以下、本発明の実施の形態について、図を参照して詳細に説明する。以下に示す実施の形態は、自動車のステアリングホイール等に搭載されるエアバッグ装置に好適に組み込まれるディスク型ガス発生器に本発明を適用したものである。なお、以下に示す実施の形態においては、同一のまたは共通する部分に図中同一の符号を付し、その説明は繰り返さない。
図1は、本発明の実施の形態におけるガス発生器の概略断面図であり、図2は、図1に示す領域IIの拡大断面図である。図3は、図1に示すガス発生器のカップ状部材の斜視図である。また、図4および図5は、それぞれ図1に示すガス発生器の下部側フィルタ支持部材の斜視図および平面図である。まず、これら図1ないし図5を参照して、本実施の形態におけるガス発生器1の構成について説明する。
図1に示すように、本実施の形態におけるガス発生器1は、軸方向の両端が閉塞された短尺略円筒状のハウジングを有しており、このハウジングの内部に構成部品としての保持部30、点火器40、カップ状部材50、伝火薬56、ガス発生剤61、下部側フィルタ支持部材70、上部側フィルタ支持部材80、クッション材85およびフィルタ90等が収容されることで構成されている。また、ハウジングの内部には、上述した構成部品のうちのガス発生剤61が主として収容された燃焼室60が位置している。
短尺略円筒状のハウジングは、下部側シェル10と上部側シェル20とを含んでいる。下部側シェル10および上部側シェル20のそれぞれは、たとえば圧延された金属製の板状部材をプレス加工することによって形成されたプレス成形品からなる。下部側シェル10および上部側シェル20を構成する金属製の板状部材としては、たとえばステンレス鋼や鉄鋼、アルミニウム合金、ステンレス合金等からなる金属板が利用され、好適には440[MPa]以上780[MPa]以下の引張応力が印加された場合にも破断等の破損が生じないいわゆる高張力鋼板が利用される。
下部側シェル10および上部側シェル20は、それぞれが有底略円筒状に形成されており、これらの開口面同士が向き合うように組み合わされて接合されることによってハウジングが構成されている。下部側シェル10は、底板部11と周壁部12とを有しており、上部側シェル20は、天板部21と周壁部22とを有している。これにより、ハウジングの軸方向の一端部および他端部は、それぞれ底板部11と天板部21とによって閉塞されている。なお、下部側シェル10と上部側シェル20との接合には、電子ビーム溶接やレーザー溶接、摩擦圧接等が好適に利用できる。
下部側シェル10の底板部11の中央部には、天板部21側に向かって突出する突状筒部13が設けられており、これにより下部側シェル10の底板部11の中央部には、窪み部14が形成されている。突状筒部13は、上述した保持部30を介して点火器40が固定される部位であり、窪み部14は、保持部30に雌型コネクタ部34を設けるためのスペースとなる部位である。
突状筒部13は、有底略円筒状に形成されており、その天板部21側に位置する軸方向端部には、平面視した状態において非点対称形状(たとえばD字状、樽型形状、長円形状等)の開口部15が設けられている。当該開口部15は、点火器40の一対の端子ピン42が挿通される部位である。
点火器40は、火炎を発生させるためのものであり、点火部41と、上述した一対の端子ピン42とを備えている。点火部41は、その内部に、作動時において着火して燃焼することで火炎を発生する点火薬と、この点火薬を着火させるための抵抗体とを含んでいる。一対の端子ピン42は、点火薬を着火させるために点火部41に接続されている。
より詳細には、点火部41は、カップ状に形成されたスクイブカップと、当該スクイブカップの開口端を閉塞し、一対の端子ピン42が挿通されてこれを保持する基部とを備えており、スクイブカップ内に挿入された一対の端子ピン42の先端を連結するように抵抗体(ブリッジワイヤ)が取付けられ、この抵抗体を取り囲むようにまたはこの抵抗体に近接するようにスクイブカップ内に点火薬が装填された構成を有している。
ここで、抵抗体としては一般にニクロム線等が利用され、点火薬としては一般にZPP(ジルコニウム・過塩素酸カリウム)、ZWPP(ジルコニウム・タングステン・過塩素酸カリウム)、鉛トリシネート等が利用される。なお、上述したスクイブカップおよび基部は、一般に金属製またはプラスチック製である。
衝突を検知した際には、端子ピン42を介して抵抗体に所定量の電流が流れる。抵抗体に所定量の電流が流れることにより、抵抗体においてジュール熱が発生し、点火薬が燃焼を開始する。燃焼により生じた高温の火炎は、点火薬を収納しているスクイブカップを破裂させる。抵抗体に電流が流れてから点火器40が作動するまでの時間は、抵抗体にニクロム線を利用した場合には一般に2ミリ秒以下である。
