JP2018035838A - スラストワッシャ - Google Patents
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Abstract
【課題】油保持性が改善されたスラストワッシャを提供する。【解決手段】スラストワッシャ1は、スラスト荷重を受けるスラスト面11を有する基材21と、スラスト面11の少なくとも一部に形成されたコーティング層22とを有し、コーティング層22は、バインダー樹脂221と、バインダー樹脂221中に分散された固体潤滑剤222とを有し、コーティング層22の摺動面における固体潤滑剤222の露出率が7%以上である。【選択図】図2
Description
本発明は、スラストワッシャに関する。
固体潤滑剤が分散された樹脂コーティング層を有する摺動部材が知られている。特許文献1には、油膜破壊および焼付きを防止するため、摺動面の端部に複数の凹部を設けた摺動部材が記載されている。この凹部の開口面積は、摺動面の端に行くにしたがって大きくなる。
特許文献1においては、摺動面における固体潤滑剤の量が制御されておらず、油保持性において改善の余地があった。
これに対し本発明は、油保持性が改善されたスラストワッシャを提供する。
本発明は、スラスト荷重を受けるスラスト面を有する基材と、前記スラスト面の少なくとも一部に形成されたコーティング層とを有し、前記コーティング層は、バインダー樹脂と、前記バインダー樹脂中に分散された固体潤滑剤とを有し、前記コーティング層の摺動面における前記固体潤滑剤の露出率が7%以上であるスラストワッシャを提供する。
前記コーティング層の摺動面における前記固体潤滑剤の露出率が10%以上であってもよい。
前記固体潤滑剤がc軸配向性を有し、前記コーティング層における前記固体潤滑剤の相対c軸強度比が80%以上であってもよい。
負荷曲線において最大表面粗さに対し表面粗さからの深さの50%の占有率が70%以下であってもよい。
前記占有率が50%以下であってもよい。
前記コーティング層の前記摺動面における表面粗さが1〜20μmであってもよい。
前記表面粗さが8〜15μmであってもよい。
前記スラスト面は、前記コーティング層により形成されたテーパ/ランド構造またはステップ/ランド構造を有してもよい。
前記基材は、半環の形状を有し、前記スラスト面は、前記半環の周方向端においてリリーフを有し、前記リリーフには前記コーティング層が形成されなくてもよい。
前記スラスト面は、油溝を有し、前記油溝には前記コーティング層が形成されなくてもよい。
本発明によれば、スラストワッシャにおいて油保持性を改善することができる。
1.構造
図1は、一実施形態に係るスラストワッシャ1の構造を例示する図である。スラストワッシャ1は、例えば、自動車等のエンジンにおいて主軸受とともに用いられるクランクワッシャである。クランクワッシャとは、クランクシャフト(図示略)にかかるスラスト力を支え、かつ、シリンダブロック(図示略)とクランクシャフトとの軸方向の位置決めをする機能を有する。主軸受およびスラストワッシャ1は、シリンダブロックおよびキャップに収容される。シリンダブロックおよびキャップはいずれもハウジングの一例である。
図1は、一実施形態に係るスラストワッシャ1の構造を例示する図である。スラストワッシャ1は、例えば、自動車等のエンジンにおいて主軸受とともに用いられるクランクワッシャである。クランクワッシャとは、クランクシャフト(図示略)にかかるスラスト力を支え、かつ、シリンダブロック(図示略)とクランクシャフトとの軸方向の位置決めをする機能を有する。主軸受およびスラストワッシャ1は、シリンダブロックおよびキャップに収容される。シリンダブロックおよびキャップはいずれもハウジングの一例である。
スラストワッシャ1は、半環形状を有している。半環形状とは、軸受が指示する軸の軸方向においてスラストワッシャから離れた視点から見たときに、中央に円形の孔を有する円をほぼ半分に切断した形状をいう。以下の説明において、この半環の周に沿った方向を周方向といい、環(円)の中心から外に向かう方向を径方向という。
スラストワッシャ1は、スラスト面11、合せ面12、および合せ面13を有する。スラスト面11は、スラスト力を受ける面である。図1ではスラスト面11が正面を向いている。スラスト面11における周方向に垂直な長さをスラストワッシャ1の幅という。合せ面12および合せ面13は、半環のスラストワッシャを2つ組み合わせて用いる場合に、他のスラストワッシャと対向する面である。スラストワッシャ1は、さらに、油溝14および油溝15を有する。油溝14および油溝15は、潤滑油を保持し、保持した潤滑油をスラスト面11に供給する機能を有する。
