JP5052165B2 - 船舶用自動操舵装置 - Google Patents

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Description

本発明は、航路制御系の船舶用自動操舵装置に関し、方位制御系を基本にした航路制御系のフィードバック制御系を持つ船舶用自動操舵装置に関する。
船舶用自動操舵装置は、舵角を制御して設定方位に船首方位を追従させる方位制御系(Heading Control System HCS)と、計画航路に船体位置を追跡させる航路制御系(Tracking Control System TCS)とに分けられる。方位制御系の場合は、潮流などによる船舶の移動のために針路修正を必要とするが、航路制御系の場合は針路修正が不要になる。
一般的に航路制御系の船舶用自動操舵装置は、図1に示すように参照信号発生器12、軌道航路誤差演算器14、フィードバック制御器16及び加算器17を備える。計画航路に基づき参照信号発生器12が出力する参照方位ψRと参照位置xR、yRと、センサから検出される方位ψと位置x、yとの誤差を軌道航路誤差演算器14で求め、その誤差から保針時にフィードバック制御器16が、船体の方位と位置とを追跡させるべくフィードバック舵角δFBを出力する。フィードバック制御器16は、図2に示すように、推定器18と、フィードバックゲイン器20とからなる。
航路制御系では、航路誤差を直接制御できるアクチュエータを利用しないで船首方位を媒介にして間接的に制御するので劣駆動系である。
このフィードバック制御器の設計にあたっては、次数が大きいために、非特許文献1,2では、LQGベースで代数リカッチ式に帰着させている。このような方法による設計は全体を見通して行なわれるので解の信頼性が高い半面、閉ループ特性は定性的な把握になり、制御対象の特性を把握しないで、直接的に解を求めているので、制御対象に最適な解であるかは不明である。
例えば、非特許文献2では、船体は操舵によって船体横方向に対水の反力による横滑り速度を発生させるが、従来提案されている設計では、この横滑り速度を積極的に考慮して設計に反映させていない。そのため、横滑り速度が閉ループ系を不安定にして発散する原因になるおそれがある、という問題がある。
一方、本願発明者は、特許文献1、非特許文献3で方位制御系の設計方法を提案している。航路制御系は、基本的に、方位制御系に船体と潮流による横方向位置制御を加えたものであるから、方位制御系の性能は、かなりの部分で方位制御系の性能(方位安定性,外乱除去性など)に依存すると考えられる。
Fossen, T. I., Marine Control Systems, Marine Cybernetics AS, 392/394(2002) Zwierzewicz, Z, On the Ship Guidance Automatic System Design via LQG-Integral Control, Manoeuvring and Control of Marine Craft 2003, IFAC. 羽根,不確かさパラメータの下で閉ループ系代表根の減衰係数を設定する推定器設計,第34回制御理論シンポジウム,211/214(2005) 特開2006−44411号公報
そこで、本発明の目的は、特許文献1で開示する方位制御系のフィードバック制御系を基礎にして、航路制御系のフィードバック制御系の設計を行うことにより、閉ループの定量的把握ができる船舶用自動操舵装置を提供することである。
かかる目的を達成するために、本発明の請求項1に記載の発明は、船体の参照方位及び参照位置を出力する参照信号発生器と、該参照信号発生器からの参照方位及び参照位置と、センサで検出された船体の方位及び位置から方位誤差及び位置誤差を演算する軌道航路誤差演算器と、該方位誤差及び位置誤差から指令舵角を出力するフィードバック制御器とを備え、該出力される指令舵角によって船体の方位と位置とを追跡させるべく操舵を行わせる船舶用自動操舵装置において、
フィードバック制御器は、横方向の位置誤差(ye)に対して航路ゲイン(Ky)を乗算し、方位誤差(ψe)に対して比例ゲイン(Kψ)と微分ゲイン(Kr)を乗算し、これらから
