以下、図面を参照して本発明の好ましい実施の形態について詳細に説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る車両用エンジンの始動装置を適用した自動二輪車101の左側面図である。また、図2は自動二輪車101のエンジン1の断面図であり、図3はエンジン1の遠心クラッチ基部の拡大断面図である。複数の鋼材を溶接等で一体に結合して構成された車体フレーム102は、前輪懸架系を操向可能に支持するヘッドパイプ103から下後方へ単一のメインチューブ108を延ばし、ヘッドパイプ103と乗員着座用のシート109との間を低く抑えたいわゆるバックボーン型とされる。メインチューブ108の下方には、内燃機関としてのエンジン1が支持されている。
ヘッドパイプ103に揺動可能に支持されるステアリングステムの下端に固定されるボトムブリッジ106は、前輪104を回転自在に軸支する左右一対のフロントフォーク105が支持されている。ステアリングステムの上部には、前輪104を操舵する操向ハンドル107が取り付けられている。メインチューブ108の後端部の下方にはピボットブラケット110が接続されている。ピボットブラケット110には、後輪111を回転可能に軸支するスイングアーム112の前端部が上下揺動可能に軸支されている。
メインチューブ108の後端部の上後方にはシートフレーム113が延び、シートフレーム113上にシート109が配置されている。スイングアーム112の後部は、リヤクッション114を介してシートフレーム113に吊り下げられている。
図2を併せて参照して、エンジン1は、クランクシャフト9の回転軸線C1を車幅方向に沿わせた空冷単気筒の4サイクルエンジンである。エンジン1の左右中心線CLは、車体中心線と一致する。シリンダ部3は、クランクケース2の前端部から車体前方に向けて略水平に突出している。クランクケース2は、左右方向に直交する分割面を境に左右ケース半体2a,2bに分割され、左右ケース半体2a,2bの外側面にカバー24,25がそれぞれ取り付けられる。クランクケース2は、変速機4を収容するケースを兼ねており、クランクケース2を含むエンジン1の内部では、エンジンオイルが循環、撹拌される。
シリンダ部3は、クランクケース2側から順に、シリンダ本体3a、シリンダヘッド3bおよびヘッドカバー3cが連なって構成されている。シリンダ本体3aのシリンダボア3d内には、ピストン8が往復動可能に嵌装される。ピストン8は、コンロッド8aを介してクランクシャフト9のクランクピン9aに連結される。
クランクシャフト9は、クランクピン9aを支持するクランクウェブ9bと、クランクウェブ9bから左右外側に突出するジャーナル部9cと、このジャーナル部9cからさらに外側に延びる延長軸9dとを有する。
左側の延長軸9dの基端部には、カムドライブスプロケット12が固定されている。シリンダヘッド3b内のカムシャフト11は、カムドライブスプロケット12を含むカムチェーン式伝達機構を介して伝達されるクランクシャフト9の駆動力で被動回転する。シリンダ3の左側にはカムチェーンが収容されるカムチェーン室15が設けられている。点火プラグ17は、その先端が燃焼室に臨むようにシリンダヘッド3bに取り付けられる。図1に示すように、シリンダヘッド3bの車体上方側にはスロットルボディ18が接続されており、車体下方側には排気管19が接続されている。
クランクシャフト9の回転動力は、クランクケース2内の右側に収容された2つのクラッチ21,22と、クランクケース2内の後側に収容された変速機4とを介して、クランクケース2の後部左側の機関出力部23に出力される。機関出力部23と後輪111との間は、チェーン式伝動機構23aによって連係される。クランクシャフト9の右側の延長軸9d上には、発進用クラッチとしての遠心クラッチ21が同軸支持される。
遠心クラッチ21は、右側に開放する有底円筒状をなしてクランクシャフト9の右端部に相対回転可能に支持されるクラッチアウタ21aと、クラッチアウタ21aの内周側でクランクシャフト9の右端部に一体回転可能に支持されるクラッチインナ21bと、クラッチアウタ21aの内周側でクラッチインナ21bに拡開作動可能に支持される複数の遠心ウェイト21cとを有する。クラッチインナ21bの右側には、遠心分離式のオイルフィルタ26が設けられる。
