JP5987006B2 - 工具異常判別システム - Google Patents

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Description

本発明は、旋盤などの加工時の負荷を監視することにより、チッピングなどの工具異常を検出する工具異常判別システムに関する。
旋盤において、ワーク加工中にバイトの刃がチッピングを起こすと、バイトを動かすモータのトルクや、ワークを動かす主軸のモータのトルクが変動する。当該トルク変化を基に、工具異常判別システムは、チッピングを検出している。すなわち、工具異常判別システムは、実際のトルク変化と異常判別用のしきい値とを比較し、実際のトルクがしきい値を超えた場合に、チッピングが発生したと判別している。
しかしながら、同一種のワークを加工する場合であっても、材料ロットの変更や加工部分、さらには工具の進行方向に応じて、トルクの値やトルクの変動幅は変化する。このため、しきい値を一定値とすると、誤判別の可能性が高くなる。
そこで、特許文献1には、複数回の試切削を行うことによりモータのトルクのサンプリングデータを取得し、当該サンプリングデータから基準データ、分散を取得し、サンプリングデータのばらつきに応じたしきい値を設定する加工負荷監視方式が開示されている。同文献記載の加工負荷監視方式によると、トルクのばらつきが大きい加工部分の場合、しきい値を大きく設定することができる。反対に、トルクのばらつきが小さい加工部分の場合、しきい値を小さく設定することができる。
特開平7−132440号公報
しかしながら、特許文献1の加工負荷監視方式の場合、一旦設定した監視範囲を、ワークの加工を開始した後から、変更する機会が無かった。このため、監視範囲の精度を向上させることができなかった。本発明の工具異常判別システムは、上記課題に鑑みて完成されたものである。本発明は、監視範囲の精度向上が容易な工具異常判別システムを提供することを目的とする。
(1)上記課題を解決するため、本発明の工具異常判別システムは、ワークに加工を施す工具と、監視範囲が格納される記憶部と、該監視範囲と、加工時の該工具の負荷と、を比較する演算部と、を有する制御装置と、該工具の該負荷が該監視範囲を超えた場合に、該工具が摩耗以外の異常状態であるか否かに関する質問を、作業者に通知可能なインターフェイス装置と、を備えることを特徴とする。
ここで、工具の「負荷」とは、工具を動かすアクチュエータの負荷(トルク、電流、電圧など)、およびワークを動かすアクチュエータの負荷のうち、少なくとも一方をいう。また、「摩耗以外の異常状態」とは、工具のチッピング、工具の装着位置ずれ、工具の折損、工具の欠損、工具の非装着、加工ポイントにおける切屑の噛み込みなどをいう。
本発明の工具異常判別システムのインターフェイス装置は、工具の負荷が監視範囲を超えた場合に、該工具が摩耗以外の異常状態であるか否かに関する質問を、作業者に通知する。作業者は、直接または間接的に工具を確認することにより、実際に工具が異常状態であるか否かを確認することができる。すなわち、作業者は、監視範囲の妥当性を認識することができる。このため、容易に監視範囲の精度を向上させることができる。
また、本発明の工具異常判別システムによると、監視範囲の精度が高いため、工具に安定した加工面を確保することができる。また、監視範囲の精度が高いため、工具を、異常状態が発生する直前まで、使用することができる。
(2)好ましくは、上記(1)の構成において、前記異常状態は、前記工具のチッピング、該工具の非装着、前記ワークの切屑の噛み込みのうち、少なくとも一つである構成とする方がよい。本構成によると、工具のチッピング、工具の非装着、ワークの切屑の噛み込みのうち、少なくとも一つに関して、監視範囲の精度を向上させることができる。
(3)好ましくは、上記(1)または(2)の構成において、単一の前記ワークに対する加工作業を1回のサイクルとして、前記制御装置は、前記インターフェイス装置が前記質問を前記作業者に通知不可能な状態で、該サイクルの該ワークの前記負荷に関する負荷データをサンプリングするサンプリング工程と、サンプリングされた該負荷データを基に、低負荷側ピークホールド値および高負荷側ピークホールド値を取得するピークホールド工程と、オフセット量で該低負荷側ピークホールド値を下方に補正した下限しきい値と、該オフセット量で該高負荷側ピークホールド値を上方に補正した上限しきい値と、を設定し、該下限しきい値と該上限しきい値との間隔を前記監視範囲に設定する監視範囲設定工程と、を実行可能である構成とする方がよい。
本構成によると、制御装置が、サンプリング工程と、ピークホールド工程と、監視範囲設定工程と、を実行可能である。サンプリング工程においては、サイクルの負荷データをサンプリングする。
ピークホールド工程においては、負荷データを基に、低負荷側ピークホールド値、高負荷側ピークホールド値を取得する。例えば、複数の負荷データがある場合は、加工ポイント(ワークの任意の加工部分における加工位置)が対応するように、複数の負荷データを重ね合わせる。そして、各加工ポイントにおいて、複数の負荷データのうち、最も負荷が小さい負荷データの負荷を、低負荷側ピークホールド値に設定する。また、各加工ポイントにおいて、複数の負荷データのうち、最も負荷が大きい負荷データの負荷を、高負荷側ピークホールド値に設定する。
監視範囲設定工程においては、オフセット量を用いて、低負荷側ピークホールド値と高負荷側ピークホールド値を補正する。そして、下限しきい値と上限しきい値とを設定する。すなわち、監視範囲を設定する。
なお、サンプリング工程、ピークホールド工程、監視範囲設定工程の間、インターフェイス装置は、工具が摩耗以外の異常状態であるか否かに関する質問を、作業者に通知しない。
本構成によると、実際にサンプリングされた負荷データを基に、監視範囲を設定している。すなわち、低負荷側ピークホールド値および高負荷側ピークホールド値を基に、監視範囲を設定している。このため、前記特許文献1の加工負荷監視方式のような複雑な演算処理が不要である。
(4)好ましくは、上記(3)の構成において、前記サンプリング工程と、前記ピークホールド工程と、前記監視範囲設定工程と、をこの順番にN(Nは2以上の自然数)回繰り返して実行可能である構成とする方がよい。
本構成によると、負荷データのサンプリングのたびに(ただし1回目を除く)、低負荷側ピークホールド値と高負荷側ピークホールド値とを更新することができる。また、下限しきい値と上限しきい値とを更新することができる。つまり、監視範囲を更新することができる。
(5)好ましくは、上記(3)の構成において、前記サンプリング工程と、前記ピークホールド工程と、をこの順番にN(Nは2以上の自然数)回繰り返した後に、前記監視範囲設定工程を実行可能である構成とする方がよい。
本構成によると、負荷データのサンプリングのたびに(ただし1回目を除く)、低負荷側ピークホールド値と高負荷側ピークホールド値とを更新することができる。また、N回分の負荷データに基づく低負荷側ピークホールド値に対して、総括的に下限しきい値を設定することができる。同様に、N回分の負荷データに基づく高負荷側ピークホールド値に対して、総括的に上限しきい値を設定することができる。
