本発明の実施の形態について図1から図7までを用いて説明する。しかしながら、本発明は以下に述べる実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲記載における技術的思想の範囲内であれば、その他のいろいろな実施の形態が含まれる。
図1に、本発明の複写防止印刷物(1)を示す。複写防止印刷物(1)は、基材(2)上に印刷画像(3)が形成されている。基材は、上質紙、コート紙、プラスティック等、特に限定はされない。ただし、基材の材質は、平滑性の高い材質が望ましく、具体的にはベック平滑度で100秒以上の用紙を用いることが望ましい。平滑度の低い基材を使用した場合、基材の凹凸に影響されて複写防止部(10)の再現性が低くなり、正反射時の効果や複写時の効果が低く成りうるため注意が必要である。
図2に示すように、印刷画像(3)は、少なくとも複写防止部(10)を有しており、複写防止部(10)以外の部を有していてもよい。本実施の形態では、印刷画像(3)として複写防止部(10)のみが形成された形態、つまり、印刷画像(3)と複写防止部(10)が同じ画像である形態について説明する。なお、印刷画像(3)が、複写防止部(10)以外の部を有している形態については、実施例1で説明する。
複写防止部(10)は、アルファベットの「OK」の文字で構成された潜像領域(4)と、潜像領域(4)を取り囲んだ周辺領域(5)から成る。潜像領域(4)の画線構成及び周辺領域(5)の画線構成を図3に示す。
図3に示すように、潜像領域(4)であるアルファベットの「OK」の文字は、画線幅(W1)の第一の画線(7)が、ピッチ(P1)で複数配置されて成る。第一の画線は、微細構造を備えて成る。なお、微細構造についての種類及び大きさについては、後述するが、微細構造の一例としては、図3に示すように幅(W2)及びピッチ(P2)から成る構造となっている。一例として説明に用いる、図3における微細構造は、画線部と非画線部を繰り返して成り、画線が分断された配置となる。また、分断角度は、全て一定の角度で分断する。
なお、本発明において「画線幅」とは、図3においてS1方向(画線方向)に直交する方向における幅のことであり、「幅」とは、S1方向における幅のことをいう。また、本発明において「分断角度」とは、複写防止印刷物(1)のX軸方向に対して、分断する角度のことをいう。
また、本発明において「微細」とは、肉眼で容易に捉えられない大きさのことであり、具体的には、350μm未満の大きさとする。また、微細構造は、特定の一要素が規則性を有して繰り返し配置された、いわゆる繰り返し構造を有している必要があり、例えば、特定の一要素が分断線又は分岐線の場合は、少なくともピッチが一定な画線部と非画線部が周期的に配された、繰り返し構造を有している必要があり、他の例として、特定の一要素が記号や文字である場合には、記号や文字が一定のピッチで、かつ、記号や文字が一定の方向を向いて繰り返し配置された、繰り返し構造を有していることが望ましい。
一方、周辺領域(5)であるアルファベットの「OK」の文字の周辺は、画線幅(W3)の第二の画線(8)が、同じくピッチ(P1)で複数配置されて成る。
潜像領域(4)と周辺領域(5)の画線面積率は等しく、かつ、潜像領域(4)と周辺領域(5)の境界において、第一の画線(7)と第二の画線(8)の端部は隣接あるいは近接し、かつ、第一の画線(7)と第二の画線(8)の中心の位相は一致していることが望ましい。
本発明において、潜像領域(4)と周辺領域(5)の画線面積率が等しいとは、図4の四角で囲った点線で示すように、潜像領域(4)を形成する第一の画線(7)のうち、画線方向(S1方向)に連続した一つの画線部と非画線部から成る一周期に相当する部分の画線面積が、第二の画線(8)のうち、画線方向(S1方向)における一周期と同一の長さに相当する部分の画線面積と等しい、ということである。
