以下、本発明の実施形態について図面を用いて詳細に説明するが、まず、本発明が適用される乗客コンベアについて図1を用いて説明する。尚、以下に説明する乗客コンベアは踏み板が階段状に変化する乗客コンベア(いわゆるエスカレータ)であるが、これ以外に踏み板が平板状に移動する電動道路にも適用可能である。
図1において、乗客コンベア1は建築物の下階床面2と上階床面3を上下に跨ぐように設置されており、下階床面(一方の床面)2と上階床面(他方の床面)3には図示しない乗降床が設けられている。そして、下階床面2と上階床面3を上下に跨ぐ枠体4内にはチェーン等によって無端状に連結された複数の踏み板5が上階床面3と下階床面2との間を斜め上方、或いは斜め下方に循環移動する構成となっている。尚、電動道路の場合は、上階、下階ではなく、同じ階床となる。
無端状に連結された複数の踏み板5の進行方向に沿って踏み板5の左右両側には一対の欄干6が立設されている。また、これら一対の欄干の上部には踏み板5と同期して走行するハンドレール7がそれぞれ配設されている。更に、枠体4の内部には踏み板5やハンドレール7を駆動する駆動機や、踏み板の移動を案内する踏み板レール、制御盤等が配設されている。
枠体4の長手方向の両端(上階側及び下階側の端部)には、それぞれ枠体4を支持する下階枠体支持アングル8及び上階枠体支持アングル9が設けられている。これらの枠体支持アングル8、9は枠体4の長手方向の両端から枠体4の長手方向外側へ突出するように枠体4に固定されている。そして、下階枠体支持アングル8は下階床面2に形成された下階アングル受台10によって支持され、上階枠体支持アングル9は上階床面3に形成された上階アングル受台11によって支持されている。
次に、本発明の実施形態について図面を用いて詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されることなく、本発明の技術的な概念の中で種々の変形例や応用例をもその範囲に含むものである。
図2乃至図4は本発明の第1の実施形態になる上階枠体支持アングル9と上階アングル受台11の間の緩衝機構12を示している。図2は上階枠体支持アングル9と上階アングル受台11の間の緩衝機構12を上面から見た図であり、図3は図2のA−A断面を示した図であり、図4は図2のP側から見た図である。
図2乃至図4において、枠体4の長手方向の端部には上階枠体支持アングル9が固定されており、この上階枠体支持アングル9は上階アングル受台11の上に載置されている。更に、上階枠体支持アングル9は左右に設けた一対の緩衝機構12を介して上階アングル受台11と固定されるように構成されている。
上階アングル受台11は上階床面3の端部に形成された段部に形成されており、この上階アングル受台11にアンカープレート13が夫々4本のアンカーボルト14によって固定されており、このアンカープレート13は図面で示してあるように左右に分けて一対設けられている。
また、左右のアンカープレート13の幅方向で外側の上面には幅方向止め具15が溶接等の固定手段で強固に固定されている。したがって、上階枠体支持アングル9の幅方向の両側面は幅方向止め具15によってその幅方向の移動が規制されている。
一対のアンカープレート13の上面には一対の荷重支承体16がこれも溶接等の固定手段で強固に固定されており、この荷重支承体16の上に上階枠体支持アングル9が載置されている。上階枠体支持アングル9は荷重支承体16の上に載置されているので、上階枠体支持アングル9は後述する緩衝部材17の破断により自由状態になった場合には荷重支承体16の上を長手方向に移動することが可能となっている。
ここで、本実施例においては一対の緩衝機構12は左右とも同じ構成なので、以下では一方の構成について説明する。
アンカープレート13の上面には、本実施例の特徴的な構成要素である緩衝部材17がこれも溶接等の固定手段でアンカープレート13に強固に固定されている。
図3に示してあるように緩衝部材17は、底面壁17-1とこれに直交して立設する側面壁17-2を有しており、断面が「L」字状に形成されている。例えば、この緩衝部材17は鋼板などの金属で製作されており、所謂「L字鋼」或いは「山形鋼」と呼ばれる鋼材を使用することができる。そして、少なくとも底面壁17-1の枠体支持アングル9の枠体4に直交する1辺がアンカープレート13と溶接部W-1で溶接固定されている。更に、緩衝部材17の側面壁17-2には枠体支持アングル9の枠体4長手方向の先端部9Aが溶接部W-2で溶接固定されている。
