JP6032553B2 - 半割スラスト軸受 - Google Patents

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Description

本発明は半割スラスト軸受に関し、より詳しくは、例えばクランクシャフトのスラスト面と摺動する半割スラスト軸受に関する。
従来、シリンダブロックの端面に装着されてクランクシャフトのスラスト面と摺動する半割スラスト軸受は公知である(例えば特許文献1、特許文献2参照)。図6ないし図7に示すように、従来の半割スラスト軸受1は、基材となる半円状の裏金2と、この裏金2における摺動面3となる端面2Aを被覆したライニング層4とを備えている。また、端面2Aの円周方向の両端の箇所には、他の箇所よりも退没させた傾斜面からなるスラストリリーフ5、5が形成されるとともに、端面2Aの円周方向の中央側の箇所には複数の油溝6,6が形成されている。スラストリリーフ5,5及び油溝6,6の箇所のライニングの厚さは、摺動面3の箇所のライニング層4の厚さに比べて薄くなっているか、またはライニング層4の一部を省略して裏金2が一部露出している。
このような構成を有する従来の半割スラスト軸受1は、図8に示すように、前後2枚が一組となってエンジンブロック9の端面9A,9Aに装着されるようになっている。そして、エンジンブロック9の端面9A,9Aに装着された半割スラスト軸受1,1の摺動面3,3は、クランクシャフト11のスラスト面11A,11Aと摺動し、かつトランスミッション側スラスト面11Aから作用するスラスト荷重を支持するようになっている。こうした従来の半割スラスト軸受1、1は、エンジンブロック9に対するクランクシャフト11の軸方向の位置決めの役割も果たしている。
特開平1−158217号公報 特開平11−201145号公報
ところで、スラストリリーフ5、5を備えた従来の半割スラスト軸受1においては次のような欠点があった。すなわち、図9に示すように、従来からエンジンブロック9とクランクキャップ10の組み付け時にエンジンブロック9の両端面9A,9A(スラスト面)が変形することは知られている。そのため、この図9に示すように、エンジンブロック9の両端面9A,9Aの内周縁9A‘、9A’の近傍が膨出し、それに伴って両半割スラスト軸受1,1における円周方向の両端の箇所がスラスト面11A、11Aに向けて僅かに押し出される。すると、半割スラスト軸受1,1における平坦な摺動面3とスラストリリーフ5,5との境界部3Aとその近傍がスラスト面11A,11Aと線接触して片当たりすることになる。そのため、従来の半割スラスト軸受1においては、上記境界部3Aとその近傍のライニング層4が疲労して剥離あるいは損傷する恐れがあった。
また、油溝6,6から摺動面3に潤滑油が供給された際において、従来の半割スラスト軸受1の摺動面3は平坦面となっているので、上記スラストリリーフ5との境界部3Aからスラストリリーフ5に向けて摺動面3の潤滑油が漏れやすいという欠点があった。
上述した事情に鑑み、本発明は、半円状に形成された裏金と、上記裏金の端面における円周方向の両端の箇所に形成されたスラストリリーフと、上記裏金の端面における少なくとも摺動面となる箇所を被覆したライニング層とを備える半割スラスト軸受において、
少なくとも上記摺動面となるライニング層を被覆して樹脂コーティング層を形成するとともに、該樹脂コーティング層における各スラストリリーフとの境界部とその近傍は、他の箇所よりも膨出して略放射方向に連続する放射方向膨出部として形成されており、
また、上記樹脂コーティング層の内周縁と外周縁を膨出させることにより内周側膨出部と外周側膨出部が形成されており、これら内周側膨出部と外周側膨出部は上記スラストリリーフの箇所を除いて円周方向に連続させて形成されており、さらに、上記内周側膨出部及び外周側膨出部の膨出量は、上記放射方向膨出部の膨出量と同じ寸法に設定されていることを特徴とするものである。
