JP5988033B2 - 検出方法および三相永久磁石同期モータ - Google Patents

検出方法および三相永久磁石同期モータ Download PDF

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Description

本発明は、検出方法および三相永久磁石同期モータに関する。
モータの起動を精度よく行うためには、ロータの磁極と各コイルとの相対的な周方向の初期位置を検出する必要がある。このため、従来、ホールICやエンコーダ等のセンサ部品を用いて、ロータの磁極の位置を検出する技術が知られている。しかしながら、これらのセンサ部品を用いると、モータの小型化や製造コストの削減が、困難となる場合がある。
また、従来、センサレスベクトル制御駆動回路を用いて、ロータの磁極位置を検出する技術が知られている。センサレスベクトル制御駆動回路は、コイルの電流や印加電圧等の情報に基づき、ロータの磁束や誘起電圧を推定演算し、ロータの磁極の位置と回転速度とを算出する。しかしながら、センサレスベクトル制御駆動回路は、モータの停止または低回転時には、精度のよい検出を行うことができない。
また、モータの起動前に、コイルへの通電によって、一旦ロータを所定の位置まで強制的に回転させる「引き込み処理」を行う場合もある。引き込み処理を行えば、ロータの磁極が所望の位置に配置される。しかしながら、引き込み処理を行う場合には、1/2の確率でモータが逆方向に回転する。また、モータに接続された負荷と電流との関係によっては、引き込み処理によってロータが振動する場合がある。そして、振動が収束しないままモータを起動させると、モータが脱調する場合がある。
また、特許第4684763号公報には、モータの静止持における回転子の位置を検出する技術が、記載されている。当該公報では、モータの負荷に交番電流を流し、当該交番電流が値αから値βに変動するまででの第1時間と、交番電流が値βからαに変動するまでの第2時間とを計測する。そして、計測された時間を用いて、静止時における回転子の位置を判定している(請求項1)。
特許第4684763号公報
しかしながら、特許第4684763号公報の方法では、交番電流の値がαまたはβに達したことを認識するために、電流の測定値と既定値とを比較するコンパレータが必要となる。したがって、モータの駆動回路を構成するマイクロコントローラが、コンパレータの機能を有していない場合には、当該機能を追加しなければならない。そうすると、回路構成が複雑化する。
本発明の目的は、電流を検出する回路を具備するセンサレスベクトル制御駆動回路において、追加のセンサ部品を必要とせず、ロータを回転させることもなく、かつ、回路構成の複雑化も抑制しながら、回転開始前におけるロータの磁極と各コイルとの間の相対的な周方向の初期位置を検出できる検出方法および三相永久磁石同期モータを提供することである。
本願の例示的な第1発明は、三相永久磁石同期モータにおいて、回転開始前におけるロータの磁極と、三相の各コイルとの間の相対的な周方向の初期位置を検出する検出方法であって、a)三相に対応する3つのコイルから選択されるUV・VW・WUの組み合わせに対して、それぞれ、一方向と他方向とにパルス電流を通電し、各パルス電流の通電開始から一定時間後の過渡電流の大きさを測定して測定値を得るステップと、b)前記ステップa)において得られた複数の過渡電流の測定値の大小関係に基づいて、前記初期位置を検出するステップと、を有し、前記ステップb)は、b−1)各相のコイルにおいて、一方向へ流れる2つのパルス電流の過渡電流の測定値の合計と、他方向へ流れる2つのパルス電流の過渡電流の測定値の合計との差分値を取得するステップと、b−2)前記b−1)において取得された前記差分値に基づいて、前記初期位置を検出するステップと、を有する検出方法である。
本願の例示的な第1発明によれば、ロータの磁極とコイルとの相対位置により過渡電流の大きさが変化することを利用して、回転開始前におけるロータの磁極と、三相の各コイルとの間の相対的な周方向の初期位置を検出できる。これにより、電流を検出する回路以外のセンサ部品を必要とせず、かつ、ロータを回転させることもなく、当該初期位置を検出できる。
また、本願の例示的な第1発明によれば、過渡電流の測定値が規定値となるまでの時間ではなく、通電開始から一定時間後の過渡電流の大きさを測定する。このため、過渡電流の測定値と既定値とを比較するためのコンパレータが不要である。したがって、回路構成の複雑化を抑制できる。