したがって、緩衝部材17は上階枠体支持アングル9と溶接によって一体化されているため、基本的には上階枠体支持アングル9は上階アングル受台11に固定された形態となっている。尚、この場合の固定力は上階枠体支持アングル9と荷重支承体16との間で発生する摩擦力と、緩衝部材17と上階枠体支持アングル9が溶接によって固定されていることによる固定力に基づくものである。
そして、本実施例では図4にあるように、緩衝部材17には破断荷重調整溝18が形成されている。緩衝部材17の詳細は図5に示してある通り、側面壁17-2の幅方向の側面に一対の破断荷重調整溝18が形成されている。本実施例においては、この破断荷重調整溝18の長さによって緩衝部材17の破断強度が調整されるように構成されている。
つまり、緩衝部材17の側面壁17-2に直交する方向に上階枠体支持アングル9からの荷重が作用すると、側面壁17-2に曲げモーメントの力が発生する。この時、破断荷重調整溝18の長さによって緩衝部材17の側面壁17-2が破断する荷重が異なってくるようになる。
よって、一対の破断荷重調整溝18を結ぶ部位の領域が低強度領域となり、この低強度領域の上下の両側が高強度領域となるものである。このため、上側の高強度領域が上階枠体支持アングル9と溶接部W-2によって固定され、下側の高強度領域がアンカープレート13と溶接部W-1によって固定されるものである。尚、下側の高強度領域はアンカープレート13と固定されているが、結果として上階アングル受台11と固定されていることになる。
本実施例はこれを応用して、所定荷重までは側面壁17-2は破断せず、所定荷重を越えると側面壁17-2が破断するようにしたものである。例えば、小規模の地震乃至大規模の地震に基づいて発生する上階枠体支持アングル9の枠体4長手方向の荷重と、破断荷重調整溝18がどの程度の長さであればどの程度の荷重まで耐えられるかを求める。そして、小規模の地震乃至中規模の地震に基づいて発生する上階枠体支持アングル9による荷重に対し、これに耐えられる破断荷重調整溝18の長さを決めるようにすれば良いものである。
以上に説明した緩衝機構12は、本実施例ではアンカープレート13、及び緩衝部材17より構成されているものであるが、少なくとも緩衝部材17を直接的に上階アングル受台11にアンカーボルトで固定することでも効果を得ることができるものである。
尚、本実施例では下階の下階枠体支持アングル8は従来と同様に下階アングル受台10に強固に固定された形態となっている。
以上のような緩衝機構12を備えた乗客コンベア1において、地震が発生して建築物に揺れが生じた時の緩衝機構12の挙動を説明する。
例えば、小規模の地震や中規模の地震によって建築物に揺れが生じると、この建築物の揺れによって建築梁の間隔寸法が拡大及び縮小する寸法変動を生じるようになり、乗客コンベアが設置されるアングル受台間にもこの寸法変動を生じるようになる。
しかしながら、このような小規模の地震や中規模の地震においては、建築物の構造的な改良等によって揺れによる建築梁の間隔寸法の変動量はさほど大きくはなく、また、乗客コンベアの機械的強度も向上されてきている。
このため、本実施例では、緩衝部材17が上階枠体支持アングル9と溶接によって一体化されているため、基本的には上階枠体支持アングル9は上階アングル受台11に固定された形態となっている。そして、この緩衝部材17の破断荷重調整溝18によって定まる破断荷重は、上述した小規模の地震や中規模の地震によって生じる上階枠体支持アングル9から緩衝部材17の側面壁17-2に加わる荷重によって生じる緩衝部材17を破断しようとする荷重よりも大きいため、緩衝部材17が上階枠体支持アングル9から作用する荷重によって破断することはない。
したがって、小規模の地震や中規模の地震においては、上階枠体支持アングル9は緩衝部材17によってその移動が規制されるので、上階枠体支持アングル9は移動することができず、乗客コンベア1の乗降口周囲の建築物の床面を破損することがなくなるものである。
一方、大規模の地震によって建築物に揺れが生じると、この建築物の揺れは小規模或いは中規模の地震よりはるかに大きな揺れとなって建築梁の間隔寸法を拡大及び縮小する寸法変動を生じさせ、乗客コンベアが設置されるアングル受台間にもこの大きな寸法変動が発生するようになる。
