以下、本発明の実施の形態について、図を参照して詳細に説明する。以下に示す実施の形態は、自動車のステアリングホイール等に搭載されるエアバッグ装置に組み込まれるディスク型ガス発生器に本発明を適用したものである。なお、以下に示す実施の形態においては、同一のまたは共通する部分に図中同一の符号を付し、その説明は繰り返さない。
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1におけるガス発生器の概略図である。まず、この図1を参照して、本実施の形態におけるガス発生器1について説明する。
図1に示すように、本実施の形態におけるガス発生器1は、軸方向の両端が閉塞された短尺略円筒状のハウジングを有しており、このハウジングの内部に設けられた収容空間に、内部構成部品としての保持部30、点火器40、カップ状部材50、伝火薬56、ガス発生剤61、下側保持部材62、上側保持部材63、クッション材64およびフィルタ70A等が収容されることで構成されている。また、ハウジングの内部に設けられた収容空間には、上述した内部構成部品のうちのガス発生剤61が主として収容された燃焼室60が位置している。
短尺略円筒状のハウジングは、下部側シェル10と上部側シェル20とを含んでいる。下部側シェル10および上部側シェル20のそれぞれは、たとえば圧延された金属製の板状部材をプレス加工することによって形成されたプレス成形品からなる。下部側シェル10および上部側シェル20を構成する金属製の板状部材としては、たとえばステンレス鋼や鉄鋼、アルミニウム合金、ステンレス合金等からなる金属板が利用され、好適には440MPa以上780MPa以下の引張応力が印加された場合にも破断等の破損が生じないいわゆる高張力鋼板が好適に利用される。
下部側シェル10および上部側シェル20は、それぞれが有底略円筒状に形成されており、これらの開口面同士が向き合うように組み合わされて接合されることによってハウジングが構成されている。下部側シェル10は、底板部11と周壁部12とを有しており、上部側シェル20は、天板部21と周壁部22とを有している。これにより、ハウジングの軸方向の端部は、天板部21と底板部11とによって閉塞されている。なお、下部側シェル10と上部側シェル20との接合には、電子ビーム溶接やレーザー溶接、摩擦圧接等が好適に利用できる。
下部側シェル10の底板部11の中央部には、天板部21側に向かって突出する突状筒部13が設けられており、これにより下部側シェル10の底板部11の中央部には、窪み部14が形成されている。突状筒部13は、上述した保持部30を介して点火器40が固定される部位であり、窪み部14は、保持部30に雌型コネクタ部34を設けるためのスペースとなる部位である。
突状筒部13は、有底略円筒状に形成されており、その天板部21側に位置する軸方向端部には、平面視長円形状の開口部15が設けられている。当該開口部15は、点火器40の一対の端子ピン42が挿通される部位である。
図1に示すように、点火器40は、火炎を発生させるためのものであり、点火部41と、上述した一対の端子ピン42とを備えている。点火部41は、その内部に、作動時において着火して燃焼することで火炎を発生する点火薬と、この点火薬を着火させるための抵抗体とを含んでいる。一対の端子ピン42は、点火薬を着火させるために点火部41に接続されている。
より詳細には、点火部41は、カップ状に形成されたスクイブカップと、当該スクイブカップの開口端を閉塞し、一対の端子ピン42が挿通されてこれを保持する基部とを備えており、スクイブカップ内に挿入された一対の端子ピン42の先端を連結するように抵抗体(ブリッジワイヤ)が取付けられ、この抵抗体を取り囲むようにまたはこの抵抗体に近接するようにスクイブカップ内に点火薬が装填された構成を有している。
ここで、抵抗体としては一般にニクロム線等が利用され、点火薬としては一般にZPP(ジルコニウム・過塩素酸カリウム)、ZWPP(ジルコニウム・タングステン・過塩素酸カリウム)、鉛トリシネート等が利用される。なお、上述したスクイブカップおよび基部は、一般に金属製またはプラスチック製である。
衝突を検知した際には、端子ピン42を介して抵抗体に所定量の電流が流れる。抵抗体に所定量の電流が流れることにより、抵抗体においてジュール熱が発生し、点火薬が燃焼を開始する。燃焼により生じた高温の火炎は、点火薬を収納しているスクイブカップを破裂させる。抵抗体に電流が流れてから点火器40が作動するまでの時間は、抵抗体にニクロム線を利用した場合には一般に2ミリ秒以下である。