また、第一の画線(7)と第二の画線(8)の中心の位相が一致するとは、図4の点線で示すように、第一の画線(7)における画線幅の中心と、第二の画線(8)における画線幅の中心が、画線方向に一致していることをいう。
そのことから、潜像領域(4)と周辺領域(5)とは、目視上見分けが付かない上、第一の画線(7)と第二の画線(8)は、連続した一本の画線としか認識できず、この複写防止部(10)を肉眼で一見しただけでは、万線パターンが連続して配置されているとしか認識できない構成となっている。
一例として、複写防止部(10)を印刷物の背景の模様として構成した場合、複写防止部(10)は、目視上目立たないことが望ましい。そのため、複写防止部(10)の画線面積率は粗であることが望ましく、具体的には30%以下であることが望ましい。
また、潜像領域(4)を形成する第一の画線(7)と周辺領域(5)を形成する第二の画線(8)は、異なる形状を有している。その形状を異ならせるため、第一の画線(7)と第二の画線(8)の少なくとも一方は、微細構造を備えて成る。ただし、第一の画線(7)と第二の画線(8)の両方の画線に微細構造を構成する場合、それぞれの微細構造は異なっている必要がある。
第一の画線(7)と第二の画線(8)の形状を異ならせることによって、第一の画線(7)及び第二の画線(8)に光が入射した際に、それぞれの画線からの反射光量に違いが生じ、その反射光量の強弱によって、正反射時に潜像を視認できる。
微細構造について図5を参照して説明する。
図5(a)に示す微細構造は、画線を分断して成る分断画線で形成している。これは、点線枠内に示す画線部となる部分と非画線部のなる部分を特定の一要素とし、その特定の一要素を一定のピッチで規則性をもって繰り返されて成る繰り返し構造となっている。
図5(b)に示す微細構造は、分断させた上で分岐して成る分岐分断画線で形成している。これは、点線枠内に示す画線部となる部分と非画線部となる部分を特定の一要素とし、その特定の一要素を一定のピッチで規則性をもって繰り返されて成る繰り返し構造となっている。なお、図中において分岐の数は2本で図示しているが、2本に限定されるものではない。
図5(c)に示す微細構造は、位相がずれたレリーフ構造の画線で形成している。これは、点線枠内に示す位相が異なる二つの画線を特定の一要素とし、その特定の一要素を一定のピッチで規則性をもって繰り返されて成る繰り返し構造となっている。なお、図中において位相がずれたレリーフ構造は隣接しているが、隣接している必要はなく近接でもよい。
図5(d)に示す微細構造は、凹凸を連続して設けて形成している。これは、点線枠内に示す凹凸構造を特定の一要素とし、その特定の一要素を一定のピッチで規則性をもって繰り返されて成る繰り返し構造となっている。
図5(e)に示す微細構造は、画線を分岐して成る分岐画線で形成している。これは、点線枠内に示す画線部となる部分と非画線部のなる部分を特定の一要素とし、その特定の一要素を一定のピッチで規則性をもって繰り返されて成る繰り返し構造となっている。
図5(f)に示す微細構造は、画線の角度を変えて形成している。これは、点線枠内に示す山形状の画線部分を特定の一要素とし、その特定の一要素を一定のピッチで規則性をもって繰り返されて成る繰り返し構造となっている。
図5(g)に示す微細構造は、画線を湾曲させて形成している。これは、点線枠内に示す湾曲した画線部分を特定の一要素とし、その特定の一要素を一定のピッチで規則性をもって繰り返されて成る繰り返し構造となっている。
図5(h)に示す微細構造は、文字、記号やマーク、数字等の有意情報で形成している。これは、点線枠内に示す「OK」の文字とその「O」と「K」の間の非画線の部分を特定の一要素とし、その特定の一要素を一定のピッチで規則性をもって繰り返されて成る繰り返し構造となっている。
