JP6180156B2 - 超速硬性クリンカー粉砕物、それを用いたセメント組成物、及びその製造方法 - Google Patents

超速硬性クリンカー粉砕物、それを用いたセメント組成物、及びその製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、土木・建築分野で使用される超速硬性クリンカー、それを用いたセメント組成物、及びその製造方法に関する。
世界各地で、急速にインフラ整備が進められている。インフラ整備が急がれる国では、早期にインフラの供用を可能とする材料が求められている。その一例として、超速硬性材料が挙げられる。
例えば、合理化施工を目指す際、超速硬性で優れた流動性をもつセメント系材料が必要となる場合が多い。従来、超速硬性で優れた流動性をもつ材料としては、超速硬・高流動グラウトモルタル(grout mortar)が提案されている(特許文献1〜3参照)。
超速硬・高流動グラウトモルタルの要求性能としては、可使時間も重要な性能となる。施工時間や使用器具等の洗浄時間も考慮すると、最低でも10分以上、できれば15分以上の可使時間の確保が望ましい。しかしながら、使用するセメントの品質は多様化しており、生産地域やメーカごとに異なる。このため、急硬成分を組み合わせた際、超速硬材料に必要な可使時間を長く確保することが難しいケースが多く存在する。
また、ポルトランドセメントに、急硬性を与える目的でカルシウムアルミネートを加えること、また、さらにセッコウ類を併用することが米国のSpackmanにより古くから検討されている(特許文献4参照)。
しかしながら、カルシウムアルミネートと石膏類からなる急硬性成分を加えたセメント組成物は、温度依存性が大きく、低温では充分な急硬性が得られないものであった。また、カルシウムアルミネートと石膏類の混合割合や急硬材の添加量によっては、低温で過膨張する傾向もあり、その信頼性に欠けるものであった。また、モルタルやコンクリートの打ち込み面をコテで仕上げても、硬化に伴い表面に凹凸が生じ、美観の観点から好ましくない場合があった。
また、可使時間を長く確保することを目的として、アルミノケイ酸カルシウムガラスを基材とした材料も提案されている(特許文献5参照)。しかし、硫酸アルカリ含有量の高いセメントでは所定の物性を充分確保することができない場合があった。
特開平03−12350号公報 特開平01−230455号公報 特開平11−139859号公報 米国特許第903019号 特開平4−97932号公報
本発明は、流動性に優れ、充分な可使時間を確保しつつ、長期強度や耐久性の観点からも信頼性の高い超速硬・高流動モルタル及びコンクリート組成物を調製できる超速硬性クリンカー(clinker)、それを用いたセメント組成物、及びその製造方法を提供する。
本発明者は、前記課題を解決すべく種々検討を重ねた結果、特定の物理的性質を持つ水硬性物質を超速硬性材料として採用することにより、前記課題が解決できるとの知見を得て本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、(1)CaO35〜50質量%、Al35〜50質量%及びSiO7〜18質量%の化学組成で非晶質度が70%以上の超速硬性クリンカーを粉砕してなる、ブレーン比表面積4000〜9000cm/g、30μm超の粒子の含有率が5質量%以下である超速硬性クリンカー粉砕物、(2)さらに、1.0μm未満の粒子の含有率が5%以下である(1)の超速硬性クリンカー粉砕物、(3)(1)又は(2)の超速硬性クリンカー粉砕物100質量部に対して、石膏を25〜200質量部含有してなるセメント組成物、(4)(3)のセメント組成物を配合してなる結合材、(5)凝結調整剤、ガス発泡物質、及び減水剤からなる群から選ばれる1種以上を含有してなる(4)の結合材、(6)超速硬性クリンカーが、CaO原料と、Al原料と、SiO原料とを配合し、1600℃以上で熱処理した後、急冷したものである(1)又は(2)の超速硬性クリンカー粉砕物の製造方法、(7)CaO原料が生石灰、Al原料がボーキサイト、SiO原料がケイ石である(6)の超速硬性クリンカー粉砕物の製造方法、(8)熱処理を、窒素雰囲気中一酸化炭素の濃度が1体積%以上、酸素濃度が10体積%以下の還元雰囲気で行なう(6)又は(7)の超速硬性クリンカー粉砕物の製造方法、(9)急冷の冷却速度が5000K/秒以上である(6)〜(8)のいずれかの超速硬性クリンカー粉砕物の製造方法、である。
