JP5993125B2 - 船舶用自動操舵装置 - Google Patents

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Description

本発明は、航路制御系(TCS:Track Control System)の船舶用自動操舵装置に関し、潮流成分を推定し操舵を行う船舶用自動操舵装置に関する。尚、ここで潮流成分とは船体を移動させる作用をもつ潮海流や風力などを含むものである。
船舶用自動操舵装置は、舵角を制御して設定方位に船首方位を追従させる方位制御系(HCS: Heading Control System)と、計画航路に船体位置を追跡させる航路制御系(TCS:Track Control System)とに分けられる。マイクロチップの高機能化、衛星測位システム(GNSS:Global Navigation Satellite System)の小型化・低コスト化・高精度化により位置情報が簡単に得られるようになったことに伴い、航路制御系の要求が高まっている。方位制御系の場合は、適時針路修正を必要とするが、航路制御系の場合は操船が不要で使い勝手がよい。
一般的に航路制御系の船舶用自動操舵装置は、図1に示すように軌道計画部12、軌道航路誤差演算部14、フィードバック制御部16及び加算器17を備える。計画航路に基づき軌道計画部12が出力する参照方位ψRと参照位置xR、yRと、センサから検出される方位ψと位置x、yとの誤差を軌道航路誤差演算部14で求め、その誤差から保針時にフィードバック制御部16が、船体の方位と位置とを追跡させるべくフィードバック舵角δFBを出力する。フィードバック制御部16は、図2Aに示すように、推定器18と、フィードバックゲイン器20とからなる。フィードバック制御系の制御時定数は方位制御系の制御時定数より長く、且つ、旋回時間は方位制御系の時定数より通常短いので、旋回で生じた航路誤差は、旋回中にフィードバック制御系で収斂させることは難しい。よって、旋回時には軌道計画部12からフィードフォワード舵角δFFが出力される。加算器17は、フィードバック舵角δFBとフィードフォワード舵角δFFとを加算して指令舵角δcを船体24の操舵機に出力する。計画航路は、直線航路(レグ)と曲線航路(CT:カーブドトラック)とから定められる。
航路制御系では、航路誤差を直接制御できるアクチュエータを利用しないで船首方位を媒介にして間接的に制御するので劣駆動系である。
フィードバック制御部の設計にあたっては、次数が大きいために、非特許文献1,2では、LQGベースで代数リカッチ式に帰着させている。このような方法による設計は全体を見通して行なわれるので解の信頼性が高い半面、閉ループ特性は定性的な把握になり、制御対象の特性を把握しないで、直接的に解を求めているので、制御対象に最適な解であるかは不明である。
本発明者は、特許文献1において、推定器を、舵角を制御して設定方位に船首方位を追従させる方位制御系を基礎とした方位制御系推定手段と、航路制御系の航路制御系推定手段とに分離して構成する船舶用自動操舵装置を提案している。即ち、推定器の方位制御のみを行うときの制御対象モデルの状態量を推定するための特性多項式と、航路制御系の推定航路誤差(xe^,ye^)、推定潮流ベクトル(dx^,dy^)を推定するための特性多項式とを分けることによって、それぞれの推定ゲインの決定が可能になる。これによって、既存の方位制御系についての推定器の構成をそのまま使用し、航路制御系推定手段の構成を追加することで、推定器を構成するようにしている。
また、本発明者は、特許文献2において、方位制御系において、船首方位を参照方位に遅れなく追従させることができる参照方位とフィードフォワード制御との技術を基礎にして、さらに船体に作用する旋回時の潮流成分を考慮することによって、旋回時に計画旋回の軌跡に乗せることができる船舶用自動操舵装置を提案している。
Fossen, T. I.,「Marine Control Systems」, Marine Cybernetics AS, 392/394(2002) Zwierzewicz, Z,「On the Ship Guidance Automatic System Design via LQG-Integral Control」, Manoeuvring and Control of Marine Craft 2003, IFAC.
