JP5976165B2 - 染色紙 - Google Patents

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本発明は、基紙の風合いを残したまま着色料の量を調節することなく色の濃度を高く(濃く)したり、彩度を高くしたりすることができる染色紙に関するものである。
一般に、染色紙はパルプスラリーに染料や顔料で染色する事で得られ、使用する着色料にはアニオン性直接染料やカチオン性直接染料、塩基性染料、また無機や有機の顔料等があり所望する色相を得る為には数種類の染顔料を併用して用いる事が多い。染色紙はポスターやカタログ、手提げ袋や貼り函、封筒、書籍、お菓子やお酒のラベルなど様々な用途で美粧性を高める為に用いられる。特に濃度や彩度の高い染色紙はデザインの選択の幅を広げる上で重要な要素となる為、市場からの要求も高い。そこで濃色で冴えた色を求め、着色料の種類や添加量、添加順、定着時間など様々な工夫が行われている。周知の通り着色料を増やすと染色紙は濃色となるが、彩度の面からは色のくすみが生じる為、濃さと彩度を同時に得る事は難しく、そもそも基紙と着色料の間には飽和状態がある為、濃度にも一定の限界がある。また、過度な着色料の添加はコスト増に繋がる他、基紙に吸着できなかった未定着着色料が増加し、白水として排出される為、環境への負荷が大きくなるなど問題も抱えていた。また着色料の中でも各種染料の増加は、基紙が水に触れると染色していた染料が染み出す、所謂「色の泣き出し」が生じ、また顔料の増加は基紙が他紙などに触れると擦れ汚れを生じるなど問題も多く見られた。
そこで、従来では濃度や彩度の向上、環境への負荷軽減対策として、PVAや澱粉などの紙力増強剤に着色料を混合し、抄紙機工程内のサイズプレス等で塗布する所謂「表面染色」が一般的に用いられてきたが、染料の泣き出しや顔料の擦れ汚れに対しては、表層に存在する着色料の割合が増える為、顕著に悪化する。また基紙の外観から受ける感じ(風合い)も損なわれる。
また、着色料で染色した基紙の表面をスパッタエッチング処理し、表面に微細な凹凸を生じさせて光の拡散反射を増大させ正反射を減少させることにより、色の濃度を高くすることが知られている(特許文献1参照。)。しかし、この技術は、スパッタエッチング処理を行うための特殊な設備を必要とし、コストが高く工業化には向かない。
特開平11−12991号公報
本発明が解決しようとする課題は、基紙の風合いを残したまま着色料の量を調節することなく色の濃度や彩度を高くすることができる染色紙を提供することにある。
前記課題を解決するため、本発明に係る染色紙は、基紙のL表色系による明度Lが55以下の面に、体積平均粒子径で10〜780nmの粒子径を有する微粒子と結着剤を含む塗工液を塗布して、明度Lを1.5以上小さくしたことを特徴とする。
このように、基紙のL表色系による明度Lが55以下の面に、体積平均粒子径で10〜780nmの粒子径を有する微粒子と結着剤を含む塗工液を塗布して、明度Lを1.5以上小さくすることにより、基紙の風合いを残したまま着色料の量を調節することなく色の濃度を高くすることができる。
また、前記課題を解決するため、本発明に係る染色紙は、基紙のマンセル表色系による彩度Cが5.0以上の面に、体積平均粒子径で10〜780nmの粒子径を有する微粒子と結着剤を含む塗工液を塗布して、彩度Cを0.5以上大きくしたことを特徴とする。
このように、基紙のマンセル表色系による彩度Cが5.0以上の面に、体積平均粒子径で10〜780nmの粒子径を有する微粒子と結着剤を含む塗工液を塗布して、彩度Cを0.5以上大きくすることにより、基紙の風合いを残したまま着色料の量を調節することなく色の彩度を高くすることができる。
以上の場合において、微粒子が、コロイダルシリカを含むことが好ましい。
本発明によれば、基紙の風合いを残したまま着色料の量を調節することなく色の濃度や彩度を高くすることができる染色紙が得られる。
実施例1で得られた染色紙の走査型電子顕微鏡(SEM)による倍率3万倍の写真である。