あくまで一例ではあるが、スラストワッシャ1のサイズは、外径が20〜40mmであり、厚さが1〜4mmである。スラストワッシャ1の内径は一緒に使用する軸受のサイズに応じて設計されるが、スラストワッシャ1の厚さの2.5倍以上であることが好ましい。油溝の底の幅は2〜7mmであり、深さは0.2〜0.5mmである。
図2は、スラストワッシャ1の断面構造を例示する図である。図2は、スラストワッシャ1を幅方向の中央において周方向に沿って切断し、これを平面に展開した仮想的な断面図を示している。スラストワッシャ1は、基材21およびコーティング層22を有する。基材21は、要求される機械的特性および摺動特性を満たす材料、例えば、鉄系、銅系、またはアルミニウム系の合金により形成される。ハウジングおよびクランクシャフトとの凝着を防ぐ観点から、基材21はハウジングおよびクランクシャフトとは異なる材料で形成されることが好ましい。コーティング層22は、基材21のうちスラスト面11に相当する面(以下、面211という)の少なくとも一部に形成される。コーティング層22は、スラスト面11の特性を改善するために設けられる。
この例で、面211はほぼ平坦であり、コーティング層22によりスラスト面11にはテーパ/ランド構造が形成される。テーパ/ランド構造とは、テーパ部23およびランド部24を有する表面構造をいう。ランド部とは、他の部分よりも表面の高さが高くなる部分をいう。表面の高さとは、基材21における所定の基準面(例えば面211)からコーティング層22の表面までの長さ(距離)をいう。テーパ部とは、ランド部から高さが徐々に低くなる部分をいう。この例ではテーパ/ランド構造は周方向に沿って形成されており、径方向に沿った断面においては、テーパ部23およびランド部24の高さはいずれも、それぞれ一定である。スラスト面11がスラスト力を受ける場合、またはスラスト面11が相手材と摺動する場合には、テーパ/ランド構造においてくさび効果による油膜圧力が発生する。さらに、この例では、テーパ部23の両側にランド部24が形成されており、テーパ部23の片側のみにランド部24が形成される例と比較してより効果的に油膜圧力を形成することができる。
また、この例で、面211のうち油溝14および油溝15が形成される部分には、コーティング層22は形成されておらず、基材21が露出する。このように、油溝にコーティング層を形成しないことにより、油溝にコーティング層が形成される例と比較して潤滑油の保持力を向上させることができる。さらに、油溝にコーティング層が形成される例と比較してコーティング層の材料の使用量を低減することができる。
図3は、コーティング層22の構造を例示する模式図である。ここでは説明を簡単にするため、コーティング層22の高さ(厚さ)は一様なものとして図示する。コーティング層22は、バインダー樹脂221および固体潤滑剤222を有する。バインダー樹脂221は、例えば熱硬化性樹脂により形成される。熱硬化性樹脂としては、例えば、ポリアミドイミド(PAI)、ポリアミド(PA)、およびポリイミド(PI)、エポキシ、ポリエーテルエーテルケトン、フェノール、エラストマーの少なくとも1種が用いられる。固体潤滑剤222は、潤滑特性を改善するために添加される。固体潤滑剤222としては、c軸配向性を有する結晶性物質、例えば、MoS2、グラファイト(Gr)、カーボン、フッ素系樹脂、軟質金属(Sn,Bi等)、WS2、およびh−BNの少なくとも1種が用いられる。c軸配向性を有する結晶性物質とは、六方晶系等、層状の結晶構造を有する物質をいう。コーティング層22は、例えば、20〜70vol%の固体潤滑剤222を含む。残部はバインダー樹脂221である。なお、コーティング層22は、固体潤滑剤222に加え、硬質粒子等の他の添加物を含んでいてもよい。硬質粒子としては、例えば、酸化物、窒化物、炭化物、および硫化物の少なくとも1種が用いられる。
