以下、本実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。第1実施形態について、図1乃至図4を参照して説明する。図1は第1実施形態の全体図である。図2は第1実施形態の減衰力発生機構の詳細図で、非通電時等のフェイルバルブと弁体が当接した時の状態を表している。図3は第1実施形態のアクチュエータへの通電電流が小さい時、すなわちソフト特性時等、減衰力発生機構のフェイルバルブと弁体が当接していない状態の要部拡大図である。図4は第1実施形態の弁体にかかる受圧面積を図3のA―A断面を作動流体下流側に向かって見た状態を模式的に表した図である。なお、以下説明において、ピストンが移動により作動流体の流れが生じた際の流れに対して上流側、下流側と説明する。また、便宜上、ピストンロッドがシリンダから外部へ突出する側を上側、その反対側を下側として説明する。ただし、車両に取り付ける際には、ピストンロッドの突出方向を地面に向けてもよく、水平に取り付けてもよい。
減衰力調整式緩衝器1は、車両の車体(図示なし)と車軸(図示なし)との間に装着される。図1に示すように、本実施形態に係る減衰力調整式緩衝器1は、円筒状のシリンダ2と、その外周に同心状に設けられた外筒3とからなる複筒構造の緩衝器である。シリンダ2と外筒3との間にはリザーバ4が形成されている。シリンダ2内には、作動流体(図示なし、以下流体)として油液が封入されて満たされており、リザーバ4内には油液及び窒素や空気等のガス(図示なし)が封入されている。
シリンダ2内には、略円盤状のピストン5が摺動可能に嵌装されており、このピストン5によってシリンダ2内がシリンダ上室2Aとシリンダ下室2Bとの2室に画成されている。ピストン5には、ピストンロッド6の一端がロッドナット7によって連結されている。ピストンロッド6の他端側は、シリンダ上室2Aを通り、シリンダ2及び外筒3の上端部に装着されたロッドガイド8及びオイルシール9に挿通されて、シリンダ2及び外筒3の外部へ延出されている。オイルシール9は、外筒3の上側端部を閉塞すると共に、ピストンロッド6と液密的で摺動可能に嵌合している。シリンダ2の下側端部には、シリンダ下室2Bとリザーバ4とを画成するベースバルブ本体10が設けられている。
ピストン5には、シリンダ上下室2A、2B間を連通させる2種類のピストン通路11、12が設けられている。そして、ピストン通路11には、ピストンロッド6の伸び側において、シリンダ上室2A側の流体の圧力が所定圧力に達したとき開弁して、流体をシリンダ下室2B側へ開放するリリーフ弁としてのディスクバルブ13が設けられている。また、ピストン連通路12には、ピストンロッド6の縮み側において、行程反転と同時に遅滞なく開弁し、シリンダ下室2B側からシリンダ上室2A側への流体の流通のみを許容することで、シリンダ上室2Aとシリンダ下室2Bを略同圧とするピストン逆止弁14が設けられている。
ベースバルブ本体10には、シリンダ下室2Bとリザーバ4とを連通させるベース通路15、ベース連通路16が設けられている。そして、ベース通路15には、ピストンロッド6の伸び側において、ピストンロッド6の退出分の容積を補償するために、行程反転と同時に遅滞なく開弁し、リザーバ4側からシリンダ下室2B側への流体の流通のみを許容するベース逆止弁17が設けられ、また、ベース連通路16には、ピストンロッド6の縮み側において、シリンダ下室2B側の流体の圧力が所定圧力に達したとき、開弁して、これをリザーバ4側へ開放するリリーフ弁としてのリリーフディスクバルブ18が設けられている。ベース通路15、ベース連通路16は、外筒3のキャップ3Aと当接する部分とベースバルブ本体10の間に設けられたバルブ連通路10Aを介してシリンダ下室2Bとリザーバ4と連通している。
