JP6033787B2 - 超速硬性クリンカー、それを用いたセメント組成物、及びその製造方法 - Google Patents

超速硬性クリンカー、それを用いたセメント組成物、及びその製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、土木・建築分野で使用される超速硬性クリンカー、それを用いたセメント組成物、及びその製造方法に関する。
世界の各地で、急速にインフラ整備が進められており、用いられるセメントの生産量が増加している。インフラ整備が急がれる国において、使用する材料として、早期に供用を可能とする材料が求められている。その一例として、超速硬性材料が挙げられる。
例えば、合理化施工を目指す際、超速硬性で優れた流動性をもつセメント系材料が必要となる場合が多い。従来、超速硬性で優れた流動性をもつ材料としては、超速硬・高流動グラウトモルタル(grout mortar)が提案されている(特許文献1〜3参照)。
しかしながら、最近では、さらなる合理化施工の要求や、新たなニーズへの対応から、超速硬材料の要求性能は益々高まってきている。
超速硬・高流動グラウトモルタルの要求性能としては、可使時間も重要な性能となる。施工時間や使用器具等の洗浄時間も考慮すると、最低でも10分以上、できれば15分以上の可使時間の確保が望ましい。しかしながら、可使時間を長く確保することは、硬化時間を遅らせることになるため、短期材齢での要求強度を満たすことが困難となる。このため、従来の技術では、充分な可使時間を確保しつつ、低温において、初期材齢で必要な強度発現性を満たすことは困難であった。
さらに、従来の超速硬・高流動グラウトモルタルは温度依存性が大きく、低温環境下での強度発現性が課題となっていた。すなわち、20℃以上では所定の材齢で要求強度を満たすものの、5℃などの低温では、所定の材齢で要求強度を満たすことができないものであった。これは、無機系の超速硬・高流動グラウトモルタルにおいても、また、樹脂モルタルにおいても共通の課題であった。したがって、温度依存性の小さい超速硬・高流動グラウトモルタルが望まれている。
他方、ポルトランドセメントに、急硬性を与える目的でカルシウムアルミネートを加えること、また、さらにセッコウ類を併用することが米国のSpackmanにより古くから検討されている(特許文献4参照)。
しかしながら、カルシウムアルミネートと石膏類からなる急硬性成分を加えたセメント組成物は、温度依存性が大きく、低温では充分な急硬性が得られないものであった。また、カルシウムアルミネートと石膏類の混合割合や急硬材の添加量によっては、低温で過膨張する傾向もあり、その信頼性に欠けるものであった。また、モルタルやコンクリートの打ち込み面をコテで仕上げても、硬化に伴い表面に凹凸が生じ、美観の観点から好ましくない場合があった。
最近では、前記の急硬性セメント組成物の改良が検討され、ポルトランドセメントに、カルシウムアルミネート、無水セッコウ、及び炭酸リチウムを配合した超速硬セメント(特許文献5参照)や、ポルトランドセメントに、カルシウムアルミネート、無水石膏、炭酸リチウム及び消石灰を配合したモルタル組成物も提案されている(特許文献6参照)。
しかしながら、このモルタルは、低温での強度発現性を充分なまでに改良したものではなく、加えて、流動性の保持能力に難点があった。
日本特開平03−12350号公報 日本特開平01−230455号公報 日本特開平11−139859号公報 米国特許第903019号公報 日本特開平01−290543号公報 日本特開2005−75712号公報
本発明は、流動性に優れ、充分な可使時間を確保しつつ、しかも、温度依存性が小さく、長期強度や耐久性の観点からも信頼性の高い超速硬・高流動モルタル及びコンクリート組成物を調製できる超速硬性クリンカー(clinker)、それを用いたセメント組成物、及びその製造方法を提供する。
本発明者は、前記課題を解決すべく種々検討を重ねた結果、特定の物理的性質を持つ水硬性物質を超速硬性材料として採用することにより、前記課題が解決できるとの知見を得て本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、以下の要旨を有するものである。
