以下、本発明の実施の形態について、図を参照して詳細に説明する。以下に示す実施の形態は、自動車のステアリングホイール等に搭載されるエアバッグ装置に組み込まれるディスク型ガス発生器に本発明を適用したものである。なお、以下に示す実施の形態においては、同一のまたは共通する部分に図中同一の符号を付し、その説明は繰り返さない。
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1におけるガス発生器の概略図である。図2は、図1に示すガス発生器の図1中に示す領域IIの要部拡大断面図である。また、図3は、図1に示すガス発生器の下部側シェルの形状を示す図であり、図3(A)は、下部側シェルの平面図、図3(B)は、下部側シェルの図3(A)中に示すIIIB−IIIB線に沿った断面図である。まず、これら図1ないし図3を参照して、本実施の形態におけるガス発生器1Aの構造について説明する。
図1に示すように、本実施の形態におけるガス発生器1Aは、軸方向の両端が閉塞された短尺略円筒状のハウジングを有しており、このハウジングの内部に設けられた収容空間に、内部構成部品としての保持部30、点火器40、カップ状部材50、伝火薬56、ガス発生剤61、下側保持部材62、上側保持部材63、クッション材64およびフィルタ70等が収容されることで構成されている。また、ハウジングの内部に設けられた収容空間には、上述した内部構成部品のうちのガス発生剤61が主として収容されたガス発生剤収容室60が位置している。
短尺略円筒状のハウジングは、下部側シェル10Aと上部側シェル20とを含んでいる。下部側シェル10Aおよび上部側シェル20のそれぞれは、圧延された金属製の板状部材をプレス加工することによって形成されたプレス成形品からなる。
下部側シェル10Aおよび上部側シェル20は、それぞれが有底略円筒状に形成されており、これらの開口面同士が向き合うように組み合わされて接合されることによってハウジングが構成されている。下部側シェル10Aは、底板部11と周壁部12とを有しており、上部側シェル20は、天板部21と周壁部22とを有している。これにより、ハウジングの軸方向の端部は、天板部21と底板部11とによって閉塞されている。なお、下部側シェル10Aと上部側シェル20との接合には、電子ビーム溶接やレーザー溶接、摩擦圧接等が好適に利用できる。
また、上部側シェル20は、周壁部22の下端から連続して外側に向けて立設された固定部25をさらに有している。当該固定部25は、ハウジングを外部の部材(より詳細には、ステアリングホイール100に組み込まれるエアバッグ装置の機枠110(図4参照))に対して固定するための部位であり、これにより設置後においてガス発生器1Aが当該外部の部材によって支持されることになる。
図1および図3に示すように、下部側シェル10Aの底板部11の中央部には、天板部21側に向かって突出する突状筒部13が設けられており、これにより下部側シェル10Aの底板部11の中央部には、窪み部14が形成されている。突状筒部13は、上述した保持部30を介して点火器40が固定される部位であり、窪み部14は、保持部30に雌型コネクタ部34を設けるためのスペースとなる部位である。
突状筒部13は、有底略円筒状に形成されており、その天板部21側に位置する軸方向端部には、平面視円形状の開口部15が設けられている。当該開口部15は、点火器40の一対の端子ピン42が挿通される部位である。また、突状筒部13の天板部21側に位置する軸方向端部には、上述した開口部15を取り囲むように天板部21側に向けて複数の凸部13aが突設されている。
下部側シェル10Aは、上述したように圧延された金属製の板状部材をプレス加工することによって製作されている。具体的には、下部側シェル10Aは、たとえば上型および下型からなる一対の金型を用いて、圧延された一枚の金属製の板状部材を上下方向からプレスすることにより、図示する如くの形状に成形されることで製作される。
ここで、下部側シェル10Aを構成する金属製の板状部材としては、たとえばステンレス鋼や鉄鋼、アルミニウム合金、ステンレス合金等からなる金属板が利用され、好適には440MPa以上780MPa以下の引張応力が印加された場合にも破断等の破損が生じないいわゆる高張力鋼板が好適に利用される。なお、プレス加工としては、熱間鍛造で行なわれてもよいし冷間鍛造で行なわれてもよいが、寸法精度の向上の観点から、より好適には冷間鍛造で行われる。
なお、図1ないし図3に示すように、下部側シェル10Aの所定位置には、単一のループ状の溝部16が設けられることにより脆弱部11aが形成されているが、その詳細については、後述することとする。
上部側シェル20は、上述したように圧延された金属製の板状部材をプレス加工することによって製作されている。具体的には、上部側シェル20は、たとえば上型および下型からなる一対の金型を用いて、圧延された一枚の金属製の板状部材を上下方向からプレスすることにより、図示する如くの形状に成形されることで製作される。ここで、上部側シェル20を構成する金属製の板状部材としては、上述した下部側シェル10Aの場合と同様に、ステンレス鋼や鉄鋼、アルミニウム合金、ステンレス合金等からなる金属板が利用可能である。
図1に示すように、点火器40は、火炎を発生させるための点火装置であり、点火部41と、上述した一対の端子ピン42とを備えている。点火部41は、その内部に、作動時において着火して燃焼することで火炎を発生する点火薬と、この点火薬を着火させるための抵抗体とを含んでいる。一対の端子ピン42は、点火薬を着火させるために点火部41に接続されている。
より詳細には、点火部41は、カップ状に形成されたスクイブカップと、当該スクイブカップの開口端を閉塞し、一対の端子ピン42が挿通されてこれを保持する基部とを備えており、スクイブカップ内に挿入された一対の端子ピン42の先端を連結するように抵抗体(ブリッジワイヤ)が取付けられ、この抵抗体を取り囲むようにまたはこの抵抗体に近接するようにスクイブカップ内に点火薬が装填された構成を有している。
ここで、抵抗体としては一般にニクロム線等が利用され、点火薬としては一般にZPP(ジルコニウム・過塩素酸カリウム)、ZWPP(ジルコニウム・タングステン・過塩素酸カリウム)、鉛トリシネート等が利用される。なお、上述したスクイブカップおよび基部は、一般に金属製またはプラスチック製である。