図1は、RL直列回路の例を示した図である。 図2は、過渡電流の径時変化を示したグラフである。 図3は、ロータの回転角度と、ロータ磁束およびインダクタンスとの関係を示すグラフである。 図4は、過渡電流の経時変化を2つのインダクタンスで示したグラフである。 図5は、モータの構成を示した図である。 図6は、電子回路とコイルとを含む回路図である。 図7は、検出処理の流れを示すフローチャートである。 図8は、スイッチング素子に与えられるゲート信号のタイミングチャートである。 図9は、通電シーケンスを示す図である。 図10は、ロータの初期位置と過渡電流の差分値との関係を示したグラフである。 図11は、変形例に係る通電シーケンスを示す図である。 図12は、変形例に係る通電シーケンスを示す図である。 図13は、変形例に係る通電シーケンスを示す図である。
以下、本発明の例示的な実施形態について、図面を参照しながら説明する。
<1.過渡応答について>
本実施形態のモータは、コイルにパルス電流を通電したときの過渡応答を利用して、ロータの初期位置を検出する。このため、まず、コイルの過渡応答について説明する。
モータの各コイルは、抵抗RとインダクタンスLとを直列接続したRL直列回路とみなすことができる。図1は、RL直列回路の例を示した図である。RL直列回路に電圧Vを与えると、当該回路に流れる電流は、インダクタンスLの影響で徐々に増加する。そして、十分に時間が経過すると、回路に流れる電流が最大値I=V/Rに達する。図2は、このような過渡電流の径時変化を示したグラフである。電圧Vの付与から時間t経過後の過渡電流iの大きさは、次の式(1)で表される。
i=V/R{1−exp(−R/L・t)} (1)
一方、コイルのインダクタンスLの大きさは、当該コイルとロータの磁極との相対位置によって、変化する。これは、ロータの永久磁石から発生するロータ磁束と、コイルへの通電により発生するステータ磁束との相対的な方向によって、コイルの磁芯における磁気飽和の起こりやすさが異なるためである。
図3は、ロータの回転角度と、コイルに作用するロータ磁束およびコイルのインダクタンスとの関係を示すグラフである。当該グラフの横軸は、ロータの磁極とコイルとの相対的な周方向の位置を示している。また、当該グラフの縦軸は、ロータ磁束のコイル方向の成分Φと、コイルのインダクタンスLとを示している。
図3に示すように、ロータ磁束のコイル方向の成分Φは、ロータの回転に伴い、正弦波状に変化する。また、これによって、コイルのインダクタンスLも、略正弦波状に変化する。コイルからN極およびS極が共に離れたとき(図3の例では、0,π,2πのとき)には、コイルのインダクタンスLが極大となる。また、ロータのN極またはS極がコイルに最も接近したとき(図3の例では、π/2,3π/2のとき)には、コイルのインダクタンスLが極小となる。
ただし、ロータのN極がコイルに最も接近したときと、ロータのS極がコイルに最も接近したときとでは、コイルのインダクタンスLに差ΔLが生じる。図3の例では、ロータのN極がコイルに最も接近したとき(π/2のとき)のコイルのインダクタンスLは、ロータのS極がコイルに最も接近したとき(3π/2のとき)のコイルのインダクタンスよりも、小さい。コイルに流す電流の方向を逆にすれば、この大小関係は逆となる。
図4は、過渡電流の経時変化を、2つの異なるインダクタンスLで比較したグラフである。インダクタンスLが増加すると、上述した式(1)の時定数(R/L)が低くなる。このため、図4中の白抜き矢印A1のように、過渡電流の経時変化は緩やかとなる。逆に、インダクタンスLが低下すると、上述した式(1)の時定数(R/L)が高くなる。このため、図4中の白抜き矢印A2のように、過渡電流の経時変化は急になる。
したがって、コイルにパルス電流を通電して、一定時間t経過後の過渡電流の測定値i1,i2を取得すると、コイルのインダクタンスLを反映した測定値が得られる。したがって、当該測定値から、ロータの磁極とコイルとの相対的な周方向の位置を検出することができる。
<2.モータの構成について>
図5は、本発明の一実施形態に係るモータ1の構成を示した図である。図5に示すように、本実施形態のモータ1は、電機子10、ロータ20、および回路基板30を有する。
電機子10は、磁性体からなるステータコア11と、3つのコイル12u,12v,12wとを有する。ステータコア11は、環状のコアバック111と、中心軸9に対して放射状に延びる3本のティース112u,112v,112wとを有する。コイル12u,12v,12wは、各ティース112u,112v,112wに巻かれた導線により構成されている。3本のティース112u,112v,112wおよび3つのコイル12u,12v,12wは、中心軸9の周囲において、周方向に略等間隔に配列されている。
このモータ1は、三相交流を利用してロータ20を回転させる三相永久磁石同期ブラシレスモータである。3つのコイル12u,12v,12wは、三相交流のU相、V相、およびW相の各相に、それぞれ対応している。