以下、本発明に係る染色紙の実施形態を説明する。本実施形態の染色紙は、基紙の片面または両面に、微粒子を含む塗工液を塗布してなるものである。
本発明における基紙としては、主原料としてパルプ等であるものが好ましい。この主原料であるパルプとしては、特に限定されず、例えば、木材パルプ、非木材パルプ及びその他のパルプが挙げられる。木材パルプとしては、NBKP(針葉樹晒しパルプ)、LBKP(広葉樹晒しパルプ)、NUKP(針葉樹未晒しパルプ)、LUKP(広葉樹未晒しパルプ)、NBSP(針葉樹晒しサルファイドパルプ)、GP(砕木パルプ)、TMP(熱処理機械パルプ)、古紙パルプ等が挙げられる。非木材パルプとしては、ケナフ、竹、リンター、麻、バガス、ワラ、アシ、エスパルト、バナナ等が挙げられる。その他のパルプとしては、合成パルプ等が挙げられる。これらのパルプは、必要に応じて単独であるいは二種以上を併用して用いられる。さらに、これらに合成繊維を混合したパルプを用いてもよい。
基紙の染色の方法は、特に限定されず、パルプスラリーに着色料(染料及び顔料)を溶解または懸濁させる方法、前記の所謂「表面染色」の方法等周知の技術を一つまたは複数併用して用いることができる。その際、染料または顔料は、一種類でも複数でもよく、染料と顔料を併用することも可能である。
使用できる着色料としては、特に限定されず、直接染料、塩基性染料や、酸性染料、カチオン染料等の染料や、無機顔料または有機顔料等の着色顔料が挙げられる。
黒色の基紙を製造する場合、黒顔料を用いることもできる。黒顔料としては、例えば、ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルカーボン、サーマルブラック等のカーボンブラック顔料、マグネタイト、フェライト等の磁性体微粒子、アニリンブラック、チタンブラック、酸化銅、酸化鉄、フタロシアニンブラック等を挙げることができる。
基紙の両面の色が同一でも、異なっていてもよい。基紙の両面または片面の明度L及び/または彩度Cが、本発明の範囲に該当すればよい。塗工液の塗布も、基紙の両面でも片面でもよい。基紙、塗工液、明度L及びまたは彩度Cの変化が本発明の範囲に該当する面を一面でも有すれば、本発明の染色紙である。
また、同一の面の中に、色が異なる部分を有する基紙を用いることもできる。例えば、紙料中に模様形成体を配合して抄造した紙などである。それらの基紙においては、本発明の明度Lや彩度Cの範囲に該当する部分とそうでない部分を有する場合が有り得る。該当部分が少なくても、そこだけ色が濃くなったり鮮やかになったりすることがデザイン面の効果を生じさせる場合が有り、有益である。該当部分が多い場合は更に有益であり、該当部分が面積の30%以上であることが好ましく、より好ましくは50%以上、更に好ましくは70%以上である。
また、当然ながら、明度Lと彩度Cのいずれかが本発明の範囲に該当する面や部分を有する場合だけでなく、1つの面や部分が同時に明度Lと彩度Cを満たす場合も、本発明の基紙として用いることができる。
基紙は、色の濃度を高くする場合には、L表色系による明度Lが55以下である必要がある。基紙の明度Lは、好ましくは50以下、より好ましくは40以下、更に好ましくは30以下、最も好ましくは25以下である。基紙の明度Lが55を超えると、基紙の色の深みが大きく増加せず、微粒子を含む塗工液を塗布する効果が十分に発揮されないからである。このように、基紙の明度Lが55以下と小さい方すなわち基紙の濃度が高い方が、微粒子を含む塗工液を塗布することにより明度Lを小さくする程度、すなわち濃度が高くなる程度が大きくなって、色の深みを大きく増加することが可能となる。明度Lを小さくする程度は、外観上、濃さが格別に変化した印象を与えることができることから1.5以上であり、好ましくは2.0以上、より好ましくは2.5以上、更に好ましくは3.0以上、最も好ましくは4.0以上である。
なお、本発明のL表色系は、1976年に国際照明委員会(CIE)で規格化された表色系である。それを測定する方法は、JIS−P8150に記載されている。