(1)質量基準で、CaOが40〜55%、Al が40〜55%、及びSiO が1〜7%の範囲にあるCaO-Al-SiO系化合物を含み、非晶質度が70%以上であり、かつ、1000℃で焼きなました後の真密度の値が、焼きなます前よりも0.01〜0.2g/cmの範囲で小さいことを特徴とする超速硬性クリンカー。
)粉末度が、ブレーン比表面積で4000〜9000cm/gであり、質量基準で、30μm超の含有率が10%以下である、粉末化した上記(1)に記載の超速硬性クリンカー。
)粒子径が、質量基準で、1.0μm未満の含有率が10質量%以下である上記(1)又は(2)に記載の超速硬性クリンカー。
)上記(1)〜()のいずれかに記載の超速硬性クリンカーを配合してなるセメント組成物。
)前記超速硬性クリンカー100質量部に対して、石膏を25〜200質量部含有する上記()に記載のセメント組成物。
)上記(4)又は(5)に記載のセメント組成物を配合してなる結合材。
)凝結調整剤、ガス発泡物質、及び細骨材からなる群から選ばれる1種以上をさらに含有する上記()に記載の結合材。
)CaO原料である生石灰と、Al原料であるボーキサイトと、SiO原料とを配合し、1600℃以上で熱処理し、超急冷する請求項1〜3のいずれかに記載の超速硬性クリンカーの製造方法。
)SiO原料がケイ石である上記()に記載の超速硬性クリンカーの製造方法。
10)前記熱処理は、窒素雰囲気中、一酸化炭素の濃度が1体積%以上であり、酸素濃度が10体積%以下である還元雰囲気で行なう上記()又は()に記載の超速硬性クリンカーの製造方法。
11)前記超急冷は、冷却速度が1000K/秒以上で行なう上記()〜(10)のいずれかに記載の超速硬性クリンカーの製造方法。
本発明の超速硬性クリンカー、それを用いたセメント組成物、及びその製造方法により、流動性に優れ、充分な可使時間を確保しつつ、しかも、温度依存性が小さく、長期強度や耐久性の観点からも信頼性の高い超速硬・高流動グラウトモルタル及びコンクリート組成物を提供することができる。
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明で使用する、「部」や「%」は、特に規定のない限り質量基準である。
また、本発明のセメント組成物とは、セメント組成物、モルタル組成物、及びコンクリート組成物を総称するものである。
本発明の超速硬性クリンカーは、質量基準で、CaOが40〜55%、Al が40〜55%、及びSiO が1〜7%の範囲にあるCaO-Al-SiO系化合物を含み、非晶質度が70%以上、好ましくは80%以上で、かつ、1000℃で焼きなました後の真密度の値が、焼きなます前よりも0.01〜0.2g/cmの範囲で小さいことを特徴とする。
通常、非晶質物質を焼きなまして結晶化させると、真密度の値は大きくなるのが一般的である。これは分子配列が不規則な状態から規則正しい状態に変化することに起因する。本発明において、上記の焼きなました後の真密度は、焼きなます前よりも好ましくは0.03〜0.15g/cmの範囲で小さいことが良好である。


本発明における真密度とは、粒子間の空隙、あるいは粒子中の気孔を考慮せず、原子欠損、転位、及び微少不純物を考慮した理想状態での物質の単位体積当りの質量を指す。
本発明におけるCaO-Al-SiO系化合物は、非晶質度が70%以上であるにもかかわらず、1000℃で焼きなました後の真密度の値が、焼きなます前よりも小さくなるという珍しい化合物である。
ここで、本発明における非晶質度とは、以下のように定義する。
対象物質を1000℃で2時間焼きなました後、毎分5℃の冷却速度で徐冷して結晶化させる。そして、結晶化させたものを粉末X線回折法により測定し、結晶鉱物のメインピークの面積Sを求める。次いで、焼きなます前の物質の結晶のメインピーク面積Sを求め、以下の式により非晶質度Xを求める。
X(%)=100×(1−S/S)
