JP5609209B2 - 表面改質された希土類系焼結磁石の製造方法 - Google Patents

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本発明は、ハイブリッド自動車や電気自動車の駆動モータとして使用されたり、空調機のコンプレッサーなどに組み込まれたりするIPMモータなどでの使用に適した表面改質された希土類系焼結磁石の製造方法に関する。
Nd−Fe−B系焼結磁石に代表されるR−Fe−B系焼結磁石などの希土類系焼結磁石は、資源的に豊富で安価な材料が用いられ、かつ、高い磁気特性を有していることから今日様々な分野で使用されているが、反応性の高い希土類金属:Rを含むため、大気中で酸化腐食されやすいという特質を有する。従って、希土類系焼結磁石は、通常、その表面に金属被膜や樹脂被膜などの耐食性被膜を形成して実用に供されるが、ハイブリッド自動車や電気自動車の駆動モータとして使用されたり、空調機のコンプレッサーなどに組み込まれたりするIPM(Interior Permanent Magnet)モータなどのように、磁石が部品に埋め込まれて使用される態様の場合には、必ずしもこのような耐食性被膜を磁石の表面に形成することは必要とされない。しかしながら、磁石が製造されてから部品に埋め込まれるまでの期間における磁石の耐食性の確保は当然に必要である。加えて、ハイブリッド自動車や電気自動車の駆動モータとして使用されたり、空調機のコンプレッサーに組み込まれたりするIPMモータで使用される希土類系焼結磁石は、オイルや冷媒に晒されることがある。その場合、オイル中や冷媒中に水分が存在すると、磁石が高温や高圧の環境下で水分と接触することで水素が発生し、発生した水素を磁石が吸蔵することで脆化して磁気特性が低下する場合がある。従って、このようなIPMモータで使用される希土類系永久磁石では、高温や高圧の環境下で水分と接触することによって発生する水素を吸蔵して脆化することによる磁気特性の低下への対策も必要である。
上記の通り、希土類系焼結磁石に対して耐食性を付与する方法としては、その表面に金属被膜や樹脂被膜などの耐食性被膜を形成する方法が代表的であるが、近年、酸化性雰囲気下での熱処理を希土類系焼結磁石に対して行うことによって磁石の表面を改質する方法が簡易耐食性向上技術として注目されている。例えば、特許文献1や特許文献2には、酸素を利用して酸化性雰囲気を形成して熱処理する方法が記載され、特許文献3〜特許文献6には、水蒸気を単独で利用して、或いは、水蒸気に酸素を組み合わせて酸化性雰囲気を形成して熱処理する方法が記載されている。しかしながら、これらの方法で希土類系焼結磁石に対して表面改質を行っても、温度や湿度の管理がされていない輸送環境や保管環境などのような、温度や湿度が変動することで磁石の表面に微細な結露を繰り返し生じさせてしまう環境では必ずしも十分な耐食性が得られないこと、特許文献3〜特許文献6においては、水蒸気分圧は10hPa(1000Pa)以上が好適とされているが、このような水蒸気分圧が高い雰囲気下で熱処理を行うと、磁石の表面で起こる酸化反応によって水素が副産物として大量に生成し、磁石が生成した水素を吸蔵して脆化することで磁気特性が低下してしまうことが本発明者らの検討によって明らかになった。そこで本発明者らは、希土類系焼結磁石に対するより優れた表面改質方法として、酸素分圧と、特許文献3〜特許文献6において不適とされている10hPa未満の水蒸気分圧を適切に制御した酸化性雰囲気下での熱処理方法、具体的には、酸素分圧が1×10Pa〜1×10Paで水蒸気分圧が0.1Pa〜1000Pa(但し1000Paを除く)の雰囲気下、200℃〜600℃で熱処理を行う方法を特許文献7において提案した。
特許文献7において本発明者らが提案した希土類系焼結磁石に対する表面改質方法によれば、温度や湿度が変動する環境においても十分な耐食性が酸化熱処理によって付与されるとともに、酸化熱処理による磁気特性の低下を抑制することが可能となる。しかしながら、ハイブリッド自動車や電気自動車の駆動モータとして使用されたり、空調機のコンプレッサーなどに組み込まれたりするIPMモータで使用される希土類系焼結磁石を想定した場合、磁石が高温や高圧の環境下でオイルや冷媒に含まれる水分と接触することによって水素が発生し、発生した水素を磁石が吸蔵して脆化することによる磁気特性の低下を効果的に防止するためのより優れた表面改質方法の開発が望まれる。
特許第2844269号公報 特開2002−57052号公報 特開2006−156853号公報 特開2006−210864号公報 特開2007−103523号公報 特開2007−207936号公報 国際公開第2009/041639号
そこで本発明は、温度や湿度が変動する環境においても十分な耐食性が酸化熱処理によって付与されているとともに、酸化熱処理による磁気特性の低下が抑制されていることに加え、ハイブリッド自動車や電気自動車の駆動モータとして使用されたり、空調機のコンプレッサーなどに組み込まれたりするIPMモータで使用されても、高温や高圧の環境下で水分と接触することによって発生する水素を吸蔵して脆化することによる磁気特性の低下が効果的に防止されている、表面改質された希土類系焼結磁石の製造方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記の点に鑑みて、特許文献7において提案した希土類系焼結磁石に対する表面改質方法に改良の余地がないかどうか鋭意検討を重ねた結果、磁石を常温から酸化熱処理を行う温度まで昇温する工程の良し悪しが、その後の酸化熱処理による表面改質効果の良し悪しに深く関与していることを突き止めた。磁石を常温から酸化熱処理を行う温度まで昇温する工程については、酸素分圧が1×10Pa〜1×10Paで水蒸気分圧が1×10−3Pa〜100Paの雰囲気下、昇温速度を100℃/時間〜1800℃/時間、昇温時間を20分間〜2時間として行うことが、磁石に対する優れた耐食性の付与と磁気特性の低下の抑制に寄与する点において望ましいことを特許文献7において提案したが、さらに改良を加えてこの工程を2段階で行い、前段の工程を時間をかけずに素早く行う一方で、後段の工程を時間をかけて行うようにするとともに、酸化熱処理条件の最適化を行うことにより、酸化熱処理による表面改質効果が改善され、磁気特性の低下を招くことなく磁石の耐食性の向上を図ることができることに加え、高温や高圧の環境下で水分と接触することによって発生する水素を磁石が吸蔵して脆化することによる磁気特性の低下を効果的に防止することができ、さらには、磁石に対して優れた絶縁性を付与することができることを見出した。