本発明の超速硬性クリンカー粉砕物を用いると、硫酸アルカリ含有量の高いセメントを用いた場合でも、流動性に優れ、充分な可使時間を確保しつつ、長期強度や耐久性の観点からも信頼性が高いという顕著な効果を奏するセメント組成物を提供することができる。
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明で使用する、「部」や「%」は、特に規定のない限り質量基準である。
また、本発明のセメント組成物とは、セメント組成物、モルタル組成物、及びコンクリート組成物を総称するものである。
本発明の超速硬性クリンカーは、CaOが35〜50%、Alが35〜50%、SiOが7〜18%の範囲にあることが好ましく、CaOが38〜48%、Alが38〜48%、SiOが10〜16%の範囲にあることがさらに好ましい。この成分範囲にないと、流動性に優れ、充分な可使時間を確保しつつ、しかも、長期強度や耐久性の観点からも信頼性の高い超速硬・高流動グラウトモルタル及びコンクリート組成物を調製できる超速硬性クリンカーとなり難い。
本発明の超速硬性クリンカーは、非晶質度が70%以上である。この範囲を外れると、急硬性が発現しづらくなる。
ここで、本発明における非晶質度とは、以下のように定義する。
対象物質を1000℃で2時間焼きなました後、毎分5℃の冷却速度で徐冷して結晶化させる。そして、結晶化させたものを粉末X線回折法により測定し、結晶鉱物のメインピークの面積Sを求める。次いで、焼きなます前の物質の結晶のメインピーク面積Sを求め、以下の式により非晶質度Xを求める。
X(%)=100×(1−S/S)
本発明の超速硬性クリンカーの原料は、CaO原料としては、石灰石や消石灰などが挙げられる。Al原料としては、ボーキサイトやアルミ残灰などが挙げられる。SiO原料としては珪石などが挙げられる。なお、一般の工業原料には、MgO、Fe、TiO、KO、NaO等の不純物が含まれている。これらの不純物は、CaO-Al-SiO系化合物の非晶質化を助長する面もあり、これらの総量は、5%以下の範囲で存在しても差し支えない。
本発明の超速硬性クリンカーは、限られた条件でしか得ることができない。CaO原料と、Al原料と、SiO原料とを配合し、1600℃以上、好ましくは1650〜2000℃で熱処理し、急冷することが必要である。1600℃未満の熱処理温度では得られないし、冷却速度が急冷条件を満たさない場合にも得られない。この2つの条件をともに満たすことが必要である。
本発明の急冷とは、冷却速度で、5000K/秒以上の冷却速度で冷却することを意味する。特に、原料を1600℃以上で加熱して溶融した状態の流動体を急冷する直前の温度が1400℃程度であるが、この状態から1000℃までの冷却速度が好ましくは5000K/秒以上、より好ましくは7000K/秒〜10000K/秒の速度で冷却される。

本発明では、熱処理する際の雰囲気が還元雰囲気であることが好ましい。
ここで、還元雰囲気とは、窒素雰囲気中で炉内に一酸化炭素が発生し、かつ、酸欠状態のことである。開放系では、その濃度を正確に測定することは難しいが、電炉内にある溶融物の上方で計測した場合には、一酸化炭素の濃度は、1体積%以上の計測値が得られる。また、同様に酸素濃度を計測すると、少なくとも10体積%以下、通常は6体積%以下である。大気中の酸素濃度は21体積%であることから、電炉内は酸欠状態となっている。