Figure 0005052165
によって決められる指令舵角δFBを出力しており、その場合において、上式の特性多項式を
Figure 0005052165
とおき、λy=0としたときの特性多項式から決定される方位誤差(ψe)に対する比例ゲインKψと微分ゲインKrを用い、さらに、
Figure 0005052165
を満足するωyから決定される航路ゲインKを用い、その際に、
Figure 0005052165
の関係を用い、(5)式の右辺第1項Pyψeは、舵をとることによって生じる横滑り速度に依存して発生する位置誤差の項とする、ことを特徴とする。
請求項2に記載の発明は、請求項1記載の前記Ps、Pyが、
Figure 0005052165
と表されることを特徴とする。
請求項3に記載の発明は、請求項2記載の前記ωyが、
Figure 0005052165
の解の1つであり、航路ゲインKyは、
Figure 0005052165
から求めることを特徴とする。
請求項4に記載の発明は、請求項3記載の前記ωyが、(8)式の4つの解のうちの負の解と最大の正の解を除き、残りの2つの解のうちの小さい解であることを特徴とする。
本発明によれば、舵角を制御して設定方位に船首方位を追従させる方位制御系を基礎として、その上に航路制御系を構築しているので、設計工数を削減することができると共に、閉ループの安定性の定量的把握を行うことができるようになり、閉ループの安定性を確保するための適正なゲインの設定を行うことができる。
また、方位制御系の上に航路制御系が成り立っているために、方位制御系と航路制御系との間の動作切換が容易にできる。よって、仮に、センサからの位置が得られない状況になれば、速やかに、方位制御系に切り換えることができて、動作切換による不連続現象を回避することができる。
以下、図面を用いて本発明の実施の形態を説明する。
図1は、船舶用自動操舵装置と制御対象の全体のブロック図である。既述のように、船舶用自動操舵装置10は、計画航路に船体位置を追跡させるために舵を制御する装置であり、参照信号発生器12、軌道航路誤差演算器14、フィードバック制御器16、加算器17及び各パラメータを同定する図示しない同定器を備えている。誘導システム22から計画航路及びセンサ類26のスピードログから船速Uが参照信号発生器12に入力され、参照信号発生器12からは参照方位ψR、参照位置xR、yR及び旋回時にはフィードフォワード舵角δFFが出力される。
軌道航路誤差演算器14には、ジャイロコンパスからの船首方位ψ、GPS等からの船体の位置(x,y)といったセンサ類26からの検出信号が入力され、軌道航路誤差演算器14は、前記参照方位ψR、参照位置xR、yRとの比較を行い方位誤差と位置誤差(航路誤差ともいう)を出力する。
船舶用自動操舵装置10の閉ループ系は図1に示すように船体モデルと外乱モデルとからなる制御対象24と、フィードバック制御器16とから構成される。
フィードバック制御器16は、図2に示すように、推定器18とフィードバックゲイン器20とからなる。軌道航路誤差演算器14からの航路誤差は、推定器18において、外乱が除去された推定航路誤差(推定方位誤差、推定位置誤差)が算出され、フィードバックゲイン器20でフィードバックゲインを乗じて指令舵角であるところのフィードバック舵角δFBを操舵機に出力する。操舵機は指令舵角に比例した舵角を動かすため、船体は舵角によって旋回角速度を生じ方位、位置が変化する。旋回角速度の発生と共に、本発明の航路制御系の設計で重要な斜航角即ち横滑り速度(横滑り角)が発生する。
1.運動方程式
1.1 座標系
航路制御系で用いる座標系は、図3に示すように、以下の座標系から構成する。
・対地系:緯度経度座標系で、GPSからの位置出力(x、y)に相当する。
・参照系:対地座標系で、誘導システム22により生成され指定された対地航路の位置と針路(即ち、計画航路)とからなる。
・船体系:運動座標系で、船体の重心を原点とし、船首方位をX軸とし、船体運動を定める。