コーティング層22の摩滅を防止する観点から、コーティング層22の厚さは10μm以上であることが好ましく、15μm以上であることがより好ましく、20μm以上であることがさらに好ましい。例えば、コーティング層22の厚さが5μm未満であると、コーティング層22が摩耗して基材21が露出してしまう場合がある。基材21が露出すると、摩擦係数が増大したり、クランクシャフトまたはハウジングと凝着したりする問題が発生する。また、コーティング層22の膜厚が厚すぎるとかえって耐焼付き性が低下する場合があることから、50μm以下であることが好ましい。
また、耐焼付き性を向上させる観点から、コーティング層22における固体潤滑剤222の相対c軸強度比は80%以上であることが好ましく、85%以上であることがより好ましい。ここで、相対c軸強度比とは、X線回折における全回折ピーク強度に対する、劈開面からの回折ピーク強度の比をいう。より詳細には、相対c軸強度比は、(002)、(004)、(100)、(101)、(102)、(103)、(105)、(110)、および(008)面からの回折ピーク強度の積算値に対する、(002)、(004)、および(008)面からの回折ピーク強度の積算値の比として定義される。上記の9つの結晶面以外からの回折ピークが現れる場合もあるが、ピーク強度が弱いため相対c軸強度比の算出においては無視する。
相対c軸強度比が80%以上である、すなわち相対c軸強度比が高い状態とは、コーティング層22において固体潤滑剤222の結晶方位が揃っている状態を意味する。結晶方位が揃っている度合いを示しているという意味において、相対c軸強度比を以下では「配向率」という。一般に固体潤滑剤は、層構造を有する結晶における層間滑りにより低い摩擦係数を示す。結晶方位が揃っているということは、層間滑りが起こる方向が揃っているということである。
図4は、コーティング層22における固体潤滑剤222の配向状態を示す模式図である。図4(A)は配向率が低い状態を、図4(B)は配向率が高い状態を、それぞれ示している。これらの図では、固体潤滑剤222を六角形の薄片として表している。図4(B)の例では、固体潤滑剤222は、劈開面が摺動面にほぼ平行な方向に揃っている。図4(B)のようにコーティング層22において固体潤滑剤222の配向率が高いと、摩擦係数が減少し、耐焼付き性が向上する。
固体潤滑剤222の平均粒径は、例えば1〜10μmである。平均粒径は、例えばレーザー回折法により測定される。
図5は、コーティング層22の負荷曲線の概要を示す模式図である。負荷曲線とは、切断レベルの関数として表された輪郭曲線要素の負荷長さ率を表す。なお負荷曲線については、JIS B0601:2013に規定されている。切断レベルとは摺動面の基材の表面に平行な切断面を得るための輪郭曲線の最大山高さからの深さをいう。最大山高さを切断レベル0%とし、最大谷深さを切断レベル100%とする。負荷長さ率Rmr(c)とは、切断レベルcにおける輪郭曲線要素の負荷長さMl(c)の評価長さに対する比率を表す(次式(1))。なおlnは評価長さを、mは切断レベルcにおける山の数を表す。
この例で、コーティング層22においては、切断レベルcが50%の位置における負荷長さ率Rmrは70%以下であることが好ましく、50%以下であることがより好ましい。負荷長さ率が相対的に少ないということは、初期なじみによってコーティング層の表面が数μm摩耗してもまだ凹部が残っており、この凹部に潤滑油を保持することができるためなじみ性および潤滑特性に優れる。
また、この凹部は特許文献1の凹部のように不連続なものではなく、互いに連続している。したがって潤滑油に流れが生まれる。これによって摺動発熱の冷却が進み、摺動特性が損なわれない。
2.製造方法
図6は、スラストワッシャ1の製造方法を例示するフローチャートである。ステップS1において、基材が準備される。ここで準備される基材は、例えば板材の形状を有している。ステップS2において、基材が所定の形状に成型される。この例では、基材が半環形状に成型される。基材の成形は、例えば、切断(切り出し)または打ち抜きにより行われる。基材とコーティング層との密着性を高めるため、基材の表面が粗面化されてもよい。
図6は、スラストワッシャ1の製造方法を例示するフローチャートである。ステップS1において、基材が準備される。ここで準備される基材は、例えば板材の形状を有している。ステップS2において、基材が所定の形状に成型される。この例では、基材が半環形状に成型される。基材の成形は、例えば、切断(切り出し)または打ち抜きにより行われる。基材とコーティング層との密着性を高めるため、基材の表面が粗面化されてもよい。
