JP6035968B2 - ポリオレフィン樹脂からなる成形体の表面物性改良剤組成物と、これを含有する樹脂組成物及びその樹脂成形体 - Google Patents

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Description

本発明は、ポリオレフィン樹脂からなる成形体の外観及び耐擦傷性の向上とブリードの抑制が可能であり、且つ厳しい環境に晒された場合でもその性能を維持可能な表面物性改良剤と、これを含有する樹脂組成物及びその樹脂成形体に関する。
従来、自動車のインストルメントパネルやドアトリムなどの自動車内装部品は、軟質塩化ビニル樹脂が主流であったが、近年、軽量でリサイクルが容易であり、コストパフォーマンスが高く、燃焼時にガスを発生しないなどの利点から、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマーなどのポリオレフィン樹脂に代替が進められている。しかしながら、これらポリオレフィン樹脂による自動車内装部品は、従来の塩化ビニル樹脂を原料とする自動車内装部品と比較して、耐擦傷性、耐摩耗性及びシボ残り性が劣るなどの欠点がある。
そこで、これらの欠点を補うための樹脂成形体の表面物性改良剤として、本出願人が先に提案した下記特許文献1がある。特許文献1の表面物性改良剤は、融点50〜100℃の無極性ワックスと、ビニル単量体及びラジカル重合開始剤を含む混合液を乳化重合又は懸濁重合してなる重合体とを含有する。当該表面物性改良剤をポリオレフィン樹脂に添加することで、ポリオレフィン樹脂からなる樹脂成形体のブリード、臭気及びフォギングを抑制しながら、外観及び耐擦傷性を向上させている。なお、ビニル単量体としては、アルキル鎖長の炭素数が1〜20の(メタ)アクリル酸アルキルエステル、酸基を有するビニル単量体、ヒドロキシル基を有するビニル単量体、エポキシ基を有するビニル単量体、シアノ基を有するビニル単量体などが例示されている。
特開2009−167352号公報
特許文献1の表面物性改良剤は、通常の環境下では良好な表面物性能が維持される。しかしながら、特許文献1に記載のビニル単量体だけでは、高温環境に長時間晒されると、耐擦傷性が著しく低下するという欠点があることが判明した。
そこで、本発明は上記課題を解決するものであって、その目的は、厳しい環境に晒された場合でも優れた耐擦傷性を維持できる、ポリオレフィン樹脂からなる成形体の表面物性改良剤組成物と、これを含有する樹脂組成物及びその樹脂成形体を提供することにある。
そのための手段として、本発明のポリオレフィン樹脂からなる成形体の表面物性改良剤組成物は、融点が50〜100℃の無極性ワックス(A)50〜90質量部と、二種類の単量体(b1)・(b2)をラジカル共重合して得られるビニル共重合体(B)10〜50質量部とを含有する。なお、(A)+(B)=100質量部である。前記ビニル共重合体(B)を構成する一方の単量体(b1)は、スチレン及び/又はアクリロニトリルとし、他方の単量体(b2)は、下記一般式(1)で表されるメタクリロキシポリオルガノシロキサンとする。そして、前記ビニル共重合体(B)は、(b1)+(b2)=10〜50質量部となる範囲で、前記単量体(b1)を0.1〜49.9質量部、前記単量体(b2)を0.1〜9.9質量部含有している。
Figure 0006035968

(式(1)中のmは整数である)
前記ビニル共重合体(B)は、前記無極性ワックス(A)の存在下で前記二種類の単量体(b1)・(b2)をラジカル重合開始剤を使用して共重合することが好ましい。このように、無極性ワックス(A)の存在下でラジカル重合開始剤を使用して重合を行うことによって、無極性ワックス(A)からの水素引き抜き反応が起こり、無極性ワックス(A)と単量体(b1)・(b2)から形成されるビニル共重合体(B)とのグラフト共重合体が形成されるからである。このグラフト共重合体は、樹脂成形体を形成する例えばポリオレフィン樹脂に親和性を示さず、樹脂成形体の表面に配向されやすい無極性ワックス(A)と、ポリオレフィン樹脂よりも硬質且つポリオレフィン樹脂と極性の異なる単量体(b1)及びポリオルガノシロキサンを有することで表面物性改良剤組成物の表面配向性を向上する単量体(b2)とから構成されている。
また、本発明によれば、ポリオレフィン樹脂100質量部に対して、上記表面物性改良剤組成物を0.5〜10質量部含有する樹脂組成物も提案される。