上述した構成によれば、ライニング層は樹脂コーティング層によって被覆されており、しかも樹脂コーティング層はスラストリリーフの境界部とその近傍に放射方向膨出部を備えている。そのため、図8に示した従来品と同様に、本発明の一組の半割スラスト軸受がエンジンブロックに装着されてからエンジンブロックとクランクキャップとの組み付けが行われ、その際のエンジンブロックの変形に伴って半割スラスト軸受の摺動面が相手材であるクランクシャフトのスラスト面に向けて押し出されると、上記放射方向膨出部が弾性変形してなじみ代として機能する。そのため、スラストリリーフの境界部とその近傍におけるライニング層が疲労剥離することを防止することができる。
しかも、摺動面における円周方向の端部には上記放射方向膨出部が存在するので、摺動面からスラストリリーフに向けての潤滑油の漏れが阻止される。そのため、従来と比較して潤滑油の保持性が良好な半割スラスト軸受を提供できる。
参考例を示す正面図。 図1のII―II線に沿う断面図。 図2に示す箇所が相手材と摺動する時の状態を示す断面図。 本発明の実施例を示す正面図。 図4のV―V線に沿う断面図。 従来の半割スラスト軸受を示す正面図。 図6のVII―VII線に沿う断面図。 図6に示す半割スラスト軸受をエンジンブロックに装着した状態を示す図。 図7に示す半割スラスト軸受が相手材と局部的に摺動する時の状態を示す断面図。
図示参考例について本発明を説明すると、図1ないし図2において、半割スラスト軸受1は、半円状をした基材としての裏金2と、この裏金2における摺動面3となる端面2Aの全域を被覆したライニング層4とを備えている。上記裏金2の端面2Aにおける円周方向の両端の箇所には、傾斜面からなるスラストリリーフ5、5が形成されるとともに、端面2Aにおける円周方向の中央側の箇所には、所定間隔を隔てて放射方向の油溝6,6が形成されている。
上記裏金2の材料としては鉄系の材料が用いられており、ライニング層4の材料としてはアルミ系材料または銅系材料が用いられている。このような構成は前述した従来の半割スラスト軸受1と変わるところはない。なお、本実施例において、前述した従来品と対応する部分には従来品と同じ部材番号を付している。
しかして、本実施例は上記構成を前提としたうえで上記ライニング層4の全域を樹脂コーティング層7で被覆するとともに、樹脂コーティング層7における摺動面3とスラストリリーフ5,5との境界部3Aの断面形状を工夫することにより、上記ライニング層4の損傷を防止するとともに摺動面3の潤滑油の保持性を向上させたものである。
すなわち、両スラストリリーフ5,5の箇所を含めて上記ライニング層4の全域は固体潤滑剤(MoS2)を含む樹脂からなる樹脂コーティング層7によって被覆されている。この樹脂コーティング層7は、平坦な摺動面3と傾斜面からなる両スラストリリーフ5,5との境界部3Aとその近傍において他の箇所よりも所定量膨出させて形成されている。それにより、境界部3Aとその近傍に放射方向に連続する放射方向膨出部7A,7Aが形成されている。図2に示すように、放射方向と直交する方向における放射方向膨出部7A,7Aの断面形状はなだらかな山形に形成されており、放射方向膨出部7A、7Aの厚さは実質的に他の領域の1.5倍程度の厚さとなっている。より詳細には、本実施例の樹脂コーティング層7の厚さtは3〜20μmに設定されており、上記放射方向膨出部7Aの膨出量(高さh)は1〜10μmに設定されている(図2参照)。さらに、放射方向膨出部7Aの幅d(円周方向寸法)は1.5〜2mm程度に設定されている。
次に本実施例の半割スラスト軸受1の製造工程を説明するが、最後の工程でライニング層4を樹脂コーティング層7で被覆する以外は、従来同様の製造工程で半割スラスト軸受1を製造する。すなわち、先ず、長方形の板状をした裏金2とその表面を被覆したライニング層4とからなるバイメタルの素材を用意する。なお、裏金2は鉄系材料からなり、ライニング層44の材料としてはアルミ系材料または銅系材料を用いる。次に、素材の一面におけるライニング層4に、素材の長手方向に沿って一対の平行な直線状溝を形成する。これらの直線状溝は、後に 前述した一対の油溝6となる。次に、一対の直線状溝が形成された素材を半円状(円弧状)に打ち抜き加工する。これにより、図1に示した輪郭と同様の形状と構成を備えた複数の素材が打ち抜かれる。その後、半円状に打ち抜かれた素材における円周方向両端部の箇所に切削加工を施して図1に示したスラストリリーフ5を形成する。