衝突を検知した際には、端子ピン42を介して抵抗体に所定量の電流が流れる。抵抗体に所定量の電流が流れることにより、抵抗体においてジュール熱が発生し、点火薬が燃焼を開始する。燃焼により生じた高温の火炎は、点火薬を収納しているスクイブカップを破裂させる。抵抗体に電流が流れてから点火器40が作動するまでの時間は、抵抗体にニクロム線を利用した場合には一般に2ミリ秒以下である。
点火器40は、突状筒部13に設けられた開口部15に端子ピン42が挿通するように下部側シェル10Aの内側から挿入された状態で底板部11に取付けられている。具体的には、底板部11に設けられた突状筒部13の周囲には、樹脂成形部からなる保持部30が設けられており、点火器40は、当該保持部30によって保持されることにより、底板部11に固定されている。
ここで、突状筒部13に設けられた開口部15の大きさは、点火器40の最大外形部分である点火部41の外形よりも小さく構成されている。このように構成することにより、万が一保持部30に予期せぬ破損が生じた場合であっても、ハウジングの内部の圧力上昇を受けて点火器40が当該開口部15を通過してハウジングの外部に飛び出てしまうことが防止でき、ガス発生器1Aの安全な動作が確保されることになる。
保持部30は、型を用いた射出成形(より特定的にはインサート成形)によって形成されるものであり、下部側シェル10Aの底板部11に設けられた開口部15を経由して底板部11の内表面の一部から外表面の一部にまで達するように絶縁性の流動性樹脂材料を底板部11に付着させてこれを固化させることによって形成されている。
点火器40は、保持部30の成形の際に、開口部15に端子ピン42が挿通するように下部側シェル10Aの内側から挿入された状態とされ、この状態において点火器40と下部側シェル10Aとの間の空間を充填するように上述した流動性樹脂材料が流し込まれることにより、保持部30を介して底板部11に固定される。
射出成形によって形成される保持部30の原料としては、硬化後において耐熱性や耐久性、耐腐食性等に優れた樹脂材料が好適に選択されて利用される。その場合、エポキシ樹脂等に代表される熱硬化性樹脂に限られず、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリアミド樹脂(たとえばナイロン6やナイロン66等)、ポリプロピレンスルフィド樹脂、ポリプロピレンオキシド樹脂等に代表される熱可塑性樹脂を利用することも可能である。これら熱可塑性樹脂を原材料として選択する場合には、成形後において保持部30の機械的強度を確保するためにこれら樹脂材料にガラス繊維等をフィラーとして含有させることが好ましい。しかしながら、熱可塑性樹脂のみで十分な機械的強度が確保できる場合には、上述の如くのフィラーを添加する必要はない。
保持部30は、下部側シェル10Aの底板部11の内表面の一部を覆う内側被覆部31と、下部側シェル10Aの底板部11の外表面の一部を覆う外側被覆部32と、下部側シェル10Aの底板部11に設けられた開口部15内に位置し、上記内側被覆部31および外側被覆部32にそれぞれ連続する連結部33とを有している。
保持部30は、内側被覆部31、外側被覆部32および連結部33のそれぞれの底板部11側の表面において底板部11に固着している。また、保持部30は、点火器40の点火部41の下方端寄りの部分の側面および下面と、点火器40の端子ピン42の上方端寄りの部分の表面とにそれぞれ固着している。これにより、開口部15は、端子ピン42と保持部30とによって完全に埋め込まれた状態となり、当該部分におけるシール性が確保されることでハウジングの内部の空間の気密性が確保されている。
なお、保持部30の内側被覆部31は、底板部11に設けられた突状筒部13の軸方向端部のみを覆うように設けられており、これにより突状筒部13のハウジングの内部に位置する外周面は、保持部30によって覆われずに露出した状態となっている。
保持部30の外側被覆部32の外部に面する部分には、雌型コネクタ部34が形成されている。この雌型コネクタ部34は、点火器40とコントロールユニット(不図示)とを結線するためのハーネスの雄型コネクタ(図示せず)を受け入れるための部位であり、下部側シェル10Aの底板部11に設けられた窪み部14内に位置している。この雌型コネクタ部34内には、点火器40の端子ピン42の下方端寄りの部分が露出して配置されている。雌型コネクタ部34には、雄型コネクタが挿し込まれ、これによりハーネスの芯線と端子ピン42との電気的導通が実現される。
ここで、保持部30は、上述した突状筒部13に設けられた複数の凸部13aを覆うように形成されている。具体的には、複数の凸部13aは、保持部30の内側被覆部31によって覆われることにより、保持部30の内部に埋設された状態とされている。これにより、射出成形後において、底板部11に対して保持部30が相対的に回転してしまうことが未然に防止できることになり、上述した突状筒部13に設けられた複数の凸部13aは、回転防止用凸部として機能することになる。
なお、回転防止用凸部としての複数の凸部13aが設けられる位置は、上記に限定されるものではなく、保持部30によって覆われることとなる底板部11の表面であれば、どの位置に設けられていてもよい。また、回転防止用凸部としての凸部13aは、必ずしも複数設けられている必要はなく、1つであってもよい。
また、保持部30によって覆われることとなる部分の底板部11の表面の所定位置に予め接着剤層が設けられてなる下部側シェル10Aを用いて上述した射出成形を行なうこととしてもよい。当該接着剤層は、上記底板部11の所定位置に予め接着剤を塗布してこれを硬化させておくことにより、その形成が可能である。
このようにすれば、底板部11と保持部30との間に硬化した接着剤層が位置することになるため、樹脂成形部からなる保持部30をより強固に底板部11に固着させることが可能になる。したがって、射出成形後において、底板部11に対して保持部30が相対的に回転してしまうことが未然に防止可能となる。また、底板部11に設けられた開口部15を囲うように上記接着剤層を周方向に沿って環状に設けることとすれば、当該部分においてより高いシール性を確保することも可能になる。