(6)好ましくは、上記(3)の構成において、前記サンプリング工程をN(Nは2以上の自然数)回繰り返した後に、前記ピークホールド工程と、前記監視範囲設定工程と、を実行可能である構成とする方がよい。
本構成によると、N回分の負荷データに対して、総括的に低負荷側ピークホールド値と高負荷側ピークホールド値とを取得することができる。また、当該低負荷側ピークホールド値に対して、下限しきい値を設定することができる。同様に、当該高負荷側ピークホールド値に対して、上限しきい値を設定することができる。
(7)好ましくは、上記(3)ないし(6)のいずれかの構成において、前記オフセット量は、前記低負荷側ピークホールド値と前記高負荷側ピークホールド値との間隔に対する相対値である構成とする方がよい。
例えば、低負荷側ピークホールド値と高負荷側ピークホールド値との間隔が狭い加工ポイントは、複数のサイクル間における負荷のばらつきが小さい。このため、監視範囲は狭くてもよい。これに対して、低負荷側ピークホールド値と高負荷側ピークホールド値との間隔が広い加工ポイントは、複数のサイクル間における負荷のばらつきが大きい。このため、監視範囲は広い方がよい。
この点、本構成のオフセット量は、低負荷側ピークホールド値と高負荷側ピークホールド値との間隔に対する相対値である。このため、複数のサイクル間における負荷のばらつきに対応して、監視範囲を変更することができる。つまり、加工ポイントごとに、下限しきい値、上限しきい値を、調整することができる。
(8)好ましくは、上記(3)ないし(7)のいずれかの構成において、前記インターフェイス装置は、要因入力部を有し、1回目の前記サイクルの前記負荷データを基準データとして、前記サンプリング工程において、2回目以降のいずれかの該サイクルの該負荷データが、該基準データの下方に配置される教示用下限しきい値、または該基準データの上方に配置される教示用上限しきい値を超えた場合、その要因が前記作業者により該要因入力部に入力される構成とする方がよい。
つまり、本構成は、サンプリング工程中に工具が異常状態になる可能性を考慮したものである。2回目以降のいずれかのサイクルで工具が異常状態になると、基準データに対して、負荷データが大きく異なってしまう。このような負荷データが監視範囲に反映されると、監視範囲の精度が低下してしまう。
この点、本構成によると、負荷データが教示用下限しきい値または教示用上限しきい値を超えた要因が、作業者により、要因入力部に入力される。このため、入力された要因を基に、制御装置は、(α)当該負荷データ全体を破棄する、(β)当該負荷データのうち当該超過部分を除外して低負荷側ピークホールド値および高負荷側ピークホールド値を取得する、(γ)サンプリング工程を最初からやり直す、などの対応をとることができる。
(9)好ましくは、上記(1)ないし(8)のいずれかの構成において、前記インターフェイス装置は、前記異常状態である旨が入力される異常ボタンと、該異常状態でない旨が入力される正常ボタンと、を有し、前記質問に対して、前記作業者が該異常ボタンを押した場合、前記制御装置は前記監視範囲を更新せず、該質問に対して該作業者が該正常ボタンを押した場合、該制御装置は該監視範囲を更新する構成とする方がよい。
工具の負荷が監視範囲を超えた場合、インターフェイス装置は、作業者に、工具が摩耗以外の異常状態であるか否かに関する質問を通知する。質問を受けて、作業者は、例えば停止した加工機の扉を開くなどして、工具の状態を確認する。
作業者の確認の結果、実際に工具が異常状態である場合、作業者は異常ボタンを押す。この場合、制御装置が工具の異常状態を判別できたことになる。制御装置の判断は適正なので、制御装置は監視範囲を更新しない。これに対して、作業者の確認の結果、実際には工具が正常状態である場合、作業者は正常ボタンを押す。この場合、制御装置が工具の正常状態を判別できなかったことになる。制御装置の判断は不適正なので、制御装置は監視範囲を更新する。本構成によると、制御装置が誤判別した場合に、監視範囲を更新することができる。このため、監視範囲の精度を向上させることができる。
(10)好ましくは、上記(9)の構成において、前記異常状態は、前記監視範囲の更新対象であるメイン異常状態と、該監視範囲の更新対象でないサブ異常状態と、を有し、前記異常ボタンは、該メイン異常状態である旨が入力されるメイン異常ボタンと、該サブ異常状態である旨が入力されるサブ異常ボタンと、を有し、前記質問に対して、前記作業者が該メイン異常ボタンまたは該サブ異常ボタンを押した場合、前記制御装置は該監視範囲を更新せず、該質問に対して該作業者が前記正常ボタンを押した場合、該制御装置は該監視範囲を更新する構成とする方がよい。
本構成によると、メイン異常状態とメイン異常ボタンとが対応している。また、サブ異常状態とサブ異常ボタンとが対応している。制御装置は、メイン異常ボタン、サブ異常ボタンどちらのボタンが押されたかを、記憶部に格納することができる。このため、異常状態のデータ収集および異常要因の分類を容易に行うことができる。
(11)好ましくは、上記(1)ないし(10)のいずれかの構成において、前記制御装置は、前記工具の前記負荷が前記監視範囲を超えたか否かを監視する監視区間を設定する監視区間設定工程を実行する構成とする方がよい。
加工開始時に、エアカットしていた工具がワークに当接すると、その瞬間、工具の負荷は大きく上昇する。この際、ワークの大きさにばらつきがあると、負荷が発生する時期や、負荷の変化率(=負荷(例えば主軸に加わるトルクや電流など)/時間(または工具の位置))がばらつく。例えば、ワークが大きい場合、負荷が発生する時期が早くなる。また、負荷の変化率が大きくなる。また、ワークにバリなどが存在すると、負荷の変化率が大きくなる。このように、外乱因子の影響により、負荷が不安定な区間が存在する。
負荷が不安定な区間において、制御装置が負荷の監視を行うと、頻繁に、負荷が監視範囲を超過してしまう。このため、実際には工具が異常状態ではないのに、インターフェイス装置が、工具が異常状態であるか否かに関する質問を、作業者に通知することになる。すなわち、負荷の外乱因子に基づく誤判断が頻繁に発生することになる。したがって、作業者が煩雑である。
この点、本構成によると、制御装置が、監視を行う監視区間(例えば、ワーク加工時の任意の二つの時点間、または任意の二つの位置間など)を設定している。監視区間を超過している場合、制御装置は負荷の監視を行わない。このため、例えば上記加工開始時など、負荷に外乱因子の影響が反映されやすい区間を、意識的に監視区間から除外することにより、誤判断の発生を抑制することができる。したがって、作業者の煩雑さを軽減することができる。
(12)好ましくは、上記(1)ないし(11)のいずれかの構成において、前記制御装置は、前記工具の前記負荷が前記監視範囲を連続して超えた回数である連続超過数と、連続超過数しきい値と、を比較し、前記インターフェイス装置は、該連続超過数が該連続超過数しきい値を超えた場合に、該工具が摩耗以外の異常状態であるか否かに関する質問を、作業者に通知する構成とする方がよい。