本発明の超速硬性クリンカー粉砕物は、粉砕処理及び分級処理により、粉末度がブレーン比表面積で4000〜9000cm/gの粉末に調製することが好ましく、4500〜8000cm/gがより好ましい。超速硬性クリンカー粉砕物の粉末度が、ブレーン比表面積で4000cm/g未満の粉末では、充分な超速硬性が得られない場合や、低温での強度発現性が充分でない場合がある。また、9000cm/gを超えても更なる効果の増進が期待できない。
また、超速硬性クリンカー粉砕物の粒子径は、可使時間の確保や強度発現性の点で重要である。1.0μm未満の粒子の含有率は5%以下が好ましく、3%以下がより好ましい。また、30μm超の粒子の含有率は5%以下が好ましく、3%以下がより好ましい。 前記範囲外では、長さ変化率、流動性、可使時間の確保、初期強度発現、表面平滑性のすべての物性を両立することが難しくなる場合がある。これは、径の小さい粒子の反応性が高すぎたり、径の大きい粒子の反応性が遅れたりすることに起因すると考えられる。
本発明の超速硬性クリンカーの粉砕方法は、特に限定されるものはなく、市販の装置を使用可能であり、ボールミルやローラーミル等が使用可能である。
また、分級方法も特に限定されるものではないが、コアンダ効果を利用した気流分級機でクリンカーの粒度を制御することが望ましい。コアンダ効果を利用する気流分級装置とは、エジェクター等で加速された粉砕品を、空気をキャリアガスとしてノズルから分級室内に噴射すると、粒子の受ける慣性力の違いによって、径の小さい粒子ほど近くのコアンダブロックに沿って流れ、径の大きい粒子ほど遠くへ飛ばされる性質を利用したものであり、粒子径別に複数の分級物を捕集できるように、分級エッジを具備した分級エッジブロックが複数個設けられた気流分級装置である。市販品を例示すれば、株式会社マツボー社製、商品名「エルボジェット」、セイシン企業社製、商品名「クラッシール」等である。
本発明の超速硬性クリンカー粉砕物において、1.0μm未満の粒子の含有率や30μm超の粒子の含有率を確認するためには、市販の粒度分布測定装置を用いることができる。例として、HORIBA製、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置LA−920などが挙げられる。
本発明の超速硬性クリンカー粉砕物は、石膏とともに使用すると効果的である。本発明では、いずれの石膏も使用できる。なかでも、強度発現性の点で、無水石膏が好ましく、天然無水石膏が好ましい。
石膏の粒度は、ブレーン比表面積で4000cm/g以上が好ましく、5000〜7000cm/gがより好ましい。4000cm/g未満では初期強度発現性が低下する場合がある。
石膏の使用量は、超速硬性クリンカー粉砕物100部に対して25〜200部が好ましく、50〜150部がより好ましく、75〜125部が最も好ましい。これらの範囲外では強度発現性が低下する場合がある。
本発明の超速硬性クリンカー粉砕物と石膏からなる急硬成分の使用量は、セメントと急硬成分の合計100部中、10〜35部が好ましく、15〜30部がより好ましく、20〜25部が最も好ましい。10部未満では初期強度発現性が小さい場合があり、35部を超えると大きな効果がなく、長期強度が低下する場合がある。
本発明では、減水剤を併用できる。減水剤はセメントに対する分散作用や空気連行作用を有し、流動性改善や強度増進するものの総称である。
具体的には、ナフタレンスルホン酸系減水剤、メラミンスルホン酸系減水剤、リグニンスルホン酸系減水剤、ポリカルボン酸系減水剤等が挙げられるが、特には限定されるものではない。これらの中では、ナフタレンスルホン酸系減水剤やリグニンスルホン酸系減水剤が好ましく、さらにこれらを併用することが、強度発現性と流動性保持の両立の観点からより好ましい。
本発明では、さらに凝結調整剤を使用することが好ましい。凝結調整剤は、施工時の作業性を確保することを可能とするものであり、通常は粉末状で使用する。凝結調整剤としては、オキシカルボン酸若しくはその塩、又はこれらとアルカリ金属炭酸塩類の併用、糖類等が挙げられる。なかでも、作業性に係わる可使時間を調整でき、硬化後の強度発現性が良好な点で、オキシカルボン酸及び/又はその塩が好ましい。
