以下、図面を参照しつつ本発明の実施の形態について詳細に説明する。
<第1実施形態>
図1は、本発明に係る熱処理装置1の要部構成を示す図である。この熱処理装置1は、基板としての略円形の半導体ウェハーWにフラッシュ光を照射して加熱処理を行うフラッシュランプアニール装置である。なお、図1および以降の各図においては、理解容易のため、必要に応じて各部の寸法や数を誇張または簡略化して描いている。
熱処理装置1は、主たる構成として、半導体ウェハーWを収容する略円筒形状のチャンバー6と、チャンバー6内にて半導体ウェハーWを保持する保持部7と、保持部7に対して半導体ウェハーWの受け渡しを行う移載部79と、チャンバー6の上側に設けられた上側加熱部5と、チャンバー6の下側に設けられた下側加熱部4と、チャンバー6内に処理ガスを供給するガス供給部8と、チャンバー6から排気を行う排気部2と、を備えている。また、熱処理装置1は、これらの各部を制御して半導体ウェハーWの加熱処理を実行させる制御部3を備える。
チャンバー6は、上下両端が開放された略円筒状の内壁を有するチャンバー側部63を備える。チャンバー側部63は、強度と耐熱性に優れた金属材料(例えば、ステンレススチール等)にて形成される。チャンバー6の上部開口および下部開口には上側チャンバー窓61および下側チャンバー窓64がそれぞれ装着されて閉塞されている。チャンバー側部63、上側チャンバー窓61および下側チャンバー窓64によって囲まれる空間が熱処理空間65として規定される。
チャンバー6の天井部を構成する上側チャンバー窓61は、石英により形成された円板形状部材であり、上側加熱部5から出射された光を熱処理空間65に透過する石英窓として機能する。同様に、チャンバー6の床部を構成する下側チャンバー窓64も石英により形成された円板形状部材であり、下側加熱部4から出射された光を熱処理空間65に透過する石英窓として機能する。
また、熱処理空間65の気密性を維持するために、上側チャンバー窓61および下側チャンバー窓64とチャンバー側部63とは図示省略のOリングによってシールされている。具体的には、上側チャンバー窓61の下面周縁部および下側チャンバー窓64の上面周縁部とチャンバー側部63との間にそれぞれOリングを挟み込み、これらの隙間から気体が流出入するのを防いでいる。
チャンバー側部63には、半導体ウェハーWの搬入および搬出を行うための搬送開口部66が設けられている。搬送開口部66は、図示を省略するゲートバルブによって開閉可能とされている。搬送開口部66が開放されると、図外の搬送ロボットによってチャンバー6に対する半導体ウェハーWの搬入および搬出が可能となる。また、搬送開口部66が閉鎖されると、熱処理空間65が外部との通気が遮断された密閉空間となる。
チャンバー6内に設けられた保持部7は、支持リング72および遮光部材71を備える。遮光部材71は、チャンバー側部63の内側壁面に固設されている。遮光部材71は、フラッシュランプFLおよびハロゲンランプHLからの光に対して不透明な材質、例えば炭化ケイ素(SiC)、窒化アルミニウム(AlN)、窒化ホウ素(BN)などのセラミックによって形成すれば良い。遮光部材71は、略円筒形状のチャンバー側部63の内壁から突出するように円環形状に設けられている。遮光部材71の上面内周部に支持リング72が載置されている。すなわち、支持リング72の周囲に遮光部材71が設けられている。
支持リング72は円環形状(リング状)の板状部材である。支持リング72は、例えば炭化ケイ素にて形成される。円環形状の支持リング72の外径は半導体ウェハーWの直径(本実施形態ではφ300mm)よりも大きい。また、支持リング72の内径は半導体ウェハーWの直径よりも若干小さい。このため、支持リング72は、その内周部分にて半導体ウェハーWの周縁部を支持することができる。
チャンバー6内に搬入された半導体ウェハーWは、支持リング72によってチャンバー6内にて水平姿勢(主面の法線が鉛直方向に向く姿勢)で支持される。本実施形態では、支持リング72および遮光部材71がいずれもフラッシュランプFLおよびハロゲンランプHLからの光に対して不透明な材質にて形成されているため、支持リング72に支持された半導体ウェハーWの周囲において上側加熱部5と下側加熱部4とが光学的に遮断されている。すなわち、上側加熱部5からの光が半導体ウェハーWの周縁部外方を回り込んで下面周縁部に到達することはなく、逆に下側加熱部4からの光が上面周縁部に到達することも防がれる。
保持部7の下方には移載部79が設けられている。移載部79は、図示省略の駆動機構によって水平方向の移動と鉛直方向の移動とが可能に構成されている。移載動作を行わないときには、移載部79は遮光部材71の下側の待機位置に待機している。保持部7に対して半導体ウェハーWの移載を行う際には、移載部79が待機位置から支持リング72の内周よりも内側に水平移動した後、鉛直方向に沿って上昇する。これにより、移載部79のピンの上端が支持リング72の上面から突き出る。移載動作が終了すると、移載部79は再び待機位置に戻る。
ガス供給部8は、チャンバー6内の熱処理空間65に処理ガスを供給する。ガス供給部8は、処理ガス供給源81とバルブ82とを備えており、バルブ82を開放することによって熱処理空間65に処理ガスを供給する。ガス供給部8が供給する処理ガスとしては、窒素(N2)、アルゴン(Ar)、ヘリウム(He)などの不活性ガス、または、酸素(O2)、水素(H2)、塩素(Cl2)、水蒸気(H2O)、塩化水素(HCl)、オゾン(O3)、アンモニア(NH3)などの反応性ガスを用いることができる。なお、処理ガス供給源81としては、熱処理装置1内に設けられた気体タンクと送給ポンプとで構成するようにしても良いし、熱処理装置1が設置される工場の用力を用いるにようにしても良い。
排気部2は、排気装置21およびバルブ22を備えており、バルブ22を開放することによってチャンバー6内の雰囲気を排気する。排気装置21としては、真空ポンプや熱処理装置1が設置される工場の排気ユーティリティを用いることができる。排気装置21として真空ポンプを採用し、ガス供給部8から処理ガスを供給することなく密閉空間である熱処理空間65の雰囲気を排気すると、チャンバー6内を真空雰囲気にまで減圧することができる。また、排気装置21として真空ポンプを用いていない場合であっても、ガス供給部8から処理ガスを供給することなく排気を行うことにより、チャンバー6内を大気圧よりも低い気圧に減圧することができる。
本実施形態においては、保持部7に半導体ウェハーWが保持されているときには、遮光部材71、支持リング72および半導体ウェハーWによって熱処理空間65が上下に雰囲気分離される。このため、図1に示すように、熱処理空間65の保持部7よりも上側と下側のそれぞれにガス供給部8が処理ガスを供給するとともに、それぞれから排気部2が排気を行うようにするのが好ましい。
上側加熱部5は、チャンバー6の上方に設けられている。上側加熱部5は、複数本のフラッシュランプFLを有する光源と、その光源の上方を覆うように設けられたリフレクタ52と、を備えて構成される。上側加熱部5は、チャンバー6内にて支持リング72に支持される半導体ウェハーWの上面に石英の上側チャンバー窓61を介してフラッシュランプFLからフラッシュ光を照射する。
一方、下側加熱部4は、チャンバー6の下方に設けられている。下側加熱部4は、複数本のフラッシュランプFLおよび複数本のハロゲンランプHLを有する光源と、その光源の下方を覆うように設けられたリフレクタ42と、を備えて構成される。下側加熱部4は、チャンバー6内にて支持リング72に支持される半導体ウェハーWの下面に石英の下側チャンバー窓64を介してフラッシュランプFLまたはハロゲンランプHLから光を照射する。なお、上側加熱部5のフラッシュランプFLと下側加熱部4のフラッシュランプFLとを特に区別するときには、上側加熱部5のフラッシュランプFLを上側フラッシュランプ(第2フラッシュランプ)UFLと称し、下側加熱部4のフラッシュランプFLを下側フラッシュランプ(第1フラッシュランプ)LFLと称する。上側フラッシュランプUFLと下側フラッシュランプLFLとは配置位置が異なるものの同一の棒状のキセノンフラッシュランプであり、それらの区別を要しないときには単にフラッシュランプFLとする。
図2は、上側フラッシュランプUFL、下側フラッシュランプLFLおよびハロゲンランプHLの配置関係を示す斜視図である。複数の上側フラッシュランプUFLは、それぞれが長尺の円筒形状を有する棒状ランプであり、それぞれの長手方向が支持リング72に支持される半導体ウェハーWの主面に沿って(つまり水平方向に沿って)互いに平行となるように平面状に配列されている。同様に、複数の下側フラッシュランプLFLもそれぞれが長尺の円筒形状を有する棒状ランプであり、それぞれの長手方向が支持リング72に支持される半導体ウェハーWの主面に沿って互いに平行となるように平面状に配列されている。
図2に示すように、上側加熱部5の上側フラッシュランプUFLと下側加熱部4の下側フラッシュランプLFLとは互いに直交するように配置されている。すなわち、上側加熱部5の上方から見ると、上側フラッシュランプUFLの配列と下側フラッシュランプLFLの配列とが井桁状に交差するように配置されている。
図3は、フラッシュランプFLの駆動回路を示す図である。同図に示すように、コンデンサ93と、コイル94と、フラッシュランプFLと、IGBT(絶縁ゲートバイポーラトランジスタ)96とが直列に接続されている。また、図3に示すように、制御部3は、パルス発生器31および波形設定部32を備えるとともに、入力部33に接続されている。入力部33としては、キーボード、マウス、タッチパネル等の種々の公知の入力機器を採用することができる。入力部33からの入力内容に基づいて波形設定部32がパルス信号の波形を設定し、その波形に従ってパルス発生器31がパルス信号を発生する。
フラッシュランプFLは、その内部にキセノンガスが封入されその両端部に陽極および陰極が配設された棒状のガラス管(放電管)92と、該ガラス管92の外周面上に付設されたトリガー電極91とを備える。コンデンサ93には、電源ユニット95によって所定の電圧が印加され、その印加電圧(充電電圧)に応じた電荷が充電される。また、トリガー電極91にはトリガー回路97から高電圧を印加することができる。トリガー回路97がトリガー電極91に電圧を印加するタイミングは制御部3によって制御される。