さらに、当該樹脂組成物を成形して得られる、樹脂成形体も提案される。
なお、本発明において数値範囲を表す「○○〜××」は、その下限値及び上限値を含む意味である。したがって、正確に表現すれば「○○以上××以下」となる。
本発明は、無極性ワックス(A)の滑性効果により、ポリオレフィン樹脂からなる成形体の耐擦傷性を向上することができる。しかも、ビニル系共重合体(B)に含有されるメタクリロキシポリジメチルシロキサン単量体(b2)の効果によって、高温条件に長時間晒されたとしても、優れた耐擦傷性を維持することができる。また、従来のようにシリコーンオイル、脂肪族エステル、高級脂肪酸アミドなどの低分子量成分を含有しないためブリードが発生せず、ポリオレフィン樹脂からなる成形体の外観を損ねることがない。
〔表面物性改良剤組成物〕
本発明の表面物性改良剤組成物は、ポリオレフィン樹脂からなる成形体(以下、単にポリオレフィン樹脂成形体と称す)の表面物性を改良するためのものであって、無極性ワックス(A)とビニル共重合体(B)とを含有する。
表面物性改良剤組成物は、無極性ワックス(A)を幹成分としてビニル共単量体(B)が枝成分として重合したグラフト構造を形成している。このようなグラフト構造の性質に基づいてポリオレフィン樹脂成形体の耐擦傷性が向上すると共に、その外観も良好となる。従って、当該表面物性改良剤を含む樹脂組成物からなるポリオレフィン樹脂成形体は、自動車のインストルメントパネルやドアトリム等の自動車内装部品として好適に使用できる。
<無極性ワックス(A)>
無極性ワックスは低摩擦性などの性質を発現できる化合物であり、主としてポリオレフィン樹脂成形体の耐擦傷性を向上させる機能を有する。当該無極性ワックスとしては、融点が50〜100℃、好ましくは60〜100℃の範囲にあるものであれば、公知のワックスが全て含まれる。融点が50℃よりも低い場合、常温でタッキ性(粘着性)を持つため作業性が悪く、ポリオレフィン樹脂成形体表面へのブリードも多くなる。一方、融点が100℃よりも高い場合はポリオレフィン樹脂成形体の表面への配向性が悪くなり、耐擦傷性が低下する。このような無極性ワックスとしては、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス等の石油由来の天然ワックス、フィッシャートロプシュワックス、ポリエチレンワックス等の合成ワックス等が挙げられるが、中でもマイクロクリスタリンワックスが好ましい。
<ビニル共重合体(B)>
ビニル共重合体は、二種類の単量体(b1)・(b2)をラジカル重合開始剤を使用して共重合した共重合体である。
≪単量体(b1)≫
単量体(b1)としては、その重合体がポリオレフィン樹脂よりも硬質であり、且つポリオレフィン樹脂との極性の相違による排斥(排除)効果によってポリオレフィン樹脂成形体の表面に配向されることにより、耐擦傷性の向上効果が大きくなるような単量体が好適に用いられる。具体的には、アクリロニトリルとスチレンの一方又は双方を使用できる。アクリロニトリル及び/又はスチレンであれば、後述の単量体(b2)との共重合性が良好なため、その他の単量体を使用した場合よりも耐擦傷性の向上効果がより大きくなる。
≪単量体(b2)≫
単量体(b2)としては、下記一般式(1)で表されるメタクリロキシポリオルガノシロキサンを使用する。
Figure 0006035968

(式(1)中のmは整数である)
このような単量体(b2)は、ポリオルガノシロキサンを有することで、表面物性改良剤組成物の表面配向性を著しく向上させることができる。ポリオルガノシロキサンは表面自由エネルギーが小さいため空気側に配向しやすく、ポリオレフィン樹脂成形体中では、表面物性改良剤組成物が表面に配向する。したがって、単量体(b2)としてメタクリロキシポリオルガノシロキサンを有すれば、高温条件に長時間晒されても表面物性改良剤組成物がポリオレフィン樹脂成形体表面に存在し続けるため、耐擦傷性を維持することができる。一方、メタクリロキシポリオルガノシロキサンを有さない表面物性改良剤組成物では、高温条件下に晒されると、ポリオレフィン樹脂成形体の表面から内部側へ徐々に移行して、耐擦傷性が低下してしまう。なお、上記一般式(1)中のm+1は、5〜500が好ましい。本発明では、数平均分子量Mnの異なるメタクリロキシポリオルガノシロキサンを混合して使用することができる。