遠心ウェイト21cは、クランクシャフト9の停止時および低速回転時には、クラッチアウタ21aの内周面から離間しており、遠心クラッチ21は動力伝達不能な切断状態にある。そして、遠心ウェイト21cは、クランクシャフト9の回転数の上昇に伴い拡開作動し、所定回転数以上でクラッチアウタ21aの内周面に摩擦係合して、遠心クラッチ21を動力伝達可能な接続状態に切り替える。
図3を併せて参照して、クラッチアウタ21aの中心部には、円筒状の内周側カラー部21dが右側に突設されている。内周側カラー部21dの外周には、ワンウェイクラッチ40が外嵌されている。ワンウェイクラッチ40の外周には、クラッチインナ21bの左側に突設された円筒状の外周側カラー部21eが外嵌される。
ワンウェイクラッチ40は、クラッチインナ21bおよびクランクシャフト9が、クラッチアウタ21aに先んじて正転(エンジン始動時の回転に相当)しようとしても、フリー状態となってトルク伝達をせず、クラッチインナ21bおよびクランクシャフト9を空転させる。これにより、ACGスタータ27によるエンジン始動が可能となる。そして、エンジン始動後にクラッチインナ21bおよびクランクシャフト9の回転数が所定回転に達すると、遠心クラッチ21が接続状態に切り替わって変速機4への駆動力伝達が行われることとなる。
一方、クラッチアウタ21aが、クラッチインナ21bおよびクランクシャフト9に先んじて正転しようとする場合には、ワンウェイクラッチ40がロック状態となって、クラッチインナ21bおよびクランクシャフト9に動力を伝達する。これにより、後輪側からのバックトルクによるエンジンブレーキを得ることができると共に、後述するキックスタータ16でのエンジン始動が可能となる。
クラッチアウタ21aの中央部左側には、左方に延びる円筒状の伝動筒21fが設けられる。伝動筒21fの左端側には、プライマリドライブギヤ20aが一体回転可能に設けられる。プライマリドライブギヤ20aは、クランクシャフト9の後方に位置するメインシャフト5の右側部に相対回転可能に支持されたプライマリドリブンギヤ20bに噛み合う。プライマリドリブンギヤ20aおよびプライマリドリブンギヤ20bは、エンジン1の一次減速機構20を構成する。
図2に示すように、クランクシャフト9の後方には、前側から順に、変速機4のメインシャフト5およびカウンタシャフト6が配置される。メインシャフト5及びカウンタシャフト6は、それぞれの回転中心線C3,C4をクランク軸線C1と平行にして配置される。カウンタシャフト6の後下方には、キックスタータ16を構成するキックペダル16bおよびキックスピンドル16aが配置されている。
メインシャフト5の右端部は遠心クラッチ21の右端よりも左方で終端し、この右端部上に多板クラッチ22が同軸支持される。多板クラッチ22は変速用クラッチであり、右方に開放する有底円筒状をなしてメインシャフト5の右端部に相対回転可能に支持されるクラッチアウタ22aと、クラッチアウタ22aの内周側に配置されてメインシャフト5の右端部に一体回転可能に支持されるクラッチインナ22bと、クラッチアウタ22aおよびクラッチインナ22b間で軸方向に積層される複数のクラッチ板22cとを有する。クラッチアウタ22aの底壁左側には、プライマリドリブンギヤ20bが一体回転可能に支持される。
多板クラッチ22は、ダイヤフラムスプリング22dの付勢力によりクラッチ板22cを圧接して摩擦係合させる。多板クラッチ22は、不図示のシフトペダルの変速操作に連動してクラッチ板22cの圧接を一時的に解除するように構成されており、これにより、シフトペダルの操作のみで変速機4をスムーズに変速させることができる。
変速機4は、メインシャフト5およびカウンタシャフト6と、両シャフト5,6に跨って支持される変速ギヤ群7とを備える。クランクシャフト9の回転動力は、変速ギヤ群7の任意のギヤを介してメインシャフト5からカウンタシャフトに伝達される。カウンタシャフト6の左端部は、クランクケース2の後部左側に突出して機関出力部23となる。
変速ギヤ群7は、両シャフト5,6にそれぞれ支持された変速段数分のギヤで構成される。変速機4は、両シャフト5,6間で変速ギヤ群7の対応するギヤ同士が常に噛み合った常時かみ合い式とされる。両シャフト5,6に支持された各ギヤは、自身を支持するシャフトに対して相対回転可能なフリーギヤと、自身を支持するシャフトに対して一体回転可能な固定ギヤと、自身を支持するシャフトにスプライン嵌合するスライドギヤとに分類される。変速機4は、不図示のチェンジ機構の作動によりスライドギヤを移動させ、変速段に応じたギヤ列を選定する。図2では、変速ギヤ群7の左側から順に、2速ギヤ列7b、4速ギヤ列7d、3速ギヤ列7cおよび1速ギヤ列7aが並んで配置される。