また、基紙は、彩度を高くする場合には、マンセル表色系による彩度Cが5.0以上である必要がある。基紙の彩度Cは、好ましくは6.0以上、より好ましくは7.0以上、更に好ましくは8.5以上、最も好ましくは10.0以上である。基紙の彩度Cが5.0未満であると、彩度の向上が大きく増加せず、微粒子を含む塗工液を塗布する効果が十分に発揮されないからである。このように、基紙の彩度Cが5.0以上と高い方が微粒子を含む塗工液を塗布することにより彩度Cが高くなる程度が大きくなって、色の鮮やかさを格別に向上させることが可能となる。彩度Cを大きくする程度は、色の鮮やかさが格別に向上した印象を与えることができることから0.5以上であり、好ましくは0.6以上、より好ましくは0.65以上、更に好ましくは0.75以上、最も好ましくは0.9以上である。
なお、マンセル表色系による彩度Cを測定する方法は、JIS−Z8721に記載されている。
基紙の濃度や彩度の調整の方法は、特に限定されず、染色方法の選択や、着色料の種類の選択、混合、量の調整等が挙げられる。
また、基紙の濃度や彩度を調整した上で本発明を適用してもよいが、既存の製品を基紙として本発明を適用することも、産業上で非常に有用である。既存の製品に対して色相や風合い、紙力等を変えずに、濃度や彩度のみを向上させたいという市場の要求が生じることが多々あるが、そのような場合に、本発明は非常に有用である。
基紙を製造する際の抄紙機としては、特に限定されず、例えば、円網抄紙機、ツインワイヤー抄紙機や、長網抄紙機、円網抄紙機、傾斜ワイヤー抄紙機等のコンビネーション機等の各種の公知のものを用いることができる。
基紙には、目的に応じて、添加剤を含有させてもよい。例えば、内添サイズ剤として、ロジン系サイズ剤、アルケニル無水コハク酸、アルキルケテンダイマー、石油樹脂系サイズ剤などを用いることができる。また、その他の添加剤として、湿潤紙力増強剤、乾燥紙力増強剤、顔料分散剤、増粘剤、流動性改良剤、消泡剤、抑泡剤、離型剤、発泡剤、浸透剤、蛍光増白剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、防腐剤、防バイ剤、耐水化剤、保湿剤、改質剤などを、本発明の効果を損なわない範囲で適宜配合することができる。更に、カオリン、チタン、炭酸カルシウム、タルクなどの填料を添加してもよい。
本発明における塗工液は、微粒子を含み、塗布可能なものであれば、その形態を問わない。微粒子自体が流動性を有し、基紙に付着させられるものであれば、微粒子のみでもよい。しかし、塗工液は、塗布の容易さの面から、水、アルコール等の溶媒を含むことが好ましい。また、微粒子の基紙への定着を強固にするために、結着剤を含むことが好ましい。
結着剤は、微粒子の基紙への定着を向上させるためのものである。結着剤としては、公知のものを使用でき、例えば、ポリビニルアルコール、酸化澱粉、エーテル化澱粉、エステル化澱粉、酵素変性澱粉、カゼイン、スチレン−ブタジエン系、スチレン−アクリル系、メチルアクリレート、酢酸ビニル系などの各種重合体又は共重合体から成るラテックス樹脂等を適宜選択して単独もしくは2種類以上を混合して使用できる。好ましくはポリビニルアルコールである。また、結着剤は、光の屈折率が小さいものを用いると、本発明の効果を補助し、好適である。さらに、塗工液は、必要に応じ、分散剤,潤滑剤,架橋剤,消泡剤,増粘剤,耐水化剤等の助剤等を含んでいてもよい。塗工液の調製には、例えば、各種ミキサー、ニーダー、ボールミルなどの攪拌機等を適宜使用できる。
本発明における微粒子としては、特に限定されず、無機系のものでも有機系のものでもよいし、また、種々の目的で市販されている填料、添加剤等の中から選択してもよいし、粉砕等の手段で製造したものでもよく、1種類又は2種類以上を適宜選択して用いることができる。
