JP5966896B2 - リチウムイオンニ次電池、それを用いた二次電池システム、およびリチウムイオン二次電池用非水電解液 - Google Patents

リチウムイオンニ次電池、それを用いた二次電池システム、およびリチウムイオン二次電池用非水電解液 Download PDF

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Description

本発明は、リチウムイオンニ次電池、それを用いた二次電池システム、およびリチウムイオン二次電池用非水電解液に関するものである。
非水系電解液二次電池の一種であるリチウムイオン二次電池は、水系電解液二次電池(例えば、ニッケル水素電池、ニッケルカドミウム電池、鉛電池)の起電力(約1.5 V)に比して非常に高い起電力(3 V以上)を有する。そのため、リチウムイオン二次電池は、電池の小型・軽量化や大容量・高出力化に有利であり、携帯用パソコンや携帯電話機等の小型電子機器に広く用いられてきた。近年では、リチウムイオン二次電池の用途は、大型電気機器(例えば、HEV(ハイブリッド自動車)やEV(電気自動車)などの自動車用動力電源や、電力貯蔵用電源)にも拡大してきている。
リチウムイオン二次電池の非水電解液としては、六フッ化リン酸リチウム等の電解質(支持塩)をエチレンカーボネート(EC)やプロピレンカーボネート(PC)等の非水溶媒に溶解させたものが広く知られている。しかしながら、これらの非水溶媒は、引火性を有するため(例えば、ECおよびPCの引火点は130〜140℃)、原理的には火種があれば引火する。
一方、リチウムイオン二次電池を大型電気機器へ適用するには、小型電子機器の場合よりも、はるかに高い出力と容量とが求められている。これは、二次電池の絶対的な容積が大きくなることにつながる。そして、それに伴う発熱の問題が大きくなるので、より高い安全性を確保することが重要となり、引火の可能性が少ない非水電解液の使用が強く望まれている。そのような要求に対し、非水電解液に難燃剤や過充電防止剤を添加することで、非水電解液の引火を回避する研究開発が精力的に進められている。
非水電解液に難燃剤を添加する技術として、例えば、特許文献1(特開2011-165606号公報)には、オリビン型リン酸鉄リチウムを含有する正極と、リチウムイオンを吸蔵及び放出することが可能な材料からなる負極と、非水溶媒と、その非水溶媒に溶解したリチウム塩と、特定の式で表される亜リン酸エステル5〜50質量%とを含有する電解液とを備えるリチウムイオン二次電池が開示されている。特許文献1によると、安全性とサイクル特性との両方が良好になるリチウムイオン二次電池用非水電解液及びリチウムイオン二次電池を提供することができるとしている。
また、特許文献2(特開2006-004746号公報)には、主として溶質及びこれを溶解する非水系有機溶媒からなり、特定の構造を有するリン系化合物を10〜1000 ppm含有する二次電池用非水電解液が開示されている。特許文献2によると、高温保存時、高温連続充電時の電池性能劣化が抑制され、初期容量の低下を大幅に低減した非水電解液および二次電池を提供することができるとしている。
また、特許文献3(特開2007-299542号公報)には、リチウムイオンを吸蔵及び放出し得る負極及び正極と非水系電解液とを備え、該負極がSi原子、Sn原子及びPb原子よりなる群から選ばれる少なくとも一種の原子を有する負極活物質を含む非水系電解液二次電池に用いられる非水系電解液であって、不飽和結合及びハロゲン原子のうち少なくとも一方を有するカーボネートと、特定の構造を有する有機燐化合物とを少なくとも含有することを特徴とする非水系電解液が開示されている。特許文献3によると、高い充電容量を有すると共に、長期に亘り優れた特性を有し、特に放電容量維持率に優れた非水系電解液二次電池を作製できるとしている。
また、特許文献4(特開昭58-206078号公報)には、主鎖に共役二重結合を有する高分子化合物または該高分子化合物にドーパントをドープして得られる導電性高分子化合物を少なくとも一つの電極に用いた電池において、電解液の有機溶媒として特定の構造を有するリン酸エステル系化合物を用いたことを特徴とする電池が開示されている。特許文献4によると、エネルギー密度が大きく、電圧の平坦性が良好であり、自己放電が少なく、また繰り返しの寿命が長い二次電池を提供することができるとしている。
また、特許文献5(特開2011-096462号公報)には、電解質と非水溶媒とを含む非水系電解液において、特定の式で表されるハロゲン含有リン酸エステル化合物を含有することを特徴とする非水系電解液が開示されている。特許文献5によると、上記電解液を電池の電解液として用いることで、電池の充電状態での高温保存時におけるガス発生を抑制し、充放電特性、特に、高温保存の電圧及び容量に優れた電池を得ることができるとしている。
また、特許文献6(特許第3512114号公報)には、アルカリ金属またはアルカリ金属を含む化合物からなる負極を用いる有機電解液電池用の有機電解液であって、フッ素原子を含み3員環構造または4員環構造の環状エーテルを溶媒として用いたことを特徴とする有機電解液電池用の有機電解液が開示されている。特許文献6によると、特定の有機電解液電池用の有機電解液の溶媒として、水素原子の一部または全部をフッ素原子で置換したフッ素原子を含み3員環構造または4員環構造の環状エーテルを用いることによって、電極との反応性を低下させ、安定性の高い有機電解液電池用の有機電解液を得ることができ、その有機電解液を用いることにより、貯蔵性が優れた有機電解液電池を得ることができるとしている。また、炭素原子を2個以上含む有機含フッ素リチウム塩を電解質として用い、かつフッ素原子を含む環状エーテルを溶媒として用いることにより、安定性が高く、かつイオン伝導度が高い有機電解液電池用の有機電解液を得ることができ、その有機電解液を用いることにより、貯蔵性が優れ、かつ内部抵抗が小さい有機電解液電池を得ることができるとしている。
特開2011−165606号公報 特開2006−004746号公報 特開2007−299542号公報 特開昭58−206078号公報 特開2011−096462号公報 特許第3512114号公報
前述したように、リチウムイオン二次電池への大容量・高出力化の要求は、近年ますます高まっている。しかしながら、難燃剤や過充電防止剤が添加された従来の非水電解液を用いたリチウムイオン二次電池は、非水電解液への難燃成分や過充電防止成分の添加によって、リチウムイオン二次電池の電池性能(例えば、初期容量)で要求特性を十分に満たせなくなる問題があった。すなわち、それらの点で更なる改善が強く望まれていた。
したがって、本発明の目的は、電池性能(例えば、初期容量)を低下させず、かつ大容量・高出力化の要求に対応できる高い安全性を有するリチウムイオン二次電池およびそれを用いた二次電池システムを提供することにある。また、本発明の他の目的は、そのような安全性の高いリチウムイオン二次電池を実現するためのリチウムイオン二次電池用の非水電解液を提供することにある。