上記の知見に基づいて完成された本発明の表面改質された希土類系焼結磁石の製造方法は、請求項1記載の通り、希土類系焼結磁石に対し、酸素分圧が1×10Pa〜1×10Paで水蒸気分圧が200Pa〜1000Pa(但し1000Paを除く)の雰囲気下、250℃〜600℃で熱処理を行う工程を含んでなり、かつ、常温から熱処理を行う温度までの昇温を、酸素分圧が1×10Pa〜1×10Paで水蒸気分圧が1×10−3Pa〜100Paの雰囲気下での2段階工程で行い、常温から200℃までの第1昇温工程、昇温速度を700℃/時間〜2000℃/時間とし、工程時間を20分間未満とするヒートパターンによって行った後、200℃から熱処理を行う温度までの第2昇温工程、昇温速度を100℃/時間〜650℃/時間とし、工程時間を20分間以上とするヒートパターンによって行うことを特徴とする。
また、請求項2記載の製造方法は、請求項1記載の製造方法において、常温から200℃までの昇温を5分間〜15分間で行うことを特徴とする。
また、請求項3記載の製造方法は、請求項1または2記載の製造方法において、200℃から熱処理を行う温度までの昇温を20分間〜30分間で行うことを特徴とする。
また、本発明のIPMモータの製造方法は、請求項4記載の通り、請求項1記載の製造方法によって製造された表面改質された希土類系焼結磁石をロータの内部に埋め込む工程を含んでなることを特徴とする
本発明によれば、温度や湿度が変動する環境においても十分な耐食性が酸化熱処理によって付与されているとともに、酸化熱処理による磁気特性の低下が抑制されていることに加え、ハイブリッド自動車や電気自動車の駆動モータとして使用されたり、空調機のコンプレッサーなどに組み込まれたりするIPMモータで使用されても、高温や高圧の環境下で水分と接触することによって発生する水素を吸蔵して脆化することによる磁気特性の低下が効果的に防止されている、表面改質された希土類系焼結磁石の製造方法を提供することができる。
昇温脱離ガス分析装置を用いて測定した希土類系焼結磁石の表面に存在する水分の脱離挙動を示すチャートである。 本発明の表面改質された希土類系焼結磁石の製造方法に好適に採用することができる連続処理炉の一例の概略図(側面図)である。 実施例1における表面改質された希土類系焼結磁石の電界放出型走査電子顕微鏡を用いた断面観察の結果を示す写真である。 同、電界放出型走査電子顕微鏡を用いた断面観察における表面改質された部分の表面付近の拡大写真である。 同、表面改質された部分を構成する最表層を表面からX線回折装置を用いて分析した結果を示すチャートである。
本発明の表面改質された希土類系焼結磁石の製造方法は、希土類系焼結磁石に対し、酸素分圧が1×10Pa〜1×10Paで水蒸気分圧が200Pa〜1000Pa(但し1000Paを除く)の雰囲気下、250℃〜600℃で熱処理を行う工程を含んでなり、かつ、常温から熱処理を行う温度までの昇温を、酸素分圧が1×10Pa〜1×10Paで水蒸気分圧が1×10−3Pa〜100Paの雰囲気下での2段階工程で行い、常温から200℃までの昇温を20分間未満で行った後、200℃から熱処理を行う温度までの昇温を20分間以上で行うことを特徴とするものである。磁石を常温から酸化熱処理を行う温度まで昇温する工程を水蒸気分圧の低い雰囲気下において2段階で行い、前段の200℃までの昇温を時間をかけずに素早く行う一方で、後段の200℃からの昇温を時間をかけて行った後に酸化熱処理を行うことにより、磁気特性の低下を招くことなく磁石の耐食性の向上を図ることができることに加え、高温や高圧の環境下で水分と接触することによって発生する水素を磁石が吸蔵して脆化することによる磁気特性の低下を効果的に防止することができ、さらには、磁石に対して優れた絶縁性を付与することができる。本発明の表面改質された希土類系焼結磁石の製造方法は、基本的に、磁石を常温から酸化熱処理を行う温度まで昇温する工程、磁石に対して酸化熱処理を行う工程、酸化熱処理を行った後の磁石を降温する工程から構成されるので、以下、それぞれの工程について順を追って説明する。
(1)磁石を常温から酸化熱処理を行う温度まで昇温する工程
本発明において特徴付けられるこの工程は、酸素分圧が1×10Pa〜1×10Paで水蒸気分圧が1×10−3Pa〜100Paの雰囲気下での2段階工程で行い、常温から200℃までの昇温を20分間未満で行った後、200℃から酸化熱処理を行う温度までの昇温を20分間以上で行うものである。なお、本発明において「常温」とは、表面改質が行われる希土類系焼結磁石が昇温を開始する時点で置かれている環境の温度(例えば室温)を指し、例示的には、日本工業規格のJIS Z 8703において5℃〜35℃と規定されている温度を意味する。