ロータ20は、中心軸9に対して回転可能に支持されている。ロータ20は、周方向に配列された複数のマグネット21を有する。ロータ20の外周面には、N極の磁極面と、S極の磁極面とが、周方向に交互に配列されている。
回路基板30は、コイル12u,12v,12wと電気的に接続されている。回路基板30には、コイル12u,12v,12wに駆動電流を供給するための電子回路31が、搭載されている。モータ1の駆動時には、回路基板30からコイル12u,12v,12wに、所定の順序で駆動電流が供給される。これにより、電機子10とロータ20との間に周方向のトルクが生じる。その結果、中心軸9を中心としてロータ20が回転する。また、回路基板30の当該電子回路31は、モータ1の起動時に、後述する検出処理を実行する。
なお、図5には、ロータ20が電機子10より径方向内側に位置する、いわゆるインナロータ型のモータ1が示されている。しかしながら、本発明のモータは、ロータが電機子より径方向外側に位置する、いわゆるアウタロータ側のモータであってもよい。
<3.電子回路の構成について>
図6は、回路基板30に搭載された電子回路31と、モータ1の3つのコイル12u,12v,12wとを含む回路図である。既述の通り、コイル12u,12v,12wは、それぞれ、抵抗とインダクタンスとを直列接続したRL直列回路と見なすことができる。図6に示すように、本実施形態の電子回路31は、インバータ回路40、マイクロコントローラ50、および電流測定部60を有する。
インバータ回路40は、6つのスイッチング素子41uh,41ul,41vh,41vl,41wh,41wlを有している。スイッチング素子41uh,41vh,41whは、電圧源42から各コイル12u,12v,12wへの通電を、それぞれ許可または禁止する。スイッチング素子41ul,41vl,41wlは、各コイル12u,12v,12wからアース43への通電を、それぞれ許可または禁止する。
各スイッチング素子41uh,41ul,41vh,41vl,41wh,41wlは、定常時には、ドレインからソースへの通電を禁止し、ゲートにゲート信号が与えられたときにのみ、ドレインからソースへの通電を許可する。スイッチング素子41uh,41ul,41vh,41vl,41wh,41wlには、例えば、電界効果トランジスタ(FET)を使用することができる。
スイッチング素子41uh,41vh,41whの各ドレインは、電圧源42と電気的に接続されている。スイッチング素子41uhのソースおよびスイッチング素子41ulのドレインは、U相のコイル12uと電気的に接続されている。スイッチング素子41vhのソースおよびスイッチング素子41vlのドレインは、V相のコイル12vと電気的に接続されている。スイッチング素子41whのソースおよびスイッチング素子41wlのドレインは、W相のコイル12wと電気的に接続されている。また、スイッチング素子41ul,41vl,41wlの各ソースは、後述するシャント抵抗61を介して、アース43と電気的に接続されている。
コイル12u,12v,12wの他端同士は、中性点13を介して、互いに電気的に接続されている。すなわち、本実施形態のコイル12u,12v,12wは、Y結線にて互いに接続されている。ただし、コイル12u,12v,12wの結線方式は、Y結線と等価なΔ結線であってもよい。
また、各スイッチング素子41uh,41ul,41vh,41vl,41wh,41wlのドレインとソースとは、ダイオード44を介して接続されている。ダイオード44は、ドレインからソースへの通電を禁止し、ソースからドレインへ通電を許可する。
マイクロコントローラ50は、スイッチング素子41uh,41ul,41vh,41vl,41wh,41wlにゲート信号を与えることにより、コイル12u,12v,12wへの通電を制御するプロセッサである。マイクロコントローラは、スイッチング素子41uh,41ul,41vh,41vl,41wh,41wlの各ゲートに対して、ゲート信号を出力するゲート出力部51uh,51ul,51vh,51vl,51wh,51wlを有する。
電流測定部60は、シャント抵抗61と、差動増幅器62と、マイクロコントローラ50内のA/D変換器52とで構成されている。各コイル12u,12v,12wからアース43へ電流が流れると、シャント抵抗61の両端に電位差が生じる。当該電位差は、差動増幅器62により増幅され、A/D変換器によりA/D変換されて、マイクロコントローラ50に取り込まれる。これにより、シャント抵抗61を通る電流の大きさが測定される。