IGBT96は、ゲート部にMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field effect transistor)を組み込んだバイポーラトランジスタであり、大電力を取り扱うのに適したスイッチング素子である。IGBT96のゲートには制御部3のパルス発生器31からパルス信号が印加される。IGBT96のゲートに所定値以上の電圧(Highの電圧)が印加されるとIGBT96がオン状態となり、所定値未満の電圧(Lowの電圧)が印加されるとIGBT96がオフ状態となる。このようにして、フラッシュランプFLを含む駆動回路はIGBT96によってオンオフされる。IGBT96がオンオフすることによってフラッシュランプFLと対応するコンデンサ93との接続が断続される。
コンデンサ93が充電された状態でIGBT96がオン状態となってガラス管92の両端電極に高電圧が印加されたとしても、キセノンガスは電気的には絶縁体であることから、通常の状態ではガラス管92内に電気は流れない。しかしながら、トリガー回路97がトリガー電極91に高電圧を印加して絶縁を破壊した場合には両端電極間の放電によってガラス管92内に電流が瞬時に流れ、そのときのキセノンの原子あるいは分子の励起によって光が放出される。
図3に示すような駆動回路は、上側加熱部5の複数の上側フラッシュランプUFLおよび下側加熱部4の複数の下側フラッシュランプLFLのそれぞれに個別に設けられている。従って、上側フラッシュランプUFLと下側フラッシュランプLFLとでは互いに異なる制御態様とすることができる。
図2に戻り、下側加熱部4の複数のハロゲンランプHLは、それぞれが長尺の円筒形状を有する棒状ランプであり、それぞれの長手方向が支持リング72に支持される半導体ウェハーWの主面に沿って互いに平行となるように平面状に配列されている。図2に示すように、下側フラッシュランプLFLとハロゲンランプHLとは互いに直交するように配置されている。よって、上側フラッシュランプUFLとハロゲンランプHLとは結果的に互いに平行となる。
また、下側加熱部4において、下側フラッシュランプLFLの配列面はハロゲンランプHLの配列面よりも上側となる。すなわち、下側フラッシュランプLFLはハロゲンランプHLよりもチャンバー6内の支持リング72に近い位置に配置されている。従って、ハロゲンランプHLから出射された光の一部はフラッシュランプFLを透過してチャンバー6内に入射することとなる。
ハロゲンランプHLは、ガラス管内部に配設されたフィラメントに通電することでフィラメントを白熱化させて発光させるフィラメント方式の光源である。ガラス管の内部には、窒素やアルゴン等の不活性ガスにハロゲン元素(ヨウ素、臭素等)を微量導入した気体が封入されている。ハロゲン元素を導入することによって、フィラメントの折損を抑制しつつフィラメントの温度を高温に設定することが可能となる。したがって、ハロゲンランプHLは、通常の白熱電球に比べて寿命が長くかつ強い光を連続的に照射できるという特性を有する。
図1に戻り、上側加熱部5のリフレクタ52は、複数の上側フラッシュランプUFLの上方にそれら全体を覆うように設けられている。リフレクタ52の基本的な機能は、複数の上側フラッシュランプUFLから出射されたフラッシュ光を熱処理空間65の側に反射するというものである。一方、下側加熱部4のリフレクタ42は、複数の下側フラッシュランプLFLおよびハロゲンランプHLの下方にそれら全体を覆うように設けられている。リフレクタ42の基本的な機能は、複数の下側フラッシュランプLFLおよび複数のハロゲンランプHLから出射された光を熱処理空間65の側に反射するというものである。リフレクタ52およびリフレクタ42は、アルミニウム合金板にて形成されており、その表面(フラッシュランプFLに臨む側の面)はブラスト処理により粗面化加工が施されて梨地模様を呈する。
制御部3は、熱処理装置1に設けられた上記の種々の動作機構を制御する。制御部3のハードウェアとしての構成は一般的なコンピュータと同様である。すなわち、制御部3は、各種演算処理を行うCPU、基本プログラムを記憶する読み出し専用のメモリであるROM、各種情報を記憶する読み書き自在のメモリであるRAMおよび制御用ソフトウェアやデータなどを記憶しておく磁気ディスクを備えて構成される。制御部3のCPUが所定の処理プログラムを実行することによって熱処理装置1における処理が進行する。また、図3に示したように、制御部3は、パルス発生器31および波形設定部32を備える。上述のように、入力部33からの入力内容に基づいて、波形設定部32がパルス信号の波形を設定し、それに従ってパルス発生器31がIGBT96のゲートにパルス信号を出力する。
次に、上記構成を有する熱処理装置1における半導体ウェハーWの処理手順について説明する。図4は、熱処理装置1における半導体ウェハーWの処理手順を示すフローチャートである。以下に説明する熱処理装置1の処理手順は、制御部3が熱処理装置1の各動作機構を制御することにより進行する。
まず、図示省略のゲートバルブが開いて搬送開口部66が開放され、装置外部の搬送ロボットにより搬送開口部66を介して処理対象となる半導体ウェハーWがチャンバー6内に搬入される(ステップS11)。第1実施形態において、処理対象となる半導体ウェハーWは、表面にパターン形成がなされて不純物が注入されたシリコンの半導体基板である。なお、パターン形成および不純物注入は、例えば、熱処理装置1とは別に設置されたフォトリソグラフィ装置およびイオン注入装置によってそれぞれ行うようにすれば良い。
このような半導体ウェハーWを保持した搬送ロボットのハンドが搬送開口部66からチャンバー6内に進入し、保持部7の直上(正確には、半導体ウェハーWの中心軸と支持リング72の中心軸とが一致する位置)にて停止する。続いて、移載部79が遮光部材71の下側の待機位置から支持リング72の内周よりも内側に水平移動した後、鉛直方向に沿って上昇し、移載部79のピンが支持リング72よりも上側に突き出て搬送ロボットのハンドから半導体ウェハーWを受け取る。その後、搬送ロボットのハンドがチャンバー6から退出するとともに、搬送開口部66が閉鎖されることによりチャンバー6内の熱処理空間65が密閉空間とされる。そして、半導体ウェハーWを受け取った移載部79が下降することにより、半導体ウェハーWは移載部79のピンから支持リング72に渡される(ステップS12)。半導体ウェハーWは、その中心軸が支持リング72の中心軸と一致するように支持される。よって、支持リング72は、半導体ウェハーWの全周にわたって周縁部下面を支持する。支持リング72に半導体ウェハーWを渡した移載部79は待機位置に戻る。
ここで、半導体ウェハーWの表面とはデバイスが形成される主面であり、上述のように表面にはパターン形成がなされて不純物が注入されている。半導体ウェハーWの表面においては、パターンによって光の吸収率が異なるために吸収率の面内分布が均一ではない。一方、半導体ウェハーWの裏面とは、表面とは反対側の主面である。半導体ウェハーWの裏面には、通常は膜形成もパターン形成もなされない。但し、表面に膜形成がなされた結果として不可避的に裏面にも、例えば酸化膜、窒化膜、ポリシリコンなどの薄膜が形成されることはあるが、このような場合には均一な膜形成がなされる。いずれにしても、半導体ウェハーWの裏面においては、光の吸収率の面内分布は均一である。また、半導体ウェハーWの裏面には、前工程であるフォトリソグラフィ装置やイオン注入装置にて傷が形成されていることがある。
第1実施形態では、半導体ウェハーWの表面が上面を向いた状態でチャンバー6内に搬入されて支持リング72に支持される。なお、半導体ウェハーWの上面とは鉛直方向の上側を向いている主面であり、下面とは下側を向いている面である。よって、半導体ウェハーWの表面が上面を向いていることもあり、下面を向いていることもある。
また、搬送開口部66が閉鎖されて熱処理空間65が密閉空間とされた後、バルブ82が開放されてガス供給部8から熱処理空間65に処理ガス(本実施形態では窒素ガス)を供給する。これとともに、バルブ22が開放されて排気部2が熱処理空間65から排気を行う。これにより、チャンバー6内の熱処理空間65に窒素ガスの気流が形成され、保持部7に保持された半導体ウェハーWの周辺は窒素雰囲気とされる。なお、チャンバー6内の雰囲気置換効率を高める観点からは、処理ガスを供給することなく排気部2が熱処理空間65の排気を行って一旦大気圧よりも低い減圧雰囲気とした後に、ガス供給部8から処理ガスを供給するのが好ましい。
半導体ウェハーWが保持部7の支持リング72に載置されて支持された後、制御部3の制御によって下側加熱部4の複数のハロゲンランプHLが一斉に点灯して予備加熱が開始される(ステップS13)。ハロゲンランプHLから出射されたハロゲン光は、石英にて形成された下側チャンバー窓64を透過して支持リング72に支持された半導体ウェハーWの裏面から照射される。ハロゲンランプHLからの光照射を受けることによって半導体ウェハーWの温度が上昇する。なお、移載部79は遮光部材71の下側の待機位置に退避しているため、ハロゲンランプHLによる予備加熱の障害となることは無い。また、ハロゲンランプHLから出射された光の一部はフラッシュランプFLを透過して半導体ウェハーWの裏面に照射されることとなるが、フラッシュランプFLはフィラメントを備えていないため、これも予備加熱の障害となることは無い。
半導体ウェハーWは、ハロゲンランプHLからの光照射によって予め設定された予備加熱温度にまで昇温される。予備加熱温度は300℃以上800℃以下であり、第1実施形態では500℃としている。半導体ウェハーWの温度が予備加熱温度に到達した後、半導体ウェハーWをその予備加熱温度に暫時維持するように制御部3がハロゲンランプHLの出力を維持する。具体的には、半導体ウェハーWの温度は図示省略の温度センサ(接触式温度計または放射温度計)によって計測されており、当該温度センサによって測定される半導体ウェハーWの温度が予備加熱温度に到達した時点にて制御部3がハロゲンランプHLの出力を制御して半導体ウェハーWの温度をほぼ予備加熱温度に維持する。なお、半導体ウェハーWの温度が室温から予備加熱温度に到達するまでの時間および予備加熱温度に維持される時間はいずれも数秒程度である。