ここで、底板部11に予め塗布しておく接着剤としては、硬化後において耐熱性や耐久性、耐腐食性等に優れた樹脂材料を原料として含むものが好適に利用され、たとえばシアノアクリレート系樹脂やシリコーン系樹脂を原料として含むものが特に好適に利用される。なお、上述の樹脂材料以外にも、フェノール系樹脂、エポキシ系樹脂、メラミン系樹脂、尿素系樹脂、ポリエステル系樹脂、アルキド系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂、ポリテトラフルオロエチレン系樹脂、アクリロニトリルブタジエンスチレン系樹脂、アクリロニトリルスチレン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリカーボネイト系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリブチレンテレフタラート系樹脂、ポリエチレンテレフタラート系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリフェニレンスルファイド系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリエーテルサルフォン系樹脂、ポリアリレート系樹脂、ポリエーテルエーテルケトン系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、液晶ポリマー、スチレン系ゴム、オレフィン系ゴム等を含むものが、上述した接着剤として利用可能である。
また、接着剤を塗布する位置は特に限定されるものではないが、たとえば底板部11の突状筒部13が形成された部分における外表面(すなわち、保持部30の外側被覆部32によって覆われる部分の底板部11の表面)の全面あるいはその一部のみとしたり、底板部11の突状筒部13が形成された部分における内表面(すなわち、保持部30の内側被覆部31によって覆われる部分の底板部11の表面)の全面あるいはその一部のみとしたりすることができ、さらには保持部30によって覆われる部分の底板部11の表面の全面とすることもできる。
なお、点火器40として、点火部41を構成するスクイブカップおよび基部が、金属製の部材にて構成されたものを使用する場合には、保持部30によって覆われることとなる部分の点火器40の表面の所定位置に予め接着剤を塗布することで接着剤層を設けておいてもよい。このように構成すれば、上述した底板部11に接着剤層を予め設けた場合と同様に、点火器40を保持部30により強固に固着させることが可能になり、当該部分においてより高いシール性を確保することが可能になる。
また、本実施の形態においては、保持部30の成形に際して、保持部30が点火器40と下部側シェル10Aと一体化されるように構成した場合を例示したが、保持部30の成形に際して、保持部30が下部側シェル10Aとのみ一体化されるようにし、成形後の保持部30に対して点火器40がたとえば嵌め込み等によって組付けられるように構成してもよい。その場合には、保持部30が下部側シェル10Aに対してのみ固着することになるため、保持部30と点火器40との間のシール性がこれのみでは確保されないことになるが、当該部分にOリングを配置する等、適宜のシール処理を施せば、十分なシール性を確保することが可能になる。
底板部11には、突状筒部13、保持部30および点火器40を覆うようにカップ状部材50が組付けられている。カップ状部材50は、底板部11側の端部が開口した略円筒形状を有しており、内部に伝火薬56が収容された伝火室55を含んでいる。カップ状部材50は、その内部に設けられた伝火室55が点火器40の点火部41に面することとなるように、ガス発生剤61が収容されたガス発生剤収容室60内に向けて突出して位置するように配置されている。
カップ状部材50は、上述した伝火室55を規定する頂壁部51および側壁部52と、側壁部52の開口端側の部分から径方向外側に向けて延設された延設部53とを有している。延設部53は、下部側シェル10Aの底板部11の内表面に沿って延びるように形成されている。具体的には、延設部53は、突状筒部13が設けられた部分およびその近傍における底板部11の内底面の形状に沿うように曲成された形状を有しており、その径方向外側の部分にフランジ状に延出する先端部54を含んでいる。
延設部53の先端部54は、ハウジングの軸方向に沿って底板部11と下側保持部材62との間に配置されており、これによりハウジングの軸方向に沿って底板部11と下側保持部材62とによって挟み込まれている。ここで、下側保持部材62は、その上方に配置されたガス発生剤61、クッション材64、上側保持部材63および天板部21によって底板部11側に向けて押し付けられた状態にあるため、カップ状部材50は、その延設部53の先端部54が下側保持部材62によって底板部11側に向けて押し付けられた状態となり、底板部11に対して固定されることになる。
なお、カップ状部材50の側壁部52の開口端側の部分が、保持部30のハウジングの内部に位置する部分である内側被覆部31に外挿されることで当該保持部30に対して圧入固定されている。当該圧入固定は、ハウジングに対するカップ状部材50の組付けの際に、その組付作業が容易に行なえるようにするための固定部位であるが、当該圧入固定によってもカップ状部材50が底板部11に対して固定されることになる。
カップ状部材50は、頂壁部51および側壁部52のいずれにも開口を有しておらず、その内部に設けられた伝火室55を取り囲んでいる。このカップ状部材50は、点火器40が作動することによって伝火薬56が着火された場合に伝火室55内の圧力上昇や発生した熱の伝導に伴って破裂または溶融するものであり、その機械的強度は比較的低いものが使用される。
そのため、カップ状部材50としては、アルミニウム、アルミニウム合金等の金属製の部材や、エポキシ樹脂等に代表される熱硬化性樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリアミド樹脂(たとえばナイロン6やナイロン66等)、ポリプロピレンスルフィド樹脂、ポリプロピレンオキシド樹脂等に代表される熱可塑性樹脂等の樹脂製の部材からなるものが好適に利用される。
なお、カップ状部材50としては、このようなものの他にも、鉄や銅等に代表されるような機械的強度の高い金属製の部材からなり、その側壁部52に開口を有し、当該開口を閉塞するようにシールテープが貼着されたもの等を利用することも可能である。
伝火室55に充填された伝火薬56は、点火器40が作動することによって生じた火炎によって点火され、燃焼することによって熱粒子を発生する。伝火薬56としては、ガス発生剤61を確実に燃焼開始させることができるものであることが必要であり、一般的には、B/KNO3等に代表される金属粉/酸化剤からなる組成物などが用いられる。伝火薬56は、粉状のものや、バインダによって所定の形状に成型されたもの等が利用される。バインダによって成型された伝火薬56の形状としては、たとえば顆粒状、円柱状、シート状、球状、単孔円筒状、多孔円筒状、タブレット状など種々の形状がある。