<ラジカル重合開始剤>
ラジカル重合開始剤は単量体(b1)・(b2)のラジカル重合を開始させる化合物であり、一般的に知られているアゾ系重合開始剤、有機過酸化物、過硫酸塩、過酸化水素水、レドックス重合開始剤(酸化剤及び還元剤を組合せた重合開始剤)等を使用できる。
アゾ系重合開始剤としては、例えばアゾビスイソブチロニトリル、アゾビスイソバレロニトリル、アゾビスジメチルバレロニトリル、アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、1−フェニルエチルアゾジフェニルメタン等が挙げられる。
有機過酸化物としては、例えば1,1−ジ(t−ヘキシルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ジ(t−ヘキシルパーオキシ)シクロヘキサン等のパーオキシケタール類、p−メンタンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド等のハイドロパーオキサイド類、ジ(3,5,5−トリメチルヘキサノイル)パーオキサイド、ジベンゾイルパーオキサイド等のジアシルパーオキサイド類、クミルパーオキシルネオデカノエート、t−ブチルパーオキシルネオデカノエート等のパーオキシエステル類等が挙げられる。
レドックス重合開始剤に用いられる酸化剤としては、ハイドロパーオキサイド又は過硫酸塩が使用できる。ハイドロパーオキサイドとしては、例えばクメンハイドロパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、p−メンタンハイドロパーオキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド等が挙げられる。過硫酸塩としては、例えば過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等が挙げられる。還元剤としては、例えばグルコース、デキストロース、ホルムアルデヒドナトリウムスルホキシラート(ロンガリット)、チオ硫酸ナトリウム、硫酸第一鉄、硫酸銅及びヘキサシアノ鉄(III)カリウム等が挙げられる。
上記に例示したラジカル重合開始剤の中でも、ジ(3,5,5−トリメチルヘキサノイル)パーオキサイド又は過硫酸カリウムが好ましい。
<ビニル共重合体(B)の製造方法>
ビニル系共重合体は、ラジカル重合開始剤を使用した公知の懸濁重合法または乳化重合法によって合成することができる。このとき、単量体(b1)・(b2)は、(b1)+(b2)=10〜50質量部となる範囲で、単量体(b1)を0.1〜49.9質量部、単量体(b2)を0.1〜9.9質量部の範囲で配合する。単量体(b1)・(b2)の配合割合(含有量)がこの範囲から外れると、結果としてポリオレフィン樹脂成形体の表面物性が低下する。
また、ラジカル重合開始剤の配合量(含有量)は、単量体(b1)・(b2)の総量100質量部に対して、好ましくは0.001〜10質量部、より好ましくは0.01〜5質量部とする。ラジカル重合開始剤の含有量が0.001質量部未満の場合には、重合を完結させるために長時間の反応が必要となるばかりでなく、反応が完結しないため好ましくない。一方、10質量部を超える場合には発熱が大きくなり、重合反応の制御が困難となる傾向にある。
乳化重合法によって合成する場合は、ビニル単量と共に界面活性剤も混合しておく。当該乳化重合に使用される界面活性剤としては、公知のノニオン系、アニオン系又はカチオン系の界面活性剤が使用できる。塩析によって重合物を取り出す場合は、アニオン系界面活性剤が好ましい。アニオン系界面活性剤としては、例えば脂肪酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルキルナフタレンスルホン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸エステル塩、アルキルリン酸エステル塩、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物、ポリオキシエチレンアルキル硫酸エステル塩等が挙げられる。これらの界面活性剤は、単量体(b1)・(b2)の総量100質量部に対して0.1〜10質量部程度、好ましくは1〜5質量部の割合で配合すればよい。