点火器40は、突状筒部13に設けられた開口部15に端子ピン42が挿通するように下部側シェル10の内側から挿入された状態で底板部11に取付けられている。具体的には、底板部11に設けられた突状筒部13の周囲には、樹脂成形部からなる保持部30が設けられており、点火器40は、当該保持部30によって保持されることにより、底板部11に固定されている。
保持部30は、型を用いた射出成形(より特定的にはインサート成形)によって形成されるものであり、下部側シェル10の底板部11に設けられた開口部15を経由して底板部11の内面の一部から外面の一部にまで達するように絶縁性の流動性樹脂材料を底板部11に付着させてこれを固化させることによって形成されている。
点火器40は、保持部30の成形の際に、開口部15に端子ピン42が挿通するように下部側シェル10の内側から挿入された状態とされ、この状態において点火器40と下部側シェル10との間の空間を充填するように上述した流動性樹脂材料が流し込まれることにより、保持部30を介して底板部11に固定される。
射出成形によって形成される保持部30の原料としては、硬化後において耐熱性や耐久性、耐腐食性等に優れた樹脂材料が好適に選択されて利用される。その場合、エポキシ樹脂等に代表される熱硬化性樹脂に限られず、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリアミド樹脂(たとえばナイロン6やナイロン66等)、ポリプロピレンスルフィド樹脂、ポリプロピレンオキシド樹脂等に代表される熱可塑性樹脂を利用することも可能である。これら熱可塑性樹脂を原材料として選択する場合には、成形後において保持部30の機械的強度を確保するためにこれら樹脂材料にガラス繊維等をフィラーとして含有させることが好ましい。しかしながら、熱可塑性樹脂のみで十分な機械的強度が確保できる場合には、上述の如くのフィラーを添加する必要はない。
保持部30は、下部側シェル10の底板部11の内面の一部を覆う内側被覆部31と、下部側シェル10の底板部11の外面の一部を覆う外側被覆部32と、下部側シェル10の底板部11に設けられた開口部15内に位置し、上記内側被覆部31および外側被覆部32にそれぞれ連続する連結部33とを有している。このうち、内側被覆部31は、燃焼室60側に向けて突出する突出部に該当し、略円柱状の形状を有している。
保持部30は、内側被覆部31、外側被覆部32および連結部33のそれぞれの底板部11側の表面において底板部11に固着している。また、保持部30は、点火器40の点火部41の下方端寄りの部分の側面および下面と、点火器40の端子ピン42の上方端寄りの部分の表面とにそれぞれ固着している。これにより、開口部15は、端子ピン42と保持部30とによって完全に埋め込まれた状態となり、当該部分におけるシール性が確保されることでハウジングの内部の空間の気密性が確保されている。なお、開口部15は、上述したように平面視非点対称形状に形成されているため、当該開口部15を連結部33で埋め込むことにより、これら開口部15および連結部33は、保持部30が底板部11に対して回転してしまうことを防止する回り止め機構としても機能する。
保持部30の外側被覆部32の外部に面する部分には、雌型コネクタ部34が形成されている。この雌型コネクタ部34は、点火器40とコントロールユニット(不図示)とを結線するためのハーネスの雄型コネクタ(図示せず)を受け入れるための部位であり、下部側シェル10の底板部11に設けられた窪み部14内に位置している。この雌型コネクタ部34内には、点火器40の端子ピン42の下方端寄りの部分が露出して配置されている。雌型コネクタ部34には、雄型コネクタが挿し込まれ、これによりハーネスの芯線と端子ピン42との電気的導通が実現される。
また、保持部30によって覆われることとなる部分の底板部11の表面の所定位置に予め接着剤層が設けられてなる下部側シェル10を用いて上述した射出成形を行なうこととしてもよい。当該接着剤層は、上記底板部11の所定位置に予め接着剤を塗布してこれを硬化させておくことにより、その形成が可能である。
このようにすれば、底板部11と保持部30との間に硬化した接着剤層が位置することになるため、樹脂成形部からなる保持部30をより強固に底板部11に固着させることが可能になる。したがって、底板部11に設けられた開口部15を囲うように上記接着剤層を周方向に沿って環状に設けることとすれば、当該部分においてより高いシール性を確保することが可能になる。