そして、緩衝部材17の破断荷重調整溝18によって定まる破断荷重よりも、上階枠体支持アングル9から緩衝部材17の側面壁17-2に加わる荷重によって生じる緩衝部材17を破断しようとする荷重の方が遥かに大きくなるため、緩衝部材17が上階枠体支持アングル9によって加えられる荷重によって破断するようになる。
これによって、上階枠体支持アングル9は緩衝部材17による移動規制から解放されて、上階枠体支持アングル9は荷重支承体16の上を摺動することができるようになる。すなわち、建築物の揺れに基づく上階枠体支持アングル9の移動が許容されるので、建築物の揺れに基づく強制的な外力が上階枠体支持アングル9を介して枠体4に作用することがなくなり、この結果、枠体4が変形するといった課題や、上階アングル受台11が損傷するといった課題を解決することができるようになる。
尚、本実施例では緩衝部材17の側面壁17−2の両側に破断荷重調整溝18を設けた構成を示しているが、破断荷重調整溝18を1個としても良いし、また溝の代わりに孔を設けて、破断荷重調整孔として緩衝部材17の適切な部位に穿孔して形成しても良いことはいうまでもない。
また、本実施例では上階枠体支持アングル9と上階アングル受台11の間に緩衝機構12を設けたが、上階枠体支持アングル9と上階アングル受台11の間に限定されることなく枠体4の水平部の一部に組込む構成を採用することもできるものである。
次に本発明の第2の実施形態を説明するが、この第2の実施形態では図6に示されているように、破断荷重調整溝18のどちらか一方側に破断検知部を設けたものである。その他の構成は実施例1と同じ構成であるのでその説明は省略する。
図6おいて、緩衝部材17に形成した一対の破断荷重調整溝18の間には低強度領域の破断状態を電気的に検知する破断検知部19が設けられている。破断検知部19は本実施例においては一方の破断荷重調整溝18の近傍に配置されており、望ましくは破断検知部19を境にして破断荷重調整溝18とは反対側に応力拡大孔20が形成されている。言い換えれば、破断荷重調整溝18の横には応力拡大孔20が形成されており、この間に破断検知部19が配置されていることになる。ここで、応力拡大孔20は緩衝部材17の破断検知部19が取り付けられ部位が確実に破断するように設けられた応力集中用の孔である。よって、破断荷重調整溝18の間が確実に破断する場合は設ける必要はないが、より確実に破断させる場合は設けたほうが望ましいものである。
破断検知部19は、例えば皮膜付き抵抗線で構成されており、この皮膜付き抵抗線の両端は一対の信号線21と接続されている。この信号線21は図示しない乗客コンベアの安全装置に接続されており、緩衝部材17の破断荷重調整溝18と応力拡大孔20の間で緩衝部材17が破断すると、破断検知部19を構成する被膜付き抵抗線も破断することになる。
したがって、一対の信号線21の間には電流が流れなくなり、安全装置は破断検知部19の破断を検出して乗客コンベア1を停止する命令を送信することができる。この命令が出ると制御装置は枠体4内に配置された踏み板5やハンドレール7を駆動する駆動機を停止して乗客コンベア1を停止するように作動する。
ここで、安全装置は信号線21の電流の大きさによって破断を検出するもので、正常時には信号線21を介して破断検知部19に電圧を印加しておけば、信号線21の間に電流が流れるので正常状態を判断することができる。一方、大規模の地震によって緩衝部材17が破断した時は破断検知部19も断線するため、一対の信号線21の間に電流が流れなくなる。このため、電流が流れないことを安全装置で検出することによって、乗客コンベア1を停止する命令を制御装置に送信して各種駆動機を停止するようにできる。
尚、乗客コンベアは保守点検及び稼動状況の情報収集を目的として図示しない電話回線等のネットワークを通じて通信する通信設備を備えている。したがって、緩衝部材17が破断したことが破断検知部19によって検知されるので、安全装置は乗客コンベア1が停止した情報を上述したネットワークを介して遠隔地にある管理センターに送信することで、乗客コンベア1が停止されたことを管理センターに連絡することができる。
このようにすることで、乗客コンベア1の状況を現地に行って直接調査することなく、大規模の地震によって乗客コンベア1の緩衝部材17が破断したことを知ることができる。更には、直接調査によって外見に問題がないと判断される乗客コンベアであっても、上記したように破断情報によって内部の破断状況を推定することができるようになる。