(I)本発明の一態様は、リチウム化合物からなる電解質と難燃剤と非水溶媒とを含有するリチウムイオン二次電池用の非水電解液であって、
前記非水電解液中のリチウム濃度が、0.5 mol/L以上2.5 mol/L以下であり、
前記難燃剤は、亜リン酸トリメチルと亜リン酸ジメチルとを含み、
前記亜リン酸トリメチルは、下記化学式(1)で表わされる化合物であり、
前記亜リン酸ジメチルは、下記化学式(2)で表わされる化合物および/または下記化学式(3)で表わされる化合物からなり、
前記亜リン酸トリメチルと前記亜リン酸ジメチルとの合計含有量が、前記非水電解液に対して1質量%以上60質量%以下であることを特徴とする非水電解液を提供する。
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(II)本発明の他の一態様は、リチウム化合物からなる電解質と難燃剤と非水溶媒とを含有する非水電解液を有するリチウムイオン二次電池であって、
前記非水電解液が上記の非水電解液あることを特徴とするリチウムイオン二次電池を提供する。
(III)本発明の更に他の一態様は、少なくとも2個以上のリチウムイオン二次電池が直列あるいは並列に接続された二次電池システムであって、
前記リチウムイオン二次電池は、リチウム化合物からなる電解質と難燃剤と非水溶媒とを含有する非水電解液を有し、
前記非水電解液が上記の非水電解液あることを特徴とする二次電池システムを提供する。
本発明によれば、電池性能(例えば、初期容量)を低下させず、かつ安全性の高いリチウムイオン二次電池用の非水電解液を提供することができる。また、本発明によれば、当該非水電解液を利用することによって、電池性能を犠牲にすることなく大容量・高出力化が可能でかつ安全性の高いリチウムイオン二次電池を提供することができ、該リチウムイオン二次電池を用いた二次電池システムを提供することができる。
本発明に係るリチウムイオン二次電池の一例を示す断面模式図である。 本発明に係る二次電池システムの一例を示す断面模式図である。
本発明者等は、リチウムイオン二次電池において電池性能(初期容量、大容量、高出力)と安全性との両方を同時に達成させることを目指して、添加する難燃剤について鋭意検討した。その結果、亜リン酸トリメチルおよび亜リン酸ジメチルを含む難燃剤を、所定の添加量になるように非水電解液に含有させることによって、リチウムイオン二次電池の電池性能を犠牲にすることなく、安全性を確保できることを見出した。本発明は、該知見に基づいて完成されたものである。
本発明は、前述した非水電解液とリチウムイオン二次電池と二次電池システムとにおいて、以下のような改良や変更を加えることができる。
(i)前記亜リン酸トリメチルと前記亜リン酸ジメチルとの合計含有量が、前記非水電解液に対して1質量%以上10質量%以下である。
(ii)前記亜リン酸トリメチルの含有量が、前記非水電解液に対して0.9質量%以上9.9質量%以下であり、前記亜リン酸ジメチルの合計含有量が、前記非水電解液に対して0.1質量%以上1%質量以下である。
(iii)前記リチウム化合物が、LiPF6、LiBF4、LiN(SO2F)2、LiN(SO2CF3)2、リチウムビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミドの中から選ばれる少なくとも1つである。
(iv)前記リチウムイオン二次電池は、前記非水電解液が固体高分子に含浸された固体高分子ゲル電解質を有する。
以下、本発明に係る実施形態について、より具体的に説明する。ただし、本発明は、ここで取り上げた実施形態に限定されることはなく、発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜組み合わせや改良が可能である。
[非水電解液]
前述したように、本発明に係る非水電解液は、リチウム化合物からなる電解質と非水溶媒とを含有し、亜リン酸トリメチルと亜リン酸ジメチルとからなる難燃剤を更に含有する。亜リン酸トリメチルは、下記化学式(1)で表わされる化合物であり、亜リン酸ジメチルは、下記化学式(2)で表わされる化合物および/または下記化学式(3)で表わされる化合物である。化学式(2)の亜リン酸ジメチルと化学式(3)の亜リン酸ジメチルとは、互いに異性体の関係にあり、本発明に係る非水電解液では、時間の経過とともに両方の亜リン酸ジメチルが共存する化学平衡状態に達する。
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亜リン酸トリメチルの添加は、主に、非水電解液自体を難燃化させる作用効果(非水電解液の引火を抑制・防止する作用効果)を奏する。一方、亜リン酸ジメチルの添加は、主に、二次電池の過充電や内部短絡によって電池が高温になったときに、電池の正極の表面で亜リン酸ジメチルが分解して該表面上に高抵抗な被膜を形成し、過充電電流や短絡電流を抑制する作用効果を奏する。
本発明の難燃剤は、非水電解液の難燃性の向上と、電池の使用範囲を超えた過剰電流(過充電電流や短絡電流)の抑制による異常発熱の防止との2つの作用効果を兼ね備えるため、従来よりも安全性の高いリチウムイオン二次電池を提供することができる。亜リン酸トリメチルと亜リン酸ジメチルは、ともに上記両方の作用効果(難燃性の向上および異常発熱の防止)を有するが、亜リン酸トリメチルは難燃性の向上に、亜リン酸ジメチルは異常発熱の防止に、より強い作用効果を示し、特定の混合比において相乗的な効果が得られる。すなわち、本発明は二種類の難燃剤を同時に使用することによって、単独で用いたときよりも電池の安全性のレベルをより高めることが可能になる。
亜リン酸トリメチルは、従来から非水電解液の難燃剤として知られており、非水電解液の自己消火性を高めることができる。しかしながら、亜リン酸トリメチルの単独添加は、二次電池が高温になって亜リン酸トリメチルが分解すると、電解液自身の難燃化の作用効果が低下してしまう問題があった。
そこで、本発明者等は、難燃剤の分解に関してリン(P)原子に結合する基に着目した。化学式(1)から解るように、亜リン酸トリメチルは、メトキシ基(CH3O-)がP原子に3個結合している。亜リン酸トリメチルの分解過程は、CH3O基が段階的に脱離し、分解する逐次反応(Stepwise reaction)と考えられる。
一方、亜リン酸ジメチルは、化学式(2)および化学式(3)に示したように、CH3O基がP原子に2個結合しており、P原子の1つの結合手が水素(H)または水酸基(-OH)と結合している。亜リン酸ジメチルの分解過程も、CH3O基が段階的に脱離し、分解する逐次反応(Stepwise reaction)と考えられる。
CH3O基の分解素過程として、酸素(O)原子をP原子側に残してメチル基(CH3)が脱離するのか、P原子にO原子を残さずCH3O基として脱離するのかは不明であるが、いずれの素過程であっても、CH3O基の数の少ない亜リン酸ジメチルの方が亜リン酸トリメチルよりも分解し易いと考えられる。
また、亜リン酸ジメチルは、電池環境内では酸化され易いため、従来、非水電解液の難燃剤として積極的に利用したい化合物とは考えられていなかった。これに対し、本発明は、亜リン酸ジメチルと亜リン酸トリメチルとを併用することにより、亜リン酸ジメチルの分解を積極的に活用し、リチウムイオン二次電池に対して異常発熱防止の作用効果を付与するものである。