シリンダ2の外周には、管状のセパレータチューブ19が嵌合されている。セパレータチューブ19は上下両端部に設けたシール部材20でシリンダ2と液密的に嵌合している。シリンダ2とセパレータチューブ19との間に環状通路21が形成されている。環状通路21は、シリンダ上室2A側の側壁に設けられたシリンダ連通路22によってシリンダ上室2Aと連通している。セパレータチューブ19の側壁の下部には、開口部23がシリンダ2の径方向外側に向けて突出して設けられている。また、外筒3の側壁には、セパレータチューブ19の開口部23と略同心に開口部23よりも大径の大径開口部24が設けられ、この開口部24には、減衰力発生機構25が取付けられている。
次に、減衰力発生機構25について、主に図2及び図3を参照して説明する。減衰力調整式緩衝器1の外筒3の開口部24の周囲には、その内部が開口部24に連通するように円筒状のケース26が溶接固定されている。
減衰力発生機構25は、ケース26、減衰力を発生させるメインバルブ27、メインバルブ27で発生する減衰力を調整する制御弁28、制御弁28を動かすアクチュエータ29、アクチュエータ29が収納されるソレノイドケース30、動力を供給するリード線31から大略構成されている。ケース26内にはソレノイドケース30が嵌合され、その間はOリング32によってシールされている。ケース26の外周溝には、止輪33が装着され、ソレノイドナット34を止輪33に係合させて、ケース26の外周に設けた雄ねじに螺合させることで締結固定されている。また、ケース26とソレノイドケース30の間には制御弁28が設けられる制御弁室35が形成されている。なお、ケース26とソレノイドケース30の嵌合の関係は逆転してもよい。
以下に減衰力発生機構25の各部の詳細を記載する。ケース26には、シリンダ2側の端部(図中下方)に、径方向内側に延びる内側フランジ26Aが形成されている。内側フランジ26Aのシリンダ2との接続面はシリンダ2の外周曲面に沿う曲面形状となっており、内側フランジ26Aの内側の底面は、平坦面となっている。この平坦面には、ケース26の底面の中心から部分的に放射状に延びる溝が少なくとも1以上形成され、この溝と後述の通路部材36の鍔状の保持部36Aとの間でリザーバ4とケース26内を連通するフランジ連通路26Bを形成している。また、フランジ連通路26Bと接続しているケース26の内周壁面沿い側にはケース内通路26Cとなっている。
ケース26には、セパレータチューブ19と接続する通路部材36と、メインバルブ27の弁座37Aが設けられたメインバルブ部材37、メインバルブ27、メインバルブ27の背圧室であるパイロット室38、パイロット室38への接続通路を形成するオリフィス通路部材39、制御弁28がある制御弁室35の一端を形成するパイロットバルブ部材40が設けられている。通路部材36は、円筒形状で、一端が鍔状の大径であり、ゴムなど弾性力を有する材質で形成されたシール部材41で覆われている。この鍔部36Aは内側フランジ26Aと当接している。他端である筒部36Bは、セパレータチューブ19の開口部23内にシール部材41によって液密に嵌合されている。筒部36B内には中央通路36Cが設けられ、メインバルブ部材37に形成された円形空間42に接続している。
メインバルブ部材37は、円筒形状で、一端には円形空間42が形成されており、他端にはメインバルブ27の弁座37Aが設けられている。また、円筒の中央開口部37Bには、軸方向断面が略十字形状のオリフィス通路部材39の一端である筒部39Aが挿入されている。中央開口部37Bの周囲には、メインバルブ部材37を軸方向に貫通する複数の貫通路43が設けられ、円形空間42とメインバルブ27が設けられるパイロット室38とを接続する。
オリフィス通路部材39は、外形が段付の円筒状で、その一端で小径の筒部39Aが、メインバルブ部材37の中央開口部37Bに圧入され、他端の面取り部Bを有する面取り筒部39Cが後述するパイロットバルブ部材40の中央入口部40Aに圧入されている。オリフィス通路部材39の筒状内部は、中央流路39Dとなっており、中央流路39Dの上流側端部には、中央流路39Dを流れる系で、制御弁28を除き、最小の流路面積となる固定オリフィス44が設けられている。また、オリフィス通路部材39にはメインバルブ27をメインバルブ部材37との間で挟持し固定する、大径鍔部39Eが設けられている。面取り筒部39Cの外周には、パイロット室38への流路となる面取り部39Bが周方向部分的に軸方向に延びるように設けられている。