ここで、本実施例では破断検知部19の断線によって乗客コンベア1を自動停止させる構成について説明したが、これ以外に破断検知部19を破断強度の異なる複数個の保持体に設け、ある所定の破断検知信号を検出するまでは破断状況情報の検出だけに留めて乗客コンベア1の停止は行わないようにすることや、乗客コンベア1の状態監視を行うことなどの応用も可能である。
更に、破断検知部19に歪センサを用いることで、緩衝部材17の曲りなどによる表面の伸びの状態からどのような劣化状態にあるかを推定することができるようになる。よって、この歪センサからの信号を使用することで、緩衝部材17の交換時期等を設定することができる。つまり、小規模の地震や中規模の地震においては基本的には緩衝部材17は変形しないものであるが、度重なる地震によって緩衝部材17がかなり疲労してくる場合がある。このため、小規模の地震や中規模の地震で緩衝部材17が破断して上階枠体支持アングル9によって床面が破損する恐れがある。しかしながら、緩衝部材17の表面の伸びの状態からどのような劣化状態にあるかを推定することができるので、緩衝部材17の交換の必要性が早期に判明して、速やかに緩衝部材17の交換を行なうことができるようになる。
次に本発明の第3の実施形態を説明するが、この第3の実施形態では図7乃至図10に示されているように、緩衝部材17に設けた破断荷重調整溝18を形成する破断荷重調整溝形成孔と、この破断荷重調整溝18の長さを決める長さ設定孔を設けたものである。その他の構成は実施例1と同じ構成であるのでその説明は省略する。
図7はアンカープレート13に溶接される前の緩衝部材17を示している。この緩衝部材17の側面壁17-2には下側から、破断荷重調整溝形成孔24R−1〜24R−3、及び24L-1〜24L−3、第1長さ設定孔23R、23L、及び第2長さ設定孔22R、22Lが穿孔されている。
ここで、破断荷重調整溝形成孔24R−1〜24R−3、及び24L-1〜24L−3は所定の破断強度毎に配置されている。例えば、本実施例では3個の破断荷重調整溝形成孔24R−1〜24R−3、及び24L-1〜24L−3が穿孔されており、離散的な3段階の破断強度に対応できるように穿孔されている。尚、本実施例では左右両方に破断荷重調整溝形成孔24R−1〜24R−3、及び24L-1〜24L−3を設けているが、片方だけで良いことはいうまでもない。
破断荷重調整溝形成孔24R−1〜24R−3、及び24L-1〜24L−3の間に存在する部位の材料は電動のこぎりなどの動力のこぎり(レシプロソー又はセーバーソーと呼ばれる往復運動する鋸刃により金属を切断する)によって切断することが可能である。そして、必要な破断強度に対応した破断荷重調整溝形成孔24R−1〜24R−3、及び24L-1〜24L−3を選択して破断荷重調整溝18の長さを調整できるので、任意の破断強度を選択できるようになるものである。
そして、本実施例ではこの破断荷重調整溝形成孔24R−1〜24R−3、及び24L-1〜24L−3の他に、破断荷重調整溝形成孔24R−1〜24R−3、及び24L-1〜24L−3を選択する、第1長さ設定孔23R、23L、第2長さ設定孔22R、22Lを設けた点も特徴の一つである。
緩衝部材17に形成した一対の破断荷重調整溝18の間の低強度領域の部位に加わる曲げモーメントは、上階枠体支持アングル9が緩衝部材17の側面壁17-2に溶接される溶接部位の高さ位置によって変化する。このため、枠体支持アングル9の溶接部位の高さ位置が比較的高い場合には、溶接部位から破断荷重調整溝18までの距離が長くなって破断荷重調整溝18の間の部位に加わる曲げモーメントは大きくなる。
したがって、一律に破断荷重調整溝18の長さを決めると、場合によっては緩衝部材17が本来その機能が期待される荷重よりよりも小さな荷重によって破断されるようになって、中規模以下の地震によって緩衝部材17が破断されてしまう懸念がある。逆に、大規模地震によっても緩衝部材17が破断されずに乗客コンベアが損傷されるという懸念がある。
このような課題を解決するためには、緩衝部材17に形成した一対の破断荷重調整溝18の間の低強度領域の部位の破断強度、つまり破断荷重調整溝18の長さを上階枠体支持アングル9の溶接部位の高さ位置に応じて調整することができるようにすれば良い。