前述したように、亜リン酸ジメチルは、高温になると分解して正極上で高抵抗な被膜を形成する。分解反応の詳細については不明であるが、例えば、正極から脱離した酸素(O)成分と亜リン酸ジメチルとが、下記の反応式(a)および反応式(b)のように化学反応すると考えられる。
(CH3O)2PH(=O) + xO2 → PO2x-1 + 2CO2 + 7H + 7e- 反応式(a)
(CH3O)2P(OH) + xO2 → PO2x-1 + 2CO2 + 7H + 7e- 反応式(b)
ここで、「x」は正極から脱離した酸素分子のモル数、「2x-1」はリン原子1個に結合した酸素原子の比率を示す。「x」は「13/8≦ x ≦7/4」を満たす(すなわち、PO2x-1におけるPの酸化数は4.5以上5以下と考える)。なお、反応式(b)の左辺に示した亜リン酸ジメチルは、異性体「(CH3O)2PH(=O)」であってもよく、本発明の亜リン酸ジメチルのPの酸化数は4.5と考える。
上記化学反応で生成したリン酸化物(PO2x-1)が、二次電池の正極表面に高抵抗な被膜を形成し、電池内部の電流キャリアとなるリチウムイオンの透過(移動)を阻害する。また、高抵抗な被膜が形成されることにより、電解液の非水溶媒分子が正極表面で正極の酸素と電気化学的に反応して酸化分解することも防止される。その結果、過剰電流(過充電電流や短絡電流)を抑制すると共に、非水溶媒分子の酸化分解による異常発熱を防止することができる。
なお、上記説明では正極上の高抵抗な被膜の形成について述べたが、高温になると負極上では還元反応が起こる。具体的には、リチウム(Li)と亜リン酸ジメチルとが反応し、負極上にLi3PやLi3PO4などが形成されてリチウムイオンが不活性化される。これにより、正極と負極との間の過剰電流(過充電電流や短絡電流)が更に抑制される。
難燃剤として用いる亜リン酸エステルにおいて、一般的に、分子量が大きくなるほど電解液の粘度が高くなり、導電率が低下する(リチウムイオンの移動度が低下する)。また、エステル結合したアルキル基やアリール基の分子量が大きくなるほど(基を構成する炭素数が多いほど)、分解反応熱が大きくなるため、分解時に電解液の温度が上昇しやすく難燃性の作用効果を減じさせる。さらに、難燃剤の分子量が大きくなると、その蒸気圧も減少するため、電解液の引火抑止効果(外部からの火炎に対する電解液の燃焼抑止効果)も低下する。
本発明で用いる亜リン酸エステル(亜リン酸トリメチルおよび亜リン酸ジメチル)は、エステル結合したアルキル基がメチル基であることから分子量が小さく、電解液の粘度の増大を抑制しながら、難燃剤の含有量を増加することができる。その結果、非水電解液の導電率の低下を抑制し、従来と同等の電池性能を維持しながら安全性を向上させることができる。また、本発明で用いる難燃剤は分子量が小さいため、従来の難燃剤に比して、分解反応熱が小さく蒸気圧が高い。このため、難燃剤の分解に伴う電解液の温度上昇を抑制すると共に、電解液の引火抑止効果が向上する。
本発明に係るリチウムイオン二次電池用の非水電解液は、上述した亜リン酸トリメチルと亜リン酸ジメチルとの合計含有量が、非水電解液に対して1質量%以上60質量%以下の範囲であることが好ましい。合計含有量が1質量%未満では、上述の最適範囲に比べて相対的に安全性が不十分になる。また、合計含有量が60質量%より大きいと、電解液の導電率が低下して電池特性が大きく低下する。合計含有量の上限はリチウムイオン二次電池に要求される特性(例えば、電池特性と安全性とのバランス)に応じて上記範囲内で適宜設定されるが、初期容量の観点からは1質量%以上10質量%以下であることがより好ましい。
さらに、亜リン酸トリメチルと亜リン酸ジメチルとの配分としては、難燃剤の総量を10質量%とした場合に、亜リン酸トリメチルの含有量が非水電解液に対して0.9質量%以上9.9質量%以下の範囲であり、亜リン酸ジメチルの含有量が非水電解液に対して0.1質量%以上1質量%以下の範囲であることが好ましい。これらにより、亜リン酸トリメチルの分解を抑制し、難燃性が高くかつ過剰電流による異常発熱を抑制する非水電解液を提供することが可能になる。
なお、リチウムイオン二次電池においては、非水電解液に水分が混入することは避けるべきことである。非水電解液中に水分が存在すると、電解質と水とが化学反応して電解質が分解し、電池性能が劣化する要因となる。また、電解質と水との化学反応により、フッ化水素(HF)のようなハロゲン化水素が生成して二次電池の正極や負極にダメージを与え、その結果、二次電池の容量が低下する要因となる。一方、難燃剤として用いる亜リン酸トリメチルは、混入している水分量を定量分析することが困難であり、従来は、混入水分量が不明確の状態で亜リン酸トリメチルが使用されていた。これに対し、本発明では、亜リン酸トリメチルおよび亜リン酸ジメチルに対して十分な水分除去処理を施してから、それらを利用した。これは、従来よりも難燃剤の含有量を増加することができた一因と考えられる。
非水電解液に含有させる電解質としては、後述する本発明に係るリチウムイオン二次電池に使用される正極上あるいは負極上で分解しなければ特に限定されず、従前の電解質を利用できる。例えば、LiPF6、LiBF4、LiClO4、LiCF3SO3、LiCF3CO2、LiAsF6、LiSbF6、LiB(CN)4、LiN(SO2F)2、LiN(SO2CF3)2を好適に利用できる。また、リチウムのイミド塩(例えば、リチウムトリフルオロメタンスルホンイミド、リチウムビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミド)を用いてもよい。
非水電解液中の電解質によるリチウム濃度は、0.5 mol/L以上2.5 mol/L以下であることが好ましい。なお、本明細書中において「リチウム濃度」とは、非水電解液中に存在する全ての「リチウム」の濃度を意味するものとし、「リチウム」には、電解質が電離して生じたリチウムイオンも含むものとする。リチウム濃度が0.5 mol/L未満となると、非水電解液の導電率が低下し、リチウムイオン二次電池の電池特性が低下する。一方、リチウム濃度の上限に関しては、添加した電解質が全て溶解する限り特段の制限はないが、リチウム濃度が2.5 mol/L超になると電解液の粘度上昇による容量低下が起こるため、好ましくない。
非水電解液に含有させる非水溶媒としては、後述する本発明に係るリチウムイオン二次電池に使用される正極上あるいは負極上で分解しなければ特に限定されず、従前の非水溶媒を利用できる。例えば、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネート、γ-ブチロラクトン、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、1,2-ジメトキシエタン、2-メチルテトラヒドロフラン、ジメチルスルフォキシド、1,3-ジオキソラン、ホルムアミド、ジメチルホルムアミド、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、トリメトキシメタン、ジオキソラン、ジエチルエーテル、スルホラン、3-メチル-2-オキサゾリジノン、テトラヒドロフラン、1,2-ジエトキシエタン、クロルエチレンカーボネート、クロルプロピレンカーボネートなどが好適である。