次に、半導体ウェハーWの温度を予備加熱温度に所定時間維持した後、下側加熱部4の複数のフラッシュランプFL(下側フラッシュランプLFL)および上側加熱部5の複数のフラッシュランプFL(上側フラッシュランプUFL)から半導体ウェハーWの裏面および表面のそれぞれにフラッシュ光を照射してフラッシュ加熱を実行する(ステップS14)。図5は、半導体ウェハーWの表面および裏面の温度変化を示す図である。
半導体ウェハーWの温度が予備加熱温度(本実施形態では500℃)に到達して所定時間が経過した時刻t11に、制御部3の制御によって下側加熱部4の複数のフラッシュランプFLおよび上側加熱部5の複数のフラッシュランプFLからフラッシュ光を出射する。フラッシュランプFLがフラッシュ光照射を行うに際しては、予め電源ユニット95によってコンデンサ93に電荷を蓄積しておく。そして、コンデンサ93に電荷が蓄積された状態にて、制御部3のパルス発生器31からIGBT96にパルス信号を出力してIGBT96をオンオフ駆動する。
パルス信号の波形は、パルス幅の時間(オン時間)とパルス間隔の時間(オフ時間)とをパラメータとして順次設定したレシピを入力部33から入力することによって規定することができる。このようなレシピをオペレータが入力部33から制御部3に入力すると、それに従って制御部3の波形設定部32はオンオフを繰り返すパルス波形を設定する。そして、波形設定部32によって設定されたパルス波形に従ってパルス発生器31がパルス信号を出力する。その結果、IGBT96のゲートにはオンオフを繰り返すパルス信号が印加され、IGBT96のオンオフ駆動が制御されることとなる。具体的には、IGBT96のゲートに入力されるパルス信号がオンのときにはIGBT96がオン状態となってコンデンサ93およびフラッシュランプFLを含む回路が閉じることとなり、パルス信号がオフのときにはIGBT96がオフ状態となって当該回路が開くこととなる。
また、パルス発生器31から出力するパルス信号がオンになるタイミングと同期して制御部3がトリガー回路97を制御してトリガー電極91に高電圧(トリガー電圧)を印加する。コンデンサ93に電荷が蓄積された状態にてIGBT96のゲートにパルス信号が入力され、かつ、そのパルス信号がオンになるタイミングと同期してトリガー電極91に高電圧が印加されることにより、パルス信号がオンのときにはガラス管92内の両端電極間で必ず電流が流れ、そのときのキセノンの原子あるいは分子の励起によって光が放出される。
制御部3からIGBT96のゲートにオンオフを繰り返すパルス信号を出力するとともに、該パルス信号がオンになるタイミングと同期してトリガー電極91に高電圧を印加することにより、フラッシュランプFLを含む回路中に断続的に電流が流れる。このように、回路中にスイッチング素子たるIGBT96を接続してそのゲートにオンオフを繰り返すパルス信号を出力することにより、コンデンサ93からフラッシュランプFLへの電荷の供給をIGBT96によって断続してフラッシュランプFLに流れる電流を制御しているのである。すなわち、IGBT96のゲートに入力されるパルス信号がオンのときにはフラッシュランプFLのガラス管92内に流れる電流値が増加し、オフのときには電流値が減少するようなノコギリ波形の電流がフラッシュランプFLに流れる。なお、各パルスに対応する個々の電流波形はコイル94の定数によって規定される。
このようなノコギリ波形の電流が流れてフラッシュランプFLが発光する。IGBT96によってコンデンサ93からフラッシュランプFLへの電荷の供給を断続してフラッシュランプFLに流れる電流の波形をノコギリ波形とすることにより、いわばフラッシュランプFLの発光がチョッパ制御されることとなる。すなわち、コンデンサ93に蓄積された電荷が分割して消費され、極めて短い時間の間にフラッシュランプFLが点滅を繰り返す。但し、フラッシュランプFLに流れる電流値が完全に”0”になる前に次のパルスがIGBT96のゲートに印加されて電流値が再度増加するため、フラッシュランプFLが点滅を繰り返している間も発光出力が完全に”0”になるものではない。従って、比較的間隔の短いパルス信号がIGBT96に出力されているときには、その間フラッシュランプFLが連続して発光していることとなる。
パルス信号の波形は、パルス幅の時間およびパルス間隔の時間を規定することによって任意に設定することができる。このため、IGBT96のオンオフ駆動も任意に制御することができ、比較的パルス間隔の短いパルスを多数設定することにより、フラッシュランプFLの発光時間を10ミリ秒〜1000ミリ秒に適宜に設定することができる。
図6は、下側フラッシュランプLFLおよび上側フラッシュランプUFLの発光出力の出力波形(プロファイル)を示す図である。第1実施形態においては、下側フラッシュランプLFLおよび上側フラッシュランプUFLの発光を時刻t11に同時に開始し、時刻t12に同時に終了している。また、下側フラッシュランプLFLおよび上側フラッシュランプUFLの発光出力の出力波形も同じにしている。すなわち、下側フラッシュランプLFLに対応するIGBT96および上側フラッシュランプUFLに対応するIGBT96に同一のパルス信号を出力することにより、下側フラッシュランプLFLおよび上側フラッシュランプUFLを同時期に同等の出力で発光させているのである。なお、時刻t11から時刻t12までのフラッシュランプFLの発光時間は40ミリ秒としている。
支持リング72に支持された半導体ウェハーWの表面および裏面に同時期に同等の出力にてフラッシュ光を照射することにより、半導体ウェハーWが表裏からフラッシュ加熱される。これにより、図5に示すように、半導体ウェハーWの表面および裏面が時刻t11から時刻t12にかけて急速に昇温して目標温度にまで到達する。目標温度は注入された不純物の活性化が達成される1000℃以上であり、第1実施形態では1050℃としている。
また、フラッシュ加熱による半導体ウェハーWの表裏面の昇温速度は毎秒1000℃以上、毎秒40000℃以下となるようにしている。この昇温速度は、IGBT96のゲートに印加するパルス信号のパルス幅およびパルス間隔の時間を調整することによって設定することができる。表裏面の昇温速度が毎秒40000℃を超えると、急激な熱膨張によって半導体ウェハーWが割れるおそれがある。一方、昇温速度が毎秒1000℃未満であると、注入された不純物の拡散が懸念される。また、半導体ウェハーWの表面に形成した高誘電率膜(High-k膜)のアニール処理を行う場合であれば、昇温速度が毎秒1000℃未満であるとシリコンの基材と高誘電率膜との間の酸化膜が成長する懸念がある。
図7は、半導体ウェハーWの厚さ方向における温度分布を示す図である。同図は、時刻t12に半導体ウェハーWの表裏面が目標温度(1050℃)に到達した時点での温度分布を示している。また、同図において、半導体ウェハーWの表面からの深さを横軸に示している。第1実施形態の半導体ウェハーWはφ300mmのシリコンウェハーであり、その厚さは規格によって0.775mmに標準化されている。従って、深さ0mmが半導体ウェハーWの表面を示し、深さ0.775mmが半導体ウェハーWの裏面を示している。
半導体ウェハーWの表面および裏面はともに時刻t12に目標温度に同時に到達する。また、フラッシュ光照射によって半導体ウェハーWの表面で発生した熱は裏面側へと伝わり、裏面で発生した熱は表面側へと伝わる。その結果、図7に示すように、半導体ウェハーWの表面および裏面が互いに等しい最高温度となり、厚さ方向の中央部が最低温度となるような温度分布が現出する。従って、半導体ウェハーWの表面および裏面に同程度の熱膨張が生じ、最も温度の低い半導体ウェハーWの厚さ方向中央部近傍に引張応力が作用することとなる。
時刻t12に上側フラッシュランプUFLおよび下側フラッシュランプLFLによる同時期・同出力のフラッシュ光照射が終了すると、半導体ウェハーWの温度が表裏ともに降温する。その後、所定時間(数秒)が経過した時点で下側加熱部4のハロゲンランプHLも消灯する。これにより、半導体ウェハーWは予備加熱温度よりも低い温度にまで急速に降温する。
半導体ウェハーWの温度が所定以下にまで降温した後、移載部79が待機位置から支持リング72の内周よりも内側に水平移動した後、鉛直方向に沿って上昇し、移載部79のピンが処理後の半導体ウェハーWを持ち上げて支持リング72から離間させる。そして、搬送開口部66が開放されて搬送ロボットのハンドがチャンバー6内に進入し、半導体ウェハーWの直下にて停止する。続いて、移載部79が下降して搬送ロボットのハンドに処理後の半導体ウェハーWを渡す。その後、半導体ウェハーWを受け取った搬送ロボットのハンドがチャンバー6から退出することにより半導体ウェハーWが搬出され、熱処理装置1におけるフラッシュ加熱処理が完了する(ステップS15)。なお、搬送開口部66を開放する前に、チャンバー6内の熱処理空間65を大気雰囲気に置換するようにしても良い。
第1実施形態においては、予備加熱後の半導体ウェハーWの表面および裏面に同時期に同等の出力にてフラッシュ光を照射している。これにより、時刻t11から時刻t12にかけて半導体ウェハーWの表面および裏面が同様に昇温して最高温度である目標温度に到達する。そして、フラッシュ光照射期間中には、半導体ウェハーWの表面および裏面が常に最高温度となり、厚さ方向の中央部が常に最低温度となるような温度分布が生じる。従って、半導体ウェハーWの表面および裏面には同程度の熱膨張が生じることとなり、これらの一方面に対して他方面の熱膨張に起因した引張応力は作用しない。その一方、最も温度の低い半導体ウェハーWの厚さ方向中央部近傍には、表面および裏面の熱膨張による引張応力が作用する。
このため、仮に前工程にて半導体ウェハーWの裏面に傷が形成されていたとしても、その裏面には引張応力がほとんど作用しないため、傷を起点としたフラッシュ光照射時の半導体ウェハーWの割れを防止することができる。
また、半導体ウェハーWの表面および裏面に同時期にフラッシュ光を照射しているため、従来のように半導体ウェハーWの表面にのみフラッシュ光を照射するのと比較して、ウェハー厚さ方向における最高温度と最低温度との温度差を小さくすることができる。このことによっても、フラッシュ光照射時の半導体ウェハーWの割れを抑制することができる。