このためには、予め破断荷重調整溝18の長さと破断強度の関係を定めておき、緩衝部材17に荷重を作用させる上階枠体支持アングル9の溶接部位から破断荷重調整溝18までの距離と荷重(大規模な地震の時に生じる上階枠体支持アングル9からの荷重)から決まる破断強度を求め、この破断強度に対応した破断荷重調整溝形成孔24R−1〜24R−3、及び24L-1〜24L−3の位置を決めるようにすれば良い。よって、本実施例においては、3個の破断荷重調整溝形成孔24R−1〜24R−3、及び24L-1〜24L−3の他に、第1長さ設定孔23R、23L、第2長さ設定孔22R、22Lが設けられているので、以下のようにして破断荷重調整溝形成孔24R−1〜24R−3、及び24L-1〜24L−3が選択されるようになる。
まず、上階枠体支持アングル9の溶接部位から破断荷重調整溝18までの距離が長いと最も外側の破断荷重調整溝形成孔24R-1、24L-1まで切り欠かれて短い破断荷重調整溝18が形成されることになる。
また、上階枠体支持アングル9の溶接部位から破断荷重調整溝18までの距離が上述したものより短いと二番目の破断荷重調整溝形成孔24R-2、24L-2まで切り欠かれて上記したものより長い破断荷重調整溝18が形成されることになる。
更に、上階枠体支持アングル9の溶接部位から破断荷重調整溝18までの距離が更に短いと最も内側の破断荷重調整溝形成孔24R-3、24L-3まで切り欠かれて最も長い破断荷重調整溝18が形成されることになる。
このような観点から提案されたのが図8乃至図10に示すような構成であり、破断荷重調整溝形成孔24R−1〜24R−3、及び24L-1〜24L−3を選択する第1長さ設定孔23R、23L、第2長さ設定孔22R、22Lを設けたことを特徴としている。この第1長さ設定孔23R、23L、第2長さ設定孔22R、22Lは破断荷重調整溝形成孔24R−1〜24R−3、及び24L-1〜24L−3の数を選択するための指標を表す指標孔として機能する。
次に、図8乃至図10によって、乗客コンベア1を据え付けする施工時に緩衝部材17の破断荷重調整溝18の長さを設定する具体的な例を説明する。図8乃至図10に示した高さL1、L2、及びL3は上階枠体支持アングル9の据え付け高さ、つまり、緩衝部材17の側面壁17-2と上階枠体支持アングル9の溶接部位の高さを示している。そして、これらはL1>L2>L3の関係を有している。
上述した通り、緩衝部材17に作用する荷重が同じとすると、緩衝部材17の破断強度は側面壁17-2と上階枠体支持アングル9の溶接部位の高さL1、L2、及びL3に左右される。このため、上階枠体支持アングル9の溶接部位の高さが高さL1だと破断強度を大きくする必要があり、高さL2だと破断強度を上述したものより小さくする必要があり、高さL3だと破断強度を更に小さくする必要がある。
このため、本実施例では、第1長さ設定孔23R、23L、及び第2長さ設定孔22R、22Lを設けることによって、破断荷重調整溝形成孔24R−1〜24R−3、24L-1〜24L−3を選択するようにしている。この第1長さ設定孔23R、23Lの穿孔位置は破断荷重調整溝形成孔24R−2、24L-2と幅方向で同じ位置に決められており、第2長さ設定孔22R、22Lの穿孔位置は破断荷重調整溝形成孔24R−1、24L-1と同じ位置に決められている。
そして、第1長さ設定孔23R、23Lが選ばれた時には破断荷重調整溝形成孔24R−1〜24R−2、及び24L-1〜24L−2までが選択され、第2長さ設定孔22R、22Lが選ばれた時には破断荷重調整溝形成孔24R−1、24L-1が選択されるものである。尚、第1長さ設定孔23R、23L、第2長さ設定孔22R、22Lが共に選ばれない時は破断荷重調整溝形成孔24R−1〜24R−3、及び24L-1〜24L−3の全てが選択されるものである。
図8は第2長さ設定孔22R、22Lが選ばれた時の状態を示しており、上階枠体支持アングル9は、緩衝部材17の側面壁17-2に設けた第2長さ設定孔22R、22Lの全て、或いは一部を塞ぐ位置にある。このため、現在の状態は、上階枠体支持アングル9の溶接部位が高さL1なので破断強度を大きくする必要があることがわかる。
したがって、作業者は第2長さ設定孔22R、22Lの全て、或いは一部が上階枠体支持アングル9で塞がれていることを確認して、破断荷重調整溝形成孔24R−1、24L-1を選択して動力のこぎりで破断荷重調整溝18の長さを調整する。
図9は第1長さ設定孔23R、23Lが選ばれた時の状態を示しており、上階枠体支持アングル9は、緩衝部材17の側面壁17-2に設けた第1長さ設定孔23R、23Lの全て、或いは一部を塞ぐ位置にある。このため、現在の状態は、上階枠体支持アングル9の溶接部位が高さL2なので破断強度を上述したものより小さくする必要があることがわかる。