例えば、ワークにゴミが付着している場合、ワークの硬度が部分的に変化した場合など、工具の負荷は監視範囲を超過してしまう。すなわち、突発的な外乱因子により、負荷が監視範囲を超過してしまう。このため、実際には工具が異常状態ではないのに、インターフェイス装置が、工具が異常状態であるか否かに関する質問を、作業者に通知することになる。すなわち、負荷の突発的な外乱因子に基づく誤判断が発生することになる。したがって、作業者が煩雑である。
この点、本構成によると、制御装置が、負荷が監視範囲を超えた超過数をカウントしている。また、制御装置が、負荷が監視範囲を連続して超えた回数である連続超過数と、連続超過数しきい値と、を比較している。
比較の結果、連続超過数が連続超過数しきい値を超えた場合、インターフェイス装置は、工具が摩耗以外の異常状態であるか否かに関する質問を、作業者に通知する。一方、比較の結果、連続超過数が連続超過数しきい値以下の場合、インターフェイス装置は、工具が摩耗以外の異常状態であるか否かに関する質問を、作業者に通知しない。このため、突発的な外乱因子の影響により負荷が監視範囲を超過した場合に、誤判断の発生を抑制することができる。したがって、作業者の煩雑さを軽減することができる。
本発明によると、監視範囲の精度向上が容易な工具異常判別システムを提供することができる。
図1は、第一実施形態の工具異常判別システムの旋盤の前面図である。 図2は、同旋盤のブロック図である。 図3は、第一実施形態の工具異常判別システムを用いて行われる工具異常判別方法のフローチャートである。 図4は、同工具異常判別方法のサンプリング工程の1回目のサイクル時の負荷データである。 図5は、同工具異常判別方法のピークホールド工程により設定される低負荷側ピークホールド値および高負荷側ピークホールド値である。 図6は、同工具異常判別方法の監視範囲設定工程により設定される監視範囲である。 図7は、同工具異常判別方法の加工工程における負荷データである。 図8は、同工具異常判別方法の更新工程における更新後の監視範囲である。 図9は、第二実施形態の工具異常判別システムを用いて行われる工具異常判別方法のフローチャートである。 図10は、同工具異常判別方法の監視範囲設定工程により設定される監視範囲である。 図11は、同工具異常判別方法の加工工程における負荷データである。 図12は、その他の実施形態(その1)の工具異常判別システムを用いて行われる工具異常判別方法のフローチャートである。 図13は、その他の実施形態(その2)の工具異常判別システムを用いて行われる工具異常判別方法のフローチャートである。
1:旋盤、2:工具異常判別システム、3:チャック装置、4:テーブル、5:ベッド、6:スライド部、7:コラム、8:バイト交換台。
20:工具台、22:制御装置、23:画面(インターフェイス装置)、28:バイト(工具)、40:テーブル本体、41:主軸、42:主軸モータ、60:X軸スライド部、60a:X軸下スライド、60b:X軸スライド、61:Z軸スライド部、61a:Z軸下スライド、61b:Z軸スライド、62:ボールねじ部、63:Z軸モータ、71:ボールねじ部、72:X軸モータ。
220:コンピューター、220a:記憶部、220b:演算部、221:入出力インターフェイス、222:モータ駆動回路、230:「はい」ボタン(メイン異常ボタン)、231:「いいえ」ボタン(正常ボタン)、232:「キャンセル」ボタン(サブ異常ボタン)、233:質問。
A:サイクル、A1:加工部分、A2:加工部分、B:基準データ、B1:基準データ、B2:基準データ、C1:低負荷側ピークホールド値、C2:高負荷側ピークホールド値、D1:下限しきい値、D2:上限しきい値、ΔD:監視範囲、E1:負荷データ、E2:負荷データ、F1:教示用下限しきい値、F2:教示用上限しきい値、P1〜P4:加工ポイント、P5:始点、P6:終点、P10〜P20:負荷データ、ΔP:監視区間、W:ワーク、c1:低負荷側ピークホールド値、c2:高負荷側ピークホールド値。
以下、本発明の工具異常判別システムの実施の形態について説明する。
<<第一実施形態>>
<旋盤の構成>
まず、本実施形態の工具異常判別システムを有する旋盤の構成について説明する。図1に、本実施形態の工具異常判別システムを有する旋盤の前面図を示す。図2に、同旋盤のブロック図を示す。図1、図2に示すように、本実施形態の旋盤1は、工具異常判別システム2と、チャック装置3と、テーブル4と、ベッド5と、スライド部6と、コラム7と、バイト交換台8と、を備えている。
[チャック装置3、テーブル4、ベッド5、コラム7、バイト交換台8]
テーブル4は、テーブル本体40と、主軸41と、を備えている。主軸41は、ベッド5に収容されている。主軸41の上端は、ベッド5の前部上面から突出している。テーブル本体40は、主軸41の上端に固定されている。
チャック装置3は、テーブル本体40の上面に固定されている。チャック装置3は、ワークWを固定、解除可能である。ワークW、チャック装置3、テーブル4は、主軸モータ42から主軸41に伝達される駆動力により、水平面内における軸周りに回転可能である。
コラム7は、ベッド5の後部の前上部に配置されている。コラム7は、ボールねじ部71と、X軸モータ72と、を備えている。ボールねじ部71は、左右方向に延在している。X軸モータ72の駆動軸は、ボールねじ部71のシャフト部に連結されている。バイト交換台8は、ベッド5の右面に取り付けられている。
[スライド部6]
スライド部6は、X軸スライド部60と、Z軸スライド部61と、ボールねじ部62と、Z軸モータ63と、を備えている。
X軸スライド部60は、X軸下スライド60aと、X軸スライド60bと、を備えている。X軸下スライド60aは、コラム7の前方に固定されている。X軸下スライド60aは、左右方向(X軸方向に対応)に延在している。X軸スライド60bは、X軸下スライド60aに対して、左右方向に移動可能である。X軸スライド60bには、ボールねじ部62のナット部が取り付けられている。X軸モータ72の駆動力は、ボールねじ部62のシャフト部およびナット部を介して、X軸スライド60bに伝達される。すなわち、X軸スライド60bは、X軸モータ72の駆動力により、左右方向に移動可能である。
Z軸スライド部61は、Z軸下スライド61aと、Z軸スライド61bと、を備えている。Z軸下スライド61aは、上下方向(Z軸方向に対応)に延在している。Z軸下スライド61aは、X軸スライド60bの前方に配置されている。Z軸スライド61bは、Z軸下スライド61aに対して、上下方向に移動可能である。
ボールねじ部62は、上下方向に延在している。Z軸モータ63は、Z軸下スライド61aの上端に配置されている。Z軸モータ63の駆動軸は、ボールねじ部62のシャフト部に連結されている。一方、ボールねじ部62のナット部は、Z軸スライド61bに取り付けられている。Z軸モータ63の駆動力は、ボールねじ部62のシャフト部およびナット部を介して、Z軸スライド61bに伝達される。すなわち、Z軸スライド61bは、Z軸モータ63の駆動力により、上下方向に移動可能である。