特開2009−248896号公報 特開2009−248897号公報
上記従来の操舵処理は、直線航路航行中の保針時に潮流成分を推定し、該推定した潮流成分を用いて変針を行い曲線航路の航行を制御するようになっている。即ち、変針中は潮流成分が変化しないと仮定して、指令舵角δcを求めている。この操舵処理は、旋回時間が短い場合や潮流変化が少ない海域では十分に対応できる。
しかしながら、曲線航路航行中に実際には潮流変化が生じており航路誤差が発生しても、曲線航路航行後の直線航路で潮流の推定が開始されるため、航路誤差の過渡応答が大きく長く残存してしまうという問題がある。
本発明はかかる課題に鑑みなされたもので、保針中、変針中のいずれにも左右されることなく潮流成分を推定することができる船舶用自動操舵装置を提供することをその目的とする。
かかる目的を達成するために、本発明は、船体の参照方位及び参照位置を出力する軌道計画部と、センサで検出された船体の方位及び位置から船体の方位と位置とを参照方位及び参照位置に追跡させるべく指令舵角を出力するフィードバック制御部と、を備えた船舶用自動操舵装置において、
前記フィードバック制御部は、方位、航路及び潮流ベクトルの状態量の推定値を求める推定器と、推定器から出力される状態量の推定値に対してフィードバックゲインを作用して指令舵角(δFB)を出力するフィードバックゲイン器とを備えており
前記推定器は、方位に関する推定を行う方位制御系推定手段と、航路に関する推定を行う航路制御系推定手段と、対地座標系での潮流ベクトルの推定を行う対地座標系推定手段と、を備え、対地座標系推定手段は、センサから得られた船体の方位(ψ)及び対地座標系における船体の位置(x,y)から、参照方位を用いずに推定潮流ベクトル(dx^,dy^)の推定を行うことを特徴とする。
また、前記対地座標系推定手段は、センサから得られた船体の方位(ψ)及び対地座標系における船体の位置(x,y)と、船速及び横方向速度とから、推定潮流ベクトル(dx^,dy^)の推定を行うことを特徴とする。
また、前記横方向速度は、方位制御系推定手段で得られる推定旋回角速度の関数として求められることを特徴とする。
また、前記軌道計画部は、変針中に、前記対地座標系推定手段で演算された推定潮流ベクトルを用いて、参照方位に従う指令舵角(δFF)を出力することを特徴とする。
また、前記航路制御系推定手段は、参照座標系における航路偏差から潮流ベクトルを推定しており、前記航路制御系推定手段で演算された推定潮流ベクトルと、前記対地座標系推定手段で演算された推定潮流ベクトルとのいずれかが選択されて状態量の推定値とされることを特徴とする。
また、少なくとも変針中に対地座標系推定手段からの推定潮流ベクトルが選択されることを特徴とする。
また、前記航路制御系推定手段の特性多項式の固有周波数よりも、前記対地座標系推定手段の特性多項式の固有周波数が高く設定されることを特徴とする。
本発明によれば、対地座標系での潮流ベクトルの推定を行う対地座標系推定手段を備え、対地座標系推定手段は、センサから得られた船体の方位(ψ)及び対地座標系における船体の位置(x,y)から、参照方位を用いずに推定潮流ベクトル(dx^,dy^)の推定を行うようにしているために、変針中、保針中に左右されることなく、推定潮流ベクトルを求めることができる。
また、参照方位を用いずに、センサから得られた船体の方位(ψ)及び対地座標系における船体の位置(x,y)等から推定潮流ベクトル(dx^,dy^)を求めることができるので、処理を簡単化することができる。
潮流ベクトル推定を船体制御と無関係にすることができるので、その推定固有周波数を高くして、推定を短期に行うことができるようになる。
本発明による船舶用自動操舵装置の全体構成を表すブロック図である。 フィードバック制御部の構成を表すブロック図である。 フィードバック制御部の詳細構成を表すブロック図である。 航路制御系で用いる座標系を表す説明図である。 舵を取ったときに発生する横方向速度を表す説明図である。 制御対象のモデルを表すブロック図である。 制御対象のモデルを偏差系で表したブロック図である。 フィードバックゲイン器の構成を表すブロック図である。 特性多項式の根軌跡を表す図である。 方位制御系推定器のブロック図である。 航路制御系推定器のブロック図である。 対地座標系潮流推定器のブロック図である。 軌道計画部のブロック図である。 潮流の印加のない場合の従来構成のシミュレーション結果を表すグラフである。 潮流の印加のない場合の本発明のシミュレーション結果を表すグラフである。 潮流の印加が一様である場合の従来構成のシミュレーション結果を表すグラフである。 潮流の印加が一様である場合の本発明のシミュレーション結果を表すグラフである。 変針中に潮流の印加がある場合の従来構成のシミュレーション結果を表すグラフである。 変針中に潮流の印加がある場合の本発明のシミュレーション結果を表すグラフである。