尚、座標系の回転極性は右ネジ方向を正とし、Z軸方向は重力方向を正とする。座標系はX軸、Y軸の2次元を用いる。
図4に示すように、操舵時に旋回角速度と共に発生する横滑り速度vは、v=−Usinβ≒−Uβ(β:横滑り角))と表される。
軌道航路誤差演算器14で算出される位置誤差と方位誤差(添字e)は図3より参照系に対する対地系の位置x,yおよび方位ψの誤差を表し
Figure 0005052165
になる。xe、yeは船体重心GからXR、YR軸にそれぞれ垂線を下ろした距離に、ψeは偏差に相当する。航路制御系は、前進方向の位置誤差xeは制御せず、横方向の位置誤差yeを制御するものとする。よって、センサからの位置x、yの更新の度に、参照位置の更新は、航路誤差xe=0にする航路誤差yeと方位誤差ψeとを保持する。参照信号発生器12における直線航路の更新は、
Figure 0005052165
を満たすxR、yRを求めることになる。
1.2 船体の運動方程式
前記制御対象である船体モデルを定めるために、船体の運動方程式を導出する。船体の運動方程式は、前進方向を除き、横方向と方位軸回りとの運動を扱うので、
Figure 0005052165
を用いる。ここで、Mx、Myは、それぞれx、y方向の付加質量を含んだ質量を、Izはz軸回りの付加慣性モーメントを含んだ慣性モーメントを、Y、Nはそれぞれy方向の流体力、z軸まわりの流体モーメントを示す。’は時間微分を表し、添字は対応する変数を意味する。変数U、v、r、δはそれぞれ前進速度、横滑り速度、旋回角速度、舵角を表す。
(15)式を整理すると、
Figure 0005052165
になり、ラプラス変換すると(sはラプラス演算子を示す)、
Figure 0005052165
になる。ここで、横滑り速度と旋回角速度とが舵角を入力とした関係で結ばれる。舵加速度δ”(t)≒0とし、(3)式を整理すると、
Figure 0005052165
を得る。ここで、
Figure 0005052165
Figure 0005052165
とおいている。
(18)式より、横方向の横流れ速度とヨー軸回りの旋回角速度との運動方程式は同一の形でかつ舵角による入力係数が異なるだけである。ここで、特許文献1で利用する方位制御系における船体モデル、
Figure 0005052165
を参照し(KsとTs 、Ts3は操縦性指数で旋回力ゲインと2つの時定数)、(18)式において、実用的見地からs項による影響は無視できるためにs項を省略する。また、船舶用自動操舵装置は、舵角を通して制御量を入力するので、制御変数は角度単位の方が都合がよいため、横滑り速度vを横滑り角βに変換すると、制御対象の船体モデルが
Figure 0005052165
として導出される。ここで、
Figure 0005052165
を示す。(23)式から航路制御系の船体モデルは、方位制御系のそれに横滑りゲインKβと時定数Tが新たに追加されている。(22)式から横滑り角βと旋回角速度rとの関係を求めると、
Figure 0005052165
となる。つまり、横滑り角βは、旋回角速度rにゲインKβ/Ksによってほぼ比例することが分かる。
(15)式はテーラー展開で1次の項までを考慮しているが、大きな変針角や旋回角速度に対応するためには、非線形項までを考慮する必要がある。その場合には、(22)式の運動方程式は、
Figure 0005052165
とするとよい。ここでαsは非線形係数であり、前記同定器によって与えられる。
1.3 位置の運動方程式
船体の位置は船体運動と潮流速度とからの対地速度を積分することで求めることができる。船体速度は対水速度を基に前進速度uと横流れ速度vとからなり、潮流速度は大きさと方向から定める。
船体運動は舵角δを取ると角速度r=ψ’を生じるが、同時に横流れ速度v=y’も生じる。その様子を図4を用いて説明する。同図のように定常に旋回しているときまたは参照系が接線方位に一致しているとき、船体系は横すべり角βだけ内側に傾いて釣り合う。このとき船体速度の対地速度成分は
Figure 0005052165
になる。船体速度と横滑り角との関係は、
Figure 0005052165
を用いる。