本発明のCaO-Al-SiO系化合物は、CaOが40〜55%、Alが40〜55%、SiOが1〜7%の範囲にあることが好ましく、CaOが43〜53%、Alが43〜53%、SiOが2〜6%の範囲にあることがさらに好ましい。この成分範囲にないと、流動性に優れ、充分な可使時間を確保しつつ、しかも、温度依存性が小さく、長期強度や耐久性、および美観の観点からも信頼性の高い超速硬・高流動グラウトモルタル及びコンクリート組成物を調製できる超速硬性クリンカーとなり難い。
CaO原料としては、生石灰、石灰石、消石灰などが挙げられる。Al原料としては、ボーキサイトやアルミ残灰などが挙げられる。SiO原料としては珪石などが挙げられる。なお、一般の工業原料には、MgO、Fe、TiO、KO、NaO等の不純物が含まれている。これらの不純物は、CaO-Al-SiO系化合物の非晶質化を助長する面もあり、これらの総量は、5%以下の範囲で存在しても差し支えない。
本発明のCaO-Al-SiO系化合物は、限られた条件でしか得ることができない。CaO原料と、Al原料と、SiO原料とを配合し、1600℃以上、好ましくは1650〜2000℃で熱処理し、超急冷することが必要である。1600℃未満の熱処理温度では得られないし、冷却速度が超急冷条件を満たさない場合にも得られない。この2つの条件をともに満たすことが必要である。
本発明の超急冷とは、冷却速度で、1000K/秒以上の冷却速度で冷却することを意味する。特に、原料を1600℃以上で加熱して溶融した状態の流動体を超急冷する直前の温度が1400℃程度であるが、この状態から1000℃までの冷却速度が好ましくは1000K/秒以上、より好ましくは2000K/秒〜100000K/秒の速度で冷却される。
本発明では、熱処理する際の雰囲気が還元雰囲気であることが好ましい。ここで、還元雰囲気とは、窒素雰囲気中で炉内に一酸化炭素が発生し、かつ、酸欠状態のことである。
開放系では、その濃度を正確に測定することは難しいが、電炉内にある溶融物の上方で計測した場合には、一酸化炭素の濃度は、1体積%以上の計測値が得られる。また、同様に酸素濃度を計測すると、少なくとも10体積%以下、通常は6体積%以下である。大気中の酸素濃度は21体積%であることから、電炉内は酸欠状態となっている。
超速硬性クリンカーは、粉砕処理により、粉末度がブレーン比表面積で好ましくは4000〜9000cm/g、より好ましくは4500〜8000cm/gの粉末状にするのが良好である。粉末度が、ブレーン比表面積で4000cm/g未満では、充分な超速硬性が得られない場合や、低温での強度発現性が充分でない場合がある。また、9000cm/gを超えても更なる効果の増進が期待できない。
さらに、超速硬性クリンカーの粒子径は重要であり、分級処理によって調整することが望ましい。超速硬性クリンカーの粒子径は1.0μm未満の含有率が10%以下が好ましく、5%以下がより好ましい。また、30μm超の含有率は10%以下が好ましく、5%以下がより好ましい。
粉末状の超速硬性クリンカーの粒子径が前記範囲であると、長さ変化率、流動性、可使時間の確保、初期強度発現、表面平滑性などを達成することが容易になる。
粉砕方法は特に限定されるものはなく、市販のものが使用可能であり、ボールミルやローラーミルが使用可能である。また分級方法も特に限定されるものではないが、コアンダ効果を利用した気流分級機でクリンカーの粒度を制御することが望ましい。
コアンダ効果を利用する気流分級装置とは、エジェクター等で加速された粉砕品を、空気をキャリアガスとしてノズルから分級室内に噴射すると、粒子の受ける慣性力の違いによって、径の小さい粒子ほど近くのコアンダブロックに沿って流れ、径の大きい粒子ほど遠くへ飛ばされる性質を利用したものであり、粒子径別に複数の分級物を捕集できるように、分級エッジを具備した分級エッジブロックが複数個設けられた気流分級装置である。このような分級装置には、多くの特許文献(例えば特開平7−178371号公報等)があり、また多くの市販品があるので、それらを用いることができる。市販品を例示すれば、株式会社マツボー社製、商品名「エルボジェット」、セイシン企業社製、商品名「クラッシール」などである。