まず、前段の工程(第1昇温工程)は、表面改質を行う希土類系焼結磁石が例えば大気中に保管されていたことで、磁石の表面に少なからず自然吸着している水分が、昇温の際に磁石に対して悪影響を与えることを極力回避することを意図したものである。磁石の表面に存在する水分は昇温によって磁石の表面から脱離するが、本発明者らの検討によれば、このような水分の磁石の表面からの脱離は、170℃付近において活発に起こり、200℃付近までは継続して起こる(昇温脱離ガス分析装置を用いた測定による:図1参照)。これは、少なくとも200℃以上にまで磁石が昇温されないと磁石の表面に存在する水分の大部分が脱離しないことを意味するので、200℃までの昇温を時間をかけて行うと、磁石の表面に存在する水分が磁石成分と長い時間活発に反応することで磁石の腐食の原因となる。そこで、前段の工程、即ち、常温から200℃までの昇温を時間をかけずに素早く行い、磁石の表面に存在する水分を早期に脱離させるべく、その工程時間を20分間未満とする。前段の工程を20分間以上で行うと、磁石の表面に存在する水分と磁石成分との活発な反応が長い時間起こることになり、磁石の腐食の原因となる。前段の工程は可能な限り短時間で行うことが望ましいが、昇温時間の短縮化は昇温装置の性能などにも依存するので、現状においては、前段の工程には少なくとも1分間〜5分間程度の時間が必要である。以上の点に鑑みれば、この工程時間は、標準的には例えば5分間〜15分間とすることが望ましい。
なお、この工程のヒートパターンは、20分間未満の工程時間で昇温を完了することができるパターンであればどのようなものであってもよいが、例えば500℃/時間〜2000℃/時間の昇温速度で昇温することが望ましく、700℃/時間〜1800℃/時間の昇温速度で昇温することがより望ましい。
次に、後段の工程(第2昇温工程)は、酸化熱処理の際に磁石の表面で起こる酸化反応によって副産物として生成する水素が、磁石に対して悪影響を与えることを極力回避することを意図したものである。上述したように、磁石の表面で起こる酸化反応によって水素が生成すると、磁石は生成した水素を吸蔵して脆化し、磁気特性の低下を引き起こす。本発明における酸化熱処理において採用する水蒸気分圧は、特許文献3〜特許文献6において採用している水蒸気分圧よりも低いとはいえ、磁石の表面で起こる酸化反応によってある程度の量の水素を生成させるに足るものである。本発明者らの検討によれば、磁石の表面で起こる酸化反応は、200℃付近から起こり始めて230℃以降、とりわけ250℃以降において活発に起こる(高温レーザー顕微鏡を用いた観察による)。そこで、後段の工程、即ち、200℃から酸化熱処理を行う温度までの昇温を、水蒸気分圧の低い雰囲気下、つまり磁石の表面で起こる酸化反応による水素の生成量が少ない雰囲気下で時間をかけて行い、磁石の表面に十分な酸化層を形成することで、その後の酸化熱処理によって生成する水素を磁石が吸蔵しにくくすべく、その工程時間を20分間以上とする。後段の工程を20分間未満で行うと、その後の酸化熱処理によって生成する水素に対するバリア層として機能する酸化層を磁石の表面に十分に形成することができず、磁石が水素を吸蔵することを効果的に抑制することができない。工程時間の上限は特に制限されるものではないが、必要以上に長い時間かけて昇温を行ってもコストの増加を招くだけであるので、実用上、その上限は90分間程度である。以上の点に鑑みれば、この工程時間は、標準的には例えば20分間〜30分間とすることが望ましい。
なお、この工程のヒートパターンは、20分間以上の工程時間で昇温を行うパターンであればどのようなものであってもよいが、例えば100℃/時間〜800℃/時間の昇温速度で昇温することが望ましく、450℃/時間〜650℃/時間の昇温速度で昇温することがより望ましい。
後段の工程を行った後は、すぐさま酸化熱処理を行ってもよいし、後段の工程の雰囲気中で磁石をしばらく保持してから(例えば1分間〜60分間)酸化熱処理を行ってもよい。
(2)磁石に対して酸化熱処理を行う工程
この工程は、磁石に対し、酸素分圧が1×10Pa〜1×10Paで水蒸気分圧が200Pa〜1000Pa(但し1000Paを除く)の雰囲気下、250℃〜600℃で熱処理を行うものである。上述したように、この工程で採用する水蒸気分圧は、磁石の表面で起こる酸化反応によってある程度の量の水素を生成させるに足るものであるが、先の磁石を常温から酸化熱処理を行う温度まで昇温する工程における後段の工程において、酸化熱処理によって生成する水素に対するバリア層として機能する酸化層を磁石の表面に十分に形成してあるので、磁石が水素を吸蔵することを効果的に抑制した状態で磁石に対して表面改質を行うことができる。磁石の表面に対して所望する改質をより効果的かつ低コストに行うためには、酸素分圧は5×10Pa〜5×10Paが望ましく、1×10Pa〜4×10Paがより望ましい。水蒸気分圧は250Pa〜900Paが望ましく、400Pa〜700Paがより望ましい。また、酸素分圧と水蒸気分圧の比率(酸素分圧/水蒸気分圧)は1〜400が望ましく、5〜100がより望ましい。処理室内の酸化性雰囲気は、例えば、これらの酸化性ガスを所定の分圧となるように個別に導入することによって形成してもよいし、これらの酸化性ガスが所定の分圧で含まれる露点を有する大気を導入することによって形成してもよい。また、処理室内には、窒素やアルゴンなどの不活性ガスを共存させてもよい。
熱処理温度は300℃〜550℃が望ましく、350℃〜450℃がより望ましい。温度が低すぎると希土類系焼結磁石の表面に対して所望する改質が行い難くなる恐れがある一方、温度が高すぎると磁石の磁気特性に悪影響を及ぼす恐れがある。なお、処理時間は1分間〜3時間が望ましい。
(3)酸化熱処理を行った後の磁石を降温する工程
この工程は、磁石を常温から酸化熱処理を行う温度まで昇温する工程において採用する雰囲気下と同じ雰囲気下、即ち、酸素分圧が1×10Pa〜1×10Paで水蒸気分圧が1×10−3Pa〜100Paの雰囲気下で行うことが望ましい。このような雰囲気下で降温することにより、工程中に磁石の表面が結露することで磁石が腐食して磁気特性が低下するといった現象を防ぐことができる。