点火器40は、突状筒部13に設けられた開口部15に端子ピン42が挿通するように下部側シェル10の内側から挿入された状態で底板部11に取付けられている。具体的には、底板部11に設けられた突状筒部13の周囲には、樹脂成形部からなる保持部30が設けられており、点火器40は、当該保持部30によって保持されることにより、底板部11に固定されている。
保持部30は、型を用いた射出成形(より特定的にはインサート成形)によって形成されるものであり、下部側シェル10の底板部11に設けられた開口部15を経由して底板部11の内表面の一部から外表面の一部にまで達するように絶縁性の流動性樹脂材料を底板部11に付着させてこれを固化させることによって形成されている。
点火器40は、保持部30の成形の際に、開口部15に端子ピン42が挿通するように下部側シェル10の内側から挿入された状態とされ、この状態において点火器40と下部側シェル10との間の空間を充填するように上述した流動性樹脂材料が流し込まれることにより、保持部30を介して底板部11に固定される。
射出成形によって形成される保持部30の原料としては、硬化後において耐熱性や耐久性、耐腐食性等に優れた樹脂材料が好適に選択されて利用される。その場合、エポキシ樹脂等に代表される熱硬化性樹脂に限られず、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリアミド樹脂(たとえばナイロン6やナイロン66等)、ポリプロピレンスルフィド樹脂、ポリプロピレンオキシド樹脂等に代表される熱可塑性樹脂を利用することも可能である。これら熱可塑性樹脂を原材料として選択する場合には、成形後において保持部30の機械的強度を確保するためにこれら樹脂材料にガラス繊維等をフィラーとして含有させることが好ましい。しかしながら、熱可塑性樹脂のみで十分な機械的強度が確保できる場合には、上述の如くのフィラーを添加する必要はない。
保持部30は、下部側シェル10の底板部11の内表面の一部を覆う内側被覆部31と、下部側シェル10の底板部11の外表面の一部を覆う外側被覆部32と、下部側シェル10の底板部11に設けられた開口部15内に位置し、上記内側被覆部31および外側被覆部32にそれぞれ連続する連結部33とを有している。
保持部30は、内側被覆部31、外側被覆部32および連結部33のそれぞれの底板部11側の表面において底板部11に固着している。また、保持部30は、点火器40の点火部41の下方端寄りの部分の側面および下面と、点火器40の端子ピン42の上方端寄りの部分の表面とにそれぞれ固着している。これにより、開口部15は、端子ピン42と保持部30とによって完全に埋め込まれた状態となり、当該部分におけるシール性が確保されることでハウジングの内部の空間の気密性が確保されている。なお、開口部15は、上述したように平面視長円形状に形成されているため、当該開口部15を連結部33で埋め込むことにより、これら開口部15および連結部33は、保持部30が底板部11に対して回転してしまうことを防止する回り止め機構としても機能する。
保持部30の外側被覆部32の外部に面する部分には、雌型コネクタ部34が形成されている。この雌型コネクタ部34は、点火器40とコントロールユニット(不図示)とを結線するためのハーネスの雄型コネクタ(図示せず)を受け入れるための部位であり、下部側シェル10の底板部11に設けられた窪み部14内に位置している。この雌型コネクタ部34内には、点火器40の端子ピン42の下方端寄りの部分が露出して配置されている。雌型コネクタ部34には、雄型コネクタが挿し込まれ、これによりハーネスの芯線と端子ピン42との電気的導通が実現される。
また、保持部30によって覆われることとなる部分の底板部11の表面の所定位置に予め接着剤層が設けられてなる下部側シェル10を用いて上述した射出成形を行なうこととしてもよい。当該接着剤層は、上記底板部11の所定位置に予め接着剤を塗布してこれを硬化させておくことにより、その形成が可能である。
このようにすれば、底板部11と保持部30との間に硬化した接着剤層が位置することになるため、樹脂成形部からなる保持部30をより強固に底板部11に固着させることが可能になる。したがって、底板部11に設けられた開口部15を囲うように上記接着剤層を周方向に沿って環状に設けることとすれば、当該部分においてより高いシール性を確保することが可能になる。