超速硬性クリンカーの粒子径について、1.0μm未満の含有率や30μm超の含有率を確認するためには、市販の粒度分布測定装置を用いることができる。例として、HORIBA製、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置LA−920などが挙げられる。
超速硬性クリンカーは、石膏とともに使用すると効果的である。本発明では、いずれの石膏も使用できる。なかでも、強度発現性の点で、無水石膏が好ましく、II型無水石膏及び/又は天然無水石膏が好ましい。
石膏の粒度は、ブレーン比表面積で4000cm/g以上が好ましく、5000〜7000cm/gがより好ましい。4000cm/g未満では初期強度発現性が低下する場合がある。
石膏の使用量は、超速硬性クリンカー100部に対して25〜200部が好ましく、50〜150部がより好ましく、75〜125部が最も好ましい。これらの範囲外では強度発現性が低下する場合がある。
超速硬性クリンカーと石膏からなる急硬成分の使用量は、セメントと急硬成分の合計100部中、10〜35部が好ましく、15〜30部がより好ましく、20〜25部が最も好ましい。10部未満では初期強度発現性が小さい場合があり、35部を超えると大きな効果がなく、長期強度が低下する場合がある。
本発明では減水剤を併用できる。減水剤はセメントに対する分散作用や空気連行作用を有し、流動性改善や強度増進するものの総称である。
具体的には、ナフタレンスルホン酸系減水剤、メラミンスルホン酸系減水剤、リグニンスルホン酸系減水剤、ポリカルボン酸系減水剤等が挙げられるが、特には限定されるものではない。これらの中では、ナフタレンスルホン酸系減水剤やリグニンスルホン酸系減水剤が好ましく、さらにこれらを併用することが、強度発現性と流動性保持の両立の観点からより好ましい。
本発明では、さらに凝結調整剤を使用することが好ましい。凝結調整剤は、施工時の作業性を確保することを可能とするものであり、通常は粉末状で使用する。凝結調整剤としては、オキシカルボン酸若しくはその塩、又はこれらとアルカリ金属炭酸塩類の併用、糖類等が挙げられる。なかでも、作業性に係わる可使時間を調整でき、硬化後の強度発現性が良好な点で、オキシカルボン酸及び/又はその塩が好ましい。
オキシカルボン酸若しくはその塩を構成する酸としては、クエン酸、グルコン酸、酒石酸、リンゴ酸等が挙げられ、塩としては、これらの酸のナトリウム塩、カリウム塩等が挙げられる。これらの1種又は2種以上が使用される。
凝結調整剤の使用量は、用途、施工の作業時間、凝結調整剤の組成等により幅があり、一義的には決定することは難しい。本発明では、15〜30分の作業時間にあわせてセメントモルタル組成物が硬化するように凝結調整剤の使用量を調整する。
凝結調整剤の使用量は、セメント、超速硬性クリンカー、石膏及び細骨材の合計100部に対して、0.05〜0.5部が好ましく、0.1〜0.3部がより好ましく、0.15〜0.3部が最も好ましい。これらの範囲外では充分な作業時間を確保できず、硬化が遅延する場合がある。
本発明では、無収縮性を付与する目的で、ガス発泡物質を併用することができる。ガス発泡物質は、超速硬性クリンカーをグラウト材料に配合する場合、構造物を一体化させるために、まだ固まらない状態の超速硬性・高流動グラウトモルタルが、沈下や収縮するのを抑止する働きを担う。
ガス発泡物質の具体例としては、例えば、アルミニウム粉や炭素物質のほか、窒素ガス発泡物質、過炭酸塩、過硫酸塩、過ホウ酸塩、過マンガン酸塩などの過酸化物質等が挙げられる。本発明では、炭素物質や、過炭酸塩、過硫酸塩、過ホウ酸塩、過マンガン酸塩などの過酸化物質を用いることが、沈下抑制効果が大きいことから好ましい。中でも、窒素ガス発砲物質や過炭酸塩の使用がさらに好ましい。
窒素ガス発砲物質としては、アゾ化合物、ニトロソ化合物、及びヒドラジン誘導体からなる群から選ばれた一種又は二種以上が使用可能である。例えば、アゾ化合物としては、アゾジカルボンアミド、アゾビスイソブチルニトリルなどが挙げられる。
ニトロソ化合物としては、N,N‘−ジニトロペンタメチレンテトラミン等が挙げられる。ヒドラジン誘導体としては、4,4‘−オキシビスやヒドラジンカルボンアミドが挙げられる。