以上の、磁石を常温から酸化熱処理を行う温度まで昇温する工程、磁石に対して酸化熱処理を行う工程、酸化熱処理を行った後の磁石を降温する工程は、磁石が収容された処理室内の環境を順次変化させることで行ってもよいし、処理室内をそれぞれの環境に制御した領域に分割し、各領域に磁石を順次移動させることで行ってもよい。
図2は、以上の3つの工程を、内部がそれぞれの環境に制御された領域に分割され、各領域に磁石を順次移動させることで行うことができる連続処理炉の一例の概略図(側面図)である。図2に示す連続処理炉においては、ベルトコンベアなどの移動手段によって磁石を図の左から右に移動させながら各処理を施す。矢印は図略の給気手段と排気手段によって形成される各領域における雰囲気ガスの流れである。昇温領域の入口および降温領域の出口は、例えばエアカーテンで区画され、昇温領域と熱処理領域の境界および熱処理領域と降温領域の境界は、例えば矢印の雰囲気ガスの流れにより区画される(これらの区画は機械的にシャッターで行われてもよい)。このような連続処理炉を用いれば、大量の磁石に対して安定した品質の表面改質を連続的に行うことができる。
以上の工程によって希土類系焼結磁石に対して表面改質を行うことで磁石の表面に形成される改質層は、磁石の内側から順に、R、Fe、Bおよび酸素を含む主層と、ヘマタイト(α−Fe)を主体とする酸化鉄を構成成分として含む最表層の少なくとも2層を有する(特許文献7に記載されているように主層と最表層の間には非晶質層が存在し得る)。表面改質層中の主層は、その組成を表面改質されていない磁石(素材)の組成と比較すると、Feの含量が減少し、酸素の含量が増加しており、酸素の含量は例えば2.5質量%〜15質量%である。表面改質層中の最表層は、その構成成分として含まれる酸化鉄の75質量%以上がヘマタイトであることが望ましい。より望ましくは80質量%以上であり、さらに望ましくは90質量%以上である。酸化鉄がヘマタイトを高比率で含有し、マグネタイト(Fe)をできる限り含まないことが、磁石の表面改質を行うことによる優れた耐食性の付与に寄与することは特許文献7に記載した通りである。酸素分圧と、10hPa未満の水蒸気分圧を適切に制御した酸化性雰囲気下で熱処理を行うことで、表面改質層中の最表層を、ヘマタイトを高比率で含有する酸化鉄から構成されるようにすることができる。これとは対照的に、特許文献3〜特許文献6に記載されているような水蒸気分圧が高い雰囲気下で熱処理を行うと、表面改質層中の最表層を構成する酸化鉄はマグネタイトを高比率で含有するようになる。このことが、これらの特許文献に記載の方法では、温度や湿度の変動が激しい環境において十分な耐食性を発揮する表面改質を磁石に対して行うことができない原因であると考えられる。なお、酸化鉄中のヘマタイトの比率は例えばラマン分析法で分析することができる。磁石を常温から酸化熱処理を行う温度まで昇温する工程における後段の工程において磁石の表面に形成した酸化層は、酸化熱処理によってさらに酸化されて上記の表面改質層の一部として一体化されると推察され、例えば表面改質層の断面観察を行っても、その存在を独立して確認することはできない。
なお、希土類系焼結磁石の表面に形成される表面改質層の厚みは0.5μm〜10μmが望ましい。厚みが薄すぎると十分な耐食性を発揮しない恐れがある一方、厚みが厚すぎると磁石の磁気特性に悪影響を及ぼす恐れがある。表面改質層中の主層の厚みは0.4μm〜9.9μmが望ましく、1μm〜7μmがより望ましい。最表層の厚みは10nm〜500nmが望ましく、30nm〜300nmがより望ましく、50nm〜200nmが更に望ましい。
本発明が適用される希土類系焼結磁石としては、例えば、下記の製造方法によって製造したR−Fe−B系焼結磁石が挙げられる。
25質量%以上40質量%以下の希土類元素Rと、0.6質量%〜1.6質量%のB(硼素)と、残部Feおよび不可避不純物とを包含する合金を用意する。ここで、Rは重希土類元素RHを含んでいてもよい。また、Bの一部はC(炭素)によって置換されていてもよいし、Feの一部は(50質量%以下)は、他の遷移金属元素(例えば、CoまたはNi)によって置換されていてもよい。この合金は、種々の目的により、Al、Si、Ti、V、Cr、Mn、Ni、Cu、Zn、Ga、Zr、Nb、Mo、Ag、In、Sn、Hf、Ta、W、Pb、およびBiからなる群から選択された少なくとも1種の添加元素Mを0.01〜1.0質量%程度含有していてもよい。
上記の合金は、原料合金の溶湯を例えばストリップキャスト法によって急冷して好適に作製され得る。以下、ストリップキャスト法による急冷凝固合金の作製を説明する。
まず、上記組成を有する原料合金をアルゴン雰囲気中において高周波溶解によって溶解し、原料合金の溶湯を形成する。次に、この溶湯を1350℃程度に保持した後、単ロール法によって急冷し、例えば厚さ約0.3mmのフレーク状合金鋳塊を得る。こうして作製した合金鋳片を、次の水素粉砕処理前に例えば1〜10mmのフレーク状に粉砕する。なお、ストリップキャスト法による原料合金の製造方法は、例えば、米国特許第5、383、978号明細書に開示されている。
[粗粉砕工程]
上記のフレーク状に粗く粉砕された合金鋳片を水素炉の内部へ収容する。次に、水素炉の内部で水素脆化処理(以下、「水素粉砕処理」や単に「水素処理」と称する場合がある)工程を行う。水素粉砕処理後の粗粉砕粉合金粉末を水素炉から取り出す際、粗粉砕粉が大気と接触しないように、不活性雰囲気下で取り出し動作を実行することが好ましい。そうすれば、粗粉砕粉が酸化・発熱することが防止され、磁石の磁気特性の低下が抑制できるからである。