クランクシャフト9の左側の延長軸9dの左端部上には、ACGスタータ27が同軸支持される。ACGスタータ27は、三相交流式の発電電動機であり、エンジン1を始動するスタータモータとして機能すると共に、エンジン1の運転に伴い発電する交流発電機としても機能する。ACGスタータ27の作動は、図4に示す始動制御部としてのECU(Electronic Control Unit)60により制御される。
ACGスタータ27は、いわゆるアウタロータ型であり、左方に開放する有底円筒状をなしてクランクシャフト9の左端部に一体回転可能に支持されるアウタロータ27aと、アウタロータ27aの内周側に配置されて左ケース半体2aの外周壁に固定的に支持されるステータ27bとを有する。アウタロータ27aの内周側には、周方向で並ぶ複数のマグネット27cが固定される。ステータ27bの外周側には、周方向で並ぶ複数のコイル27dが形成される。
クランクケース2の後部下側には、エンジン1のキックスタータ16における左右方向に沿うキックスピンドル16aが配置される。キックスピンドル16aの右端部はクランクケース2の後部右側に突出し、この突出部にキックアーム16bの基端部が取り付けられる。キックスピンドル16aにおけるクランクケース2内に臨む左側部上には、キックドライブギヤ16cおよび噛み合い機構16dが同軸支持される。キックドライブギヤ16cは、キックアーム16bの踏み下ろしによるキックスピンドル16aの一方向への回転時にのみ、噛み合い機構16dを介してキックスピンドル16aと一体回転する。
キックドライブギヤ16cは、1速ギヤ列7aのドリブンギヤに噛み合う。キックドライブギヤ16cの回転動は、1速ギヤ7a、メインシャフト5、多板クラッチ22、プライマリドリブンギヤ20bおよびプライマリドライブギヤ20aを介して、遠心クラッチ21のクラッチアウタ21aに正転として入力される。下流側からの正転トルクに対しては、ワンウェイクラッチ40がロックされ、キックスタータ16によるエンジン1のクランキングが可能となる。
図4は、本実施形態に係る車両用エンジンの始動装置の全体構成を示すブロック図である。ACGスタータ27は、例えば、ステータ27bにネジ等の締結部材28aで取り付けられた、複数のロータ角度センサ28を保持するロータ角度センサユニット28bを有する。ロータ角度センサ28は、ステータ27bのコイル27dに対する通電制御に用いられるもので、ACGスタータ27のU相、V相、W相のそれぞれに対応して1つずつ設けられる。ロータ角度センサ28は、アウタロータ27aの周方向の位置を点火タイミングとして検出する点火パルサ(パルサセンサ)としても機能する。ロータ角度センサ28は、ホールICまたは磁気抵抗(MR)素子で構成される。
ACGスタータ27は、エンジン始動時にはスタータモータとして機能する。ACGスタータ27は、車載バッテリ70からECU60のモータドライブ回路61を介して電力が供給され、クランクシャフト9を回転(正転駆動)させてエンジン1のクランキングを行う。前記したように、ACGスタータ27による始動時の回転速度は、遠心クラッチ22の接続回転速度より低いので、クランキングの回転動力が遠心クラッチ22より下流側に伝達されることはない。
ACGスタータ27は、クランクシャフト9の回転数がアイドリング相当以上になる等によりエンジン1の始動が確認されると、クランクシャフト9の回転により駆動して発電する交流発電機として機能する。この発電により、バッテリ70の充電および各種電装部品への電力供給がなされる。
始動制御装置としてのECU60は、ACGスタータ27の駆動および発電を制御するモータドライブ回路61と、エンジン1の自動停止(アイドルストップ)を行うアイドルストップ制御部62と、アイドルストップ直後にACGスタータ27の逆転駆動によるクランクシャフト9の逆転を行うスイングバック制御部63と、変速機4がニュートラル状態でないインギヤ状態にあることを検知するインギヤ状態検知部69と、温度センサ33によって検知されるエンジン温度が所定値以上であることでエンジン1の暖機が完了したと検知するエンジン暖機状態検知部68とを含む。