また、第1実施形態においては、上側加熱部5の上側フラッシュランプUFLと下側加熱部4の下側フラッシュランプLFLとが互いに直交するように配置されている。このため、上側フラッシュランプUFLおよび下側フラッシュランプLFLにおける棒状ランプの配列に起因した照度ムラを互いに解消して半導体ウェハーWの面内温度分布を均一にすることができる。
また、支持リング72および遮光部材71がいずれもフラッシュランプFLおよびハロゲンランプHLからの光に対して不透明な材質にて形成されているため、上側加熱部5からの光が半導体ウェハーWの周縁部外方を回り込んで下面周縁部に到達してその周縁部を加熱することは防がれる。同様に、下側加熱部4からの光が半導体ウェハーWの周縁部外方を回り込んで上面周縁部に到達し、周縁部を加熱することも防止される。よって、半導体ウェハーWの面内温度分布をより均一にすることができる。
さらに、半導体ウェハーWの表面を同じ目標温度に到達させるのに、ウェハー表面にのみフラッシュ光を照射するのと比較してフラッシュランプFLの発光出力を小さくすることができる。このため、フラッシュ光照射時にフラッシュランプFLに流れる電流を小さくすることができ、フラッシュランプFLの負荷を低減することができる。特に、フラッシュランプFLの寿命は流れる電流が大きくなるほど短くなるため、本実施形態のようにすればフラッシュランプFLの寿命も長くすることができる。
<第2実施形態>
次に、本発明の第2実施形態について説明する。第2実施形態の熱処理装置の構成は第1実施形態と全く同様である。また、第2実施形態における半導体ウェハーWの処理手順も第1実施形態と概ね同様である。第2実施形態が第1実施形態と相違するのは、フラッシュランプFLの発光出力である。
第2実施形態においても、半導体ウェハーWを予備加熱した後に、下側加熱部4の複数のフラッシュランプFL(下側フラッシュランプLFL)および上側加熱部5の複数のフラッシュランプFL(上側フラッシュランプUFL)から半導体ウェハーWの裏面および表面のそれぞれにフラッシュ光を照射してフラッシュ加熱を実行する。図8は、第2実施形態における半導体ウェハーWの表面および裏面の温度変化を示す図である。同図において、半導体ウェハーWの表面温度を実線にて示し、裏面温度を点線にて示している。
半導体ウェハーWの温度が予備加熱温度(500℃)に到達して所定時間が経過した時刻t21に、制御部3の制御によって下側加熱部4の複数のフラッシュランプFLおよび上側加熱部5の複数のフラッシュランプFLからフラッシュ光を出射する。下側フラッシュランプLFLおよび上側フラッシュランプUFLの発光制御は、概ね第1実施形態と同様である。すなわち、制御部3からIGBT96のゲートにパルス信号を出力することによってコンデンサ93から下側フラッシュランプLFLおよび上側フラッシュランプUFLへの電荷の供給を断続し、これらの発光をチョッパ制御している。
図9は、第2実施形態における下側フラッシュランプLFLおよび上側フラッシュランプUFLの発光出力の出力波形(プロファイル)を示す図である。同図において、半導体ウェハーWの表面に照射する上側フラッシュランプUFLの発光出力プロファイルを実線にて示し、裏面に照射する下側フラッシュランプLFLの発光出力プロファイルを点線にて示している。第2実施形態においては、上側フラッシュランプUFLおよび下側フラッシュランプLFLの発光を時刻t21に同時に開始し、時刻t22に同時に終了している。但し、図9に示すように、第2実施形態では、半導体ウェハーWの表面に照射する上側フラッシュランプUFLの発光出力を裏面に照射する下側フラッシュランプLFLの発光出力よりも大きくしている。具体的には、上側フラッシュランプUFLに対応するIGBT96に出力するパルス信号に比較的パルス幅の長い複数のパルスを設定し、下側フラッシュランプLFLに対応するIGBT96に出力するパルス信号には比較的パルス幅の短い複数のパルスを設定する。これにより、上側フラッシュランプUFLに対応するIGBT96の総オン時間が長くなって、上側フラッシュランプUFLの発光出力を下側フラッシュランプLFLよりも大きくすることができる。なお、時刻t21から時刻t22までのフラッシュランプFLの発光時間は40ミリ秒としている。
支持リング72に支持された半導体ウェハーWの表面および裏面に同時期にフラッシュ光を照射することにより、半導体ウェハーWが表裏からフラッシュ加熱される。これにより、図8に示すように、半導体ウェハーWの表面および裏面が時刻t21から時刻t22にかけて急速に昇温する。
第2実施形態においては、発光時期は同じであるものの、上側フラッシュランプUFLの発光出力が下側フラッシュランプLFLの発光出力よりも大きい。よって、半導体ウェハーWの表面に照射されるフラッシュ光の強度が裏面に照射されるフラッシュ光の強度よりも強くなり、表面の方がより早い昇温速度にて高い温度にまで昇温する。第2実施形態では、時刻t22に半導体ウェハーWの表面が目標温度である1050℃に到達するようにしている。また、フラッシュ加熱による半導体ウェハーWの表面の昇温速度は毎秒1000℃以上、毎秒40000℃以下となるようにしている。なお、第2実施形態では、半導体ウェハーWの裏面は目標温度である1050℃には到達しない。
図10は、第2実施形態における半導体ウェハーWの厚さ方向における温度分布を示す図である。同図は、時刻t22に半導体ウェハーWの表面が目標温度に到達した時点での温度分布を示している。また、同図においては第1実施形態と同様に、半導体ウェハーWの表面からの深さを横軸に示している。
半導体ウェハーWの表面は時刻t22に目標温度に到達する。一方、表面へのフラッシュ光の強度が強い第2実施形態においては、時刻t22における半導体ウェハーWの裏面温度は目標温度よりは低い。但し、フラッシュ光照射によって半導体ウェハーWの表面で発生した熱は裏面側へと伝わり、裏面で発生した熱は表面側へと伝わるのは第1実施形態と同様である。その結果、図10に示すように、半導体ウェハーWの厚さ方向中央部よりも若干裏面寄りに最低温度領域が現出することとなる。半導体ウェハーWの表面および裏面に生じた熱膨張に起因した引張応力は、この最低温度領域に作用する。
このように、第2実施形態においても第1実施形態と同様に、予備加熱後の半導体ウェハーWの表面および裏面に同時期にフラッシュ光を照射している。但し、半導体ウェハーWの表面に照射されるフラッシュ光の強度は裏面に照射されるフラッシュ光の強度よりも強い。このため、フラッシュ光照射期間中には、半導体ウェハーWの厚さ方向中央部よりも裏面寄りに最低温度領域が現出するものの、表面または裏面は最低温度とはならない。従って、半導体ウェハーWの表面および裏面の熱膨張による引張応力は、厚さ方向中央部よりも若干裏面寄りの最低温度領域に作用する。
このため、第1実施形態と同様に、仮に前工程にて半導体ウェハーWの裏面に傷が形成されていたとしても、その裏面には引張応力がほとんど作用しないため、傷を起点としたフラッシュ光照射時の半導体ウェハーWの割れを防止することができる。また、第1実施形態と同様に、半導体ウェハーWの厚さ方向における最高温度と最低温度との温度差を小さくすることによっても、フラッシュ光照射時の半導体ウェハーWの割れを抑制することができる。さらには、フラッシュ光照射時にフラッシュランプFLに流れる電流を小さくしてフラッシュランプFLの負荷を低減することもできる。
また、第2実施形態においては、半導体ウェハーWの裏面に照射するフラッシュ光の強度が比較的小さく、裏面の最高到達温度は目標温度未満であるため、フラッシュ加熱後の半導体ウェハーW全体の温度を比較的低くすることができ、降温速度を速めることができる。その一方、第2実施形態では、半導体ウェハーWの表面に照射するフラッシュ光の強度が比較的大きいため、表面に形成されたパターンによって光吸収率の面内分布が不均一となっている場合には、その影響を受けて表面の面内温度分布が不均一となりやすい。このため、第2実施形態は、表面のパターンに起因した吸収率の面内分布不均一が比較的軽度の半導体ウェハーWのフラッシュ加熱に好適である。
<第3実施形態>
次に、本発明の第3実施形態について説明する。第3実施形態の熱処理装置の構成は第1実施形態と全く同様である。また、第3実施形態における半導体ウェハーWの処理手順も第1実施形態と概ね同様である。第3実施形態が第1実施形態と相違するのは、フラッシュランプFLの発光出力である。
第3実施形態においても、半導体ウェハーWを予備加熱した後に、下側加熱部4の複数のフラッシュランプFL(下側フラッシュランプLFL)および上側加熱部5の複数のフラッシュランプFL(上側フラッシュランプUFL)から半導体ウェハーWの裏面および表面のそれぞれにフラッシュ光を照射してフラッシュ加熱を実行する。図11は、第3実施形態における半導体ウェハーWの表面および裏面の温度変化を示す図である。同図において、半導体ウェハーWの表面温度を実線にて示し、裏面温度を点線にて示している。
半導体ウェハーWの温度が予備加熱温度(500℃)に到達して所定時間が経過した時刻t31に、制御部3の制御によって下側加熱部4の複数のフラッシュランプFLおよび上側加熱部5の複数のフラッシュランプFLからフラッシュ光を出射する。下側フラッシュランプLFLおよび上側フラッシュランプUFLの発光制御は、概ね第1実施形態と同様である。すなわち、制御部3からIGBT96のゲートにパルス信号を出力することによってコンデンサ93から下側フラッシュランプLFLおよび上側フラッシュランプUFLへの電荷の供給を断続し、これらの発光をチョッパ制御している。
図12は、第3実施形態における下側フラッシュランプLFLおよび上側フラッシュランプUFLの発光出力の出力波形(プロファイル)を示す図である。同図において、半導体ウェハーWの表面に照射する上側フラッシュランプUFLの発光出力プロファイルを実線にて示し、裏面に照射する下側フラッシュランプLFLの発光出力プロファイルを点線にて示している。第3実施形態においては、上側フラッシュランプUFLおよび下側フラッシュランプLFLの発光を時刻t31に同時に開始し、時刻t32に同時に終了している。但し、図12に示すように、第3実施形態では第2実施形態とは逆に、半導体ウェハーWの表面に照射する上側フラッシュランプUFLの発光出力を裏面に照射する下側フラッシュランプLFLの発光出力よりも小さくしている。具体的には、上側フラッシュランプUFLに対応するIGBT96に出力するパルス信号に比較的パルス幅の短い複数のパルスを設定し、下側フラッシュランプLFLに対応するIGBT96に出力するパルス信号には比較的パルス幅の長い複数のパルスを設定する。これにより、上側フラッシュランプUFLに対応するIGBT96の総オン時間が短くなって、上側フラッシュランプUFLの発光出力を下側フラッシュランプLFLよりも小さくすることができる。なお、時刻t31から時刻t32までのフラッシュランプFLの発光時間は40ミリ秒としている。