最後に両スラストリリーフ5,5、及び油溝6,6の箇所を含めたライニング層4の表面全域にロールコーティングにより固体潤滑剤(MoS2)を含む樹脂を塗布して上記樹脂コーティング層7を形成する。このロールコーティングの際には、樹脂が乾燥する際の表面張力を利用して、上記境界部3Aの箇所に他の箇所よりも膨出する放射方向膨出部7A、7Aを形成する(図1〜図3参照)。
樹脂の乾燥時の表面張力の上昇度合いが大きいほど、両膨出部6A,6Bの膨出量は大きくなり、他方、乾燥時の表面張力の上昇度合いが小さいほど両膨出部6A,6Bの膨出量は小さくなる。そのため、このような樹脂の乾燥時の性質を利用して上記放射方向膨出部7A,7Aを形成するようにしている。なお、放射方向膨出部7Aが適切な膨出量となるように、樹脂の材質を調整してもよい。
また、上述した製造工程に限らず、次のようにして放射方向膨出部7Aを形成してもよい。つまり、先ず、ライニング層4の全域にわたって同一厚さで樹脂コーティング層7を形成した後に、該樹脂コーティング層7における上記境界部3Aとその近傍を除いた領域の樹脂コーティング層7を所定深さで切削することにより、上記放射方向膨出部7A、7Aを形成してもよい。また、境界部3Aの箇所を複数回にわたって樹脂を塗り重ねて放射方向膨出部7A、7Aを形成してもよい。
以上のように構成された本実施例の半割スラスト軸受1は、ライニング層4を被覆して樹脂コーティング層7を備えるとともに、樹脂コーティング層7には上記境界部3Aの箇所に放射方向膨出部7A,7Aが形成されている。そのため、本実施例の半割スラスト軸受1によれば次のような効果を得ることができる。
先ず、摺動面3には、ライニング層4を被覆した樹脂コーティング層7が形成されているので、相手材に対する摺動面3のなじみ性を向上させることができる。
また、図8に示した従来品と同様に、本実施例の半割スラスト軸受1、1がエンジンブロック9の端面9A,9Aに装着されてからエンジンブロック9にクランクキャップ10が組み付けられると、前述したようにエンジンブロック9の端面9A,9Aが変形し、それに伴って半割スラスト軸受1、1における円周方向の両端及びスラストリリーフ5,5の箇所がクランクシャフト11のスラスト面11Aに向けて押し出される。それに伴い、摺動面3,3における放射方向膨出部7Aが、相手材であるクランクシャフト11のスラスト面11Aと局部的に線接触すると、上記厚肉の放射方向膨出部7Aが弾性変形してなじみ代として機能する(図3参照)。このように、ライニング層4を被覆して樹脂コーティング層7が存在し、かつ、放射方向膨出部7Aがスラスト面11Aと片当たりした時のなじみ代として機能するので、境界部3Aにおけるライニング層4(摺動面3)が疲労剥離することを防止することができる。また、前述したように、摺動面3は樹脂コーティング層7で被覆されているので、相手材であるスラスト面11Aとのなじみ性も良好である。
しかも、平坦な摺動面3における円周方向の両端部の箇所、つまり上記スラストリリーフ5,5との境界部3Aには上記放射方向膨出部7A、7Aが存在するので、油溝6,6から摺動面3に潤滑油Oが供給された際に、摺動面3上に浸透した潤滑油Oは放射方向膨出部7Aによってスラストリリーフ5,5内へ排出されるのを阻止される。そのため、摺動面3に潤滑油Oが保持されやすくなり、したがって、従来と比較して潤滑油Oの保持性が良好な半割スラスト軸受1を提供することができる。以上のように本実施例によれば摺動面3の損傷を防止し、かつ摺動面3における潤滑油の保持性が良好な半割スラスト軸受1を提供することができる。