ECU60には、ロータ角度センサ28のほか、スロットルボディ18のスロットルバルブ(不図示)の開度を検出するスロットルセンサ31、車輪の回転速度から車速を検出する車速センサ32、エンジン1の代表温度としての油温または冷却水温を検出する温度センサ33、バッテリ70の充電状態としてバッテリ電流および電圧を検出するバッテリセンサ34とが接続される。ロータ角度センサ28は、クランク回転数および回転角度を検出するクランク角センサを兼ねる。
さらに、ECU60には、点火プラグ17を含む点火装置35、スロットルボディ18のインジェクタ18aを含む燃料噴射装置36が接続されると共に、アイドルストップ制御を行うか否かを乗員が任意に選択するアイドルストップスイッチ37、アイドルストップ制御の選択時やアイドルストップ時に点灯するインジケータ38、変速機4がニュートラル状態か否か、換言すれば、ニュートラル以外のインギヤ状態(1〜4速)にあるか否かを検知するニュートラルセンサ39が接続される。
モータドライブ回路61は、例えば、パワーFETを含み、ACGスタータ27が発生する三相交流を全波整流すると共に、ACGスタータ27を駆動する際には、バッテリ70の電力を調圧して供給する。
アイドルストップ制御部62は、アイドルストップ制御の選択時において、エンジン1の自動停止許可条件が整ったときには、点火プラグ17の点火およびインジェクタ18aの燃料噴射を停止してエンジン1を自動停止させる(アイドルストップ)。その後、アイドルストップ制御部62は、エンジン1の再始動許可条件が整ったときに、ACGスタータ27を駆動させてエンジン1のクランキングを行うと共に、点火プラグ17の点火およびインジェクタ18aの燃料噴射を再開し、エンジン1を自動で再始動させる。ECU60は、バッテリ70の充電状態がエンジン1の再始動を行うのに十分であると認められるときのみアイドルストップ制御を実施する。
スイングバック制御部63は、所定条件が満たされた場合に、エンジン1の始動性を向上させるために、ACGスタータ27を逆転駆動させて、クランクシャフト9をアイドルストップ直前の圧縮上死点直後となる回転角度まで逆転させる。すなわち、エンジン1の始動時におけるクランクシャフト9の助走距離を延ばし、圧縮上死点を乗り越えるための正転トルクが小さくて済む位置までクランクシャフト9を逆転させるスイングバック制御を実行する。その後、アイドルストップ制御部62がACGスタータ27を正転駆動させ、クランクシャフト9を改めて正転させると共に、点火装置35及び燃料噴射装置36を改めて作動させることで、エンジン1が再始動される。
スイングバック制御部63は、ステージ判定部64、ステージ通過時間検知部65、逆転制御部66およびデューティ比設定部67を有する。
ステージ判定部64は、ロータ角度センサ28の出力信号に基づいて、クランクシャフト9の一回転をステージ♯0〜35の36ステージに分割し、ロータ角度センサ28が点火パルサとして発生するパルス信号の検知タイミングを基準ステージ(♯0)として現在のステージを判定する。ステージ通過時間検知部65は、ステージ判定部64が新たなステージを判定してから次のステージを判定するまでの時間に基づいて、当該ステージの通過時間Δtnを検知する。
逆転制御部66は、ステージ判定部64による判定結果およびステージ時間検知部65により検知された通過時間Δtnに基づいて、ACGスタータ27の逆転駆動指令を発生する。デューティ比設定部67は、ステージ判定部64による判定結果に基づいて、モータドライブ回路61の各パワーFETに供給するゲート電圧のデューティ比を動的に制御する。
本実施形態に係る車両用エンジンの始動装置は、スイングバック制御の実行条件の設定を工夫することで、迅速な始動性の確保とバッテリ負荷の低減の両立を可能とした点に特徴がある。以下、図5〜9のフローチャートを参照して、エンジン始動制御の手順を説明する。
ここで、図5〜9に示される「エンジン始動操作」とは、アイドリングストップ制御による一時停止状態からの再始動時(以下、再始動時)と、イグニッションスイッチをオフからオンに切り換えて行う最初の始動時等、アイドリングストップ制御を伴わない通常の始動時(以下、通常の始動時)とを含むものとする。これにより、前記したエンジン始動操作には、操向ハンドル107等に設けられるスタータスイッチの操作だけでなく、アイドルストップ状態からの再始動条件に含まれるスロットルグリップの開操作やブレーキレバーのリリース操作等が含まれることとなる。