支持リング72に支持された半導体ウェハーWの表面および裏面に同時期にフラッシュ光を照射することにより、半導体ウェハーWが表裏からフラッシュ加熱される。これにより、図11に示すように、半導体ウェハーWの表面および裏面が時刻t31から時刻t32にかけて急速に昇温する。
第3実施形態においては、発光時期は同じであるものの、上側フラッシュランプUFLの発光出力が下側フラッシュランプLFLの発光出力よりも小さい。よって、半導体ウェハーWの裏面に照射されるフラッシュ光の強度が表面に照射されるフラッシュ光の強度よりも強くなり、裏面の方がより早い昇温速度にて高い温度にまで昇温する。第3実施形態では、時刻t32に半導体ウェハーWの表面が目標温度である1050℃に到達するようにしている。よって、第3実施形態では、半導体ウェハーWの裏面の最高到達温度は目標温度である1050℃を超えることとなる。また、フラッシュ加熱による半導体ウェハーWの表面の昇温速度は毎秒1000℃以上、毎秒40000℃以下となるようにしている。
図13は、第3実施形態における半導体ウェハーWの厚さ方向における温度分布を示す図である。同図は、時刻t32に半導体ウェハーWの表面が目標温度に到達した時点での温度分布を示している。また、同図においては第1実施形態と同様に、半導体ウェハーWの表面からの深さを横軸に示している。
半導体ウェハーWの表面は時刻t32に目標温度に到達する。一方、裏面へのフラッシュ光の強度が強い第3実施形態においては、時刻t32における半導体ウェハーWの裏面温度は目標温度よりも高くなる。但し、フラッシュ光照射によって半導体ウェハーWの表面で発生した熱は裏面側へと伝わり、裏面で発生した熱は表面側へと伝わるのは第1実施形態と同様である。その結果、図13に示すように、半導体ウェハーWの厚さ方向中央部よりも若干表面寄りに最低温度領域が現出することとなる。半導体ウェハーWの表面および裏面に生じた熱膨張に起因した引張応力は、この最低温度領域に作用する。
このように、第3実施形態においても第1実施形態と同様に、予備加熱後の半導体ウェハーWの表面および裏面に同時期にフラッシュ光を照射している。但し、半導体ウェハーWの裏面に照射されるフラッシュ光の強度は表面に照射されるフラッシュ光の強度よりも強い。このため、フラッシュ光照射期間中には、半導体ウェハーWの厚さ方向中央部よりも表面寄りに最低温度領域が現出するものの、表面または裏面は最低温度とはならない。従って、半導体ウェハーWの表面および裏面の熱膨張による引張応力は、厚さ方向中央部よりも若干裏面寄りの最低温度領域に作用する。
このため、第1実施形態と同様に、仮に前工程にて半導体ウェハーWの裏面に傷が形成されていたとしても、その裏面には引張応力がほとんど作用しないため、傷を起点としたフラッシュ光照射時の半導体ウェハーWの割れを防止することができる。また、第1実施形態と同様に、半導体ウェハーWの厚さ方向における最高温度と最低温度との温度差を小さくすることによっても、フラッシュ光照射時の半導体ウェハーWの割れを抑制することができる。さらには、フラッシュ光照射時にフラッシュランプFLに流れる電流を小さくしてフラッシュランプFLの負荷を低減することもできる。
また、第3実施形態においては第2実施形態とは逆に、半導体ウェハーWの表面に照射するフラッシュ光の強度が比較的小さいため、表面に形成されたパターンによって光吸収率の面内分布が不均一となっている場合であっても、その影響を抑制することができる。但し、第3実施形態では、半導体ウェハーWの裏面に照射するフラッシュ光の強度が比較的大きく、裏面の最高到達温度は目標温度を超えるため、フラッシュ加熱後の半導体ウェハーW全体の温度が比較的高くなり、第2実施形態と比べて降温に長時間を要することとなる。よって、第3実施形態は、表面のパターンに起因した吸収率の面内分布不均一が比較的大きい半導体ウェハーWのフラッシュ加熱に好適である。
<第4実施形態>
次に、本発明の第4実施形態について説明する。第4実施形態の熱処理装置の構成は第1実施形態と全く同様である。また、第4実施形態における半導体ウェハーWの処理手順も第1実施形態と概ね同様である。第4実施形態が第1実施形態と相違するのは、フラッシュランプFLの発光時期および発光出力である。
第4実施形態においても、半導体ウェハーWを予備加熱した後に、下側加熱部4の複数のフラッシュランプFL(下側フラッシュランプLFL)および上側加熱部5の複数のフラッシュランプFL(上側フラッシュランプUFL)から半導体ウェハーWの裏面および表面のそれぞれにフラッシュ光を照射してフラッシュ加熱を実行する。図14は、第4実施形態における半導体ウェハーWの表面および裏面の温度変化を示す図である。同図において、半導体ウェハーWの表面温度を実線にて示し、裏面温度を点線にて示している。
半導体ウェハーWの温度が予備加熱温度(500℃)に到達して所定時間が経過した時刻t41に、制御部3の制御によって下側加熱部4の複数のフラッシュランプFLからフラッシュ光を出射する。続いて、時刻t42に、制御部3の制御によって上側加熱部5の複数のフラッシュランプFLからフラッシュ光を出射する。下側フラッシュランプLFLおよび上側フラッシュランプUFLの発光制御は、概ね第1実施形態と同様である。すなわち、制御部3からIGBT96のゲートにパルス信号を出力することによってコンデンサ93から下側フラッシュランプLFLおよび上側フラッシュランプUFLへの電荷の供給を断続し、これらの発光をチョッパ制御している。
図15は、第4実施形態における下側フラッシュランプLFLおよび上側フラッシュランプUFLの発光出力の出力波形(プロファイル)を示す図である。同図において、半導体ウェハーWの表面に照射する上側フラッシュランプUFLの発光出力プロファイルを実線にて示し、裏面に照射する下側フラッシュランプLFLの発光出力プロファイルを点線にて示している。第4実施形態においては、下側フラッシュランプLFLの発光を時刻t41に開始し、時刻t43に終了している。また、上側フラッシュランプUFLの発光を時刻t41よりも後の時刻t42に開始し、時刻t43よりも後の時刻t44に終了している。すなわち、第4実施形態では、下側フラッシュランプLFLを上側フラッシュランプUFLよりも先に発光開始させて先に発光終了させているのである。時刻t41から時刻t43までの下側フラッシュランプLFLの発光時間、および、時刻t42から時刻t44までの上側フラッシュランプUFLの発光時間はいずれも40ミリ秒である。また、時刻t41から時刻t42までの経過時間および時刻t43から時刻t44までの経過時間、つまり上側フラッシュランプUFLの発光時期を遅らす遅延時間は5ミリ秒としている。従って、時刻t42から時刻t43までの35ミリ秒間は、上側フラッシュランプUFLの発光時期と下側フラッシュランプLFLの発光時期とが重なっている。
また、図15に示すように、半導体ウェハーWの表面に照射する上側フラッシュランプUFLの発光出力を裏面に照射する下側フラッシュランプLFLの発光出力よりも小さくしている。具体的には、上側フラッシュランプUFLに対応するIGBT96に出力するパルス信号に比較的パルス幅の短い複数のパルスを設定し、下側フラッシュランプLFLに対応するIGBT96に出力するパルス信号には比較的パルス幅の長い複数のパルスを設定する。これにより、上側フラッシュランプUFLに対応するIGBT96の総オン時間が短くなって、上側フラッシュランプUFLの発光出力を下側フラッシュランプLFLよりも小さくすることができる。
支持リング72に支持された半導体ウェハーWの裏面に時刻t41に下側フラッシュランプLFLからのフラッシュ光照射が開始されることによって、まず半導体ウェハーWの裏面が加熱される。時刻t41から時刻t42までの間は、半導体ウェハーWの表面にはフラッシュ光が照射されていない。従って、時刻t41から時刻t42までの間は、半導体ウェハーWの裏面側からのみ加熱されることとなる。
図16および図17は、第4実施形態における半導体ウェハーWの厚さ方向における温度分布を示す図である。これら両図においては、半導体ウェハーWの表面からの深さを横軸に示している。図16は、時刻t42の直前、つまり半導体ウェハーWの裏面のみにフラッシュ光が照射されている時点での温度分布を示している。
時刻t41から時刻t42までの間は、半導体ウェハーWの裏面のみにフラッシュ光が照射されるため、厚さ方向の温度分布において裏面が最高温度となる。フラッシュ光照射によって半導体ウェハーWの裏面に発生した熱は表面側へと伝わるものの、この期間では図16に示す如く半導体ウェハーWの表面の温度が最も低い。但し、時刻t41から時刻t42までの5ミリ秒程度の時間では、半導体ウェハーWの裏面が大きくは昇温しないため、表面に大きな引張応力は作用しない。
続いて時刻t42には、半導体ウェハーWの表面にもフラッシュ光が照射される。これにより、時刻t42以降は半導体ウェハーWが表裏からフラッシュ加熱されることとなる。半導体ウェハーWの表面には裏面よりも遅れてフラッシュ光が照射されるため、図14に示すように、表面は裏面よりもやや遅れて昇温する。
時刻t42から時刻t43までの間は、半導体ウェハーWの表面および裏面の双方にフラッシュ光が照射され続ける。そして、時刻t43に、表面に先行して半導体ウェハーWの裏面へのフラッシュ光照射が終了する。半導体ウェハーWの裏面には時刻t41から時刻t43までフラッシュ光が照射されることとなり、これにより、半導体ウェハーWの裏面は時刻t41から時刻t43にかけて昇温する。