本発明では、これらの一種又は二種以上が使用可能である。これらの窒素ガス発砲物質は、塩基性のセメントが水と練混ぜた際に、そのアルカリ性雰囲気で窒素ガスを発生するもので、一酸化炭素、二酸化炭素、及びアンモニア等のガスを副生してもよい。
ガス発泡物質の配合割合は、特に限定されるものではないが、通常、アルミニウム粉や過酸化物質ならば、結合材100部に対して、0.0001〜0.1部の範囲で使用でき、0.001〜0.01部の範囲がより好ましい。ガス発砲物質が窒素ガス発砲物質ならば、0.005〜1部が好ましく、0.01〜0.5部がより好ましい。また、ガス発泡物質が炭素質物質ならば、結合材100部に対して、1〜15部の範囲で使用でき、3〜10部の範囲がより好ましい。それぞれ、好ましい範囲の下限値未満では、充分な初期膨張効果を付与することができない場合があり、好ましい範囲の上限値を超えて使用すると、過膨張となって強度発現性が悪くなる場合がある。
本発明で使用するセメントとしては、普通、早強、超早強、低熱、中庸熱等の各種ポルトランドセメント、これらポルトランドセメントに、高炉スラグ、フライアッシュ、シリカ、又は石灰石微粉等を混合した各種混合セメント、さらに、廃棄物利用型セメント、いわゆるエコセメント等が挙げられる。これらの中では、練り混ぜ性及び強度発現性の点で、普通ポルトランドセメント又は早強ポルトランドセメントが好ましい。
本発明では、石灰石微粉末、高炉徐冷スラグ微粉末、下水汚泥焼却灰やその溶融スラグ、都市ゴミ焼却灰やその溶融スラグ、パルプスラッジ焼却灰等の混和材料、減水剤、AE減水剤、高性能減水剤、高性能AE減水剤、消泡剤、増粘剤、防錆剤、防凍剤、収縮低減剤、ポリマー、凝結調整剤、ベントナイト等の粘土鉱物、ハイドロタルサイトなどのアニオン交換体等のうちの1種又は2種以上を、本発明の目的を実質的に阻害しない範囲で使用することが可能である。
本発明では細骨材を併用できる。細骨材としては、適度な施工性及び強度発現性が得られれば、特に限定されるものではない。これらの中では、珪砂が好ましい。細骨材は、乾燥砂が好ましい。乾燥砂としては、絶乾状態の砂が好ましい。
細骨材の使用量は、結合材100部に対して、30〜200部が好ましく、100〜190部がより好ましく、130〜170部が最も好ましい。50部未満では施工性が低下する場合があり、150部を超えると強度が低下する場合がある。
本発明で云う結合材とは、例えば、セメント、超速硬性クリンカー、石膏、凝結調整剤、及び必要に応じて含有する減水剤からなる。
本発明で使用する練り混ぜ水量は、特に限定されるものではないが、通常、水/結合材比で25〜70%が好ましく、30〜50%がより好ましい。これらの範囲外では施工性が大きく低下したり、強度が低下したりする場合がある。
以下に、実施例に基づき本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定して解釈されるものではない。
「実験例1」
表1に示すクリンカー粉砕物を、酸素濃度3体積%、窒素濃度95体積%、一酸化炭素濃度2体積%の還元雰囲気で、1000℃で2時間焼きなました後、毎分5℃の冷却速度で徐冷し、焼きなます前後の真密度を測定した。また、非晶質度も測定した。結果を表1に併記した。なお、クリンカー原料として、CaO原料には生石灰を、Al原料にはボーキサイト、SiO原料にはケイ石を使用した。
<使用材料>
クリンカー粉砕物A:真密度2.97g/cm、非晶質度95%、CaOが51%、Alが43%、SiOが3%、その他3%。加熱温度1700℃、1400℃から1000℃までの冷却速度が8000K/秒。ブレーン比表面積5000cm/g。粒子径1.0μm未満1.0%、30μm超1.0%。
クリンカー粉砕物B:真密度2.98g/cm、非晶質度95%、CaOが45%、Alが47%、SiOが4%、その他4%。加熱温度1700℃、1400℃から1000℃までの冷却速度が8000K/秒。ブレーン比表面積5000cm/g。粒子径1.0μm未満1.0%、30μm超1.0%。