以下、図面を用いて本発明の実施の形態を説明する。
図1は、船舶用自動操舵装置と制御対象の全体のブロック図である。船舶用自動操舵装置10は、計画航路に船体位置を追跡させるために舵を制御する装置であり、軌道計画部12、軌道航路誤差演算部14、フィードバック制御部16、加算器17及び各パラメータを同定する図示しない同定器を備えている。誘導システム22から計画航路及びセンサ類26のスピードログからの船速U(正確には船体のsurge速度u(後述のようにu≒U))が軌道計画部12に入力され、軌道計画部12からは参照方位ψR、参照位置xR、yRといった参照信号及び変針中にはフィードフォワード舵角δFFが出力される。
軌道航路誤差演算部14には、ジャイロコンパスからの船首方位ψ、GPS等の衛星測位システム(GNSS)からの位置(x,y)といったセンサ類26からの検出信号が入力され、軌道航路誤差演算部14は、前記参照方位ψR、参照位置xR、yRと検出信号との比較を行い方位誤差ψe、航路誤差xe、ye(方位誤差、航路誤差を合わせて軌道誤差とも称する)等を出力する。
船舶用自動操舵装置10の閉ループ系は図1に示すように船体モデルと外乱モデルとからなる制御対象24と、フィードバック制御部16とから構成される。
フィードバック制御部16は、図2Aに示すように、推定器18とフィードバックゲイン器20とからなる。軌道航路誤差演算部14からの方位誤差ψe及び航路誤差xe、yeは、推定器18に入力される。
推定器18は、方位誤差の推定を行い外乱が除去された推定方位誤差ψe^、推定旋回角速度r^といった方位に関する状態量の推定値を出力する方位制御系推定器18Aと、横方向の推定航路誤差ye^といった航路に関する状態量の推定値を出力する航路制御系推定器18Bと、対地座標系での演算を行い、推定潮流ベクトルdx^,dy^といった潮流に関する状態量の推定値を出力する対地座標系潮流推定器18Cとを備える。
フィードバックゲイン器20は、推定方位誤差ψe^、推定旋回角速度r^に対してフィードバックゲインを掛ける方位制御系フィードバックゲイン器20Aと、推定航路誤差ye^に対してフィードバックゲインを掛ける航路制御系フィードバックゲイン器20Bとを備え、これらの結果が加算されてフィードバック舵角δFBが出力される。
操舵機は指令舵角に比例した舵角を動かすため、船体は舵角によって旋回角速度を生じ方位、位置が変化する。旋回角速度の発生と共に、斜航角(横方向速度)が発生する。
以下、上記構成の詳細について説明する。
1.運動方程式
1.1 座標系
航路制御系で用いる座標系は、図3に示すように、以下の座標系から構成する。
・対地座標系(NED):地球固定の緯度経度座標系で、GNSSからの位置出力(x、y)に相当する。
・船体座標系(XBGYB):船体固定の運動座標系で、船体の重心を原点とし、船首方位をXB 軸とし、船体運動を定める。
・参照座標系(XRRR):誘導システム22により生成され指定された計画航路から定まる移動座標系である。
尚、座標系の回転極性は右ネジ方向を正とし、Z軸方向は重力方向を正とする。座標系はX軸、Y軸の2次元を用いる。
1.2 船体の運動方程式
前記制御対象である船体モデルを定めるために、船体の運動方程式を導出する。船体の運動方程式は、前進方向を除き、横方向と方位軸回りとの運動を扱うので、
を用いる。ここでMx ,My はそれぞれx,y方向の付加質量を含んだ質量を、Iz はZ軸まわりの付加慣性モーメントを含んだ慣性モーメントを,Y,Nはそれぞれy方向の流体力、Z軸まわりの流体モーメントを示し、添字は対応する変数を意味する。変数U,v,r,δはそれぞれ前進速度、横方向(横滑り)速度、旋回(回頭)角速度と舵角とを示す。上式を応答モデルに直すと、舵加速度δ・・(t)≒0とし、