時刻t43から時刻t44までの間は、半導体ウェハーWの表面のみにフラッシュ光が照射される。但し、この期間においても、先行して昇温している半導体ウェハーWの裏面から表面への熱伝導は継続している。そして、時刻t44に、半導体ウェハーWの表面へのフラッシュ光照射が終了する。半導体ウェハーWの表面には時刻t42から時刻t44までフラッシュ光が照射されることとなり、これにより、半導体ウェハーWの表面は時刻t42から時刻t44にかけて昇温する。
第4実施形態においては、時刻t44に半導体ウェハーWの表面が目標温度である1050℃に到達するようにしている。また、フラッシュ加熱による半導体ウェハーWの表面の昇温速度は毎秒1000℃以上、毎秒40000℃以下となるようにしている。
図17は、時刻t44に半導体ウェハーWの表面が目標温度に到達した時点での厚さ方向における温度分布を示している。時刻t42に半導体ウェハーWの表面へのフラッシュ光照射が開始されることによって、半導体ウェハーWは表裏からフラッシュ加熱されることとなり、表面で発生した熱は裏面側へと伝わり、裏面で発生した熱は表面側へと伝わる。その結果、当初半導体ウェハーWの表面に現出していた最低温度領域が厚さ方向内部へと移動し、時刻t44の時点では図17に示すように、ほぼ厚さ方向の中央部近傍にまで移動している。時刻t44の時点で半導体ウェハーWの表面に生じている熱膨張に起因した引張応力は、この厚さ方向中央部近傍の最低温度領域に作用する。なお、時刻t44の時点では、半導体ウェハーWの裏面へのフラッシュ光照射は既に終了しているため、裏面温度は若干低下しており、表面に比較すると熱膨張の程度も小さくなっている。
以上のように、第4実施形態においては、上側フラッシュランプUFLのフラッシュ光照射期間と下側フラッシュランプLFLのフラッシュ光照射期間とが一部オーバーラップしており、時刻t42から時刻t43までの期間は半導体ウェハーWの表面および裏面に同時期にフラッシュ光が照射される。このため、時刻t41から時刻t42にかけて一旦は半導体ウェハーWの表面に現出した最低温度領域が時刻t42以降は厚さ方向内部に移動し、表面が目標温度に到達する時刻t44では厚さ方向の中央部近傍にまで移動する。従って、半導体ウェハーWの表面および裏面に大きな熱膨張が生じる時刻t43から時刻t44にかけては厚さ方向の内部に最低温度領域が存在しており、表面および裏面の熱膨張による引張応力はその内部の最低温度領域に作用する。
このため、第1実施形態と同様に、仮に前工程にて半導体ウェハーWの裏面に傷が形成されていたとしても、その裏面には引張応力がほとんど作用しないため、傷を起点としたフラッシュ光照射時の半導体ウェハーWの割れを防止することができる。また、第1実施形態と同様に、半導体ウェハーWの厚さ方向における最高温度と最低温度との温度差を小さくすることによっても、フラッシュ光照射時の半導体ウェハーWの割れを抑制することができる。特に、第4実施形態では、表面が目標温度に到達する時刻t44では最低温度領域と半導体ウェハーWの裏面との温度差はほとんど無いため、裏面側から作用する応力は極めて小さい。さらには、フラッシュ光照射時にフラッシュランプFLに流れる電流を小さくしてフラッシュランプFLの負荷を低減することもできる。
また、第4実施形態においては、下側フラッシュランプLFLのフラッシュ光照射期間の始期(時刻t41)が上側フラッシュランプUFLのフラッシュ光照射期間の始期(時刻t42)よりも早い。このため、裏面側からの熱伝導による補助を受けつつフラッシュ光照射によって表面を加熱することができ、上側フラッシュランプUFLから照射するフラッシュ光の強度を小さくして表面に形成されたパターンによる影響を小さくすることができる。
また、第4実施形態においては、下側フラッシュランプLFLのフラッシュ光照射期間の終期(時刻t43)が上側フラッシュランプUFLのフラッシュ光照射期間の終期(時刻t44)よりも早い。このため、半導体ウェハーWの表面が目標温度に到達する時刻t44では裏面温度は若干低下している。その結果、フラッシュ加熱後の半導体ウェハーW全体の温度を比較的低くすることができ、降温速度を速めることができる。
特に、第4実施形態においては、下側フラッシュランプLFLのフラッシュ光照射期間の終期から上側フラッシュランプUFLのフラッシュ光照射期間の終期までの時間を半導体ウェハーWの裏面から表面への熱伝導に要する熱伝導時間よりも短くしている。ここで、「熱伝導時間」とは、フラッシュ光照射によって半導体ウェハーWの裏面に発生した熱が表面に伝導するのに要する時間である。熱伝導時間は、半導体ウェハーWの材質および外寸によって規定されるものであり、本実施形態の如きφ300mmのシリコンウェハー(規格により厚さは0.775mmに標準化されている)であれば約15ミリ秒である。このように、下側フラッシュランプLFLのフラッシュ光照射期間の終期を熱伝導時間以内(第4実施形態では15ミリ秒以内)の範囲で上側フラッシュランプUFLのフラッシュ光照射期間の終期よりも早くすることにより、上側フラッシュランプUFLのフラッシュ光照射期間の終期である時刻t44の時点でも裏面側からの熱伝導による補助を受けることができる。この観点からは、下側フラッシュランプLFLのフラッシュ光照射期間の終期から上側フラッシュランプUFLのフラッシュ光照射期間の終期までの時間は5ミリ秒に限定されるものではなく、15ミリ秒以内であれば良い。
<第5実施形態>
次に、本発明の第5実施形態について説明する。図18は、第5実施形態の熱処理装置1aの要部構成を示す図である。図18において、第1実施形態の図1と同一の要素については同一の符号を付している。第5実施形態が第1実施形態と相違するのは、保持部7がベルヌーイチャック170を備える点、および、下側加熱部4が光源としてフラッシュランプFLのみを備える点である。
第5実施形態の保持部7は、ベルヌーイチャック170および遮光部材71を備える。遮光部材71は、第1実施形態と同様に、フラッシュランプFLからの光に対して不透明な材質にて形成された円環形状の部材であり、略円筒形状のチャンバー側部63の内壁から突出するように設けられている。遮光部材71の上面内周部にベルヌーイチャック170が載置されている。
図19は、ベルヌーイチャック170の一例を示す図である。ベルヌーイチャック170は、フラッシュランプFLからのフラッシュ光を透過する石英にて形成されている。ベルヌーイチャック170は、石英の壁面の内部に中空部173を設けて構成される。ベルヌーイチャック170の天井部の石英壁面は、半導体ウェハーWを載置する円形の載置面171とされている。載置面171の径は、半導体ウェハーWの径よりも小さい。また、載置面171の周囲を取り囲むように円環形状の凹部172が設けられている。さらに、その凹部172を取り囲む円環状にガイド部175が設けられている。
また、載置面171には、気体の噴出孔174が形成されている。図19に示すように、噴出孔174はベルヌーイチャック170の中心側から斜め上方に向けて形成されている。噴出孔174は、円形の載置面171と同心円上に沿って設けられた複数の円形の孔であっても良いし、複数のスリット状の孔であっても良い。但し、噴出孔174は、その出口がベルヌーイチャック170に保持される半導体ウェハーWの端縁部よりも内側となるように形成されている。また、ベルヌーイチャック170には移載部79のピンが貫通するための貫通孔(図示省略)が形成されており、その貫通孔の内側と中空部173とは雰囲気分離されている。
ベルヌーイチャック170の中空部173にはチャック用ガス供給部180から窒素ガスが供給される。図18に示すように、チャック用ガス供給部180は、給気配管184、ガス供給源181、バルブ182および流量調整バルブ183を備える。給気配管184の一端はベルヌーイチャック170の中空部173に連通接続されるとともに、他端はガス供給源181に接続される。また、給気配管184の経路途中には、バルブ182および流量調整バルブ183が介挿されている。バルブ182を開放することによって、ガス供給源181からベルヌーイチャック170の中空部173にチャック用ガス(第5実施形態では窒素)が供給される。チャック用ガス供給部180がベルヌーイチャック170に供給する窒素の流量は流量調整バルブ183によって調整される。
バルブ182を開放してチャック用ガス供給部180が中空部173に窒素を供給すると、中空部173の内圧が上昇して窒素が噴出孔174から噴出される。ベルヌーイチャック170の載置面171に半導体ウェハーWが載置されているときにチャック用ガス供給部180が中空部173に窒素を供給すると、噴出孔174から半導体ウェハーWの下面周縁部に向けて窒素が噴出される。噴出孔174は斜め上方に向けて形成されているため、図19に示すように、噴出された窒素は半導体ウェハーWを載置面171から若干浮上させ、半導体ウェハーWの下面周縁部と載置面171との間にできた隙間を凹部172に向けて(つまり、半導体ウェハーWの中心側から端縁部に向けて)流れる。
ところで、窒素の如き流体が流れるときには、流体が外界に及ぼす圧力である静圧は低下する(ベルヌーイ効果)。窒素の流速が早くなるほど、静圧の低下も大きくなる。従って、窒素の流れが形成されている半導体ウェハーWの下面と載置面171との間の隙間の圧力は大気圧よりも小さくなり、その結果半導体ウェハーWには周辺雰囲気から載置面171に向けて押し付けるような圧力が作用する。すなわち、噴出孔174から斜め上方に向けて窒素を噴出することにより、窒素の噴出圧力によって半導体ウェハーWを載置面171から若干浮上させるとともに、浮上により形成された半導体ウェハーWと載置面171との隙間を窒素が流れて半導体ウェハーWに載置面171に押し付けるような圧力を作用させているのである。このような窒素の噴出圧力と窒素流のベルヌーイ効果とによってベルヌーイチャック170は半導体ウェハーWを非接触で吸着保持する。
半導体ウェハーWが非接触でベルヌーイチャック170に保持された状態において、半導体ウェハーWの端縁部と凹部172との間隔(凹部172から端縁部までの高さ)は3mm以上とするのが好ましい。これは、フラッシュ光照射時に半導体ウェハーWが変形したときに、端縁部が凹部172に接触するのを防ぐためである。