なお、本発明に係る非水電解液は、亜リン酸トリメチルと亜リン酸ジメチルとが分解しないことを条件に、上述した「電解質+非水溶媒」の代わりにイオン性液体を用いることができる。該イオン性液体としては、例えば、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムテトラフルオロボラート(EMI-BF4、C6H11N2BF4)、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI、LiN(SO2CF3)2)とトリエチレングリコールジメチルエーテル(トリグライム、C8H18O4)とテトラエチレングリコールジメチルエーテル(テトラグライム、C10H22O5)との混合錯体、環状四級アンモニウム系陽イオン(例えば、N-メチル-N-プロピルピロリジニウム(P13))とイミド系陰イオン(例えば、ビス(フルオロスルホニル)イミド(FSI))とからなるP13-FSI(C8H18N-F2NO4S2)イオン液体などを用いることができる。
また、本発明は、上述した非水電解液(「電解質+非水溶媒」)の組み合わせ以外に、高分子ゲル電解質を使用することも可能である。高分子ゲル電解質とは、固体高分子に非水電解液(「電解質+非水溶媒」)を含浸し、ゲル状に形成したものである。高分子ゲル電解質は、ポリマ電解質単独よりも高いリチウムイオン導電率が得られる利点がある。本発明の難燃剤を含む非水電解液を用いることにより、高導電率かつ難燃性の高分子ゲル電解質を提供することが可能になる。
固体高分子としては、エチレンオキシド、アクリロニトリル、ポリフッ化ビニリデン、メタクリル酸メチル、ヘキサフルオロプロピレンのポリエチレンオキサイドなどのイオン導電性ポリマを用いることができる。
[リチウムイオン二次電池]
本発明に係るリチウムイオン二次電池の構成について説明する。なお、本発明に係るリチウムイオン二次電池は、上述した本発明の難燃剤を含む非水電解液または本発明の難燃剤を含む非水電解液を固体高分子に含浸させた高分子ゲル電解質を用いることに最大の特徴がある。
図1は、本発明に係るリチウムイオン二次電池101の一例を示す断面模式図である。図1に示したように、正極107および負極108は、これらが直接接触しないようにセパレータ109を挟み込んだ状態で積層されて、電極群を形成している。最も外側のセパレータ109は、電極群と電池容器102の間を絶縁している。なお、電極群の構造は限定されるものではなく、例えば、円筒状や扁平状に電極群を捲回したものであってもよい。
正極107には正極リード110が付設されており、負極108には負極リード111が付設されている。リード110、111は、ワイヤ状、箔状、板状などの任意の形状を採ることができる。電気的損失を小さくし、かつ化学的安定性を確保できるような構造・材質が選定される。
電極群は、電池容器102に収容されており、電池容器102の上部に設置された電池蓋103によって密封されている。電池蓋103には、絶縁シール112を介して、正極外部端子104と負極外部端子105が設けられている。さらに、電池容器102の内部には、前述した本発明に係る非水電解液(図示せず)が注入されている。電極群を電池容器102に収納し密閉した後に、本発明に係る非水電解液を注液口106より滴下し、所定量の充填した後に、注液口106を密封する。なお、非水電解液の注入方法・手順は、他の方法・手順でもよい。
電池容器102の形状は、通常、電極群の形状に合わせた形状(例えば、円筒状、扁平長円柱状、角柱など)が選択される。絶縁性シール112は、非水電解液と反応せず、かつ気密性に優れた任意の材質(例えば、熱硬化性樹脂、ガラスハーメチックシールなど)を好適に使用することができる。
電池容器102の材質は、アルミニウム、ステンレス鋼、ニッケルメッキ鋼製など、非水電解液に対し耐食性のある材料から選択される。電池容器102への蓋103の取り付けは、溶接の他に、かしめ、接着などの他の方法も採ることができる。非水電解液の注液に用いる注液口106に安全機構としての機能を付与することも可能である。安全機構としては、例えば、電池容器内部の圧力が所定以上となった際に解放する圧力弁がある。
正極リード110または負極リード111の途中、あるいは正極リード110と正極外部端子104との接続部や、負極リード111と負極外部端子105との接続部に、正温度係数抵抗素子を利用した電流遮断機構(図示せず)を設けることは好ましい。電流遮断機構を設けると、電池内部の温度が高くなったときに、リチウムイオン二次電池101の充放電を停止させ、電池を保護することが可能となる。
リチウムイオン二次電池を構成する正極107は、正極集電体の片面または両面に正極活物質を含む正極合剤スラリーを塗布・乾燥させた後、ロールプレス機などを用いて圧縮成形して、所定の大きさに切断することで作製される。正極の集電体には、厚さが10〜100μmのアルミニウム箔や、厚さ10〜100μmで孔径0.1〜10 mmのアルミニウム製穿孔箔、エキスパンドメタル、発泡アルミニウム板などが用いられる。材質は、アルミニウムの他に、ステンレス、チタンなども適用可能である。
同様に、リチウムイオン二次電池を構成する負極108は、負極集電体の片面または両面に負極活物質を含む負極合剤スラリーを塗布・乾燥させた後、ロールプレス機などを用いて圧縮成形して、所定の大きさに切断することで作製される。負極の集電体には、厚さが10〜100μmの銅箔や、厚さ10〜100μmで孔径0.1〜10mmの銅製穿孔箔、エキスパンドメタル、発泡銅板などが用いられ、材質は、銅の他に、ステンレス、チタン、ニッケルなども適用可能である。
正極合剤スラリーおよび負極合剤スラリーの塗布方法に特段の限定はなく、従前の方法(例えば、ドクターブレード法、ディッピング法、スプレー法など)を利用することができる。また、塗布から乾燥までを複数回行うことにより、複数の合剤層を集電体に積層することも可能である。
正極107に用いられる正極活物質としては、リチウムイオンの吸蔵および放出をすることができるリチウム化合物であれば、特に限定されない。例えば、リチウムマンガン酸化物、リチウムコバルト酸化物、リチウムニッケル酸化物などのリチウム遷移金属複合酸化物が挙げられる。より具体的には、LiCoO2、LiNiO2、LiMn2O4が代表例である。他に、LiMnO3、LiMn2O3、LiMnO2、Li4Mn5O12、LiMn2-xMxO2(ただし、M=Co, Ni, Fe, Cr, Zn, Taであって、x=0.01〜0.2)、Li2Mn3MO8(ただし、M=Fe, Co, Ni, Cu, Zn)、Li1-xAxMn2O4(ただし、A=Mg, Ba, B, Al, Fe, Co, Ni, Cr, Zn, Caであって、x=0.01〜0.1)、LiNi1-xMxO2(ただし、M=Co, Fe, Gaであって、x=0.01〜0.2)、LiFeO2、Fe2(SO4)3、LiCo1-xMxO2(ただし、M=Ni, Fe, Mnであって、x=0.01〜0.2)、LiNi1-xMxO2(ただし、M=Mn、Fe、Co、Al、Ga、Ca、Mgであって、x=0.01〜0.2)、Fe(MoO4)3、FeF3、LiFePO4、LiMnPO4などを列挙することができる。これらいずれかの単独または2種以上の混合物を用いることができる。正極活物質に対して、バインダ、増粘剤、導電材、溶媒等を必要に応じて混合して正極合剤スラリーが作製される。