下部側シェル10Aおよび上部側シェル20からなるハウジングの内部の空間のうち、上述のカップ状部材50が配置された部分を取り巻く空間には、ガス発生剤61が収容されたガス発生剤収容室60が位置している。具体的には、上述したように、カップ状部材50は、ハウジングの内部に形成されたガス発生剤収容室60内に突出して配置されており、このカップ状部材50の側壁部52の外表面に面する部分に設けられた空間がガス発生剤収容室60として構成されている。
また、ガス発生剤収容室60をハウジングの径方向に取り巻く空間には、ハウジングの内周に沿ってフィルタ70が配置されている。フィルタ70は、円筒状の形状を有しており、その中心軸がハウジングの軸方向と実質的に合致するように配置されることにより、ガス発生剤61が収容されたガス発生剤収容室60を径方向において取り囲んでいる。
ガス発生剤61は、点火器40が作動することによって生じた熱粒子によって着火され、燃焼することによってガスを発生させる薬剤である。ガス発生剤61としては、非アジド系ガス発生剤を用いることが好ましく、一般に燃料と酸化剤と添加剤とを含む成形体としてガス発生剤61が形成される。燃料としては、たとえばトリアゾール誘導体、テトラゾール誘導体、グアニジン誘導体、アゾジカルボンアミド誘導体、ヒドラジン誘導体等またはこれらの組み合わせが利用される。具体的には、たとえばニトログアニジンや硝酸グアニジン、シアノグアニジン、5−アミノテトラゾール等が好適に利用される。また、酸化剤としては、たとえば塩基性硝酸銅等の塩基性硝酸塩や、過塩素酸アンモニウム、過塩素酸カリウム等の過塩素酸塩、アルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属、アンモニアから選ばれたカチオンを含む硝酸塩等が利用される。硝酸塩としては、たとえば硝酸ナトリウム、硝酸カリウム等が好適に利用される。また、添加剤としては、バインダやスラグ形成剤、燃焼調整剤等が挙げられる。バインダとしては、たとえばカルボキシメチルセルロースの金属塩、ステアリン酸塩等の有機バインダや、合成ヒドロキシタルサイト、酸性白土等の無機バインダが好適に利用可能である。スラグ形成剤としては窒化珪素、シリカ、酸性白土等が好適に利用可能である。また、燃焼調整剤としては、金属酸化物、フェロシリコン、活性炭、グラファイト等が好適に利用可能である。
ガス発生剤61の成形体の形状には、顆粒状、ペレット状、円柱状等の粒状のもの、ディスク状のものなど様々な形状のものがある。また、円柱状のものでは、成形体内部に貫通孔を有する有孔状(たとえば単孔筒形状や多孔筒形状等)の成形体も利用される。これらの形状は、ガス発生器1Aが組み込まれるエアバッグ装置の仕様に応じて適宜選択されることが好ましく、たとえばガス発生剤61の燃焼時においてガスの生成速度が時間的に変化する形状を選択するなど、仕様に応じた最適な形状を選択することが好ましい。また、ガス発生剤61の形状の他にもガス発生剤61の線燃焼速度、圧力指数などを考慮に入れて成形体のサイズや充填量を適宜選択することが好ましい。
フィルタ70は、たとえばステンレス鋼や鉄鋼等の金属線材を巻き回して焼結したものや、金属線材を編み込んだ網材をプレス加工することによって押し固めたもの、あるいは孔あき金属板を巻き回したもの等が利用される。ここで、網材としては、具体的にはメリヤス編みの金網や平織りの金網、クリンプ織りの金属線材の集合体等が利用される。また、孔あき金属板としては、たとえば、金属板に千鳥状に切れ目を入れるとともにこれを押し広げて孔を形成して網目状に加工したエキスパンドメタルや、金属板に孔を穿つとともにその際に孔の周縁に生じるバリを潰すことでこれを平坦化したフックメタル等が利用される。この場合において、形成される孔の大きさや形状は、必要に応じて適宜変更が可能であり、同一金属板上において異なる大きさや形状の孔が含まれていてもよい。なお、金属板としては、たとえば鋼板(マイルドスチール)やステンレス鋼板が好適に利用でき、またアルミニウム、銅、チタン、ニッケルまたはこれらの合金等の非鉄金属板を利用することもできる。
フィルタ70は、ガス発生剤収容室60にて発生したガスがこのフィルタ70中を通過する際に、ガスが有する高温の熱を奪い取ることによってガスを冷却する冷却手段として機能するとともに、ガス中に含まれる残渣(スラグ)等を除去する除去手段としても機能する。したがって、ガスを十分に冷却し、かつ残渣が外部に放出されないようにするためには、ガス発生剤収容室60内にて発生したガスが確実にフィルタ70中を通過するようにすることが必要である。
フィルタ70に対面する部分の上部側シェル20の周壁部22(すなわち、固定部25が設けられた位置よりも天板部21側に位置する部分の周壁部)には、ガス噴出口23が複数設けられている。このガス噴出口23は、フィルタ70を通過したガスをハウジングの外部に導出するためのものである。上部側シェル20の周壁部22のフィルタ70側に位置する主面には、上記ガス噴出口23を閉塞するようにシールテープ24が貼付されている。このシールテープ24としては、片面に粘着部材が塗布されたアルミニウム箔等が利用される。これにより、ガス発生剤収容室60の気密性が確保されている。
ガス発生剤収容室60のうち、底板部11側に位置する端部近傍には、下側保持部材62が配置されている。下側保持部材62は、環状の形状を有しており、フィルタ70と底板部11との境目部分を覆うように配置されている。下側保持部材62は、フィルタ70の底板部11側に位置する内周面に接触することでフィルタ70を位置決めして保持するとともに、底板部11との間でカップ状部材50の先端部54を挟み込むことでカップ状部材50を保持している。
下側保持部材62は、作動時において、ガス発生剤収容室60にて発生したガスが、フィルタ70の内部を経由することなくフィルタ70の下端と底板部11との間の隙間から流出してしまうことを防止する。下側保持部材62は、たとえば金属製の板状部材をプレス加工等することによって形成されたものであり、好適には普通鋼や特殊鋼等の鋼板(たとえば、冷間圧延鋼板やステンレス鋼板等)からなる部材にて構成される。
