本発明を実施するための形態について、図面を参照して説明する、しかしながら、本発明は、以下に述べる形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲記載における技術的思想の範囲内であれば、その他いろいろな形態が含まれる。
図1に本発明における複写けん制印刷物(1)を示す。はじめに、本発明の複写けん制印刷物(1)の概要について説明する。複写けん制印刷物(1)は浸透性を有する基材(2)の上の少なくとも一部に、基材(2)と異なる色を有する印刷画像(3)が形成されており、印刷画像(3)は、少なくとも第一の図形領域(4)、第二の図形領域(5)、背景領域(6)の三つの領域により構成されて成る。図1では、基材(2)の一部に印刷画像(3)が形成された状態を示しているが、本発明の複写けん制印刷物(1)は、基材(2)上の全体に印刷画像(3)が形成される構成でもよい。
説明の便宜上、図1に示した印刷画像(3)の中には、第一の図形領域(4)及び第二の図形領域(5)が視認できるが、拡散反射光下で観察した場合には、第一の図形領域(4)、第二の図形領域(5)、背景領域(6)の三つの領域は等色であり、それぞれの領域は識別できない状態となっている。なお、本発明において、「拡散反射光下での観察」とは、観察者の視点が、正反射光がほとんど存在しない領域中にあって複写けん制印刷物(1)を観察している状況のことをいう。そして、本発明の複写けん制印刷物(1)を光に透かすと、一例として、図2に示すように、印刷画像(3)のうち、第一の図形領域(4)は光に透けて不可視となり、第二の図形領域(5)及び背景領域(6)が光を遮ることで、第一の図形領域(4)が表す第一の有意情報がネガ画像として視認できるようになる。なお、印刷物を光に透かすと光に透ける領域と光を遮る領域が生じることによって、印刷物上に画像が現れる効果を、以下、「潜像発現効果」と称する。
さらに、本発明の複写けん制印刷物(1)を複写機で複写すると、一例として、図3に示すように、印刷画像(3)のうち、第二の図形領域(5)が複写されて可視となり、第一の図形領域(4)と背景領域(6)は複写されずに不可視となって、第二の図形領域(5)が現す第二の有意情報が画像として視認できるようになる。なお、印刷物を複写すると複写できる領域とできない領域が生じることによって、複写物上に画像が現れる効果を、以下、「複写けん制効果」と称する。また、印刷物を光に透かしたり、複写したりしたときに、ある図形が視認できるようになることを、以下、その図形が「主体的に見える」と称する。
このように、本発明の複写けん制印刷物(1)は、光に透かした場合に視認できる画像と、複写機で複写して視認できる画像が異なるという効果を有している。以下、本発明の複写けん制印刷物(1)の詳細な構成について説明する。
(第1の実施の形態)
図4は、基材(2)に形成される印刷画像(3)の構成を示す図である。本発明で用いる基材(2)は、後述する「浸透成分を含む有色のインキ」(以下、「有色浸透インキ」と称する。)を印刷した場合に、インキが基材(2)の内部に浸透する特性(以下、「浸透性」と称する。)と、インキが浸透すると基材(2)が光を透過する特性(以下、「透光性」と称する。)とを有した、紙や不織布などの繊維が絡まりあった基材や多孔質の基材などであって、基材に微細な空隙が多数あって、薄手の素材を指す。具体的な例としてはコピー用紙等として用いるような坪量80グラム/平方メートル前後の上質紙や、コート剤の塗工量が比較的少ない塗工紙のような用紙等がこれに該当する。
第1の実施の形態において印刷画像(3)は、図4に示すように、第一の図形領域(4)、第二の図形領域(5)及び背景領域(6)から構成される。図4に示す印刷画像(3)の例では、第一の図形領域(4)が第一の有意情報である「○」の文字を現し、第二の図形領域(5)が第二の有意情報である「×」の文字を現している状態を示しているが、本発明において、第一の図形領域(4)及び第二の図形領域(5)が現す有意情報は、「○」及び「×」の文字に限定されるものではなく、他の文字で形成されても良いし、各種の図形、図柄、マーク、模様、数字、記号のいずれか又はその組み合わせで形成されてもよい。
本発明において印刷画像(3)は、背景領域(6)が第一の図形領域(4)の少なくとも一部と第二の図形領域(5)の少なくとも一部を囲む配置で構成される。図4に示す背景領域(6)の配置は、第一の図形領域(4)と第二の図形領域(5)の全体を囲んだ構成であり、このように、背景領域(6)が第一の図形領域(4)と第二の図形領域(5)を囲むことによって、拡散反射光下で観察したときに、それぞれの領域を識別できないようにするとともに、光に透かしたときに視認できる画像と、複写したときに視認できる画像を形成することができる。ただし、第一の図形領域(4)と第二の図形領域(5)が現す有意情報やその配置によって、上記した背景領域(6)の効果が得られる場合には、第一の図形領域(4)と第二の図形領域(5)の全体を囲む必要がなく、第一の図形領域(4)の少なくとも一部と第二の図形領域(5)の少なくとも一部を囲む配置であっても良い。
本発明の第1の実施の形態において、印刷画像(4)を構成する第一の図形領域(4)、第二の図形領域(5)及び背景領域(6)は、有色浸透インキから成る透過可読要素、透過不読要素と、有色浸透インキと同じ色相の有色のインキから成る不透可読要素、不透不読要素の四つの要素のうち、三つの要素が互いに異なる領域に複数配置されて成る。なお、透過可読要素、透過不読要素と不透可読要素、不透不読要素を形成するインキの詳細については、後述する。