オキシカルボン酸若しくはその塩を構成する酸としては、クエン酸、グルコン酸、酒石酸、リンゴ酸等が挙げられ、塩としては、これらの酸のナトリウム塩、カリウム塩等が挙げられる。これらの1種又は2種以上が使用される。
凝結調整剤の使用量は、用途、施工の作業時間、凝結調整剤の組成等により幅があり、一義的には決定することは難しい。本発明では、15〜30分の作業時間にあわせてセメントモルタル組成物が硬化するように凝結調整剤の使用量を調整するが、通常、セメント、クリンカー、及び石膏からなる結合材100部に対して、0.1〜2部が好ましく、0.2〜1部がより好ましく、0.3〜0.8部が最も好ましい。これらの範囲外では充分な作業時間を確保できず、硬化が遅延する場合がある。
本発明では、無収縮性を付与する目的で、ガス発泡物質を併用することができる。ガス発泡物質は、超速硬性クリンカー粉砕物をグラウト材料に配合する場合、構造物を一体化させるために、まだ固まらない状態の超速硬性・高流動グラウトモルタルが、沈下や収縮するのを抑止する働きを担う。
ガス発泡物質の具体例としては、例えば、アルミニウム粉や炭素物質のほか、窒素ガス発泡物質、過炭酸塩、過硫酸塩、過ホウ酸塩、過マンガン酸塩等の過酸化物質等が挙げられる。本発明では、炭素物質や、過炭酸塩、過硫酸塩、過ホウ酸塩、過マンガン酸塩等の過酸化物質を用いることが、沈下抑制効果が大きいことから好ましい。中でも、窒素ガス発砲物質や過炭酸塩の使用がさらに好ましい。
窒素ガス発砲物質としては、アゾ化合物、ニトロソ化合物、及びヒドラジン誘導体からなる群から選ばれた1種又は2種以上が使用可能である。例えば、アゾ化合物としては、アゾジカルボンアミド、アゾビスイソブチルニトリル等が挙げられる。
ニトロソ化合物としては、N,N‘−ジニトロペンタメチレンテトラミン等が挙げられる。ヒドラジン誘導体としては、4,4‘−オキシビスやヒドラジンカルボンアミドが挙げられる。
本発明では、これらの1種又は2種以上が使用可能である。これらの窒素ガス発砲物質は、塩基性のセメントが水と練混ぜた際に、そのアルカリ性雰囲気で窒素ガスを発生するもので、一酸化炭素、二酸化炭素、及びアンモニア等のガスを副生してもよい。
ガス発泡物質の使用量は、特に限定されるものではないが、通常、アルミニウム粉や過酸化物質ならば、結合材100部に対して、0.0001〜0.1部の範囲で使用でき、0.001〜0.01部の範囲がより好ましい。ガス発砲物質が窒素ガス発砲物質ならば、0.005〜1部が好ましく、0.01〜0.5部がより好ましい。
また、ガス発泡物質が炭素質物質ならば、結合材100部に対して、1〜15部の範囲で使用でき、3〜10部の範囲がより好ましい。それぞれ、好ましい範囲の下限値未満では、充分な初期膨張効果を付与することができない場合があり、好ましい範囲の上限値を超えて使用すると、過膨張となって強度発現性が悪くなる場合がある。
本発明で云う結合材とは、例えば、セメント、超速硬性クリンカー粉砕物、石膏、凝結調整剤、及び必要に応じて含有する減水剤からなる。
本発明で使用するセメントとしては、普通、早強、超早強、低熱、中庸熱等の各種ポルトランドセメント、これらポルトランドセメントに、高炉スラグ、フライアッシュ、シリカ、又は石灰石微粉等を混合した各種混合セメント、さらに、廃棄物利用型セメント、いわゆるエコセメント等が挙げられる。これらの中では、練り混ぜ性及び強度発現性の点で、普通ポルトランドセメント又は早強ポルトランドセメントが好ましい。
セメント中に硫酸アルカリが多量に含まれると、セメント組成物の流動性、可使時間、長期強度、耐久性等に影響を及ぼす場合がある。JIS R 5210では、普通、早強、超早強、低熱、中庸熱等の各種ポルトランドセメントに対して、三酸化硫黄、アルカリ量(NaO+0.658KO)が規定されている。しかし、混合セメントや海外のセメントに関しては、含有量が規定されていない場合があり、過剰に硫酸アルカリを含有している場合もある。