を得る。ここで、sはラプラス演算子であり、

とおいている。
(3)式より、横方向(sway)の横滑り速度とヨー軸回りの旋回角速度との運動方程式は同一の形でかつ舵角による入力係数が異なるだけである。船体特性は舵を切ることによって、方位軸回りに旋回角速度を発生させ、同時に船体の横方向に対水の反力による横滑り速度を発生させる。(3)式において、実用的見地からs項による影響は無視できるためにs項を省略する。すると、(3)式は

になる。ここで、

であり、Ksは旋回力ゲイン、Kvは横滑りゲイン、Ts3、Tv3は時定数である。
また、船舶用自動操舵装置は、舵角を通して制御量を入力するので、制御変数は角度単位の方が都合がよい場合があるため、

を用いて横滑り速度vを斜航角βに変換することができる。
1.3 外乱モデル
外乱モデルは、舵角オフセット成分、波浪モデルと潮流成分を考える。舵角オフセットは風などに起因する方位軸まわりに作用する船体モーメントを舵角換算にしたものである。波浪モデルは白色ノイズを入力した狭帯域フィルタの出力を方位相当にしたものである。潮流成分は対地座標系の速度成分である。式にまとめると、
になる。ここでδo はほぼ一定値とした舵角オフセット成分を、ψw は波浪成分を、N(s) は白色ノイズN(0,1)を、Gw は波浪モデルの伝達関数を、Kw ,ζw ,ωw はそれぞれゲイン、減衰係数と中心周波数とを、dx,dy は対地座標系のそれぞれ北向き,東向きの潮流速度を、Ud ,ψd は潮流速度の大きさと方位とを、それぞれ示し、風が船体上部構造物を押すことによる速度成分も含むものとする。
船体モデルと外乱モデルとからなる制御対象の構成を図5(a)に示す。ただし同図では非線形項は省く。
1.4 対地速度と対地位置
船体の位置は、対地座標系で定義され、船体運動と潮流速度とからの対地速度を積分したものとなる。船体速度は対水速度で、潮流速度は対地速度でそれぞれ表す。
船体運動は舵角δを取ると角速度r=ψを生じるが、同時に横方向速度v=yも生じる。その様子を、図4を用いて説明する。同図のように定常に旋回しているときまたは参照座標系が接線方位に一致しているとき、船体座標系は接線方位に対して斜航角βだけ内側に傾いて釣り合う。このとき船体速度の対水速度成分は

になる。ここでux,vy は対水速度、u,vは船体座標系の速度を示し、添え字x,y:それぞれ北向き、東向きを示す。船体速度と斜航角との関係は、
を用いる。
対地座標系の船体重心の速度は、対水速度と潮流速度との和になるから、

になる。ここでx、yはセンサより得られる船体位置でそれぞれ北向き、東向きを示す。
1.5 軌道航路誤差
軌道航路誤差演算部14は、実際では緯度経度座標系によって計算されるが、ここでは説明を簡単にするためで、2次元平面座標を用いる。軌道航路誤差演算部14で求められる航路誤差及び方位誤差は、参照座標系に対する船体座標系の航路誤差及び方位誤差であり、図3より、
になる。ここでψ,x,yは船首方位と対地位置とを、ψR,xR,yR は参照方位と参照位置とを、ψ,x,yは方位誤差と航路誤差とをそれぞれ示す。x,yは船体位置Gから参照座標系のY,X 軸にそれぞれ垂線を下ろした距離に相当する。
制御対象の誤差モデルを構成するために、速度誤差を導入する。そこで、参照速度uR,vR を次のようにおく。
参照座標系における船体座標系の速度誤差は、前記参照速度との偏差を参照座標系に座標変換したものとなる。
よって、速度誤差は、ψ=ψ−ψR((13)式より)の関係及び(10)式を用いて、
になる。
一方、潮流速度による速度誤差は対地座標系成分を参照座標系成分に変換すると
になる。
ここでud,vd は参照座標系の潮流速度成分を、dx,dyは対地座標系の潮流速度成分をそれぞれ示す。よって参照座標系速度誤差xe ,ye
で与えられる。
図6は、制御対象のモデルを偏差系で表したものである。
2.保針モード
2.1 制御対象
直線航路航行中における保針モードの設計で用いる制御対象は、参照座標系に対する誤差を扱う偏差系で定めることとする。
船体運動は舵角を入力とし、旋回角速度と斜航角とを出力とするので、そのまま偏差系として利用される。
旋回運動と横滑り運動とは(4)式及び図5を参照すると

になる。ここで、R(s),r:旋回角速度、V(s),v:横方向速度、Δ(s),δ:舵角、Δo(s),δo(δ o≒0):舵角オフセットである。
船体座標系の速度誤差成分u,vは(15)式から得られるが、ψeを微小項として近似し、(11)式を用いると、