電流測定部60は、モータ1の駆動時には、シングルシャントベクトル制御を行うために使用される。すなわち、マイクロコントローラ50は、シャント抵抗61において得られた電流の測定値に基づき、各コイル12u,12v,12wへの通電を制御する。また、後述する検出処理を行うときには、電流測定部60が、シャント抵抗61に流れる過渡電流を測定する。
このように、本実施形態では、マイクロコントローラ50内のA/D変換器52を用いて、過渡電流の大きさを測定する。このようにすれば、過渡電流の大きさを測定するためのA/D変換器を、マイクロコントローラ50とは別に用意する必要がない。したがって、電子回路31の回路構成が複雑化することを、抑制できる。
<4.検出処理について>
<4−1.通電および過渡電流の測定>
続いて、上述したモータ1において、回転開始前におけるロータ20の磁極と、各コイル12u,12v,12wとの間の相対的な周方向の初期位置を検出する処理について、説明する。図7は、当該検出処理の流れを示すフローチャートである。
ロータ20の初期位置を検出するときには、まず、3つのコイル12u,12v,12wから選択されるUV・VW・WUの各組み合わせに対して、それぞれ、一方向と他方向とにパルス電流を通電する。すなわち、コイル12u,12vの組と、コイル12v,12wの組と、コイル12w,12uの組と、のそれぞれに対して、予め設定された通電シーケンスに従って、一方向と他方向とにパルス電流を通電する。そして、各パルス電流の通電開始から一定時間後の過渡電流の大きさを、電流測定部60により測定して、測定値を得る(ステップS1)。
図8は、ステップS1において、スイッチング素子41uh,41ul,41vh,41vl,41wh,41wlに与えられるゲート信号のタイミングチャートである。図8には、シャント抵抗61に流れる電流の経時変化と、過渡電流の測定のタイミングも、併せて示されている。また、図9は、3つのコイル12u,12v,12wに流れるパルス電流の順序(通電シーケンス)を示す図である。
図8に示すように、ステップS1では、まず、マイクロコントローラ50が、スイッチング素子41uh,41vlに対するゲート信号をONとする。そうすると、電圧源42から、スイッチング素子41uh、コイル12u、中性点13、コイル12v、スイッチング素子41vlを通ってシャント抵抗61へ、パルス電流が通電される。すなわち、図9に示すように、U相のコイル12uから中性点13を通ってV相のコイル12vへ、第1パルス電流71が流れる。
第1パルス電流71は、コイル12u,12vのインダクタンスLに応じた過渡応答を示し、当該過渡電流iの大きさは、図8に示すように徐々に大きくなる。電流測定部60は、第1パルス電流71の通電開始から一定時間t後の過渡電流iの大きさを測定して、測定値を得る。
過渡電流iの測定が終わると、マイクロコントローラ50は、全てのスイッチング素子41uh,41ul,41vh,41vl,41wh,41wlに対するゲート信号を、一旦OFFとする。そうすると、コイル12u,12vに残留する電流が、ダイオード44を通って、電圧源42側へ回生される。それにより、コイル12u,12vの電流が略0Aに戻る。このように、コイル12u,12vに残留する電流を略0Aに戻す回生処理を行えば、当該コイル12u,12vにおいて次の過渡電流を、より正確に測定できる。
続いて、マイクロコントローラ50は、スイッチング素子41uh,41wlに対するゲート信号をONとする。そうすると、電圧源42から、スイッチング素子41uh、コイル12u、中性点13、コイル12w、スイッチング素子41wlを通ってシャント抵抗61へ、パルス電流が通電される。すなわち、図9に示すように、U相のコイル12uから中性点13を通ってW相のコイル12wへ、第2パルス電流72が流れる。
第2パルス電流72は、コイル12u,12wのインダクタンスLに応じた過渡応答を示し、当該過渡電流iの大きさは、図8に示すように徐々に大きくなる。電流測定部60は、第2パルス電流72の通電開始から一定時間t後の過渡電流iの大きさを測定して、測定値を得る。
以下、引き続き、ゲート信号のON/OFFを行うことにより、図9のように、V相のコイル12vからW相のコイル12wへ流れる第3パルス電流73と、V相のコイル12vからU相のコイル12uへ流れる第4パルス電流74と、W相のコイル12wからU相のコイル12uへ流れる第5パルス電流75と、W相のコイル12wからV相のコイル12vへ流れる第6パルス電流76と、をこの順に通電する。そして、各パルス電流の通電開始から一定時間t後の過渡電流iの大きさを測定する。
各パルス電流71,72,73,74,75,76の長さは、ロータ20が実質的に回転しない程度の長さであることが好ましい。また、各パルス電流の通電の間には、回生処理を挟むことが好ましい。