ステップS3において、コーティング層を形成するための塗料が準備される。まず、バインダー樹脂および固体潤滑剤が公知の方法で混合される。これらの混合体は、希釈剤で希釈される。希釈剤としてはどのようなものが用いられてもよいが、例えば、N−メチルピロリドン(NMP)が用いられる。希釈剤の配合比率は、固形分に対して例えば30〜70体積%である。
ステップS4において、基材の表面に塗料が塗布される。塗料は、例えば、パッド印刷、ロールコーティング、またはスプレーコーティングにより塗布される。1回で塗布できる塗料の厚さが制限される場合、2回以上の重ね塗りが行われてもよい。ステップS5において、塗布層は乾燥および焼成される。コーティング層の表面粗さ(JIS B 0601:2001におけるRzjis)は、例えば1〜20μmであることが好ましく、8〜15μmであることがより好ましい。塗料の塗布後、乾燥・焼成が行われる(ステップS5)。
図2で例示したテーパ/ランド構造は、例えば、パッド印刷により2回以上の重ね塗りをすることによって形成される。
3.実験例
種々の条件で摺動部材の試験片を作製し、これらの特性を評価した。より詳細には、実験例1〜4の4つの区分において、それぞれ複数の試験片を作製した。実験例1〜4において、コーティング層22の材料および組成は共通である。バインダー樹脂としてはPAIが、固体潤滑剤としてはMoS2およびグラファイトが用いられた。実験例1〜4では、バインダー樹脂60vol%に対して固体潤滑剤を40vol%を添加した。実験例1〜3において、グラファイトが10vol%、MoS2が30vol%であった。実験例4では固体潤滑剤としてグラファイトは用いずMoS2のみを添加した。実験例1〜4において、MoS2の平均粒径は約2μmであり、グラファイトの平均粒径は5〜10μmであった。基材としては、鋳鉄(FCD700)を用いた。
種々の条件で摺動部材の試験片を作製し、これらの特性を評価した。より詳細には、実験例1〜4の4つの区分において、それぞれ複数の試験片を作製した。実験例1〜4において、コーティング層22の材料および組成は共通である。バインダー樹脂としてはPAIが、固体潤滑剤としてはMoS2およびグラファイトが用いられた。実験例1〜4では、バインダー樹脂60vol%に対して固体潤滑剤を40vol%を添加した。実験例1〜3において、グラファイトが10vol%、MoS2が30vol%であった。実験例4では固体潤滑剤としてグラファイトは用いずMoS2のみを添加した。実験例1〜4において、MoS2の平均粒径は約2μmであり、グラファイトの平均粒径は5〜10μmであった。基材としては、鋳鉄(FCD700)を用いた。
実験例1〜4においては、コーティング層を形成するための塗料の塗布方法およびコーティング層の膜厚が異なっている。より具体的には、実験例1および4は、パッド印刷によりコーティング層が形成されたのに対し、実験例2はロールコーティングにより、実験例3はスプレーコーティングによりコーティング層が形成された。これらの実験例1〜4に対して、配向率および表面粗さを測定した。また、実験例1および2に対して、最表面における固体潤滑剤露出率、負荷長さ率(c=50%時)、摩擦係数、および潤滑油の接触角を測定した。
表1は、実験例1〜4における配向率および表面粗さの測定結果を示す。
コーティング層をパッド印刷で塗布した試料(実験例1および4)と他の方法(実験例2:ロールコーティング、実験例3:スプレーコーティング)とを対比すると、パッド印刷で塗布した試料の方が配向率が高い傾向が見られた。パッドコートでは薄い膜を積層して所望の膜厚を得ている。1層あたりの膜厚は添加剤のサイズと同等程度になり、添加剤を押しつける効果が得ら、高い配向率が得られる。一方で、ロールコーティングおよびスプレーコーティングでは1回で所望の厚さの膜を塗布している。そのため、添加剤のサイズを基準とすると膜厚は(パッドコートよりも)厚くなり、添加剤を押しつける効果が弱くなり、相対的に低い配向率が得られる。
表面粗さに関しては、塗料の塗布方法が同じである実験例1と実験例4とにおいて表面粗さが相違していることから、単に塗布方法のみに依存しているのではなく、固体潤滑剤の粒径にも依存していると考えられる。
図7は、実験例1〜3における固体潤滑剤露出率を示す図である。固体潤滑剤露出率は以下の手順で算出した。まずコーティング層表面の顕微鏡写真を撮影する。撮影した顕微鏡写真における色の濃淡から画像処理ソフトウェアを用いてMoS2の領域を特定する。観察領域に対するMoS2領域の面積率を算出し、固体潤滑剤露出率とする。なお、この測定手順から明らかなように、ここでいう固体潤滑剤露出率は、MoS2の露出率である。