ここで、底板部11に予め塗布しておく接着剤としては、硬化後において耐熱性や耐久性、耐腐食性等に優れた樹脂材料を原料として含むものが好適に利用され、たとえばシアノアクリレート系樹脂やシリコーン系樹脂を原料として含むものが特に好適に利用される。なお、上述の樹脂材料以外にも、フェノール系樹脂、エポキシ系樹脂、メラミン系樹脂、尿素系樹脂、ポリエステル系樹脂、アルキド系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂、ポリテトラフルオロエチレン系樹脂、アクリロニトリルブタジエンスチレン系樹脂、アクリロニトリルスチレン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリカーボネイト系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリブチレンテレフタラート系樹脂、ポリエチレンテレフタラート系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリフェニレンスルファイド系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリエーテルサルフォン系樹脂、ポリアリレート系樹脂、ポリエーテルエーテルケトン系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、液晶ポリマー、スチレン系ゴム、オレフィン系ゴム等を含むものが、上述した接着剤として利用可能である。
なお、ここでは、樹脂成形部からなる保持部30を射出成形することで下部側シェル10に対する点火器40の固定を可能にした場合の構成例を例示したが、下部側シェル10に対する点火器40の固定に他の代替手段を用いることも可能である。
カップ状部材50は、下部側シェル10の突状筒部13を含む部分と、保持部30の突出部としての内側被覆部31と、点火器40の点火部41とを覆うように配置されている。カップ状部材50は、底板部11側の端部が開口した有底略円筒形状を有しており、内部に伝火薬56が収容された伝火室55を含んでいる。カップ状部材50は、その内部に設けられた伝火室55が点火器40の点火部41に面することとなるように、ガス発生剤61が収容された燃焼室60内に向けて突出して位置するように配置されている。
図1ないし図3に示すように、カップ状部材50は、上述した伝火室55を規定する頂壁部51および側壁部52と、側壁部52の開口端側の部分から外側に向けて延設された環状の第2延設部とを有している。本実施の形態においては、カップ状部材50が、上述した第2延設部として、筒状部53とフランジ部54とを主として含んでいる。筒状部53は、底板部11のうちの突状筒部13が設けられた部分を囲むように位置しており、フランジ部54は、突状筒部13が設けられた部分の近傍における底板部11の内底面に沿うように位置している。
カップ状部材50は、いわゆるエンハンサカップと称されるものであり、頂壁部51および側壁部52のいずれにも開口を有しておらず、その内部に設けられた伝火室55を取り囲んでいる。このカップ状部材50は、点火器40が作動することによって伝火薬56が着火された場合に伝火室55内の圧力上昇や発生した熱の伝導に伴って破裂または溶融するものであり、その機械的強度は比較的低いものが使用される。
そのため、カップ状部材50としては、アルミニウム、アルミニウム合金等の金属製の部材や、エポキシ樹脂等に代表される熱硬化性樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリアミド樹脂(たとえばナイロン6やナイロン66等)、ポリプロピレンスルフィド樹脂、ポリプロピレンオキシド樹脂等に代表される熱可塑性樹脂等の樹脂製の部材からなるものが好適に利用される。
なお、カップ状部材50としては、このようなものの他にも、鉄や銅等に代表されるような機械的強度の高い金属製の部材からなり、その側壁部52に開口を有し、当該開口を閉鎖するようにシールテープが貼着されたもの(いわゆるエンハンサホルダ)等を利用することも可能である。
ここで、本実施の形態においては、カップ状部材50が下部側フィルタ支持部材70によって保持されることになるが、その詳細な組付構造については、後述することとする。
伝火室55に充填された伝火薬56は、点火器40が作動することによって生じた火炎によって点火され、燃焼することによって熱粒子を発生する。伝火薬56としては、ガス発生剤61を確実に燃焼開始させることができるものであることが必要であり、一般的には、B/KNO3等に代表される金属粉/酸化剤からなる組成物などが用いられる。伝火薬56は、粉状のものや、バインダによって所定の形状に成形されたもの等が利用される。バインダによって成形された伝火薬56の形状としては、たとえば顆粒状、円柱状、シート状、球状、単孔円筒状、多孔円筒状、タブレット状など種々の形状がある。
再び図1を参照して、ハウジングの内部の空間のうち、上述したカップ状部材50が配置された部分を取り巻く空間には、ガス発生剤61が収容された燃焼室60が位置している。具体的には、上述したように、カップ状部材50は、ハウジングの内部に形成された燃焼室60内に突出して配置されており、このカップ状部材50の側壁部52の外表面に面する部分に設けられた空間ならびに頂壁部51の外表面に面する部分に設けられた空間が燃焼室60として構成されている。