ベルヌーイ効果によって非接触で保持される半導体ウェハーWは水平方向に横滑りするおそれがある。このため、凹部172の周囲にガイド部175を設けている。ガイド部175の上端は、窒素の噴出によって非接触で保持される半導体ウェハーWの高さ位置よりも高い。また、その高さ位置において、ガイド部175の内径は半導体ウェハーWの直径よりも若干大きい。このため、非接触で保持される半導体ウェハーWの水平方向位置はガイド部175によって規制される。また、フラッシュ光照射時に半導体ウェハーWがガイド部175に接触して割れるのを防止するために、ガイド部175の内側壁面をテーパ面としておくのが好ましい。
また、第5実施形態においては、下側加熱部4が光源としての複数本のフラッシュランプFLとリフレクタ42とを備えるものの、ハロゲンランプを備えていない。すなわち、第5実施形態の熱処理装置1aは、フラッシュランプFLのみを熱源として備えている。第1実施形態と同様に、上側加熱部5の上側フラッシュランプUFLと下側加熱部4の下側フラッシュランプLFLとは互いに直交するように配置されている。
第5実施形態の熱処理装置1aにおいて、保持部7がベルヌーイチャック170を備える点、および、下側加熱部4がハロゲンランプを備えていない点以外の残余の構成は第1実施形態の熱処理装置1と同じである。
第5実施形態における半導体ウェハーWの処理手順は第1実施形態と概ね同様である。すなわち、まず、装置外部の搬送ロボットによって処理対象となる半導体ウェハーWがチャンバー6内に搬入されてベルヌーイチャック170に渡される。このときには、半導体ウェハーWを保持した搬送ロボットのハンドが搬送開口部66からチャンバー6内に進入し、保持部7の直上にて停止する。続いて、移載部79が遮光部材71の下側の待機位置からベルヌーイチャック170の下側に水平移動した後、鉛直方向に沿って上昇し、移載部79のピンがベルヌーイチャック170の貫通孔を通って載置面171よりも上側に突き出て搬送ロボットのハンドから半導体ウェハーWを受け取る。その後、搬送ロボットのハンドがチャンバー6から退出するとともに、搬送開口部66が閉鎖されることによりチャンバー6内の熱処理空間65が密閉空間とされる。そして、半導体ウェハーWを受け取った移載部79が下降することにより、半導体ウェハーWは移載部79のピンからベルヌーイチャック170に渡されて載置面171に載置される。ベルヌーイチャック170に半導体ウェハーWを渡した移載部79は待機位置に戻る。第5実施形態においても、パターン形成がなされて不純物が注入された表面が上面を向いた状態で半導体ウェハーWがチャンバー6内に搬入されてベルヌーイチャック170に載置される。
次に、搬送開口部66が閉鎖されて熱処理空間65が密閉空間とされた後、バルブ82が開放されてガス供給部8から熱処理空間65に処理ガス(第5実施形態では窒素ガス)を供給し、バルブ22が開放されて排気部2が熱処理空間65から排気を行う。これとともに、バルブ182が開放されてチャック用ガス供給部180からベルヌーイチャック170の中空部173に窒素を供給する。中空部173に供給された窒素が噴出孔174から斜め上方に向けて噴出されることにより、窒素の噴出圧力と窒素流のベルヌーイ効果とによって半導体ウェハーWがベルヌーイチャック170に非接触で吸着保持される。
半導体ウェハーWがベルヌーイチャック170に非接触で保持された後、下側加熱部4の複数のフラッシュランプFL(下側フラッシュランプLFL)および上側加熱部5の複数のフラッシュランプFL(上側フラッシュランプUFL)から半導体ウェハーWの裏面および表面のそれぞれにフラッシュ光を照射してフラッシュ加熱を実行する。すなわち、第5実施形態においては、ハロゲンランプによる予備加熱を行うことなく、室温の半導体ウェハーWの表裏面にフラッシュ光を照射してフラッシュ加熱を行っているのである。図20は、第5実施形態における半導体ウェハーWの表面および裏面の温度変化を示す図である。
所定の時刻t51に、制御部3の制御によって下側加熱部4の複数のフラッシュランプFLおよび上側加熱部5の複数のフラッシュランプFLからフラッシュ光を出射する。下側フラッシュランプLFLおよび上側フラッシュランプUFLの発光制御は、概ね第1実施形態と同様である。すなわち、制御部3からIGBT96のゲートにパルス信号を出力することによってコンデンサ93から下側フラッシュランプLFLおよび上側フラッシュランプUFLへの電荷の供給を断続し、これらの発光をチョッパ制御している。
図21は、第5実施形態における下側フラッシュランプLFLおよび上側フラッシュランプUFLの発光出力の出力波形(プロファイル)を示す図である。第5実施形態においては、下側フラッシュランプLFLおよび上側フラッシュランプUFLの発光を時刻t51に同時に開始し、時刻t52に同時に終了している。また、下側フラッシュランプLFLおよび上側フラッシュランプUFLの発光出力の出力波形も同じにしている。すなわち、下側フラッシュランプLFLに対応するIGBT96および上側フラッシュランプUFLに対応するIGBT96に同一のパルス信号を出力することにより、下側フラッシュランプLFLおよび上側フラッシュランプUFLを同時期に同等の出力で発光させているのである。なお、時刻t51から時刻t52までのフラッシュランプFLの発光時間は80ミリ秒としている。
また、下側フラッシュランプLFLおよび上側フラッシュランプUFLの発光出力がピーク到達後に発光終了時点(時刻t52)に向けて徐々に小さくなってゼロに漸近するようにしている。具体的には、時刻t51から時刻t52にかけてパルス幅が徐々に短くなるとともにパルス間隔が徐々に長くなる複数のパルスを設定したパルス信号を下側フラッシュランプLFLおよび上側フラッシュランプUFLに対応するIGBT96に出力する。これにより、下側フラッシュランプLFLおよび上側フラッシュランプUFLは、時刻t51から時刻t52までの80ミリ秒間発光し、その発光出力はピーク到達後に時刻t52に向けて徐々に小さくなってゼロに漸近する。
ベルヌーイチャック170に非接触で保持された半導体ウェハーWの表面および裏面に同時期に同等の出力にてフラッシュ光を照射することにより、半導体ウェハーWが表裏からフラッシュ加熱される。なお、下側フラッシュランプLFLから出射されたフラッシュ光は、石英のベルヌーイチャック170を透過し、ベルヌーイチャック170に非接触保持された半導体ウェハーWの裏面に照射される。このような表裏両面からのフラッシュ加熱により、図20に示すように、半導体ウェハーWの表面および裏面が時刻t51から時刻t52にかけて急速に昇温して目標温度(1050℃)にまで到達する。また、フラッシュ加熱による半導体ウェハーWの表裏面の昇温速度は毎秒1000℃以上、毎秒40000℃以下となるようにしている。
図22は、第5実施形態における半導体ウェハーWの厚さ方向における温度分布を示す図である。同図は、時刻t52に半導体ウェハーWの表面が目標温度に到達した時点での温度分布を示している。また、同図においては第1実施形態と同様に、半導体ウェハーWの表面からの深さを横軸に示している。
半導体ウェハーWの表面および裏面はともに時刻t52に目標温度に同時に到達する。また、フラッシュ光照射によって半導体ウェハーWの表面で発生した熱は裏面側へと伝わり、裏面で発生した熱は表面側へと伝わる。その結果、図22に示すように、半導体ウェハーWの表面および裏面が互いに等しい最高温度となり、厚さ方向の中央部に最低温度領域が現出する。従って、半導体ウェハーWの表面および裏面に同程度の熱膨張が生じ、最も温度の低い半導体ウェハーWの厚さ方向中央部近傍に引張応力が作用することとなる。
時刻t52に上側フラッシュランプUFLおよび下側フラッシュランプLFLによる同時期・同出力のフラッシュ光照射が終了すると、半導体ウェハーWの温度が表裏ともに降温する。半導体ウェハーWの温度が所定以下にまで降温した後、移載部79が待機位置からベルヌーイチャック170の下側に水平移動した後、鉛直方向に沿って上昇し、移載部79のピンが処理後の半導体ウェハーWを持ち上げてベルヌーイチャック170から離間させる。そして、搬送開口部66が開放されて搬送ロボットのハンドがチャンバー6内に進入し、半導体ウェハーWの直下にて停止する。続いて、移載部79が下降して搬送ロボットのハンドに半導体ウェハーWを渡す。その後、半導体ウェハーWを受け取った搬送ロボットのハンドがチャンバー6から退出することにより半導体ウェハーWが搬出され、熱処理装置1aにおけるフラッシュ加熱処理が完了する。
第5実施形態においては、室温の半導体ウェハーWの表面および裏面に同時期に同等の出力にてフラッシュ光を照射している。これにより、時刻t51から時刻t52にかけて半導体ウェハーWの表面および裏面が同様に昇温して最高温度である目標温度に到達する。そして、フラッシュ光照射期間中には、半導体ウェハーWの表面および裏面が常に最高温度となり、厚さ方向の中央部が常に最低温度となるような温度分布が生じる。従って、半導体ウェハーWの表面および裏面には同程度の熱膨張が生じることとなり、これらの一方面に対して他方面の熱膨張に起因した引張応力は作用しない。その一方、最も温度の低い半導体ウェハーWの厚さ方向中央部近傍には、表面および裏面の熱膨張による引張応力が作用する。
このため、第1実施形態と同様に、仮に前工程にて半導体ウェハーWの裏面に傷が形成されていたとしても、その裏面には引張応力がほとんど作用しないため、傷を起点としたフラッシュ光照射時の半導体ウェハーWの割れを防止することができる。また、第1実施形態と同様に、半導体ウェハーWの厚さ方向における最高温度と最低温度との温度差を小さくすることによっても、フラッシュ光照射時の半導体ウェハーWの割れを抑制することができる。
また、第5実施形態においては、ハロゲンランプによる予備加熱を行うことなく、下側フラッシュランプLFLおよび上側フラッシュランプUFLからのフラッシュ光照射のみによって半導体ウェハーWを室温から1000℃以上の目標温度にまで到達させている。従来、特許文献1に開示されるようなホットプレートによって予備加熱を行う場合には1分程度の予備加熱時間が必要となり、ハロゲンランプによって予備加熱を行う場合であっても数秒程度の時間を必要としていたところ、フラッシュ光照射のみによって半導体ウェハーWを目標温度まで加熱すれば1秒以内に全ての熱処理を完了させることができる(第5実施形態では約0.1秒)。従って、熱処理装置1aにおける処理時間を顕著に短時間とすることができ、スループットを大幅に高めることができる。また、処理時間が短時間となれば、チャンバー側部63などの部材の不要な温度上昇を抑制することもでき、フラッシュ光照射後の半導体ウェハーWの降温速度を高速にすることができる。