図5は、図4に示す、太線枠で囲まれた部分を拡大した図であり、前述した透過可読要素、透過不読要素、不透可読要素及び不透不読要素のうち、三つの要素が互いに異なる領域に複数配置される一例として、第一の図形領域(4)に透過可読要素(31)が配置され、第二の図形領域(5)に、不透不読要素(32)が配置され、背景領域(6)に不透可読要素(33)が配置された状態を示している。
本発明において、透過可読要素、透過不読要素、不透可読要素及び不透不読要素は、画素及び画線の一方又はその組み合わせで構成される。なお、本明細書でいう「画素」とは、印刷画像(3)を構成する最小単位である印刷網点自体か、印刷網点を複数集合させて形成した一塊の画像要素であって、例えば円、三角形や四角形等を含む多角形、星形等の各種図形、文字や記号等が含まれ、画素の形状は如何なるものであっても本発明における画素に含まれるものとする。また、本明細書でいう「画線」とは、網点を一定方向に、一定の距離隙間無く連続して配置して構成した画像要素であって、点線や破線の分断線、直線、曲線及び波線のことであり、如何なる画線形状で構成しても本発明の技術的思想の範囲に含まれる。本実施の形態では、はじめに、透過可読要素、透過不読要素、不透可読要素及び不透不読要素が画素で構成される形態について説明する。
図5に示す構成は、第一の図形領域(4)に幅(R1)、高さ(H1)の円形の画素である透過可読要素(31)が複数配置されて、第一の図形領域(4)が第一の有意情報である「○」の文字を現し、第二の図形領域(5)に幅(R2)、高さ(H2)の円形の画素である不透不読要素(32)が複数配置されて、第二の図形領域(5)が第二の有意情報である「×」の文字を現し、背景領域(6)に幅(R3)、高さ(H3)の円形の画素である不透可読要素(33)が複数配置された状態を示している。なお、図5において、透過不読要素は図示されていないが、透過不読要素(34)については、幅(R4)、高さ(H4)として説明する。
本発明において、第一の図形領域(4)と第二の図形領域(5)は同じ領域内に重複して配置される。なお、本発明において、第一の図形領域(4)と第二の図形領域(5)が同じ領域内に重複して配置されるとは、複写けん制印刷物(1)を光に透かして視認できた画像の位置、例えば、図2に示す「○」の文字の第一の有意情報が視認できる位置と、複写けん制印刷物(1)の複写物から視認できる画像の位置、例えば、図3に示す「×」の文字の第二の有意情報が視認できる位置が重複するという意味であって、それぞれの図形領域に配置される要素が重複するという意味ではない。
本発明において、有色浸透インキで形成される透過不読要素(34)の大きさは、複写機の性能にもよるが、複写できない大きさとして画素の幅(R4)及び高さ(H4)のうちの少なくとも一方が150μm以下である。これは、画素の幅(R4)と高さ(H4)のいずれかが、複写機で処理不能な大きさであれば、複写再現できないためである。
また、有色浸透インキで形成される透過可読要素(31)の大きさは、複写機の性能にもよるが、透過不読要素(34)が複写機で複写されない大きさの最大値である150μmより大きく、この大きさで形成することで、透過可読要素(31)は複写機で複写される。
また、有色インキで形成される不透不読要素(32)の大きさは、複写機の性能にもよるが、複写できない大きさとして画素の幅(R2)及び高さ(H2)のうちの少なくとも一方が120μm以下である。有色浸透インキで形成される透過不読要素(34)の大きさと、有色インキで形成される不透不読要素(32)の大きさが異なる理由は、本発明の効果が生じる原理と合わせて後述する。
また、有色インキで形成される不透可読要素(33)の大きさは、複写機の性能にもよるが、不透不読要素(32)が複写機で複写されない大きさの最大値である120μmより大きく、この大きさで形成することで、不透可読要素(33)は複写機で複写される。
このように、大きさの上限と下限が異なる要素が配置される三つの領域は、拡散反射光下で観察した場合に目視上、等色となるように、等しい面積率で形成される。なお、本発明において、「等色」とは、観察者が二つの観察対象を特に注意せずに一瞥した場合に、同じ色であると感じる状態のことであり、本発明では、二つの観察対象の色差ΔEが6.0以下の値にある状態のことである。また、本発明において、「面積率」とは、基材(2)の一定の面積の中に配置される要素の面積の割合のことである。続いて、例として、第一の図形領域(4)と第二の図形領域(5)が等しい面積率で形成される構成について説明する。
例えば、透過可読要素の幅(R1)及び高さ(H1)に対して、不透不読要素の幅(R2)及び高さ(H2)が2分の1の大きさである場合、図6(a)に示すように、第一の図形領域(4)のある一定面積の中(破線で図示)に、円形の透過可読要素(31)が一つ配置されたとすると、第二の図形領域(5)の同じ一定面積の中(破線で図示)には、図6(b)に示すように、円形の不透不読要素(32)が四つ配置されることで、第二の図形領域(5)と第一の図形領域(4)の同じ一定面積の中に配置される要素の面積が等しくなる。このとき、図6に示すように、不透不読要素(32)が配置される間隔は、透過可読要素(31)が配置される間隔より狭くなる。このように、透過可読要素(31)の大きさ及び配置される間隔と、不透不読要素(32)の大きさ及び配置される間隔を調整することによって、第一の図形領域(4)と第二の図形領域(5)の面積率を等しくすることができる。このように、第一の図形領域(4)と第二の図形領域(5)を等しい面積率とする技術については、例えば、特許文献1に挙げている複写防止画線の技術においては、既に公知となっている。ここでは、第一の図形領域(4)と第二の図形領域(5)について説明したが、本発明の第一の実施の形態では、背景領域(6)を含めた三つの領域おいて、各領域に配置される要素の大きさ及び配置される間隔を調整することで、三つの領域が等しい面積率となっている。