になる。ここで、
ψev≒0としている。
これにより、参照座標系の制御対象は、図5、図6、(17)式、(18)式、(19)式、(20)式から、

になる。ここで、Rx(s)、rx、Vx(s)、vx は状態変数であり(図5(b)、(c)参照)、旋回角速度と横滑り速度とは

になる。ここで、
を示す。(23)式と(26)式では、時定数Tsが共通であり、図5(b)、(c)に示したように、同様の構成をとっている。よって、(26)式を消去することにすると、Rx(s)、Vx(s)とは、

となる。ここで、δo ≒0、sΔo≒0と仮定しており、一時遅れ要素を省略しても影響は少ないと仮定している。
よって、横滑り速度V(s)、vは、

と表すことができる。Ts3=Tv3=0とすると、上式は、

となる。(25)式に、(33)式を入力することで、vの次数を減らすことができる。
方位制御系は、航路制御系から干渉を受けないので、方位制御系の制御ループは、単独で構成される。他方、航路制御系は方位制御系から干渉を受ける。
2.2 フィードバック制御
フィードバックゲイン器20を図7Aに示すように、方位制御系フィードバックゲイン器20Aと航路制御系フィードバックゲイン器20Bとから構成する。
船体モデルに状態フィードバックした操舵ループの方位制御系の特性多項式は、方位制御系にのみ関連する項をまとめると、ζh,ωh をそれぞれ操舵系減衰係数と固有周波数とし、Ts3=0とすると、
となり、

となる。Ts3≠0としたときには、
となる。設計パラメータを、比例ゲインKP、減衰係数ζとしたときに、微分ゲインKDと固有周波数ωhとは設計パラメータKP、ζhと同定器によって同定される船体パラメータKs,Ts,Ts3とから一義的に決定される(特開2007−118828号参照)。
次に、航路制御系の特性多項式は、Ts3=Tv3=0とすると、

となる。Dt(s)の開ループ伝達関数を
とすると、根軌跡は図7Bに示すようになる。図7Bから特性根は、Ky =0のとき、根は方位制御系特性根である極(記号×)と原点根とになり、Ky>0 が大きくなると、極にあった根は安定側から不安定側に、原点根は左方向にそれぞれ移動し、実軸でBreak-in point になり左右方向に別れて原点根は左方向にそれぞれ移動した後、Breakaway point から安定側から不安定側に移り、さらにKy >0 が大きくなると、根はゼロ点と左右方向とに向かって移動する、特徴をもつ。
航路ゲインKyを求めるために、特性多項式を、
として定める。ここでatは正の実数を、ζt,ωt はそれぞれ航路制御系減衰係数と固有周波数とを示す。航路制御系の設計パラメータをζt をζt=ζhとして、それぞれの特性多項式の係数を比較すると、

上式を整理すると、ωtに関する3次方程式

を得る。このωtの3つの解に対して、最も小さい正の解を選択すると、図7Bから示されるように、

が成り立つ。即ち、航路制御系固有周波数ωtは、方位制御系固有周波数ωhよりも小さくなる。
航路ゲインKyは、

として得られる。Ts3≠0、Tv3≠0としたときには、

として得られる。
また、フィードバックゲインゲイン器20には、外乱による影響を除去するために修正量として、

が入力される。vd は参照座標系の潮流速度成分である((16)式参照)。
3.推定器
推定器18は、方位誤差の推定を行う方位制御系推定器18A及び航路誤差の推定を行う航路制御系推定器18Bと、潮流ベクトルの推定を行う対地座標系潮流推定器18Cとを備える。
3.1 方位制御系推定器
方位制御系推定器18Aの構成例を図8に示す。この推定器は、波浪モデルと舵角オフセットとを組み込んだものであり、(22)式、(23)式及び検出方位誤差

及びΔ=ΔFB、δ=δFBを用いて、
と表すことができる。ここで、^は推定値を、ki,i=1〜5は推定ゲインを、ξ^は推定状態量を、ψW ^は推定波浪を、δO ^、ΔO ^は推定舵角オフセットを、それぞれ示す。上式を行列で表すと、

となる。ここで、Kh は方位制御系(HCS)の推定ゲインを示し、

であり、

であり、ε は微小項を示す。
この特性多項式は、
に定める。ここでDehは船体モデルの状態推定に、Dehwは波浪モデルの状態推定に、そしてDehoは舵角オフセットモデルの状態推定にそれぞれ対応し、ζeh,ζehwとωeh,ωehw,ωeho とは方位制御系のそれぞれ推定減衰係数と推定固有周波数とで、ζehw,ωehwは、図示しない波浪同定器によって検出方位から同定されるもので、