そして、電子回路31は、このような図9の通電シーケンスを、複数回繰り返す。その結果、複数の過渡電流iの測定値が得られる。得られた複数の過渡電流iの測定値は、図3および図4において説明したとおり、ロータ20の磁極の位置を反映した値となっている。
<4−2.残留磁束の相殺について>
ここで、各パルス電流の通電後には、各コイル12u,12v,12wに磁束が残る。この残留磁束は、ロータ20から生じる磁束と同様に、過渡電流iの測定値に影響を与える。したがって、過渡電流iを正確に測定するためには、残留磁束の影響を相殺できる通電シーケンスを選択することが、好ましい。
図9の通電シーケンスでは、例えば、第3パルス電流73は、V相のコイル12vから中性点13を通ってW相のコイル12wへ通電される。V相のコイル12vに通電される1つ前のパルス電流は、第1パルス電流71である。その第1パルス電流71は、V相のコイル12vに対して、第3パルス電流73と逆方向に通電される。また、W相のコイル12wに通電される1つ前のパルス電流は、第2パルス電流72である。その第2パルス電流72は、W相のコイル12wに対して、第3パルス電流73と同方向に通電される。
したがって、第3パルス電流73の通電直前には、V相のコイル12vとW相のコイル12wとに、逆方向の残留磁束が生じている。したがって、第3パルス電流73の過渡電流iを測定する際には、V相のコイル12vにおける残留磁束の影響と、W相のコイル12wにおける残留磁束の影響とが、相殺される。その結果、第3パルス電流73の過渡電流iを、正確に測定できる。
このように、図9の通電シーケンスでは、各パルス電流71〜76が、2つのコイルの一方に対して、1つ前のパルス電流と同方向に流れ、かつ、2つのコイルの他方に対して、2つ前のパルス電流と逆方向に流れる。これにより、各コイル12u,12v,12wの残留磁束による磁気飽和の影響を相殺できる。その結果、各パルス電流71〜76の過渡電流iの大きさを、より正確に測定できる。
<4−3.測定値に基づく演算処理について>
各パルス電流71〜76の過渡電流iの大きさが測定されると、マイクロコントローラ50は、次の式(2)に従って、過渡電流の差分値Δiu,Δiv,Δiwを算出する(ステップS2)。
Δiu=iuv+iuw−ivu−iwu
Δiv=ivw+ivu−iwv−iuv (2)
Δiw=iwu+iwv−iuw−ivw
なお、本実施形態の式(2)では、iuv,iuw,ivw,ivu,iwu,iwvを、次のように定義している。
iuv:U相のコイルからV相のコイルへ流れる過渡電流iの測定値
iuw:U相のコイルからW相のコイルへ流れる過渡電流iの測定値
ivw:V相のコイルからW相のコイルへ流れる過渡電流iの測定値
ivu:V相のコイルからU相のコイルへ流れる過渡電流iの測定値
iwu:W相のコイルからU相のコイルへ流れる過渡電流iの測定値
iwv:W相のコイルからV相のコイルへ流れる過渡電流iの測定値
例えば、差分値Δiuは、U相のコイル12uから他相のコイル12v,12wへ流れた過渡電流の測定値を加算し、他相のコイル12v,12wからU相のコイル12uへ流れた過渡電流の測定値を減算した値である。このように、各相のコイル12u,12v,12wにおいて、一方向へ流れる2つのパルス電流の過渡電流の測定値の合計と、他方向へ流れる2つのパルス電流の過渡電流の測定値の合計との差分値を取得する。
式(2)の演算を行うことで、差分値Δiuは、ロータ20の磁束がU相のコイル12uのインダクタンスに与えた影響を反映した値となる。差分値Δiv,Δiwについても同様である。
図10は、ロータ20の初期位置と過渡電流の差分値Δiu,Δiv,Δiwとの関係を示したグラフである。図10の横軸は、U相のティース112uとロータ20のN極とが一致した点を0[rad]としたときのロータ20の回転角度を示している。図10の縦軸は、過渡電流の差分値Δiu,Δiv,Δiwを示している。
図10のように、差分値Δiu,Δiv,Δiwは、それぞれ正弦波状に変化する。また、差分値Δiu,Δiv,Δiwは、互いに2π/3[rad]の位相差をもつ。このため、差分値Δiu,Δiv,Δiwの正負は、次の表1に示すように変化する。
Figure 0005988033
マイクロコントローラ50は、差分値Δiu,Δiv,Δiwのそれぞれの正負に基づいて、ロータ20の初期位置を、約π/3[rad]の分解能で検出する(ステップS3)。約π/3[rad]の分解能でロータ20の初期位置を検知できれば、モータ1の起動時に逆転現象が起こらないように、起動シーケンスを開始することができる。