したがって、作業者は第1長さ設定孔23R、23Lの全て、或いは一部が上階枠体支持アングル9で塞がれていることを確認して、破断荷重調整溝形成孔24R−1〜24R−2、及び24L-1〜24L−2を選択して動力のこぎりで破断荷重調整溝18の長さを調整する。
図10は第1長さ設定孔23R、23L、及び第2長さ設定孔22R、22Lが共に選ばれなかった時の状態を示しており、上階枠体支持アングル9は、緩衝部材17の側面壁17-2に設けた第1長さ設定孔23R、23L、第2長さ設定孔22R、22Lを塞ぐ位置にない。このため、現在の状態は、上階枠体支持アングル9の溶接部位が高さL3なので破断強度を上述したものより更に小さくする必要があることがわかる。
したがって、作業者は第1長さ設定孔23R、23L、及び第2長さ設定孔22R、22Lが共に上階枠体支持アングル9で塞がれていないことを確認して、破断荷重調整溝形成孔24R−1〜24R−3、及び24L-1〜24L−3の全てを選択して電動のこぎりで破断荷重調整溝18の長さを調整する。
このように、本実施例によれば、乗客コンベアの据え付け施工時における上階枠体支持アングルの溶接部位の高さに応じて、緩衝部材の破断強度を設定する破断荷重調整溝の長さ調整を容易に行うことができるようになる。
次に本発明の第4の実施形態を説明するが、この第4の実施形態では図11乃至図13に示されているように、緩衝部材17に設けた破断荷重調整溝18の代わりに、緩衝部材17の底面壁17-1とアンカープレート13の溶接部W1の溶接強度を調整するようにしたものである。その他の構成は実施例1と同じ構成であるのでその説明は省略する。尚、溶接強度は緩衝部材17がアンカープレート13から剥がれる時の強度であって、言い換えればアンカープレート13から緩衝部材17が破断する破断強度ともいえる。
上述したように、緩衝部材17はその破断強度を調整されることが望ましいことは実施例3に述べた通りである。このため、本実施例は緩衝部材17とアンカープレート13の間の溶接強度を調整することによって上記した要請に応えるようにしているものである。溶接強度は緩衝部材17とアンカープレート13の間の溶接長を選択的に調節することで調整可能である。
このような観点に基づいて、乗客コンベア1を据え付けする施工時に緩衝部材17とアンカープレート13の溶接長を調整する具体的な例を図11乃至図13によって説明する。
図11乃至図13にあるように、緩衝部材17の底面壁17−1の溶接部W1が形成される辺(側面壁17−2が溶接される溶接部W2とは反対側の辺)は複数、ここでは3個の辺17-1A、17-1B、17-1Cに分割されている。そして、図示はしていないが、実施例3と同様に側面壁17−2には上階枠体支持アングル9の溶接部位の高さに対応して溶接個所の個数を判断できる目印が表示されている。
図11は実施例3に示す上階枠体支持アングル9の溶接部位が高さL1の場合の状態を示しており、この状態では破断強度(=溶接強度)を大きくする必要があることを示している。この状態で、作業者は溶接個所が3個であることを確認すると、緩衝部材17の底面壁17−1の3個に分割された辺17-1A、17-1B、17-1Cの溶接部W1-1〜W1-3を溶接する。したがって、上階枠体支持アングル9から作用する荷重は3個の溶接部によって受けられるため破断強度が大きくなるものである。つまり、3個の溶接部の溶接長によって溶接強度が調整されているものである。
図12は実施例3に示す上階枠体支持アングル9の溶接部位が高さL2の場合の状態を示しており、この状態では破断強度を上述したものより小さくする必要があることを示している。この状態で、作業者は溶接個所が2個であることを確認すると、緩衝部材17の底面壁17−1の3個に分割された辺の両側の辺17-1A、17-1Cの溶接部W1-1、及びW1-3の2箇所を溶接する。したがって、上階枠体支持アングル9から作用する荷重は2個の溶接部によって受けられるため破断強度を上述したものより小さくできるものである。この例では、2個の溶接部の溶接長によって溶接強度が調整されているものである。