本発明では、石灰石微粉末、高炉徐冷スラグ微粉末、下水汚泥焼却灰やその溶融スラグ、都市ゴミ焼却灰やその溶融スラグ、パルプスラッジ焼却灰等の混和材料、減水剤、AE減水剤、高性能減水剤、高性能AE減水剤、消泡剤、増粘剤、防錆剤、防凍剤、収縮低減剤、ポリマー、凝結調整剤、ベントナイト等の粘土鉱物、ハイドロタルサイト等のアニオン交換体等のうちの1種又は2種以上を、本発明の目的を実質的に阻害しない範囲で使用することが可能である。
本発明では、細骨材や粗骨材を併用できる。細骨材としては、川砂、山砂、石灰砂及び珪砂等が挙げられる。粗骨材としては、砕石、川砂利、山砂利及び石灰砂利等が挙げられる。適度な施工性及び強度発現性が得られれば、細骨材や粗骨材は特に限定されるものではない。
細骨材の使用量は、結合材100部に対して、30〜200部が好ましく、100〜190部がより好ましく、130〜170部が最も好ましい。50部未満では施工性が低下する場合があり、150部を超えると強度が低下する場合がある。
粗骨材の使用量は、結合材100部に対して、200部以下が好ましく、160部以下がより好ましく、130部以下が最も好ましい。200部を超えると強度が低下する場合がある。
本発明で使用する練り混ぜ水量は、特に限定されるものではないが、通常、水/結合材比で25〜70%が好ましく、30〜50%がより好ましい。これらの範囲外では施工性が大きく低下したり、強度が低下したりする場合がある。
以下に、実施例に基づき本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定して解釈されるものではない。
「実験例1」
クリンカー原料として、CaO原料には生石灰、Al原料にはボーキサイト、SiO原料にはケイ石を使用し、使用材料に示す組成のクリンカーを、酸素濃度3体積%、窒素濃度95体積%、一酸化炭素濃度2体積%の還元雰囲気で合成した。得られたクリンカーをボールミルで粉砕し、使用材料に示すクリンカー粉砕物を合成した。
これらクリンカー粉砕物を使用し、セメント80部、クリンカー10部、及び無水石膏10部からなる結合材を調製し、結合材100部に対して、アルカリ炭酸塩0.5部、有機酸0.1部、減水剤0.5部、ガス発泡物質0.05部、及び細骨材150部を配合して、20℃の条件でモルタル組成物を調製した。この際、練り水は結合材の合計100部に対して37部を使用した。モルタルの流動性、可使時間、初期膨張率、長さ変化率、及び圧縮強度を測定した。
なお、セメントは、製造元の異なる4種類の製品を使用して比較した。
また、可使時間の短い配合については、アルカリ炭酸塩を1.0部、有機酸0.2部まで増量した配合も検討した。結果を表1に併記する。
<使用材料>
クリンカー粉砕物A:非晶質度95%、CaOが50%、Alが35%、SiO13%、その他2%。加熱温度1700℃、1400℃から1000℃までの冷却速度が8000K/秒。ブレーン比表面積5000cm/g。粒子径1.0μm未満1.0%、30μm超1.0%。
クリンカー粉砕物B:非晶質度95%、CaOが47%、Alが38%、SiOが13%、その他2%。加熱温度1700℃、1400℃から1000℃までの冷却速度が8000K/秒。ブレーン比表面積5000cm/g。粒子径1.0μm未満1.0%、30μm超1.0%。
クリンカー粉砕物C:非晶質度95%、CaOが43%、Alが41%、SiOが13%、その他3%。加熱温度1700℃、1400℃から1000℃までの冷却速度が8000K/秒。ブレーン比表面積5000cm/g。粒子径1.0μm未満1.0%、30μm超1.0%。
クリンカー粉砕物D:非晶質度95%、CaOが38%、Alが46%、SiOが13%、その他3%。加熱温度1700℃、1400℃から1000℃までの冷却速度が8000K/秒。ブレーン比表面積5000cm/g。粒子径1.0μm未満1.0%、30μm超1.0%。
クリンカー粉砕物E:非晶質度95%、CaOが35%、Alが50%、SiOが13%、その他2%。加熱温度1700℃、1400℃から1000℃までの冷却速度が8000K/秒。ブレーン比表面積5000cm/g。粒子径1.0μm未満1.0%、30μm超1.0%。