また、第5実施形態においては、透明なベルヌーイチャック170がベルヌーイ効果によって半導体ウェハーWを非接触で保持しているため、昇温した半導体ウェハーWからベルヌーイチャック170への熱伝導はほとんど生じない。半導体ウェハーWがチャックに接触して保持されていると、その接触部位近傍のみで熱伝導が生じて温度が低下し、面内温度分布が不均一となることがある。第2実施形態では、半導体ウェハーWからベルヌーイチャック170への熱伝導がほとんど生じないため、そのような部分的な温度低下も生じず、半導体ウェハーWの面内温度分布を均一にすることができる。
もっとも、ベルヌーイチャック170は、噴出孔174から半導体ウェハーWの下面周縁部に窒素を噴出してベルヌーイ効果を生じさせているため、その気流によって半導体ウェハーWの周縁部の温度が低下することはある。しかし、第5実施形態ではフラッシュ光照射のみによって1秒以内に全ての熱処理を完了させているため、その極めて短い時間では噴出気流による温度低下の影響はほとんど生じない。
また、半導体ウェハーWはベルヌーイチャック170から浮上して非接触保持されているため、フラッシュ光照射時に急激な温度変化によって半導体ウェハーWが変形したとしても、その変形を拘束するような応力は作用しない。これによっても、フラッシュ光照射時の半導体ウェハーWの割れを防止することができる。
さらに、第5実施形態においては、下側フラッシュランプLFLおよび上側フラッシュランプUFLの発光出力がピーク到達後に発光終了時点に向けて徐々に小さくなってゼロに漸近するようにしている。これにより、フラッシュ光照射の終了時点において、半導体ウェハーWの表裏面が過度に昇温するのを防止することができる。また、ウェハー深さ方向における温度差がフラッシュ光照射の終了時点に向けて徐々に滑らかに小さくなるようにすることができる。その結果、フラッシュ光照射時に半導体ウェハーWに作用する熱応力を緩和してウェハー割れをより確実に防止することができる。
<変形例>
以上、本発明の実施の形態について説明したが、この発明はその趣旨を逸脱しない限りにおいて上述したもの以外に種々の変更を行うことが可能である。例えば、上側フラッシュランプUFLおよび下側フラッシュランプLFLのフラッシュ光照射期間の始期および終期を図23から図25に示すようなものとしても良い。図23から図25は、上側フラッシュランプUFLおよび下側フラッシュランプLFLのフラッシュ光照射期間を示すタイミングチャートであり、上側フラッシュランプUFLのフラッシュ光照射期間を実線にて示し、下側フラッシュランプLFLのフラッシュ光照射期間を点線にて示している。
図23は、上側フラッシュランプUFLおよび下側フラッシュランプLFLのフラッシュ光照射期間の始期が同時のケースである。図23(a)は、上側フラッシュランプUFLおよび下側フラッシュランプLFLのフラッシュ光照射を同時に開始して同時に終了する例であり、上記第1実施形態のケースに相当する。また、図23(b)は、上側フラッシュランプUFLおよび下側フラッシュランプLFLのフラッシュ光照射を同時に開始し、下側フラッシュランプLFLによるウェハー裏面へのフラッシュ光照射を先行して終了する例である。さらに、図23(c)は、上側フラッシュランプUFLおよび下側フラッシュランプLFLのフラッシュ光照射を同時に開始し、上側フラッシュランプUFLによるウェハー表面へのフラッシュ光照射を先行して終了する例である。
図24は、上側フラッシュランプUFLによる半導体ウェハーWの表面へのフラッシュ光照射を下側フラッシュランプLFLに先行して開始するケースである。図24(a)は、上側フラッシュランプUFLのフラッシュ光照射を先行して開始し、上側フラッシュランプUFLおよび下側フラッシュランプLFLのフラッシュ光照射を同時に終了する例である。また、図24(b)は、上側フラッシュランプUFLのフラッシュ光照射を先行して開始し、下側フラッシュランプLFLのフラッシュ光照射を先行して終了する例である。さらに、図24(c)は、上側フラッシュランプUFLのフラッシュ光照射を先行して開始し、先行して終了する例である。
図25は、下側フラッシュランプLFLによる半導体ウェハーWの裏面へのフラッシュ光照射を上側フラッシュランプUFLに先行して開始するケースである。図25(a)は、下側フラッシュランプLFLのフラッシュ光照射を先行して開始し、上側フラッシュランプUFLおよび下側フラッシュランプLFLのフラッシュ光照射を同時に終了する例である。また、図25(b)は、下側フラッシュランプLFLのフラッシュ光照射を先行して開始し、先行して終了する例であり、第4実施形態のケースに相当する。さらに、図25(c)は、下側フラッシュランプLFLのフラッシュ光照射を先行して開始し、上側フラッシュランプUFLのフラッシュ光照射を先行して終了する例である。
図23から図25に示すように、上側フラッシュランプUFLおよび下側フラッシュランプLFLのフラッシュ光照射のタイミングについては種々の組み合わせが可能である。但し、いずれの組み合わせであったとしても、上側フラッシュランプUFLのフラッシュ光照射期間および下側フラッシュランプLFLのフラッシュ光照射期間の少なくとも一部は互いに重なり合うようにしている。このようにすれば、その重なり合っている期間では半導体ウェハーWの表面および裏面に同時期にフラッシュ光が照射されることとなり、最低温度領域は半導体ウェハーWの厚さ方向の内部に存在する。従って、半導体ウェハーWの裏面に傷が形成されていたとしても、その裏面には引張応力がほとんど作用しないため、傷を起点としたフラッシュ光照射時の半導体ウェハーWの割れを防止することができる。
図23から図25に示した例において、上側フラッシュランプUFLおよび下側フラッシュランプLFLのフラッシュ光照射時間は特に限定されるものではなく、IGBT96に出力するパルス信号の波形によって適宜に設定することができる。もっとも、上側フラッシュランプUFLおよび下側フラッシュランプLFLのフラッシュ光照射期間の総時間は1秒以下である。また、下側フラッシュランプLFLのフラッシュ光照射期間については、半導体ウェハーWの裏面から表面への熱伝導に要する熱伝導時間よりも長くした方が表面への熱伝導によって表面のフラッシュ加熱を補助できるため、全体としての加熱効率が高まる。
また、図23から図25に示した例において、上側フラッシュランプUFLおよび下側フラッシュランプLFLの発光出力は、同じであっても良いし、互いに異なるものであっても良い。
また、第5実施形態のベルヌーイチャックを図26に示すようなものとしても良い。図26において、図19と同一の要素については同一の符号を付している。図19のベルヌーイチャック170が面一の載置面171を備えていたのに対して、図26のベルヌーイチャック170aは円環状の載置部177を備えている。円環状の載置部177の径は、半導体ウェハーWの径よりも小さい。その載置部177の周囲を取り囲むように円環形状の凹部172が設けられている。
載置部177の側面はテーパ面とされている。そして、ベルヌーイチャック170aの天井部の石英壁面には、載置部177の内周側テーパ面の傾斜に沿うように噴出孔174が形成されている。よって、噴出孔174から斜め上方に向けて噴出された窒素ガスは、そのまま載置部177の内周側テーパ面に沿って流れる。ベルヌーイチャック170aの残余の構成については図19のベルヌーイチャック170と同じである。
ベルヌーイチャック170aの載置部177に半導体ウェハーWが載置されているときにチャック用ガス供給部180が中空部173に窒素を供給すると、噴出孔174から半導体ウェハーWの下面周縁部に向けて窒素が噴出される。図26に示すように、噴出された窒素は載置部177の内周側テーパ面に沿って斜め上方に流れ、載置部177の頂上部に載置された半導体ウェハーWを載置部177から若干浮上させる。そして、半導体ウェハーWの下面周縁部と載置部177との間にできた隙間に、半導体ウェハーWの中心側から端縁部に向かう窒素ガス流が形成される。半導体ウェハーWと載置部177との間にできた隙間に窒素の気体流が形成されることにより、ベルヌーイ効果によって半導体ウェハーWには周辺雰囲気から載置部177に向けて押し付けるような圧力が作用する。よって、第5実施形態と同様に、窒素の噴出圧力と窒素流のベルヌーイ効果とによってベルヌーイチャック170aは半導体ウェハーWを非接触で吸着保持することができる。
また、遮光部材71の材質は、炭化ケイ素、窒化アルミニウム、窒化ホウ素などのセラミックに限定されるものではなく、フラッシュランプFLおよびハロゲンランプHLからの光に対して不透明な材質であれば良く、例えば不透明石英などであっても良い。不透明石英は、例えば、石英に微小な気泡を含有させて遮光機能を有するようにしたものである。また、遮光部材71は、金属製(例えば、ステンレススチール製)であっても良い。遮光部材71を金属製とする場合には、フラッシュ光照射に耐えられるように遮光部材71を水冷するとともに、遮光部材71の表面を鏡面とするのが好ましい。ステンレススチール製のチャンバー側部63の一部でもって遮光部材71を形成するようにしても良い。
また、ベルヌーイチャック170のうちの保持する半導体ウェハーWよりも外側の領域を不透明石英にて形成するようにしても良い。このようにすれば、上側加熱部5からの光が半導体ウェハーWの周縁部外方を回り込んで下面周縁部に到達してその周縁部を加熱することが防がれる。同様に、下側加熱部4からの光が半導体ウェハーWの周縁部外方を回り込んで上面周縁部に到達し、周縁部を加熱することも防止される。
また、半導体ウェハーの表面にニッケル膜を成膜し、本発明に係る熱処理装置によってフラッシュ加熱処理を施してニッケルシリサイドを形成するようにしても良い(シリサイド化)。さらに、半導体ウェハーの表面にハフニウムなどを含む高誘電率膜(High-k膜)を形成し、本発明に係る熱処理装置によってフラッシュ加熱処理を施して高誘電率膜の結晶化を促進するようにしても良い(PDA:Post Deposition Anneal)。
また、本発明に係る熱処理技術によって処理対象となる基板は半導体ウェハーに限定されるものではなく、液晶表示装置などに用いるガラス基板や太陽電池用の基板であっても良い。