[工具異常判別システム2]
工具異常判別システム2は、工具台20と、制御装置22と、画面23と、バイト28と、を備えている。画面23は、本発明の「インターフェイス装置」の概念に含まれる。バイト28は、本発明の「工具」の概念に含まれる。
工具台20は、Z軸スライド61bの下端に配置されている。バイト28は、工具台20に、交換可能に取り付けられている。バイト28の先端の刃により、ワークWに切削加工が施される。工具台20、バイト28は、X軸スライド部60およびZ軸スライド部61により、上下左右方向に駆動される。バイト交換台8には、ワークWの加工部分に応じて、複数のバイト28が用意されている。
制御装置22は、コンピューター220と、入出力インターフェイス221と、複数のモータ駆動回路222と、を備えている。コンピューター220は、記憶部220aと、演算部220bと、を備えている。記憶部220aには、後述する監視範囲(下限しきい値、上限しきい値)が格納されている。監視範囲は更新可能である。入出力インターフェイス221は、コンピューター220に接続されている。また、入出力インターフェイス221は、モータ駆動回路222を介して、X軸モータ72、Z軸モータ63、主軸モータ42に接続されている。また、入出力インターフェイス221は、画面23に接続されている。
<工具異常判別方法>
次に、本実施形態の工具異常判別システムを用いて行われる、工具異常判別方法について説明する。工具異常判別方法は、サンプリング工程と、ピークホールド工程と、監視範囲設定工程と、加工工程と、更新工程と、手動更新工程と、を有している。
[サンプリング工程、ピークホールド工程]
図3に、本実施形態の工具異常判別システムを用いて行われる工具異常判別方法のフローチャートを示す。図4に、同工具異常判別方法のサンプリング工程の1回目のサイクル時の負荷データを示す。図5に、同工具異常判別方法のピークホールド工程により設定される低負荷側ピークホールド値および高負荷側ピークホールド値を示す。
なお、図5においては、説明の便宜上、加工部分A2のみを示す。また、図5に示すのは、10回目のサンプリング工程後の低負荷側ピークホールド値C1、高負荷側ピークホールド値C2である。また、図5に示す加工部分A2同様に、図4に示す加工部分A1についても、低負荷側ピークホールド値C1、高負荷側ピークホールド値C2が設定される。
図2に示す制御装置22は、サンプリング工程と、ピークホールド工程と、をこの順番に、10回(=N(サイクル数))繰り返す。すなわち、10個のワークWに対して、切削負荷データの採取を行う。
なお、サンプリング工程と、ピークホールド工程と、後述する監視範囲設定工程と、を実行している間、画面23には、「チッピングしていますか?」という質問233が、表示されない。
具体的には、まず、作業者が、図2に示す画面23を介して、制御装置22に、ティーチング回数=10回、オフセット量=5%を入力する(図3のステップ1、ステップ2)。次に、制御装置22は、主軸モータ42を駆動し、チャック装置3つまりワークWを、自身の軸周りに回転させる。続いて、制御装置22は、X軸モータ72、Z軸モータ63を駆動し、バイト28を左右上下方向に適宜動かすことにより、ワークWの所定の加工部分に切削加工を施す。すなわち、サンプリング工程を開始する(図3のステップ3)。図4に示すように、1回のサイクルA(1個のワークWの加工)においては、制御装置22は、2箇所の加工部分A1(例えば外周面)、A2(例えば上端面)に、順次、切削加工を施す。バイト28は、加工部分A1、A2の角度、形状などに応じて、適宜交換される。図4に示すように、加工部分A1と加工部分A2とを比較すると、トルク(負荷)の値、トルクのばらつきが異なっている。図2に示す制御装置22は、図4に示す1回目のサイクルAの負荷データ(トルクデータ)を、基準データBとして、記憶部220aに格納する。
現在のサイクルAの数が10回以下の場合(図3のステップ4)、制御装置22は、サンプリング工程(図3のステップ3)と、ピークホールド工程(図3のステップ5)と、を繰り返す。すなわち、ピークホールド工程は、1回のサイクルAが完了するたびに実行される。
例えば、2回目のサイクルAが完了した際には、制御装置22は、1回目のサイクルAの負荷データと2回目のサイクルAの負荷データとを、各加工部分A1、A2の各加工ポイントごとに、比較する。ここで、各サイクルAにおける加工部分A1、A2の加工経路は一定である。このため、図4、図5の横軸の時間は、ワークWの加工ポイントに対応している。制御装置22は、2回分の負荷データを、加工ポイントが対応するように、重ね合わせる。そして、各加工ポイントにおいて、2回分の負荷データのうち、負荷が小さい方の負荷データの負荷を、低負荷側ピークホールド値に設定する。また、各加工ポイントにおいて、2回分の負荷データのうち、負荷が大きい方の負荷データの負荷を、高負荷側ピークホールド値に設定する。
図5に示すように、10回分の負荷データを重ね合わせると帯状になる。10回目のピークホールドにより(図3のステップ5)、図2に示す制御装置22は、図5に太線で示すように、曲線状に連なる10回分の低負荷側ピークホールド値C1を取得する。並びに、制御装置22は、図5に太線で示すように、曲線状に連なる10回分の高負荷側ピークホールド値C2を取得する。
図2に示す制御装置22は、図5に示す10回分のサイクルの負荷データ、低負荷側ピークホールド値C1、高負荷側ピークホールド値C2を、記憶部220aに格納する。
ここで、10回分の負荷データの中には、図4に示す基準データBから大きく外れるものも存在する。例えば、図5に示す加工ポイントP1においては、基準データB1に対して、負荷データE1が大きく下方に外れている。同様に、加工ポイントP2においては、基準データB2に対して、負荷データE2が大きく上方に外れている。
教示用オフセット量をh(=10%)、任意の加工ポイントP1、P2における基準データB1、B2のトルクをtとして、教示用下限しきい値F1は、以下の式から算出される。
F1=t−(t×h) ・・・式(1)
同様に、教示用上限しきい値F2は、以下の式から算出される。
F2=t+(t×h) ・・・式(2)
負荷データE1は、教示用下限しきい値F1を下回っている。このため、低負荷側ピークホールド値C1を取得する際に、除外される。また、負荷データE2は、教示用上限しきい値F2を上回っている。このため、高負荷側ピークホールド値C2を取得する際に、自動的に除外される。
このように、負荷データのうち、教示用下限しきい値F1、教示用上限しきい値F2を超過する部分は、低負荷側ピークホールド値C1、高負荷側ピークホールド値C2を取得する際に、除外される。図2に示す制御装置22は、教示用オフセット量h、教示用下限しきい値F1、教示用上限しきい値F2を、記憶部220aに格納する。
[監視範囲設定工程]
図6に、本実施形態の工具異常判別システムを用いて行われる工具異常判別方法の監視範囲設定工程により設定される監視範囲を示す。なお、説明の便宜上、加工部分A2のみを示す。また、図6に示す加工部分A2同様に、図4に示す加工部分A1に対しても、図2に示す制御装置22は、監視範囲ΔDを設定する。