クリンカー粉砕物C:真密度2.94g/cm、非晶質度95%、CaOが43%、Alが46%、SiOが7%、その他4%。加熱温度1700℃、1400℃から1000℃までの冷却速度が8000K/秒。ブレーン比表面積5000cm/g。粒子径1.0μm未満1.0%、30μm超1.0%。
クリンカー粉砕物D:真密度2.99g/cm、非晶質度95%、CaOが52%、Alが40%、SiOが4%、その他4%。加熱温度1700℃、1400℃から1000℃までの冷却速度が8000K/秒。ブレーン比表面積5000cm/g。粒子径1.0μm未満1.0%、30μm超1.0%。
クリンカー粉砕物E:真密度2.95g/cm、非晶質度95%、CaOが50%、Alが46%、SiOが2%、その他2%。加熱温度1700℃、1400℃から1000℃までの冷却速度が8000K/秒。ブレーン比表面積5000cm/g。粒子径1.0μm未満1.0%、30μm超1.0%。
クリンカー粉砕物F:真密度2.97g/cm、非晶質度95%、CaOが46%、Alが46%、SiOが4%、その他4%。加熱温度1700℃、1400℃から1000℃までの冷却速度が8000K/秒。ブレーン比表面積5000cm/g。粒子径1.0μm未満1.0%、30μm超1.0%。
クリンカー粉砕物G:真密度2.90g/cm、非晶質度95%、CaOが44%、Alが50%、SiOが3%、その他3%。加熱温度1700℃、1400℃から1000℃までの冷却速度が8000K/秒。ブレーン比表面積5000cm/g。粒子径1.0μm未満1.0%、30μm超1.0%。
クリンカー粉砕物H:真密度2.98g/cm、非晶質度95%、CaOが46%、Alが51%、SiOが1%、その他2%。加熱温度1700℃、1400℃から1000℃までの冷却速度が8000K/秒。ブレーン比表面積5000cm/g。粒子径1.0μm未満1.0%、30μm超1.0%。
クリンカー粉砕物I:真密度3.00g/cm、非晶質度95%、CaOが55%、Alが40%、SiOが3%、その他2%。加熱温度1700℃、1400℃から1000℃までの冷却速度が8000K/秒。ブレーン比表面積5000cm/g。粒子径1.0μm未満1.0%、30μm超1.0%。
クリンカー粉砕物J:真密度3.02g/cm、非晶質度95%、CaOが57%、Alが40%、SiOが2%、その他1%。加熱温度1700℃、1400℃から1000℃までの冷却速度が8000K/秒。ブレーン比表面積5000cm/g。粒子径1.0μm未満1.0%、30μm超1.0%。
クリンカー粉砕物K:真密度2.88g/cm、非晶質度95%、CaOが40%、Alが57%、SiOが2%、その他1%。加熱温度1700℃、1400℃から1000℃までの冷却速度が8000K/秒。ブレーン比表面積5000cm/g。粒子径1.0μm未満1.0%、30μm超1.0%。
クリンカー粉砕物L:真密度2.97g/cm、非晶質度90%、CaOが45%、Alが47%、SiOが4%、その他4%。加熱温度1700℃、1400℃から1000℃までの冷却速度が7000K/秒。ブレーン比表面積5000cm/g。粒子径1.0μm未満1.0%、30μm超1.0%。
クリンカー粉砕物M:真密度2.96g/cm、非晶質度80%、CaOが45%、Alが47%、SiOが4%、その他4%。加熱温度1700℃、1400℃から1000℃までの冷却速度が6000K/秒。ブレーン比表面積5000cm/g。粒子径1.0μm未満1.0%、30μm超1.0%。
クリンカー粉砕物N:真密度2.95g/cm、非晶質度70%、CaOが45%、Alが47%、SiOが4%、その他4%。加熱温度1700℃、1400℃から1000℃までの冷却速度が5000K/秒。ブレーン比表面積5000cm/g。粒子径1.0μm未満1.0%、30μm超1.0%。
クリンカー粉砕物O:真密度2.94g/cm、非晶質度50%、CaOが45%、Alが47%、SiOが4%、その他4%。加熱温度1700℃、1400℃から1000℃までの冷却速度が4000K/秒。ブレーン比表面積5000cm/g。粒子径1.0μm未満1.0%、30μm超1.0%。
<測定方法>