潮流速度は大きさUTと方向ψTとによって、
Figure 0005052165
になる。この潮流速度による横滑り角βTは船体系に変換すると、
Figure 0005052165
になるから
Figure 0005052165
を得る。船体速度と潮流速度とを合わせた対地速度は、
Figure 0005052165
になる。
対地系の位置と方位は、それぞれ速度Uと角速度rとを積分して、
Figure 0005052165
を得る。
2.制御対象
制御対象は、非線形項αsを無視して線形化すると、図5に示すように、(24)式から得られる船体モデルと、外乱モデルとからなるものとする。外乱モデルはδo、ψw、uTx 、uTyで、δoは風等による方位軸回りのモーメントの舵角換算したオフセット成分を、ψwは白色ノイズνの入力によるフィルタ出力(中心周波数ωw、減衰係数ζw)で近似した波浪成分を、uTx,uTyは潮流によるそれぞれ北向き,東向きの対地速度を示す。
軌道航路誤差演算器14によって得られる航路誤差は参照方位ψRおよび参照位置xR,yRに対するものだから、制御対象は偏差系になり、図5におけるψを方位誤差ψe=ψ−ψRにx,yを位置誤差xe,eにそれぞれ置き換えると、ψeは微小角として扱え、sinψe≒ψe、cosψe≒1が成り立つ。航路制御系は船首方向のxeを無視し、横方向のyeをゼロに収束させるように作用するので、偏差系の制御対象は、図6に示すように表すことができる。ここで、βoを潮流による船体横方向速度の横滑り角換算したオフセット成分としている。
ここで、旋回角速度rと横滑り角βとの関係は、(22)式を用い、また、rx=Ks/(Tss+1)δ(図5(b)参照)を用いると、
Figure 0005052165
となり、航路誤差yeの時間微分ye’は、
Figure 0005052165
となる。ここでCK=Kβ/Ksとおいている。
(21)式、(26)式から、次の式が成り立つ。
Figure 0005052165
外乱成分を除くと、
Figure 0005052165
となり、Ts3,Tβ3を省けば、航路制御系の制御対象は、2次の方位誤差系と1次の航路誤差系との3次系になる。
3.フィードバック制御
上記3次系の制御対象に対して、フィードバックゲイン器20を図7に示すように構成する。同図において、Kyは航路ゲイン、KrとKψとは方位制御系におけるそれぞれ微分ゲインと比例ゲインとすると、
Figure 0005052165
になる。(30)式に(29)式を代入して書き換えると、
Figure 0005052165
になり、上式より特性多項式に相当する項を展開して、方位制御系にのみ関連する項をまとめると、特性多項式λは、
Figure 0005052165
になる。ここで、γ=1/(1+Krs3s/Ts)を示す。(31)式の右辺の第1項の(s2+2ζωns+ω2 n)は、航路ゲインKyを考慮しない方位制御系における閉ループの特性多項式であり、ωn、ζはその固有周波数、減衰係数を示す。この減衰係数ζ及び固有周波数ωnは、比例ゲインKψ及び微分ゲインKrとの関係を定めることができる。よって、設計パラメータを例えば比例ゲインKψ、減衰係数ζとしたときに(例えばKψ=1,ζ=0.9)、微分ゲインKrと固有周波数ωnとを設計パラメータKψ、ζと同定器によって同定される船体パラメータKs,Ts,Ts3とから一義的に決定することができ(非特許文献3,特願2005−315135参照)、
Figure 0005052165
として得られる。(31)式の右辺の第2項は、横滑り角に起因した項である。簡略化のためTs3=Tβ3=0としたときの(1−Cs)は閉ループ系を不安定方向に導くため、安定性を確保するように、残りのゲインKyを決定する必要がある。
そのためゲインKyの閉ループ系に与える影響を調べるために、簡単化のためTs3=Tβ3=0とおき、(31)式の特性多項式を開ループ伝達関数で表すと、
Figure 0005052165
になる。ゼロ点は不安定根s=+1/CKに、極は原点と安定な方位制御系の極との3根になる。ゼロ点は横滑り角特性に起因したもので、航路ゲインを大きくすると根がゼロ点に近づくため閉ループが不安定になり発散する(ヨーイング発生)原因になる。