ここで、底板部11に予め塗布しておく接着剤としては、硬化後において耐熱性や耐久性、耐腐食性等に優れた樹脂材料を原料として含むものが好適に利用され、たとえばシアノアクリレート系樹脂やシリコーン系樹脂を原料として含むものが特に好適に利用される。なお、上述の樹脂材料以外にも、フェノール系樹脂、エポキシ系樹脂、メラミン系樹脂、尿素系樹脂、ポリエステル系樹脂、アルキド系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂、ポリテトラフルオロエチレン系樹脂、アクリロニトリルブタジエンスチレン系樹脂、アクリロニトリルスチレン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリカーボネイト系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリブチレンテレフタラート系樹脂、ポリエチレンテレフタラート系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリフェニレンスルファイド系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリエーテルサルフォン系樹脂、ポリアリレート系樹脂、ポリエーテルエーテルケトン系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、液晶ポリマー、スチレン系ゴム、オレフィン系ゴム等を含むものが、上述した接着剤として利用可能である。
なお、ここでは、樹脂成形部からなる保持部30を射出成形することで下部側シェル10に対する点火器40の固定を可能にした場合の構成例を例示したが、下部側シェル10に対する点火器40の固定に他の代替手段を用いることも可能である。
底板部11には、突状筒部13、保持部30および点火器40を覆うようにカップ状部材50が組付けられている。カップ状部材50は、底板部11側の端部が開口した略円筒形状を有しており、内部に伝火薬56が収容された伝火室55を含んでいる。カップ状部材50は、その内部に設けられた伝火室55が点火器40の点火部41に面することとなるように、ガス発生剤61が収容された燃焼室60内に向けて突出して位置するように配置されている。
カップ状部材50は、上述した伝火室55を規定する頂壁部51および側壁部52と、側壁部52の開口端側の部分から径方向外側に向けて延設された延設部53とを有している。延設部53は、下部側シェル10の底板部11の内表面に沿って延びるように形成されている。具体的には、延設部53は、突状筒部13が設けられた部分およびその近傍における底板部11の内底面の形状に沿うように曲成された形状を有しており、その径方向外側の部分にフランジ状に延出する先端部54を含んでいる。
延設部53の先端部54は、ハウジングの軸方向に沿って底板部11と下側保持部材62との間に配置されており、これによりハウジングの軸方向に沿って底板部11と下側保持部材62とによって挟み込まれている。ここで、下側保持部材62は、その上方に配置されたガス発生剤61、クッション材64、上側保持部材63および天板部21によって底板部11側に向けて押し付けられた状態にあるため、カップ状部材50は、その延設部53の先端部54が下側保持部材62によって底板部11側に向けて押し付けられた状態となり、底板部11に対して固定されることになる。
カップ状部材50は、頂壁部51および側壁部52のいずれにも開口を有しておらず、その内部に設けられた伝火室55を取り囲んでいる。このカップ状部材50は、点火器40が作動することによって伝火薬56が着火された場合に伝火室55内の圧力上昇や発生した熱の伝導に伴って破裂または溶融するものであり、その機械的強度は比較的低いものが使用される。
そのため、カップ状部材50としては、アルミニウム、アルミニウム合金等の金属製の部材や、エポキシ樹脂等に代表される熱硬化性樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリアミド樹脂(たとえばナイロン6やナイロン66等)、ポリプロピレンスルフィド樹脂、ポリプロピレンオキシド樹脂等に代表される熱可塑性樹脂等の樹脂製の部材からなるものが好適に利用される。
なお、カップ状部材50としては、このようなものの他にも、鉄や銅等に代表されるような機械的強度の高い金属製の部材からなり、その側壁部52に開口を有し、当該開口を閉塞するようにシールテープが貼着されたもの等を利用することも可能である。また、カップ状部材50の固定方法も、上述した下側保持部材62を用いた固定方法に限られず、他の固定方法を利用してもよい。
