同じ)から熱処理を行う温度(400℃)までの昇温を、露点−40℃の大気(酸素分圧20000Pa,水蒸気分圧19Pa,酸素分圧/水蒸気分圧=1052)の雰囲気下、500℃/時間の平均昇温速度で行った。
(2)熱処理工程
露点0℃の大気(酸素分圧20000Pa,水蒸気分圧600Pa,酸素分圧/水蒸気分圧=33.3)の雰囲気下、400℃で20分間の熱処理を行った。
(3)降温工程
昇温工程において採用した雰囲気と同じ雰囲気下、400℃から100℃までの降温を690℃/時間の平均冷却速度で行った。なお、平均冷却速度の調整は、降温に用いる雰囲気ガスの流量を調整することにより行った。
熱処理工程を露点−40℃の大気(酸素分圧20000Pa,水蒸気分圧19Pa,酸素分圧/水蒸気分圧=1052)の雰囲気下で行ったこと以外は実施例1と同じ方法で焼結磁石の表面改質を行った。その結果、焼結磁石の表面に形成された改質層の厚みは約1.6μmであった。
Nd:19.0、Pr:5.5、Dy:7.1、B:0.97、Co:0.9、Cu:0.1、Al:0.2、Ga:0.1、残部:Fe(単位は質量%)の組成を有する厚さ0.2mm〜0.3mmの合金薄片を用いて焼結磁石を作製したことと、熱処理工程を420℃で20分間行ったことと、750℃/時間の平均冷却速度で降温工程を行ったこと以外は実施例2と同じ方法で焼結磁石の表面改質を行った。その結果、焼結磁石の表面に形成された改質層の厚みは約1.7μmであった。
熱処理工程を340℃で120分間行ったことと、650℃/時間の平均冷却速度で降温工程を行ったこと以外は実施例3と同じ方法で焼結磁石の表面改質を行った。その結果、焼結磁石の表面に形成された改質層の厚みは約1.3μmであった。
内部に雰囲気ガスを流通させることでその雰囲気を制御するためのガス導入路とガス排出路を備えたSUS製の耐熱性容器に焼結磁石を収容し、焼結磁石を収容した耐熱性容器をバッチ式の熱処理炉の処理室に収容して耐熱性容器の内部の雰囲気を制御しながら昇温工程と300℃で120分間の熱処理工程を実行した後、降温工程を、耐熱性容器の内部を降温工程のための雰囲気とした後に耐熱性容器を熱処理炉から取り出して別途に冷却することで1800℃/時間の平均冷却速度で実行したこと以外は実施例3と同じ方法で焼結磁石の表面改質を行った。その結果、焼結磁石の表面に形成された改質層の厚みは約1.2μmであった。
420℃/時間の平均冷却速度で降温工程を行ったこと以外は実施例1と同じ方法で焼結磁石の表面改質を行った。その結果、焼結磁石の表面に形成された改質層の厚みは約1.6μmであった。表面改質された焼結磁石の表面付近の分析を実施例1と同じ方法で行ったところ、焼結磁石の表面に形成された改質層は複数の層からなるが、実施例1において焼結磁石の表面に形成された改質層とは異なり、主層と最表層の間にNdとCoを含む非晶質層(非晶質であることは別途の電子線回折分析により確認)が存在する3層構造であった。
530℃/時間の平均冷却速度で降温工程を行ったこと以外は実施例2と同じ方法で焼結磁石の表面改質を行った。その結果、焼結磁石の表面に形成された改質層の厚みは約1.7μmであった。
420℃/時間の平均冷却速度で降温工程を行ったこと以外は実施例5と同じ方法で焼結磁石の表面改質を行った。その結果、焼結磁石の表面に形成された改質層の厚みは約1.2μmであった。
実施例1〜実施例5、比較例1〜比較例3のそれぞれにおいて表面改質を行った焼結磁石の固有保磁力を、表面改質を行う前の焼結磁石の固有保磁力と比較し、下記の数式で固有保磁力劣化率を算出した。結果を表1に示す。なお、固有保磁力の測定は、磁気測定装置(SK−130:メトロン技研社製)を用いて行った。
固有保磁力劣化率(%)=((A−B)/A)×100