なお、本発明において第一の図形領域(4)、第二の図形領域(5)及び背景領域(6)の面積率は、完全に等しくする必要はなく、拡散反射光下で観察した場合に第一の図形領域(4)、第二の図形領域(5)及び背景領域(6)が、目視で区別がつかない程度であれば良く、その状態を満足できるものであれば、本明細書中で記載する「等しい面積率」の技術的思想の範囲に含まれる。
さらに、本発明において、第一の図形領域(4)、第二の図形領域(5)及び背景領域(6)のそれぞれは、以下に説明する複数の透過可読要素(31)、不透不読要素(32)、不透可読要素(33)及び透過不読要素(34)の配置によって、拡散反射光で観察した場合に一定の濃度として観察される状態となっている。続いて、第一の図形領域(4)が拡散反射光で観察した場合に一定の濃度として観察されるための構成について、図5に示す印刷画像(3)の例を基に説明する。
第一の図形領域(4)が拡散反射光で観察した場合に一定の濃度として観察されるための構成は、二通りあり、一つ目の構成は、図7(a)に示すように、透過可読要素(31)が第1のピッチ(P1)で規則的に複数配置される構成である。図7(a)に示すように、透過可読要素(31)が、規則的に配置される場合、第一の図形領域(4)内の一定面積から反射される光の量が一定であるので、一定の濃度として観察される。なお、本発明において、透過可読要素(31)が画素で形成される場合の「規則的に配置」とは、複数の透過可読要素(31)が第1のピッチ(P1)で二つの異なる方向にマトリクス状に配置された状態のことである。図7(a)では、透過可読要素(31)が上下左右方向の二つの方向に第1のピッチ(P1)で配置された状態を示しているが、二つの異なる方向は、上下左右方向に限定されず、斜め方向であっても良い。
第一の図形領域(4)が拡散反射光で観察した場合に一定の濃度として観察されるための二つ目の構成は、図7(b)に示すように、第一の図形領域(4)内に透過可読要素(31)がランダムに配置される構成である。このとき、第一の図形領域(4)内の一定の面積の中に配置される透過可読要素(31)の割合が、第一の図形領域(4)全体にわたって、同じになるように配置される。前述のように、透過可読要素(31)が微細であるため、一定の面積の中に配置される透過可読要素(31)の割合が同じであれば、図7(b)に示すように、第一の図形領域(4)内で部分的に透過可読要素(31)が配置される間隔が異なっても、図7(a)に示す構成と同じように一定の濃度で観察される。このランダムに配置した構成については、FMスクリーン、ディザパターン等の技術が利用でき、例えば、市販の画像処理ソフトPhotoshop(アドビ社製)等のディザ処理機能を利用すれば良い。
第二の図形領域(5)及び背景領域(6)が、拡散反射光で観察した場合に一定の濃度として観察される構成についても、第一の図形領域(4)で説明した構成と同様であり、不透不読要素(32)と不透可読要素(33)が規則的に配置される構成と、ランダムに配置される構成がある(図示せず)。
続いて、透過可読要素(31)、透過不読要素(34)、不透可読要素(33)及び不透不読要素(32)が画線で構成される形態について説明する。透過可読要素(31)、透過不読要素(34)、不透可読要素(33)及び不透不読要素(32)が画線で構成される場合、これまでに説明した第一の図形領域(4)、第二の図形領域(5)、背景領域(6)に形成される画素のそれぞれを画線に置き換えるだけで良い。各要素が画線で構成される印刷画像(3)の一例について、図8を用いて説明する。
図8に示す構成では、画線幅(W1)の画線で形成される透過可読要素(31)がピッチ(P1)で複数配置されて、「○」の文字が形成され、画線幅(W2)の画線で形成される不透不読要素(32)がピッチ(P2)で複数配置されて、「×」の文字が形成され、画線幅(W3)の画線で形成される不透可読要素(33)がピッチ(P3)で複数配置されて、背景領域(6)が形成された状態を示している。なお、図8において、透過不読要素は図示されていないが、透過不読要素(34)については、画線幅(W4)、ピッチ(P4)として説明する。
各要素が画線で構成される場合、透過可読要素の画線幅(W1)、不透不読要素の画線幅(W2)、不透可読要素の画線幅(W3)、透過不読要素の画線幅(W4)は、各要素が前述した画素で構成される場合の大きさの範囲で形成される。
各要素が画線で構成される場合もまた、拡散反射光で観察した場合に目視上、等色となるように、等しい面積率で形成される。例として、第一の図形領域(4)と第二の図形領域(5)が等しい面積率で形成される構成について説明する。
例えば、透過可読要素の画線幅(W1)に対して、不透不読要素の画線幅(W2)が2分の1の大きさである場合、図9(a)に示すように、第一の図形領域(4)のある一定面積の中(破線で図示)に、直線の透過可読要素(31)が一つ配置されたとすると、第二の図形領域(5)の同じ一定面積の中(破線で図示)には、図9(b)に示すように、直線の不透不読要素(32)が二つ配置されることで、第一の図形領域(4)と第二の図形領域(5)の同じ一定面積の中に配置される要素の面積が等しくなる。このとき、図9(b)に示すように、不透不読要素(32)が配置される間隔は、透過可読要素(31)が配置される間隔より狭くなる。このように、各要素が画線で構成される場合においても、各要素の画線幅と各要素が配置される間隔を調整することで、第一の図形領域(4)、第二の図形領域(5)及び背景領域(6)の面積率を等しくすることができる。