本工程においては、前工程で得られた低負荷側ピークホールド値C1、高負荷側ピークホールド値C2を基に、制御装置22が監視範囲ΔDを設定する(図3のステップ6)。具体的には、制御装置22は、図3のステップ2で設定したオフセット量=5%を用いて、低負荷側ピークホールド値C1、高負荷側ピークホールド値C2を補正する。そして、下限しきい値D1、上限しきい値D2を算出する。
オフセット量をH(=5%)、任意の加工ポイントP3における、低負荷側ピークホールド値c1と高負荷側ピークホールド値c2との差をΔcとして、下限しきい値D1は、以下の式から算出される。
D1=c1−(Δc×H) ・・・式(3)
同様に、上限しきい値D2は、以下の式から算出される。
D2=c2+(Δc×H) ・・・式(4)
監視範囲ΔDは、以下の式から算出される。
ΔD=D2−D1 ・・・式(5)
このようにして、本工程においては、低負荷側ピークホールド値C1、高負荷側ピークホールド値C2を基に、図2に示す制御装置22が監視範囲ΔDを設定する。制御装置22は、オフセット量H、監視範囲ΔD(下限しきい値D1、上限しきい値D2)を、記憶部220aに格納する。
[加工工程]
図7に、本実施形態の工具異常判別システムを用いて行われる工具異常判別方法の加工工程における負荷データを示す。なお、説明の便宜上、加工部分A2のみを示す。本工程においては、前工程で得られた監視範囲ΔDを用いて、11回目以降のサイクルAを実行する。すなわち、監視範囲ΔDを用いて、実際にワークWの切削を行う。
具体的には、図2に示す制御装置22は、主軸モータ42を駆動し、チャック装置3つまりワークWを、自身の軸周りに回転させる。続いて、制御装置22は、X軸モータ72、Z軸モータ63を駆動し、バイト28を左右上下方向に適宜動かすことにより、ワークWの加工部分A2に切削加工を施す。11回目のサイクルAにおいて、負荷データが監視範囲ΔDを超過しない場合は(図3のステップ7)、12回目のサイクルAを行う(図3のステップ8)。
これに対して、11回目のサイクルAにおいて、負荷データが監視範囲ΔDを超過する場合は(図3のステップ7)、図2に示す制御装置22は、加工部分A2の加工終了後、または前記監視範囲ΔDを超過した時点で、旋盤1を停止する。また、制御装置22は、図2に示す画面23に、ガイダンスを表示する(図3のステップ9)。図3に示すように、画面23には、図7同様の負荷データが表示される。また、画面23には、「チッピングしていますか?」という質問233が表示される。また、質問233に対する回答入力用として、「はい」ボタン230、「いいえ」ボタン231、「キャンセル」ボタン232が表示される。「はい」ボタン230は、本発明の「メイン異常ボタン」の概念に含まれる。「いいえ」ボタン231は、本発明の「正常ボタン」の概念に含まれる。「キャンセル」ボタン232は、本発明の「サブ異常ボタン」の概念に含まれる。
作業者は、図1に示すバイト28を視認する。視認の結果、バイト28の刃にチッピングが発生している場合、作業者は、画面23の「はい」ボタン230を押圧する。チッピングは、本発明の「メイン異常状態」の概念に含まれる。また、視認の結果、バイト28の刃にチッピングが発生しておらず、かつバイト28が正常な状態(例えば、バイト28が摩耗しただけの状態)である場合、作業者は、画面23の「いいえ」ボタン231を押圧する。また、視認の結果、バイト28の刃にチッピングが発生しておらず、かつバイト28が他の異常状態(例えば、図7に示す加工ポイントP4においてバイト28がワークWの切屑を噛み込んでいる状態、バイト28が工具台20に装着されていない状態、図2に示すX軸モータ72、Z軸モータ63、主軸モータ42の動作がおかしい状態、図2の記憶部220aに格納されている切削加工用のプログラムがおかしい状態など)である場合、作業者は、画面23の「キャンセル」ボタン232を押圧する。ワークWの切屑の噛み込み、バイト28の非装着、X軸モータ72、Z軸モータ63、主軸モータ42の動作不良、切削加工用のプログラムの不良は、本発明の「サブ異常状態」の概念に含まれる。
「はい」ボタン230、または「キャンセル」ボタン232が作業者に押された場合は、12回目のサイクルAを行う(図3のステップ8)。この場合、制御装置22は、監視範囲ΔDを更新しない。
[更新工程]
図8に、本実施形態の工具異常判別システムを用いて行われる工具異常判別方法の更新工程における更新後の監視範囲を示す。なお、説明の便宜上、加工部分A2のみを示す。本工程においては、前工程にて「いいえ」ボタン231が作業者に押された場合に限って、監視範囲ΔDを更新する。
「いいえ」ボタン231が作業者に押された場合、バイト28が正常状態であるにもかかわらず、負荷データが上限しきい値D2を超過したことになる。この場合、図2に示す制御装置22は、図7の負荷データのうち、上限しきい値D2を超過した部分を用いて、ピークホールドを実行する。具体的には、図6に示す高負荷側ピークホールド値C2を補正する。そして、上記式(3)〜式(5)を用いて、下限しきい値D1、上限しきい値D2、監視範囲ΔDを再び算出する。
図8にハッチングで示すように、更新後の監視範囲ΔDには、図7に示す負荷データが反映されている。図2に示す制御装置22は、新しい監視範囲ΔD(下限しきい値D1、上限しきい値D2)を、記憶部220aに格納する。制御装置22は、12回目以降のサイクルAを、更新後の監視範囲ΔDを用いて行う。
[手動更新工程]
本工程においては、作業者が、手動で監視範囲ΔDを更新する。すなわち、加工部分A2の加工ポイントごとに、作業者が下限しきい値D1、上限しきい値D2を調整する。調整作業は、図2に示す制御装置22が画面23を数値入力モードに切り替え、作業者が当該画面に、下限しきい値D1、上限しきい値D2を入力することにより実行される。制御装置22は、画面23に、手入力された下限しきい値D1、上限しきい値D2を反映した監視範囲ΔDを表示する。
<作用効果>
次に、本実施形態の工具異常判別システム2の作用効果について説明する。本実施形態の工具異常判別システム2は、図3に示すように、バイト28の負荷が監視範囲ΔDを超えた場合に、「チッピングしていますか?」という質問233を、作業者に通知する。作業者は、直接バイト28を確認することにより、または画面23の荷重データなどで間接的にバイト28を確認することにより、実際にバイト28が異常状態であるか否かを確認することができる。すなわち、作業者は、監視範囲ΔDの妥当性を認識することができる。このため、容易に監視範囲ΔDの精度を向上させることができる。
また、本実施形態の工具異常判別システム2によると、監視範囲ΔDの精度が高いため、バイト28に安定した切削加工面を確保することができる。また、監視範囲ΔDの精度が高いため、バイト28を、チッピングが発生する直前まで、使用することができる。