ガス発生剤収容室60のうち、天板部21側に位置する端部には、上側保持部材63が配置されている。上側保持部材63は、略円盤状の形状を有しており、フィルタ70と天板部21との境目部分を覆うように配置されている。上側保持部材63は、フィルタ70の天板部21側に位置する内周面に接触することでフィルタ70を位置決めして保持するとともに、その内部に配置されたクッション材64を保持している。
上側保持部材63は、作動時において、ガス発生剤収容室60にて発生したガスが、フィルタ70の内部を経由することなくフィルタ70の上端と天板部21との間の隙間から流出してしまうことを防止する。上側保持部材63は、下側保持部材62と同様に、たとえば金属製の板状部材をプレス加工等することによって形成されたものであり、好適には普通鋼や特殊鋼等の鋼板(たとえば、冷間圧延鋼板やステンレス鋼板等)からなる部材にて構成される。
上側保持部材63の内部には、ガス発生剤収容室60に収容されたガス発生剤61に接触するように環状形状のクッション材64が配置されている。これにより、クッション材64は、ガス発生剤収容室60の天板部21側の部分において天板部21とガス発生剤61との間に位置することになり、ガス発生剤61を底板部11側に向けて押圧している。このクッション材64は、成形体からなるガス発生剤61が振動等によって粉砕されてしまうことを防止する目的で設けられるものであり、好適にはセラミックスファイバの成形体やロックウール、発泡樹脂(たとえば発泡シリコーン、発泡ポリプロピレン、発泡ポリエチレン等)、クロロプレンおよびEPDMに代表されるゴム等からなる部材にて構成される。
図4は、図1に示すガス発生器が具備されたエアバッグ装置の模式断面図である。次に、この図4を参照して、本実施の形態におけるガス発生器1Aのエアバッグ装置への組付構造について説明する。
図4に示すように、ステアリングホイール100は、内部に位置する機枠110と、表面を覆う樹脂カバー120とを主として備えており、樹脂カバー120の内部であって機枠110よりも乗員側に位置する空間に、エアバッグ130が折り畳まれた状態で収容されている。ガス発生器1Aは、このうちの機枠110に固定される。
具体的には、上部側シェル20に設けられた固定部25には貫通孔が設けられており、当該貫通孔に対応した位置の機枠110にも貫通孔が設けられている。そして、これら貫通孔同士が合致した状態において固定用バー111がこれら貫通孔に挿し込まれ、固定用バー111の両側からナットが締結されることにより、ガス発生器1Aが機枠110に対して固定される。
また、固定用バー111に取付けられたナット間には、押さえ部材112が配置されており、折り畳まれたエアバッグ130の端部が、機枠110と押さえ部材112との間に挟み込まれている。これにより、エアバッグ130も機枠110に対して固定された状態とされている。
ここで、ガス発生器1Aは、上部側シェル20が位置する側の端部が乗員側に配置され、下部側シェル10Aが非乗員側(すなわち、乗員が位置しない側)に配置されるように、機枠110に固定される。これにより、上部側シェル20に設けられたガス噴出口23は、機枠110よりも乗員側の位置に配置され、折り畳まれたエアバッグ130の内部に面することになる。一方、下部側シェル10Aに設けられた脆弱部11aは、機枠110よりも非乗員側の位置に配置されることになる。
次に、図1を参照して、上述した本実施の形態におけるガス発生器1Aの動作について説明する。
本実施の形態におけるガス発生器1Aが搭載された車両が衝突した場合には、車両に別途設けられた衝突検知手段によって衝突が検知され、これに基づいて車両に別途設けられたコントロールユニットからの通電によって点火器40が作動する。伝火室55に収容された伝火薬56は、点火器40が作動することによって生じた火炎によって点火されて燃焼し、多量の熱粒子を発生させる。この伝火薬56の燃焼によってカップ状部材50は破裂または溶融し、上述の熱粒子がガス発生剤収容室60へと流れ込む。
流れ込んだ熱粒子により、ガス発生剤収容室60に収容されたガス発生剤61が着火されて燃焼し、多量のガスを発生させる。ガス発生剤収容室60にて発生したガスは、フィルタ70の内部を通過し、その際、フィルタ70によって熱が奪われて冷却されるとともに、ガス中に含まれるスラグがフィルタ70によって除去されてハウジングの外周縁部に流れ込む。
ハウジングの内圧の上昇に伴い、上部側シェル20のガス噴出口23を閉塞していたシールテープ24による封止が破られ、ガス噴出口23を介してガスがハウジングの外部へと噴出される。噴出されたガスは、ガス発生器1Aに隣接して設けられたエアバッグの内部に導入され、エアバッグを膨張および展開する。
上述したように、本実施の形態におけるガス発生器1Aにあっては、下部側シェル10Aの所定位置に単一のループ状の溝部16が設けられることによって脆弱部11aが形成されている。以下、この溝部16および脆弱部11aについて、図1ないし図3を参照してより詳細に説明する。
図1ないし図3に示すように、下部側シェル10Aの内表面のち、ガス発生剤収容室60に面する部分には、線状に延びる単一の溝部としてのループ状の溝部16が設けられている。当該ループ状の溝部16は、平面視円周状でかつV字状の凹面を有する凹部にて構成されており、下部側シェル10Aの軸線を回転中心に回転対称性(いわゆる連続対称性)を有している。当該ループ状の溝部16は、下部側シェル10Aを製作する際のプレス加工時に同時に形成されるようにしてもよいし、当該プレス加工の前後において別途切削加工等を追加することで形成されてもよい。
ループ状の溝部16は、圧力容器であるハウジングの一部に脆弱部11aを形成するために設けられたものであり、ループ状の溝部16によって形成された脆弱部11aは、その周囲に位置する下部側シェル10Aの非脆弱部よりも厚みが薄く構成されている。これにより、オートイグニッション動作が誘発された場合等において、当該脆弱部11aのいずれかの部分を起点として意図的に下部側シェル10Aに破断を生じさせることができ、オートイグニッション動作が誘発された場合等におけるガス発生器1Aの挙動を制御することが可能になる。
ここで、上述したように、一枚の金属製の板状部材をプレス加工することによって成形されたプレス成形品を組み合わせることでハウジングを構成した場合に、ハウジングに形成される脆弱部の厚みを一定に構成したとしても、破断圧力に大きなばらつきが生じてしまう問題がある。当該問題が発生する原因は、圧延された金属製の板状部材に外力が加えられて剪断される場合において、その剪断方向と金属製の板状部材の圧延方向との関係によって、破断強度に差が生じることに起因する。