水素粉砕処理によって、希土類合金は0.1mm〜数mm程度の大きさに粉砕され、その平均粒径は500μm以下となる。水素粉砕処理後、脆化した原料合金をより細かく解砕するとともに冷却することが好ましい。比較的高い温度状態のまま原料を取り出す場合は、冷却処理の時間を相対的に長くすればよい。
[微粉砕工程]
次に、粗粉砕粉に対してジェットミル粉砕装置を用いて微粉砕を実行する。本実施形態で使用するジェットミル粉砕装置にはサイクロン分級機が接続されている。ジェットミル粉砕装置は、粗粉砕工程で粗く粉砕された希土類合金(粗粉砕粉)の供給を受け、粉砕機内で粉砕する。粉砕機内で粉砕された粉末はサイクロン分級機を経て回収タンクに集められる。こうして、0.1〜20μm程度(典型的には平均粒径3〜5μm)の微粉末を得ることができる。このような微粉砕に用いる粉砕装置は、ジェットミルに限定されず、アトライタやボールミルであってもよい。粉砕に際して、ステアリン酸亜鉛などの潤滑剤を粉砕助剤として用いてもよい。
[プレス成形]
本実施形態では、上記方法で作製された磁性粉末に対し、例えばロッキングミキサー内で潤滑剤を例えば0.3wt%添加・混合し、潤滑剤で合金粉末粒子の表面を被覆する。次に、上述の方法で作製した磁性粉末を公知のプレス装置を用いて配向磁界中で成形する。印加する磁界の強度は、例えば1.5〜1.7テスラ(T)である。また、成形圧力は、成形体のグリーン密度が例えば4〜4.5g/cm程度になるように設定される。
[焼結工程]
上記の粉末成形体に対して、650〜1000℃の範囲内の温度で10〜240分間保持する工程と、その後、上記の保持温度よりも高い温度(例えば、1000〜1200℃)で焼結を更に進める工程とを順次行うことが好ましい。焼結時、特に液相が生成されるとき(温度が650〜1000℃の範囲内にあるとき)、粒界相中のRリッチ相が融け始め、液相が形成される。その後、焼結が進行し、焼結磁石体が形成される。焼結工程の後、時効処理(400℃〜700℃)や寸法調整のための研削を行ってもよい。
本発明の製造方法によって製造される表面改質された希土類系焼結磁石は、優れた耐食性が酸化熱処理によって付与されているとともに、酸化熱処理による磁気特性の低下が抑制されていることに加え、高温や高圧の環境下で水分と接触することによって発生する水素を磁石が吸蔵して脆化することによる磁気特性の低下が効果的に防止されており、さらには、優れた絶縁性を有しているので、例えば、ハイブリッド自動車や電気自動車の駆動モータとして使用されたり、空調機のコンプレッサーなどに組み込まれたりするIPMモータでの使用に適したものであり、オイル中や冷媒(例えばCFC(R12)、HCFC(R22)、HFC(R410A・R407C)、アンモニア、イソブタン、二酸化炭素など)中の水分と高温や高圧の環境下で接触しても、磁気特性の低下が効果的に抑制される。なお、本発明の製造方法によって製造される表面改質された希土類系焼結磁石を用いてIPMモータを製造する場合、ロータの内部に磁石を埋め込む工程を経て行えばよい。
以下、本発明を実施例によってさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定して解釈されるものではない。
(実施例1)
Nd:18.5、Pr:5.7、Dy:7.2、B:1.00、Co:0.9、Cu:0.1、Al:0.2、残部:Fe(単位は質量%)の組成を有する厚さ0.2mm〜0.3mmの合金薄片をストリップキャスト法により作製した。
次に、この合金薄片を容器に充填し、水素処理装置内に収容した。そして、水素処理装置内を圧力500kPaの水素ガスで満たすことにより、室温で合金薄片に水素吸蔵させた後、放出させた。このような水素処理を行うことにより、合金薄片を脆化し、大きさ約0.15mm〜0.2mmの粗粉砕粉末を作製した。
上記の水素処理により作製した粗粉砕粉末に対し粉砕助剤として0.04質量%のステアリン酸亜鉛を添加し混合した後、ジェットミル装置による粉砕工程を行うことにより、粉末粒径が約3μmの微粉末を作製した。
こうして作製した微粉末をプレス装置により成形し、粉末成形体を作製した。具体的には、印加磁界中で粉末粒子を磁界配向した状態で圧縮し、プレス成形を行った。その後、成形体をプレス装置から抜き出し、真空炉により1050℃で4時間の焼結工程を行い、焼結体ブロックを得た。
得られた焼結体ブロックの表面に対し、平面研削盤(大昌精機社製)を用いて平面研削加工を行い(砥石の番手:♯100、砥石の回転数:1500rpm、研削盤への磁石の送り込み速度:0.6m/分)、厚さ6mm×縦7mm×横7mmに寸法調整した。次に、この成形体をアルコール洗浄した後、真空中にて490℃で2.5時間の時効処理を行い、焼結磁石を得た。
図2に示した連続処理炉を用いて以下の方法で、焼結磁石に対し、昇温工程、酸化熱処理工程、降温工程を実行し、表面改質を行った。
(1)昇温工程
常温(25℃を意味する。以下同じ)から酸化熱処理を行う温度(400℃)までの昇温を、露点−40℃の大気(酸素分圧20000Pa,水蒸気分圧12.9Pa)の雰囲気下での2段階工程で行い、前段の工程(第1昇温工程)として常温から200℃までの昇温を700℃/時間の昇温速度にて15分間で行った後、後段の工程(第2昇温工程)として200℃から400℃までの昇温を480℃/時間の昇温速度にて25分間で行った。
(2)酸化熱処理工程
露点0℃の大気(酸素分圧20000Pa,水蒸気分圧600Pa,酸素分圧/水蒸気分圧=33.3)の雰囲気下、400℃で30分間の熱処理を行った。
(3)降温工程
昇温工程で採用した雰囲気下と同様の雰囲気下(露点−40℃の大気:酸素分圧20000Pa,水蒸気分圧12.9Pa)、自然放冷にて400℃から常温まで行った。