パイロットバルブ部材40は、円筒状で、円筒内部の軸方向中間部に底部40Bを有する軸方向断面が略H型となる形状の部材である。また、パイロットバルブ部材40内部の底部40Bより上流側(図中下方)は、メインバルブ27に焼付けられた環状の摺動シール部材50Aが液密に嵌合することで、パイロット室38となっている。パイロットバルブ部材40内部の底部40Bの中央部には、軸方向に底部40Bを貫通するポート45が設けられ、このポート45の下流側(図中上方)の周囲には、制御弁28の弁体46が離着座する弁座45Aが突出するように設けられている。このパイロットバルブ部材40内部の下流側(図中上方)は、制御弁室35となっている。パイロットバルブ部材40の下流側(図中上方)にある円筒部40Cは、その内周が流体下流側に向って段階的に拡径された形状となっており、2つの段部40D、40Eが形成されている。ポート45の上流側には、オリフィス通路部材39の面取り筒部39Cが挿入される、中央入口部40Aが設けられている。ポート45と中央入口部40Aは連続している。ポート45の周囲には、パイロットバルブ部材40を軸方向に貫通するバルブ流路47がパイロット室38との間に設けられている。
主に減衰力を発生させるメインバルブ27は、環状で板状の円盤を積層した構造であり、メインバルブ27の弁座37Aと当接する。メインバルブ27は、弁座37A側から、外周縁部にピストン速度が低速域であるときの減衰力を設定するオリフィスとなるスリット48Aを形成したスリット付ディスク48、メインバルブ27の剛性を調整するための複数枚のディスク49、環状の摺動シール部材50Aが焼き付け等で固着している摺動シール部材付きディスク50、スペーサ51と、を積層して構成されている。このように構成されたメインバルブ27は、その内周開口部27Aにオリフィス通路部材39の筒部39Aが挿入され、大径鍔部39Eとメインバルブ部材37の中央開口部37Bの周囲で挟持される。
パイロット室38は、その内圧によりメインバルブ27を着座方向に付勢する力を発生させている。また、パイロット室38内の底部40B側には、可撓性ディスクからなる2枚のディスク52が設けられ、下流側のディスク52Aはバルブ流路47を閉塞し、上流側のディスク52Bは、その内周縁側に切欠52Cを有する。可撓性ディスク52は、パイロット室38の内圧によって撓むことにより、パイロット室38で変化した容積分の流体を制御弁室35に移動させ、パイロット室38に体積弾性を付与している。この体積弾性により、メインバルブ27の開弁動作によりパイロット室38の内圧が過度に上昇しても、メインバルブ27の開弁が不安定になるのを防止する。ディスク52Bの切欠52Cはオリフィス通路部材39とパイロットバルブ部材40に挟持されており、パイロットバルブ部材40の挟持部40Fとオリフィス通路部材39の面取り部39Dとともに固定オリフィス44と制御弁28との間の圧力をパイロット圧としてパイロット室38への導入する導入通路53となっている。
制御弁室35には、アクチュエータ29によって閉弁方向に付勢される弁体46、円筒部40Cの段部40Dにバルブスプリング54、段部40Eに上流側(図中下方)からフェイルスプリング55、リテーナ56、ワッシャ57、リテーナ58、フェイルバルブ59、保持部材60が配設され、カバー部材61で位置決め固定されている。これらはその中心に各々開口部がある形状で、その開口部にはアクチュエータ29と弁体46が設けられている。制御弁室35は、カバー部材61を介して通路26Bに連通している。説明上、フェイルバルブ59よりも上流側の制御弁室35Aと下流側の制御弁室35Bに分けて説明する。