また、ガス発生剤61が収容された燃焼室60をハウジングの径方向に取り巻く空間には、ハウジングの内周に沿ってフィルタ90が配置されている。フィルタ90は、円筒状の形状を有しており、その中心軸がハウジングの軸方向と実質的に合致するように配置されている。
ガス発生剤61は、点火器40が作動することによって生じた熱粒子によって着火され、燃焼することによってガスを発生させる薬剤である。ガス発生剤61としては、非アジド系ガス発生剤を用いることが好ましく、一般に燃料と酸化剤と添加剤とを含む成形体としてガス発生剤61が形成される。燃料としては、たとえばトリアゾール誘導体、テトラゾール誘導体、グアニジン誘導体、アゾジカルボンアミド誘導体、ヒドラジン誘導体等またはこれらの組み合わせが利用される。具体的には、たとえばニトログアニジンや硝酸グアニジン、シアノグアニジン、5−アミノテトラゾール等が好適に利用される。また、酸化剤としては、たとえば塩基性硝酸銅等の塩基性硝酸塩や、過塩素酸アンモニウム、過塩素酸カリウム等の過塩素酸塩、アルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属、アンモニアから選ばれたカチオンを含む硝酸塩等が利用される。硝酸塩としては、たとえば硝酸ナトリウム、硝酸カリウム等が好適に利用される。また、添加剤としては、バインダやスラグ形成剤、燃焼調整剤等が挙げられる。バインダとしては、たとえばカルボキシメチルセルロースの金属塩、ステアリン酸塩等の有機バインダや、合成ヒドロタルサイト、酸性白土等の無機バインダが好適に利用可能である。スラグ形成剤としては窒化珪素、シリカ、酸性白土等が好適に利用可能である。また、燃焼調整剤としては、金属酸化物、フェロシリコン、活性炭、グラファイト等が好適に利用可能である。
ガス発生剤61の成形体の形状には、顆粒状、ペレット状、円柱状等の粒状のもの、ディスク状のものなど様々な形状のものがある。また、円柱状のものでは、成形体内部に貫通孔を有する有孔状(たとえば単孔筒形状や多孔筒形状等)の成形体も利用される。これらの形状は、ガス発生器1が組み込まれるエアバッグ装置の仕様に応じて適宜選択されることが好ましく、たとえばガス発生剤61の燃焼時においてガスの生成速度が時間的に変化する形状を選択するなど、仕様に応じた最適な形状を選択することが好ましい。また、ガス発生剤61の形状の他にもガス発生剤61の線燃焼速度、圧力指数などを考慮に入れて成形体のサイズや充填量を適宜選択することが好ましい。
フィルタ90は、たとえばステンレス鋼や鉄鋼等の金属線材を巻き回して焼結したものや、金属線材を編み込んだ網材をプレス加工することによって押し固めたもの、あるいは孔あき金属板を巻き回したもの等が利用される。ここで、網材としては、具体的にはメリヤス編みの金網や平織りの金網、クリンプ織りの金属線材の集合体等が利用される。また、孔あき金属板としては、たとえば、金属板に千鳥状に切れ目を入れるとともにこれを押し広げて孔を形成して網目状に加工したエキスパンドメタルや、金属板に孔を穿つとともにその際に孔の周縁に生じるバリを潰すことでこれを平坦化したフックメタル等が利用される。この場合において、形成される孔の大きさや形状は、必要に応じて適宜変更が可能であり、同一金属板上において異なる大きさや形状の孔が含まれていてもよい。なお、金属板としては、たとえば鋼板(マイルドスチール)やステンレス鋼板が好適に利用でき、またアルミニウム、銅、チタン、ニッケルまたはこれらの合金等の非鉄金属板を利用することもできる。
フィルタ90は、燃焼室60にて発生したガスがこのフィルタ90中を通過する際に、ガスが有する高温の熱を奪い取ることによってガスを冷却する冷却手段として機能するとともに、ガス中に含まれる残渣(スラグ)等を除去する除去手段としても機能する。したがって、ガスを十分に冷却しかつ残渣が外部に放出されないようにするためには、燃焼室60内にて発生したガスが確実にフィルタ90中を通過するようにすることが必要である。なお、フィルタ90は、ハウジングの周壁部を構成する上部側シェル20の周壁部22および下部側シェル10の周壁部12との間で所定の大きさの間隙部25が構成されることとなるように、当該周壁部12,22から離間して配置されている。
フィルタ90に対面する部分の上部側シェル20の周壁部22には、ガス噴出口23が複数設けられている。このガス噴出口23は、フィルタ90を通過したガスをハウジングの外部に導出するためのものである。
上部側シェル20の周壁部22のフィルタ90側に位置する主面には、上記ガス噴出口23を閉鎖するようにシールテープ24が貼付されている。このシールテープ24としては、片面に粘着部材が塗布されたアルミニウム箔等が利用される。これにより、燃焼室60の気密性が確保されている。