乳化重合に際しては、必要に応じて公知のpH調整剤、キレート剤、重合調節剤、重合安定剤などを添加することができる。例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム等のpH調節剤、エチレンジアミン四酢酸ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム等のキレート剤、無機電解質、有機電解質、高分子電解質等からなる粘度調節剤又は重合安定剤等が挙げられる。さらに、重合度を制御するために、公知の架橋剤、連鎖移動剤、重合禁止剤等を添加することも可能である。
重合が完結した後、乳化重合で得られた乳化液は、例えば塩酸、硫酸、硝酸等の酸類、塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫酸ナトリウム、塩化カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸銅、硝酸カルシウムなどの電解質類を用いて塩析した後、濾過、乾燥することで重合体が得られる。
また、懸濁重合法によって合成する場合は、ビニル単量と共に分散剤も混合しておく。分散剤としては、例えば無機系化合物として、リン酸三カルシウム、リン酸マグネシウム、リン酸アルミニウム、リン酸亜鉛、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、メタケイ酸カルシウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、ベントナイト、シリカ、アルミナ、磁性体、フェライト等が挙げられる。また、有機系化合物としては、ポリビニルアルコール、ゼラチン、メチルセルロース、メチルヒドロキシプロピルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロースのナトリウム塩、デンプン等が挙げられ、それを水相に分散又は溶解されて使用される。分散剤の配合量は、単量体(b1)・(b2)の総量100質量部に対して0.01〜10質量部程度、好ましくは0.01〜1質量部程度とすればよい。
懸濁重合が完結した後、濾過及び乾燥することで重合体が得られる。
単量体(b1)・(b2)から形成される重合体の質量平均分子量〔テトラヒドロフラン(THF)中、スチレン換算によるゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)による測定値〕は、通常1,000〜6,000,000、好ましくは1,0000〜4,000,000である。この質量平均分子量が1,000未満であると重合体の耐熱性が低下する傾向があり、質量平均分子量が6,000,000を超えると重合体を溶融させたときの流動性が悪化し、成形性が低下する傾向にある。
<表面物性改良剤組成物の製造方法>
本発明の表面物性改良剤組成物は、無極性ワックス(A)の融点以上の温度で無極性ワックス(A)とビニル系共重合体(B)と混合することで得ることができる。このとき、ビニル系共重合体(B)を製造してから無極性ワックス(A)と混合してもよいし、同一容器内に無極性ワックス(A)と、単量体(b1)と、単量体(b2)とを投入して、無極性ワックス(A)の存在下でビニル系共重合体(B)を製造してもよい。無極性ワックス(A)の存在下でビニル系共重合体(B)を製造した場合は、無極性ワックス(A)とビニル共重合体(B)とがグラフト構造を形成する点で好ましい。
無極性ワックス(A)とビニル共重合体(B)の配合割合(含有量)は、表面物性改良剤組成物100質量部(A+B=100質量部)中に、無極性ワックス(A)が50〜90質量部であり、ビニル共重合体(B)が10〜50質量部とする。無極性ワックス(A)が50質量部より少ないと、表面物性改良剤組成物に含有される滑剤量が少なくなるので、ポリオレフィン樹脂成形体の耐擦傷性が低下してしまう。一方、ビニル系共重合体(B)が10質量部より少ないと、結果として表面物性改良剤組成物に含有される単量体(b2)の量が少なくなり、ポリオレフィン樹脂成形体が高温に晒された場合に耐擦傷性が低下する。
〔樹脂組成物〕
本発明の樹脂組成物は、ポリオレフィン樹脂を主成分として、上記表面物性改良剤組成物を含有する。