さらに、各要素が、画線で形成される場合においても、第一の図形領域(4)、第二の図形領域(5)及び背景領域(6)のそれぞれは、拡散反射光で観察した場合に一定の濃度として観察される。そのための構成としては、画素で形成される複写けん制印刷物(1)の形態で説明したのと同様であり、各要素を一定のピッチで規則的に配置しても良いし、ランダムに配置しても良い。以上が、各要素が画線で構成される場合の説明であるが、以降は、各要素が画素で構成される例について説明する。
続いて、本発明で用いる有色浸透インキについて説明する。本発明で用いる有色浸透インキとは、浸透成分を含むインキに、有色の色材を配合して成るインキであり、淡い色彩を有する。なお、本発明でいう「色彩」とは、色相、彩度、明度の概念を含んで色を表したものであり、また、「色相」とは、赤、青、黄といった色の様相のことであり、具体的には、可視光領域(400〜700nm)の特定の波長の強弱の分布を示すものである。また、ここで言う「淡い色彩」とは、拡散反射光下で明度の高い色彩であることを指し、具体的には有色浸透インキを面積率100%で印刷した場合には拡散反射光下のL*で70を超える値を有することとする。この有色浸透インキを基材(2)に印刷すると、反射光下ではっきりと確認できる色彩を有した印刷画像を形成できる一方、透過光下では、その印刷画像は不可視か、ほとんど視認できない程度の淡い色彩に変化する特徴を有する。この「透かすと画像が消える」効果を、以下、「画像消失効果」と称する。
有色浸透インキ中の浸透成分を含むインキについて説明する。「浸透成分」とは、印刷すると基材内部へと浸透してインキ着色部の透過率を上昇させ、印刷物を透過光下で観察した際に印刷画像が透けて見える(基材上の非インキ着色部より明るく観察される)効果を有する成分を指す。具体的な浸透成分の例としては、基材を構成する素材の屈折率、(例えば、セルロースであれば1.49)に近い樹脂やワックス、油脂等がある。基材の透過率の上昇は、浸透成分を印刷した場合に、基材の中に存在する空隙を埋め、基材の内部における光の散乱が抑制されることによって生じる。このような浸透成分を含むインキとしては、帝国インキ社製ユニマーク、合同インキ社製E2ニス等の、一般に「透かしインキ」等と称するインキが販売されているので、これを利用してもよい。また、このほかに、ハイグロス系のメジューム(無色透明のインキで、主に有色インキの色を薄めるために用いるインキのうち、印刷した際に特に高い光沢が生じるもの)等の低粘度のニス等も、浸透成分を含むインキとしての効果がある。
次に、有色の色材について説明する。浸透成分を含むインキに多量の有色の色材を添加すると、印刷物の透過率が低くなって、「透かすと画像が消える」効果が低下する。ゆえに、本発明で用いる有色浸透インキは淡い色彩である必要があり、淡い色彩のインキを高い再現性で安定して製造するためには、色材についても透過性が高く、かつ、着色力が低い顔料を用いることが望ましい。このような顔料のうち、印刷用色材として一般に販売されている顔料には、「透過性顔料」や「微粒子顔料」と呼ばれるものがあり、コバルト系顔料やシアニン系顔料がこれに該当し、色数も豊富である。
浸透成分を含むインキに、有色の色材を配合して成る有色浸透インキは、浸透成分による用紙内部の光の散乱の減少と、着色顔料による光の吸収がバランスして、反射光下で観察した場合に物体色を有した画像が、透かして観察した場合に不可視か、ほとんど視認できない程度の淡い色彩に変化する特徴を有する。
前述したような印刷用色材を用いて有色浸透インキを作製する場合、インキへの印刷色材の配合量は重量比で10%以下とすることが望ましい。これは、色材を10%以上配合した有色浸透インキでは、印刷される画像の濃度が高く「透かすと消える」効果が低下してしまうためである。なお、「透かすと画像が消える」効果は、有色浸透インキの性能に依存するばかりではなく、形成する画像の面積率にも大きく影響を受ける。
例えば、面積率100%で画像を形成した場合と、ハイライトからハーフトーンの低い面積率で画像を形成した場合とでは、仮に同じ有色浸透インキを用いたとしても「透かすと消える」効果は後者の画像の方が高くなる。有色浸透インキへの色材の配合量にもよるが、有色浸透インキで形成した領域の画像消失効果を得るために、好ましくは、75%以下の面積率とするのが良い。
以上のことを踏まえて、有色浸透インキに配合する印刷色材の量は、色材自体の着色力や浸透成分の性能、形成する画像の面積率等に応じて、適宜調整する必要がある。
本発明の不透可読要素(33)と不透不読要素(32)を印刷する有色のインキは、前述の通り、有色浸透インキと同じ色相のインキである。有色のインキの作製に用いる材料は、特に限定する必要はなく、印刷したい印刷方式に合わせた一般的な材料を用いればよい。一般的な印刷用インキに用いる顔料は不透明なので、有色浸透インキで印刷した画像と等色となるように印刷しても、有色のインキが狙いとする「透かしても画像が消えない」効果が得られる。ただし、有色のインキの「透かしても画像が消えない」効果を高めたい場合は、透明あるいは白色の顔料を着色目的の顔料とは別に配合すればよい。このような顔料としては、例えばチタンやアルミ等の金属顔料が適している。
以上のような二種類のインキを用いて印刷画像(3)を印刷する。印刷方式はウェットオフセット印刷が最も適しているが、ドライオフセット印刷、樹脂凸版印刷等で行っても良い。
本発明の第1の実施の形態における複写けん制印刷物(1)の効果について説明する。前述のように、本発明の第1の実施の形態において印刷画像(3)は、透過可読要素(31)、不透不読要素(32)、不透可読要素(33)及び透過不読要素(34)の四つの要素のうち、三つの要素が互いに異なる領域に複数配置されて成る構成であるが、各領域に配置する三つの要素によって、視認される画像の見え方が異なるので、各領域に配置する各要素の具体的な配置とその構成の複写けん制印刷物(1)に生じる効果について説明する。