を示す。ここでωh は方位制御系の操舵系固有周波数((37)式)を、ρeh,ρeho は推定係数で推定速度やパラメータ不確かさに対する許容度から決定され

とする。
特性多項式の根を極配置することにより求める推定ゲインは、

になる。ここで、添字(・)-1 は逆行列を意味し、添字(・)T は転置行列を意味し、

になる。
3.2 航路制御系推定器
航路制御系推定器18Bの構成例を図9に示す。(24)式、(25)式及びΔ=ΔFB、δ=δFBを用い、x^ e =x−x^,y^ e =y−y^とすると、

と表すことができる。上式を行列で表すと、

となる。ここで、Kt は方位制御系(TCS)の推定ゲインを示し、

であり、

であり、ε は微小項を示す。
この特性多項式は、
に定める。ここでζet,ζeto とωet,ωeto とは航路制御系のそれぞれ減衰係数と固有周波数とを

を示す。DTCS の固有周波数を

と定める。ここでωt は航路制御系の操舵系固有周波数((41)式参照)を、ρet,ρeto は推定係数で

と定める((52)式参照)。
特性多項式の根を極配置を実現するように、且つ、対称性を満足するようにすると、推定ゲインKtは、

とおいて

を用いて、推定ゲインを用いた特性多項式を求めると

になる。ここで

を示す。
設計パラメータとして、

を定めると、これより推定ゲインは

として得られる。
3.3 対地座標系潮流推定器
以上に説明したように、航路制御系推定器18Bにおいては、参照座標系の航路誤差xe、yeを用いて対地座標系の潮流成分dx、dyを推定していた。しかしながら、変針中の参照座標系はψRが変化するために、線形に扱うことができない。
対地座標系潮流推定器18Cは、航路変化の影響を受けない対地座標系から潮流成分を推定するために、変針中であるなしに拘わらず、潮流推定を行うことができる。
推定式は対地座標系において、(12)式を基に(8)式を状態量に組み込むことで構成され
になる。ここで、潮流成分は一定と扱い、Kc:推定ゲイン、u^ x,v^ y:(21)式および方位制御系推定器18Aから得られたRx ^ ΔO ^を(33)式に代入することで得られるまたは(34)式で得られる推定値v^をそれぞれ(10)式に代入した値である。
尚、対地座標系潮流推定器18Cにおいても、航路制御系推定器18Bのように偏差系で構成することもでき、その場合、
となる。ここで、uNED,vNED:測地センサのNED系速度である。上式から分かるように、偏差系では、外部NED系速度が新たに必要になり、推定誤差の算出のためx^,y^も必要になり、x^ e,y^ eの計算量も増加する。そのため、偏差系としない方が好ましい。
推定式は(60)式より、x,yに関して干渉せず同形なので、図10に示すように、推定ゲインを