弁体46は、略円筒状で、弁座45Aに離着座する側が閉弁方向への流体の抵抗が少なくなる先細りのテーパ状に形成され、その先端が弁座45Aに当接するシート部46Aとなっている。弁体46の内周には、下流側から、この弁体46を閉弁方向に付勢するアクチュエータ29の筒状の作動ロッド62の先端が挿入されている。この弁体46の作動ロッド62の挿入口は、作動ロッド62が挿入し易いようにテーパ形状となっている。このように弁体46は、弁体46に挿入された作動ロッド62によりアクチュエータ29によって閉弁方向に付勢され、弁座45Aに離着座してポート45を開閉することでパイロット室38の圧力を調整し、結果として減衰力を調整する。
弁体46の円筒外周部46Bには、径方向外側に全周にわたって延びる鍔状の大径部46Cが形成されている。この大径部46Cの上流側の面(図中下方)は、付勢手段であるフェイルスプリング55と常時当接するばね受となっており、下流側の面(図中上方)は、ワッシャ57と当接し、弁体46の下流側への移動を規制する役割を持つ。また、弁体46の流体下流側(図中上方)の端部には、フェイルバルブ59の内周縁である開口部59Aが当接する小径部46Dが形成されている。
弁体46の円筒外周部46Bには、ばね鋼からなる円盤状の付勢手段であるバルブスプリング54が嵌合されている。このバルブスプリング54の外周縁は、段部40Dに上流側(図中下方)から支持されている。また、バルブスプリング54の内径部は、切欠54Aが設けられ、バルブスプリング54の表裏の油液の流れを許容している。バルブスプリング54は弁体46が閉弁状態に近いときにのみ作用する。また、フェイルスプリング55は、弁体46を常時下流方向(図中上方)に付勢するばねであり、環状でばね鋼をプレス加工したもので、内側と外側の環状部とその間を繋ぐ複数の架橋部からなり、この架橋部間は、フェイルスプリング55の表裏間を連通する通路55Aとなっている。フェイルスプリング55の架橋部が主にばねとして作用する。弁体46はバルブスプリング54とフェイルスプリング55によって下流方向に付勢され、弾性的に保持されている。また、弁体46はソレノイドケース30に設けられるソレノイドアクチュエータ29により、閉弁方向に付勢される。なお、本実施形態における付勢手段とはバルブスプリング54とフェイルスプリング55のことである。
弁体46の小径部46Dと当接するフェイルバルブ59は、その中央部に開口部59Aをもつ環状の複数のディスクからなり、下流側の環状のディスク63と、このディスク63の上流側に設けられ、ディスク63と内外径が同径で、内周縁部に径方向に延び、オリフィスとなる切欠64Aが設けられたである切欠付ディスク64を重ね合わせたものである。フェイルバルブ59の外周縁は保持部材60とリテーナ58によって、パイロットバルブ部材40とソレノイドケース30の内周側に設けられた円筒形部30Aに挟持されている。また、フェイルバルブ59の開口部59Aと作動ロッド62の外周側62Bとの間に形成される環状面積Lは、固定オリフィス44よりも流路面積が広い。切欠64Aは、弁体46の小径部46Dに当接したとき、流体の流出口として機能する通路となる。なお、切欠64Aは弁体46の小径部46Dよりも径方向に長ければよく、その形状は、放射状でも曲線でもよい。フェイルバルブ59と小径部46Dが当接した時に制御弁室35Aと制御弁室35Bの流体の流れを確保できる形状であればよいが、減衰力特性によっては、無くてもよい。
弁体46の大径部46Cと当接するワッシャ57はその中央部に主に作動ロッド62が通過する連通穴57Aと、常時連通することでワッシャ57が流体の流れに抵抗を与えないようにする程度の流体通過面積を確保する連通路57Bが連通穴57Aから径方向に略放射状に設けられている。連通穴57Aは弁体46の大径部46Cより小さく、かつ流路面積は固定オリフィス44よりも大きな流路面積である。