第1の実施の形態の各要素の配置は、透過可読要素(31)と不透不読要素(32)を一組とする第一の要素セットとし、不透可読要素(33)と透過不読要素(34)を一組とする第二の要素セットとしたときに、第一の図形領域(4)と第二の図形領域(5)に、第一の要素セット又は第二の要素セットのうちの一方の要素セットの要素が配置され、背景領域(6)は、残りの要素セットのうちの一方の要素が配置される。
このような要素の配置として、はじめに、第一の図形領域(4)と第二の図形領域(5)に、第一の要素セットの要素が配置され、背景領域(6)に第二の要素セットの要素が配置される構成について説明する。
図5に示す例では、第一の図形領域(4)に第一の要素セットの透過可読要素(31)が配置され、第二の図形領域(5)に第一の要素セットの不透不読要素(32)が配置された状態を示している。また、背景領域(6)に第二の要素セットのうちの、不透可読要素(33)が配置された状態を示している。このように、第一の図形領域(4)と第二の図形領域(5)に第一の要素セットの要素を配置し、背景領域(6)に第二の要素セットの不透可読要素(33)を配置する組合せを、本発明の「第一の組合せ」とする。
第一の組合せの場合には、光に透かすと、有色浸透インキで形成された透過可読要素(31)が見えなくなり、有色のインキで形成された不透不読要素(32)と不透可読要素(33)は見える。光に透かすと、透過可読要素(31)が見えなくなる理由は、前述のように、有色浸透インキの浸透成分による用紙内部の光の散乱の減少と、着色顔料による光の吸収がバランスすることによるものである。この結果、図10(a)に示すように、透過可読要素(31)が複数配置されて成る第一の図形領域(4)がネガの状態で視認できる。
また、複写機で複写した場合には、120ミクロン以下の大きさで形成される不透不読要素(32)だけが複写されず、透過可読要素(31)と不透可読要素(33)は複写される。これは、有色のインキによって120ミクロン以下の大きさで形成される不透不読要素(32)は、複写機の解像度の限界等により、読み込めないためである。これに対して、同じ有色のインキで形成される不透可読要素(33)は、120ミクロンより大きく形成され、有色浸透インキで形成される透過可読要素(31)は、150ミクロンより大きく形成されることで、複写される。
透過可読要素(31)が複写されるための大きさと、不透可読要素(33)が複写されるための大きさが異なる理由について説明する。有色浸透インキで形成される画素は、有色浸透インキの光の透過性によって、再現され難く、画素の色彩は用紙に近い状態となる。この傾向は画素の輪郭付近で顕著であり、有色浸透インキによって、150ミクロンより小さい画素を形成した場合は、複写機は画素を存在しないものと判定してしまう。このように、有色浸透インキで形成される画素が、複写機による再現性が低いのを見込んで、透過可読要素(31)が複写される大きさとして150ミクロンより大きくしている。この結果、図10(b)に示すように、不透不読要素(32)が複数配置されて成る第二の図形領域(5)がネガの状態で視認できる。
以上が、本発明の複写けん制印刷物(1)の第一の組合せにおける効果であり、光に透かした場合と、複写した場合で、異なる画像が視認できる。
続いて、第一の組合せに対して、背景領域(6)に第二の要素セットの透過不読要素(34)が配置される構成について説明する。このように、第一の図形領域(4)と第二の図形領域(5)に第一の要素セットの要素を配置し、背景領域(6)に第二の要素セットの透過不読要素(34)を配置する組合せを、本発明の「第二の組合せ」とする。なお、ここでは、図11に示すように、第一の図形領域(4)に第一の要素セットの不透不読要素(32)が配置され、第二の図形領域(5)に第一の要素セットの透過可読要素(31)が配置される構成について説明する。
第二の組合せの場合には、光に透かすと、有色浸透インキで形成された透過可読要素(31)と透過不読要素(34)が見えなくなり、有色のインキで形成された不透不読要素(32)は見える。この結果、図12(a)に示すように、不透不読要素(32)が複数配置されて成る第一の図形領域(4)がポジの状態で視認できる。
また、複写機で複写した場合には、透過不読要素(34)と不透不読要素(32)が複写されず、透過可読要素(31)だけが複写される。この結果、図12(b)に示すように、透過可読要素(31)が複数配置されて成る第二の図形領域(5)がポジの状態で視認できる。第二の組合せの複写けん制印刷物(1)は、第一の組合せに対して、透かした場合に第一の図形領域(4)がポジの状態で視認でき、複写した場合に第二の図形領域(5)がポジの状態で視認できる点が異なる。
続いて、第一の図形領域(4)と第二の図形領域(5)に、第二の要素セットの要素が配置され、背景領域(6)に第一の要素セットのうちの一方の要素が配置される構成について説明する。
例として、第一の図形領域(4)に第二の要素セットの透過不読要素(34)が配置され、第二の図形領域(5)に第二の要素セットの不透可読要素(33)が配置され、背景領域(6)に、第一の要素セットのうちの、不透不読要素(32)が配置された構成(図示せず)について説明する。このように、第一の図形領域(4)と第二の図形領域(5)に第二の要素セットの要素を配置し、背景領域(6)に第一の要素セットの不透不読要素(32)を配置する組合せを、本発明の「第三の組合せ」とする。