正極活物質の粒径は、合剤層の厚さ以下になるように規定される。正極活物質粉末中に合剤層厚さ以上の粒径を有する粗粒がある場合、ふるい分級、風流分級などにより粗粒を予め除去し、合剤層厚さ以下の粒子を用意する。
正極活物質とバインダとの混合比率は、質量比で85 : 15〜95 : 5の範囲になるようにすることが好ましい。正極活物質の質量比率が85/100未満では、二次電池のエネルギー密度が低下する。一方、正極活物質の質量比率が95/100超では、充放電できる最大電流値が低下する。
正極の導電剤としては、導電性繊維(例えば、気相成長炭素、カーボンナノチューブ、ピッチ(石油、石炭、コールタールなどの副生成物)を原料に高温で炭化して製造した繊維、アクリル繊維から製造した炭素繊維など)が好適に用いられる。また、導電剤は、正極活物質よりも電気抵抗の低い材料であって、正極の充放電電位(通常は2.5〜4.2Vである)にて酸化溶解しない材料を使用してもよい。例えば、耐食性金属(チタンや金など)、炭化物(SiCやWCなど)、窒化物(Si3N4やBNなど)が挙げられる。高比表面積の炭素材料(例えば、カーボンブラックや活性炭など)も使用できる。
負極108に用いられる負極活物質は、リチウムイオンの吸蔵および放出をすることができる材料であれば特に限定されない。例えば、アルミニウム、シリコン、錫、炭素材料(例えば、黒鉛、易黒鉛化炭素、難黒鉛化炭素天然黒鉛、人造黒鉛、メソフェ−ズ炭素、膨張黒鉛、炭素繊維、気相成長法炭素繊維、ピッチ系炭素質材料、ニードルコークス、石油コークス、ポリアクリロニトリル系炭素繊維、カーボンブラック、非晶質炭素)、酸化物(例えば、チタン酸リチウム、酸化チタン、酸化鉄、酸化バナジウム、酸化アンチモン)が利用可能である。非晶質炭素は、例えば、5員環または6員環の環式炭化水素や環式含酸素有機化合物を熱分解して作製される。これらいずれかの単独または2種以上の混合物を用いることができる。これらの中でも、非晶質炭素はリチウムイオンの吸蔵および放出の際の体積変化率が少ない材料であるため、充放電のサイクル特性が高いことから、負極活物質として非晶質炭素を含むことは好ましい。また、上述した炭素材料に加えて、導電性高分子材料(ポリアセン、ポリパラフェニレン、ポリアニリン、ポリアセチレンなど)を添加してもよい。負極活物質に対して、バインダ、増粘剤、導電剤、溶媒等を必要に応じて混合して負極合剤スラリーが作製される。
負極活物質とバインダの混合比率は、質量比で90 : 10〜99 : 1の範囲になるようにすることが好ましい。負極活物質の質量比率が90/100未満では、二次電池のエネルギー密度が低下する。一方、負極活物質の質量比率が99/100超では、充放電できる最大電流値が低下する。負極の導電剤としては、正極導電剤と同様の材料を用いることが可能である。
正極合剤スラリーおよび負極合剤スラリーに用いられるバインダ、増粘剤および溶媒に特段の限定はなく、従前と同様のものを用いることができる。
セパレータ109は、二次電池の充放電時にリチウムイオンを透過させる必要があるため、多孔体(例えば、細孔径が0.01〜10μm、気孔率が20〜90%)であることが好ましい。セパレータ109の素材としては、ポリオレフィン系高分子シート(例えば、ポリエチレンやポリプロピレンなど)や、ポリオレフィン系高分子シートとフッ素系高分子シート(例えば、四フッ化ポリエチレン)とを溶着させた多層構造シートを好適に使用できる。また、セパレータ109の表面にセラミックスとバインダの混合物を薄層状に形成しても良い。なお、前述した非水電解液の「電解質+非水溶媒」として、固体高分子電解質を用いた場合には、前記セパレータ109を省略することができる。
本発明に係るリチウムイオン二次電池は、前述した非水電解液を用いていることから、電池性能(例えば、初期容量)を犠牲にすることなく大容量・高出力化が可能でかつ安全性の高いリチウムイオン二次電池を提供することができる。電池性能の具体的な事例については、後述する。
[二次電池システム]
二次電池システムの構成について説明する。本発明に係る二次電池システムとは、少なくとも2個以上の非水電解液二次電池を直列あるいは並列に接続し、かつ充放電制御機構を有するシステムと定義する。図2は、本発明に係る二次電池システムの一例を示す断面模式図である。図2に示したように、本構成では2個のリチウムイオン二次電池101a,101bが直列に接続されている。図2の紙面右側に配置したリチウムイオン二次電池101aの負極外部端子105は、電力ケーブル213により充放電制御機構216の負極入力ターミナルに接続されている。リチウムイオン二次電池101aの正極外部端子104は、電力ケーブル214によりリチウムイオン二次電池101bの負極端子105に接続されている。さらに、リチウムイオン二次電池101bの正極外部端子104は、電力ケーブル215により充放電制御機構216の正極入力ターミナルに接続されている。このような配線構成によって、2個のリチウムイオン二次電池101a,101bを充放電制御機構216で制御しながら充電または放電させることができる。なお、図1,図2において、同じ構成物には同じ符号を付している。
充放電制御機構216は、電力ケーブル217,218を介して、外部機器219との間で電力の授受を行う。外部機器219は、外部負荷の他、充放電制御機構216に給電するための外部電源や回生モータ等の各種電気機器を含む。また、外部機器が対応する交流、直流の種類に応じて、インバータやコンバータを設けることができる。
発電装置222が、電力ケーブル220,221を介して充放電制御機構216に接続される。発電装置222が発電しているときには、充放電制御機構216が充電モードに移行し、外部機器219に給電するとともに、余剰電力をリチウムイオン二次電池101a,101bに充電する。発電装置222の発電量が外部機器219の要求電力よりも少ないときには、リチウムイオン二次電池101a,101bから電力供給させるように充放電制御機構216が放電モードに移行する。充放電制御機構216は、そのようなモード移行が自動的に行われるようにプログラムが記憶されていることが好ましい。
発電装置222としては、再生可能エネルギーを生み出す発電装置(例えば、風力発電装置、地熱発電装置、太陽電池)や、通常の発電装置(例えば、燃料電池、ガスタービン発電機など)を用いることができる。