パイロットバルブ部材40の円筒部40Cの端部に設けられるカバー部材61は、略円筒形状であり、円筒部40Cの外周に圧入され、ワッシャ57やフェイルバルブ59などをパイロットバルブ部材40に固定する小径筒部61Aと、保持部材60とソレノイドケース30とで挟持される蓋部61Bと、パイロットバルブ部材40の円筒部40Cの外周側とは流体が流通可能な隙間を持って配され、ソレノイドケース30の内周に嵌合する大径筒部61Cからなる。小径筒部61Aと大径筒部61Cは周方向に交互に形成されている。また、蓋部61Bには大径筒部61Cの周縁部まで延びる切欠61Dが形成されている。切欠61Dにより、制御弁室35とケース内通路26Cは常時連通している。
なお、本実施形態におけるパイロット通路とは、固定オリフィス44から中央流路39D、パイロット室39の背圧室である制御弁室35を通り、カバー部材61を通過してリザーバ4へ出力する流体の流れる通路から構成されるものを指している。
ソレノイドケース30には、ソレノイド(電磁石)であるコイル65と、コイル65に隣接し設けられ、電磁力を伝達させる磁心であるヨーク66と、コイル65内で軸方向に移動可能なプランジャ67と、プランジャ67の中心を貫通して固定された作動ロッド62と、プランジャ67を吸着させる吸引力を発生するコア68と、が設けられている。これらによってソレノイドアクチュエータ29を大略構成している。これらソレノイドアクチュエータ29の各部材は、ソレノイドケース30の端部側に、環状のスペーサ69で位置決め固定され、例えばカシメによって取付けられたカップ状のカバー70によってソレノイドケース30内に固定されている。なお、固定出来れば、方法は問わず、接着剤を使用することや、ねじ止めでもよい。
作動ロッド62内にはロッド通路62Aが形成され、ロッド通路62Aによって固定オリフィス44の下流側の圧力を作動ロッド62の背部の背面室66Aへ導いている。背面室66Aは、作動ロッド62とシール性を持って摺動する環状シール66Bによって、プランジャ67が設けられているプランジャ室67Aと画成されている。プランジャ67には、プランジャ67を軸方向に貫通する連通路67Bが設けられ、プランジャ室67A内でプランジャ67が移動する際に、プランジャ室67A内の油液を移動可能としており、この油液の移動に対して適度な抵抗を持たせることで、プランジャ67のチャタリング等を防止する。コア68の内周囲には、作動ロッド62と摺動する摺動部材68Aが設けられ、この摺動部材68Aは、プランジャ室67A内の圧力をリザーバ4の圧と同圧となるように、静的にはシール性を有しない。これにより、静的には油液の流通を可能とし、プランジャ室67A内の油液の熱膨張等による動的な容積変化を許容させる。
コイル65には、車体と減衰力調整式緩衝器1をつなぐ電源供給用のリード線31に接続されている。そして、リード線31を介してコイル65に通電することにより、通電電流に応じてプランジャ67に制御弁28の閉弁方向への推力を発生させ、この推力の変化で制御弁28の開弁状態、すなわち、パイロット圧を制御することでメインバルブ27の開弁圧等の減衰特性を調整することが可能になる。
以上のように構成した本実施形態の作用について次に説明する。
リード線31が車載コントローラ等に接続された通常の作動状態では、リード線31から電気が減衰力調整式緩衝器1に供給され、コイル65に通電して、弁体46を弁座45Aへ着座させる方向の付勢力を制御して、制御弁28による圧力制御を実行する。
ピストンロッド6の伸び行程時には、シリンダ2内のピストン5の移動によって、ピストン5のピストン逆止弁14が閉じ、シリンダ上室2A側の流体が加圧されて、シリンダ連通路22及び環状通路21を通り、セパレータチューブ19の開口23から減衰力発生機構25の中央通路36Cへ流入する。
このとき、ピストン5が移動した分の流体がリザーバ4からベースバルブ本体10のベース逆止弁17を開いてシリンダ下室2Bへ流入する。なお、大きな入力があったときなど、シリンダ上室2Aの圧力がピストン5のディスクバルブ13の開弁圧力に達すると、ディスクバルブ13が開いて、シリンダ上室2Aの圧力をシリンダ下室2Bへ開放することにより、シリンダ上室2Aの過度の圧力の上昇を防止する。