第三の組合せの場合には、光に透かすと、有色浸透インキで形成された透過不読要素(34)が見えなくなり、有色のインキで形成された不透不読要素(32)と不透可読要素(33)は見える。光に透かすと、透過不読要素(34)が見えなくなる理由は、透過可読要素(31)と同様であり、有色浸透インキの特性によるものである。この結果、図13(a)に示すように、透過不読要素(34)が複数配置されて成る第一の図形領域(4)がネガの状態で視認できる。
また、複写機で複写した場合には、透過不読要素(34)と不透不読要素(32)が複写されず、不透可読要素(33)だけが複写される。有色浸透インキで形成される透過不読要素(34)は、150ミクロン以下の大きさであり、この場合、前述した有色浸透インキの光透過性によって、複写機は画素を存在しないものと判定してしまう。この結果、図13(b)に示すように、不透可読要素(33)のみが複写され、不透可読要素(33)が複数配置されて成る第二の図形領域(5)がポジの状態で視認できる。
以上が、本発明の複写けん制印刷物(1)の第三の組合せにおける効果であり、第一の組合せと同様に、光に透かした場合と、複写した場合で、異なる画像が視認できる。第一の組合せに対しては、複写した場合に第二の図形領域がポジの状態で視認できる点が異なる。
続いて、第三の組合せに対して、背景領域(6)に第一の要素セットのうちの、透過可読要素(31)が配置された構成(図示せず)について説明する。このように、第一の図形領域(4)と第二の図形領域(5)に第二の要素セットの要素を配置し、背景領域(6)に第一の要素セットの透過可読要素(31)を配置する組合せを、本発明の「第四の組合せ」とする。なお、ここでは、第一の図形領域(4)に第二の要素セットの不透可読要素(33)が配置され、第二の図形領域(5)に第二の要素セットの透過不読要素(34)が配置される構成について説明する。
第四の組合せの場合には、光に透かすと、有色浸透インキで形成された透過可読要素(31)と透過不読要素(34)が見えなくなり、有色のインキで形成された不透可読要素(33)は見える。この結果、図14(a)に示すように、不透可読要素(33)が複数配置されて成る第一の図形領域(4)がポジの状態で視認できる。
また、複写機で複写した場合には、透過不読要素(34)だけが複写されず、透過可読要素(31)と不透可読要素(33)が複写される。この結果、図14(b)に示すように、透過不読要素(34)が複数配置されて成る第二の図形領域(5)がネガの状態で視認できる。第四の組合せの複写けん制印刷物(1)は、第一の組合せに対して、透かした場合に第一の図形領域(4)がポジの状態で視認できる点が異なる。
このように、本発明の複写けん制印刷物(1)は、透かした場合と複写した場合で、異なる図柄を視認することができ真偽判別する条件のうちの一つは、道具を用いることがないため、真偽判別性に優れる。
本発明における複写けん制印刷物(1)の三つの領域を構成する組合せのうち、第一の図形領域(4)と背景領域(6)が複写できない不読要素群からなる組み合わせでは、それぞれの要素群を構成する要素の形状にもよるが、不透不読要素(32)の画線幅(W2)を透過不読要素(34)の画線幅(W4)よりも30ミクロン程度小さくするのが良い。現在の複写機の技術レベルでは、複写されないはずの要素群であっても線や点の細りや部分的な欠損にとどまり、淡い画像として再現されることがあり、複写機で複写した場合の第二の図形領域(5)の視認性が低下する場合があった。前述した構成とする理由は、有色インキで印刷する不透不読要素(32)が、有色浸透インキで印刷する透過不読要素(34)よりも複写再現しやすいことから、不透不読要素(32)の方を小さくすることで、二つの要素の複写再現性(複写できる、できないの特性)を等しくするためである。なお、この組合せには、前述の「第二の組合せ」で、第一の図形領域(4)に不透不読要素(32)、第二の図形領域(5)に透過可読要素(31)、背景領域(6)に透過不読要素(34)を形成する場合と「第三の組合せ」で、第一の図形領域(4)に透過不読要素(34)、第二の図形領域(5)に不透可読要素(33)、背景領域(6)に不透不読要素(32)を形成する場合が該当する。
(第2の実施の形態)
第2の実施の形態の印刷画像(3)の構成を図15に示し、第1の実施の形態の印刷画像(3)と異なる点について説明する。第2の実施の形態の印刷画像(3)は、第1の実施の形態の印刷画像(3)の構成に対して、図15に示すように、第一の図形領域(4)と第二の図形領域(5)の一部に共通する共通領域(7)を有する構成となっている。本発明において、共通領域(7)とは、第一の図形領域(4)と第二の図形領域(5)が重複する領域であって、第一の図形領域(4)と第二の図形領域(5)に共通する要素が配置される領域である。
第1の実施の形態は、透過可読要素(31)、不透不読要素(32)、不透可読要素(33)及び透過不読要素(34)のうち、三つの要素が第一の図形領域(4)、第二の図形領域(5)及び背景領域(6)に配置される構成であったが、第2の実施の形態は、第1の実施の形態で説明した透過可読要素(31)、不透不読要素(32)、不透可読要素(33)及び透過不読要素(34)の四つの要素が、各領域に配置される。なお、各要素の具体的な、配置については後述する。
第2の実施の形態の複写けん制印刷物(1)を拡散反射光下で観察した場合には、第一の図形領域(4)、第二の図形領域(5)、背景領域(6)、共通領域(7)の四つの領域は等色で、それぞれの領域は識別できない状態となっている。そして、第2の実施の形態の複写けん制印刷物(1)を光に透かすと、一例として、図16(a)に示すように、印刷画像(3)のうち、第一の図形領域(4)と共通領域(7)は光に透けて不可視となり、残りの領域が光を遮ることで、第一の図形領域(4)が現す第一の有意情報が画像として視認できるようになる。