伝火室55に充填された伝火薬56は、点火器40が作動することによって生じた火炎によって点火され、燃焼することによって熱粒子を発生する。伝火薬56としては、ガス発生剤61を確実に燃焼開始させることができるものであることが必要であり、一般的には、B/KNO3等に代表される金属粉/酸化剤からなる組成物などが用いられる。伝火薬56は、粉状のものや、バインダによって所定の形状に成形されたもの等が利用される。バインダによって成形された伝火薬56の形状としては、たとえば顆粒状、円柱状、シート状、球状、単孔円筒状、多孔円筒状、タブレット状など種々の形状がある。
下部側シェル10および上部側シェル20からなるハウジングの内部の空間のうち、上述のカップ状部材50が配置された部分を取り巻く空間には、ガス発生剤61が収容された燃焼室60が位置している。具体的には、上述したように、カップ状部材50は、ハウジングの内部に形成された燃焼室60内に突出して配置されており、このカップ状部材50の側壁部52の外表面に面する部分に設けられた空間が燃焼室60として構成されている。
ガス発生剤61は、点火器40が作動することによって生じた熱粒子によって着火され、燃焼することによってガスを発生させる薬剤である。ガス発生剤61としては、非アジド系ガス発生剤を用いることが好ましく、一般に燃料と酸化剤と添加剤とを含む成形体としてガス発生剤61が形成される。燃料としては、たとえばトリアゾール誘導体、テトラゾール誘導体、グアニジン誘導体、アゾジカルボンアミド誘導体、ヒドラジン誘導体等またはこれらの組み合わせが利用される。具体的には、たとえばニトログアニジンや硝酸グアニジン、シアノグアニジン、5−アミノテトラゾール等が好適に利用される。また、酸化剤としては、たとえば塩基性硝酸銅等の塩基性硝酸塩や、過塩素酸アンモニウム、過塩素酸カリウム等の過塩素酸塩、アルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属、アンモニアから選ばれたカチオンを含む硝酸塩等が利用される。硝酸塩としては、たとえば硝酸ナトリウム、硝酸カリウム等が好適に利用される。また、添加剤としては、バインダやスラグ形成剤、燃焼調整剤等が挙げられる。バインダとしては、たとえばカルボキシメチルセルロースの金属塩、ステアリン酸塩等の有機バインダや、合成ヒドロキシタルサイト、酸性白土等の無機バインダが好適に利用可能である。スラグ形成剤としては窒化珪素、シリカ、酸性白土等が好適に利用可能である。また、燃焼調整剤としては、金属酸化物、フェロシリコン、活性炭、グラファイト等が好適に利用可能である。
ガス発生剤61の成形体の形状には、顆粒状、ペレット状、円柱状等の粒状のもの、ディスク状のものなど様々な形状のものがある。また、円柱状のものでは、成形体内部に貫通孔を有する有孔状(たとえば単孔筒形状や多孔筒形状等)の成形体も利用される。これらの形状は、ガス発生器1が組み込まれるエアバッグ装置の仕様に応じて適宜選択されることが好ましく、たとえばガス発生剤61の燃焼時においてガスの生成速度が時間的に変化する形状を選択するなど、仕様に応じた最適な形状を選択することが好ましい。また、ガス発生剤61の形状の他にもガス発生剤61の線燃焼速度、圧力指数などを考慮に入れて成形体のサイズや充填量を適宜選択することが好ましい。
燃焼室60をハウジングの径方向に取り巻く空間には、ハウジングの内周に沿ってフィルタ70Aが配置されている。フィルタ70Aは、中空円筒状の形状を有しており、その中心軸がハウジングの軸方向と実質的に合致するように配置されることにより、ガス発生剤61が収容された燃焼室60を径方向において取り囲んでいる。ここで、フィルタ70Aは、ガス発生器1の形状に適合するように、比較的大径の短尺円筒状の形状を有している。
フィルタ70Aは、燃焼室60にて発生したガスがこのフィルタ70A中を通過する際に、ガスが有する高温の熱を奪い取ることによってガスを冷却する冷却手段として機能するとともに、ガス中に含まれるスラグを除去する除去手段としても機能する。なお、フィルタ70Aの詳細については、後述することとする。
フィルタ70Aに対面する部分の上部側シェル20の周壁部22には、ガス噴出口23が複数設けられている。このガス噴出口23は、フィルタ70Aを通過したガスをハウジングの外部に導出するためのものである。上部側シェル20の周壁部22のフィルタ70A側に位置する主面には、上記ガス噴出口23を閉塞するようにシールテープ24が貼付されている。このシールテープ24としては、片面に粘着部材が塗布されたアルミニウム箔等が利用される。これにより、燃焼室60の気密性が確保されている。