無機系の微粒子としては、シリカ、アルミナ、酸化チタン、炭酸カルシウム、カオリン、タルク、サチンホワイト、ホワイトカーボン、珪酸アルミニウム、珪酸マグネシウム、炭酸マグネシウム等が挙げられる。中でも、明度Lを小さくする効果や彩度Cを大きくする効果が高いことから、シリカまたはアルミナが好ましい。その中でも、コロイダルシリカは、分散の状態がよいため塗工液製造中の凝集が少ない点で好ましい。本発明においては、微粒子が本来備えている粒子状の形状の多くが塗工液中及び塗工後の紙の表面で保持されていることが好ましく、コロイダルシリカはこの条件によく合致する。また、コロイダルシリカは、粒子径が小さいものを得やすい点と、形状の面で球状、特に真球状のものが多く効果が安定しやすい点で好ましい。無機系の微粒子は、単独のものでも複数のものすなわち複合微粒子でもよい。
有機系の微粒子としては、ポリメタクリル酸メチル、ポリアクリロニトリル等のアクリル系プラスチックピグメント、スチレン系プラスチックピグメント、ポリエチレン、尿素樹脂、メラミン樹脂等が挙げられる。中でも、アクリル系プラスチックピグメントは、微粒子であるもの、特に真球状のものが豊富に市販されている点で、好ましい。有機系の微粒子は、単独のものでも複数のものすなわち複合微粒子でもよい。また、無機系の微粒子と有機系の微粒子との複合粒子でもよい。
微粒子は、粒子径が500nm以下のものを用いる。微粒子の粒子径が500nmを超えると、濃度や彩度を高める効果が小さくなるからである。このように、微粒子の粒子径は、500nm以下にすることにより、基紙の表面に存在する500nm以下の微粒子の存在によって紙に当たった可視光の反射が抑制されるので、元の基紙と比較して濃度や彩度を大きく増加することが可能となる。本発明において、可視光の反射が抑制される要因は複雑であると考えられるが、特に、微粒子が球状の場合には、モスアイ効果と言われる作用が大きく寄与していると推測される。モスアイ効果は、光の波長より狭い間隔で微小な突起が並んだ構造が光の反射を抑えるという効果である。蛾の眼がこのような構造を有していることから、モスアイ効果と称され、液晶ディスプレイ等の分野では工業的に利用されている。本実施形態の染色紙(例えば後記の実施例1のもの)を電子顕微鏡で観察したところ、その表面に多数の微粒子が現れており、蛾の眼の表面と類似した外観であった(図1参照。)。
微粒子の粒子径は、500nm以下であるが、明度Lを小さくする効果や彩度Cを大きくする効果の面から、好ましくは380nm以下、より好ましくは200nm以下、最も好ましくは100nm以下である。可視光の波長は、380nm〜780nmといわれており、500nm以下であれば、多くの可視光に対してモスアイ効果を発揮させることができる。380nm以下であれば、すべての可視光に対してモスアイ効果を発揮させることができる。更に、200nm、100nmと小さくなると、より効果が向上する。この理由は明確ではないが、次の様に推測される。すなわち、微粒子は、紙の表面において凝集する部分が有り、その部分では、実質的に大きい粒子を用いた場合と類似した構造になる。その際に微粒子が非常に小さいと、凝集した部分でも小さい為、効果を発揮すると推測される。一方、小さ過ぎると、塗工液中で凝集しやすく、効果が減少する。本発明で用いる微粒子の粒子径は、好ましくは20nm以上、より好ましくは50nm以上、最も好ましくは70nm以上である。
微粒子の粒子径の測定は、公知の種々の方法を用いることができる。例えば、微粒子を水等に分散させてシート状のものに塗布し、乾燥させたものを電子顕微鏡で撮影して、その写真から求めることもできる。本発明においては、真球状でない粒子については、真上から見てシートに投影される面積を観察し、それと同面積の円の直径を、粒子径とする。