根軌跡の例を図8に示す。ここで、条件はU=20[knot],Ks=0.027[1/s],Ts=17.54[s],CK=30[s]、ωn=0.039[rad/s],ζ=0.9としている。開ループ伝達関数と3次方程式との性質から特性根は
1.Ky=0のとき、根は極(記号×)である方位制御系の共役根と原点根とになり、
2.Ky>0が大きくなると、共役根は実軸に向かいBreak-in point になった後左右方向に別れ、原点根は左方向に移動した後共役根から派生した右方向の根とBreakaway pointで重なり共役根になり、
3.さらにKy>0が大きくなると、方位制御系の共役根から派生した左方向の根はさらに左方に移動し、Breakaway point からの共役根は原点とゼロ点との回りを円弧状に移動した後、正の実軸でBreak-in point になり左右方向に別れる、
という特徴を持つ。
3.1 航路ゲインの求解
以上の航路ゲインKyの影響を踏まえて、航路ゲインKyを決定する。
閉ループの特性多項式λは前述の(31)式で表される。一方、設計仕様の特性多項式は
Figure 0005052165
として定める。ここでaは正の実数を、ζyyはそれぞれ減衰係数と固有周波数とを示す。航路制御系の設計パラメータをζy として、a,ωy,Kyを求める。閉ループと仕様とのそれぞれの特性多項式の係数を比較すると
Figure 0005052165
になる。整理すればωyに関する4次方程式
Figure 0005052165
を得る。ωyの4次と1次との係数は負になり、0次の係数は正になるので、少なくとも上式の根のひとつは負になっている。上記(36)式のωyは代数解法で解けるから、解いたωyを用いて、
Figure 0005052165
が順次求まる。
(36)式のωyの4次式のうち、微小項Ts3,Tβ3に関連する高次の近似解はCK>Ts3を用いて
Figure 0005052165
になり、(36)式の解の中で最大値に相当し、すぐに減衰する特性を示す。そのため、特性多項式の特性は4次式から微小項を除いた3次式が支配的になる。ωyを前述したTs3,Tβ3を省いた3次の開ループ伝達関数の特性を利用して決め、設計パラメータζyは所定値、例えば、1/√2≦ζy≦1からζy=0.9と決める。
s3,Tβ3を省いた3次系の特性多項式の根軌跡は図8に既に示した通りである。同図において大きさの異なる3つの黒丸は、(36)式でTs3,Tβ3を省いた
Figure 0005052165
を解いたときの3つのωyにそれぞれ対応している。ωyの3根はζy=0.9より異なる実根となり、(35)式から特性根の共役根は、
Figure 0005052165
と表されるから、ωyの3根は、図8の原点と共役根との距離に対応する。(40)式は負の係数を持つため、解の1つは負になり図8において最大の黒丸の共役根に相当し除外される。残りの2つのωyの解において、大きい方の解は図8の最小の黒丸の共役根、小さい方は中間の黒丸のそれぞれ共役根に相当する。それぞれの場合の閉ループの代表根は、大きい方の解の場合は原点に近い負の実根(厳密には原点になるが僅かに左方にあるとする)になり、小さい方の解の場合が共役根になる。代表根は閉ループの安定性応答性の見地から原点から離れた根が望ましいので、図8の中間の黒丸に対応する小さい方のωyを選ぶこととする。
以上の手順をまとめると、(36)式のωyから航路ゲインKyを求める手順は
1.(36)式の4つの解の中から負の解と最大の正の解を除いた解を求める
2.残りの2つの解から小さい解を正解として選び、(37)式、(38)式を用いてそれぞれ実根aと航路ゲインKyとを求める
とする。
フィードバックゲイン器20は、同定器で各係数CK、Tβ3、Ts3、ωnが与えられる毎に、(36)式の解を解き、上記手順にて決定された航路ゲインKyにて指令舵角を出力する。
3.2 船速の変化
船速が変化した場合の航路ゲインKyの様子を検討する。船体運動の横方向速度は対水速度(船速)Uに比例するため、船速が変化したらKyはUと連動させて適切に更新させる必要がある。速度変化をUとすると、船速変化に対する船体パラメータは、