に定める。推定器の特性多項式は

になる。ここでs:ラプラス演算子である。一方、仕様の特性多項式を

に定める。ここでωec,ωeco:推定固有周波数で
と定める。ここでωeh 、ωehoは、方位制御系推定器18Aに用いられる方位制御系の推定固有周波数であり、推定係数ρcの短期時は潮流成分を迅速に推定する際に利用する。上式及び(45)式、(50)式、(54)式、(55)式の関係から、上記推定固有周波数は、航路制御系推定器18Bの推定固有周波数より高い値となり、これにより短期に推定可能である。これは対地座標系潮流推定が船体制御に無関係に実施されるために可能になる。これより推定ゲインは次式になる。
3.4 切替手段
対地座標系潮流推定器18Cの推定潮流ベクトルは常時使用するようにしてもよいが、図2Bにおいて切替手段SW及び図9において切替手段SW1、SW2に示すように、航路制御系推定器18Bで演算される推定潮流ベクトルと、対地座標系潮流推定器18Cで演算される推定潮流ベクトルとを、切り替えて選択するようにしてもよい。切替の条件は、計画航路の直線航路と曲線航路との切替指令、即ち保針モードと変針モードとの切替指令に連動させることができる。
任意には、切替手段を除去し、対地座標系潮流推定器18Cで演算される推定潮流ベクトルを常時使用するようにして、航路制御系推定器18Bにおける推定潮流ベクトルの演算を省略することも可能である。
また任意には、推定潮流ベクトルの切替とは別に、航路制御系推定器18Bと対地座標系潮流推定器18Cから演算されるそれぞれの推定潮流ベクトルを比較することで、モニタ機能を持たせることも可能である。本来であれば、航路制御系推定器18Bと対地座標系潮流推定器18Cとは、座標系及び推定ゲインが異なるだけであるから、同様の推定値となるはずであるが、それぞれの推定潮流成分の差異から、推定値の精度を評価することができる。
4. 変針モード
軌道計画部12は、図11に示すように、誘導システム22から曲線航路の計画航路が指令されると、その旋回条件を求め旋回条件に合致する参照方位ψRを発生する参照方位発生部30と、船体の参照速度を発生する参照速度発生部34と、船体の参照速度を積分して参照位置xR、yRを発生する参照位置発生部36と、推定潮流dx、dyを座標変換して参照座標系の潮流成分を発生する座標変換部40と、潮流に対抗するための斜航角βDを発生する潮流修正部42と、対地速度の修正を行う対地速度修正部44と、船体方位を参照方位ψR+斜航角βDに遅れなく追従させるためのフィードフォワード舵角δFFを出力するフィードフォワード舵角発生部46と、フィードフォワード舵角の修正を行うフィードフォワード舵角修正部48と、を備える。また、旋回条件の中で、舵角設定値δ0についての修正を行って操舵機の飽和状態を回避する舵角設定部28を備える(特願2011−176768参照)。
舵角設定部28は、舵角設定値δ0に対して、以下の式から、参照舵角設定値δ0Rを、
等として求め、参照方位発生部30は、参照舵角設定値δ0Rを超えないように参照方位ψRを求める。ここで、Udは、推定器18から出力される選択された推定潮流成分dx^,dy^を潮流速度成分dx,dyとして、(9)式から求める。
参照方位発生部30から出力された参照方位ψRは、参照速度発生部34において、(14)式に用いられて、参照速度uR,vR が求められる。また、これらを参照位置発生部36で積分することで、参照位置

を得る。
座標変換部40は、推定器18から出力される選択された推定潮流成分dx^、dy^を潮流速度成分dx,dyとして、参照方位発生部30で発生された参照方位ψRを用いて(16)式により、参照座標系の潮流速度成分ud、vdに変換する。
参照座標系における対地速度は、対水速度と潮流速度との和になり、

になる。ここで、u*、v*は参照座標系における速度成分、uD、vDは参照座標系における対水速度成分で、

となる。ここで、βDは斜航角、u、vは図4を参照されたい。
(68)式、(69)式から、βDを微小角として、

と近似する。vは船体座標系の横方向(sway)速度で、旋回時に生じる横方向速度に相当する。
潮流修正部42は、

によって斜航角βDを求める。
潮流成分も含んだ指定旋回角速度r0 *

になる。ここで、SetΔu:速度更新設定値(例えば1knot)、u0 *:前回の値とする。
対地速度修正部44は、(68)式、(71)式、(69)式によって、得られた対地速度u*の変化がΔuを越えると、(72)式に従い、指定旋回角速度r0 *を更新し、対地速度u*と共にそれを参照方位発生部30へと出力する。
参照方位発生部30は、更新された指定旋回角速度r0 *を満足する参照方位ψRを再計算する。その際の変針量は既に変針された方位分を差し引いた量、

になる。ここでψ0 *:変化する指定変針量、Δψ0:計画航路の変針量、Δψ’R:既に変針された方位量である。
従って、例えば、変針中に潮流が変化することに起因して、対地速度u*が変化して(72)式の括弧中の条件が成り立つ場合には、対地座標系潮流推定器18Cによって演算される対地座標系の推定潮流成分dx^,dy^を潮流速度成分dx,dyとして、(9)式を用いて(67)式が改めて求められ、参照方位発生部30で参照方位ψRが順次求められる。
フィードフォワード舵角発生部46は、計画航路に船体航路を追跡させるための、参照舵角δRと、潮流の斜航角に対応する潮流舵角δDを求める。(4)式から、