ポリオレフィン樹脂としては、α−オレフィン樹脂や熱可塑性エラストマー等が挙げられる。α−オレフィン樹脂を形成するα−オレフィンの具体例としては、例えばエチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、3−メチル−1−ブテン、1−ヘキセン、1−デセン、3−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、1−オクテン、或いはこれらの混合物等が挙げられる。α−オレフィン樹脂の具体例としては、ポリエチレン及びポリプロピレンが挙げられる。
熱可塑性エラストマーとしては、オレフィン系熱可塑性エラストマーが挙げられ、スチレン系熱可塑性エラストマー等が含まれていてもよい。オレフィン系熱可塑性エラストマーの具体例としては、例えばポリプロピレンとエチレン・プロピレン共重合体ゴムとのブレンド物又はその架橋物;ポリエチレンとエチレン・プロピレン共重合体ゴムとのブレンド物又はその架橋物;ポリプロピレンとエチレン・プロピレン・非共役ポリエン共重合体ゴムのブレンド物又はその架橋物;ポリエチレンとエチレン・プロピレン・非共役ポリエン共重合体ゴムのブレンド物又はその架橋物;ポリプロピレンとスチレン・ブタジエンブロック共重合体ゴムの水素添加品(SEBS)とのブレンド物又はその架橋物;ポリプロピレンとエチレン・1−オクテン共重合体ゴムとのブレンド物又はその架橋物;ポリエチレンとエチレン・1−オクテン共重合体ゴムとのブレンド物又はその架橋物等が挙げられる。
スチレン系熱可塑性エラストマーの具体例としては、例えばスチレン・ブタジエン共重合体ゴム(SBR)又はその水素添加品(H−SBR)、スチレン・ブタジエンブロック共重合体ゴム(SBS)又はその水素添加品(SEBS);スチレン・イソプレンブロック共重合体ゴム(SIS)又はその水素添加品(SEPS、HV−SIS)等が挙げられる。
α−オレフィン樹脂及び熱可塑性エラストマーは単独で用いてもよく、また2種以上を適宜組合せて用いてもよい。なお、架橋は公知の方法により行われ、その中でも有機過酸化物による架橋が好ましい。
表面物性改良剤組成物の含有量は、ポリオレフィン樹脂100質量部に対して0.5〜10質量部、好ましくは1〜10質量部とする。ポリオレフィン樹脂100質量部に対して表面物性改良剤組成物が0.5質量部より少ない場合、ポリオレフィン樹脂成形体において十分な耐擦傷性を得ることができない。一方、ポリオレフィン樹脂100質量部に対して表面物性改良剤組成物が10質量部より多い場合、ポリオレフィン樹脂成形体の成形性が低下すると共に、機械的強度が低下する。
樹脂組成物には、本発明の目的を損なわない範囲で、その他の樹脂やゴム、或いは無機充填剤を配合してもよい。このような樹脂やゴムとしては、例えば、エチレン・アクリル酸共重合体、エチレン・アクリル酸メチル共重合体、エチレン・メタクリル酸メチル共重合体、エチレン・アクリル酸エチル共重合体、エチレン・アクリル酸イソブチル共重合体、エチレン・アクリル酸n−ブチル共重合体、エチレン・アクリル酸2−エチルヘキシル共重合体、エチレン・アクリル酸エチル・無水マレイン酸共重合体、エチレン・アクリル酸エチル・メタクリル酸グリシジル共重合体、エチレン・メタクリル酸グリシジル共重合体、エチレン・酢酸ビニル共重合体又はそのケン化物等のエチレン系共重合体;エチレン・プロピレン共重合ゴム、エチレン・プロピレン・非共役ポリエン共重合体ゴム、エチレン・ブテン共重合体ゴム、エチレン・ブテン・非共役ポリエン共重合体ゴム、エチレン・ヘキセン共重合体ゴム、エチレン・オクテン共重合体ゴム等のエチレン系共重合体ゴム;ブチルゴム、ポリイソブチレンゴム、ニトリルゴム(NBR)、天然ゴム(NR)、アクリルゴム(ACM)及びシリコーンゴム等が挙げられる。
無機充填剤としては、例えば炭酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、クレー、カオリン、タルク、シリカ、ケイソウ土、雲母粉、アスベスト、アルミナ、硫酸バリウム、硫酸アルミニウム、硫酸カルシウム、塩基性炭酸マグネシウム、二硫化モリブデン、グラファイト、ガラス繊維、ガラス球、シラスバルーン、塩基性硫酸マグネシウムウィスカー、チタン酸カルシウムウィスカー、ほう酸アルミニウムウィスカー等が挙げられる。