燃焼室60のうちの底板部11側に位置する端部には、下部側フィルタ支持部材70が配置されている。下部側フィルタ支持部材70は、全体として環状の形状を有しており、フィルタ90と底板部11との境目部分を覆うように、これらフィルタ90と底板部11とに宛がわれて配置されている。これにより、下部側フィルタ支持部材70は、燃焼室60の上記端部近傍において、底板部11とガス発生剤61との間に位置している。
図1、図2、図4および図5に示すように、下部側フィルタ支持部材70は、フィルタ90の底板部11側に位置する軸方向端部の内周面に当接する筒状の当接部71と、当該当接部71から内側に向けて延設された環状の第1延設部とを有している。本実施の形態においては、下部側フィルタ支持部材70が、上述した第1延設部として、底部72と筒状部73とカバー部74とを主として含んでいる。底部72は、底板部11の内底面に沿うように位置している。筒状部73は、そのうちの下部が底板部11のうちの突状筒部13が設けられた部分を囲むように位置しており、そのうちの上部が突出部としての保持部30の内側被覆部31の外周面を覆うように位置している。また、カバー部74は、突出部としての内側被覆部31の外周面を除く露出表面(すなわち、内側被覆部31の軸方向の頂面)を覆っている。
また、下部側フィルタ支持部材70の中央部には、点火器40の点火部41が挿通配置された挿通用開口部75が設けられている。これにより、点火部41は、下部側フィルタ支持部材70によって遮られることなく、その上部がカップ状部材50の内部に設けられた伝火室55に面することになる。
ここで、下部側フィルタ支持部材70の筒状部73のうちの上述した上部部分は、突出部としての保持部30の内側被覆部31に圧入されている。これにより、下部側フィルタ支持部材70は、保持部30を介して下部側シェル10に対して相対的に移動不能に固定されている。
当該下部側フィルタ支持部材70は、作動時において、燃焼室60にて発生したガスが、フィルタ90の下端と底板部11との間の隙間からフィルタ90の内部を経由することなく流出してしまうことを防止するための流出防止手段として機能する。下部側フィルタ支持部材70は、たとえば金属製の板状部材をプレス加工等することによって形成されたものであり、好適には普通鋼や特殊鋼等の鋼板(たとえば、冷間圧延鋼板やステンレス鋼板等)からなる部材にて構成される。
そのため、下部側フィルタ支持部材70は、カップ状部材50に比べて十分に機械的強度が高い部材にて構成されていることになり、当該下部側フィルタ支持部材70の保持部30への圧入の際に、これが座屈するといったおそれはない。
下部側フィルタ支持部材70の底部72の所定位置には、係止部72aが設けられている。係止部72aは、上述したカップ状部材50のフランジ部54を係止するための部位であり、カップ状部材50のフランジ部54は、ハウジングの軸方向において、当該係止部72aと底部72の係止部72a以外の部分とによって挟み込まれることで係止されている。
係止部72aは、たとえばプレス加工等によって底部72に略半円弧状の切れ目を設け、当該切れ目によって囲まれた部分を起立されることで形成された舌片状(プルタブ状)の部位からなり、これを底部72側に向けて再び倒すことにより、カップ状部材50のフランジ部54を係止している。そのため、係止部72aが設けられた部分の底部72近傍には、図示するように孔部72bが位置することになる。なお、本実施の形態においては、係止部72aが径方向外側に向けて起立させられることとなるように、上述した略半円弧状の切れ目が、底部72の径方向内側に向けて膨出するように形成されている。
図5に示すように、本実施の形態においては、係止部72aが底部72の周方向に沿って等間隔に4つ設けられている。ここで、図5中において破線で示すように、カップ状部材50のフランジ部54は、これら4つの係止部72aの内側に配置されることになる。そのため、これら4つの係止部72aが底部72側に向けて折り曲げられることにより、図1および図2において示すように、当該4つの係止部72aによってカップ状部材50が移動不能にかしめ固定されることになる。
このように、本実施の形態におけるガス発生器1においては、カップ状部材50の第2延設部としてのフランジ部54が下部側フィルタ支持部材70の第1延設部としての底部72上に重ね合わされるとともに、当該フランジ部54が底部72に設けられた係止部72aによって係止されることにより、カップ状部材50が下部側フィルタ支持部材70に対して固定されている。そして、上述したように、下部側フィルタ支持部材70は、下部側シェル10にインサート成形によって一体化された保持部30の突出部としての内側被覆部31を介して下部側シェル10に固定されているため、結果として、カップ状部材50は、下部側フィルタ支持部材70および保持部30を介してハウジングに対して相対的に移動不能に固定されることになる。