燃焼室60のうち、底板部11側に位置する端部近傍には、下側保持部材62が配置されている。下側保持部材62は、環状の形状を有しており、フィルタ70Aと底板部11との境目部分を覆うように配置されている。下側保持部材62は、フィルタ70Aの底板部11側に位置する内周面に接触することでフィルタ70Aを位置決めして保持するとともに、底板部11との間でカップ状部材50の先端部54を挟み込むことでカップ状部材50を保持している。
燃焼室60のうち、天板部21側に位置する端部には、上側保持部材63が配置されている。上側保持部材63は、略円盤状の形状を有しており、フィルタ70Aと天板部21との境目部分を覆うように配置されている。上側保持部材63は、フィルタ70Aの天板部21側に位置する内周面に接触することでフィルタ70Aを位置決めして保持するとともに、その内部に配置されたクッション材64を保持している。
下側保持部材62および上側保持部材63は、作動時において、燃焼室60にて発生したガスが、フィルタ70Aの内部を経由することなくフィルタ70Aの下端と底板部11との間の隙間およびフィルタ70Aの上端と天板部21との間の隙間から流出してしまうことを防止する。下側保持部材62および上側保持部材63は、たとえば金属製の板状部材をプレス加工等することによって形成されたものであり、好適には普通鋼や特殊鋼等の鋼板(たとえば、冷間圧延鋼板やステンレス鋼板等)からなる部材にて構成される。
上側保持部材63の内部には、燃焼室60に収容されたガス発生剤61に接触するように環状形状のクッション材64が配置されている。これにより、クッション材64は、燃焼室60の天板部21側の部分において天板部21とガス発生剤61との間に位置することになり、ガス発生剤61を底板部11側に向けて押圧している。
このクッション材64は、成形体からなるガス発生剤61が振動等によって粉砕されてしまうことを防止する目的で設けられるものであり、好適にはセラミックスファイバの成形体やロックウール、発泡樹脂(たとえば発泡シリコーン、発泡ポリプロピレン、発泡ポリエチレン等)、クロロプレンおよびEPDMに代表されるゴム等からなる部材にて構成される。
次に、図1を参照して、上述した本実施の形態におけるガス発生器1の動作について説明する。
本実施の形態におけるガス発生器1が搭載された車両が衝突した場合には、車両に別途設けられた衝突検知手段によって衝突が検知され、これに基づいて車両に別途設けられたコントロールユニットからの通電によって点火器40が作動する。伝火室55に収容された伝火薬56は、点火器40が作動することによって生じた火炎によって点火されて燃焼し、多量の熱粒子を発生させる。この伝火薬56の燃焼によってカップ状部材50は破裂または溶融し、上述の熱粒子が燃焼室60へと流れ込む。
流れ込んだ熱粒子により、燃焼室60に収容されたガス発生剤61が着火されて燃焼し、多量のガスを発生させる。燃焼室60にて発生したガスは、フィルタ70Aの内部を通過し、その際、フィルタ70Aによって熱が奪われて冷却されるとともに、ガス中に含まれるスラグがフィルタ70Aによって除去されてハウジングの外周縁部に流れ込む。
ハウジングの内圧の上昇に伴い、上部側シェル20のガス噴出口23を閉塞していたシールテープ24による封止が破られ、ガス噴出口23を介してガスがハウジングの外部へと噴出される。噴出されたガスは、ガス発生器1に隣接して設けられたエアバッグの内部に導入され、エアバッグを膨張および展開する。
図2は、図1において示した本実施の形態におけるガス発生器用フィルタの概略斜視図であり、図3は、図2に示すガス発生器用フィルタを構成する金属線材の形状を示す図である。次に、これら図2および図3を参照して、本実施の形態におけるガス発生器用フィルタについて詳説する。
図2に示すように、フィルタ70Aは、所定の形状を有する金属線材71を巻回することによって製作された中空円筒状の巻回体にて構成されている。フィルタ70Aは、軸方向に沿って貫通する中空部73を有しており、当該中空部73が、ガス発生剤61が収容される燃焼室60を構成することになる(図1参照)。
フィルタ70Aを構成する金属線材71は、フィルタ70Aの径方向に沿って幾重にも巻回されている。これにより、フィルタ70Aは、その径方向に沿って金属線材71が層状に積み重ねられた構造を有している。また、金属線材71は、フィルタ70Aの周方向および軸方向のいずれにも交差して延在することとなるように斜め方向に向けて巻回されており、軸方向の一端部および他端部においてその巻回方向が折り返されることにより、網目状の形状を形成している。