また、第2の実施の形態の複写けん制印刷物(1)を複写機で複写すると、一例として、図16(b)に示すように、印刷画像(3)のうち、第二の図形領域(5)と共通領域(7)が複写されず不可視となり、残りの領域が複写されて可視となり、第二の図形領域(5)が現す第二の有意情報が画像として視認できるようになる。このように、共通領域(7)は、第一の有意情報と第二の有意情報の一部に共通して視認される領域となっている。
以下、第2の実施の形態の詳細な構成について説明するが、各要素の構成、各要素を形成する色材、基材については、第一の実施の形態と同じであり、各領域に配置する各要素について説明する。
第2の実施の形態の各要素の配置は、透過可読要素(31)と不透不読要素(32)を一組とする第一の要素セットとし、不透可読要素(33)と透過不読要素(34)を一組とする第二の要素セットとしたときに、第一の図形領域(4)と第二の図形領域(5)に、第一の要素セット又は第二の要素セットのうちの一方の要素セットの要素が配置され、背景領域(6)は、残りの要素セットのうちの一方の要素が配置され、さらに、背景領域(6)に配置される残りの要素セットのうちの他方の要素が、第一の図形領域(4)と第二の図形領域(5)の一部に共通する共通領域(7)に配置される構成である。すなわち、第2の実施の形態は、第1の実施の形態に対して、第一の図形領域(4)と第二の図形領域(5)に、二つずつ要素が配置されることとなり、第一の図形領域(4)と第二の図形領域(5)に共通した要素が、互いの領域が重複する共通領域(7)に配置されることとなる。
第2の実施の形態の各要素の配置は、第1の実施の形態の複写けん制印刷物(1)の「第1の組合せ」、「第2の組合せ」、「第3の組合せ」及び「第4の組合せ」のそれぞれで、印刷画像(3)を形成しない残りの要素を共通領域(7)に配置した構成であり、以下、第2の実施の形態の各要素配置の例として、第1の実施の形態の「第1の組合せ」を基に説明し、その他の配置については、説明を省略する。
図17は、図15に示す印刷画像(3)の一部である太線枠の拡大図であり、第一の図形領域(4)に第一の要素セットの透過可読要素(31)が配置され、第二の図形領域(5)に第一の要素セットの不透不読要素(32)が配置され、背景領域(6)に第二の要素セットの不透可読要素(33)が配置され、共通領域(7)に第二の要素セットの透過不読要素(34)が配置された状態を示している。第1の実施の形態の第一の組合せに対して、印刷画像(3)を形成しない透過不読要素(34)が共通領域(7)に配置された状態である。
図17に示す第2の実施の形態の複写けん制印刷物(1)を、光に透かすと、有色浸透インキで形成された透過可読要素(31)と透過不読要素(34)が見えなくなり、有色のインキで形成された不透不読要素(32)と不透可読要素(33)は見える。この結果、図18(a)に示すように、透過可読要素(31)と透過不読要素(34)が複数配置されて成る第一の図形領域(4)がネガの状態で視認できる。
また、複写機で複写した場合には、透過不読要素(34)と不透不読要素(32)が複写されず、透過可読要素(31)と不透可読要素(33)が複写される。この結果、図18(b)に示すように、透過不読要素(34)と不透不読要素(32)が複数配置されて成る第二の図形領域(5)がネガの状態で視認できる。
このように、第2の実施の形態においても、透かした場合と、複写した場合で、異なる画像を視認することができ、真偽判別性に優れる。また、第2の実施の形態の複写けん制印刷物(1)は、第1の実施の形態のように、第一の図形領域(4)と第二の図形領域(5)が重なる共通領域(7)が生じる画像構成を避ける必要がなく、二つの画像領域に、完全に任意の画像を用いることができるため、デザイン上の制約がない。
図4及び図15に示す複写けん制印刷物(1)を拡散反射光下で観察した場合には、印刷画像(3)がそのまま視認されるだけで、特に情報が得られないが、第一の画像領域(4)、第二の画像領域(5)及び背景領域(6)を適宜配置して印刷画像(3)を形成することによって、拡散反射光下で、各種の図形、図柄、マーク、模様、数字、文字、記号等の有意情報が視認できる構成としても良い。なお、拡散反射光下の観察で有意情報が視認できる複写けん制印刷物(1)の構成については、実施例2で説明する。
以下、前述の発明を実施するための形態に従って、具体的に作製した複写けん制印刷物の実施例について詳細に説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
実施例1は、第1の実施の形態で説明した複写けん制印刷物の例である。
図19に実施例1における複写けん制印刷物(1)を示す。複写けん制印刷物(1)は、基材(2)の上に、淡い青色を有する印刷画像(3)が形成されて成る。基材(2)には、一般的な白色上質紙(坪量81.4g/平方メートル、日本製紙製)を使用した。
前述の通り、複写けん制印刷物を構成する第一の図形領域、第二の図形領域及び背景領域を構成する各要素群の組合せには四通りあるが、いずれの組合せも作製方法は同じであるので、以下、一例として「第一の組合せ」(第一の図形領域は透過可読要素、第二の図形領域は不透不読要素、背景領域は不透可読要素を用いた組合せ)について述べる。