以上の方法で表面改質された焼結磁石を樹脂埋め研磨後、イオンビーム断面加工装置(SM09010:日本電子社製)を用いて試料作製し、電界放出型走査電子顕微鏡(S−4300:日立ハイテクノロジー社製)を用いて断面観察を行った結果を図3と図4に示す。断面観察の結果から、焼結磁石の表面に形成された改質層の厚みは2.3μmであること、この改質層は複数の層からなり、少なくとも主層と、厚みが95nmの最表層が存在することがわかった(試料の断面の横幅1mmの範囲内で無作為に選択した20ポイントでの測定値の平均値。以下同じ)。改質層中の主層の組成と素材(焼結磁石)の組成をエネルギー分散型X線分析装置(Genesis2000:EDAX社製)を用いて分析した結果を表1に示す。表1から明らかなように、改質層中の主層は素材に比較してFeの含量が少ない反面、酸素の含量が非常に多いことがわかった。また、表面改質された焼結磁石の表面からX線回折装置(RINT2400:Rigaku社製)を用いて改質層中の最表層を分析した結果を図5に示す。図5から明らかなように、改質層中の最表層はヘマタイトを主体とする層であることがわかった。なお、最表層を構成する酸化鉄は100%がヘマタイトであった(ラマン分析による)。このヘマタイトを主体とする最表層は、熱処理によって素材の主相(RFe14B)の一部が分解されたことでFeが主相から流出するとともに酸化して形成されたものであると推測された。表面改質の方法と結果のまとめを表2に示す。
(実施例2)
実施例1と同じ方法で得た焼結体ブロックに対し、実施例1と同じ方法で時効処理を行った後、実施例1と同じ方法で寸法調整を行って焼結磁石を得た。得られた焼結磁石をアルコール洗浄した後、実施例1と同じ方法で表面改質を行った。その結果、実施例1において焼結磁石の表面に形成された改質層と同様の構成を有する改質層が焼結磁石の表面に形成された。焼結磁石の表面に形成された改質層の厚みは2.4μmであり、最表層の厚みは105nmであった。表面改質の方法と結果のまとめを表2に示す。
(実施例3)
第1昇温工程を1750℃/時間の昇温速度にて6分間で行った後、第2昇温工程を480℃/時間の昇温速度にて25分間で行うこと以外は実施例1と同じ方法で焼結磁石に対して表面改質を行った。その結果、実施例1において焼結磁石の表面に形成された改質層と同様の構成を有する改質層が焼結磁石の表面に形成された。焼結磁石の表面に形成された改質層の厚みは2.2μmであり、最表層の厚みは95nmであった。表面改質の方法と結果のまとめを表2に示す。
(実施例4)
第1昇温工程を1050℃/時間の昇温速度にて10分間で行った後、第2昇温工程を600℃/時間の昇温速度にて20分間で行うこと以外は実施例1と同じ方法で焼結磁石に対して表面改質を行った。その結果、実施例1において焼結磁石の表面に形成された改質層と同様の構成を有する改質層が焼結磁石の表面に形成された。焼結磁石の表面に形成された改質層の厚みは1.7μmであり、最表層の厚みは65nmであった。表面改質の方法と結果のまとめを表2に示す。
(実施例5)
第1昇温工程を1050℃/時間の昇温速度にて10分間で行った後、第2昇温工程を150℃/時間の昇温速度にて80分間で行うこと以外は実施例1と同じ方法で焼結磁石に対して表面改質を行った。その結果、実施例1において焼結磁石の表面に形成された改質層と同様の構成を有する改質層が焼結磁石の表面に形成された。焼結磁石の表面に形成された改質層の厚みは2.6μmであり、最表層の厚みは110nmであった。表面改質の方法と結果のまとめを表2に示す。
(実施例6)
第1昇温工程を1050℃/時間の昇温速度にて10分間で行った後、第2昇温工程を360℃/時間の昇温速度にて25分間で行い、酸化熱処理工程を350℃で120分間行うこと以外は実施例1と同じ方法で焼結磁石に対して表面改質を行った。その結果、実施例1において焼結磁石の表面に形成された改質層と同様の構成を有する改質層が焼結磁石の表面に形成された。焼結磁石の表面に形成された改質層の厚みは1.5μmであり、最表層の厚みは75nmであった。表面改質の方法と結果のまとめを表2に示す。
(実施例7)
Nd:15.4、Pr:4.2、Dy:11.7、B:0.97、Co:2.0、Cu:0.1、Al:0.1、残部:Fe(単位は質量%)の組成を有する合金薄片を原料として用いること以外は実施例1と同じ方法で焼結磁石に対して表面改質を行った。その結果、実施例1において焼結磁石の表面に形成された改質層と同様の構成を有する改質層が焼結磁石の表面に形成された。焼結磁石の表面に形成された改質層の厚みは2.4μmであり、最表層の厚みは100nmであった。表面改質の方法と結果のまとめを表2に示す。
(比較例1)
第1昇温工程を700℃/時間の昇温速度にて15分間で行った後、第2昇温工程を1200℃/時間の昇温速度にて10分間で行うこと以外は実施例1と同じ方法で焼結磁石に対して表面改質を行った。その結果、実施例1において焼結磁石の表面に形成された改質層と同様の構成を有する改質層が焼結磁石の表面に形成された。焼結磁石の表面に形成された改質層の厚みは2.1μmであり、最表層の厚みは70nmであった。表面改質の方法と結果のまとめを表2に示す。
(比較例2)
実施例1と同じ方法で得た焼結体ブロックに対し、実施例1と同じ方法で時効処理を行った後、実施例1と同じ方法で寸法調整を行って焼結磁石を得た。得られた焼結磁石をアルコール洗浄した後、比較例1と同じ方法で表面改質を行った。その結果、実施例1において焼結磁石の表面に形成された改質層と同様の構成を有する改質層が焼結磁石の表面に形成された。焼結磁石の表面に形成された改質層の厚みは2.2μmであり、最表層の厚みは75nmであった。表面改質の方法と結果のまとめを表2に示す。
(比較例3)