なお、図2においては、理解を容易とするために、フィルタ70Aの外周面側の表層部および内周面側の表層部に位置する部分の金属線材71のみを図示することとしたが、実際には、フィルタ70Aは、これら図示した部分の金属線材71の間の隙間においても、より内層部に位置する部分の金属線材71によって覆われた構成を有している。
図3に示すように、金属線材71は、その延在方向における任意の位置の断面形状が相互に一致する長尺状の部材にて構成されており、その表面には、当該延在方向に沿って連続して延びる溝部72が設けられている。
より詳細には、本実施の形態におけるフィルタ70Aにあっては、金属線材71が、当該金属線材71の延在方向に沿って延びる平板状の基部71aと、この平板状の基部71aの両端から立設されることで当該金属線材71の延在方向に沿って延びる一対の平板状の突出部71bとを含んでおり、これら基部71aと一対の突出部71bとによって上述した溝部72が構成されている。
当該観点に立てば、本実施の形態におけるフィルタ70Aを構成する金属線材71は、屈曲板状の形状を有しており、かつ、上記溝部72が、当該金属線材71の屈曲部分にて規定されていると見ることができる。
また、溝部72の深さ方向に沿った金属線材71の最大外形寸法L1は、溝部72の幅方向に沿った金属線材71の最大外形寸法L2よりも小さく構成されている(L1<L2)。すなわち、金属線材71の溝部72が形成された方の幅広の主面と、金属線材71の溝部72が形成されていない方の幅広の主面との間の距離L1が、金属線材71の一対の端面間の距離L2よりも小さくなっている。
当該観点に立てば、本実施の形態におけるフィルタ70Aを構成する金属線材71は、全体として略偏平板状の形状を有しており、かつ、上記溝部72が、当該金属線材71の幅広の主面の一方に設けられていると見ることができる。
ここで、図2に示すように、フィルタ70Aにおいては、上述した金属線材71の表面に設けられた溝部72が、当該フィルタ70Aの中空部73側を向くように構成されている。すなわち、上述した金属線材71の溝部72が形成された方の幅広の主面が、フィルタ70Aの径方向内側を向くように配置されているとともに、上述した金属線材71の溝部72が形成されていない方の幅広の主面が、フィルタ70Aの径方向外側を向くように配置されている。
金属線材71の材質としては、ステンレス鋼や鉄鋼、ニッケル合金、銅合金等が挙げられ、特にオーステナイト系ステンレス鋼が好適である。また、金属線材71の上記最大外形寸法L1は、0.5[mm]〜5.0[mm]程度であることが好ましく、金属線材71の上記最大外形寸法L2は、上記最大外形寸法L1よりも大きいことを条件に0.5[mm]〜5.0[mm]程度であることが好ましい。なお、フィルタ70Aは、1本の金属線材71にて構成されていてもよいし、複数本の金属線材71にて構成されていてもよい。
図4は、図2に示すガス発生器用フィルタを通過するガスの流れを模式的に示す図であり、図5は、図4に示すガスの流れをより詳細に示す模式図である。次に、これら図4および図5を参照して、本実施の形態におけるガス発生器の作動時におけるガスの流れについて詳説する。
上述したように、ガス発生器1の作動時においては、燃焼室60にて発生したガスが、フィルタ70Aの内部を通過してガス噴出口23に至る(図1参照)。その際、図4に示すように、燃焼室60にて発生したガスは、フィルタ70Aの中空部73側からフィルタ70Aの内部に侵入し(図中に示す矢印AR1参照)、概ねフィルタ70Aの径方向に沿って移動した後に、フィルタ70Aの外部へと向けて放出される(図中に示す矢印AR2参照)。
ここで、上述したように、本実施の形態におけるガス発生器1においては、フィルタ70Aを構成する金属線材71の表面に設けられた溝部72が上記中空部73側(すなわち燃焼室60側)を向いている。そのため、フィルタ70Aの内部においてガスが通過することとなる流路が複雑化することによってフィルタ70Aのガスに対する接触面積が増加するばかりでなく、図5に示すように、溝部72に吹き付けられたガス(図中においては、当該ガスの流れを模式的に矢印AR11で示している)が、当該溝部72内において向きを変える際に微小な渦流を発生させることでガスの流れが大幅に掻き乱される(図中においては、掻き乱されたガスの流れを模式的に矢印AR12,AR13で示している)ことになり、これらが相まって高い冷却性能が得られることになる。
加えて、図5に示すように、溝部72に吹き付けられたガスに含まれるスラグSが溝部72の表面において効率的に捕集されることになるため、溝部72からスラグSが再度離脱してしまうことが防止できる。したがって、高いスラグ捕集性能も得られることになり、ガス発生器1の外部へのスラグの放出が大幅に低減できることにもなる。