図20は、図19に示す印刷画像(3)の分解図であり、図20(a)に示す画像と図20(b)に示す画像から成る。図20(a)に示す画像(21)は第一の図形領域(4)から成り、ここに幅(L1)が0.24ミリの直線状の透過可読要素(31)をピッチ(P1)0.6ミリで等間隔に配置した。また、図20(b)に示す画像(22)は第二の図形領域(5)と背景領域(6)から成り、第二の図形領域(5)には、画素の高さ(H2)95ミクロン、画素の幅(W2)95ミクロンの四角い不透不読要素(32)を、高さ方向のピッチが200ミクロン、幅方向のピッチが200ミクロンで等間隔に配置した。また、背景領域(6)には 画線幅(W3)が0.24ミリの直線状の不透可読要素(33)を、ピッチ(P3)0.6ミリで等間隔に配置した。各要素の面積率は、透過可読要素(31)と不透可読要素(33)が40%であるのに対して、不透不読要素(32)が45%となっているが、これは印刷の各過程において要素の輪郭が変動することに配慮したものである。
次に、インキであるが、有色浸透インキは、浸透型インキ(ユニマーク、帝国インキ製)を97重量パーセント、青色の透過性着色顔料(ダイピロキサイドTMブルー、大日精化工業製)を3重量パーセントの割合で配合して、作製した。また、有色インキは、有色浸透インキと等色の市販のオフセットインキを用いた。
以上の用紙及びインキを用い、図20(a)に示した画像(21)を有色浸透インキで、図20(b)に示した画像(22)を有色インキでオフセット印刷方式により印刷して、図19に示した実施例1の複写けん制印刷物(1)を得た。
以上の手順で作製した複写けん制印刷物は、図21(a)に示すように第一の図形領域(4)、第二の図形領域(5)、背景領域(6)が等色で肉眼では各領域の区別がつかないが、これを光に透かすと、図21(b)に示すように第一の図形領域(4)を主体的に視認することができ、潜像出現効果が得られることを確認できた。また、図21(a)に示す複写けん制印刷物(1)を複写機A(ImagePressC1+、キャノン製)で複写し、複写防止効果について確認したところ、図21(c)に示すように複写物(8)では第二の図形領域(5)を主体的に視認することができ、複写けん制効果が得られることを確認できた。
(実施例2)
実施例2は、第2の実施の形態で説明した複写けん制印刷物の例である。また、印刷画像を採紋模様で形成した例である。
図22(a)に実施例2における複写けん制印刷物(1)を示す。複写けん制印刷物(1)は、基材(2)の上に、淡い青色を有する印刷画像(3)が形成されて成る。なお、画像の構成以外の内容であるインキ等の諸材料や印刷方法等については実施例1と同様なので説明を省略する。
図23は、図22に示す印刷画像(3)の分解図であり、図23(a)乃至(c)に示す画像から成る。図23(a)に示す画像は、第一の図形領域(4)に相当する部分を示したものであり、実施例2のように第一の図形領域(4)と第二の図形領域(5)が重複する場合には、第一の図形領域(4)の中に、第二の図形領域(5)の一部と共通する共通領域(7)を備える。なお、第一の図形領域であって、第二の図形領域(5)と共通しない領域を符号(4´)として図示している。
図23(b)に示す画像は、第二の図形領域(5)に相当する部分を示したものであり、実施例2のように第一の図形領域(4)と第二の図形領域(5)が重複する場合には、第二の図形領域(5)の中に、第一の図形領域(4)と一部を共通する共通領域(7)を備える。なお、第二の図形領域(5)であって、第一の図形領域(4)と共通しない領域を符号(5´)として図示している。
図23(c)に示す画像は、背景領域(6)に相当する部分を示したものである。なお、各領域には隙間が空いているが、これは絵柄の意匠性の観点から施した一例であって、本発明の印刷物は隙間の有無に関係なく作製できる。前述の通り、複写けん制印刷物(1)を構成する第一の図形領域、第二の図形領域及び背景領域を構成する各要素群の組合せには四通りあるが、いずれの組合せも作製方法は同じであるので、以下、一例として第一の図形領域には不透可読要素、第二の図形領域には透過不読要素、共通領域には不透不読要素、背景領域には透過可読要素を用いた組合せについて述べる。
以下に、実施例2の複写けん制印刷物(1)の各画像領域の詳細について説明する。図24(a)に示す第一の図形領域(4)に相当する画像において、第一の図形領域(4´)は図24(b)に示すように、画線幅(W3)が0.24ミリの曲線状の不透可読要素(33)をピッチ(P3)0.6ミリで等間隔に配置した。また、共通領域(7)は図24(c)に示すように、画素の高さ(H2)95ミクロン、画素の幅(W2)95ミクロンの四角い不透不読要素(32)を高さ方向のピッチ200ミクロン、幅方向のピッチ200ミクロンで等間隔に配置した。
図25(a)に示す第二の図形領域(5)に相当する画像において、第二の図形領域(5´)は図25(b)に示すように、画線幅(W4)が0.120ミリの曲線状の透過不読要素(34)をピッチ(P4)0.3ミリで等間隔に配置した。また、共通領域(7)は、前述したように、画素の高さ(H2)95ミクロン、画素の幅(W2)95ミクロンの四角い不透不読要素(32)を高さ方向のピッチ200ミクロン、幅方向のピッチ200ミクロンで等間隔に配置した。
図26(a)に示す背景領域(6)に相当する画像においては、図26(b)に示すように、画線幅(W1)が0.24ミリの曲線状の透過可読要素(31)をピッチ(P1)0.6ミリで等間隔に配置した。
以上の構成の印刷画像(23)の各領域を有色インキと有色浸透インキでオフセット印刷方式により印刷し、図27に示す複写けん制印刷物(1)を得た。作製された実施例2の複写けん制印刷物(1)を拡散反射光下で観察すると、図27に示すように、印刷画像(3)が彩紋模様として視認できるが、第一の図形領域(4)、第二の図形領域(5)、背景領域(6)が等色で肉眼では各領域の区別がつかない。これを光にかざすと、図28(a)に示すように、第一の図形領域が主体的に見え、複写すると複写物(8)では図28(b)に示すように、第二の図形領域が主体的に見えた。