また、樹脂組成物には、本発明の目的を損なわない範囲で滑剤を配合しても良い。このような滑剤としては、ラウリン酸アミド、パルミチン酸アミド、ステアリン酸アミド、ベヘミン酸アミド等の飽和脂肪族アミド系;エルカ酸アミド、オレイン酸アミド、ブラシジン酸アミド、エライジン酸アミド等の不飽和脂肪酸アミド系;メチレンビスステアリン酸アミド、メチレンビスオレイン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド等のビス脂肪酸アミド系;ラウリン酸メチル、ミリスチン酸メチル、パルミチン酸メチル、ステアリン酸メチル、オレイン酸メチル、エルカ酸メチル、ベヘニン酸メチル、ラウリン酸ブチル、ステアリン酸ブチル、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、パルミチン酸オクチル、ヤシ油脂肪酸オクチル、ステアリン酸オクチル、ラウリン酸ラウリル、ステアリン酸ステアリル、ベヘニン酸ベヘニル、ミリスチン酸セチル、ネオペンチルポリオール長鎖脂肪酸エステル、ネオペンチルポリオール脂肪酸エステル、ネオペンチルポリオール脂肪酸エステル、ペンタエリスリトールテトラパルミネート等の脂肪酸エステル系;ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス等の炭化水素系;ステアリン酸、1,2−ヒドロキシステアリン酸等の脂肪酸系;ステアリルアルコール等の高級アルコール系;ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸マグネシウム等の金属石鹸系;シリコーンオイル等のシリコーン系;ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素系樹脂;ポリエチレングリコール、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル、ポリエチレングリコールジメチルエーテル等のアルキレングリコール系等が挙げられる。
さらに、樹脂組成物には、本発明の目的を損なわない範囲で公知の老化防止剤や増核剤、着色剤など任意の添加剤を混合することも可能である。
<樹脂組成物の製造方法>
樹脂組成物は、表面物性改良剤組成物とポリオレフィン樹脂とを混合加熱して溶融、混合することにより調製される。その際の加熱温度は、70〜300℃程度が好ましい。加熱温度が70℃未満の場合、ポリオレフィン樹脂と表面物性改良剤組成物との混練が不完全になったり、溶融粘度が高いため混合が不十分になり、相分離や層状剥離が現れる傾向にある。一方、300℃を超える場合、ポリオレフィン樹脂と表面物性改良剤組成物の分解が激しくなる傾向にある。溶融、混合方法としては、一軸押出機、二軸押出機、バンバリーミキサー、ニーダー、ロールによる混練法等公知の方法が採用される。
〔樹脂成形体〕
樹脂成形体は、上記の樹脂組成物を所定形状に成形することにより得られ、樹脂組成物に含まれる表面物性改良剤組成物の効果が発現される。樹脂成形体の形態としては、シート、フィルム、中空体、ブロック体、板状体、筒体、複雑形状体など、特に限定されない。成形方法としては、熱可塑性樹脂の一般的な成形方法であれば特に限定されず、カレンダー成形法、圧空成形法、加熱成形法、ブロー成形法、発泡成形法、押出成形法、射出成形法、真空成形法、粉末スラッシュ成形法等が挙げられる。樹脂成形体は、優れた表面物性改質効果とその熱安定性により、自動車部品、家電部品、雑貨等の幅広い分野における多種の製品、半製品に利用することができる。
以下に、実施例及び比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
(実施例1−1−1−1)
容量0.5Lの反応槽に、無極性ワックス(A)として50gのマイクロクリスタリンワックス(融点69.7℃)と、単量体(b1)として18gのスチレン及び27gのアクリロニトリルと、単量体(b2)として1gのメタクリロキシポリジメチルシロキサン(数平均分子量Mn=5,000)とを投入し、そこに280gの水と、分散剤として1.6gの第三リン酸カルシウム及び0.4gのヒドロキシプロピルメチルセルロースと、分子量調整剤として0.02gのα−メチルスチレンダイマーとを投入し、70℃に加温して30分攪拌する。
続いて、単量体(b1)として1.9gのスチレンと3.0gのアクリロニトリルと、ラジカル重合開始剤として0.66gのジ(3,5,5,-トリメチルヘキサノイル)パーオキサイドとを混合して反応槽に投入し、70℃で3時間攪拌しながら反応させる。次いで、ラジカル重合開始剤として0.1gの過硫酸カリウムを0.5gの水に溶解させて反応槽に投入し、70℃で1時間攪拌しながら反応させる。その後、40℃以下に冷却して濾過、乾燥工程を経て実施例1−1−1−1の表面物性改良剤組成物を得た。