Figure 0005052165
がほぼ成立するとする。Ts3,Tβ3を省くと、(31)式は、
Figure 0005052165
となる。航路ゲインの安定限界を求めると、閉ループの根が虚軸上より左側にある条件を与えるためのHurwitzの安定判別法を用いると、
Figure 0005052165
になる。数値例を挙げると、ζ=0.9、ωn=0.05[rad/s]、CK=30[s]、U=10[m/s]、速度変化U*=10、5[m/s]のとき、それぞれ、Ky=2.43、3.83[rad/m]になる。速度が10から5[m/s]に低下すると、航路ゲインKyは、1.6倍にする必要がある。
3.3 外乱による誤差と対策
外乱入力となる舵角オフセットδoと横滑り角オフセットβoについて考慮する。外乱入力に対しては、航路誤差の定常値を求め、その誤差を修正するようにする。平均値がゼロであるψwを省き、定常値に影響しないTs3,Tβ3をそれぞれゼロとする。フィードバック舵角に修正量αを追加すると
Figure 0005052165
になる。このとき舵角オフセットδoと横滑り角オフセットβoとの外乱入力に対する航路誤差yeは、(44)式、(27)式、(28)式から
Figure 0005052165
になる。一定値の外乱入力δo=δo(0)/s,βo=βo(0)/sに対する定常値は
Figure 0005052165
を用いて
Figure 0005052165
になる.ここで(0)は一定値を意味する。yeをゼロにする修正量はα(0)=−δo(0)−Kψβo(0)になるから
Figure 0005052165
として導ける。したがって外乱成分δo(s),βo(s)を推定器18によって推定し、(44)式のフィードバックによって、外乱成分に起因した航路誤差は相殺することができる。
また修正量を実施した方位誤差は
Figure 0005052165
になり、定常誤差はψe(t=∞)=−βo(0)になる。このことは、方位誤差は舵角オフセット成分による誤差を生じないが、潮流に起因した横滑り角オフセット成分の逆の角度だけ誤差を生じることを意味する。すなわち船首方位ψが参照方位ψR基準から見ればβoの逆方向に針路を取ることで、船体の横方向におけるβo成分と傾けたψとが相殺する関係になることが分かる。
数値例を挙げると、Kψ=1、Ky=0.0007 [rad/m]=0.04[deg/m]とすると、β(0)=10[deg]のときy=250[m]になり、δo=3[deg]のときy=75[m]になる。
4 推定器
次に、推定器18の構成について説明する。まず、特許文献1で開示する方位制御系の5次推定器について説明し、次に、その5次推定器に基づき、航路制御系の推定器を構成することを考える。
4.1 方位制御系の5次推定器
方位制御系の5次推定器の構成例を図9の上段に示す。この推定器は、波浪モデルと舵角オフセットとを組み込んだものであり、
Figure 0005052165
を用いて、
Figure 0005052165
になる。ここで、ki,i=1〜5は推定ゲインを、
Figure 0005052165
は推定状態量を、
Figure 0005052165
は推定波浪を、
Figure 0005052165
は推定舵角オフセットを、それぞれ示す。波浪モデルの固有周波数、減衰係数ωwn、ζwnは、図示しない波浪同定器によって、検出方位ψから同定されるものである。
特性多項式を
Figure 0005052165
に定める。ここでλeは船体モデルの状態推定に、λewは波浪モデルの状態推定に、そしてλeoは舵角オフセットモデルの状態推定にそれぞれ対応する。
ζeは船体モデルのみを考慮して設計したものであり、1/√2と設定され、ζewは、ζeと等しく設定される。