図13は実施例3に示す上階枠体支持アングル9の溶接部位が高さL3の場合の状態を示しており、この状態では破断強度を上述したものより更に小さくする必要があることを示している。この状態で、作業者は溶接個所が1個であることを確認すると、緩衝部材17の底面壁17−1の3個に分割された中央の辺17-1Bの溶接部W1-2だけを溶接する。したがって、上階枠体支持アングル9から作用する荷重は1個の溶接部によって受けられるため破断強度を上述したものより更に小さくできるものである。この例では、1個の溶接部の溶接長によって溶接強度が調整されているものである。
このように、本実施例によれば、乗客コンベアの据え付けの施工時における上階枠体支持アングルの溶接部位の高さに応じて、緩衝部材をアンカープレートに固定する溶接長を選択して溶接強度の調整を容易に行うことができるようになる。
次に本発明の第5の実施形態を説明するが、この第5の実施形態では図14乃至図16に示されているように、実施例4に示す緩衝部材17を複数に分割し、緩衝部材17の個数によって上階枠体支持アングル9からの荷重に対する調整機能を付与したものである。その他の構成は実施例1と同じ構成であるのでその説明は省略する。尚、実施例4でも述べたように、溶接強度は複数の緩衝部材17がアンカープレート13から剥がれる時の強度であって、言い換えればアンカープレート13から複数の緩衝部材17が破断する破断強度ともいえる。
上述したように、緩衝部材17はその破断強度を調整されることが望ましいことは実施例4に述べた通りである。このため、本実施例は緩衝部材17の個数を選択することで溶接強度を調整するようにして上記した要請に応えるようにしている。つまり、溶接強度は緩衝部材17の数を選択することによってアンカープレート13の間の溶接長を選択的に調節することと等価になり、これによって溶接強度は調整可能である。
このような観点に基づいて、乗客コンベア1を据え付けする施工時に緩衝部材17の個数を選択して溶接強度を調整する具体的な例を図14乃至図16によって説明する。
図14にあるように緩衝部材17は複数に分割されており、ここでは最大で3個の緩衝部材17A、17B、及び17Cに分割されている。そして、図示はしていないが、分割された各緩衝部材17A、17B、及び17Cには実施例3と同様に側面壁17−2には上階枠体支持アングル9の溶接部位の高さに対応して溶接個所の個数を判断できる目印が表示されている。よって、緩衝部材17A、17B、及び17C1のいずれかを取り付けて上階枠体支持アングル9の溶接部位の高さを確認することが必要であり、この時点で緩衝部材17の個数が確認できる。
図14は実施例3に示す上階枠体支持アングル9の溶接部位が高さL1の場合の状態を示しており、この状態では破断強度(=溶接強度)を大きくする必要があることを示している。この状態で、作業者は緩衝部材17A、17B、及び17Cの3個が必要であることを確認すると、緩衝部材17A、17B、及び17Cを溶接部W1-A〜W1-Cで溶接する。したがって、上階枠体支持アングル9から作用する荷重は3個の溶接部によって受けられるため破断強度が大きくなるものである。尚、上階枠体支持アングル9と緩衝部材17A、17B、及び17Cの側面壁17-2とは溶接部W2-A、W2-B、W2-Cで溶接されている。この例では、3個の溶接部の溶接長によって溶接強度が調整されているものである。
図15は実施例3に示す上階枠体支持アングル9の溶接部位が高さL2の場合の状態を示しており、この状態では破断強度を上述したものより小さくする必要があることを示している。この状態で、作業者は溶接個所が2個であることを確認すると、緩衝部材17A、17B、及び17Cのうちの2個の緩衝部材17A、17Cを溶接部W1-A、W1-Cで溶接する。したがって、上階枠体支持アングル9から作用する荷重は2個の緩衝部材17A、17Cによって受けられるため破断強度を上述したものより小さくできるものである。尚、上階枠体支持アングル9と緩衝部材17A、及び17Cの側面壁17-2とは溶接部W2-A、W2-Cで溶接されている。この例では、2個の溶接部の溶接長によって溶接強度が調整されているものである。
図16は実施例3に示す上階枠体支持アングル9の溶接部位が高さL3の場合の状態を示しており、この状態では破断強度を上述したものより更に小さくする必要があることを示している。この状態で、作業者は溶接個所が1個であることを確認すると、緩衝部材17A、17B、及び17Cのうちの1個の緩衝部材17Bを溶接部W1-Bで溶接する。したがって、上階枠体支持アングル9から作用する荷重は1個の緩衝部材17Bによって受けられるため破断強度を上述したものより更に小さくできるものである。尚、上階枠体支持アングル9の側面壁17-2と緩衝部材17Bとは溶接部W2-Bで溶接されている。この例では、1個の溶接部の溶接長によって溶接強度が調整されているものである。