微粒子を含む塗工液には、本発明の効果を損なわない範囲で、500nmを超える粒子径の微粒子が含まれていてもよい。微粒子として500nm以下のものを得る方法は、特に限定されず、大きいものを粉砕して製造したり、合成して製造したりしてもよいし、市販されている粒子径が特定されたものを用いてもよい。また、大きい粒子が含まれることによる本発明の効果の低下等の悪影響を防ぐ面から、微粒子の粒度分布はシャープな方が好ましい。微粒子のうち、500nm以下のものが占める割合が、体積比で、40%以上であることが好ましい。より好ましくは50%以上、更に好ましくは60%以上、最も好ましくは70%以上である。また、本発明の効果を大きくする為に、微粒子は、体積平均粒子径で、1000nm以下であることが好ましく、より好ましくは780nm以下、更に好ましくは500nm以下、より更に好ましくは380nm以下、最も好ましくは200nm以下である。平均粒子径が小さい方が、モスアイ効果が大きいと推測される。可視光の波長は380〜780nmとされており、体積平均粒子径が780nm以下だと長い波長の可視光に対してモスアイ効果が大きく、380nm以下だとすべての可視光に対してモスアイ効果が大きい。一方、小さ過ぎると凝集が生じて効果が低減する場合があるため、体積平均粒子径は、好ましくは10nm以上、より好ましくは30nm以上、更に好ましくは50nm以上、最も好ましくは70nm以上である。
塗工液を塗布する方法としては、特に限定されず、例えば、塗工、噴射して散布する等、種々の方法を用いることができ、生産の容易さの点で、塗工が好ましい。なお、ここでいう塗工には、塗工液に浸ける、言い換えれば塗工液の中を通過させるものも含まれ、その例としてポンド式サイズプレスが挙げられる。また、塗工液中の成分の多くが基紙の中に浸透する場合、含侵させるという表現が用いられる場合が有るが、これも、ここでいう塗布に含まれる。
塗工液を塗布する装置としては、特に限定されず、例えば、エアナイフコーター、グラビアコーター、ブレードコーター、ロールコーター、リバースロールコーター、バーコーター、カーテンコーター、ダイスロットコーター、チャンプレックスコーター、サイズプレスコーター、ゲートロールコーター、ビルブレードコーター等が挙げられる。特に好ましい方法としては、サイズプレスが挙げられる。抄紙機にサイズプレスのための装置が併設されている場合が多く、これを用いれば、抄紙後に他の装置に移動させて塗工する場合と比較して工程が簡略化できる為である。サイズプレスの方法としては、特に限定されず、ポンド式サイズプレス、ゲートロール型やロッドメタリング型のサイズプレス等の公知のもの等を用いることができる。
本発明において微粒子は、粒子径が500nm以下のものを、基紙の面積に対し固形分で、50mg/m以上塗布することが好ましい。微粒子の塗布量が50mg/m未満であると、明度Lを小さくする効果や彩度Cを大きくする効果が不足することがある。その理由は、微粒子の塗布量が少なすぎると、染色紙の表面のうちで微粒子に覆われていない部分の面積が増大するため反射率の抑制効果が乏しくなるからと推測される。効果の点から、より好ましくは90mg/m以上、更に好ましくは500mg/m以上、最も好ましくは700mg/m以上である。
また、微粒子の塗布量の上限は、特に限定されないが、15000mg/m以下であることが好ましい。量が多過ぎると、コストが増大する他、却って効果が小さくなる場合がある。その原因としては、粒子が重なり合う部分が増加して、蛾の眼の構造と類似しなくなり、モスアイ効果が減少する為と推測される。より好ましくは5000mg/m以下、更に好ましくは3000mg/m以下である。
塗工液において微粒子の結着剤との比率は、固形分質量比で、結着剤を1とした場合の微粒子が、好ましくは0.5〜60、より好ましくは0.7〜50、更に好ましくは1.0〜30、最も好ましくは1.5〜10である。微粒子の結着剤との比率を、固形分質量比で、結着剤を1とした場合の微粒子が0.5未満であると、紙の表面において微粒子が結着剤に埋没して微粒子を塗布する効果が小さく、60を超えると、微粒子が紙に定着しにくいからである。
このように、本実施形態の染色紙は、基紙のL表色系による明度Lが55以下の面に、体積平均粒子径で10〜780nmの粒子径を有する微粒子と結着剤を含む塗工液を塗布して、明度Lを1.5以上小さくしたことで、基紙の風合いを残したまま着色料の量を調節することなく色の濃度を高くすることができる。また、外観上、濃さが格別に変化した印象を与えることができ、さらに他の手段で濃くした場合の弊害を防ぐ利点も大きくなる。