A:表面改質前の焼結磁石の固有保磁力(20個の平均値)
B:表面改質後の焼結磁石の固有保磁力(20個の平均値)
実施例1〜実施例5、比較例1〜比較例3のそれぞれにおいて表面改質を行った焼結磁石に対し、温度:60℃×相対湿度:90%の高温高湿条件下での耐食性試験を24時間行い、試験後の表面発錆の有無を外観観察により調べた。試験に供した各300個の磁石のうち表面発錆が認められた磁石の個数を表1に示す。
表1から明らかなように、熱処理後の焼結磁石の降温の際の平均冷却速度にかかわらず、固有保磁力劣化率はすべての焼結磁石において極めて低い数値であり、降温時における固有保磁力の劣化は認められなかった。しかしながら、熱処理後の焼結磁石の降温の際の平均冷却速度を650℃/時間以上とした実施例の焼結磁石は、耐食性試験に供したすべての焼結磁石において発錆が認められなかったのに対し、平均冷却速度を650℃/時間未満とした比較例の焼結磁石は、ごく僅かの個数ではあるが発錆が認められた。この相違は、焼結磁石の表面に形成された改質層の相違に起因していると考えられ、実施例の焼結磁石が耐食性に優れるのは、その改質層が、Ndが化学的に安定な酸化物の形態で存在しているNd濃化層や、耐食性に優れるヘマタイト(α−Fe2O3)を主体とする酸化鉄を構成成分として含む最表層を有していることによるものと推察された。
Claims (3)
- 表面改質されたR−Fe−B系焼結磁石であって、R−Fe−B系焼結磁石が、25質量%〜40質量%の希土類元素:R、0.6質量%〜1.6質量%のB(但しその一部はCによって置換されていてもよい)、0質量%〜1.0質量%のAl、Si、Ti、V、Cr、Mn、Ni、Cu、Zn、Ga,Zr、Nb、Mo、Ag、In、Sn、Hf、Ta、W、Pb、およびBiからなる群から選択される少なくとも1種の添加元素:M、残部は、磁石全体の0.01質量%〜2.5質量%がCoによって置換されたFe、および不可避不純物からなる組成を有するもので、表面改質された部分が少なくとも4層を有する改質層からなり、この改質層が、磁石の内側から順に、R、Fe、Co、Bおよび酸素を含む主層、少なくともR、Fe、Coおよび酸素を含んでかつ改質層の中でCoを最も多く含むCo濃化層、少なくともR、Fe、Coおよび酸素を含んでかつ改質層の中でRを最も多く含むR濃化層、ヘマタイトを主体とする酸化鉄を構成成分として含む最表層を少なくとも有することを特徴とする表面改質されたR−Fe−B系焼結磁石。
- 表面改質されたR−Fe−B系焼結磁石の製造方法であって、25質量%〜40質量%の希土類元素:R、0.6質量%〜1.6質量%のB(但しその一部はCによって置換されていてもよい)、0質量%〜1.0質量%のAl、Si、Ti、V、Cr、Mn、Ni、Cu、Zn、Ga,Zr、Nb、Mo、Ag、In、Sn、Hf、Ta、W、Pb、およびBiからなる群から選択される少なくとも1種の添加元素:M、残部は、磁石全体の0.01質量%〜2.5質量%がCoによって置換されたFe、および不可避不純物からなる組成を有するR−Fe−B系焼結磁石に対し、酸素分圧が1×103Pa〜1×105Paで水蒸気分圧が1000Pa未満であり、かつ、酸素分圧と水蒸気分圧の比率(酸素分圧/水蒸気分圧)が450〜20000の雰囲気下、200℃〜450℃で熱処理を行う工程を含み、かつ、熱処理を行った温度からの磁石の降温を、少なくとも100℃に至るまで650℃/時間以上の平均冷却速度で行うことを特徴とする製造方法。
- 平均冷却速度を2000℃/時間以下とすることを特徴とする請求項2記載の製造方法。
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