微細構造は、例えば、分断構造の画線を形成する場合のピッチは50μmから350μmの範囲で形成することが望ましく、記号やマーク等の有意情報で形成する場合には一つの記号やマーク等を350μm未満の大きさで形成することが望ましい。また、この範囲の中でも、より小さなピッチの範囲で形成することが、目視上、微細構造を捉えづらくできることからより望ましいと言える。ただし、用いる印刷方式によっては、あまりに微細な構造は安定して再現できない場合もあり、実際には用いる印刷方式に応じて、製造安定性を考慮した再現性のあるピッチで設計する必要がある。
以上のように、本発明における微細構造は、図5で示したとおり分断画線、分岐画線、分岐分断画線、レリーフ構造の画線、角度変化のある画線、湾曲した画線、有意味情報で形成されるが、いずれも、図5中の点線で示した特定の一要素が、一定ピッチで規則性をもって繰り返されて成る繰り返し構造となっている必要がある。
ただし、本発明の効果を最も奏するためには、図5(a)、(b)、(c)及び(d)の形態で形成することが望ましい。これは、これらの形態においては特定の一要素自体が微細であって、それゆえに繰り返し周期が短く構成でき、単位長さ当たりの光の反射面を多く構成できるためである。特に特定の一要素が画素に近い形態の場合には、通常の画線が画線方向と法線を成して入射する光しか強く反射できないのに対して、画素はあらゆる角度から入射する光を強く反射することができるために、光がいずれの角度から入射した場合でも、通常の画線に対して強いコントラストを生じ、視認性の高い潜像を出現させることができるため、最も望ましい。
複写防止印刷物(1)は、複写防止効果に加えて、正反射光下で潜像を出現させる効果を高めるために、複写防止効果のみを意図した従来の印刷物とは異なる考えに従って微細構造を付与する必要がある。
対比のために、図6に、従来の微細(分断)構造を有した複写防止技術で用いられる画線の一般的な構造を示す。従来、複写防止技術では基本となる画線方向(S1方向)に対して、法線を成す角度で画線を分断して形成するのが一般的であり、分断角度はそれぞれの画線の画線方向(S1)によって異なるものであった。
一方、図7に、本発明の微細構造を有した画線の構造を示す。微細構造における分断角度は、画線方向(S1)とは無関係であり、基本的には一定の角度で固定して形成する。これは、基本となる画線の画線方向の変化に応じて分断線の角度を変えた場合、正反射光下で出現する潜像に不要な濃淡が生じることを防ぐためである。
言いかえれば、微細構造の向きは、特定の一要素を一つの周期とした場合、全ての周期における特定の一要素が、基材の所定の辺に対して全て同じ向きで配列することが望ましい。つまり、図5においては直線の場合で説明しているが、例えば、曲線で形成されている場合においても、曲線に対して同じ向きに配列するのではなく、あくまでも基材の所定の辺に対して同じ向きで配列する。
本発明における「基材の所定の辺」とは、基材の任意の一点から任意の一点に引いた架空の直線のことであり、図1の例においては、黒丸で図示した任意の二点に引いた点線のことを「基材の所定の辺」とする。
これによって、正反射光下で出現する潜像は全体が均一な階調を有して出現することから、視認性が格段に高くなる。ただし、正反射光下で出現する潜像に意図的に複数の階調を割り当てたい場合には、分断角度の異なる複数種類の分断線を用いる必要がある。
第一の画線(7)及び第二の画線(8)は、入射した光を強く反射する光輝性を有し、かつ、盛り上がりを有する必要がある。
第一の画線(7)及び第二の画線(8)に、光輝性を付与する方法としては、各画線を形成するインキ中に光輝性材料を配合する方法や、メタリック系インキやグロス系のインキを用いる方法、印刷後に印刷画線をグロスコートする方法等が考えられる。