このように、マイクロコントローラ50は、ステップS1において得られた複数の過渡電流iの測定値の大小関係に基づいて、ロータ20の初期位置を検出する。すなわち、ロータ20の磁極とコイル12u,12v,12wとの相対位置により過渡電流の大きさが変化することを利用して、回転開始前におけるロータ20の磁極と、三相の各コイル12u,12v,12wとの間の相対的な周方向の初期位置を検出する。これにより、ホールICやエンコーダ等のセンサ部品を必要とせず、かつ、ロータ20を回転させることもなく、当該初期位置を検出できる。ロータ20の初期位置を検出できれば、引き込み処理が不要となり、起動時から所望のトルクを発生させるように、通電を開始させることができる。これにより、起動に失敗する確率が大幅に減少する。
また、本実施形態の検出処理では、過渡電流iの測定値が規定値となるまでの時間ではなく、通電開始から一定時間後の過渡電流iの大きさを測定する。このため、過渡電流iの測定値と既定値とを比較するためのコンパレータが不要である。したがって、回路構成の複雑化を抑制できる。
<5.変形例>
以上、本発明の例示的な実施形態について説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではない。
図11は、一変形例に係る通電シーケンスを示す図である。図11の例では、U相のコイル12uからV相のコイル12vへ流れる第1パルス電流71と、W相のコイル12wからV相のコイル12vへ流れる第2パルス電流72と、W相のコイル12wからU相のコイル12uへ流れる第3パルス電流73と、V相のコイル12vからU相のコイル12uへ流れる第4パルス電流74と、V相のコイル12vからW相のコイル12wへ流れる第5パルス電流75と、U相のコイル12uからW相のコイル12wへ流れる第6パルス電流76と、をこの順に通電する。そして、このような通電シーケンスを、1回または複数回行う。
図11の通電シーケンスにおいても、各パルス電流は、2つのコイルの一方に対して、1つ前のパルス電流と同方向に流れ、かつ、2つのコイルの他方に対して、2つ前のパルス電流と逆方向に流れる。したがって、各コイル12u,12v,12wの残留磁束による磁気飽和の影響を相殺できる。その結果、各パルス電流71〜76の過渡電流iの大きさを、正確に測定できる。
図12は、他の変形例に係る通電シーケンスを示す図である。図12の例では、U相のコイル12uからV相のコイル12vへ流れる第1パルス電流71と、V相のコイル12vからU相のコイル12uへ流れる第2パルス電流72と、V相のコイル12vからW相のコイル12wへ流れる第3パルス電流73と、W相のコイル12wからV相のコイル12vへ流れる第4パルス電流74と、W相のコイル12wからU相のコイル12uへ流れる第5パルス電流75と、U相のコイル12uからW相のコイル12wへ流れる第6パルス電流76と、をこの順に通電する。そして、このような通電シーケンスを、1回または複数回行う。
図12の通電シーケンスでは、例えば、第5パルス電流75は、W相のコイル12wから中性点13を通ってU相のコイル12uへ通電される。W相のコイル12vに通電される1つ前のパルス電流は、第4パルス電流74である。その第4パルス電流74は、W相のコイル12wに対して、第5パルス電流75と同方向に通電される。また、U相のコイル12uに通電される1つ前のパルス電流は、第2パルス電流72である。その第2パルス電流72は、U相のコイル12uに対して、第5パルス電流75と同方向に通電される。この場合、残留磁束の影響により、第5パルス電流75の過渡電流iwuの測定値は大きくなる。
一方、第6パルス電流76は、U相のコイル12uおよびW相のコイル12wに対して、1つ前の第5パルス電流75と逆方向に通電される。この場合、残留磁束の影響により、第6パルス電流76の過渡電流iuwの測定値は小さくなる。同様に、図12の例では、iuvおよびivwの測定値が、残留磁束の影響により大きくなり、ivuおよびiwvの測定値が、残留磁束の影響により小さくなる。
このため、式(2)の差分値Δiu,Δiv,Δiwを採れば、残留磁束の影響は相殺される。したがって、ロータ20の初期位置を、正確に検出できる。
図13は、他の変形例に係る通電シーケンスを示す図である。図13の例では、U相のコイル12uからV相のコイル12vへ流れる第1パルス電流71と、V相のコイル12vからU相のコイル12uへ流れる第2パルス電流72と、W相のコイル12wからU相のコイル12uへ流れる第3パルス電流73と、U相のコイル12uからW相のコイル12wへ流れる第4パルス電流74と、V相のコイル12uからW相のコイル12wへ流れる第5パルス電流75と、W相のコイル12wからV相のコイル12vへ流れる第6パルス電流76と、をこの順に通電する。そして、このような通電シーケンスを、1回または複数回行う。