再び図2を参照して、燃焼室60のうち、天板部21側に位置する端部には、上部側フィルタ支持部材80が配置されている。上部側フィルタ支持部材80は、略円盤状の形状を有しており、フィルタ90の天板部21側に位置する軸方向端部の内周面に当接する筒状の当接部81と、当該当接部81から内側に向けて延設された円盤状の底部82とを有している。
上部側フィルタ支持部材80は、フィルタ90と天板部21との境目部分を覆うようにこれらフィルタ90と天板部21とに宛がわれて配置されている。これにより、上部側フィルタ支持部材80は、燃焼室60の上記端部近傍において、天板部21とガス発生剤61との間に位置している。
当該上部側フィルタ支持部材80は、作動時において、燃焼室60にて発生したガスが、フィルタ90の上端と天板部21との間の隙間からフィルタ90の内部を経由することなく流出してしまうことを防止するための流出防止手段として機能する。上部側フィルタ支持部材80は、下部側フィルタ支持部材70と同様に、たとえば金属製の板状部材をプレス加工等することによって形成されたものであり、好適には普通鋼や特殊鋼等の鋼板(たとえば、冷間圧延鋼板やステンレス鋼板等)からなる部材にて構成される。
この上部側フィルタ支持部材80の内部には、燃焼室60に収容されたガス発生剤61に接触するように環状形状のクッション材85が配置されている。これにより、クッション材85は、燃焼室60の天板部21側の部分において天板部21とガス発生剤61との間に位置することになり、ガス発生剤61を底板部11側に向けて押圧している。
このクッション材85は、成形体からなるガス発生剤61が振動等によって粉砕されてしまうことを防止する目的で設けられるものであり、好適にはセラミックスファイバの成形体やロックウール、発泡樹脂(たとえば発泡シリコーン、発泡ポリプロピレン、発泡ポリエチレン等)、クロロプレンおよびEPDMに代表されるゴム等からなる部材にて構成される。
次に、図2を参照して、上述した本実施の形態におけるガス発生器1の動作について説明する。
本実施の形態におけるガス発生器1が搭載された車両が衝突した場合には、車両に別途設けられた衝突検知手段によって衝突が検知され、これに基づいて車両に別途設けられたコントロールユニットからの通電によって点火器40が作動する。伝火室55に収容された伝火薬56は、点火器40が作動することによって生じた火炎によって点火されて燃焼し、多量の熱粒子を発生させる。この伝火薬56の燃焼によってカップ状部材50は破裂または溶融し、上述の熱粒子が燃焼室60へと流れ込む。
流れ込んだ熱粒子により、燃焼室60に収容されたガス発生剤61が着火されて燃焼し、多量のガスを発生させる。燃焼室60にて発生したガスは、フィルタ90の内部を通過し、その際、フィルタ90によって熱が奪われて冷却されるとともに、ガス中に含まれる残渣がフィルタ90によって除去されて間隙部25に流れ込む。
ハウジングの内部の空間の圧力上昇に伴い、上部側シェル20に設けられたガス噴出口23を閉鎖していたシールテープ24が開裂し、当該ガス噴出口23を介してガスがハウジングの外部へと噴出される。噴出されたガスは、ガス発生器1に隣接して設けられたエアバッグの内部に導入され、エアバッグを膨張および展開する。
図6ないし図9は、本実施の形態におけるガス発生器の組立手順を説明するための模式断面図である。次に、これら図6ないし図9を参照して、本実施の形態におけるガス発生器1の組立手順について説明する。
ガス発生器1の組立に際しては、予めプレス成形することで製作された下部側シェル10と、予め製作された点火器40とがインサート成形用の型にセットされ、この状態においてインサート成形が行なわれることで下部側シェル10の底板部11に樹脂成形部としての保持部30が形成され、これにより点火器40が下部側シェル10の突状筒部13に固定される。
次に、図6に示すように、予めプレス成形することで製作された下部側フィルタ支持部材70が、点火器40が組付けられた状態にある下部側シェル10に図中に示す矢印方向に向けて挿入される。その際、下部側フィルタ支持部材70の筒状部73の上部部分が保持部30の突出部としての内側被覆部31に圧入される。これにより、下部側シェル10に対して下部側フィルタ支持部材70が固定されることになる。なお、この時点においては、下部側フィルタ支持部材70の底部72に設けられた係止部72aは、起立させられた状態にある。