工具異常判別方法のサンプリング工程においては、制御装置22は、各サイクルAごとにピークホールドを行いながら(図3のステップ5)、合計10回のサイクルAの負荷データをサンプリングする。このため、制御装置22は、図5に示すように、10回分の負荷データのうち、最も負荷が小さい負荷データの負荷を、低負荷側ピークホールド値C1に設定することができる。また、制御装置22は、10回分の負荷データのうち、最も負荷が大きい負荷データの負荷を、高負荷側ピークホールド値C2に設定することができる。
このように、本実施形態の工具異常判別システム2によると、制御装置22は、実際にサンプリングされた負荷データを重畳させることにより、低負荷側ピークホールド値C1および高負荷側ピークホールド値C2を設定している。また、制御装置22は、低負荷側ピークホールド値C1および高負荷側ピークホールド値C2を基に、監視範囲ΔDを設定している。このため、複雑な演算処理が不要であり、かつ視覚的にも確認が容易である。
また、サンプリング工程、ピークホールド工程、監視範囲設定工程においては、図3に示す画面23に、バイト28が異常状態であるか否かに関する質問が、表示されない。このため、サンプリング工程、ピークホールド工程、監視範囲設定工程を円滑に実行することができる。
また、ピークホールド工程においては、図5、式(1)、式(2)に示すように、負荷データのうち、教示用下限しきい値F1、教示用上限しきい値F2を超過する部分は、低負荷側ピークホールド値C1、高負荷側ピークホールド値C2を取得する際に、除外される。このため、異常な負荷データが監視範囲ΔDに反映されるおそれが小さい。したがって、監視範囲ΔDの精度を向上させることができる。
工具異常判別方法の監視範囲設定工程においては、制御装置22は、前記式(3)〜式(5)から監視範囲ΔDを設定している。ここで、下限しきい値D1、上限しきい値D2は、図6に示すように、低負荷側ピークホールド値c1と高負荷側ピークホールド値c2との差Δcに対応して、変化する。
すなわち、差Δcが大きい加工ポイント場合、言い換えるとサンプリング工程における10回分の負荷データのばらつきが大きい加工ポイントの場合、下限しきい値D1は、低負荷側ピークホールド値c1を大きく下回る。また、上限しきい値D2は、高負荷側ピークホールド値C2を大きく上回る。このため、監視範囲ΔDが広くなる。
これに対して、差Δcが小さい加工ポイント場合、言い換えるとサンプリング工程における10回分の負荷データのばらつきが小さい加工ポイントの場合、下限しきい値D1は、低負荷側ピークホールド値c1を小さく下回る。また、上限しきい値D2は、高負荷側ピークホールド値C2を小さく上回る。このため、監視範囲ΔDが狭くなる。このように、本実施形態の工具異常判別システム2によると、ワークWの加工ポイントに応じて、下限しきい値D1と上限しきい値D2との間隔(監視範囲ΔD)を変化させることができる。
工具異常判別方法の加工工程においては、11回目以降のサイクルAを実行する。つまり、設定した監視範囲ΔDを用いて、実際にワークWを切削加工する。加工工程においては、図3のステップ9に示すように、バイト28の負荷が監視範囲ΔDを超えた場合、画面23は、作業者に「チッピングしていますか?」という質問233を通知する。質問を受けて、作業者は、バイト28の状態を確認する。
作業者の確認の結果、実際にバイト28がチッピングしている場合、作業者は「はい」ボタン230を押す。この場合、制御装置22がバイト28のチッピングを判別できたことになる。制御装置22の判断は適正なので、制御装置22は監視範囲ΔDを更新しない。これに対して、作業者の確認の結果、実際にはバイト28が正常状態(例えば、バイト28が摩耗しただけの状態)である場合、作業者は「はい」ボタン230を押す。この場合、制御装置22がバイト28の正常状態を判別できなかったことになる。制御装置22の判断は不適正なので、制御装置22は監視範囲ΔDを更新する(更新工程)。また、作業者の確認の結果、バイト28の刃にチッピングが発生しておらず、かつバイト28が他の異常状態(例えば、加工ポイントP4においてバイト28がワークWの切屑を噛み込んでいる状態、バイト28が工具台20に装着されていない状態、図2に示すX軸モータ72、Z軸モータ63、主軸モータ42の動作がおかしい状態、図2の記憶部220aに格納されている切削加工用のプログラムがおかしい状態など)である場合、作業者は「キャンセル」ボタン232を押す。この場合、制御装置22が、他の異常状態を、チッピングと誤判別したことになる。この場合は、制御装置22の判断は不適正であるものの、監視範囲ΔDを更新しない。その理由は、この場合に監視範囲ΔDを更新すると、他の異常状態が監視範囲ΔDに反映されてしまうからである。このように、本実施形態の工具異常判別システム2によると、制御装置22が正常状態を誤判別した場合に限って、監視範囲を更新することができる。このため、監視範囲の精度を向上させることができる。
また、仮に、ワークWの切屑の噛み込みにより旋盤1が停止した場合であって、作業者がバイト28を確認した際に既に切屑が脱落していた場合を想定する。この場合、バイト28にはチッピングが発生していない。このため、作業者は、直接、異常状態を確認することはできない。しかしながら、図3のステップ9に示すように、画面23には、「はい」ボタン230、「いいえ」ボタン231、「キャンセル」ボタン232の横に、旋盤1停止直前の負荷データの時間変化(履歴)が並置されている。このため、当該負荷データとバイト28の状態とを基に、作業者は、旋盤1停止時に、ワークWの切屑の噛み込みが発生していたことを、推認することができる。このように、本実施形態の工具異常判別システム2によると、画面23の荷重データのグラフから、異常状態を推認することができる。
また、手動更新工程においては、作業者が、手動で監視範囲ΔDを更新することができる。このため、作業者がチッピングを視認した場合であって、かつ荷重データが監視範囲ΔD内の場合など、手動で上限しきい値D2を下げることができる。同様に、手動で下限しきい値D1を上げることができる。このように、本実施形態の工具異常判別システム2によると、ピークホールド工程により広くなりがちな監視範囲ΔDを、手動で狭めることができる。
また、画面23には、「はい」ボタン230と、「キャンセル」ボタン232と、が配置されている。「はい」ボタン230は、バイト28のチッピング(メイン異常状態)に対応している。「キャンセル」ボタン232は、チッピング以外の異常状態(サブ異常状態)に対応している。どちらのボタンが押されたかを、制御装置22は、記憶部220aに格納する。このため、異常状態のデータ収集および異常要因の分類を容易に行うことができる。
<<第二実施形態>>
本実施形態の工具異常判別システムと、第一実施形態の工具異常判別システムと、の相違点は、工具異常判別方法が監視区間設定工程、連続超過数しきい値設定工程を有している点である。ここでは、主に相違点について説明する。なお、説明には、図1、図2を援用する。