図13の通電シーケンスも、図14の通電シーケンスと同様に、第1パルス電流71と第2パルス電流72、第3パルス電流73と第4パルス電流74、第5パルス電流75と第6パルス電流76が、それぞれ逆方向に通電される。このため、過渡電流の測定値自体には、残留磁束の影響が大きく現れる。しかしながら、式(2)の差分値Δiu,Δiv,Δiwを採れば、残留磁束の影響は相殺される。したがって、ロータ20の初期位置を、正確に検出できる。
上述した図9,図11,図12,図13の各通電シーケンスは、それぞれ、2回以上繰り返されることが好ましい。これによって、1回目の通電シーケンスでは、一部のパルス電流について、残留磁束の影響が残っていたとしても、2回目の通電シーケンスによって、より精度の高い検出が可能となる。例えば、1回目の通電シーケンスで取得した過渡電流の測定値は、差分値Δiu,Δiv,Δiwの算出には用いず、2回目以降の通電シーケンスで取得した過渡電流の測定値を、差分値Δiu,Δiv,Δiwの算出に用いるとよい。
また、通電シーケンスを複数回繰り返せば、測定値のばらつきを抑えて、検出精度をより向上させることができる。
また、1回目の通電シーケンスを実行する前に、残留磁束の相殺のための準備通電を行ってもよい。例えば、図9および図11の通電シーケンスでは、1回目の通電シーケンスを実行する前に、第5パルス電流75および第6パルス電流を、この順に通電してもよい。また、図12および図13の通電シーケンスでは、1回目の通電シーケンスを実行する前に、第4パルス電流74、第5パルス電流75、および第6パルス電流76を、この順に通電してもよい。このようにすれば、1回目の通電シーケンスにおいて、各コイル12u,12v,12wの残留磁束による磁気飽和の影響を、抑制できる。
また、図9または図11の通電シーケンスを採用する場合には、上述した式(2)に代えて、次の式(3)を用いて、過渡電流の差分値Δiuv,Δivw,Δiwuを取得してもよい。
Δiuv=iuv−ivu
Δivw=ivw−iwv (3)
Δiwu=iwu−iuw
例えば、差分値ΔiuvはU相のコイル12uおよびV相のコイル12vについて、一方向の過渡電流の測定値から、他方向の過渡電流の測定値を減算した値である。このように、UV・VW・WUの各組み合わせについて、一方向の過渡電流の測定値と、他方向の過渡電流の測定値との差分値を取得する。取得された差分値Δiuv,Δivw,Δiwuは、図10と同様に、互いに2π/3[rad]の位相差をもつ正弦波状の波形を示す。したがって、差分値Δiuv,Δivw,Δiwuのそれぞれの正負に基づいて、ロータ20の初期位置を、約π/3[rad]の分解能で検出できる。
上記実施形態の図5のモータ1は、U相、V相、およびW相のコイル12u,12v,12wを1組だけ有していた。しかしながら、本発明の三相永久磁石同期モータは、U相、V相、およびW相のコイルを、複数組有していてもよい。その場合、図10の横軸となる回転角は、U相、V相、およびW相のコイル1組に相当する角度を2πとしたときの電気角と考えればよい。
また、各部材の細部の形状については、本願の各図に示された形状と、相違していてもよい。また、上記の実施形態や変形例に登場した各要素を、矛盾が生じない範囲で、適宜に組み合わせてもよい。
本発明は、検出方法および三相永久磁石同期モータに利用できる。
1 モータ
9 中心軸
10 電機子
11 ステータコア
12u,12v,12w コイル
13 中性点
20 ロータ
21 マグネット
30 回路基板
31 電子回路
40 インバータ回路
41uh,41ul,41vh,41vl,41wh,41wl スイッチング素子
42 電圧源
43 アース
44 ダイオード
50 マイクロコントローラ
51uh,51ul,51vh,51vl,51wh,51wl ゲート出力部
52 A/D変換器
60 電流測定部
61 シャント抵抗
62 差動増幅器
71 第1パルス電流
72 第2パルス電流
73 第3パルス電流
74 第4パルス電流
75 第5パルス電流
76 第6パルス電流
111 コアバック
112u,112v,112w ティース

Claims (10)

  1. 三相永久磁石同期モータにおいて、回転開始前におけるロータの磁極と、三相の各コイルとの間の相対的な周方向の初期位置を検出する検出方法であって、
    a)三相に対応する3つのコイルから選択されるUV・VW・WUの組み合わせに対して、それぞれ、一方向と他方向とにパルス電流を通電し、各パルス電流の通電開始から一定時間後の過渡電流の大きさを測定して測定値を得るステップと、
    b)前記ステップa)において得られた複数の過渡電流の測定値の大小関係に基づいて、前記初期位置を検出するステップと、
    有し
    前記ステップb)は、