ピストンロッド6の伸び行程時に、減衰力発生機構25では、中央通路36Cから流入した流体が、メインバルブ27の開弁前、つまりピストン速度が低速域にある時においては、メインバルブ部材37の貫通路43、メインバルブ27のスリット48Aを介してリザーバ4へ流れる。これにより、減衰力調整式緩衝器1の基本となるオリフィス特性の減衰力を発生する。また、上記流体の流れと並列にオリフィス通路部材39の固定オリフィス44、中央流路39D及びパイロットバルブ部材40の中央入口部40A及びポート45を通り、弁体46を押し開いて制御弁室35内へ流入する。更に、制御弁室35Aからフェイルバルブ59の開口部59A、下流側制御弁室35Bを通過し、カバー部材61の切欠61Dからケース内通路26Cに連通し、ケース26のフランジ連通路26Bを通ってリザーバ4へ流れる。この流れは、コイル65に通電電流に応じた制御弁28の開弁圧により調整される。
ピストン速度が上昇してシリンダ上室2A側の圧力がメインバルブ27の開弁圧力に達すると、中央通路36Cに流入した流体は、貫通路43を通り、環状のメインバルブ弁座37Aを通過し、メインバルブ27を押し開いてケース内通路26Cからフランジ連通路26Bを通り、リザーバ4に出力される。このメインバルブ27の開弁圧力は、コイル65に通電電流に応じた制御弁28の開弁圧により、パイロット室38の圧力が調整されることで変化する。
ピストンロッド6の縮み行程時には、シリンダ2内のピストン5の移動によって、ピストン5のピストン逆止弁14が開き、ベースバルブ本体10のベース通路15のベース逆止弁17が閉じて、シリンダ下室2Bの流体がシリンダ上室2Aへ流入し、ピストンロッド6がシリンダ2内に侵入した分の流体がシリンダ上室2Aから、減衰力発生機構25を介してリザーバ4へ流れる。減衰力発生機構25内の油液の流れは、伸びも縮みも同様である。そして、大きな入力があった場合等で、シリンダ下室2B内の圧力がベースバルブ本体10のリリーフディスクバルブ18の開弁圧力に達すると、リリーフディスクバルブ18が開いて、シリンダ下室2Bの圧力をリザーバ4へ開放することにより、シリンダ下室2Bの過度の圧力の上昇を防止する。
次に、コイル65に通電電流に応じた制御弁28の制御状態について説明する。弁体46は、バルブスプリング54とフェイルスプリング55により、常時開弁方向に付勢されているので、コイル65への通電電流が小さい、すなわちソレノイドの閉弁方向への推力が小さいと、弁体46は弁座45Aから離間した状態となり、制御弁室35へ流体が流れ込む。この場合、一般的にソフト側と呼ばれる減衰力が発生する。その反対に、ソレノイドの推力を大きくすると、弁体46は弁座45Aに着座し、制御弁室35に流れる流体を制限し、一般的にハード側と呼ばれる減衰力を発生させる。通常制御時は制御弁28の開弁圧力によって、パイロット室38の内圧が調整され、このパイロット室38の圧力がメインバルブ27の閉弁方向に作用するので、制御弁28の開弁圧力を制御し、メインバルブ27の開弁圧力を調整することができる(パイロット制御型圧力制御)。このようにパイロット制御型圧力制御は、直接電磁制御弁により減衰バルブ制御する場合と比べ、ソレノイドの出力を小さくすることが可能であり、小型化及び省電力化に寄与する。特に、本実施形態においては、作動ロッド62にロッド通路62Aを設けて、圧力バランスさせることで、弁体46のシート部46Aの内側の面積から作動ロッド62の外周62Bから内周62Cの面積を引いた部分の環状の小さな面積を受圧面積Pとしているので、さらに、ソレノイドの出力を小さくすることが可能であり、小型化及び省電力化に寄与する。