以上の実施例においては、3個の緩衝部材17A、17B、及び17Cを用いたが、これ以上に分割しても良いし、また、緩衝部材17A、17B、及び17Cの幅の長さを調整して破断強度を調整するようすることもできるものである。
以上に説明した実施例では、3個の緩衝部材17A、17B、及び17Cの形状は平板を「L」字状に曲げた構成としたが、図17乃至図19にあるように、3個の緩衝部材17A、17B、及び17Cの形状を円柱状に構成しても良いものである。このようにすると、強度の等方向性が得られると共に、部品形状が円柱状で良いことから、生産性を向上できる効果が期待できる。尚、円柱に変えて断面が矩形の形状としても良いものである。
このように、本実施例によれば、乗客コンベアの据え付けの施工時における上階枠体支持アングルの溶接部位の高さに応じて、緩衝部材の数を調整することで結果と溶接長を調節して溶接強度の調整を容易に行うことができようになる。
次に本発明の第6の実施形態を説明するが、この第6の実施形態では図5に示す破断荷重調整溝18を設けないで、その代わりに強度が低い低強度領域を緩衝部材17に設けたものである。その他の構成は実施例1と同じ構成であるのでその説明は省略する。
図20に示すように、緩衝部材17は側面壁17-2に高さ方向の長さがL4の低強度領域17−2Wと、その両側に高強度領域17-2Sを備えている。この低強度領域17−2Wは実施例1の破断荷重調整溝18と同じ機能を備えており、所定荷重までは側面壁17-2は破断せず、所定荷重を越えると側面壁17-2が破断するようにしたものである。
例えば、小規模の地震乃至大規模の地震によって上階枠体支持アングル9に発生する枠体4長手方向の荷重と、低強度領域17−2Wがどの程度の強度であればどの程度の荷重まで耐えられるかを求め、小規模の地震乃至中規模の地震によって上階枠体支持アングル9に発生する荷重まで耐えられる低強度領域17−2Wの強度を選択すればよいものである。
低強度領域17−2Wはこの部分の厚さを薄くしたり、材料を高強度領域17-2Sの材料より強度が小さいものを使用することで形成することができる。例えば、高強度領域17-2Sを炭素の含有量が多い高炭素鋼を使用し、低強度領域17−2Wを炭素の含有量が少ない低炭素鋼等を使用することができる。これによって、緩衝部材17の破断強度を任意に調整することができるようになる。これらの結合は溶接等を用いることで可能である。
また、この他に、図2にあるように左右に設けた緩衝部材17の一方を高強度材料で構成し、他方を低強度材料で構成してその数を調整することや、左右に設けた緩衝部材17にこれらを混在させた構成にしてその数を調整することによって、所定荷重までは緩衝部材17が破断せず、所定荷重を越えると破断するように調整することができる。
以上に説明した各実施例においては、上階枠体支持アングルと上階アングル受台の間に緩衝機構を設けた乗客コンベアについて説明したが、上階枠体支持アングルと上階アングル受台、及び下階枠体支持アングルと下階アングル受台の両方に緩衝機構を設けた乗客コンベアとしても良いものである。
あるいは、上階枠体支持アングルと上階アングル受部の間に緩衝機構を設けるのに代えて、下階枠体支持アングルと下階アングル受部の間に緩衝機構を設けた乗客コンベアとしても良いものである。
本発明によれば、枠体支持アングルとアングル受台の間を、所定以上の荷重が枠体支持アングルとアングル受台の間に作用しない時は枠体支持アングルとアングル受台とを固定的に結合し、所定以上の荷重が枠体支持アングルとアングル受台の間に作用した時は破断して枠体支持アングルとアングル受台とが相対的に動けるようにする緩衝部材で結合したことによって以下のような効果を奏することができる。
小規模の地震や中規模の地震の地震においては枠体支持アングルとアングル受台には所定以上の荷重が作用しないので、枠体支持アングルとアングル受台は緩衝部材によって固定されているので相対的に移動することがなく床面が破損することがなくなるものである。また、大規模の地震の地震においては枠体支持アングルとアングル受台には所定以上の荷重が作用して緩衝部材が破断されるので、枠体支持アングルとアングル受台は相対的に移動することができ乗客コンベアが破損したり、或いはアングル受台が破損したりすることがなくなるものである。