一方、第一の画線(7)及び第二の画線(8)の盛り上がりに関して、盛り上がり高さは2μm以上得られれば充分であることから、フレキソ印刷、グラビア印刷、凹版印刷、スクリーン印刷等で容易に形成できる。なお、オフセット印刷の膜厚は約1μmであるから、オフセット印刷方式で本実施の形態における複写防止印刷物を形成することは困難であるが、特開2007−229967号公報や再公表W095/09372号公報の記載の技術のように、オフセット印刷で後刷りインキをはじく特性を有する画線を形成した後、ロールコーター等を用いてグロスニスをベタ引きすることで、オフセット印刷で形成した画線以外の部分にグロスニスがはじかれ、盛り上がりのある画線を形成するといった技術を用いればオフセット印刷機とロールコーターのコンビネーションで印刷物を形成することも可能である。
本発明に必須である「光輝性」とは入射した光を強く反射する特性のことであり、光が入射した場合に、少なくとも画線の明度が上昇する、いわゆる明暗フリップフロップ性を盛り上がりのある画線が備えることが必須である。複写防止印刷物(1)の印刷画像の光輝性を有した盛り上がりのある画線をインキで形成する場合、金インキや銀インキ等の一般的にメタリックインキと呼ばれるインキで形成することができる。
要求される具体的な光学特性としては、メタリックインキを一般的なコート紙上に画線面積率100%で印刷した場合、反射角度45°の正反射光下の明度の値が100以上であり、拡散反射光下における明度(最小明度)と反射角度45°の正反射光下における明度(最大明度)との差が50以上であることが望ましい。これを下回る反射特性しか備えないインキを用いた場合、正反射光下の反射光量が充分得られず、潜像を容易に視認できない場合があるため望ましくない。
本発明により高度な真偽判別性を付与したい場合は、パールインキや液晶インキ、OVI等の、カラーフリップフロップ性を有する機能性インキを用いて印刷画像(3)を形成することが望ましい。パールインキや液晶インキを用いて光輝性を有した盛り上がりのある画線を形成した場合は、入射した場合に明度だけでなく色相も変化する、いわゆるカラーフリップフロップ性を付与でき、単純な明暗フリップフロップを用いた印刷画像(3)よりも模倣が難しいために偽造抵抗力が高まることに加えて、意匠性も高まることから、より望ましい。
また、複写防止印刷物(1)の印刷画像(3)を形成するインキに、紫外線で励起する蛍光顔料を混合することで、特許文献6の技術と同様に、紫外線ランプで紫外線を照射した場合、蛍光顔料の発光色で潜像が出現する効果を得ることができる。
また、図5(a)から図5(h)までのいずれの画線を用いて潜像を形成した場合でも、第一の画線(7)及び第二の画線(8)と同じ形状で、かつ、ピッチ(P1)と同じ周期のレンチキュラーレンズを画線方向に合わせて重ね合わせた場合、特許文献9の技術と同様に、レンチキュラーレンズの拡大効果によって、潜像が出現する効果を有する。
なお、複写防止印刷物(1)の真偽判別効果を高めるために、印刷画像(3)を形成するインキ中に各種機能性材料を混合しても良い。例えば、発光顔料、赤外線吸収顔料、サーモクロミック材料、フォトクロミック材料等を混合することで、特定の波長域の光を用いて印刷画像が視認可能かを確かめたり、温度変化や光量の変化によって印刷画像の色彩が変化する機能を追加したりすることが可能である。
図8に、複写防止印刷物を複写機で複写した場合に出現する画像を示す。図8(a)に複写防止印刷物(1)を示す。この複写防止印刷物(1)を複写機で複写した際、図8(b)に示すように、潜像領域(4´)が周辺領域(5´)と比較して淡く再現され、通常の観察条件で視認不可能であったアルファベットの「OK」の文字が出現する。