さらには、本実施の形態におけるフィルタ70Aにあっては、上述したように、溝部72の深さ方向に沿った金属線材71の最大外形寸法L1が、溝部72の幅方向に沿った金属線材71の最大外形寸法L2よりも小さく構成されているため、金属線材71がフィルタ70Aの径方向に積み重ねられた状態においてもその総厚を薄く構成することができ、所望の冷却性能およびスラグ捕集性能を得ようとした場合にも、その小型化および軽量化が図られることになる。
したがって、本実施の形態におけるフィルタ70Aとすることにより、小型かつ軽量で高い冷却性能およびスラグ捕集性能を得ることができるガス発生器用フィルタとすることができ、また、本実施の形態におけるガス発生器1とすることにより、小型かつ軽量で高性能のガス発生器とすることができる。
図6は、金属素線から図3に示す金属線材に形状加工する工程を示す図であり、図7は、図3に示す金属線材から図2に示すガス発生器用フィルタを製造する巻回加工を示す図である。次に、これら図6および図7を参照して、上述した本実施の形態におけるガス発生器用フィルタの具体的な製造方法について説明する。
本実施の形態におけるフィルタ70Aは、要約すると、断面が円形状の金属素線を略偏平板状に圧延する際に、当該金属素線にその延在方向に沿って連続的に延びるように溝部を形成することで図3に示した如くの形状を有する金属線材71を製作し、この金属線材71を織製することなく中空円筒状に巻回することによって製造される。
図6に示すように、金属素線80の圧延に際しては、所定位置に周方向に沿って延びる凸型部101が設けられてなる圧延ロール100Aと、所定位置に周方向に沿って延びる凹型部102が設けられてなる圧延ロール100Bとを用いて金属素線80に形状加工を施すことで金属線材71を得る。
より詳細には、凸型部101と凹型部102とが対面するように一対の圧延ロール100A,100Bを対向配置させ、これら一対の圧延ロール100A,100Bをそれぞれ図中に示す矢印B方向および矢印C方向に回転させながら、凸型部101と凹型部102との間に図中に示す矢印A方向に沿って金属素線80を供給する。これにより、金属素線80が略偏平板状に圧延されるとともに、凸型部101および凹型部102の形状が金属素線80に転写され、図中に示す矢印D方向に沿って排出された金属線材71に上述した基部71a,一対の突出部71bおよび溝部72が形成されることになる。
図7に示すように、金属線材71の巻回に際しては、円柱状の形状を有する芯材200の所定位置に金属線材71の先端を固定し、この状態において芯材200を図中に示す矢印F方向に回転させることで図中に示す矢印E方向に沿って金属線材71を芯材200に供給させながらこれを芯材200に巻き付ける。その際、芯材200に供給される金属線材71の芯材200の軸方向に対する位置を図中に示す矢印G方向に沿って往復移動させることにより、金属線材71を芯材200に対して斜めに巻き付ける。
また、このとき、金属線材71の一対の主面のうちの溝部72が形成された方の幅広の主面が芯材200側を向くように金属線材71を芯材200に供給する。これにより、芯材200に巻回された金属線材71は、その表面に形成された溝部72が芯材200側を向くことになる。芯材200に対する金属線材71の巻回が終了した後には、金属線材71を切断し、得られた巻回体から芯材200を抜き取る。
こうして製作された巻回体には、その後、焼結のための熱処理が施され、これにより金属線材71が相互に焼き付けられる。以上により、本実施の形態におけるフィルタ70Aが製造されることになる。
なお、上述したフィルタ70Aの具体的な製造方法は、本実施の形態におけるガス発生器用フィルタを得るためのあくまでも一例であり、他の製造方法によっても当然にその製造が可能である。
(実施の形態2)
図8は、本発明の実施の形態2におけるガス発生器用フィルタの概略斜視図である。以下、この図8を参照して、本実施の形態におけるガス発生用フィルタについて説明する。
図8に示すように、本実施の形態におけるフィルタ70Bは、上述した実施の形態1において示した金属線材71(図3参照)を複数本用いて織製することで平織り状の金網を形成し、形成した平織り状の金網を複数層に亘って積層して中空円筒状の編組体に構成することで製造されたものである。当該フィルタ70Bにあっても、金属線材71の表面に設けられた溝部72が、当該フィルタ70Bの中空部73側を向くように構成されている。