    b−1)各相のコイルにおいて、一方向へ流れる2つのパルス電流の過渡電流の測定値の合計と、他方向へ流れる2つのパルス電流の過渡電流の測定値の合計との差分値を取得するステップと、
    b−2)前記b−1)において取得された前記差分値に基づいて、前記初期位置を検出するステップと、
    を有する検出方法。
  2. 請求項1に記載の検出方法であって、
    前記ステップa)では、
    U相のコイルからV相のコイルへ流れる第1パルス電流と、
    U相のコイルからW相のコイルへ流れる第2パルス電流と、
    V相のコイルからW相のコイルへ流れる第3パルス電流と、
    V相のコイルからU相のコイルへ流れる第4パルス電流と、
    W相のコイルからU相のコイルへ流れる第5パルス電流と、
    W相のコイルからV相のコイルへ流れる第6パルス電流と、
    をこの順に通電する通電シーケンスを、少なくとも1回行う検出方法。
  3. 請求項1に記載の検出方法であって、
    前記ステップa)では、
    U相のコイルからV相のコイルへ流れる第1パルス電流と、
    W相のコイルからV相のコイルへ流れる第2パルス電流と、
    W相のコイルからU相のコイルへ流れる第3パルス電流と、
    V相のコイルからU相のコイルへ流れる第4パルス電流と、
    V相のコイルからW相のコイルへ流れる第5パルス電流と、
    U相のコイルからW相のコイルへ流れる第6パルス電流と、
    をこの順に通電する通電シーケンスを、少なくとも1回行う検出方法。
  4. 請求項1に記載の検出方法であって、
    前記ステップa)では、
    U相のコイルからV相のコイルへ流れる第1パルス電流と、
    V相のコイルからU相のコイルへ流れる第2パルス電流と、
    V相のコイルからW相のコイルへ流れる第3パルス電流と、
    W相のコイルからV相のコイルへ流れる第4パルス電流と、
    W相のコイルからU相のコイルへ流れる第5パルス電流と、
    U相のコイルからW相のコイルへ流れる第6パルス電流と、
    をこの順に通電する通電シーケンスを、少なくとも1回行う検出方法。
  5. 請求項1に記載の検出方法であって、
    前記ステップa)では、
    U相のコイルからV相のコイルへ流れる第1パルス電流と、
    V相のコイルからU相のコイルへ流れる第2パルス電流と、
    W相のコイルからU相のコイルへ流れる第3パルス電流と、
    U相のコイルからW相のコイルへ流れる第4パルス電流と、
    V相のコイルからW相のコイルへ流れる第5パルス電流と、
    W相のコイルからV相のコイルへ流れる第6パルス電流と、
    をこの順に通電する通電シーケンスを、少なくとも1回行う検出方法。
  6. 請求項2から請求項5までのいずれかに記載の検出方法であって、
    前記ステップa)では、1回目の前記通電シーケンスを行う前に、前記第4パルス電流、前記第5パルス電流、および前記第6パルス電流を、この順に通電する準備通電を行う検出方法。
  7. 請求項2から請求項6までのいずれかに記載の検出方法であって、
    前記ステップa)では、前記通電シーケンスを、複数回行う検出方法。
  8. 中心軸に対して回転可能に支持されるロータと、
    前記中心軸の周囲に配列された複数のコイルを有する電機子と、
    前記コイルと電気的に接続された回路基板と、
    を有し、
    前記回路基板は、請求項1から請求項7までのいずれかに記載の検出方法を実行する回路を有し、
    前記回路は、前記複数のコイルへの通電を制御するマイクロコントローラを含み、
    前記回路は、前記ステップa)において、前記マイクロコントローラ内のA/D変換器を用いて、前記過渡電流の大きさを測定する三相永久磁石同期モータ。
  9. 請求項7に記載の三相永久磁石同期モータであって、
    前記回路は、前記ステップa)において、各パルス電流を通電した後に、前記マイクロコントローラから出力されるゲート信号をOFFとする回生処理を行う三相永久磁石同期モータ。
  10. 中心軸に対して回転可能に支持されるロータと、
    前記中心軸の周囲に配列された複数のコイルを有する電機子と、
    前記コイルと電気的に接続された回路基板と、
    を有し、
    前記回路基板は、請求項1に記載の検出方法を実行する回路を有し、
    前記回路は、前記ステップb−2)において、前記複数の前記差分値のそれぞれの正負に基づいて、前記初期位置を検出する三相永久磁石同期モータ。
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