非晶質度:対象物質を1000℃で2時間焼きなました後、5℃/分の冷却速度で徐冷して結晶化させる。次いで、結晶化させたものを粉末X線回折法により測定し、結晶鉱物のメインピークの面積Sを求める。次いで、焼きなます前の物質の結晶のメインピーク面積Sから、X(%)=100×(1−S/S)の式により非晶質度Xを求めた。
真密度:アルキメデスの原理に基づく気相置換法に準拠して、マルチピクノメーターにより測定した。
ブレーン比表面積:JIS R5201−1997「セメントの物理試験方法」に準じて測定した。
粒子径が1.0μm未満、30μm超粒子の含有率:HORIBA社製、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置LA−920を用いた。粉砕分級したクリンカーをエタノールに超音波分散させ、相対屈折率130a0001の条件で粒度分布を測定した。かかる粒度分布から1.0μm未満、30μm超粒子の含有率を求めた。
Figure 0006033787
表1において、クリンカー粉砕物A〜I、L、M、及びNは、CaO-Al-SiO系化合物であって、非晶質度が70%以上で、かつ、1000℃で焼きなました後の真密度の値が、焼きなます前よりも小さく、CaOが40〜55%、Alが40〜55%、SiOが1〜7%の範囲にある。一方、クリンカー粉砕物J、K、及びOは、1000℃で焼きなました後の真密度の値が、焼きなます前よりも小さくなっていない。
「実験例2」
表1に示した各種のクリンカー粉砕物を使用し、セメント70部、クリンカー15部、及び無水石膏15部からなる結合材を調製し、結合材100部に対して、アルカリ炭酸塩1.0部、有機酸0.2部、流動化剤0.5部、ガス発泡物質0.05部、及び細骨材150部を配合して、材料温度と、室温がともに5℃の条件でモルタル組成物を調製した。この際、練り水は結合材の合計100部に対して37部を使用した。モルタルの流動性、可使時間、初期膨張率、長さ変化率、及び圧縮強度を測定した。結果を表2に併記する。
<使用材料>
セメント:市販(電気化学工業社製)の普通ポルトランドセメント。
無水石膏:II型無水石膏、pH3.0、ブレーン比表面積5000cm/g。
アルカリ炭酸塩:試薬1級の炭酸カリウム。
有機酸:試薬1級のクエン酸。
流動化剤:市販のナフタレン系(花王社製)。
ガス発泡物質:窒素ガス発泡物質、アゾジカルボンアミド、市販品(三協化成社製)。
水:水道水。
細骨材:珪砂。
<測定方法>
流動性:JSCE−F 541−2010「充てんモルタルの流動性試験方法」に準じて、J14漏斗流下値を測定して評価した。8〜10秒の範囲を合格とする。
可使時間:可使時間は練り上がり温度から1℃上昇した時点とした。10分以上を合格とした。
初期膨張率:土木学会「膨張コンクリート設計施工指針(案)」付録2.付属書「膨張材を用いた充填モルタルの施工要領(案)」に従い測定した。ただし、表中の+は膨張側を示す。
長さ変化率:JIS A 6202−1997「コンクリート用膨張材」(B法)に準じて測定した。+200〜+1000(×10−6)を合格とした。+200(×10−6)未満では収縮補償効果が充分でなく、逆に+1000(×10−6)を超えると過膨張である。
圧縮強度:モルタルを型枠に詰めて、4cm×4cm×16cmの成形体を作製し、材齢1時間及び3時間の圧縮強度を、JIS R 5201−1997「セメントの物理試験方法」に準じて測定した。1時間強度は10N/mm以上、3時間強度は20N/mm以上を合格とした。
モルタル平滑性:モルタルを20cm×20cm×4cmの型枠に充填し、モルタル表面を平滑に仕上げた。硬化後にモルタル表面を観察し、平滑な状態が維持されているものを◎、やや凹凸が生じたが概ね平滑なものを○、凹凸が目立つものを△とした。
Figure 0006033787
表2より、CaO-Al-SiO系化合物であって、非晶質度が70%以上で、かつ、1000℃で焼きなました後の真密度の値が、焼きなます前よりも小さくなり、CaOが40〜55%、Alが40〜55%、SiOが1〜7%の範囲にあるクリンカー粉砕物A〜I、L、M、及びNは、流動性に優れ、充分な可使時間を確保でき、寸法安定性に優れ、強度発現性にも優れることがわかる。