次に、図7に示すように、予めプレス成形することで製造されたカップ状部材50の内部に所定量の伝火薬56が充填された状態とし、下部側フィルタ支持部材70が固定された状態にある下部側シェル10の突状筒部13近傍の部分が、カップ状部材50の開口端側から当該カップ状部材50の内部に向けて図中に示す矢印方向に沿って挿入される。ここで、当該挿入作業は、伝火薬56がカップ状部材50から零れ落ちることを防止するために、カップ状部材50および下部側シェル10のいずれもがその天地が逆とされた状態で行なわれる。これにより、カップ状部材50のフランジ部54が下部側フィルタ支持部材70の底部72に当接した状態とされる。
次に、図8に示すように、カップ状部材50および下部側シェル10のいずれもがその天地が逆とされた状態が維持されつつ、下部側フィルタ支持部材70の底部72に設けられた係止部72aが図中に示す矢印方向に向けて折り曲げられることで倒され、係止部72aによってフランジ部54が保持される。これにより、カップ状部材50が下部側シェル10に対して固定されることになる。
次に、図9に示すように、カップ状部材50が固定された状態にある下部側シェル10の天地が逆にされる。ここで、上述したように、カップ状部材50は、既に下部側フィルタ支持部材70および保持部30を介して下部側シェル10に固定された状態にあるため、下部側シェル10の天地を逆にする際にカップ状部材50が脱落することが未然に防止可能となり、その作業が容易に行なえることになる。
次に、同じく図9に示すように、予め製作されたフィルタ90が下部側シェル10に対して組付けられる。より詳細には、フィルタ90が、その内周面が下部側フィルタ支持部材70の当接部71の外周面に当接するように図中に示す矢印方向に向けて外挿される。これにより、フィルタ90が、下部側フィルタ支持部材70によって支持されることになり、フィルタ90が下部側シェル10に組付けられることになる。
次に、下部側シェル10とフィルタ90とによって規定される空間であってかつ下部側フィルタ支持部材70上に位置する空間にガス発生剤61が所定量充填され、その後に、クッション材85が嵌め込まれた上部側フィルタ支持部材80が当該ガス発生剤61上に配置され、さらにその後に、下部側シェル10を覆うように上部側シェル20が組付けられてこれが下部側シェル10に接合されることにより、ガス発生器1の製造が完了する。
以上において説明したように、本実施の形態におけるガス発生器1とすることにより、カップ状部材50が下部側シェル10に対して確実に固定されることになるとともに、簡便な組付作業で容易にカップ状部材50を下部側シェル10に対して固定することが可能になる。
ここで、本実施の形態におけるガス発生器1においては、比較的機械的強度が低く脆弱な部材であるエンハンサカップをカップ状部材50として用いた場合にも、これを保持部30等に圧入する必要がないため、カップ状部材50としてのエンハンサカップの外形寸法を必要以上に厳格に管理することが不要になり、この点において製造コストが大幅に削減できることになる。また、カップ状部材50としてのエンハンサカップを保持部30等に圧入する必要がないため、その座屈等の問題が発生することもない。
さらには、本実施の形態におけるガス発生器1においては、かしめ用の鍔部を下部側シェル10に設ける必要もないため、当該鍔部を形成するための切削加工等も一切不要であり、この点においても製造コストが大幅に削減できることになる。
また、本実施の形態におけるガス発生器1とすることにより、上述したように樹脂成形部からなる保持部30のハウジングの内部における露出表面が、下部側フィルタ支持部材によって覆われた構成とすることができる。当該構成を採用することにより、作動時において当該樹脂形成部からなる保持部30が火炎に晒されることが回避できることになるため、一酸化炭素等の有害なガス成分が生成されることを大幅に抑制できる効果も得られる。
したがって、本実施の形態におけるガス発生器1とすることにより、製造コストが削減されるばかりでなく、より高性能のガス発生器とすることもできる。
図10ないし図12は、上述した本実施の形態に基づいた第1ないし第3変形例に係る下部側フィルタ支持部材の平面図である。以下、これら図10ないし図12を参照して、第1ないし第3変形例に係る下部側フィルタ支持部材70A〜70Cについて説明する。
図10に示すように、第1変形例に係る下部側フィルタ支持部材70Aは、係止部72aの形状においてのみ、上述した実施の形態に係る下部側フィルタ支持部材70と相違している。具体的には、本第1変形例においては、係止部72aが底部72の周方向に沿って等間隔に4つ設けられており、その各々が略台形状の舌片にて構成されている。
この場合には、図10中において破線で示すように、カップ状部材50のフランジ部54は、これら4つの係止部72aの内側に配置されることになり、これら4つの係止部72aが底部72側に向けて折り曲げられることにより、当該4つの係止部72aによってカップ状部材50が移動不能にかしめ固定されることになる。