次に図4ないし図5は本発明の実施例を示したものである。この実施例においては、上述した参考例の構成を前提とした上で、上記樹脂コーティング層7の内周縁と外周縁を円周方向に連続させて膨出部としたものである。それにより、この実施例においては、摺動面3の内周縁と外周縁に内周側膨出部7B及び外周側膨出部7Cが形成されている。これら両膨出部7B,7Cの膨出量と幅は、前述した放射方向膨出部7Aの膨出量及び幅と同じ寸法に設定されている。その他の部分は上述した参考例と同じであり、該参考例と対応する各部に同じ番号を付している。
この実施例においては、放射方向膨出部7A、内周側膨出部7B及び外周側膨出部7Cを備えているので、半割スラスト軸受1の摺動面3が相手材となるクランクシャフト11のスラスト面11と片当たりした場合であっても、各膨出部7A〜7Cがなじみ代として機能する。そのため、半割スラスト軸受1のライニング層4の損傷或いは剥離を防止することができる。また、この実施例においては、放射方向膨出部7Aだけなく内周側膨出部7Bと外周側膨出部7Cを備えているので、摺動面3の中央側から半径方向内外及び円周方向に向けての潤滑油Oの漏れを抑制できるので、上記参考例と比較してより一層、潤滑油Oの保持性が良好である。
なお、この実施例においては、摺動面3の内周縁及び外周縁に円周方向に連続させて両膨出部7B,7Cを形成しているが、必ずしも円周方向に連続させて両膨出部7B、7Cを形成させなくてもよい。
また、上記参考例及び実施例においては、摺動面3及びスラストリリーフ5,5の箇所全域も樹脂コーティング層7で被覆しているが、上記境界部3Aとその近傍を樹脂コーティング層7で被覆して、その他のスラストリリーフ5,5の箇所は樹脂コーティング層7を設けなくてもよい。そのような構成であっても、上述した実施例と同様の効果を得ることが可能である。
また、上述した参考例及び実施例は摺動面3に油溝6,6を備えた半割スラスト軸受1に本発明を適用した場合を説明しているが、油溝6,6を備えていない半割スラスト軸受1にも本発明を適用することができる。
1‥半割スラスト軸受 2‥裏金
2A‥端面 3‥摺動面
4‥ライニング層 5、5‥スラストリリーフ
6、6‥油溝 7‥樹脂コーティング層
7A‥放射方向膨出部

Claims (5)

  1. 半円状に形成された裏金と、上記裏金の端面における円周方向の両端の箇所に形成されたスラストリリーフと、上記裏金の端面における少なくとも摺動面となる箇所を被覆したライニング層とを備える半割スラスト軸受において、
    少なくとも上記摺動面となるライニング層を被覆して樹脂コーティング層を形成するとともに、該樹脂コーティング層における各スラストリリーフとの境界部とその近傍は、他の箇所よりも膨出して略放射方向に連続する放射方向膨出部として形成されており、
    また、上記樹脂コーティング層の内周縁と外周縁を膨出させることにより内周側膨出部と外周側膨出部が形成されており、これら内周側膨出部と外周側膨出部は上記スラストリリーフの箇所を除いて円周方向に連続させて形成されており、さらに、上記内周側膨出部及び外周側膨出部の膨出量は、上記放射方向膨出部の膨出量と同じ寸法に設定されていることを特徴とする半割スラスト軸受。
  2. 上記樹脂コーティング層は固体潤滑剤を含む樹脂からなることを特徴とする請求項1に記載の半割スラスト軸受。
  3. 上記樹脂コーティング層の厚さは3〜20μmに設定されており、上記放射方向膨出部の膨出量は1〜10μmに設定されていることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の半割スラスト軸受。
  4. 上記裏金の端面における所要箇所に、放射方向に貫通する油溝が形成されていることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれかに記載の半割スラスト軸受。
  5. 上記樹脂コーティング層は、上記各スラストリリーフのライニング層も被覆して形成されていることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれかに記載の半割スラスト軸受。
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