実施の形態においては、潜像領域が周辺領域と比較して淡く再現された例であるが、逆に、潜像領域が周辺領域と比較して濃く再現される場合もある。本発明の複写防止印刷物は、複写機を用いて複写した場合に潜像領域に形成した潜像が可視化された状態で複写されることを効果としていることから、潜像が可視化される限り、淡く再現されても濃く再現されても、いずれの状態でも問題ない。
この効果は、画線の細部の構造が異なっているが、同じ濃度の第一の画線(7)と第二の画線(8)を、人間は巨視的に捉えて二つの画線を同じ画線として認識するが、複写機は微視的に捉えて二つの画線を異なる構造の違う画線と認識し、かつ、二つの画線を異なる構成の画線に変換して再現することに起因する。
肉眼では潜像が不可視であって、複写時に潜像が出現する効果、いわゆる複写防止効果を高めるには、等色に観察される第一の画線(7)と第二の画線(8)の微細構造が大きく違うほど好ましいと言えるが、どのような構造がどのように複写物に反映されるかは、複写機ごとの複写アルゴリズムに依存する場合もあることから、第一の画線(7)と第二の画線(8)の最適な構造は、その複写機ごとに適宜調整する必要がある。複写防止効果を重視したい場合には、第一の画線(7)と第二の画線(8)のいずれか一方は、単純な連続線で形成することが望ましい。
一般的には、1mmの間に2本以下の画線しか存在しない場合、人間の眼はその画線を容易に捉えると言われている。画線の微細構造として規則的な非画線部を設けた分断構造や分岐構造、矩形構造等を用いる場合、その微細構造の基本と成る分断構造部分や分岐構造部分、矩形構造部分の基本的なピッチは1mmの間に2本を超える。すなわち3本以上の画線が入るピッチで画線を形成して肉眼で視認しづらい構成とすることが望ましく、具体的には、少なくとも350μm以下のピッチで分断することが望ましい。
また、大量生産を行う商業印刷において安定して再現できる画線ピッチは、50μm前後であることを考えると、微細構造におけるピッチは、50μmから350μmの範囲で形成することが望ましく、画線幅は、これをわずかに下回る、ほぼこれに準じる値が望ましい。
図9に、本発明の複写防止印刷物(1)のもう一つの効果について説明する。図9(a)に本発明の複写防止印刷物(1)を拡散反射光下で観察した場合に、視認できる画像を示し、図9(b)及び(c)に本発明の複写防止印刷物(1)を正反射光下で観察した場合に視認できる画像を示す。
なお、本明細書中における「拡散反射光下での観察」とは、複写防止印刷物に入射した光の入射角度と、複写防止印刷物から反射した光の反射角度が大きく異なる、正反射光がほとんど存在しない角度での観察を指す。
一方、本明細書中における「正反射光下での観察」とは、複写防止印刷物に入射した光の入射角度と、複写防止印刷物から反射した光の反射角度が近い、例えば、複写防止印刷物に入射角度−45°で光が入射した場合、受光角度45°近傍の領域の強い反射光が生じている状態で、反射光の中に拡散反射光と正反射光が混在し、かつ、相対的に正反射光が多く存在する角度での観察を指す。
図9(a)に示すように、拡散反射光下で本発明の複写防止印刷物(1)を観察した場合、潜像領域(4)である「OK」の文字は完全に不可視であり、潜像領域(4)と周辺領域(5)が同じ色彩で、一様に視認される。
一方、図9(b)に示すように、正反射光下で本発明の複写防止印刷物(1)を観察した場合、潜像領域(4´)である「OK」の文字が周辺領域(5´)よりも淡く変化するか、あるいは潜像領域(4´)である「OK」の文字が周辺領域(5´)よりも濃く変化して視認される。