本発明に係る二次電池システムは、例えば、電気自動車、ハイブリッド電気自動車、プラグインハイブリッド電気自動車、電動式建設機械、運搬機器、建設機械、介護機器、軽車両、電動工具、ロボット、離島の電力貯蔵システム、宇宙ステーションなどの電源として利用することができる。
本発明は、リチウムイオン電池に限らず、非水電解液を用い、電極へのイオンの吸蔵・放出により、電気エネルギーを貯蔵・利用可能とする電気化学デバイスに適用することが可能である。本発明は安全性に優れるため、特に大型の移動体または定置型の電池システムに好適である。
以下、実施例および比較例により本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
[実施例1]
(B1〜B18のリチウムイオン二次電池の作製)
(1)正極の作製
まず、正極活物質(85質量%、LiNi1/3Mn1/3Co1/3O2)、バインダ(8質量%、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、株式会社クレハ製)、導電剤(7質量%、カーボンブラック)および溶媒(1-メチル-2-ピロリドン)を調合して正極合剤スラリーを作製した。
次に、この正極合剤スラリーを、厚さ20μmの正極集電体(アルミニウム箔)の片面にドクターブレード法を用いて塗布し、乾燥させて、正極合剤層を形成した。その後、ロールプレス機により圧縮成形し、所定の大きさに切断してリチウムイオン二次電池用正極を作製した。
(2)負極の作製
負極活物質(98質量%、黒鉛(XRD測定により求めた(002)の面間隔d002 = 0.35〜0.36 nm)、平均粒径15〜16μm)、バインダ(2質量%、スチレンブタジエンゴム(1質量%)+カルボキシルメチルセルロース(1質量%))、導電剤(7質量%、カーボンブラック)および溶媒(1-メチル-2-ピロリドン)を調合して負極合剤スラリーを作製した。
次に、この負極合剤スラリーを、厚さ20μmの負極集電体(銅箔)の片面にドクターブレード法を用いて塗布し、乾燥させて、負極合剤層を形成した。その後、ロールプレス機により圧縮成形し、所定の大きさに切断してリチウムイオン二次電池用負極を作製した。
(3)非水電解液の作製
非水電解液の非水溶媒として、エチレンカーボネート(EC)、エチルメチルカーボネート(EMC)およびジメチルカーボネート(DMC)の混合溶媒(体積比=1 : 1 : 1)を調合した。次に、該混合溶媒に対して、電解質として六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)を1 mol/Lとなるように溶解させた。最後に、該混合溶液に対して、後述する表1に示す難燃剤を、所定濃度で添加・混合し、非水電解液を作製した。表中、難燃剤の含有量は、非水電解液全体に対する質量濃度(質量%)である。また、電解質の濃度は、非水溶媒に対するに対する体積モル濃度である(以下、同様)。
なお、難燃剤として用いる亜リン酸トリメチル((CH3O)3P)および亜リン酸ジメチル((CH3O)2POH)に対して、あらかじめ以下の要領で脱水処理を行った。アルゴンガスを充填したグローブボックス内で、室温にて、亜リン酸トリメチルまたは亜リン酸ジメチルにモレキュラーシーブを投入し、一週間放置した。それぞれの浸漬液を濾過して、無水の亜リン酸トリメチルと無水の亜リン酸ジメチルとを得た。
(4)リチウムイオン二次電池の作製
上記で作製した正極、負極および非水電解液を使用して、図1に示したリチウムイオン二次電池(定格容量:10 Ah)を作製した。電池容器102および蓋103にはステンレス鋼を用い、セパレータ109には厚さ30μmの多孔性のポリエチレンフィルムを用い、絶縁性シール112にはフッ素樹脂を用いた。また、図1に示したように、セパレータ109は、正極107と電池容器102との間、負極108と電池容器102との間にも配置し、電池容器102を通じて正極107と負極108とが短絡しない構成とした。
(試験評価)
(a)充放電試験(初期容量評価)
上記で用意したリチウムイオン二次電池について、以下の充放電試験を実施し、初期容量を評価した。まず、作製した電池を開回路の状態から電池電圧が4.2 Vになるまで、5 Aの充電電流にて充電した。電池電圧が4.2 Vに達した後は、電流値が0.1 Aに減少するまで、4.2 Vを保持した。その後、充電を停止し、30分間の休止時間を設けた。次いで、5 Aの放電電流の放電を開始し、電池電圧が3.0 Vに達するまで放電させた。その後、放電を停止し、30分間の休止時間を設けた。ここまでの工程を初期エージングと称す。この初期エージングを3回繰り返した後に得られた放電容量を当該二次電池の初期容量とした。同じ条件の二次電池を5個作製し、上述した試験を同様に実施して、初期容量の平均値を算出した。なお、測定値のバラツキは、平均値に対してほぼ±0.1 Ahの範囲内であった。定格容量に対して、90%以上の初期容量を「合格」と評価し、90%未満の初期容量を「不合格」と評価した。結果を後述する表1に示す。
(b)過充電試験(安全性評価)
初期容量を評価した二次電池に対し過充電試験を実施した。過充電試験の手順を以下に示す。B1〜B18の電池を初期エージングの充電条件に従って再充電し、充電深度100%にした。その状態から、上限電圧4.2 Vを10 Vに変更し、10 Vに達するまで過充電を継続した。この間、二次電池の破裂または発火がないものを「合格」と評価し、二次電池の破裂または発火があったものを「不合格」と評価した。結果を表1に併記する。
Figure 0005966896
表1に示したように、本発明に係るリチウムイオン二次電池(B2〜B10,B13〜B16)は、初期容量、過充電試験の両方の項目において、要求されるレベルを全てクリアしていることが判る。特に、難燃剤における亜リン酸トリメチル((CH3O)3P)と亜リン酸ジメチル((CH3O)2POH)との合計含有量が1質量%以上10質量%以下であり、(CH3O)3Pが0.9質量%以上9.9質量%以下であり、(CH3O)2POHが0.1質量%以上1質量%以下であるリチウムイオン二次電池(B2〜B7)は、初期容量(平均)が9.9 Ahとなり、最も高い値を示した。
一方、CH3O)3Pの添加量が1質量%未満の試料(B1)は、過充電試験において二次電池が破裂し、安全性が不合格であった。また、(CH3O)3Pと(CH3O)2POHとの合計添加量が60質量%より大きい試料(B11,B12,B17,B18)では、二次電池の初期容量が不合格であった。
[実施例2]
(B21〜B26のリチウムイオン二次電池の作製と試験評価)
非水電解液中の六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)の濃度を、0.2 mol/L(試料B21)、0.5 mol/L(試料B22)、1.5 mol/L(試料B23)、2.0 mol/L(試料B24)、2.5 mol/L(試料B25)、3 mol/L(試料B26)としたこと以外は、実施例1と同様にして、B21〜B26のリチウムイオン二次電池を作製し、充放電試験および過充電試験を実施した。二次電池の仕様と電池特性結果とを表2に示す。
Figure 0005966896