一方、1000℃で焼きなました後の真密度の値が、焼きなます前よりも小さくならないクリンカー粉砕物J、K、及びOは、流動性が悪く、充分な可使時間を確保できなかったり、逆に、可使時間が長すぎて初期の強度発現性が乏しかったり、寸法安定性が悪いことがわかる。
「実験例3」
実験No.2-2の配合を用いて、環境温度を表3に示すように変化したこと以外は実験例2と同様に行った。結果を表3に併記した。
Figure 0006033787
表3より、本発明のクリンカー粉砕物を適用すると、温度依存性が小さく、安定した性能が得られ、表面平滑性に優れることがわかる。
「実験例4」
クリンカー粉砕物をBに固定し、固定電気炉内に流しこむガス濃度を表4に示すように変化させたこと以外は実験例1と同様に試験を行った。結果を表4に示す。また、実験例2と同様にモルタル物性を評価した。結果を表5に示す。
Figure 0006033787
Figure 0006033787
「実験例5」
クリンカPを、粉砕してから気流分級機を用いて微粉、中粉、粗粉に分級し、表6に示すブレーン比表面積、1.0μm未満の含有率、30.0μm超の含有率となるように微粉、中粉、粗粉を調合した後、実験例2と同様にモルタル物性を評価した。
<使用材料>
クリンカーP:密度2.98、非晶質度95%、CaOが45%、Alが47%、SiOが4%、その他4%。加熱温度1700℃、1400℃から1000℃までの冷却速度が8000K/秒。
<使用装置>
気流分級機:株式会社マツボー社製、商品名「エルボジェット PURO」
Figure 0006033787
本発明の超速硬性クリンカーを用いたセメント組成物は、優れた流動性と充分な可使時間を確保でき、短時間での強度発現性に優れて温度依存性も小さいため、土木及び建築用途に広範に利用でき、例えば、間隙充填、セルフレベリング床材、ライニング材等に適する。
なお、2011年11月21日に出願された日本特許出願2011−253503号の明細書、特許請求の範囲、及び要約書の全内容をここに引用し、本発明の明細書の開示として、取り入れるものである。

Claims (11)

  1. 質量基準で、CaOが40〜55%、Al が40〜55%、及びSiO が1〜7%の範囲にあるCaO-Al-SiO系化合物を含み、非晶質度が70%以上であり、かつ、1000℃で焼きなました後の真密度の値が、焼きなます前よりも0.01〜0.2g/cmの範囲で小さいことを特徴とする超速硬性クリンカー。
  2. ブレーン比表面積で4000〜9000cm/gであり、質量基準で、30μm超の含有率が10%以下である、粉末化した請求項1に記載の超速硬性クリンカー。
  3. 粒子径が、質量基準で、1.0μm未満の含有率が10%以下である請求項1又は2に記載の超速硬性クリンカー。
  4. 請求項1〜のいずれかに記載の超速硬性クリンカーを配合してなるセメント組成物。
  5. 前記超速硬性クリンカー100質量部に対して、石膏を25〜200質量部含有する請求項に記載のセメント組成物。
  6. 請求項又はに記載のセメント組成物からなる結合材。
  7. 凝結調整剤、ガス発泡物質、及び細骨材からなる群から選ばれる1種以上をさらに含有する請求項に記載の結合材。
  8. CaO原料である生石灰と、Al原料であるボーキサイトと、SiO原料とを配合し、1600℃以上で熱処理し、超急冷する請求項1〜3のいずれかに記載の超速硬性クリンカーの製造方法。
  9. SiO原料がケイ石である請求項に記載の超速硬性クリンカーの製造方法。
  10. 前記熱処理は、窒素雰囲気中、一酸化炭素の濃度が1体積%以上であり、酸素濃度が10体積%以下である還元雰囲気で行なう請求項又はに記載の超速硬性クリンカーの製造方法。
  11. 前記超急冷は、冷却速度が50000K/秒以上で行なう請求項10のいずれかに記載の超速硬性クリンカーの製造方法。
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