また、波浪モデルが無い(λew=1)としたときの推定器の船体パラメータに対する感度が、波浪モデルが有るときの推定器の船体パラメータに対する感度とほぼ等しくなるときの、ωe=ωwn(ωwn:波浪モデルの固有周波数である波浪周波数を表す)を満足するときのωeの値をωx、ωe=ωwnを満足しないときのωeの値をωzとしたときに、波浪周波数ωwnがωxよりも大きいときには、固有周波数ωeをωzに設定し、固有周波数ωewを波浪周波数ωwnと等しく設定し、波浪周波数ωwnがωx以下のときには、固有周波数ωeをωxに設定し、波浪周波数ωwnを修正の波浪周波数ωwn *=ωxに修正し、固有周波数ωewを修正の波浪周波数ωwn *と等しく設定する。
前記ωx及びωzは、
Figure 0005052165
の解とすることができる。
特性多項式の根を極配置することにより求める推定ゲインL=[k12345T は、
Figure 0005052165
になる。ここで、添字(・)-1 は逆行列を意味し、添字(・)T は転置行列を意味する。
Figure 0005052165
になる。
4.2 航路制御系の制御対象
制御対象を方位制御系と航路誤差系とに分割したブロック行列で表現すると、
Figure 0005052165
になる。ここで
Figure 0005052165
を用いて
Figure 0005052165
を示す。(25)、(26)式から
Figure 0005052165
Figure 0005052165
を利用する。
4.3 推定ゲイン
航路誤差系を含めた推定器18の固有値または特性多項式は7次になる。この7つの根を極配置するための推定ゲインを定める。未知数の7×2行列の推定ゲインは特性多項式の7つの係数方程式によって求めることになるが、方程式の数より未知数が多いので不定状態になる。そこで、図9に示したように、前述したブロック行列を用いて航路制御系の推定器を方位制御系の推定器相当部分と航路誤差系の推定器相当部分とに分離して、極配置する推定ゲインを設計する。航路制御系の7次の極配置において、既に特許文献1において方位制御系の5次相当部分は設計されているから、航路誤差系の2次の極配置を設計すればよいことになる。
推定器の構成は(52)式、(53)式から2入力1出力7状態量の系で
Figure 0005052165
になる。ここでLは7×2行列の推定ゲインを,
Figure 0005052165
はXの推定状態量を示す。推定器の固有値を求めるために
Figure 0005052165
を定める。ここでsはラプラス演算子を、Iは適当な次数の単位行列を示す。特性多項式は上式より
Figure 0005052165
になる。ここで、上式のdet(λ11)は(50)式で表した方位制御系の特性多項式を表し
Figure 0005052165
である。(51)式に示すように、推定ゲインL11(5×1)は導出されている。det(λ22−λ21λ11 -1λ12)が方位制御系に追加された項に相当し、λ21、λ12は余剰な係数行列と見なせる。つまりdet( λ22−λ21λ11 -1λ12)の極配置の必要十分あるいは必要最低限はsを含むdet(λ22)によって構成することができる。λ21λ11 -1λ12=O(2×2)を満足するための条件はL12=O(5×1)になり、そのときλ12=O(5×2)になる。この際λ21は任意になるので、L21(2×1)の選びかたも任意になる。ここでOはゼロ行列を示す。すなわちL21(2×1)は極配置に何らの影響も与えないので、L21=O(2×1)を設定する。これより(59)式は
Figure 0005052165
に定まる。よって、航路制御系の極配置は方位制御系のそれとdet(λ22)とになり、推定ゲインは
Figure 0005052165
のように対角化される。ここでL11は方位制御系の推定ゲインを、L22
Figure 0005052165
を推定するための推定ゲインを示す。
Figure 0005052165
は推定位置誤差である。L22 はdet(λ22) の根を極(-ωey,-ωeo)、つまり
Figure 0005052165
に配置させるように設計する。ここでωnは方位制御系の操舵系の固有周波数を、ρy、ρyoは推定係数と呼ぶもので推定速度やパラメータ不確かさに対する許容度から決定され、ρy=ρ、ρyo=ρoとする。ここでρ、ρoは方位制御系のものを設定する。