表2に示したように、本発明に係るリチウムイオン二次電池(B22〜B25)は、初期容量、過充電試験の両方の項目において、要求されるレベルを全てクリアしていることが判る。一方、電解質(LiPF6)の濃度が0.2 mol/Lである試料(B21)は、二次電池の初期容量が不合格であった。これは非水電解液の導電率が低下したためと考えられた。また、電解質の濃度が3 mol/Lである試料(B26)は、初期容量、過充電試験の両方の項目において不合格であった。初期容量が低下したのは、電解液の粘度上昇が起きたためと考えられた。また、過充電試験が不合格となったのは、電解質の分解に起因する発熱量が増大した可能性があると考えられた。
上記の結果から、本発明に係るリチウムイオン二次電池において、非水電解液中の電解質濃度は、0.5 mol/L以上が好ましく、2.5 mol/L以下であれば少なくとも合格レベルであることが実証された。
[実施例3]
(B31〜B33のリチウムイオン二次電池の作製と試験評価)
複数種のリチウム化合物を混合した混合電解質を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、B31〜B33のリチウムイオン二次電池を作製し、充放電試験および過充電試験を実施した。リチウム化合物としてはLiPF6、LiN(SO2F)2、LiN(SO2CF3)2、リチウムビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミド(LiBETI)を用い、その中から2種類を混合した。2種類のリチウム化合物A,Bおよびその混合割合(それぞれのモル濃度の比、[A]/[B])は、[LiPF6]/[LiN(SO2F)2]=[0.8 mol/L]/[0.2 mol/L](試料B31)、[LiPF6]/[LiN(SO2CF3)2]=[0.8 mol/L]/[0.2 mol/L](試料B32)、[LiPF6]/[ LiBETI]=[0.8 mol/L]/[0.2 mol/L](試料B33)とした。二次電池の仕様と電池特性結果とを表3に示す。
Figure 0005966896
表3に示したように、B31〜B33の全てのリチウムイオン二次電池は、初期容量、過充電試験の両方の項目において、要求されるレベルを全てクリアしていることが判る。この結果から、本発明に係るリチウムイオン二次電池において、非水電解液中の電解質として複数種のリチウム化合物を混合可能であることが実証された。
[実施例4]
(B41〜B45のリチウムイオン二次電池の作製と試験評価)
電解質としてLiPF6とLiBF4との混合物を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、B41〜B45のリチウムイオン二次電池を作製し、充放電試験および過充電試験を実施した。添加したLiPF6とLiBF4との混合割合(それぞれのモル濃度の比、[LiPF6]/[LiBF4])は、[0.9 mol/L]/[0.1 mol/L](試料B31)、[0.7 mol/L]/[0.3 mol/L](試料B32)、[0.5 mol/L]/[0.5 mol/L](試料B33)、[0.3 mol/L]/[0.7 mol/L](試料B34)、[0.1 mol/L]/[0.9 mol/L](試料B35)とした。二次電池の仕様と電池特性結果とを表4に示す。
Figure 0005966896
表4に示したように、B41〜B45の全てのリチウムイオン二次電池は、初期容量、過充電試験の両方の項目において、要求されるレベルを全てクリアしていることが判る。この結果から、本発明に係るリチウムイオン二次電池において、非水電解液中の電解質として複数種のリチウム化合物を混合して用いた場合でも、任意の割合で混合可能であることが確認された。なお、LiBF4の濃度が高くなるにつれて初期容量がわずかに低下する傾向が見られたが、これはLiBF4の導電率がLiPF6の導電率よりも低いためと考えられる。
[実施例5]
(B51〜B55のリチウムイオン二次電池の作製と試験評価)
本実施例では、高分子ゲル電解質を用いてリチウムイオン二次電池を作製した。具体的には、ポリエチレンオキシドの高分子シート(平均分子量7000〜8000、厚さ3μm)を用い、該高分子シートに、本発明の難燃剤を含む非水電解液を含浸させて、高分子ゲル電解質を用意した。高分子シートの質量に対して130〜150質量%の非水電解液(難燃剤を含む)を含浸させた。それ以外は実施例1と同様にして、B51〜B55のリチウムイオン二次電池を作製し、充放電試験および過充電試験を実施した。二次電池の仕様と電池特性結果とを表5に示す。
Figure 0005966896
表5に示したように、本発明に係るリチウムイオン二次電池(B51〜B55)は、初期容量、過充電試験の両方の項目において、要求されるレベルを全てクリアしていることが判る。このことから、本発明の難燃剤を添加していれば、固体高分子ゲル電解質であっても本発明の効果が得られることが実証された。
[実施例6]
実施例1で用意したリチウムイオン二次電池B5を用いて、図2に示す二次電池システムを作製し、充放電試験、サイクル試験、および過充電試験を行った。
発電装置222における発電状況に合わせて、リチウムイオン二次電池101a,101bの充放電を行いながら、外部機器219に電力を供給する実験を行った。2時間率の充電を行った後に1時間率の放電を行い、初期の放電容量を求めた。その結果、各二次電池101a、101bの設計容量10 Ahの99.5〜100%の容量が得られることが確認された。
その後、環境温度20〜30℃の条件で、充放電サイクル試験を行った。まず、2時間率の電流(5 A)にて充電を行い、充電深度50%(5 Ah充電した状態)になった時点で、充電方向に5秒のパルスを、放電方向に5秒のパルスを二次電池101a、101bに与え、発電装置222からの電力の受け入れと外部機器219への電力供給を模擬するパルス試験を行った。電流パルスの大きさは、ともに20 Aとした。
続けて、残りの容量5 Ahを2時間率の電流(5 A)で各二次電池の電圧が4.2 Vに達するまで充電し、その電圧で1時間の定電圧充電を行って充電を終了させた。その後、1時間率の電流(10 A)にて各二次電池の電圧が3.0 Vまで放電した。
上記一連の充放電サイクル試験を500回繰り返したところ、初期の放電容量に対し、98〜99%の容量を得た。電力受け入れと電力供給の電流パルスを二次電池に与えても、本二次電池システムの性能はほとんど低下しないことが確認された。
次に、二次電池101aのみを予め充電深度100%まで充電し、二次電池101bは放電した状態で、二次電池システムを組み立てた。この状態から二次電池101bを充電深度100%に向けて充電した。充電過程において、二次電池101aは過充電環境になったが、本発明の難燃剤成分である亜リン酸ジメチルの分解・高抵抗被膜形成による過充電防止作用によって、二次電池101aへの充電は停止された。その結果、二次電池101aにおいて過充電に起因する破裂・発火は発生せず、高い安全性を示すことが確認された。