潜像領域(4)の濃淡が反転する効果は、第一の画線(7)と第二の画線(8)は立体構造が異なるため、入射する光の方向に応じて強く光を反射する面の有無が異なることによって生じる効果である。例えば、図3の画線の場合、上下方向から光が入射した場合、第二の画線(8)がより強く光を反射し、図9(c)のように「OK」の文字が暗く視認され、左右方向から光が入射した場合、第一の画線(7)がより強く光を反射し、図9(b)のように「OK」の文字が淡く視認される。以上の原理によって、発明の複写防止印刷物(1)において、正反射光下でも複写時と同じように潜像を視認できる。
以下、前述の発明を実施するための形態に従って、具体的に作製した複写防止印刷物の実施例について詳細に説明するが、本発明は、この実施例に限定されるものではない。
実施例1は、一般的な紙を基材(2−1)として、第一の画線(7−1)を分断線、第二の画線(8−1)を通常の連続線として本発明の複写防止印刷物(1−1)を形成した例である。
実施例1は、図10から図15を用いて説明する。複写防止印刷物(1−1)を形成する基材(2−1)には、一般的な白色コート紙(日本製紙製)を用いた。
図10に示すように、実施例1における複写防止印刷物(1−1)は、基材(2−1)上に、印刷画像(3−1)が形成されている。
図11に、印刷画像(3−1)の構成を示す。印刷画像(3−1)は、図11(a)に示す修飾情報部(9−1)と、図11(b)に示す複写防止部(10−1)から構成されている。修飾情報部(9−1)とは、貴重印刷物が必要とする様々な情報を記載した画像のことであるが、本発明の必須要件ではない。修飾情報部(9−1)は、いかなる材料を用いて、いかなる高さの画線で形成しても問題ないが、大きなベタ画像のように塗りつぶし面積の大きな構成とした場合には、本発明の複写防止部(10−1)に生じる様々な効果を視認しづらくなることから好ましくない。
実施例1においては、図11(a)に示すように修飾情報部(9−1)を彩紋と文字情報のみで構成し、複写防止部(10−1)を焼き付けた版と同じ版に面付けし、かつ、複写防止部(10−1)を形成したインキと同じ光輝性インキで形成したが、複写防止部(10−1)とは別版構成として、異なるインキで構成しても何ら問題ない。
図11(b)に示す複写防止部(10−1)は、円の集合によって形成された万線パターンによる地紋模様である。なお、このような円の集合によって形成された地紋模様は、複写した場合にモアレパターンが発生しやすく、従来から貴重印刷物の地紋模様として様々な形態で用いられており、この地紋模様自体でも一定の複写防止効果を備えている。
図12に複写防止部(10−1)の概略図を示す。複写防止部(10−1)は、潜像画像である「COPY」の文字を施した潜像領域(4−1)と、それ以外の周辺領域(5−1)を有する。
図13に、潜像領域(4−1)を形成している画線と、周辺領域(5−1)を形成している画線の一部拡大図を示す。
潜像領域(4−1)は、画線幅0.2mmの画線に0.14mmのピッチで0.07mm幅の画線部と0.07mmの非画線部が連続して繰り返される分断線で構成される第一の画線(7−1)が、ピッチ0.6mmで連続して複数配置されて成る。
周辺領域(5−1)は、画線幅0.1mmの第二の画線(8−1)が、ピッチ0.6mmで連続して複数配置されて成る。
実施例1において、周辺領域(5−1)を構成する第二の画線(8−1)は、連続した通常の曲線であり、潜像領域(4−1)を構成する第一の画線(7−1)は、分断線である。周辺領域(5−1)と潜像領域(4−1)の境界において、第二の画線(8−1)と第一の画線(7−1)は、画線中心の位相を一致させて配置した。さらに、潜像領域(4−1)と周辺領域(5−1)の画線面積率は同じである。このため、肉眼では、第一の画線(7−1)と第二の画線(8−1)とは、連続した一本の画線に見える。