クリンカー粉砕物F:非晶質度95%、CaOが45%、Alが42%、SiOが10%、その他3%。加熱温度1700℃、1400℃から1000℃までの冷却速度が8000K/秒。ブレーン比表面積5000cm/g。粒子径1.0μm未満1.0%、30μm超1.0%。
クリンカー粉砕物G:非晶質度95%、CaOが46%、Alが44%、SiOが7%、その他3%。加熱温度1700℃、1400℃から1000℃までの冷却速度が8000K/秒。ブレーン比表面積5000cm/g。粒子径1.0μm未満1.0%、30μm超1.0%。
クリンカー粉砕物H:非晶質度95%、CaOが42%、Alが40%、SiOが16%、その他2%。加熱温度1700℃、1400℃から1000℃までの冷却速度が8000K/秒。ブレーン比表面積5000cm/g。粒子径1.0μm未満1.0%、30μm超1.0%。
クリンカー粉砕物I:非晶質度95%、CaOが40%、Alが40%、SiOが18%、その他2%。加熱温度1700℃、1400℃から1000℃までの冷却速度が8000K/秒。ブレーン比表面積5000cm/g。粒子径1.0μm未満1.0%、30μm超1.0%。
クリンカー粉砕物J:非晶質度70%、CaOが43%、Alが41%、SiOが13%、その他3%。加熱温度1700℃、1400℃から1000℃までの冷却速度が5000K/秒。ブレーン比表面積5000cm/g。粒子径1.0μm未満1.0%、30μm超1.0%。
クリンカー粉砕物K:非晶質度50%、CaOが43%、Alが41%、SiOが13%、その他3%。加熱温度1700℃、1400℃から1000℃までの冷却速度が4000K/秒。ブレーン比表面積5000cm/g。粒子径1.0μm未満1.0%、30μm超1.0%。
クリンカー粉砕物L:非晶質度95%、CaOが45%、Alが47%、SiOが4%、その他4%。加熱温度1700℃、1400℃から1000℃までの冷却速度が8000K/秒。ブレーン比表面積5000cm/g。粒子径1.0μm未満5.8%、30μm超5.5%。
クリンカー粉砕物M:非晶質度95%、CaOが43%、Alが41%、SiOが13%、その他3%。加熱温度1700℃、1400℃から1000℃までの冷却速度が8000K/秒。ブレーン比表面積5000cm/g。粒子径1.0μm未満5.9%、30μm超5.1%。
セメントa:普通ポルトランドセメント、日本市販品、ブレーン比表面積3100cm/g、比重3.14、NaOが0.3%、KOが0.4%、SOが2.0%。
セメントb:普通ポルトランドセメント、海外市販品、ブレーン比表面積3800cm/g、比重3.15、NaOが0.3%、KOが0.7%、SOが3.3%。
セメントc:普通ポルトランドセメント、海外市販品、ブレーン比表面積4100cm/g、比重3.13、NaOが0.4%、KOが0.5%、SOが3.8%。
セメントd:普通ポルトランドセメント、海外市販品、ブレーン比表面積5200cm/g、比重3.16、NaOが0.3%、KOが1.0%、SOが4.3%。
石膏:無水石膏、pH3.0、ブレーン比表面積5000cm/g。
アルカリ炭酸塩;試薬1級の炭酸カリウム。
有機酸:試薬1級のクエン酸。
減水剤:市販(花王社製)のナフタレン系。
ガス発泡物質:窒素ガス発泡物質、アゾジカルボンアミド、市販品(三協化成社製)。
水:水道水。
細骨材:珪砂、5mm下。
<測定方法>
非晶質度:対象物質を1000℃で2時間焼きなました後、5℃/分の冷却速度で徐冷して結晶化させる。次いで、結晶化させたものを粉末X線回折法により測定し、結晶鉱物のメインピークの面積Sを求める。次いで、焼きなます前の物質の結晶のメインピーク面積Sから、X(%)=100×(1−S/S)の式により非晶質度Xを求めた。
ブレーン比表面積:JIS R5201−1997「セメントの物理試験方法」に準じて測定した。
クリンカー粉砕物の1.0μm未満、30μm超粒子の含有率:HORIBA製、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置LA−920を用いた。粉砕して分級したクリンカーをエタノールに超音波分散させ、相対屈折率130a0001の条件で粒度分布を測定して、質量%に換算した。