第1昇温工程を420℃/時間の昇温速度にて25分間で行った後、第2昇温工程を480℃/時間の昇温速度にて25分間で行うこと以外は実施例1と同じ方法で焼結磁石に対して表面改質を行った。その結果、実施例1において焼結磁石の表面に形成された改質層と同様の構成を有する改質層が焼結磁石の表面に形成された。焼結磁石の表面に形成された改質層の厚みは2.2μmであり、最表層の厚みは75nmであった。表面改質の方法と結果のまとめを表2に示す。
(比較例4)
第1昇温工程を900℃/時間の昇温速度にて11.7分間で行った後、第2昇温工程を900℃/時間の昇温速度にて13.3分間で行うこと以外は実施例1と同じ方法で焼結磁石に対して表面改質を行った。その結果、実施例1において焼結磁石の表面に形成された改質層と同様の構成を有する改質層が焼結磁石の表面に形成された。焼結磁石の表面に形成された改質層の厚みは1.9μmであり、最表層の厚みは60nmであった。表面改質の方法と結果のまとめを表2に示す。
(比較例5)
第1昇温工程を900℃/時間の昇温速度にて11.7分間で行った後、第2昇温工程を900℃/時間の昇温速度にて13.3分間で行い、酸化熱処理工程を400℃で120分間行うこと以外は実施例1と同じ方法で焼結磁石に対して表面改質を行った。その結果、実施例1において焼結磁石の表面に形成された改質層と同様の構成を有する改質層が焼結磁石の表面に形成された。焼結磁石の表面に形成された改質層の厚みは6.1μmであり、最表層の厚みは200nmであった。表面改質の方法と結果のまとめを表2に示す。
A:乾燥・湿潤サイクル試験による評価
JIS H8502−1999に基づく中性塩水噴霧サイクル試験方法を参考にし、塩水噴霧を除いた乾燥と湿潤だけのサイクル試験を、実施例1〜実施例7と比較例1〜比較例5で得た表面改質された焼結磁石それぞれ10個(別々のロットで得たサンプル)に対して行い(サイクル数:3および6)、試験後のレイティングナンバ評価(JIS H8502−1999に基づく腐食欠陥評価)を行った。レイティングナンバが7以上のサンプルを合格品、7未満のサンプルを不合格品と判定し、10個のサンプルのうち不合格品と判定されたサンプルの個数を調べた。結果を表3に示す。また、表3には、実施例1で得た表面改質を行う前の焼結磁石の評価結果をあわせて示す(参考例)。
表3から明らかなように、比較例3のサンプルと参考例のサンプル以外は不合格品の発生がなく、全てのサンプルが試験後も十分な耐食性を有しており、表面改質によって優れた耐食性が付与されたことがわかった。比較例3のサンプルは表面改質されているにもかかわらず不合格品が発生した理由は、第1昇温工程にかけた時間が長すぎたことで、磁石の表面に存在していた水分が早期に脱離することなく磁石成分と長い時間活発に反応したことにより、磁石の腐食の原因になったことによるものと推察された。
B:磁気特性の評価
実施例1〜実施例7と比較例1〜比較例5で得た表面改質された焼結磁石それぞれ10個(別々のロットで得たサンプル)について、表面改質を行う前の固有保磁力と表面改質を行った後の固有保磁力を磁気測定装置(TPM−2−10:東英工業社製)を用いて測定し、((1−表面改質を行った後の固有保磁力/表面改質を行う前の固有保磁力)×100)の数式で表面改質による固有保磁力の低下率を算出し、10個のサンプルの固有保磁力の低下率の平均値、最大値、最小値を求めるとともに、表面改質を行ったことで明らかな磁気特性の低下が発生したと判定することができる固有保磁力の低下率が1%を超えるサンプルの個数を調べた。結果を表4に示す。
表4から明らかなように、実施例1〜実施例7のサンプルと比較例3のサンプルは、表面改質による明らかな磁気特性の低下が認められるものは存在しなかったが、比較例3を除く比較例(比較例4と比較例5は特許文献7に記載の方法に相当)のサンプルは、表面改質による明らかな磁気特性の低下が認められるものが存在した。この理由は、第2昇温工程にかけた時間が短すぎたことで、酸化熱処理によって生成する水素に対するバリア層として機能する酸化層を磁石の表面に十分に形成することができず、磁石が水素を吸蔵することを効果的に抑制することができなかったことによるものと推察された。
C:水分を含むオイルに対する耐性評価
実施例1〜実施例7と比較例1〜比較例5で得た表面改質された焼結磁石それぞれ10個(別々のロットで得たサンプル)を、圧力容器に満たした、純水を0.5質量%添加したオートマチックトランスミッションフリュードオイル(Castrol社製)に、底部に存在する純水にサンプルが触れないように底上げして浸漬した。容器の蓋を締結した後、容器を150℃で900時間保持した。容器からサンプルを取り出した後、磁気測定装置(TPM−2−10:東英工業社製)を用いて角型比(H/HcJ)を測定し、この試験を行ったことで明らかな磁気特性の低下が発生したと判定することができる角型比が90%以下のサンプルの個数を調べた(試験を行う前の角型比はいずれのサンプルも95%程度)。結果を表5に示す。また、表5には、実施例1で得た表面改質を行う前の焼結磁石(参考例1)の評価結果、この焼結磁石の表面にリン酸濃度が0.07mol/Lのリン酸水溶液を用いてリン酸化成被膜を形成した焼結磁石(参考例2)の評価結果、さらにリン酸化成被膜の表面にカチオン電着塗装によって膜厚が約20μmのエポキシ樹脂被膜を形成した焼結磁石(参考例3)の評価結果、実施例1で得た表面改質を行う前の焼結磁石の表面に特開2000−335921号公報に記載の蒸着被膜形成装置を用いて膜厚が約7μmのAl被膜を形成した後、ショットピーニングを行ってからさらにAl被膜の表面に日本パーカライジング社のパルコート3756を用いてリン酸ジルコニウム系化成被膜を形成した焼結磁石(参考例4)の評価結果をあわせて示す。