また、本実施形態の染色紙は、基紙のマンセル表色系による彩度Cが5.0以上の面に、体積平均粒子径で10〜780nmの粒子径を有する微粒子と結着剤を含む塗工液を塗布して、彩度Cを0.5以上大きくしたことで、基紙の風合いを残したまま着色料の量を調節することなく色の彩度を高くすることができる。また、色の鮮やかさが格別に向上した印象を与えることができ、さらに表面に着色料を塗布する方法と異なり、紙の風合いを維持できる。
以下、本実施形態の染色紙を実施例および比較例によりさらに詳細に説明するが、本実施形態の染色紙は、以下の実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
使用パルプとしてLBKPを用いて得た3質量%パルプ懸濁液中に、着色料として日本化薬株式会社製「カヤフェクトブラックS」を対パルプ4質量%添加して約60分撹拌した後、フリーネスを480mlC.S.Fとし、ロジンサイズ剤を対パルプ5質量%、硫酸バンドを対パルプ5質量%添加し、抄紙機を使用して坪量116g/m(絶乾重量換算)で抄紙して基紙を作成した。
また、塗工液は、体積平均粒子径87nmのシリカ(商品名:スノーテックスZL、日産化学工業株式会社製、コロイダルシリカ、球状、アルカリ性)、ポリビニルアルコール(商品名:クラレポバールPVA117、株式会社クラレ製)、水を混合して撹拌して作成した。この塗工液は、塗工液全体の質量に対する固形分質量比で、シリカが8.5%、ポリビニルアルコールが4%となるようにシリカとポリビニルアルコールを含有させた。なお、上記の体積平均粒子径は、レーザ回折式粒度分布測定装置(商品名:SALD−2200、株式会社島津製作所製)によって測定した値である(以下の例でも同様に体積平均粒子径を測定した。)。また、同装置による測定の結果、シリカ(商品名:スノーテックスZL、日産化学工業株式会社製)は、すべての粒子が500nm未満であった。
次に、上記のように作成した基紙の片面に、上記のように作成した塗工液を、試験用のグラビア塗工機(商品名:Kプリンティングプルーファー、RK Print Coat Instruments社製(英国))を用いて10g/m塗布し、ロータリードラムドライヤーで乾燥させて、染色紙を得た。
(実施例2)
実施例1において、「スノーテックスZL」の代わりに、体積平均粒子径472nmのシリカ(商品名:スノーテックスMP−4540M、日産化学工業株式会社製、コロイダルシリカ、球状、アルカリ性)を用いた以外は、実施例1と同様にして染色紙を得た。
(実施例3)
実施例1において、着色料として「カヤフェクトブラックS」の代わりに日本化薬株式会社製「カヤフェクト レッドB リキッド」を用い、対パルプ10質量%添加して基紙を作成した以外は、実施例1と同様にして染色紙を得た。
(実施例4)
実施例1において、「スノーテックスZL」の代わりに、体積平均粒子径92nmのアルミナ(商品名:アルミナゾル520、日産化学工業株式会社製、板状)を用い、塗工液中に塗工液全体の質量に対する固形分質量比で、アルミナが8.0%、ポリビニルアルコールが2.0%となるようにアルミナとポリビニルアルコールを含有させた以外は、実施例1と同様にして染色紙を得た。
(実施例5)
実施例1において、塗工液中に塗工液全体の質量に対する固形分質量比で、シリカが1.0%、ポリビニルアルコールが0.5%となるように含有させた以外は、実施例1と同様にして染色紙を得た。
(比較例1)
実施例1において、微粒子として「スノーテックスZL」の代わりに体積平均粒子径2492nmのシリカ(商品名:ミズカシルP−527、不定形、水澤化学工業株式会社製)を用いた以外は実施例1と同様にして染色紙を得た。
(比較例2)
実施例1において、着色料として「カヤフェクトブラックS」の代わりに日本化薬株式会社製「カヤフェクト ブルーF リキッド」を対パルプ1%、株式会社日本化学工業所製「ダイレクトペーパー イエローRSL」を対パルプ3質量%添加して基紙を作成した以外は、実施例1と同様にして染色紙を得た。