すなわち、下部側シェルに溝部を設けることによって脆弱部を形成した場合には、圧延方向と溝部の延在方向とが合致する場合に最も破断強度が小さくなり、圧延方向と溝部の延在方向とが直交する場合に破断強度が最も大きくなる。そのため、溝部を設けることで脆弱部を形成する場合には、圧延方向を管理した上で溝部を形成することにより、破断強度に大きなばらつきが生じないように構成することが可能にはなるが、圧延方向を管理することは、量産性を考慮した場合に非常に困難である。
しかしながら、上述したように、本実施の形態の如く途切れることのないループ状の溝部16を設けることで脆弱部11aを形成することとすれば、圧延方向を管理せずとも、形成される溝部16の延在方向と圧延方向とが略平行となる部分が必ず存在することになるため、上述した破断強度のばらつきが抑制できる。すなわち、図3(A)に示すように、圧延方向が下部側シェル10Aのいずれの方向を向いている場合においても(図中においては、圧延方向を代表的にDR1〜DR4の4方向を示している)、当該圧延方向と脆弱部11aとの関係は一様となり、製品毎にこの関係に差が一切生じず、結果としてハウジングの破断強度に殆どばらつきが生じないことになる。したがって、オートイグニッション動作が誘発された場合等においても、ハウジングの内部の圧力が所定の圧力に達した時点でハウジングが破断するように制御することができる。
ここで、脆弱部11aの厚みは、点火器40が作動することでガス発生剤61が燃焼するガス発生器1Aの通常の動作状態においてガス発生剤61を安定的に燃焼させるために必要となる圧力が当該脆弱部11aに加わった場合においても、これが破断することがない厚みであって、かつ、この通常の動作状態よりもハウジングの内部の圧力が高圧になった場合に、その圧力が所定の値となった時点で当該脆弱部11aの一部が起点となって下部側シェル10Aが破断する厚みに設定される。これにより、ガス発生器1Aの通常の動作時においては、ハウジングが破断することが防止でき、その動作が保証できることになる。
また、オートイグニッション動作が誘発された場合等におけるハウジングの内部の圧力上昇の上限値は、脆弱部11aの厚みや大きさ、形状等によって決定されるため、ループ状の溝部16の形状および大きさ等を変更することでこれを所望の値に規定することができる。すなわち、上述したようにループ状の溝部16を平面視円周状でかつV字状の凹面を有する凹部にて構成する場合には、その幅Wや深さD(図2および図3参照)を変更することで上記上限値を所望の値に設定することができる。なお、ループ状の溝部16がガス発生剤収容室60に面するように構成するためには、有底略円筒状に形成された下部側シェル10Aの中心からの距離d(図1および図3参照)が所定の範囲に収まるように調整することで実現できる。
また、脆弱部11aを形成するために設けられるループ状の溝部17の平面視した場合における面積は、下部側シェル10Aの底板部11の内表面の面積よりも十分に小さく形成されることが好ましい。これは、ループ状の溝部16の平面視した場合における面積を大きくすることで脆弱部11aの平面視した場合における面積を大きく形成した場合に、通常の動作状態における耐圧性を確保することが困難になるためであり、これを避けるためには、脆弱部11aの平面視した場合における面積をより小さく形成することが好ましい。
また、本実施の形態においては、図示するようにループ状の溝部16がV字状の凹面を有するように設けられた場合を例示しているが、その形状はこれに限定されるものではなく、凹状やU字状、湾曲面状等の凹面を有するように設けられてもよいし、その他の形状の凹面を有するように設けられてもよい。
さらには、上述したように、本実施の形態におけるガス発生器1Aにあっては、下部側シェル10Aの底板部11に脆弱部11aが設けられている。このように構成することにより、図4に示すように、設置状態においてガス発生器1Aから見て非乗員側に脆弱部11aが位置することになり、万が一オートイグニッション動作が誘発された場合等においても、当該脆弱部11aが設けられた部分がハウジングの破断部BPとなることになり、図中に示す矢印AR方向に向けて高温高圧のガスが噴出することになる。
したがって、ハウジングが破断することでハウジングの破片や内部構成部品が周囲に飛散した場合であっても、これが非乗員側に向けて飛散することになり、乗員側に向けて飛来することが抑制でき、逃げ遅れた乗員がいる場合であってもその被害を低減することができる。
以上において説明したように、本実施の形態におけるガス発生器1Aとすることにより、オートイグニッション動作が誘発された場合等においてもその動作を安定的に制御することが可能となり、安全性がより高められたガス発生器とすることができる。
なお、本実施の形態においては、下部側シェル10Aの底板部11にループ状の溝部16を1つのみ設けた場合を例示したが、当該ループ状の溝部16は、同心円状に複数設けられてもよい。
(実施の形態2)
図5は、本発明の実施の形態2におけるガス発生器の下部側シェルの形状を示す図であり、図5(A)は、下部側シェルの平面図、図5(B)は、下部側シェルの図5(A)中に示すVB−VB線に沿った断面図である。以下、この図5を参照して、本実施の形態におけるガス発生器1Bの構造について説明する。なお、本実施の形態におけるガス発生器1Bは、上述した実施の形態1におけるガス発生器1Aの下部側シェル10Aに代えて、図5に示す下部側シェル10Bを具備したものである。
図5に示すように、下部側シェル10Bの底板部11には、線状に延びる複数の溝部としての4つの略1/4円弧状の溝部17が円周上に等間隔に設けられており、これにより4つの脆弱部11aが形成されている。個々の略1/4円弧状の溝部17は、上述した実施の形態1の場合と同様に、V字状の凹面を有する凹部にて構成されており、これにより、4つの脆弱部11aの各々は、その周囲に位置する下部側シェル10Bの非脆弱部よりも厚みが薄く構成されている。ここで、これら4つの略1/4円弧状の溝部17は、上述したように円周上に等間隔に設けられたものであるため、これらを一体として捉えた場合に、下部側シェル10Bの軸線を回転中心に回転対称性(いわゆる離散対称性)を有している。