図9に、本実施形態の工具異常判別システムを用いて行われる工具異常判別方法のフローチャートを示す。なお、図3と対応する部位については同じ符号で示す。図10に、同工具異常判別方法の監視範囲設定工程により設定される監視範囲を示す。なお、図6と対応する部位については同じ符号で示す。図11に、同工具異常判別方法の加工工程における負荷データを示す。なお、図7と対応する部位については同じ符号で示す。
図9に示すように、工具異常判別方法は、サンプリング工程と、ピークホールド工程と、監視範囲設定工程と、監視区間設定工程と、連続超過数しきい値設定工程と、加工工程と、更新工程と、手動更新工程と、を有している。
監視範囲設定工程においては、図10に示すように、前工程で得られた低負荷側ピークホールド値C1、高負荷側ピークホールド値C2を基に、制御装置22が監視範囲ΔD(=D2−D1)を設定する(図9のステップ6)。制御装置22は、オフセット量、監視範囲ΔD(下限しきい値D1、上限しきい値D2)を、記憶部220aに格納する。
監視区間設定工程においては、図10に示すように、負荷データ(始点)P5と負荷データ(終点)P6との間を、監視区間ΔPに設定する(図9のステップ10)。
監視区間ΔPは、以下のようにして設定する。すなわち、制御装置22は、サンプリング工程の一回目の切削負荷データにおける、連続する10個の負荷データ(負荷電流)の最大値GHと最小値GLとの差ΔGを算出する。
ここで、主軸モータ42の負荷電流(詳しくは、主軸モータ42の負荷電流のうち、加減速に必要な電流を除いた負荷電流)は、(−7282〜7282)に正規化されている。モータ駆動回路222のアンプ(図略)の最大電流値(=20A)は、「7282」に対応している。
制御装置22は、差ΔG(A)≦(100/7282)×20(A)となる区間(詳しくは、当該不等号関係が連続する区間)を、監視区間ΔPとして設定する。監視区間ΔPにおいては、負荷の変化率(=負荷電流/時間)が小さい。このため、監視区間ΔPにおいては、負荷が安定している。制御装置22は、監視区間ΔPを、記憶部220aに格納する。
連続超過数しきい値設定工程においては、作業者が、画面23を介して、制御装置22に、連続超過数しきい値(加工工程において、負荷データ(負荷電流)が、監視範囲ΔDを、連続して超過する回数に関するしきい値)を入力する(図9のステップ11)。制御装置22は、連続超過数しきい値(本実施形態では2回)を、記憶部220aに格納する。
加工工程においては、制御装置22は、所定間隔(例えば30ms)ごとに検出される負荷データが、監視区間ΔP内に含まれるか否かを判断する(図9のステップ12)。例えば、図11に示す負荷データP10〜P12のように、加工工程の初期においては、エアカットから切削に移行する際に、主軸モータ42の負荷電流が、急激に大きくなる場合がある。このため、負荷電流が監視範囲ΔDを超過してしまう。しかしながら、負荷データP10〜P12は、いずれも監視区間ΔPの始点P5以前の負荷データである。すなわち、負荷データP10〜P12は、いずれも監視区間ΔPに含まれていない。このため、制御装置22は、負荷データP10〜P12と、監視範囲ΔDと、の比較を行わない。つまり、制御装置22は、負荷データP10〜P12の監視を行わない。
負荷データP12以降の負荷データは、監視区間ΔPに含まれることになる(図9のステップ12)。このため、制御装置22は、負荷データの監視を開始する(図9のステップ7)。すなわち、制御装置22は、負荷データと、監視範囲ΔDと、の比較を行う。負荷データが監視範囲ΔDを超過しない場合は、負荷データの監視を続行する(図9のステップ8)。
これに対して、負荷データが監視範囲ΔDを超過する場合は、制御装置22は、連続超過数をカウントする(図9のステップ13)。連続超過数が連続超過しきい値(=2回)を超過しない場合は、負荷データの監視を続行する(図9のステップ8)。
例えば、負荷データP13は監視範囲ΔDを超過しているものの、次の負荷データP14は監視範囲ΔDを超過していない。このため、連続超過数は1回である。また、負荷データP15、P16は連続して監視範囲ΔDを超過しているものの、次の負荷データP17は監視範囲ΔDを超過していない。このため、連続超過数は2回である。このような場合は、負荷データの監視を続行する(図9のステップ8)
一方、連続超過数が連続超過しきい値(=2回)を超過した場合は(図9のステップ13)、制御装置22は、加工部分A2の加工終了後、または監視範囲ΔDを超過した時点で、旋盤1を停止する。また、制御装置22は、画面23に、ガイダンスを表示する(図9のステップ9)。その後の工程は、第一実施形態同様である。
例えば、負荷データP18〜P20は3回連続して監視範囲ΔDを超過している。すなわち、連続超過数は3回(>2回)である((図9のステップ13)。この場合は、制御装置22は、旋盤1を停止し、画面23にガイダンスを表示する(図9のステップ9)。
ワークWの加工が進行し、監視区間ΔPの終点P6以降になると、制御装置22は、負荷データの監視を終了する(図9のステップ12)。
本実施形態の工具異常判別システムと、第一実施形態の工具異常判別システムと、は構成が共通する部分に関しては、同様の作用効果を有する。また、本実施形態の工具異常判別システムによると、図9のステップ12、図11に示すように、負荷データが監視区間ΔPを超過している場合は、たとえ負荷データが監視範囲ΔDを超過していても、制御装置22は、負荷データの監視を行わない。このため、例えば加工開始時など、負荷データに外乱因子の影響が反映されやすい区間を、意識的に監視区間ΔPから除外することができる。したがって、誤判断の発生を抑制することができる。よって、作業者の煩雑さを軽減することができる。
また、本実施形態の工具異常判別システムによると、図9のステップ13、図11に示すように、制御装置22は、連続超過数が連続超過数しきい値を超えた場合に限って、旋盤1を停止する。また、制御装置22は、画面23に、ガイダンスを表示する(図9のステップ9)。このため、例えばワークWにゴミが付着している場合など、突発的な外乱因子の影響により負荷データが監視範囲ΔDを超過した場合、誤判断の発生を抑制することができる。したがって、作業者の煩雑さを軽減することができる。
<<その他>>
以上、本発明の工具異常判別システムの実施の形態について説明した。しかしながら、実施の形態は上記形態に特に限定されるものではない。当業者が行いうる種々の変形的形態、改良的形態で実施することも可能である。
図12に、その他の実施形態(その1)の工具異常判別システムを用いて行われる工具異常判別方法のフローチャートを示す。なお、図3と対応する部位については同じ符号で示す。図12に示すように、監視範囲ΔDの設定(図12のステップ6)はサイクルAごとに行ってもよい。つまり、ピークホールド工程(ステップ5)と、次のサンプリング工程(ステップ3)と、の間に逐一行ってもよい。
図13に、その他の実施形態(その2)の工具異常判別システムを用いて行われる工具異常判別方法のフローチャートを示す。なお、図3と対応する部位については同じ符号で示す。図13に示すように、ピークホールド工程(ステップ5)は、サイクルAごとに行わなくてもよい。10回のサイクルAが完了した後、まとめてピークホールド工程を行ってもよい。