以上説明したように、本発明によれば、従来と同等の電池性能(例えば、初期容量)を有しかつ大容量・高出力化の要求に対応可能な安全性の高いリチウムイオン二次電池を実現するための非水電解液を提供できることが確認された。また、当該非水電解液を利用することによって、電池性能を犠牲にすることなく大容量・高出力化が可能でかつ安全性の高いリチウムイオン二次電池を提供すことができ、さらに、該リチウムイオン二次電池を用いた二次電池システムを提供できることが確認された。
なお、本発明は、上述した実施形態および実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は、本発明の理解を助けるために具体的に説明したものであり、説明した全ての構成を備えることに限定されるものではない。また、実施例の構成の一部について、削除・他の構成に置換・他の構成の追加をすることが可能である。
101,101a,101b…リチウムイオン二次電池、102…電池容器、103…蓋、
104…正極外部端子、105…負極外部端子、106…注液口、
107…正極、108…負極、109…セパレータ、110…正極リード線、
111…負極リード線、112…絶縁性シール、
213,214,215,217,218,220,221…電力ケーブル、216…充放電制御機構、
219…外部機器、222…発電装置。

Claims (14)

  1. リチウム化合物からなる電解質と非水溶媒と難燃剤とを含有する非水電解液を有するリチウムイオン二次電池であって、
    前記非水電解液中のリチウム濃度が、0.5 mol/L以上2.5 mol/L以下であり、
    前記難燃剤は、亜リン酸トリメチルと亜リン酸ジメチルとからなり
    前記亜リン酸トリメチルの含有量が、前記非水電解液に対して0.9質量%以上であり、
    前記亜リン酸ジメチルの含有量が、前記非水電解液に対して0.1質量%以上であり、
    前記亜リン酸トリメチルと前記亜リン酸ジメチルとの合計含有量が、前記非水電解液に対して1質量%以上60質量%以下であることを特徴とするリチウムイオン二次電池。
  2. 請求項1に記載のリチウムイオン二次電池において、
    前記亜リン酸トリメチルと前記亜リン酸ジメチルとの合計含有量が、前記非水電解液に対して10質量%以下であることを特徴とするリチウムイオン二次電池。
  3. 請求項2に記載のリチウムイオン二次電池において、
    前記亜リン酸トリメチルの含有量が、前記非水電解液に対して9.9質量%以下であり、
    前記亜リン酸ジメチルの含有量が、前記非水電解液に対して1質量%以下であることを特徴とするリチウムイオン二次電池。
  4. 請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池において、
    前記リチウム化合物が、LiPF6、LiBF4、LiN(SO2F)2、LiN(SO2CF3)2、リチウムビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミドの中から選ばれる少なくとも1つであることを特徴とするリチウムイオン二次電池。
  5. 請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池において、
    前記非水電解液が固体高分子に含浸された固体高分子ゲル電解質を有することを特徴とするリチウムイオン二次電池。
  6. 少なくとも2個以上のリチウムイオン二次電池が直列あるいは並列に接続された二次電池システムであって、
    前記リチウムイオン二次電池は、リチウム化合物からなる電解質と非水溶媒と難燃剤とを含有する非水電解液を有し、
    前記電解液中のリチウム濃度が、0.5 mol/L以上2.5 mol/L以下であり、
    前記難燃剤は、亜リン酸トリメチルと亜リン酸ジメチルとからなり
    前記亜リン酸トリメチルの含有量が、前記非水電解液に対して0.9質量%以上であり、
    前記亜リン酸ジメチルの含有量が、前記非水電解液に対して0.1質量%以上であり、
    前記亜リン酸トリメチルと前記亜リン酸ジメチルとの合計含有量が、前記非水電解液に対して1質量%以上60質量%以下であることを特徴とする二次電池システム。
  7. 請求項6に記載の二次電池システムにおいて、
    前記亜リン酸トリメチルと前記亜リン酸ジメチルの合計含有量が、前記非水電解液に対して10質量%以下の範囲であることを特徴とする二次電池システム。
  8. 請求項7に記載の二次電池システムにおいて、
    前記亜リン酸トリメチルの含有量が、前記非水電解液に対して9.9質量%以下であり、
    前記亜リン酸ジメチルの含有量が、前記非水電解液に対して1質量%以下であることを特徴とする二次電池システム。
  9. 請求項6乃至請求項8のいずれか1項に記載の二次電池システムにおいて、
    前記リチウム化合物が、LiPF6、LiBF4、LiN(SO2F)2、LiN(SO2CF3)2、リチウムビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミドの中から選ばれる少なくとも1つであることを特徴とする二次電池システム。
  10. 請求項6乃至請求項9のいずれか1項に記載の二次電池システムにおいて、
    前記リチウムイオン二次電池は、前記非水電解液が固体高分子に含浸された固体高分子ゲル電解質を有することを特徴とする二次電池システム。
  11. リチウム化合物からなる電解質と難燃剤と非水溶媒とを含有するリチウムイオン二次電池用の非水電解液であって、
    前記非水電解液中のリチウム濃度が、0.5 mol/L以上2.5 mol/L以下であり、
    前記難燃剤は、亜リン酸トリメチルと亜リン酸ジメチルとからなり
    前記亜リン酸トリメチルの含有量が、前記非水電解液に対して0.9質量%以上であり、
    前記亜リン酸ジメチルの含有量が、前記非水電解液に対して0.1質量%以上であり、
    前記亜リン酸トリメチルと前記亜リン酸ジメチルとの合計含有量が、前記非水電解液に対して1質量%以上60質量%以下であることを特徴とする非水電解液。
  12. 請求項11に記載の非水電解液において、
    前記亜リン酸トリメチルと前記亜リン酸ジメチルとの合計含有量が、前記非水電解液に対して10質量%以下であることを特徴とする非水電解液。
  13. 請求項12に記載の非水電解液おいて、
    前記亜リン酸トリメチルの含有量が、前記非水電解液に対して9.9質量%以下であり、
    前記亜リン酸ジメチルの含有量が、前記非水電解液に対して1質量%以下であることを特徴とする非水電解液。
  14. 請求項11乃至請求項13のいずれか1項に記載の非水電解液において、
    前記リチウム化合物が、LiPF6、LiBF4、LiN(SO2F)2、LiN(SO2CF3)2、リチウムビス(ペンタフルオロエタンスルホニル)イミドの中から選ばれる少なくとも1つであることを特徴とする非水電解液。
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