このように構成した場合にも、上述した実施の形態1において説明した効果と同様の効果が得られることになり、小型かつ軽量で高い冷却性能およびスラグ捕集性能を得ることができるガス発生器用フィルタとすることができる。
(変形例)
図9は、第1ないし第4変形例に係る金属線材の形状を示す図である。以下、この図9を参照して、第1ないし第4変形例に係る金属線材の形状について説明する。
上述した実施の形態1および2おけるフィルタ70A,70Bにあっては、巻回体または編組体を構成する金属線材71として、平板状の基部71aとその両端から立設された一対の平板状の突出部71bとを有する形状のものを使用した場合を例示した。しかしながら、これに代えて他の形状を有する金属線材を用いることとしてもよい。
たとえば、図9(A)に示す第1変形例に係る金属線材71Aは、断面視V字状の形状を有する屈曲板状の形状を有しており、これにより、溝部72が、当該金属線材71Aの屈曲部分にて規定されているものである。この場合においても、溝部72の深さ方向に沿った金属線材71Aの最大外形寸法L1を溝部72の幅方向に沿った金属線材71Aの最大外形寸法L2よりも小さく構成するとともに、当該溝部72が中空部側に向くように巻回体または編組体を構成してフィルタを製造することにより、上述した実施の形態1および2において説明した効果と同様の効果を得ることができる。
また、図9(B)に示す第2変形例に係る金属線材71Bは、断面視C字状(より厳密には、略1/3円弧状)の形状を有する湾曲板状の形状を有しており、これにより、溝部72が、当該金属線材71Bの湾曲部分にて規定されているものである。この場合においても、溝部72の深さ方向に沿った金属線材71Bの最大外形寸法L1を溝部72の幅方向に沿った金属線材71Bの最大外形寸法L2よりも小さく構成するとともに、当該溝部72が中空部側に向くように巻回体または編組体を構成してフィルタを製造することにより、上述した実施の形態1および2において説明した効果と同様の効果を得ることができる。
また、図9(C)に示す第3変形例に係る金属線材71Cは、断面視波打ち形状を有する湾曲板状の形状を有しており、これにより、一対の溝部72が、当該金属線材71Cの2つの湾曲部分にてそれぞれ規定されているものである。この場合においても、一対の溝部72の深さ方向に沿った金属線材71Cの最大外形寸法L1を一対の溝部72の幅方向に沿った金属線材71Cの最大外形寸法L2よりも小さく構成するとともに、当該一対の溝部72が中空部側に向くように巻回体または編組体を構成してフィルタを製造することにより、上述した実施の形態1および2において説明した効果と同様の効果を得ることができる。
さらに、図9(D)に示す第4変形例に係る金属線材71Dは、略偏平板状の形状を有しており、かつ、当該金属線材71Dの幅広の主面の一方に断面視V字状の溝部72が形成されているものである。この場合においても、溝部72の深さ方向に沿った金属線材71Dの最大外形寸法L1を溝部72の幅方向に沿った金属線材71Dの最大外形寸法L2よりも小さく構成するとともに、当該溝部72が中空部側に向くように巻回体または編組体を構成してフィルタを製造することにより、上述した実施の形態1および2において説明した効果と同様の効果を得ることができる。
以上において説明した本発明の実施の形態および変形例においては、いわゆるディスク型ガス発生器およびこれに具備されるガス発生器用フィルタに本発明を適用した場合を例示して説明を行なったが、本発明は、いわゆるシリンダ型ガス発生器およびこれに具備されるガス発生器用フィルタにも当然に適用が可能である。シリンダ型ガス発生器は、たとえばサイドエアバッグ装置やカーテンエアバッグ装置等に好適に組み込まれるものであり、その外形がディスク型ガス発生器に比べて細長い。そのため、当該シリンダ型ガス発生器に具備されるガス発生器用フィルタは、比較的小径の長尺円筒状のものとされる。
ここで、シリンダ型ガス発生器およびこれに具備されるガス発生器用フィルタに本発明を適用する場合であって、当該フィルタを金属線材の巻回体にて構成する場合には、フィルタの軸方向の強度を高めるために、フィルタの周方向および軸方向に交差するように斜め方向に向けて巻回される金属線材を、より軸方向に平行な状態になるように傾斜させて巻回することが好ましい。
今回開示した上記実施の形態および変形例はすべての点で例示であって、制限的なものではない。本発明の技術的範囲は特許請求の範囲によって画定され、また特許請求の範囲の記載と均等の意味および範囲内でのすべての変更を含むものである。