即ち、推定係数ρは、ωeと操舵系の固有周波数ωnとの間で、
Figure 0005052165
によって設定する。ρの設定は閉ループ安定性を満足する適切な値に選択され、1より大きく、例えば、3〜6程度に設定するとよい。
また、推定係数ρoは、推定舵角オフセットの推定係数であり、舵角オフセットの固有周波数ωeoと操舵系の固有周波数ωnとの間で、
Figure 0005052165
によって設定する。舵角オフセットの時間変化を考慮して、1未満、例えば、0.1程度に設定する。
det(λ22)は極配置と比較すると
Figure 0005052165
になり、推定ゲイン
Figure 0005052165
として決定される。従って、推定器18の特性多項式は、
Figure 0005052165
になる。
5 まとめ
以上説明したように、本発明では、閉ループの安定性に影響する横滑り特性を含んだ実用的な制御対象を提案し、フィードバック制御の構成を示し、航路ゲインを決定した。
そして、ブロック行列を用いて、2次の固有値を設定するだけで、構成される航路制御系における推定器を提案した。
基本的に方位制御系を基礎に、航路制御系の設計を行っているために、設計工数を削減することができ、また、航路制御系と方位制御系との間での動作切換による不連続減少の防止をすることができる。
本発明による船舶用自動操舵装置の全体構成を表すブロック図である。 フィードバック制御器の構成を表すブロック図である。 航路制御系で用いる座標系を表す説明図である。 舵を取ったときに発生する横流れ速度を表す説明図である。 制御対象のモデルを表すブロック図である。 制御対象のモデルを偏差系で表したブロック図である。 フィードバックゲイン器の構成を表すブロック図である。 s3=Tβ3=0とおいたときの特性多項式の根軌跡を表す図である。 推定器のブロック図である。
符号の説明
10 船舶用自動操舵装置
12 参照信号発生器
14 軌道航路誤差演算器
16 フィードバック制御器
18 推定器

Claims (4)

  1. 船体の参照方位及び参照位置を出力する参照信号発生器と、該参照信号発生器からの参照方位及び参照位置と、センサで検出された船体の方位及び位置から方位誤差及び位置誤差を演算する軌道航路誤差演算器と、該方位誤差及び位置誤差から指令舵角を出力するフィードバック制御器とを備え、該出力される指令舵角によって船体の方位と位置とを追跡させるべく操舵を行わせる船舶用自動操舵装置において、
    フィードバック制御器は、横方向の位置誤差(ye)に対して航路ゲイン(Ky)を乗算し、方位誤差(ψe)に対して比例ゲイン(Kψ)と微分ゲイン(Kr)を乗算し、これらから
    Figure 0005052165
    によって決められる指令舵角δFBを出力しており、その場合において、上式の特性多項式を
    Figure 0005052165
    とおき、λy=0としたときの特性多項式から決定される方位誤差(ψe)に対する比例ゲインKψと微分ゲインKrを用い、さらに、
    Figure 0005052165
    を満足するωyから決定される航路ゲインKyを用い、その際に、
    Figure 0005052165
    の関係を用い、(5)式の右辺第1項Pyψeは、舵をとることによって生じる横滑り速度に依存して発生する位置誤差の項とする、ことを特徴とする船舶用自動操舵装置。
  2. 前記Ps、Pyは、
    Figure 0005052165
    と表されることを特徴とする請求項1記載の船舶用自動操舵装置。
  3. 前記ωyは、
    Figure 0005052165
    の解の1つであり、航路ゲインKyは、
    Figure 0005052165
    から求めることを特徴とする請求項2記載の船舶用自動操舵装置。
  4. 前記ωyは、(8)式の4つの解のうちの負の解と最大の正の解を除き、残りの2つの解のうちの小さい解であることを特徴とする請求項3記載の船舶用自動操舵装置。
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