このように構成した場合にも、上述した実施の形態1におけるガス発生器1Aとした場合とほぼ同様に、圧延方向が下部側シェル10Bのいずれの方向を向いている場合においても(図中においては、圧延方向を代表的にDR1〜DR4の4方向を示している)、当該圧延方向と脆弱部11aとの関係はほぼ一様となり、製品毎にこの関係に差が殆ど生じず、結果としてハウジングの破断強度に殆どばらつきが生じないことになる。したがって、本実施の形態におけるガス発生器1Bとすることにより、オートイグニッション動作が誘発された場合等においてもその動作を安定的に制御することが可能となり、安全性がより高められたガス発生器とすることができる。
なお、本実施の形態においては、略1/4円弧状の溝部17を円周上に等間隔に4箇所設けることで脆弱部11aを4つ形成した場合を例示したが、円周上に配置される円弧状の溝部17の数はこれに限定されるものではなく、複数であれば幾つに設定してもよい。ただし、オートイグニッション動作が誘発された場合等におけるガス発生器の動作を安定的に制御する観点からは、隣り合う脆弱部11a同士の間の距離が離れ過ぎていることは好ましくなく、これらがある程度接近配置されていることが好ましい。
(実施の形態3)
図6は、本発明の実施の形態3におけるガス発生器の下部側シェルの形状を示す図であり、図6(A)は、下部側シェルの平面図、図6(B)は、下部側シェルの図6(A)中に示すVIB−VIB線に沿った断面図である。以下、この図6を参照して、本実施の形態におけるガス発生器1Cの構造について説明する。なお、本実施の形態におけるガス発生器1Cは、上述した実施の形態1におけるガス発生器1Aの下部側シェル10Aに代えて、図6に示す下部側シェル10Cを具備したものである。
図6に示すように、下部側シェル10Cの底板部11には、線状に延びる複数の溝部としての8つの直線状の溝部18が放射状に等間隔に設けられており、これにより8つの脆弱部11aが形成されている。個々の直線状の溝部18は、下部側シェル10Cの径方向に沿って延在する平面視長円形状(より厳密にはトラック形状)でかつ曲面形状の凹面を有する凹部にて構成されており、これにより、8つの脆弱部11aの各々は、その周囲に位置する下部側シェル10Cの非脆弱部よりも厚みが薄く構成されている。ここで、これら8つの直線状の溝部18は、上述したように放射状に等間隔に設けられたものであるため、これらを一体として捉えた場合に、下部側シェル10Cの軸線を回転中心に回転対称性(いわゆる離散対称性)を有している。
このように構成した場合にも、上述した実施の形態1におけるガス発生器1Aとした場合とほぼ同様に、圧延方向が下部側シェル10Bのいずれの方向を向いている場合においても(図中においては、圧延方向を代表的にDR1〜DR4の4方向を示している)、当該圧延方向と脆弱部11aとの関係はほぼ一様となり、製品毎にこの関係に差が殆ど生じず、結果としてハウジングの破断強度に殆どばらつきが生じないことになる。したがって、本実施の形態におけるガス発生器1Cとすることにより、オートイグニッション動作が誘発された場合等においてもその動作を安定的に制御することが可能となり、安全性がより高められたガス発生器とすることができる。
なお、本実施の形態においては、直線状の溝部18を放射状に等間隔に8箇所設けることで脆弱部11aを8つ形成した場合を例示したが、放射状に配置される直線状の溝部18の数はこれに限定されるものではなく、複数であれば幾つに設定してもよい。ただし、オートイグニッション動作が誘発された場合等におけるガス発生器の動作を安定的に制御する観点からは、隣り合う脆弱部11a同士の間の距離が離れ過ぎていることは好ましくなく、これらがある程度接近配置されることとなるように、少なくとも4つ以上設けられることが好ましい。
(実施の形態4)
図7は、本発明の実施の形態4におけるガス発生器の概略図である。以下、この図7を参照して、本実施の形態におけるガス発生器1Dの構造について説明する。なお、本実施の形態におけるガス発生器1Dは、上述した実施の形態1におけるガス発生器1Aの下部側シェル10Aに代えて、図7に示す下部側シェル10Dを具備したものである。
図7に示すように、本実施の形態におけるガス発生器1Dにあっては、下部側シェル10Dの底板部11にループ状の溝部は設けられておらず、代わりに下部側シェル10Dの周壁部12の所定位置にループ状の溝部16が設けられることにより、下部側シェル10Dに脆弱部12aが形成されている。周壁部12に設けられたループ状の溝部16は、上述した実施の形態1の場合と同様の形状を有しており、これにより、脆弱部12aは、その周囲に位置する下部側シェル10Dの非脆弱部よりも厚みが薄く構成されている。
ここで、本実施の形態の如くループ状の溝部16を下部側シェル10Dの周壁部12に設けた場合には、下部側シェル10Dに設けられた脆弱部12aがガス発生剤収容室60に面せず、フィルタ70とハウジングの周壁部12,22との間の空間に面することになる。しかしながら、この場合にも、当該空間がフィルタ70の内部の空間を介してガス発生剤収容室60に連通した状態にあるため、オートイグニッション動作が誘発された場合等に、当該脆弱部12aを起点として意図的に下部側シェル10Dに破断を生じさせることができる。
したがって、このように構成した場合にも、上述した実施の形態1におけるガス発生器1Aとした場合と同様に、オートイグニッション動作が誘発された場合等においてもその動作を安定的に制御することが可能となり、安全性がより高められたガス発生器とすることができる。
なお、ここでは、その図示は省略するが、ループ状の溝部16に代えて、上述した実施の形態2の如くの円弧状の溝部17または上述した実施の形態3の如くの放射状の溝部18を下部側シェル10Dの周壁部12の所定位置に設けることとしてもよい。この場合にも同様の効果を得ることができる。
以下、本発明の効果を検証するために行なった検証試験について説明する。図8は、比較例2に係る下部側シェルの形状を示す図であり、図8(A)は、下部側シェルの平面図、図8(B)は、下部側シェルの図8(A)中に示すVIIIB−VIIIB線に沿った断面図である。図9は、検証試験における比較例1,2および実施例1ないし9の試験条件および試験結果を示した表である。また、図9は、検証試験における比較例1,2および実施例1ないし6の試験結果を示すグラフである。
検証試験においては、実施例1ないし8として、本発明が適用された上述の実施の形態1におけるガス発生器1Aに具備されるハウジングの構成に準じたものを8種類、5サンプルずつ製作するとともに、実施例9として、本発明が適用された上述の実施の形態3におけるガス発生器1Cに具備されるハウジングの構成に準じたものを1種類、5サンプル製作するとともに、比較例1,2として、本発明が適用されていないガス発生器に具備されるハウジングを2種類、5サンプルずつ製作し、これらサンプルをハイドロバースト試験機にかけることにより、その破壊圧(すなわち、破断強度)を測定した。なお、これら実施例1ないし9および比較例1,2に係るサンプルの全体としての形状および寸法は、いずれも共通に設定した。