図5は、エンジン始動制御1の手順を示すフローチャートである。ステップS1で、エンジン1の始動操作が検知されると、ステップS2では、エンジン温度が所定値以上であるか否かが判定される。
ステップS2で肯定判定される、すなわち、エンジン温度が所定値以上でエンジン1が暖機完了状態にあると判定されるとステップS3に進み、スイングバック制御を実行せずにACGスタータ27でクランクシャフト9を正転駆動するスイングバックなし始動制御が実行される。一方、ステップS2で否定判定されると、ステップS4に進んで、ACGスタータ27でクランクシャフト9を所定角度まで逆転駆動してから正転駆動するスイングバックあり始動制御が実行される。
このエンジン始動制御1によれば、エンジン内部の摺動抵抗が少なく燃料の霧化もしやすいためエンジン1が始動しやすい暖機完了状態にある場合には、スイングバック制御を不要と判断して実行しないことにより、迅速な始動性の確保とバッテリ負荷の低減の両立を図ることができる。一方、エンジン温度が所定値未満でエンジン1が冷間状態にある場合には、スイングバック制御を実行して確実なエンジン始動を行うことが可能となる。
なお、ステップS2の判定に用いられる所定温度は、例えば、空冷エンジンの油温であれば45℃、水冷エンジンの冷却水温であれば60℃に設定されるが、この設定値は、車両の仕向地等に合わせて変更することができる。
図6は、エンジン始動制御2の手順を示すフローチャートである。ステップS11で、エンジン1の始動操作が検知されると、ステップS12では、変速機4がニュートラル状態でないインギヤ状態にあるか否かが判定される。
ステップS12で肯定判定される、すなわち、変速機4がインギヤ状態にあると判定されるとステップS13に進み、スイングバック制御を実行せずにACGスタータ27でクランクシャフト9を正転駆動するスイングバックなし始動制御が実行される。一方、ステップS12で否定判定されると、ステップS14に進んで、ACGスタータ27でクランクシャフト9を所定角度まで逆転駆動してから正転駆動するスイングバックあり始動制御が実行される。
このエンジン始動制御2によれば、変速機4がインギヤ状態にある場合には、クランクシャフト9を逆転駆動するとワンウェイクラッチ40がロック状態になって後輪11にバックトルクが生じることから、スイングバック制御を実行しないことによって乗員に違和感を与えることを回避し、かつ、迅速な始動性の確保とバッテリ負荷の低減の両立を図ることができる。一方、変速機4がニュートラル状態にある場合には、スイングバック制御を実行して確実なエンジン始動を行うことができる。
図7は、エンジン始動制御3の手順を示すフローチャートである。ステップS21で、エンジン1の始動操作が検知されると、ステップS22では、アイドルストップ状態からの再始動であるか否かが判定される。
ステップS22で肯定判定される、すなわち、再始動時であると判定されるとステップS23に進み、スイングバック制御を実行せずにACGスタータ27でクランクシャフト9を正転駆動するスイングバックなし始動制御が実行される。一方、ステップS22で否定判定されると、ステップS24に進んで、ACGスタータ27でクランクシャフト9を所定角度まで逆転駆動してから正転駆動するスイングバックあり始動制御が実行されて、一連の制御を終了する。
このエンジン始動制御3によれば、通常、アイドリングストップ制御はエンジン1の暖機が完了していることを条件として実行されるため、アイドリングストップ状態からの再始動においてはエンジン1が始動しやすいとして、スイングバック制御を実行せずに迅速な始動性の確保とバッテリ負荷の低減の両立を図ることができる。一方、アイドリングストップ制御を伴わないエンジン1の通常の始動時である場合には、スイングバック制御を実行して確実なエンジン始動を行うことが可能となる。
図8は、エンジン始動制御4の手順を示すフローチャートである。エンジン始動制御4では、前記エンジン始動制御1,2,3で示したスイングバック制御の実行条件を重ねて課する点に特徴がある。
まず、ステップS31で、エンジン1の始動操作が検知されると、ステップS32では、アイドルストップ状態からの再始動であるか否かが判定される。