(実施例1−1−1−2〜実施例1−1−4−7および比較例1−1−1−1〜比較例1−1−1−4)
無極性ワックス(A)、単量体(b1)、単量体(b2)を、それぞれ表1〜4に示す配合量に変更した以外は、実施例1−1−1−1と同様の操作を行って実施例1−1−1−2〜実施例1−1−4−7および比較例1−1−1−1〜比較例1−1−1−4の表面物性改良剤組成物を得た。
なお、表1〜4中に示す各成分は、以下の通りである。
MCW:マイクロクリスタリンワックス(融点69.7℃)
St:スチレンモノマー
AN:アクリロニトリル
PDMS:メタクリロキシポリオルガノシロキサン
また、表1,3において単量体(b2)を示すPDMSの数平均分子量(Mn)は全て5,000である。一方、表2,4において単量体(b2)を示すPDMS1の数平均分子量(Mn)は5,000であり、PDMS2の数平均分子量(Mn)は10,000である。
Figure 0006035968
Figure 0006035968
(実施例1−2−1−1)
容量0.5Lの反応槽に、単量体(b1)として21.6gのスチレン及び5.4gのアクリロニトリルと、単量体(b2)として1.0gのメタクリロキシポリジメチルシロキサンとを投入し、そこに280gの水と、分散剤として1.6gの第三リン酸カルシウム及び0.4gのヒドロキシプロピルメチルセルロースと、分子量調整剤として0.02gのα−メチルスチレンダイマーとを投入し、70℃に加温して30分攪拌する。
続いて、単量体(b1)として2.4gのスチレン及び0.6gのアクリロニトリルと、ラジカル重合開始剤として0.66gのジ(3,5,5,-トリメチルヘキサノイル)パーオキサイドとを混合して反応槽に投入し、70℃で3時間攪拌しながら反応させる。次いで、ラジカル重合開始剤として0.1gの過硫酸カリウムを0.5gの水に溶解させて反応槽に投入し、70℃で1時間攪拌しながら反応させる。その後、40℃以下に冷却して濾過、乾燥工程を経てビニル共重合体を得た。最後に、このビニル共重合体31.0gと、無極性ワックス(A)として69.0gのマイクロクリスタリンワックスとをドライブレンドすることにより、実施例1−2−1−1の表面物性改良剤組成物を得た。
(実施例1−2−2−1〜実施例1−2−4−1および比較例1−2−1−1〜比較例1−2−1−4)
無極性ワックス(A)、単量体(b1)、単量体(b2)を、それぞれ表3,4に示す配合量に変更した以外は、実施例1−2−1−1と同様の操作を行って実施例1−2−2−1〜実施例1−2−4−1および比較例1−2−1−1〜比較例1−2−1−4の表面物性改良剤組成物を得た。
Figure 0006035968
Figure 0006035968
〔ポリオレフィン樹脂成形体〕
(実施例2−1−1−1)
ポリオレフィン樹脂として100gのブロックポリプロピレン(b-PP)と、表面物性改良剤組成物として3gの実施例1−1−1−1とをドライブレンドし、二軸押出機にてシリンダ温度200℃で溶融混練することにより、ポリオレフィン樹脂組成物を得た後、射出成形機にてJIS K 7113の1号形試験片の金型を使用し、シリンダ温度190℃、金型温度50℃にて成形することにより、実施例2−1−1−1のポリオレフィン樹脂成形体を得た。
(実施例2−1−1−2〜実施例2−3−2−1および比較例2−2−1−1〜比較例2−2−2−3)
表面物性改良剤組成物をそれぞれ実施例1−1−1−2〜実施例1−2−3−1および比較例1−1−1−1〜比較例1−2−1−3に変更する以外は、実施例2−1−1−1と同様の操作で実施例2−1−1−2〜実施例2−3−2−1および比較例2−2−1−1〜比較例2−2−2−3のポリオレフィン樹脂成形体を得た。
(比較例2−1−1−1)
ポリオレフィン樹脂として100gのブロックポリプロピレン(b-PP)のみを使用する以外は、実施例2−1−1−1と同様の操作で比較例1−1−1−1のポリオレフィン樹脂成形体を得た。
(比較例2−1−1−2および比較例2−1−1−3)
表面物性改良剤組成物を、それぞれマイクロクリスタリンワックスおよびシリコーンオイルに変更する以外は、実施例2−1−1−1と同様の操作で比較例1−1−1−2および比較例1−1−1−3のポリオレフィン樹脂成形体を得た。