図11に示すように、第2変形例に係る下部側フィルタ支持部材70Bは、係止部72aが形成された向きにおいてのみ、上述した実施の形態に係る下部側フィルタ支持部材70と相違している。具体的には、本第2変形例においては、係止部72aが底部72の周方向に沿って等間隔に4つ設けられており、係止部72aが径方向内側に向けて起立させられることとなるように、底部72に設けられた略半円弧状の切れ目が、当該底部72の径方向外側に向けて膨出するように形成されている。
この場合には、図11中において破線で示すように、カップ状部材50のフランジ部54は、これら4つの係止部72aの外側にまで達するように配置されることになり、当該フランジ部54の係止部72aに対応した位置には、係止部72aが挿入可能なスリット状の係止用孔部54aがそれぞれ設けられることになる。そして、これら4つの係止部72aが底部72側に向けて折り曲げられることにより、当該4つの係止部72aによってカップ状部材50が移動不能にかしめ固定されることになる。
図12に示すように、第3変形例に係る下部側フィルタ支持部材70Cは、上述した第2変形例の場合と同様に、係止部72aが形成された向きにおいてのみ、上述した実施の形態に係る下部側フィルタ支持部材70と相違している。具体的には、本第3変形例においては、係止部72aが底部72の周方向に沿って等間隔に4つ設けられており、係止部72aが周方向に沿って起立させられることとなるように、底部72に設けられた略半円弧状の切れ目が、当該底部72の周方向に沿って膨出するように形成されている。
この場合には、図12中において破線で示すように、カップ状部材50のフランジ部54は、これら4つの係止部72aの外側にまで達するように配置されることになり、当該フランジ部54の係止部72aに対応した位置には、係止部72aが挿入可能な係止用切欠き部54bがそれぞれ設けられることになる。そして、これら4つの係止部72aが底部72側に向けて折り曲げられることにより、当該4つの係止部72aによってカップ状部材50が移動不能にかしめ固定されることになる。
上述した第1ないし第3変形例の如くの構成を採用した場合にも、上述した実施の形態において説明した効果と同様の効果が得られることになる。
このように、上述した実施の形態において説明した係止部の形状やその向き、あるいは数、大きさ、形成位置等は、当該係止部によってカップ状部材が係止される限りにおいては、種々その変更が可能である。また、当該係止部によって係止される部分のカップ状部材の形状等も、当該係止部によってカップ状部材が係止される限りにおいては、種々その変更が可能である。
また、上述した実施の形態およびその変形例においては、下部側フィルタ支持部材を保持部に圧入することにより、当該保持部を介してこれを下部側シェルに対して相対的に移動不能に固定した場合を例示して説明を行なったが、下部側フィルタ支持部材を下部側シェルの突状筒部に圧入することにより、これを下部側シェルに対して相対的に移動不能に固定してもよいし、下部側フィルタ支持部材の所定位置を下部側シェルに溶接することにより、これを下部側シェルに対して相対的に移動不能に固定してもよい。また、保持部のインサート成形の際に、下部側シェルのみならず下部側フィルタ支持部材にもこれが固着するように一体的に成形してもよい。このように、下部側フィルタ支持部材の下部側シェルに対する固定には、種々の方法を採用することができる。
また、上述した実施の形態およびその変形例においては、下部側フィルタ支持部材の第1延設部によって、保持部のハウジングの内部における露出表面がすべて覆われるように構成した場合を例示して説明を行なったが、必ずしもそのように構成する必要はない。
また、上述した実施の形態およびその変形例においては、金属製の部材をプレス加工することによって成形されたプレス成形品にて下部側シェルおよび上部側シェルを構成した場合を例示したが、必ずしもこれに限定されるものではなく、プレス加工と他の加工(鍛造加工や絞り加工、切削加工等)との組み合わせによって形成された下部側シェルおよび上部側シェルを使用することとしてもよいし、上記他の加工のみによって形成された下部側シェルおよび上部側シェルを使用することとしてもよい。
また、上述した実施の形態およびその変形例においては、下部側シェルに突状筒部を設けた場合を例示したが、当該突状筒部が設けられない構成のガス発生器に本発明を適用することも当然に可能である。
また、上述した実施の形態およびその変形例において示した各部の形状等についても、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、当然に適宜その変更が可能である。
このように、今回開示した上記実施の形態およびその変形例はすべての点で例示であって、制限的なものではない。本発明の技術的範囲は特許請求の範囲によって画定され、また特許請求の範囲の記載と均等の意味および範囲内でのすべての変更を含むものである。