により得られる。
潮流の斜航角βDは、(71)式、(16)式に示されるように、閉ループ系のフィードバック制御部16内にある推定器18から得られる推定潮流成分d x^、d y^から求まるので、参照方位ψRに加算して、軌道航路誤差演算部14に出力すると、マイナーループが構成されて、制御系特性が変化してしまう。よって、βDは前方に帰還できないので、フィードフォワード舵角修正部48によって、後方で修正する。フィードフォワード舵角修正部48は、フィードフォワード舵角発生部46で得られたフィードフォワード舵角に対して、潮流の斜航角βDに対してフィードバックゲインGFBを掛けたものを修正フィードバック舵角として、加算して修正する。
変針中、フィードフォワード舵角修正部48で修正された指令舵角であるフィードフォワード舵角δFFと、フィードバック制御部16からの指令舵角であるフィードバック舵角δFBとは加算器17で加算されて指令舵角δCとなり船体24の操舵機へと出力される。
変針中、座標変換部40には、推定器18の対地座標系潮流推定器18Cで求められた推定潮流成分dx^,dy^が提供されるために、変針中に潮流変化が生じたとしても、その潮流変化が反映されるために、軌道計画部12からより正確なフィードフォワード舵角を出力することができる。
5.検証
以上、本発明の潮流の推定を用いて、曲線航路航行中に、従来の対地座標系潮流推定器18Cを備えない従来構成における推定潮流ベクトルが一定値でなく、対地座標系潮流推定器18Cによって演算した推定値で制御を行う。その潮流推定を用いて、曲線航路を航行した場合の効果を数値計算によって検証する。検証は次の項目について実施する。
計算条件を示す。
・船体パラメータ:Ks = 0.027[1/s]、Ts =17.54[s]、Ts3 = 0.1[s]、U = 20[knot]
・操舵機:最大FF舵角30[deg]、舵速度2[deg/s]、旋回:半径1[NM]、旋回角100[deg]
・潮流印加:
計算結果を表1にまとめる。
以上表より、次の項目における本発明の有効性が確認された。
1.潮流が印加しない、あるいは一様な潮流が印加する場合、本発明の航路誤差および最大舵角は従来とほぼ同等かそれ以下である
2.CTの途中から一様な潮流成分が印加する場合、本発明の航路誤差は従来のものより過渡応答の改善(航路誤差のピーク値減少、静定時間の短縮)が図られる
10 船舶用自動操舵装置
12 軌道計画部
14 軌道航路誤差演算部
16 フィードバック制御部
18 推定器
18A 方位制御系推定器
18B 航路制御系推定器
18C 対地座標系潮流推定器
20 フィードバックゲイン器
24 船体

Claims (6)

  1. 船体の参照方位及び参照位置を出力する軌道計画部と、センサで検出された船体の方位及び位置から船体の方位と位置とを参照方位及び参照位置に追跡させるべく指令舵角を出力するフィードバック制御部と、を備えた船舶用自動操舵装置において、
    前記フィードバック制御部は、方位、航路及び潮流ベクトルの状態量の推定値を求める推定器と、推定器から出力される状態量の推定値に対してフィードバックゲインを作用して指令舵角(δFB)を出力するフィードバックゲイン器とを備えており
    前記推定器は、方位に関する推定を行う方位制御系推定手段と、航路に関する推定を行う航路制御系推定手段と、対地座標系での潮流ベクトルの推定を行う対地座標系推定手段と、を備え、対地座標系推定手段は、センサから得られた船体の方位(ψ)及び対地座標系における船体の位置(x,y)から、参照方位を用いずに推定潮流ベクトル(dx^,dy^)を算出し、該推定潮流ベクトルを対地座標系における船速及び横方向速度により補正することを特徴とする船舶用自動操舵装置。
  2. 前記横方向速度は、方位制御系推定手段で得られる推定旋回角速度の関数として求められることを特徴とする請求項1記載の船舶用自動操舵装置。
  3. 前記軌道計画部は、変針中に、前記対地座標系推定手段で演算された推定潮流ベクトルを用いて、参照方位に従う指令舵角(δFF)を出力することを特徴とする請求項1または2に記載の船舶用自動操舵装置。
  4. 前記航路制御系推定手段は、参照座標系における航路偏差から潮流ベクトルを推定しており、前記航路制御系推定手段で演算された推定潮流ベクトルと、前記対地座標系推定手段で演算された推定潮流ベクトルとのいずれかが選択されて状態量の推定値とされることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載の船舶用自動操舵装置。
  5. 少なくとも変針中に対地座標系推定手段からの推定潮流ベクトルが選択されることを特徴とする請求項4記載の船舶用自動操舵装置。
  6. 前記航路制御系推定手段の特性多項式の固有周波数よりも、前記対地座標系推定手段の特性多項式の固有周波数が高く設定されることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項に記載の船舶用自動操舵装置。
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