次いで、得られた各実施例及び比較例のポリオレフィン樹脂成形体の物性を、次の方法及び判定基準で評価した。その結果を表5〜8に示す。
<ブリード>
ポリオレフィン樹脂成形体の表面を指でこすり、油膜が指に付着しなかった場合を○、付着した場合を×とした。
<成形性>
ポリオレフィン樹脂成形体の成形時に、シルバーストリーク、フローマーク、ヒケなどの一般的な成形不良が発生しなかった場合を○、発生した場合は×とした。
<機械物性>ポリオレフィン樹脂成形体をJIS K 7113に準じて引張試験を行い、強度低下が見られなかった場合を○、強度低下が見られた場合を×とした。
<初期擦傷性>
ポリオレフィン樹脂成形体を、カトーテック社製スクラッチテスター KK-01を使用し、ISO FDIS 19252に準じてスクラッチ荷重:1〜30N、スクラッチ距離:100mm、スクラッチ速度:100mm/sec、チップ:ステンレスφ=1.0mmにて試験を行った。
<耐擦傷性の熱安定性>
ポリオレフィン樹脂成形体を120℃の送風機能付き恒温槽に120時間静置した後、23℃50%RHの恒温槽に24時間以上状態調節したものを初期擦傷性の評価と同様の操作にて試験を行った。
Figure 0006035968
Figure 0006035968
Figure 0006035968
Figure 0006035968
表5,6の結果から、本発明の表面物性改良剤組成物を含有する各実施例は、ポリオレフィン樹脂成形体の表面物性が良好であると共に、高温条件に長時間晒された場合でも、良好な耐擦傷性が維持されていた。
一方、表7,8の結果から、表面物性改良剤組成物を添加していない比較例2−1−1−1は、耐擦傷性の熱安定性が悪かった。比較例2−1−1−2は、マイクロクリスタリンワックスのみを添加しているだけなので、耐擦傷性の熱安定性が悪かった。比較例2−1−1−3は、シリコーンオイルのみを添加しているだけなので、外観および機械物性が不良であった。比較例2−2−1−1は、実施例2−1−1−1との比較でPDMSがないので、耐擦傷性の熱安定性が悪かった。比較例2−2−1−2は、実施例2−1−1−3との比較でPDMSをさらに増量しているので、外観および機械物性が悪かった。比較例2−2−1−3は、実施例2−1−1−1との比較でワックス量を減量しているので、初期擦傷性が悪かった。比較例2−2−2−1は、実施例2−2−1−1との比較でPDMSがないので、耐擦傷性の熱安定性が悪かった。比較例2−2−2−2は、実施例2−2−1−1との比較でPDMSをさらに増量しているので、外観および機械物性が悪かった。比較例2−2−2−3は、実施例2−2−1−1との比較でPDMSが無いので、耐擦傷性の熱安定性が悪かった。

Claims (4)

  1. 融点が50〜100℃の無極性ワックス(A)50〜90質量部と、二種類の単量体(b1)・(b2)を共重合して得られるビニル共重合体(B)10〜50質量部とを含有し、(A)+(B)=100質量部であり、
    前記ビニル共重合体(B)を構成する一方の単量体(b1)は、スチレン及び/又はアクリロニトリルであり、
    他方の単量体(b2)は、下記一般式(1)で表されるメタクリロキシポリオルガノシロキサンであり、
    前記ビニル共重合体(B)は、(b1)+(b2)=10〜50質量部となる範囲で、前記単量体(b1)を0.1〜49.9質量部、前記単量体(b2)を0.1〜9.9質量部含有する、ポリオレフィン樹脂からなる成形体の表面物性改良剤組成物。
    Figure 0006035968

    (式(1)中のm+1は5〜500の整数である)
  2. 請求項1に記載の表面物性改良剤組成物の製造方法であって、
    前記ビニル共重合体(B)は、前記無極性ワックス(A)の存在下で前記二種類の単量体(b1)・(b2)をラジカル重合開始剤を使用して共重合して得られ、
    前記無極性ワックス(A)とビニル共重合体(B)とがグラフト構造を形成している、表面物性改良剤組成物の製造方法。
  3. ポリオレフィン樹脂100質量部に対し、請求項1に記載の表面物性改良剤組成物を0.5〜10質量部含有する、樹脂組成物。
  4. 請求項3に記載の樹脂組成物を成形して得られる、樹脂成形体。
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