ステップS32で肯定判定される、すなわち、再始動時であると判定されるとステップS33に進み、スイングバック制御を実行せずにACGスタータ27でクランクシャフト9を正転駆動するスイングバックなし始動制御が実行される。
一方、ステップS32で否定判定されると、ステップS34に進んで、変速機4がニュートラル状態でないインギヤ状態にあるか否かが判定される。さらに、ステップS34で否定判定されると、ステップS35に進んで、エンジン温度が所定値以上であるか否かが判定される。
ステップS34またはステップS35で肯定判定されると、ステップS33に進んで、スイングバック制御を実行せずにACGスタータ27でクランクシャフト9を正転駆動するスイングバックなし始動制御が実行される。また、ステップS35で否定判定されると、ステップS36に進んで、ACGスタータ27でクランクシャフト9を所定角度まで逆転駆動してから正転駆動するスイングバックあり始動制御が実行されて、一連の制御を終了する。
このエンジン始動制御4によれば、スイングバックあり始動制御が実行されるのは、ステップS32,S33,S34の判定がすべて否定された場合のみとなる。すなわち、アイドルストップ状態からの再始動であっても、変速機4がインギヤ状態であればスイングバック制御は実行されず、また、アイドルストップ状態からの再始動で、かつ、変速機4がニュートラル状態であっても、エンジン1の暖機が完了している場合にはスイングバック制御が実行されない。これにより、スイングバックあり始動制御の実行条件をさらに絞り込み、迅速な始動性の確保とバッテリ負荷の低減の両立を図ることができる。
図9は、エンジン始動制御5の手順を示すフローチャートである。エンジン始動制御5では、変速機4がインギヤ状態であり、かつ、エンジン1の暖機が完了していない状態であれば、変速機4をニュートラル状態に切り替えることを促すためにACGスタータ27の駆動を禁止する点に特徴がある。
ステップS51で、エンジン1の始動操作が検知されると、ステップS52では、変速機4がニュートラル状態でないインギヤ状態にあるか否かが判定される。ステップS52で否定判定される、すなわちニュートラル状態にあると判定されると、ステップS57に進んでスイングバックあり始動制御が実行される。
一方、ステップS51で肯定判定されると、ステップS53に進んで、エンジン温度が所定値以上であるか否かが判定される。そして、ステップS53で否定判定されると、ステップS54に進んでエンジン1の始動が禁止され、さらに、ステップS56でインジケータ38を作動させて、一連の制御を終了する。
上記した制御によれば、変速機4がインギヤ状態で、エンジン1が冷間状態にある場合には、エンジン始動操作(この場合、スタータスイッチの操作)が行われてもACGスタータ27を駆動せず、代わりにインジケータ28を作動させて、変速機4をニュートラル状態に切り替えることを乗員に促すことができる。これにより、インギヤ状態かつ冷間状態でACGスタータ27を駆動してバッテリに負担がかかることを避け、かつ、乗員がニュートラル状態に切り替えてから再びエンジン始動操作を行うことにより、結果的にエンジン1が迅速に始動される可能性が高められる。
また、本願発明に係る車両用エンジン始動装置は、インギヤ状態でキックスタータ16が操作された際には、点火装置および燃料噴射装置を駆動しないようにしてエンジン1の始動を禁止する制御を実行することもできる。この場合も、インジケータ28によって変速機4をニュートラル状態に切り替えることを乗員に促すことができ、キックスタータ16による始動操作の確実性を向上することができる。
図10は、デコンプ装置80の正面図である。図11は、図10に示したデコンプカム87の一部拡大図である。本実施形態に係る車両用エンジン始動装置を備えたエンジン1は、さらに、デコンプ装置80を備えることができる。デコンプ装置80は、エンジン始動時に排気バルブを強制的に開弁して圧縮トルクを減少させるデコンプカム87を、カムシャフト11の回転駆動に伴う遠心力によって自動的に駆動し、作動状態/非作動状態が切り替えられるように構成されている。このデコンプ装置80によれば、スイングバック制御を実行しない場合であってもエンジン1の始動性を高めることができる。