これら実施例1〜5及び比較例1〜2の染色紙について、塗工液が塗布された面の、L表色系による明度Lを分光測色計(商品名:CM−3700d、コニカミノルタ社製)を用いて測定した。また、同じ方法で塗布前に測定しておいた基紙の明度Lとの差を算出するとともに、目視による基紙との差の観察を行ってその結果を表1に示した。尚、基紙はいずれも両面の明度Lが同一であった。
表1の結果から明らかなとおり、実施例1〜5は、いずれも基紙の色の深みが大きく増加し、特に実施例1は、基紙の色(黒色)の深みが非常に大きく増加し、高級感が出た。これに対して、粒子径が大きい微粒子を用いた比較例1は、基紙の色(黒色)の深みが減少した。明度Lが本発明の範囲から外れる基紙を用いた比較例2は、基紙の色(緑色)の深みがやや増加したが、色の深みが格別に向上した印象を与えることができなかった。
(実施例6)
実施例1において、着色料として「カヤフェクトブラックS」の代わりにダイスタージャパン株式会社製「ダイヤペーパー レッドG リキッド」を対パルプ5質量%添加して基紙を作成した以外は、実施例1と同様にして染色紙を得た。
(実施例7)
実施例6において、「スノーテックスZL」の代わりに、体積平均粒子径472nmのシリカ(商品名:スノーテックスMP−4540M)を用いた以外は、実施例6と同様にして染色紙を得た。
(実施例8)
実施例1において、着色料として「カヤフェクトブラックS」の代わりにダイスタージャパン株式会社製「ダイヤペーパー レッドG リキッド」を対パルプ7質量%添加して基紙を作成した以外は、実施例1と同様にして染色紙を得た。
(実施例9)
実施例1において、着色料として「カヤフェクトブラックS」の代わりにダイスタージャパン株式会社製「ダイヤペーパー レッドG リキッド」を対パルプ1%、株式会社日本化学工業所製「ダイレクトペーパー イエローRSL」を対パルプ3質量、日本化薬株式会社製「カヤフェクト ブルーF リキッド」を対パルプ0.5%添加して基紙を作成した以外は、実施例1と同様にして染色紙を得た。
(比較例3)
実施例6において、微粒子として「スノーテックスZL」の代わりに体積平均粒子径2492nmのシリカ(商品名:ミズカシルP−527)を用いた以外は、実施例6と同様にして染色紙を得た。
(比較例4)
実施例1において、着色料として「カヤフェクトブラックS」の代わりに日本化薬株式会社製「カヤフェクト ブルーF リキッド」を対パルプ8%添加して基紙を作成した以外は、実施例1と同様にして染色紙を得た。
これら実施例6〜9及び比較例3〜4の染色紙について、塗工液が塗布された面の、マンセル表色系による彩度Cを分光測色計(商品名:CM−3700d、コニカミノルタ社製)を用いて測定した。また、同じ方法で塗布前に測定しておいた基紙の彩度Cとの差を算出するとともに、目視による基紙との差の観察を行ってその結果を表2に示した。尚、基紙はいずれも両面の彩度Cが同一であった。
表2の結果から明らかなとおり、実施例6〜9は、いずれも基紙の色の冴えが大きく増加し、特に実施例6は、基紙の冴えが非常に大きく増加し、高級感が出た。これに対して、粒子径が大きい微粒子を用いた比較例3は、基紙の色(赤み)の冴えが減少した。彩度Cが本発明の範囲から外れる基紙を用いた比較例4は、基紙の色(青み)の冴えがやや増加したが、色の冴えが格別に向上した印象を与えることができなかった。

Claims (3)

  1. 基紙のL表色系による明度Lが55以下の面に、体積平均粒子径で10〜780nmの粒子径を有する微粒子と結着剤を含む塗工液を塗布して、明度Lを1.5以上小さくしたことを特徴とする染色紙。
  2. 基紙のマンセル表色系による彩度Cが5.0以上の面に、体積平均粒子径で10〜780nmの粒子径を有する微粒子と結着剤を含む塗工液を塗布して、彩度Cを0.5以上大きくしたことを特徴とする染色紙。
  3. 微粒子が、コロイダルシリカを含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の染色紙。
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