説明の便宜上、修飾情報部(9−1)と複写防止部(10−1)を別々に分けて説明したが、実際に行った印刷では、修飾情報部(9−1)と複写防止部(10−1)とを違う版面に別々に焼き付けたわけではなく、組み合わせた印刷画像(3−1)として一つの版面に焼き付けた。以上の版面を用いて、UV乾燥方式のフレキソ印刷機を使用し、銀色のメタリックインキ(T&K TOKA製 BEST CURE UVフレキソシルバー500S)を使用して印刷を行った。この印刷によって得られた画線高さは、約2μmであった。
以上の手順で作製した複写防止印刷物(1−1)を、カラーコピー機(キャノン製 imagePRESS C1+)を用いて複写し、複写防止効果について確認を行った。
図14に、複写防止印刷物(1−1)を複写機で複写した場合に出現する画像を示す。図14(a)に複写防止印刷物(1−1)を示す。この複写防止印刷物(1−1)を複写機で複写した際、図14(b)に示すように、潜像領域(4´−1)が周辺領域(5´−1)と比較して淡く再現され、通常の観察条件で視認不可能であったアルファベットの「COPY」の文字が出現し、複写防止印刷物(1−1)の顕著な複写防止効果が確認できた。
また、複写防止印刷物(1−1)の複写物は、全体の色相も濃い青緑色に変化しており、通常の観察環境では灰色として視認される銀色とは大きく色彩が異なり、一見して真正物との差異が認識できた。
この複写物の色彩が変化して再現される効果は、複写時に複写機から発せられる光を受けて、光輝性を有する画線が強く光を反射することで正確な色彩を読み取ることが困難であることから生じる効果であると考えられる。
以上のことから、複写機による複写物は、印刷画像(3−1)全体の色彩も真正物とは大きく異なり、従来の同様な複写防止印刷物と比較しても、より高い複写防止効果が得られていることが確認できた。
また、複写防止印刷物(1−1)の二つ目の効果である、正反射時に出現する潜像画像の出現を確認した。拡散反射光下で複写防止印刷物(1−1)を観察したところ、図15(a)に示すように、潜像領域(4−1)に形成されている「COPY」の文字は不可視であり、修飾情報部(9−1)と複写防止部(10−1)のみ視認できた。
さらに、複写防止印刷物(1−1)を光にかざして正反射させたところ、光の入射角度に応じて図15(b)に示すように、アルファベットの「COPY」の文字が淡く視認されたり、図15(c)に示すように濃く視認されたりと、アルファベットの「COPY」の文字が濃淡反転する効果を視認することができた。
以上のように、拡散反射光下で潜像が不可視であり、正反射光下では道具を用いることなくとも潜像が肉眼で容易に捉えられることが確認できた。
(比較例1)
比較例1として、従来の画線構成を用いた複写防止印刷物(1−2)を形成した例について説明する。使用したデザイン、インキ及び画線高さは、実施例1と同様である。
比較例1で用いた従来の画線構成とは、図6に示したように、基本となる画線方向(S1方向)に対して、法線を成す角度で画線を分断した構成であって、かつ、分断角度を一定の値に固定せず、画線の画線方向(S1)に応じて変化させた構成を指す。よって、比較例1において、複写防止部の基本と成る画線は円の集合で形成されることから、分断角度は0°から180°までのあらゆる角度を取り得る。
比較例1について、図16から図18を用いて説明する。図16に、比較例1で形成した複写防止印刷物(1−2)を示す。複写防止印刷物(1−2)を形成する基材(2−2)は、一般的な白色コート紙(日本製紙製)を用い、基材(2−2)上に印刷画像(3−2)が形成されている。
印刷画像(3−2)は、実施例1と同様、修飾情報部と複写防止部から構成されて成る。複写防止部は、実施例1で示した図11と同様に円の集合によって形成された万線パターンによる地紋模様で構成し、修飾情報部は1000の額面情報文字と商品券の文字で構成した。また、複写防止部(10−2)の中の潜像画像は、図12に示したように「COPY」の文字を施した潜像領域と、それ以外の周辺領域を有する。