実施例1ないし8に係るサンプルは、上述の実施の形態1におけるガス発生器1Aに具備される下部側シェル10Aに比較して、ループ状の溝部16の凹面形状および個数を一定として、深さDおよび幅W(図2および図3参照)、下部側シェル10Aの中心からの距離d(図1および図3参照)を異ならせたものであり、その詳細については、図9に示す通りである。
実施例9に係るサンプルは、上述の実施の形態3におけるガス発生器1Cに具備される下部側シェル10Cにおいて、放射状に等間隔に設けられる直線状の溝部18の凹面形状、深さD、幅W、長さL、下部側シェル10Xの中心からの距離d(図6参照)をそれぞれお図9に示す通りに設定したものである。
比較例1に係るサンプルは、上述の実施の形態1におけるガス発生器1Aに具備される下部側シェル10Aに比較して、ループ状の溝部16が設けられておらず、そのため脆弱部11aを一切有していないものである。
比較例2に係るサンプルは、図8に示すように、上述の実施の形態3におけるガス発生器1Cに具備される下部側シェル10Cに比較して、放射状に等間隔に設けられる直線状の溝部18に代えて単一の直線状の溝部19を設けることにより、下部側シェル10Xの底板部11に径方向に延在する単一の直線状の脆弱部11bを形成したものである。なお、当該単一の直線状の溝部19の凹面形状、深さD、幅W、長さL、下部側シェル10Xの中心からの距離d(図8参照)の詳細については、図9に示す通りである。
図9および図10に示すように、これら比較例1,2および実施例1ないし9に係るサンプルをハイドロバースト試験機にかけたところ、比較例1に係るサンプルにおいては、いずれも上部側シェル(すなわち、エアバッグ装置に組み込まれた状態において乗員側に位置する部分のハウジング)において破断が生じ、残る比較例2および実施例1ないし9に係るサンプルにおいては、いずれも下部側シェル(すなわち、エアバッグ装置に組み込まれた状態において非乗員側に位置する部分のハウジング)において破断が生じたことが確認された。
また、比較例1に係るサンプルの破断強度の平均値を100%とした場合に、比較例2に係るサンプルにおいては、破断強度が概ね12%程度の範囲でばらつく結果となったのに対し、実施例1ないし6に係るサンプルにおいては、破断強度のばらつきが概ね4%〜5%の範囲に絞られることが確認された。なお、実施例1ないし8に係るサンプル間で比較した場合に、ループ状の溝部の体積が増加することに伴い、破断強度が徐々に低下することも確認された。
以上の結果に基づけば、上述した本発明の実施の形態の如くのガス発生器とすることにより、オートイグニッション動作が誘発された場合等においてもその動作を安定的に制御することが可能となり、安全性がより高められたガス発生器とすることができることが実験的にも確認されたと言える。
上述した本発明の実施の形態1ないし4においては、下部側シェルの内表面に所定の形状の溝部を設けることで脆弱部を形成した場合を例示したが、下部側シェルの外表面に所定の形状の溝部を設けることで脆弱部を形成してもよいし、下部側シェルの対応する位置の内表面および外表面にそれぞれ所定の形状の溝部を設けることで脆弱部を形成してよい。なお、下部側シェルの外表面に溝部を設けない構成とした場合には、ガス発生器の外表面に当該溝部を設けることによって生じ得る角部が発生しないことになるため、その取り扱いが有利になる。また、下部側シェルの内表面に溝部を設けない構成とした場合には、脆弱部を形成する位置がガス発生剤収容室に収容されたガス発生剤に直接面する部分の下部側シェルである場合に、当該溝部を設けることによって生じ得る角部によってガス発生剤が粉砕されてしまうことが防止できる効果が得られる。
また、上述した本発明の実施の形態1ないし4においては、下部側シェルの底板部または周壁部のいずれかのみに所定の形状の溝部を設けることで脆弱部を形成した場合を例示したが、所定形状の溝部が下部側シェルの底板部および周壁部の両方に跨るように設けられることで脆弱部が形成されてもよいし、所定の形状の複数の溝部が下部側シェルの底板部および周壁部の両方に設けられることで複数の脆弱部が形成されてもよい。
また、上述した本発明の実施の形態1ないし4においては、下部側シェルが底板部のみならず周壁部をも有している場合を例示したが、下部側シェルが底板部のみを有している場合にも当然に本発明の適用が可能である。その場合には、下部側シェルの底板部に所定形状の溝部を設けることで脆弱部を形成すればよい。
また、上述した本発明の実施の形態1ないし4においては、ガス発生器を外部の部材に固定するための固定部が上部側シェルに設けられた場合を例示したが、当該固定部は、下部側シェルに設けられていてもよい。
また、上述した本発明の実施の形態1ないし4においては、下部側シェルのみならず上部側シェルについても圧延した金属製の板状部材をプレス加工することによって成形されたプレス成形品にて構成した場合を例示したが、上部側シェルについては、必ずしもこれに限定されるものではなく、プレス加工と他の加工(鍛造加工や絞り加工、切削加工等)との組み合わせによって形成されたものを使用してもよいし、上記他の加工のみによって形成されたものを使用してもよい。
また、上述した本発明の実施の形態1ないし4においては、下部側シェルに突状筒部を設けた場合を例示したが、当該突状筒部が設けられない構成のガス発生器に本発明を適用することも当然に可能である。
さらには、上述した本発明の実施の形態1ないし4においては、樹脂成形部からなる保持部を射出成形することで下部側シェルに対する点火器の固定を可能にした場合を例示したが、下部側シェルに対する点火器の固定を他の代替手段にて実現したガス発生器にも当然に本発明の適用が可能である。また、保持部や点火器、カップ状部材、フィルタ、下側保持部材、上側保持部材等の内部構成部品の具体的な形状等についても、当然に適宜その変更が可能である。
このように、今回開示した上記実施の形態はすべての点で例示であって、制限的なものではない。本発明の技術的範囲は特許請求の範囲によって画定され、また特許請求の範囲の記載と均等の意味および範囲内でのすべての変更を含むものである。