排気バルブ86を開弁するロッカーアーム81は、ローカーアームシャフト82を揺動軸として揺動可能にシリンダ部3に取り付けられている。回転軸83によってロッカーアーム81の一端部に回転自在に軸支されたローラ84は、カムシャフト11に形成されたカム山11aに当接しており、ロッカーアーム81は、カムシャフト11の回転角度に応じて変化するカム山11aの高さに応じて揺動動作し、排気バルブ86を開閉する。
デコンプカム87は、カムシャフト11の圧縮上死点に相当する部分に回転軸91によって回転可能に軸支されている。デコンプカム87には、円弧状の作動面87aと直線状の非作動面87bとが設けられている。一方、ロッカーアーム81側には、デコンプカム87が当接するための突出したスリッパ85が形成されている。
カムシャフト11には、遠心力によってデコンプカム87を回動させるための錘88が、揺動軸89によって揺動自在に取り付けられる。錘88は、カムシャフト11側に当接するようにバネによって付勢されているが、カムシャフト11の回転速度が上昇して遠心力が生じると、バネの付勢力に抗して図示時計回りに揺動するように構成されている。
デコンプカム87は、ピン90によって錘88に連結されており、カムシャフト11に遠心力が生じていない場合は、作動面87aがスリッパ85のスリッパ面85aに当接している。このとき、作動面87aは、カム山11aより高い位置にあり、これによりロッカーアーム81が押し上げられて、圧縮上死点近傍でも排気バルブ86が開弁されることとなる。そして、カムシャフト11に所定の遠心力が生じると、錘88が揺動してデコンプカム87が時計回りに回動し、これにより、非作動面87bがスリッパ面85に対向するとデコンプカム87がスリッパ面85に当接しなくなる。
上記した構成により、デコンプ装置80は、エンジン始動時にはデコンプカム87によって圧縮トルクを低減し、エンジン始動後には自動的に非作動となる自動遠心デコンプ装置として機能する。
ところで、エンジン1を運転状態から停止させる際には、クランクシャフト9が完全停止する直前に、圧縮上死点を乗り越えられずに少しだけ逆転することがある。この現象に対し、本実施形態に係るデコンプ装置80では、スリッパ面85aを曲面として形成することで、クランクシャフト9の逆転に伴ってデコンプカム87が共回りしても、次回のエンジン始動時に影響を与えないようにした点に特徴がある。
図12は、本実施形態に係るデコンプ装置80の作動状態を示した説明図である。(a)に示すように、エンジン1が停止直前で圧縮上死点にさしかかった場合、カムシャフト11の遠心力は小さくなっているため、デコンプカム87の作動面87aがスリッパ85に接触する。このとき、圧縮上死点を乗り越えることができないと、カムシャフト11が図示反時計回りに逆転することとなり、これに伴って、スリッパ85に接触しているデコンプカム87が連れ回されて図示時計方向に回転することがある。
従来のデコンプ装置においては、スリッパ面が直線状に形成されていたため、デコンプカム87との接触長さが長いことから、上記した連れ回りに伴うデコンプカム87の回転角度が大きくなり、非作動面87bがスリッパ面に対向した状態でエンジン1が停止する可能性があった。
これに対し、本実施形態に係るデコンプ装置80では、スリッパ面85aを曲面として形成してデコンプカム87との接触長さを短くしたため、上記した連れ回りが発生してもデコンプカム87の回転角度が小さくて済み、作動面87aがスリッパ面85aに対向した状態でエンジン1を停止させることが可能となる。なお、クランクシャフト9の逆転に伴ってデコンプカム87が共回りしても次回のエンジン始動時に影響を与えないようにする構造としては、上記したようにスリッパ面を曲面化する構造に限られず、例えば、スリッパ面を平面状としたままデコンプカム87の作動面87aを長くする(相対的に、非作動面87bが短くなると共に回転中心から離間する)ことで、デコンプカム87が逆転しても非作動面87bがスリッパ面に対向しにくくする構造としてもよい。また、このように変形したデコンプカムを曲線状のスリッパ面と組み合わせることもできる。
なお、エンジン、ACGスタータ、変速機、変速クラッチや遠心クラッチ等の形式や構造、始動制御部の構成、スイングバック制御を実行または非実行とする具体的な条件設定、キックスタータの有無、デコンプ装置の構造、デコンプ装置の有無等は、上記実施形態に限られず、種々の変更が可能である。本発明に係る車両用エンジンの始動制御装置は、自動二輪車に限られず、鞍乗型の三/四輪車等の各種車両に適用することができる。