流動性:JSCE−F 541−2010「充てんモルタルの流動性試験方法」に準じて、J14漏斗流下値を測定して評価した。8〜10秒の範囲を合格とする。
可使時間:可使時間は練り上がり温度から1℃上昇した時点とした。10分以上を合格とした。
初期膨張率:土木学会「膨張コンクリート設計施工指針(案)」付録2.付属書「膨張材を用いた充填モルタルの施工要領(案)」に従い測定した。ただし、表中の+は膨張側を示す。
長さ変化率:JIS A 6202−1997「コンクリート用膨張材」(B法)に準じて測定した。+200〜+1000(×10−6)を合格とした。+200(×10−6)未満では収縮補償効果が充分でなく、逆に+1000(×10−6)を超えると過膨張である。
圧縮強度:モルタルを型枠に詰めて、4cm×4cm×16cmの成形体を作製し、材齢3時間の圧縮強度を、JIS R 5201−1997「セメントの物理試験方法」に準じて測定した。3時間強度は5N/mm以上、28日強度は60N/mm以上を合格とした。
表面平滑性:モルタルを20cm×20cm×4cmの型枠に充填し、モルタル表面を平滑に仕上げた。硬化後にモルタル表面を観察し、平滑な状態が維持されているものを◎、やや凹凸が生じたが概ね平滑なものを○、凹凸が目立つものを△とした。
Figure 0006180156
表1より、非晶質度が70%以上で、かつ、CaOが35〜50%、Alが35〜50%、SiOが7〜18%の範囲にあるクリンカー粉砕物は、セメントの種類に対する依存度が小さく、流動性に優れ、充分な可使時間を確保でき、寸法安定性に優れ、初期だけでなく、長期強度の発現性にも優れることがわかる。
一方、範囲外のクリンカー粉砕物L、Mは、特定のセメントに対して、充分な可使時間を確保できなかったり、長期強度の発現性が乏しいことが分かる。
また、遅延剤の添加率を上げると、可使時間は多少長くなるが、長期の強度増進が得られにくくなることが分かる。
本発明の超速硬性クリンカー粉砕物を用いると、硫酸アルカリ含有量の高いセメントを用いた場合でも、流動性に優れ、充分な可使時間を確保しつつ、長期強度や耐久性の観点からも信頼性が高いセメント組成物を提供することができるので、土木及び建築用途、例えば、間隙充填、セルフレベリング床材、ライニング材等、広範に利用できる。

Claims (9)

  1. CaO35〜50質量%、Al35〜50質量%及びSiO7〜18質量%の化学組成で非晶質度が70%以上の超速硬性クリンカーを粉砕してなる、ブレーン比表面積4000〜9000cm/g、30μm超の粒子の含有率が5質量%以下である超速硬性クリンカー粉砕物。
  2. さらに、1.0μm未満の粒子の含有率が5質量%以下である請求項1に記載の超速硬性クリンカー粉砕物。
  3. 請求項1又は2に記載の超速硬性クリンカー粉砕物100質量部に対して、石膏を25〜200質量部含有するセメント組成物。
  4. 請求項3に記載のセメント組成物を配合してなる結合材。
  5. 凝結調整剤、ガス発泡物質、及び減水剤からなる群から選ばれる1種以上を含有してなる請求項4に記載の結合材。
  6. 超速硬性クリンカーが、CaO原料と、Al原料と、SiO原料とを配合し、1600℃以上で熱処理した後、急冷したものである請求項1又は2に記載の超速硬性クリンカー粉砕物の製造方法。
  7. CaO原料が生石灰、Al原料がボーキサイト、SiO原料がケイ石である請求項6に記載の超速硬性クリンカー粉砕物の製造方法。
  8. 熱処理を、窒素雰囲気中一酸化炭素の濃度が1体積%以上、酸素濃度が10体積%以下の還元雰囲気で行なう請求項6又は7に記載の超速硬性クリンカー粉砕物の製造方法。
  9. 急冷の冷却速度が5000K/秒以上である請求項6〜8のいずれか一項に記載の超速硬性クリンカー粉砕物の製造方法。
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