次に、停車時など電源供給が行われていない時や、コイル65の断線、車載コントローラ(図示なし)の故障時等、コイル65が非通電の場合には、プランジャ67の推力が発生しない。このとき、バルブスプリング54の復元力によって弁体46が弁座46Aから離間し、ポート45が開き、更にフェイルスプリング55の復元力により、弁体46の小径部46Dがフェイルバルブ59に当接して、ポート45とカバー部材61との間の流路を閉じる。このとき、バルブスプリング54は、弁体46から離間しているため、ばね力を生じない。このような状態でピストンロッド6が伸縮すると、フェイルバルブ59の切欠64Aから油液が流れ、さらに制御弁室35Aの圧力が高まる。弁体46は流体からの圧力により制御弁室35の下流側35B方向へ移動し、フェイルバルブ59を撓ませるが、大径部46Cがワッシャ57に当接した後は、ワッシャ57により、制御弁室35B方向への移動が規制される。そして、さらに、制御弁室35Aの圧力が高まると、フェイルバルブ59の開口部59Aの内側が撓み開弁する。このような流れにより、予め設定された所望の減衰力を発生させると共に、パイロット室38の内圧、すなわち、メインバルブ27の開弁圧力を調整することができる。その結果、フェイル時においても、減衰力の制御手段を持たない通常のサスペンペンション相当の減衰力を得ることができる。
上記のコイル65が非通電状態から通電状態に切り替わったときに、弁体46をフェイルバルブ59から引き離し、通常の制御位置に戻すには、フェイルバルブ59と弁体46の小径部46Dが当接する面Gの中で、実際に両者間を環状のシールする線(通常、弁体46Dの外径近傍となる)の内側面積から作動ロッド62の外周62Bの内側の面積を引いた環状の面積Lが弁体46の受圧面積となるので、この面積に作用する制御弁室35Aの圧力以上の戻し力が必要となる。本実施形態においては、この環状のシール線を小径となるように、フェイルバルブ59の弁体46との接触位置を小径部46Dとしたので、弁体46の戻し力は小さい力で済む。この環状のシール線が従来技術のように大きいと、通電状態に切り替わった状態でも、ピストンロッド6が伸縮を開始していると、通常の制御位置に戻り難いが、本実施形態では容易に復帰が可能である。また、通常制御状態で、ソフトの減衰力で走行中に段差に乗り上げたときなど、予期せぬ大きな入力が入った場合に、弁体46が上流側の圧力により、フェイルバルブ59と当接する位置まで動いてしまうことがある。このようなときに、従来技術のように、環状のシール線が大きいと、上記と同様に通常の制御位置に戻り難いが、本実施形態では、このような場合も、直ちに通常の制御に復帰可能である。
次に、第2実施形態について、主に図5を参照して説明する。図5は第2実施形態の要部を拡大した図を示している。なお、上記の第1実施形態と、同様の部分には同じ符号を用いて、異なる部分についてのみ詳細に説明する。
第2実施形態は、第1実施形態の弁体46とフェイルスプリング55の形状を変更し、バルブスプリング54を廃止した実施例である。図5に示すように、第2実施形態では、弁体46は小径部46Eと大径部46Fを有し、大径部46Fはパイロットバルブ部材40の内周面近傍にまで拡径している。大径部46Fには開口部71と、外周端部をポート45方向へ延長した突起部72が設けられている。突起部72とパイロットバルブ部材40の底部40Bの軸方向にはコイルばね形状のフェイルスプリング73が設けられている。また、大径部46Fとフェイルバルブ59の間にはワッシャ74が設けられている。
次に第2実施形態の作用について説明する。弁体46を、フェイルスプリング73のばね受けの機能と弁体46の移動をワッシャ74と当接することで規制する機能を有する大径部46Fと、フェイルバルブ59と当接する小径部46Eを分けたことにより、第1実施形態と同様の効果が発揮できる。
上記の第2実施形態では、第1実施形態より大径部46Fが大きいため、制御弁28の位置合わせとしてのバルブスプリング54が不要になり、組立作業が容易になる。また、大径部46Cより大径部46Fは大径のため、流体のパイロット圧により、不安定な姿勢になりにくい。