サンプリング工程におけるサイクルAの数、ピークホールド工程における教示用オフセット量h、監視範囲設定工程におけるオフセット量Hは特に限定しない。また、1回のサイクルA(1個のワークW)における加工部分A1、A2の数は特に限定しない。これらの数は、作業者が任意に入力、更新することができる。
また、上記実施形態においては、負荷データが監視範囲ΔDを超過する場合(図3のステップ7)、図2に示す制御装置22は、加工部分A2の加工終了後に旋盤1を停止した。しかしながら、制御装置22は、サイクルA完了後に旋盤1を停止してもよい。また、旋盤1を停止せずに、徐行運転を行ってもよい。このように、負荷データが監視範囲ΔDを超過する場合の制御装置22の対応は特に限定しない。
また、上記実施形態においては、図3に示すように、画面23に、「はい」ボタン230、「いいえ」ボタン231、「キャンセル」ボタン232を配置した。しかしながら、画面23に、「はい」ボタン230、「いいえ」ボタン231だけを配置してもよい。この場合、「はい」ボタン230が「キャンセル」ボタン232を兼ねることになる。このため、画面23のボタン数を減らすことができる。
負荷(負荷データ)の種類は特に限定しない。工具を動かすアクチュエータの負荷、およびワークを動かすアクチュエータの負荷のうち、少なくとも一方に、関連があればよい。例えば、トルク、負荷電流、負荷電圧などであってもよい。すなわち、図4〜図8の縦軸の「トルク」は、図2に示すX軸モータ72、Z軸モータ63、主軸モータ42各々のトルク、負荷電流でもよい。また、全モータの合計トルク、合計負荷電流でもよい。また、これらのモータのうち、二つのモータの合計トルク、合計負荷電流でもよい。また、図10、図11の縦軸の「負荷電流」は、図2に示すX軸モータ72、Z軸モータ63、主軸モータ42各々のトルク、負荷電流でもよい。また、全モータの合計トルク、合計負荷電流でもよい。また、これらのモータのうち、二つのモータの合計トルク、合計負荷電流でもよい。
第二実施形態の工具異常判別システムを用いて行われる工具異常判別方法において、監視区間(図9のステップ10)を設定する際に用いられる、サンプリング工程(図9のステップ3)の切削負荷データは、特に限定しない。1〜10回のうち、いずれの切削負荷データを用いてもよい。また、複数の切削負荷データを合成して用いてもよい。
また、本発明の工具異常判別システムは、フライス盤の工具、ボール盤のドリルなどの異常判別に用いることができる。

Claims (12)

  1. ワークに加工を施す工具と、
    監視範囲が格納される記憶部と、該監視範囲と、加工時の該工具の負荷と、を比較する演算部と、を有する制御装置と、
    該工具の該負荷が該監視範囲を超えた場合に、該工具が摩耗以外の異常状態であるか否かに関する質問を、作業者に通知可能なインターフェイス装置と、
    を備える工具異常判別システム。
  2. 前記異常状態は、前記工具のチッピング、該工具の非装着、前記ワークの切屑の噛み込みのうち、少なくとも一つである請求項1に記載の工具異常判別システム。
  3. 単一の前記ワークに対する加工作業を1回のサイクルとして、
    前記制御装置は、
    前記インターフェイス装置が前記質問を前記作業者に通知不可能な状態で、該サイクルの該ワークの前記負荷に関する負荷データをサンプリングするサンプリング工程と、
    サンプリングされた該負荷データを基に、低負荷側ピークホールド値および高負荷側ピークホールド値を取得するピークホールド工程と、
    オフセット量で該低負荷側ピークホールド値を下方に補正した下限しきい値と、該オフセット量で該高負荷側ピークホールド値を上方に補正した上限しきい値と、を設定し、該下限しきい値と該上限しきい値との間隔を前記監視範囲に設定する監視範囲設定工程と、
    を実行可能である請求項1または請求項2に記載の工具異常判別システム。
  4. 前記サンプリング工程と、前記ピークホールド工程と、前記監視範囲設定工程と、をこの順番にN(Nは2以上の自然数)回繰り返して実行可能である請求項3に記載の工具異常判別システム。
  5. 前記サンプリング工程と、前記ピークホールド工程と、をこの順番にN(Nは2以上の自然数)回繰り返した後に、前記監視範囲設定工程を実行可能である請求項3に記載の工具異常判別システム。
  6. 前記サンプリング工程をN(Nは2以上の自然数)回繰り返した後に、前記ピークホールド工程と、前記監視範囲設定工程と、を実行可能である請求項3に記載の工具異常判別システム。
  7. 前記オフセット量は、前記低負荷側ピークホールド値と前記高負荷側ピークホールド値との間隔に対する相対値である請求項3ないし請求項6のいずれかに記載の工具異常判別システム。
  8. 前記インターフェイス装置は、要因入力部を有し、
    1回目の前記サイクルの前記負荷データを基準データとして、
    前記サンプリング工程において、2回目以降のいずれかの該サイクルの該負荷データが、該基準データの下方に配置される教示用下限しきい値、または該基準データの上方に配置される教示用上限しきい値を超えた場合、その要因が前記作業者により該要因入力部に入力される請求項3ないし請求項7のいずれかに記載の工具異常判別システム。
  9. 前記インターフェイス装置は、前記異常状態である旨が入力される異常ボタンと、該異常状態でない旨が入力される正常ボタンと、を有し、
    前記質問に対して、前記作業者が該異常ボタンを押した場合、前記制御装置は前記監視範囲を更新せず、
    該質問に対して該作業者が該正常ボタンを押した場合、該制御装置は該監視範囲を更新する請求項1ないし請求項8のいずれかに記載の工具異常判別システム。
  10. 前記異常状態は、前記監視範囲の更新対象であるメイン異常状態と、該監視範囲の更新対象でないサブ異常状態と、を有し、
    前記異常ボタンは、該メイン異常状態である旨が入力されるメイン異常ボタンと、該サブ異常状態である旨が入力されるサブ異常ボタンと、を有し、
    前記質問に対して、前記作業者が該メイン異常ボタンまたは該サブ異常ボタンを押した場合、前記制御装置は該監視範囲を更新せず、
    該質問に対して該作業者が前記正常ボタンを押した場合、該制御装置は該監視範囲を更新する請求項9に記載の工具異常判別システム。
  11. 前記制御装置は、前記工具の前記負荷が前記監視範囲を超えたか否かを監視する監視区間を設定する監視区間設定工程を実行する請求項1ないし請求項10のいずれかに記載の工具異常判別システム。
  12. 前記制御装置は、前記工具の前記負荷が前記監視範囲を連続して超えた回数である連続超過数と、連続超過数しきい値と、を比較し、
    前記インターフェイス装置は、該連続超過数が該連続超過数しきい値を超えた場合に、該工具が摩耗以外の異常状態であるか否かに関する質問を、作業者に通知する請求項1ないし請求項11のいずれかに記載の工具異常判別システム。
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