実験例1の3片の試料において、固体潤滑剤露出率は、7.9%、12.3%、および7.7%であった。実験例2の3片の試料において、固体潤滑剤露出率は、1.3%、0.8%、および0.5%であった。実験例3の3片の試料において、固体潤滑剤露出率は、8.1%、9.2%、および13.0%であった。実験例2においてはロールコーティングにより塗料を塗布した後で表面を仕上げ処理(研磨等)しているため、その際に固体潤滑剤が表面から脱落し、固体潤滑剤露出率が低くなっていると考えられる。なお、実験例1と同じ方法で作成した試料では、固体潤滑剤露出率が15%のものも得られている。
図8は、摩擦係数のMoS2添加量依存性を示す図である。この図は、実験例2と同様にロールコーティングでコーティング層を形成した場合において、コーティング層へのMoS2添加量を変えたときに摩擦係数がどう変化するかを示している。この図から、コーティング層全体のMoS2添加量が増加すると摩擦係数が低下する傾向があることが分かる。この結果から、摺動面におけるMoS2の露出量が増加すると摩擦係数が低減することが予測される。
実験例1および実験例2について潤滑油の接触角を測定すると、それぞれ、約2°および約4°であった。このように実験例1において潤滑油の接触角すなわち油保持性が異なっている理由を検討する。
図9は、実験例1および実験例2の負荷曲線を示す模式図である。図8(A)は実験例1の負荷曲線を、図8(B)は実験例2の負荷曲線を、それぞれ示している。実験例1と実験例2とを対比すると、実験例1では負荷長さ率が相対的に一様に増加しているのに対し、実験例2では相対的に浅いところで負荷長さ率が急に増加し、深いところで負荷長さ率が緩やかに増加するという、2段階の変化を示している。詳細には、c=50%において、実験例1では負荷長さ率が40%、実験例2では約90%であった。
図10は、潤滑油の接触角の負荷長さ率Rmr(50)依存性を示す図である。Rmr(50)は、c=50%における負荷長さ率を示す。負荷長さ率Rmr(50)が小さい方が、接触角が小さい、すなわち親油性が高い傾向が見られた。この結果から、実験例1および実験例2における接触角は負荷曲線の違いによるものであると考えられる。
4.変形例
本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、種々の変型実施が可能である。以下、変形例をいくつか説明する。以下の変形例のうち2つ以上のものが組み合わせて用いられてもよい。
本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、種々の変型実施が可能である。以下、変形例をいくつか説明する。以下の変形例のうち2つ以上のものが組み合わせて用いられてもよい。
スラスト面11の表面構造は実施形態で例示したものに限定されない。例えば、図2では、周方向断面においてランド部24の両側にテーパ部23が設けられる例を示した。しかし、ランド部24の片側のみにテーパ部23が設けられてもよい。例えばワッシャの摺動方向が特定の方向に限られる用途においては、片側のみにテーパを設ける構造は有用である。別の例で、スラスト面11は、テーパ/ランド構造に代えて、ステップ/ランド構造を有していてもよい。ステップ/ランド構造とは、ステップ部およびランド部を有する表面構造をいう。ランド部についてはテーパ/ランド構造において説明したとおりである。ステップ部とは、ランド部から高さが離散的に低くなる部分をいう。ステップ/ランド構造は周方向に沿って形成されており、径方向に沿った断面においては、ステップ部およびランド部の高さはいずれも、それぞれ一定である。スラスト面11がスラスト力を受ける場合、またはスラスト面11が相手材と摺動する場合には、ステップ/ランド構造においてくさび効果による油膜圧力が発生する。さらに別の例で、スラスト面11は、テーパ/ランド構造またはステップ/ランド構造のような表面構造を有さず、油溝14および油溝15以外の部分においては平坦であってもよい。