なお、上記の第2実施形態において、ワッシャ74の内径は大径部46Fの外形よりも僅かに小径であれば足りる。言い換えると、大径部46Fが下流側に移動しない程度にワッシャ74に干渉すればよく、大径部46Fの開口部71を通過する流体の妨げにならない程度の大きさであればよい。また、ワッシャ74の内径が大径部46Fの開口部71を通過する流体の妨げにならない程度の大きさである場合には、ワッシャ74に連通路を設けなくともよい。
なお、上記の第1実施形態においては、弁体46の付勢手段をバルブスプリング54、フェイルスプリング55とし、板状の弾性部材を使用したが、これらの付勢手段はコイル状であってもよく、付勢手段が弁体46を所定位置まで押し上げればよい。しかし、生産性や組付性を考慮すると、板状が好ましい。
なお、上記の実施形態において、アクチュエータ29の動力源として電気を用いたが、アクチュエータ29が制御弁28を閉弁方向へ移動させる推力を有することが出来れば動力源は何でもよい。例えば空圧、水圧を利用した場合はソレノイドではなく圧力ポンプなどを設けることが考えられる。しかし調整の容易さ、安定性から電動式であることが望ましい。
なお、上記の実施形態において、作動流体は、作動の安定性及び取扱いの便宜から、流体として油液を使用した場合について説明しているが、本発明は、これに限らず、ガス等の他の流体を使用する場合にも適用することができ、他の流体を単独又は組み合わせて使用することも可能である。特許請求の範囲において、「流体」という用語は、それらを全て含む概念として使用している。
なお、上記の実施形態において、ピストン、シリンダ、バルブ等の構成部材の断面形状は、シール性、加工性等を考慮すると円形か略円形状であることが望ましいが、多角形等の他の形状とすることも可能である。
なお、上記の実施形態は、減衰力発生機構25をシリンダ2の径方向横に設けた例を示したが、ピストン5の摺動により油液の流れが生じるところであれば、例えば、ピストン5、またはベースバルブ本体10に設けてもよい。
なお、上記の実施形態においては、制御弁28を圧力制御弁とした例を示したが、例えば、流体が所定の流量に達すると、流体がスプールを押して一次側から二次側へ油を自由に通過させるスプール弁や、流量を調整するハンドルの操作で流路の開きの大きさを変えて流量を調整する可変絞り弁を利用する流量制御弁であってもよい。その場合は、固定オリフィス44を通過する流体とプランジャ67の圧力を等しくする。可変絞り弁を使用する流量制御弁の場合は、ハンドルに該当する機能をアクチュエータ29が行い、一次側つまり上流側から下流側である二次側に流体が移動するのを、アクチュエータ29を制御することにより本実施形態と同様の効果を得られる。可変絞り弁を用いた流量制御弁においても、可変絞り弁の受圧面積Lは、流体が持つ下流側に移動する力に対して、十分に小さいので本実施形態と同じ効果が得られる。また、スプール弁を使用する流量制御弁でも同様に、スプール弁の可動をアクチュエータ29が行い、フェイルバルブ59を流体が通過する通路に設けることで、本実施形態と同様の効果が得られる。
なお、上記の実施形態においては、単一の弁体46の一端(小径部46D)が制御弁28の弁部として、他端がフェイルバルブ59の弁座として機能する例を示したが、構造が不複雑にはなるが、弁体46を2体に分けて、それらを接続する構成としてもよい。
なお、上記の実施形態において、フェイルバルブ59にオリフィスである切欠59Dを設けているが、弁体の小径部46Dにオリフィスを設けてもよい。生産性や組付性を考慮すると、フェイルバルブ59に設けたほうが好ましい。
なお、上記の実施形態におけるメインバルブ27は、スペーサ51を使用せずに、直接摺動シール部材付きディスク53をオリフィス通路部材39の大径鍔部39Eで挟持してもよく、メインバルブ27を構成するバルブ類は求める減衰力特性によって、単体、または複数枚用いてもよい。
なお、上記の実施形態においては、弁体46と作動ロッド62を別部品としたが、同一部品でもよい。その場合、弁体46と作動ロッド45を組み付ける工程を省けるので組付性は向上するが、部品の生産性を考慮すると、別部品のほうが好ましい。