図17に、潜像領域を形成している画線と、周辺領域を形成している画線の一部拡大図を示す。この画線構成が従来の画線構成であり、実施例1と異なるところである。
潜像領域は、画線幅0.2mmの画線に0.14mmのピッチで0.07mm幅の画線部と0.07mmの非画線部が連続して繰り返される分断線で構成される第一の画線(7−2)が、ピッチ0.6mmで連続して複数配置されて成る。この分断線は、実施例1の第一の画線(7−1)と画線面積率は同じであるが、分断角度が異なり、基本と成る画線の画線方向に対して常に法線を成す分断角度で分断されて成る。図17に拡大して図示した部位は極めて狭い領域であるから全て同じ分断角度であるように見えるが、実際には微妙に変化する画線角度に応じて、必ず法線を成す分断角度で分断した構成であり、基本と成る画線の角度に応じてそれぞれの部位の分断角度は異なっており、本例は複写防止部の画線が円であるから、それに応じた0°から180°までの分断角度が存在する。
周辺領域(5−2)は、実施例1と同様の構成であって、画線幅0.1mmの第二の画線(8−2)が、ピッチ0.6mmで連続して複数配置されて成る。
比較例1においても実施例1同様に、周辺領域(5−2)と潜像領域(4−2)の境界において、第一の画線(7−2)と第二の画線(8−2)は、画線中心の位相を一致させて配置し、さらに、潜像領域(4−2)と周辺領域(5−2)の画線面積率は同じに設計していることから、肉眼では、第一の画線(7−2)と第二の画線(8−2)とは、連続した一本の万線に見える。
以上の画線を、実施例1同様にUV乾燥方式のフレキソ印刷機を使用し、実施例1と同じ銀色のメタリックインキ(T&K TOKA製 BEST CURE UVフレキソシルバー500S)を使用して印刷を行った。この印刷によって得られた画線高さは、実施例1と同じ約2μmであった。
以上の手順で作製した複写防止印刷物(1−2)を、カラーコピー機(キャノン製 imagePRESS C1+)を用いて複写し、複写防止効果について確認を行ったところ、実施例1で作製した複写防止印刷物(1−1)とほぼ同じ効果、すなわち「COPY」の文字が白く出現する効果を得ることができた。
複写防止印刷物(1−2)の二つ目の効果である、正反射時に出現する潜像画像の出現を確認した。複写防止印刷物(1−2)を光にかざして正反射させたところ、光の入射角度に応じて図18(b)や図18(c)に示すように、アルファベットの「COPY」の文字が一定の階調で表現されず、文字の内部に不必要な濃淡が生じてしまい、一見しただけでは、如何なる文字が表現されているのか判断することができず、アルファベットの「COPY」の文字の可読性が著しく低下した。これは、第一の画線(7−2)の分断角度が、円と法線を成す角度で徐々に変化しているために、一定方向から入射する光に対して強く光ったり、弱く光ったりする部分が生まれ、結果的に生じてしまった不必要な濃淡である。
比較例1においては、複写防止部(10−2)を円の集合といった単純で、かつ、規則性のある画線構成で形成したために、よく観察すれば「COPY」の文字が読み取れる程度の濃淡で収まったが、仮に、規則性がなくランダムに角度が変わるような不規則な画線で複写防止部(10−2)を構成し、第一の画線(7−2)を従来のように画線に直交する分断角度で分断した場合には、不必要な濃淡の発生によって「COPY」の文字の可読性は著しく低下することから、比較例1のように画線と直交する分断角度で分断する構成は望ましくない。逆に、潜像の視認性を低下させないためには、複写防止部(10−2)の画線に一定の規則性を持たせたり、角度変化の少ない画線構成にしたりする必要が生じ、結果として複写防止部(10−2)を構成する画線構成に制約が生まれるために望ましくない。