図11は、スラストワッシャ1の構造の別の例を示す図である。図11は、スラストワッシャ1を軸方向に垂直な断面で切断した断面図を模式的に示す。この例で、スラストワッシャ1は、スラスト面11においてスラストリリーフ16を有する。スラストリリーフ16は、組み合わせて用いる2つのハウジング(例えばシリンダブロックおよびキャップ)の座面が軸方向にズレたときに合せ面近傍において発生する局部当たりを防止するための逃がしである。この例で、スラストリリーフ16において、合せ面13側の端を含む少なくとも一部においては、コーティング層22が形成されておらず、基材21が露出している。
スラストワッシャ1は、図1および図2に例示した以外の構造を有していてもよい。例えば、スラストワッシャ1は、合せ面リリーフ、回り止め、および回り止めリリーフのうち少なくとも1つを有してもよい。合せ面リリーフとは、合せ面近傍におけるクランクシャフト(図示略)の局部当たりを防止するための逃がしであり、合せ面近傍においてクランクワッシャの内径が広くなる構造をいう。回り止めは、スラストワッシャ1がハウジングに対して回転するのを防止するための構造である。回り止めは、例えば、径方向の外周に形成された突起である。回り止めリリーフは、回り止め近傍においてハウジングとの局部当たりを防止するための逃がしである。
スラスト面11における油溝の形状、位置および数は図1および図2に例示したものに限定されない。図1および図2の例では、油溝14および油溝15は、スラストワッシャ1の半環の中心から放射状に延びる方向に形成された。しかし、油溝は、合せ面に垂直な方向に延びるように形成されてもよい。また、油溝の数は2本に限定されず、1本でも3本以上でもよい。あるいは、油溝が省略されてもよい。
なお、本発明に係るスラストワッシャは、クランクワッシャとして用いられるものに限定されない。スラスト荷重を受けるものであれば、他の用途に用いられてもよい。また、スラストワッシャは半環形状のものに限定されず、全環形状を有していてもよい。また、実験例におけるコーティング層の材料、組成、膜厚等はあくまで例示である。本発明はこれに限定されるものではない。
1…スラストワッシャ
11…スラスト面
12…合せ面
13…合せ面
14…油溝
15…油溝
16…スラストリリーフ
21…基材
211…面
22…コーティング層
221…バインダー樹脂
222…固体潤滑剤
11…スラスト面
12…合せ面
13…合せ面
14…油溝
15…油溝
16…スラストリリーフ
21…基材
211…面
22…コーティング層
221…バインダー樹脂
222…固体潤滑剤
Claims (10)
- スラスト荷重を受けるスラスト面を有する基材と、
前記スラスト面の少なくとも一部に形成されたコーティング層と
を有し、
前記コーティング層は、
バインダー樹脂と、
前記バインダー樹脂中に分散された固体潤滑剤と
を有し、
前記コーティング層の摺動面における前記固体潤滑剤の露出率が7%以上である
スラストワッシャ。 - 前記コーティング層の摺動面における前記固体潤滑剤の露出率が10%以上である
ことを特徴とする請求項1に記載のスラストワッシャ。 - 前記固体潤滑剤がc軸配向性を有し、
前記コーティング層における前記固体潤滑剤の相対c軸強度比が80%以上である
ことを特徴とする請求項1または2に記載のスラストワッシャ。 - 負荷曲線において最大表面粗さに対し表面粗さからの深さの50%の占有率が70%以下である
ことを特徴とする請求項1ないし3のいずれか一項に記載のスラストワッシャ。 - 前記占有率が50%以下である
ことを特徴とする請求項4に記載のスラストワッシャ。 - 前記コーティング層の前記摺動面における表面粗さが1〜20μmである
ことを特徴とする請求項1ないし5のいずれか一項に記載のスラストワッシャ。 - 前記表面粗さが8〜15μmである
ことを特徴とする請求項6に記載のスラストワッシャ。 - 前記スラスト面は、前記コーティング層により形成されたテーパ/ランド構造またはステップ/ランド構造を有する
ことを特徴とする請求項1ないし7のいずれか一項に記載のスラストワッシャ。 - 前記基材は、半環の形状を有し、
前記スラスト面は、前記半環の周方向端においてリリーフを有し、
前記リリーフには前記コーティング層が形成されない
ことを特徴とする請求項1ないし8のいずれか一項に記載のスラストワッシャ。 - 前記スラスト面は、油溝を有し、
前記油溝には前記コーティング層が形成されない
ことを特徴とする請求項1ないし9のいずれか一項に記載のスラストワッシャ。
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