表5から明らかなように、この試験環境は、参考例3の焼結磁石の表面にリン酸化成被膜とエポキシ樹脂被膜を積層形成したサンプルであっても全てのサンプルについて明らかな磁気特性の低下が認められる程に過酷なものであるにもかかわらず、実施例1〜実施例7のサンプルは、参考例4のサンプルと同様、明らかな磁気特性の低下が認められるものは存在しなかった。比較例1〜比較例5のサンプルについても表面改質による磁気特性の低下防止効果が発揮されたが、明らかな磁気特性の低下が認められるものが存在した。この相違は、焼結磁石の表面に形成された改質層中の最表層の厚みの割合に着目すると、実施例1〜実施例7のサンプルは、比較例1〜比較例5のサンプルよりも明らかにその割合が高く、少なくとも3.5%以上の割合を有することから(表2参照)、ヘマタイトを主体とする安定な最表層の厚みの改質層中の割合が高いことで、オイルに含まれる水分と磁石との反応によって生成した水素を磁石が吸蔵することを効果的に抑制したことによるものと推察された。なお、最表層の厚み自体に着目すると、比較例5のサンプルの最表層が最も厚いが、比較例5のサンプルの評価結果は実施例1〜実施例7のサンプルの評価結果よりも劣ることからすれば、実施例1〜実施例7のサンプルの評価結果が比較例5の評価結果よりも優れる理由には、改質層中の最表層の厚みの割合が高いことの他にも、改質層中の最表層の厚みの割合が高いことで主層が緻密化されるなどして、磁石の内部への水素の拡散が主層によって効果的に阻止されているといったことも考えられた。
D:水分を含む冷媒に対する耐性評価
実施例1〜実施例7と比較例1〜比較例5で得た表面改質された焼結磁石それぞれ10個(別々のロットで得たサンプル)を、圧力容器に満たした、油中水分量が500ppmとなるようにカールフィッシャー水分計を用いて調整したポリオールエステル系冷凍機油(エステル油)に浸漬した。容器の蓋を締結した後、ロータリーポンプを用いて容器の内部を10分間真空引きしてから、140℃に保持した時に絶対圧力が5MPaとなる量のHFC系冷媒R410Aを封入し、容器を140℃で1300時間保持した。容器からサンプルを取り出した後、上記の水分を含むオイルに対する耐性評価と同じ評価を行った。結果を表6に示す。また、表6には、上記の参考例1〜参考例4の評価結果をあわせて示す。
表6から明らかなように、実施例1〜実施例7のサンプルは、上記の水分を含むオイルに対する磁気特性の低下防止効果を発揮したのと同様、水分を含む冷媒に対する磁気特性の低下防止効果を発揮した。
E:絶縁性の評価
実施例1と同じ方法で得た厚さ9mm×縦5mm×横5mmに寸法調整した焼結磁石に対して実施例1と同じ方法で表面改質を行った焼結磁石(実施例)と、比較例1と同じ方法で表面改質を行った焼結磁石(比較例)それぞれ10個(別々のロットで得たサンプル)について、ゼーベック係数測定装置(ZEM−1:ULVAC社製)を用いて電気抵抗率を測定し、10個のサンプルの電気抵抗率の平均値、最大値、最小値を求めた。なお、電気抵抗率の測定は、サンプルを2つ重ねて厚さ18mm×縦5mm×横5mmの形態で行った。結果を表7に示す。また、表7には、表面改質を行う前の焼結磁石(参考例)の評価結果をあわせて示す。
表7から明らかなように、実施例のサンプルと比較例のサンプルは、ともに磁石に対して表面改質が行われたことで絶縁性が付与されたが、比較例のサンプルよりも実施例のサンプルの方が明らかに高い絶縁性を有していた。実施例のサンプルと比較例のサンプルを比較すると、比較例のサンプルよりも実施例のサンプルの方が改質層中の最表層の厚みが厚いことから、実施例のサンプルが優れた絶縁性を有するのは、ヘマタイトを主体とする安定な最表層が磁石に対する優れた絶縁層として機能していることによるものと推察された。
F:IPMモータの製造
実施例1で得た表面改質された焼結磁石をロータの内部に埋め込む工程を経て、ハイブリッド自動車や電気自動車の駆動モータとして使用されるIPMモータを製造した。
本発明は、温度や湿度が変動する環境においても十分な耐食性が酸化熱処理によって付与されているとともに、酸化熱処理による磁気特性の低下が抑制されていることに加え、ハイブリッド自動車や電気自動車の駆動モータとして使用されたり、空調機のコンプレッサーなどに組み込まれたりするIPMモータで使用されても、高温や高圧の環境下で水分と接触することによって発生する水素を吸蔵して脆化することによる磁気特性の低下が効果的に防止されている、表面改質された希土類系焼結磁石の製造方法を提供することができる点において産業上の利用可能性を有する。

Claims (4)

  1. 希土類系焼結磁石に対し、酸素分圧が1×10Pa〜1×10Paで水蒸気分圧が200Pa〜1000Pa(但し1000Paを除く)の雰囲気下、250℃〜600℃で熱処理を行う工程を含んでなり、かつ、常温から熱処理を行う温度までの昇温を、酸素分圧が1×10Pa〜1×10Paで水蒸気分圧が1×10−3Pa〜100Paの雰囲気下での2段階工程で行い、常温から200℃までの第1昇温工程、昇温速度を700℃/時間〜2000℃/時間とし、工程時間を20分間未満とするヒートパターンによって行った後、200℃から熱処理を行う温度までの第2昇温工程、昇温速度を100℃/時間〜650℃/時間とし、工程時間を20分間以上とするヒートパターンによって行うことを特徴とする表面改質された希土類系焼結磁石の製造方法。
  2. 常温から200℃までの昇温を5分間〜15分間で行うことを特徴とする請求項1記載の製造方法。
  3. 200℃から熱処理を行う温度までの昇温を20分間〜30分間で行うことを特徴とする請求項1または2記載の製造方法。
  4. 請求項1記載の製造方法によって製造された表面改質された希土類系焼結磁石をロータの内部に埋め込む工程を含んでなることを特徴とするIPMモータの製造方法
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